(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも炭素材料として酸化グラファイトを含む薄膜状粒子と、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物とを湿式混合する工程1と、前記混合ペーストを噴霧乾燥し造粒する工程2と、更に前記造粒体を熱処理した焼結体を得る工程3とを有することを特徴とする炭素触媒の製造方法。
炭素元素と、窒素元素と、遷移金属元素とを含有する焼結体であって、平均粒子径が0.5〜100μmであり、前記炭素元素が、少なくとも酸化グラファイトを含む薄膜状粒子を含む炭素材料由来であることを特徴とする炭素触媒。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における炭素触媒は、少なくとも酸化グラファイトを含む薄膜状粒子を含む炭素材料由来である炭素元素と、窒素元素と、遷移金属元素とを含有する焼結体である。
ここでいう焼結体とは、複数の酸化グラファイトを含む薄膜状粒子や炭素粒子同士が化学的な結合により結着し、一つの炭化物の塊を形成したものである。具体的には、炭素粒子間を、有機物の熱分解により生成した炭化物や、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子表面にある酸素含有極性官能基(フェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基等)の熱分解によって結着した状態のものである。そのため、細かな一次粒子同士が物理的な吸着により凝集状態を形成しているカーボンブラックなどの炭素材料とは全く異なる状態のものである。
炭素触媒を構成する材料として、更に、以下に挙げる炭素材料が使用可能であり、一種類の炭素材料のみで構成することも、複数の炭素材料で構成することもできる。一種類の炭素材料のみで構成される焼結体の場合、焼結体の比表面積、細孔容積、タップ密度、導電性などの物性の制御幅は小さいものになるが、複数の炭素材料で焼結体を構成すると前記物性の制御幅は大きく広がることになり、この炭素触媒を用い作製された触媒インキ、触媒層及び燃料電池の設計幅、性能幅も広がり使い易い触媒となる。
【0023】
<酸化グラファイトを含む薄膜状粒子>
以下、本発明において用いられる酸化グラファイトを含む薄膜状粒子について説明する。
グラファイトを酸化して得られる酸化グラファイトは、炭素原子が平面方向に共有結合してなる層が、単層でまたは複数層が重なってなる粒子であり、炭素骨格の端上および/または平面上に、フェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基等の酸素含有極性官能基を有すると推定されている。酸化グラファイトの中で、層数が少ないものは、厚さに対する平面方向の大きさが非常に大きいことを特徴とする薄膜状粒子を形成する。なお、酸化グラファイトからなる薄膜状粒子は、さらに化学的および/または物理的に修飾されて用いられることもある。
【0024】
<酸化グラファイトを含む薄膜状粒子の製造方法>
グラファイトとしては、天然黒鉛および人造黒鉛が用いられ、これらの層間を拡張して製造される膨張黒鉛も用いることができる。天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては、その製法によって多くの種類が知られているが、例えば、石炭系コークス、石油系コークス等の黒鉛化可能な有機物を焼成・黒鉛化したものが挙げられる。
【0025】
グラファイトの酸化によって、フェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基等の酸素含有極性官能基がグラファイトに共有結合する。薄膜状粒子を得るためには、グラファイトの表面だけでなく、グラファイトの層間にまで酸素含有極性官能基を導入することが好ましい。
【0026】
グラファイトを酸化する方法としては、特に限定するものではなく、炭素材料を酸化する方法であれば用いることができる。具体的には、空気中で高温処理する方法や、硫酸、硝酸、塩素酸、過マンガン酸、クロム酸、二クロム酸等のオキソ酸やその塩、有機過酸化物、ペルオキソ一硫酸塩等の過酸やその塩、二酸化窒素、オゾン等の公知の酸化剤で処理する方法等を用いることができる。使用するグラファイトの結晶性、粒子径、層構造等に応じて酸化条件を選択することで、効率的に薄膜状粒子を得ることができる。
【0027】
グラファイトを酸化する好適な方法としては、非常に高い酸化力を有する酸化剤を用いる方法が挙げられる。具体的には、硝酸と塩素酸カリウムとを用いるBrodie法、硝酸と硫酸と塩素酸カリウムを用いるStaudenmaier法、硫酸と硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを用いるHummers−Offeman法等が好ましい。グラファイトの層間における酸化が進行しやすいことから、Hummers−Offeman法は、特に好ましい。
【0028】
非常に高い酸化力を有する酸化剤を用いる場合、厚さに対する平面方向の大きさの比の高い薄膜状粒子を得るために、原料として層構造の発達したグラファイトを用いることが好ましい。すなわち、天然黒鉛や、特に高温で熱処理された人造黒鉛は、高い結晶性を有するため、好ましい原料である。
【0029】
また、グラファイトを酸化する別の好適な方法としては、あらかじめ薄層化されたグラファイトを用いる方法が挙げられる。グラファイトの薄層化は公知の化学的および物理的な処理によってなされることができるが、具体的には、膨張黒鉛のほか、数層から十数層程度まで薄層化されたグラフェンプレートが市販されており、好適に用いられる。効率的に薄膜状粒子を得るために、原料粒子は薄いことが好ましい。すなわち、XGScience社製グラフェンナノプレートレット等の数層程度まで薄層化されたグラファイトは、好ましい原料である。
【0030】
あらかじめ薄層化されたグラファイトを用いる場合、非常に高い酸化力を有する酸化剤を用いると、爆発的に反応が進行するおそれがある。このため、硝酸等の酸化力を有する酸、塩素酸等のオキソ酸またはその塩、ペルオキソ二硫酸塩等の過酸またはその塩を、単独で使用することが好ましい。
【0031】
酸化グラファイトに対しては、必要に応じて精製を行うことができる。精製の方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、ろ過、デカンテーション、遠心分離、透析等の手法を用いることができる。
【0032】
前述した精製工程と同様の手法を用いて、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子の分散体について、溶剤を交換することもできる。例えば、Hummers−Offeman法でグラファイトを酸化した場合、洗浄用の溶剤としては精製水が適するため、他の溶剤を分散媒としたい場合は、精製水で洗浄して水分散体を得た後、溶剤を交換する手法が効率的である。
【0033】
一般に、グラファイトは酸化工程や精製工程を経るだけで薄膜状粒子を形成するが、さらに薄膜化することもできる。薄膜化工程としては、特に限定されるものではないが、例えば、超音波照射や加熱処理の他、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することもできる。
【0034】
分散機としては、具体的には、ディスパー、ホモミキサー、もしくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、もしくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、もしくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、シルバーソン社製「シルバーソンミキサー」、もしくは奈良機械社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、複数種の装置を組み合わせて使用することもできる。
