特許第6028892号(P6028892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028892
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20161114BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   H01L21/30 572B
   H01L21/304 644A
   H01L21/304 648Z
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-44650(P2012-44650)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-182957(P2013-182957A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137062
【弁理士】
【氏名又は名称】五郎丸 正巳
(72)【発明者】
【氏名】村元 僚
(72)【発明者】
【氏名】林 豊秀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 光治
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0081180(US,A1)
【文献】 特開2008−004879(JP,A)
【文献】 特開2004−266089(JP,A)
【文献】 特開2008−103556(JP,A)
【文献】 特開平11−003846(JP,A)
【文献】 特開2008−270402(JP,A)
【文献】 特開2006−108304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主面に薬液を用いた処理を施すために用いられる基板処理装置であって、
基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持されている基板の主面に薬液を供給する薬液ノズルを有する薬液供給手段と、
赤外線ランプを有し、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に対向して配置され、赤外線ランプからの赤外線の放射により、基板の主面に供給された薬液を加熱する、基板よりも小径のヒータと、
前記薬液ノズルとは別に設けられて、前記ヒータを有するヒータヘッドと、
前記基板保持手段に保持されている基板の主面に沿って、前記ヒータヘッドを移動させるヒータヘッド移動手段とを含み、
前記ヒータヘッドは、前記赤外線ランプを収容する有底容器状のランプハウジングを備え、
前記ヒータは、前記赤外線ランプの照射により加熱される前記ランプハウジングの底板部を含む、基板処理装置。
【請求項2】
基板の主面に薬液を用いた処理を施すために用いられる基板処理装置であって、
基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持されている基板の主面に薬液を供給する薬液ノズルを有する薬液供給手段と、
赤外線ランプを有し、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に対向して配置され、赤外線ランプからの赤外線の放射により、基板の主面に供給された薬液を加熱する、基板よりも小径のヒータと、
前記薬液ノズルとは別に設けられて、前記ヒータを有するヒータヘッドと、
前記基板保持手段に保持されている基板の主面に沿って、前記ヒータヘッドを移動させるヒータヘッド移動手段とを含み、
前記ヒータヘッドは、前記赤外線ランプを収容する有底容器状のランプハウジングを備え、
前記ランプハウジングは石英を用いて形成されている、基板処理装置。
【請求項3】
前記ヒータは、前記基板の主面と前記赤外線ランプとの間に配置され、前記赤外線ランプの照射により加熱される対向部材をさらに含む、請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記ヒータヘッドは、前記ランプハウジングの開口部を閉塞する蓋をさらに備えている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記蓋は、樹脂材料を用いて形成されている、請求項4に記載の基板処理装置
【請求項6】
前記赤外線ランプは、前記基板の主面に垂直な軸線を中心軸線とする環状をなしている、請求項1〜のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記薬液は、レジスト剥離液である、請求項1〜のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を用いた処理を基板に施すための基板処理装置に関する。処理の対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などの基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、たとえば、半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)の主面にリン、砒素、硼素などの不純物(イオン)を局所的に注入する工程が含まれる。この工程では、不要な部分に対するイオン注入を防止するため、ウエハの表面に感光性樹脂からなるレジストがパターン形成されて、イオン注入が不要な部分がレジストによってマスクされる。ウエハの表面上にパターン形成されたレジストは、イオン注入の後は不要になるから、イオン注入後には、そのウエハの表面上の不要となったレジストを除去するためのレジスト除去処理が行われる。
【0003】
このようなレジスト除去処理の代表的なものでは、ウエハの表面に酸素プラズマが照射されて、ウエハの表面上のレジストがアッシングされる。そして、ウエハの表面に硫酸と過酸化水素水の混合液である硫酸過酸化水素水混合液(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:SPM液)などの薬液が供給されて、アッシングされたレジストが除去されることにより、ウエハの表面からのレジストの除去が達成される。
【0004】
ところが、レジストのアッシングのための酸素プラズマの照射は、ウエハの表面のレジストで覆われていない部分(たとえば、レジストから露呈した酸化膜)にダメージを与えてしまう。
そのため、最近では、レジストのアッシングを行わずに、ウエハの表面にSPM液を供給して、このSPM液に含まれるペルオキソ一硫酸(HSO)の強酸化力により、ウエハの表面からレジストを剥離して除去する手法が注目されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−32819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、高ドーズのイオン注入が行われたウエハでは、レジストが炭化変質(硬化)していることがある。
