【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物 2012年03月29日(29.03.2012) 電気化学会第79回大会講演要旨集 日本(浜松)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子層は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリカーボネートの何れか、又はこれらの混合物である、請求項1乃至5の何れかに記載の二次電池。
前記負極体は、C(炭素)、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Al(アルミニウム)、Zn(亜鉛)、In(インジウム)、Sn(錫)及びSi(シリコン)の何れかである、請求項1乃至12の何れかに記載の二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を具体的に説明する。
図1は、本発明の二次電池1の構成を示す断面図である。
図1に示すように、本発明の二次電池1は、本体部1aがケース1bによって封止され、本体部1aは、正極集電体2と、正極体3と、固体電解質4と、負極体5と、負極集電体6と、が積層された積層構造を有している。本実施の形態では、正極体3の上面を除く側面と底面が固体電解質4に埋め込まれ、正極集電体2によって正極体3の上面が覆われて構成されている。
上記正極集電体2と正極体3とから、正極が構成される。前記負極集電体6と負極体5とから、負極が構成される。正極体3側の正極集電体2及び負極体5側の負極集電体6は、導電性の材料からなる電極であり、二次電池1を密封する蓋部を兼ねてもよい。負極体5が金属Liのように導電性の材料からなる場合には負極集電体6を兼用してもよい。後述する活物質等からなる正極体3は、前述したように固体電解質4に埋め込まれており、正極体3の上部側の表面は、正極集電体2で覆われている。つまり、二次電池1の正極体3は、固体電解質4と集電部とで囲まれて密封された構造を有している。
【0017】
正極体3は、二次電池の充放電により固体から液体又は液体を含む相に相転移する活物質と導電助材と結着材とを含む材料からなる。活物質は、S(硫黄)か、少なくとも一種以上の有機物分子か、S(硫黄)及び少なくとも一種以上の有機物分子の混合体、の何れかでなる。
ここで、正極体3中の活物質が、二次電池の充放電により固体から液体又は液体を含む相に相転移する理由を、以下に説明する。
正極体3の活物質は放電により還元されて電子を受け取って陰イオンとなり、この陰イオンは液体化、つまり固体から液体へ相転移する。または、陰イオンが電解質に可溶であるために、固体から液体を含む相に相転移が生じる。
【0018】
正極体3の活物質は、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン)、TCNQ(7,7,8,8,-テトラシアノキノジメタン)、THBQ(テトラヒドロキシベンゾキノン)、DMTBQ(ジメトキシベンゾキノン)、ルベアン酸等のキノン系を含む、可逆的な酸化還元反応(レドックス反応とも呼ばれている。)を示す有機物を使用することができる。正極体3は、DDQ、TCNQ、THBQ、DMTBQ(ジメトキシベンゾキノン)、ルベアン酸の何れか又はこれらの2種以上からなる活物質と、導電助剤と、結着剤と、を含んでいる。
【0019】
本発明の正極体3は、活物質と導電助材と結着材とにより成形されて、
図1に示すように固体電解質4に埋め込まれていてもよい。導電助材は、導電性を増すために添加され、アセチレンブラック(Acetylene Black、以下ABと呼ぶ。)等を使用できる。結着材は、正極体3の活物質及び導電助材を層として形成するための材料であり、フッ素樹脂等を用いることができる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFEと呼ぶ。)等が挙げられる。
【0020】
正極体3の活物質としては、上記有機物にS(硫黄)のような無機物が添加された材料であってもよい。Sの添加によって、充放電容量(mAh/g)が増大する効果が生じる。Sが添加される有機物としては、TCNQ、ポリアニリン、THBQ、PEDOT(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)等が挙げられる。
【0021】
本発明の正極体3は、大凡100μm以上の厚膜を有しているバルク状の材料も利用可能である。
【0022】
固体電解質4には、担持剤となる金属酸化物粒子とイオン液体とからなる複合材料を使用することができる。担持剤としては、シリカ(SiO
2)を使用できる。シリカ粒子としては所謂フュームドシリカ(Fumed silica)を使用することができる。SiO
2以外の担持剤としては、ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2、CeO
2、Li
3PO
4及びLiLaTiO
3の何れかを使用してもよい。シリカ(SiO
2)のような担持剤となる絶縁物は、正極と負極との短絡を防止するセパレータの作用を有している。
【0023】
イオン液体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(通称はEMI−TFSAである。)や、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(通称はLi−TFSAである。)、TFSA、FSA、溶融塩、有機電解質及び水系電解質の何れかを使用することができる。FSAとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビスフルオロスルホニルイミド(通称はEMI−FSAである。)等のイオン液体を使用することができる。有機電解質としては、後述するEC
(エチレンカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)等を使用することができる。有機電解質は、EC、DEC及びPCの何れか又はこれら2つ以上を使用してもよい。
【0024】
固体電解質4は、フュームドシリカとLi−TFSAの1M(モル)EMI−TFSA溶液をメタノール中で、1:3(体積比)で撹拌した後に、メタノールを蒸発させて作製することができる。さらに、固体電解質4には、有機電解質を添加剤として加えてもよい。固体電解質4への添加剤となる有機電解質は、正極体3の活物質に応じて選定することができる。固体電解質4へ有機電解質を添加することにより、二次電池1の充放電特性を改善することができる。特に、正極体3の活物質がTCNQの場合には、添加剤としてさらに、EC/DECを添加することで、充放電特性を著しく改善することができる。つまり、充放電を繰り返しても劣化し難い二次電池1を得ることができる。さらに、有機電解質は、EC、DEC及びPCの何れか又はこれら2つ以上を使用してもよい。
【0025】
正極側の蓋部2と正極体3と固体電解質4とは、一体成形で作製することもできる。
【0026】
負極体5の材料は、二次電池1を構成できる固体の材料であればよく、炭素電極や金属Li、Na、Mg、Ca、Al、Zn、In、Sn及びSiの何れかを使用することができる。負極体5が導電性の良好な材料からなる場合には、負極集電体6を兼ね、かつ、二次電池1を密封する蓋部としてもよい。
