(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記x1、x2、x3、y、zは、0.9<x1≦1.5、0.0035≦x2≦0.0060、0.0040≦x3≦0.0080、0.6≦x2/x3≦1.1、2.0≦y≦3.0、1.0≦z≦1.5であることを特徴とする請求項1記載の酸窒化物蛍光体粉末。
450nmの波長の光により励起されることで、主波長が565nm〜577nmとなる蛍光を発し、外部量子効率が41%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の酸窒化物蛍光体粉末。
前記ケイ素源が窒化ケイ素粉末であり、前記窒化ケイ素粉末の酸素含有量が0.2〜0.9質量%であり、平均粒子径が1.0〜12.0μmであり、比表面積が0.2〜3.0m2/gであることを特徴とする請求項4に記載の酸窒化物蛍光体粉末の製造方法。
発光源と蛍光体を備えた発光装置において、発光源が発光ダイオードからなり、蛍光体が少なくとも請求項1〜3のいずれか一項に記載されている酸窒化物蛍光体粉末を用いることを特徴とする発光装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0021】
本発明は、組成式:
Ca
x1Eu
x2Yb
x3Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
で表されるα型サイアロンからなる酸窒化物蛍光体において、
0.0<x1≦2.0、0.0000<x2≦0.0100、0.0000<x3≦0.0100、0.4≦x2/x3≦1.4、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0で表される、α型サイアロンからなる酸窒化物蛍光体粉末であり、450nmの波長の光により励起されることで、主波長が565nmから577nmの波長域の蛍光を発し、その際の蛍光強度と外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末に関するものである。
【0022】
α型サイアロン、特に、Ca−α型サイアロンとは、α型窒化ケイ素のSi−N結合の一部がAl−N結合およびAl−O結合に置換され、Caイオンが格子内に侵入固溶して電気的中性が保たれた固溶体である。
【0023】
本発明の酸窒化物蛍光体に含まれるα型サイアロン蛍光体は、前記Caイオンに加えてEuイオンが格子内に侵入固溶することで、Ca−α型サイアロンが賦活されて、青色光によって励起され、前記一般式で表される黄色から橙色の蛍光を発する蛍光体となる。
【0024】
一般的な希土類元素を賦活させたα型サイアロン蛍光体は、特許文献1に記載されているとおり、MeSi
12−(m+n)Al
(m+n)O
nN
16−n(Meは、Ca、Mg、Y、又はLaを除くランタニド金属の一種若しくは二種以上)で表され、金属Meは、(Si,Al)
3(N,O)
4の4式量を含むα型サイアロンの大きな単位胞3個当たり最低1個から、単位胞1個当たり最高1個まで固溶する。固溶限界は、一般に、金属元素Meが二価のとき、前述の一般式において、0.6<m<3.0、且つ、0≦n<1.5であり、金属Meが三価のとき、0.9<m<4.5、且つ、0≦n<1.5である。
【0025】
前記金属Meとして、Li、Ca、Mg、Yなどが検討されており、また、前記金属元素の一部、又は全てを賦活剤となる希土類元素で置換したα型サイアロン蛍光体が検討されている。賦活剤としては、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、Tm、Yb等の希土類元素が多く検討されている。しかしながら、賦活剤を2種類以上固溶したα型サイアロンは、特許文献4にEuとDyを共賦活したCa−α型サイアロンが提示されているだけである。
【0026】
発明者は、2種類以上の賦活剤を固溶したα型サイアロン系蛍光体について鋭意検討した結果、EuとYbを共賦活したCa−α型サイアロン系蛍光体において、Ce賦活YAG蛍光体と同程度の発光色である主波長が565nm〜577nmの発光色を有し、その際の発光強度と外部量子効率が高いことを見出したものである。
【0027】
次に、本発明の酸窒化物蛍光体粉末について具体的に説明する。
【0028】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、組成式:
Ca
x1Eu
x2Yb
x3Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、
0.0<x1≦2.0、0.0000<x2≦0.0100、0.0000<x3≦0.0100、0.4≦x2/x3≦1.4、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0で表される、α型サイアロンからなる酸窒化物蛍光体粉末である。
