(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態における内燃エンジン制御装置の構成を示す図である。
【0009】
内燃エンジン制御装置は、内燃エンジン100を制御する。内燃エンジン100の吸気通路001には、吸気スロットル002が設けられる。
【0010】
吸気スロットル002は、目標出力に応じて開度が調整されて、内燃エンジン100に吸入される吸気流量を調整する。目標出力は、通常は、アクセルセンサー014で検出されたアクセルペダル操作量の信号に応じて設定されるが、たとえばオートクルーズ制御中は、アクセルセンサー014の検出信号とは別途に設定される。
【0011】
インジェクター004は、燃料を噴射する。なおインジェクター004は、吸気ポートに燃料を噴射するタイプであっても、内燃エンジン100のシリンダーに直接燃料を噴射するタイプであってもよい。
【0012】
内燃エンジン100には、点火イグニッション003と、吸気動弁装置005と、排気動弁装置006と、クランク角センサー007と、ノックセンサー016とが設けられる。
【0013】
点火イグニッション003は、エンジンコントローラー015の信号を受けて、筒内の混合気に点火する。
【0014】
吸気動弁装置005は、吸気弁によって、内燃エンジン100のシリンダーと吸気ポートとを開閉する。吸気動弁装置005は、吸気弁を一定のクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであっても、運転状態に応じて変更したクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであってもよい。開閉タイミングが可変なタイプであれば、実際の開閉タイミングを検出するセンサー及び開閉タイミングを変更するアクチュエーターが設けられる。このセンサーの検出信号がエンジンコントローラー015に送信される。またエンジンコントローラー015から受信した信号に基づいてアクチュエーターが開閉タイミングを変更する。
【0015】
排気動弁装置006は、排気弁によって、内燃エンジン本体100のシリンダーと排気ポートとを開閉する。排気動弁装置006は、排気弁を一定のクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであっても、運転状態に応じて変更したクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであってもよい。開閉タイミングが可変なタイプであれば、実際の開閉タイミングを検出するセンサー及び開閉タイミングを変更するアクチュエーターが設けられる。このセンサーの検出信号がエンジンコントローラー015に送信される。またエンジンコントローラー015から受信した信号に基づいてアクチュエーターが開閉タイミングを変更する。
【0016】
クランク角センサー007は、クランクシャフトの回転角度を検出する。
【0017】
ノックセンサー016は、内燃エンジン100のノックを検出する。
【0018】
内燃エンジン100の排気通路008には、空気の流れ方向の上流側から、上流側排気浄化触媒017と、下流側排気浄化触媒018と、が設けられる。そして、上流側排気浄化触媒017の入口近傍にA/Fセンサー(空燃比センサー)009が設けられる。A/Fセンサー(空燃比センサー)009は、内燃エンジン100から排出された排ガスの空燃比を検出する。上流側排気浄化触媒017及び下流側排気浄化触媒018は、内燃エンジン100から排出された排ガスを浄化する。
【0019】
上流側排気浄化触媒017及び下流側排気浄化触媒018の間から、排気再循環(Exhaust Gas Recirculation;以下適宜「EGR」と称す)通路011が分岐する。そして、EGR通路011は、吸気通路001に合流する。EGR通路011には、EGRバルブ012と、EGR温度センサー013と、が設けられる。
【0020】
EGRバルブ012は、EGR通路011を流れるEGRガスの流量を調整する。
【0021】
EGR温度センサー013は、EGR通路011を流れるEGRガスの温度を検出する。
【0022】
アクセルセンサー014は、アクセルペダル操作量を検出する。
【0023】
エンジンコントローラー015は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。エンジンコントローラー015は、複数のマイクロコンピューターで構成されてもよい。
【0024】
エンジンコントローラー015は、吸気動弁装置005のセンサーと、排気動弁装置006のセンサーと、クランク角センサー007と、A/Fセンサー009と、EGR温度センサー013と、アクセルセンサー014と、ノックセンサー016とから、各信号を受信する。そしてエンジンコントローラー015は、これらの信号に基づいて所定の演算を実行し、吸気スロットル002と、点火イグニッション003と、インジェクター004と、吸気動弁装置005のアクチュエーターと、排気動弁装置006のアクチュエーターとに対して、制御信号を送信して、内燃エンジン100の運転を制御する。
【0025】
図2は、点火時期と内燃エンジンの出力負荷との相関を示す図である。
図2Aは、低負荷運転のときの相関を示す図であり、
図2Bは、高負荷運転のときの相関を示す図である。
【0026】
図2A及び
図2Bに示されるように、MBT(Minimum spark advance for Best Torque)点火時期は、圧縮上死点TDCの進角側にある。またMBT点火時期は、高負荷運転のほうが低負荷運転よりも、圧縮上死点TDCに近づく。
【0027】
