特許第6028945号(P6028945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6028945六方晶窒化タングステンの合成方法及び六方晶窒化タングステン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028945
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】六方晶窒化タングステンの合成方法及び六方晶窒化タングステン
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/06 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   C01B21/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-540870(P2014-540870)
(86)(22)【出願日】2013年10月9日
(86)【国際出願番号】JP2013077492
(87)【国際公開番号】WO2014057982
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-226541(P2012-226541)
(32)【優先日】2012年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 史朗
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 斉
(72)【発明者】
【氏名】谷口 尚
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−018688(JP,A)
【文献】 特開2005−330540(JP,A)
【文献】 Shanmin Wang et al.,Synthesis, Crystal Structure, and Elastic Properties of Novel Tungsten Nitrides,Chemistry of Materials,米国,American Chemical Society,2012年 7月25日,Volume 24, Issue 15,Pages 3023-3028,DOI:10.1021/cm301516w
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06
C01G 41/00
B23B 27/14
B23P 15/28
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JCHEM(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及び/又はアルカリ土類金属窒化物とを含んでなる原料粉末を、前記ハロゲン化タングステンと前記アルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を3:2(mol)〜3:1(mol)の割合の範囲内で混合し、タングステン又はモリブデンを材料とするカプセル内に充填し、1GPa以上15GPa未満の圧力を印加して、1400℃以上1700℃以下の温度で加熱することによって、六方晶窒化タングステンを合成することを特徴とする六方晶窒化タングステンの合成方法。
【請求項2】
前記六方晶窒化タングステンがδ−WNであることを特徴とする請求項1に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法
【請求項3】
ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及び/又はアルカリ土類金属窒化物とを含んでなる原料粉末を、前記ハロゲン化タングステンと前記アルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を1:6(mol)の割合で混合し、タングステン又はモリブデンを材料とするカプセル内に充填し、1GPa以上15GPa未満の圧力を印加して、1400℃以上1700℃以下の温度で加熱することによって、六方晶窒化タングステンを合成することを特徴とする六方晶窒化タングステンの合成方法
【請求項4】
前記六方晶窒化タングステンがh−Wであることを特徴とする請求項3に記載の窒化タングステンの合成方法
【請求項5】
前記ハロゲン化タングステンが塩化タングステン(WCl)であり、前記アルカリ金属窒化物がアジ化ナトリウム(NaN)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法
【請求項6】
粒子径が1μm以上50μm以下であることを特徴とする六方晶窒化タングステン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶窒化タングステンの合成方法及び六方晶窒化タングステンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在に至るまで、研削及び切削工具(例えば、ドリル、エンドミル、ホブ、フライス、旋盤、ピニオンカッタなど)等に使用する超硬質材料として、超硬合金が広く用いられている。超硬合金とは、硬質の金属炭化物の粉末を焼結して作られる合金である。
【0003】
超硬合金の一つとして、炭化タングステンがある。炭化タングステンは、高硬度という特性に加え、耐熱性及び化学的安定性に優れている。そのため、炭化タングステンは、長年超硬工具の代表的材料であった。なお、超硬工具とは、超硬合金を利用した工具をいう。超硬工具は、これまで、自動車のエンジン部品、トランスミッション部品、ステアリング部品などの金属加工に多用されてきた。
【0004】
しかし、近年、航空機機体等に炭素繊維複合材などが使用されるようになると、炭素繊維複合材の中には、従来の材料に比べて硬度が高い炭素繊維複合材もあり、これに炭化タングステン製の工具を用いた場合には、工具の摩耗が激しく、崩壊する場合があった。そこで、炭化タングステンに代わる、より超硬質材料が探索されるようになった。
