(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周面に円すい凸面状の内輪軌道を有する内輪と、内周面に円すい凹面状の外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、前記内輪軌道の小径側に隣接する部分に設けられて、その内側面を前記各円すいころの小径側端面に対向させた小鍔部と、前記内輪軌道の大径側に隣接する部分に設けられて、その内側面を前記各円すいころの大径側端面に対向させた大鍔部と、これら各円すいころを転動自在に保持する保持器とを備え、
このうちの保持器は、前記内輪、外輪両軌道と同方向に傾斜した円すい筒状の主部と、この主部の軸方向中間部の円周方向複数箇所にこの主部を径方向に貫通する状態で形成された、それぞれの内側に前記各円すいころを転動自在に保持するポケットと、前記主部の内周面の大径側端部で少なくとも前記内輪軌道の大径側端部と径方向に対向する部分を含む範囲に形成された、径方向外方に凹入する凹部とを備え、前記主部の外周面を前記外輪軌道に近接対向させると共に、この主部の内周面の小径側端部を前記小鍔部の外周面に近接対向させている円すいころ軸受であって、
前記各円すいころの大径側端面を前記大鍔部の内側面に接触させ、且つ、前記保持器を前記内輪、外輪両軌道と同心に配置すると共に、この保持器の軸方向位置を、この保持器が前記各ポケット内に存在する隙間に基づいて軸方向に移動可能な範囲の中央位置とした状態を、基準状態と定義した場合に、
前記主部の外周面に直角な方向に関するこの主部の厚さの最大値Lと、前記各円すいころの転動面の軸方向中央部の直径であるこれら各転動面の平均直径Dとの比L/Dが、「0.62≦L/D≦0.66」の範囲に収まっており、
前記基準状態で、前記各円すいころの中心軸に対する、前記主部の内周面の軸方向中間部の傾斜角度θが、「−2度≦θ≦+5度」の範囲に収まっており、
前記主部の中心軸に対するこの主部の外周面の傾斜角度が、前記外輪軌道の中心軸に対するこの外輪軌道の傾斜角度と等しくなっており、且つ、前記基準状態で、前記主部の外周面と前記外輪軌道との対向距離bと、前記各円すいころの転動面の平均直径Dとの比b/Dが、「0<b/D<0.072」の範囲に収まっており、
前記基準状態で、前記主部の内周面のうち前記凹部の小径側端部に存在する段差面と前記大鍔部の内側面との間の軸方向距離の最小値a1と、前記各円すいころの転動面の平均直径Dとの比a1/Dが、「0.32<a1/D≦0.4」の範囲に収まっており、且つ、前記段差面と前記内輪軌道との間の径方向距離の最小値a2と、前記各円すいころの転動面の平均直径Dとの比a2/Dが、「0.32<a2/D≦0.4」の範囲に収まっている事を特徴とする
円すいころ軸受。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の回転支持部に転がり軸受が組み込まれているが、大きなラジアル荷重及びアキシアル荷重が加わる回転支持部を構成する為には、転動体として円すいころを使用した円すいころ軸受が使用される。
図14〜15は、この様な円すいころ軸受の従来構造の第1例として、特許文献1等に記載されたものを示している。この円すいころ軸受は、外周面に円すい凸面状の内輪軌道1を有する内輪2と、内周面に円すい凹面状の外輪軌道3を有する外輪4と、これら内輪軌道1と外輪軌道3との間に、保持器5により保持された状態で転動自在に設けられた複数の円すいころ6、6とを備える。又、前記内輪2の外周面のうちで、前記内輪軌道1の小径側に隣接する部分に、外向フランジ状の小鍔部7を設け、この小鍔部7の内側面を前記各円すいころ6、6の小径側端面に対向させている。同じく、前記内輪軌道1の大径側に隣接する部分に、外向フランジ状の大鍔部8を設け、この大鍔部8の内側面を前記各円すいころ6、6の大径側端面に対向させている。
【0003】
又、前記保持器5は、金属板製で、前記内輪、外輪両軌道1、3と同方向に傾斜した円すい筒状の主部9と、この主部9の軸方向中間部の円周方向等間隔となる複数箇所に、この主部9を径方向に貫通する状態で形成されたポケット10、10と、この主部9の小径側端部から径方向内方に折れ曲がった内向鍔部11とを備える。この主部9は、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された小径円環部12及び大径円環部13と、それぞれの両端部をこれら両円環部12、13に結合した状態で円周方向に関して等間隔に配置された複数の柱部14、14とを備える。そして、円周方向に隣り合う柱部14、14と前記両円環部12、13とにより四周を囲まれた部分を、それぞれ前記各ポケット10、10としている。又、これら各ポケット10、10内に前記各円すいころ6、6を転動自在に保持した状態で、前記主部9の外周面を前記外輪軌道1に近接対向させている。これと共に、前記内向鍔部11の内周縁を、前記小鍔部7の外周面に近接対向させている。