一方、ノック限界点火時期は、低負荷運転であればMBT点火時期よりも進角側にある。またノック限界点火時期は、高負荷運転であればMBT点火時期よりも遅角側になる。点火時期が、ノック限界点火時期よりも進角側にあると、ノックが発生する。そこで、ノック限界点火時期よりも遅角側で点火する。
図2Aに示されているように、MBT点火時期がノック限界点火時期よりも遅角側にあれば、MBTで点火する。
【0028】
図3は、MBT点火時期及びノック限界点火時期の特性を示す図である。
【0029】
図3は、
図2A及び
図2Bの関係を詳細に求めることによって導かれる。
図3に示されるように、低負荷では、MBT点火時期がノック限界点火時期よりも遅角側にある。負荷が高くなるにつれて、MBT点火時期及びノック限界点火時期が遅角する。ノック限界点火時期のほうが、MBT点火時期よりも大きく変化する。高負荷では、ノック限界点火時期がMBT点火時期よりも遅角側にある。
【0030】
図4は、ノックを検出した場合の点火時期制御について説明する図である。
【0031】
MBT点火時期は、たとえばJP2005−315099Aに記載されている基本点火時期MBTCALとして求めることができる。また、ノック限界点火時期は、たとえばJP2005−315099Aに記載されているノック限界点火時期KNOCKcalとして求めることができる。
【0032】
しかしながら、MBT点火時期(基本点火時期MBTCAL)及びノック限界点火時期KNOCKcalは、さまざまな要因に影響を受けるので、JP2005−315099Aに記載されているように両者を演算しても、演算精度が必ずしも高くはならない。そのため内燃エンジンの運転状態によってはノックが発生する。
【0033】
この対策として、
図4(A)に示されるように、ノックセンサーによってノックを判定したら、点火時期を、ノックフィードバック(F/B)量だけ遅角する(
図4(B)では1deg遅角する)。その後ノックが生じなければ、ノックフィードバック量を徐々に戻すことで点火時期を微小角度ずつ進角する。再びノックを判定したら、点火時期を遅角する。このようにノックを判定したら点火時期を遅角し、ノックを検出しなければ点火時期を徐々に戻す。この際、補正量(ノックフィードバック量)を設定する手法として、以下の参考形態のような手法が考えられる。
【0034】
(第1参考形態)
図5は、第1参考形態の点火時期制御について説明する図である。
【0035】
図5において、実線は、演算によって設定されたMBT点火時期(設定MBT点火時期)、及び、演算によって設定されたノック限界点火時期(設定ノック限界点火時期)を示す。なお設定MBT点火時期が、JP2005−315099Aに記載されている基本点火時期MBTCALに相当する。そして設定ノック限界点火時期が、JP2005−315099Aに記載されているノック限界点火時期KNOCKcalに相当する。
【0036】
また破線は、設定MBT点火時期に対してノックフィードバック量を補正した推定MBT点火時期、及び、設定ノック限界点火時期に対してノックフィードバック量を補正した推定ノック限界点火時期を示す。
【0037】
第1参考形態では、点火時期が次式のように設定される。
【0038】
(数1)
点火時期=min(設定MBT点火時期,設定ノック限界点火時期)+ノックフィードバック量
【0039】
ただし、ノックフィードバック量の1ノックあたりの遅角量は固定された値である。
【0040】
この第1参考形態では、設定MBT点火時期及び設定ノック限界点火時期のうち遅角側の点火時期(すなわちクランクアングルで見れば小さいほうの点火時期であり、圧縮上死点TDCを基準とすれば圧縮上死点TDCに近いほうの点火時期)に対してノックフィードバック量(固定量)だけ遅角して点火時期が設定される。これを図示すると
図5のようになる。
【0041】
図5に示されるように、アクセルペダルが踏み込まれて高負荷側の負荷L12で内燃エンジン100が運転されて、ノックが検出されたら、設定ノック限界点火時期に対して、所定のノックフィードバック量(たとえば1degCA)遅角した点火時期で点火する。それでもノックが発生するときには、さらに所定ノックフィードバック量(たとえば1degCA)だけ遅角した点火時期で点火する。
【0042】
そして、アクセルペダルが戻されて低負荷側の負荷L11で運転していると、ノックが生じないので、
図4(B)に示されるように、ノックフィードバック量が徐々に戻って点火時期が進角する。ノックフィードバック量が戻っている状態で、再びアクセルペダルが踏み込まれて高負荷側で運転されると、再びノックが発生してしまう。すなわち、この第1参考形態の手法では、アクセルペダルが踏み込まれて再加速するたびにノックが発生してしまう。
【0043】
(第2参考形態)
図6は、第2参考形態の点火時期制御について説明する図である。
【0044】
第2参考形態では、点火時期が次式のように設定される。
【0045】
(数2)
点火時期=min(設定MBT点火時期,設定ノック限界点火時期+ノックフィードバック量)
【0046】
ただし、ノックフィードバック量の1ノックあたりの遅角量は、固定された値である。
【0047】
このように第2参考形態では、ノックフィードバック量は、設定ノック限界点火時期にのみ反映させて、設定MBT点火時期には反映させない。そして、設定MBT点火時期、及び、ノックフィードバック量を反映させたノック限界点火時期(すなわち推定ノック限界点火時期)のうち遅角側のもので点火時期が設定される。これを図示すると
図6のようになる。
【0048】
図6に示されるように、アクセルペダルが踏み込まれて高負荷側の負荷L22で内燃エンジン100が運転されて、ノックが検出されたら、設定ノック限界点火時期に対して、所定のノックフィードバック量(たとえば1degCA)遅角した点火時期で点火する。それでもノックが発生するときには、さらに所定ノックフィードバック量(たとえば1degCA)遅角した点火時期で点火する。
