特許第6028575号(P6028575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6028575車両用操舵制御装置及び車両用操舵制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028575
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】車両用操舵制御装置及び車両用操舵制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20161107BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20161107BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20161107BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D113:00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-3885(P2013-3885)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2014-133521(P2014-133521A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓
(72)【発明者】
【氏名】久保川 範規
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 正樹
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−236328(JP,A)
【文献】 特開2001−88729(JP,A)
【文献】 特開2004−175196(JP,A)
【文献】 特開2005−297667(JP,A)
【文献】 特開2013−1370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪を転舵駆動する転舵アクチュエータと、
ステアリングホイールの操舵状態に応じた転舵指令角を、前記転舵輪を転舵可能な限界の転舵角である最大転舵角付近の角度を上限角度とし、転舵指令角演算値として演算する転舵指令角演算部と、
操舵角を検出する操舵角検出部と、
少なくとも前記操舵角検出部で検出した操舵角に基づいて、運転者によるステアリングホイールの切り増し操作を検出する切り増し検出部と、
前記切り増し検出部で運転者によるステアリングホイールの切り増し操作を検出しており、前記転舵指令角演算部で演算した転舵指令角演算値が、前記上限角度付近で且つ当該上限角度よりも小さい制限開始角度を超えているとき、当該転舵指令角演算値の変化率を制限した結果を転舵指令角出力値として設定する転舵指令角制限部と、
前記転舵輪の転舵角を、前記転舵指令角制限部で設定した転舵指令角出力値とするべく前記転舵アクチュエータを駆動制御する駆動制御部と、を備えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項2】
前記転舵輪の転舵角を検出する転舵角検出部を備え、
前記転舵指令角制限部は、前記転舵指令角演算部で演算した転舵指令角演算値が前記制限開始角度を超えており、且つ前記転舵角検出部で検出した転舵角が前記制限開始角度未満であるとき、前記転舵指令角出力値を前記制限開始角度で保持することを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項3】
車速を検出する車速検出部を備え、
前記転舵指令角制限部は、前記車速検出部で検出した車速が予め設定した設定車速よりも速いとき、前記車速検出部で検出した車速が前記設定車速以下であるときと比較して、前記転舵指令角演算値の変化率を制限する量を小さくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項4】
ステアリングホイールの操舵状態に応じた転舵指令角演算値を、転舵輪を転舵可能な限界の転舵角である最大転舵角付近の角度を上限角度として演算し、
演算した転舵指令角演算値が、前記上限角度付近で且つ当該上限角度よりも小さい制限開始角度を超えているとき、当該転舵指令角演算値の切り増し方向の変化率を制限した結果を転舵指令角出力値として演算し、
