(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2めっき工程では、前記第1めっき工程におけるステンレス基板の非浸漬部位に位置するマスクのうち、前記第1金めっき層の縁部に対向する端部のみ、あるいは、該端部から10mmの範囲までをめっき液に接触させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法。
前記第2めっき工程では、前記第1金めっき層の縁部から、前記ステンレス基板上に位置する前記第2金めっき層の端部までの距離が10〜200μmの範囲となるように前記第2金めっき層を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法。
前記第2めっき工程の後に、前記第2金めっき層の存在しない領域の前記第1金めっき層をアルカリ系剥離液を用いて剥離除去する剥離工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法。
前記第1めっき工程の後、前記第2めっき工程の後に、金イオン回収を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法。
前記第1めっき工程におけるステンレス基板の前処理は、アルカリ洗浄処理と塩酸浸漬処理を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法。
前記第1金めっき層の縁部から、前記ステンレス基板上に位置する前記第2金めっき層の端部までの距離が10〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の金めっきパターンを有するステンレス基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば、ステンレス基板に銅めっき層を第1層目として形成し、第2層目として銀めっき層あるいはニッケルめっき層を積層してパターンを形成する場合、ステンレス基板の表面に存在する不動態被膜と銅めっき層との密着性が十分に得られないという問題があった。
また、ステンレス基板の全面に第1層目としてニッケルめっき層を形成し、次いで、所望のパターンで銀めっき層あるいは金めっき層を積層し、その後、不要なニッケルめっき層を剥離除去することにより2層構造のパターンを形成する場合、ニッケルめっき層の剥離に使用する剥離液がアルカリ系および酸系いずれの剥離液であっても、ニッケルめっき層と銀めっき層あるいは金めっき層とのイオン化傾向の相違に起因して、銀めっき層あるいは金めっき層に侵食を示す変色がみられた。そして、この剥離液の侵食による欠陥発生を回避するためには、外気からの水分の取り込みを防止する必要があり、銀めっき層あるいは金めっき層を厚くしたり、電流密度を増大して緻密性を向上させることが要求される。しかし、これにより、厚みが1μm以下の薄膜パターンの形成は困難なものとなり、また、製造時間が長くなるために生産効率に支障を来すという問題があった。一方、剥離液の侵食による欠陥発生を回避するために、第1層目であるニッケルめっき層を剥離せずに全面に残すこともできるが、予めステンレス基板に微細加工形状が形成されている場合、この微細加工の精度を十分に活用できないという問題があった。
【0005】
また、ステンレスに直接金めっき層を部分的に形成する場合、マスクめっきにより所望のパターンで金めっき層を形成することになるが、シアン系めっき液を用いる場合、ステンレス基板の不動態被膜の除去処理が不十分であると、金めっき層の密着性が不均一となったり、根本的な密着不良が発生し、一方、不動態被膜の除去処理が過度になるとステンレス基板の表面腐食が発生するという問題があった。また、塩酸系のめっき液を用いる場合、金めっき中に同時作用としてステンレス基板の表面腐食作用も生じるので、金めっき層の密着性は良好なものとなる。しかし、金めっき層を形成する必要のないステンレス基板の領域は、マスクで被覆されているものの、めっき速度を高めるために塩酸系めっき液の塩酸濃度を高くすると、繰り返し使用されるマスクの劣化が進み、ステンレス基板とマスクとの界面にめっき液が侵入し易くなって腐食が発生するという問題があった。
【0006】
また、塩酸系めっき液にステンレス基板の一部を浸漬し、浸漬された部位の全域に金めっき層を形成することにより、上記のマスクを使用した場合の不具合を回避することができる。しかし、このように形成された金めっき層の縁部は、塩酸系めっき液に浸漬された部位と浸漬されていない部位の境界に対応するものであり、この縁部および縁部近傍は、めっき液の液面の変動、発生する反応ガスによる泡の存在等により、金析出にムラが生じやすく、金めっき層の形成領域の精度が得られず、また、金めっき層の厚み不足が生じるという問題があった。このため、所定の領域に所定の厚みで金めっき層を形成するという要請に対し、金めっき層の厚み不足を生じないように、所定の領域よりも広い領域に金めっき層を形成する、すなわち、金めっき層の縁部が所定の領域よりも外側に位置するように大きく金めっき層を形成する方法がある。しかしながら、このような方法は、金使用量の増加につながり、また、不要な部位に金めっき層が存在することによる後加工への悪影響という問題があった。