薄膜状粒子の破壊を抑制する観点から、ロールミル、ホモジナイザー類、メディアレス分散機を用いることは好ましい。また、分散機からの金属混入防止処理を施した分散機を用いることは好ましい。
【0035】
<酸化グラファイトを含む薄膜状粒子の物性>
酸化グラファイトを含む薄膜状粒子は、炭素元素に対して酸素元素を10重量パーセント以上含むことが好ましい。ここで、炭素元素に対する酸素元素の割合は、(単位重量あたりに含まれる酸素元素の重量÷単位重量あたりに含まれる炭素元素の重量)で表され、重量パーセントの形式で表記されるものとする。炭素元素および酸素元素の重量は、例えば、燃焼法による元素分析計(パーキンエルマー社製「2400型CHN元素分析」等)で測定される。
【0036】
炭素元素に対して酸素元素が10重量パーセント未満である場合、酸素含有極性官能基の導入量が十分でないため、水などの分散媒との親和性が低下し、分散安定化が維持できなくなることがある。そうなった場合、他の原料と一次粒子レベルで均一な湿式混合が困難となり、それを噴霧乾燥し得られる造粒体も不均一なものとなることがある。炭素元素に対して酸素元素を50重量パーセント以上含むことは好ましく、70重量パーセント以上含むことはさらに好ましい。なお、炭素元素に対して酸素元素を200重量パーセント以上含む薄膜状粒子を製造することは困難であった。
【0037】
酸化グラファイトを含む薄膜状粒子は、厚さ0.3nm以上50nm未満であることが好ましい。厚さが50nm以上である場合、薄膜状粒子としての形態的な特徴を失うことがある他、柔軟性が低下するおそれがある。なお、厚さ0.3nm未満の薄膜状粒子を製造することはできなかった。
【0038】
また、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子の平均アスペクト比(すなわち、後述の平均粒子径X(長手方向の平均長さ)の厚みtに対する比)は20以上であることが好ましい。平均アスペクト比が20を下回る場合、薄膜状粒子としての形態的な特徴を欠くおそれがある。平均アスペクト比は、100以上であることが好ましい。平均アスペクト比が100000を超える薄膜状粒子を製造することは困難であり、また、大きな粒子サイズのため分散状態が不安定化し、他の原料との湿式混合後の噴霧乾燥において、均一な球状または楕円状の造粒体を得ることが難くなることがある。
【0039】
酸化グラファイトを含む薄膜状粒子において、平均アスペクト比Zは、平均粒子径をXとしたときに、厚みtと、Z=X/tなる関係を示す値と定義する。平坦な基板上(例えば雲母鉱物のへき開面)に希釈分散液を塗布して溶媒を乾燥し、原子間力顕微鏡にて、測長することで平均粒子径X(長手方向の平均長さ)を、高さプロファイルを測定することで厚みtを求めることができる。
【0040】
酸化グラファイトを含む薄膜状粒子は、化学的および物理的に修飾して用いることもできる。具体的には、イオン種の添加によるイオン対の形成(造塩)、イオン対の分極ないしは解離、酸素含有極性官能基との共有結合形成、吸着による異種材料の複合化等が挙げられる。これらの手法は併用してもよい。
【0041】
<炭素材料>
本発明における炭素触媒の構成成分として使用可能な炭素材料としては、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。炭素材料は、種類やメーカーによって、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性など様々な物性やコストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択する。
【0042】
市販の炭素材料としては、例えば、
ケッチェンブラックEC−300J、及びEC−600JD等のアクゾ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP−Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35等の電気化学工業社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF−H、VGCF−X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP−C−750、xGnP−M−5等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy−N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;
等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明における炭素触媒において、窒素元素と遷移金属元素を含有することは、酸素還元活性を有するうえで重要な意味をなす。一般的に炭素触媒の場合、活性点として、炭素材料表面に遷移金属元素を中心に4個の窒素元素が平面上に並んだ遷移金属−N4構造中の遷移金属元素や、炭素材料表面のエッジ部に導入された窒素元素近傍の炭素元素などが挙げられ、本発明における炭素触媒においても、窒素元素と遷移金属元素の存在は重要である。
【0044】
<窒素元素、遷移金属元素の導入原料>
本発明における炭素触媒として、窒素元素、遷移金属元素を導入する際に使用される原料としては、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する材料であれば使用可能であり、有機化合物(色素、ポリマーなど)、無機化合物(金属単体、金属酸化物、金属塩など)を問わないものである。遷移金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズ、アルミニウム、マグネシウムから選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
その中でも、窒素を含有した芳香族化合物であり、遷移金属元素を分子中に含有することができるフタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物等は、炭素触媒中に効率的に窒素元素と遷移金属元素を導入しやすいため好ましい。また、上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基や電子供与性官能基を導入されていても問題ない。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な遷移金属元素を含んだ化合物が存在し、コスト的にも安価であるため、原料としては特に好ましいものであり、中でも、コバルトフタロシアニン系化合物、ニッケルフタロシアニン系化合物、鉄フタロシアニン系化合物は、高い酸素還元活性も有することで知られていることから、それらより合成した炭素触媒は、安価で高い酸素還元活性を有する炭素触媒となるためより好ましいものである。
【0045】
<炭素触媒>
本発明における炭素触媒は、平均粒子径が0.5〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜25μmであることが好ましい。
平均粒子径が0.5μmを下回る場合、炭素触媒の粉末としてのタップ密度が低くなり、比表面積も高くなることから、溶媒中への分散性が悪くなり、均一な触媒層が得られにくく、触媒層の密度が低くなることがある。一方、平均粒子径が100μmを超える場合、触媒層の厚さの自由度が小さくなり、燃料電池の設計において扱いにくい炭素触媒になるだけでなく、プロトン伝導性を有するバインダー成分との接触面積が大幅に低下することとなり、酸素還元活性が低下することがある。
なお、本発明における炭素触媒の平均粒子径は、粒度分布計(例えば、Malvern Instruments社製、マスターサイザー2000)で測定したときの値である。
炭素触媒の形状は、本発明の目的を達成できる程度に取り扱いやすい形状であれば特に限定されず、球状、楕円状、あるいはそれらの表面に細かい凹凸のある形状であってもよい。また、炭素触媒の形状は一種類に限定されず、上記の形状の粒子を含む混合物であってもよく、例えば、板状や、あるいは表面が大きく凹んだいびつな形状の粒子等を一部含んでいても良い。球状、または楕円状であると、炭素触媒粉末として取り扱いやすく、溶媒中への分散性も良好になるだけでなく、限られた体積の触媒層、燃料電池に最大量の炭素触媒を充填したい場合に、効率的に充填できるため好ましい。
