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特許6028801皮膚の組織再生能力及び細胞増殖能力の評価方法、及び評価方法を実行するためのコンピューターシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028801
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】皮膚の組織再生能力及び細胞増殖能力の評価方法、及び評価方法を実行するためのコンピューターシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20161114BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20161114BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   G01N33/50 Q
   C12M1/34 A
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-533239(P2014-533239)
(86)(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公表番号】特表2014-531212(P2014-531212A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】RU2012000745
(87)【国際公開番号】WO2013051963
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年4月24日
(31)【優先権主張番号】2011140055
(32)【優先日】2011年10月3日
(33)【優先権主張国】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】514027551
【氏名又は名称】オブシェストヴォ エス オグラニチェンノイ オトゥヴェトゥストゥヴェンノストゥ’イウ “ヴィタセル”
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ゾリン,ヴァディム レオニドヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゾリナ,アラ イヴァノヴナ
(72)【発明者】
【氏名】チェルカソヴ,ヴラディミル リュリコヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】コプニン, パヴェル ボリソヴィッチ
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/004268(WO,A1)
【文献】 特表2007−521817(JP,A)
【文献】 特表2011−512146(JP,A)
【文献】 特表2004−504052(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の皮膚の組織再生能力及び細胞増殖能力の評価方法であって、以下、
a)対象者の肌の線維芽細胞のコロニーを、画像化に利用できる孤立したコロニーが形成されるような条件で培養する工程、
b)線維芽細胞集団の再生ポテンシャルを規定するパラメーターとしてコロニー形成効力を計算し、判断する工程であって、前記コロニー形成効力は、外植後培養により細胞の個数が20より多くなった細胞と外植された細胞の総数の比として計算されコロニー形成効力が男性で45%未満、女性で36%未満の場合、再生ポテンシャルは低いと判断されコロニー形成効力が男性で45〜49%、女性で36〜45%の範囲にある場合、再生ポテンシャルは正常と判断されコロニー形成効力が男性で49%超、女性で45%超の場合、再生ポテンシャルは高いと判断される工程
c)細胞の増殖ポテンシャルを規定するパラメーターとして、細胞培養物中の密集コロニーおよび拡散コロニーの割合を計算し、判断する工程であって前記密集コロニーは、吸光度46以上(相対単位)を特徴とし、前記拡散コロニーは25以下(相対単位)を特徴とし、前記密集コロニーおよび前記拡散コロニーの割合が、男性でそれぞれ44%未満および25%超、女性でそれぞれ40%未満および40%超の場合、増殖ポテンシャルは低いと判断され、前記密集コロニーおよび前記拡散コロニーの割合が、男性でそれぞれ44〜54%および20〜25%の範囲、女性でそれぞれ40〜50%および30〜40%の範囲の場合、増殖ポテンシャルは正常と判断され、前記密集コロニーおよび前記拡散コロニーの割合が、男性でそれぞれ54%超および20%未満、女性でそれぞれ50%超および30%未満の場合、増殖ポテンシャルは高いと判断される工程、を備え、
線維芽細胞集団の再生ポテンシャルおよび/または増殖ポテンシャルが低い場合は組織再生能力の異常を示しており、線維芽細胞集団の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルがともに高い場合は迅速な組織再生能力を示している、評価方法。
【請求項2】
対象者の皮膚の組織再生能力及び細胞増殖能力の評価方法であって、以下、
a)対象者の肌の線維芽細胞のコロニーを、画像化に利用できる孤立したコロニーが形成されるような条件で培養する工程、
b)線維芽細胞集団の再生ポテンシャルを規定するパラメーターとしてコロニー形成効力を計算し、判断する工程であって、前記コロニー形成効力は、外植後培養により細胞の個数が20より多くなった細胞と外植された細胞の総数の比として計算されコロニー形成効力が男性で45%未満、女性で36%未満の場合、再生ポテンシャルは低いと判断されコロニー形成効力が男性で45〜49%、女性で36〜45%の範囲にある場合、再生ポテンシャルは正常と判断されコロニー形成効力が男性で49%超、女性で45%超の場合、再生ポテンシャルは高いと判断される工程
c)細胞の増殖ポテンシャルを確定するパラメーターとして、細胞培養物中の密集コロニー、混合コロニー、および拡散コロニーの割合、ならびに増殖指数を計算し、判断する工程であって、前記密集コロニーは、平均吸光度46以上(相対単位)を特徴とし、前記拡散コロニーは25以下(相対単位)を特徴とし、前記増殖指数は式PI=[1(PD)+2(PM)+3(PS)]/100%(式中、PIは増殖指数であり;PDは、該拡散コロニーの割合(%)であり;PMは、該混合コロニーの割合(%)であり;およびPSは、該密集コロニーの割合(%)である)で定義され、増殖指数が男性で2.0〜2.4、女性で1.8〜2.0の範囲にある場合、増殖ポテンシャルは正常と診断され、増殖指数が男性で2.4超、女性で2.0超の場合、増殖ポテンシャルは高いと診断される工程、を備え、
線維芽細胞集団の再生ポテンシャルおよび/または増殖ポテンシャルが低い場合は組織再生能力の異常を示しており、線維芽細胞集団の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルがともに高い場合は迅速な組織再生能力を示している、方法。
【請求項3】
コンピューターおよび数学モデル用いて、前記線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーター値を規定するための解析が行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の対象者の皮膚の組織再生能力及び細胞増殖能力の評価方法を実行するためのコンピューターシステムであって、
前記コンピューターシステムは、800dpi以上の光学解像度を提供する画像形成ユニット、メモリユニットと接続していて前記画像形成ユニットから直接または情報入力/出力装置から得られる情報を処理することができる中央演算処理装置を備え
前記コンピューターシステムには、コロニー分析を行なうソフトウェア、再生ポテンシャルを特性決定する少なくとも1つのパラメーターおよび増殖ポテンシャルを特性決定する少なくとも1つのパラメーターを求めるソフトウェア、対象者の組織または器官の前記再生ポテンシャル及び前記増殖ポテンシャルを評価できるようにする結果処理ソフトウェアが供給されている、コンピューターシステム。
【請求項5】
基質依存性細胞の前記再生ポテンシャルおよび前記増殖ポテンシャルを特性決定するパラメーターの正常値を含むデータベースをさらに備える、請求項に記載のコンピューターシステム。
【請求項6】
前記コンピューターシステムは、前記データベースに保存された前記パラメーターの正常値を用いて比較を行なうデータ処理ユニットを備えるものである、請求項に記載のコンピューターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬分野のものであり、結合組織を形成する基質依存性細胞のクローン分析により結合組織(および/または器官)の状態を評価または病態を検出するのに用いることができる。詳細には、本発明は美容医療に関し、皮膚を診察して肌の加齢による変化および他の構造的な変化を個別に矯正するのに用いることができる。結合組織を形成する細胞集団(詳細には、線維芽細胞集団)を評価する本発明の方法は、結合組織(および/または器官)の調子の診断、病態の治療、またはいずれにしろ結合組織で起こる再生プロセスの特殊性に関連する任意の変化を調べるのに用いることができる。本方法は、治療の効力、すなわち、再生プロセスが結果を左右する、変化および病態の矯正、それらの強度、および期間を予測するのにも応用できる。
【背景技術】
【0002】
英国特許第2395489号明細書(IPC C12N5/06)(特許文献1)には、細胞の生物学的パラメーターの変化(加齢要因の影響下での細胞の代謝の特徴など)を同定することにより細胞の加齢を分析する方法が記載されている。この方法では、(i)「若い」細胞、すなわち、若いドナーに由来する細胞、in vitroでの培養継代数の少ない(例えば、1〜5代)細胞、または紫外線に最小限しか晒されていない組織由来の細胞、および(ii)高齢のドナーに由来する「老いた」細胞、または、in vitroの培養継代数の多い(7代を超える)細胞、または強い紫外線に晒された組織由来の細胞について、プロテオミクス解析、ゲノム解析、および/またはトランスクリプトミクス解析あるいはそれらを組み合わせた解析を行い、続いてそのような解析で得られる結果を比較するが、このとき細胞培養物は、組織(例えば、結合組織、上皮組織、および表皮組織)を生物学的に模倣した三次元マトリクス中に設置される。この方法は、加齢していく細胞における代謝プロセスを調節することができる医薬品を同定するスクリーニング検査として提案されている。
