(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記排気熱エネルギは、前記点火遅角量の増加に伴って上昇する排気熱効率(ηexh)と、噴射燃料熱流(Qinj)とに基づいて算出される排気熱流(Qexh)の積算値として得られることを特徴とする請求項3または4に記載のハイブリッド車制御装置。
前記排気熱エネルギは、排気温度と排気流量とに基づいて算出される排気熱流(Qexh)の積算値として得られることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のハイブリッド車制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒暖機要求と低SOC制御要求とが共にあるとき、特許文献1の制御装置では、エンジンを無負荷運転とするため燃費の低下が大きい。また、SOCの低下による充電許容電力Winの拡大を実施しないため、モータジェネレータの減速回生時のエネルギを十分にバッテリに充電することができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、触媒暖機要求と低SOC制御要求とが共に有るとき、燃費の低下を回避し、且つバッテリの充電能力を確保しつつ、適切に触媒を暖機するハイブリッド車制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジンと、排気管に設けられ、排気を浄化する触媒と、力行動作により電力を消費して駆動力を生成可能であり、且つ回生動作により発電可能であるモータジェネレータと、モータジェネレータとの電力の授受により充放電可能なバッテリと、を備えるハイブリッド車において、触媒の暖機を行う「触媒暖機要求」、及び、バッテリのSOCの管理中心を低下させることにより充電許容電力(Win)を拡大させる「低SOC制御要求」に応じて、エンジン及びモータジェネレータの駆動、並びにバッテリの充放電を制御可能なハイブリッド車制御装置に係る発明である。
ここで、「バッテリ」は、充放電可能な蓄電装置全般を意味し、キャパシタ等を含む。
【0008】
このハイブリッド車制御装置は、触媒暖機要求と低SOC制御要求とが共に有るとき、モータジェネレータの回生動作により発生する可能性があり車速に応じて変化する回生可能パワー(Preg_av)が、バッテリ温度(Tb)及びSOCによって決まる充電許容電力の範囲内になるように制御しつつエンジンを負荷運転させ、且つ、触媒に供給される排気熱エネルギ(Eexh)が触媒暖機必要エネルギ(Eexhtgt)を超えるように触媒を暖機する「触媒暖機制御」を実行することを特徴とする。
ここで、排気熱エネルギは、例えば、排気温度と排気流量とに基づいて算出される排気熱流(Qexh)の積算値として得られる。
【0009】
本発明では、特許文献1の従来技術のように、触媒暖機要求時に低SOC制御よりも触媒暖機制御を優先してエンジンを無負荷運転とするのではなく、エンジンを負荷運転させつつ触媒を暖機するため、燃費の低下を回避することができる。
また、回生可能パワーが充電許容電力の範囲内になるように制御する。具体的には、回生可能パワーから充電許容電力を差し引いたパワー値であるパワーバランス(Preg_av−Win)に応じてバッテリを充放電させ、バッテリの放電時に充電許容電力Winを拡大させることで、モータジェネレータによる減速回生時のエネルギを全てバッテリに充電することができるようにする。よって、バッテリの充電能力を確保しつつ、適切に触媒を暖機することができる。
【0010】
本発明のハイブリッド車制御装置は、触媒暖機要求と低SOC制御要求とが共に有るとき、好ましくはハイブリッド車の走行に必要な車両走行パワー(Prun)を算出する。そして、(1)車速(V)が所定の車速閾値(Vx)より低速であり、回生可能パワーが充電許容電力より小さいとき、エンジン出力(Peng)を車両走行パワーより大きくしてバッテリを充電する。また、(2)車速が車速閾値より高速であり、回生可能パワーが充電許容電力より大きいとき、エンジン出力を車両走行パワーより小さくしてバッテリを放電させる。
【0011】
