特許第6028448号(P6028448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028448
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/40 20060101AFI20161107BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C21D9/40 B
   C21D1/74 L
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-177263(P2012-177263)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34715(P2014-34715A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 篤
(72)【発明者】
【氏名】西山 祥一
(72)【発明者】
【氏名】清水 明
(72)【発明者】
【氏名】薩摩 剛
(72)【発明者】
【氏名】清水 徹
(72)【発明者】
【氏名】徳田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 晋作
(72)【発明者】
【氏名】永坂 昌志
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲郎
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−033059(JP,A)
【文献】 特開平04−320791(JP,A)
【文献】 実開平05−010450(JP,U)
【文献】 特開平02−011727(JP,A)
【文献】 実開平03−030252(JP,U)
【文献】 特開昭51−012316(JP,A)
【文献】 実開昭63−083593(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02− 1/84
C21D 9/00− 9/44,9/50
F27B 9/00−9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを載置した状態で搬送するターンテーブルと、
前記ターンテーブルにより搬送されたワークを、当該ターンテーブルの上方で加熱する加熱部と、
前記ターンテーブルにより前記加熱部から搬送されたワークを、当該ターンテーブルの上方で冷却する冷却部と、を備えた熱処理装置であって、
前記ターンテーブルの上方において前記加熱部及び冷却部を覆うケーシングを備え、
前記ケーシングの下面と前記ターンテーブルの上面との間の隙間に不活性ガスのカーテンを形成するための複数のガス噴射ノズルを備えるとともに、前記ケーシングの内部、低酸素雰囲気に保持されていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記ターンテーブル上には、ワークを前記加熱部及び冷却部に搬送した各回転位置において、前記ケーシングの下面との間でラビリンスシールを構成する突出部が設けられている請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記ターンテーブルは、テーブル本体と、ワークが載置されるパレットと、前記テーブル本体に固定されているとともに前記パレットが着脱可能に取り付けられるクランプ装置とを備え、
前記クランプ装置は、前記パレットに係脱可能なクランプピンを有し、前記クランプピンを不活性ガスのガス圧によって前記パレットに係合させた状態で保持する請求項1又は2に記載の熱処理装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターンテーブルによりワークを搬送して熱処理を行う熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の軌道輪などの環状部材は、所望の機械的強度とするために、高炭素鋼からなる環状ワークに焼入れなどの熱処理を施すことにより製造されている。このような熱処理を施す熱処理装置として、前記ワークをターンテーブルにより搬送して熱処理を効率的に行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載された熱処理装置は、ターンテーブル上において周方向に所定間隔をあけて配置された複数のチャックにワークが支持され、ターンテーブルを所定角度づつ回転させることにより、ワークの搬入、加熱、冷却及び搬出の各工程が順次行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−33059号公報(図5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記熱処理装置は、加熱工程及び冷却工程が大気雰囲気中で行われるため、これらの工程においてワークが大気雰囲気中の酸素に触れることによって、ワークの表面に酸化スケールが発生する場合がある。