ここでいう球状、または楕円状であるとは、具体的に真球度で表すと0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。本発明における真球度とは、走査型電子顕微鏡により粒子の形状を観察し、その短径と長径を測定し、求めた短径/長径について、任意に選定した100個の粒子の平均値を求めたものをいう。
炭素触媒の形状は、原料の種類や、後に説明する、原料を混合したペーストを噴霧乾燥し造粒する工程における条件(ペーストの濃度、粘度、溶媒の種類、乾燥温度等)を変更することによって適宜調整することができる。
【0046】
更に、本発明における炭素触媒は、BET比表面積が20〜2000m
2/g、好ましくは100〜1000m
2/g、より好ましくは100〜500m
2/gの焼結体であることが好ましい。
BET比表面積が20m
2/gを下回る場合、反応するガス成分である酸素との反応面積が極端に小さくなり、燃料電池にした際の発電効率が低下することがある。一方、BET比表面積が2000m
2/gを上回る場合、プロトン伝導性を有するバインダー成分を多量に使用しないと、分散安定性の良い触媒インキが作製しにくくなり、触媒層中の炭素触媒量が減少することになるため、重量あたりの発電効率が低下することがある。
【0047】
更に、本発明における炭素触媒は、タップ密度が0.1〜2.0g/cm
3、好ましくは0.2〜1.5g/cm
3、より好ましくは0.2〜0.6g/cm
3の焼結体であることが好ましい。
タップ密度が0.1g/cm
3を下回る場合、炭素触媒粉末として非常に嵩高いものとなり、触媒インキ作製時に取扱いにくいだけでなく、得られた触媒層の密度も顕著に低いものとなり、実用性の低い材料になることがある。一方、タップ密度が2.0g/cm
3を上回る場合、触媒層における体積あたりの炭素触媒の充填率は高くなるが、表面の細孔が少なく比表面積の低い材料になる傾向があり、反応するガス成分である酸素との反応面積が極端に小さくなり、燃料電池にした際の発電効率が低下することがある。
【0048】
<炭素触媒の製造方法>
本発明における炭素触媒の製造方法は特に限定されないが、好ましい製造方法としては、少なくとも炭素材料として酸化グラファイトを含む薄膜状粒子と、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物とを湿式混合する工程1と、前記混合ペーストを噴霧乾燥し造粒する工程2と、更に前記造粒体を熱処理した焼結体を得る工程3とを含む方法が挙げられる。
また、前記焼結体を酸で洗浄、及び乾燥し酸洗浄品を得る工程を含む方法が挙げられる。更に、前記酸洗浄品を熱処理し熱処理品を得る工程を含む方法が挙げられる。
【0049】
少なくとも炭素材料として酸化グラファイトを含む薄膜状粒子と、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物とを湿式混合する工程においては、少なくとも炭素材料として酸化グラファイトを含む薄膜状粒子と、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物を、それぞれ単独で湿式分散したあと、各ペーストを混合し、混合ペーストを作製する場合や、少なくとも炭素材料として酸化グラファイトを含む薄膜状粒子と、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物を、一緒に湿式分散し、混合ペーストを作製する場合がある。更に、各材料を分散混合する溶媒としては、水系、溶剤系どちらでも利用可能であり、使用する材料に合わせて選定できるものである。しかし、設備費用も含めた生産コスト、及び環境衛生面から判断すると水系の方がより好ましいものである。
湿式混合装置としては、以下のような装置が使用できる。
【0050】
湿式混合装置としては、例えば、
ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式処理機としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0051】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0052】
又、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、一般的な分散剤を一緒に添加し、分散、混合することができる。
【0053】
分散剤としては、水系及び溶剤系のどちらでも使用可能である。具体的には、以下のものが挙げられる。
[水系用分散剤]
市販の水系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0054】
ビックケミー社製の分散剤としては、Disperbyk、Disperbyk−180、183、184、185、187、190、191、192、193、2090、2091、2095、2096、又はBYK−154等が挙げられる。
【0055】
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE12000、20000、27000、41000、41090、43000、44000、又は45000等が挙げられる。
【0056】
エフカアディティブズ社製の分散剤としては、EFKA1101、1120、1125、1500、1503、4500、4510、4520、4530、4540、4550、4560、4570、4580、又は5071等が挙げられる。
【0057】
BASFジャパン社製の分散剤としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、52J、57J、60J、61J、62J、63J、70J、HPD−96J、501J、354J、6610、PDX−6102B、7100、390、711、511、7001、741、450、840、74J、HRC−1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX−7630、352J、252D、538J、7640、7641、631、790、780、7610、JDX−C3000、JDX−3020、又はJDX−6500等が挙げられる。
【0058】
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトA−110、300、303、又は501等が挙げられる。
【0059】
ニットーボーメディカル社製の分散剤としては、PAAシリーズ、PASシリーズ、両性シリーズPAS−410C、410SA、84、2451、又は2351等が挙げられる。
【0060】
アイエスピー・ジャパン社製の分散剤としては、ポリビニルピロリドンPVP K−15、K−30、K−60、K−90、又はK−120等が挙げられる。
【0061】
BASFジャパン社製の分散剤としては、Luvitec K17、K30、K60、K80、K85、K90、K115、VA64W、VA64、VPI55K72W、又はVPC55K65W等が挙げられる。
【0062】
丸善石油化学社製の分散剤としては、ポリビニルイミダゾールPVI等が挙げられる。
【0063】
日鉄鉱業社製の分散剤としては、鉄フタロシアニン誘導体(スルホン酸アンモニウム塩)等が挙げられる。
【0064】
[溶剤用分散剤]
市販の溶剤系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0065】
ビックケミー社製の分散剤としては、Anti−Terra−U、U100、203、204、205、Disperbyk−101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、183、184、185、2000、2001、2050、2070、2096、2150、BYK−P104、P104S、P105、9076、9077及び220S等が挙げられる。