【0007】
さらに、無電解めっき法によりステンレスに直接金めっき層を部分的に形成する場合、特許文献3のように、めっき条件が極めて限定された範囲となり、かつ、めっき層形成に要する時間が長く生産効率を向上させることが困難であった。また、マスクめっきにより所望のパターンで無電解めっき法により金めっき層を形成する場合、サイズがmm単位以下の微細パターンでは、金めっき層で被覆されない欠陥部位が発生する懸念があった。
本発明は上述のような実情に鑑みてなされたものであり、ステンレス基板への腐食を抑え、薄く欠陥のない金めっき層のパターンを効率的にステンレス基板上に形成する方法と金めっきパターンを有するステンレス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、ステンレス基板に前処理を施した後、当該ステンレス基板の所望部位を塩酸系めっき液に浸漬し、該浸漬部位に第1金めっき層を形成する第1めっき工程と、該第1金めっき層上にマスクめっきにより所望のパターンで第2金めっき層を形成する第2めっき工程と、を有し、該第2めっき工程では、前記第1めっき工程における前記塩酸系めっき液の液面位置に対応する前記第1金めっき層の縁部の少なくとも一部において、該縁部を超えて前記第1金めっき層上から前記ステンレス基板上の所望の位置まで連続して前記第2金めっき層を形成するような構成とした。
【0009】
本発明の他の態様として、前記第2めっき工程では、塩酸系めっき液を使用するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1金めっき層の厚みを0.015〜0.15μmの範囲とするような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第2めっき工程では、前記第1めっき工程におけるステンレス基板の非浸漬部位に位置するマスクのうち、前記第1金めっき層の縁部に対向する端部のみ、あるいは、該端部
から10mmの範囲までをめっき液に接触させるような構成とした。
【0010】
本発明の他の態様として、前記第2めっき工程では、前記第1金めっき層の縁部から、前記ステンレス基板上に位置する前記第2金めっき層の端部までの距離が10〜200μmの範囲となるように前記第2金めっき層を形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第2めっき工程の後に、前記第2金めっき層の存在しない領域の前記第1金めっき層をアルカリ系剥離液を用いて剥離除去する剥離工程を有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1めっき工程の後、前記第2めっき工程の後に、金イオン回収を行うような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1めっき工程におけるステンレス基板の前処理は、アルカリ洗浄処理と塩酸浸漬処理を含むような構成とした。
【0011】
また、本発明は、表面の所望の部位に金めっきパターンを有するステンレス基板であって、金めっきパターンは、前記ステンレス基板に直接形成されている第1金めっき層と、該第1金めっき層の少なくとも一部を被覆するとともに、第1金めっき層の縁部の少なくとも一部において、該縁部を超えて前記第1金めっき層上から前記ステンレス基板上の所望の位置まで連続して形成されている第2金めっき層とからなり、前記第2金めっき層は前記第1金めっき層よりも厚いような構成とした。
【0012】
本発明の他の態様として、前記金めっきパターンの厚みは1μm以下であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1金めっき層の厚みが0.015〜0.15μmの範囲であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記第1金めっき層の縁部から、前記ステンレス基板上に位置する前記第2金めっき層の端部までの距離が10〜200μmの範囲であるような構成とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステンレス基板の所望の部位を塩酸系めっき液に浸漬し、第1金めっき層を形成するので、ステンレス基板と第1金めっき層との密着性が良好ものとなるとともに、ステンレス基板の非浸漬部位の腐食を抑えることができ、必要部位のみへの第1金めっき層形成であるため金使用量を抑えることができる。