【0003】
この方法の欠点の1つは、その遂行が複雑であること、さらには非常に技能の高い人材および専用の高価な装置を必要とすることである。このため、この方法は、特に美容医療において、日常的に用いることができない。そのうえさらに、この方法は、in vitroでの細胞に対してのみの使用に限定され、その細胞を採取してきた組織についてin vivoで組織由来の細胞集団の調子を特性決定するのに用いることができず、したがって、この方法は細胞レベルでの組織診断、およびその後の治療法の予後診断に用いることができない。
【0004】
国際公開第2008110570号パンフレット(IPC G01N33/50、C12N5/06)(特許文献2)には、再生医療または臨床移植術用の細胞製剤を特性決定することにより内皮前駆細胞のコロニー形成単位(CFU)を求める方法が記載されている。この公報は、その後の使用を目的とする内皮前駆細胞のCFU値に対する物質および分析するときの条件の影響を分析する方法を、内皮前駆細胞の増殖における個々の物質の影響が陽性か陰性を同定するスクリーニング検査として記載している。この方法では、初期細胞を、細胞増殖の接触阻害が起こらない密度で、適切な培地に外植し、続いて細胞を数日間インキュベートし、形成されたコロニーを分析する。このコロニー分析は、コロニーを染色し、計数し、そして大きさで2つの群に分類することで行われた。一方の群には、増殖ポテンシャルの高い細胞のコロニーが含まれており、これらのコロニーは、培地の組成によって2〜4mmの特定の閾値を基準にそれより大きいものであった。他方の群には、増殖ポテンシャルが通常のコロニーおよび低いコロニーが含まれており、これらのコロニーの大きさは閾値以下であった。
【0005】
この方法の欠点は、内皮前駆細胞(例えば、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)およびヒト毛細血管内皮細胞など)の分析にしか利用できないことである。また、この方法は、in vitroで細胞を検査するのに用いることはできるが、その細胞が由来する組織についてin vivoで組織の細胞集団の調子を特性決定するのに用いることはできず、したがって、この方法は細胞レベルでの組織診断、およびその後の治療法の予後診断に用いることができない。
【0006】
ロシア特許第2017818号明細書(IPC C12N5/02)(特許文献3)には、7〜8週齢のヒト胎児の肌および筋肉組織由来の線維芽細胞集団を分析する方法が記載されており、この方法では、細胞のトリプシン処理、ならびに栄養培地への外植およびインキュベーション、それに続く多形細胞、紡錘様細胞および帆様細胞の計数を行なう。この方法は、ある一定の細胞数および密度を有するコロニーを計数することにより、有糸分裂活性に関して皮膚線維芽細胞の出生後培養物を分析する。
【0007】
この方法の欠点は、深く集中的な労務、専門装置の必要性、ならびに得られる結果の主観的および定量的性質であり、これらの欠点のため、結果の解釈が難しく実用化が制限されている。
【0008】
ロシア特許第2110798号明細書(IPC G01N33/48)(特許文献4)には、仮骨延長の予後診断方法が提案されている。この方法では、実験動物またはヒト検体の骨髄細胞(例えば、胸骨から単離されたもの)の培養物を、拡散チャンバー中で、マウスに移植する。7日後、拡散チャンバーが取り除かれ、その内容物から細胞製剤が調製された。この製剤中のクラスターおよび単球マクロファージおよび線維芽細胞コロニーの個数が計測され、それらの比率に基づき、予後指数(PI)が計算された。もしPIが>1であれば、骨形成に異常があると予測された。著者らは、この方法が、大きな外傷を与えずに仮骨延長の免疫制御の障害に関連した骨形成の早期異常の検出を可能にすると明言している。
【0009】
この方法の不利な点として、高度に特化した方向性(骨髄クローン原性細胞の数に基づく仮骨延長の予後診断)が挙げられ、このためこの方法は、他の組織および器官での再生プロセスの検査への利用が限られている。そのうえ、この方法は、非常に多数の実験動物(1回の調査あたり多くて6匹のマウス)を使う必要があり、倫理的問題だけでなく、専用の動物施設を維持する必要性および取扱いの資格を有する人材の確保が関わってくる。これにより、この提案された方法は明らかに費用および複雑さが増加している。
【0010】
慢性骨髄炎の外科治療についての予後診断方法も知られている[旧ソビエト連邦特許第1372216号明細書、IPC G01N1/28](特許文献5)。この方法では、生検、細胞の単離および培養、それに続く増殖骨髄線維芽細胞の計算を行なう。方法の正確度を上げるため、骨髄炎部位の生検後、採取物を、抗生物質を含む培地199に移して12〜24時間置き、以下の式により骨髄間質細胞のクローン化効率を計算する:CE=a×100000/n、式中:CE=クローン化効率であり;aは増殖したコロニーの数であり;nは骨髄細胞の数である。CE値が5未満の場合、術後期の結果は好ましくないと予測され、CE値が5.1〜100000の場合、結果は好ましいと予測される。
【0011】
説明からわかるとおり、上記発明は、患者の骨組織から単離されたばかりの細胞のクローン化効率という1つのパラメーターのみを用いた予後診断を提案する。詳細には、旧ソビエト連邦特許第1372216号明細書の方法は、本発明の方法とは対照的に、輪郭の明瞭なコロニーの分析のみを提供して、細胞密度ごとのコロニー分布も必須の診断情報を含んでいる可能性がある輪郭が明瞭ではない拡散コロニーの存在も考慮しない。クローン化効率という上記パラメーターは、2つの相補的値、すなわち、培養中にコロニーを形成し得る細胞(いわゆる、コロニー形成単位−線維芽細胞、CFU−f)の個数、およびそのようなCFU−fの増殖活性(すなわち、コロニー形成率)に等しく依存する。形のしっかりしたコロニーのみの分析は、過小評価、ひいては結果の解釈の歪曲をもたらす恐れがある。
【0012】
そのうえ、入手可能な実験データから、骨髄細胞の増殖活性の季節変動が示されており、この変動は、結果の再現性を損ねるものである。このため、この発明者らは、細胞の増殖活性を高めるための追加の手段、詳細には、実行可能性を低下させこの方法の製造費用を増加させる動物支持細胞の使用という手段を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】英国特許第2395489号明細書(IPC C12N5/06)
【特許文献2】国際公開第2008110570号パンフレット(IPC G01N33/50、C12N5/06)
【特許文献3】ロシア特許第2017818号明細書(IPC C12N5/02)
【特許文献4】ロシア特許第2110798号明細書(IPC G01N33/48)
【特許文献5】旧ソビエト連邦特許第1372216号明細書(IPC G01N1/28)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の方法は、結合組織(および/または器官)の状態を評価および/またはその病態を検出することを含む。本発明の方法は、結合組織の再生ポテンシャルの評価を可能にする組織形成細胞(線維芽細胞)の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルの決定に基づくものである。成長した生命体での結合組織の再生は、分化する/分化した細胞から生じる幹細胞/間質細胞前駆細胞の機能によって起こることが知られている。結合組織で見つかるそのような間質細胞前駆細胞は、結合組織の再生ポテンシャル、すなわち、組織細胞集団が(加齢または様々な原因での損傷の結果として)その構造要素を失うのではなく十分に回復させることができる能力の決定的要因である。したがって、再生ポテンシャルは、再生プロセスの速度は考慮しないものとして、細胞集団の組織再生する主能力を特性決定するパラメーターと解釈することができる。
【0015】
このため、結合組織における再生プロセスの効力の一般的特性決定に重要な第二のパラメーターは、増殖ポテンシャル、すなわち、細胞が死ぬまでに行なうことのできる細胞有糸分裂の回数である。すなわち、増殖ポテンシャルは、組織に機能上活性な細胞集団を維持するために細胞が複数回分裂する能力である。組織または器官を形成する細胞の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルが高いほど、有糸分裂活性な細胞の数が多いこと、したがって、再生プロセスがより速いことは明らかである。
【0016】
したがって、上記の2つのパラメーター、すなわち、再生ポテンシャル(「活性」再生中心の存在および個数)および増殖ポテンシャル(再生プロセスの力学的特殊性)は、相補的に組織再生の効力(組織が再生する能力)を定義する。つまり、器官/組織の機能の低下または喪失は、再生および/または増殖ポテンシャルが低下した異常再生という観点から考察することができる。そのような種類の異常を検出することは、突き詰めると、上記パラメーターの測定および解釈になる。
【0017】
本発明は、組織を形成する基質依存性細胞のクローン化分析に基づく簡潔で、有効で、信頼できる方法を、一般的な臨床業務に導入することで、結合組織(および/または器官)の評価および病態の検出についての現代的手法の範囲を広げる。
【0018】
この目的は、本発明者らが、細胞集団分析(間葉系間質細胞、線維芽細胞)に基づいて生きた組織および器官を診断する万能診断方法を開発することにより達成された。検査により得られる再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルの値は、皮膚科学(例えば、加齢による変化についての皮膚診察のため)、歯学(例えば、歯周組織の炎症)、および筋骨格系の疾患(例えば、慢性骨髄炎、大腿骨頭壊死など)の診断および/または予後診断目的で用いることができる。
【0019】
すなわち、患者の肌の状態を評価するために本発明を用いた場合、これらの値により、皮膚線維芽細胞集団の形態機能状態について結論を下し、現在の肌変化および加齢予防についての個別の矯正プログラムを設計することができる。そのようなプログラムには、線維芽細胞集団に損傷を与えることなく安定した審美的結果を得るため、細胞療法(詳細には、培養した自家線維芽細胞の皮内注射)の回数、その期間、さらには肌の層全てが晒される化粧品学的方法まで、それらに関するアドバイスを含めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、提案されるコンピューターシステムの主スキームである。
図2】(A)は、典型的な患者コロニーの電子画像である。(B)は、形態計測分析のため(A)をコンピューター処理した結果である。
