特許第6028515号(P6028515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028515
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】イオンビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20161107BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 21/266 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01J37/317 Z
   H01J37/09 A
   H01L21/265 M
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-231235(P2012-231235)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-82174(P2014-82174A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】ヴァスケズ マグダレノ ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正人
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−192583(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0056107(US,A1)
【文献】 特開平07−312193(JP,A)
【文献】 特開2007−163640(JP,A)
【文献】 特開2011−192582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00−37/02、37/05、37/09−37/18、
37/21、37/24−37/244、
37/252−37/36、
H01L 21/26−21/268、21/322−21/326、
21/42−21/428、21/477−21/479
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム進行方向に直交する断面におけるビーム断面形状が概略長方形形状のイオンビームが、そのビーム断面の長辺よりも寸法の大きい基板に対して照射されるように構成されたイオンビーム照射装置であって、
ビーム断面における長辺方向の端部を遮蔽するマスクを備え、
前記マスクをイオンビームのビーム進行方向から視た場合において、当該マスクが、
ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びており、イオンビームの前記端部の一部を遮蔽するように設けられた第1遮蔽部と、
ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びているとともにビーム断面における短辺方向に前記第1遮蔽部と並んで設けられており、イオンビームの前記端部において前記第1遮蔽部が遮蔽する部分とは別の部分を遮蔽するように設けられた第2遮蔽部とを備えており、
前記第1遮蔽部によるイオンビームの遮蔽量と前記第2遮蔽部によるイオンビームの遮蔽量をそれぞれ異ならせていることを特徴とするイオンビーム照射装置
【請求項2】
前記第1遮蔽部のビーム断面における短辺方向の幅寸法である第1幅寸法と、前記第2遮蔽部のビーム断面における短辺方向の幅寸法である第2幅寸法の比率が、前記イオンビームの端部におけるイオンビームの目標照射量に基づいて定められている請求項1記載のイオンビーム照射装置
【請求項3】
前記第1遮蔽部及び前記第2遮蔽部が、イオンビームのビーム進行方向から視た場合において概略矩形状をなすものである請求項1又は2に記載のイオンビーム照射装置
【請求項4】
前記第1遮蔽部及び前記第2遮蔽部がそれぞれ別体で設けられており、イオンビームのビーム進行方向から視た場合において前記第1遮蔽部と前記第2遮蔽部が部分的に重なっている請求項1乃至3いずれかに記載のイオンビーム照射装置
【請求項5】
前記第1遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第1長さ寸法と、前記第2遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第2長さ寸法とが、それぞれ独立に変更可能に構成されている請求項1乃至4いずれかに記載のイオンビーム照射装置
【請求項6】
前記マスクをイオンビームのビーム進行方向から視た場合において、当該マスクが、ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びているとともに前記第2遮蔽部を前記第1遮蔽部と挟むようにビーム断面における短辺方向に並んで設けられた第3遮蔽部をさらに備え、
