(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028495
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】光触媒部材
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20161107BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20161107BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20161107BHJP
B01J 21/06 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/02 301C
B01J37/08
B01J21/06 M
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-214527(P2012-214527)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-69098(P2014-69098A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 聡士
(72)【発明者】
【氏名】八木 晋一
(72)【発明者】
【氏名】一木 智康
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆博
(72)【発明者】
【氏名】東 実時
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第99/033565(WO,A1)
【文献】
国際公開第98/058736(WO,A1)
【文献】
特開2000−136370(JP,A)
【文献】
特開2004−066549(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0137084(US,A1)
【文献】
国際公開第94/011092(WO,A1)
【文献】
特開平10−114546(JP,A)
【文献】
特表2005−532154(JP,A)
【文献】
特開2001−106974(JP,A)
【文献】
特開2001−046881(JP,A)
【文献】
特開2001−009295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釉薬層を有する基材と、該釉薬層上に形成された、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムを含む光触媒層とから少なくともなる光触媒部材であって、
前記光触媒層中のチタン酸ジルコニウムの量が、前記酸化チタンおよび前記チタン酸ジルコニウムとの合計量に対して15〜75質量%であり、かつ
前記光触媒層の表面付近における前記チタン酸ジルコニウムの含有量よりも、前記基材との界面付近乃至前記光触媒層の厚さの中間の領域におけるチタン酸ジルコニウムの含有量が大であることを特徴とする、光触媒部材。
【請求項2】
前記チタン酸ジルコニウムが、前記光触媒層の表面に観察されない、請求項1に記載の光触媒部材。
【請求項3】
前記チタン酸ジルコニウムが前記光触媒層中に、35〜65質量%含有してなる、請求項1または2に記載の光触媒部材。
【請求項4】
前記光触媒層の膜厚が、50nm〜200nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光触媒部材。
【請求項5】
前記光触媒部材が衛生陶器である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光触媒部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒部材の製造方法であって、
釉薬層を有する基材を用意し、
該基材上に、チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が80/20より小である組成を有するコーティング組成物を塗布後、乾燥し、
前記下層を構成したコーティング組成物の酸化チタン/酸化ジルコニウムよりも当該比が大である組成のコーティング組成物を塗布し、焼成して最上層を形成することを特徴とする、方法。
【請求項7】
第1層および第2層の焼成温度が、600〜900℃である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記下層を、チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が70/30またはそれより小である組成のコーティング組成物により形成する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記上層を、チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が70/30またはそれより大である組成のコーティング組成物により形成する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒層が表面に設けられた、釉薬層を有する光触媒部材に関し、さらに詳しくは膜強度、耐水性、または耐摩耗性に優れた光触媒層を釉薬層表面に有する光触媒部材に関する。