また、この第1金めっき層上を含む所望の部位にマスクめっきにより所望のパターンで第2金めっき層を形成し、この第2金めっき層が第1金めっき層上から第1金めっき層の縁部を超えてステンレス基板上まで形成されるので、マスクめっきにより形成された第2金めっき層の端部がめっきパターンの端部となり、単にステンレス基板の一部を塩酸系めっき液に浸漬して形成した金めっき層の縁部に比べて、厚み精度、位置精度が極めて高いものとなる。また、第1金めっき層と第2金めっき層との間にイオン化傾向の差異が存在しないので、第2金めっき層の侵食が発生せず、第2金めっき層の厚みを薄くすることができ、これにより1μm以下の薄膜パターン形成が可能となる。また、形成された金めっき層のパターンは2層構造でありながら2層とも金めっき層であるため、層間での電池反応も起きない安定した被膜となり、さらに、ステンレス基板の金めっき層パターンが不要な領域を露出させることができるので、予めステンレス基板に微細加工形状が形成されている場合には、この微細加工の精度を活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
尚、図面は模式的または概念的なものであり、各部材の寸法、部材間の大きさの比等は、必ずしも現実のものと同一とは限らず、また、同じ部材等を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比が異なって表される場合もある。
図1は、本発明のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【0016】
(第1めっき工程)
本発明では、第1めっき工程にて、ステンレス基板11に前処理を施した後、このステンレス基板11の所望部位を塩酸系めっき液100に浸漬し(
図1(A))、このステンレス基板11をカソードとし、図示しないアノードとの間で電圧を印加して、浸漬部位11aに第1金めっき層12を形成する(
図1(B))。図示例では、ステンレス基板11、第1金めっき層12を断面で示している。尚、ステンレス基板11、第1金めっき層12の厚み、面積、形状等は、本発明を説明するために便宜的に図示しており、このような厚み、面積の比率、あるいは、形状に限定されるものではない。以下の各図における各層、各部材についても同様である。
本発明の金めっき層の形成方法を用いる対象となるステンレス基板には特に制限はなく、例えば、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系のステンレス鋼からなるものであってよい。また、エッチング加工、プレス加工等によって溝、孔部等の種々の微細加工が予め施されたステンレス基板であってもよい。
【0017】
ステンレス基板に対する前処理は、表面の脱脂、不動態被膜の除去による活性化が目的であり、例えば、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理、酸電解処理、酸浸漬処理等の処理方法から適宜選択して行うことができる。尚、前処理を施した後、第1金めっき層の形成までの移行時間は、ステンレス基板に不動態被膜が再形成されない程度の範囲とする。
塩酸系めっき液100へのステンレス基板11の浸漬は、例えば、
図1(A)に示されるようにステンレス基板11の面方向を垂直方向として立てた状態で搬送しながら、液面100aが境界となり所望の浸漬部位11aと非浸漬部位11bとに画定されるように行うことができる。図示例では、浸漬部位11aにおいて、ステンレス基板11の全域が塩酸系めっき液100に接触した状態となっているが、例えば、
図2に示すように、第1金めっき層の形成が不要な部位をマスク21で遮蔽して、塩酸系めっき液100と接触しないようにしてもよい。また、ステンレス基板11の面方向を水平方向とした状態で搬送しながら、第1金めっき層の形成が不要な部位をマスクで遮蔽して、塩酸系めっき液100と接触しないようにしてもよい。
【0018】
第1金めっき層の形成に使用する塩酸系めっき液100は、ステンレス基板の侵食防止とめっき時間の短縮化とを考慮したものを使用することが好ましい。例えば、対象となるステンレス基板の表面への微小孔食の発生程度が単位面積(mm
2)当り5個以下となるように調製された塩酸系めっき液を使用することができる。ここで、微小孔食の測定は、塩酸系めっき液中にステンレス基板を10秒間浸漬し、水洗した後に走査電子顕微鏡で観察して測定する。このような塩酸系めっき液を使用することにより、金めっき中において、同時作用としてステンレス基板の表面に適度の腐食作用が生じ、第1金めっき層とステンレス基板との密着性は良好なものとなる。また、上記のように、浸漬部位11aの所望部位をマスクで隠蔽して第1金めっき層12を形成する場合においても、繰り返し使用されるマスクの劣化が抑制され、マスクとステンレス基板11との界面にめっき液が侵入して腐蝕が生じることを防止することができる。