前記第1遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第1長さ寸法と、前記第3遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第3長さ寸法とがそれぞれ同じ値に設定されている請求項1乃至5いずれかに記載のイオンビーム照射装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム断面の形状が長方形状のイオンビームを用いて、そのビーム断面の長辺よりも寸法の大きい基板に対してイオンビームを照射する場合に用いられるマスク及びそのマスクを用いたイオンビーム照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばフラットパネルディスプレイ等に用いられる基板は、生産性を向上させるために大型化が進んでいる。一方、イオン注入等に用いられるイオンビームのサイズを基板の大型化に合わせて大きくしていくことは難しいため、近年、リボン状イオンビームの長辺方向のサイズよりも基板の各辺のサイズのほうが大きくなっている。このため、大型の基板の全面に対してリボン状のイオンビームを照射する場合、特許文献1に示されるような2つのイオンビームを用いて基板の全面にイオンビームを照射する方法や、特許文献2に示されるような1つのイオンビームに対して複数回基板を往復させることにより全面にイオンビームを照射する方法が用いられている。
【0003】
従来のイオンビーム照射方法について図13又は図14を参照しながらより具体的に説明する。なお、図13図14においては、イオンビームIBの基板Wに対する入射方向をZ軸、イオンビームIBのビーム断面における短辺方向をX軸、ビーム断面における長辺方向をY軸として設定し、X軸及びY軸により水平面が形成されるように座標軸を設定してある。
【0004】
特許文献1に記載のイオンビーム照射装置100Aは、図13(a)に示すようにイオン注入室1A(a)、1A(b)内に2本のリボン状のイオンビームIB(a)、IB(b)を導入するとともに、それぞれ照射位置を上下にずらし、一方のイオンビームIB(a)の上端位置と、他方のイオンビームIB(b)の下端位置とが略同じ高さとなるように構成してある。そして、図13(b)に示すように起立させた基板WをそれぞれのイオンビームIB(a)、IB(b)を横切るように通過させることにより、一方のイオンビームIB(a)を基板Wの下側半分に照射するとともに、他方のイオンビームIB(b)を基板Wの上側半分に照射するようにして、基板WをイオンビームIB(a)、IB(b)に対して一度横切らせるだけで基板Wの全面にイオンビームIB(a)、IB(b)が照射されるようにしてある。
【0005】
ところで、リボン状のイオンビームIB(a)、IB(b)は、中央部においては略一定の照射量となるものの、イオン同士に電荷による斥力が生じる等するため端部においては中央部と比べると照射量がなだらかに変化して小さくなっている。したがって、単純に2本のイオンビームIB(a)、IB(b)の上端と下端を同じ位置にすると基板Wの中央部におけるイオンビームIBの照射量が基板Wのその他の部分と比較すると所望の照射量から大きくずれることになる。そこで、特許文献1のイオンビーム照射装置100Aでは、イオンビームIBの端部を整形するマスク5A(a)、5A(b)をそれぞれのイオンビームIB(a)、IB(b)の通過経路上に設けてある。このマスク5A(a)、5A(b)は、図13(c)に示すように、ビーム断面において短辺方向に先端部分が斜めに傾斜した形状を有するものであり、ビーム断面において長辺方向にその位置を適宜設定することで、基板Wの中央部において他の部分と同程度の照射量が得られるようにしてある。
【0006】
しかしながら、この特許文献1では、各イオンビームに対して設けられた各マスクの位置を調節することにより、基板に対する照射量の均一性を大まかに調節することは可能ではあるものの、最終的にはマスクの先端における斜め部分の傾斜角度に大きな影響を受けるため、現状よりもさらに照射量の均一性を向上させることは難しい。
【0007】
なぜなら、特許文献1のマスク形状では、変更できる設計パラメータは実質的に先端部分の傾斜角度だけであるので、イオンビームの照射量分布に応じて適宜マスクの形状を合わせ込んでいくには調整パラメータが少なく、例えば、ある一部領域の照射量の均一性が問題となっている場合に、他の部分に悪影響を与えずにその部分だけ適度に補正を加えるのは非常に難しいからである。
【0008】
また、イオンビームの端部を整形するマスクに関連する技術課題は、特許文献2のイオンビーム照射方法でも同様に生じる。
【0009】
特許文献2に記載のイオンビーム照射装置100Bは、ガラス基板W上に実際に製品として使用される複数のセル領域W1と、各セル領域W1の間に形成される分割帯W2とが形成される多面取りのイオン注入に用いられるものである。すなわち、図14に示すようにガラス基板W上の分割帯W2は格子状に形成されることになり、各セル領域W1は格子間に配置されることになる。
【0010】
このイオンビーム照射装置100Bでは、図14(a)(b)に示すようにイオンビームIBの両端部に矩形状のマスク5Bを配置することにより、図14(c)に示すようにイオンビームIBにおける中央部ARの均一性の良いビームのみをガラス基板Wに照射するようにしてある。さらに、このイオンビーム照射装置100Bは、図14(d)に示すようにガラス基板WをイオンビームIBに対して上下方向の位置を変えながら往復動させる際に、イオンビームIBの端部が分割帯W2を通るように構成してある。
【0011】
近年、一枚のガラス基板からできる限り大きな複数のセル領域を形成できるように、分割帯の大きさを小さくすることが求められているが、特許文献2の矩形状マスクでも、イオンビームの端部における照射量や照射量が不均一な領域の大きさを厳密にコントロールすることは難しく、そのような要求に無理に答えようとすると、セル領域における照射量の均一性を保つことができなくなってしまう。