【背景技術】
【0002】
釉薬層を有する基材の釉薬層表面に光触媒層を設け、その光触媒の分解活性または親水活性を利用した機能性部材が種々の用途において用いられている。例えば、衛生陶器表面に光触媒表面層を形成した衛生陶器が知られている。このような衛生陶器は、その光触媒層に光、好ましくは紫外線を照射することで発揮する親水性による汚物付着抑制とともに、光触媒による分解作用によって菌の繁殖も抑制できる。これによりその清掃負荷が軽減される。
【0003】
基材上の光触媒層には、用いられる使用環境に耐える膜強度、さらには耐水性や耐摩耗性などが求められる。衛生陶器について、例えば、特開平11−228865号公報(特許文献1)には、光触媒層の膜硬度を高めるためにチタンアルコキシドとシリコンアルコキシドを用いることが提案されている。さらに、特開平8−103488号公報(特許文献2)には、膜の密着性を高めるために、光触媒中の成分を連続的に変化させることが有利であるとの開示がある。また、本発明者らの一部は、酸化チタンの前駆体と酸化ジルコニウムの前駆体とを共に焼成して光触媒層を形成することを提案している(PCT/JP2012/58114)。これらの光触媒層は、良好な光触媒活性を維持しながら、高い耐水性および耐摩耗性を有する。しかしながら、高い光触媒活性を維持しながら、優れた膜強度、耐水性、耐摩耗性等の性能を有する光触媒部材が依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−228865号公報
【特許文献2】特開平8−103488号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、今般、釉薬層上に設けられた光触媒層におけるチタン酸ジルコニウムの存在量およびその分布を制御することで、良好な光触媒活性を維持しながら、優れた膜強度、耐水性、あるいは耐摩耗性を有する光触媒層が実現できるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0006】
したがって、本発明は、良好な光触媒活性を維持しながら、良好な膜強度、耐水性、または耐摩耗性を有する光触媒層が設けられた、釉薬層を有する光触媒部材およびその製造方法の提供をその目的としている。
【0007】
そして、本発明による光触媒部材は、釉薬層を有する基材と、該釉薬層上に形成された、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムを含む光触媒層とから少なくともなる光触媒部材であって、前記光触媒層中のチタン酸ジルコニウムの量が、前記酸化チタンおよび前記チタン酸ジルコニウムとの合計量に対して15〜75質量%であり、かつ前記光触媒層の表面付近における前記チタン酸ジルコニウムの含有量よりも、前記基材との界面付近乃至前記光触媒層の厚さの中間の領域におけるチタン酸ジルコニウムの含有量が大であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明による光触媒部材の製造方法は、釉薬層を有する基材を用意し、該基材上に、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が80/20より小である組成を有するコーティング組成物を塗布し、焼成して下層を形成し、前記下層を構成したコーティング組成物の酸化チタン/酸化ジルコニウムよりも当該比が大である組成のコーティング組成物を塗布し、焼成して最上層を形成することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
光触媒部材
本発明による光触媒部材は、釉薬層を有する基材と、この基材上に形成された、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムを含む光触媒層とから少なくともなる。
【0010】
釉薬層を有する基材
本発明において、釉薬層を有する基材は、釉薬層を有する限りは特に限定されないが、本発明の好ましい態様によれば、基材は衛生陶器である。本発明において、「衛生陶器」とは、トイレおよび洗面所周りで用いられる陶器製品を意味し、具体的には大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面台の洗面器、手洗い器などを意味する。また、「陶器」とは、陶磁器のうち、素地の焼き締まりがやや吸水性のある程度で、かつ表面に釉薬を施したものを意味する。
【0011】
光触媒層