【0004】
上述の様な円すいころ軸受を、例えば自動車のデファレンシャルギヤを構成する歯車の回転支持部に組み込んで使用する場合、この円すいころ軸受の潤滑は、このデファレンシャルギヤを収納したケーシング内に貯溜した潤滑油により行う。即ち、このケーシングの底部に貯溜した潤滑油を、その下部をこの潤滑油中に浸漬した状態で回転する減速大歯車により掻き上げ、細かい油滴とした状態で、前記ケーシング内に浮遊させる。そして、この油滴となった潤滑油を、前記内輪2の外周面と前記外輪4の内周面との間に存在する空間である、前記円すいころ軸受の内部空間に、この円すいころ軸受の運転に伴って生じるポンプ作用により流通させる。即ち、この円すいころ軸受の運転時には、前記各円すいころ6、6の公転運動に伴って前記内部空間に、小径側(
図14〜15の左側)開口から大径側(
図14〜15の右側)開口に向けて流体の流れが惹起される。前記潤滑油は、この流れにより前記内部空間を流通し、この内部空間内に存在する転がり接触部や滑り接触部を潤滑する。
【0005】
特に、上述した円すいころ軸受の場合には、前記保持器5を構成する主部9の外周面を前記外輪軌道3に近接対向させると共に、前記内向鍔部11の内周縁を前記小鍔部7の外周面に近接対向させる事により、前記内部空間の小径側の開口面積を狭くする事で、この小径側開口を通じて前記内部空間に流入する潤滑油の量を抑えている。これにより、この内部空間内に存在する潤滑油の量を少なくする事で、この潤滑油の攪拌抵抗を低減する事に基づき、前記円すいころ軸受の動トルクを抑えている。
【0006】
ところで、上述した円すいころ軸受の運転時に、前記各円すいころ6、6は、前記内輪、外輪両軌道1、3の大径側に寄った状態で、自転しつつ公転する。この為、前記各円すいころ6、6の大径側端面は、前記大鍔部8の内側面に対し、強く押し付けられた状態で滑り接触する。従って、これら各滑り接触部で、異常発熱、異常摩耗、焼き付きと言った問題が生じる事を防止すべく、これら各滑り接触部の潤滑状態を良好にする必要がある。
【0007】
ところが、上述した従来構造の第1例の場合には、前記内部空間の一部であって、前記主部9の内周面と前記内輪2の外周面との間部分である、内輪側内部空間18の径方向間隔が広くなっている。この為、外部空間から前記小径側開口を通じて前記内輪側内部空間18に流入した潤滑油は、遠心力によりこの内輪側内部空間18の外径側部分に寄せられた状態で、前記小径側開口から前記大径側開口に向けて流れる傾向となる。一方、前記各円すいころ6、6の大径側端面と前記大鍔部8の内側面との滑り接触部は、前記内輪側内部空間18の内径側部分の大径側端部に存在する。この為、上述した従来構造の場合、前記各円すいころ6、6の大径側端面と前記大鍔部8の内側面との滑り接触部に到達できる潤滑油の量は、限られた量となる。
【0008】
これに対し、特許文献2には
図16に示す様な円すいころ軸受が、特許文献3には
図17に示す様な円すいころ軸受が、それぞれ記載されている。これら
図16〜17に示した従来構造の第2〜3例の場合には、何れも、保持器5a、5bを合成樹脂製とし、且つ、この保持器5a、5bを構成する主部9a、9bの径方向厚さを大きくしている。これにより、円すいころ軸受の内部空間の体積を減らし、この内部空間内に存在する潤滑油の量をより少なくする事で、この潤滑油の攪拌抵抗の更なる低減を図っている。又、前記主部9a、9bの径方向厚さを大きくする事により、前記内部空間の一部であって、前記主部9a、9bの内周面と内輪2の外周面との間部分である、内輪側内部空間18a、18bの径方向厚さを小さくしている。これにより、この内輪側内部空間18a、18bを通じて、この内輪側内部空間18a、18bの小径側端部から、各円すいころ6の大径側端面と大鍔部8の内側面との滑り接触部に向け、潤滑油を供給し易くする効果を狙っている。又、前記主部9a、9bの内周面の大径側端部で、内輪軌道1の大径側端部と径方向に対向する部分を含む範囲に、径方向外方に凹入する凹部15a、15bを形成している。これにより、前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に供給された潤滑油を、前記凹部15a、15bの内径側に存在する空間を通じて外部空間に排出し易くする事で、前記潤滑油の攪拌抵抗のより一層の低減を図っている。
【0009】
ところが、上述した従来構造の第2〜3例の場合には、何れも、次の様な問題がある。
即ち、これら従来構造の第2〜3例の場合には、何れも、前記主部9a、9bの外周面に直角な方向に関する、この主部9a、9bの厚さの最大値Lと、前記各円すいころ6の転動面の軸方向中央部の直径である、これら各転動面の平均直径Dとの比L/Dが、過大になっている。具体的には、図示の構造に定規を当てて測定すると、
