特許第6028591号(P6028591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028591
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】電極の製造方法、及び電極の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
   H01M4/04 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-11251(P2013-11251)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-143099(P2014-143099A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】中溝 太一
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】木下 恭一
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−216375(JP,A)
【文献】 特開2014−096302(JP,A)
【文献】 特開2012−047245(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/082230(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布して活物質層を形成する電極の製造方法であって、
前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出工程と、
前記検出工程における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整工程と、を含み、
前記活物質ペーストが供給される供給部に前記金属箔を通過させることで、前記活物質ペーストを前記金属箔に塗布し、
前記調整工程では、前記活物質ペーストの塗布開始時における前記供給部での金属箔の通過速度を調整することで前記端高量を調整することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項2】
前記金属箔に塗布された活物質ペーストを加熱して乾燥させる乾燥工程をさらに含み、
前記調整工程では、前記乾燥工程における温度を調整することにより前記端高量を調整する請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布して活物質層を形成する電極の製造方法であって、
前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出工程と、
前記検出工程における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整工程と、を含み、
前記金属箔に塗布された活物質ペーストを加熱して乾燥させる乾燥工程をさらに含み、
前記調整工程では、前記乾燥工程における温度を調整することにより前記端高量を調整することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項4】
前記パラメータは、前記活物質ペーストの粘度である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記検出工程では、前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量を検出する請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記金属箔に前記活物質ペーストを間欠的に塗布する請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項7】
金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布する塗布装置を有する電極の製造装置であって、
前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出装置と、
前記検出装置における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整装置と、を有し、
前記塗布装置では、前記活物質ペーストが供給される供給部に前記金属箔を通過させることで、前記活物質ペーストを前記金属箔に塗布し、
前記調整装置では、前記活物質ペーストの塗布開始時における前記供給部での金属箔の通過速度を調整することで前記端高量を調整することを特徴とする電極の製造装置。
【請求項8】
金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布する塗布装置を有する電極の製造装置であって、
