特許第6028673号(P6028673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6028673エンジン湿式後処理装置用の気液接触装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028673
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】エンジン湿式後処理装置用の気液接触装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/04 20060101AFI20161107BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20161107BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20161107BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20161107BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20161107BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   F01N3/04 D
   F01N3/08 BZAB
   F01N3/00 F
   B01D53/14 200
   B01D53/18 150
   B01D53/18 160
   B01D53/56 200
   F01N3/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-95214(P2013-95214)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-214729(P2014-214729A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣川 真澄
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 茂人
(72)【発明者】
【氏名】野田 恵司
【審査官】 石川 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−159039(JP,A)
【文献】 特開2003−326102(JP,A)
【文献】 特開平08−150314(JP,A)
【文献】 特開平06−210121(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018135(WO,A1)
【文献】 特開2007−182767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/08
B01D 53/14−53/18
B01D 53/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)の排気通路(EX)の途中に配設され、エンジン燃焼排気に含まれる特定ガス成分を、該特定ガス成分を吸収可能であり水よりも粘性が高い液体を用いて処理するエンジン湿式後処理装置(100)において、エンジン燃焼排気と上記液体を接触させる気液接触通路(22)を備える気液接触装置(1)であって、
上記気液接触装置は、区画された多数のセル内を上記気液接触通路とする多孔体(2)と、該多孔体の一端側に設けられた気体導入部(13)と、上記多孔体の一端側に設けられた少なくとも1つの液体噴射弁(3)と、該液体噴射弁から噴射される液体を、上記多孔体の一端側において上記気液接触通路に分配する分配機構を有し、
該分配機構は、上記液体噴射弁に設けた複数の噴孔(32)を、上記多孔体の一端側に予め設定した複数の領域に対応させて配置し、各領域に向けて噴射された液体を、上記気液接触通路の通路壁に設けた複数の通孔(24)を介して、隣り合う上記気液接触通路に分配し、
さらに、エンジン運転条件に応じて、上記多孔体への液体供給流量を制御する制御手段(111)を備え、
該制御手段は、上記エンジンの低速低負荷運転時には、上記液体供給流量を、上記液体噴射弁の単位時間当たりの開閉頻度で制御し、上記低速低負荷運転時以外では、エンジン回転に同期させて制御することを特徴とするエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項2】
上記液体噴射弁は、先端面に配置した上記複数の噴孔の上流に、電磁的に開閉されるシート機構(35、31a)を備え、1回のシート開閉動作によって、上記複数の噴孔のそれぞれに少なくとも1つの液滴が生成されて、上記複数の領域に分配される請求項1記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項3】
上記多孔体は、矩形または円形の端面形状を有し、上記液体噴射弁の上記複数の噴孔は、上記多孔体の端面形状に対応する形状に配置される請求項1または2記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項4】