(1)の制御の場合、バッテリを充電したときSOCは増加するが、充電許容電力は回生可能パワーに対して余裕があり、低SOC制御と触媒暖機制御の双方の目的が同時に達成される。
(2)の制御の場合、バッテリの放電によりSOCが低下していき、回生可能パワーが充電許容電力の範囲内に入るように制御できるため、低SOC制御と触媒暖機制御の双方の目的が同時に達成される。
【0012】
また、本発明の触媒暖機制御において、エンジンの点火時期を所定の点火遅角量(IGTrtd)だけ遅角させる「点火遅角制御」を実施することで排気熱エネルギを増加させ、触媒及びエンジンを暖機することが好ましい。これにより、排気流量の増加のみによって排気熱エネルギを増加させる方法に比べ、短時間で排気熱エネルギを増加させ、早期に触媒を暖機することができる。
【0013】
点火遅角制御を前提とすると、好ましくは、上記の(1)の制御にて、バッテリを充電し、且つ、点火遅角量を(2)の制御に対し相対的に小さくする。また、(2)の制御にて、バッテリを放電させ、且つ、点火遅角量を(1)の制御に対し相対的に大きくする。
(1)の制御の場合、点火遅角量を小さめに設定し、主に排気流量増加による排気熱流増加で触媒の早期暖機を図る。これにより、触媒暖機時の燃費の低下を回避することができ、また、触媒及びエンジンの暖機を促進することができる。
(2)の制御の場合、点火遅角量を大きめに設定し、主に点火遅角効果による排気熱流増加で触媒の早期暖機を図る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のハイブリッド車制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
最初に、本発明のハイブリッド車制御装置が適用されるハイブリッド車の例について、
図1を参照して説明する。
図1に示すハイブリッド車10は、駆動力源としてエンジン2及び2つのモータジェネレータ(図中、「MG」と示す)31、32を備えた、いわゆるシリーズパラレルハイブリッド自動車である。なお、他の実施形態の制御装置が適用されるハイブリッド車は、少なくとも1つのモータジェネレータを備えていればよい。
【0016】
エンジン2は、ガソリン、軽油等の燃料を燃焼させることにより動力を出力する例えば4気筒のエンジンである。エンジン2は、スロットルバルブを介して吸入した空気と、燃料噴射弁から噴射された燃料との混合気を、点火プラグによる電気火花によって爆発燃焼させ、動力を発生する。なお、スロットルバルブ、燃料噴射弁、点火プラグは、いずれも図示しない。エンジン2の各気筒からの排気は、エキゾーストマニホールド21を経由して排気管22に集められ、排気管22に設けられた触媒23によって浄化された後、大気中へ排出される。
【0017】
このハイブリッド車10の例では、エンジン2の動力はクランク軸15を介して動力分割機構16に伝達される。動力分割機構16は、エンジン2の動力を分割し、その一方の動力で車輪14を駆動し、もう一方の動力で第1モータジェネレータ31に発電させる。なお、他の実施形態の制御装置は、動力分割機構を備えないハイブリッド車に適用されてもよい。
【0018】
モータジェネレータ31、32は、例えば永久磁石式同期型の三相交流電動機であり、直流電力と三相交流電力とを変換するインバータ(図中、「INV」と示す)33、34を介してバッテリ4と電気的に接続されている。
モータジェネレータ31、32は、力行動作により電力を消費して駆動力を生成可能であり、且つ回生動作により発電可能である。第1モータジェネレータ31は、インバータ33によって駆動され、主にエンジン2の駆動力によって発電する発電機として機能し、発電した電力をバッテリ4に充電する。第2モータジェネレータ32は、インバータ34によって駆動され、主に力行動作により、バッテリ4が放電した電力を消費して車軸13を介して車輪14を駆動する電動機として機能する。また、第2モータジェネレータ32は、ハイブリッド車10の減速時に回生動作し、発電した電力をバッテリ4に充電する。
【0019】
バッテリ4は、例えばニッケル水素、リチウムイオン電池等の充放電可能な蓄電装置である。また、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置もバッテリ4に含むものとして考える。