この場合、ワークの表面から酸化スケールを除去するためのバレル処理等に時間を要するという問題があった。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、ワークに酸化スケールが発生するのを抑制することができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための本発明の熱処理装置は、ワークを載置した状態で搬送するターンテーブルと、前記ターンテーブルにより搬送されたワークを、当該ターンテーブルの上方で加熱する加熱部と、前記ターンテーブルにより前記加熱部から搬送されたワークを、当該ターンテーブルの上方で冷却する冷却部と、を備えた熱処理装置であって、前記ターンテーブルの上方において前記加熱部及び冷却部を覆うケーシングを備え、前記ケーシングの下面と前記ターンテーブルの上面との間の隙間に不活性ガスのカーテンを形成するための複数のガス噴射ノズルを備えるとともに、前記ケーシングの内部、低酸素雰囲気に保持されていることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、ターンテーブルの上方において加熱部及び冷却部がケーシングで覆われるとともに、そのケーシングの内部が低酸素雰囲気に保持されるため、ワークの加熱工程から冷却工程までを低酸素雰囲気で行うことができる。これにより、加熱工程から冷却工程までの間にワークが酸素に触れるのを抑制することができるため、ワークの表面に酸化スケールが発生するのを抑制することができる。その結果、ワークの表面から酸化スケールを除去する作業に要する時間を短縮することができる。また、大気雰囲気中の酸素がターンテーブルとケーシングとの隙間からケーシング内に流入するのを、不活性ガスのカーテンにより抑制することができる。特に、ターンテーブルを回転させてワークを各工程間で搬送している間に、前記隙間から酸素が流入するのを効果的に抑制することができる。これにより、ワークの表面に酸化スケールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0007】
前記ターンテーブル上には、ワークを前記加熱部及び冷却部に搬送した各回転位置において、前記ケーシングの下面との間でラビリンスシールを構成する突出部が設けられていることが好ましい。この場合、加熱工程及び冷却工程が行われている間に、大気雰囲気中の酸素がターンテーブルとケーシングとの隙間からケーシング内に流入するのを、ラビリンスシールにより抑制することができる。これにより、ワークの表面に酸化スケールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0009】
前記ターンテーブルは、テーブル本体と、ワークが載置されるパレットと、前記テーブル本体に固定されているとともに前記パレットが着脱可能に取り付けられるクランプ装置とを備え、前記クランプ装置は、前記パレットに係脱可能なクランプピンを有し、前記クランプピンを不活性ガスのガス圧によって前記パレットに係合させた状態で保持することが好ましい。
この場合、クランプ装置は、クランプピンをパレットに係合した状態で保持するための流体を不活性ガスとしたので、ケーシング内においてクランプ装置に不活性ガスを供給する配管が破損しても、ケーシング内を低酸素雰囲気に保持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱処理装置によれば、ワークに酸化スケールが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る熱処理装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】上記熱処理装置を示す要部拡大斜視図である。
図3】上記熱処理装置におけるターンテーブルのパレットを示し、(a)は平面図、(b)は断面図である。
図4】上記パレットの取り付け構造を示し、(a)は平面図、(b)は断面図である。
図5】複数種類の上記パレットを示す平面図である。
図6】(a)は上記熱処理装置の加熱部の概略構成を示す側面図であり、(b)は上記熱処理装置の冷却部の概略構成を示す側面図である。
図7】上記ターンテーブルを示す平面図である。
図8図7のA−A矢視断面図である。
図9】上記熱処理装置の乾燥部を示す断面図である。
図10】上記乾燥部を示す要部拡大断面図である。
図11】上記乾燥部のチャックを示す底面図である。
図12】上記乾燥部のワーク用噴出手段の支持軸を示し、(a)は側面図、(b)は底面図である。
図13】上記熱処理装置の固定台を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。