【0027】
本実施形態に係る二次電池1のケース1bは、本体部1aが載置される負極缶22と正極キャップ23と絶縁ガスケット24とから構成されている。絶縁ガスケット24は、負極缶22と正極キャップ23との間に挿入されている。絶縁ガスケット24は、負極缶22と正極キャップ23とを絶縁すると共に、ケース周囲の空気や空気中に含まれる水分に接触しないように気密や水密を保つ機能を有している。絶縁ガスケット24にはゴムからなるリング状のガスケットを使用できる。ゴムの材料としては、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、パーフロロゴム等が挙げられる。負極缶22と正極キャップ23は、圧力を印加できる治具に挿入し、Ar(アルゴン)ガス等の不活性ガスの雰囲気中で負極缶22を矢印(F)で側面から締め付けることで、絶縁ガスケット24を介して封止される。
【0028】
本発明の二次電池1は、バルク状の正極体3と、シリカのような担持剤及びLiイオンを含有する複合材料からなる固体電解質4と、で構成された全固体電池である。これにより、初期放電容量が理論値の70〜100%の容量が得られると共に、劣化の少ない低コストの全固体電池を提供することができる。
【0029】
本発明の二次電池は、正極体3や負極体5の形状により種々の変形が可能である。
図2乃至
図8を参照しつつ以下にその例を示す。
(変形例1)
図2は、本発明の二次電池の変形例1を示す断面図である。この二次電池10は、図において下層から、負極集電体6と、負極体5と、固体電解質4と、正極体3と、正極集電体2との順に積層された本体部10aが、ケース10bによって封止された構造を有している。
図2に示す二次電池10が、
図1の二次電池1と異なるのは、正極体3は層状に形成され、そして、負極体5は下部を除く周囲が固体電解質4に埋め込まれており、負極体5の下部側の表面は、負極集電部6で覆われている点である。つまり、二次電池の正極体3及び負極体5が固体電解質4と正極集電体2と負極集電体6とにより密封されている。負極体5は、充放電により固体から液体又は液体を含む相に相転移する活物質を含む材料や、後述する材料からなる。この二次電池10によれば、負極体5も固体電解質4に埋め込まれているので、充放電特性の劣化を減少させることができる。
尚、ケース10bは、二次電池1のケース1bと同様に構成されているので、説明は省略する。
【0030】
(変形例2)
図3は、本発明の二次電池の変形例2を示す断面図である。この二次電池15は球体の形状を有している。この二次電池15は、中心部に配設される球状の正極体3と、この正極体3を被覆する固体電解質4と、この固体電解質4を被覆する負極体5と、この負極体5に接続され外部に引き出された負極集電体6と、正極体3に接続され外部に引き出される正極集電体2とから構成されている。正極集電体2は、固体電解質4と負極体5と負極集電体6とは絶縁されて外部へ引き出されている。この二次電池15によれば、
図1に示すコイン型の二次電池1に比較して容易に大きな体積にできるので、大容量の二次電池を実現できる。
【0031】
(変形例3)
図4は、本発明の二次電池の変形例3を示す断面図である。この二次電池20は円筒形状を有している。この二次電池20は、中心部に配設される柱状の正極体3と、この正極体3を表面を除いて被覆する筒状の固体電解質4と、この筒状の固体電解質4を被覆する負極体5と、負極体5を被覆する負極集電体6と、正極体3の上部に接続して外部に引き出した正極集電体2とから構成されている。この二次電池20によれば、
図1に示すコイン型の二次電池1に比較して容易に大きな体積にできるので、大容量の二次電池を実現できる。
【0032】
(変形例4)
図5は、本発明の二次電池の変形例4を示す断面図である。この二次電池25は、中心部に配設されるブロック状の正極体3と、この正極体3を被覆する固体電解質4と、この固体電解質4を被覆する負極体5と、負極体5を被覆する負極集電体6と、正極体3に接続され外部へ引き出される正極集電体2とから構成されている。正極集電体2は、固体電解質4と負極体5と負極集電体6とは絶縁されて外部へ引き出される。この二次電池25では、正極体3の外側は完全に固体電解質4に埋め込まれている。この二次電池25では、中心部に配設されるブロック状の正極体2を負極体5とし、負極体5を正極体2とした構成としてもよい。この二次電池25によれば、正極体3が完全に固体電解質で包囲されるので、充放電特性の劣化を抑えることができる。
【0033】
(変形例5)
図6は、本発明の二次電池の変形例5を示す断面図である。この二次電池30は、凸部13Aと凹部13Bを交互に複数有する円柱形状の正極体13を備えている。二次電池30は、凸部13Aとなる正極体13と、この凹部13Bに配設される複数の固体電解質14及び負極体15と、正極体13の外周部に被覆される正極集電体12と、負極体15に接続され外部へ引き出される負極集電体16とから構成されている。この二次電池30によれば、
図1に示すコイン型の二次電池1に比較して容易に大きな体積にできるので、大容量の二次電池を実現できる。
【0034】
(変形例6)
図7は、本発明の二次電池の変形例6を示す断面図である。この二次電池40は、正極体3と固体電解質4の間に、高分子層36が挿入されている点が、
図1の二次電池1と異なっている。この高分子層36は、PEO(polyethylene oxide、ポリエチレンオキシドと呼ぶ。)又はPEG(polyethyleneglycol、ポリエチレングリコールと呼ぶ。)とすることができる。この高分子層36は、Liイオンが通過可能であればよい。この高分子層36は、正極体3からの活物質が固体電解質4側に溶出するのを防ぐ、つまり密封する機能も有している。高分子層36は、固体電解質4中の担持剤とは異なる材料である。
高分子層36に要求される特性は、化学的、物理的、熱的に安定で、Li
+を低抵抗で伝導する材料である。このような特性を持つ高分子として、PEO、PEG、PVA(polyvinylalcohol:ポリビニルアルコール)、ポリカーボネート等が挙げられる。上記のPEOとPEGの違いは分子量で、高分子層36としては、機械的特性や融点などの物理的特性を考慮して分子量の大きいPEOが好ましい。しかしながら、PEOの分子量が大きくなるとLiイオン伝導性が減少する。このため、高分子層36としては、分子量が10万程度のPEOを使用するか、又は分子量の大きいPEO(例えば400万)と分子量の小さいPEG(例えば6000)の混合体を使用することができる。この二次電池40によれば、高分子層36が挿入されているので、
図1に示すコイン型の二次電池1に比較してさらに充放電特性の劣化を少なくできる。
高分子層36は、負極体5と固体電解質4との間に挿入してもよい。高分子層36は、正極体3及び負極体5と固体電解質4との間に挿入してもよい。
二次電池40によれば、正極体3及び/又は負極体5が、固体電解質4と高分子層36と正極集電体2及び/又は負極集電体6とにより密封される構造を有している。
【0035】
(変形例7)
図8は、本発明の二次電池の変形例7を示す断面図である。この二次電池50は、正極体53が液体活物質からなる点が、
図1の二次電池1と異なっている。正極体53は、液体活物質の流入口54と液体活物質の流出口55とを備えている。正極体53は、活物質の溶液や、溶融した活物質からなる。活物質は固体電解質4に掘られた溝を流れながら反応する。この二次電池50によれば、充放電特性の劣化が生じた場合には正極体53の液体活物質を容易に交換できる。このため、二次電池50では長期にわたって充放電を行うことができる。
