(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧延スタンドの圧延荷重実績値とロールギャップ実績値と当該圧延スタンドの下流側における圧延材の板厚とに基づいて前記圧延スタンドのミル定数を同定するミル定数同定装置、
を備え、
前記塑性係数同定装置は、前記ミル定数同定装置により同定されたミル定数に基づいて前記塑性係数を同定する請求項1に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記ミル定数同定装置は、前記圧延スタンドの下流側における圧延材の搬送速度と前記圧延スタンドの圧延ロールの回転速度を用いたマスフロー一定則に基づいて前記圧延スタンドの下流側における圧延材の板厚を計算する請求項2に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記ミル定数同定装置は、前記圧延スタンドに対し、1本の圧延材のデータが得られる度に前記圧延スタンドのミル定数を同定し、過去のミル定数と平滑化し、前記圧延スタンドの圧延ロールが交換された際は最新の同定データを用いる比率を通常よりも高くする請求項2〜請求項5のいずれか一項に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記塑性係数同定装置は、前記圧延スタンドの圧延ロールの回転位置に基づいて、前記圧延材の塑性係数を同定する請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記塑性係数同定装置は、前記圧延スタンドの圧延荷重測定値と予め設定された値との偏差に基づいて圧延荷重実績変化量を求め、前記圧延スタンドのロールギャップの定常値からの変化量に基づいてロールギャップ実績変化量を求め、前記圧延荷重実績変化量と前記ロールギャップ実績変化量と前記圧延ロールの回転位置と前記ミル定数と前記塑性係数とを含む式に最適化手法を適用して前記圧延材の塑性係数を同定する請求項8に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記塑性係数同定装置は、同一又は類似の鋼種、板厚,圧延温度範囲で区分されたロット毎にデータが予め設定された数だけ蓄積された場合に前記圧延材の塑性係数を同定する請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記塑性係数同定装置は、同一又は類似の鋼種、板厚、圧延温度範囲で区分されたロットにデータが蓄積される度に前記圧延材の塑性係数を同定する請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の圧延機の板厚制御装置。
前記圧延スタンドの圧延ロールの偏芯に起因するロール偏芯外乱を推定し、当該ロール偏芯外乱の影響を低減するように前記圧延スタンドのロールギャップを調整するロールギャップ操作手段、
を備えた請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の圧延機の板厚制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置を利用した圧延機の構成図である。
【0011】
図1において、熱間薄板圧延の圧延スタンドは、4Hiミルである。圧延スタンドは、ハウジング1を備える。ハウジング1内には、圧延ロールとして、上側ワークロール2aと下側ワークロール2bとが設けられる。上側ワークロール2aの軸の一側は、図示しない電動機に連結される。上側ワークロール2aの他側周辺には、作業領域が確保される。下側ワークロール2bの軸の一側は、図示しない電動機に連結される。下側ワークロール2bの他側周辺には、作業領域が確保される。
【0012】
上側ワークロール2aの上方には、圧延ロールとして、上側バックアップロール3aが設けられる。上側バックアップロール3aは、上側ワークロール2aを支持する。上側バックアップロール3aは、ハウジング1の上部に支持される。上側バックアップロール3aの軸の一側は、図示しない電動機に連結される。上側バックアップロール3aの他側周辺には、作業領域が確保される。
【0013】