図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理装置の概略構成を示す斜視図である。また、図2は、その熱処理装置を示す要部拡大斜視図である。図1及び図2において、本実施形態の熱処理装置1は、転がり軸受の軌道輪を製造する際、SUJ2等の軸受鋼からなる鋼材から製造された環状ワーク(以下、単に「ワーク」ともいう)Wに対して焼入れ処理を行うものである。この熱処理装置1は、ターンテーブル2と、搬入部3と、加熱部4と、冷却部5と、乾燥部6とを備えている。
【0013】
ターンテーブル2は、ワークWを載置した状態で、搬入部3、加熱部4、冷却部5及び乾燥部6の順に回転しながら搬送するものである。具体的には、ターンテーブル2は、オイルパン7上において上下方向に延びる軸線X回りに回転自在に支持された円板状のテーブル本体8と、ワークWが載置される複数のパレット9とを備えている。テーブル本体8には、その厚さ方向(上下方向)に貫通する複数(4個)の貫通孔8aが周方向に等間隔をあけて形成されており、各貫通孔8aに対応する位置にパレット9が取り付けられている。
【0014】
これにより、テーブル本体8を軸線X回りに所定角度(90°)ずつ回転させることにより、各パレット9に載置されたワークWを、搬入部3、加熱部4、冷却部5及び乾燥部6の順にそれぞれ搬送することができる。
ワークWは、搬入用のロボット(図示省略)により搬入部3に搬入され、ターンテーブル2により乾燥部6まで搬送されて乾燥工程が終了した後、搬出用のロボット(図示省略)により乾燥部6から搬出される。
【0015】
図3(a),(b)は、パレット9を示す平面図及び断面図である。図3(a),(b)において、パレット9は、円環状の支持枠9aと、複数(3個)の支持ピン9bと、複数(6個)の規制ピン9cとを有している。
支持枠9aの外周には一対のブラケット9dが一体に固定されており、各ブラケット9dには後述するクランプピンが係脱する係合穴9eが形成されている。
【0016】
支持ピン9bは、支持枠9aの内周面に対して周方向に等間隔をあけて配置されるとともに径方向内方に突出して固定されている。支持ピン9bは、ワークWを支持枠9aと略同軸状に配置した状態でワークWの端面に当接(線接触)することで、ワークWを下方から支持するようになっている。
規制ピン9cは、支持枠9aの内周面に対して周方向に等間隔をあけて配置されるとともに径方向内方に突出して固定されている。この規制ピン9cの突出端に、支持ピン9bで支持されたワークWの外周面が当接(点接触)することにより、当該ワークWが支持枠9aと略同軸上に配置された状態から径方向に移動するのを規制することができる。
【0017】
図4(a),(b)は、パレット9の取り付け構造を示す平面図及び断面図である。図4(a),(b)に示すように、ターンテーブル2は、パレット9をテーブル本体8の貫通孔8aと略同軸上に配置した状態で、当該パレット9を着脱可能に取り付けるクランプ装置10を備えている。本実施形態のクランプ装置10は、各パレット9毎に2個配置されている。
クランプ装置10は、テーブル本体8の上面に固定されたクランプ本体10aと、このクランプ本体10a内において上下方向に往復動可能なピストン10bと、このピストン10bの上端に取り付けられたクランプピン10cとを有している。
【0018】
クランプ装置10のピストン10bは、クランプ本体10a内に給排される流体の圧力によってクランプピン10cをクランプ本体10aに対して上下方向に進退可能とされている。本実施形態では、前記流体は、不活性ガスとして例えば窒素ガスが使用されている。クランプ本体10aには、窒素ガスを給排する一対の配管11が接続される接続口10dが形成されている。
以上の構成により、図4(b)に示すように、クランプ本体10aの上面にパレット9のブラケット9dを載置した状態で、クランプ本体10a内に窒素ガスを供給すると、窒素ガスのガス圧によってクランプピン10cが上方に突出してブラケット9dの係合穴9eに係合する。これにより、パレット9はテーブル本体8側に取り付けられた状態で保持される。
【0019】
パレット9は、上述のようにテーブル本体8に対して着脱可能に取り付けられているため、図3(a)及び図5(a)〜(c)に示すように、ワークWのワーク径に対応する複数種類のパレット9を取り換えて使用することができる。本実施形態では、図3(a)に示すパレット9は、230mm以上290mm未満のワーク径に対応する。また、図5(a)〜(c)にそれぞれ示すパレット9は、170mm以上230mm未満、110mm以上170mm未満及び75mm以上110mm未満のワーク径にそれぞれ対応している。これにより、本実施形態では、ワーク径が75mm以上290mm未満のワークWを、単一の熱処理装置1によって熱処理することが可能となる。
【0020】
図5(a)〜(c)に示すパレット9は、支持枠9aが円環状の大径枠9a1とこの大径枠9a1よりも小径に形成された小径枠9a2とによって構成されている。大径枠9a1の外周には一対のブラケット9dが一体に固定されている。小径枠9a2は、その内径が対応するワークWのワーク径よりも少し大きくなるように形成されている。小径枠9a2の外周には、周方向に等間隔をあけて配置されるとともに径方向外方に突出する複数(3個)の取付部9fが一体に固定されている。各取付部9fは、大径枠9a1の内周に突設された複数の連結部9gにボルト・ナットによりそれぞれ着脱可能に固定されている。小径枠9a2には、図3(a)のパレット9と同様に、複数(3個)の支持ピン9bと、複数(6個)の規制ピン9cとが径方向内方に突出して固定されている。なお、これらのパレット9は、前記ロボットにより自動的に取り換えられるようになっている。
