特許第6028179号(P6028179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 兵神装備株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000003
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000004
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000005
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000006
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000007
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000008
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000009
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000010
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000011
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000012
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000013
  • 特許6028179-次亜塩素酸ナトリウム注入装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028179
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】次亜塩素酸ナトリウム注入装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/76 20060101AFI20161107BHJP
   F04C 2/107 20060101ALI20161107BHJP
   F04B 15/00 20060101ALI20161107BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C02F1/76 A
   F04C2/107
   F04B15/00
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 520C
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 550C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-59586(P2012-59586)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-192977(P2013-192977A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239758
【氏名又は名称】兵神装備株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100103481
【弁理士】
【氏名又は名称】森 道雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134957
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 英幸
(72)【発明者】
【氏名】谷戸 敦
(72)【発明者】
【氏名】中澤 正樹
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−189979(JP,A)
【文献】 特開2009−195813(JP,A)
【文献】 特開2005−256788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00〜 1/78
F04B 15/00〜15/08
F04C 2/00〜 2/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸ナトリウムを貯留するタンクと、このタンク内の次亜塩素酸ナトリウムを吸い込んで吐出するポンプと、このポンプの吐出口に接続され次亜塩素酸ナトリウムを注入地点まで輸送し放出する輸送配管と、を備える次亜塩素酸ナトリウム注入装置であって、