図3図3は、クローン分析の結果であり、線図はピアソン相関分析で得られる統計的に有意な依存関係である。図中、Rは、統計的有意性レベルがαであるピアソン相関係数である(1に近づくほど、検査パラメーターの依存関係が強い)。装置評価(Visia(登録商標)、Proctor&Gamble Co, USA)によるしわの深さに対する拡散コロニーの割合の依存関係を示す。
図4図4は、クローン分析の結果であり、線図はピアソン相関分析で得られる統計的に有意な依存関係である。図中、Rは、統計的有意性レベルがαであるピアソン相関係数である(1に近づくほど、検査パラメーターの依存関係が強い)。患者の肌の弾力性(Cutometer MPA 580,Courage+Khazaka electronic GmbH,ドイツ)に対する密集コロニーの割合の依存関係を示す;
図5図5は、クローン分析の結果であり、線図はピアソン相関分析で得られる統計的に有意な依存関係である。図中、Rは、統計的有意性レベルがαであるピアソン相関係数である(1に近づくほど、検査パラメーターの依存関係が強い)。患者の肌の弾力性(Cutometer MPA 580, Courage+Khazaka electronic GmbH,ドイツ)に対する拡散コロニーの割合の依存関係を示す。
図6】(A)は、コロニーの電子画像(女性患者K、56歳)である。(B)は、形態計測分析のため(A)をコンピューター処理した結果である。
図7】(A)は、コロニーの電子画像(女性患者D、36歳)である。(B)は、 形態計測分析のため図7(A)をコンピューター処理した結果である。
図8図8は、コンピューターシステムの主要機能ブロックの相互作用スキームである。
図9図9は、ソフトウェアの操作アルゴリズムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
間質細胞前駆細胞とは、基質依存性細胞であり、in vitroの培養で孤立したコロニーを形成すること、コロニーはそれぞれ1つの細胞からの発生(クローン)を表すことは、よく知られた事実である。したがって、クローン分析を行い、例えば、増殖した線維芽細胞コロニー対培養(外植された)細胞数の比を表すコロニー形成の効力(ECF)を確定させた場合、そのような組織または器官の試料中の前駆細胞含量を確定させることができる。ECFは、細胞培養物中のコロニー形成(クローン原性)基質依存性細胞の割合を反映する値であり、生検材料の質量で換算した場合、その値は組織中の前駆細胞の含量を示す。コロニー形成効力が高いほど、組織中の前駆細胞の含量も、分化する(成熟した)機能上活性な線維芽細胞の個数も多く、したがって再生組織のポテンシャルも高い。その逆もまた同じである。
【0022】
本発明者らは、研究の結果、特別に標準化された条件を用いると、同様な機能を持ち同様な位置にある組織または器官の細胞全ての形成コロニー数、形状および形態的性質に関して、コロニー形成について得られる結果の再現性が高い(5〜7%の偏り)ことを明らかにした。このことはコロニーおよび形成細胞に関するデータを細胞集団、組織および器官全体に外挿すること、ならびにそれらの状態を評価すること、ならびに任意の種類の障害が観測された場合の矯正アドバイスを作製することを可能にする。
【0023】
したがって、CFE−fの検査は、間葉系間質細胞集団、および結果的には検査組織の再生ポテンシャルを求めるのに最も情報価値のある正確な方法である。
【0024】
肌および/または器官状態の診断方法は、2つの実験段階を行なうことを示している:
1.予備検査の段階。この段階では、基質依存性細胞の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを定める結合組織パラメーターを確定させる。このパラメーターは、異常がないことを裏付ける既知の検査結果と合わせて大量のドナー試料を用い、厳密に制御された条件で確定されなければならない。研究の結果、本発明者らは、組織の正常状態に適合した組織形成基質依存性細胞の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを確定するパラメーターについて普通値の範囲を得た。
2.診断の段階。この段階では、予備検査の段階と同種のパラメーターを確定させる。このパラメーターは、組織形成細胞の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを特性決定するものである。しかしながら、この段階では、組織(および/または器官)の状態を評価する予定の患者で組織検査を行なう。パラメーターの値が得られたら、それらを予め定めた普通値の範囲と比較する。これにより異常の有無に関して結論を下すことができる。
【0025】
パラメーターの普通値の範囲は文献または他の信頼できる情報源から既知である場合もあるので、予備検査の段階は常に必要とは限らないことを強調しておく。
【0026】
診断の段階は以下を含む:
I.分析される組織(および/または器官)由来の基質依存性細胞コロニーで画像化に適したものの培養。以下の手順を行なうことでこの工程を実施することができる:
1.生検で患者の組織試料を採取する;
2.標準条件で、組織試料から生きた基質依存性細胞を単離する;
3.細胞培養の古典的方法を用いて、統計的に信頼できる分析を行なえるコロニーを得ることが可能な密度で、単離した細胞を培養プラスチックの表面に外植する;
4.画像化に適した孤立したコロニーを形成させるのに十分なように期間を管理して、標準条件で、細胞を培養する。
【0027】
II.形成されたコロニーの統計的に信頼できる分析。
以下の工程を行なうことができる:
1.形成されたコロニーを標準手段およびプロトコルで画像化する;
2.コロニー画像を分析することで、細胞培養物の増殖および形態学的特殊性を特性決定するパラメーターの範囲を求め、続いてパラメーターを用いて増殖ポテンシャルおよび再生ポテンシャルを求める。
【0028】
III.結果を処理する。
【0029】
処理段階の詳細な説明:
I.基質依存性細胞コロニーの培養。
1.組織試料採取(生検材料)。
結合組織の生検は、本発明の一部として、無菌条件下で、検査対象の器官で行なわれる。生検の位置および方法は、分析の1つのグループ内で厳密に標準化されていなければならない。組織生検する部位は、環境的要因に影響されておらず、注目している組織(器官)の状態を最大限反映している、組織材料の代表的試料を提供できることを基準に選択される。
【0030】
2.生きた基質依存性細胞の単離。
滅菌条件下で、標準的なプロトコルに従って、タンパク質分解酵素(コラゲナーゼまたはリベラーゼ)を用いて患者の組織の生検材料から生きた細胞を単離する。この段階の目的は、細胞間組織マトリクスを酵素分解することでそこから生きた細胞を解放することである。
【0031】
3.細胞外植。
よく知られた再現性のある密度での細胞外植は、本発明の実施形態の実行を成功させるために重要な条件の1つである。細胞外植の密度は、細胞の種類、in vitroでの継代数、培養液の組成、培養条件および期間、外植領域、基質の性質など複数の要因に依存するものであり、以下に基づいて(予備検査の段階で)実験的に確定させてから、常用しなければならない:
【0032】
−細胞外植の最適密度とは、コロニーを形成する基質依存性細胞の大きさおよび個数が、統計的に信頼できる分析を可能とするものであるようなコロニー形成をもたらす密度であるとみなされる。したがって、コロニーの個数は、コロニー内の細胞の接触阻害および有糸分裂を防げないほど多すぎてはならない、接触阻害および有糸分裂は結果の解釈を複雑にする恐れがある。例えば、皮膚線維芽細胞の場合、外植の最適密度は、細胞1〜2個/cmである。
【0033】
−外植された細胞の個数を任意の標準的な方法で正確に計算する。そのような方法も、本発明の一部である。
【0034】
−具体的な目的に従って、外植された細胞の継代数として適切なものを選択するが、最初の細胞培養物(患者の肌の線維芽細胞の検査を行なう場合)、およびその後の細胞継代物(以前の治療で細胞産物が特性決定されている場合)の両方で検査を行なうべきである。改変態様それぞれについて最適な条件が、対照検査で個別に選択される。
【0035】
信頼でき再現性のある結果を得るために、培養条件ならびに試薬/材料の組を含めて予備検査の段階で指定されたプロトコルと同一の外植プロトコルおよび細胞培養プロトコルを採用すべきであることを強調しなければならない。しかし、同一の試薬/材料というものは、長期的に見ると、例えば、1つのバッチで得られた試薬を使い切ることが避けられないように、常に技術的に実行可能とは限らない。したがって、指定された条件をより完全に制御するため、本発明では「内部細胞標準」を導入した、すなわち、細胞の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを確定するパラメーターが予め求められている細胞培養物を用いたのである。「内部細胞標準」は、分析される組織試料由来の細胞と同じ処理工程および分析工程を経たものである。次いで、本発明者らは、内部細胞標準のパラメーター値を、予想される予め定めた類似の値と比較した。もし食い違いが10%を超える場合には、標準条件と比較して改変された分析条件を考慮した調節係数を計算する。その後、検査した細胞の具体的なパラメーターを調節係数で換算する。
【0036】
4.細胞の培養。
この段階の期間について、培養条件および使用細胞の種類に関して最適である期間を求めるためのアプローチは、上記に記載されるものと類似している。したがって、培養液中で細胞をインキュベートする最適な時間の決定および条件の標準化は、再現性があり統計的に信頼できる結果を得るための重要な要因の1つである。
【0037】
II.統計的に信頼できるコロニー分析
1.コロニーの画像化。
この段階の目的は、形成されたコロニーの画像を、分析に都合の良い形で得ることである。そのような画像として、ハードウェアおよび形態計測ソフトウェアを用いて得られたものが挙げられる。画像の解像度、画像フォーマット、および画像獲得の手段は具体的な目的および細胞培養物を特性決定するパラメーターに基づいて選択される(以下を参照)。800dpi以上の解像度がある高解像度のコロニー電子画像を得るために用いられるものとして、家庭用および業務用のスキャン装置、デジタルの静止画および動画撮影装置、光学および電子顕微鏡などを挙げることができる。
【0038】
2。細胞培養物を特性決定するパラメーターの定量的評価のための細胞コロニー分析。
この段階の目的は、細胞培養物の性質を特性決定する客観的で定量的/半定量的なパラメーターを、形成されたコロニーおよびコロニー形成細胞の形態学的徴候に関して評価することである。そのようなパラメーターとして以下が挙げられる:
