特許第6028497号(P6028497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6028497パワーモジュール用基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028497
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】パワーモジュール用基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/12 20060101AFI20161107BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01L23/12 J
   H01L23/14 C
   H01L23/36 M
   H01L25/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-217185(P2012-217185)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-72364(P2014-72364A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩和
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−038244(JP,A)
【文献】 特開2012−004534(JP,A)
【文献】 特開2003−078086(JP,A)
【文献】 特開2001−053404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H01L 23/15
H01L 23/373
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に、純アルミニウムからなるアルミニウム層、銅層、及び前記アルミニウム層と前記銅層との間にニッケル層を有し、前記ニッケル層の厚みが0.08mm以上0.25mm以下に設定された回路層用金属板を、該回路層用金属板のアルミニウム層と前記セラミックス基板の間に接合材を介在させて積層するとともに、該セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱層用金属板を接合材を介在させて積層した基板積層体を形成し、前記基板積層体を積層方向に加圧した状態で加熱することで前記セラミックス基板と前記回路層用金属板及び前記放熱層用金属板とを接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス基板と前記回路層用金属板及び前記放熱層用金属板との接合温度は、635℃以上639.9℃以下に設定されていることを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム層及び前記銅層は、それぞれの厚みが0.05mm以上に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
セラミックス基板の一方の面に、純アルミニウムからなるアルミニウム層、銅層、及び前記アルミニウム層と前記銅層との間にニッケル層を有し、前記ニッケル層の厚みが0.08mm以上0.25mm以下に設定された回路層用金属板が厚さ方向に積層された状態で接合されており、
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱層用金属板が厚さ方向に積層された状態で接合されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュール用基板として、セラミックス基板の一方の面に銅又はアルミニウム等からなる回路層が積層され、セラミックス基板の他方の面に銅又はアルミニウム等からなる放熱層が形成された構成のものが知られている。そして、この回路層上に半導体チップ等の電子部品がはんだ付けされるとともに、放熱層にヒートシンクが接合されている。
【0003】
この種のパワーモジュールにおいては、半導体素子から発生する熱量も増加しており、その熱を効率よく放散させるために熱伝導性に優れた金属を使用することが望ましいが、その一方で、使用時の環境の変化やスイッチングによる熱等によって熱衝撃を繰り返して受けるため、金属層とセラミックス基板の熱膨張差による熱応力を考慮して金属を設定する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1から特許文献3では、引張強度や耐力が小さい金属としてアルミニウムを選び、それをセラミックス基板と接合することによって、セラミックス基板との熱膨張差による熱応力を低減させ、そのアルミニウムの上に電気的特性の良好な銅を合わせて、金属層を形成することが提案されている。
特許文献1及び特許文献2では、セラミックス基板にアルミニウムをろう付けした後に、銅にニッケルをめっきしたものを接合することによってパワーモジュール用基板を形成している。また、特許文献3では、予めアルミニウムと銅との間にニッケル等を介在させることにより3層に接合しておいたクラッド箔をセラミックス基板の両面にろう付けしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3734359号公報
【特許文献2】特開平11‐195854号公報