バッテリ4は、モータジェネレータ31、32との電力の授受により充放電可能であり、SOC(State Of Charge)が所定の限界量以内の範囲で充電される。
【0020】
バッテリ4の直流電力は、インバータ34で三相交流電力に変換されて第2モータジェネレータ32に供給される以外に、例えばDCDCコンバータで低電圧の直流電力に変換され、図示しない補機の電力源として用いられる。
なお、現実のハイブリッド車において、バッテリ4は、補機用の低圧バッテリと区別するため、「主機バッテリ」又は「高圧バッテリ」とも呼ばれる。しかし、本明細書では、補機用のバッテリについて特に言及しないため、単に「バッテリ4」という。
【0021】
ECU5は、本発明の「ハイブリッド車制御装置」に相当し、車速や、運転者のアクセル操作によるアクセル開度等の信号が入力されるとともに、エンジン2、触媒23、モータジェネレータ31、32、バッテリ4等の現在の作動状態や温度、SOC等の情報を取得し、各駆動力源の駆動を統括的に制御し管理する。
現実のハイブリッドでは、ECU5は、エンジンECU、MG−ECU、バッテリECU等、制御対象毎に制御を分担された個別のECU、及び、それら個別のECUと相互に通信し車両全体を統括的に管理するPM(パワーマネジメント)−ECU等の複数の制御装置から構成されている。しかし、本明細書では細かな制御分担には言及せず、包括的な制御装置としてのECU5が、後述する全ての制御を実行するものとする。
【0022】
ECU5の主な作用について説明する。ECU5は、エンジン2に関し、クランク角、冷却水温、気筒内圧力、カム角、スロットル開度、吸入空気量、吸排気温度、空燃比、酸素信号、及び、排気管22の触媒23の付近に取り付けられた触媒温度センサ24からの触媒温度Tcat等の情報を取得し、これらの情報に基づいて各種制御量を演算する。なお、触媒温度センサ24を設けず、例えばエンジン停止期間と外気温度等から触媒温度Tcatを推定してもよい。
そして、ECU5は、燃料噴射弁への駆動信号、スロットルバルブの開度を調節するスロットルモータへの駆動信号、点火プラグへの制御信号、バルブタイミング調整装置への制御信号等を出力することで、エンジン2の運転を制御する。
【0023】
また、ECU5は、モータジェネレータ31、32に関し、車速信号やアクセル開度信号に基づいてトルク指令を演算し、さらに、回転角センサからの電気角信号や、電流センサからの電流フィードバック信号等に基づいて、インバータ33、34のスイッチング動作を制御することで、モータジェネレータ31、32の通電を制御する。
また、ECU5は、バッテリ4に関し、バッテリ温度TbやSOC等の情報を取得し、充電許容電力(入力制限)Win及び放電許容電力(出力制限)Woutの範囲内で適切に充放電させるよう制御する。
【0024】
以上のような構成のハイブリッド車において、特許文献1の従来技術では、バッテリ温度Tbが低いときには充電許容電力Winが低下するため、SOCの管理中心を通常時の値(例えば60%)から少し小さい値(例えば45%)に低下させることで、バッテリの充電許容電力(入力制限)Winを拡大する「低SOC制御要求」を出力する。また、触媒温度Tcatが所定温度よりも低いとき、触媒暖機要求を出力する。そして、触媒暖機要求と低SOC制御要求が共に有るときには、低SOC制御より触媒暖機制御を優先し、点火遅角した状態でアイドル回転数で自立運転(無負荷運転)するようエンジンを制御することにより、触媒を暖機する。
【0025】
しかし、この従来技術ではエンジンを無負荷運転とするため燃費の低下が大きい。また、SOCの低下による充電許容電力Winの拡大を実施しないため、モータジェネレータの減速回生時のエネルギを十分にバッテリに充電することができなくなるおそれがある。
そこで、本実施形態のECU5は、上記の課題を解決するため、触媒暖機要求と低SOC制御要求とが共に有るとき、燃費の低下を回避し、且つバッテリの充電能力を適切に確保しつつ、触媒を暖機するための制御を実行することを特徴としている。
【0026】
次に、本実施形態のECU5が実行する触媒暖機制御ルーチンについて