【0005】
ところで、六方晶の窒化タングステンは、炭化タングステンに匹敵するか、あるいはそれ以上の高硬度材料であることが、理論計算による研究から予測されている(非特許文献1)。そのため、次世代超硬材料として期待されている。
【0006】
六方晶窒化タングステンには、h−W、δ−WNなどの様々な構造がある。例えば、h−WのKは、331GPaであり、δ−WNのKは、396GPaであり、両構造とも非常に硬い(非特許文献2)。なお、Kは体積弾性率である。
ごく最近、h−W構造の六方晶窒化タングステンの合成に成功したことが論文で報告された(非特許文献2)。
【0007】
しかし、この論文では、h−W構造の六方晶窒化タングステンは、副合成物として他の結晶相に混じって少量得られたに過ぎなかった。つまり、前記論文に記載の方法は、h−W構造の六方晶窒化タングステンの合成方法として実用化にほど遠い方法であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.A.Wriedt、The N−W (Nitrogen−Tungsten) System、Bulletin of Alloy Phase Diagrams Vol.10 No.4 1989,pp.358−367
【非特許文献2】Shanmin Wang,Xiaohui Yu,Zhijun Lin,Ruifeng Zhang,Duanwei He,Jiaqian Qin,Jinlong Zhu,Jiantao Han,Lin Wang,Ho−kwang Mao,Jianzhong Zhang,and Yusheng Zhao,Synthesis,Crystal Structure,and Elastic Properties of Novel Tungsten Nitrides、Chem.Mater.2012,24,pp.3023−3028
【非特許文献3】Fumio Kawamura,Hitoshi Yusa,Takashi Taniguchi,Synthesis of rhenium nitride crystals with MoS2 structure,APPLIED PHYSICS LETTERS 100,251910(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成する六方晶窒化タングステンの合成方法及び粒子径が大きい六方晶窒化タングステンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、長期間、超硬質材料の研究開発を行っており、昨年、窒化レニウムの合成に成功した(非特許文献3)。その成果をもとに検討を進め、アルカリ金属窒化物をハロゲン化遷移金属と反応させることにより、窒化遷移金属を合成できることに想到し、様々な材料への応用検討を進めた。そして、前記窒化レニウムの合成方法を応用することにより、主合成物として六方晶窒化タングステンを合成することが可能な方法を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の構成を有する。
【0011】
(1) ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及び/又はアルカリ土類金属窒化物とを含んでなる原料粉末を加熱して、六方晶窒化タングステンを合成することを特徴とする六方晶窒化タングステンの合成方法。
(2) 加熱温度が1400℃以上1700℃以下であることを特徴とする(1)に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(3) 加熱の際、1GPa以上で圧力を印加することを特徴とする(1)又は(2)に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(4) 印加圧力が1GPa以上、加熱温度が1400℃以上1700℃以下の高圧高温状態を1時間以上保持することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(5) 前記原料粉末を、タングステン又はモリブデンを材料とするカプセル内に充填することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(6) 前記原料粉末を、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を3:2(mol)〜3:1(mol)の割合の範囲内で調整することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(7) 前記六方晶窒化タングステンがδ−WNであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(8) 前記原料粉末を、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を1:6(mol)の割合で調整することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(9) 前記六方晶窒化タングステンがh−Wであることを特徴とする(8)に記載の窒化タングステンの合成方法。
(10) ハロゲン化タングステンが塩化タングステン(WCl)であり、アルカリ金属窒化物がアジ化ナトリウム(NaN)であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(11) 粒子径が1μm以上50μm以下であることを特徴とする六方晶窒化タングステン。
【発明の効果】
【0012】
本発明の六方晶窒化タングステンの合成方法は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及び/又はアルカリ土類金属窒化物とを含んでなる原料粉末を加熱して、六方晶窒化タングステンを合成する構成なので、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。合成した六方晶窒化タングステンは、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料として用いることができる。これにより、超硬工具の加工精度を向上させたり、超硬工具を用いて行う部品の製造コストを低減させたりすることができる。