ポンプの吐出口の内径Dと輸送配管の内径dの関係が、下記(1)式の条件を満足することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム注入装置。
0.25D≦d<D ・・・(1)
【請求項2】
前記ポンプの吐出口を流れる次亜塩素酸ナトリウムの流速Vと、前記輸送配管の内部を流れる次亜塩素酸ナトリウムの流速vの関係が、下記(2)式の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の次亜塩素酸ナトリウム注入装置。
V<v≦10V ・・・(2)
【請求項3】
前記輸送配管の出口近傍の経路に背圧弁が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の次亜塩素酸ナトリウム注入装置。
【請求項4】
前記輸送配管の経路にガス抜き管が接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウム注入装置。
【請求項5】
前記ポンプが一軸偏心ねじポンプであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウム注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場などで浄化処理される水に次亜塩素酸ナトリウム(以下、「次亜」ともいう)を注入する次亜塩素酸ナトリウム注入装置(以下、「次亜注入装置」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場では、原水に含まれる余計な成分を取り除きやすくしたり、水を消毒したりするために、次亜が不可欠である。次亜は、主に着水井に注入され、沈殿池の出口や浄水池の前などでも注入される。このような注入地点への次亜の注入は、次亜注入装置によって行われる。
【0003】
図1は、従来の次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、次亜注入装置101は、次亜を貯留するタンク2と、このタンク2内の次亜を注入地点Aまで送り出す動力源であるポンプ3と、このポンプ3から次亜を注入地点Aまで輸送し放出する輸送配管4とを備える。図1では、注入地点Aが着水井である例を示している。
【0004】
ポンプ3の吸込み口3aには、タンク2からの導入配管5が接続され、ポンプ3の吐出口3bには、この吐出口3bの内径と同じ内径の輸送配管4が接続されている。ポンプ3としては、ダイヤフラムポンプなどの往復動ポンプや、一軸偏心ねじポンプなどの回転ポンプが用いられる。輸送配管4は、ポンプ3から注入地点Aまでにわたり敷設されている。通常、浄水場では、タンク2とポンプ3は管理棟B内に集約して設置され、注入地点Aは管理棟Bから遠く離れた場所に設置されている。このため、輸送配管4は長くなりがちであり、その全長が100mを超えるのも少なくない。
【0005】
ポンプ3の駆動により、タンク2内の次亜は、導入配管5を通じポンプ3の吸込み口3aからポンプ3内に吸い込まれ、ポンプ3の吐出口3bから輸送配管4に吐出される。ポンプ3から吐出された次亜は、輸送配管4を通じて輸送され、輸送配管4の出口4bから放出されて注入地点Aに注入される。
【0006】
ところで、次亜は、分解してガス(酸素)を発生し易い性質がある。この性質に起因し、次亜がポンプ3を流通する過程で、さらには輸送配管4を流通する過程で、経路内にガスが発生する場合がある。この場合、次亜注入装置101は、発生したガスの影響により、輸送配管4の出口4bから放出される次亜の注入量が不規則に変動し、注入地点Aへの次亜の注入を精度良く行えない。
【0007】
ここで、往復動ポンプをポンプ3として用いた次亜注入装置101では、ポンプ3を流通する次亜にガスが含まれていると、ポンプ3がガスロックし、次亜の安定注入が妨げられる。この問題に対し、往復動ポンプでは、内部経路を流通する液体にガスが混入したり発生したりする場合に、その内部経路に圧力を付与して、強制的にガスを経路の下流に排出するガス排出機構を備え、このガス排出機構によってガスロックの発生を防止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