前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出装置と、
前記検出装置における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整装置と、を有し、
前記金属箔に塗布された活物質ペーストを加熱して乾燥させる乾燥炉をさらに有し、
前記調整装置では、前記乾燥炉における温度を調整することにより前記端高量を調整することを特徴とする電極の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法、及び電極の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)などの車両に搭載される蓄電装置としては、リチウムイオン二次電池や、ニッケル水素二次電池などがよく知られている。これらの蓄電装置では、金属箔の表面に活物質層を有する電極(正極及び負極)が間にセパレータを介在させた状態で層状に重なる電極組立体を有するものがある(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の蓄電装置では、予め増粘材のみが溶解された粘度調整用水溶液に対して、活物質および結着材をそれぞれ別々に分散させた後にこれらを混練することにより、活物質ペースト中における組成物の分布が不均一となることを抑制している。このため、特許文献1において、活物質ペーストを塗布して金属箔上に形成された活物質層は、金属箔から剥がれ難くなり、内部短絡を未然に防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−211975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、活物質ペーストを塗布して活物質層を形成する場合には、活物質ペーストの粘度に応じた塗布条件を設定することで、活物質ペーストの端部(縁部)における端高の発生を抑制することが行われている。
【0006】
しかしながら、一般に活物質ペーストの粘度は、溶媒の蒸発や活物質の沈降に伴って徐々に変化することが知られている。このため、バッチ単位で活物質ペーストの粘度を管理する特許文献1の技術では、活物質ペーストの粘度が時間の経過に伴って塗布条件に適合しなくなり、端高が発生し易くなる虞がある。
【0007】
この発明は、上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、活物質ペーストの粘度変化に伴う端高の発生を抑制できる電極の製造方法、及び電極の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する電極の製造方法は、金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布して活物質層を形成する電極の製造方法であって、前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出工程と、前記検出工程における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整工程と、を含み、前記活物質ペーストが供給される供給部に前記金属箔を通過させることで、前記活物質ペーストを前記金属箔に塗布し、前記調整工程では、前記活物質ペーストの塗布開始時における前記供給部での金属箔の通過速度を調整することで前記端高量を調整することを要旨とする
【0012】
これによれば、活物質ペーストの端高量と、端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方の検出結果をもとに、金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量が調整される。即ち、活物質ペーストの粘度が時間の経過に伴って変化する場合であっても、該活物質ペーストの粘度の変化に応じて活物質ペーストの端高量を調整できる。このため、活物質ペーストの粘度変化に伴う端高の発生を抑制できる。
また、これによれば、活物質ペーストの塗布開始時における供給部での金属箔の通過速度を遅くすることで、塗工始端における端高量を低くできる。即ち、供給部における金属箔の通過速度を調整することで、活物質ペーストの粘度変化に伴う端高の発生を簡便に抑制できる。
【0013】
また、上記電極の製造方法について、前記金属箔に塗布された活物質ペーストを乾燥させる乾燥工程をさらに含み、前記調整工程では、前記乾燥工程における温度を調整することにより前記端高量を調整することが好ましい。
【0014】
これによれば、乾燥工程における温度を調整することで、簡便に端高量を調整できる。即ち、乾燥工程における温度を低く設定することで、塗布された活物質ペーストを徐々に乾燥させ、乾燥中に活物質ペーストの縁部を自重で平坦に変形させることで端高の発生を抑制できる。