前記転舵輪の転舵角を前記転舵指令角出力値とするべく、前記転舵輪を転舵駆動する転舵アクチュエータを駆動制御することを特徴とする車両用操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵輪と転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離した状態で、転舵アクチュエータによって転舵輪を操舵輪の操作に応じた角度(目標転舵角)に転舵する、車両用操舵制御装置及び車両用操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵輪(ステアリングホイール)と転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離した状態で、転舵モータを駆動制御し、転舵輪を、操舵輪の操作に応じた角度(目標転舵角)に転舵する操舵制御装置がある。このような操舵制御装置は、一般的に、ステアバイワイヤ(SBW)と呼称するシステム(SBWシステム)を形成する装置である。
このような操舵制御装置としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、転舵輪が縁石等に当接している状態で操舵輪を転舵方向へ操作し続けている場合に、転舵モータへ供給する駆動電流を減少して、転舵モータに駆動電流を供給し続けることを防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−217988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術にあっては、ラックエンド(ラック軸の端部)がステアリングラックに当接するようなフル転舵時への対応については説明がなされていない。フル転舵時にラックエンドがステアリングラックに当接すると、当たり音が発生し、乗員に不快感を与える場合がある。
そこで、本発明は、フル転舵時におけるラックエンドとステアリングラックとの接触を抑制することができる車両用操舵制御装置及び車両用操舵制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、ステアリングホイールの操舵状態に応じた転舵指令角演算値を、転舵輪を転舵可能な限界の転舵角である最大転舵角付近の角度を上限角度として演算する。また、その転舵指令角演算値が、上限角度付近で且つ当該上限角度よりも小さい制限開始角度を超えているとき、当該転舵指令角演算値の切り増し方向の変化率を制限した結果を転舵指令角出力値として演算する。そして、転舵輪の転舵角を、上記転舵指令角出力値とするべく転舵アクチュエータを駆動制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、操舵状態に応じて演算した転舵指令角が最大転舵角(ラックエンド角)付近であるとき、転舵指令角の切り増し方向の変化率を制限する。したがって、ラックエンドとステアリングラックとの接触を抑制し、異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る車両用操舵制御装置を適用したステアバイワイヤシステムの全体構成図である。
図2】本実施形態に係る車両用操舵制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】転舵指令角演算処理手順を示すフローチャートである。
図4】本実施形態の動作を説明する図である。
図5】ラックの当たり音発生の現象を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
(構成)
図1は、本実施形態の車両用操舵制御装置1を備えた車両の概略構成を示す図である。また、図2は、本実施形態の車両用操舵制御装置1の概略構成を示すブロック図である。
本実施形態の車両用操舵制御装置1を備えた車両は、SBWシステムを適用した車両である。
ここで、SBWシステムでは、車両の運転者が操舵操作する操舵輪(ステアリングホイール)の操作に応じて転舵モータを駆動制御して、転舵輪を転舵する制御を行うことにより、車両の進行方向を変化させる。転舵モータの駆動制御は、ステアリングホイールと転舵輪との間に介装するクラッチを、通常状態である開放状態に切り換えて、ステアリングホイールと転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う。
【0009】
そして、例えば、断線等、SBWシステムの一部に異常が発生した場合には、開放状態のクラッチを締結状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に接続することにより、運転者がステアリングホイールに加える力を用いて、転舵輪の転舵を継続する。
図1及び図2中に示すように、本実施形態の操舵制御装置1は、転舵モータ2と、転舵モータ制御部4と、クラッチ6と、反力モータ8と、反力モータ制御部10を備える。