一方、一軸偏心ねじポンプは、構造上ガスロックが起こらないことから、次亜注入装置101のポンプ3として有用されている。そして、一軸偏心ねじポンプを用いた次亜注入装置101では、図1に示すように、輸送配管4の入口4aの近傍(ポンプ3の吐出口3b近く)の経路にポンプ制御用の流量計6が設けられており、その流量計6による計測値に基づき、図示しないコントローラがポンプ3の駆動を逐次調整し、次亜の注入量をフィードバック制御している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−65243号公報
【特許文献2】特開2009−235976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した次亜注入量の不規則な変動は、ポンプ3の種類にかかわらず、依然として生じる。このことから、次亜注入量の不規則な変動は、むしろ、次亜が輸送配管4を流通する過程でガスを発生することに起因するといえる。このため、次亜注入装置においては、次亜注入量の不規則な変動を防止し、注入地点Aへの次亜の注入を精度良く行えるように、次亜が輸送配管4を流通する過程でガスの発生を抑制できる技術の確立が強く望まれる。
【0011】
この要求に対し、最も単純には、輸送配管4の全長が短ければよい。輸送配管4の全長が短いと、次亜が輸送配管4を流通する過程でガスを発生する前に輸送配管4から放出されるからである。しかし、これを実現するには、注入地点Aの傍にポンプ3を設置する必要があり、ポンプ3とともにタンク2を収容する建屋が増加し、ポンプ3およびタンク2の管理も煩雑になる。このため、輸送配管4の全長を短くすることは、現実的でない。
【0012】
また、輸送配管4を断熱材や冷却ジャケットなどの保冷材で被覆し、輸送配管4を流通する次亜の温度を低温に確保することが考えられる。次亜の温度が低温であると、次亜の分解が抑えられ、ガスの発生が抑制されるからである。しかし、これを実現するには、そもそも長くなりがちな輸送配管4を全長にわたり保冷材で被覆する必要があり、莫大なコストを要することは否めない。このため、輸送配管4を保冷材で被覆することも、現実的でない。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、次亜注入量の不規則な変動を防止し、注入地点への次亜の注入を精度良く行える次亜塩素酸ナトリウム注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため、後述する実施例に示すように、種々の条件で実機の次亜注入試験を実施して次亜注入量の経時的挙動を調査し、鋭意検討を重ねた。その結果、下記(a)および(b)に示す知見を得た。
【0015】
(a)ポンプ吐出口の内径よりも小さい内径の輸送配管を単に採用することにより、輸送配管内を流れる次亜の流速が、ポンプ吐出口を流れる次亜の流速よりも速くなり、その結果として、輸送配管から放出される次亜の注入量の不規則な変動を防止することができる。ただし、輸送配管の内径がポンプ吐出口の内径よりも著しく小さいと、かえって次亜注入量の不規則な変動が生じることから、輸送配管の内径の縮小には制限がある。
【0016】
(b)輸送配管に背圧弁を設置したり、ガス抜き管を設置したりすることにより、次亜注入量の不規則な変動の抑制が期待できる。
【0017】
本発明は、上記(a)および(b)の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の次亜塩素酸ナトリウム注入装置にある。すなわち、次亜を貯留するタンクと、このタンク内の次亜を吸い込んで吐出するポンプと、このポンプの吐出口に接続され次亜を注入地点まで輸送し放出する輸送配管と、を備える次亜注入装置であって、ポンプの吐出口の内径Dと輸送配管の内径dの関係が、下記(1)式の条件を満足することを特徴とする次亜注入装置である。
0.25D≦d<D ・・・(1)
【0018】
上記の次亜注入装置においては、前記ポンプの吐出口を流れる次亜塩素酸ナトリウムの流速Vと、前記輸送配管の内部を流れる次亜塩素酸ナトリウムの流速vの関係が、下記(2)式の条件を満足することが好ましい。
V<v≦10V ・・・(2)
【0019】
また、上記の次亜注入装置は、前記輸送配管の出口近傍の経路に背圧弁が設けられた構成にすることができる。
【0020】
さらに、上記の次亜注入装置は、前記輸送配管の経路にガス抜き管が接続された構成にすることもできる。
【0021】