図16に示した従来構造の第2例では、L/D=0.90と言った様に、又、
図17に示した同第3例では、L/D=1.06と言った様に、それぞれ当該比L/Dの値が、後述す
る条件である「0.42<L/D<0.71」の範囲を超えて大きくなっている。
【0010】
又、上述した従来構造の第2〜3例の場合には、何れも、前記凹部15a、15bの小径側端部に存在する段差面16a、16bと前記大鍔部8の内側面との間の軸方向距離の最小値a
1と、前記各円すいころ6の転動面の平均直径Dとの比a
1/D、並びに、前記段差面16a、16bと前記内輪軌道1との間の径方向距離の最小値a
2と、前記各円すいころ6の転動面の平均直径Dとの比a
2/Dが、それぞれ過小になっている。即ち、図示の構造に定規を当てて測定すると、
図16に示した従来構造の第2例では、a
1/D=0.16、a
2/D=0.12と言った様に、又、
図17に示した同第3例では、a
1/D=0.16、a
2/D=0.04と言った様に、それぞれ当該各比a
1/D、a
2/Dの値が、後述す
る条件である「a
1/D>0.32」、「a
2/D>0.32」の範囲よりも小さくなっている。
【0011】
そして、上述した従来構造の第2〜3例の場合には、上述の様に各比L/D、a
1/D、a
2/Dが過大又は過小になっている分だけ、前記内輪側内部空間18a、18bの体積が小さくなっている。この為、この内輪側内部空間18a、18bに於いて、前記ポンプ作用(内部空間内の負圧)に基づく潤滑油の吸い込み力を十分に得られず、前記小径側開口を通じて前記内輪側内部空間18a、18bに流入する潤滑油の量が少なくなる。従って、前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に供給される潤滑油の量が少なくなる。更には、前記各比L/D、a
1/D、a
2/Dが過大又は過小になっている分だけ、前記保持器5a、5bの表面積が大きくなっている。この為、この保持器5a、5bが潤滑油から受ける力が大きくなり、その分だけ、この潤滑油の攪拌抵抗の低減効果が小さくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の円すいころ軸受は、上述の様な事情に鑑み、内部空間に存在する潤滑油の攪拌抵抗を十分に低減できると共に、各円すいころの大径側端面と内輪の大鍔部の内側面との滑り接触部の潤滑状態を良好にできる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の円すいころ軸受は、内輪と、外輪と、複数個の円すいころと、小鍔部と、大鍔部と、保持器とを備える。
このうちの内輪は、外周面に円すい凸面状の内輪軌道を有する。
又、前記外輪は、内周面に円すい凹面状の外輪軌道を有する。
又、前記各円すいころは、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられている。
又、前記小鍔部は、前記内輪軌道の小径側に隣接する部分に設けられて、その内側面を前記各円すいころの小径側端面に対向させている。
又、前記大鍔部は、前記内輪軌道の大径側に隣接する部分に設けられて、その内側面を前記各円すいころの大径側端面に対向させている。
又、前記保持器は、前記各円すいころを転動自在に保持している。この様な保持器は、前記内輪、外輪両軌道と同方向に傾斜した円すい筒状の主部と、この主部の軸方向中間部の円周方向複数箇所にこの主部を径方向に貫通する状態で形成された、それぞれの内側に前記各円すいころを転動自在に保持
するポケットと、前記主部の内周面の大径側端部で少なくとも前記内輪軌道の大径側端部と径方向に対向する部分を含む範囲に形成された、径方向外方に凹入する凹部とを備える。そして、前記主部の外周面を、前記外輪軌道に近接対向させると共に、この主部の内周面の小径側端部を、前記小鍔部の外周面に近接対向させている。
【0015】
特に、本発明の円すいころ軸受の場合には、前記各円すいころの大径側端面を前記大鍔部の内側面に接触させ、且つ、前記保持器を前記内輪、外輪両軌道と同心に配置すると共に、この保持器の軸方向位置を、この保持器が前記各ポケット内に存在する隙間に基づいて軸方向に移動可能な範囲の中央位置とした状態を、基準状態と定義した場合に、以下の各条件を満たす。
先ず、前記主部の外周面に直角な方向に関するこの主部の厚さの最大値Lと、前記各円すいころの転動面の軸方向中央部の直径であるこれら各転動面の平均直径Dとの比L/Dが、「0.42<L/D<0.71」の範囲
(より具体的には、「0.62≦L/D≦0.66」の範囲)に収まっている。
又、前記基準状態で、前記各円すいころの中心軸に対する、前記主部の内周面の軸方向中間部(軸方向に関して、前記小鍔部の外周面と対向する小径側端部と、前記凹部を形成した大径側端部との間に挟まれた部分)の傾斜角度θが、「−5度≦θ≦+5度」の範囲