【0066】
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE3000、5000、9000、13240、13650、13940、17000、18000、19000、21000、22000、24000SC、24000GR、26000、28000、31845、32000、32500、32600、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、又は53095が挙げられる。
【0067】
エフカアディティブズ社製の分散剤としては、EFKA1500、1501、1502、1503、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4330、4400、4401、4402、4403、4406、4510、4520、4530、4570、4800、5010、5044、5054、5055、5063、5064、5065、5066、5070、5071、5207、又は5244等が挙げられる。
【0068】
味の素ファインテクノ社製の分散剤としては、アジスパーPB711、PB821、PB822、PN411、又はPA111が挙げられる。
【0069】
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトKF−1000、1300M、1500、1700、T−6000、8000、8000E、又は9100等が挙げられる。
【0070】
BASFジャパン社製の分散剤としては、Luvicap等が挙げられる。
【0071】
本発明における炭素触媒の製造方法において、工程2の混合ペーストを噴霧乾燥し造粒する方法においては、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥機を用いることができる。
具体的には、前記混合ペーストを霧状に噴霧しながら、溶媒を揮発・除去すればよい。噴霧条件や溶媒の揮発条件は適宜選択することができる。
【0072】
工程3の前記造粒体を熱処理し焼結体を製造する方法においては、加熱温度は原料となる炭素材料、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物、及び分散剤によって異なるものであるが、500〜1100℃、好ましくは700〜1000℃であることが好ましい。
【0073】
熱処理工程における加熱温度が500℃を下回る場合、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子表面にある酸素含有極性官能基、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物、及び分散剤の融解や熱分解が生じにくく、触媒活性も低いことがある。一方、加熱温度が1100℃を超える場合、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物の熱分解や昇華が激しくなり、炭素材料表面に触媒活性サイトとして考えられている遷移金属−N4構造部位やエッジ部の窒素元素などが残存しにくくなり、触媒活性が低いことがある。
【0074】
更に、熱処理工程における雰囲気に関しては、窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物をできるだけ不完全燃焼により炭化させ、窒素元素や遷移金属元素などを炭素材料表面に残存させる必要性があるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気などが好ましい。また、熱処理時の炭素触媒中の窒素元素量低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下で熱処理を行なうことも可能である。
【0075】
また、熱処理工程に関しては、一定の温度下、1段階で処理行なう方法だけでなく、分解温度の異なる窒素元素及び/又は遷移金属元素を含有する化合物を2種類以上混合する場合などは、それぞれの成分の熱分解挙動に合わせて、加熱温度の異なる条件で数段階に分けて熱処理を行なうことも可能である。そうすることで、触媒活性サイトとして考えられている遷移金属−N4構造部位やエッジ部の窒素元素などを、より効率的に多量に残存させられることがある。
【0076】
更に、本発明における炭素触媒の製造方法において、前記焼結体を酸で洗浄、及び乾燥し、酸洗浄品を得る工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸に関しては、少なくとも焼結体表面に存在する遷移金属成分を溶出させることができれば、どのような酸でも問題ないが、焼結体との反応性が低く、遷移金属成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸などが好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、焼結体粉末を添加し、分散させながら数時間攪拌させたあと、静置させ上澄みを除去する方法を取る。そして、上澄み液の着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。
ちなみに、酸洗浄により表面の遷移金属成分が除去され触媒活性が向上する炭素触媒に関しては、表面エッジ部の窒素元素近傍の炭素元素が触媒活性サイトの場合の炭素触媒に限ったものである。
【0077】
更に、本発明における炭素触媒の製造方法において、前記酸洗浄品を熱処理し、熱処理品を得る工程を含む方法が挙げられる。ここでの熱処理に関しても、工程3の熱処理条件と大きく変わるものではなく、加熱温度は500〜1100℃、好ましくは700〜900℃であることが好ましい。また、雰囲気に関しても、分解により表面の窒素元素などが大幅に低減しないように、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下などが好ましい。
【0078】
<触媒インキ>
次に、本発明における炭素触媒を用いた触媒インキについて説明する。
本発明の触媒インキは、本発明の炭素触媒、バインダー、溶剤を最低限含むものである。バインダー成分は、プロトン伝導性があり、耐酸化性のある材料が好ましい。炭素触媒、バインダー、溶剤の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択される。
【0079】
本発明の触媒インキ中に含まれる炭素触媒とバインダーの割合は、限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
例えば、炭素触媒を100重量部に対して、バインダーが10〜300重量部、好ましくは20〜250重量部である。
【0080】
更に、本発明における触媒インキでは、炭素触媒の溶剤中への濡れ性、分散性を向上させるために、分散剤を用いても良い。
分散剤の含有量は、触媒インキ中の炭素触媒に対し、0.01〜5重量%、好ましくは0.02〜3重量%である。この範囲の含有量とすることにより、炭素触媒の分散安定性を十分に達成できると同時に、炭素触媒の凝集を効果的に防止でき、かつ触媒層表面への分散剤の析出を防止できる。
【0081】
また、本発明における炭素触媒は、球状または楕円状の形状を有し、平均粒子径も0.5〜100μmと比較的大きめの焼結体であるため、分散性も良く、インキ中の炭素触媒濃度を上げることが容易である。そのため、インキ中の炭素触媒濃度としては、インキ処方を最適化させることで20〜50重量%も可能となり、触媒層を厚膜化したい場合に容易に作製できる。
【0082】
触媒インキの調製方法も特に制限はない。調製は、各成分を同時に分散しても良いし、炭素触媒を分散剤のみで分散後、バインダーを添加してもよく、使用する炭素触媒、バインダー、溶剤種により最適化することができる。
【0083】
<バインダー>