下側ワークロール2bの下方には、圧延ロールとして、下側バックアップロール3bが設けられる。下側バックアップロール3bは、下側ワークロール2bを支持する。下側バックアップロール3bは、ハウジング1の下部に支持される。下側バックアップロール3bの軸の一側は、図示しない電動機に連結される。下側バックアップロール3bの他側周辺には、作業領域が確保される。
【0014】
上側バックアップロール3aの上方には、圧下装置4が設けられる。例えば、圧下装置4は、電動圧下装置からなる。例えば、圧下装置4は、油圧で駆動する油圧圧下装置からなる。油圧圧下装置は、高速制御し得る。圧下装置4は、ドライブ側圧下装置4aとオペ側圧下装置4bとを備える。ドライブ側圧下装置4aは、上側バックアップロール3aの一側に設けられる。オペ側圧下装置4bは、上側バックアップロール3aの他側に設けられる。
【0015】
下側バックアップロール3bの下方には、荷重検出器5が設けられる。荷重検出器5は、ドライブ側荷重検出器5aとオペ側荷重検出器5bとを備える。ドライブ側荷重検出器5aは、下側バックアップロール3bの一側に設けられる。オペ側荷重検出器5bは、上側バックアップロール3aの他側に設けられる。
【0016】
圧下装置4の下方には、ロールギャップ検出器6が設けられる。ロールギャップ検出器6は、ドライブ側ロールギャップ検出器6aとオペ側ロールギャップ検出器6bとを備える。ドライブ側ロールギャップ検出器6aは、上側バックアップロール3aの一側に設けられる。オペ側ロールギャップ検出器6bは、上側バックアップロール3aの他側に設けられる。
【0017】
荷重検出器5の出力側には、圧延荷重測定器7の入力側が接続される。ロールギャップ検出器6の出力側には、ロールギャップ測定器8の入力側が接続される。
【0018】
圧延荷重測定器7の出力側には、板厚制御器9の入力側が接続される。ロールギャップ測定器8の出力側には、板厚制御器9の入力側が接続される。板厚制御器9の出力側には、ロールギャップ操作手段10の入力側が接続される。ロールギャップ操作手段10の出力側は、圧下装置4の入力側に接続される。
【0019】
下側ワークロール2bには、ロール回転数検出器11が設けられる。圧延スタンドの出側には、板厚計12が設けられる。
【0020】
圧延材13は、金属で形成される。圧延材13は、上側ワークロール2aと下側ワークロール2bに挟まれる。その結果、圧延材13は延びる。この際、上側バックアップロール3aは、上側ワークロール2aの幅方向のたわみを抑える。下側バックアップロール3bは、下側ワークロール2bの幅方向のたわみを抑える。圧延材13への圧延荷重は、上側ワークロール2a、下側ワークロール2b、上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bを介して、ハウジング1に受け止められる。
【0021】
ドライブ側荷重検出器5aは、下側バックアップロール3bの一側にかかる荷重を検出する。オペ側荷重検出器5bは、下側バックアップロール3bの他側にかかる荷重を検出する。圧延荷重測定器7は、ドライブ側荷重検出器5aの検出値とオペ側荷重検出器5bの検出値との和を和荷重として計算する。圧延荷重測定器7は、ドライブ側荷重検出器5aの検出値とオペ側荷重検出器5bの検出値との差を差荷重として計算する。図示しないロールベンディング装置が圧延スタンドに設けられる場合、圧延荷重測定器7は、荷重検出器5の検出値をロールベンディング力で補正する際の計算を行う。
【0022】
ロールギャップ検出器6は、上側ワークロール2aと下側ワークロール2bとの隙間(ロールギャップ)を直接検出しない。ロールギャップ検出器6は、圧下装置4が上側バックアップロール3aを押し下げた量を検出する。ロールギャップ測定器8は、ロールギャップ検出器6の検出値に基づいてロールギャップを計算する。この際、ロールギャップ測定器8は、上側ワークロール2aと下側ワークロール2bとの距離関係を考慮する。
【0023】
板厚制御器9は、圧延荷重測定器7の計算値、ロールギャップ測定器8の計算値に基づいて、ロールギャップの設定値を調整する。この際、板厚制御器9は、
図1において図示しない同定装置により同定されたミル定数M
C、塑性係数Q
Cを用いてロールギャップの設定値を調整する。
【0024】
ロールギャップ操作手段10は、板厚制御器9により調整された設定値に基づいてロールギャップを調整する。その結果、圧延材13は、所望の板厚になる。圧延材13の板厚は、板厚計12により計測される。