(より具体的には、「−2度≦θ≦+5度」の範囲)に収まっている。尚、この傾斜角度θの±の方向は、次の様に定義する。即ち、前記基準状態に於いて、前記保持器の中心軸に対する前記各円すいころの中心軸の傾斜角度をαとし、前記保持器の中心軸に対する前記主部の内周面の軸方向中間部の傾斜角度をβとした場合に、前記傾斜角度θの±の符号は、α>βとなる状態を+とし、α<βとなる状態を−とする。
更に、前記主部の中心軸に対するこの主部の外周面の傾斜角度が、前記外輪軌道の中心軸に対するこの外輪軌道の傾斜角度と等しくなっており、且つ、前記基準状態で、前記主部の外周面と前記外輪軌道との対向距離bと、前記各円すいころの転動面の平均直径Dとの比b/Dが、「0<b/D<0.072」の範囲に収まっている。
【0016】
更に、本発明の円すいころ軸受
の場合には、前記基準状態で、前記主部の内周面のうち前記凹部の小径側端部に存在する段差面と前記大鍔部の内側面との間の軸方向距離の最小値a
1と、前記各円すいころの転動面の平均直径Dとの比a
1/D
が、「a
1/D>0.32」の範囲
(より具体的には、「0.32<a1/D≦0.4」の範囲)に収
まっている。又、前記段差面と前記内輪軌道との間の径方向距離の最小値a
2と、前記各円すいころの転動面の平均直径Dとの比a
2/D
が、「a
2/D>0.32」の範囲
(より具体的には、「0.32<a2/D≦0.4」の範囲)に収
まっている。
本発明を実施する場合には、例えば請求項
2に記載した発明の様に、「a
1=a
2」の条件を満たす様にする
事ができる。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明の円すいころ軸受によれば、運転時に内部空間(内輪の外周面と外輪の内周面との間に存在する空間)を通過する潤滑油の攪拌抵抗を十分に低減できる。この為、円すいころ軸受の動トルクを十分に抑えられる。又、各円すいころの大径側端面と内輪の大鍔部の内側面との滑り接触部の潤滑状態を良好にできる。この為、これら各滑り接触部で、異常発熱、異常摩耗、焼き付き等が生じる事を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は
、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、保持器5cの構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の
図14〜15に示した従来構造の第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0020】
本例の場合、前記保持器5cは、合成樹脂の一体成形品であり、内輪、外輪両軌道1、3と同方向に傾斜した円すい筒状の主部9cと、この主部9cの軸方向中間部の円周方向等間隔となる複数箇所に、この主部9cを径方向に貫通する状態で形成されたポケット10c、10cとを備える。このうちの主部9cは、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された小径円環部12c及び大径円環部13cと、それぞれの両端部をこれら両円環部12c、13cに結合した状態で円周方向に関して等間隔に配置された複数の柱部14c、14cとを備える。そして、円周方向に隣り合う柱部14c、14cと前記両円環部12c、13cとにより四周を囲まれた部分を、それぞれ前記各ポケット10c、10cとしている。又、前記主部9cの内周面の大径側端部(前記大径円環部13c及び前記各柱部14c、14cの大径側端部の内周面)に、径方向外方に凹入する凹部15cを形成している。本例の場合、この凹部15cの底面の断面形状は、前記主部9cの外周面に対して平行な直線形状としている。又、この主部9cの内周面のうち前記凹部15cの小径側端部に存在する段差面16cの断面形状を、前記主部9cの中心軸に対して直角な直線形状としている。又、前記各ポケット10c、10c内に円すいころ6、6を転動自在に保持した状態で、前記主部9cの外周面を前記外輪軌道1に近接対向させると共に、この主部9cの内周面の小径側端部(前記小径円環部12cの内周面)を、小鍔部7の外周面に近接対向させている。更には、前記凹部15cを前記内輪軌道1の大径側端部に対し、径方向に対向させている。
【0021】
又、本例の場合には、
図1に示す様に、前記各円すいころ6の大径側端面を大鍔部8の内側面に接触させ、且つ、前記保持器5cを前記内輪、外輪両軌道1、3と同心に配置すると共に、この保持器5cの軸方向位置を、この保持器5cが前記各ポケット10c内に存在する隙間に基づいて軸方向に移動可能な範囲の中央位置とした状態を、基準状態と定義した場合に、以下の条件(1)〜(4)を満たす。
(1) 前記主部9cの外周面に直角な方向に関するこの主部9cの厚さの最大値Lと、前記各円すいころ6、6の転動面の軸方向中央部の直径である、これら各転動面の平均直径Dとの比L/Dが、「0.42<L/D<0.71」の範囲