SPM液に高いレジスト剥離性能を発揮させるためには、SPM液の液温を200℃以上の高温まで昇温させる必要がある。このようなSPM液であれば、表面に硬化層を有するレジストであっても、アッシングすることなく、ウエハの表面から除去することができる。また、SPM液の液温を200℃以上に保つことにより、レジストの剥離効率が高まるから、レジスト剥離の処理時間の短縮を図ることもできる。
【0007】
このような問題は、SPM液等のレジスト剥離液を用いたレジスト除去処理だけでなく、高温の燐酸を用いた窒化膜等の選択エッチング処理等にも共通の課題である。
そこで、本発明の目的は、基板の主面の薬液を高温に保持させることにより、基板の主面に薬液を用いた処理を良好に行うことができる基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板(W)の主面に薬液を用いた処理を施すために用いられる基板処理装置(1)であって、基板を保持する基板保持手段(3)と、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に薬液を供給する薬液ノズル(4)を有する薬液供給手段(4,13)と、赤外線ランプ(38)を有し、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に対向して配置され、赤外線ランプからの赤外線の放射により、基板の主面に供給された薬液を加熱する、基板よりも小径のヒータ(38,52)と、前記薬液ノズルとは別に設けられて、前記ヒータを有するヒータヘッド(35)と、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に沿って、前記ヒータヘッドを移動させるヒータヘッド移動手段(36,37)とを含み、前記ヒータヘッドは、前記赤外線ランプを収容する有底容器状のランプハウジング(40)を備え、前記ヒータは、前記赤外線ランプの照射により加熱される前記ランプハウジングの底板部(52)を含む、基板処理装置を提供する。
【0009】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、本項において同じ。
この構成によれば、ヒータを基板の主面に対向配置しつつ、赤外線ランプから赤外線を放射させることにより、基板の主面において、ヒータに対向する領域に存在する薬液が加熱される。また、ヒータによる加熱と並行して、ヒータを基板の主面に沿って移動させる。そのため、基板の主面におけるヒータに対向する領域が、所定の軌跡上を移動するので、ヒータによって基板の主面の全域を加熱することができる。これにより、基板の主面に存在する全ての薬液を高温に保つことができる。その結果、基板の主面の全域に、薬液を用いた処理を良好かつ均一に施すことができる。
【0010】
また、基板の主面の薬液を高温に保つことができるので、薬液による処理を促進することができ、薬液による処理時間を短縮することができる。
請求項2記載の発明は、前記薬液ノズルとは別に設けられて、前記ヒータを有するヒータヘッド(35)をさらに含み、前記ヒータ移動手段は、前記ヒータヘッドを移動させるヒータヘッド移動手段(36,37)を含む、請求項1に記載の基板処理装置である。
【0011】
また、ヒータを有するヒータヘッドが、薬液ノズルとは別に設けられている。ヒータと薬液ノズルとが共通の保持ヘッドに含まれていると、ヒータによる加熱の対象は、薬液ノズルから基板の主面に供給された直後の薬液に限られる。これに対して、本願発明では、ヒータヘッドが薬液ノズルと別に設けられているので、ヒータヘッドおよび薬液ノズルの移動の態様を、それぞれ独自に設定することができる。この場合、基板の主面に供給されてから時間が経過し、温度降下している薬液を加熱することができるから、基板の主面の薬液を高温に良好に保つことができる。
【0012】
また、赤外線ランプの周囲がランプハウジングによって覆われている。そのため、基板の主面付近の薬液の液滴を含む雰囲気が、赤外線ランプに悪影響を及ぼすのを防止することができる。また、赤外線ランプの管壁に薬液の液滴が付着するのを防止できるので、赤外線ランプから放射される赤外線の光量を長期にわたって安定的に保つことができる。
【0013】
また、前記底板部は、前記基板の主面と対向する平坦な対向面(52B)を有していてもよい。この場合、対向面と基板の主面との間の雰囲気を、その周囲から遮断することができ、当該雰囲気を保温させることができる。これにより、基板の主面における対向部材に対向する領域に存在する薬液の温度降下を抑制することができるので、当該領域に存在する薬液のより一層の高温化を図ることができる。
また、前記の目的を達成するための請求項2に記載の発明は、基板(W)の主面に薬液を用いた処理を施すために用いられる基板処理装置(1)であって、基板を保持する基板保持手段(3)と、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に薬液を供給する薬液ノズル(4)を有する薬液供給手段(4,13)と、赤外線ランプ(38)を有し、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に対向して配置され、赤外線ランプからの赤外線の放射により、基板の主面に供給された薬液を加熱する、基板よりも小径のヒータ(38,52)と、前記薬液ノズルとは別に設けられて、前記ヒータを有するヒータヘッド(35)と、前記基板保持手段に保持されている基板の主面に沿って、前記ヒータヘッドを移動させるヒータヘッド移動手段(36,37)とを含み、前記ヒータヘッドは、前記赤外線ランプを収容する有底容器状のランプハウジング(40)を備え、前記ランプハウジングは石英を用いて形成されている、基板処理装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、ヒータを基板の主面に対向配置しつつ、赤外線ランプから赤外線を放射させることにより、基板の主面において、ヒータに対向する領域に存在する薬液が加熱される。また、ヒータによる加熱と並行して、ヒータを基板の主面に沿って移動させる。そのため、基板の主面におけるヒータに対向する領域が、所定の軌跡上を移動するので、ヒータによって基板の主面の全域を加熱することができる。これにより、基板の主面に存在する全ての薬液を高温に保つことができる。その結果、基板の主面の全域に、薬液を用いた処理を良好かつ均一に施すことができる。
また、基板の主面の薬液を高温に保つことができるので、薬液による処理を促進することができ、薬液による処理時間を短縮することができる。