【0049】
そして、アクセルペダルが戻されて低負荷側の負荷L21で運転しているときは、設定MBT点火時期で点火される。ここではノックフィードバック量は更新されることなく保持される。そして再びアクセルペダルが踏み込まれて高負荷側で運転されると、保持されていたノックフィードバック量で制御される。
【0050】
したがって、この第2参考形態の手法では、アクセルペダルが踏み込まれて再加速するたびにノックが発生してしまう事態(第1参考形態の状態)が回避される。
【0051】
しかしながら、JP2005−315099Aに記載されているように、MBT点火時期(基本点火時期)及びノック限界点火時期を演算しても、演算精度が必ずしも高くはない。特に、設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期とが交差する付近での精度がよくない。そのため交差する付近であって、特に設定MBT点火時期が設定ノック限界点火時期よりも遅角側にある領域で誤判定した場合に、推定ノック限界点火時期が、設定MBT点火時期よりも遅角側になるまでは、点火時期が遅角されないので、ノックが発生するおそれがある。
【0052】
(第3参考形態)
図7は、第3参考形態の点火時期制御について説明する図である。
【0053】
第3参考形態では、点火時期が次式のように設定される。
【0054】
(数3)
点火時期=min(設定MBT点火時期,設定ノック限界点火時期+ノックフィードバック量)
【0055】
ただし、ノックフィードバック量の1ノックあたりの遅角量は可変であって、ノックフィードバック量を反映させたノック限界点火時期(すなわち推定ノック限界点火時期)が、設定MBT点火時期よりも遅角側になるように、ノックフィードバック量が設定される。
【0056】
この第3参考形態でも、第2参考形態と同様に、ノックフィードバック量は、設定ノック限界点火時期にだけ反映させて、設定MBT点火時期には反映させない。そして、設定MBT点火時期、及び、ノックフィードバック量を反映させたノック限界点火時期(すなわち推定ノック限界点火時期)のうち遅角側のもので点火時期が設定される。これを図示すると
図7のようになり、推定ノック限界点火時期が、常に設定MBT点火時期よりも遅角側になる。
【0057】
このような手法によれば、第2参考形態で懸念されるノック発生は回避される。また第1参考形態や第2参考形態では、所定ノックフィードバック量(たとえば1degCA)ずつ遅角するので、一度遅角してもノックが発生し、さらに遅角してもノックが発生するということがあるが、この第3参考形態では、一気に遅角するので、ノックが連続しない。
【0058】
しかしながら、設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期とが交差する付近ではなく、MBT点火時期が、ノック限界点火時期よりも大きく遅角しているような場合に、ノックが誤検知されたときでも、点火時期が無用に大きく遅角されてしまうので、燃費が悪化する。またノックフィードバック量に基づいて、ハイオク燃料であるか、レギュラー燃料であるかを判定している場合には、誤判定することとなる。
【0059】
以上の参考形態の問題点を解消すべく、発明者らは以下の実施形態に想到した。
【0060】
(第1実施形態)
図8は、本発明の第1実施形態における内燃エンジン制御装置による点火時期制御について説明する図である。
【0061】
本実施形態では、エンジンコントローラー015は、点火時期を次式のように設定する。
【0062】
(数4)
点火時期=min(設定MBT点火時期+MBTノックフィードバック量,設定ノック限界点火時期+ノック限界ノックフィードバック量)
【0063】
ただし、MBTノックフィードバック量及びノック限界ノックフィードバック量の1ノックあたりの遅角量は、共に固定された値である。
【0064】
本実施形態のエンジンコントローラー015では、設定MBT点火時期には、MBTノックフィードバック量が反映され、ノック限界ノックフィードバック量は反映されない。一方、設定ノック限界点火時期には、ノック限界ノックフィードバック量が反映され、MBTノックフィードバック量は反映されない。
【0065】
そしてエンジンコントローラー015は、MBTノックフィードバック量のみが反映された設定MBT点火時期、及び、ノック限界ノックフィードバック量のみが反映された設定ノック限界点火時期のうち遅角側のもので点火時期を設定する。これを図示すると
図8のようになる。
【0066】
図8に示されるように、アクセルペダルが踏み込まれて高負荷側の負荷L42で運転して、ノックが検出されたら、エンジンコントローラー015は、設定ノック限界点火時期に対して、所定のノック限界ノックフィードバック量(たとえば1degCA)遅角した点火時期で点火する。
【0067】
そして、エンジンコントローラー015は、アクセルペダルが戻されて低負荷側の負荷L41で運転するときにノックが検出されたら、設定MBT点火時期に対して、所定のMBTノックフィードバック量(たとえば1degCA)遅角した点火時期で点火する。ノックが生じなければ、MBTノックフィードバック量が徐々に戻って点火時期が進角する。この間、ノック限界ノックフィードバック量は更新されることなく保持される。そして再びアクセルペダルが踏み込まれて高負荷側で運転されると、保持されていたノック限界ノックフィードバック量で点火時期が制御される。
【0068】