上記課題を解決する電極の製造方法は、金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布して活物質層を形成する電極の製造方法であって、前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出工程と、前記検出工程における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整工程と、を含み、前記金属箔に塗布された活物質ペーストを加熱して乾燥させる乾燥工程をさらに含み、前記調整工程では、前記乾燥工程における温度を調整することにより前記端高量を調整することを要旨とする。
これによれば、活物質ペーストの端高量と、端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方の検出結果をもとに、金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量が調整される。即ち、活物質ペーストの粘度が時間の経過に伴って変化する場合であっても、該活物質ペーストの粘度の変化に応じて活物質ペーストの端高量を調整できる。このため、活物質ペーストの粘度変化に伴う端高の発生を抑制できる。
また、これによれば、乾燥工程における温度を調整することで、簡便に端高量を調整できる。即ち、乾燥工程における温度を低く設定することで、塗布された活物質ペーストを徐々に乾燥させ、乾燥中に活物質ペーストの縁部を自重で平坦に変形させることで端高の発生を抑制できる。
【0015】
また、上記電極の製造方法について、前記パラメータは、前記活物質ペーストの粘度であることが好ましい。これによれば、金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量を検出し、該端高量の検出結果をもとに調整する場合と比較して、活物質ペーストの粘度変化に速やかに対応させて端高量を調整できる。
また、上記電極の製造方法について、前記検出工程では、前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量を検出することが好ましい。これによれば、端高量の変化に寄与するパラメータを検出し、該パラメータの検出結果をもとに調整する場合と比較して、より正確に活物質ペーストの端高量を調整できる。
【0016】
また、上記電極の製造方法について、前記金属箔に前記活物質ペーストを間欠的に塗布することが好ましい。これによれば、活物質ペーストを間欠的に塗布する場合であっても、塗工始端ごとに端高が発生することを抑制できる。
【0017】
また、上記課題を解決する電極の製造装置は、金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布する塗布装置を有する電極の製造装置であって、前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出装置と、前記検出装置における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整装置と、を有し、前記塗布装置では、前記活物質ペーストが供給される供給部に前記金属箔を通過させることで、前記活物質ペーストを前記金属箔に塗布し、前記調整装置では、前記活物質ペーストの塗布開始時における前記供給部での金属箔の通過速度を調整することで前記端高量を調整することを要旨とする。
また、上記課題を解決する電極の製造装置は、金属箔に活物質を含む活物質ペーストを塗布する塗布装置を有する電極の製造装置であって、前記金属箔に塗布された活物質ペーストの端高量と、前記金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方を検出する検出装置と、前記検出装置における検出結果をもとに前記端高量を調整する調整装置と、を有し、前記金属箔に塗布された活物質ペーストを加熱して乾燥させる乾燥炉をさらに有し、前記調整装置では、前記乾燥炉における温度を調整することにより前記端高量を調整することを要旨とする。
【0018】
これによれば、活物質ペーストの端高量と、端高量の変化に寄与するパラメータとの少なくとも一方の検出結果をもとに、調整装置によって、金属箔に塗布される活物質ペーストの端高量が調整される。即ち、活物質ペーストの粘度が時間の経過に伴って変化する場合であっても、該活物質ペーストの粘度の変化に応じて活物質ペーストの端高量を調整できる。したがって、活物質ペーストの粘度変化に伴う端高の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、活物質ペーストの粘度変化に伴う端高の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】電極の製造装置を模式的に示す正面図。