【特許文献3】特開平11‐97807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2では、セラミックス基板にアルミニウムをろう付けした後に、銅にニッケルをめっきしたものを接合することによってパワーモジュール用基板を形成していることから、少なくとも2回の600℃付近での接合加熱工程が必要となる。そのため、セラミックス基板に熱的負荷が掛かり、冷熱サイクル後の接合信頼性が劣化するおそれがあった。
また、特許文献3では、予め接合しておいたアルミニウム、チタニウム及び銅のクラッド箔をセラミックス基板の両面にろう付けするため、接合加熱工程を1回とすることができる。しかし、クラッド箔のアルミニウムと銅との中間層を構成するチタニウム層の厚さが5μm〜30μmと薄いため、セラミックス基板とクラッド箔との接合工程において、アルミニウムと銅とが加熱時に一部反応し、冷熱サイクルが劣化してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、冷熱サイクル性に優れ、製造が容易なパワーモジュール用基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に、純アルミニウムからなるアルミニウム層、銅層、及び前記アルミニウム層と前記銅層との間にニッケル層を有し、前記ニッケル層の厚みが0.08mm以上0.25mm以下に設定された回路層用金属板を、該回路層用金属板のアルミニウム層と前記セラミックス基板の間に接合材を介在させて積層するとともに、該セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱層用金属板を接合材を介在させて積層した基板積層体を形成し、前記基板積層体を積層方向に加圧した状態で加熱することで前記セラミックス基板と前記回路層用金属板及び前記放熱層用金属板とを接合することを特徴とする。
【0009】
回路層用金属板を、電気特性に優れた銅層と、引張強度や耐力が小さいアルミニウム層とを組み合わせて構成して、そのアルミニウム層をセラミックス基板に接合し、放熱層用金属板をアルミニウム又はアルミニウム合金により構成したので、セラミックス基板との間の熱応力を低減して、冷熱サイクル性に優れたパワーモジュール用基板を構成することができる。
【0010】
また、回路層用金属板を、予めアルミニウム層にニッケル層を介して銅層を接合した構成としたことで、例えばろう付け温度まで加熱しても、ニッケル層がバリア層として機能してアルミニウム層と銅層との反応を防ぐことができる。このため、セラミックス基板との接合に、接合信頼性の高いろう付けを採用することができる。さらに、このようにして製造されたパワーモジュール用基板をヒートシンクに取り付ける際にも、ろう付けを採用することができるので、放熱層用金属板とヒートシンクとの接合強度を高めることができ、放熱性能を向上させることが可能となっている。
この場合、ニッケル層は、厚みを0.08mm以上0.25mm以下に設定することで良好に機能する。ニッケル層の厚みが0.08mm未満の場合は、厚みが薄いためにバリア層として機能せず、アルミニウム層と銅層が反応するおそれがある。また、ニッケル層の厚みが0.25mmを超える場合は、ニッケル層は剛性が高いため、その厚みによりろう付け時の荷重が不均一となりやすくなる。その結果、初期接合率が低下するおそれがある。このような理由により、ニッケル層の厚みは、0.08mm以上0.25mm以下に設定している。また、上記観点から、0.10mm以上0.20mm以下に設定することがより好ましい。
また、セラミックス基板と回路層用金属板及び放熱層用金属板とを、1回の加熱で接合することが可能であるので、作業性を向上させることができる。
【0011】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法において、前記セラミックス基板と前記回路層用金属板及び前記放熱層用金属板との接合温度は、635℃以上639.9℃以下に設定されているとよい。
ろう付け接合の場合、635℃未満の加熱では、セラミックス基板と回路層用金属板及び放熱層用金属板とを1回の加熱で接合することが難しく、各部材間の接合性を良好に確保することができない。また、639.9℃以上に加熱した場合は、回路層用金属板を構成するアルミニウム層とニッケル層との間に、金属間化合物が生成されるおそれがある。
【0012】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法において、前記アルミニウム層及び前記銅層は、それぞれの厚みが0.05mm以上に設定されているとよい。
各金属層の厚みが0.05mm未満では、アルミニウム層及び銅層が固相拡散してしまうことから、各金属層を保持することができずに、それぞれの機能が失われるおそれがある。
また、銅層の厚みは、電気特性の観点から、0.1mm以上0.3mm以下に設定することがより好ましく、アルミニウム層の厚みは、セラミックス基板との接合性を良好に確保する観点から0.2mm以上0.6mm以下に設定することがより好ましい。
【0013】
本発明のパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に、純アルミニウムからなるアルミニウム層、銅層、及び前記アルミニウム層と前記銅層との間にニッケル層を有し、前記ニッケル層の厚みが0.08mm以上0.25mm以下に設定された回路層用金属板が厚さ方向に積層された状態で接合されており、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱層用金属板が厚さ方向に積層された状態で接合されていることを特徴とする。