【0012】
すなわち、いずれのイオンビーム照射方法においてもイオンビームの端部における照射量の調整に適した形状のマスクが現在のところ存在していないために、大型基板に対するイオンビームの照射量の均一性向上や、多面取りにおける分割帯の小型化といった要求を満たすことができてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−192583号公報
【特許文献2】特開2009−134923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、イオンビームの端部における照射量の均一性や、その均一性が保たれている領域の大きさを簡単な構成でありながらも容易に調節することができるマスク及びこのマスクを用いたイオンビーム照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明のマスクは、ビーム進行方向に直交する断面におけるビーム断面形状が概略長方形形状のイオンビームについて、ビーム断面における長辺方向の端部を遮蔽するように設けられるマスクであって、前記マスクをイオンビームのビーム進行方向から視た場合において、当該マスクが、ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びており、イオンビームの前記端部の一部を遮蔽する第1遮蔽部と、ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びているとともに前記第1遮蔽部に対してビーム断面における短辺方向に並んで設けられており、イオンビームの前記端部において前記第1遮蔽部が遮蔽する部分とは別の部分を遮蔽する第2遮蔽部とを備えており、前記第1遮蔽部によるイオンビームの遮蔽量と前記第2遮蔽部によるイオンビームの遮蔽量をそれぞれ異ならせていることを特徴とする。
【0016】
このようなものであれば、前記マスクがビーム断面における短辺方向に並んで設けられた第1遮蔽部及び第2遮蔽部を備えたものであるので、イオンビームのビーム断面における短辺方向を通過する基板に対して第1遮蔽部により定まる照射量の第1プロファイルと、第2遮蔽部により定まる照射量の第2プロファイルとを組み合わせることにより、照射量の過不足を打ち消し合わすことによって従来よりも均一性を持たせて照射することができるようになる。
【0017】
すなわち、第1遮蔽部の形状や寸法により決まる遮蔽量と、第2遮蔽部の形状や寸法により決まる遮蔽量をそれぞれ独立に設定することができ、第1プロファイルと第2プロファイルを様々な態様にするとともに、それらを自由に組み合わせることができるので、イオンビーム端部における所望の照射量分布を得やすい。
【0018】
より具体的には、イオンビームの端部において達成したい照射量の均一性や均一となっている範囲の大きさが与えられた場合、単一の形状で形成されるマスクでは調整パラメータが1つしかなく実現しにくかった照射量分布でも、第1遮蔽部及び第2遮蔽部の形状やビーム断面における長辺方向の寸法、短辺方向における割合等の複数の調整パラメータを変更して遮蔽量を異ならせることにより実現することができる。
【0019】
これらのことから、例えば2本のイオンビームを用いて端部が重ね合わされる領域での照射量の調整精度をより向上させたり、イオンビームについて均一性の保たれない領域をできる限り小さくして多面取りにおける分割帯をより小さく形成したりすることが可能となる。
【0020】
イオンビームの端部における目標照射量を第1遮蔽部により形成される第1の照射量と第2遮蔽部により形成される第2の照射量との組み合わせにより容易に実現するには、前記第1遮蔽部のビーム断面における短辺方向の幅寸法である第1幅寸法と、前記第2遮蔽部のビーム断面における短辺方向の幅寸法である第2幅寸法の比率が、前記イオンビームの端部におけるイオンビームの目標照射量に基づいて定められているものでればよい。
【0021】
マスクの形状を簡単なものとするとともに、第1遮蔽部により形成される第1の照射量と第2遮蔽部により形成される第2の照射量とを組み合わせた場合の全体の照射量について容易に算出することができ、イオンビームの端部における目標照射量を得やすくするには、前記第1遮蔽部及び前記第2遮蔽部が、イオンビームのビーム進行方向から視た場合において概略矩形状をなすものであればよい。
【0022】
特殊な形状のマスクを製造することなく、例えば汎用的な四角等の簡単な形状のマスクを組み合わせるだけで、第1遮蔽部及び第2遮蔽部における遮蔽量をそれぞれ異ならせることができ、その結果組み合わせによる目標照射量を得やすくするには、前記第1遮蔽部及び前記第2遮蔽部がそれぞれ別体で設けられていればよい。
【0023】
例えばイオンビームの照射位置が何らかの原因でビーム断面における長辺方向にずれが生じたり、イオン源から射出された時点の端部における照射量の分布に変化があったりした場合でも適宜第1遮蔽部及び第2遮蔽部の遮蔽量を調節して、目標照射量を得られるようにするには、前記第1遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第1長さ寸法と、前記第2遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第2長さ寸法とが、それぞれ独立に変更可能に構成されていればよい。