【0013】
本発明の六方晶窒化タングステンは、粒子径を1μm以上50μm以下にすることが可能である。特に、粒子径を1μm以上50μm以下とすることにより、工具として有用に利用できる。具体的には、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料として用いることができ、超硬工具の加工精度を向上させたり、超硬工具を用いて行う部品の製造コストを低減させたりすることができる。
また、本発明の六方晶窒化タングステンは、その合成条件を変えることによって粒子サイズを大幅に変化させることが可能であり、1mmの粒子径を有するものを得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの一例を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
図2】本発明の実施形態である窒化タングステンの合成方法に用いる高圧セルの一例を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
図3】本発明の実施形態である窒化タングステンの合成方法に用いる加熱加圧装置の一例を示す断面図である。
図4】本実施例で用いた高圧セルの構成図である。
図5】実施例1−1〜1−4試料及び比較例1−1試料のXRDプロファイルである。
図6】実施例1−5〜1−8試料及び比較例1−2〜1−4試料のXRDプロファイルである。
図7】比較例1−5〜1−7試料のXRDプロファイルである。
図8】実施例1−1、実施例1−9試料及び実施例1−10試料のXRDプロファイルである。
図9】実施例1−4試料の電子顕微鏡観察結果の一例を示す写真である。
図10】実施例1−4試料の微小X線回折測定結果を示すプロファイルであって、(a)は実測値であり、(b)は六方晶WNの理論値である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法及び六方晶窒化タングステンについて説明する。
【0016】
<六方晶窒化タングステン>
図1は、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの一例を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンは、平板状六角形状である。互いに平行で、ほぼ同じ大きさの六角形状の面を2面有しており、前記2つの面の間に、台形状の面が12面形成されている。先の2つの面の間で両面から等間隔に位置する六角形状の仮想面を基準として、これら12面は上側の6面と下側の6面がそれぞれ面対称とされている。前記仮想面の大きさは、前記平面視略六角形状の2面よりも大きく、前記仮想面から前記六角形状の面へ向けて縮径されている。これはあくまでも一例であって、これに準ずる六方晶結晶の特徴を有していることを特徴としている。
【0017】
本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの粒子径Dは1μm以上50μm以下である。これにより、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料として用いることができ、超硬工具の加工精度を向上させたり、超硬工具を用いて行う部品の製造コストを低減させたりすることができる。
粒径は、小さい方が工具として有用な場合も多いので、50μm以下とすることが好ましい。また、取り扱いの容易さを考慮すると、1μm以上とすることが好ましい。
粒子径Dは10μm以上30μm以下とすることがより好ましく、15μm以上25μmとすることがさらに好ましい。
但し、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンは、その合成条件を変えることによって粒子サイズを大幅に変化させることも可能であり、粒子径Dが1mmのものを得ることも可能である。
なお、結晶成長の構成上、厚さTは、粒子径Dより短い。
【0018】
<六方晶窒化タングステンの合成方法>
本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法では、原料粉末を加熱して、六方晶窒化タングステンを合成するが、この原料粉末としては、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物若しくはアルカリ土類金属窒化物、又はハロゲン化タングステンとそれらの混合物(即ち、アルカリ金属窒化物及びアルカリ土類金属窒化物の混合物)を用いる。
前記原料粉末中には、その他に、金属タングステン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、酸化タングステン、若しくはNaCl等の塩、又はこれら(即ち、金属タングステン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、酸化タングステン、若しくはNaCl等の塩)の少なくとも二種以上を含む混合物を含むこともある。
本発明で用いられるハロゲン化タングステンとしては、フッ化タングステン(WF)、臭化タングステン(WBr)、ヨウ化タングステン(WI)、塩化タングステン(WCl)があり、特に塩化タングステン(WCl)が好ましい。
また、本発明で用いられるアルカリ金属窒化物としては、アジ化ナトリウム(NaN)、窒化リチウム(LiN)が好ましく、本発明で用いられるアルカリ土類金属窒化物としては、窒化カルシウム(Ca)、窒化マグネシウム(Mg)、窒化ストロンチウム(Sr)、窒化バリウム(Ba)が好ましい。
このように、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法に用いられる原料粉末は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及び/又はアルカリ土類金属窒化物とを含んでなる。