したがって、本実施形態によれば、アクセルペダルが踏み込まれて再加速するたびにノックが発生してしまう事態(第1参考形態の状態)が回避される。また第2参考形態のように、点火時期を遅角すべき状態であるのに、遅角されない事態も回避される。さらに第3参考形態のように、点火時期が無用に大きく遅角される事態も回避される。
【0069】
以下では、この実施形態の制御内容について具体的に説明する。なお本実施形態では、ノックの有無に応じてノックフィードバック量(MBTノックフィードバック量,ノック限界ノックフィードバック量)が更新される。そこで、最初にノックフィードバック量(MBTノックフィードバック量,ノック限界ノックフィードバック量)の更新手法について説明する。
【0070】
図9は、ノックフィードバック量(MBTノックフィードバック量,ノック限界ノックフィードバック量)の更新制御について説明するフローチャートである。
【0071】
ステップS11においてエンジンコントローラー015は、ノックが検出されたか否かを判定する。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS12へ処理を移行する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS13へ処理を移行する。
【0072】
ステップS12においてエンジンコントローラー015は、ノックフィードバック量を遅角側に更新する。具体的な内容は、後述される。
【0073】
ステップS13においてエンジンコントローラー015は、ノックフィードバック量を進角側に更新する。具体的な内容は、後述される。
【0074】
図10は、ノックフィードバック量の遅角更新制御について説明するフローチャートである。
【0075】
ステップS121においてエンジンコントローラー015は、設定MBT点火時期が設定ノック限界点火時期よりも遅角側であるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS122へ処理を移行する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS123へ処理を移行する。
【0076】
ステップS122においてエンジンコントローラー015は、推定MBT点火時期が第1所定量だけ遅角するようにMBTノックフィードバック量を更新する。この第1所定量は、たとえば1degBTDCであるが、可変値であってもよい。なおエンジンコントローラー015は、ノック限界ノックフィードバック量については前回値を保持して更新しない。
【0077】
ステップS123においてエンジンコントローラー015は、推定ノック限界点火時期が第2所定量だけ遅角するようにノック限界ノックフィードバック量を更新する。この第2所定量は、たとえば1degBTDCであるが、可変値であってもよい。なおエンジンコントローラー015は、MBTノックフィードバック量については前回値を保持して更新しない。
【0078】
このように、エンジンコントローラー015は、ノック発生時には、設定MBT点火時期や設定ノック限界点火時期などの各設定点火時期に個別に対応するノックフィードバック量のうち、最遅角となっている設定点火時期に対応するノックフィードバック量を遅角側に更新する。これとともにエンジンコントローラー015は、それ以外のノックフィードバック量を前回値に保持する。
【0079】
図11は、ノックフィードバック量の進角更新制御について説明するフローチャートである。
【0080】
ステップS131においてエンジンコントローラー015は、推定MBT点火時期が推定ノック限界点火時期よりも遅角側であるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS132へ処理を移行する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS133へ処理を移行する。
【0081】
ステップS132においてエンジンコントローラー015は、推定MBT点火時期が微小角度だけ進角するようにMBTノックフィードバック量を更新する。またエンジンコントローラー015は、ノック限界ノックフィードバック量については前回値を保持して更新しない。
【0082】
ステップS133においてエンジンコントローラー015は、推定ノック限界点火時期が微小角度だけ進角するようにノック限界ノックフィードバック量を更新する。またエンジンコントローラー015は、MBTノックフィードバック量については前回値を保持して更新しない。
【0083】
このように、エンジンコントローラー015は、ノック非発生時には、設定MBT点火時期や設定ノック限界点火時期などの各設定点火時期に個別に対応するノックフィードバック量のうち、最遅角となっている推定点火時期に対応するノックフィードバック量を進角側に更新する。これとともにエンジンコントローラー015は、それ以外のノックフィードバック量を前回値に保持する。
【0084】
図12は、ノックフィードバック量(MBTノックフィードバック量,ノック限界ノックフィードバック量)の更新制御について説明する図である。
【0085】
次に
図12を参照して、
図9〜
図11に示された制御について補足する。
図9〜
図11の制御は要するに、ある負荷で内燃エンジン100にノックが発生した場合に、ノック発生時の負荷が設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期との交点よりも小さければ、エンジンコントローラー015は、推定MBT点火時期が遅角するようにMBTノックフィードバック量を更新する。ノック発生時の負荷が設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期との交点よりも大きければ、推定ノック限界点火時期が遅角するようにノック限界ノックフィードバック量を更新する。