本発明において、光触媒層は酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムを含んでなる。そして、本発明にあっては、光触媒層中のチタン酸ジルコニウムの量が、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムとの合計量に対して15〜75質量%である。そしてさらに、光触媒層の表面付近におけるチタン酸ジルコニウムの含有量よりも、基材との界面付近乃至前記光触媒層の厚さの中間の領域におけるチタン酸ジルコニウムの含有量が大である。チタン酸ジルコニウムの量および分布をこのように制御することで、良好な光触媒活性を維持しながら、良好な膜強度、耐水性、または耐摩耗性を有する光触媒層が実現できる。特定の理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、チタン酸ジルコニウムは光触媒層の膜強度、耐水性、または耐摩耗性を向上させるが、一方で、酸化チタンの光触媒活性の発現を妨げる傾向が見出された。従って、光触媒層の内部にはチタン酸ジルコニウムを含有させるが、光触媒層の光触媒活性の発現を主に担う光触媒層の表面付近にはチタン酸ジルコニウムをより少ない量存在させ、好ましくは存在させないことで、良好な光触媒活性を維持し、かつ良好な膜強度、耐水性、または耐摩耗性を有する光触媒層が実現できるものと考えられる。
【0012】
本発明は、上記のとおり、光触媒層の内部にはチタン酸ジルコニウムを含有させるが、光触媒層の光触媒活性の発現を主に担う光触媒層の表面付近にはチタン酸ジルコニウムをより少ない量存在させ、好ましくは存在させない、という思想に立つ。従って、光触媒層の表面付近におけるチタン酸ジルコニウムの量、および基材との界面付近乃至前記光触媒層の厚さの中間の領域におけるチタン酸ジルコニウムの量の測定は、この思想を採用しているか否かを確認できる合目的的な手法で行われてよい。例えば、本発明において、光触媒層の表面付近におけるチタン酸ジルコニウムの量とは、その測定手法において必要とされる光触媒層の最表面からの厚さを有する層におけるチタン酸ジルコニウムの量を意味し、最も厚い場合でも、光触媒層の厚さの半分以下の厚さの領域における量とされる。また、本発明において、基材との界面付近乃至前記光触媒層の厚さの中間の領域におけるチタン酸ジルコニウムの量とは、基材との界面付近乃至光触媒層の厚さの中間までの光触媒層を取り出し、そのチタン酸ジルコニウムの量を測定することで求められる量としてよく、また基材との界面付近乃至光触媒層の厚さの中間までの複数の任意の点におけるチタン酸ジルコニウムの量を測定し、その平均として求められるものとしてもよい。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、チタン酸ジルコニウムの光触媒層中の量は、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムとの合計量に対して好ましくはその下限が35質量%であり、その上限が65質量%である。
【0014】
本発明において、酸化チタンは光触媒活性を有するものであれば特に限定されず、アナターゼ型、ルチル型のいずれであってもよいが、アナターゼ型が好ましい。
【0015】
また、本発明において、光触媒層の膜厚はその用途および求められる光触媒活性、その他の緒特性を勘案して適宜決定されてよいが、50nm〜200nm程度であるのが好ましく、より好ましい下限は70nmであり、その上限は120nmである。
【0016】
製造方法
チタン酸ジルコニウムは、酸化チタンと酸化ジルコニウムを所定量存在させ焼成すると、それらの複合化合物として生成する。その所定量とは、
チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が80/20より小である、すなわちすなわち当該比が4未満である。従って、まず、釉薬層の上にチタン酸ジルコニウムが生成する酸化チタン/酸化ジルコニウムの比が80/20より小である(好ましくは70/30より小である)層を形成し焼成し、そしてこの層における酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)よりも当該比が大である(好ましくは70/30より大である、より好ましくは80/20またはそれより大である)層を最上層として形成し焼成することで、光触媒層の表面付近におけるチタン酸ジルコニウムの量よりも、基材との界面付近乃至前記光触媒層の厚さの中間の領域におけるチタン酸ジルコニウムの量が大である構成を実現できる。光触媒層中のチタン酸ジルコニウムの全体量を勘案しながら、酸化チタン/酸化ジルコニウムを制御することで、本発明における光触媒層を形成することができる。
【0017】
よって、本発明による光触媒部材は、好ましくは次のように製造される。すなわち、釉薬層上にまず、
チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が80/20より小である、すなわち当該比が4未満の組成を有するコーティング組成物を塗布し、焼成して下層を形成し、その上に当該下層を構成したコーティング組成物の酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)よりも当該比が大である組成のコーティング組成物を塗布し、焼成して上層を形成する。本発明の好ましい態様によれば、上層を形成するコーティング組成物として、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が70/30より大である組成を有するものを用いる。より好ましくは、80/20またはそれより大である組成のものを用いる。さらに、本発明にあっては、光触媒層を3以上の種類のコーティング組成物で形成してもよい。
【0018】
本発明による光触媒部材は、具体的には、釉薬層を有する基材上に、酸化チタンと酸化ジルコニウムとを上記の所望の組成で含んでなる溶液、すなわちコーティング液を適用、好ましくは塗布して、その後焼成し、次に所望の組成のコーティング組成物を適用し、焼成し、これを繰り返すことにより製造することが出来る。
【0019】
コーティング液の溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノールなどのアルコール類、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、や酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられる。
【0020】
コーティング液には、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムに加え、例えば、光触媒層の均一性を上げるためにレベリング剤などの界面活性剤を添加することもできる。
【0021】
コーティング液の基材への適用は、好ましくは、刷毛塗り、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷等、一般に広く行われている方法により行われてよい。コーティング液の衛生陶器への塗布後、焼成を行う。焼成の温度および時間は600〜900℃の温度で12〜48時間程度が好ましく、より好ましくは750〜830℃の温度で15〜24時間程度で行われればよい。
【0022】
衛生陶器
上記の通り本発明の一つの好ましい態様によれば、基材が衛生陶器である光触媒部材が提供される。本発明による衛生陶器の陶器素地は、特に限定されず、通常の衛生陶器素地であってよい。また、最表層の上記表面性状を有した釉薬層の下に、中間層となる釉薬層が設けられていてもよい。
【0023】
本発明による衛生陶器は、以下のような方法により好ましく製造することができる。すなわち、まず、陶器素地を、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を、吸水性の型を利用した鋳込み成形を用いて、適宜形状に成形する。その後、乾燥させた成形体表面に、上記釉薬原料をスプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング等の一般的な方法を適宜選択して塗布する。得られた表面釉薬層の前駆層が形成された成形体を、次に焼成する。焼成温度は、陶器素地が焼結し、かつ釉薬が軟化する1,000℃以上1,300℃以下の温度が好ましい。
【0024】
本発明による衛生陶器の釉薬層を生成する釉薬の組成は限定されないが、本発明において、一般的には釉薬原料とは、珪砂、長石、石灰石等の天然鉱物粒子の混合物と定義できる。また顔料とは、例えば、コバルト化合物、鉄化合物等であり、乳濁剤とは、例えば、珪酸ジルコニウム、酸化錫等である。非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子等の混合物からなる釉薬原料を高温で溶融した後、急冷してガラス化させた釉薬をいい、例えば、フリット釉薬が好適に利用可能である。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、好ましい釉薬組成は、例えば、長石が10wt%〜30wt%、珪砂が15wt%〜40wt%、炭酸カルシウムが10wt%〜25wt%、コランダム、タルク、ドロマイト、亜鉛華が、それぞれ10wt%以下、乳濁剤および顔料が合計15wt%以下のものである。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
なお、衛生陶器表面に形成した光触媒層の水に対する耐久性(耐水性)の評価に関しては、耐アルカリ性の試験と略同様の傾向を示すため、本実施例では、以下に記載する耐アルカリ性試験を用いて評価を行った。
【0028】
光触媒層形成のためのコーティング液の調製
チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウム(重量比)が60/40、70/30、80/20、および90/10のコーティング組成物を以下のとおり用意した。チタンアルコキシド(化合物名:チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)商品名:NDH−510C、日本曹達株式会社製)と、ジルコニウムアルコキシド(化合物名:ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート 商品名:オルガチックスZC−540、マツモトファインケミカル株式会社製)とを、焼成後の