【0010】
転舵モータ2は、転舵モータ制御部4が出力する転舵モータ駆動電流に応じて駆動するモータであり、回転可能な転舵モータ出力軸12を有する。そして、転舵モータ2は、転舵モータ駆動電流に応じて駆動することにより、転舵輪を転舵させるための転舵トルクを出力する。
転舵モータ出力軸12の先端側には、ピニオンギアを用いて形成した転舵出力歯車12aを設けている。
転舵出力歯車12aは、ステアリングラック14に挿通させたラック軸18の両端部間に設けたラックギア18aと噛合する。
【0011】
また、転舵モータ2には、転舵モータ角度センサ16を設ける。転舵モータ角度センサ16は、転舵モータ2の回転角度を検出し、この検出した回転角度(転舵モータ回転角θt)を含む情報信号を、転舵モータ制御部4を介して、反力モータ制御部10へ出力する。
転舵輪24R,24Lの転舵角θrは、転舵出力歯車12aの回転角度と、ラック軸18のラックギアと転舵出力歯車12aとのギア比とによって一意に決定する。そのため、本実施形態では、転舵モータ回転角θtから転舵輪24R,24Lの転舵角θrを求めるものとする。
【0012】
また、ステアリングラック14は、円筒形状に形成してあり、転舵モータ出力軸12の回転、すなわち、転舵出力歯車12aの回転に応じて車幅方向へ変位するラック軸18を挿通している。
ステアリングラック14の内部には、ラック軸18の外径面を全周から覆うストッパ部14aを二つ設ける。二つのストッパ部14aは、それぞれ、ステアリングラック14の内部において、転舵出力歯車12aよりも車幅方向右側及び左側に設ける。なお、図1中では、二つのストッパ部14aのうち、転舵出力歯車12aよりも車幅方向右側に設けたストッパ部14aの図示を省略している。
【0013】
ラック軸18の、ステアリングラック14に挿通させて内部に配置した部分のうち、ストッパ部14aよりも車幅方向右側及び左側の部分には、それぞれ、ストッパ部14aとラック軸18の軸方向で対向する端当て部材18bを設ける。なお、図1中では、二つの端当て部材18bのうち、ストッパ部14aよりも車幅方向右側に設けた端当て部材18bの図示を省略している。
ラック軸18の両端は、それぞれ、タイロッド20及びナックルアーム22を介して、転舵輪24に連結する。また、ラック軸18とタイロッド20との間には、タイヤ軸力センサ26を設ける。
タイヤ軸力センサ26は、ラック軸18の軸方向(車幅方向)に作用する軸力を検出し、この検出した軸力(タイヤ軸力)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
【0014】
転舵輪24は、車両の前輪(左右前輪)であり、転舵モータ出力軸12の回転に応じてラック軸18が車幅方向へ変位すると、タイロッド20及びナックルアーム22を介して転舵し、車両の進行方向を変化させる。なお、本実施形態では、転舵輪24を、左右前輪で形成した場合を説明する。これに伴い、図1中では、左前輪で形成した転舵輪24を、転舵輪24Lと示し、右前輪で形成した転舵輪24を、転舵輪24Rと示す。
転舵モータ制御部4は、反力モータ制御部10と、CAN(Controller Area Network)等の通信ライン28を介して、情報信号の入出力を行う。
【0015】
また、転舵モータ制御部4は、転舵位置サーボ制御部30を有する。
転舵位置サーボ制御部30は、実転舵角θrが、後述する指令演算部54が出力する転舵指令角と一致するように、転舵モータ2の電流指令値(転舵モータ駆動電流)を演算する。ここで、転舵位置サーボ制御部30は、転舵指令角に所定の応答特性で実転舵角が追従するように制御演算する角度サーボ制御により、転舵モータ2の電流指令値を演算する。角度サーボ制御では、フィードフォワード制御+フィードバック制御+ロバスト補償により、上記電流指令値を演算する。そして、転舵モータ2の転舵モータ実電流が上記電流指令値に追従するための転舵モータ2の駆動電圧を演算し、当該駆動電圧に基づいて転舵モータ2を駆動制御する。
【0016】
クラッチ6は、運転者が操作するステアリングホイール32と転舵輪24との間に介装し、反力モータ制御部10が出力するクラッチ駆動電流に応じて、開放状態または締結状態に切り換わる。なお、クラッチ6は、通常状態では、開放状態である。
ここで、クラッチ6の状態を開放状態に切り換えると、ステアリングホイール32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に分離させて、ステアリングホイール32の操舵操作が転舵輪24へ伝達されない状態とする。一方、クラッチ6の状態を締結状態に切り換えると、ステアリングホイール32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に結合させて、ステアリングホイール32の操舵操作が転舵輪24へ伝達される状態とする。