尚、変形例2〜7では、変形例1と同様に二次電池のケース部を備えている。ケース部は、二次電池の形状に応じて適宜に設計できる。
以下、本発明を実施例によって、さらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0036】
正極体3の活物質には、実施例1として、比較的高電位のキノン系活物質の7,7,8,8,-テトラシアノキノジメタン(TCNQ、東京化成工業株式会社、Lot.FIJ01)を用いた。TCNQに導電助材としてアセチレンブラック(AB、133m2/g、電気化学工業株式会社、デンカFX−35)を溶液キャスト法により混合し、さらに結着材としてPTFEを加えて約300μmの厚さの正極材料ペーストを作製した。これらの材料の重量比は、TCNQ:AB:PTFE=70:25:5であった。PTFEは、シグマアルドリッチジャパン株式会社のPTFE−6Jを用いた。この正極材料ペーストに、固体電解質4で用いるイオン液体であるEMI−TFSA(独Io−li−tec社、関東化学株式会社輸入)をペースト5mgあたり2μL(マイクロリットル)添加した。
【0037】
固体電解質4は、フュームドシリカとLi−TFSIの1M(モル濃度)EMI−TFSA溶液を体積比で1:3とし、メタノール中で攪拌し、メタノールを蒸発させて作製した。固体電解質4の厚さは、約300μmである。ここで、フュームドシリカは、シグマアルドリッチジャパン株式会社のS5130を用いた。Liは、シグマアルドリッチジャパン株式会社の試薬を用いた。
【0038】
約300μmの厚さの正極体3の材料ペーストに固体電解質4で用いるイオン液体である(EMI−TFSA)をペースト5mgあたり2μL添加したものと、約100μm厚のポリエチレンオキシド(PEO,分子量(MW)10万)からなる薄膜36と、約300μmの厚さの固体電解質4とをこの順に積層した。PEOは、シグマアルドリッチジャパン株式会社の試薬を用いた。
最後に、固体電解質4の上記正極材料ペーストとPEO薄膜36が積層されない側の表面に負極体5となる金属Liを重ね、Arガスの雰囲気中でコインセルに封入して全固体電池を作製した。
【実施例2】
【0039】
正極体3の活物質には、大容量であるテトラヒドロキシベンゾキノン(THBQ)を用い、材料の重量比を、THBQ:AB:PTFE=79.3:15.2:5.5とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の全固体電池を作製した。THBQは、東京化成工業株式会社の試薬(Lot.MN3NN)を用いた。
【0040】
(比較例1)
実施例1の全固体電池と比較するために、実施例1の固体電解質4を液体電解質とした比較例1の電池を作製した。液体電解質は、(EC/DEC 1:1、1M(モル)LiClO
4)を用いた。EC/DECは、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の1:1の混合物であり、それぞれ下記化学式(1)及び(2)で表される。EC/DECは、キシダ化学株式会社の試薬(LBG-00034)を用いた。本発明では、ECとDECの混合物をEC/DECと表す。EC/DECの混合割合は、1:1として説明するが、他の割合でもよい。ここで、EC、DECは有機電解質である。有機電解質として、下記(3)式で表されるPC(プロピレンカーボネート)等を使用することができる。
【化1】
【化2】
【化3】
【0041】
(充放電特性評価)
上記実施例の全固体電池及び比較例の電池を、50℃、0.1〜0.2Cで、カットオフ電位2.1V〜4.0Vで、2端子法を用いて充放電特性の評価を行った。0.2Cは、5時間で理論容量を満充電/満放電する電流における充放電の速度である。5サイクル容量維持率とは、充放電サイクルが5サイクル目における放電容量の初期放電容量に対する割合である。これが高いほど容量を維持しており、所謂サイクル性が良いと言える。実施例3の正極体3の活物質としてTHBQを用いた全固体電池については、1.7V〜3.7Vの範囲で充放電特性評価を行った。なお、上記の容量(mAh/g)は、単位活物質重量で規格化した値である。
【0042】
図9は、実施例1の充放電特性を示す図である。
図9の縦軸は端子電圧(V)であり、横軸は初期放電容量(mAh/g)である。
図9に示すように、実施例1の正極体3の活物質としてTCNQを用いた全固体電池では、65℃において、約184.4mAh/g-TCNQの初期放電容量であり、理論値である262.5mAh/gの約70%が得られ、5サイクル目の容量は155.2mAh/gであり、初期値に対する維持率は70%となった。
【0043】
図10は、実施例1の50℃における充放電特性を示す図である。
図10に示すように、実施例1の正極体3の活物質としてTCNQを用いた全固体電池では、50℃において、約123.6mAh/g-TCNQの初期放電容量であり、理論値である262.5mAh/gの47%が得られ、5サイクル目の容量は124.8mAh/gであり、初期値に対する維持率は101%となり、2〜5サイクル目での容量劣化はほぼゼロであった。
【0044】
図11は、実施例2の充放電特性を示す図である。この図に示すように、実施例2の正極体3の活物質としてTHBQを用いた全固体電池では、理論値である311.5mAh/gとほぼ同じ311.7mAh/g-THBQの初期放電容量が得られ、5サイクル目の容量は264.9mAh/gであり、初期値に対する維持率は85%であった。
【0045】
実施例2に用いた正極体3の活物質のTHBQは、2.7V(vs. Li/Li
+)付近に下記の反応式(1)と、2.0V付近に下記の反応式(2)で表わされる2つのレドックス電位を有していることが知られている(非特許文献2参照)。
Li
++THBQ→[Li
+] [THBQ
-] (1)
Li
++[Li
+] [THBQ
-] →[2Li
+] [THBQ
2-] (2)
図11に示すように、実施例2の全固体電池の充放電特性においても、2.0V及び2.7V付近にプラトーが観測されることが分かる。これは充放電時に上記の反応式(1)及び(2)で示される複数の電子反応が可逆的に進行していることを示している。
【0046】
図12(A)は比較例1の電池の模式的な断面図であり、
図12(B)は、比較例1の充放電特性を示す図である。
図12(B)に示すように、比較例1の常温の液体電解質8を用いた電池では、25℃において、約55.1mAh/g-TCNQの初期放電容量であり、理論値である236.1mAh/gの23.3%が得られ、5サイクル目の容量は11.1mAh/gであり、初期値に対する維持率は20.1%となった。つまり、従来の液体電解質を用いた比較例1の電池では、5サイクルの充放電で容量が1/4以下に低下した。
【0047】
上記したように、シリカと電解質からなる複合材料の固体電解質4と、活物質の割合が約80wt%で且つ厚さ約300μmの有機物からなる正極体3との使用により、理論値の70%以上の電極容量を引き出しつつ、劣化の少ない全固体電池が作製可能なことが判明した。
【実施例3】
【0048】