【0021】
なお、本実施形態では、ワークWのワーク径に対応して複数種類のパレット9を取り換え可能としているが、種類の異なる製品を製造する場合にも、各製品のワーク形状に対応して複数種類のパレット9を取り換え可能としてもよい。この場合、本実施形態では、複数種類の転がり軸受(テーパベアリング、シングルボールベアリング又はアンギュラベアリング等)の軌道輪を製造する際に、単一の熱処理装置1によって熱処理することが可能となる。
【0022】
図6(a),(b)は、熱処理装置1の加熱部4及び冷却部5の概略構成を示す側面図である。加熱部4は、ターンテーブル2により搬入部3から搬送されたワークWを、ターンテーブル2の上方において高周波誘導加熱により所定温度まで加熱するものである。図6(a)に示すように、加熱部4は加熱コイル21を備えており、その内周側にワークWをセットした状態で加熱コイル21に交流電流を流すことにより、ワークWを例えば800〜1000℃の焼入れ温度で誘導加熱する。
【0023】
冷却部5は、ターンテーブル2により加熱部4から搬送された加熱処理済みのワークWを、ターンテーブル2の上方で冷却水(冷却液)により急冷して焼入れするものである。図6(b)に示すように、本実施形態の冷却部5は、ワークWの外周面を拘束する外金型31と、ワークWの内周面を拘束する内金型32と、ワークWを幅方向に押圧して拘束する幅拘束治具33とを備えている。
【0024】
内金型32は、外金型31の下側に配置されており、外金型31に対して上下方向に移動可能とされている。幅拘束治具33は、外金型31の上側に配置されており、外金型31に対して上下方向に移動可能とされている。また、ワークWは、図6(b)の上側と下側から噴射される冷却水により冷却されるようになっている。
これにより、図6(b)に示すように、内金型32をワークWの内周に挿入した状態でワークWを外金型31内に挿入することにより、ワークWの内周面及び外周面を拘束することができる。さらに、ワークWを内金型32と幅拘束治具33との間で挟み込むことでワークWを幅方向に押圧して拘束することができる。
なお、外金型31及び内金型32には、冷却工程が終了してワークWを乾燥部6に搬送した後に、専用の噴射ノズル(図示省略)から不活性ガスとして例えば窒素ガスが吹き付けられるようになっている。これにより、両金型31,32に付着した冷却水を吹き飛ばして除去することができる。
【0025】
図1及び図2において、熱処理装置1は、ターンテーブル2の上方において加熱部4及び冷却部5を覆うケーシング12を備えている。ケーシング12は、全体が箱形に形成されており、ターンテーブル2の上方においてターンテーブル2の半分を覆うように配置されている。ケーシング12の内部は、酸素濃度が例えば0.5%以下になるように、不活性ガスとして例えば窒素ガスが充填されることで、低酸素雰囲気に保持されている。これにより、加熱部4及び冷却部5では、低酸素雰囲気で加熱処理及び冷却処理が行われる。
【0026】
図7は、ターンテーブル2を示す平面図である。また、図8は、図7のA−A矢視断面図である。図7及び図8に示すように、ターンテーブル2のテーブル本体8の上面には、当該上面を四等分するように平面視十字形に形成された仕切部材13が固定されている。仕切部材13は、テーブル本体8の軸線Xを中心として径方向外方へ放射状に延び、周方向に隣り合う貫通孔8aの間を通過してテーブル本体8の外周縁付近まで形成されている。これにより、仕切部材13は、図2に示すように、ターンテーブル2が90°ずつ回転して、ワークWを搬入部3、加熱部4、冷却部5及び乾燥部6にそれぞれ搬送した各回転位置において、ケーシング12の前壁12aの下面とテーブル本体8の上面との間の隙間に配置されるようになっている。
【0027】
図7及び図8において、仕切部材13の上面には、その長手方向全長に亘って断面矩形状の突出部13aが一体に固定されている。突出部13aは、軸線Xから径方向外端に向かってそれぞれ2本ずつ平行に配置されている。この突出部13aは、図8に示すように、前記各回転位置においてケーシング12の前壁12aの下面との間でラビリンスシールを構成している。
また、図8に示すように、オイルパン7の上面には、前記前壁12aの下面に対向する位置に、前記仕切部材13の突出部13aと同様に形成された突出部7aが一体に固定されている。この突出部7aは、テーブル本体8の下面との間でラビリンスシールを構成している。突出部7a,13aの各上面には、緩衝材としてシリコン膜(図示省略)が塗布されている。