図2】制御装置が行う調整処理を示すフローチャート。
図3】金属箔の搬送速度と、活物質ペーストの粘度と、端高量との関係を示すマップデータを説明するための説明図。
図4】塗布面に垂直で、且つ搬送方向に沿った平面で切断したときの電極を模式的に示す断面図。
図5】別の実施形態における電極の製造装置を模式的に示す正面図。
図6】別の実施形態における電極の製造装置を模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、電極の製造装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、蓄電装置としてのリチウムイオン二次電池に用いる電極の製造装置10は、金属箔11の一方の面である塗布面11aに活物質ペースト12を塗布(転写)するための装置である。
【0022】
製造装置10は、電極としての正極電極を製造する場合、例えばアルミニウム箔である正極用の金属箔11に、正極用の活物質ペースト12を塗布し、塗布面11aに正極活物質層を設けるための装置となる。また、製造装置10は、電極としての負極電極を製造する場合、例えば銅箔である負極用の金属箔11に、負極用の活物質ペースト12を塗布し、塗布面11aに負極活物質層を設けるための装置となる。
【0023】
製造装置10は、供給ロール14aにロール状に捲回された帯状の金属箔11をセットし、装置に供給するための供給機構部14を備えている。また、供給機構部14の下流には、供給される金属箔11に対して、活物質ペースト12を塗布(転写)する塗布装置20が設けられている。
【0024】
塗布装置20は、活物質ペースト12を貯留するタンク21を有する。正極用の金属箔11に塗布する活物質ペースト12は、正極活物質、導電剤、バインダ、及び溶媒を混練したものが用いられる。また、負極用の金属箔11に塗布する活物質ペースト12は、負極活物質、導電剤、バインダ、及び溶媒を混練したものが用いられる。
【0025】
また、塗布装置20は、軸心まわりで搬送方向Y1とは反対方向Y2に回転可能に支持されるとともに、タンク21から供給される活物質ペースト12が外周面に付着される円柱状のコーティングロール22を有する。なお、塗布装置20では、金属箔11における幅方向の両縁部に活物質ペースト12が塗布されていない非塗布部が形成される幅で、活物質ペースト12がコーティングロール22の表面に付着されるようになっている。
【0026】
塗布装置20は、コーティングロール22と平行、且つ離間して配置され、コーティングロール22との間の隙間におけるコーティングロール22からの離間距離に応じて、コーティングロール22に付着させる活物質ペースト12の厚さを規制する略円柱状のコンマロール23を有する。
【0027】
また、塗布装置20は、軸心まわりで搬送方向Y1に回転可能に支持されるとともに、金属箔11を搬送方向Y1へ搬送する円柱状のバッキングロール25を有する。このバッキングロール25の回転軸には、バッキングロール25を軸心まわりで回転させる搬送モータ25aの出力軸が連結されている。
【0028】
バッキングロール25は、金属箔11をコーティングロール22に近接させ、金属箔11の塗布面11aに活物質ペースト12を塗布させる塗布位置に位置可能である。また、バッキングロール25は、塗布位置から離れた位置であり、金属箔11をコーティングロール22に近接させず、金属箔11の塗布面11aに活物質ペースト12を塗布させない離間位置に位置可能である。また、塗布装置20は、バッキングロール25を塗布位置と離間位置との間で移動させる移動モータ25bを有する。
【0029】
本実施形態では、バッキングロール25が塗布位置に位置した状態において、コーティングロール22に付着された活物質ペースト12と、バッキングロール25により搬送される金属箔11とが接触する部分が供給部Pとなる。
【0030】
また、搬送方向Y1における塗布装置20の下流には、金属箔11の塗布面11aに塗布された活物質ペースト12を加熱して乾燥させる乾燥炉30が設けられている。乾燥炉30の内部には、高温の熱媒体(例えば空気や窒素ガスなどの気体)が外部から供給され、金属箔11に塗布された活物質ペースト12を加熱するとともに、活物質ペースト12から蒸発した溶媒蒸気を乾燥炉30内から除去するようになっている。
【0031】
搬送方向Y1における乾燥炉30の出口の下流には、金属箔11を搬送方向Y1へ搬送しながら、乾燥済みの活物質ペースト12を一対のプレスロール32aにより加熱しながらロールプレス(圧縮)するプレス機構部32が設けられている。また、金属箔11の搬送方向Y1におけるプレス機構部32の下流には、金属箔11を巻取る巻取ロール36aを有する巻取機構部36が設けられている。
【0032】