【0025】
この際、ロール回転数検出器11は、下側ワークロール2bの回転数を検出する。ロール回転数検出器11は、下側ワークロール2bの回転位置を検出する。当該検出により、下側ワークロール2bの円周方向の位置が特定される。具体的には、下側ワークロール2bを横から見て円とみなした際に、円周上の基準点の位置が特定される。例えば、鉛直線に対する当該基準点の回転角度が特定される。
【0026】
次に、
図2を用いて、板厚制御器9の一例を説明する。
図2はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置を利用した圧延機の制御ブロック図である。
【0027】
図2において、制御対象の圧延プロセス14は、ミル定数Mと塑性係数Qとの影響を受ける。具体的には、圧延プロセス14は、第1影響係数14aと第2影響係数14bとを備える。第1影響係数14aは、ロールギャップが圧延荷重に与える影響に対応する。第1影響係数14aは、−MQ/(M+Q)である。第2影響係数14bは、圧延荷重が板厚に与える影響に対応する。第2影響係数14bは、1/Mである。
【0028】
圧延プロセス14には、ロール偏芯外乱ΔS
Dと圧延荷重外乱ΔP
Dとが加わる。ロール偏芯外乱ΔS
Dと圧延荷重外乱ΔP
Dとは直接測定できない。
【0029】
板厚制御器9は、圧延プロセス14に対し、モニターAGC15、ゲージメータAGC16、MMC(ミル定数可変制御)17等を実施する。
【0030】
第1制御ブロック18は、板厚計12に計測された板厚実績変化量Δh
ACTに基づいて板厚測定値変化量Δh
MESを計算する。この際、第1制御ブロック18は、圧延スタンドから板厚計12までの圧延材13の搬送遅れ時間を考慮する。
【0031】
モニターAGC15は、製品板厚目標値変更量Δhx
REFと板厚測定値変化量Δh
MESとの偏差に基づいてGM板厚目標値変更量Δh
REFを計算する。
【0032】
ゲージメータAGC16において、第2制御ブロック16aは、同定されたミル定数M
Cを用いて表される。第2制御ブロック16aには、応答を調整するための係数α
1が付加される。第2制御ブロック16aの出力とロールギャップ実績変化量ΔS
ACTとに基づいて、GM板厚変化量Δh
GMが求まる。
【0033】
ゲージメータAGC16において、ゲージメータ板厚目標値変更量Δh
GMAIMとGM板厚目標値変更量Δh
REFが合算される。その結果、板厚目標値変更量Δh
GMREFが求まる。板厚目標値変更量Δh
GMREFとGM板厚変化量Δh
GMとの偏差はPI制御器16bに入力される。PI制御器16bは、比例ゲインK
PGと積分ゲインK
IGとラプラス演算子Sで表される。なお、ロールギャップの記号Sは添え字やΔなどを伴うものとし、ラプラス演算子Sは単独で使うものとする。
【0034】
PI制御器16bの出力は、補償ゲイン16cに入力される。補償ゲイン16cは、同定されたミル定数M
C、塑性係数Q
C、応答を調整するための係数α
1、α
2で表される。補償ゲイン16cは、ロールギャップ指令値ΔS
SETを計算する。この際、補償ゲイン16cは、操作出力を規格化する。この場合、制御対象のミル定数M、塑性係数Q、係数α
1、α
2が変化しても、PI制御器16bの調整が不要となる。
【0035】
MMC17は、圧下装置4に高速応答を要求する。このため、圧下装置4が油圧圧下装置でない場合は、MMC17は適用されない。
【0036】
MMC17において、第3制御ブロック17aは、同定されたミル定数M
Cを用いて表される。MMC17は、第3制御ブロック17aの係数α
2を調整することにより、応答を調整し得る。例えば、係数α
2を大きくすれば、応答が速くなる。
【0037】
MMC17において、油圧圧下応答17bは、油圧圧下装置の応答に対応する。油圧圧下応答17bは、補償ゲイン16cの出力と第3制御ブロック17aの出力とを重畳した値に基づいて決定する。その結果、ロールギャップが調整される。
【0038】
次に、
図3を用いて、圧延材13の板厚等に対するミル定数Mと塑性係数Qとの影響を説明する。