本発明のパワーモジュール用基板によれば、初期接合率に優れ、セラミックス基板との間の熱応力を低減して、冷熱サイクル性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気特性に優れた銅層と、引張強度や耐力が小さいアルミニウム層とを組み合わせて構成された回路層用金属板をセラミックス基板に接合することができ、冷熱サイクル性に優れたパワーモジュール用基板を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るパワーモジュール用基板を用いて製造されたパワーモジュールを示す断面図である。
図2】基板積層体の構成を説明する斜視図である。
図3】本発明の製造方法で用いられる加圧治具の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法の実施形態について説明する。
図1に示すパワーモジュール100は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10の表面に搭載された半導体チップ等の電子部品20と、パワーモジュール用基板10の裏面に接合されたヒートシンク30とから構成されている。
【0017】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11の一方の面に、回路層用金属板12が厚さ方向に積層され、セラミックス基板11の他方の面に放熱層用金属板13が厚さ方向に積層された状態で接合されている。本実施形態では、Alよりも低融点のろう材(本発明でいう接合材であり、好ましくはAl‐Si系ろう材)を用いて接合されている。
なお、セラミックス基板11と回路層用金属板12及び放熱層用金属板13との接合は、ろう付けの他に、回路層用金属板12及び放熱層用金属板13の接合面に接合材として、Ag若しくはCuを付着させて積層方向に加圧しながら加熱接合するいわゆる過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)を用いることもできる。
【0018】
また、セラミックス基板11は、厚み0.5mm〜1.0mmのAlN,Si,Al,SiC等からなる。
図2に示すように、回路層用金属板12は、引張強度や耐力が小さいアルミニウム層14に、ニッケル層15を介して電気特性に優れた銅層16を接合することにより形成されている。各金属層14,15,16を接合して形成された回路層用金属板12は、総厚が0.2mm以上に設定されており、放熱性能等の観点から、好ましくは0.3mm以上2.0mm以下に設定されているとよい。
また、回路層用金属板12を構成するアルミニウム層14は、アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。ここでは、純アルミニウム板(好ましくは純度99.99質量%以上の4N‐Al板)で形成されている。また、ニッケル層15は、ニッケル又はニッケル合金が用いられる。ここでは、純ニッケル板を用いた。さらに、銅層16は、銅又は銅合金が用いられる。ここでは、純銅板(好ましくは純度99.96%以上の無酸素銅)により形成されている。
アルミニウム層14及び銅層16は、厚みが0.05mm以上に設定され、ニッケル層15は、厚みが0.08mm以上0.25mm以下に設定される。
また、(銅層16の厚み)/(アルミニウム層14の厚み)の比率は、0.1〜4.0に設定され、好ましくは0.25〜1.0に設定される。
そして、これらアルミニウム層14、ニッケル層15、銅層16の接合方法は、特に限定されるものでないが、例えば熱間圧延法、表面活性化による接合方法を採用して接合することができる。
【0019】
表面活性化接合においては、アルミニウム層14、ニッケル層15、銅層16のそれぞれの接合面の金属酸化物やゴミ、油等の付着物を除去し、各金属層同士の密着性を向上させるための活性化処理(表面処理)を行う。活性化処理は、接合面の表面洗浄できるものであれば好適に使用することができ、例えば、圧接しようとする各金属層のそれぞれの接合面をスパッタエッチング処理することで、活性化処理を行うことができる。そして、活性化処理を施した各金属層の接合面同士を重ね合わせて圧接することにより、回路層用金属板12を製造することができる。この表面活性化による接合方法は、常温、低圧下の圧接で接合することが可能であり、熱及び加工応力による材料への影響を少なくすることができる。
【0020】
放熱層用金属板13は、厚み0.1mm以上5.0mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金板(好ましくは純度99.0質量%以上のAl板)からなる。
そして、パワーモジュール100においては、回路層用金属板12は、エッチング等により所定の回路パターン状に成形されており、その上に電子部品20がはんだ材等によって接合されている。また、放熱層用金属板13の表面にヒートシンク30がろう付け等によって接合されている。
【0021】