【0029】
前記x1、x2及びx3はサイアロンへのCaイオン、Euイオン、Ybイオンの侵入固溶量を示す値で、x3が0.01より大きくなると、主波長(蛍光体の発光の色度を表示するために、色度座標ではなく、主波長を用いることができることが知られている。主波長とは、JIS Z 7801に記載されているように、色度図において、無彩色と発光スペクトルの色度座標とを直線で結び、その延長線とスペクトル軌跡とが交差する波長を言う。別の表現をすると、白色光とスペクトル単色光を加法混色したときに、蛍光体の発光の色と等しくなるときのスペクトル単色光の波長のことである。本願において、以下同じ。)が565nmより小さくなるとともに、蛍光強度が小さくなる。また、x2が0.01より大きくなると、主波長が577nmより大きくなる。さらに、x1が2.0より大きくなると、蛍光強度及び外部量子効率が小さくなる。
【0030】
また、本発明においては、前記x2及びx3は、0.4≦x2/x3≦1.4であることが好ましい。x2/x3がこの範囲の組成である場合、主波長が565〜577nmとなり、また蛍光強度がより大きい高効率な酸窒化物蛍光体が提供される。
【0031】
前記yはサイアロンへ金属元素が固溶する際に電気的中性を保つために決められる値で、前記酸窒化物蛍光体粉末では、y=2x1+3x2+3x3で表される。式中のx1の係数2はCa−α型サイアロン蛍光体に固溶するCaイオンの価数から、式中x2の係数3はCa−α型サイアロン蛍光体に固溶するEuイオンの価数から、式中x3の係数3はCa−α型サイアロン蛍光体に固溶するYbイオンの価数から与えられる数値である。
【0032】
本発明においては、前記y及びzの範囲は、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0である。yおよびzがこの範囲の組成である場合、主波長が565〜577nmとなり、蛍光強度が高い酸窒化物蛍光体が提供される。
【0033】
前記yが4.0より大きくなると、主波長が577nmより大きくなるとともに、蛍光強度及び外部量子効率が小さくなる。また、前記yが1.0より小さくなると、蛍光強度及び外部量子効率が小さくなる。さらに、前記zはα型サイアロンへの酸素の置換固溶量に関する値である。zが2.0より大きくなると、主波長が565nmより小さくなるとともに、蛍光強度及び外部量子効率が小さくなる。さらに、y<1.0、z<0.5の範囲では、β型サイアロンが生成し、蛍光強度が著しく小さくなる。
【0034】
前記x1、x2、x3、y、zが、0.0<x1≦2.0、0.0000<x2≦0.0100、0.0000<x3≦0.0100、0.4≦x2/x3≦1.4、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0の場合には、主波長が565〜577nmで、蛍光強度が大きく、外部量子効率が41%以上と高効率な酸窒化物蛍光体が提供される。
【0035】
また、本発明においては、前記x1、x2、x3、y、zは、0.9<x1≦1.5、0.0035≦x2≦0.0060、0.0040≦x3≦0.0080、0.6≦x2/x3≦1.1、2.0≦y≦3.0、1.0≦z≦1.5であることが好ましい。x1、x2、x3、y、zがこの範囲の組成である場合、主波長が565〜575nmとなり、また蛍光強度が大きく、外部量子効率が47%以上と高効率な酸窒化物蛍光体が提供される。
【0036】
さらに、本発明においては、前記x1、x2、x3、y、zは、1.2<x1≦1.5、0.0035≦x2≦0.0060、0.0050≦x3≦0.0080、0.7≦x2/x3≦1.1、2.0≦y≦3.0、1.2≦z≦1.3であることがさらに好ましい。x1、x2、x3、y、zがこの範囲の組成である場合、主波長が565〜575nmとなり、また蛍光強度がさらに大きく、外部量子効率が48%以上となるためさらに好ましい。
【0037】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、CuKα線を用いたX線回折(XRD)装置により結晶相を同定すると、三方晶に分類されるα型サイアロン結晶相からなる。また、六方晶に分類される窒化アルミニウム結晶相が含まれる場合もあるが、窒化アルミニウム結晶相が多くなり過ぎると、蛍光強度が低下するため好ましくない。含まれる窒化アルミニウムの量としては、好ましくは10質量%以下、さらに、5質量%以下が好ましい。さらに、窒化アルミニウムを含まず、α型サイアロンのみからなるものは好ましい。
【0038】