実施例3では、正極体3の活物質としてDDQ(東京化成工業株式会社、Lot.JD6XK)、導電助材としてAB(アセチレンブラック)、結着材としてPTFEを用い、厚さが約300μmの正極材料ペーストを作製した。これらの材料の重量比は、DDQ:AB:PTFE=74.7:21.6:3.75であった。この正極材料ペーストに、固体電解質4で用いるイオン液体である(EMI−TFSA)を微量添加した。固体電解質4は、実施例1と同じ構成とした。ABとPTFE(9:1)も同様にペースト状になるまで30分程混合し、後述する活物質を密封する際の蓋部とした。
約300μmの厚さの固体電解質4上に正極材料ペーストとアセチレンブラック(AB)からなる正極集電体2とからなる2つの部材を重ね、硬質ダイスとプレス機を用いて正極材が密封されたペレットを作製した。このペレットの固体電解質4側の正極集電体2とは反対側の表面に負極体5となる金属Liを重ね、Arガスの雰囲気中でコインセル型のケース1bに封入して実施例3の全固体電池を作製した。
【0049】
実施例3の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧3.2Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図13は、実施例3の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は150.3mAh/gであり、理論値である236.1mAh/gの64%が得られ、5サイクル目の容量は105.2mAh/gであり、初期値に対する維持率は70%となった。
【実施例4】
【0050】
正極体3の重量比を、DDQ:AB:PTFE=94.4:3.5:2.1とした以外は、実施例3と同様にして実施例4の全固体電池を作製した。
図14は、実施例4の充放電特性を示す図である。この図に示すように、実施例4の全固体電池を、実施例3と同じ条件で充放電特性を測定した。初期放電容量は158.9mAh/gであり、理論値である236.1mAh/gの67%が得られ、5サイクル目の容量は117.2mAh/gとなり、維持率は約74%となった。
【実施例5】
【0051】
正極体3の重量比を、THBQ:AB:PTFE=79.3:15.2:5.5とした以外は、実施例3と同様にして実施例5の全固体電池を作製した。実施例5の全固体電池を、30℃、0.2Cで、平均電圧2.3Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図15は、実施例5の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は78.5mAh/gであり、理論値である311.5mAh/gの25%が得られ、5サイクル目の容量は62.9mAh/gとなり、維持率は約80%となった。
【実施例6】
【0052】
正極体3の活物質として、DDQとラジカル吸収剤となるFeAA(トリス( 2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)であり、Iron(III) acetylacetonateとも表記される。)の混合物を用いた。DDQとFeAAの重量比は、3:1とした。正極体3の重量比を、(DDQ+FeAA):AB:PTFE=78.8:16.8:4.3とした以外は、実施例3と同様にして実施例6の全固体電池を作製した。FeAAは、株式会社同人研究所のLot.JP182を使用した。実施例6の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧3.0Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図16は、実施例6の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は170.1mAh/gであり、理論値である214.6mAh/gの79%が得られ、5サイクル目の容量は155.1mAh/gとなり、維持率は91.2%となった。
【実施例7】
【0053】
実施例7として、正極体3に固体電解質4を混合した。正極体3の材料は、THBQ、導電助材としてAB、結着材としてPTFE及び実施例1の固体電解質4からなり、メノウ乳鉢でペースト状になるまで30分程混合した。これらの正極体3の材料の重量比は、THBQ:AB:PTFE:固体電解質=37.0:11.3:2.7:48.9であった。約300μmの厚さの固体電解質4上に上記の固体電解質4を混合した正極材料ペーストと蓋部とからなる3つの部材を重ね、硬質ダイスとプレス機を用いて正極材が密封されたペレットを作製した。このペレットの固体電解質4側の蓋部とは反対側の表面に負極体5となる金属Liを重ね、Arガスの雰囲気中でコインセルに封入して実施例7の全固体電池を作製した。
【0054】
実施例7の全固体電池を、常温の30℃、0.2Cで、平均電圧2.3Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図17は、実施例7の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は200.6mAh/gであり、理論値である311.5mAh/gの64%が得られ、5サイクル目の容量は121.0mAh/gであり、維持率は60.3%となった。実施例7の全固体電池は室温で動作した。
【実施例8】
【0055】
実施例8として、活物質をDDQとTCNQの重量比が1:1の混合物とし、正極体3の材料の重量比を、(DDQ+TCNQ):AB:PTFE:固体電解質=37.6:9.8:3.8:48.8とした以外は、実施例7と同様にして実施例8の全固体電池を作製した。実施例8の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.8Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図18は、実施例8の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は249.3mAh/gであり、理論値と同じ値が得られ、5サイクル目の容量は158.2mAh/gとなり、維持率は63.5%となった。
【実施例9】
【0056】
実施例9として、活物質をTCNQとSの重量比が1:1の混合物とし、正極体3の材料の重量比を、(TCNQ+S):AB:PTFE=46.5:48.8:4.7とした以外は、実施例3と同様にして実施例9の全固体電池を作製した。Sは、鶴見化学工業株式会社のコロイドAを用いた。実施例9の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.2Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図19は、実施例9の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は580.1mAh/gであり、理論値である962.0mAh/gの60%が得られ、5サイクル目の容量は411mAh/gとなり、維持率は約71%となった。
【実施例10】
【0057】