上記分配機構は、上記多孔体の一端側において、各領域に噴射された液体を受け止めて付着させる付着部(25)と、付着した液体を各領域に対応する上記気液接触通路に分配する分配部(26)を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項5】
上記制御手段は、低速低負荷運転時以外であり、かつ過渡運転時以外の運転時にはエンジン回転に同期させて、排気流速が小さくなるタイミングで液体の噴射が実施されるように制御する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項6】
上記制御手段は、過渡運転時にはエンジン回転に同期させて、上記液体供給流量が一時的に増加するように制御する請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項7】
上記液体は、25℃における粘度が0.01Pa・s以上であり、使用環境下において液体状態を維持するイオン液体である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【請求項8】
上記特定ガス成分は、窒素酸化物成分である請求項1ないし7のいずれか1項に記載のエンジン湿式後処理装置用の気液接触装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気中の特定ガス成分を湿式吸収する後処理装置に関し、特に粘度の比較的高い液体を用い、特定ガス成分と接触させて吸収除去するための気液接触装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される有害物質、例えば窒素酸化物(NOx)成分の後処理は、従来、触媒を用いて還元浄化する方式が一般的であり、例えば、尿素水を還元剤として排気に添加する選択還元型触媒が採用されている。この方式は、NOx浄化性能を発揮する触媒の作動温度(約200℃以上)に昇温する必要があり、また、尿素水を排気中に拡散させるために装置が大型となりやすい。一方、エンジンの熱効率向上、燃料消費効率向上の要求に伴って、排熱回収システムが積極的に取り入れられると、下流域では排気温度が大きく低下する。このため、有害エミッションを、より低温状態で処理可能な後処理装置が求められている。
【0003】
後処理装置の小型化を図りつつ、より低い温度においてNOx成分を除去する技術として、NOxを吸収可能な液体を用いる湿式後処理装置が提案されている(例えば、特許文献1等)。NOx吸収液体としては、例えば水やアルカリ水溶液、イオン液体が知られ、気液接触手段にて排気と接触させることで、NOx成分を吸収除去した後、排気を外部へ放出することができる。NOx吸収液体は、回収、再生されて貯蔵手段に戻され、再び気液接触手段に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−217918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
なかでも水よりも粘性の大きいイオン液体を用いる湿式後処理装置は、100℃以上で用いることにより水分との分離が可能であり、揮発消失しないので回収して繰返し使用できる利点がある。一方で、比較的に高粘度であることから、公知の液体微粒化機構を利用して十分に微粒化することが難しい。例えば、前述の尿素水は、常温における粘度が約0.005Pa・s前後であることから、尿素水の流出出口側に圧縮空気を供給する制御弁を設け、流出する液体に圧縮空気を吹き付けて微粒化する機構が知られている。ところが、本発明で扱う粘度の高い液体は、気体風の吹きちぎりによる微粒化は期待できず、このような液体微粒化機構は有効ではない。
【0006】
したがって、比較的粘度の高い液体を、気液接触装置全体に均一に供給分散させ、所定期間、気体に接触させて、効率的に気体中の除去すべき成分(例えば、NOx成分等)を吸着させる新たな機構が必要となる。すなわち、本願発明の目的は、エンジンからの排気に含まれる特定ガス成分を気液接触により吸収除去する湿式後処理装置において、液体の均一な分配に効果的な構造と機構を備える気液接触装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、エンジンの排気通路の途中に配設され、エンジン燃焼排気に含まれる特定ガス成分を、該特定ガス成分を吸収可能であり水よりも粘性が高い液体を用いて処理するエンジン湿式後処理装置において、エンジン燃焼排気と上記液体を接触させる気液接触通路を備える気液接触装置であり、
上記気液接触装置は、区画された多数のセル内を上記気液接触通路とする多孔体と、該多孔体の一端側に設けられた気体導入部と、上記多孔体の一端側に設けられた少なくとも1つの液体噴射弁と、該液体噴射弁から噴射される液体を、上記多孔体の一端側において上記気液接触通路に分配する分配機構を有する。
該分配機構は、上記液体噴射弁に設けた複数の噴孔を、上記多孔体の一端側に予め設定した複数の領域に対応させて配置し、各領域に向けて噴射された液体を、上記気液接触通路の通路壁に設けた複数の通孔を介して、隣り合う上記気液接触通路に分配し、
さらに、エンジン運転条件に応じて、上記多孔体への液体供給流量を制御する制御手段を備え、