【0086】
また、ある負荷でノックが発生しない場合に、ノック非発生時の負荷が推定MBT点火時期と推定ノック限界点火時期との交点よりも小さければ、推定MBT点火時期が進角するようにMBTノックフィードバック量を更新する。ノック非発生時の負荷が推定MBT点火時期と推定ノック限界点火時期との交点よりも大きければ、推定ノック限界点火時期が進角するようにノック限界ノックフィードバック量を更新する。
【0087】
図13は、内燃エンジン制御装置による点火時期制御の方法を示すフローチャートである。
【0088】
エンジンコントローラー015は、以上のようにして定められるノックフィードバック量(MBTノックフィードバック量,ノック限界ノックフィードバック量)を用いて、以下のように点火時期を制御する。
【0089】
ステップS1においてエンジンコントローラー015は、負荷の大きさに応じて設定される設定MBT点火時期にMBTノックフィードバック量を反映させて推定MBT点火時期を設定する。なお設定MBT点火時期は、具体的には、たとえばJP2005−315099Aに記載されている基本点火時期MBTCALとして求められる。
【0090】
ステップS2においてエンジンコントローラー015は、負荷に応じて設定される設定ノック限界点火時期にノック限界ノックフィードバック量を反映させて推定ノック限界点火時期を設定する。なお設定ノック限界点火時期は、具体的には、たとえばJP2005−315099Aに記載されているノック限界点火時期KNOCKcalとして求められる。
【0091】
すなわち、ステップS2及びS3においてエンジンコントローラー015は、設定MBT点火時期や設定ノック限界点火時期などの複数の設定点火時期の各々に個別に対応するノックフィードバック量で遅角して推定MBT点火時期や推定ノック限界点火時期などの推定点火時期を設定する。
【0092】
ステップS3においてエンジンコントローラー015は、推定MBT点火時期が推定ノック限界点火時期よりも遅角側であるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS4へ処理を移行する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS5へ処理を移行する。
【0093】
ステップS4においてエンジンコントローラー015は、推定MBT点火時期で点火する。
【0094】
ステップS5においてエンジンコントローラー015は、推定ノック限界点火時期で点火する。すなわち、ステップS3〜S5においてエンジンコントローラー015は、複数の推定点火時期のうち最遅角側の点火時期で点火する。
【0095】
本実施形態によれば、ノックフィードバック量として、推定MBT点火時期を設定するためのMBTノックフィードバック量と、推定ノック限界点火時期を設定するためのノック限界ノックフィードバック量と、を用いるようにした。MBTノックフィードバック量は、設定MBT点火時期に反映されるが、設定ノック限界点火時期には反映されない。ノック限界ノックフィードバック量は、設定ノック限界点火時期に反映されるが、設定MBT点火時期には反映されない。
【0096】
すなわち設定MBT点火時期には、MBTノックフィードバック量が反映されノック限界ノックフィードバック量は反映されない。設定ノック限界点火時期には、ノック限界ノックフィードバック量が反映されMBTノックフィードバック量は反映されない。
【0097】
そして、運転状態に応じて、MBTノックフィードバック量及びノック限界ノックフィードバック量のうちいずれか一方のみを更新し、他方については更新することなく前回値を保持するようにした。
【0098】
このようにしたので、負荷が変動しても、適切なノックフィードバック量が用いられるので、無用なノックを防止できるのである。
【0099】
また本実施形態では、エンジンコントローラー015は、ノックフィードバック量を遅角更新制御するときには、設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期とのいずれが遅角側にあるかに応じて、MBTノックフィードバック量又はノック限界ノックフィードバック量を更新する。そして、ノックフィードバック量を進角更新制御するときには、推定MBT点火時期と推定ノック限界点火時期とのいずれが遅角側にあるかに応じて、MBTノックフィードバック量又はノック限界ノックフィードバック量を更新する。ここで、このようにした理由について説明する。
【0100】
短い間隔でノックが発生すると、乗員は不安を感じやすい。そこで、ノックが発生して、ノックフィードバック量を遅角更新制御した後、ノックが発生しないときには、ノックフィードバック量をゆっくりと進角更新させる。迅速に進角させてはノックが発生する可能性があるからである。しかしながら、このようにしているので、万一、誤判定で大きく遅角してしまった場合には、戻るまでに時間を要し、燃費悪化、出力低下につながる。
【0101】
これに対して、本実施形態では、エンジンコントローラー015は、ノックフィードバック量を遅角更新制御するときには、設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期とを比較する。そして、設定MBT点火時期が遅角側にあるときには、推定MBT点火時期が遅角するようにMBTノックフィードバック量を更新する。設定ノック限界点火時期が遅角側にあるときには、推定ノック限界点火時期が遅角するようにノック限界ノックフィードバック量を更新する。
【0102】