図2〜
図6を参照して説明する。以下のフローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。また、制御の説明では、エンジン、バッテリ、モータジェネレータ等について
図1の符号を全てに記載するとかえって文章が読みにくくなるため、符号の記載を適宜省略する。
最初に、S10で触媒暖機制御フラグがONであるか、すなわち触媒暖機要求が有るか否か判断する。触媒暖機制御フラグがOFFの場合(S10:NO)、以下のステップを実行せず処理を終了する。触媒暖機制御フラグがONの場合(S10:YES)、以下のステップに進む。
【0027】
S11では、目標触媒温度Ttgtと現在触媒温度Tcatとの偏差に基づき、マップ等を用いて、「触媒を活性化させるのに必要な排気熱エネルギ」を意味する触媒暖機必要エネルギEexhtgtを算出する。目標触媒温度Ttgtは、触媒活性に必要な温度として予め設定する。現在触媒温度Tcatは、温度センサの検出値、又は、エンジン停止期間と外気温度等に基づいて推定される値を用いる。マップは、触媒の熱容量や外気温度等に基づき予め作成される。
【0028】
S12では、低SOC制御フラグがONであるか、すなわち低SOC制御要求が有るか否か判断する。低SOC制御要求が有るとき(S12:YES)は、充電許容電力Winを考慮した触媒暖機制御を実施するためS13に進む。低SOC制御要求が無いとき(S12:NO)はS17に進む。
S13では、回生可能パワーPreg_av、充電許容電力Win、及び車両走行パワーPrunを算出する。
【0029】
回生可能パワーPreg_avは、車両の減速時等にモータジェネレータの回生動作によって発生する可能性のある電力であり、
図3に示す車速Vと回生可能パワーPreg_avとの特性マップを用いて算出される。なお、「Preg_av」の添え字「reg」は「regeneration」を、「av」は「available」を意味する。
図3に示すように、回生可能パワーPreg_avは車速Vの増加に従って増加する。そのため充電許容電力Winとの関係において、車速閾値Vxより低速の領域では、回生可能パワーPreg_avは充電許容電力Winより小さくなり、車速閾値Vxより高速の領域では、回生可能パワーPreg_avは充電許容電力Winより大きくなる。
【0030】
充電許容電力Winは、
図4に示すバッテリ温度Tbと充電許容電力Winとの特性マップを用いて算出される。
図4に示すように、バッテリ温度が低温側のTb0以下、又は高温側のTb2以上のときは充放電不可であり、バッテリ温度がTb0からTb1の範囲で、バッテリ温度Tb及びSOCに応じて充電許容電力(入力制限)Win、及び、放電許容電力(出力制限)Woutが変化する。
【0031】
例えば、バッテリ温度Tbが0℃付近の充電側(パワー負側)を示すIVp部に注目すると、SOCが60%から50%、40%と低下するに従って、パワーの絶対値である充電許容電力Winが増加することがわかる。
また、車両走行パワーPrunは、少なくともアクセル開度、車速等に基づき、走行に必要なパワーとして算出される。
【0032】
ここで、「回生可能パワーPreg_avから充電許容電力Winを差し引いたパワー値」を便宜上「パワーバランス(Preg_av−Win)」と呼ぶことにする。S14では、パワーバランス(Preg_av−Win)に基づき、
図5に示すマップを用いてバッテリ充放電電力Pbattを算出する。バッテリ充放電電力Pbattとは、回生可能パワーPreg_avが充電許容電力Winの範囲内の状態、すなわちパワーバランス(Preg_av−Win)が負の状態でエンジンを負荷運転させるためにバッテリに要求される充放電の電力をいう。バッテリ充放電電力Pbattが正のとき放電を意味し、負のとき充電を意味する。
【0033】
上述のとおり、パワーバランス(Preg_av−Win)は、高車速又は高SOCのときほど大きく、低車速又は低SOCのときほど小さくなる。したがって、バッテリは、基本的にパワーバランス(Preg_av−Win)が大きいとき放電し、パワーバランス(Preg_av−Win)が小さいとき充電されることが求められる。