XRD測定における結晶相の同定は、X線パターン解析ソフトを用いて行うことができる。解析ソフトとしては、リガク社製PDXL等が挙げられる。尚、α型サイアロン系蛍光体粉末のXRD測定は、リガク社製X線回折装置(Ultima IV Protectus)および解析ソフト(PDXL)を用いて行った。
【0039】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末を白色LED用蛍光体として好適に使用するためには、粒度分布曲線における50%径(体積基準の中位値)であるD
50が10.0〜20.0μmであることが好ましい。D
50が10.0μmより小さく、また、比表面積が0.6m
2/gより大きい場合は、発光強度が低くなることがあり、D
50が20.0μmより大きく、また、比表面積が0.2m
2/gより小さい場合は、蛍光体を封止する樹脂中に均一分散し難くなって、白色LEDの色調にバラツキを生じることがあるからである。本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、焼成後、そのままで、あるいは粉砕せず解砕のみで、必要に応じて分級して、D
50が上記の範囲(10.0〜20.0μm)の粒子を得ることができる利点がある。粉砕すると結晶構造の歪等が生じ輝度などの発光特性を低下させる。
【0040】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の粒子径および比表面積を制御する方法としては、原料となる窒化ケイ素粉末の粒子径を制御することで可能である。平均粒子径が1.0〜12.0μmの窒化ケイ素粉末を用いた場合には、酸窒化物蛍光体粉末のD
50は10〜20μmで、且つ、比表面積が0.2〜0.6m
2/gとなり、外部量子効率がより大きくなるために好ましい。
【0041】
酸窒化物蛍光体粉末のD
50は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径である。また、酸窒化物蛍光体粉末の比表面積は、島津社製フローソーブ2300型比表面積測定装置(窒素ガス吸着法によるBET法)で測定することができる。
【0042】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、450nmの波長域の光の励起によって、主波長が565nmから577nmの波長域にある蛍光を発することができ、その際の蛍光強度は良好である。これにより、本発明の酸窒化物蛍光体粉末では、青色の励起光により長波の黄色蛍光を効率的に得ることができ、また、励起光として用いる青色光との組み合わせで、演色性が良好な白色光を効率的に得ることができる。
【0043】
蛍光特性は、日本分光社製蛍光分光光度計(FP6500)により測定することができる。副標準光源を用いて蛍光スペクトル補正を行うことができるが、蛍光ピーク波長は、用いる測定機器や補正条件によって若干の差を生じることがある。また、外部量子効率は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により、吸収率および内部量子効率を測定し、それらの積から算出することができる。さらに、蛍光主波長及び色度座標(Cx,Cy)は、蛍光分光光度計に備えられた色解析ソフトを用いて、測定することができる。ここで、吸収率とは、照射された励起光のうち、試料がどれだけ吸収したかを示す値をいい、内部量子効率とは、吸収した光を蛍光として発光する光に変換する際の変換効率(蛍光として発光された光子数/試料により吸収された光子数)を内部量子効率という。
【0044】
本発明においては、得られた蛍光スペクトルから蛍光ピーク波長とその波長における蛍光強度を導出した。輝度の指標になる相対蛍光強度は、市販品のYAG:Ce系蛍光体(化成オプトニクス社製P46Y3)の同励起波長による発光スペクトルの最高強度の値を100%とした場合の蛍光ピーク波長における発光強度の相対値とした。
【0045】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、公知の発光ダイオード等の発光源と組み合わせられて、発光装置として各種照明装置に用いることができる。
【0046】
特に、励起光のピーク波長が330〜500nmの範囲にある発光源は、本発明の酸窒化物蛍光体粉末に好適である。紫外領域では、酸窒化物蛍光体粉末の発光効率が高く、良好な性能の発光素子を構成することが可能である。また、青色の光源でも発光効率は高く、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の黄色〜橙色の蛍光と青色の励起光との組み合わせで、良好な昼白色〜昼光色の発光素子を構成できる。
【0047】