また、製造装置10には、該製造装置10の動作を制御する制御装置28が設けられている。制御装置28は、図示しない中央処理装置(CPU)や記憶装置(メモリ)を有する。制御装置28の記憶装置には、各種の制御プログラムや各種のマップデータが記憶されているとともに、前記中央処理装置による処理結果(情報)が記憶される。また、制御装置28の中央処理装置は、記憶装置に記憶された制御プログラムにしたがって各種の処理を実行し、製造装置10の動作を制御する。
【0033】
制御装置28は、搬送モータ25aが接続されているとともに、該搬送モータ25aに供給する供給電流値Iを制御することで搬送モータ25aの回転速度Ra、即ち金属箔11の搬送速度を制御可能である。また、制御装置28は、搬送モータ25aが回転速度Raに応じて出力する回転速度信号に基づき、搬送モータ25aの回転速度Ra、即ち金属箔11の搬送速度を取得可能である。また、制御装置28は、移動モータ25bが接続されているとともに、該移動モータ25bの動作を制御することによりバッキングロール25の位置を制御可能である。
【0034】
次に、製造装置10による電極の製造方法について、その作用とともに説明する。
まず、ロール状に捲回された金属箔11を供給ロール14aにセットするとともに、調製した活物質ペースト12をタンク21に投入する。コーティングロール22の表面には、金属箔11における幅方向の両縁部に非塗布部が形成される幅で活物質ペースト12を付着させる。
【0035】
続けて、制御装置28の制御によりバッキングロール25を搬送方向Y1に回転させながら、塗布位置と離間位置との間を所定の時間間隔で移動させ、金属箔11の塗布面11aに活物質ペースト12を間欠的に、且つ略矩形状に塗布する(塗布工程)。
【0036】
これにより、金属箔11の塗布面11aには、搬送方向Y1に沿って、活物質ペースト12の塗布された略矩形状の塗布部12aが、活物質ペースト12の塗布されていない非塗布部12bを間に挟んで隣り合うように形成される。即ち、製造装置10では、供給部Pに金属箔11を通過させることにより、金属箔11に活物質ペースト12を塗布する。以下の説明では、塗布部12aの縁部のうち、金属箔11の搬送方向Y1側に形成される縁部を特に「塗工始端」と示す。
【0037】
次に、金属箔11に塗布された活物質ペースト12を乾燥炉30にて加熱し、乾燥させる(乾燥工程)。そして、金属箔11を搬送方向Y1へ搬送しながら、乾燥済みの活物質ペースト12を一対のプレスロール32aにより加熱しながらロールプレスし、圧縮する(プレス工程)。このプレス工程により、活物質層35が完成される。
【0038】
次に、巻取ロール36aにより金属箔11を巻き取る。巻き取った金属箔11は、再び製造装置10の供給ロール14aにセットし、上述と同様にして活物質層35が形成されていない側の面を新たな塗布面11aとして活物質層35を形成する。なお、活物質層35は、金属箔11の両面において重なる位置に形成する。
【0039】
次に、制御装置28がバッキングロール25の回転速度Raを調整するために実行する調整処理について、その作用とともに詳しく説明する。
図2に示すように、制御装置28は、調整処理において、まず活物質ペースト12の粘度Vを検出する(ステップS1)。詳しく説明すると、制御装置28は、搬送モータ25aの回転速度Ra、及びその時点において搬送モータ25aに供給している供給電流値Iを取得する。そして、制御装置28は、搬送モータ25aの回転速度Ra、及び供給電流値Iをもとに、第1マップデータを参照して活物質ペースト12の粘度Vを算出(検出)する。
【0040】
この第1マップデータは、制御装置28の記憶装置に予め記憶されており、搬送モータ25aの回転速度Raと供給電流値Iとの組み合わせに対して、活物質ペースト12の粘度Vを対応付けて構成される。第1マップデータは、回転速度Ra、供給電流値I、及び粘度Vの関係について、予め試験やシミュレーションをして求められる。なお、本実施形態における粘度Vは、BB型粘度計を用いて測定される粘度である。
【0041】
次に、制御装置28は、検出した粘度Vと、塗工始端における活物質ペースト12の目標とする端高量Hとをもとに、第2マップデータを参照し、端高量Hが許容範囲内となるように、搬送モータ25aの目標回転速度Rbを算出する(ステップS2)。
【0042】
図3に示すように、第2マップデータは、制御装置28の記憶装置に予め記憶されており、活物質ペースト12の粘度Vと、端高量Hとの組み合わせに対して、搬送モータ25aの回転速度Raを対応付けて構成される。第2マップデータは、粘度V、端高量H、及び搬送モータ25aの回転速度Raの関係について、予め試験やシミュレーションをして求められる。なお、第2マップデータでは、コーティングロール22とコンマロール23との離間距離、コーティングロール22の回転速度、及び乾燥炉30の炉内温度は一定とされている。
【0043】
ここで、図4に示すように、金属箔11に塗布された活物質ペースト12の塗工始端には、塗布面11aとは反対側のペースト表面12cから塗布面11aに垂直な方向に突出し、且つ金属箔11の幅方向に沿って延びる端高部12dが形成される場合がある。本実施形態における端高量Hは、ペースト表面12cから、塗布面11aに垂直な方向における端高部12dの先端までの距離である。