【0017】
また、ステアリングホイール32とクラッチ6との間には、操舵角センサ34と、操舵トルクセンサ36と、反力モータ8と、反力モータ角度センサ38を配置する。
操舵角センサ34は、例えば、ステアリングホイール32を回転可能に支持するステアリングコラムに設ける。この操舵角センサ34は、ステアリングホイール32の現在の回転角度(操舵操作量)である現在操舵角θを検出する。操舵角θは、ステアリングホイール32を右方向に回転させる方向を正方向とし、左方向に回転させる方向を負方向とする。
【0018】
そして、操舵角センサ34は、検出したステアリングホイール32の現在操舵角θを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
操舵トルクセンサ36は、操舵角センサ34と同様、例えば、ステアリングホイール32を回転可能に支持するステアリングコラムに設ける。
この操舵トルクセンサ36は、運転者がステアリングホイール32に加えているトルクである操舵トルクを検出する。そして、操舵トルクセンサ36は、検出した操舵トルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
【0019】
また、クラッチ6は、開放状態で互いに離間し、締結状態で互いに噛合する一対のクラッチ板40を有する。なお、図1中及び以降の説明では、一対のクラッチ板40のうち、ステアリングホイール32側に配置するクラッチ板40を、「操舵輪側クラッチ板40a」とし、転舵輪24側に配置するクラッチ板40を、「転舵輪側クラッチ板40b」とする。
操舵輪側クラッチ板40aは、ステアリングホイール32と共に回転するステリングシャフト42に取り付けてあり、ステリングシャフト42と共に回転する。転舵輪側クラッチ板40bは、ピニオン軸44の一端に取り付けてあり、ピニオン軸44と共に回転する。
【0020】
ピニオン軸44の他端は、ピニオン46内に配置してある。ピニオン46には、ラックギア18aと噛合するピニオンギア(図示せず)を内蔵する。
ピニオンギアは、ピニオン軸44と共に回転する。すなわち、ピニオンギアは、ピニオン軸44を介して、転舵輪側クラッチ板40bと共に回転する。
また、ピニオン46には、ピニオン角度センサ48を設ける。このピニオン角度センサ48は、ピニオンギアの回転角度(ピニオン回転角)を検出し、この検出した回転角度を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
【0021】
反力モータ8は、反力モータ制御部10が出力する反力モータ駆動電流に応じて駆動するモータであり、ステアリングホイール32と共に回転するステリングシャフト42を回転させて、ステアリングホイール32へ操舵反力を出力可能である。ここで、反力モータ8がステアリングホイール32へ出力する操舵反力は、クラッチ6を開放状態に切り換えて、ステアリングホイール32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に分離させている状態で、転舵輪24に作用しているタイヤ軸力やステアリングホイール32の操舵状態に応じて演算する。これにより、ステアリングホイール32を操舵する運転者へ、適切な操舵反力を伝達する。すなわち、反力モータ8がステアリングホイール32へ出力する操舵反力は、運転者がステアリングホイール32を操舵する操作方向とは反対方向へ作用する反力である。
【0022】
反力モータ角度センサ38は、反力モータ8に設けるセンサである。この反力モータ角度センサ38は、反力モータ8の回転角度を検出し、この検出した回転角度(反力モータ回転角)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
反力モータ制御部10は、転舵モータ制御部4と、通信ライン28を介して、情報信号の入出力を行う。これに加え、反力モータ制御部10は、通信ライン28を介して、車速センサ50及びエンジンコントローラ52が出力する情報信号の入力を受ける。
【0023】
また、反力モータ制御部10は、通信ライン28を介して入力を受けた情報信号や、各種センサから入力を受けた情報信号に基づき、反力モータ8を駆動制御する。
車速センサ50は車両の車速を検出し、この検出した車速を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
エンジンコントローラ52(エンジンECU)は、エンジン(図示せず)の状態(エンジン駆動、または、エンジン停止)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