実施例10として、活物質をTCNQとSの重量比が1:1の混合物とし、さらに固体電解質を含む材料とし、正極体3の材料の重量比を、(TCNQ+S):AB:PTFE:固体電解質=23.2:24.3:2.4:50.2とした以外は、実施例7と同様にして実施例10の全固体電池を作製した。実施例10の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.2Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図20は、実施例10の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は855.8mAh/gであり、理論値である962.0mAh/gの90%が得られ、5サイクル目の容量は369.3mAh/gとなり、維持率は約43%となった。
【実施例11】
【0058】
実施例11として、活物質をポリアニリンとSの重量比が1:1の混合物とし、さらに固体電解質を含む材料とし、正極体3の材料の重量比を、(ポリアニリン+S):AB:PTFE:固体電解質=42.7:10.7:6.3:40.3とした以外は、実施例7と同様にして実施例11の全固体電池を作製した。ポリアニリンは、Alfa Aesar社(G10T102)を用いた。実施例11の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.2Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図21は、実施例11の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は446.2mAh/gであり、理論値である962.0mAh/gの50%が得られ、5サイクル目の容量は293mAh/gとなり、維持率は約66%となった。
【実施例12】
【0059】
実施例12として、活物質をTCNQとし、導電助剤をグラフェンとし、正極体3の材料の重量比を、TCNQ:グラフェン:PTFE:固体電解質=26.5:23.4:2.2:47.9とした以外は、実施例7と同様にして実施例12の全固体電池を作製した。グラフェンは、非特許文献3に記載された変形ハマー法を用いて合成した。実施例12の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.4Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図22は、実施例12の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は89.7mAh/gであり、理論値である262.5mAh/gの34%が得られ、5サイクル目の容量は65.5mAh/gとなり、維持率は73.0%となった。
【実施例13】
【0060】
実施例13として、活物質をDDQとPEOの重量比が3:1の混合物とし、正極体3の材料の重量比を、(DDQ+PEO):AB:PTFE:固体電解質=24.7:20.7:7.5:47.0とした以外は、実施例7と同様にして実施例13の全固体電池を作製した。実施例13の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.8Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図23は、実施例13の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は199.0mAh/gであり、理論値である177.3mAh/gの112%が得られ、5サイクル目の容量は96.8mAh/gとなり、維持率は48.6%となった。
【実施例14】
【0061】
実施例14として、活物質をTCNQとPEOの重量比が3:1の混合物とし、正極体3の材料の重量比を、(TCNQ+PEO):AB:PTFE:固体電解質=23.0:23.2:7.0:46.8とした以外は、実施例7と同様にして実施例14の全固体電池を作製した。実施例14の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.8Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図24は、実施例14の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は182.1mAh/gであり、理論値である191.2mAh/gの95%が得られ、5サイクル目の容量は119.1mAh/gとなり、維持率は65.4%となった。
【実施例15】
【0062】
実施例15として、活物質をDDQとし、正極体3の材料の重量比を、DDQ:AB:PTFE:固体電解質=28.8:8.1:11.3:48.8とし、負極体5も固体電解質4に埋め込むようにした以外は、実施例7と同様にして実施例15の全固体電池を作製した。実施例15の二次電池は、
図2に示す構造である。実施例15の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧1.9Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図25は、実施例15の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は132.5mAh/gであり、理論値である236.1mAh/gの56.1%が得られ、2サイクル目の容量は158.9mAh/gとなり、維持率は119.9%となった。
【0063】
(比較例2)
比較例2として、活物質をBQ(ベンゾキノン、C6H4O2)とし、正極体の材料の重量比を、BQ:AB:PTFE:固体電解質=35.7:9.3:2.8:40.3とした以外は、実施例8と同様にして比較例2の全固体電池を作製した。BQ(キシダ化学株式会社試薬、Lot.52413Y)は下記化学式(4)で表される。
【化4】
【0064】
比較例2の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧2.5Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図26は、比較例2の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量は40.4mAh/gであり、理論値である459.9mAh/gの8.1%が得られ、5サイクル目の容量は4.5mAh/gとなり、維持率は11.3%となった。比較例2では、正極体の活物質が分解し、実施例8、13、14に比べて、初期放電容量及び維持率が著しく低下した値となった。
【0065】
(比較例3)
比較例3として、活物質をDDQとし、正極体3の材料の重量比を、DDQ:AB:PTFE=43.7:42.9:13.4とした以外は、比較例1と同様にして比較例3の電池を作製した。比較例3の全固体電池を、25℃、0.2Cで、平均電圧3.3Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図27は、比較例3の充放電特性を示す図である。この図に示すように、初期放電容量55.1mAh/gであり、理論値である236.1mAh/gの23.3%が得られ、5サイクル目の容量は11.1mAh/gとなり、維持率は約11.1%となった。
比較例3では、上記実施例に比べて、初期放電容量及び5サイクル目の容量が著しく低下した値となった。
【0066】
(比較例4)