【0024】
イオンビームの照射位置がビーム断面における短辺方向にずれたとしても、マスクによる遮蔽量が変化せず、設計通りの目標照射量が得られるようにするには、前記マスクをイオンビームのビーム進行方向から視た場合において、当該マスクが、ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びているとともに前記第2遮蔽部を前記第1遮蔽部と挟むようにビーム断面における短辺方向に並んで設けられた第3遮蔽部をさらに備え、前記第1遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第1長さ寸法と、前記第3遮蔽部のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第3長さ寸法とがそれぞれ同じ値に設定されていればよい。このようなものであれば、イオンビームの照射位置がビーム断面における短辺方向にずれたとしても、第1遮蔽部及び第3遮蔽部により遮蔽されるイオンビームの量の和は常に同じであり、第1遮蔽部及び第3遮蔽部の間にある第2遮蔽部による遮蔽量はそもそもビーム断面における短辺方向のずれに対して遮蔽量が変化しない。これらのことから、各部において同じ遮蔽量を保つことができるので、イオンビームのビーム断面における短辺方向のずれに対して影響を受けなくすることができるようになる。
【0025】
上述してきたようなマスクを用いたイオンビーム照射装置であれば、イオンビームの端部における照射量を容易に調節することができるので、イオンビームが重なる部分を有するような照射態様であっても、その重なり部分の照射量の均一性をより高めたり、不均一な部分があったとしてもその領域をできる限り小さくしたりすることができる。したがって、特に大型基板に対してイオンビームを照射するような用途においてイオンビームの照射量の均一性を向上させて製品の品質をより向上させたり、多面取りであれば分割帯の大きさをさらに小さくしてセル領域を大きくすることができ、より生産性を向上させたりすることができる。
【発明の効果】
【0026】
このように本発明のマスク及びこのマスクを用いたイオンビーム照射装置であれば、第1遮蔽部と第2遮蔽部を有しており、これらのビーム断面における長辺方向の寸法や短辺方向の寸法といった複数の調整パラメータをそれぞれ独立に調節することができるので、イオンビームの端部における照射量の調節を容易に行うことができる。したがって、従来の斜めマスクや矩形状マスクのように単一の調整パラメータしかないために達成することが難しかった照射量の均一性であっても実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るイオンビーム照射装置の全体を示す模式図。
図2】同実施形態におけるマスクの配置及び形状を示す模式図。
図3】同実施形態におけるマスクを設計するための前段階である矩形状マスクがイオンビーム中心からDLT1だけ離れた位置に配置されている場合の模式図。
図4】イオンビーム中心からDLT1だけ離れた位置に矩形状マスクが設けられた場合のビームプロファイルを示すグラフ。
図5】同実施形態におけるマスクを設計するための前段階である矩形状マスクがイオンビーム中心からDLT2だけ離れた位置に配置されている場合の模式図。
図6】イオンビーム中心からDLT2だけ離れた位置に矩形状マスクが設けられた場合のビームプロファイルを示すグラフ。
図7】矩形状マスクの配置と、イオンビーム重なり部分に形成されるビームプロファイルとの関係を示す模式図。
図8】同実施形態におけるマスクの設計される値である長さ寸法及び幅寸法について示す模式図。
図9図8のように設計されたマスクのビームプロファイルについて示すグラフ。
図10】本発明の別の実施形態に係る複数のマスク部材から構成されたマスクを示す模式図。
図11】本発明のさらに別の実施形態に係るマスクの形状を示す模式図。
図12】本発明の異なる実施形態に係るマスクの形状を示す模式図。
図13】従来のマスク及びイオンビーム照射装置を示す模式図。
図14】従来の別のマスク及びイオンビーム照射装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のマスク5及びこのマスク5を用いたイオンビーム照射装置100の一実施形態について図1乃至図9を参照しながら説明する。なお、参照する各図面においては、図13及び図14に設定したのと同様の座標軸が設定してあり、イオンビームIBの基板Wに対する入射方向をZ軸、イオンビームIBのビーム断面における短辺方向をX軸、ビーム断面における長辺方向をY軸として設定し、X軸及びY軸により水平面が形成されるように座標軸を設定してある。
【0029】
本実施形態のイオンビーム照射装置100は、図1(a)に示すように大型の基板Wを起立させた状態で図示において左側から右側へとX軸方向に搬送するとともに、2本のイオンビームIBによりそれぞれ基板Wの下半分と上半分にイオンビームIBを照射することで基板Wの全面に照射されるように構成してある。
【0030】
すなわち、このイオンビーム照射装置100は、図示において左側から順番に大気圧下にある基板Wが搬入され、減圧されるロードロック室3と、第1待合室2と、基板Wの下半分にイオンビームIBが照射される第1処理室1(a)と、第2待合室2と、基板Wの上半分にイオンビームIBが照射される第2処理室1(b)と、第3待合室2と、真空圧から大気圧に開放されたのちに基板Wが搬出されるアンロードロック室4とから構成してある。各室は真空弁により接続されており、各待合室2は次の室内での処置が終わるまで基板Wを待機させておくためのものである。また、ロードロック室3及びアンロードロック室4以外の各部屋は、高真空に保たれている。