また、ヒータを有するヒータヘッドが、薬液ノズルとは別に設けられている。ヒータと薬液ノズルとが共通の保持ヘッドに含まれていると、ヒータによる加熱の対象は、薬液ノズルから基板の主面に供給された直後の薬液に限られる。これに対して、本願発明では、ヒータヘッドが薬液ノズルと別に設けられているので、ヒータヘッドおよび薬液ノズルの移動の態様を、それぞれ独自に設定することができる。この場合、基板の主面に供給されてから時間が経過し、温度降下している薬液を加熱することができるから、基板の主面の薬液を高温に良好に保つことができる。
また、赤外線ランプの周囲がランプハウジングによって覆われている。そのため、基板の主面付近の薬液の液滴を含む雰囲気が、赤外線ランプに悪影響を及ぼすのを防止することができる。また、赤外線ランプの管壁に薬液の液滴が付着するのを防止できるので、赤外線ランプから放射される赤外線の光量を長期にわたって安定的に保つことができる。
また、前記ランプハウジングは石英を用いて形成されている。ランプハウジングは赤外線ランプからの赤外線を受けて高温に熱せられるおそれがあるが、耐熱性を有するとともに、赤外線の透過にすぐれている石英を用いて形成することにより、ランプハウジングの破壊や溶融のおそれが少ない。
この場合、請求項3に記載のように、前記ヒータは、前記基板の主面と前記赤外線ランプとの間に配置され、前記赤外線ランプの照射により加熱される対向部材(52)をさらに含んでいてもよい。
前記対向部材は、前記基板の主面と対向する平坦な対向面(52B)を有していることが好ましい。この場合、対向面と基板の主面との間の雰囲気を、その周囲から遮断することができ、当該雰囲気を保温させることができる。これにより、基板の主面における対向部材に対向する領域に存在する薬液の温度降下を抑制することができるので、当該領域に存在する薬液のより一層の高温化を図ることができる。
請求項記載の発明は、前記ヒータヘッドは、前記ランプハウジングの開口部(39)を閉塞する蓋(41)をさらに備えている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理装置である。
【0015】
この構成によれば、ランプハウジングの開口部が蓋によって閉塞されている。そのため、薬液の液滴を含む雰囲気のランプハウジング内への進入が確実に阻止される。これにより、薬液の液滴を含む雰囲気が赤外線ランプに悪影響を及ぼすのを、より確実に防止することができる。
この場合、蓋と赤外線ランプとが十分な間隔を隔てて配置されていれば、蓋が赤外線ランプによって熱せられることがない。したがって、請求項5に記載のように、当該蓋を、樹脂材料を用いて形成することもできる
【0017】
請求項に記載のように、前記赤外線ランプは、前記基板の主面に垂直な軸線を中心軸線とする環状をなしていてもよい。この場合、赤外線ランプが基板の主面に沿って延びるので、より大流量の薬液に対して、赤外線を照射することができる。
また、請求項に記載のように、前記薬液はレジスト剥離液であってもよい。
この場合、基板の主面に存在する全てのレジスト剥離液を高温に保つことができるので、基板の主面の全域からレジストを良好かつ均一に除去することができる。
【0018】
また、基板の主面のレジスト剥離液を高温に保つことができるので、硬化層を有するレジストであっても、アッシングすることなく、基板の主面から除去することができる。レジストのアッシングが不要であるから、アッシングによる基板の主面のダメージの問題を回避することができる
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を模式的に示す図である。
図2図1に示すヒータヘッドの図解的な断面図である。
図3図2に示す赤外線ランプの斜視図である。
図4図1に示すヒータアームおよびヒータヘッドの斜視図である。
図5図1に示す基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
図6図1に示す基板処理装置におけるレジスト除去処理の第1処理例を示す工程図である。
図7図6に示す第1処理例の主要な工程における制御装置による制御内容を説明するためのタイムチャートである。
図8A】第1処理例の一工程を説明するための図解的な図である。
図8B図8Aの次の工程を示す図解的な図である。
図9図8Bに示す工程におけるヒータヘッドの移動範囲を示す平面図である。
図10】第2処理例の主要な工程における制御装置による制御内容を説明するためのタイムチャートである。
図11】第3処理例の主要な工程における制御装置による制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基板処理装置1の構成を模式的に示す図である。基板処理装置1は、たとえば基板の一例としてのウエハWの表面(主面)に不純物を注入するイオン注入処理やドライエッチング処理の後に、そのウエハWの表面から不要になったレジストを除去するための処理に用いられる枚葉式の装置である。
【0022】
基板処理装置1は、隔壁(図示しない)により区画された処理室2内に、ウエハWを保持して回転させるウエハ回転機構(基板保持手段)3と、ウエハ回転機構3に保持されているウエハWの表面(上面)に対して、レジスト剥離液(薬液)の一例としてのSPM液を供給するための剥離液ノズル(薬液ノズル)4と、ウエハ回転機構3に保持されているウエハWの表面に対向して配置され、ウエハWの表面上のSPM液を加熱するヒータヘッド35とを備えている。
【0023】
ウエハ回転機構3として、たとえば挟持式のものが採用されている。具体的には、ウエハ回転機構3は、モータ(回転手段)6と、このモータ6の駆動軸と一体化されたスピン軸7と、スピン軸7の上端にほぼ水平に取り付けられた円板状のスピンベース8と、スピンベース8の周縁部の複数箇所にほぼ等角度間隔で設けられた複数個の挟持部材9とを備えている。そして、複数個の挟持部材9は、ウエハWをほぼ水平な姿勢で挟持する。この状態で、モータ6が駆動されると、その駆動力によってスピンベース8が所定の鉛直軸線(回転軸線)Cまわりに回転され、そのスピンベース8とともに、ウエハWがほぼ水平な姿勢を保った状態で鉛直な回転軸線Cまわりに回転される。
【0024】
なお、ウエハ回転機構3としては、挟持式のものに限らず、たとえば、ウエハWの裏面を真空吸着することにより、ウエハWを水平な姿勢で保持し、さらにその状態で回転軸線Cまわりに回転することにより、その保持したウエハWを回転させる真空吸着式のものが採用されてもよい。
剥離液ノズル4は、たとえば、連続流の状態でSPM液を吐出するストレートノズルである。剥離液ノズル4は、その吐出口を下方に向けた状態で、ほぼ水平に延びる第1液アーム11の先端に取り付けられている。第1液アーム11は、鉛直方向に延びる所定の揺動軸線まわりに旋回可能に設けられている。第1液アーム11には、第1液アーム11を所定角度範囲内で揺動させるための第1液アーム揺動機構12が結合されている。第1液アーム11の揺動により、剥離液ノズル4は、ウエハWの回転軸線C上の位置(ウエハWの回転中心に対向する位置)と、ウエハ回転機構3の側方に設定されたホームポジションとの間で移動される。