比較例4として、活物質をTCNQとし、正極体3の材料の重量比を、TCNQ:AB:PTFE、固体電解質=37.2:9.8:2.7:50.3とし、これらの材料を単に積層して、比較例4の電池を作製した。比較例4の全固体電池を、75℃、0.2Cで、平均電圧2.8Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。
図28(A)は比較例4の電池の模式的な断面図であり、
図28(B)は比較例4の充放電特性を示す図である。
図28(B)に示すように、初期放電容量は89mAh/gであり、理論値である263mAh/gの33.8%が得られ、5サイクル目の容量は25mAh/gとなり、維持率は約28%となった。比較例4では、上記実施例に比較して、初期放電容量及び5サイクル目の容量が著しく低下した値となった。
【0067】
(比較例5)
比較例5として、活物質をDDQとし、正極体3の材料の重量比を、DDQ:AB:PTFE、固体電解質=37.0:10.8:1.8:50.4とし、正極集電体を使用しないで以外は実施例7と同様にして比較例5の電池を作製した。
図29は、比較例5の電池の構造を示す断面図である。比較例5の全固体電池を、65℃、0.2Cで、平均電圧3.2Vで実施例1と同様に充放電特性を測定した。初期放電容量は109.5mAh/gであり、理論値である263.1mAh/gの46.4%が得られ、5サイクル目の容量は48mAh/gとなり、維持率は約43.8%となった。
【0068】
比較例5では、上記比較例4に比較すると正極体の活物質は固体電解質に埋め込まれているが、正極体の活物質の上部は正極集電体で完全には密封されていない。従って、比較例5の初期放電容量及び維持率は比較例4よりも大きいが、実施例に比較して、初期放電容量及び5サイクル目の容量が低下した値となった。
【0069】
上記した実施例及び比較例によれば、本発明の二次電池1、10は、初期放電容量が理論値の70〜100%の容量が得られると共に、充放電を繰り返したときの特性劣化が少ないことが判明した。
【0070】
上記した実施例と同様に製作した二次電池において、特に充放電を繰り返して特性の劣化した二次電池を分解して調べた。
図30は、特性の劣化した二次電池を分解した光学像であり、(A)が光学像を、(B)が(A)を説明する模式図である。
図30(B)に示すように、アセチレンブラック(AB)からなる円形の正極集電体2の周囲には、正極集電体2の下部にある正極体3の活物質から漏出した領域5Aが生じている。
図30(A)の光学像において、目視では円形の正極集電体2は黒く見え、正極体3の活物質から漏出した領域5Aは茶色に見えた。例えば、実施例3で説明したように、充放電前の正極体3の活物質は固体であった。これから、正極体3の活物質は、充放電により固体から液体を含む相に相転移したと推定される。さらに、特性の劣化した二次電池では、正極体3の活物質は、正極集電体2の外側に漏出したと推定される。
【0071】
正極体3の活物質の漏出の度合は、正極体3が固体電解質4と正極集電体2により完全に密封されていない比較例4等で顕著であった。つまり、正極体3の活物質が固体電解質4と正極集電体2とにより密封されるようにすると、正極体3の活物質の漏出の度合いが減少すると共に、充放電特性における特性劣化が生じ難くなると推定される。
【実施例16】
【0072】
図31は、実施例16の二次電池の製造方法を模式的に示す図であり、(a)は正極側のペレットの製造工程、(b)はLi−TFSA溶液の滴下工程、(c)はEC/DECと1M(1モル)のLiClO
45μL(5×10
-6リットル)の添加工程、(d)は封入工程を示している。
図31(a)に示すように、正極体3の材料ペーストには、TCNQを用いた。TCNQに導電助材としてケッチンブラック(KB,1300m2/g)を溶液キャスト法により混合し、さらに結着材としてPTFEを加えて約300μmの厚さの正極材料ペーストを作製した。これらの材料の重量比は、TCNQ:KB:PTFE=46:49:5であった。実施例1と異なり、この正極体3の材料ペーストにLi−TFSA溶液は添加しなかった。高分子層36としては、実施例1のPEO膜は使用せず、混合PEO膜を使用した。混合PEO膜36は、分子量6000のPEOと、分子量400万のPEOと、Li−TFSAとを重量比8:1:1でアセトニトリル中で混合して乾燥させたものである。
固体電解質4は、フュームドシリカとLi−TFSAの1M(モル濃度)EMI−TFSA(独Io−li−tec社、関東化学株式会社輸入、以下、Li−EMI−TFSA溶液と呼ぶ。)溶液を体積比で1:3とし、メタノール中で攪拌し、メタノールを蒸発させて作製した。EMI−TFSAは、下記の化学式(5)で表される。固体電解質4の厚さは、約300μmである。ここで、フュームドシリカは、シグマアルドリッチジャパン株式会社のS5130を用いた。Liは、シグマアルドリッチジャパン株式会社の試薬を用いた。
【化5】
【0073】
次に、約300μmの厚さの正極体3の材料ペーストと混合PEO膜36と約50mgの固体電解質4とをこの順に積層し、硬質ダイスとプレス機を用いて1GPaで圧縮して、正極体3が密封された直径10mm、厚さ約1mmの円盤状のペレットを作製した。
図31(b)に示すように、上記ペレットの固体電解質4には、Li−EMI−TFSA溶液(15μl)を滴下し、常温、真空真空中で15分放置して、脱泡した。
続いて、
図31(c)に示すように、上記ペレットに5μLのEC/DECと1MのLiClO
45μLを添加した。固体電解質4の厚さは約300〜400μmになった。
これにより、固体電解質4は、フュームドシリカとLi−EMI−TFSA溶液と、EC/DECとLiClO
4から構成される。固体電解質4には、イオン液体としては、EMI−TFSA及びEC/DECが添加されたことになる。
最後に、
図31(d)に示すように、上記正極材料ペースト及びPEO薄膜36が積層されない側の表面に負極5となる金属Liを重ね、Arガスの雰囲気中でコインセルに封入して全固体電池40を作製した。
【0074】
図32は、実施例16の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸は容量(mAh/g)であり、横軸はサイクル数である。実施例16として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にEC/DECと1MのLiClO
4を添加した全固体電池では、常温において、100回以上の充放電が可能であることを確認した。
【0075】
図33は、実施例16の充放電特性を示す図である。縦軸は端子間電圧(V)であり、横軸は比容量(mAh/g)である。
図33に示すように、実施例16の正極体3の活物質としてTCNQを用いた全固体電池では、常温において、215.4mAh/g−TCNQの初期放電容量であり、理論値である262.5mAh/gの80%以上が得られ、5サイクル目の容量は203.6mAh/gであり、90サイクル目の容量は165.4mAh/gであり、100サイクル後の初期値に対する維持率は70%となった。
【実施例17】
【0076】
正極体3の重量比を、TCNQ:AB:PTFE=88.7:6.6:4.7とした以外は、実施例16と同様にして実施例17の全固体電池を作製した。
【0077】
図34は、実施例17の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図32と同じである。実施例17として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にEC/DECと1MのLiClO