さらに、図1及び図8に示すように、ケーシング12の前壁12aの外面には、その幅方向全長に亘って、不活性ガスとして例えば窒素ガスを下方に向けて噴射する複数のガス噴射ノズル14が取り付けられている。これらの各ガス噴射ノズル14から噴射される窒素ガスによって、ケーシング12の前壁12aの下面とテーブル本体8の上面との間の隙間には窒素カーテン(不活性ガスのカーテン)が形成されている。
【0028】
図9は、熱処理装置1の乾燥部6を示す断面図である。また、図10は、乾燥部6を示す要部拡大断面図である。図9に示すように、乾燥部6は、ターンテーブル2により冷却部5から搬送されたワークWを、パレット9の上方において乾燥するものである。乾燥部6は、ワークWを把持するチャック41を有し、このチャック41は、回転軸44の下端に一体に固定されている。前記回転軸44は、基台42に固定された固定軸43に対して図示しないロータリージョイントを介して回転可能に支持されている。また、回転軸44は、基台42に固定されたモータ45を駆動することにより、当該回転軸44の軸線P回りに回転するようになっている。ワークWは、ターンテーブル2により乾燥部6に搬送された状態で、ワークWの軸線が回転軸44の軸線Pと略一致するようになっている。
【0029】
基台42は、図示しないサーボモータにより駆動されるボールネジ機構によって、固定軸43、回転軸44、モータ45及びチャック41とともに、ターンテーブル2のパレット9に対して上下動するようになっている。したがって、基台42とともにチャック41をパレット9に載置されているワークWまで下降させることで、図10に示すように、チャック41によりワークWを把持することができる。そして、ワークWを把持したチャック41を基台42とともに上昇させた後、回転軸44とともにチャック41を回転させることにより、ワークWをその軸線P回りに回転させることができる。これにより、ワークWの回転に伴う遠心力によって、冷却部5においてワークWに付着した冷却水を飛散することで、ワークWを乾燥させることができる。
【0030】
図11は、チャック41を示す底面図である。図10及び図11において、チャック41は、チャック本体46と、このチャック本体46に取り付けられた複数(3個)の爪部材47とを有している。爪部材47は、ワークWの内周面に対して周方向に等間隔をあけて係合するとともに、当該内周面に対して径方向内方に延びて形成されている。
また、爪部材47は、径方向外側から径方向内側に向かうに従って上下方向(軸線P方向)の厚さが徐々に厚くなるように階段状の複数の段部47aが形成されている。図10に示すように、これら複数の段部47aのうち、最も径方向外側に形成された段部47aのチャック高さh1は例えば10mm、最も径方向内側に形成された段部47aのチャック高さh2は例えば5mmにそれぞれ設定されている。そして、径方向中間部に位置する複数の段部47aは、径方向外側から径方向内側に向かうに従って、チャック高さが徐々に小さくなうように形成されている。
これにより、図5(a)〜(c)に示すように、内径が異なる複数種類のワークWの各内周面に、前記複数の段部47aのうちのいずれかを係合させることにより、複数種類のワークWを把持することができる。
【0031】
チャック41は、図示しない圧力可変バルブを調整することにより、各爪部材47によるワークWの把持力を変更可能とされている。これにより、チャック41が前記複数種類のワークWを把持する際に、ワークWの内径に応じてチャック41の把持力が適正な大きさとなるように調整することができる。
また、モータ45は、インバータ制御によりその駆動回転数を、例えば50〜500min−1の範囲で変更可能とされている。これにより、チャック41が前記複数種類のワークWを把持した状態で回転する際に、各ワークWが同一の周速度となるように、チャック41の回転速度を調整することができる。
【0032】
図10及び図11において、乾燥部6は、チャック41に把持されたワークWに、隣接する冷却部5から飛散した冷却水が付着するのを防止するカバー部材48を備えている。カバー部材48は、図9に示すように、基台42に垂下固定された円柱状のガイド部材49に対して上下動可能に支持されている。また、カバー部材48は、ガイド部材49に取り付けられた付勢部材である圧縮コイルスプリング50により、基台42に対して下方に離反する方向へ付勢されている。なお、本実施形態のガイド部材49は、図示を省略しているが、水平方向に所定間隔をあけて2個配置されている。
【0033】
これにより、カバー部材48は、図9に示すように、通常時は圧縮コイルスプリング50の付勢力によりガイド部材49の下端に保持されている。この状態からパレット9上のワークWを把持するためにチャック41を下降させると、カバー部材48は前記付勢力により保持されたまま、チャック41とともに下降する。その際、チャック41がワークWを把持する把持位置まで下降する前に、カバー部材48の下端がパレット9に当接する。しかし、カバー部材48は、パレット9に当接することにより、前記付勢力を抗してガイド部材49に対して上方へ移動するため、チャック41をカバー部材48に邪魔されることなく、前記把持位置まで下降させることができる。