ただし、
図5のマップでは、パワーバランス(Preg_av−Win)が0のときを充放電の反転位置とせず、パワーバランス(Preg_av−Win)が0のとき、ある程度放電するように設定されている。また、パワーバランス(Preg_av−Win)の負の領域に、充放電しない不感帯DZが設けられている。これにより、回生可能パワーPreg_avが充電許容電力Winよりも所定量低下した値で安定するようになる。
【0034】
S15では、エンジン負荷運転時のエンジン要求出力Pengを式(1)により算出する。
Peng=Prun−Pbatt ・・・(1)
バッテリ充放電電力Pbattが正のとき、エンジン負荷運転時のエンジン要求出力Pengは車両走行パワーPrunより小さくなり、バッテリ充放電電力Pbattが負のとき、エンジン負荷運転時のエンジン要求出力Pengは車両走行パワーPrunより大きくなる。
【0035】
続いて、S16〜S18は実質的に触媒を暖機するステップである。本実施形態では、触媒暖機の方法として、エンジンの点火時期を所定の点火遅角量IGTrtdだけ遅角させる「点火遅角制御」を実施する。なお、点火遅角量IGTrtdの単位は、カム軸角度[°CA]である。
S16では、排気流量と関連がありS15で算出されたエンジン要求出力Pengと、エンジンの暖機状態と関連があるエンジン水温thwとに基づき、マップを用いて点火遅角量IGTrtdを算出する。
【0036】
一方、低SOC制御要求が無いとき(S12:NO)に進むS17では、排気流量と関連があり通常のエンジン制御で用いるエンジン負荷eloadと、エンジンの暖機状態と関連があるエンジン水温thwとに基づき、マップを用いて点火遅角量IGTrtdを算出する。
こうしてS16又はS17で点火遅角量IGTrtdが設定されると、S18に進む。S18では、別に演算される通常のエンジン点火時期に対し、S16又はS17で設定された点火遅角量IGTrtdを遅角させた点火時期に点火してエンジンを運転する。
【0037】
S19では、触媒に供給される排気熱エネルギEexhを算出する。この算出方法として2通りの方法を説明する。
1つ目の方法は、排気熱効率ηexhに基づく算出方法である。
図6のマップに示すように、点火遅角量IGTrtdを増加させると、排気に供給される熱エネルギが増加し、排気熱効率ηexhは上昇する。一方でエンジン軸効率ηengは低下する。そこで、点火遅角量IGTrtdに対する排気熱効率ηexhの特性を予め実験的に求めて作成したマップを用いて、点火遅角量IGTrtdから排気熱効率ηexhを算出する。
【0038】
また、式(2.1)から噴射燃料熱流Qinjを算出し、さらに式(2.2)により、噴射燃料熱流Qinjに、排気熱効率ηexh、及び、排気管への放熱ロス等を考慮した補正係数αを乗じて排気熱流Qexhを算出する。そして、式(2.4)により排気熱流Qexhを積算することで、排気熱エネルギEexhが得られる。
Qinj=噴射量×燃料の発熱量 ・・・(2.1)
Qexh=Qinj×ηexh×α ・・・(2.2)
Eexh=Σ(Qexh) ・・・(2.4)
【0039】
2つ目の方法は、排気温度と排気流量からの算出方法である。排気管内の触媒上流に設置した排気温度センサによって検出した排気温度と、排気流量とに基づき、式(2.3)により排気熱流Qexhを算出する。また、排気流量はエンジン吸入空気量とほぼ同等とみなし、エンジン吸入空気量で代用してもよい。そして、1つ目の方法と同様に、式(2.4)により排気熱流Qexhを積算することで、排気熱エネルギEexhが得られる。
Qexh=排気の定圧比熱×(排気温度−外気温度)×排気流量 ・・・(2.3)
Eexh=Σ(Qexh) ・・・(2.4)
【0040】
S20では、S11で設定した触媒暖機必要エネルギEexhtgtと、S19で算出された触媒に供給される排気熱エネルギEexhとを比較する。触媒に供給される排気熱エネルギEexhが触媒暖機必要エネルギEexhtgt以下の場合(S20:NO)、触媒暖機が未完了と判定し、触媒暖機制御フラグはONのまま制御ルーチンを終了する。