4を添加した全固体電池では、50℃において、10回以上充放電が可能であることが分かった。
【0078】
図35は、実施例17の充放電特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図33と同じである。
図35に示すように、実施例17の全固体電池を、50℃、0.2Cレートで充放電特性を測定した。初期放電容量は218.4mAh/gであり、5サイクル目の容量は147.1mAh/gとなり、維持率は約67%となった。
【実施例18】
【0079】
正極体3の重量比を、TCNQ:AB:PTFE=47.6:46.9:5.6とした以外は、実施例17と同様にして実施例18の全固体電池を作製した。
図36は、実施例18の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図32と同じである。実施例18として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にEC/DECと1MのLiClO
4を添加した全固体電池では、50℃において、10回以上充放電が可能であることが分かった。
【0080】
図37は、実施例18の充放電特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図33と同じである。実施例17と同様の条件で充放電特性を測定した。
図37に示すように、初期放電容量は215.5mAh/gであり、2サイクル目は249.3mAh/g、5サイクル目は196.2mAh/gとなった。
【実施例19】
【0081】
正極体3の重量比を、TCNQ:AB:PTFE=29.1:65.3:5.6とした以外は、実施例17と同様にして実施例19の全固体電池を作製した。
図38は、実施例19の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図32と同じである。実施例19として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にEC/DECと1MのLiClO
4を添加した全固体電池では、50℃において、10回以上充放電が可能であることが分かった。
【0082】
図39は実施例19の充放電特性を示している。縦軸及び横軸は
図33と同じである。
図39に示すように、実施例17と同様の条件で充放電特性を測定した。初期放電容量は220.3mAh/gであり、2サイクル目は234.0mAh/g、5サイクル目は224.9mAh/gとなった。
【実施例20】
【0083】
正極体3の重量比を、TCNQ:AB:PTFE=47.6:46.9:5.6とし、セル作製には実施例16と違い、EMI−TFSAではなく1−メチル−2−ブチルピロリジニウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(通称BMP−TFSA)を用いた以外は実施例16と同様にして実施例20の全固体電池を作製した。BMP−TFSAは、下記の化学式(6)で表される。これにより、固体電解質4は、フュームドシリカとLi−BMP−TFSA溶液と、EC/DECとLiClO
4から構成される。固体電解質4には、イオン液体としては、BMP−TFSA及びEC/DECが添加されたことになる。
【化6】
【0084】
図40は、実施例20の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図32と同じである。実施例20として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にBMPを添加した全固体電池では、50℃において、100回以上の充放電が可能であることが分かった。
【0085】
図41は、実施例20の充放電特性を示す。縦軸及び横軸は
図33と同じである。
図41に示すように、実施例17と同様の条件で充放電特性を測定した。初期放電容量は219.8mAh/g、2サイクル目は241.5mAh/g、10サイクル目は233.5mAh/g、100サイクル目は189.1mAh/gとなった。
【実施例21】
【0086】
正極体3の重量比を、TCNQ:AB:PTFE=47.6:46.9:5.6とし、セル作製には実施例16と違い、EMI−TFSAではなくN−メチル−N−ピペリジニウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(通称PP13−TFSA)を用いた以外は実施例16と同様にして実施例21の全固体電池を作製した。PP13−TFSAは、下記の化学式(7)で表される。これにより、固体電解質4は、フュームドシリカとLi−PP13−TFSA溶液と、EC/DECとLiClO
4から構成される。固体電解質4には、イオン液体としては、PP13−TFSA及びEC/DECが添加されたことになる。
【化7】
【0087】
図42は、実施例21の充放電のサイクル特性を示す。縦軸及び横軸は
図32と同じである。実施例21として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にPP13を添加した全固体電池では、50℃において、10回以上充放電が可能であることが分かった。
【0088】
図43は、実施例21の充放電特性を示す。縦軸及び横軸は
図33と同じである。
図43に示すように、実施例17と同様の条件で充放電特性を測定した。初期放電容量は152.7mAh/g、2サイクル目は218.0mAh/g、5サイクル目は201.9mAh/gとなった。
【実施例22】
【0089】
正極体3の重量比を、TCNQ:AB:PTFE=47.6:46.9:5.6とし、固体電解質には実施例16と違い、EMI−TFSAではなくN−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−アンモニウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(通称DEME−TFSA)を用いた以外は実施例16と同様にして実施例22の全固体電池を作製した。DEME−TFSAは、下記の化学式(8)で表される。これにより、固体電解質4は、フュームドシリカとLi−DEME−TFSA溶液と、EC/DECとLiClO
4から構成される。固体電解質4には、イオン液体として、DEME−TFSA及びEC/DECが添加されたことになる。
【化8】
【0090】
図44は、実施例22の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図32と同じである。実施例22として、正極体3の活物質をTCNQ、固体電解質4にDEMEを添加した全固体電池では、50℃において、10回以上充放電が可能であることが分かった。
【0091】
図45は実施例22の充放電特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図33と同じである。
図45に示すように、実施例17と同様の条件で充放電特性を測定した。初期放電容量は162.2mAh/g、2サイクル目は242.4mAh/g、5サイクル目は204.5mAh/gとなった。
【0092】