(より具体的には、「0.62≦L/D≦0.66」の範囲)に収まっている。
(2) 前記基準状態で、前記各円すいころ6、6の中心軸Cに対する、前記主部9cの内周面の軸方向中間部(軸方向に関して、前記小鍔部7の外周面と対向する小径側端部と、前記凹部15cを形成した大径側端部との間に挟まれた部分)の傾斜角度θが、「−5度≦θ≦+5度」の範囲
(より具体的には、「−2度≦θ≦+5度」の範囲)に収まっている。尚、
図1に示す断面図に於いて、前記傾斜角度θの±の方向は、
図4に示す方向とする。即ち、前記基準状態に於いて、前記保持器5cの中心軸Nに対する前記各円すいころ6、6の中心軸Cの傾斜角度をαとし、同じく前記主部9cの内周面の軸方向中間部の傾斜角度をβとした場合に、前記傾斜角度θの±の符号は、α>βとなる状態を+とし、α<βとなる状態を−とする。
(3) 前記主部9cの中心軸に対するこの主部9cの外周面の傾斜角度が、前記外輪軌道3の中心軸に対するこの外輪軌道3の傾斜角度と等しくなっており、且つ、前記基準状態で、前記主部9cの外周面と前記外輪軌道3との対向距離bと、前記各円すいころ6、6の転動面の平均直径Dとの比b/Dが、「0<b/D<0.072」の範囲に収まっている。
(4) 前記基準状態で、前記主部9cの内周面のうち前記凹部15cの小径側端部に存在する段差面16cと、前記大鍔部8の内側面との間の軸方向距離の最小値をa
1とし、前記段差面16cと前記内輪軌道1との間の径方向距離の最小値をa
2とする。この場合に、前記軸方向距離の最小値a
1と前記各円すいころ6、6の転動面の平均直径Dとの比a
1/Dが、「a
1/D>0.32」の範囲
(より具体的には、「0.32<a1/D≦0.4」の範囲)に収まっており、且つ、前記径方向距離の最小値a
2と前記平均直径Dとの比a
2/Dが、「a
2/D>0.32」の範囲
(より具体的には、「0.32<a2/D≦0.4」の範囲)に収まっている。
【0022】
尚、本例の場合、前記最小値a
1は、前記段差面16cの径方向内端縁と前記大鍔部8の内側面の径方向外端縁との間の軸方向距離である。又、前記最小値a
2は、前記段差面16cの径方向内端縁と前記内輪軌道1の大径側端縁との間の径方向距離である。又、本発明を実施する場合、前記両最小値a
1、a
2は、図示の例の様に互いに異ならせて(a
1≠a
2)も良いし、或いは、図示の例とは異なるが、互いに等しく(a
1=a
2)しても良い。
【0023】
上述の様に構成する本例の円すいころ軸受によれば、運転時に内部空間(内輪2の外周面と外輪4の内周面との間に存在する空間)を通過する潤滑油の攪拌抵抗を十分に低減できると共に、前記各円すいころ6、6の大径側端面と前記大鍔部8の内側面との滑り接触部の潤滑状態を良好にできる。この理由に就いて、以下に詳しく説明する。
【0024】
本例の場合には、前記保持器5cを構成する主部9cの厚さLを適度に大きくしている
{前記比L/Dを「0.42<L/D<0.71」の範囲
(より具体的には、「0.62≦L/D≦0.66」の範囲)に収めている
}為、前記内部空間の体積を適度に減らして、この内部空間内に存在する潤滑油の量を適度に減らせる。従って、この潤滑油の攪拌抵抗を効果的に低減できる。又、本例の場合には、前記主部9cの厚さLを適度に大きくしている為、前記内部空間の一部であって、前記主部9cの内周面と前記内輪2の外周面との間部分である、内輪側内部空間18cの径方向厚さを適度に小さくできる。この為、この内輪側内部空間18cを通じて、この内輪側内部空間18cの小径側開口から、前記各円すいころ6、6の大径側端面と前記大鍔部8の内側面との滑り接触部に向け、潤滑油を供給し易くできる。
【0025】
尚、前記比L/Dを0.71以上(L/D≧0.71)にすると、前記潤滑油の攪拌抵抗を効果的に低減できなくなる。この理由は、前記保持器5cの表面積が過度に増加して、潤滑油からこの保持器5cに加わる力が大きくなる為であると考えられる。又、前記比L/Dを0.71以上(L/D≧0.71)にすると、前記内輪側内部空間18cの小径側開口を通じて、この内輪側内部空間18cに流入する潤滑油を十分に確保できなくなり、前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に供給できる潤滑油の量を十分に確保できなくなる。この理由は、前記内輪側内部空間18cの体積が過度に減少して、運転時に発生するポンプ作用(内部空間内の負圧)に基づく、前記内輪側内部空間18cの小径側開口を通じてこの内輪側内部空間18cに潤滑油を引き込む力を十分に確保できなくなる為であると考えられる。又、前記比L/Dを0.42以下(L/D≦0.42)にすると、前記潤滑油の攪拌抵抗を効果的に低減できなくなる。この理由は、前記内輪側内部空間18cの小径側の開口面積が広くなり、この小径側の開口を通じて前記内部空間に流入する潤滑油の総量が多くなる為であると考えられる。