図3はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置を利用した圧延機で圧延材を圧延する際のミル定数と塑性係数との影響を説明するための図である。
【0039】
図3において、ミルカーブは、ミル伸びの様子を表す。ミル伸びは、ハウジング1等が圧延材13から大きな圧延荷重を受けることにより発生する。圧延荷重が大きければ、ミル伸びも大きくなる。ミルカーブは、2次曲線または3次曲線で近似される。ミルカーブは測定し得る。
【0040】
ミル定数Mは、ミル伸びの比率を表す。ミル定数Mは、指定された圧延荷重におけるミルカーブの傾きで表される。例えば、圧延荷重が600(kN)でミル伸びが1(mm)の場合、ミル定数Mは600(kN/mm)である。
【0041】
図3において、塑性カーブは、圧延材13の板厚が変化した際の圧延荷重の変化の様子をプロットすることにより得られる。圧延材13の強度が高い場合、塑性カーブは立つ。圧延材13の温度が低い場合、塑性カーブは立つ。塑性カーブは直接には測定できない。
【0042】
塑性係数Qは、圧延材13の硬さを表す。塑性係数Qは、指定された圧延荷重における塑性カーブの傾きで表される。
【0043】
図3において、初期状態は、ミルカーブと塑性カーブとの交点(a)で表される。この際、ロールギャップはS
Gである。圧延スタンドの入側の圧延材13の板厚はHである。圧延スタンドの出側の圧延材13の板厚はhである。
【0044】
圧延材13の温度が下がると、塑性カーブが立つ。この際の状態は、ミルカーブと塑性カーブとの交点(b)で表される。その結果、出側の圧延材13の板厚はh+Δhに増加する。板厚制御によりロールギャップをS
GからS
G−ΔS
Gに変更すると、ミルカーブが左側に移動する。この際の状態は、ミルカーブと塑性カーブとの交点(c)で表される。その結果、出側の圧延材13の板厚はh+Δhよりも薄くなる。
【0045】
次に、
図4を用いて、ミル定数Mと塑性係数Qとの影響の詳細を説明する。
図4はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置を利用した圧延機で圧延材13を圧延する際のミル定数と塑性係数との影響を説明するための図である。
【0046】
図4において、ミル定数Mは、次の(1)式で表される。
【0048】
図4の三角形で成り立つ関係式を考えると、tanαは次の(2)式で表される。
【0050】
(1)式と(2)式より、ゲージメータ式が得られる。ゲージメータ式は次の(3)式で表される。
【0052】
図4において、塑性係数Qは次の(4)式で表される。
【0054】
図4の三角形で成り立つ関係式を考えると、塑性係数Qは次の(5)式で表される。
【0056】
(4)式と(5)式により、塑性係数Qと入側の圧延材13の板厚Hとの関係が得られる。塑性係数Qと入側の圧延材13の板厚Hとの関係は次の(6)式で表される。
【0058】
図4において、ロールギャップをΔS
Gだけ開くと、状態は、点(A)から点(B)に移動する。この際、ミル定数Mは、次の(7)式で表される。
【0060】
(7)式より、圧延荷重の変化量ΔPは次の(8)式で表される。
【0062】
塑性係数Qは次の(9)式で表される。
【0064】
(9)式より、圧延荷重の変化量ΔPは次の(10)式で表される。
【0066】
(8)式と(10)式より、圧延材13の板厚の変化量Δhは次の(11)式で表される。
【0068】
(10)式と(11)式より、圧延荷重の変化量ΔPは、次の(12)式で表される。
【0070】
(3)式より、板厚の変化量Δhは、次の(13)式で表される。
【0072】
次に、
図5を用いて、同定装置を説明する。
図5はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置の要部のブロック図である。
【0073】
図5に示すように、同定装置は、ミル定数同定装置19と塑性係数同定装置20とを備える。
【0074】
ミル定数同定装置19は、圧延荷重実績変化量ΔP
ACT、ロールギャップ実績変化量ΔS
ACT、板厚実績変化量Δh
ACT、ロール回転角実績値φ
1に基づいて、ミル定数M
IDを計算する。ミル定数M
IDは、ゲージメータAGC16、MMC17のミル定数Mcに入力される。この際、ミル定数Mcは、キスロール試験等により別の方法で同定されたミル定数M
MESとなる場合もある。