図1(B)に示されるように、ステンレス基板11の浸漬部位11aに形成される第1金めっき層12は、
図1(A)に示される塩酸系めっき液100の液面100aの位置に対応する縁部12aを有するが、この縁部12aにおける第1金めっき層12の形成位置、厚みは不安定なものとなる場合が多い。
図3は、第1金めっき層12の縁部12aを説明する図面であり、
図3(A)は、ステンレス基板11の面方向に垂直な方向からの平面図であり、
図3(B)は、
図3(A)に破線の円で囲まれた部位の部分拡大平面図であり、
図3(C)は、
図3(B)のI−I線における縦断面図である。尚、
図3(A)、
図3(B)では、第1金めっき層12に鎖線の斜線を付して示している。
【0019】
塩酸系めっき液100の液面100a近傍における金めっきは、ステンレス基板11の移動等による液面100aの変動、発生する反応ガスによる泡の存在等により、金析出にムラが生じやすい。このため、第1金めっき層12の縁部12aは、その位置が不安定であり、また、縁部12aの近傍は厚みが不安定なものとなる。例えば、厚み0.005μm以上の金めっき層の存在の有無を観察して縁部12aの位置を求めると、数十μmの振れ幅Wを示す(
図3(B)参照)。また、縁部12a近傍の第1金めっき層12の厚みを観察すると、縁部12aから100μm程度の近傍範囲(
図3(C)にLで示される範囲)までは第1金めっき層12の厚みが薄いものとなる。尚、第1金めっき層12において、縁部12aの近傍範囲(L)から更に内側領域では、厚みは安定したものとなる。
【0020】
本発明では、このような位置、厚みが不安定な第1金めっき層12の縁部12aとその近傍範囲(L)を除いた第1金めっき層の厚みの上限を0.15μmとすることが好ましい。これは、後述する第2めっき工程の後に、剥離工程を設ける場合、0.15μmを超えると、剥離工程における第1金めっき層の剥離効率が低下することを考慮したものである。また、形成する第1金めっき層12の厚みの下限は、第2めっき工程での塩酸系めっき液によるステンレス基板の腐食を防止することを考慮して、0.015μmとする。
【0021】
ここで、本発明での金めっき層の厚みの測定は、以下のように行うものとする。すなわち、各々のめっき層形成後、セイコーインスツル(株)製の蛍光X線膜厚測定装置を使いて測定を行う。尚、前もって、測定したい膜厚目標値を包含するような、これよりも薄い標準箔と厚い標準箔を準備し、少なくともこれら2つの標準箔を用いて、X線出力と膜厚とを検量するための比例関係を事前に把握しておく。また、FIB(集束イオンビーム)による断面加工を行った後、SEM(走査電子顕微鏡)にて断面を観察し、撮影される倍率に応じたスケールをもとに、断面に現れている金粒子の大きさが異なる層毎に厚みの確認を行う。
尚、上述の第1めっき工程で形成した第1金めっき層の活性化を目的として、中和処理を施してもよい。このような活性化を行うことにより、後工程での第2金めっき層の密着性が更に向上する。
【0022】
(第2めっき工程)
次に、第2めっき工程にて、第1金めっき層12上にマスクめっきにより所望のパターンで第2金めっき層を形成する。本実施形態では、第1金めっき層12において第2金めっき層の形成が不要な部位をマスク31で遮蔽し、第1めっき工程におけるステンレス基板11の非浸漬部位11bのうち、第2金めっき層の形成が不要な部位をマスク32で遮蔽する。そして、この状態のステンレス基板11を塩酸系めっき液110に浸漬し(
図1(C))、このステンレス基板11をカソードとし、図示しないアノードとの間で電圧を印加して、マスク31,32で被覆されていない部位に第2金めっき層13を形成する(
図1(D))。これにより、ステンレス基板11上に金めっきパターン14が形成される。
【0023】
図1(C)に示される例では、塩酸系めっき液110へのステンレス基板11の浸漬は、マスク32のうち、第1金めっき層12の縁部12aに対向する端部32aのみが塩酸系めっき液110に接触するように行われている。このように、マスク32の端部32aが塩酸系めっき液110に接触していることにより、塩酸系めっき液110の液面110aの変動の影響を大幅に低減することができ、ステンレス基板11上への第2金めっき層13の形成を安定して行うことができる。また、本発明では、端部32aの近傍までを塩酸系めっき液110に接触するようにステンレス基板11の浸漬を行ってもよく、この場合、塩酸系めっき液110に接触する範囲は、例えば、端部32aから10mm程度の範囲とする。このようにマスク32と塩酸系めっき液110との接触を制御することにより、繰り返し使用されるマスク32の劣化が抑制され、ステンレス基板11とマスク32との界面に塩酸系めっき液110が侵入することが阻止され、ステンレス基板11の腐食発生が防止される。