バインダーとしては、プロトン伝導性ポリマーが好ましく、プロトン伝導性ポリマーとしては、パーフルオロスルホン酸系等のフッ素系イオン交換樹脂、スルホン酸基などの強酸性官能基を導入したオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。例えば電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホン酸基の乖離度が高く、高いイオン導電性が実現できる。このようなプロトン伝導性ポリマーの具体例としては、デュポン社製の「Nafion」、旭硝子社製の「Flemion」、旭化成社製の「Aciplex」、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」等が挙げられる。通常、プロトン伝導性ポリマーは、ポリマーを5〜30重量%程度含むアルコール水溶液として使用される。アルコールとしては、例えば、メタノール、プロパノール、エタノールジエチルエーテル等が使用される。
【0084】
<溶剤>
溶剤としては、水または水と親和性が高い溶剤であれば特に限定されない。特に、アルコールが好適に使用できる。このようなアルコールとしては、例えば、沸点80〜200℃程度の1価のアルコールないし多価アルコールが利用でき、好ましくは炭素数が4以下のアルコール系溶剤が挙げられる。具体的には、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。アルコールは、1種単独で又は2種以上混合して使用される。これらの1価のアルコールの中でも、2−プロパノール、1−ブタノール及びt−ブタノールが好ましい。多価アルコールとしては具体的には、プロトン伝導性ポリマーとの相溶性、及び触媒インキとした場合の乾燥効率の問題から、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール等が好ましく、中でもプロピレングリコールが特に好ましい。
【0085】
<燃料電池>
次に、本発明における炭素触媒を、アノード電極及びカソード電極に適用した燃料電池について説明する。
【0086】
図1に本発明の形態の燃料電池の概略構成図を示す。燃料電池は、固体高分子電解質4を挟むように、対向配置されたセパレータ1、ガス拡散層2、アノード電極触媒(燃料極)3、カソード電極触媒(空気極)5、ガス拡散層6、及びセパレータ7とから構成される。
固体高分子電解質4としては、パーフルオロスルホン酸樹脂膜を代表とするフッ素系陽イオン交換樹脂膜が用いられる。
【0087】
また、本発明における製造方法で製造された炭素触媒をアノード電極触媒3及びカソード電極触媒5として、固体高分子電解質4の双方に接触させることにより、アノード電極触媒3及びカソード電極触媒5に炭素触媒を備えた燃料電池が構成される。
【0088】
上述の炭素触媒を固体高分子電解質の双方の面に形成し、アノード電極触媒3及びカソード電極触媒5を電極反応層側で固体高分子電解質4の両主面にホットプレスにより密着することにより、MEA(Membrane Electrode Assembly)として一体化させる。
【0089】
最近では、炭素触媒の比表面積が高いことから、炭素触媒にガス拡散層の機能を付与し、ガス拡散層がなくシンプルで安価な構成の燃料電池構成なども提案されていたりする。本発明の炭素触媒は、限られた容積内に高充填可能な材料であるため、ガス拡散層として使い方も十分可能である。
【0090】
上記セパレータ1、7は、燃料ガス(水素)や酸化剤ガス(酸素)等の反応ガスの供給、排出を行う。そして、アノード及びカソード電極触媒3、5に、ガス拡散層2、6を通じてそれぞれ均一に反応ガスが供給されると、両電極に備えられた炭素触媒と固体高分子電解質4との境界において、気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成される。そして、電気化学反応を生じさせることで直流電流が発生する。
【0091】
上記電気化学反応において、
カソード側:O
2+4H
++4e
−→2H
2O
アノード側:H
2→2H
++2e
−
の反応が起こり、アノード側で生成されたH
+イオンは固体高分子電解質4中をカソード側に向かって移動し、e
−(電子)は外部の負荷を通ってカソード側に移動する。
【0092】
一方、カソード側では酸化剤ガス中に含まれる酸素と、アノード側から移動してきたH
+イオン及びe
−とが反応して水が生成される。この結果、上述の燃料電池は、水素と酸素とから直流電力を発生し、水を生成することになる。
【0093】
なお、本発明における製造方法で製造された炭素触媒の用途は、上記燃料電池用電極触媒に限定するものではなく、金属‐空気電池用電極触媒、排ガス浄化用触媒、水処理浄化用触媒などとして用いることが可能である。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。実施例中、%は重量%を表す。
【0095】
炭素触媒の分析は、以下の測定機器を使用した。
・窒素元素の検出;CHN元素分析(パーキンエルマー社製 2400型CHN元素分析装置)
・遷移金属元素の検出;ICP発光分光分析(SPECTRO社製 SPECTRO
ARCOS FHS12)
・粒子形状の観察;SEM走査型電子顕微鏡(日立製作所社製 SEM S−4300)
・平均粒子径の測定;粒度分布計(Malvern Instruments社製 マスターサイザー2000)にて求めたd−50の値である。具体的な測定方法は、炭素触媒の粉末を測定セル内へ投入し、信号レベルが最適値を示したところで測定した。
・BET比表面積の測定;ガス吸着量測定(日本ベル社製 BELSORP−mini)
・タップ密度の測定;(ホソカワミクロン社製 USPタップ密度測定装置)
・薄膜状粒子の形状測定;TEM透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製 HF2000)にて求めた炭素平面方向の大きさ(長手方向の平均長さ)であり、粒子10個の平均値を求めた。
・薄膜状粒子の厚さ測定;AFM原子間力顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SPI3800N)にて測定した粒子10個の平均値を求めた。
【0096】
<炭素触媒の合成>
【0097】
[酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(1)]
硝酸ナトリウム7.5g、硫酸345mL、過マンガン酸カリウム45gからなる混合液を調整し、氷浴下で天然黒鉛10gを加えた後、室温で5日間攪拌を続けた。得られた液を氷浴下で5%硫酸水溶液1000mL中に滴下した後、過酸化水素30gを加え、室温で2時間攪拌した。得られた液を遠心分離し、得られた沈殿を精製水で希釈した後、限外ろ過膜を用いたクロスフローろ過による洗浄を行い、薄膜状粒子の水分散体を得た。この分散体中の固形分比は0.5%であった。遠心分離により濃縮し、固形分比5%の酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(1)を得た。
【0098】
薄膜状粒子の評価に関しては、薄膜状粒子分散体(1)をオーブンで乾燥させ、得られた固体の元素分析を行ったところ、酸素は45%、炭素は42%、水素は3%であった。また、分散体を滴下乾燥させてTEMで観察したところ、平面方向の大きさは5μm(長手方向の平均長さ)であった。また、AFMで観察したところ、厚さは5nm以下であった。
【0099】
[酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(2)]
ペルオキソ二硫酸アンモニウム1369gを水3000gに加え水溶液を調整し、室温下攪拌しながらグラフェンナノプレートレット(XGSciences社製xGnP−C−750)100gを加えた後、60℃に加温し10時間攪拌を続けた。得られた液を遠心分離し、得られた沈殿を精製水で希釈した後、限外ろ過膜を用いたクロスフローろ過による洗浄を行い、薄膜状粒子の水分散体を得た。この分散体中の固形分比は0.5%であった。遠心分離により濃縮し、固形分比5%の酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(2)を得た。
【0100】