一方、排気熱エネルギEexhが触媒暖機必要エネルギEexhtgtを超えている場合(S20:YES)、触媒暖機が完了したと判定し、点火遅角量IGTrtdをクリアし(S21)、触媒暖機制御フラグをOFFとする(S22)。これにより、次回以降のルーチンではS10でNOと判定され、触媒暖機制御の実施が禁止される。
【0041】
続いて、上記の触媒暖機制御によって実現されるハイブリッド車の挙動について、
図7のタイムチャートを参照して説明する。
図7(a)−(i)に示すタイムチャートは、共通の時間軸を横軸とし、(a)低SOC制御フラグON/OFF、(b)触媒暖機制御フラグON/OFF、(c)車速、(d)エンジン回転数、(e)点火遅角量IGTrtd、(f)走行パワーPrun及びエンジン要求出力Peng、(g)充電許容電力Win及び回生可能パワーPreg_av、(h)SOC、(i)排気熱エネルギEexhをそれぞれ縦軸とする。以下、説明の文中に、参照する図(a)−(i)の記号、及びフローチャート(
図2)の関連ステップを記載する。
【0042】
このタイムチャートが表す期間を通じて低SOC制御が要求されており、低SOC制御フラグは常にON状態である(a)。実際のSOCは、低SOC制御による目標管理中心SOC
*よりも高めの値を推移している(h)。
時刻t1でエンジンが始動したとき(d)、触媒温度が所定温度よりも低いため、触媒暖機制御フラグがONとなる(b)。そして、フローチャートのS11に従い、触媒暖機必要エネルギEexhtgtが算出される(i)。
【0043】
また、S13に従い、車速Vから回生可能パワーPreg_avが算出される(g)。このとき、回生可能パワーPreg_avは充電許容電力Winに対して余裕がある、すなわちパワーバランス(Preg_av−Win)が十分に負であるので、S14にて、バッテリ充放電電力Pbattは負の値(充電)に設定される。そして、エンジン要求出力Pengを車両走行パワーPrunよりバッテリ充放電電力Pbattだけ大きい値とし(f)、S16で算出する点火遅角量IGTrtd(e)を反映してエンジンを運転させる。これにより、排気熱エネルギEexhが増加し始め、触媒が暖機される(i)。
【0044】
時刻t1から時刻t2の間、バッテリ充放電電力Pbattが充電側となっているため走行中にSOCが徐々に上昇し、充電許容電力Winは減少していく(g)。
時刻t2付近で、回生可能パワーPreg_avが充電許容電力Winに近づく。そのため、S14にて、バッテリ充放電電力Pbattを0とし、車両走行パワーPrunとエンジン要求出力engとを一致させる(f)。
【0045】
時刻t2から時刻t3の間、車速Vの上昇(c)に伴い回生可能パワーPreg_avが上昇していく。ただし、バッテリ充放電電力Pbattを放電側とし(f)、SOCを低下させていく(h)ことで、回生可能パワーPreg_avが充電許容電力Winの範囲に収まるように制御する(g)。なお、この制御により、SOCは結果的に目標管理中心SOC
*に漸近し、低SOC制御と同様の効果が得られることとなる。
また、継続して排気熱エネルギEexhが増加し、触媒が暖機される(i)。
【0046】
時刻t3で排気熱エネルギEexhが触媒暖機必要エネルギEexhtgtに到達する(i)と、触媒暖機が完了した(S20:YES)と判断される。したがって、S21、S22で点火遅角量IGTrtdをクリアし(e)、触媒暖機制御フラグをOFFにする(b)。
【0047】
次に、本実施形態による効果について説明する。
本実施形態のECU(ハイブリッド車制御装置)は、触媒暖機要求と低SOC制御要求とが共にあるとき、回生可能パワーPreg_avと充電許容電力Winとの差分であるパワーバランス(Preg_av−Win)に基づいてバッテリ充放電電力Pbattを算出し、バッテリを適切に充放電させることで、エンジン要求出力Pengを調整しつつ触媒暖機制御を実行する。
【0048】
具体的には
図3を参照する。車速Vが車速閾値Vxより低速であり、パワーバランスが負(Preg_av−Win<0)の領域では、モータジェネレータによる減速回生時のエネルギを全てバッテリに受け入れることができるため、充電許容電力Winをこれ以上拡大する必要性が低い。
【0049】