【0075】
塑性係数同定装置20は、圧延荷重実績変化量ΔP
ACT、ロールギャップ実績変化量ΔS
ACT、ロール回転角実績値φ
2、同定されたミル定数に基づいて、塑性係数Q
IDを計算する。この際、同定されたミル定数は、ミル定数M
ID又はミル定数M
MESから選択される。塑性係数Q
IDは、ゲージメータAGC16の塑性係数Q
Cに入力される。
【0076】
次に、
図6を用いて、ミル定数M
IDと塑性係数Q
IDとを計算方法を説明する。
図6はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置を利用した圧延機の制御ブロック図の要部である。
【0077】
図6においては、
図2の圧延プロセス14にノイズN
hが加わって、板厚実績変化量Δh
ACTが観測される。
【0078】
図6において、圧延材の板厚の変化量Δhは、ノイズN
hによる誤差e
1を用いて次の(14)式で表される。
【0080】
ロール偏芯外乱ΔS
Dは、圧延ロールの構造、圧延ロールの研磨の精度不良等によって発生する。例えば、オイルベアリングを有する支持ロールにおいてキー溝が数百トンから数千トンの圧延荷重を受けると、軸が上下に移動する。当該移動により、ロール偏芯外乱ΔS
Dが発生する。例えば、キー溝のない圧延ロールにおいて、熱膨張の偏り等により、ロール偏芯外乱ΔS
Dが発生する。
【0081】
ロール偏芯外乱ΔS
Dは、上側バックアップロール3aと下側バックアップロール3bとの回転周期に同期した周期的な外乱とみなし得る。圧延中は、圧延速度が変わる。このため、ロール偏芯外乱ΔS
Dの周期は時間によって変化する。ロール偏芯外乱ΔS
Dは、上側ワークロール2a、下側ワークロール2b、上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bの回転角φ
1(0度〜360度)に対して一定周期で変化する。
【0082】
この場合、ロール偏芯外乱ΔS
Dは、k次のフーリエ級数で近似される。具体的には、ロール偏芯外乱ΔS
Dは、次の(15)式で表される。
【0084】
(14)式を変形し、(15)式を用いると、次の(16)式が得られる。
【0086】
(16)式は、圧延材13のある時刻におけるそれぞれの変数の関係を表した式であり、一般には圧延材13から複数のデータセットが得られ、それぞれのデータセットは(16)式を満たす。複数の(16)式を満たすもっとも確からしいパラメータを推定することで、ミル定数Mなどのパラメータを得ることができる。
【0087】
例えば、1本の圧延材13に対し、N個のデータセットが得られた場合、圧延荷重実績変化量ΔP
ACT、ロールギャップ実績変化量ΔS
ACT、板厚測定値変化量Δh
ACT、ロール回転角実績値φ
1は、それぞれN個得られる。
【0088】
N個のデータを(16)式に当てはめるとN本の連立方程式が得られる。それらをまとめて表記するために、以下に、ベクトルや行列で表される変数を定義する。
【0089】
Δh−ΔSのデータセットは、N個のΔh
ACT−ΔS
ACTの要素を含む列ベクトルY
1とする。[ΔP I cosφ
1 sinφ
1・・・cos(kφ
1) sin(kφ
1)]のデータセットは、N個のΔP
ACTの要素を含む列ベクトル、要素が1のみからなるN行1列の行列I
NX1、N個のφ
1によるsin、cosの値を含むN行2k列の行列X
1とする。(16)式の右辺第一項に現れる[1/M a
S0 a
S1 b
S1・・・a
Sk b
Sk]
Tを列ベクトルθ
1とする。
【0090】
これらをまとめると、次の(17)式が得られる。ここで、ノイズによる誤差e
1のデータセットをベクトルE
1で表した。
【0092】
(17)式を解くために、最適化手法を用いる。最適化手法は、いくつか提案されているが、ここでは最も一般的な最小二乗法により同定する例を示す。
θ
1の最小二乗解は、次の(18)式で表される。
【0094】
ミル定数同定装置19は、(18)式を用いてミル定数M
IDを計算する。この際、ミル定数同定装置19は、板厚実績値変化量Δh
ACTに対し、圧延スタンドと板厚計12との間の搬送による遅れ時間を補償する。当該補償により、板厚実績値変化量Δh
ACTは、圧延荷重実績変化量ΔP
ACT、ロールギャップ実績変化量ΔS