薄膜状粒子の評価に関しては、薄膜状粒子分散体(2)をオーブンで乾燥させ、得られた固体の元素分析を行ったところ、酸素は23%、炭素は76%、水素は1%であった。また、分散体を滴下乾燥させてTEMで観察したところ、平面方向の大きさは0.5μmであった。また、AFMで観察したところ、厚さは12nmであった。
【0101】
[鉄フタロシアニン分散体]
ガラス瓶にイオン交換水83部と、樹脂型分散剤ジョンクリルJDX−6500(BASFジャパン社製;固形分30%水溶液)10部を秤量し均一な水溶液を作製後、鉄フタロシアニン(山陽色素社製)7部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカーで分散し、鉄フタロシアニン分散体(固形分10%)を得た。
【0102】
[コバルトフタロシアニン分散体]
ガラス瓶にイオン交換水83部と、樹脂型分散剤ジョンクリルJDX−6500(BASFジャパン社製;固形分30%水溶液)10部を秤量し均一な水溶液を作製後、コバルトフタロシアニン(東京化成社製)7部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカーで分散し、コバルトフタロシアニン分散体(固形分10%)を得た。
【0103】
[ケッチェンブラック分散体]
ガラス瓶にイオン交換水83部と、樹脂型分散剤ジョンクリルJDX−6500(BASFジャパン社製;固形分30%水溶液)10部を秤量し均一な水溶液を作製後、ケッチェンブラック(ライオン社製EC−300J)7部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカーで分散し、ケッチェンブラック分散体(1)(固形分10%)を得た。
【0104】
[グラフェンナノプレートレット分散体]
ガラス瓶にイオン交換水83部と、樹脂型分散剤ジョンクリルJDX−6500(BASFジャパン社製;固形分30%水溶液)10部を秤量し均一な水溶液を作製後、グラフェンナノプレートレット(XGSciences社製xGnP−C−750)7部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカーで分散し、グラフェンナノプレートレット分散体(固形分10%)を得た。
【0105】
[カーボンナノチューブ分散体]
ガラス瓶にイオン交換水83部と、樹脂型分散剤ジョンクリルJDX−6500(BASFジャパン社製;固形分30%水溶液)10部を秤量し均一な水溶液を作製後、カーボンナノチューブ(昭和電工社製VGCF−H)7部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカーで分散し、カーボンナノチューブ分散体(固形分10%)を得た。
【0106】
[実施例1;炭素触媒(1)]
上記鉄フタロシアニン分散体と、ケッチェンブラック分散体と、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(1)を、重量比1:0.5:0.7で秤量混合し、混合ペーストを作製した。
この混合ペーストをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B−290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、平均粒子径約10μmの前駆体造粒体を得た。
上記前駆体造粒体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間炭化処理を行い、炭素触媒(1)を得た。
炭素触媒(1)は、平均粒子径は10μmの球状粒子であり、BET比表面積は230m
2/g、タップ密度は0.28g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0107】
[実施例2;炭素触媒(2)]
実施例1で得た炭素触媒(1)を濃塩酸中にリスラリーし鉄由来の溶解成分を溶出させたあと、静置させ、炭素触媒沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄み液の着色がなくなるまで繰り返し行ったあと、ろ過、水洗、乾燥により炭素触媒(2)を得た。
炭素触媒(2)は、平均粒子径は10μmの球状粒子であり、BET比表面積は180m
2/g、タップ密度は0.30g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0108】
[実施例3;炭素触媒(3)]
実施例2で得た炭素触媒(2)をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で1時間熱処理を行い、炭素触媒(3)を得た。
炭素触媒(3)は、平均粒子径は10μmの球状粒子であり、BET比表面積は200m
2/g、タップ密度は0.28g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0109】
[実施例4;炭素触媒(4)]
上記鉄フタロシアニン分散体と、グラフェンナノプレートレット分散体と、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(1)を、重量比1:0.5:0.7で秤量混合し、混合ペーストを作製した。
この混合ペーストをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B−290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、平均粒子径約10μmの前駆体造粒体を得た。
上記前駆体造粒体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間炭化処理を行い、炭素触媒(4)を得た。
炭素触媒(4)は、平均粒子径は11μmの球状粒子であり、BET比表面積は190m
2/g、タップ密度は0.31g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0110】
[実施例5;炭素触媒(5)]
実施例4で得た炭素触媒(4)を濃塩酸中にリスラリーし鉄由来の溶解成分を溶出させたあと、静置させ、炭素触媒沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄み液の着色がなくなるまで繰り返し行ったあと、ろ過、水洗、乾燥により炭素触媒(5)を得た。
炭素触媒(5)は、平均粒子径は11μmの球状粒子であり、BET比表面積は150m
2/g、タップ密度は0.30g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0111】
[実施例6;炭素触媒(6)]
実施例5で得た炭素触媒(5)をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で1時間熱処理を行い、炭素触媒(6)を得た。
炭素触媒(6)は、平均粒子径は11μmの球状粒子であり、BET比表面積は180m
2/g、タップ密度は0.30g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0112】
[実施例7;炭素触媒(7)]
上記鉄フタロシアニン分散体と酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(2)を、重量比1:1.4で秤量混合し、混合ペーストを作製した。
この混合ペーストをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B−290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、平均粒子径約9μmの前駆体造粒体を得た。
上記前駆体造粒体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間炭化処理を行い、炭素触媒(7)を得た。
炭素触媒(7)は、平均粒子径は9μmの球状粒子であり、BET比表面積は180m
2/g、タップ密度は0.27g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0113】