【0025】
剥離液ノズル4にSPM液を供給するための剥離液供給機構(薬液供給手段)13は、硫酸と過酸化水素水とを混合させるための混合部14と、混合部14と剥離液ノズル4との間に接続された剥離液供給管15とを備えている。混合部14には、硫酸供給管16および過酸化水素水供給管17が接続されている。硫酸供給管16には、後述する硫酸供給部(図示しない)から、所定温度(たとえば約80℃)に温度調節された硫酸(HSO)が供給される。一方、過酸化水素水供給管17には、過酸化水素水供給源(図示しない)から、温度調節されていない室温(約25℃)程度の過酸化水素水(H)が供給される。硫酸供給管16の途中部には、硫酸バルブ18および流量調節バルブ19が介装されている。また、過酸化水素水供給管17の途中部には、過酸化水素水バルブ20および流量調節バルブ21が介装されている。剥離液供給管15の途中部には、攪拌流通管22および剥離液バルブ23が混合部14側からこの順に介装されている。攪拌流通管22は、たとえば、管部材内に、それぞれ液体流通方向を軸にほぼ180度のねじれを加えた長方形板状体からなる複数の撹拌フィンを、液体流通方向に沿う管中心軸まわりの回転角度を90度ずつ交互に異ならせて配置した構成を有している。
【0026】
剥離液バルブ23が開かれた状態で、硫酸バルブ18および過酸化水素水バルブ20が開かれると、硫酸供給管16からの硫酸および過酸化水素水供給管17からの過酸化水素水が混合部14に流入し、それらが混合部14から剥離液供給管15へと流出する。硫酸および過酸化水素水は、剥離液供給管15を流通する途中、攪拌流通管22を通過することにより十分に攪拌される。攪拌流通管22による攪拌によって、硫酸と過酸化水素水とが十分に反応し、多量のペルオキソ一硫酸(HSO)を含むSPM液が生成される。そして、SPM液は、硫酸と過酸化水素水との反応熱により、混合部14に供給される硫酸の液温以上の高温に昇温する。その高温のSPM液が剥離液供給管15を通して剥離液ノズル4に供給される。
【0027】
この実施形態では、硫酸供給部(図示しない)の硫酸タンク(図示しない)には、硫酸が溜められており、この硫酸タンク内の硫酸は温度調節器(図示しない)により、所定温度(たとえば約80℃)に温度調節されている。この硫酸タンク内に溜められた硫酸が硫酸供給管16に供給される。混合部14において、約80℃の硫酸と、室温の過酸化水素水とが混合されることにより、約140℃のSPM液が生成される。剥離液ノズル4は、約140℃のSPM液を吐出する。
【0028】
また、基板処理装置1は、ウエハ回転機構3に保持されたウエハWの表面にリンス液としてのDIW(脱イオン化された水)を供給するためのDIWノズル24と、ウエハ回転機構3に保持されたウエハWの表面に対して洗浄用の薬液としてのSC1(ammonia-hydrogen peroxide mixture:アンモニア過酸化水素水混合液)を供給するためのSC1ノズル25とを備えている。
【0029】
DIWノズル24は、たとえば、連続流の状態でDIWを吐出するストレートノズルであり、ウエハ回転機構3の上方で、その吐出口をウエハWの回転中心付近に向けて固定的に配置されている。DIWノズル24には、DIW供給源からのDIWが供給されるDIW供給管26が接続されている。DIW供給管26の途中部には、DIWノズル24からのDIWの供給/供給停止を切り換えるためのDIWバルブ27が介装されている。
【0030】
SC1ノズル25は、たとえば、連続流の状態でSC1を吐出するストレートノズルである。SC1ノズル25は、その吐出口を下方に向けた状態で、ほぼ水平に延びる第2液アーム28の先端に取り付けられている。第2液アーム28は、鉛直方向に延びる所定の揺動軸線まわりに旋回可能に設けられている。第2液アーム28には、第2液アーム28を所定角度範囲内で揺動させるための第2液アーム揺動機構29が結合されている。第2液アーム28の揺動により、SC1ノズル25は、ウエハWの回転軸線C上の位置(ウエハWの回転中心に対向する位置)と、ウエハ回転機構3の側方に設定されたホームポジションとの間で移動される。
【0031】
SC1ノズル25には、SC1供給源からのSC1が供給されるSC1供給管30が接続されている。SC1供給管30の途中部には、SC1ノズル25からのSC1の供給/供給停止を切り換えるためのSC1バルブ31が介装されている。
ウエハ回転機構3の側方には、鉛直方向に延びる支持軸33が配置されている。支持軸33の上端部には、水平方向に延びるヒータアーム34が結合されており、ヒータアーム34の先端に、赤外線ランプ38を収容保持するヒータヘッド35が取り付けられている。また、支持軸33には、支持軸33を中心軸線まわりに回動させるための揺動駆動機構(ヒータヘッド移動手段)36と、支持軸33を中心軸線に沿って上下動させるための昇降駆動機構(ヒータヘッド移動手段)37とが結合されている。
【0032】
揺動駆動機構36から支持軸33に駆動力を入力して、支持軸33を所定の角度範囲内で回動させることにより、ウエハ回転機構3に保持されたウエハWの上方で、ヒータアーム34を、支持軸33を支点として揺動させる。ヒータアーム34の揺動により、ヒータヘッド35を、ウエハWの回転軸線C上を含む位置(ウエハWの回転中心に対向する位置)と、ウエハ回転機構3の側方に設定されたホームポジションとの間で移動される。また、昇降駆動機構37から支持軸33に駆動力を入力して、支持軸33を上下動させることにより、ウエハ回転機構3に保持されたウエハWの表面に近接する近接位置(後述する第1の近接位置および第2の近接位置の双方を含む。図1に二点鎖線で示す位置)と、そのウエハWの上方に退避する退避位置(図1に実線で示す位置)との間で、ヒータヘッド35を昇降させる。この実施形態では、近接位置は、ウエハ回転機構3に保持されたウエハWの表面とヒータヘッド35の下面との間隔がたとえば3mmになる位置に設定されている。
【0033】
図2は、ヒータヘッド35の図解的な断面図である。
ヒータヘッド35は、赤外線ランプ38と、上部に開口部39を有し、赤外線ランプ38を収容する有底容器状のランプハウジング40と、ランプハウジング40の内で赤外線ランプ38を吊り下げて支持する支持部材42と、ランプハウジング40の開口部39を閉塞するための蓋41とを備えている。この実施形態では、蓋41がヒータアーム34の先端に固定されている。
【0034】
図3は、赤外線ランプ38の斜視図である。図2および図3に示すように、赤外線ランプ38は、円環状の(円弧状の)円環部43と、円環部43の両端から、円環部43の中心軸線に沿うように鉛直上方に延びる一対の直線部44,45とを有する1本の赤外線ランプヒータであり、主として円環部43が発光部として機能する。この実施形態では、円環部43の直径(外径)は、たとえば約60mmに設定されている。赤外線ランプ38が支持部材42に支持された状態で、円環部43の中心軸線は、鉛直方向に延びている。換言すると、円環部43の中心軸線は、ウエハ回転機構3に保持されたウエハWの表面に垂直な軸線である。また、赤外線ランプ38はほぼ水平面内に配置される。