【0044】
図3の第2マップデータに示されるように、金属箔11の搬送速度(搬送モータ25aの回転速度Ra)が一定である場合には、活物質ペースト12の粘度Vが高くなるほど端高量Hが大きくなる一方で、粘度Vが低くなるほど端高量Hが小さくなる傾向がある。このため、活物質ペースト12の粘度Vは、塗工始端における端高量Hの変化に寄与するパラメータとなる。
【0045】
また、第2マップデータに示されるように、活物質ペースト12の粘度Vが一定である場合には、金属箔11の搬送速度(搬送モータ25aの回転速度Ra)が遅くなるほど端高量Hが小さくなる一方で、金属箔11の搬送速度が速くなるほど端高量Hが大きくなる傾向がある。
【0046】
そして、図2に示すように、制御装置28は、ステップS1の処理で検出した粘度Vと、現在の回転速度Raとの組み合わせをもとに第2マップデータを参照して現在の端高量Hを算出する。制御装置28は、算出した現在の端高量Hが予め目標として定めた端高量Hの上限値を超える場合、検出した粘度Vをもとに第2マップデータを参照し、端高量Hが下限値以上であって、且つ上限値以下となるように目標回転速度Rbを決定する。
【0047】
即ち、制御装置28は、粘度Vが高くなる場合、供給部Pを通過する金属箔11の搬送速度を低下させることで、端高量Hが上限値を超えないように、搬送モータ25aの目標回転速度Rbを算出する。
【0048】
一方、制御装置28は、算出した現在の端高量Hが予め目標として定めた端高量Hの下限値未満となる場合、検出した粘度Vをもとに第2マップデータを参照し、端高量Hが下限値以上であって、且つ上限値以下となるように目標回転速度Rbを決定する。
【0049】
即ち、制御装置28は、粘度Vが低くなる場合、供給部Pを通過する金属箔11の搬送速度を向上させることで、端高量Hが下限値未満とならないように、搬送モータ25aの目標回転速度Rbを算出する。
【0050】
そして、制御装置28は、第2マップデータを参照して目標回転速度Rbを算出すると、該算出した目標回転速度Rbを記憶装置に記憶させる。なお、制御装置28は、算出した現在の端高量Hが予め目標として定めた端高量Hの下限値以上であって、且つ上限値以下である場合、現在の目標回転速度Rbを維持する。
【0051】
次に、制御装置28は、制御装置28の記憶装置に記憶されている目標回転速度Rbを読み出すとともに、搬送モータ25aの回転速度Raが読み出した目標回転速度Rbとなるように供給電流値Iを制御する(ステップS3)。その後、制御装置28は、調整処理を終了する。
【0052】
したがって、本実施形態の製造装置10では、活物質ペースト12の粘度Vが時間の経過に伴って変化する場合であっても、塗工始端における端高量Hが下限値以上、且つ上限値以下となるように、バッキングロール25の回転速度Ra(金属箔11の搬送速度)が制御される。
【0053】
以上のように、本実施形態では、調整処理におけるステップS1の処理が活物質ペースト12の粘度Vを検出する検出工程となり、制御装置28は、活物質ペースト12の粘度Vを検出する検出装置として機能する。
【0054】
また、本実施形態では、調整処理におけるステップS2、及びステップS3の処理がステップS1における検出結果をもとに端高量Hを調整する調整工程となり、制御装置28は、ステップS1の処理による検出結果をもとに端高量Hを調整する調整装置として機能する。
【0055】
したがって、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)調整工程におけるステップS1の処理によって検出される活物質ペースト12の粘度Vをもとに、金属箔11に塗布される活物質ペースト12の端高量Hが調整される。即ち、活物質ペースト12の粘度Vが時間の経過に伴って変化する場合であっても、該活物質ペースト12の粘度Vの変化に応じて活物質ペースト12の端高量Hを調整できる。したがって、活物質ペースト12の塗工始端における端高部12dの発生を抑制できる。
【0056】
(2)粘度Vに基づき端高量Hを調整することから、金属箔11に塗布された活物質ペースト12の端高量Hを検出し、該端高量Hの検出結果をもとに調整する場合と比較して、活物質ペースト12の粘度変化に速やかに対応させて端高量Hを調整できる。
【0057】
(3)搬送モータ25aの回転速度Ra、即ち供給部Pを通過する金属箔11の通過速度を調整することで端高量Hを調整する。このため、活物質ペースト12の粘度変化に伴う端高の発生を簡便に抑制できる。
【0058】
(4)塗布工程において、活物質ペースト12を間欠的に塗工する場合であっても、塗工始端ごとに端高部12dが発生することを抑制できる。