この第2めっき工程では、
図1(D)に示されるように、第1めっき工程における塩酸系めっき液100の液面100aの位置に対応する第1金めっき層12の縁部12aにおいて、当該縁部12aを超えて第1金めっき層12上からステンレス基板11上の所望の位置まで連続して第2金めっき層13が形成される。そして、第2金めっき層13の端部13aは、上記のマスク32の端部32aにより形成され、また、塩酸系めっき液110の液面110aの変動の影響が大幅に低減されるので、ステンレス基板11上における第2金めっき層13の位置精度、厚み精度が極めて高いものとなる。
【0024】
第2めっき工程で使用するめっき液は、塩酸系めっき液であり、第1めっき工程のような制限はなく、公知のめっき液を使用することができる。
形成する第2金めっき層の厚みは、形成する金めっき層のパターン14の用途に応じて適宜設定することができるが、本発明では、第1金めっき層との総厚みが1μm以下の薄膜となるように第2金めっき層の厚みを設定することが可能である。
このように形成された金めっきパターン14のうち、第2金めっき層が存在する領域は、厚みの異なる3種類の部位からなる。すなわち、ステンレス基板11上に第2金めっき層13のみが存在する最も薄い部位、第1金めっき層12の縁部12aおよびこの近傍範囲(L)上に第2金めっき層13が存在する部位、および、第1金めっき層12が安定した厚みを有する領域上に位置する最も厚い部位の3種類となっている。
【0025】
このような本発明によれば、ステンレス基板11の所望の部位を塩酸系めっき液に浸漬し、第1金めっき層12を形成するので、ステンレス基板11と第1金めっき層12との密着性が良好ものとなるとともに、ステンレス基板11の非浸漬部位11bの腐食を抑えることができ、必要部位のみに第1金めっき層12を形成するので金使用量を抑えることができる。また、この第1金めっき層12上を含む所望の部位にマスクめっきにより所望のパターンで第2金めっき層13を形成し、この第2金めっき層13が第1金めっき層12上から第1金めっき層12の縁部12aを超えてステンレス基板11上まで形成されているので、第2金めっき層13の端部13aがめっきパターンの端部となる。このため、単にステンレス基板の一部を塩酸系めっき液に浸漬して形成した金めっき層の縁部に比べて、厚み精度、位置精度が極めて高いものとなる。また、第1金めっき層12と第2金めっき層13との間にイオン化傾向の差異が存在しないので、第2金めっき層13の侵食が発生せず、第2金めっき層13の厚みを薄くすることができ、これにより1μm以下の薄膜パターン形成が可能となる。また、形成された金めっき層のパターン14の一部は2層構造でありながら2層とも金めっき層であるため、層間での電池反応も起きない安定した被膜となる。さらに、ステンレス基板11の金めっき層パターン14が不要な領域を露出させるので、予めステンレス基板に微細加工形状が形成されている場合には、この微細加工の精度を活用することができる。
【0026】
本発明では、上述の第2めっき工程の後に、剥離工程を設け、第2金めっき層13の存在しない領域の第1金めっき層12をアルカリ系剥離液を用いて剥離除去して、金めっき層のパターン14としてもよい(
図4)。使用するアルカリ系剥離液としては、エボニック デグサ ジャパン(株)製のゴールドストリッパー645やメルテックス(株)製のエンストリップAU−78M等を挙げることができ、これらの任意の1種を使用して、スプレー噴霧、浸漬等により第1金めっき層を剥離することができる。
【0027】
このように、第2金めっき層13の存在しない領域の第1金めっき層12をアルカリ系剥離液を用いて剥離除去する剥離工程を設けることにより、第2金めっき層13もアルカリ系剥離液により侵食を受けることになる。このため、形成された2層構造の金めっき層のパターン14は、その表面と側面との境界となる周辺部位(第2金めっき層13の周辺部位)が滑らかであり、角張っていないことが外観上の特徴である。また、ステンレス基板11がエッチング加工やプレス加工されている場合であって、加工部位を従来の方法で形成された金めっき層のパターンが覆っているとき、加工の角部では電流密度が高く、局所的に金めっき層が厚膜となる。しかし、本発明により形成した金めっき層では、上記のように、第2金めっき層もアルカリ系剥離液により侵食を受けるので、被覆している金めっき層は滑らかであり、局所的に金めっき層が厚膜になっていないことが外観上の特徴である。