【0039】
・形成されたコロニーの総数。現在の実行手順[1、2]によれば、コロニーを形成する細胞数の最小値を特性として決定しなければならない。コロニーは、20〜50個の細胞、好ましくは20〜30個の細胞、より好ましくは20〜40個の細胞を含むことができる。含まれる細胞数がこれより少ないクローンは、コロニーとは見なされず、計算に含まれない。
【0040】
・コロニー形成の効力。このパラメーターは、基質依存性細胞のコロニーを形成する能力を特性決定するもので、増殖したコロニー対外植された細胞の総数の比で表される。
【0041】
・コロニーの形状および大きさを説明する任意のパラメーター。詳細には、そのようなパラメーターとして、コロニー全ての合計面積、コロニーの平均面積、それらの線形サイズ、コロニー外周の合計または平均値、それらの大きさ別の分布、大きさがある特定範囲内にあるコロニーの割合などが挙げられる。例えば、コロニーの線形サイズに任意の基準値を導入すれば、コロニーを「大きい」、「中くらい」、および「小さい」と分類することができ、各分類のコロニーの割合、分類間の比率などを計算することができる。
【0042】
・コロニーの構造的および形態学的特徴を特性決定する任意のパラメーター。そのようなパラメーターとして、以下が挙げられる:
−コロニー形成細胞の個数別のコロニー分布またはコロニー中に局在する細胞の密度。例えば、コロニーを形成する細胞の個数に任意の普通値を導入すると、コロニーを「密集型」、「拡散型」、「混合型」と分類することができ、各密度のコロニーの割合、密度間の比率などを計算することができる;
−細胞の個数が所定の区間内にあるコロニーの割合;
−コロニーを形成する細胞の形状でのコロニーの分布。例えば、線維芽細胞コロニーでは、以下の細胞が分化する:紡錘型(長辺と短辺の比が>5の細長い細胞)、帆型(大きさが≧40μmの大きく広がった細胞で、長辺と短辺の比が<3)など。従って、含まれる細胞の75%超が紡錘細胞であるコロニーは「紡錘型」、含まれる細胞の75%超が紡錘細胞であるコロニーは「帆型」、中間体は「混合型」コロニーと定義される;
−上記の方法、さらには上記のパラメーターに基づいて得られる派生値を任意に組み合わせて用いることも可能である。
【0043】
可能なパラメーターの組み合わせは上記の列挙に制限されず、コロニーおよびコロニーを形成する細胞の両方について形状、大きさ、個数、位置、密度などを特性決定する任意の他のパラメーターおよびそれらの組み合わせを含み得るものであることを強調しておかなければならない。
【0044】
III.結果の処理。
この段階は、再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルの値の分析およびその解釈を行なう。検査試料、検査の目的、およびクローン分析で得られるパラメーターに応じたアルゴリズムの数学的方法を用いることが適切である。コロニーを特性決定する値は、データベースまたはメモリセルに記憶されている対照(平均)値を検索してきて比較することができる。
【0045】
この段階の目的は、検査細胞のコロニーを特性決定するパラメーターを予備検査の段階で得られた対照(平均)値と比較することで、それらのパラメーターを評価すること、および検査細胞集団または組織(器官)の状態に関して結論を下すことである。
【0046】
客観的で統計的に信頼できる(すなわち、有意水準αが5%(0.05)未満である)情報を得るための統計分析および数学モデル化を実行するハードウェアを用いることができる。対照(平均)値は、予備検査の段階で得られたデータ、文献のデータ、および/または他の信頼できる情報源の情報に基づいて定量的に求められている。
【0047】
本発明を簡単かつ上手に利用するために、専用に開発されたコンピューターシステム(CS)を用いることができる。診断用コンピューターシステムは、光学解像度が800dpi以上、および好ましくは9600dpiまで、より好ましくは1200〜1800dpiである画像形成ユニット、中央演算処理ユニットを有し、中央演算処理ユニットは、作業メモリユニットに接続されていて、画像形成ユニットおよび/または情報入力/出力ユニットから直接得られる情報を処理するようにプログラミングされている。コンピューターシステムには、コロニーの統計的に信頼できる分析を行なうソフトウェア、再生ポテンシャルを特性決定する少なくとも1つのパラメーターおよび増殖ポテンシャルを特性決定する少なくとも1つのパラメーターを求めるソフトウェア、ならびに結果を処理するソフトウェアがインストールされており、結果を処理するソフトウェアが、データベースまたはメモリセルに記憶されている平均(正常)値を検索してきて得られた値と比較し、続いて診断結果を使用者(例えば、医者、患者、エステティシャンなど)に画面表示すなわち示すことで、患者の組織(または器官)の再生ポテンシャルの評価が可能になる。
【0048】
コンピューターシステム(図1)は、中央演算処理ユニット(CPU、1)を有することができ、中央演算処理ユニットは、作業メモリユニット(WMU、2)に接続されていて、画像形成ユニット(IFU、3)、および/または情報入力/出力ユニット(IOU、4)から直接得られる情報を処理するようにプログラミングすることができる。情報処理の結果として得られるパラメーターは、コンピューターシステムの読み出し専用メモリユニット(5)または他の種類のメモリセルのデータベースに記憶されている標準(正常)値と比較される。IFUを用いて、形成された細胞コロニーのデジタル画像が、800dpi以上の解像度で、その後のCSによる処理に適したフォーマットで得られ、これによりコロニーを形成する個々の染色された細胞が画像化される。そのようなユニットは、電子平面走査装置、デジタルの静止画または動画カメラ、および他の適切な解像度を有するデジタル画像形成ユニットに基づき機能することができる。
【0049】
本発明を応用する改変形態
詳細には、本発明の診断方法は、皮膚の状態評価に用いることができる。
【0050】
現代の皮膚科学および化粧品学の主要な目的の1つは、年齢による肌の変化を有効かつ安全に矯正するという課題の解決である。現在、美容医療は、顔および身体における年齢による肌の変化を矯正するために多種多様の方法、例えば、メソセラピー、バイオリバイタリゼーション、ピーリング、フラクショナルフォトサーモリシス、電波照射、皮膚剥離、および他の方法などを用いている。こうした方法の主な目的は、真皮の細胞間マトリクスの産生、組織化、および更新を担っている真皮の主要細胞要素である線維芽細胞の機能活性を刺激することである。
【0051】
肌の加齢の主な原因は、線維芽細胞の含有量の減少および線維芽細胞の生合成活性の低下である。細胞レベルでの的を絞った働きかけは、細胞間マトリクスの再形成と肌の見た目の欠陥の有効な矯正との両方を促進する。
【0052】
しわおよび他の年齢による肌欠陥を矯正するのに現代の化粧品学的行為および方法を用いる場合、その使用は、患者の肌の個別の特異性を考慮した場合にのみ有効かつ安全であることがわかっている。肌の調子を、特に細胞レベルで評価する現代の方法は、有効性が不十分であり、実際的な意義があまりない。
【0053】
本発明者らは、上記の課題を解決し、患者の肌を診察する汎用的な方法を開発した。本方法は、様々な変化(例えば、年齢による変化および構造的変化)の検出および肌状態を診断する機会の拡充を可能にし、診断後の化粧品学的行為の効力および安全性を高めるものである。詳細には、本発明者らは、ヒトの皮膚状態を評価する方法を開発した。
【0054】
1つの実施形態において、本方法は、線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターの分析を含み、パラメーターの分析として、細胞集団の再生ポテンシャルを確定するパラメーターとしてのコロニー形成効力、および細胞の増殖ポテンシャルを確定するパラメーターとして細胞培養物中の密集コロニーおよび拡散コロニーの割合の決定が含まれる。コロニー形成効力が男性で45%未満、女性で36%未満の場合、再生ポテンシャルは低いと診断される。コロニー形成効力が男性で45〜49%、女性で36〜45%の範囲にある場合、再生ポテンシャルは正常と診断される。コロニー形成効力が男性で49%超、女性で45%超の場合、再生ポテンシャルは高いと診断される。密集コロニーおよび拡散コロニーの割合が、男性でそれぞれ44%未満および25%超、女性でそれぞれ40%未満および40%超の場合、増殖ポテンシャルは低いと診断される。密集コロニーおよび拡散コロニーの割合が、男性でそれぞれ44〜54%および20〜25%の範囲、女性でそれぞれ40〜50%および30〜40%の範囲の場合、増殖ポテンシャルは正常と診断される。密集コロニーおよび拡散コロニーの割合が、男性でそれぞれ54%超および20%未満、女性でそれぞれ50%超および30%未満の場合、増殖ポテンシャルは高いと診断される。
【0055】
コロニー形成効力は、外植された細胞の総数に対する、細胞の個数が>20である形成コロニーの割合として計算される。
【0056】
客観的で、統計的に有意な情報(すなわちα<0.05)を得るため、線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーター値は、以下に記載する方法に従って、道具としてのハードウェアおよび数学モデル化を用いて確定される。
【0057】
別の実施形態において、本方法は、線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターの分析を含み、パラメーターの分析として、細胞集団の再生ポテンシャルを確定するパラメーターとしてのコロニー形成効力、ならびに細胞の増殖ポテンシャルを確定するパラメーターとしての細胞培養物中の密集コロニー、拡散コロニー、および混合コロニーの割合、および増殖指数の決定が含まれる。コロニー形成効力が男性で45%未満、女性で36%未満の場合、再生ポテンシャルは低いと診断される。コロニー形成効力が男性で45〜49%、女性で36〜45%の範囲にある場合、再生ポテンシャルは正常と診断される。コロニー形成効力が男性で49%超、女性で45%超の場合、再生ポテンシャルは高いと診断される。増殖指数が男性で2.0未満、女性で1.8未満の場合、増殖ポテンシャルは低いと診断される。増殖指数が男性で2.0〜2.4、女性で1.8〜2.0の範囲にある場合、増殖ポテンシャルは正常と診断される。増殖指数が男性で2.4超、女性で2.0超の場合、増殖ポテンシャルは高いと診断される。
【0058】
コロニー形成効力は、外植された細胞の総数に対する、細胞の個数が>20である形成コロニーの割合として計算される。
【0059】