ここで、設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期との比較ではなく、仮に、推定MBT点火時期と推定ノック限界点火時期とを比較して、最遅角となっている推定点火時期に反映されるノックF/B量をノック発生時に遅角させる場合について説明する。
【0103】
このような制御では、推定点火時期Aを低負荷域(MBT領域)用、Bを高負荷領域(ノック領域)用とした場合、低負荷では、推定MBT点火時期(推定点火時期A)が遅角側になる。また高負荷では、推定ノック限界点火時期(推定点火時期B)が遅角側になる。そして、中負荷では、推定MBT点火時期(推定点火時期A)と推定ノック限界点火時期(推定点火時期B)とがクロスする。
【0104】
多くの場合は、低負荷領域ではノックが起きないが、低オクタン価や低湿度等でノックが起きやすくなっている状態で緩やかに加速すると、推定MBT点火時期(推定点火時期A)と推定ノック限界点火時期(推定点火時期B)とがクロスする付近の領域であって、推定MBT点火時期(推定点火時期A)が遅角側にある領域でノックが発生し出す。
【0105】
このような状態では、MBTノックフィードバック量が遅角してノックを回避する。その後の緩やかな加速で、さらにノックは起き続けるが、仮にMBTノックフィードバック量でフィードバック制御し続けると、高負荷域でMBTノックフィードバック量(A用ノックフィードバック量)は、大きな値となり、その後低負荷領域に移行したとき、必要以上の過遅角となってしまう。さらにMBTノックフィードバック量(A用ノックフィードバック量)が元に戻るのに時間がかかり、燃費・出力が悪化する。
【0106】
この内容をさらに
図14を参照して説明する。
【0107】
推定点火時期同士がクロスする点で、遅角するノックフィードバック量を切り換えるロジックでは、ノックが発生したときに遅角側にいる点火時期は常時推定A側のノックフィードバック量でリタードしてノックを回避し続けるため、クロスしない。その結果、A用ノックフィードバック量は、どんどんリタードしていく一方で、B用ノックフィードバック量は0degから変わらない。
【0108】
このような問題を回避すべく、本実施形態のようにしたのである。すなわち本実施形態のように、設定点火時期同士がクロスする点で、遅角するノックフィードバック量を切り換えることで、
図15に示されるように、片方のみが大きく遅角することがなくなる。その結果、低負荷←→高負荷の移行時に過リタードがなくなり、燃費・出力を向上させることができるのである。
【0109】
また本実施形態では、ノック非発生時に進角させるノックフィードバック量は、最遅角となっている推定点火時期演算に使用されるノックフィードバック量のみである。このようにした理由は以下のとおりである。
【0110】
本実施形態のような条件ではなく、両方進角させた場合、高負荷領域で低オクタン価等により設定点火時期Bが進角した場合、B用ノックフィードバックが遅角することでノックを回避する。このような状態から、低負荷領域移行した場合、ノックが発生しない為、B用ノックフィードバックは進角してしまう。その後の再度高負荷領域に移行した場合、ノックが再発してしまう。
【0111】
これに対して、本実施形態のように、ノック非発生時は、最遅角となっている推定点火時期演算に使用されるノックフィードバック量のみを進角することで、ノックフィードバック量の不要なキャンセル(進角して0に戻る動作)がなくなり、結果、ノックの再発を防止できるのである。
【0112】
また本実施形態では、MBTノックフィードバック量を更新するときには、ノック限界ノックフィードバック量については前回値を保持して更新しない。またノック限界ノックフィードバック量を更新するときには、MBTノックフィードバック量については前回値を保持して更新しない。このようにしたので、点火時期が不要に進角しない。そのため保持したノックフィードバック量が反映される推定点火時期が遅角側になったときにノックが回避されるのである。
【0113】
なお、MBTノックフィードバック量及びノック限界ノックフィードバック量を利用して、ハイオク燃料であるのかレギュラー燃料であるのかを判定することができる。この場合に、ハイオク状態であるときに、MBTノックフィードバック量の加重平均値と、ノック限界ノックフィードバック量の加重平均値とのいずれかが閾値を下回った場合に、レギュラー燃料であると判定するようにすればよい。
【0114】
このように、MBTノックフィードバック量を用いてレギュラー判定することで、高回転・低負荷のMBT運転領域でも判定が可能になり、レギュラー判定による燃料増量を実行でき、触媒の破損を防止できるのである。
【0115】
この点についてさらに詳述する。本実施形態では、ノックフィードバック量を2つ演算しているので、これを利用する。たとえば、低水温状態からいきなり高速道路を走行するようなシーンを想定する。
【0116】
低水温状態ではノック検出精度が悪いので、通常はノックの検出が行われない。そしてエンジン水温が60℃を越えて、ノックコントロールできるようになったとき、たとえば100km/hで定常走行しているようなシーンでは、MBT点火時期で点火する。この状態で、エンジン回転速度が上昇すると、MBT点火時期で点火していても排温も上昇する。こういうシーンではMBTノックフィードバック量を使用しなければ、レギュラー/ハイオクの判定ができない。
【0117】
このように、MBTノックフィードバック量でレギュラー/ハイオク判定することで、高回転・低負荷のMBT運転領域でも判定が可能になり、レギュラー判定による燃料増量を実行でき、触媒の破損を防止できるのである。
【0118】
また、ハイオク/レギュラー判定の結果に応じて、点火時期を切り替えることが考えられる。この場合に、たとえばハイオク用の点火時期からレギュラー用の点火時期に切り替えるときには、