チタン元素及びジルコニウム元素の含有比率を酸化チタンと酸化ジルコニウムの重量比換算で表したとき、酸化チタン/酸化ジルコニウムが固形分の重量比で60/40、70/30、80/20、および90/10の割合となるように混合した。次いで、この混合物を、2-プロパノール(80%)とメチルセロソルブ(20%)の混合溶媒で、焼成後の固形分が0.5%になるように希釈し、希釈液を攪拌機で混合した。得られた混合液を1時間以上放置して、これを塗布液とした。
【0029】
陶器タイルの作成
陶器原料を鋳込み成形して素地を得て、この素地の表面にハンドスプレーガン(F100 明治機械製作所株式会社製)を使用して釉薬を塗布した。続いて、徐々に昇温および降温しながら最高温度1180℃に設定されたトンネル窯を24時間通過させて焼成して、陶器タイルを得た。なお、釉薬は、以下の範囲の組成のものを用いた。
釉薬組成
SiO
2 55〜80重量%
Al
2O
3 5〜13重量%
Fe
2O
3 0.1〜0.4重量%
MgO 0.8〜3重量%
CaO 8〜17重量%
ZnO 3〜8重量%
K
2O 1〜4重量%
Na
2O 0.5〜2.5重量%
ZrO 0.1〜15重量%
顔料 0.01〜5重量%
【0030】
光触媒層の形成
上記コーティング組成物の2種を、下記の表に記載のとおり組み合わせて、下層および上層を形成した。形成は以下のとおり行った。すなわち、陶器タイル表面に、ハンドスプレーガン(F100 明治機械製作所株式会社製)を用いて、上で得た塗布液を焼成後の膜厚が100nmになるように塗布量を制御してコーティングした。次いで、徐々に昇温および降温しながら最高温度800℃に設定された高温電気炉(FUH732DA ADVANTEC株式会社製)で20時間かけて焼成して、光触媒コーティングタイルを得た。
【0031】
得られた光触媒コーティングタイルの光触媒層中の、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムの合計量に対するチタン酸ジルコニウムの質量%を、以下の手法により測定した。すなわち、X線回折装置(XRD)(パナリティカル製:X‘Pert PRO)を用いて光触媒層の評価を行った。XRD測定より得られたデータの酸化チタンとチタン酸ジルコニウムに該当するピークの中から最大ピークを抽出し、そのピーク面積より酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムの合計量に対するチタン酸ジルコニウムの質量%を算出した。まず、予め既知の酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウム粉末を任意の割合で混合し、XRD測定を行い、酸化チタンとチタン酸ジルコニウムの混合比と最大ピークのピーク面積比の関係式を算出しておく。続いて、光触媒層のXRD測定を行い、得られたデータの酸化チタンとチタン酸ジルコニウムの最大ピークのピーク面積より、酸化チタンおよびチタン酸ジルコニウムの合計量に対するチタン酸ジルコニウムの質量%を算出した。
【0032】
その結果は以下の表に示されるとおりであった。
【表1】
【0033】
光触媒活性
光触媒コーティングタイルの光触媒活性を、JIS R1703−2に準じたメチレンブルー分解指数で評価した。その結果を以下の基準で評価した。
分解指数が10以上:○
5以上10未満:△
分解指数が5未満:×
【0034】
その結果は以下の表に示されるとおりであった。
【表2】
【0035】
耐アルカリ性試験(耐水性評価)
光触媒コーティングタイルを、50℃に保持した5%水酸化ナトリウム(試薬特級 和光純薬工業株式会社製)水溶液に浸漬した。所定時間浸漬後、JISK5600−5−6に基づきテープ剥離試験を実施した。その結果を以下の基準で評価した。
8時間の浸漬で剥離なし:◎
6時間を越え8時間までの浸漬で剥離が発生:○
4時間を越え6時間までの浸漬で剥離が発生:△
4時間までの浸漬で剥離が発生:×
【0036】
その結果は以下の表に示されるとおりであった。
【表3】
【0037】
耐摺動性試験
ラビングテスター(太平理化工業株式会社製)を使用して、光触媒コーティングタイルの耐摺動性試験を実施した。ウレタンスポンジ(スコッチブライト(SS−72K 住友3M株式会社製))を2.24cm角に切断したものを、両面テープを用いて不織布の部分が摺動面に当たるようにヘッドに接着したあと、蒸留水で濡らした。次いで、250gの錘を載せて(荷重条件:5kPa)所定回数摺動し、表面のキズの有無を目視で確認した。ウレタンスポンジは1000回摺動ごとに新しいものと取り替えた。結果を以下の基準で評価した。
10000回の摺動後に視認できるキズなし:◎
5000回を越え10000回までの摺動で視認できるキズあり:○
2000回を越え5000回までの摺動で視認できるキズあり:△
2000回までの摺動で視認できるキズあり:×
【0038】
その結果は以下の表に示されるとおりであった。
【表4】