反力モータ制御部10は、図2に示すように、指令演算部54と、反力サーボ制御部56と、クラッチ制御部58を有する。
【0024】
指令演算部54は、車速センサ50、操舵角センサ34、エンジンコントローラ52、操舵トルクセンサ36、反力モータ角度センサ38、ピニオン角度センサ48、タイヤ軸力センサ26及び転舵モータ角度センサ16が出力した情報信号の入力を受ける。そして、指令演算部54は、反力指令値を演算する反力指令値演算処理と、クラッチ指令を演算するクラッチ指令演算処理と、転舵指令角を演算する転舵指令角演算処理とを実行する。この指令演算部54の詳細な構成についての説明は、後述する。
【0025】
反力サーボ制御部56は、反力モータ8を駆動させるための反力モータ駆動電流を反力モータ8へ出力する。すなわち、反力サーボ制御部56は、実反力トルクを指令演算部54が出力する反力指令値に一致するための反力モータ8への電流指令値(反力モータ駆動電流)を演算し、その電流指令値をもとに反力モータ8を駆動制御する。ここでは、フィードフォワード制御+フィードバック制御+ロバスト補償による反力サーボ制御により、上記電流指令値を演算する。
クラッチ制御部58は、指令演算部54が出力するクラッチ指令に基づいて、開放状態のクラッチ6を締結状態へ切り換えるために必要な電流を、クラッチ駆動電流として演算する。そして、演算したクラッチ駆動電流を、クラッチ6へ出力する。
【0026】
(指令演算部54の詳細な構成)
以下、指令演算部54の詳細な構成について説明する。
反力指令値演算処理では、指令演算部54は、例えば、車速センサ50及び転舵モータ角度センサ16が出力した情報信号に基づき、転舵モータ回転角θtに、車速に応じた反力モータ用ゲインGhを乗算して、反力指令値を演算する。演算した反力指令値は、反力サーボ制御部56へ出力する。
クラッチ指令演算処理では、指令演算部54は、入力した各種情報信号に基づき、クラッチ指令を演算する。演算したクラッチ指令は、クラッチ制御部58へ出力する。
【0027】
転舵指令角演算処理では、指令演算部54は、例えば、車速センサ50及び操舵角センサ34が出力した情報信号に基づき、転舵指令角を演算する。このとき、現在操舵角θに、車速に応じて設定したギア比を乗算して、転舵指令角を演算する。このとき、指令演算部54は、転舵指令角が予め設定した閾値を超えているとき、転舵指令角の切り増し方向の変化率を制限するようにする。
図3は、指令演算部54が実行する転舵指令角演算処理手順を示すフローチャートである。なお、転舵角及び転舵指令角は右方向への転舵と左方向への転舵とで正負が異なるが、ここでは説明を簡素化するために正符号で記述し説明する。負符号の場合は符号を逆にして読みかえるものとする。
【0028】
先ずステップS1で、指令演算部54は、車速センサ50及び操舵角センサ34が出力した情報信号を取得し、ステップS2に移行する。
ステップS2では、指令演算部54は、前記ステップS1で取得した現在操舵角θ及び車速に基づいて転舵指令角(転舵指令角演算値)θr0を演算し、ステップS3に移行する。このとき、転舵指令角演算値θr0には上限値θr2を設けるものとする。当該上限値θr2は、転舵輪24を転舵可能な限界の転舵角(ラックエンド角)付近に設定するものとし、例えばラックエンド角−10°とする。
ここで、ラックエンド角とは、ストッパ部14aと端当て部材18bとが当接している状態における、転舵輪24の転舵角であり、車両の設計時、製造時、工場出荷時等において、予め設定する。
【0029】
ステップS3では、指令演算部54は、前記ステップS1で取得した現在操舵角θに基づいて、運転者がステアリングホイール32を切り増し操作しているか否かを判定する。例えば、現在操舵角θに基づいて操舵角速度を演算し、演算した操舵角速度の符号と現在操舵角θの符号とが同符号であるとき、運転者がステアリングホイールの切り増し操作を行っていると判断する。そして、ステアリングホイール32を切り戻し操作していると判定した場合にはステップS4に移行し、ステアリングホイール32を切り増し操作していると判定した場合には後述するステップS6に移行する。
【0030】
ステップS4では、指令演算部54は、前記ステップS2で演算した転舵指令角演算値θr0を、転舵モータ制御部4の転舵位置サーボ制御部30に出力する転舵指令角(転舵指令角出力値)θr1として設定し、ステップS5に移行する。
ステップS5では、指令演算部54は、設定した転舵指令角出力値θr1を転舵位置サーボ制御部30に出力して転舵指令角演算処理を終了する。
【0031】