【0019】
図2は、本発明の実施形態である窒化タングステンの合成方法に用いる高圧セルの一例を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
高圧セル1は、円筒状のパイロフィライト11と、パイロフィライト11の筒内に、筒内壁面上部側及び下部側に接するように配置された2つのスチールリング12A、12Bと、スチールリング12A、12Bの中心軸側に配置された円筒状のカーボンヒーター15と、カーボンヒーター15の内部に配置されたカプセル16と、カプセル16の内部に充填された原料粉末17と、を有して概略構成されている。
パイロフィライト11とカーボンヒーター15の間の隙間には充填用粉末13が充填されており、カーボンヒーター15とカプセル16の間の隙間にも充填用粉末14が充填されている。
以下、図2に示す高圧セル1を用いて、高圧セルの作製工程の一例を説明する。
【0020】
まず、塩化タングステン(WCl)粉末とアジ化ナトリウム(NaN)粉末を3:2(mol)の割合となるように混合して、原料粉末17を調製する。
次に、この原料粉末17を、一端側を円板状の蓋で閉じたW製の円筒状のカプセル16内に充填してから、他端側を円板状の蓋で密封する。
【0021】
次に、一端側を円板状の蓋で閉じた円筒状のカーボンヒーター15の内底部に充填用粉末14を敷き詰めてから、この密封したカプセル16を円筒状のカーボンヒーター15内に同軸となるように配置し、カプセル16とカーボンヒーター15の内壁面との隙間に充填用粉末14を充填し、更に、カプセル16の上部に充填用粉末14を敷き詰めてから、他端側を円板状の蓋で密封する。
本願で使用する充填用粉末としては、例えば、NaCl+10wt%ZrOを挙げることができる。
【0022】
次に、この密封した円筒状のカーボンヒーター15を、筒状のパイロフィライト11内に同軸となるように配置してから、カーボンヒーター15とパイロフィライト11の内壁面との隙間に充填用粉末13を充填する。
【0023】
次に、パイロフィライト11の内壁面上部側の充填用粉末13に埋め込むようにスチールリング12Aを押し込むとともに、パイロフィライト11の内壁面下部側の充填用粉末13に埋め込むように別のスチールリング12Bを押し込む。
以上のようにして、図4に示す高圧セル1を作製する。
【0024】
図3は、本発明の実施形態である窒化タングステンの合成方法に用いる加熱加圧装置の一例を示す断面図である。
以下、図3に示す加熱加圧装置21を用いて、説明する。
まず、加熱加圧装置21のシリンダー27A、27Bの間であって、アンビル25A、25Bの間の所定の位置に、薄い金属板からなる導電体26A、26Bを接触させて、高圧セル1を配置する。
次に、これらの部材と高圧セル1との間に、パイロフィライト28を充填する。
【0025】
次に、アンビル25A、25B及びシリンダー27A、27Bを高圧セル1側に移動して、高圧セル1を加圧する。
印加圧力は1GPa以上が好ましく、3GPa以上にすることがより好ましく、5GPa以上とすることがさらに好ましい。加圧により、試薬同士の密着性を高め、反応を進めることができ、六方晶窒化タングステンを容易に合成できる。また、15GPa未満にすることが、装置の部材の寿命等を考慮すると、好ましい。
【0026】
次に、1GPa以上に加圧した状態で、1400℃に加熱する。加熱温度は1400℃以上1700℃以下であることが好ましい。これにより、六方晶窒化タングステンを容易に合成できる。1400℃以上では、六方晶窒化タングステンを容易に合成でき、また、1700℃以下では、収率の低下を抑制できる。
【0027】
加熱温度1400℃、印加圧力1GPa以上とした状態で、温度と圧力を所定時間保持する。
この高温高圧状態を1時間以上保持することが好ましい。これにより、原料粉末を効率よく高温高圧で反応させることができ、収率を高めることができる。1時間以上保持すると、未反応原料の残留が抑制できる。
【0028】
この高温高圧での反応で、アルカリ金属窒化物(アルカリ金属をAと表記する。)を用いた場合には、以下の反応式(1)、(2)で表される複分解反応が進行する。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
式(1)、(2)において、a、b、cの組み合わせは(a、b、c)=(1、3、1)、(3、1、1)又は(3、1、2)である。また、W:タングステン、N:窒素、X:ハロゲンである。
【0032】
δ−WN又はh−Wの六方晶窒化タングステンが主生成物として合成される。副生成物として、塩(AX)が合成され、窒素(N)ガス及び/又はハロゲン(X)ガスが排出される。なお、「主生成物として合成」とは、「回収される生成物中で最も重量比の多い化合物として合成」ということである。
【0033】
具体的には、ハロゲン化タングステンが塩化タングステン(WCl)であり、アルカリ金属窒化物がアジ化ナトリウム(NaN)である場合、高温高圧での反応では、以下の反応式(3)、(4)で表される複分解反応が進行する。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
δ−WN又はh−Wの六方晶窒化タングステンが主生成物として合成される。副生成物として、塩(NaCl)が合成され、窒素(N)ガス及び塩素(Cl)ガスが排出される。
【0037】
アルカリ金属窒化物としてLiNを用いてもよい。この場合、高温高圧での反応では、以下の反応式(5)、(6)で表される複分解反応が進行する。
【0038】
【化5】
【0039】
【化6】
【0040】
δ−WN又はh−Wの六方晶窒化タングステンが主生成物として合成される。副生成物として、塩(LiCl)が合成され、窒素(N)ガス又は塩素(Cl)ガスが排出される。
【0041】
更に、この高温高圧での反応で、アルカリ土類金属窒化物(アルカリ土類金属をBと表記する。)を用いた場合には、以下の反応式(7)、(8)で表される複分解反応が進行する。
【0042】
【化7】
【0043】
【化8】
【0044】