【0031】
前記第1処理室1(a)及び第2処理室1(b)は、それぞれ別々のイオンビーム供給装置11(a)、11(b)から供給されるリボン状のイオンビームIB(a)、IB(b)が室内に導入されており、各イオンビームIB(a)、IB(b)の照射位置は図1(b)の前面図に示すようにその上下方向の位置を異ならせてある。より具体的には、第1処理室1(a)内に導入される第1イオンビームIB(a)は、搬送される基板Wの下半分に対応する位置に長辺方向が上下方向と一致するように照射されており、第2処理室1(b)内に導入される第2イオンビームIB(b)は、搬送される基板Wの上半分に対応する位置に長辺方向が上下方向と一致するように照射されている。
【0032】
また、第1処理室1(a)には、第1イオンビームIB(a)の上端を整形するための第1マスク5(a)が設けてあり、第2処理室1(b)には第2イオンビームIB(b)の下端を整形するための第2マスク5(b)が設けてある。本実施形態では第1マスク5(a)及び第2マスク5(b)は同形状のものであり、対称となるように配置してある。また、各処理室1(a)、1(b)には、各マスク5(a)、5(b)を通過した後のイオンビームIBの照射量分布を取得するための測定部が設けてある。
【0033】
次にマスク5の具体的な形状について説明する。なお、第1マスク5(a)及び第2マスク5(b)については同形状であるので、以下では共通のものとして説明する。また、特に区別する必要がない場合には数字の番号のみを振ることとする。
【0034】
図2に示すように前記マスク5は、リボン状のイオンビームIBの端部を整形するためのものであり、ビーム断面における短辺方向(X軸方向)に沿って視た場合にビーム断面における長辺方向(Y軸方向)の長さ寸法が途中で階段状に変化するように構成してある。言い換えると、このマスク5はビーム進行方向に直交する断面におけるビーム断面形状が概略長方形形状のイオンビームIBについて、ビーム断面における長辺方向の端部を遮蔽するように設けられるマスク5であって、それぞれ長辺の長さが異なる2つの長方形について短辺をそろえて横に並べた形状をなしている。また、ビームの進行方向から視た場合においてこのマスク5の段差部分はイオンビームIBのビーム断面における短辺内に含まれるように配置してあるので、ビーム断面における短辺方向に沿ってイオンビームIBの遮蔽量のグラフを描くと中央部において不連続に変化することになる。なお、本実施形態のマスク5はそれぞれの長辺の長さが異なる2つの長方形状部分が階段上をなす形状を有したものであるが、例えば2つの正方形状部分又は1つの正方形状部分と1つの長方形状部分とを組み合わせた形状をなすものであっても構わない。
【0035】
すなわち、このマスク5は、図2に示すようにイオンビームIBのビーム進行方向から視た場合において、ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びており、イオンビームIBの前記端部の一部を遮蔽する第1遮蔽部51と、ビーム断面の一方の短辺から長辺方向に延びているとともに前記第1遮蔽部51に対してビーム断面における短辺方向に並んで設けられており、イオンビームIBの前記端部において前記第1遮蔽部51が遮蔽する部分とは別の部分を遮蔽する第2遮蔽部52とを備えている。そして、前記第1遮蔽部51によるイオンビームIBの遮蔽量と前記第2遮蔽部52によるイオンビームIBの遮蔽量をそれぞれ異ならせてある。
【0036】
より具体的には、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52は概略矩形状に形成してあり、ビーム断面における長辺方向の寸法及び短辺方向の寸法を適宜調節することにより、その遮蔽量を調節してある。また、これらの寸法や比率については、基板Wがこの端部を通過した際に照射されるべき目標照射量に基づいて設定してある。
【0037】
なお、以下の説明では簡単のため遮蔽面積の小さい方を第1遮蔽部51、遮蔽量の大きい方を第2遮蔽部52と呼ぶこととする。
【0038】
次に前記マスク5の形状、特に第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52の寸法の設計方法について詳述することにより、これらの特徴について説明する。
【0039】
まず、従来の矩形状マスク6(a)、6(b)によりイオンビームIB(a)、IB(b)が重なり合う部分に関して整形している場合について考える。すなわち、ビーム断面における短辺方向(X軸方向)に沿ってイオンビームIB(a)、IB(b)の遮蔽量の変化を視た場合に変化がない状態を例として考えている。ここで、図3に示すようにイオンビームIB(a)、IB(b)のビーム断面中心からDLT1だけ離間した位置よりも外側は矩形状マスク6(a)、6(b)により遮蔽されているとする。なお、DLT1は、各イオンビームIB(a)、IB(b)のマスク開始位置が略同じ上下方向の位置になるようにこの例では定めてあるが、各イオンビームIB(a)、IB(b)の遮蔽開始位置が異なるように構成されていてもかまわない。また、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52のビーム断面における長辺方向の長さ寸法を規定するために、この実施形態ではイオンビームIBの中心を基準位置としてとっているが、例えばイオンビームIBが照射される基板Wの中心位置を基準位置にとっても構わない。