また、ステップS6では、指令演算部54は、前記ステップS2で演算した転舵指令角演算値θr0が、予め設定した制限開始角度(閾値)θrthを超えているか否かを判定する。ここで、閾値θrthは、ラックエンド付近の上限値θr2よりも小さい角度(例えば、ラックエンド角−20°)に設定する。そして、θr0>θrthである場合にはステップS7に移行し、θr0≦θrthである場合には前記ステップS4に移行する。
ステップS7では、指令演算部54は、実転舵角θrが閾値θrth以上であるか否かを判定し、実転舵角θrが閾値θrth未満(θrth>θr)である場合にはステップS8に移行する。ステップS8では、指令演算部54は、転舵指令角出力値θr1を閾値θrthで保持して(θr1=θrth)前記ステップS5に移行する。
【0032】
一方、前記ステップS7で、実転舵角θrが閾値θrth以上である(θrth≦θr)と判定した場合にはステップS9に移行する。ステップS9では、指令演算部54は、レートリミットを適用して転舵指令角出力値θr1を演算し、前記ステップS5に移行する。具体的には、転舵指令角出力値θr1を、前記ステップS8で保持した閾値θrthから転舵指令角演算値θr0まで増加する際に、増加率に制限(最大増加幅Δθr)を設けて転舵指令角出力値θr1を緩変化するようにする。ここで、最大増加幅Δθrは、例えば実転舵角θrが転舵指令角θr1に遅れなく追従可能な程度に設定する。
このように、指令演算部54は、転舵指令角の演算に際し、ラックエンド付近の閾値θrthを超える領域では、転舵指令角演算値θr0に対してレートリミット処理を施すことにより、最終的な転舵指令角(転舵指令角出力値θr1)の切り増し方向の変化が緩やかになるようにする。
【0033】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について、図4を参照しながら説明する。
本SBWシステムは、クラッチ6の締結を解除した状態でSBW制御を実行する。
SBW制御中の時刻t1で運転者がステアリング操作を開始し、フル転舵すべくステアリングホイール32を最大操舵角(切り込み限界角)に向けて操作し始めると、操舵角センサ34は運転者が入力した操舵角θを検出する。そして、反力モータ制御部10は、操舵角θに応じた転舵量(転舵指令角演算値θr0)を演算する(図3のステップS2)。
このとき、転舵指令角演算値θr0はラックエンド付近の閾値θrth以下であるため(ステップS6でNo)、反力モータ制御部10は、転舵指令角演算値θr0を最終的な転舵指令角(転舵指令角出力値θr1として設定する(ステップS4)。すると、転舵モータ制御部4は、実転舵角θrが当該転舵指令角θr1となるように転舵モータ2を駆動制御する。これにより、転舵輪11R,11Lが転舵する。
【0034】
転舵指令角演算値θr0がラックエンド付近の角度(ラックエンド角−20°)に設定した閾値θrth以下である時刻t1〜t2間は、操舵状態に応じて演算した転舵指令角θr0がそのまま最終的な転舵指令角θr1となる。そして、その転舵指令角θr1に基づいて転舵モータ2を駆動制御すると、実転舵角θrは転舵指令角θr1に所定の応答性で追従する。すなわち、実転舵角θrは操舵状態に応じた値となる。
【0035】
また、転舵輪24R,24Lの転舵によって、路面から転舵輪24R,24Lへ路面反力が入力する。そのため、反力モータ制御部10は、反力モータ8を駆動制御して、実路面反力に相当する操舵反力をステアリングホイール32に付与する。このようにしてSBW制御を行うことで、運転者は自身の感覚に合致したステアリング操作を行うことができる。
その後、時刻t2で転舵指令角演算値θr0が閾値θrthを超えると(ステップS6でYes)、反力モータ制御部10は、実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1(=θr0)に達しているか否かを判定する。この時刻t2では、実転舵角θrは転舵指令角出力値θr1(=θr0)に達していないため(ステップS7でNo)、反力モータ制御部10は、転舵指令角出力値θr1を閾値θrthで保持する(ステップS8)。
【0036】
このように、転舵指令角出力値θr1を保持することで、実転舵角θrは徐々に転舵指令角出力値θr1に追いついていく。また、この時刻t2以降、転舵指令角演算値θr0は運転者によるステアリング操作に応じて増加を続け、転舵指令角の上限値θr2に達すると当該上限値θr2を維持する。
時刻t3で実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1(=θrth)に達すると(ステップS7でYes)、反力モータ制御部10は、レートリミット処理により、転舵指令角出力値θr1を閾値θrthから転舵指令角演算値θr0(=θr2)に向けて緩増加する(ステップS9)。このとき、実転舵角θrは、転舵指令角出力値θr1に遅れなく追従する。