図46は、実施例17、18、19の充放電のサイクル特性に対する正極体3の活物質であるTCNQの重量比率依存性を示す図である。実施例17、18、19の正極体3の活物質であるTCNQの重量比は、それぞれ29.1%、47.6%及び88.7%である。
図46に示すように、正極体3の活物質であるTCNQの重量比の割合が高いほど、特に重量比が5割を超える実施例19ではサイクル特性が劣化することが分かった。
【0093】
図47は、実施例16及び18の充放電のサイクル特性の温度依存性を比較した図である。実施例16及び18では、正極体3の活物質であるTCNQの重量比はほぼ同じである。充放電の温度は、実施例16が常温、実施例18は50℃である。
図47に示すように、実施例18の充放電の温度が50℃の高温の場合には、常温の実施例16と比較すると、初期容量は向上するがサイクル特性が低下することが分かった。
【0094】
図48は、実施例18、20、21、22の充放電のサイクル特性を比較した図である。実施例18、20、21、22で異なるのは、イオン液体に添加する有機電解質である。実施例18、20、21、22で用いたイオン液体は添加されるEMI等の有機電解質が異なり、それぞれ、EMI−TFSA、BMP−TFSA、PP13−TFSA、DEME−TFSAである。
図48に示すように、初期容量やサイクル特性などの電池性能は、固体電解質に含まれるイオン液体種に大きく影響されることが分かった。TCNQを活物質とした場合、イオン液体としては、Liイオンを含み、BMP−TFSA又はEMI−TFSAと、EC/DECとを用いた全固体電池が高いサイクル特性を示した。最も高いサイクル特性を示したのは、イオン液体として、Liイオンを含み、BMP−TFSAと、EC/DECとを用いた全固体電池である。
【実施例23】
【0095】
正極体3の重量比を、TCNQ:KB:PTFE=46:49:3.6とした以外は実施例16と同様にして実施例23の全固体電池を作製した。実施例23の全固体電池では、実施例16と同様に常温において、0.2Cの充放電条件で100回以上の充放電が可能であることを確認した。
【0096】
(急速充放電特性の測定1)
次に、実施例23の全固体電池の急速充放電特性、つまり高速充放電特性を調べた。充放電は、実施例16の充放電とは異なり2Cの条件で行った。2Cは、30分で理論容量を満充電/満放電する電流における充放電の速度である。測定は、室温と50℃(323K)で行った。
図49は、実施例23の充放電のサイクル特性を示す図である。縦軸は容量(mAh/g)であり、横軸はサイクル数である。
図49に示すように、実施例23の全固体電池では、常温及び50℃において、2Cの充放電条件で300回以上の充放電が可能であることが分かった。
【0097】
図50は実施例23の室温における充放電特性を示す図である。縦軸は端子間電圧(V)であり、横軸は比容量(mAh/g)である。
図50に示すように、実施例23の正極体3の活物質としてTCNQを用いた全固体電池では、常温において、200mAh/g−
TCNQの初期放電容量であり、理論値である262.5mAh/gの76%が得られ、5サイクル目の容量は197mAh/gであり、30サイクル目の容量は177mAh/gであり、30サイクル後の初期値に対する維持率は89%となった。200mAh/g−
TCNQの表記において、gの添え字であるTCNQは、正極体3の活物質を示している。
【0098】
図51は実施例23の50℃における充放電特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図50と同じである。
図51に示すように、実施例23の正極体3の活物質としてTCNQを用いた全固体電池では、50℃において、277mAh/g−
TCNQの初期放電容量であり、理論値である262.5mAh/gの105%以上が得られ、5サイクル目の容量は206mAh/gであり、30サイクル目の容量は211mAh/gであり、30サイクル後の初期値に対する維持率は76%となった。
【0099】
(急速充放電特性の測定2)
図52は実施例23の50℃における5Cの充放電条件による充放電特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図50と同じである。5Cは、12分で理論容量を満充電/満放電する電流における充放電の速度である。
図52に示すように、実施例23の正極体3の活物質としてTCNQを用いた全固体電池においても、5Cの急速充放電でも、50℃において、100回以上の充放電が可能であることが判明した。
【0100】
(急速充放電特性の測定3)
実施例23では、室温及び50℃における10Cの充放電条件においても充放電が可能であった。10Cは、6分で理論容量を満充電/満放電する電流における充放電の速度である。50℃における10Cの充放電条件の初期放電容量は、72.0mAh/g−
TCNQとなった。
【0101】
図53は、実施例23の充放電速度(C)に対する初期放電容量との関係を示す図である。
図53の縦軸は初期放電容量(mAh/g−
DDQ)であり、横軸は対数で目盛った充放電速度(Log
10C)である。
図53に示すように、測定温度が室温の場合には、0.1Cでは215mAh/g−
DDQの初期放電容量が得られた。充放電速度(C)を0.1Cから2Cとしても、初期放電容量はあまり変化せず、2C〜10Cにすると初期放電容量が低下する傾向となった。測定温度が50℃の場合には、0.1Cでは約270mAh/g−
DDQの初期放電容量が得られた。0.1Cから2Cとしても、初期放電容量はあまり変化せず、2C〜10Cの初期放電容量は、室温と同様に低下する傾向となった。
【実施例24】
【0102】
実施例24として、活物質をDDQとし、正極体3の材料の重量比を、DDQ:KB:PTFE=67.1:26.9:6.0とした以外は、実施例16と同様にして実施例24の全固体電池を作製した。0.2C、0.5C、1C、2Cは、それぞれ、5時間、2時間、1時間、30分で理論容量を満充電/満放電する電流における充放電の速度である。
【0103】
(急速充放電特性の測定4)
次に、実施例24の全固体電池の急速充放電特性、つまり高速充放電特性を調べた。充放電は、0.2C、0.5C、1C、2Cの条件で行った。測定は、室温と50℃(323K)で行った。
図54は、実施例24の充放電速度(C)に対する初期放電容量との関係を示す図である。縦軸は初期放電容量(mAh/g−
DDQ)であり、横軸は対数で目盛った充放電速度(Log
10C)である。
図54に示すように、測定温度が室温の場合には、0.2Cでは160mAh/g−
DDQの初期放電容量が得られ、充放電速度(C)を0.2Cから0.5C〜2Cにすると、初期放電容量が低下した。測定温度が50℃の場合には、0.2C及び0.5Cで150mAh/g−
DDQの初期放電容量が得られ、充放電速度(C)を0.5Cから1C、2Cにすると初期放電容量が徐々に低下することが分かった。
【0104】
図55は実施例24の充放電特性を示す図である。縦軸及び横軸は
図50と同じである。充放電は、50℃、0.5Cの充放電速度の条件で測定した。
図55に示すように、実施例24の正極体3の活物質をDDQとした全固体電池では、初期放電容量は143.4mAh/g、2サイクル目の容量は161.7mAh/g、5サイクル目の容量は136.2mAh/gとなった。
【0105】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。