【0040】
次にこのような状態における2つのイオンビームIB(a)、IB(b)を足し合わせた場合の電流分布(ビームプロファイル)を計算する。計算結果の一例を図4に示す。図4のグラフに示すようにこの例では2本のイオンビームIB(a)、IB(b)の端部における遮蔽量が小さいため重なり部分も大きくなっている。したがって、端部が重なり合っている部分は、それ以外の部分よりも電流値が大きく、基板Wに照射されるイオンの照射量(ドーズ量)が目標値に対する許容上限よりも大きい状態となる(overdose)。以下では目標照射量である基準値の許容上限又は下限を超えている範囲の幅のことを遷移領域幅と呼ぶ。なお、本実施形態では基準値の±10%を許容上限値及び許容下限値に設定している。
【0041】
さらに、矩形状マスク6(a)、6(b)の位置を変更して同様の計算によりビームプロファイルを求める。より具体的には、図5に示すように矩形状マスク6(a)、6(b)による遮蔽量をより大きくするようにマスク開始位置をイオンビームIB(a)、IB(b)の中心からDLT2としてイオンビームIB中心側へと近づけた場合について考える。この場合、矩形状マスク6(a)、6(b)とイオンビームIB(a)、IB(b)の重なり部分は小さくなるため、図6の計算結果に示すように重なり部分の電流量は、その他の部分に比べると小さくなり、許容下限よりも小さくなる下に凸の部分が形成される。つまり、基板Wに照射される照射量(ドーズ量)も小さくなっている。
【0042】
図4及び図6における矩形状マスク6のマスク位置の違いによるビームプロファイルの違いについては図7に示すような模式図により説明できる。
【0043】
すなわち、リボン状のイオンビームIBの長辺方向に沿ったビームプロファイルは理想的にはガウス分布となるが、マスク位置がDLT1に設定されており、矩形状マスク6による遮蔽量が小さい場合には、図7に示されるように端部における照射量はほとんど減らないので、重なり合い部分が強く出すぎるために足し合わせたビームプロファイルにおいては中央部に許容上限を超える凸部が形成されることになる。一方、マスク位置をDLT2として遮蔽量を大きくすると、中央部分での照射量が少なくなりすぎるために足し合わせたビームプロファイルにおいては、中央部に許容下限を下回る凸部が形成されることになる。
【0044】
以上の計算から矩形状マスク6単体では、中央部にoverdoseまたはunderdoseが生じてしまうことがわかる。
【0045】
そこで、本実施形態のマスク5は第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52により前述したoverdose部分とunderdose部分のそれぞれが打ち消し合うようにすることで、ビームの全域において基準値に対する許容範囲内に入るようにその寸法を構成してある。
【0046】
より具体的には、第1遮蔽部51のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第1長さ寸法をDLT1と、第2遮蔽部52のビーム断面における長辺方向の長さ寸法をDLT2とした場合に、それぞれのビーム断面における短辺方向における幅寸法の比率を調節することで、overdose部分とunderdose部分とが打ち消し合って、基準値に対する許容範囲内のビームプロファイルとなるようにしてある。
【0047】
すなわち、本実施形態のように先端部分が階段状をなすマスク5とした場合、それぞれビーム断面における長辺方向のマスク位置が異なる矩形状マスク6により遮蔽された2本のイオンビームIBがビーム断面における短辺方向に並列に並んだものとも考えることができる。したがって、第1遮蔽部51と第2遮蔽部52の各長さ寸法が定まった場合、ビーム断面における短辺方向の比率に応じて重みづけがなされたビームプロファイルの重ね合わせを行うことができる。
【0048】
本実施形態では、図8に示すように第1遮蔽部51のビーム断面における短辺方向の幅寸法である第1幅寸法DLT1Wと、第2遮蔽部52のビーム断面における短辺方向の幅寸法である第2幅寸法DLT2Wについては同じ値として、1対1としてある。すなわち、イオンビームIBのビーム断面における短辺方向の幅寸法をIBWとした場合、DLT1W=DLT2W=IBW/2に設定してある。
【0049】
図4及び図6でそれぞれ計算したビームプロファイルはイオンビームIBの幅寸法がIBWのときにその幅全てを遮蔽した場合の計算結果であるので、IBW/2の幅寸法を持つイオンビームIBを照射した場合は各点における照射量は理想的には半分となる。したがって、本実施形態のマスク5を用いた場合のビームプロファイルは図4及び図6の計算結果をそれぞれ1/2倍したうえで足し合わせることで算出でき、その結果図9のグラフに示すようなビームプロファイルとなる。図9から明らかなようにoverdose部分とunderdose部分が打消し合うことにより、重なり部分全域において略均一なプロファイルとなっていることがわかる。すなわち、基板Wの中央部分に対する照射量をより均一化することができていることがわかる。
【0050】