そこで、エンジン出力Pengを増加させ、排気流量を増加させるとともに、点火遅角量IGTrtdを小さめに設定する。つまり、主に排気流量増加により排気熱流Qexhを増加させ、エンジン効率の良いポイントで運転させることで、触媒暖機時の燃費の低下を回避することができ、また、触媒及びエンジンの暖機を促進することができる。
このとき、エンジン出力Pengは走行パワーPrunよりも大きく、バッテリ充放電電力Pbattは負となる。つまり、エンジン出力Pengから走行パワーPrunを差し引いた電力がモータジェネレータからバッテリに充電されることとなる。
【0050】
上記と逆に、車速Vが車速閾値Vxより高速であり、パワーバランスが正(Preg_av−Win>0)の領域では、モータジェネレータによる減速回生時のエネルギを全てバッテリに受け入れることができないため、SOCを低下させることで充電許容電力Winを拡大する必要性がある。この場合、車速Vが高く走行パワーPrunが比較的大きいため、エンジンを負荷運転させながらでもSOCを低下させることは容易である。
【0051】
エンジン出力Pengを減少させるにあたり、点火遅角量IGTrtdを大きめに設定して増加させる。つまり、主に点火遅角効果により排気熱流Qexhを増加させることで触媒暖機の促進を図りつつ、負荷運転を継続させることでエンジン軸効率ηengが極端に低下することを防ぐ。これにより、燃費の低下を回避することができる。
このとき、エンジン出力Pengは走行パワーPrunよりも小さくく、バッテリ充放電電力Pbattは正となる。つまり走行パワーPrunからエンジン出力Pengを差し引いた電力をバッテリからモータジェネレータに放電し、モータジェネレータの駆動力として使用することとなる。
【0052】
要するに本実施形態では、特許文献1の従来技術のように、触媒暖機要求時に低SOC制御よりも触媒暖機制御を優先してエンジンを無負荷運転とするのではなく、エンジンを負荷運転させつつ触媒を暖機するため、燃費の低下を回避することができる。
また、パワーバランス(Preg_av−Win)に応じてバッテリを充放電させ、バッテリの放電時に充電許容電力Winを拡大させることで、モータジェネレータによる減速回生時のエネルギを全てバッテリに充電することができるようにする。よって、バッテリの充電能力を確保しつつ、適切に触媒を暖機することができる。
【0053】
また、本実施形態では、点火時期を遅角させる点火遅角制御を実施することにより排気熱効率ηexh、又は排気温度を上昇させることで排気熱エネルギEexhを増加させ、触媒及びエンジンを暖機する。これにより、排気流量の増加のみによって排気熱エネルギEexhを増加させる方法に比べ、短時間で排気熱エネルギEexhを増加させ、早期に触媒を暖機することができる。
【0054】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態の
図1では、本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車の例として、エンジン2と2つのモータジェネレータ31、32、及び動力分割機構16を備えた、いわゆるシリーズパラレルハイブリッド自動車を示した。本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車は、これに限らず、エンジン、1つ以上のモータジェネレータ、バッテリ、及び触媒を備えたものであれば、それ以外の構成を問わない。例えば、クラッチ、変速機、デファレンシャルギア機構等、本発明の技術的特徴と関連性が低い構成については自由に選択してよい。
【0055】
(イ)触媒及びエンジンを暖機する方法は、点火遅角制御に限らず、エンジンへの吸入空気量を増加させる等の方法を実施してもよい。
(ウ)
図3のフローチャートのS16、S17において点火遅角量IGTrtdの算出に用いるマップは、エンジン要求出力Peng又はエンジン負荷eloadとエンジン水温thwとに基づくマップに限らず、その他の「排気流量と関連があるパラメータ」及び「エンジンの暖機状態と関連があるパラメータ」に基づくものでもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。