さらに、本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、物体色が黄色〜橙色を示すので、酸化鉄等、鉄や銅、マンガン、クロムなどの重金属を含有する顔料の代替材料として、塗料やインク等に適用することができる。さらには、紫外線、可視光吸収材料として、幅広い用途に使用することができる。
【0048】
次に、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造方法について具体的に説明する。
【0049】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、組成式:
Ca
x1Eu
x2Yb
x3Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、0.0<x1≦2.0、0.0000<x2≦0.0100、0.0000<x3≦0.0100、0.4≦x2/x3≦1.4、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0で表される組成となるように、ケイ素源と、アルミニウム源と、カルシウム源と、ユーロピウム源と、イッテリビウム源とを混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより得られる。好ましくは、得られた焼成物を、さらに、不活性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理する。
【0050】
原料のケイ素源は、ケイ素の窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。特に、結晶性窒化ケイ素が好ましく、結晶性窒化ケイ素を用いることにより、輝度が高い酸窒化物蛍光体を得ることが出来る。
【0051】
原料のアルミニウム源としては、酸化アルミニウム、金属アルミニウム、窒化アルミニウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。
【0052】
原料のカルシウム源は、カルシウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。
【0053】
原料のユーロピウム源は、ユーロピウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。
【0054】
原料のイッテリビウム源は、イッテリビウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。
【0055】
また、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造原料としての窒化ケイ素粉末の平均粒子径は、1.0μm以上12.0μm以下が好ましい。さらに好ましくは3.0μm以上12.0μm以下である。平均粒子径が1.0μm未満では酸素含有量が増加する傾向があり、外部量子効率が小さくなり易い。平均粒子径が12.0μmを超えると、製造が難しく実用的ではない。なお、窒化ケイ素粉末の平均粒子径は、該窒化ケイ素粉末の走査型電子顕微鏡写真から測定した。具体的には、走査型電子顕微鏡像写真内に円を描き、その円に接する個々の粒子について、粒子に内接する最大の円を定め、その円の直径をその粒子の径とし、それらの粒子の径の平均をとることにより粉末の平均粒子径を算出した。対象とする測定粒子の数は、約50〜150個になるようにした。
【0056】
また、窒化ケイ素粉末の比表面積は、0.2〜3.0m
2/gが好ましい。さらに好ましくは0.2m
2/g以上、1.0m
2/g以下である。結晶質窒化ケイ素粉末の比表面積を0.2m
2/g未満にする事は製造上難しく実用的ではなく、素子化する上で不都合を生じる。比表面積が3m
2/gを超えると、外部量子効率が小さくなり易く、0.2〜3.0m
2/gが好ましい。なお、比表面積は、島津社製フローソーブ2300型比表面積測定装置(窒素ガス吸着法によるBET法)で測定した。
【0057】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造に用いる窒化ケイ素粉末として、上記の如く、結晶質窒化ケイ素粉末を好ましく用いることができ、α型窒化ケイ素粉末であることが好ましい。
【0058】