また、図10に示すように、チャック41がワークWを把持した状態で上昇すると、カバー部材48は、パレット9との当接が解除されるとともに、前記付勢力により再びガイド部材49の下端に保持される。これにより、チャック41に把持されたワークWは、カバー部材48により全体が覆われた状態で保持される。
【0034】
図10において、乾燥部6は、チャック41に把持されたワークWに向けてエアを噴射するワーク用噴射手段51を備えている。本実施形態のワーク用噴射手段51は、ワークWの一端面(図の下面)、他端面(図の上面)、外周面及び内周面に向けてそれぞれエアを噴射する第1端面用噴射ノズル52、第2端面用噴射ノズル53、外周面用噴射ノズル54及び内周面用噴射ノズル55とによって構成されている。
【0035】
図10及び図11において、第1端面用噴射ノズル52は、前記カバー部材48の側面において、チャック41に把持されたワークWの外周面よりも径方向外方の位置にブラケット56を介して固定されている。また、第1端面用噴射ノズル52は、ワークWの前記一端面に向けてエアを扇形状に噴射するようになっている。これにより、ワークWの前記一端面に付着した冷却水を吹き飛ばすことができる。
【0036】
図10において、第2端面用噴射ノズル53は、カバー部材48の側面において、チャック41に把持されたワークWの前記他端面の上方位置にブラケット57を介して固定されている。また、第2端面用噴射ノズル53は、その噴射方向が鉛直方向に対して例えば5°傾くように配置されている。これにより、第2端面用噴射ノズル53からワークWの前記他端面に向けてエアを噴射することにより、前記他端面に付着した冷却水を吹き飛ばすことができる。
【0037】
図10及び図11において、外周面用噴射ノズル54は、カバー部材48の側面において、チャック41に把持されたワークWの外周面よりも径方向外方の位置に複数(3個)固定されている。各外周面用噴射ノズル54は、その噴射方向が水平方向に対して例えば5°下向きになるように傾けて配置されている。これにより、各外周面用噴射ノズル54からワークWの外周面に向けてエアを噴射することにより、前記外周面に付着した冷却水を吹き飛ばすことができる。
【0038】
図9及び図10において、内周面用噴射ノズル55は、ワークWの内周面よりも径方向内方において、前記軸線Pと同軸上に配置された支持軸58の下端部に複数取り付けられている。支持軸58の上端部は、回転軸44に対して一対の転がり軸受59を介して回転可能に支持され、支持軸58の下端部は、チャック41の中心部を貫通して配置されている。これにより、内周面用噴射ノズル55は、支持軸58及び回転軸44を介して、チャック41とともに回転可能に配置されている。
【0039】
ワーク用噴射手段51は、内周面用噴射ノズル55がチャック41とともに回転するのを規制する規制部材60を有している。規制部材60は、棒状部材からなり、パレット9の下方に配置された固定台15に上方に突出した状態で支持されている。規制部材60の突出端(図10の上端)は、チャック41がワークWを回転させる高さ位置にあるときに、支持軸58の最下端において径方向外方に突設されたピン58bに当接するようになっている。
【0040】
以上の構成により、モータ45を駆動して回転軸44を回転させると、支持軸58は転がり軸受59を介して回転軸44とともに回転しようとするが、ピン58bが規制部材60に当接することで、支持軸58の回転は規制される。その際、回転軸44は、転がり軸受59を介して支持軸58に対して回転可能であるため、回転軸44の回転が規制されることはない。
したがって、回転軸44とともにチャック41に把持されたワークWが回転する際に、内周面用噴射ノズル55がワークWとともに回転するのを規制することができる。これにより、内周面用噴射ノズル55から噴射されるエアは、回転するワークWの内周面全体に吹き付けることができる。
【0041】
なお、規制部材60の基端部(図10の下端部)は、固定台15に対して上下回動可能に支持されている。これにより、規制部材60を上方に突出させた状態から下方回動させることで、規制部材60をピン58bと当接しない位置へ退避させることができる。
【0042】
図12(a)は支持軸58を示す側面図であり、図12(b)は支持軸58を示す底面図である。内周面用噴射ノズル55は、チャック41の爪部材47の各段部47aにそれぞれ係合されるワークWの内周面に向けてエアを噴射するために、図12(a)の側面視において、支持軸58の軸線P方向に沿って複数配置されている。より具体的には、内周面用噴射ノズル55は、図12(a),(b)に示すように、支持軸58の下端部において、支持軸58の周方向に90°ずつ等間隔をあけて螺旋状に複数配置されている。支持軸58の内部には、各内周面用噴射ノズル55にエアを供給するための供給路58aが軸線P方向に沿って形成されている。
【0043】