増殖指数は以下の式で定義される:
PI=[1(PD)+2(PM)+3(PS)]/100%、
式中、PIは増殖指数であり;
PDは、拡散コロニーの割合(%)であり;
PMは、混合コロニーの割合(%)であり;および
PSは、密集コロニーの割合(%)である。
【0060】
1つの実施形態において、客観的で、統計的に信頼できる情報を得るため、線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーター値、コンピューターシステム、ならびに統計分析および数学モデル化を用いる。この場合、患者の肌の調子を診断する方法は、以下を含む:
【0061】
患者の肌の線維芽細胞のコロニーを特性決定する少なくとも1つのパラメーターを評価するようにプログラミングされたプロセッサを介して評価すること、このプロセッサは以下を実行するようにプログラミングされている:
(i)患者の線維芽細胞の再生ポテンシャルを特性決定するパラメーターとしてのコロニー形成有効性、ならびに(ii)患者の線維芽細胞の増殖ポテンシャルを特性決定するパラメーターとしての、線維芽細胞培養物中の密集コロニーの割合および拡散コロニーの割合を求めること、
得られたパラメーター(i)および(ii)、ならびにデータベースまたはメモリセルにある集団についてのコロニー形成有効性および密集コロニーおよび拡散コロニーの割合の普通値をメモリに記憶させ、得られたパラメーターおよび普通値を比較用に読み出すこと、
記憶させたパラメーターおよび普通値をメモリから呼び出すこと、
コロニー形成有効性、密集コロニーの割合、および拡散コロニーの割合について、患者で求められたと、集団の普通値とを、プロセッサを介して比較すること、
(a)集団の再生ポテンシャルの普通値と比較して、患者の再生ポテンシャルが、低いのか、正常なのか、高いのか、および(b)集団の増殖ポテンシャルの普通値と比較して、患者の増殖ポテンシャルが、低いのか、正常なのか、高いのか、をプロセッサを介して求めること
【0062】
以上により、患者の肌の調子の診断を下すこと。
【0063】
結論を下しアドバイスを作製する
再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルの値は、患者ごとに皮膚線維芽細胞集団および皮膚全体の機能状態に関する結論を下すこと、および加齢による肌の変化を矯正する個別プログラムを策定することを可能にする。
【0064】
個別プログラムは、培養した自家肌線維芽細胞の皮内注射を伴う細胞治療行為の回数、その期間、および晒された皮膚にまったく損傷を与えないという観点で適用される化粧品学的方法に関するアドバイスを含む。
【0065】
詳細には、高い再生ポテンシャル(男性で49%超、女性で45%)および高い増殖ポテンシャル(PIが男性で2.4超、女性で2.0超)が求められた場合、推奨される皮膚への化粧品学的方法は、肌線維芽細胞集団の増殖活性を刺激する方法であり、積極的な方法(例えば、レーザー切除術など)が挙げられる。
【0066】
患者が正常な再生ポテンシャル(男性で45〜49%、女性で36〜45%)および増殖ポテンシャル(PIが男性で2.0〜2.4、女性で1.8〜2.0)を有する場合、矯正が必要な肌領域には、5年に1回の頻度で(移植された線維芽細胞の合成活性は少なくとも12ヶ月は維持されることが既知であるため)皮膚の自家線維芽細胞を用いるコースが勧められ、化粧品学的行為にも制限はない。
【0067】
患者が低い再生ポテンシャル(男性で45%未満、女性で36%未満)および増殖ポテンシャル(PIが男性で2.0未満、女性で1.8未満)を有する場合、矯正が必要な肌領域には、3年に1回の頻度で皮膚の自家線維芽細胞を用いるコースが推奨され、加えて積極的な経皮方法を注意しながら用いるべきである。つまり、再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルの値の異常が大きいほど、皮膚の自家線維芽細胞を用いる治療コースを行なう頻度も上げるべきであるが、ただし再生ポテンシャルが男性で25%未満および女性で20%未満、および増殖ポテンシャルPIが男性で1.6未満および女性で1.5未満の場合に、上限年に1回までである。
【0068】
本発明を概説してきたものの、特定の具体的な実施例を参照することでさらなる理解が得られるだろう。これらの実施例は、本明細書中、例示のみを目的として提供されるものであって、特に記載がないかぎり制限することを意図しない。
【実施例1】
【0069】
予備検査の段階
患者の肌の皮膚線維芽細胞の集団を分析するため、患者の皮膚線維芽細胞コロニーについてパラメーターの普通値を特定する。
【0070】
顔の肌に加齢による変化の徴候が見られる50人の患者の群(女性35人、男性15人)をこの検査に登録した。
【0071】
患者の顔の肌を検査して、肌のきめ、シワの深さ、および微小循環のレベルなどの特性を求めた。この検査は、以下のとおり機器を使用する肌検査法で行なった:
−レーザードップラー血流計(レーザー血流分析計LAKK−01、NPO「Lazma」、ロシア)を用いた肌の血液循環の検査;
−吸引式皮膚測定器(Cutometer MPA 580、Courage+hazaka electronic GmbH、ドイツ)を用いた肌の機械特性の検査;
−測光系(VISIA、Procter&Gamble Co、USA)を用いた小規模起伏および肌の視覚的評価の全体的検査。
【0072】
機器を使用する方法で肌を検査した後、皮膚線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターを求めた。このため、生検材料および細胞培養物を調製した。
【0073】
手順は全て、連邦保険・社会発展監督庁(Roszdravnadzor RF)の“Sampling, shipment, isolation, culture, cryopreservation, storage and use of autologous fibroblasts for correction of aging and cicatrical skin changes(肌の加齢変化および瘢痕変化を矯正するための自家繊維芽細胞の採取、搬送、単離、培養、冷凍保存、貯蔵、および使用)”(FS承認番号第2009/398号)によって承認された医療技法に従って行なった。
【0074】
肌の生検材料は、患者にまったく禁忌がなければ2%リドカイン液で局所浸潤麻酔を行った上で、使い捨てメスを用いて、耳介の後ろから3〜5mmの量で採取した。単離した肌の断片は、直ちに搬送媒体(DMEM/F12)入りのラベル付き滅菌容器に移した。
【0075】
生体材料を検査施設に送り、滅菌条件下でぺトリ皿に移し、ハンクス液および抗生物質(ゲンタマイシン)で洗浄、次いでバーゼン溶液で3回洗浄した。滅菌メスを用いて生体材料を分散させ、脱凝集性0.1%コラーゲン分解酵素溶液を加え、生体材料を37℃で1〜1.5時間インキュベートした。
【0076】
インキュベーション後、組織懸濁液を注意深くピペットで取り、300gで10分間遠心し、上清を除去した。沈殿物を、10%ヒト臍帯血血清(UBS)および10%自家血清(AS)を補充した培養液(DMEM/F12、1:1)、または10%UBSおよび10%ウシ胎児血清(FBS)(SPA「PanEko」、ロシア)もしくは限定FBS(HyClone、USA)を添加したDMEM/F12(1:1)、または20%FBS(SPA「PanEko」、ロシア)もしくは限定FBS(HyClone製、USA)およびゲンタマイシン40μg/mlを添加したDMEM/F12(1:1)で希釈し、再懸濁させ、培養バイアルに移した。培養バイアルをCO−インキュベーターに移した。細胞を、5%CO雰囲気下+37℃で培養した。培養液は、3〜4日ごとに交換した。
【0077】
細胞の単層が半集密状態に達したら、細胞をバーゼン溶液で洗浄し、バーゼン溶液および0.25%トリプシンを用いて培養フラスコの表面から取り出し、培養液に再懸濁させ、そして引き続き培養するためもっと大きい培養フラスコに外植した。
【0078】
続いて、線維芽細胞クローン分析を行なった。細胞の第二世代が得られたら、細胞培養物をバーゼン溶液で3回洗浄し、37℃、5%CO下で10分間トリプシン処理した。破砕物を300gで10分間遠心した。上清液を除去し、細胞をハンクス液に再懸濁させ、計数結果が95%以上になるまで血球計算盤(Gorjaev’s chamber)で計数した。
【0079】
段階希釈により、濃度が細胞100個/mlの細胞懸濁液を調製した。直径100mmのぺトリ皿3枚に、培養液(10%UBSおよび10%ASを添加したDMEM/F12(1:1)、または10%UBSおよび10%FBS(SPA「PanEko」、ロシア)もしくは限定FBS(HyClone、USA)を添加したDMEM/F12(1:1)、または20%ウシ胎児血清(SPA「PanEko」、ロシア)または限定FBS(HyClone、USA)およびゲンタマイシン40μg/mlを添加したDMEM/F12(1:1))を入れ、細胞懸濁液1mlずつを外植して、密度が細胞1.5個/cmMのクローン接種菌液とした
【0080】
ぺトリ皿をCO−インキュベーターに入れ、5%CO雰囲気中、飽和湿度条件下、+37℃で14日間でインキュベートした。その後、コロニーが形成された培養皿をリン酸緩衝液(PH7.2〜7.4)で3回洗浄し、70%アルコールを用いて室温で15分間固定した。ついで、蒸留水で3回洗浄して残留アルコールを除去し、コロニーを、KaryoMAX(登録商標)Giemsa Stain Stock Solution(Gibco製、USA)を用いて37℃で20分間染色した。染色したコロニーの入ったペトリ皿をくまなく洗浄して余剰着色料を除去し、室温で5〜7時間乾燥させた。
【0081】
その後、コロニーの形態計測分析を行ない、検査したコロニーごとに、平均吸光度を求めた。
【0082】
培養皿をゲル画像化システムChemiDoc(登録商標)XRS Universalhood II(BioRadInc.、USA)に移し、培養皿の表面全体を可視光範囲でスキャンして、コロニーの電子画像を800dpi以上の解像度で得た(図2)。
【0083】
コロニーの電子画像を、形態計測プログラムImageJで処理した。このプログラムのアルゴリズムには、個々の細胞コロニーの境界を決定するためのぺトリ皿の余計な染色の除去、計算を歪める画像アーチファクトの除去、ならびにコロニー分析、および検査したコロニーごとに、平均吸光度(コロニー面積あたり)の計算が含まれている(図1B)。
【0084】
コロニーの計数は、以下に記載のとおりに行なった。
【0085】