該制御手段は、上記エンジンの低速低負荷運転時には、上記液体供給流量を、上記液体噴射弁の単位時間当たりの開閉頻度で制御し、上記低速低負荷運転時以外では、エンジン回転に同期させて制御する。
【0008】
請求項2に記載の発明において、上記液体噴射弁は、先端面に配置した上記複数の噴孔の上流に、電磁的に開閉されるシート機構を備え、1回のシート開閉動作によって、上記複数の噴孔のそれぞれに少なくとも1つの液滴が生成されて、上記複数の領域に分配される。
【0009】
請求項3に記載の発明において、上記多孔体は、矩形または円形の端面形状を有し、上記液体噴射弁の上記複数の噴孔は、上記多孔体の端面形状に対応する形状に配置される。
【0010】
請求項4に記載の発明において、上記分配機構は、上記多孔体の一端側において、各領域に噴射された液体を受け止めて付着させる付着部と、付着した液体を各領域に対応する上記気液接触通路に分配する分配部を有する。
【0011】
請求項5に記載の発明において、上記制御手段は、低速低負荷運転時以外であり、かつ過渡運転時以外の運転時にはエンジン回転に同期させて、排気流速が小さくなるタイミングで液体の噴射が実施されるように制御する
【0012】
請求項6に記載の発明において、上記制御手段は、過渡運転時にはエンジン回転に同期させて、上記液体供給流量が一時的に増加するように制御する。
【0013】
請求項7に記載の発明において、上記液体は、25℃における粘度が0.01Pa・s以上であり、使用環境下において液体状態を維持するイオン液体である。
【0014】
請求項8に記載の発明において、上記特定ガス成分は、窒素酸化物成分である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の気液接触装置は、排気導入部に導入される燃焼排気と、液体噴射弁から噴射される液体を、多孔体内に同一方向に導入し、気液接触通路を通過させながら排気中の特定ガス成分を液体に吸収させる。分配機構は、多孔体の一端面に対して複数の領域を設定し、各領域にそれぞれ対応する液体噴射弁の噴孔から液体を噴射する。比較的粘性の高い液体は、液滴となって各領域に到達し、多孔体内の気液接触通路壁面に広がる。さらに、通路壁に設けた複数の通孔によって、隣り合う通路間を流通しながら下流へ移動し、多孔体の全体に広がって、燃焼排気との接触機会を増大させる。
【0016】
したがって、効果的に液体を気液接触通路に分配し、NOx成分等の特定ガス成分を吸収除去することができる。よって、小型で高効率な気液接触装置を実現し、湿式後処理装置の性能を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態における気液接触装置の全体構成を示す概略図である。
図2】第1実施形態におけるエンジン湿式後処理装置の全体概略断面図である。
図3】第1実施形態の気液接触装置における多孔体構造を示す上面図およびそのA-A線断面図で縦断面図である。
図4】第1実施形態に用いた多孔体の要部拡大断面図である。
図5】本発明のエンジン湿式後処理装置が適用されるエンジン全体のシステム構成図である。
図6】第1実施形態の気液接触装置に用いた液体インジェクタの全体断面図とノズルプレート構成を示す平面図である。
図7】第1実施形態の分配機構を構成する液体インジェクタの噴孔と多孔体端面の領域との関係を説明するための図である。
図8】第2実施形態における気液接触装置の要部概略断面図および平面図である。
図9】第2実施形態の気液接触装置を構成するセル群ユニットの要部概略断面図および平面図である。
図10】第3実施形態の気液接触装置を構成するセル群ユニットの要部概略断面図および平面図である。
図11】第4実施形態における気液接触装置の要部概略図である。
図12】電子制御ユニットで実施される液体インジェクタの作動制御のフローチャート図である。
図13】エンジン運転条件と排気脈動の関係を示す図である。
図14】所定運転条件における排気脈動の時間推移を示す図である。
図15】多孔体形状の他の例を示す全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を車両用エンジンの後処理に用いた第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明を適用した気液接触装置1であり、図5に示すエンジンEの排気通路に設置されて、燃焼排気(以下、排気と称する)中の特定ガス成分を、液体を用いて除去するための後処理装置(以下、湿式後処理装置と称する)100の主要部を構成している。エンジンEは、過給機付ディーゼルエンジンで、排気通路としての排気管EXの途中には、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)101、排熱回収装置102が配置され、その下流に、本実施形態の湿式後処理装置100が配置される。図2に構成を示す本実施形態の湿式後処理装置100は、排気中の特定ガス成分、特に、窒素酸化物(NOx)成分を、液体としてのNOx吸収液体を用いて吸収除去する。
【0019】
エンジンEは、コンプレッサー103と排気タービン104で構成される過給機を備える。吸気管入口IN1から取り込まれた空気は、コンプレッサー103で加圧され、加圧により高温となった空気は、吸気管INに設置したインタークーラー106で冷却された後、吸気マニフォルド107の各ポートからエンジンEの燃焼室に吸入される。エンジンEの燃焼室では空気と燃料が混合され、燃焼することによってエンジン出力軸108の回転力として動力を生み出す。