前記複数の内周面用噴射ノズル55には、互いに噴射口55aの口径が異なる複数種類のノズルが含まれている。こらら複数種類の内周面用噴射ノズル55は、軸線P方向の上側(一方側)から下側(他方側)に向かって、爪部材47の各段部47aに係合されるワークWの内径が小さくなるに従って、噴射口55aの口径が小さくなる順に配置されている。本実施形態では、噴射口55aの口径が、2.0mm、1.5mm及び1.0mmとされた3種類の内周面用噴射ノズル55が使用されている。
【0044】
図13は、固定台15を示す平面図である。 図10及び図13において、乾燥部6は、ターンテーブル2のワークWの載置部分であるパレット9に向けてエアを噴射するテーブル用噴射手段61を備えている。本実施形態のテーブル用噴射手段61は、固定台15に突設された取付軸16に取り付けられている複数(3個)の噴射ノズル62によって構成されている。噴射ノズル62は、取付軸16の突出端側において周方向に等間隔をあけて配置されるとともに径方向外方に突出するように設けられている。このように配置された噴射ノズル62は、パレット9の支持枠9aの内周面に向けてエアを放射状に噴射するようになっている。これにより、各噴射ノズル62から噴出されたエアによって、パレット9に付着した冷却水を吹き飛ばすことができる。なお、噴射ノズル62の高さ位置は、、固定台15を上下動させることで、調整することができるようになっている。
【0045】
以上、本発明の実施形態に係る熱処理装置によれば、ターンテーブル2の上方において加熱部4及び冷却部5がケーシング12で覆われるとともに、そのケーシング12の内部が低酸素雰囲気に保持されるため、ワークWの加熱工程から冷却工程までを低酸素雰囲気で行うことができる。これにより、加熱工程から冷却工程までの間にワークWが酸素に触れるのを抑制することができるため、ワークWの表面に酸化スケールが発生するのを抑制することができる。その結果、ワークWの表面から酸化スケールを除去する作業に要する時間を短縮することができる。
【0046】
また、ターンテーブル2上に設けた突出部7aにより、ワークWを加熱部4及び冷却部5に搬送した各回転位置において、ケーシング12の下面との間でラビリンスシールを構成することができる。これにより、加熱工程及び冷却工程が行われている間に、大気雰囲気中の酸素がターンテーブル2とケーシング12との隙間からケーシング12内に流入するのを、ラビリンスシールにより抑制することができる。その結果、ワークWの表面に酸化スケールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0047】
また、ガス噴射ノズル14から噴射される窒素ガスにより、ケーシング12の下面とターンテーブルの上面との間の隙間に窒素カーテンを形成することができる。これにより、大気雰囲気中の酸素がターンテーブル2とケーシング12との隙間からケーシング12内に流入するのを、窒素カーテンにより抑制することができる。特に、ターンテーブル2を回転させてワークWを各工程間で搬送している間に、前記隙間から酸素が流入するのを効果的に抑制することができる。その結果、ワークWの表面に酸化スケールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0048】
また、クランプ装置10は、クランプピン10cを窒素ガスのガス圧によってパレット9に係合させた状態で保持するため、ケーシング12内においてクランプ装置10に窒素ガスを供給する配管11が破損しても、ケーシング12内を低酸素雰囲気に保持することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態の熱処理装置1は、転がり軸受の軌道輪を製造する際に使用されているが、転がり軸受以外の環状に形成された部品や、他の形状に形成された部品を製造する場合にも適用することができる。また、上記実施形態では、熱処理として焼入れ処理を行う場合について説明したが、焼き戻し処理を行う場合にも適用することができる。この場合は、ターンテーブル2の上方において焼き戻し処理及び冷却処理が行われる部分をケーシング12で覆うようにすればよい。また、突出部13aは、仕切部材13を介してテーブル本体8に取り付けられているが、テーブル本体8の上面に直接取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1:熱処理装置、2:ターンテーブル、4:加熱部、5:冷却部、8:テーブル本体、9:パレット、10:クランプ装置、10c:クランプピン、12:ケーシング、13a:突出部、14:ガス噴射ノズル、W:環状ワーク(ワーク)
図1
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図4
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図6
図7
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図10
図11
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図13