【0035】
赤外線ランプ38は、フィラメントを石英配管内に配設して構成されている。赤外線ランプ38には、電圧供給のためのアンプ54が接続されている。赤外線ランプ38として、ハロゲンランプやカーボンヒータに代表される短・中・長波長の赤外線ヒータを採用することができる。
図4は、ヒータアーム34およびヒータヘッド35の斜視図である。
【0036】
図2および図4に示すように、蓋41は円板状をなし、ヒータアーム34に対して水平姿勢に固定されている。蓋41は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂材料を用いて形成されている。この実施形態では、蓋41はヒータアーム34と一体に形成されている。しかしながら、蓋41をヒータアーム34と別に形成するようにしてもよい。また、蓋41の材料として、PTFE等の樹脂材料以外にも、セラミックスや石英などの材料を採用することもできる。
【0037】
図2に示すように、蓋41の下面49には、(略円筒状の)溝部51が形成されている。溝部51は水平平坦面からなる上底面50を有し、上底面50に支持部材42の上面42Aが接触固定されている。図2および図4に示すように、蓋41には、上底面50および下面42Bを、上下方向(鉛直方向)に貫通する挿通孔58,59が形成されている。各挿通孔58,59は、赤外線ランプ38の直線部44,45の各上端部が挿通するためのものである。なお、図4では、赤外線ランプ38をヒータヘッド35から取り除いた状態の構成を示している。
【0038】
図2に示すように、ランプハウジング40は有底円筒容器状をなしている。ランプハウジング40は石英を用いて形成されている。
ランプハウジング40は、その開口部39を上方に向けた状態で、蓋41の下面49(この実施形態では、溝部51を除く下面)に固定されている。ランプハウジング40の開口側の周端縁からは、円環状のフランジ40Aが径方向外方に向けて(水平方向に)突出している。フランジ40Aがボルト等の固定手段(図示しない)を用いて蓋41の下面49に固定されることにより、ランプハウジング40が蓋41に支持されている。
【0039】
この状態で、ランプハウジング40の底板部(対向部材)52は、水平姿勢の円板状をなしている。底板部52の上面52Aおよび下面(対向面)52Bは、それぞれ水平平坦面をなしている。ランプハウジング40内において、赤外線ランプ38は、その円環部43の下部が底板部52の上面52Aに近接して対向配置されている。また、円環部43と底板部52とは互いに平行に設けられている。また、見方を変えると、円環部43の下方は、ランプハウジング40の底板部52によって覆われている。なお、この実施形態では、ランプハウジング40の外径は、たとえば約85mmに設定されている。また、赤外線ランプ38(円環部43の下部)と上面52Aとの間の上下方向の間隔はたとえば約2mmに設定されている。
【0040】
支持部材42は厚肉の板状(略円板状)をなしており、ボルト56等によって、蓋41にその下方から、水平姿勢で取付け固定されている。支持部材42は、耐熱性を有する材料(たとえばセラミックスや石英)を用いて形成されている。支持部材42は、その上面42Aおよび下面42Bを、上下方向(鉛直方向)に貫通する挿通孔46,47を2つ有している。各挿通孔46,47は、赤外線ランプ38の直線部44,45が挿通するためのものである。
【0041】
各直線部44,45の途中部には、Oリング48が外嵌固定されている。直線部44,45を挿通孔46,47に挿通させた状態では、各Oリング48の外周が挿通孔46,47の内壁に圧接し、これにより、直線部44,45の各挿通孔46,47に対する抜止めが達成され、赤外線ランプ38が支持部材42によって吊り下げ支持される。
アンプ54から赤外線ランプ38に電圧が供給されると、赤外線ランプ38が赤外線を放射し、ランプハウジング40を介して、ヒータヘッド35の下方に向けて出射される。ランプハウジング40の底板部52を介して出射された赤外線が、SPM液を加熱する。
【0042】
また、赤外線ランプ38の円環部43および底板部52の双方が互いに平行に設けられているので、円環部43が底板部52に沿っている。そのため、円環部43による底板部52への照射面積を広く保っている。また、赤外線ランプ38の円環部43が水平姿勢であるので、同じく水平姿勢にあるウエハWの表面への照射面積を広く保つことができ、これにより、SPM液に対し赤外線を効率良く照射することができる。
【0043】
赤外線ランプ38の周囲がランプハウジング40によって覆われており、また、ランプハウジング40のフランジ40Aと蓋41の下面49とは、ランプハウジング40の全周にわたって密着している。さらに、ランプハウジング40の開口部39が蓋41によって閉塞されている。これらにより、後述するレジスト除去処理の際、ウエハWの表面付近のSPM液の液滴を含む雰囲気が、ランプハウジング40内に進入して、赤外線ランプ38に悪影響を及ぼすのを防止することができる。また、赤外線ランプ38の石英管の管壁にSPM液の液滴が付着するのを防止することができるので、赤外線ランプ38から放射される赤外線の光量を長期にわたって安定的に保つことができる。
【0044】
そして、後述するレジスト除去処理の際には、赤外線ランプ38の円環部43およびランプハウジング40の底板部52が、ウエハ回転機構3に保持されているウエハWの表面に対向して配置される。換言すると、ウエハWに対するレジスト除去処理時には、底板部52は、ウエハ回転機構3に保持されているウエハWの表面と、赤外線ランプ38との間に配置される。
【0045】
また、蓋41内には、ランプハウジング40の内部にエアを供給するための給気経路60と、ランプハウジング40の内部の雰囲気を排気するための排気経路61とが形成されている。給気経路60および排気経路61は、蓋41の下面に開口する給気ポート62および排気ポート63を有している。給気経路60には、給気配管64の一端が接続されている。給気配管64の他端は、エアの給気源に接続されている。排気経路61には、排気配管65の一端が接続されている。排気配管65の他端は、排気源に接続されている。
【0046】
給気配管64および給気経路60を通して、給気ポート62からランプハウジング40内にエアを供給しつつ、ランプハウジング40内の雰囲気を、排気ポート63および排気経路61を通して排気配管65へ排気することにより、ランプハウジング40内の高温雰囲気を換気することができる。これにより、ランプハウジング40の内部を冷却し、その結果赤外線ランプ38やランプハウジング40、とくに支持部材42を冷却することができる。
【0047】
なお、図4に示すように、給気配管64および排気配管65(図4では図示していない。図2参照)は、ヒータアーム34の一方の側面に配設された板状の給気配管ホルダ66、およびヒータアーム34の他方の側面に配設された板状の排気配管ホルダ67に、それぞれ支持されている。