本発明は1つの側面において、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造に用いる窒化ケイ素粉末として、特に酸素含有量が少ない結晶質窒化ケイ素粉末、α型窒化ケイ素粉末を好ましく用いることができる。従来の蛍光体原料としての窒化ケイ素粉末の酸素含有量は、1.0〜2.0質量%であり、本発明の好ましい態様として酸素含有量が0.2〜0.9質量%と少ない窒化ケイ素粉末を蛍光体原料に用いることにより、従来の窒化ケイ素粉末を用いたα型サイアロン蛍光体よりも蛍光強度がより顕著に高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることができる。窒化ケイ素中の酸素含有量は、好ましくは、0.2〜0.8質量%、さらに好ましくは0.2〜0.4質量%である。酸素量を0.2質量%未満にする事は製造上難しく、酸素量が0.9質量%を超えると従来の窒化ケイ素粉末を用いる場合と比べて本発明の酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性の顕著な向上が得られ難くなる。なお、含有酸素の測定は、LECO社製酸素窒素同時分析装置で測定した。
【0059】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末製造用に好ましく用いることができる窒化ケイ素粉末は、含窒素シラン化合物および/または非晶質(アモルファス)窒化ケイ素粉末を熱分解して得ることができる。含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド(Si(NH)
2)、シリコンテトラアミド、シリコンニトロゲンイミド、シリコンクロルイミド等が挙げられる。これらは、公知の方法、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法などによって製造される。
【0060】
また、非晶質窒化ケイ素粉末は、公知の方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に1200℃〜1460℃の範囲の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法などによって製造されたものが用いられる。非晶質窒化ケイ素粉末及び含窒素シラン化合物の平均粒子径は、通常、0.003〜0.05μmである。
【0061】
前記の含窒素シラン化合物、非晶質窒化ケイ素粉末は加水分解し易く、酸化され易いので、これらの原料粉末の秤量は、不活性ガス雰囲気中で行う。また、前記含窒素シラン化合物の加熱分解に用いる加熱炉に流通させる窒素ガス中の酸素濃度を0〜2.0vol%の範囲で制御できる。前記含窒素シラン化合物の加熱分解時の雰囲気中の酸素濃度を、例えば、100ppm以下、好ましくは10ppm以下などに規定して、低酸素含有量の非晶質窒化ケイ素粉末を得る。非晶質窒化ケイ素粉末の酸素含有量が低いほど、得られる結晶質窒化ケイ素粒子の酸素含有量も低くなる。また、反応容器材質および粉末取り扱い機器における粉末と金属との擦れ合い状態を改良した公知の方法により、非晶質窒化ケイ素粉末に混入する金属不純物は10ppm以下に低減される。
【0062】
次に、含窒素シラン化合物および/または非晶質窒化ケイ素粉末を1300〜1700℃の範囲で、窒素又はアンモニアガス雰囲気下で焼成して結晶質窒化ケイ素粉末を得る。焼成の条件(温度と昇温速度)を制御することで、粒子径を制御する。本発明の場合、低酸素の結晶質窒化ケイ素粉末を得るためには、含窒素シラン化合物から非晶質窒化ケイ素粉末を焼成する際の窒素ガス雰囲気焼成に同時含有させる酸素を制御する必要がある。大きな粒子径の結晶質窒化ケイ素粉末を得るためには、非晶質窒化ケイ素粉末から結晶質窒化ケイ素粉末を焼成する際、40℃/h以下のようなゆっくりとした昇温が必要である。このようにして得られた結晶質窒化ケイ素粉末は
図1に示すように、大きな一次粒子がほぼ単分散の状態にあり、凝集粒子、融着粒子はほとんどない。得られた結晶質窒化ケイ素粉末は金属不純物量が100ppm以下の高純度粉末である。また、この結晶質窒化ケイ素粉末を酸洗浄するなど化学的処理をする事で低酸素の結晶質窒化ケイ素粉末が得られる。このようにして、本発明の酸素量が0.2〜0.9質量%の酸窒化物蛍光体粉末製造用窒化ケイ素粉末を得ることができる。
【0063】
また、このようにして得られた窒化ケイ素粉末は、金属シリコンの直接窒化法により製造された窒化ケイ素と違って、強力な粉砕を必要とせず、そのため、不純物量が100ppm以下と極めて少ないという特徴がある。本発明の結晶質窒化ケイ素粉末に含まれる不純物(Al、Ca、Fe)は、100ppm以下、好ましくは20ppm以下とすることで、外部量子効率が大きい酸窒化物蛍光体粉末が得られるので好ましい。
【0064】
上記の低酸素含有量の窒化ケイ素粉末原料は、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造に一般的に好ましく使用できる。特に、前記の組成式において、前記x1、x2、x3、y、zが、0.0<x1≦2.0、0.0000<x2≦0.0100、0.0000<x3≦0.0100、0.4≦x2/x3≦1.4、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0である酸窒化物蛍光体粉末の製造でも有用である。この組成において、窒化ケイ素粉末原料が、上記の低酸素含有量であるとともに、その平均粒子径が、前述した1.0μm〜12.0μm、好ましくは3.0μm〜12.0μmの範囲であり、その比表面積が、0.2〜3.0m