【0026】
又、本例の場合には、前記各円すいころ6、6の中心軸Cに対する、前記主部9cの内周面の軸方向中間部の傾斜角度θを「−5度≦θ≦+5度」の範囲
(より具体的には、「−2度≦θ≦+5度」の範囲)に収めている。この為、この傾斜角度θを+5度よりも大きく(θ>+5度)した場合に生じる問題、即ち、前記主部9cの内周面の小径側端部と前記小鍔部7の外周面との対向距離が過大になる事により、前記内輪側内部空間18cの小径側の開口面積が過大になる結果、この小径側の開口を通じて前記内部空間に流入する潤滑油の総量が多くなって、この潤滑油の攪拌抵抗を効果的に低減できなくなると言った問題を回避できる。又、前記傾斜角度θを−5度よりも小さく(θ<−5度)した場合に生じる問題、即ち、前記主部9cの内周面の小径側端部と前記小鍔部7の外周面との対向距離が過小になる事により、前記内輪側内部空間18cの小径側の開口面積が過小になる結果、この小径側の開口を通じて前記内輪側内部空間18cに流入する潤滑油の量が過度に少なくなって、この潤滑油を前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に十分に供給できなくなると言った問題を回避できる。
【0027】
又、本例の場合には、前記主部9cの外周面と前記外輪軌道3との対向距離bを、適度に小さくしている(前記比b/Dを「0<b/D<0.072」の範囲に収めている)為、前記内部空間の一部であって、前記主部9cの外周面と前記外輪4の内周面との間部分である、外輪側内部空間19の小径側の開口面積を十分に小さくできる。従って、この外輪側内部空間19の小径側開口を通じてこの外輪側内部空間19に潤滑油を引き込む力(ポンプ作用に基づく吸引力)を減少させる事ができ、これに伴い、前記内輪側内部空間18cの小径側開口を通じてこの内輪側内部空間18cに潤滑油を引き込む力(ポンプ作用に基づく吸引力)を増大させる事ができる。従って、円すいころ軸受の内部空間に流入する潤滑油の総量を増やす事なく、前記内輪側内部空間18cに流入する潤滑油の量を増やす事が可能となる。この結果、この潤滑油の攪拌抵抗を増大させる事なく、前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に供給できる潤滑油の量を増やせる。
【0028】
尚、前記比b/Dを0.072以上(b/D≧0.072)にすると、上述の様にして内輪側内部空間18cに流入する潤滑油の量を増やせる効果を十分に得られなくなる。又、前記比b/Dを0(b/D=0)にすると、前記主部9cの外周面と前記外輪軌道3とが全周に亙り擦れ合う状態となる為、この擦れ合い部に作用する摩擦力が過度に大きくなって、円すいころ軸受の動トルクが過度に大きくなる。
【0029】
又、本例の場合には、前記主部9cの内周面の大径側端部に凹部15cを形成すると共に、この凹部15cを前記内輪軌道1の大径側端部に対し、径方向に対向させている。この為、前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に供給された潤滑油を、前記凹部15cの内径側に存在する空間を通じて外部空間に排出し易くできる。従って、前記潤滑油の攪拌抵抗を一層低減できる。更に、本例の場合には、前記凹部15c周辺の寸法に関して、前記各比a
1/D、a
2/Dを、それぞれ「a
1/D>0.32」「a
2/D>0.32」の範囲
(より具体的には、「0.32<a1/D≦0.4」「0.32<a2/D≦0.4」の範囲)に収めている。この為、前記潤滑油の攪拌抵抗の低減効果を一層高められる。これと共に、前記内輪側内部空間18cの小径側開口を通じてこの内輪側内部空間18cに流入する潤滑油の量を一層増やす事ができ、この潤滑油を前記大鍔部8の内側面の滑り接触部に一層供給し易くできる。
【0030】
尚、前記各比a
1/D、a
2/Dを、それぞれ「a
1/D>0.32」「a
2/D>0.32」の範囲よりも小さくすると、前記潤滑油の攪拌抵抗を低減できる効果を十分に得られなくなる。この理由は、前記保持器5cの表面積が大きくなり、前記潤滑油からこの保持器5cに加わる力が大きくなる為であると考えられる。更には、前記内輪側内部空間18cの小径側開口を通じてこの内輪側内部空間18cに流入する潤滑油の量を十分に増やせなくなる。この理由は、前記内輪側内部空間18cの体積が、前記凹部15cの内径側部分で過度に小さくなり、この結果、前記内輪側内部空間18cに於いて、前記ポンプ作用に基づく潤滑油の吸い込み力が低下する為であると考えられる。
【0031】
以上の様に、本例の円すいころ軸受の場合には、運転時に内部空間を通過する潤滑油の攪拌抵抗を十分に低減できる。この為、円すいころ軸受の動トルクを十分に抑えられる。又、前記各円すいころ6、6の大径側端面と前記大鍔部8の内側面との滑り接触部の潤滑状態を良好にできる。この為、これら各滑り接触部で、異常発熱、異常摩耗、焼き付き等が生じる事を防止できる。