本実施形態のパワーモジュール用基板10の好ましい組合せ例としては、各部材は、例えばセラミックス基板11が厚み0.635mmのAlN、回路層用金属板12が厚み約0.7mm、放熱層用金属板13が厚み1.6mmのAl板(純度99.0質量%以上)で構成される。また、回路層用金属板12を構成する各金属層は、例えばアルミニウム層14が厚み0.4mmの4N‐Al板、ニッケル層15が厚み0.10mmの純ニッケル板(純度99.96質量%以上)、銅層16が厚み0.2mmの純銅板(純度99.96質量%以上の無酸素銅)に設定される。
【0022】
本実施形態に係るパワーモジュール用基板10の製造方法について説明する。
まず、図2に示すように、予めニッケル層15を介してアルミニウム層14と銅層16とを接合した回路層用金属板12を用いて、その回路層用金属板12のアルミニウム層14がセラミックス基板11の一方の面と対向するように配置し、アルミニウム層14とセラミックス基板11の間にろう材箔17を介在させて積層するとともに、そのセラミックス基板11の他方の面に、放熱層用金属板13をろう材箔17を介在させて積層することにより、基板積層体40を組み立てる。この基板積層体40を、比較的剛性の高いカーボン製板材からなるカーボン板(図示略)と、クッション性を有する板状のクッションシート(図示略)との間に挟んだ状態とし、複数の基板積層体40を、図3に示すような加圧治具110によって積層方向に0.3MPa〜1.0MPaで加圧した状態とする。
【0023】
この加圧治具110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備え、ベース板111と押圧板114との間に前述の基板積層体40が配設される。
【0024】
そして、この加圧治具110により基板積層体40を加圧した状態で、加圧治具110ごと加熱炉(図示略)内に設置し、真空雰囲気中で635℃以上639.9℃以下のろう付け温度まで加熱することによりセラミックス基板11と両金属板12,13とをろう付けして、パワーモジュール用基板10を製造することができる。
このセラミックス基板11と両金属板12,13とのろう付け接合時において、回路層用金属板12を構成するニッケル層15はバリア層として良好に機能するため、アルミニウム層14と銅層16との反応を防止することができる。したがって、アルミニウム層14と銅層16とが積層された状態の回路層を有するパワーモジュール用基板10を、容易に製造することができる。
【0025】
このように、本実施形態において、回路層用金属板12を、電気特性に優れた銅層16と、引張強度や耐力が小さいアルミニウム層14とを組み合わせて構成して、そのアルミニウム層14をセラミックス基板11に接合し、放熱層用金属板13もまたアルミニウム又はアルミニウム合金により構成したので、セラミックス基板11との間の熱応力を低減して冷熱サイクル性に優れたパワーモジュール用基板10を構成することができる。
また、回路層用金属板12は、アルミニウム層14と銅層16との間にニッケル層15が形成された構成とし、ニッケル層15の厚みを0.08mm以上0.25mm以下に設定したことで、ろう付け温度まで加熱しても、ニッケル層15がバリア層として機能してアルミニウム層14と銅層16との反応を防ぐことができる。このため、セラミックス基板11との接合に、接合信頼性の高いろう付けを採用することができる。さらに、このようにして製造されたパワーモジュール用基板10にヒートシンク30を取り付ける際にも、ろう付けを採用することができるので、放熱層用金属板13とヒートシンク30との接合強度を高めることができ、放熱性能を向上させることが可能となっている。
【0026】
この場合、ニッケル層15は、上述したように、厚みを0.08mm以上0.25mm以下に設定することで良好に機能する。ニッケル層15の厚みが0.08mm未満の場合は、厚みが薄いためにバリア層として機能せず、アルミニウム層14と銅層16が反応するおそれがある。また、ニッケル層15の厚みが0.25mmを超える場合、ニッケル層は剛性が高いため、その厚みによりろう付け時の荷重が不均一となりやすくなる。その結果、初期接合率が低下するおそれがある。上記観点から、ニッケル層15の厚みは、0.10mm以上0.20mm以下に設定することがより好ましい。
【0027】
また、アルミニウム層14の厚みは、ろう付け時の熱により固相拡散してしまうことを防止するために0.05mm以上に設定し、さらに緩衝性能や放熱性能を良好に確保するために0.2mm以上0.6mm以下の厚みに設定することが好ましい。また同様に、銅層16の厚みは、固相拡散してしまうことを防止するために0.05mm以上に設定し、電気特性を良好に確保するために0.1mm以上0.3mm以下の厚みに設定することが好ましい。
【0028】
また、セラミックス基板11と回路層用金属板12及び放熱層用金属板13とをろう付け接合する場合、接合温度を635℃以上639.9℃以下に設定することで、各部材同士を、1回の加熱でろう付けすることが可能であるので、作業性を向上させることができる。
この場合、635℃未満の加熱では、セラミックス基板11と回路層用金属板12及び放熱層用金属板13とを1回の加熱で接合することが難しく、各部材間の接合性を良好に確保することができない。また、639.9℃以上に加熱した場合は、回路層用金属板12を構成するアルミニウム層14とニッケル層15との間に、金属間化合物が生成されるおそれがあり、好ましくない。
【実施例】
【0029】
上記において説明した本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法において、その効果を確認するために実験を行った。