そして、上記の次亜注入装置では、前記ポンプが一軸偏心ねじポンプであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の次亜注入装置によれば、上記(1)式を満足する輸送配管を単に採用することにより、次亜注入量の不規則な変動を防止することができ、注入地点への次亜の注入を精度良く行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の第1実施形態である次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の次亜塩素酸ナトリウム注入装置に用いられるポンプの一例である一軸偏心ねじポンプの縦断面図である。
図4】本発明の第2実施形態である次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。
図5】本発明の第3実施形態である次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。
図6】実施例における試験No.1の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
図7】実施例における試験No.2の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
図8】実施例における試験No.3の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
図9】実施例における試験No.4の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
図10】実施例における試験No.5の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
図11】実施例における試験No.6の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
図12】実施例における試験No.7の試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の次亜塩素酸ナトリウム注入装置について、その実施形態を詳述する。
【0025】
<第1実施形態>
図2は、本発明の第1実施形態である次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。同図に示す第1実施形態の次亜注入装置1は、前記図1に示す従来の次亜注入装置101の構成を基本とし、それと同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の次亜注入装置1は、タンク2とポンプ3と輸送配管4とを備え、ポンプ3の吸込み口3aにタンク2からの導入配管5が接続され、ポンプ3の吐出口3bに輸送配管4が接続されている。タンク2とポンプ3は、管理棟B内に集約して設置され、輸送配管4は、ポンプ3から注入地点Aまでにわたり敷設されている。
【0027】
本実施形態では、ポンプ3の吐出口3bに接続する輸送配管4は、ポンプ3の吐出口3bの内径Dと輸送配管4の内径dの関係が、下記(1)式の条件を満足するものを採用する。
0.25D≦d<D ・・・(1)
【0028】
上記(1)式の条件を規定する理由は、以下のとおりである。
【0029】
輸送配管4の内径dが、d<Dの条件、すなわちポンプ3の吐出口3bの内径Dよりも小さい条件であると、輸送配管4の内部を流れる次亜の流速vが、ポンプ3の吐出口3bを流れる次亜の流速Vよりも速くなる。これにより、ポンプ3から吐出された次亜は、前記図1に示す従来の次亜注入装置101の場合よりも、輸送配管4内を高速で流通し、早期に輸送配管4から放出される。このため、次亜が輸送配管4を流通する過程でガスを発生する前に輸送配管4から放出され、仮に、輸送配管4内でガスを発生したとしても、発生したガスは、微細な気泡状態のまま送り出される。このことから、輸送配管4の出口4bから放出される次亜の注入量は、不規則に変動することなく安定する。しかも、指示される注入量が必要に応じて変更されたときには、輸送配管4から放出される次亜の注入量は、変更された指示注入量にタイムリーに追従する。
【0030】
したがって、輸送配管4の内径dが、d<Dの条件を満足すれば、次亜が輸送配管4を流通する過程でガスの発生を抑制することができ、その結果として、次亜注入量の不規則な変動を防止することができ、注入地点Aへの次亜の注入を精度良く行うことが可能になる。ガスの発生をより効果的に抑制するには、d≦0.8Dであり、より好ましくは、d≦0.6Dである。
【0031】