【0032】
[実施の形態の第2〜3例]
図5〜6は
、本発明の実施の形態の第2〜3例を示している。これら
図5に示した第2例、及び、
図6に示した第3例の場合には、保持器5d、5eを構成する主部9d、9eの内周面の大径側端部に形成した凹部15dの底面と、この凹部15dの小径側端部に存在する段差面16dとの断面形状を、互いに滑らかに連続した凹曲線形状としている。更に、
図6に示した第3例の場合には、前記主部9eの内周面の軸方向中間部と前記段差面16dとを、断面形状が凸円弧形状である面取り部17により滑らかに連続させている。
その他の部分の構造及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【実施例1】
【0033】
本発明の効果を確認する為に行った、コンピュータシミュレーションによる実験に就いて説明する。本実験では、前述の
図1〜3に示した実施の形態の第1例と同様の基本構成を有する円すいころ軸受のうち、a
1=a
2=aとしたもの(以下「試料軸受」とする。)を対象として、前記各比L/D、b/D、a/D(=a
1/D=a
2/D)、及び、前記傾斜角度θを変動させたとき、運転時に於ける、攪拌抵抗(試料軸受の内部空間に存在する潤滑油の攪拌抵抗)と、全体油量(試料軸受の内部空間に存在する潤滑油の総量)と、内輪側油量(試料軸受の内部空間の一部である内輪側内部空間に存在する潤滑油の総量)とが、それぞれどの様に変化するかを調べた。
【0034】
図7は、本実験のコンピュータシミュレーションで想定した試験機の模式断面図である。この試験機は、試料軸受の外輪の背面(外輪軌道の小径側の端面)を上方に向けた状態で、この外輪を固定すると共に、試料軸受の内輪を一定速度で回転駆動する。又、試料軸受の潤滑は、潤滑油を外輪背面側から試料軸受に供給し、試料軸受を貫通した油が供給タンクに戻る循環供給となっている。又、前記各測定対象(攪拌抵抗、全体油量、内輪側油量)を測定する際には、油面が外輪背面から40mmの高さで安定する様に供給油量が(所謂Full油量で)調整される。その他の実験条件は、次の通りである。
内輪の回転速度 : 2000min
-1
潤滑油の種類 : ISO VG 150{粘度:150mm
2/s(40℃)}
油温 : 50℃
【0035】
<比L/Dに就いて>
上述した様な実験条件により、前記比L/Dを変動させたときに、前記各測定対象(攪拌抵抗、全体油量、内輪側油量)が、それぞれどの様に変化するかを調べた。又、比較の為に、前述の
図14〜15に示した従来構造の第1例に関しても、1つの仕様(以下「比較例」とする。)に就いて、対応する測定対象を同様の測定方法で測定した。試料軸受及び比較例の仕様を、下記の表1〜2に示すと共に、それぞれに就いての測定結果を、下記の表2及び
図8に示す。尚、各表及び図中の「攪拌抵抗比」とは、比較例の攪拌抵抗を1とした場合の比率であり、同じく「全体油量比」とは、比較例の全体油量を1とした場合の比率であり、同じく「内輪側油量比」とは、比較例の内輪側油量を1とした場合の比率である。又、表2中の比a/Dの変動は、前記比L/Dの変動に伴うものである。
【表1】
【表2】
【0036】
この表2及び
図8に示した測定結果から分かる様に、試料軸受に就いては、前記比L/Dが「0.42<L/D<0.71」の範囲内にあれば、比較例に比べて大きく劣らない(比較例の8割程度以上の)内輪側油量を確保でき、且つ、比較例に比べて攪拌抵抗を十分に低減できる。ここで、試料軸受に関しては、比較例に比べて、内輪側内部空間の径方向幅が十分に小さい。この為、上述の様に試料軸受に就いて比較例の8割程度以上の内輪側油量を確保できれば、比較例に比べて、大鍔部の内側面の滑り接触部に供給できる潤滑油の量を大幅に増やす事ができる。この為、本発明では、前記比L/Dを「0.42<L/D<0.71」の範囲内に収める事にした。又、表2及び
図8に示した測定結果から分かる様に、前記比L/Dが「0.62≦L/D≦0.66」の範囲内にあれば、試料軸受に就いて、特に高いレベルで、内輪側油量の確保と攪拌抵抗の低減とを図れる。この為、本発明を実施する場合
には、前記比L/Dを「0.62≦L/D≦0.66」の範囲内に収める
事にした。
【0037】
<傾斜角度θに就いて>
前述した様な実験条件により、前記傾斜角度θを変動させたときに、前記各測定対象(攪拌抵抗、全体油量、内輪側油量)が、それぞれどの様に変化するかを調べた。又、比較の為に、前記比較例に就いても、対応する測定対象を同様の測定方法で測定した。試料軸受及び比較例の仕様を、下記の表3〜4に示すと共に、それぞれに就いての測定結果を、下記の表4及び
図9に示す。尚、表3〜4では、前記傾斜角度θの変動に伴って、前記各比L/D、a/Dが変動していない。この理由は、前記傾斜角度θを変動させる実験では、例外的にa=a