さらに、剥離工程前において、第1金めっき層12が存在せず、第2金めっき層13のみが存在する部位の厚み、上記の例では、第1金めっき層12の縁部12aからステンレス基板11上に第2金めっき層13が存在する部位の厚みは、剥離工程で処理することにより、第1金めっき層12を除去する厚みだけ減少することになる。しかし、第2金めっき層13の形成において塩酸系めっき液110を使用しているので、ステンレス基板11との密着性は良好な状態が維持される。
【0028】
剥離工程を経て形成された金めっきパターン14は、上述の第2金めっき層が存在する領域が厚みの異なる3種類の部位からなることに対応して、3種類の部位からなる。すなわち、
図4に示すように、第2めっき工程において、ステンレス基板11上に第2金めっき層13を形成した最も薄い部位A、第1金めっき層12の縁部12aおよびこの近傍範囲(L)上に第2金めっき層13を形成した部位B、および、第1金めっき層12が安定した厚みを有する領域上に第2金めっき層を形成した最も厚い部位Cの3種類となっている。
本発明では、ステンレス基板に形成する金めっき層のパターンは、ステンレス基板の一方の面に形成するもの、両面に形成するもの、いずれでもよく、また、形成するパターンの数にも制限はない。尚、本発明においてパターンとは、所望の線、円、楕円、角形、模様等の図形を意味し、例えば、所望の電気配線形状、凸部形状等が含まれる。
【0029】
ここで、上述の本発明のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法において使用するステンレス基板の垂直搬送用枠体の一例を説明するとともに、本発明の金めっきパターンを有するステンレス基板について説明する。
図5は、ステンレス基板の垂直搬送用枠体の一例を示す側面図である。
図5において、垂直搬送用枠体41は、連結部45aを介して複数のステンレス基板51を懸架状態で保持しており、また、垂直搬送用枠体41に保持されている各ステンレス基板51は連結部45bを介して相互に連結されている。本発明のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法では、
図5に示されるように垂直搬送用枠体41に保持されたステンレス基板51に対して、上述の第1めっき工程、第2めっき工程を行うことができる。また、必要に応じて、上述の剥離工程を行うことができる。
【0030】
図5に示されるステンレス基板51は、所定箇所に凸部、凹部、孔部等の所望の加工部位51Aを有しており、上述の第1めっき工程、第2めっき工程、および、剥離工程を経て、金めっきパターン54(
図5において斜線を付して示している)を有するものである。この金めっきパターン54は、上述の金めっき層パターン14と同様の構成であり、ステンレス基板51に直接形成されている第1金めっき層と、当該第1金めっき層を被覆するとともに、第1金めっき層の縁部の少なくとも一部において、当該縁部を超えて第1金めっき層上からステンレス基板51上の所望の位置まで連続して形成されている第2金めっき層53とからなる。図示例では、金めっきパターン54の上側端部が、ステンレス基板51上に位置する第2金めっき層53の端部53aであり、金めっきパターン54の下側端部は、第1金めっき層および第2金めっき層53の端部となっている。このような金めっきパターン54は、厚み精度、位置精度が極めて高く、例えば、電気接続用の端子として用いられる。
尚、本発明の金めっきパターンを有するステンレス基板は、上述の剥離工程を行わず、ステンレス基板51上に第1金めっき層のみが位置する部位が存在するものであってもよい。
【0031】
上述の本発明の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のステンレス基板への金めっきパターンの形成方法において、第1めっき工程の後、金めっき反応せずにステンレス基板に付着してめっき液から持ち出されるめっき液中の金イオンを回収する工程を加えてもよい。このような金イオン回収工程は、第2めっき工程の後にも加えることができる。このような金イオン回収工程を加えることにより、パターン形成のコストの低減が可能となる。
【実施例】
【0032】
次に、具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
ステンレス基板として、厚み0.15mmのSUS316材(面形状:150mm×150mmの正方形)を準備した。
<第1めっき工程>
塩酸系めっき液として、下記の組成の塩酸めっき液Aを調製した。
(塩酸めっき液Aの組成)
・金属金 … 2.0g/mL
・塩酸 … 40g/mL
・コバルト … 0.1g/mL
【0033】