図5は、基板処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。基板処理装置1は、さらに、マイクロコンピュータを含む構成の制御装置55を備えている。制御装置55には、モータ6、アンプ54、揺動駆動機構36、昇降駆動機構37、第1液アーム揺動機構12、第2液アーム揺動機構29、硫酸バルブ18、過酸化水素水バルブ20、剥離液バルブ23、DIWバルブ27、SC1バルブ31、流量調節バルブ19,21等が制御対象として接続されている。
【0048】
図6は、基板処理装置1におけるレジスト除去処理の第1処理例を示す工程図である。
図7は、次に述べるSPM液膜形成工程およびSPM液膜加熱工程における制御装置55による制御内容を説明するためのタイムチャートである。図8A図8Cは、SPM液膜形成工程およびSPM液膜加熱工程を説明するための図解的な断面図である。図9は、図8A図8Cに示す各工程におけるヒータヘッド35の移動範囲を示す平面図である。
【0049】
以下、図1図9を参照しつつ、レジスト除去処理の第1処理例について説明する。
レジスト除去処理に際しては、搬送ロボット(図示しない)が制御されて、処理室2(図1参照)内にイオン注入処理後のウエハWが搬入される(ステップS1:ウエハ搬入)。ウエハWは、レジストをアッシングするための処理を受けていないものとする。ウエハWは、その表面を上方に向けた状態でウエハ回転機構3に受け渡される。このとき、ウエハWの搬入の妨げにならないように、ヒータヘッド35、剥離液ノズル4およびSC1ノズル25は、それぞれホームポジションに配置されている。
【0050】
ウエハ回転機構3にウエハWが保持されると、制御装置55はモータ6を制御して、ウエハWを回転開始させる。ウエハWの回転速度は第1回転速度(30〜300rpmの範囲で、たとえば60rpm)まで上げられ、その後、その第1回転速度に維持される(ステップS2)。第1回転速度は、ウエハWをSPM液でカバレッジできる速度である。また、制御装置55は、第1液アーム揺動機構12を制御して、剥離液ノズル4をウエハWの上方位置に移動する。
【0051】
ウエハWの回転速度が第1回転速度に達した後、図8Aに示すように、制御装置55は、硫酸バルブ18、過酸化水素水バルブ20および剥離液バルブ23を開いて、剥離液ノズル4からSPM液をウエハWの表面に供給する。
ウエハWの回転速度が第1回転速度であるので、ウエハWの表面に供給されるSPM液は、ウエハWの表面上に溜められていき、ウエハWの表面上に、その表面の全域を覆うSPM液の液膜(薬液の液膜)70が形成される(ステップS3:SPM液膜形成工程)。
【0052】
図8Aに示すように、SPM液膜形成工程の開始時には、制御装置55は、第1液アーム揺動機構12を制御して、剥離液ノズル4をウエハWの回転中心上に配置させ、剥離液ノズル4からSPM液を吐出する。これにより、ウエハWの表面にSPM液の液膜70を形成するとともに、SPM液をウエハWの表面の全域に行き渡らせることができる。これにより、SPM液の液膜70でウエハWの表面の全域を覆うことができる。
【0053】
さらに、ステップS3のSPM液膜形成工程に並行して、制御装置55は、アンプ54を制御して、赤外線ランプ38から赤外線を放射させるとともに、揺動駆動機構36および昇降駆動機構37を制御して、ヒータヘッド35を保持したヒータアーム34をウエハW上方で揺動および昇降させる。具体的には、ヒータヘッド35を、ウエハWの表面の回転軸線C上を含む第2の退避位置に移動させ、その後、その第2の退避位置から、ウエハWの回転中心と対向する第2の近接位置(図9に二点鎖線で示す位置)に下降させる。そして、制御装置55は、ヒータヘッド35を第2の近接位置に配置した後、ヒータヘッド35を、ウエハWの周縁部に対向する第1の近接位置(図9に実線で示す位置)に向けて水平移動(ウエハWの表面に沿って)移動させる。
【0054】
ウエハWの表面の全域を覆うSPM液の液膜70が形成されるまでに要する時間は、剥離液ノズル4から吐出されるSPM液の流量によって異なるが、2〜15秒間の範囲で、たとえば5秒間である。
この5秒間が、SPM液の供給開始から経過すると、制御装置55は、モータ6を制御して、ウエハWの回転速度を第1回転速度よりも小さい所定の第2回転速度に下げる。これにより、ステップS4のSPM液膜加熱工程が実行される。
【0055】
第2回転速度は、ウエハWへのSPM液の供給がなくても、ウエハWの表面上にSPM液の液膜70を保持可能な速度(1〜20rpmの範囲で、たとえば15rpm)である。また、モータ6によるウエハWの減速と同期して、図8Bに示すように、制御装置55は、剥離液バルブ23を閉じて、剥離液ノズル4からのSPM液の供給を停止するとともに、第1液アーム揺動機構12を制御して、剥離液ノズル4をホームポジションに戻す。ウエハWへのSPM液の供給が停止されるが、ウエハWの回転速度が第2回転速度に下げられることにより、ウエハWの表面上にSPM液の液膜70が継続して保持される。
【0056】
図8Bに示すように、ウエハWの回転速度が下げられた後も、ヒータヘッド35のヒータ38,52によるウエハWの表面上のSPM液への加熱、ならびにヒータヘッド35の移動(スキャン)は継続される(ステップS4:SPM液膜加熱工程)。制御装置55は、アンプ54を制御して、赤外線ランプ38から赤外線を放射させるとともに、揺動駆動機構36および昇降駆動機構37を制御して、図8Bおよび図9に示すように、ヒータヘッド35を、第1の近接位置と、第2の近接位置との間で往復移動させる。赤外線ランプ38による赤外線の照射により、ウエハWの表面における底板部52の下面52Bに対向する領域に存在するSPM液が、約250℃程度の高温に加熱され、SPM液が急激に温められる。そして、ウエハWの表面における底板部52の下面52Bに対向する領域(赤外線ランプ38に対向する領域)が、ウエハWの回転中心を含む領域からウエハWの周縁を含む領域に至る範囲内を円弧帯状の軌跡を描きつつ移動する。これにより、ウエハWの表面の全域を加熱することができ、この場合、赤外線ランプ38直下のウエハWが温まり、ウエハWとの境界付近のSPM液が温められる。なお、第2近接位置は、ヒータヘッド35をその上方から見たときに、底板部52の下面52Bの一部、より好ましくは赤外線ランプ38の円環部43が、ウエハWの外周よりも径方向に張り出している位置である。
【0057】
また、前述のように、ヒータヘッド35が近接位置にあるときには、底板部52の下面52BとウエハWの表面との間が微小間隔(たとえば3mm)に保たれる。そのため、下面52BとウエハWの表面との間の雰囲気を、その周囲から遮断することができ、当該雰囲気を保温させることができる。これにより、ウエハWの表面における底板部52の下面52Bに対向する領域に存在するSPM液の温度降下を抑制することができるので、当該領域に存在するSPM液のより一層の高温化を図ることができる。