1=a
2の条件を解除する(a
1の値を固定値とし、a
2の値を可変値とする)と共に、a
1<a
2となる場合にはa=a
1とし、a
1>a
2となる場合にはa=a
2とする事によって、前記各比L/D、a/Dが変動しない様にした為である。
【表3】
【表4】
【0038】
この表4及び
図9に示した測定結果から分かる様に、試料軸受に就いては、前記傾斜角度θが「θ≦+5度」であれば、比較例に比べて攪拌抵抗を十分に低減できる効果を確保できる。但し、「θ<−5度」になると、内輪側油量が過小になる。即ち、試料軸受の場合には、比較例に比べて内輪側内部空間の径方向幅が十分に小さくなっている為、この内輪側内部空間に流入した潤滑油を大鍔部の内側面に対し、比較例に比べて効率良く供給できる。しかしながら、試料軸受に就いて「θ<−5度」になると、内輪側油量比が0.4を大きく下回る様になる為、大鍔部の内側面に対する潤滑油の単位時間当たりの供給量を、比較例と同程度以上に確保する事が難しくなると考えられる。この為、本発明では、前記傾斜角度θを「−5度≦θ≦+5度」の範囲に収める事にした。
又、
図9に示した測定結果から分かる様に、「θ≧−2度」にすると、内輪側油量比を少なくとも0.65程度以上確保でき、更に「θ≧−1度」にすると、内輪側油量比を少なくとも0.8程度以上確保できる。この為、これらの場合には、大鍔部の内側面に対する潤滑油の単位時間当たりの供給量を、比較例に比べて十分に多くできると考えられる。従って、本発明を実施する場合、前記傾斜角度θは
、「−2度≦θ≦+5度」の範囲に収める
事にした。より好ましくは「−1度≦θ≦+5度」の範囲に収めるのが良い。
【0039】
<比b/Dに就いて>
前述した様な実験条件により、前記比b/Dを変動させたときに、前記各測定対象(攪拌抵抗、全体油量、内輪側油量)が、それぞれどの様に変化するかを調べた。又、比較の為に、前記比較例に就いても、対応する測定対象を同様の測定方法で測定した。試料軸受及び比較例の仕様を、下記の表5〜6に示すと共に、それぞれに就いての測定結果を、下記の表6及び
図10に示す。
【表5】
【表6】
【0040】
この表6及び
図10に示した測定結果から分かる様に、試料軸受に就いては、前記比b/Dが0.72より小さくなる程、全体油量の増大を伴う事なく、内輪側油量が増大すると共に、攪拌抵抗が減少する。但し、bを0にすると、保持器の外周面と外輪軌道とが全周に亙り擦れ合う状態となる為、この擦れ合い部に作用する摩擦力が過度に大きくなって、円すいころ軸受の動トルクが過度に大きくなる。この為、本発明では、前記比b/Dを「0<b/D<0.072」の範囲内に収める事にした。
【0041】
<比a/Dに就いて>
前述した様な実験条件により、前記比a/Dを変動させたときに、前記各測定対象(攪拌抵抗、全体油量、内輪側油量)が、それぞれどの様に変化するかを調べた。又、比較の為に、前記比較例に就いても、対応する測定対象を同様の測定方法で測定した。試料軸受及び比較例の仕様を、下記の表7〜8に示すと共に、それぞれに就いての測定結果を、下記の表8及び
図11に示す。尚、表8中の比L/Dの変動は、前記比a/Dの変動に伴うものである。
【表7】
【表8】
【0042】
この表8及び
図11に示した測定結果から分かる様に、試料軸受に関しては、前記比a/Dが「a/D>0.32」の範囲内にあれば、内輪側油量を十分に確保できる。この為、本発明では、前記各比a
1/D、a
2/Dを「a
1/D>0.32」及び「a
2/D>0.32」の範囲に収める事にした。又、表8及び
図11に示した測定結果から分かる様に、前記比a/Dが「0.32<a/D≦0.4」の範囲内にあれば、試料軸受に就いて、特に高いレベルで、攪拌抵抗を低減できる。この為、本発明を実施する場合
には、前記各比a
1/D、a
2/Dを「0.32<a
1/D≦0.4」及び「0.32<a
2/D≦0.4」の範囲に収める
事にした。
【0043】
最後に、本発明の実施例と前記比較例との仕様を、下記の表9に示すと共に、それぞれに就いての測定対象(攪拌抵抗、全体油量、内輪側油量)の測定結果を、下記の表9及び
図12〜13に示す。
【表9】
【0044】
この表9及び
図12〜13に示した測定結果から分かる様に、本発明の実施例によれば、比較例に比べて、全体油量を大幅に減らせる事に伴い、攪拌抵抗を大幅に減らせる。この為、動トルクの十分な低減を図れる。更に、本発明の実施例によれば、比較例に比べて、全体油量を大幅に減らせるにも拘らず、比較例と遜色ないレベルの内輪側油量を確保できる。ここで、本発明の実施例に関しては、比較例に比べて、内輪側内部空間の径方向幅が十分に小さい。この為、上述の様に本発明の実施例に就いて、比較例と遜色ないレベルの内輪側油量を確保できれば、本発明の実施例に就いては、大鍔部の内側面の滑り接触部に供給できる潤滑油の量を、比較例よりも大幅に増やす事ができる事が分かる。