ACTと同期する。
【0095】
ミル定数Mは、ハウジング1、上側ワークロール2a、下側ワークロール2b、上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bの機械特性に大きく依存する。このため、ミル定数M
IDは、圧延スタンド毎に計算される。
【0096】
例えば、圧延スタンドのデータが蓄積されていて、ミル定数がM[1](stored)(kN/mm)と同定されていたとする。同じ圧延スタンドのデータが得られ、ミル定数がM[1](raw)(kN/mm)と同定されたとする。この場合、ミル定数同定装置19は、M[1](raw)を保存する。板厚制御においては、平滑化された新しいミル定数が使用される。平滑化により、データのばらつきによる同定結果の不安定化が抑えられる。新しいミル定数は次の(19)式で表される。
【0098】
(19)式において、aは平滑化ゲインである。aは0から1までの値に設定される。aを大きくすると、ミル定数M[1](raw)が新しいミル定数に反映されやすくなる。
【0099】
上側ワークロール2a、下側ワークロール2b又は上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bを交換直後の1本目の圧延材13においては、ミル定数は、交換前のミル定数と若干異なる場合もある。このため、交換直後においては、ミル定数同定装置19は、M[1](raw)の比率を高くする。この場合、新しいミル定数は、aよりも大きい平滑化ゲインAを用いて次の(20)式で表される。
【0101】
上側ワークロール2a、下側ワークロール2b又は上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bの交換直後から数本の圧延材13を圧延し、データが安定するまで、Aを継続的に使用してもよい。この場合、上側ワークロール2a、下側ワークロール2b又は上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bの交換後の同定結果が反映されやすくなる。
【0102】
次に、塑性係数Qを同定する方法を以下に示す。基本的な考えは、上に示したミル定数Mと同様である。
【0103】
図6において、圧延荷重の変化量ΔPは、ノイズN
hによる誤差e
2を用いて次の(21)式で表される。
【0105】
(21)式を変形すると、次の(22)式が得られる。
【0107】
この際、wは、以下の(23)式で定義される。
【0109】
圧延材13が圧延される前の状態であるスラブである際、当該スラブは、図示しない加熱路内に配置される。当該加熱炉には、図示しない複数のスキッドが設けられる。複数のスキッドは、ほぼ等間隔で配置される。複数のスキッドは、スラブを支持する。複数のスキッドの内部は水で冷やされる。このため、スラブにおいて、スキッドに触れる部分の温度が下がる。当該部分は、スキッドマークと呼ばれる。
【0110】
圧延荷重外乱ΔP
Dは、スキッドマークに同期した周期的な外乱とみなし得る。圧延中は、圧延速度が変わる。このため、圧延荷重外乱ΔP
Dの周期は時間によって変化する。圧延荷重外乱ΔP
Dは、上側ワークロール2a、下側ワークロール2b、上側バックアップロール3a、下側バックアップロール3bの回転角φ
2(0度〜360度)に対して一定周期で変化する。
【0111】
この場合、wは、k次のフーリエ級数で近似される。具体的には、wは、次の(24)式で表される。
【0113】
(22)式を変形し、(23)式、(24)式を用いると、次の(25)式が得られる。
【0115】
圧延材13から得られたN個のデータを(25)式に当てはめるとN本の連立方程式が得られる。それらをまとめて表記するために、以下に、ベクトルや行列で表わされる変数を定義する。
【0116】
ΔPのデータセットは、ΔP
ACTの要素を含む列ベクトルY
2とする。[ΔS I cosφ
2 sinφ
2・・・cos(kφ
2) sin(kφ
2)]のデータセットは、N個のΔS
ACTの要素を含む列ベクトル、要素が1のみからなるN行1列の行列I
NX1、N個のφ
2によるsin、cosの値を含むN行2k列の行列X
2とする。(25)式の右辺第一項に現れる[−MQ/(M+Q) a
w0 a
w1 b
w1・・・a