【0058】
ステップS4のSPM液膜加熱工程では、SPM液の液膜70がウエハWの表面との境界付近で温められる。この間に、ウエハWの表面上のレジストとSPM液との反応が進み、ウエハWの表面からのレジストの剥離が進行する。
その後、ウエハWの回転速度が下げられてから予め定める液膜加熱処理時間(5〜240秒間の範囲で、たとえば約14秒間)が経過すると、制御装置55は、硫酸バルブ18および過酸化水素水バルブ20を閉じるとともに、制御装置55は、アンプ54を制御して、赤外線ランプ38からの赤外線の放射を停止させる。また、制御装置55は、揺動駆動機構36および昇降駆動機構37を制御して、ヒータヘッド35をホームポジションに戻す。そして、制御装置55は、モータ6を制御して、ウエハWの回転速度を所定の液処理回転速度(300〜1500rpmの範囲で、たとえば1000rpm)に上げるとともに、DIWバルブ27を開いて、DIWノズル24の吐出口からウエハWの回転中心付近に向けてDIWを供給する(ステップS5:中間リンス処理工程)。ウエハWの表面に供給されたDIWは、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの表面上をウエハWの周縁に向けて流れる。これにより、ウエハWの表面に付着しているSPM液がDIWによって洗い流される。
【0059】
DIWの供給が所定の中間リンス時間にわたって続けられると、DIWバルブ27が閉じられて、ウエハWの表面へのDIWの供給が停止される。
ウエハWの回転速度を液処理回転速度に維持しつつ、制御装置55は、SC1バルブ31を開いて、SC1ノズル25からSC1をウエハWの表面に供給する(ステップS6)。また、制御装置55は、第2液アーム揺動機構29を制御して、第2液アーム28を所定角度範囲内で揺動させて、SC1ノズル25を、ウエハWの回転中心上と周縁部上との間で往復移動させる。これによって、SC1ノズル25からのSC1が導かれるウエハWの表面上の供給位置は、ウエハWの回転中心からウエハWの周縁部に至る範囲内を、ウエハWの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描きつつ往復移動する。これにより、ウエハWの表面の全域に、SC1がむらなく供給され、SC1の化学的能力により、ウエハWの表面に付着しているレジスト残渣およびパーティクルなどの異物を除去することができる。
【0060】
SC1の供給が所定のSC1供給時間にわたって続けられると、制御装置55は、SC1バルブ31を閉じるとともに、第2液アーム揺動機構29を制御して、SC1ノズル25をホームポジションに戻す。また、ウエハWの回転速度が液処理回転速度に維持された状態で、制御装置55は、DIWバルブ27を開いて、DIWノズル24の吐出口からウエハWの回転中心付近に向けてDIWを供給する(ステップS7:リンス処理工程)。ウエハWの表面に供給されたDIWは、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの表面上をウエハWの周縁に向けて流れる。これにより、ウエハWの表面に付着しているSC1がDIWによって洗い流される。
【0061】
DIWの供給が所定のリンス時間にわたって続けられると、DIWバルブ27が閉じられて、ウエハWの表面へのDIWの供給が停止される。
リンス処理の開始から所定時間が経過すると、制御装置55は、DIWバルブ27を閉じて、ウエハWの表面へのDIWの供給を停止する。その後、制御装置55は、モータ6を駆動して、ウエハWの回転速度を所定の高回転速度(たとえば1500〜2500rpm)に上げて、ウエハWに付着しているDIWを振り切って乾燥されるスピンドライ処理が行われる(ステップS8)。ステップS8のスピンドライ処理によって、ウエハWに付着しているDIWが除去される。なお、ステップS5の中間リンス工程およびステップS7のリンス工程において、リンス液として、DIWに限らず、炭酸水、電解イオン水、オゾン水、還元水(水素水)、磁気水などを採用することもできる。
【0062】
スピンドライ処理が予め定めるスピンドライ処理時間にわたって行われると、制御装置55は、モータ6を駆動して、ウエハ回転機構3の回転を停止させる。これにより、1枚のウエハWに対するレジスト除去処理が終了し、搬送ロボットによって、処理済みのウエハWが処理室2から搬出される(ステップS9)。
以上のように、この実施形態によれば、ウエハWの表面にSPM液が供給される。また、ウエハ回転機構3に保持されているウエハWの表面に、第1流量(たとえば0.9リットル/分)のSPM液を供給するとともに、そのウエハWを第1回転速度(たとえば60rpm)で回転させることにより、ウエハWの表面に当該表面を覆うSPM液の液膜70が形成される。その後、ウエハWの回転速度が第2回転速度(たとえば15rpm)に下げられることにより、ウエハWの表面上にSPM液の液膜70が継続して保持される。
【0063】
この液膜70の保持と並行して、ウエハWの表面にヒータヘッド35を近接配置しつつ、赤外線ランプ38の放射を開始することにより、ウエハWの表面における赤外線ランプ38に対向する領域に存在するSPM液が、赤外線ランプ38により加熱される。また、赤外線ランプ38による加熱と並行して、ヒータヘッド35をウエハWの表面に沿って移動させる。この場合、ウエハWの表面における赤外線38に対向する領域が、ウエハWの回転中心を含む領域からウエハWの周縁を含む領域に至る範囲内を円弧帯状の軌跡を描きつつ移動する。そのため、ウエハWの表面のほぼ全域を加熱することができる。これにより、ウエハWの表面に形成されたSPM液の液膜70のウエハWとの境界部分が温められるその結果、ウエハWの表面の全域からレジストを良好かつ均一に除去することができる。
【0064】
また、ウエハWの表面上のSPM液ウエハWとの境界付近を温めることができるので、硬化層を有するレジストであっても、アッシングすることなく、ウエハWの表面から除去することができる。レジストのアッシングが不要であるから、アッシングによるウエハWの表面のダメージの問題を回避することができる。
また、ウエハWの表面上のSPM液のウエハWとの境界付近を温めることができるので、レジストの剥離を促進することができ、レジスト除去のための処理時間を短縮することができる。
【0065】
仮に、ステップS3のSPM液膜形成工程や、ステップS4のSPM液膜加熱工程を用いずに、ウエハW上のレジスト剥離を行う場合、200℃以上のSPM液を、2リットル/分の流量で、60秒間供給し続ける必要がある。このとき、1枚のウエハWをレジスト除去処理するために必要なSPM液の消費量は0.38リットルである。しかもこの場合には、200℃以上のSPM液を生成するために、硫酸供給部(図示しない)から混合部14に供給される硫酸が、高温(約180〜195℃)に保たれている必要がある。したがって、硫酸の消費量が大きくなるばかりか、その硫酸を昇温させるために要する熱量も膨大になるおそれがある。