図16に示すように、もともと、ハイオク用の設定ノック限界点火時期を基点として遅角していた点火時期を、レギュラー用の設定ノック限界点火時期を基点として進角するように切り替える。
【0119】
また反対に、レギュラー用の点火時期からハイオク用の点火時期に切り替えるときには、もともと、レギュラー用の設定ノック限界点火時期を基点として進角していた点火時期を、ハイオク用の設定ノック限界点火時期を基点として遅角するように切り替える。このようにすることで、点火時期の段差が発生しないので、結果として、点火時期を切り替えるときのトルク段差を回避できるのである。
【0120】
(第2実施形態)
図17は、負荷Aでノックが発生したときのノックフィードバック量を説明する図である。
【0121】
なお、以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0122】
上述の第1実施形態では、ステップS122において更新する第1所定量、及び、ステップS123において更新する第2所定量の両者を、たとえば1degBTDCの固定値としたが、可変値でもよい。そこで第2実施形態では次式のように遅角量が設定される。
【0123】
(数5)
ノック発生時の遅角量=遅角するノックフィードバック量の前回値+ノック発生時の点火時期補正量−(遅角するノックフィードバック量が対応する推定点火時期−最遅角となっている推定点火時期)
【0124】
ここで、遅角するノックフィードバック量の前回値とは、設定ノック限界点火時期が設定MBT点火時期よりも遅角側にあるときは、ノック限界ノックフィードバック量の前回値である。設定MBT点火時期が設定ノック限界点火時期よりも遅角側にあるときは、MBTノックフィードバック量の前回値である。
【0125】
遅角するノックフィードバック量が対応する推定点火時期とは、設定ノック限界点火時期が設定MBT点火時期よりも遅角側にあるときは、推定ノック限界点火時期である。設定MBT点火時期が設定ノック限界点火時期よりも遅角側にあるときは、推定MBT点火時期である。
【0126】
最遅角となっている推定点火時期とは、推定ノック限界点火時期が推定MBT点火時期よりも遅角側にあるときは、推定ノック限界点火時期である。推定MBT点火時期が推定ノック限界点火時期よりも遅角側にあるときは、推定MBT点火時期である。
【0127】
以上の内容を、
図17を参照して説明する。
図17は、負荷Aでノックが発生したときのノックフィードバック量を説明する図である。
【0128】
負荷Aでは、設定ノック限界点火時期が、設定MBT点火時期よりも遅角側にあるので、ノック限界点火時期を遅角する。ここでは、ノック限界ノックフィードバック量の前回値が、「遅角するノックフィードバック(F/B)量の前回値」であり、
図17では、−1degBTDCである。また、推定ノック限界点火時期が、「遅角するノックフィードバック量が対応する推定点火時期」であり、
図17では、9degBTDCである。
【0129】
また負荷Aでは、推定MBT点火時期が、推定ノック限界点火時期よりも遅角側にある。ここでは、推定MBT点火時期が「最遅角となっている推定点火時期」であり、
図17では、0degBTDC(TDC)である。
【0130】
また「ノック発生時の点火時期補正量」は、
図17では、−1degBTDCである。
【0131】
以上の値を(数5)に代入すると、以下の(数6)になる。
【0132】
(数6)
ノック発生時の遅角量=−1+(−1)−(9−0)=−11degBTDC
【0133】
したがって、設定ノック限界点火時期を11deg遅角することによって、推定ノック限界点火時期が設定される。
【0134】
本発明の第2実施形態によれば、ノックフィードバック量が一気に遅角更新されるので、ノックが連続して発生することを防止できるのである。このため、第1実施形態のようにノックフィードバック量が固定値であれば、ノックが解消されるまでノックフィードバック量を遅角更新し続けることとなるが、このような事態を回避することができる。
【0135】
(第3実施形態)
図18は、本発明の第3実施形態における内燃エンジン制御装置による制御方法を示すフローチャートである。
【0136】
ノックが確実に発生しない低負荷運転域がある。このような運転領域では、そもそもノック検出をしていないことも多い。このような運転領域にあるのに、点火時期が無用に遅角されていては、燃費が悪化してしまう。そこで、本実施形態では、このような運転領域を判定したら、ノックフィードバック量を初期化(0deg)することで、点火時期の無用は遅角が防止される。具体的な制御内容について
図18を参照して説明する。
【0137】
ステップS31においてエンジンコントローラー015は、ノックが確実に生じない低負荷運転域であるか否かを判定する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、処理を抜ける。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS32へ処理を移行する。
【0138】
ステップS32においてエンジンコントローラー015は、MBTノックフィードバック量を初期化する。
【0139】
このようにすることで、上述のように、点火時期の無用な遅角が防止されて、燃費が向上するのである。
【0140】
なお、第3実施形態ではノックが確実に発生しない低負荷運転域になったら、ノックフィードバック量を初期化(0deg)する。しかしながら、このようにした場合には、再びノックが発生しうる運転域まで負荷があがったときに、ノックが生じるおそれがある。この対策について本発明の第4実施形態で説明する。
【0141】
(第4実施形態)