形態計測分析で得られた平均吸光度についてのデータを、マイクロソフトエクセルのプログラムに入力した。このときコロニー全体の計数を行なった。全てのコロニーを平均吸光度(MOD)に従って、3つの群に分類した:密集コロニー(MOD≧46相対単位)、拡散コロニー(MOD≦25相対単位)、および混合コロニー(25<MOD<46相対単位)。
【0086】
これらのコロニーを以下のパラメーターに基づいて特性決定した:
【0087】
線維芽細胞のコロニー形成有効性CFE−fを求めた。CFE−fは、患者の肌中の線維芽細胞の前駆細胞の含有量を特性決定し、患者の皮膚線維芽細胞の集団の再生ポテンシャルの定量的指数になる。CFE−fは、細胞を20個より多く含む形成コロニー対外植された細胞の総数の比である。含まれる細胞がそれより少ない線維芽細胞のクローン集団は、コロニーとは見なさず、したがって、計数に含めなかった。
【0088】
コロニーの線寸法は、コロニーを完全に内包する円の直径(μm単位)により特性決定されるが、これをImageJプログラムの標準操作を用いて求めた。
【0089】
コロニーの平均面積は、コロニーの個数を通した面積分布であるが、これをImageJプログラムの標準操作を用いて求めた。
【0090】
密集コロニーの個数および20個より多い細胞で形成されたコロニー総数の割合を求めた。
【0091】
拡散コロニーの個数および20個より多い細胞で形成されたコロニー総数の割合を求めた。
【0092】
混合コロニーの個数および20個より多い細胞で形成されたコロニー総数の割合を求めた。
【0093】
コロニーの平均吸光度は、ImageJプログラムの標準操作を用いて求めた値であり、密集コロニー、拡散コロニー、および混合コロニーを通して吸光度分布を求めた。
【0094】
密集コロニーの平均吸光度は、コロニーに含まれる細胞の個数に比例するものであるが、これをImageJプログラムの通常操作を用いて求めた。
【0095】
増殖指数、PIは、以下のとおり定義される[Vladimirskaya Ye. B., Koshel' I. V., Tsurya V. M. et al. ”Stromal fibroblasts of normal bone marrow in children(子供の正常骨髄の間質繊維芽細胞)”, Gematologiya No.1, 1990, pp.1−4を参照]:
PI=[1(PD)+2(PM)+3(PS)]/100%、
式中
PIは、増殖指数であり;
PDは、拡散コロニーの割合(%)であり、
PMは、混合コロニーの割合(%)であり、および
PSは、密集コロニーの割合(%)である。
【0096】
細胞コロニーについて得られたパラメーターは、患者の皮膚線維芽細胞の集団を特性決定するものであるが、このパラメーターと、患者の肌の機器分析パラメーターとを、統計プログラムBioStatおよびパラメーターの平均値を求める相関分析を用いて比較した(統計的に有意であるレベルはα<0.05)。
【0097】
数理統計学の方法を用いて、皮膚線維芽細胞のコロニーの特徴と肌の機器分析法で得られた肌の調子の特徴との間の、安定した、統計的に信頼できる相関を確立した後、集団の最も統計的に有意なパラメーター(ピアソン相関係数が0.7超であるもの)の平均値を求めた。最も統計的に有意なパラメーターとは、例えば、皮膚線維芽細胞のコロニー形成有効性(%)、密集コロニーの割合(%)、拡散コロニーの割合(%)、および増殖指数などである。
【0098】
客観的で、統計的に有意である情報を得るため、コンピューター技術、統計分析、および数学モデル化を応用した。
【0099】
クローン分析の結果を図3図4、および図5に示す。これらの図において、パラメーター依存関係線図は、ピアソン相関分析を用いて求めた。
【0100】
表1に、皮膚線維芽細胞の上記の有意パラメーターの普通値を患者の性別で分けて示す。
【0101】
【表1】
【0102】
パラメーター値は相対的であり、厳密に制御された条件(基準組成の培養液および培養条件など)下で得られる細胞の比較および分析には応用可能である。
【0103】
PD値とPS値の組み合わせから増殖ポテンシャルの有意性について一義的な結論を下すことができない場合(例えば、男性の場合:PD>25かつPS>54、またはPD<20かつ44<PS<54、またはPD<20かつPS<44;女性の場合:PD>40かつPS>50、または30<PD<40かつPS<40、またはPD<30かつPS<40)、増殖指数(PI)が計算され、この値にはコロニーが全種類寄与しているので、細胞培養物の有意性について一義的な結論を下すことができる。
【実施例2】
【0104】
加齢による肌の変化(かなりの肌の菲薄化、および顔面全体に消えない細かいシワが多数刻まれている)の矯正で女性患者Kが診療所Aに来た。この患者は56歳で、閉経してから5年経過していた。閉経すると、加齢による肌の変化は顕著になってくる[Brincat M. Hormone replacement therapy and the skin. Maturitas.−2000.−V.35.−N2.−p.107−117]。患者の肌状態に応じた適切な治療を選択する目的で、皮膚線維芽細胞集団の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを評価した。具体的には、その女性の耳の後ろから肌を採取し、クローン分析を行なって、上記の方法に従って皮膚線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターを確定した。
【0105】
コロニーの電子画像を図6Aに、および形態計測分析用のコンピューター処理結果を図6Bに示す。
【0106】
ImageJプログラムを用いたコロニーの大きさおよび平均吸光度の測定結果を表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
以下の値が得られた:
CFE−f=24/1.5=16.0%、式中
24は、150個の培養細胞から形成されたコロニーの個数であり、および
1.5は、培養細胞の個数に対するクローン原性細胞の割合を計算するための変換率である(細胞150個/プレート)。
【0109】
密集コロニーの割合は、以下のとおり求めた:
[PS]=7×100%/24=29.2%、式中
7は、密集コロニーの個数であり;および
24は、コロニーの総数である。
【0110】
拡散コロニーの割合は、以下のとおり求めた:
[PD]=16×100%/24=66.6%、式中
16は、拡散コロニーの個数であり;および
24は、コロニーの総数である。
【0111】
コロニーを特性決定する測定データを、予め計算した普通値(表1)と比較することで、女性患者の肌の線維芽細胞集団の状態に関して以下の結論を下すことができた:
【0112】
CFE−fは、普通レベルよりも有意に高かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の再生ポテンシャルが低いことを示していた。
【0113】
密集コロニーの割合は正常値よりも低く、拡散コロニーの割合は正常値よりも高かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の増殖ポテンシャルが低いことを示していた。
【0114】
これらの結果に基づき、加齢による顔の変化を矯正する個別プログラムを女性患者Kに勧めた。そのプログラムは以下のとおりである:自家皮膚線維芽細胞の治療コース、次いで8〜12ヶ月のうちに行なう表層剥離またはフラクショナルフォトサーモリシス(乳頭層において、ただし実施は3回以内)、および6ヶ月のうちに行なう2回目の自家皮膚線維芽細胞を用いた肌治療コース。治療の結果、肌の厚みが、特に眼窩周囲の領域においてかなり増加したことが観測され、さらには肌の弾力およびはりの向上、ならびにしわの数および深さの減少が観測された。
【実施例3】
【0115】
2回目の眼瞼形成後に、眼窩周囲領域で顕著に肌が菲薄化したことで女性患者Gが診療所を訪れた。視診の結果、眼窩周囲領域での肌の菲薄化、膨圧の低下、および細かいしわが複数存在することが明らかとなった。患者の肌に適切な治療を選択するため、その女性の皮膚線維芽細胞集団の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを評価した。そのため、その女性の耳の後ろから肌を採取し、クローン分析を行なって、上記の方法に従って皮膚線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターを求めた。
【0116】
患者の肌の線維芽細胞のコロニーを特性決定するパラメーターを、上記の方法で得た:
CFE−f−8.3%;
[PS]−19%;および
[PD]−59%。
【0117】
結論:
CFE−fは、普通レベルよりも有意に高かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の再生ポテンシャルが低いことを示していた。
【0118】
正常値と比べて、密集コロニーの割合は低く、拡散コロニーの割合は高かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の増殖ポテンシャルが低いことを示していた。
【0119】
これらの結果に基づき、自家皮膚線維芽細胞を用いる肌治療のコース2回を女性患者に勧めた。治療の結果、眼窩周囲領域において、肌の厚み、弾力、およびはりが向上し、しわの数および深さが減少した。この患者には、予防目的で、3年のうちにこの細胞治療を繰り返すことを勧めた。
【実施例4】
【0120】
加齢による肌の変化(口の周りの表情線、肌膨圧の低下)の矯正で患者Nが診療所Aを訪れた。
【0121】
患者の肌の線維芽細胞のコロニーを特性決定するパラメーターを上記の方法で得た:
CFE−f−60%;
[PS]−24%;
[PD]−46%。
【0122】
結論:
CFE−fは、普通レベルよりも高かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の再生ポテンシャルが高いことを示していた。
【0123】
密集コロニーおよび拡散コロニーの割合は、正常値の範囲内であった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の増殖ポテンシャルが正常であることを示していた。
【0124】
これらの結果に基づき、この女性患者には、加齢による肌の変化を矯正するために、この診療所で提供し得る美容行為のいずれを勧めてもよく、美容行為についての指示による制限はなかった。
【実施例5】
【0125】