【0066】
これに対し、この実施形態では、ステップS4のSPM液膜加熱工程においてウエハWへのSPM液の供給を停止するので、ステップS3のSPM液膜形成工程およびステップS4のSPM液膜加熱工程におけるSPM液の消費量は、0.075リットルと低減されている。これにより、硫酸の消費量を低減することができる。
また、硫酸の消費量を低減できるので、硫酸供給部(図示しない)から供給される硫酸の温度が低温(約80℃)であるだけでなく、その硫酸の消費量を低減することもできるので、高温(約180〜195℃)の硫酸を大量に消費する場合と比較して、硫酸の昇温のために要する熱量を大幅に低減することができる。以上により、1枚のウエハWの処理に要するコストを低減することができる。
【0067】
また、赤外線ランプ38やランプハウジング40を有するヒータヘッド35が、剥離液ノズル4とは別に設けられている。たとえば、赤外線ランプ38やランプハウジング40と剥離液ノズル4とが共通の保持ヘッドに含まれていると、赤外線ランプ38や底板部52による加熱の対象は、剥離液ノズル4からウエハWの表面に供給された直後のSPM液に限られることになる。
【0068】
これに対して、この実施形態では、ヒータヘッド35が剥離液ノズル4とは別に設けられているので、ウエハWの表面に供給されてから時間が経過し、温度降下しているSPM液を加熱することができ、当該SPM液を再び昇温させることができる。これにより、ウエハWの表面上のSPM液を200℃以上の高温に良好に保つことができる。
図10は、レジスト除去処理の第2処理例の主要な工程における制御装置55による制御内容を説明するためのタイムチャートである。図11は、レジスト除去処理の第3処理例の主要な工程における制御装置55による制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【0069】
処理例2では処理例1と同様、SPM液膜形成工程(図6に示すステップS3)、SPM液膜加熱工程(図6に示すステップS4)、中間リンス工程(図6に示すステップS5)、SC1供給工程(図6に示すステップS6)およびリンス工程(図6に示すステップS7)およびスピンドライ処理(図6に示すステップS8)の各処理が、この順に実行される。
【0070】
処理例2および処理例3が処理例1と相違する点は、ステップS4のSPM液膜加熱工程において、ウエハWの表面に、SPM液を、その単位時間当たりの流量が、第1流量よりも小さくなるように供給している点である。
具体的には、処理例2では、制御装置55は、ステップS4のSPM液膜加熱工程の開始時において、第1流量のSPM液をウエハ回転機構3に保持されているウエハWに供給するとともに、その後、流量調節バルブ19,21を制御して、ステップS4のSPM液膜加熱工程の進行に伴って、ウエハWに供給するSPM液の流量を徐々に(時間の経過に比例して)減少させ、SPM液膜加熱工程の開始から所定時間(たとえば5秒間)が経過した後、ウエハWに対するSPM液の供給を停止させる。
【0071】
また、処理例3では、制御装置55は、ステップS4のSPM液膜加熱工程の開始時において、第1流量のSPM液を、ウエハ回転機構3に保持されているウエハWに間欠的に供給する。より具体的には、SPM液の間欠供給は、たとえば2秒間のSPM液の供給と、たとえば5秒間のSPM液の供給停止とを交互に繰り返している。
処理例2および処理例3によれば、SPM液の液膜70に対する加熱の際に、当該液膜70に、新たなSPM液が加えられる。これにより、ウエハWの表面上に、SPM液の液膜70が安定して保持される。また、ウエハWの表面に対するSPM液の単位時間当たりの供給流量が第1流量よりも少ないので、SPM液の消費量の低減を図ることができる。
【0072】
なお、処理例2では、ステップS4のSPM液膜加熱工程の途中に、ウエハWに対するSPM液の供給を停止させるものとしたが、SPM液の供給流量を徐々に(時間の経過に比例して)減少させた後に、ウエハWに対するSPM液の供給流量を、第1流量よりも少ない第2流量とし、その後第2流量で、SPM液の供給を続行させるようにすることもできる。
【0073】
また、処理例3では、SPM液の間欠吐出の際の流量を第1流量としたが、この間欠吐出のときのSPM液の供給流量を、第1流量よりも少ない第2流量とすることもできる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、赤外線ランプ38として、1つの円形(環状)ランプを備えるもの例に挙げたが、これに限られずに、同心円状の複数の円形ランプを備えるものとすることもできる。また、赤外線ランプ38として、水平面に沿って互いに平行に配置された複数本の直線状ランプを備えることもできる。
【0074】
また、ランプハウジング40として円筒状のものを採用したが、角筒状(たとえば四角筒状)のものを採用することもできる。この場合、底板部52の形状が矩形板状になる。
また、ランプハウジング40の底板部52とは別に、ウエハWの表面に対向する対向面を有するたとえば円板状や矩形板状の対向板(対向部材)を設けるようにしてもよい。この場合には、対向板の材料として、石英を採用することができる。
【0075】
また、ステップS3のSPM液膜形成工程において、ヒータヘッド35の赤外線ランプ38によるウエハWの表面上のSPM液への加熱を行わないようにすることもできる。つまり、ステップS4のSPM液膜加熱工程において、赤外線ランプ38によるSPM液への加熱が初めて行われるようにしてもよい。
また、剥離液ノズル4からのSPM液の供給中において、剥離液ノズル4を往復移動させてもよい。。また、剥離液ノズル4は必ずしも移動ノズルである必要はなく、剥離液ノズル4として、その吐出口をウエハWの回転中心付近に向けて固定的に配置された固定ノズルを採用することもできる。
【0076】
また、剥離液ノズル4は、ストレートノズルではなく、斜めノズルを使用してもよい。
また、本発明を、燐酸などの高温のエッチング液を用いて基板の表面の窒化膜を選択的にエッチングする基板処理装置に適用することもできる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 基板処理装置
3 ウエハ回転機構(基板保持手段)
4 剥離液ノズル(薬液ノズル)
6 モータ(回転手段)
13 剥離液供給機構(薬液供給手段)
35 ヒータヘッド
36 揺動駆動機構(ヒータヘッド移動手段)
37 昇降駆動機構(ヒータヘッド移動手段)
38 赤外線ランプ
39 開口部
40 ランプハウジング
41 蓋
52 底板部(対向部材)
52B 下面(対向面)
70 SPM液の液膜(薬液の液膜)
W ウエハ(基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11