上記のステンレス基板に前処理として、アルカリ洗浄処理(常温、30秒間)を施し、次いで、塩酸浸漬処理(10%塩酸水溶液に30秒間浸漬)を施した。この前処理後に水洗し、その後、上記の塩酸めっき液Aに上記のステンレス基板を10秒間浸漬し、水洗した後、走査電子顕微鏡で観察した結果、ステンレス基板の表面への微小孔食の発生程度は単位面積(mm
2)当り5個以下であることを確認した。
【0034】
次に、上記の前処理を施したステンレス基板を水洗し、その直後に、ステンレス基板の面方向を垂直方向として立てた状態で、正方形の面形状の底辺から75mmの位置にめっき液の液面が位置するように、上記の塩酸めっき液Aに浸漬し、下記の条件で浸漬部位の全域に第1金めっき層を形成した。この第1金めっき層の形成では、めっき処理時間を調節することにより、第1金めっき層の縁部から50μmの近傍位置における厚みと、縁部から20mmの位置における厚みが下記の表1に示される厚みである5種の第1金めっき層(試料1〜試料5)を形成した。
【0035】
尚、金めっき層の厚みは下記のように測定した。また、SEM観察装置を用いて金めっき層の有無により第1金めっき層の縁部を検出し、測定した縁部位置の振れ幅の平均位置を第1金めっき層の縁部の位置とした。また、第2金めっき層の縁部の検出、縁部の位置測定も同様に可能である。
(第1金めっきの条件)
・電流密度 : 3A/dm
2
・処理時間 : 5〜15秒
(金めっき層の厚みの測定)
セイコーインスツル(株)製の蛍光X線膜厚測定装置を用いて測定した。尚、
前もって、測定したい膜厚目標値を包含するような、これよりも薄い標準箔と
厚い標準箔を準備し、少なくともこれら2つの標準箔を用いて、X線出力と膜
厚とを検量するための比例関係を事前に把握した。
【0036】
<第2めっき工程>
塩酸系めっき液として、下記の組成の塩酸めっき液Bを調製した。
(塩酸めっき液Bの組成)
・金属金 … 4.0g/mL
・塩酸 … 60g/mL
・コバルト … 0.1g/mL
上述と同様に前処理を施したステンレス基板を、この塩酸めっき液Bに10秒間浸漬し、水洗した後、走査電子顕微鏡で観察した結果、ステンレス基板の表面への微小孔食の発生程度は単位面積(mm
2)当り5個を超える(10〜15個)ことを確認した。
【0037】
次に、第1めっき工程を経たステンレス基板(試料1〜試料5)を、第1めっき工程と同様に、面方向を垂直方向として立てた状態とし、正方形の面形状の底辺から35mmまでの領域を第1マスクで遮蔽し、また、第1金めっき層が形成されていないステンレス基板(非浸漬部位)のうち、第1金めっき層の縁部から200μmの範囲のみステンレス基板が露出するように第2マスクで遮蔽した(
図1(C)参照)。次いで、第2マスクの第1金めっき層の縁部と対向する端部が塩酸めっき液Bに接触するように、ステンレス基板を塩酸めっき液Bに浸漬し(
図1(C)参照)、下記の条件で第2金めっき層(厚み0.25μm)を形成した。
(第2金めっきの条件)
・電流密度 : 3A/dm
2
・処理時間 : 50〜60秒
【0038】
<剥離工程>
第2めっき工程が終了した後、第1マスク、第2マスクを取り外し、その後、剥離液としてアルカリ系剥離液(エボニック デグサ ジャパン(株)製のゴールドストリッパー645)を用い、この剥離液(液温25〜35℃)にステンレス基板(試料1〜試料5)を10秒間浸漬し、水洗した。これにより、第2金めっき層が形成されておれず露出している第1金めっき層を剥離除去して、金めっき層のパターン(試料1〜試料5)を形成した(
図4参照)。
また、比較として、上記の前処理を施したステンレス基板を水洗し、その直後に、ステンレス基板の面方向を垂直方向として立てた状態とし、正方形の面形状の底辺から35mmまでの領域をマスクで遮蔽した。次いで、正方形の面形状の底辺から75mmの位置にめっき液の液面が位置するように、上記の塩酸めっき液Aに浸漬し、上記の第1めっき工程における第1金めっきの処理時間を長くして金めっき層(厚み0.25μm)を形成して金めっきパターン(比較試料1)とした。
【0039】
さらに、比較として、上記の前処理を施したステンレス基板を水洗し、その直後に、ステンレス基板の面方向を垂直方向として立てた状態とし、正方形の面形状の底辺から35mmまでの領域をマスクで遮蔽した。次いで、正方形の面形状の底辺から75mmの位置にめっき液の液面が位置するように、上記の塩酸めっき液Bに浸漬し、上記の第2めっきの条件で金めっき層(厚み0.25μm)を形成して金めっきパターン(比較試料2)とした。
【0040】
<評 価>
(エッジ精度評価)
SEM観察装置を用い、金めっき層の有無により金めっき層の縁部を検出し、エッジ精度を評価した。すなわち、各試料において横方向(上記めっき工程におけるめっき液の液面に平行な方向)に3箇所のサンプリングを行い、各試料の金めっきパターンの上側端部位置の振れ幅を、スケールから読み取り、平均値を算出して結果を下記の表1に示した。試料1〜5と比較試料2は第2金めっき層の振れ幅の平均値であり、比較試料1は第1金めっき層の振れ幅の平均値である。