ただし、輸送配管4の内径dは、小さければ良いという訳ではない。輸送配管4の内径dがポンプ3の吐出口3bの内径Dよりも著しく小さい条件であると、輸送配管4の内部を流れる次亜の流速vが速くなり過ぎ、かえって次亜注入量の不規則な変動が生じる。そこで、輸送配管4内の次亜の流速vが過大になるのに伴って生じる次亜注入量の不規則な変動を防止するために、輸送配管4の内径dは、0.25D≦dの条件を満足することとする。より好ましくは、0.35D≦dであり、さらに好ましくは、0.4D≦dである。
【0032】
輸送配管4の種類は、輸送対象が次亜であることから、輸送配管4の内面が次亜と反応して腐食する金属などを除き、特に限定はない。例えば、HIVP管(硬質塩化ビニル管)が好適である。軽量で耐圧力に富み柔軟性のある、いわゆるブレードホースも好適である。
【0033】
なお、輸送配管4は、通常、注入地点Aに至る経路に、幾つかの折れ曲がったエルボ部を有する。一般に、エルボ部では圧力損失が発生し、その圧力損失もエルボ部の設置数に応じて増加する傾向になる。このため、エルボ部の設置数が上記(1)式の条件に影響し得るとも推察されるが、通常の設置数においては、上記(1)式の条件にほとんど影響はない。
【0034】
上記したポンプ3の吐出口3bの内径Dと輸送配管4の内径dに関する規定((1)式の条件)に対応し、ポンプ3の吐出口3bを流れる次亜の流速Vと、輸送配管4の内部を流れる次亜の流速vの関係は、下記(2)式の条件を満足することが好ましい。
V<v≦10V ・・・(2)
【0035】
輸送配管4内の次亜の流速vが、V<vの条件を満足すれば、次亜が輸送配管4内を高速で流通するのに伴って、その流通過程でガスの発生を抑制することができ、その結果として、次亜注入量の不規則な変動を防止することができ、注入地点Aへの次亜の注入を精度良く行うことが可能になるからである。このため、輸送配管4内の次亜の流速vは、V<vの条件を満足することが好ましい。より好ましくは、1.5V≦vであり、さらに好ましくは、2.5V≦vである。
【0036】
一方、輸送配管4内の次亜の流速vが、v≦10Vの条件を満足すれば、その流速vが過大になるのに伴って生じる次亜注入量の不規則な変動を防止することができ、注入地点Aへの次亜の注入を精度良く行うことが可能になるからである。このため、輸送配管4内の次亜の流速vは、v≦10Vの条件を満足することが好ましい。より好ましくは、v≦8Vであり、さらに好ましくは、v≦6Vである。
【0037】
また、本実施形態では、ポンプ3として一軸偏心ねじポンプを用いることを想定し、ポンプ制御用の流量計6が輸送配管4の出口4bの近傍(注入地点Aの傍)の経路に設けられている。この流量計6により、輸送配管4の出口4b近傍を流れる次亜の流量が逐次計測される。その流量計6による計測値は、輸送配管4の出口4bから放出される次亜の注入量に相当する。そして、その流量計6による計測値に基づき、図示しないコントローラがポンプ3の駆動を逐次調整し、次亜注入量をフィードバック制御している。これにより、本実施形態の次亜注入装置1は、前記図1に示す次亜注入装置101のように、ポンプ制御用の流量計6が輸送配管4の入口4aの近傍(ポンプ3の吐出口3b近く)の経路に設けられたものと比較し、次亜注入量をより正確にフィードバック制御することができる。
【0038】
本実施形態では、輸送配管4の入口4aの近傍の経路にも流量計7が設けられている。この流量計7は、ポンプ3の吐出口3b近くで、ポンプ3から吐出される次亜の注入量を監視のために逐次計測するものであり、この流量計7による計測値は、ポンプ3のフィードバック制御には用いられない。もっとも、ポンプ3のフィードバック制御は、流量計6、7のいずれによる計測値を用いても構わない。
【0039】
本実施形態の次亜注入装置1は、ポンプ3として、一軸偏心ねじポンプなどの回転ポンプのほかに、ダイヤフラムポンプなどの往復動ポンプを用いることができる。往復動ポンプを用いる場合、ポンプ制御用の流量計6は設置しないのが一般的である。
【0040】
図3は、本発明の次亜塩素酸ナトリウム注入装置に用いられるポンプの一例である一軸偏心ねじポンプの縦断面図である。同図に示すように、ポンプ3は、一軸偏心ねじポンプであり、雄ねじ形ロータ31と雌ねじ形ステータ32とを備える。ロータ31は、断面が真円形で1条ねじの螺旋状に形成されたものである。ステータ32は、ロータ31を挿通させる内孔32aを有する。この内孔32aには、ロータ31の2倍のピッチの2条ねじが形成され、内孔32aの断面は長円形となっている。ロータ31は、ステータ32の内孔32aの中心軸から偏心して配置されており、後述するモータの主軸51から回転の動力が伝達されることにより、ステータ32の内孔32aの中心軸を中心として公転しながら、自転する。
【0041】