【0020】
燃焼を終わった排気は、エンジンEの燃焼室から排気マニフォルド105に排気される。その後、排気はコンプレッサー103と直結した排気タービン104を回して、空気を加圧する仕事をした後、排気管EXに排出される。排気はここでDPF101を通過し、排気中のパティキュレートマター(PM)をDPF101によってろ過捕集する。同時に、排気が通過するDPF101表面にコーティングされた酸化触媒によって、HC成分やCO成分も浄化される。その後、排気は、排熱回収装置102を通り、冷却されて通常では排気温度が100℃〜180℃の間に下がる。
【0021】
ここで用いるDPF101は、セラミックで形成された多孔質の壁がフィルタとして働く、公知のウォールフロータイプの排気フィルタである。排熱回収装置102は、公知のランキンサイクル方式の排熱回収システムであり、例えば、排気の冷却で得た熱エネルギーは冷媒を蒸発させ高圧ガスとなってガスタービンを回し、ガスタービンと直結した発電機により電気エネルギーに変換されバッテリーに蓄えられるというようなものである。
【0022】
冷却された排気は、湿式後処理装置100に導入される。ここで、排気中に含まれるNOx成分は、湿式後処理装置100内においてNOx吸収液体と接触して吸収される。ここまででPM、HC、CO、そしてNOxが除去され、クリーンな排気となって排気管出口EX1から大気中に排出される。湿式後処理装置100の上流に、図示しないオゾン供給手段を設置して、排気中に含まれるNOxを供給されるオゾンと反応させ、硝酸(HNO)またはその前駆体(N)に変換させることもできる。本発明では、窒素酸化物(NO、NO)とこれらから生成される化合物(HNO、N)を合わせてNOx成分と称する。
【0023】
吸気系には、吸気管入口IN1の直下流に空気流量センサS1が配置される。また、吸気スロットル110のスロットル開度を検出するスロットル開度センサS2が配置され、吸気マニフォルド107の合流部には吸気圧センサS3が配置される。エンジン1の出力軸108の近傍には、エンジン回転数を測る回転数センサS4が配置され、排気系には、DPF101の下流に排気温度を測る排気温度センサS5が配置される。また、図示しないアクセルペダルの開度を検出するセンサアクセル開度センサS6が設けられ、これら各センサは、測定した情報をそれぞれ電気信号に変換して、接続された電気線を通して制御手段である電子制御ユニット(ECU)111に送る。
【0024】
次に、湿式後処理装置100の具体的な構成例を説明する。図2において、湿式後処理装置100は、排気管EXの途中に介設される気液接触装置1と、気液接触装置1にNOx吸収液体を供給する液体供給装置4を備える。気液接触装置1は、内部を気液接触通路22とする多孔体2を有し、その一端側(図の上端側)に、液体噴射弁である液体インジェクタ3と、排気入口11を設けた気体導入部である排気導入部13が位置している。排気管EXに接続される排気入口11から導入される排気は、液体インジェクタ3から噴射供給されるNOx吸収液体と、同じ向きに流れて多孔体2の内部で接触する。液体供給装置4は、多孔体2の下端側に設置される気液分離装置41を有し、気液分離装置41と液体インジェクタ3を液体配管42で接続してNOx吸収液体の循環路を形成している。気液分離装置41において、排気から分離回収されたNOx吸収液体は、液体配管42に設けられたフィルタFを通過し、ポンプPに吸い上げられて、再び液体インジェクタ3に供給される。一方、NOx吸収液体と分離された排気は、気液分離装置41を通過して、排気出口12から排気管EXに戻される。
【0025】
図1に詳細を示す気液接触装置1は、上下方向を軸方向とする筒状ハウジングHの上端部に液体インジェクタ3を取り付け、その下方に多孔体2を収容している。液体インジェクタ3と多孔体2の間には、排気導入部13となる空間が形成され、その上端部に側方から排気入口11が接続されている。この時、液体インジェクタ3の噴孔32より上方に、排気が導入されるので、噴射される液滴Lの流れを乱すおそれが少ない。多孔体2は、軸方向に延びる多数のセルからなるハニカム構造体であり、多数の気液接触板21を積層して構成される各セル内を、気液接触通路22としている。多孔体2の下方の空間は、気液集合部14となり、図2の気液分離装置41に接続される。
【0026】
図3に示すように、本実施形態の気液接触板21は、波形プレート状の気液接触板21aと平形プレート状の気液接触板21bの2種類の板材の組み合わせであり、これらを水平方向に交互に積層し筒体23内に収容して、区画された多数のセルを有する多孔体2を構成している。筒体23は、角を丸めた矩形筒状であり、多孔体2は全体が断面略正方形の直方体形状となっている。気液接触板21a、21b、筒体23は、通常、耐食性を有するステンレス鋼等の金属板であり、隣り合う気液接触板21a、21b、筒体23で囲まれる略三角形断面の多数のセルが、多数の平行な気液接触通路22を形成する。気液接触通路22に面する気液接触板21a、21bの両表面、筒体23の内表面は、気液接触面として機能し、NOx吸収液体が気液接触面を伝って流下する間に、気液接触通路22に流入する排気と接触して、排気に含まれるNOx成分を吸収する。