なお、この例では第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52のビーム断面における長辺方向の長さ寸法がDLT1、DLT2の組み合わせの場合において、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52のビーム断面における短辺方向の幅寸法の比率を1対1にすることで許容範囲内にビームプロファイルを収めることができたが、DLT1、DLT2のとり方によっては、その他の比率で第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52のビーム断面における短辺方向の幅寸法を設定し、所望の目標照射量の均一性が得られるようにしてもかまわない。さらに、この例ではイオンビーム供給装置11(a)、11(b)のそれぞれに設けられるマスク5(a)、(b)を同一形状とするとともに、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52のビーム断面における長辺方向の長さ寸法DLT1、DLT2と、ビーム断面における短辺方向の幅寸法DLT1W、DLT2Wの全てがマスク5(a)、5(b)のそれぞれで同一となるようにしているが、各長さ寸法DLT1、DLT2及び幅寸法DLT1W、DLT2Wがマスク5(a)、マスク5(b)で異なっていても構わない。すなわち、イオンビーム供給装置11(a)とイオンビーム供給装置11(b)のそれぞれにおいて、マスク位置が異なっており、各遮蔽部においてビーム断面における長さ方向寸法及び幅寸法が異なっていても構わない。
【0051】
このように本実施形態のマスク5及びイオンビーム照射装置100によれば、前記マスク5がそれぞれビーム断面における長辺方向の長さ寸法とビーム断面における短辺方向の幅寸法を自由に設定できる第1遮蔽部51と第2遮蔽部52をビーム断面における短辺方向に並べて設けたものとして形成してあるので、これらの複数の寸法を変更することで、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52によりそれぞれ形成されるビームプロファイルの形状やその足し合わせ比率を自由に調節することができる。従って、これらの2つの自由に調節された態様の異なるビームプロファイルを足し合わせることができるので、最終的な足し合わされたビームプロファイルを所望の許容範囲内に入れることが容易にできる。言い換えると、従来はビームプロファイル、すなわち、照射量を変更することができる調整パラメータが1つしかなかったために、精密な調整を行うことが難しかったのに対して、本実施形態であればマスク5が2つの形状の異なる第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52を有していることにより複数の調整パラメータを得ることができ、自由にビームプロファイルを整形することができる。したがって、本実施形態のように基板Wの中央部に照射されるイオンビームIBの照射量を他の部分と同程度の均一性を有するようにするといった調節を簡単に行うことができる。
【0052】
本実施形態の変形例について説明する。
【0053】
前記実施形態では2本のイオンビームIBを上下に並べる場合の重なり部分の均一性を向上させる目的で前記マスク5を用いていたが、例えば図14に示されているような1本のイオンビームIBの基板Wに対する照射位置を変更していき、基板W上に複数のセル領域W1を形成する多面取りを行う場合において分割帯W2の幅を小さくできるようにするために前記実施形態のマスク5を用いても構わない。すなわち、イオンビームIBの両端に前記実施形態のマスク5を設けておき、基板WにおいてイオンビームIBの端部が重ねて照射される部分のうちセル領域とすべき部分の照射量を許容範囲内の値とするとともに、遷移領域幅が分割帯の幅以内となるように第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52の寸法を決定すればよい。また、上述した用途以外においてもイオンビームIBのビーム断面における長辺方向の端部の照射量を所望の値や大きさに調整するために本発明のマスク5を用いることができる。
【0054】
また、前記実施形態では2つのイオンビームIBのそれぞれに先端部分が階段状のマスク5を端部に配置させていたが、要求精度によっては片方のイオンビームIBのみ先端部分が階段状に形成されたマスク5を用い、もう一方には矩形状マスク6や、先端部分が傾斜したマスク5を用いてもかまわない。また、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52の形状は矩形状に限られるものではなく、例えば第1遮蔽部51は先端部分に傾斜を有し、第2遮蔽部52は矩形状といった組み合わせで用いてもかまわない。加えて、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52の先端部分がそれぞれ傾きの異なる傾斜を有しており、マスク5をビーム断面における短辺方向に沿って視た場合にその先端部分が途中で不連続に傾きが変化するようなものであっても構わない。要するに、第1遮蔽部51と第2遮蔽部52の形状や大きさが異なっており、その遮蔽量が異なっていることで、異なるビームプロファイルを重ね合わせることで所望のビームプロファイルを得ることができるマスク5であればよい。
【0055】