ステータ32は、外周を外筒33によって保持されている。この外筒33の前端には、吐出口3bとなるエンドスタット34が取り付けられている。このエンドスタット34の前端には、上述した(1)式の条件を満足する内径dの輸送配管4が連結される。ステータ32の外筒33の後端には、円筒状のフロントハウジング35が取り付けられ、このフロントハウジング35の後端には、有底円筒状のリアハウジング36が取り付けられている。フロントハウジング35の後端寄りには、吸込み口3aとなる吸込み管35aが突き出している。この吸込み管35aには、上述したタンク2からの導入配管5(図2参照)が連結される。
【0042】
ここで、図3に示す一軸偏心ねじポンプ3は、モータからの動力を磁気によってロータ31に伝達するマグネットカップリング型のポンプである。このため、以下の構成となっている。
【0043】
リアハウジング36の後方には、図示しないモータが配設されている。このモータは、フロントハウジング35またはリアハウジング36に固定されており、ステータ32の内孔32aの中心軸上に主軸51を有する。このモータの主軸51には、リアハウジング36を包囲する円筒状の駆動側磁石保持部材52が取り付けられている。この駆動側磁石保持部材52の内周には、リアハウジング36の外周面と対向して駆動側磁石53が接合されている。
【0044】
リアハウジング36の内部には、円筒状の従動側磁石保持部材42が収容されている。この従動側磁石保持部材42の外周には、駆動側磁石53と対向して従動側磁石43が埋設されている。従動側磁石保持部材42の軸心部には、従動軸としてのドライブシャフト38が結合されている。ドライブシャフト38は、フロントハウジング35の後端付近まで延び出しており、その前端にフランジ部38aを有する。このフランジ部38aには、ユニバーサルジョイントなどの自在継手39を介してカップリングロッド40が連結され、このカップリングロッド40には、ユニバーサルジョイントなどの自在継手41を介して雄ねじ形ロータ31が連結されている。
【0045】
また、ドライブシャフト38は、その前端側をすべり軸受ハウジング37によって回転可能に支持されている。すべり軸受ハウジング37は、フロントハウジング35とリアハウジング36のそれぞれの内部を仕切るように、フロントハウジング35とリアハウジング36によって挟持されている。
【0046】
このような構成の図3に示すマグネットカップリング型の一軸偏心ねじポンプ3は、モータの主軸51が回転することにより、これと一体で駆動側磁石保持部材52が回転する。これに伴い、駆動側磁石53と従動側磁石43との磁気的な引力の作用により、従動側磁石保持部材42が同期して回転し、これと一体でドライブシャフト38が回転する。これにより、ドライブシャフト38に自在継手39、カップリングロッド40および自在継手41を介して連結された雄ねじ形ロータ31が、雌ねじ形ステータ32の内孔32aの中心軸を中心として公転しながら、自転する。こうして、ロータ31とステータ32の内孔32aとの間に形成された空間が、ステータ32の後端から前端に向けて順次繰り出され、その結果、吸込み口3aからフロントハウジング35内に次亜が吸い込まれるとともに、吸い込まれた次亜が吐出口3bから吐出される。
【0047】
マグネットカップリング型の一軸偏心ねじポンプ3は、脈動がなく連続的に定量の流体を吐出することができ、しかも、流体をリアハウジング36によって完全に封入することができるので、次亜注入装置1に特に好適である。
【0048】
なお、図3に示す一軸偏心ねじポンプ3では、輸送配管4がエンドスタット34に連結され、タンク2からの導入配管5がフロントハウジング35の吸込み管35aに連結された態様を示しているが、これとは逆に、輸送配管4が吸込み管35aに連結され、導入配管5がエンドスタット34に連結された態様でも構わない。モータの主軸51を逆回転させれば、エンドスタット34から次亜を吸い込み、吸い込んだ次亜を吸込み管35aから輸送配管4に吐出することが可能だからである。
【0049】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態である次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。同図に示す第2実施形態の次亜注入装置1は、前記図2に示す第1実施形態の次亜注入装置1と比較し、以下の点で構成が相違する。
【0050】