【0027】
NOx吸収液体は、NOx成分を吸収可能であり、水よりも粘性が大きく、使用環境下において液体状態を維持する液体であれば、特に制限されない。具体的には、常温(25℃)における粘度が0.01Pa・s以上の液体であるとよく、好適には、NOxまたはHNO等のNOx成分を化学吸収するイオン液体、例えばカルボン酸塩を含むイオン液体が用いられる。好適には、カルボン酸塩のアニオンとして、C2n+1COO(nは0〜10の整数)で表されるアルキルカルボン酸イオンおよびその誘導体が挙げられ、少なくとも1種または2種以上を組み合わせて所望の吸収性能および粘性を有する吸収液体に調製することができる。
【0028】
このようなイオン液体は、高温環境下においても蒸発しないので、排気導入部13で微粒化して浮遊することがなく、比較的粘性が大きいので、噴孔32の形状に応じた噴射角度で排気導入部13内に広がり、多孔体2の上端面に付着する。そして、気液接触通路22の壁面をゆっくり流下しながら、排気中のNOx成分と接触し、化学的に吸収してその状態を安定に維持する。このため、例えば液体を冷却するための冷却装置等を設ける必要がなく、分離回収が容易で、装置全体を小型にできる。
【0029】
ただし、粘性が大きいイオン液体は、1つの噴孔32から噴射された液滴Lが微粒化することなく、噴射角度をほぼ保って多孔体2に到達する。このため、多孔体2の上端面において全面に行き渡るように供給することは困難であり、多孔体2に付着した液滴Lを、気液接触通路22の表面全体に広げる分配機構が必要となる。そこで、本発明では、多孔体2の上流側端部に、NOx吸収液体を均等に付着させるとともに、付着させた液滴Lが気液接触通路22間を流通可能に構成して、NOx吸収液体を多孔体2の全体に分配する分配機構を設ける。具体的には、NOx吸収液体の分配機構は、液体インジェクタ3による液滴Lの適切な生成と、多孔体2の幾何学的な構造による液滴Lの均一な配分の組み合わせであり、これらを最適化することで、気液接触能力を大きく向上できる。
【0030】
このうち多孔体2の構造について、まず説明する。図1において、多孔体2となる気液接触板21には、排気導入部13に面する上流側の一部に、板面を貫通する多数の通孔24を設けてある。分配機構を構成する、これら通孔24を介して気液接触面となる両表面が連通することで、NOx吸収液体が隣り合う気液接触通路22を流通可能となる。図3に示すように、通孔24は、例えば、波形の気液接触板21aのピッチに応じた大きさの円形孔で、長手方向の所定領域に等間隔で設けられる。図3では、波形の気液接触板21aに設けた通孔24を示しているが、平形の気液接触板21bにも通孔24を設けることで、NOx吸収液体の流通が促進される。
【0031】
図4は、多孔体2のセルを拡大して示しており、平形の気液接触板21bには、波形の気液接触板21aの山部または谷部が当接する位置に、板面を貫通する多数の通孔24を設けている。この時、液滴Lは、図中に矢印で示すように、気液接触板21a、21bの表面を伝って移動し、通孔24位置でその反対側の表面へ移動する。このように、多数の通孔24を介した液滴Lの移動によって、気液接触板21a、21bの壁面全体を濡らすように広がり、均等に分配される。
【0032】
通孔24の形成領域は、適宜設定することができるが、通常は、多孔体2の上流側から長手方向長の1/8以上とするとよい。好ましくは、長手方向長の1/2までの領域とし、例えば長手方向長の1/3程度とすることで、製作の手間を少なくしながら液滴Lの分配供給による十分な効果が得られる。これにより、気液接触板21の上流側において、隣り合う気液接触通路22の間でNOx吸収液体の流通を可能にし、NOx吸収液体を多孔体2全体に行き渡らせることができる。
【0033】
図6において、液体インジェクタ3は、円筒状のインジェクタボディ31内を液体通路34とし、インジェクタボディ31の先端(図の下端)に、複数の噴孔32を設けたノズルプレート33を固定している。インジェクタボディ3の下半部内には、ニードル35が摺動可能に収容され、その先端テーパ面が、インジェクタボディ3の先端側内壁に設けたテーパ状のシート31aに着座または離座して、液体通路34を開閉する。ニードル35は、基端側端部をコア35aとして、その外周に配置した電磁ソレノイド36の電気端子36aに通電することで上方に吸引駆動される。非通電時には、ニードル35上方のアジャスティングパイプ37に支持されるスプリング38が、ニードル35を下方に付勢してシート31aに押圧する。このように、液体インジェクタ3は、ニードル35とシート31aからなるシート機構を電磁的に開閉する構成となっている。
【0034】
ニードル35は、中間部外周がインジェクタボディ31と摺動する摺動部35bとなり、摺動部35bの外周の一部を面取り部35cとすることで、その上下の液体通路34を連通している。また、ニードル35のコア35a内部を通過して、その上下空間を連通する通路を有し、ニードル35作動時の燃料の移動を容易にしている。インジェクタボディ31の上端部外周には、Oリング31bが嵌着されて液体インジェクタ3が取付けられる気液接触装置1の壁面との間を封止している。電気端子36aへの通電は、図5の電子制御ユニット(ECU)111によって制御され、一回のシート31a開閉動作によって、各噴孔32ごとに少なくとも1つの液滴Lが生成されて、対応する多孔体2の各部へ分配供給されるようにする。