(5)製造装置10は、検出される活物質ペースト12の粘度Vをもとに、金属箔11に塗布される活物質ペースト12の端高量Hを調整する。このため、製造装置10として、活物質ペースト12の粘度変化に伴う端高の発生を抑制できる。
【0059】
(6)活物質ペースト12の粘度Vに適した金属箔11の搬送速度にて、活物質ペースト12を金属箔11に塗布し得ることから、端高部12dの発生を抑制できることに加えて、金属箔11と活物質層との剥離強度を向上させることができる。
【0060】
(7)塗工始端における端高部12dの発生が抑制されることから、プレス機構部32によるロールプレス時に端高部12dが過剰に押圧され、金属箔11にシワや破断が生じることを抑制できる。
【0061】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
図5に示すように、製造装置10は、タンク21から活物質ペースト12を図示しないポンプにより圧送するとともに、該圧送される活物質ペースト12を吐出口から吐出して塗布面11aに塗布するスリットダイ40を有していてもよい。この場合、制御装置28は、スリットダイ40に圧送される活物質ペースト12の圧力Paに応じて圧力センサ41が出力する圧力信号に基づき、活物質ペースト12の粘度Vを検出するとよい。即ち、制御装置28は、検出信号に示される活物質ペースト12の圧力Paをもとに第3マップデータを参照して活物質ペースト12の粘度Vを算出(検出)するとよい。なお、第3マップデータは、活物質ペースト12の圧力Pa、及び粘度Vの対応付けについて、予め試験やシミュレーションをして求められる。
【0062】
○ 制御装置28は、金属箔11に塗布される活物質ペースト12の端高量Hの測定結果をもとに、目標とする端高量Hとなるようにバッキングロール25の回転速度Ra(金属箔11の搬送速度)を調整してもよい。この場合、図6に示すように、製造装置10には、金属箔11の搬送方向Y1における塗布装置20の下流に、塗布面11aに塗布された活物質ペースト12の厚さ、即ち塗布面11aからの高さに応じた高さ信号を出力する高さセンサ42を設ける。そして、制御装置28は、高さセンサ42が出力する高さ信号をもとに端高量Hを検出(検出工程)するとともに、検出した端高量Hをもとに第4マップデータを参照し、端高量Hが下限値以上であって、且つ上限値以下となるように、搬送モータ25aの目標回転速度Rbを算出する。なお、第4マップデータは、端高量H、及び搬送モータ25aの回転速度Raの対応付けについて、予め試験やシミュレーションをして求められる。これによれば、端高量Hの変化に寄与する粘度Vなどのパラメータを検出し、該パラメータの検出結果をもとに調整する場合と比較して、より正確に活物質ペースト12の端高量Hを調整できる。本別例では、制御装置28が端高量Hを検出する検出装置として機能する。
【0063】
○ 制御装置28は、乾燥工程における温度(乾燥温度)を調整することにより端高量Hを調整してもよい。これによれば、乾燥工程における温度を調整することで、簡便に端高量Hを調整できる。即ち、活物質ペースト12の端高量Hを低くするには、乾燥工程における温度を低く設定することで、塗布された活物質ペースト12を徐々に乾燥させ、乾燥中に活物質ペースト12の縁部を自重で平坦に変形させる。一方、活物質ペースト12の端高量Hを高くするには、乾燥工程における温度を高く設定することで、塗布された活物質ペースト12を急速に乾燥させ、乾燥中に活物質ペースト12の縁部が自重で平坦に変形することを抑制するとよい。
【0064】
○ 乾燥炉30では、例えば誘導加熱により金属箔11を発熱させ、その熱によって活物質ペースト12を乾燥させてもよい。また、乾燥炉30内にヒータを配設し、輻射熱により活物質ペースト12を加熱して乾燥させてもよい。
【0065】
○ 製造装置10は、塗布面11aに対して活物質ペースト12を連続的に塗布してもよい。この場合、制御装置28は、金属箔11に活物質ペースト12を塗布する間、バッキングロール25を連続して塗布位置に位置させればよい。
【0066】
○ 製造装置10は、例えば金属箔11の両面側にスリットダイ40をそれぞれ設け、金属箔11の両方の面に対して活物質ペースト12を塗布してもよい。
○ 製造装置10は、乾燥炉30、プレス機構部32、及び巻取機構部36を省略してもよい。
【0067】
○ 金属箔11を構成する金属を変更してもよい。
○ ニッケル水素二次電池や、電気二重層キャパシタなどの蓄電装置用の電極に具体化してもよい。
【0068】
○ 車両以外に用いられる蓄電装置用の電極に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0069】
H…端高量、P…供給部、V…粘度(パラメータ)、10…製造装置、11…金属箔、12…活物質ペースト、12d…端高部(端高)、20…塗布装置、28…制御装置(検出装置、調整装置)、35…活物質層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6