wk b
wk]
Tを列ベクトルθ
2とする。
【0117】
これらをまとめると、次の(26)式が得られる。ここで、ノイズによる誤差e
2のデータセットをベクトルE
2で表した。
【0119】
(17)式と同様に、最小二乗法により(26)式を解く。θ
2の最小二乗解は、次の(27)式で表される。
【0121】
塑性係数同定装置20は、(27)式を用いて塑性係数Q
IDを計算する。この際、ミル定数Mは、ミル定数M
ID又はミル定数M
MESから選択される。
【0122】
塑性係数Qの同定は、ある数のデータが蓄積されたタイミングで実施する。塑性係数同定装置20は、圧延スタンド番号、鋼種、板厚区分、温度範囲を区分指標として、塑性係数のテーブルを持つ。テーブルの1つ1つのセルはロットと呼ばれる。各ロットには、以下の(A)〜(D)の情報が関連付けられる。
【0123】
(A)当該セルに該当する圧延材13の本数
(B)各圧延材13のID番号と圧延日時
(C)各材料で得られた塑性係数の同定に必要なデータ
(D)前回同定した圧延材13のID番号
【0124】
塑性係数同定装置20は、(A)〜(D)の情報を用いて以下のタイミング(a)又はタイミング(b)で塑性係数Q
IDを計算する。
【0125】
(a)一定数以上の新規データが蓄積された時点で塑性係数Q
IDを計算する。
(b)ロットに含まれる圧延材13のデータが採取されるたびに当該ロットのデータを対象として塑性係数Q
IDを計算する。
【0126】
タイミング(a)の場合、エンジニアは、蓄積されたデータ数を見て、適宜判断してもよい。あるデータ数以上になれば自動的に塑性係数Q
IDを計算してもよい。
【0127】
タイミング(b)の場合、あるロット(圧延スタンド、鋼種、板厚区分、温度範囲)にデータが蓄積されていて、塑性係数がQ[1、2、3、4](stored)(kN/mm)と同定されていたとする。当該ロットと同じ条件の圧延材13のデータが得られ、塑性係数がQ[1、2、3、4](raw)(kN/mm)と同定されたとする。塑性係数同定装置20は、平滑化された新しい塑性係数を当該ロットに保存する。板厚制御においては、平滑化された新しい塑性係数が使用される。平滑化により、データのばらつきによる同定結果の不安定化が抑えられる。新しい塑性係数は次の(27)式で表される。
【0129】
(28)式において、bは平滑化ゲインである。bは0から1までの値に設定される。bを大きくすると、塑性係数Q[1、2、3、4](raw)が新しいミル定数に反映されやすくなる。
【0130】
平滑化は、タイミング(a)の場合にも適用し得る。(28)式とは異なる平滑化が適用される場合もある。
【0131】
次に、
図7を用いて、塑性係数Qのテーブルを説明する。
図7はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置の塑性係数同定装置が有する塑性係数のテーブルを説明するための図である。
【0132】
図7において、圧延スタンド、鋼種、板厚区分、温度範囲を指定すれば、ただ1つのロットが指定される。その結果、当該ロットは、他のロットと区別される。
【0133】
次に、
図8と
図9とを用いて、ミル定数M
IDと塑性係数Q
IDの有効性を説明する。
図8はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置によるロール偏芯外乱の推定結果を説明するための図である。
図9はこの発明の実施の形態1における圧延機の板厚制御装置による圧延荷重外乱の推定結果を説明するための図である。
【0134】
図8に示すように、ロール偏芯外乱の推定値は、実際の外乱の値とほぼ一致する。
図9に示すように、圧延荷重外乱の推定値は、実際の外乱の値とほぼ一致する。このため、ミル定数M
IDと塑性係数Q
IDとは正確に計算される。
【0135】
以上で説明した実施の形態1によれば、塑性係数同定装置20は、操作対象の圧延スタンドの圧延荷重実績値とロールギャップ実績値とミル定数に基づいて、圧延材13の塑性係数を同定する。このため、圧延材13の塑性係数を正確に同定することができる。
【0136】
また、ミル定数同定装置19は、制御対象の圧延スタンドの圧延荷重実績値とロールギャップ実績値と当該圧延スタンドの下流側にける圧延材の板厚とに基づいて当該圧延スタンドのミル定数を同定する。このため、当該圧延スタンドのミル定数を正確に同定することができる。