【0035】
ノズルプレート33は、インジェクタボディ31形状に対応する円板状の先端面を有し、ニードル35に対向するノズルプレート33の中央部に、多数の噴孔32が貫通形成される。NOx吸収液体の分配機構を構成する多数の噴孔32は、多孔体2の上端部形状に対応する矩形状に配置され、ここでは一辺に4個の噴孔32が等間隔で整列する正方形状となっている。各噴孔32は同径の円形孔で、噴射された液滴Lが、多孔体2の上端面に均等に配分されるように、噴孔数や位置および角度が調整される。
【0036】
本実施形態では、図7に示すように、多孔体2の上端面を正方形とみなして、噴孔32の数(ここでは16個)に対応する略等面積の16の領域(図中に点線で示す)を設定し、複数のセル群を含む各領域の中央に、対応する噴孔32から供給される液滴Lが到達するように、噴射角度すなわち噴孔角度(軸線に対する噴孔の傾斜角度)を調整する。粘性の比較的大きいNOx吸収液体は、噴孔32形状に沿って、噴孔角度の方向に液滴Lとなって飛散するので、気液接触装置1の幾何学的寸法から噴孔32を設計することができる。
【0037】
より具体的には、ノズルプレート33に形成される矩形の噴孔32群の大きさに対して、多孔体2の矩形の上端面が大きく、対応する領域が外側に位置することから、噴孔32はいずれも軸線に対して外方へ傾斜する噴孔角度を有する。また、図6に断面形状を示すように、中心に近い内周側の4個の噴孔32群に対して、外周側の12個の噴孔32群の噴孔角度が大きく設定される。また、排気の流れ等の影響で所定位置に液滴Lが到達しない場合には、使用する噴射圧で噴射を行なって実験的に噴孔角度のずれを調整することもできる。
【0038】
本発明の特徴であるNOx吸収液体の分配機構は、このように、液滴Lを生成する液体インジェクタ3の噴孔32を適切に配置して、多孔体2の上端面の全体に、液滴Lを均等に付着させ、さらに、付着した液滴Lを多孔体2の上流側に設けた通孔24を用いて、全体に配分する。これらの組み合わせにより、気液接触効率を高め、処理性能を向上させることができる。
【0039】
気液接触装置1の大きさは、通常、エンジン排気量に応じて任意に設定することができる。例えば、多孔体2の容量を排気量の0.5〜3倍程度とし、メッシュ数を6メッシュ以上となるようにすることで、各領域の複数のセル内に形成される気液接触通路22において十分な気液接触が可能となる。メッシュ数を大きくするほど、有効な気液接触面積が増加するが、製作に手間がかかり圧損も増加するので、所望の処理能力が得られる範囲で適宜設計するとよい。
【0040】
第1実施形態の構成について、実際に多孔体2と液体インジェクタ3を含む気液接触装置1を製作し、評価した。実験に用いた多孔体2は、メッシュ12.7(ピッチ2mm)、通孔24径φ1mm、ピッチ2mmとし、全長110mmに対し通孔24形成長を36mmとした。まだ液体で濡れていない実験用装置を用いて、空間速度SV60000(h−1)、気液重量比7.8の条件で、試験用ガスを導入するとともに液体インジェクタ3から噴射を実施した。約7分程度運転を継続した後、装置を分解し、多孔体2の出口部における壁面を観察したところ、全ての壁面が液体で濡れており、比較的短時間で液体が多孔体全体の壁面に行き渡ることを確認した。
【0041】
図8は、本発明の第2実施形態であり、気液接触装置1の多孔体2への排気導入方向と、液体インジェクタ3の配置を変更した構成例である。図示するように、気液接触装置1は、排気管EXの一部をハウジングHとして、その内部に水平方向を軸方向として多孔体2を配置している。本実施形態の多孔体2は、上記第1実施形態と同様に、多数のセル内を気液接触通路22(図略)とする直方体形状のハニカム構造体からなり、その上流側端部を段付きに形成している点で異なっている。ここでは、多孔体2を、上下方向および水平方向に、それぞれ4つの領域に分けており、上下方向の各領域をそれぞれ異なるセル群ユニットU1〜U4で構成している。水平方向の領域を構成するセル群ユニットU1〜U4は、各段で共通である。
【0042】
上下方向の4つのセル群ユニットU1〜U4は、それぞれ2段構成で、上段部を構成するセル群に対して下段部を構成するセル群が上流側に突出位置しており、突出する下段部上面を、液滴Lの付着面(付着部)25としている。また、セル群ユニットU1〜U3の下段部は、下方のセル群ユニットU2〜U4の上段部に積層される。これにより、セル群ユニットU1〜U4の付着面25が、正方形状に上向きに並び、ハウジングHの幅方向および軸方向に4つずつ計16の領域を形成する。
【0043】
一方、液体インジェクタ3は、上記第1実施形態と同一形状で、ハウジングHの各付着面25に対応する16個の噴孔32を有している。ハウジングHは、セル群ユニットU1〜U4の上流側において、上壁面の一部を上方に突出させてその内部に気体導入部13となる空間を形成し、突出する壁面に液体インジェクタ3を取り付けている。液体インジェクタ3は、排気流れの下流側を向くように傾斜して配置され、先端の噴孔32が、セル群ユニットU1〜U4の最上流部の直上に位置している。