[実施例8;炭素触媒(8)]
実施例7で得た炭素触媒(7)を濃塩酸中にリスラリーし鉄由来の溶解成分を溶出させたあと、静置させ、炭素触媒沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄み液の着色がなくなるまで繰り返し行ったあと、ろ過、水洗、乾燥により炭素触媒(8)を得た。
炭素触媒(8)は、平均粒子径は9μmの球状粒子であり、BET比表面積は140m
2/g、タップ密度は0.28g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0114】
[実施例9;炭素触媒(9)]
実施例8で得た炭素触媒(8)をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で1時間熱処理を行い、炭素触媒(9)を得た。
炭素触媒(9)は、平均粒子径は9μmの球状粒子であり、BET比表面積は200m
2/g、タップ密度は0.27g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0115】
[実施例10;炭素触媒(10)]
上記鉄フタロシアニン分散体と、ケッチェンブラック分散体と、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(2)を、重量比1:0.5:0.7で秤量混合し、混合ペーストを作製した。
この混合ペーストをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B−290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、平均粒子径約10μmの前駆体造粒体を得た。
上記前駆体造粒体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間炭化処理を行い、炭素触媒(10)を得た。
炭素触媒(10)は、平均粒子径は10μmの球状粒子であり、BET比表面積は175m
2/g、タップ密度は0.28g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0116】
[実施例11;炭素触媒(11)]
実施例10で得た炭素触媒(10)を濃塩酸中にリスラリーし鉄由来の溶解成分を溶出させたあと、静置させ、炭素触媒沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄み液の着色がなくなるまで繰り返し行ったあと、ろ過、水洗、乾燥により炭素触媒(11)を得た。
炭素触媒(11)は、平均粒子径は10μmの球状粒子であり、BET比表面積は140m
2/g、タップ密度は0.28g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0117】
[実施例12;炭素触媒(12)]
実施例11で得た炭素触媒(11)をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で1時間熱処理を行い、炭素触媒(12)を得た。
炭素触媒(12)は、平均粒子径は10μmの球状粒子であり、BET比表面積は210m
2/g、タップ密度は0.27g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。得られたSEM写真を
図2に示す。
【0118】
[実施例13;炭素触媒(13)]
上記鉄フタロシアニン分散体と、カーボンナノチューブ分散体と、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(2)を、重量比1:0.2:1.12で秤量混合し、混合ペーストを作製した。
この混合ペーストをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B−290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、平均粒子径約12μmの前駆体造粒体を得た。
上記前駆体造粒体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、750℃で2時間炭化処理を行い、炭素触媒(13)を得た。
炭素触媒(13)は、平均粒子径は12μmの球状粒子であり、BET比表面積は170m
2/g、タップ密度は0.25g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0119】
[実施例14;炭素触媒(14)]
実施例13で得た炭素触媒(13)を濃塩酸中にリスラリーし鉄由来の溶解成分を溶出させたあと、静置させ、炭素触媒沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄み液の着色がなくなるまで繰り返し行ったあと、ろ過、水洗、乾燥により炭素触媒(14)を得た。
炭素触媒(14)は、平均粒子径は12μmの球状粒子であり、BET比表面積は140m
2/g、タップ密度は0.25g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0120】
[実施例15;炭素触媒(15)]
実施例14で得た炭素触媒(14)をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で1時間熱処理を行い、炭素触媒(15)を得た。
炭素触媒(15)は、平均粒子径は12μmの球状粒子であり、BET比表面積は200m
2/g、タップ密度は0.26g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0121】
[実施例16;炭素触媒(16)]
上記コバルトフタロシアニン分散体と、ケッチェンブラック分散体と、酸化グラファイトを含む薄膜状粒子分散体(2)を、重量比1:0.5:0.7で秤量混合し、混合ペーストを作製した。
この混合ペーストをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B−290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、平均粒子径約11μmの前駆体造粒体を得た。
上記前駆体造粒体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間炭化処理を行い、炭素触媒(16)を得た。
炭素触媒(16)は、平均粒子径は11μmの球状粒子であり、BET比表面積は190m
2/g、タップ密度は0.30g/cm
3であった。また、窒素元素とコバルト元素の含有を確認した。
【0122】
[実施例17;炭素触媒(17)]
実施例16で得た炭素触媒(16)を濃塩酸中にリスラリーしコバルト由来の溶解成分を溶出させたあと、静置させ、炭素触媒沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄み液の着色がなくなるまで繰り返し行ったあと、ろ過、水洗、乾燥により炭素触媒(17)を得た。
炭素触媒(17)は、平均粒子径は11μmの球状粒子であり、BET比表面積は150m
2/g、タップ密度は0.29g/cm
3であった。また、窒素元素とコバルト元素の含有を確認した。
【0123】
[実施例18;炭素触媒(18)]
実施例17で得た炭素触媒(17)をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で1時間熱処理を行い、炭素触媒(18)を得た。
炭素触媒(18)は、平均粒子径は11μmの球状粒子であり、BET比表面積は220m
2/g、タップ密度は0.29g/cm
3であった。また、窒素元素とコバルト元素の含有を確認した。
【0124】
[比較例1;炭素触媒(19)]
鉄フタロシアニン(山陽色素社製)とケッチェンブラック(ライオン社製EC−300J)を、重量比1:1で秤量し、乳鉢にて乾式混合を行い前駆体とした。
上記前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し炭素触媒(19)を得た。