2/g、さらには、0.2m
2/g〜1.0m
2/gの範囲であることが好ましい。窒化ケイ素粉末原料の酸素含有量、平均粒子径、及び比表面積がこの範囲にあると、得られる酸窒化物蛍光体粉末が、450nmの波長の光で励起されて発光する蛍光の主波長が565nm〜577nmとなる蛍光を発し、その際の外部量子効率が41%以上となるので好ましい。
【0065】
さらに、上記の低酸素含有量の窒化ケイ素粉末原料は、特に、前記の組成式において、前記x1、x2、x3、y、zが、0.9<x1≦1.5、0.0035≦x2≦0.0060、0.0040≦x3≦0.0080、0.6≦x2/x3≦1.1、2.0≦y≦3.0、1.0≦z≦1.5である酸窒化物蛍光体粉末の製造においても有用である。この組成において、窒化ケイ素粉末原料が、上記の低酸素含有量であるとともに、その平均粒子径が、前述した1.0μm〜12.0μm、好ましくは3.0μm〜12.0μmの範囲であり、その比表面積が、0.2〜3.0m
2/g、さらには、0.2m
2/g〜1.0m
2/gの範囲であることが好ましい。窒化ケイ素粉末原料の酸素含有量、平均粒子径、及び比表面積がこの範囲にあると、得られる酸窒化物蛍光体粉末が、450nmの波長の光で励起されて発光する蛍光のピーク波長が565〜575nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が47%以上となるので好ましい。
【0066】
焼成においては、焼結を促進し、より低温でα型サイアロン結晶相を生成させることを目的に、焼結助剤となるLi含有化合物を添加することが好ましい。用いるLi含有化合物としては、酸化リチウム、炭酸リチウム、金属リチウム、窒化リチウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。また、Li含有化合物の添加量は、酸窒化物焼成物1molに対して、Li元素として0.01〜0.5molが適当である。
【0067】
ケイ素源と、アルミニウム源と、カルシウム源と、ユーロピウム源と、イッテリビウム源とを混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。
【0068】
ケイ素源と、アルミニウム源と、カルシウム源と、ユーロピウム源と、イッテリビウム源との混合物を、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することで、前記組成式で表される酸窒化物焼成物を得ることができる。1500℃より低いとα型サイアロンの生成に長時間の加熱を要し、実用的ではない。2000℃より高いと窒化ケイ素およびα型サイアロンが昇華分解し遊離のシリコンが生成するため、外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末が得られなくなる。不活性ガスの加圧状態で焼成することにより、昇華分解を抑制することが可能となり、好ましい。不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の範囲の焼成が可能であれば、焼成に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化珪素製の坩堝を用いることができる。焼成によって得られる酸窒化物焼成物は、凝集が少なく、分散性が良好な粉体である。
【0069】
上記の焼成により得られた酸窒化物焼成物は更に熱処理してもよい。得られた酸窒化物焼成物を、不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することで、450nmの波長の光により励起されることで、主波長が565nmから577nmとなる蛍光を発する際の外部量子効率が特に高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることができる。より外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末を得るためには、熱処理温度を1500〜1600℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度が1100℃に満たない場合、または1600℃を超える場合は、得られる酸窒化物蛍光体粉末の外部量子効率が小さくなる。熱処理を行う場合の最高温度での保持時間は、特に高い外部量子効率を得るには、0.5時間以上であることが好ましい。4時間を越えて熱処理を行なっても、時間の延長に伴った外部量子効率の向上は僅かに留まるか、殆ど変わらないため、熱処理を行う場合の最高温度での保持時間としては、0.5〜4時間の範囲であることが好ましい。