【0037】
そして、時刻t4で転舵指令角出力値θr1が転舵指令角演算値θr0(=θr2)に達し、転舵指令角出力値θr1が上限値θr2を維持すると、実転舵角θrもこれに追従して上限値θr2を維持する。このように、実転舵角θrは、転舵指令角出力値θr1に遅れなく追従する。
ところで、上述したレートリミット処理等を行わず、操舵状態に応じて演算した転舵指令角をそのまま最終的な転舵指令角として設定した場合、ラックから当たり音がするといった現象が生じる。以下、この点について、図5を参照しながら詳細に説明する。
ここでは、時刻t11で運転者がステアリング操作を開始し、ステアリングホイールを最大操舵角(切り込み限界角)に向けて操作した場合について説明する。この場合、最終的な転舵指令角(ここでは、転舵指令角出力値θr1´とする)は、時刻t12で上限値θr2に達するまで、操舵状態に応じて増加する。そして、時刻t12で上限値θr2に達した後は、上限値θr2を維持する。
【0038】
この場合、転舵モータは、実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1´に追いつく時刻t13までの間フル駆動し、実転舵角θrは、上限値θr2に向けて比較的大きな増加率で増加する。そのため、時刻t13で実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1´(=θr2)に追いついた後、実転舵角θrを上限値θr2で維持しようとしても、タイヤの慣性力により実転舵角θrがオーバーシュートする。すなわち、図5に示すように、実転舵角θrは、時刻t14でラックエンド角に達した後で上限値θr2に収束する。
そして、実転舵角θrがラックエンド角に達する時刻t14では、ストッパ部14aと端当て部材18bとが当接することにより当たり音が発生する。この当たり音の発生は、乗員にとって不快感となり得る。
【0039】
これに対して、本実施形態では、ラックエンド付近における転舵指令角の増加率を制限するため、実転舵角θrの変化速度を緩やかにすることができ、上述したオーバーシュートを抑制することができる。また、転舵指令角にはラックエンド角よりも小さい上限角度(上限値θr2)を設けており、その上限角度よりもさらに小さい制限開始角度(閾値θrth)を超えたときに転舵指令角の増加率の制限を開始するので、実転舵角θrがラックエンド角に達してしまうのを確実に防止することができる。その結果、異音発生を防止し、運転者に不快感を与えるのを防止することができる。
【0040】
さらに、ラックエンド付近では、転舵指令角に対する実転舵角の応答性を落としても運転者に違和感を与え難い。また、転舵輪24がゆっくりと操舵状態に応じた転舵位置に追いついて止まるため、車両のロールを抑え、揺り返しを抑制することができる。このように、良好な操舵フィーリングを確保した状態で異音発生を防止することができる。
そして、運転者がステアリングホイール32を最大操舵角まで操作している状態から、切り戻し方向へ操作すると(ステップS3でNo)、反力モータ制御部10は、操舵状態に応じた転舵指令角演算値θr0をそのまま転舵指令角出力値θr1として設定する(ステップS4)。すなわち、転舵指令角演算値θr0が閾値θrthを超えている状態であっても、上述した切り増し方向へ操舵している場合のようなレートリミット処理は行わない。したがって、操舵状態に応じて素早く実転舵角θrを中立方向に戻すことができる。
【0041】
なお、図1において、転舵モータ2が転舵アクチュエータに対応し、転舵モータ制御部4が駆動制御部に対応している。また、転舵モータ角度センサ16が転舵角検出部に対応し、車速センサ50が車速検出部に対応している。さらに、図3において、ステップS2が転舵指令角演算部に対応し、ステップS3が切り増し検出部に対応し、ステップS6〜S9が転舵指令角制限部に対応している。
【0042】
(効果)
第1の実施形態では、以下の効果が得られる。
(1)反力モータ制御部10は、ステアリングホイール32の操舵状態に応じた転舵指令角演算値θr0を、ラックエンド角付近の上限値θr2を上限角度として演算する。また、反力モータ制御部10は、少なくとも操舵角センサ34で検出した現在操舵角θに基づいて、運転者によるステアリングホイールの切り増し操作を検出する。そして、反力モータ制御部10は、転舵指令角演算値θr0が、上限値θr2付近で且つ上限値θr2よりも小さい閾値θrthを超えており、運転者が切り増し操作を行っているとき、転舵指令角演算値θr0の変化率を制限した結果を転舵指令角出力値θr1として演算する。転舵モータ制御部4は、転舵輪の転舵角θrを転舵指令角出力値θr1とするべく転舵モータ8を駆動制御する。