【0137】
また、ミル定数同定装置19は、当該圧延スタンドの圧延ロールの回転位置に基づいて当該圧延スタンドのミル定数を同定する。具体的には、ミル定数同定装置19は、(18)式を用いてミル定数を計算する。このため、当該圧延スタンドのミル定数をより正確に同定することができる。
【0138】
また、ミル定数同定装置19は、圧延スタンドに対し、1本の圧延材13のデータが得られる度にミル定数を同定し、過去に同定されたミル定数と平滑化する。圧延スタンドの圧延ロールが交換された際は、ミル定数同定装置19は、最新の同定データを用いる比率を通常よりも高くする。このため、当該圧延スタンドのミル定数をより正確に同定することができる。
【0139】
また、塑性係数同定装置20は、キスロール試験により求められたミル定数に基づいて圧延材13の塑性係数を同定する。このため、圧延材13の塑性係数をより正確に同定することができる。
【0140】
また、塑性係数同定装置20は、当該圧延スタンドの圧延ロールの回転位置に基づいて圧延材13の塑性係数を同定する。具体的には、塑性係数同定装置20は、(26)式を用いて塑性係数を計算する。このため、圧延材13の塑性係数をより正確に同定することができる。
【0141】
また、塑性係数同定装置20は、予め採取したデータを用いて圧延材13の塑性係数を同定する。このため、過去のデータを用いて圧延材13の塑性係数を計算することができる。
【0142】
また、塑性係数同定装置20は、同一又は類似の鋼種、板厚,圧延温度範囲で区分されたロット毎にデータが予め設定された数だけ蓄積された場合に圧延材13の塑性係数を同定する。このため、圧延材13の塑性係数をより正確に計算することができる。
【0143】
また、塑性係数同定装置20は、同一又は類似の鋼種、板厚、圧延温度範囲で区分されたロットにデータが蓄積される度に圧延材13の塑性係数を同定する。このため、最新のデータにより圧延材13の塑性係数を修正することができる。
【0144】
なお、当該圧延スタンドの下流側に板厚計12が設けられていない場合は、マスフロー一定則を用いて圧延スタンドの出側における圧延材13の板厚を求めればよい。マスフロー一定則は、次の(29)式で表される。
【0146】
(29)式において、添え字Xは板厚計12を設けると仮定した際の板厚計12の直下の位置に対応する。添え字iは当該圧延スタンド番号に対応する。hは圧延材13の板厚である。Vは圧延材13の速度である。fは先進率である。先進率fは、圧延モデルから計算される。V
Riは、圧延スタンドの圧延ロールの周速から測定される。
【0147】
実施の形態2.
図10はこの発明の実施の形態2における圧延機の板厚制御装置の制御ブロック図の要部である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0148】
実施の形態2の板厚制御器9は、同定されたロール偏芯外乱ΔS
Dを用いて制御性能を向上させる。具体的には、ロールギャップ操作手段10は、同定されたロール偏芯外乱ΔS
Dとは逆方向にロールギャップを調整する。当該調整により、ロール偏芯外乱が打ち消される。
【0149】
現実的には、圧延ロールの位置の特定に誤差があったり、油圧圧下装置の応答が遅れたりする。このため、ロール偏芯外乱を100%補償すると、制御のハンチング等の不具合が発生し得る。このため、調整ゲインK
SDが導入される。
【0150】
図10においては、推定されたロール偏芯外乱ΔS
Dに、調整ゲインK
SDを乗じて、ロール偏芯補償量ΔS
DREFが計算される。ロール偏芯補償量ΔS
DREFは、ロールギャップ指令値ΔS
SETに加算される。
【0151】
以上で説明した実施の形態2によれば、ロールギャップ操作手段10は、ロール偏芯外乱の影響を低減するように圧延スタンドのロールギャップを調整する。このため、圧延材13の板厚を精度よく制御することができる。
【0152】
なお、実施の形態1及び2の板厚制御装置を4Hiミル以外のミルに適用してもよい。例えば、当該板厚制御装置を上側ワークロール2a及び下側ワークロール2bで構成された2Hiミルに適用してもよい。また、当該板厚制御装置を4Hiミルに中間ロールを付加した6Hiミルに適用してもよい。