【0070】
不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することが可能であれば、熱処理に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝、アルミナ製の坩堝を用いることができる。
【0071】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の好ましい一態様は、前記記載の製造方法により得られる蛍光体粉末であり、より詳しくは、ケイ素源と、アルミニウム源と、カルシウム源と、ユーロピウム源と、イッテリビウム源とを混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することにより得られる、組成式:
Ca
x1Eu
x2Yb
x3Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、
0.0<x1≦2.0、0.0000<x2≦0.0100、0.0000<x3≦0.0100、0.4≦x2/x3≦1.4、1.0≦y≦4.0、0.5≦z≦2.0で表される酸窒化物蛍光体粉末である。
【0072】
次に、上記の酸窒化物蛍光体を波長変換部材として利用した発光装置について説明する。発光装置には、例えば蛍光ランプ等の照明器具、ディスプレイ等の表示装置が挙げられる。波長変換部材の励起光源には、半導体発光素子(発光ダイオード)を使用する。ここで発光素子には、可視光を発する発光ダイオードだけでなく、近紫外光や深紫外光を発する発光ダイオードを使用することができる。
【0073】
図4には、本発明の実施形態の一つとして、表面実装型の発光装置1を示す。
図4は発光装置の断面図を示している。発光素子1は、青色発光の窒化物発光ダイオードや近紫外発光の窒化物発光ダイオードを用いることができる。ここでは、青色発光の発光ダイオードを例として説明する。発光素子1は、発光層として発光ピーク波長が約460nmのInGaN半導体を有する窒化物半導体発光素子を用いる。発光素子1に形成された電極(図示せず)とパッケージ2に設けられたリード電極3とはAuなどからなるボンディングワイヤ4によって接続されている。
【0074】
蛍光体層11は本発明の酸窒化物蛍光体12を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層に5重量%から50重量%の割合で分散させることによって形成することが出来る。使用する樹脂としては、シリコーン樹脂以外にも、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂などを使用することが出来る。また、蛍光体層11の形成方法としてはポッティングやスクリーン印刷法などの方法を用い、発光ダイオード上に薄く均一に形成することができる。蛍光体層11が厚過ぎると、蛍光体粒子が重なり合い、目的とする色度からのズレや発光効率の低下を招くので好ましくない。蛍光体層11には、本発明の酸窒化物蛍光体以外にも、演色性や色再現性の改善のため、青色の励起光により赤色、又は、緑色に発光する蛍光体を加えても良い。
【0075】
図5は
図4とは別の実施形態を示す断面図である。
図5では、蛍光体層の代わりに、蛍光体シート13を、発光ダイオード1から離して設置している点が異なっている。蛍光体シート13は、本願発明の酸窒化物蛍光体12を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層シートに5重量%から50重量%の割合で分散させることによって形成することが出来る。使用する樹脂としては、シリコーン樹脂以外にも、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂などを使用することが出来る。蛍光体シート13を発光ダイオード1から離して設置した構造であるため、発光の場所によるバラツキを低減することが可能となり好ましい。
【実施例】
【0076】
以下では、具体的例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0077】
(実施例1)
窒化ケイ素と酸化ユウロピウム、酸化イッテリビウム、窒化アルミニウム、炭酸カルシウムを、表1の酸窒化物の設計組成となるように窒素パージされたグローブボックス内で秤量し、乾式の振動ミルを用いて混合して、混合粉末を得た。窒化ケイ素粉末の比表面積及び平均粒子径は、それぞれ、0.3m