炭素触媒(19)は、平均粒子径は25μmの不定形の凝集粒子であり、BET比表面積は290m
2/g、タップ密度は0.07g/cm
3であった。また、窒素元素と鉄元素の含有を確認した。
【0125】
<炭素触媒の酸素還元活性評価>
【0126】
実施例1〜18で得た炭素触媒(1)〜(18)と比較例1で得た炭素触媒(19)をグラッシーカーボン上に分散させた電極を用いて、酸素還元活性評価を行なった。評価方法は以下の通りである。
【0127】
(1)インキ化方法
炭素触媒0.01部を秤量し、固体高分子電解質としてナフィオン(デュポン社製)が分散された水、エタノール、ブタノール混合溶液3.56部(固形分0.19%)に添加したあと、泡取り練太郎(2000rpm)で5分間分散処理を行ない炭素触媒インキとした。
【0128】
(2)作用電極作製方法
回転電極(グラッシーカーボン電極の半径0.2cm)表面を鏡面に研磨したあと、電極表面に上記炭素触媒インキ3.5μLを滴下し、1500rpmにてスピンコートし、自然乾燥により作用電極を作製した。
【0129】
(3)LSV(リニアスイープボルタンメトリ)測定
上記で作製した作用電極と、対極(白金)、参照電極(Ag/AgCl)が取り付けられた電解槽に電解液(0.5M硫酸水溶液)を入れ、酸素還元活性試験を行なった。
【0130】
酸素還元活性度合いの指標となる酸素還元開始電位は、電解液中に酸素でバブリングを行ったあと、酸素雰囲気下、作用電極を2000rpmで回転させLSV測定を行なった。ちなみに、電解液中に窒素でバブリングを行なったあと、窒素雰囲気下でLSV測定を行なった数値をバックグランドとした。
【0131】
酸素還元開始電位は、電流密度が−50μA/cm
2到達時点の電位を読み取り、可逆水素電極(RHE)を基準とした電位に換算して算出した。酸素還元開始電位は、その電位が高いほど酸素還元活性が高いことを示すものである。評価結果を表1に示す。
【0132】
標準サンプルとして、白金担持カーボン(白金担持率50wt%)の酸素還元活性度合いを上記評価方法で行なったところ、酸化還元開始電位は0.94V(vsRHE)であった。
【0133】
【表1】
【0134】
表1から分かるように、実施例の製造方法で合成した炭素触媒(1)〜(18)は、いずれも高い酸素還元活性を有するものであった。
<触媒インキの調製>
実施例1〜18、比較例1で得た炭素触媒(1)〜(19)12重量部を秤量し、1−ブタノール48重量部と20重量%ナフィオン(Nafion)溶液(バインダー、デュポン社製、溶剤:水及び1−プロパノール)40重量部の混合溶液中に添加後、ディスパー(プライミクス社製、T.Kホモディスパー)にて攪拌混合することで触媒インキ(1)〜(19)(固形分濃度20重量%、触媒インキ100重量%としたときの炭素触媒とバインダーを合計した割合)を調製した。
【0135】
<触媒インキの評価>
触媒インキの分散性を、下記に示す評価方法によって評価した。
【0136】
(分散性評価)
分散性は、グラインドゲージによる判定(JIS K5600−2−5に準ず)によって触媒インキの粒度(粗大な分散粒径)を求め、50μm以上の凝集物が無い場合、分散性が良好であると評価した。実施例1〜18の触媒インキ(1)〜(18)の粒度はいずれも20〜30μmであり、分散性は良好であったのに対して、比較例1で得た触媒インキ(19)は、100μm以上の凝集粒子が確認され、分散性が劣っていることを確認した。評価結果を表1に示す。
【0137】
<燃料電池用触媒層の作製>
実施例1〜18の触媒インキ(1)〜(18)を、ドクターブレードにより、乾燥後の炭素触媒の目付け量が2mg/cm
2になるようにテフロン(登録商標)フィルム上に塗布し、大気雰囲気下、95℃で15分間乾燥することにより、ムラのない均一なカソード用燃料電池用触媒層を作製した。
しかし、比較例1で得た触媒インキ(19)では、ムラのあるぼそぼその触媒層であり、炭素触媒の目付け量が2mg/cm
2に満たず、1mg/cm
2の目付け量にとどまった。このことは、炭素触媒自身が持つ粒子特性を明確に反映した結果であると考えられた。評価結果を表1に示す。
【0138】
<塗工性評価>
燃料電池用触媒層は、下記に示す塗工性評価によって評価した。テフロン(登録商標)フィルム上に形成された燃料電池用触媒層を、ビデオマイクロスコープVHX−900(キーエンス社製)にて500倍で観察し、塗工ムラ(ムラ:触媒層の濃淡により評価)およびピンホール(触媒層が塗布されていない欠陥の有無により評価)について、下記の基準で判定した。評価結果を表1に示す。
(ムラ)
○:触媒層の濃淡が確認されない(良好)。
△:触媒層の濃淡が2〜3箇所あるが極めて微小領域である(実用上問題ない)。
×:触媒層の濃淡が多数確認される、または濃淡の縞の長さが5mm以上のもの1個以上(不良)。
(ピンホ−ル)
○:ピンホールが1つも確認されない(良好)。
△:ピンホールが2〜3個あるが極めて微小である(不良)。
×:ピンホールが多数確認される、または直径1mm以上のピンホールが1個以上(極めて不良)。
【0139】
<アノード用燃料電池用触媒層の作製>
ここでは、燃料電池用電極膜接合体の作製に使用するアノード用燃料電池用触媒層の作製方法について以下に述べる。
炭素触媒の代わりに、白金触媒担持カーボン4重量部(田中貴金属社製、白金量46%)、溶剤として1―プロパノール56重量部、および水20重量部をディスパー(プライミクス、TKホモディスパー)にて攪拌混合することで触媒ペースト組成物(固形分濃度4重量%)を調製した。次いで、20重量%ナフィオン(Nafion)溶液(バインダー、デュポン社製、溶剤:水及び1−プロパノール)20重量部を添加し、ディスパー(プライミクス製、T.Kホモディスパー)にて攪拌混合することで触媒インキ(固形分濃度8重量%)を作製した。得られた触媒インキを白金触媒担持カーボンの目付け量が0.46mg/cm
2になるようにテフロン(登録商標)フィルム上に塗布し、大気雰囲気中
70℃の条件で15分間乾燥することにより、アノード用燃料電池用触媒層を作製した。
【0140】
<燃料電池用電極膜接合体の作製>
実施例1〜18、及び比較例1で作製したカソード用燃料電池用触媒層と、アノード用燃料電池用触媒層とを、それぞれ固体高分子電解質膜(Nafion212、デュポン社製、膜厚50μm)の両面に密着して、150℃、5Mpaの条件で狭持した後、テフロン(登録商標)フィルムを剥離した。次いで、更に両側から電極基材(ガス拡散層GDL、炭素繊維からなるカーボンペーパー、TGP−H−090、東レ(株)製)を密着させ、本発明の燃料電池用電極膜接合体(GDL/触媒層/固体高分子電解質膜/触媒層/GDL)を作製した。
【0141】
実施例1〜18で作製した本発明の燃料電池用電極膜接合体(GDL/触媒層/固体高分子電解質膜/触媒層/GDL)は、転写後の触媒層のひび割れや欠けがなく均一な電極膜が形成されていた。また、一方、比較例1で作製した燃料電池用電極膜接合体は、転写時にひび割れや欠けが生じるなどの状態が悪いものであった。
【0142】
<燃料電池(単セル)の作製>
実施例1〜18と比較例1で得られた燃料電池用電極膜接合体を2cm角の試料とし、その両側からガスケット2枚、次いでグラファイトプレートであるセパレータ2枚ではさみ、更に両側から集電板を2枚装着して燃料電池(単セル)として作製した。測定は
Auto PEMシリーズ「PEFC評価システム」東陽テクニカ製で実施した。燃料電池運転条件として、温度80℃、相対湿度100%の条件下で、アノード側に水素を300ml/minで流し、カソード側に酸素を300ml/minで流して発電試験を実施した。
【0143】
<燃料電池(単セル)の評価>
実施例1〜18と比較例1で作製した単セルの電流−電圧特性を測定することにより、電池性能を評価した。
その結果、実施例1〜18で作製した単セルでは、開放電圧は0.7V〜0.85V、短絡電流密度800〜1200mA/cm
2であった。これに対し、比較例1で作成した単セルは、開放電圧0.7V、短絡電流密度600mA/cm
2と実施例に比べて低い結果であった。
【0144】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。