しわの矯正および肌のたるみで女性患者Dが診療所Aを訪れた。患者は36歳の女性で、内分泌状態は正常であるが、モスクワのある診療所で「サーマクール」処置を受けた後肌の悪化が生じていた。そのような肌変化の理由を求めるため、患者の皮膚線維芽細胞の集団の検査を行なった。その女性の耳の後ろから肌の試料を採取し、クローン分析を行なって、上記の方法に従って皮膚線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターを求めた。
【0126】
コロニーの電子画像を図7Aに、および形態計測分析用に画像をコンピューター処理した結果を図7Bに示す。ImageJプログラムで計算した大きさおよび平均吸光度を表3に示す。
【0127】
【表3】


【0128】
以下の値が得られた:
CFE−f=47/1.5=31.3%、式中
47は、150個の培養細胞から形成されたコロニーの個数であり、および
1.5は、培養細胞の個数に対するクローン原性細胞の割合を計算するための変換率である(細胞150個/プレート)。
【0129】
密集コロニーの割合は、以下のとおり求めた:
[SC]=5×100%/47=11%、式中
5は、密集コロニーの個数であり;および
47は、コロニーの総数である。
【0130】
拡散コロニーの割合は、以下のとおり求めた:
[PD]=24×100%/47=51%、式中
24は、拡散コロニーの個数であり;および
47は、コロニーの総数である。
【0131】
混合コロニーの割合は、以下のとおり求めた:
[PM]=18×100%/47=38%、式中
18は、混合コロニーの個数であり;および
47は、コロニーの総数である。
【0132】
増殖指数は、以下のとおり求めた:
[PI]=(11×3+38×2+51×1)/100%=1.60。
【0133】
細胞コロニーを特性決定する測定データを、予め計算した平均値(表1)と比較することで、女性患者の肌の線維芽細胞集団の状態に関して以下の結論を下すことができた:
【0134】
CFE−fは、平均レベルよりも有意に低かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の再生ポテンシャルが低いことを示していた。
【0135】
[PI]は平均レベルよりも低かった。このことは、女性患者の肌の線維芽細胞の増殖ポテンシャルが低いことを示していた。
【0136】
これらの結果に基づき、自家皮膚線維芽細胞を用いる皮膚細胞治療のコース2回(1ヶ月の間隔を置く)をこの女性患者に勧めた。治療の1ヶ月後ですでに、肌の弾力、はり、および水分量の向上、ならびにきめの改善、およびしわの数および深さの減少が観測された。効果は進行性であり、治療の8ヶ月後に最大効果となった。
【実施例6】
【0137】
加齢による顔の変化を矯正するためある診療所でPalomar 1450装置によるフォトサーマルサーモリシスの処置コースを受けた後に顔の肌が悪化したことで患者Mが診療所Aに来た。3回の処置後、肌の膨圧が低下し、頬側領域で0.4mmまでの皮膚萎縮部位が多数観測され、しかも肌は不健康に見えた。患者の肌線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーターを得た:
EFC−f−10%;および
[PI]−1.49。
【0138】
結論:
CFE−fは平均値よりも有意に低かった。このことは患者の肌の線維芽細胞の再生ポテンシャルが低いことを示していた。
【0139】
[PI]は患者の肌の線維芽細胞の増殖ポテンシャルが低いことを示していた。
【0140】
これらの結果に基づき、自家皮膚線維芽細胞を用いる皮膚細胞治療のコース2回をこの患者に勧めた。治療後、回復力および肌の弾力の向上、顔色および輪郭の改善、ならびに皮膚萎縮部位の寸法の顕著な減少が観測された。予防目的で、3〜4年後に再び細胞治療コースを受けることを勧めた。
【実施例7】
【0141】
加齢による顔の変化(目のしわ、はっきり刻まれたほうれい線)の矯正で女性患者Pが診療所Aを訪れた。
【0142】
患者の肌の線維芽細胞コロニーを特性決定するパラメーター評価の結果、以下の値が得られた:
EFC−f−36%;
PS−35%;および
PD−29%。
【0143】
この患者の細胞培養物の増殖ポテンシャルの値について最終的な結論を下すことができなかったため(拡散コロニーDDの割合が実質的に女性の場合の普通値(30〜40%)より低く、かつ密集コロニーDPの割合が女性の場合の普通値(40〜50%)未満)、混合コロニーDCの割合について追加の測定を行なった。混合コロニーの割合は36%であり、増殖指数PPは2.06であると計算された。
【0144】
これらの結果に基づき、患者の肌の線維芽細胞の状態について以下の結論を下した:
【0145】
CFE−fは、平均レベルとほぼ等しかった。このことは、患者の肌の線維芽細胞の再生ポテンシャルが正常であることを示していた。
【0146】
[PI]は、患者の肌の線維芽細胞の増殖ポテンシャルが高いことを示していた。
【0147】
これらの結果に基づき、肌欠陥を矯正する個別プログラムを計画した。このプログラムには以下が含まれる:顔全体のフラクショナルフォトサーモリシス(指示どおりに行なうもの)、および6ヶ月の間に、眼窩周囲領域およびほうれい線のしわ矯正のための自家皮膚線維芽細胞の処置コース。
【0148】
このように、本発明は、線維芽細胞の集団の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを特性決定する客観的で、定量的なパラメーターを求めることにより、患者の真皮の線維芽細胞の集団を診断することを可能にする。
【0149】
本発明は、患者の肌の線維芽細胞の集団の調子を評価することにより、独自の結果をもたらすもので、本発明による結果は、監督外の化粧品学的方法の使用により引き起こされる合併症の原因を求めるのに有用である。本発明の方法は、様々な化粧品学的方法および処置を用いた場合に可能性のある合併症の予後診断を行なうのに必須となると思われ、また、医者にとっては特定の合併症が生じたときに肌で起こっている過程を理解し、個々の患者の加齢による肌の変化を矯正する個別プログラムを計画するのに有用な道具であるとも思われる。
【0150】
細胞コロニー分析の上記アルゴリズムを用いる場合、計算の複雑さおよび組織(および器官)の状態を評価する客観的パラメーターを得る必要性を考慮すると、本発明の一部として、コンピューターシステム(CS)を使用して、分析で得られる情報を選択、処理、および分析してもよい。様々な診断方法を実行するため、様々な専用配置を備え専用行程を遂行するようにプログラミングされたコンピューターシステムを用いることができる。CSの詳細なスキームを図8に示す。
【0151】
CSは、情報チャネル1202(バス)または他の情報転送機構、および情報転送用にバスと接続されているプロセッサ1203を備えている。CS1201には、ランダムアクセスメモリユニット(RAM)または他のダイナミックアクセスメモリユニット(例えば、DRAM)またはスタティックランダムアクセスメモリユニットSRAMまたは同期型ダイナミックアクセスメモリユニットSDRAMを利用した基礎メモリユニット1204も備えられており、基礎メモリユニット1204は、バス1202と接続されていて、中央演算処理ユニット1203用の操作情報および作業指示を保存する。これとは別に、主メモリユニットを用いて、演算処理ユニット1203による指示中断用の一時的な変数または一時的な情報を保存することができる。さらに、CSには、読み出し専用メモリユニット(ROM)1205すなわち固定メモリユニット(例えば、プログラマブル読み出し専用メモリ(PROM)、消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM)、または電気消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)など)が備えられており、読み出し専用メモリ1205は、バス1202と接続されていて、中央演算処理ユニット1203用の恒久的情報および指示を保存する。
【0152】
この他、CS1201には、ハードディスクコントローラー1206も備えられており、ハードディスクコントローラー1206は、バス1202と接続されていて、1つまたは複数の記憶装置を制御して、平均値を求める方法を遂行するプログラムおよび指示を保存する。そのような装置として、磁気ハードディスク1207および取り外し可能な媒体1208(例えば、フロッピーディスクドライブ、CDおよびDVDの読み込みドライブ、CDおよびDVDの書き込み/読み込みドライブ、光磁気ディスクドライブなど)が挙げられる。記憶装置も、関連するインターフェース(例えば、SCSI、IDE、EIDE、SATA、eSATAなどのインターフェース)、すなわちDMAまたはウルトラDMAの直接アクセス装置を通じてCS1201に接続させることができる。
【0153】
つまり、基礎メモリユニット1204および/または記憶装置は、平均(正常)値の長期保存または測定値の一時保存に、およびデータベースまたはメモリセルから平均値を検索してきてその平均値を比較ユニットに提供するようにプログラミングされた検索ユニットとして用いることができる。
【0154】
そのうえ、CS1201は、専用の論理装置(例えば、特定用途向け小型集積回路(ASIC)または単純型(SPLD)もしくは複雑型(CPLD)のプログラムされた小型論理回路またはプログラムされた論理マトリクスFPGAなど)も備えることができる。
【0155】
提示されている装置の全ての機能をより密接に統合するため、CSに画像形成ユニット1211(IFU)を加えて完成させることもできる。画像形成ユニット1211(IFU)は、コントローラー1210に管理させる。IFU1211は、デジタル画像形成装置に基づいて機能することができ、デジタル画像形成装置は、800dpi以上、より好ましくは1200dpi以上の光学解像度を提供するものであれば何でもよい。そのような装置として、二次元(平面)画像を読み取り、走査型電子書式で表示する電子装置(スキャナ)、または電荷移動技法に基づくデジタル装置(CCDマトリクス電荷移動デバイス)、例えば、デジタルビデオカメラおよび光学式カメラを挙げることができる。IFU1211の主要な機能は、本発明の説明に従って形成された細胞コロニーのデジタル画像を得ること、ならびに得られた画像をさらに演算処理ユニット1203で処理および/またはハードディスク1207のデータベースに保存するために、画像をコントローラー1210およびバス1202を用いてデジタル転送することである。
【0156】