2/g、8.0μmであった。得られた混合粉末をBN製の坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の雰囲気式加圧焼成炉に仕込み、焼成炉内に窒素を導入し、0.8MPaの圧力を保った状態で、1800℃まで昇温した後、1800℃で2時間保持して、酸窒化物焼成物を得た。
【0078】
得られた酸窒化物焼成物を解砕して粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後、得られた粉末をアルミナ坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で、1600℃まで昇温した後、1600℃で1時間保持して、本発明の酸窒化物蛍光体を得た。
【0079】
得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を評価するために、日本分光社製FP−6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置を用いて、励起波長450nmにおける蛍光スペクトルを測定し、同時に吸収率と内部量子効率を測定した。得られた蛍光スペクトルから蛍光ピーク波長とその波長における発光強度を導出し、吸収率と内部量子効率から外部量子効率を算出した。また、測定装置に備えられている色解析ソフトを用いて、色度座標(Cx、Cy)及び主波長を求めた。なお、輝度の指標になる相対蛍光強度は、市販品のYAG:Ce系蛍光体(化成オプトニクス社製P46Y3)の同励起波長による蛍光スペクトルの最高強度の値を100%とした場合の蛍光ピーク波長における蛍光強度の相対値とした。実施例1に係る酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性の評価結果を表2に示す。
【0080】
(実施例2〜22)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、実施例2〜22に係る原料粉末を秤量し混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2に記載した。また、実施例2及び市販品のYAG:Ce系蛍光体(化成オプトニクス社製P46Y3)の励起及び蛍光スペクトルを
図2に示している。
図2より明らかなように、賦活剤としてYbとEuを共に含んだCa−α型サイアロン系酸窒化物蛍光体は、従来得られなかった、主波長が570nm程度で、相対蛍光強度の大きな蛍光スペクトルを示す。
【0081】
表2より、実施例2〜5、11、12、16〜20のように、前記一般式において、0.9<x1≦1.5、0.0035≦x2≦0.0060、0.0040≦x3≦0.0080、0.6≦x2/x3≦1.1、2.0≦y≦3.0、1.0≦z≦1.5の範囲である酸窒化物蛍光体粉末が、主波長が565〜575nmで、外部量子効率が47%以上と、特に大きな値を示すことが分かる。
【0082】
(比較例1〜13)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、比較例1〜13に係る原料粉末を秤量し混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2に記載した。また、比較例1および実施例2の励起スペクトル及び蛍光スペクトルを
図3に示している。
図3より明らかなように、賦活剤としてYbとEuを共に含むことにより、発光波長は低波長側へシフトし、主波長が569.7nm程度の蛍光スペクトルを示す酸窒化物蛍光体が得られる。一方、賦活剤としてEuのみを含んだ場合には、主波長が585.9nmと、大きく長波長側にシフトした蛍光スペクトルを示す。
【0083】
(実施例31)
原料の窒化ケイ素粉末の酸素濃度を、0.75質量%とした以外は、実施例3と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表3に記載した。窒化ケイ素粉末の酸素量が0.29質量%である実施例3の熱処理後の外部量子効率47.8%対して、酸素量が0.75質量%である実施例31の外部量子効率は、47.2%と小さくなっていることが分かる。
【0084】
(実施例32〜37)
原料の窒化ケイ素粉末の比表面積、平均粒子径、酸素量が表3に記載されている窒化ケイ素粉末を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を実施例3と同様の方法で測定した。その結果を、表3に記載した。表3より、窒化ケイ素粉末の酸素含有量が0.2〜0.9質量%で、平均粒子径が1.0〜12.0μmで、比表面積が0.2〜3.0m
2/g以下である場合に、特に、外部量子効率が大きくなっていることが分かる。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】