【0044】
本実施形態においても、16個の噴孔32をそれぞれ、セル群ユニットU1〜U4の16個の付着面25に対応させて噴孔角度を設定する。これにより、各噴孔32から噴射される液滴Lを、各付着面25の中央部に付着させることができる。さらに、各セル群ユニットU1〜U4の内部には、図9(セル群ユニットU1のみ示す)のように、水平方向に気液接触板21で区画される複数の気液接触通路22が形成され、各気液接触通路22には、その上流側の底面を構成するに気液接触板21に、複数の通孔24が設けられる。複数の通孔24は、各セル群ユニットU1〜U4の上段部と下段部を連通するもので、排気流れに沿って気液接触通路22の上段側から流入する液滴Lを、重力で落下させることによって下段側へ分配する分配機構を構成する。
【0045】
また、各セル群ユニットU1〜U4の付着面25には、上段側の複数の気液接触通路22の入口部に面する一部を凹陥させて、NOx吸収液体の分配機構を構成するくぼみ部(分配部)26を設ける。くぼみ部26は、液滴Lが付着する中央部に近接し、液滴Lと同等容量の浅い凹部で、液滴Lが付着すると表面張力で速やかに幅方向に広がり、複数の気液接触通路22へ導入する。このようにくぼみ部26を設けると、排気の流れ等の影響で、液滴Lの付着位置がずれても、対応する複数の気液接触通路22に均等にNOx吸収液体を分配することができる。
【0046】
本実施形態のように構成することで、気液分離装置1の装置高さが低くできるので、高さ方向のスペースに制約がある場合に有利である。したがって、例えば、車両搭載エンジン用に、車両床下を水平方向に這う排気管EXに取り付けられて、好適に使用することができる。
【0047】
図10は、本発明の第3実施形態であり、分配機構の基本構成は、第2実施形態と同様とする。本実施形態では、各セル群ユニットU1(U2〜U4も同様)の上流側において、隣り合う気液接触通路22を区画する気液接触板21にも、複数の通孔24を設ける。これにより付着面25からくぼみ部26に広がり、各気液接触通路22に分配された液滴Lは、さらに底面および側面に開口する通孔24を介して壁面を濡らすように全体に広がる。したがって、さらに液滴Lの分配を効果的に行なうことができる。これら第2、3実施形態において、通孔24を形成する領域は、第1実施形態と同様に設定するとよい。
【0048】
図11は、本発明の第4実施形態であり、液体インジェクタ3を複数配置した構成例である。分配機構の基本構成は、第2実施形態と同様であり、図8に示したセル群ユニットU1〜U4と液体インジェクタ3の組み合わせを基本ユニットUとして、この基本ユニットUを水平方向に、かつ排気の流れに対して直交する方向に並設している。NOx処理能力を増大させるために気液接触装置1を大型化する場合、噴孔数を増加させて対応する領域数を増加させることも可能であるが、液体インジェクタ3が大型化し、噴孔設計も容易でない。そこで本実施形態では、基本ユニットUを組み合わせることで、液体インジェクタ3やセル群ユニットU1〜U4を設計変更することなく、処理能力を倍増する。また、要求される処理能力に応じて、基本ユニットUの数を増加させることができるので、液滴Lの分配を効果的に行ない、装置全体で効率よくNOx吸収を行うことができる。
【0049】
図12は、本発明の各実施形態において、気液接触装置1の処理能力を効果的に発揮するために、エンジン運転条件に応じて液体インジェクタ3の作動を制御する方法を示したフローチャートであり、電子制御ユニット(ECU)111において実行される。排気には、エンジン燃焼回数に同期した脈動があり、排気流速が大きくなると、液滴Lが風に流されて、液体インジェクタ3から多孔体2に飛来する液滴L群の離散的均一性が損なわれるおそれがある。そこで好適には、排気中のNOx量に応じて液体噴射流量(液体供給流量)を制御し、さらに排気流速と脈動の影響が予測される運転条件では、これらの影響が最小となるように、液体インジェクタ3の作動タイミングを決定することが望ましい。
【0050】
図12のステップ1では、湿式後処理装置100の作動条件か否かを判定する。例えば、エンジン始動時または始動直後のNOx生成量の少ない運転条件では、NOx処理を行わない。また、エンジンEに付設された故障判定装置により湿式後処理装置100に何らかの異常が検出された場合も、非作動条件と判断する。このように、ステップ1が否定判定されると、気液接触装置1の液体インジェクタ3を作動させることなく、本処理を終了する。ステップ1が肯定判定されると、続くステップ2へ進む。
【0051】
ステップ2では、エンジンEの運転状態から、NOx処理に必要な液体噴射流量GLを算出する。具体的には、エンジン回転数と噴射量に基づいて、予めプラグラムされているマップからエンジンEが排出するNOx濃度を求める。そして、空気流量センサS1と温度センサS5で測定される吸気流量と排気温度に基づいて、NOx流量を算出する。これに基づいてNOx吸収液体の流量を算出し、液体インジェクタ3から供給するNOx吸収液体の液体噴射流量GLを決定することができる。
【0052】