式(7)、(8)において、W:タングステン、N:窒素、X:ハロゲンである。
δ−WN又はh−Wの六方晶窒化タングステンが主生成物として合成される。副生成物として、塩(BX)が合成され、窒素(N)ガスが排出される。
具体的には、アルカリ土類金属窒化物として、例えば、Caを用いることができる。この場合、高温高圧での反応では、以下の反応式(9)、(10)で表される複分解反応が進行する。
【0045】
【化9】
【0046】
【化10】
【0047】
δ−WN又はh−Wの六方晶窒化タングステンが主生成物として合成される。副生成物として、塩(CaCl)が合成され、窒素(N)ガスが排出される。
なお、上述した高温高圧での反応では、アルカリ金属窒化物とアルカリ土類金属窒化物を混合して用いてもよい。例えば、窒素源として用いられているLiNとCaを混合して用いてもよい。
【0048】
原料粉末はカプセル内に充填することが好ましい。カプセルの材質としては、ハロゲンと反応し易いものが好ましい。具体的には、タングステン又はモリブデンがその材料として挙げられる。カプセルの材料としてタングステン又はモリブデンを用いる場合、カプセルは、その全成分がタングステン又はモリブデンからなるものであってもよいし、カプセルとしてハロゲンと反応し易いものであれば、タングステン又はモリブデン以外にその他の成分を含んでいてもよい。よって、本願において「タングステン又はモリブデンを材料とするカプセル」とは、カプセルがタングステン又はモリブデンのみからなる場合だけでなく、例えば、タングステン又はモリブデンが主成分(全成分の50%以上であって100%未満)で、その他の成分が含まれている場合等も含むことを意味する。
タングステン又はモリブデンをカプセルの材料として用いる前記カプセル内に原料粉末を充填すれば、その原料粉末のハロゲン化タングステンとして、例えば、塩化タングステンを用いた場合でも、六方晶窒化タングステンを合成できる。一方、原料粉末のハロゲン化タングステンとして塩化タングステンを用いて、プラチナ製のカプセル内に充填すると、六方晶窒化タングステンを合成することは難しい。原料粉末のハロゲン化タングステンとして塩化タングステンを用いた場合、上述の通り、塩素が発生するが、タングステン又はモリブデンは、塩素と反応し易い材料であるか、又は/及び、高温高圧状態で破損し易い材料であるのに対し、プラチナは塩素と反応しにくく、かつ、高温高圧状態でも安定で破損しにくい材料であるためであると推察している。
高温高圧での反応では、原料粉末のハロゲン化タングステンとして塩化タングステンを用いた場合、六方晶窒化タングステンとともに塩素ガスが生成される。この塩素ガスがカプセル内に溜まると、高温高圧での反応の進行を阻害する。塩素と反応し易い材料でカプセルを構成すれば、高温高圧での反応とともに発生する塩素濃度を低下させることができ、高温高圧での反応を速やかに進行させることができる。また、カプセルを高温高圧状態で破損し易い材料で構成すれば、高温高圧状態にした時にカプセルに亀裂等を生じさせることができ、この亀裂から塩素ガスをカプセル外に排出でき、高温高圧での反応を速やかに進行させることができる。
【0049】
原料粉末を、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を3:2(mol)〜3:1(mol)の割合の範囲内で調整することが好ましい。この場合、δ−WN(六方晶窒化タングステン)が主生成物として合成される。また、前記原料粉末は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及びアルカリ土類金属窒化物の混合物を3:2(mol)〜3:1(mol)の割合の範囲内で調整することも可能である。
【0050】
前記原料粉末を、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を1:6(mol)の割合で調整し、前記原料粉末を、タングステンを材料とするカプセル内に充填してもよい。この場合、h−W(六方晶窒化タングステン、PhaseIV)が主生成物として合成される。また、前記原料粉末は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及びアルカリ土類金属窒化物の混合物を1:6(mol)の割合で調整することも可能である。
【0051】
次に、室温常圧に戻し、カプセルの内部から反応生成物を取り出す。
次に、反応生成物を水で洗浄する。これにより、反応生成物に付着したNaClを溶解除去できる。
次に、反応生成物を溶媒(蒸留水)に分散してから、遠心分離器で沈降させて、沈降生成物を回収する。
【0052】
以上の工程により、沈降生成物の主生成物として、δ−WN又はh−Wの六方晶窒化タングステンを回収できる。
【0053】
本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及び/又はアルカリ土類金属窒化物とを含んでなる原料粉末を加熱して、六方晶窒化タングステンを合成する構成なので、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。合成した六方晶窒化タングステンは、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料として用いることができる。これにより、超硬工具の加工精度を向上させ、超硬工具を用いて行う部品の製造コストを低減させることができる。
【0054】
本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、加熱温度が1400℃以上1700℃以下である構成であり、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0055】