図4に示すように、本実施形態の次亜注入装置1では、輸送配管4の出口4bの近傍(注入地点Aの傍)の経路に、背圧弁8が設けられている。背圧弁8は、輸送配管4を流通する次亜の圧力を、背圧弁8の上流側全域にわたり、一定の圧力(例えば、ゲージ圧で0.1MPa)に保つ役割を担う。これにより、輸送配管4内の圧力が一定の圧力に絶えず高まるため、輸送配管4内でガスの発生が抑制される。このため、次亜注入量の不規則な変動の抑制が大いに期待できる。
【0051】
ただし、本実施形態の次亜注入装置1では、指示される注入量が変更されたとき、指示注入量に対し、輸送配管4から現実に放出される次亜の注入量の応答遅れが発生し、現実の次亜注入量の追従性が劣るという不都合がある。これは、輸送配管4内で次亜がガスを含んでいると、次亜は見かけ上で圧縮性流体となり、背圧弁8の開閉動作を鈍くすることに起因する。
【0052】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態である次亜塩素酸ナトリウム注入装置の構成を模式的に示す図である。同図に示す第3実施形態の次亜注入装置1は、前記図2に示す第1実施形態の次亜注入装置1と比較し、以下の点で構成が相違する。
【0053】
図5に示すように、本実施形態の次亜注入装置1では、輸送配管4の経路に、ガス抜き管9が設けられている。ガス抜き管9は、大気に開放されており、輸送配管4内のガスを経路の外に排出する役割を担う。これにより、仮に、輸送配管4内でガスが発生し、これに伴って、輸送配管4内の次亜にガスが含まれる場合であっても、そのガスはガス抜き管9を通じて輸送配管4の経路外に排出される。このため、次亜注入量の不規則な変動の抑制が少なからず期待できる。
【0054】
ガス抜き管9の設置位置は、特に限定はないが、図5に示すように、輸送配管4の出口4bの近傍(注入地点Aの傍)が好ましい。仮に、輸送配管4内でガスが発生するとすれば、経路の下流側ほど次第にガスが増加していくからである。また、経路の下流にガス抜き管9を設置すれば、ガス抜き管9の高さを低くできるメリットもある。経路の上流側にガス抜き管9を設置すると、配管抵抗分を見越した高さの長いガス抜き管9を設置する必要があるからである。
【0055】
ただし、本実施形態の次亜注入装置1において、1本のガス抜き管9を設置するのみでは、次亜注入量の不規則な変動を効果的に抑制できないおそれがある。輸送配管4中を流れるガスが次亜の一部となっているため、ガス抜き管9にてガスが排出されている間は、ガス抜き管9以降の輸送配管4内で次亜の流量がガスの体積分だけ減少してしまうからである。このため、複数本のガス抜き管9を設置するのが好ましい。
【0056】
もっとも、複数本のガス抜き管9を設置する場合、その設置に要するコストが嵩むという不都合がある。また、ガス抜き管9は、その機能上、大気に開放されているため、ガス抜き管9より下流の輸送配管4で詰まりやバルブの操作ミス(全閉)が発生すると、ガス抜き管9から次亜が溢れる。次亜は危険液なので、溢れても問題にならない場所(例えばタンク2)までガス抜き管9を戻すか、溢れた場合にそのことを検知できるセンサを設置する等の対策を講じるのが普通である。このため、ガス抜き管9を複数本設置するとなると、付帯設備が複雑となり、コストも嵩む。
【0057】
また、本実施形態の次亜注入装置1では、前記第2実施形態と同様に、指示される注入量が変更されたとき、指示注入量に対し、現実の次亜注入量の追従性が劣るという不都合がある。
【0058】
なお、本実施形態の次亜注入装置1に適用したガス抜き管9は、前記第2実施形態の次亜注入装置1に付加することもできる。
【実施例】
【0059】
前記図1図5に示す次亜注入装置を用い、下記の表1に示す条件で実機の次亜注入試験を実施し、次亜注入量の経時的挙動を調査した。ここでの次亜注入試験は、次亜がガスを発生し易い夏場に実施した。また、ポンプのフィードバック制御は、輸送配管の出口近傍に設けた流量計による計測値を用いて行った。
【0060】
【表1】
【0061】
[試験条件]
試験No.1〜7のいずれでも、ポンプの吐出口の内径は16mmで一定とし、輸送配管の全長は約100mで一律とした。試験No.1、2は、従来の次亜注入装置を用いた試験であり、内径がポンプ吐出口の内径と同じ16mm(d=D)の輸送配管を採用した。そのうちの試験No.1ではポンプとして一軸偏心ねじポンプを採用し、試験No.2ではポンプとしてダイヤフラムポンプを採用した。
【0062】
また、試験No.3〜7のいずれでも、ポンプとして一軸偏心ねじポンプを採用した。そのうちの試験No.3、4は、本発明の第1実施形態で規定する(1)式の条件を満足する次亜注入装置を用いた試験であり、試験No.3では、輸送配管を内径が8mm(d=0.5D)のものに変更し、試験No.4では、輸送配管を内径が試験No.3よりもさらに小さい4mm(d=0.25D)のものに変更した。