【0043】
これにより、操舵状態に応じて演算した転舵指令角演算値θr0が最大転舵角(ラックエンド角)付近の閾値θrthを超えているとき、転舵指令角出力値θr1を緩やかに変化することができる。したがって、フル転舵時に実転舵角θrが上限値θr2に達したときのオーバーシュートを抑制することができる。そのため、ラックエンドとステアリングラックとの接触を防止し、異音の発生を防止することができる。
【0044】
(2)反力モータ制御部10は、転舵指令角演算値θr0が閾値θrthを超えており、且つ実転舵角θrが閾値θrth未満であるとき、転舵指令角出力値θr1を閾値θrthに保持する。
このように、実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1に追いついていない場合には、転舵指令角出力値θr1の増加を停止し、実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1に追いつくのを待つ。これにより、閾値θrthを超えるラックエンド付近では、実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1に遅れなく追従した状態とすることができる。したがって、確実に上記オーバーシュートを抑制し、異音の発生を防止することができる。
【0045】
(3)ステアリングホイール32の操舵状態に応じた転舵指令角演算値θr0を、ラックエンド角付近の上限値θr2を上限角度として演算する。次に、転舵指令角演算値θr0が、上限値θr2付近で且つ上限値θr2よりも小さい閾値θrthを超えているとき、当該転舵指令角演算値θr0の切り増し方向の変化率を制限した結果を転舵指令角出力値θr1として演算する。そして、転舵輪の転舵角θrを転舵指令角出力値θr1とするべく転舵モータ8を駆動制御する。
これにより、操舵状態に応じて演算した転舵指令角演算値θr0が最大転舵角(ラックエンド角)付近の閾値θrthを超えているとき、転舵指令角出力値θr1を緩やかに変化することができる。したがって、フル転舵時に実転舵角θrが上限値θr2に達したときのオーバーシュートを抑制することができる。そのため、ラックエンドとステアリングラックとの接触を防止し、異音の発生を防止することができる。
【0046】
(変形例)
(1)上記実施形態においては、レートリミット処理のリミット値(最大増加幅Δθr)を車速に応じて変更することもできる。走行中は停車中と比較してレートリミット処理を施すことに起因する違和感が発生し易い。そこで、例えば、車速が設定車速よりも速い場合には、車速が設定車速以下である場合と比較してレートリミットを緩和する(最大増加幅Δθrを大きくする)ようにする。これにより、上記違和感を低減することができる。なお、車速に応じたゲインを用い、車速が速いほどレートリミットを緩和するようにしてもよい。
【0047】
(2)上記実施形態においては、転舵指令角演算値θr0が閾値θrthを超えており、且つ実転舵角θrが閾値θrth未満である場合に、転舵指令角出力値θr1を閾値θrthに保持しているが、この処理は省略することもできる。すなわち、転舵指令角演算値θr0が閾値θrthを超えた場合には、実転舵角θrにかかわらずレートリミット処理を実施してもよい。この場合にも、転舵指令角出力値θr1が上限値θr2に達する前に、実転舵角θrが転舵指令角出力値θr1に追いつくことが期待できる。したがって、転舵指令角出力値θr1が上限値θr2に達した後の実転舵角θrのオーバーシュートを抑制し、ラックエンドでの当たり音の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用操舵制御装置、2…転舵モータ、4…転舵モータ制御部、6…クラッチ、8…反力モータ、10…反力モータ制御部、12…転舵モータ出力軸、12a…転舵出力歯車、14…ステアリングラック、14a…ストッパ部、16…転舵モータ角度センサ、18…ラック軸、18a…ラックギア、18b…端当て部材、20…タイロッド、22…ナックルアーム、24…転舵輪、26…タイヤ軸力センサ、28…通信ライン、30…転舵位置サーボ制御部、32…ステアリングホイール、34…操舵角センサ、36…操舵トルクセンサ、38…反力モータ角度センサ、40…クラッチ板、42…ステリングシャフト、44…ピニオン軸、46…ピニオン、48…ピニオン角度センサ、50…車速センサ、52…エンジンコントローラ、54…指令演算部、56…反力サーボ制御部、58…クラッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5