本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、加熱の際、1GPa以上で圧力を印加する構成であり、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0056】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、印加圧力が1GPa以上、加熱温度が1400℃以上1700℃以下の高圧高温状態を1時間以上保持する構成であり、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0057】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、前記原料粉末をタングステン又はモリブデンを材料とするカプセル内に充填する構成であり、ハロゲンガスをカプセル外に排出でき、高温高圧での反応を速やかに進め、収率よく、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0058】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、前記原料粉末を、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を3:2(mol)〜3:1(mol)の割合の範囲内で調整する構成であり、δ−WN構造の六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。また、前記原料粉末は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及びアルカリ土類金属窒化物の混合物を3:2(mol)〜3:1(mol)の割合の範囲内で調整することも可能である。
【0059】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、前記六方晶窒化タングステンがδ−WNである構成であり、δ−WN構造の六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0060】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、前記原料粉末を、ハロゲン化タングステンとアルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物を1:6(mol)の割合で調整する構成であり、h−W構造の六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。また、前記原料粉末は、ハロゲン化タングステンと、アルカリ金属窒化物及びアルカリ土類金属窒化物の混合物を1:6(mol)の割合で調整することも可能である。
【0061】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、前記六方晶窒化タングステンがh−Wである構成であり、h−W構造の六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0062】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、ハロゲン化タングステンが塩化タングステン(WCl)であり、アルカリ金属窒化物がアジ化ナトリウム(NaN)である構成であり、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
【0063】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンは、粒子径が1μm以上50μm以下である構成であり、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料として用いることができ、超硬工具の加工精度を向上させ、超硬工具を用いて行う部品の製造コストを低減させることができる。
【0064】
本発明の一実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法及び六方晶窒化タングステンは、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。
本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
(試料合成)
(実施例1−1)
図4は、本実施例で用いた高圧セルの構成を示す図である。
高圧セルは、円筒状のパイロフィライトと、前記パイロフィライトの筒内に、筒内壁面上部側及び下部側に接するように配置された2つのスチールリングと、前記スチールリングの中心軸側に配置された円筒状のカーボンヒーターと、前記カーボンヒーターの内部に配置されたカプセルと、前記カプセルの内部に充填された原料粉末(Starting materialと記載)と、を有する。
パイロフィライトとカーボンヒーターの間の隙間及びカーボンヒーターとカプセルの間の隙間には、充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO)が充填されている。
以下、図4に示した高圧セルを用いて、試料合成について説明する。
【0066】
まず、塩化タングステン(WCl)粉末とアジ化ナトリウム(NaN)粉末を3:2(mol)の割合となるように混合して、原料粉末を調製した。
次に、この原料粉末を、一端側を円板状の蓋で閉じたW製の円筒状のカプセル内に充填してから、他端側を円板状の蓋で密封した。
【0067】
次に、一端側を円板状の蓋で閉じた円筒状のカーボンヒーターの内底部に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO)を敷き詰めてから、この密封したW製のカプセルを円筒状のカーボンヒーター内に同軸となるように配置し、カプセルとカーボンヒーターの内壁面との隙間に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO)を充填し、更に、カプセルの上部に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO)を敷き詰めてから、他端側を円板状の蓋で密封した。
【0068】