続くステップ3では、エンジンEが低速低負荷運転条件か否かを判定する。図13はエンジンEの運転領域ごとに排気脈動の大きさを示したものである。低速低負荷領域では、排気脈動が十分小さく、排気流速も小さいので、これらの影響を考慮することなく、気液接触装置1を作動させることができる。ところが、低速低負荷領域を超えると、排気流速が大きくなり、また排気脈動が大きくなる傾向にあるために、さらに流速が高まって、その影響を無視できなくなる。そこで、低速低負荷領域以外、すなわちステップ3が否定判定される場合には、ステップ4以降へ進み、エンジンEの回転と同期させて最適な噴射を実施する。ステップ3が肯定判定された場合には、ステップ9へ進む。
【0053】
続くステップ4では、液体インジェクタ3による一回の噴射量qiと、ステップ2で算出した液体噴射流量GLを用い、下記式(1)により、単位時間当たりの噴射回数Nを算出する。
N=GL/qi・・・(1)
次いで、ステップ5において、エンジン回転センサS4で測定した現在のエンジン回転数Neを読み込む。これを用いて、100回転当たりの噴射回数を算出し、さらに整数化してN100を算出する。
【0054】
次に、ステップ6に進み、エンジン急加速運転条件か否かを判定する。急加速時のような過渡運転時には、排気流速が増大するので、気液接触装置1の応答遅れによって、NOx吸収液体の供給が追いつかなくなるおそれがある。これを回避するために、ステップ6が否定判定された場合のみ、ステップ7へ進み、ステップ5に基づく噴射を行なう。ステップ6が肯定判定された場合には、ステップ8へ進む。
【0055】
ステップ7は、低速低負荷領域以外であり、かつエンジン急加速時を除く運転条件で実行される処理である。この領域では、排気脈動の影響を最小限とするために、液体インジェクタ3による噴射を、エンジン回転と同期させて排気流速が最も小さくなるタイミングで実施する。図14は、排気脈動実測データの一例であり(エンジン回転数1800rpm、エンジントルク60Nm)、排気圧力変化量(△P)が時間とともに変動し、エンジン回転に伴う一定の周期を有していることがわかる。そこで、この脈動の底部分、排気流速が最も小さくなるエンジン回転位置を、基準回転位置として、1回転ごとに、ステップ5で算出した噴射回数N100(100回転当たり)となるように噴射する。
【0056】
ステップ8は、エンジン急加速運転条件で実行される処理で、この領域では、応答遅れによる処理能力低下を補償するために、ステップ5の算出値にかかわらず、エンジン1回転ごとに、毎回噴射を実施する。このように、エンジン加速を検知した場合には、一時的に液体供給量を増加させるので、排気流速が増大しても、十分なNOx吸収液体を気液接触装置1に供給することができる。
【0057】
ステップ9は、低速低負荷運転条件で実行される処理で、この領域では、排気流速や排気脈動は十分小さいので、エンジン回転に同期させる必要がない。具体的には、一回の噴射量qiと、ステップ2で算出した液体噴射流量GLを用い、下記式(2)により、単位時間当たりの噴射頻度(噴射周波数)Fを算出する。
F=GL/qi・・・(2)
次いで、ステップ10において、算出された噴射周波数Fにより、液体インジェクタ3を作動させる。
【0058】
上記実施形態では、気液接触装置1を構成する多孔体2に、波板と平板を組み合わせたハニカム構造体を用いたが、内部に多数の気液接触通路22を形成可能な構造であればよい。気液接触板21の積層体からなる多孔体2の形状は、特に制限されないが、矩形断面の直方体形状とすることで、波形と平形の気液接触板21を用いた積層体の製作が容易にでき、設置スペースに対してNO吸収部2の容積を比較的大きくすることができる。さらに、円形、楕円形その他の断面形状とすることもでき、設置スペース等に応じて任意に選択することができる。
【0059】
図15は、多孔体2を、気液接触板21を積層した円形断面形状とした例であり、この場合も、波形の気液接触板21aと平形の気液接触板21bを組み合わせて多数のセル内に気液接触通路22を形成し、多孔体2の端面に設定した複数の領域に対応させて、液体インジェクタ3の噴孔32を配置することで同様の効果が得られる。また、液体インジェクタ3や液体供給装置4、その他、湿式後処理装置100の各部構成も、特に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の気液接触装置を用いたエンジン湿式後処理装置は、小型で低コストであり、環境温度や運転状態の変化が大きいエンジンであっても適用可能である。このため、使用環境が厳しくスペース的な制約の大きい車両用エンジンに好適であるが、車両用またはディーゼルエンジンに限らず任意のエンジンに適用される。また、排気中の特定成分としては、NOx成分に限らず、特定のガス成分と吸収液体を組み合わせることで、同様の高い処理性能を実現する。
【符号の説明】
【0061】
E エンジン
EX 排気管(排気通路)
100 湿式後処理装置
111 電子制御ユニット(制御手段)
1 気液接触装置
13 排気導入部(気体導入部)
2 多孔体
21 気液接触板
22 気液接触通路
23 筒体
24 通孔(分配機構)
25 付着面(付着部)
26 くぼみ部(分配部)
3 液体インジェクタ(液体噴射弁)
31a シート(シート機構)
35 ニードル(シート機構)
32 噴孔(分配機構)
4 液体供給装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15