前記実施形態では、1つのマスク5において先端部分の形状を階段状とすることで、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52が形成していたが、例えば複数のマスク部材5a、5bを用いて第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52を形成してもかまわない。より具体的には図10に示すように、イオンビームIBの進行方向に沿って2枚のマスク部材5a、5bを配置しておくとともに、進行方向から視た場合にいずれかのマスク部材5a、5bが他方のマスク部材5b、5aと重なり合う部分を持つようにすればよい。このようなものであれば、1つのマスクを階段状のような複雑形状に加工せずに、矩形状の汎用的なマスクを2つ揃えて並べるだけでよく、製造しやすい。さらに、このようなものであっても前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
さらに図10(a)に示すように各マスク部材5a、5bをモータM等の駆動機構によりそれぞれ独立にビーム断面における長辺方向に移動可能に構成してもよい。すなわち、第1遮蔽部51及び第2遮蔽部52のビーム断面における長辺方向の長さ寸法をそれぞれ独立に調節できるようにしてもよい。このようなものであれば、前記実施形態に比べてさらに調整自由度を高めることができ、例えば、イオンビームIBの照射位置がビーム断面における長辺方向にずれた場合でも適宜調節し、常に均一性の保たれたイオンビームIBを基板Wに照射することが可能となる。
【0057】
さらに、移動方向はビーム断面における長辺方向だけに限られず、ビーム断面における短辺方向にマスク5が移動できるように構成してもかまわない。加えて、ビーム断面における長辺方向及び短辺方向の両方にマスク5が移動できるように構成してもよい。
【0058】
前記実施形態のマスク5は遮蔽部を2つ備えたものであったが、さらに多数の遮蔽部を有してもかまわない。すなわち、図11(a)、(b)に示すような3つ以上の矩形状の遮蔽部が組み合わさったマスク5であってもかまわない。このように多数の遮蔽部をマスク5が有するものであれば、イオンビームIBの重なり部分における照射量分布の調整精度をさらに高めることができる。
【0059】
例えば、メンテナンスにおいてイオンビーム供給装置11(a)、11(b)のイオン源の電極が交換された際に取り付け位置が元の位置からずれた場合、イオンビームIBの軌道についても変化が生じる場合がある。ビーム断面における短辺方向にイオンビームIBの照射位置がずれた場合に、マスク5の配置を変更しなくても、遮蔽量に変化を生じさせず、端部におけるイオンビームIBのプロファイルを実質的に常に同じにすることができるようには、図12(a)(b)に示すように前記マスク5をイオンビームIBのビーム進行方向から視た場合において、当該マスク5が、ビーム断面の一方の短辺からビーム断面の長辺方向に延びているとともに前記第2遮蔽部52を前記第1遮蔽部51と挟むようにビーム断面における短辺方向に並んで設けられた第3遮蔽部53をさらに備え、前記第1遮蔽部51のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第1長さ寸法と、前記第3遮蔽部53のビーム断面における長辺方向の長さ寸法である第3長さ寸法とをそれぞれ同じ値に設定すればよい。
【0060】
このようなものであれば、図12に示すようにビーム断面の短辺方向のいずれか一方にイオンビームIBの照射位置がずれたとしても、第1遮蔽部51又は第3遮蔽部53において減少した遮蔽量はそのまま第3遮蔽部53又は第1遮蔽部51において増加することになるので、トータルとしての遮蔽量に変化は生じない。したがって、端部におけるビームプロファイルも元の状態のまま保たれることになり、照射量に変化が生じないようにすることができる。
【0061】
なお、図12(a)、(b)に示すように第2遮蔽部52のビーム断面における長辺方向の長さ寸法は第1遮蔽部51及び第3遮蔽部53と比較して大きくても、小さくてもどちらでも構わない。要するに異なる長さ寸法でありさえすればよい。
【0062】
ビーム断面における短辺方向にイオンビームの照射位置がずれている場合、マスクに対するイオンビームの照射角度も変化している恐れがある。この照射角度の変動によりビームプロファイルに変化が生じて均一性等が保てなくなるのを防ぐには、前記マスクをビーム断面における長辺方向に延びる軸を回転軸として回転可能に構成すればよい。このようなものであれば、照射角度が常に同じ状態となるように調節することが可能となり、照射角度の変動による影響を受けなくすることができる。
【0063】
本発明のイオンビーム照射装置は、例えばイオン注入装置、イオンドーピング装置、イオンビームデポジション装置、イオンビームエッチング装置等様々な用途を含む概念である。要するにリボン状のイオンビームの端部を基板上に照射したり、端部の重ね合わせが問題になったりする用途であれば適用可能である。また、基板としては半導体基板に限られるものではなく、シリコンウェーハや、ガラス基板やその他のイオンビームが照射される板状のものであってもよい。
【0064】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形や実施形態の組み合わせを行ってもかまわない。
【符号の説明】
【0065】
5 :マスク
51 :第1遮蔽部
52 :第2遮蔽部
53 :第3遮蔽部
100 :イオンビーム照射装置
IB :イオンビーム
W :基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14