【0063】
さらに、試験No.5は、本発明の第3実施形態の次亜注入装置におけるガス抜き管の有効性を確認するための試験であり、輸送配管にガス抜き管を1本設置した。試験No.6は、本発明の第2実施形態の次亜注入装置における背圧弁の有効性を確認するための試験であり、輸送配管に背圧弁を設置した。試験No.7は、本発明の第2実施形態の次亜注入装置を用いた試験であり、輸送配管に背圧弁を設置するとともに、輸送配管を内径が8mm(d=0.5D)のものに変更した。試験No.6、7における背圧弁は、ゲージ圧で0.1MPaに設定した。
【0064】
[試験結果]
図6図12は、試験No.1〜7それぞれの試験結果として次亜注入量の経時的挙動を示す図である。図6図12から次のことが示される。
【0065】
図6に示すように、試験No.1では、一軸偏心ねじポンプを採用していることから、ポンプ吐出口近傍の測定注入量は、指示注入量に追従し、絶えず安定している。しかし、輸送配管内で発生したガスの影響により、輸送配管出口近傍、すなわち注入地点近傍の測定注入量は、指示注入量に対し、大きく乱れ、応答遅れも目立つ。
【0066】
図7に示すように、試験No.2では、試験No.1とほぼ同様の注入状態である。とりわけ、運転開始時、運転停止時、および指示注入量変更時に指示注入量に対する現実の注入量の追従性が比較的悪く、また、ダイヤフラムポンプを採用しフィードバック制御を行っていない(比例制御である)ことから、指示注入量と測定注入量に差が発生した場合に注入量の補正がされていないことがわかる。
【0067】
図8に示すように、試験No.3では、(1)式の条件を満足する輸送配管を採用していることから、ガスの影響による次亜注入の乱れを大幅に軽減できる。また、運転開始時、運転停止時、および指示注入量変更時の追従性も良好である。
【0068】
図9に示すように、試験No.4では、ガスの影響による次亜注入の乱れを大幅に軽減できるが、試験No.3よりも内径がさらに小さい輸送配管を採用していることから、次亜注入量の乱れ軽減効果が小さい。
【0069】
図10に示すように、試験No.5では、輸送配管にガス抜き管を1本設置していることから、ガスの影響を若干少なくできる傾向が認められるが、次亜注入量の乱れを大きく改善するまでには至らない。このため、ガス抜き管を複数本設置すれば、次亜注入量の乱れ軽減効果の拡大が見込める。
【0070】
図11に示すように、試験No.6では、輸送配管に背圧弁を設置していることから、ガスの影響による次亜注入の乱れを大幅に軽減できることが窺える。ただし、運転開始時、運転停止時、および指示注入量変更時に指示注入量に対する現実の注入量の追従性が悪くなっている。
【0071】
図12に示すように、試験No.7では、(1)式の条件を満足する輸送配管を採用した上で、輸送配管に背圧弁を設置していることから、試験No.6と同様に、ガスの影響による次亜注入の乱れを大幅に軽減できる。ただし、運転開始時、運転停止時、および指示注入量変更時の追従性は、試験No.6ほどではないが悪くなっている。
【0072】
以上の結果から、(1)式の条件を満足する輸送配管を採用すれば、簡単に次亜注入量の不規則な変動を防止することができ、注入地点への次亜の注入を精度良く行えることが明らかとなる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム注入装置は、浄水場などで水の浄化処理に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1:次亜塩素酸ナトリウム注入装置、 2:次亜塩素酸ナトリウム貯溜タンク、
3:ポンプ、 3a:吸込み口、 3b:吐出口、
4:輸送配管、 4a:入口、 4b:出口、
5:導入配管、 6:ポンプ制御用流量計、 7:監視用流量計、
8:背圧弁、 9:ガス抜き管、
31:雄ねじ形ロータ、 32:雌ねじ形ステータ、 32a:内孔、
33:外筒、 34:エンドスタット、
35:フロントハウジング、 35a:吸込み管、
36:リアハウジング、 37:すべり軸受ハウジング、
38:ドライブシャフト、 38a:フランジ部、
39:自在継手、 40:カップリングロッド、 41:自在継手、
42:従動側磁石保持部材、 43:従動側磁石、
51:モータの主軸、 52:駆動側磁石保持部材、 53:駆動側磁石、
A:注入地点、 B:管理棟
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12