CS1201は、さらに画面コントローラー1209を備えることができ、画面コントローラー1209は、バスワイヤ1202に接続されていて、画面を、例えば、ブラウン管(CRT)または発光ダイオード(LED)を利用して制御してCSの使用者に情報を表示するのに用いられる。CSは、入力装置、例えば、キーボードおよびポインティングデバイスも備えていて、使用者と交信して情報を演算処理ユニット1203に伝える。ポインティングデバイスとして、コンピューターマウス、トラックボール、およびタッチペンを挙げることができる。この他、CSは、保存されている、および/またはCS1201の作動の結果として得られた、情報またはデータを出力するための印刷装置を加えて完成させることができる。
【0157】
CS1201は、中央演算処理装置1203がメモリ(例えば、メインシステムメモリ1204)に収納されている1つまたは複数の命令シーケンスを受け取ってCS1201に命令すると、本発明に付随する計算行程を全てまたは部分的に実行して、被験者の肌の線維芽細胞のコロニーの少なくとも1つを特性決定するパラメーターを評価する。そのような命令は、メインメモリ1204によって別の装置(ハードディスク1207または取り外し可能な記憶装置1208など)から読み出すことができる。
【0158】
この他、演算処理ユニット1203は、以下も含むことができる:
【0159】
(i)被験者の細胞の再生ポテンシャルを特性決定するパラメーターとしてのコロニー形成有効性、および(ii)被験者の細胞の増殖ポテンシャルを特性決定するパラメーターとしての細胞培養物中の密集コロニーおよび拡散コロニーの割合、を求めるようにプログラミングされた第一の決定ユニット
【0160】
コロニー形成有効性ならびに密集コロニーおよび拡散コロニーの割合について、被験者で測定されたものと集団の平均値とを比較するようにプログラミングされた比較ユニット、ならびに
【0161】
以下を求めるようにプログラミングされた第二の決定ユニット:
(a)被験者の再生ポテンシャルが、集団の再生ポテンシャルの平均値と比較して、低いのか、正常なのか、高いのか、および
(b)被験者の増殖ポテンシャルが、集団の増殖ポテンシャルの平均値と比較して、低いのか、正常なのか、高いのか。
【0162】
被験者の肌の調子を診断するコンピューターシステムは、以下も含むことができる:
【0163】
被験者の肌の線維芽細胞のコロニーの少なくとも1つを特性決定するパラメーターを評価するようにプログラミングされたプログラム式プロセッサ、このプログラム式プロセッサは以下を含む:(i)被験者の細胞の再生ポテンシャルを特性決定するパラメーターとしてのコロニー形成有効性、および(ii)被験者の細胞の増殖ポテンシャルを特性決定するパラメーターとしての細胞培養物中の密集コロニーおよび拡散コロニーの割合、を求めるようにプログラミングされた第一の決定ユニット
【0164】
コロニー形成有効性ならびに密集コロニーおよび拡散コロニーの割合について、被験者で測定されたものと集団の平均値とを比較するようにプログラミングされた比較ユニット、ならびに
【0165】
(a)被験者の再生ポテンシャルが、集団の再生ポテンシャルの平均値と比較して、低いのか、正常なのか、高いのか、および(b)患者の増殖ポテンシャルが、集団の増殖ポテンシャルの平均値と比較して、低いのか、正常なのか、高いのか、を求めるようにプログラミングされた第二の決定ユニット。
【0166】
メインメモリ1204からの命令シーケンスを処理するため、マルチプロセッサCS配置で1つまたは複数の演算処理ユニットを用いることができる。本発明の別の改変形態によれば、プログラム命令の代わりに、またはこれと合わせて、有線通信で転送される命令を行なうこともできる。そのため、本発明の実施の改変形態は、装置およびソフトウェアのどのような組み合わせにも限定されない。
【0167】
CS1201は、通信インターフェース1213も備えることができ、通信インターフェース1213はバス1202と接続されている。このインターフェースは、ネットワーク接続1214を介して双方向データ交換を行なう。ネットワーク接続1214は、例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)1215または別の通信網1216、例えば、インターネットによって行なうことができる。
【0168】
通信インターフェース1212に当たるものとして、パケット通信でLANと接続するネットワークカード、非対称型デジタル加入者回線(ADSL)カード、総合デジタル通信網(ISDN)カード、または関連する情報チャネルとの通信を提供するモデムを挙げることができる。
【0169】
ネットワーク接続1213は、1つまたは複数の通信網を介して他の装置にデータを転送する。例えば、ネットワーク接続1213は、ローカルネットワーク1214(例えば、LAN)を通じた別のコンピューターとの接続であってもよいし、通信網1215を通じた接続サービス会社により制御された装置との接続であってもよい。つまり、CS1201は、ネットワーク1214および1215、ネットワーク接続1213、またはネットワークインターフェース1212を通じて情報を転送および受け取りすることができる。この他、ネットワーク接続2113は、LAN1214を通じたモバイル機器1216(例えば、ポケットコンピューター、ラップトップパソコン、またはコミュニケーターなど)との接続であってもよい。
【0170】
コンピューターシステムは、ソフトウェア(SW)が供給されていてもよい。ソフトウェアは、1つまたは複数の記憶/送信装置に保存することができる。そうしたソフトウェアは、CS1201、本発明により提供される他の装置を制御し、またCS1201が使用者と交信できるようにもする。この他、ソフトウェアとして、デバイスドライバ、運用システム、ソフトウェア開発ツール、および他の専用プログラム製品を挙げることができる。
【0171】
本発明によれば、ソフトウェアは、任意の解釈可能または実行可能なコンピューターコードを含むことができ、そのようなコードとして、例えば、スクリプト、ダイナミックリンクライブラリ(DLL)、ジャバスクリプト、または完全実行可能プログラムが挙げられる。詳細には、ソフトウェアの主要機能の1つは、図9に示すアルゴリズムに従って、クローン分析の全段階を管理すること、さらには診断/結論を下すことである。
【0172】
提案されるアルゴリズムに従って、ソフトウェアは以下の一連の動作を行なう。各動作は独立したプログラム単位で行なうことができる:
【0173】
1.コロニーのデジタル画像の現像(1)−この機能は、以下を含む:装置(スキャナ)の電源を入れること、装置をウォーミングアップすること、選択したフラグメントの予備走査および本走査を行なうこと、ならびにデジタル画像を引き続き処理するために転送すること。操作の結果、コロニーの電子画像が形成され、この画像はさらに処理されるためにCSに転送される。
【0174】
2.背景信号の抽出(3)−これは、画像の数学処理の第一段階であり、異なる時点で得られたコロニーの染色強度範囲をそろえる(規格化する)ために背景信号を除去する。この操作は、様々な数学的方法を用いて行なうことができ、そのような方法として、50ピクセル以下の半径値で行なうローリングボール(rolling ball)法、またはより好ましくは同様な値で行なうスライディングパラボロイド(sliding paraboloid)法が挙げられる。
【0175】
3.コロニーの縁の検出(4)−この段階では、デジタル画像の中の各コロニーが占める空間をコロニーのないそれ以外の部分と分離する。そのような操作は、例えば染色の異なる2つの領域間の縁を検出し対象物の縁を決定する既知の方法を用いて行なうことができる。抽出操作は、Sobel法、Laplace法、Previte法、および/またはRoberts法に従って行なわれ、良好な結果を得ることができる。より確実および正確にコロニーの縁を決定するためには、例えば、フラクタル幾何学を利用した方法など、特殊な数学的方法が用いられる。
【0176】
4.画像アーチファクトの除去(5)−画像処理のこの段階では、正しいコロニー計算を妨げ、コロニー観測数ならびにコロニーの形態学的特性および寸法特性を歪める恐れがあるアーチファクトを全て除去する。そのようなアーチファクトとして、乾燥した染料のしみ、培養容器の表面のでこぼこおよび技術的な標識跡、ほこり、および他の汚染物が挙げられる。この操作は、前の段階で明らかになったコロニーの外側にある画像を全て消去することで行なうことができる。
【0177】
5.コロニーの計数およびコロニーの形態計測特性の決定(6)−この段階の目的は、増殖ポテンシャルおよび再生ポテンシャルの評価に必要な細胞コロニーの主要特性を得ることである。コロニーの個数は、画像処理の前の段階で検出された孤立した対象物の個数として定義される。したがって、必要な場合は、対象物の寸法を面積、周長、内接正方形などのパラメーターで制限して、指定した選択基準(例えば、大きさ、形状、密度など)に合うコロニーのみを検討することができる。
【0178】
6.測定結果の報告作成(7)−この段階では、前の段階で得られた一次パラメーター値に基づき、標準報告を作成する。そのような一次パラメーターとして、測定の結果直接得られる値(例えば、コロニーの個数、各コロニーの面積、各コロニーの平均吸光度など)が挙げられる。必要な場合は、この段階で、再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャルを特性決定するパラメーターの計算に使用できる派生値の計算をさらに行う。そのような派生パラメーターとして、CFE−f、各コロニーの比吸光度などを挙げることができる。
【0179】
7.データベースに保存された(9)正常値とパラメーターの計算値との比較(8)−この段階では、パラメーターの計算値を、CSのメモリに保存されている正常値と比較する。
【0180】
8.結論および治療/予防に関するアドバイスの作製(10)−この段階では、プログラムは、パラメーターの計算値と正常(平均)値の比較に基づいて結論またはアドバイスを作製する(11)。この操作は、CSの永久メモリに保存されている予め指定された結論(アドバイス)の組と前の段階で行なわれた比較結果を比較することで行なうことができる。より柔軟かつ正確な診断を行なうため、より複雑な論理操作を用いることも可能であり、そのような論理操作として、ニューラルネットワークまたは人工知能が挙げられる。
【0181】
提案される診断方法は、ヒトの身体に由来する任意の基質依存性細胞のクローン分析を用いることで、汎用的であるとともに、複雑で高価な装置検査を用いずに一次組織(および器官)の再生能力の評価を可能にする。本発明は、組織(および器官)の再生ポテンシャルおよび増殖ポテンシャル両方の客観的で定量的な特性決定を行なうことを可能にする。
図1
図2A
図2B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図3
図4
図5