図19は、本発明の第4実施形態における内燃エンジン制御装置による制御方法を示すフローチャートである。
【0142】
第4実施形態では、ノックが確実に発生しない低負荷運転域になったときにノックフィードバック量を初期化(0deg)するのではなく、ノックフィードバック量を前回値のまま保持しておく一方で、推定点火時期には反映させないようにした。このようにしておけば、負荷が増大したときには、保持しておいたノックフィードバック量を用いることで、ノックの再発を防止できる。具体的な制御内容について
図19を参照して説明する。
【0143】
ステップS41においてエンジンコントローラー015は、ノックが確実に生じない低負荷運転域であるか否かを判定する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、処理を抜ける。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS42へ処理を移行する。
【0144】
ステップS42においてエンジンコントローラー015は、MBTノックフィードバック量を前回値のまま保持するとともに、そのフィードバック量を推定点火時期には反映させない。
【0145】
このようにエンジンコントローラー015は、ノックが確実に発生しない負荷領域では、最遅角となっている推定点火時期に対応するノックフィードバック量を前回値に保持するとともに、当該ノックフィードバック量を推定点火時期に反映しない。このようにすることで、上述のように、ノックが確実に生じない低負荷運転域では点火時期の無用な遅角が防止されて、燃費が向上するとともに、負荷が増大したときには、保持しておいたノックフィードバック量を用いることで、ノックの再発を防止できる。
【0146】
(第5実施形態)
図20は、本発明の第5実施形態における内燃エンジン制御装置による制御方法を示すフローチャートである。
【0147】
推定MBT点火時期及び推定ノック限界点火時期が正しく演算されていれば、ノックは、ノック限界点火時期がMBT点火時期よりも遅角側であるときにしか発生しない。このような場合には、MBTノックフィードバック量は不要である。そこで、MBTノックフィードバック量を初期化(0deg)することで、次にMBT点火時期で点火する運転状態に移行したときに、無用な遅角をしていない状態からスタートできるので、燃費を向上させることができる。このようにするための具体的な制御内容について
図20を参照して説明する。
【0148】
ステップS51においてエンジンコントローラー015は、設定ノック限界点火時期が、設定MBT点火時期よりも遅角側であるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS52へ処理を移行する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、処理を抜ける。
【0149】
ステップS52においてエンジンコントローラー015は、推定ノック限界点火時期が、推定MBT点火時期よりも遅角側であるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、エンジンコントローラー015は、ステップS53へ処理を移行する。判定結果が否であれば、エンジンコントローラー015は、処理を抜ける。
【0150】
ステップS53においてエンジンコントローラー015は、MBTノックフィードバック量を初期化する。
【0151】
以上の内容を、
図21を参照して補足する。この
図21では、負荷Bよりも高負荷側であれば、設定ノック限界点火時期が、設定MBT点火時期よりも遅角側であるとともに、推定ノック限界点火時期が、推定MBT点火時期よりも遅角側である。このようなときには、MBTノックフィードバック量を初期化する。
【0152】
このようにすることで、上述のように、燃費を向上させることができるのである。
【0153】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0154】
たとえば、上記各実施形態では、理解を容易にするために、点火時期を制限するための要因として、ノックを挙げて、ノック限界点火時期よりも遅角側で制御するようにした。しかしながら、点火時期を制限する要因はこれだけではない。たとえば、ノック以外の理由で要求される音振限界点火時期や、部品保護の観点から定まる限界点火時期などもある。これらも考慮して、これら専用のノックフィードバック量を用いて、いずれか1つのノックフィードバック量を更新しているときに、他のフィードバック量は更新することなく前回値を維持するようにしてもよい。
【0155】
そして、
図9〜
図12では、設定MBT点火時期と設定ノック限界点火時期のうち遅角側の点火時期に対応するフィードバック量を遅角更新したが、さらに限界点火時期を追加する場合には、いずれか最遅角となっている設定点火時期に対応するフィードバック量を遅角更新すればよい。
【0156】
また
図9〜
図12では、推定MBT点火時期と推定ノック限界点火時期のうち遅角側の点火時期に対応するフィードバック量を進角更新したが、さらに限界点火時期を追加する場合にはいずれか最遅角となっている推定点火時期に対応するフィードバック量を進角更新すればよい。このようにすることで、ノック限界点火時期だけでなく、さらに限界点火時期を追加する場合にも対応可能である。
【0157】
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0158】
本願は、2013年4月12日に日本国特許庁に出願された特願2013−84168に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。