表1に記載の厚みを有するアルミニウム層(Al層)、ニッケル層(Ni層)及び銅層(Cu層)からなり、26mm×26mm(26mm角)の回路層用金属板12、厚み1.6mmで28mm×28mm(28mm角)の放熱層用金属板13、厚み0.635mmで30mm×30mm(30mm角)のセラミックス基板11を用意し、これらをろう付けすることによりパワーモジュール用基板を製造した。
回路層用金属板12は、表1に示す条件に設定された各金属層を用いて、これら金属層を表面活性化接合により接合することにより形成した。また、放熱層用金属板13には純度99.99質量%のAl板、セラミックス基板11にはAlNを用いた。
【0030】
そして、回路層用金属板12とセラミックス基板11との間に、厚み12μmのAl‐7.5質量%Siのろう材箔17を介在させ、セラミックス基板11と放熱層用金属板13との間に、厚み14μmのAl‐7.5質量%Siのろう材箔17を介在させて積層し、この基板積層体40を、真空雰囲気中で635℃以上639.9℃以下のろう付け温度まで加熱することによりパワーモジュール用基板10を製造した。また、このパワーモジュール用基板10を、厚み5mmで60mm×50mmのAl合金材(A6063)のヒートシンクにろう付け接合した。
【0031】
そして、このようにして製作したパワーモジュール用基板について、「初期接合性」、「冷熱サイクル特性」と「パワーサイクル特性」とを評価した。
「初期接合性」の評価は、ろう付けによる接合後、超音波深傷装置を用いてアルミニウム層14とセラミックス基板11との接合部を評価し、初期接合率=(接合面積−非接合面積)/接合面積の式から算出した。ここで、非接合面積は、接合面を撮影した超音波深傷像において非接合部は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を測定したものである。また、接合面積は、接合前における接合すべき面積、すなわちアルミニウム層14の接合面の面積とした。
「冷熱サイクル特性」の評価は、パワーモジュール用基板に対して−40℃から125℃の温度範囲で昇温と冷却とを3000サイクル繰り返す冷熱サイクル試験を実施して行った。そして、冷熱サイクル試験後に、セラミックス基板11とアルミニウム層14とのAlN/Al界面の冷熱サイクル試験後接合率を評価した。なお、冷熱サイクル試験後接合率=(接合面積−冷熱サイクル試験後剥離面積)/接合面積の式から算出した。ここで、冷熱サイクル試験後剥離面積とは、超音波深傷像において白色部の面積を測定したものである。
【0032】
また、「パワーサイクル特性」の評価は、パワーモジュール用基板10の回路層(回路層用金属板12)の表面にSn‐Ag‐Cu系はんだを用いてIGBT半導体チップをはんだ付けするとともに、アルミニウム合金からなる接続配線をボンディングしてモジュール化したものを製作し、これを用いて行った。
ヒートシンク中の冷却水温度、流量を一定とした状態で、半導体チップへの通電を、半導体チップ表面の温度が通電(ON)で140℃、非通電(OFF)で60℃となる1サイクルを10秒毎に繰り返すようにして調整し、これを15万回繰り返すパワーサイクル試験を実施した。そして、パワーサイクル試験の前後で半導体チップ表面とヒートシンク内表面(ヒートシンク底面)との間の熱抵抗を半導体チップ表面温度からそれぞれ測定し、パワーサイクル試験実施による熱抵抗の上昇率を求めた。評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示されるように、ニッケル層の厚みが0.08mm以上0.25mm以下に設定された実施例1〜3のパワーモジュール用基板は、初期接合率が95.0%〜99.1%と高く、良好な結果を得ることができた。また、冷熱サイクル試験後の接合率も、初期接合率から大きく低下することがなく、高い接合率を保持することができた。さらに、パワーサイクル試験後の熱抵抗上昇率も低く抑えることができた。
一方、ニッケル層の厚みが0.08mm未満に設定された比較例1のパワーモジュール用基板は、初期接合率が50.0%となり、実施例1〜3のパワーモジュール用基板と比べて著しく低下する結果となった。また、冷熱サイクル試験後の接合率も低下し、パワーサイクル試験後の熱抵抗上昇率も高くなる結果となった。
また、ニッケル層の厚みが0.25mmを超えて設定された比較例2のパワーモジュール用基板は、実施例1〜3のパワーモジュール用基板と比べて初期接合率が低く、冷熱サイクル試験後の接合率も低下する結果となった。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態では、セラミックス基板と回路層用金属板及び放熱層用金属板とをろう付けによって接合したが、いわゆる過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)又はその他の接合方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 回路層用金属板
13 放熱層用金属板
14 アルミニウム層
15 ニッケル層
16 銅層
17 ろう材箔
20 電子部品
30 ヒートシンク
40 基板積層体
100 パワーモジュール
110 加圧治具
111 ベース板
112 ガイドポスト
113 固定板
114 押圧板
115 付勢手段
図1
図2
図3