【0041】
(金めっき層の厚み測定)
形成された金めっきパターン(試料1〜試料5)の上側端部からステンレス基板の底辺方向に50μmの位置を部位Aとし、第1めっき工程において形成した第1金めっき層の縁部からステンレス基板の底辺方向に50μmの位置(形成された金めっき層パターンの上側の端部からステンレス基板の底辺方向に250μmの位置に当る)を部位Bとし、形成された金めっき層パターンの上側の端部からステンレス基板の底辺方向に25mmの位置を部位Cとし、各部位A,B,Cに測定点を、各試料の横方向(上記めっき工程におけるめっき液の液面に平行な方向)における中央100mmの範囲で均等となるように10点設定し、上述のセイコーインスツル(株)製の蛍光X線膜厚測定装置を用いて金めっき層の厚みを測定し、測定結果の平均値を下記の表1に示した。
尚、比較試料1および比較試料2については、形成された金めっきパターンの上側端部からステンレス基板の底辺方向に50μmの位置を部位Aとし、形成された金めっき層パターンの上側の端部からステンレス基板の底辺方向に25mmの位置を部位Cとし、各部位A,Cに測定点を、各試料の横方向(上記めっき工程におけるめっき液の液面に平行な方向)における中央100mmの範囲で均等となるように10点設定し、上記と同様に金めっき層の厚みを測定し、測定結果の平均値を下記の表1に示した。
【0042】
(密着性テスト)
金めっき層パターンを形成したステンレス基板を350℃で5分間保持し、常温に戻した後、金めっき層パターンにおける膨れ、クラックの異常の有無を顕微鏡で観察して、下記の表1に示した。
【0043】
(テープ剥離試験)
粘着テープ(住友スリーエム(株)製 600番)を使用し、ASTM B571に記載された密着性テストに準拠して、金めっき層パターンに対してテープ剥離試験を行い、金めっき層パターンの剥離の有無を下記の表1に示した。
【0044】
(基板侵食評価)
剥離工程において第1金めっき層を剥離して露出したステンレス基板の表面を顕微鏡で観察し、侵食の有無を評価して結果を下記の表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示されるように、試料1〜試料5では、部位A、部位B、部位Cにおいて金めっき層の厚みが異なるものの、欠陥を生じるとこなく1μm以下の金めっき層の薄膜パターンの形成が可能であることが確認された。また、形成された金めっきパターンは優れたエッジ精度を有することが確認された。さらに、金めっきパターンはステンレス基板に対して優れた密着性を示し、また、ステンレス基板の侵食もないことが確認された。
これに対して、比較試料1は、形成された金めっきパターンのエッジ精度が低く、かつ、エッジ近傍の金めっき層の厚みのバラツキが大きく、金めっき層の存在が確認できない欠陥箇所も見られ、膨れ現象が発生した。第1金めっき工程の処理条件で、めっき厚を厚く形成したが、金属金濃度が低かったことで欠陥箇所が発生したと考えられる。また、処理時間を長くしたことで、作業効率は著しく低下した。また、比較試料2は、形成された金めっきパターンのエッジ精度が低いとともに、めっき液の塩酸濃度が高いことに起因した、ステンレス基板の侵食発生が見られた。
【0047】
[実施例2]
ステンレス基板として、厚み0.15mmのSUS316L材(150mm×150mm)を準備し、実施例1の試料1〜試料5と同様にして、5種の金めっき層のパターンを作製した。
作製した5種の試料について、実施例1と同様にして、エッジ精度、金めっき層厚み、密着性テスト、テープ剥離試験および基板侵食の評価を行ったところ、欠陥を生じるとこなく1μm以下の金めっき層の薄膜パターンの形成が可能であることが確認された。また、形成された金めっきパターンは優れたエッジ精度を有することが確認された。さらに、金めっきパターンはステンレス基板に対して優れた密着性を示し、また、ステンレス基板の侵食もないことが確認された。
【0048】
[実施例3]
ステンレス基板として、厚み0.15mmのSUS304材およびSUS304L材(150mm×150mm)を準備し、実施例1の試料1〜試料5と同様にして、5種の金めっき層のパターンを作製した。
作製した5種の試料について、実施例1と同様にして、エッジ精度、金めっき層厚み、密着性テスト、テープ剥離試験および基板侵食の評価を行ったところ、欠陥を生じるとこなく1μm以下の金めっき層の薄膜パターンの形成が可能であることが確認された。また、形成された金めっきパターンは優れたエッジ精度を有することが確認された。さらに、金めっきパターンはステンレス基板に対して優れた密着性を示し、また、ステンレス基板の侵食もないことが確認された。