次に、この密封した円筒状のカーボンヒーターを、筒状のパイロフィライト内に同軸となるように配置してから、カーボンヒーターとパイロフィライトの内壁面との隙間に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO)を充填した。
【0069】
次に、パイロフィライトの内壁面上部側の充填用粉末にスチールリングを押し込むとともに、パイロフィライトの内壁面下部側の充填用粉末に別のスチールリングを押し込んだ。
以上のようにして、図4に示す高圧セルを作製した。
【0070】
次に、高圧セルを、加熱加圧装置(ベルト装置)の所定の位置に配置した。
次に、高圧セルを、7.7GPa(7万7千気圧)に加圧した。
次に、加圧した状態で、1400℃に加熱した。
次に、1400℃の温度とし、7.7GPaに加圧した状態で、温度と圧力を1時間保持した。これにより、原料粉末を高温高圧で反応させた。
【0071】
次に、室温常圧に戻し、カプセルの内部から反応生成物を取り出した。
次に、反応生成物を水で洗浄した。これにより、反応生成物に付着したNaClを溶解除去した。
次に、反応生成物を溶媒(蒸留水)に分散してから、遠心分離器で沈降させて、沈降生成物(実施例1−1試料)を回収した。
【0072】
(実施例1−2)
加熱温度を1500℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−2試料を合成した。
【0073】
(実施例1−3)
加熱温度を1600℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−3試料を合成した。
【0074】
(実施例1−4)
加熱温度を1700℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−4試料を合成した。
【0075】
(比較例1−1)
加熱温度を1300℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−1試料を合成した。
【0076】
(実施例1−5)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1400℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−5試料を合成した。
【0077】
(実施例1−6)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1500℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−6試料を合成した。
【0078】
(実施例1−7)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1600℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−7試料を合成した。
【0079】
(実施例1−8)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1700℃とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−8試料を合成した。
【0080】
(比較例1−2)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1100℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−2試料を合成した。
【0081】
(比較例1−3)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1200℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−3試料を合成した。
【0082】
(比較例1−4)
Mo製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1300℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−4試料を合成した。
【0083】
(比較例1−5)
Pt製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1100℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−5試料を合成した。
【0084】
(比較例1−6)
Pt製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1400℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−6試料を合成した。
【0085】
(比較例1−7)
Pt製の円筒状のカプセルを用い、加熱温度を1700℃とした他は実施例1−1と同様にして、比較例1−7試料を合成した。
【0086】
(実施例1−9)
塩化タングステン(WCl)粉末とアジ化ナトリウム(NaN)粉末を3:1(mol)の割合とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−9試料を合成した。
【0087】
(実施例1−10)
塩化タングステン(WCl)粉末とアジ化ナトリウム(NaN)粉末を1:6(mol)の割合とした他は実施例1−1と同様にして、実施例1−10試料を合成した。
【0088】
(試料分析)
まず、実施例1−1〜1−10及び比較例1−1〜1−7について、XRD測定を行った。
図5〜8は、その結果を示すXRDプロファイルである。測定に使用した装置は、RIGAKU RINT2200Vである。
図5は、実施例1−1〜1−4試料及び比較例1−1試料のXRDプロファイルである。W製カプセルを用いて合成した試料の加熱温度依存性を示すものである。
太い実線は六方晶WNのピーク位置を示し、細い実線はPhaseIIのピーク位置を示し、点線はPhaseIのピーク位置を示している。
図5に示すように、加熱温度が1400℃以上で六方晶窒化タングステンの合成が確認された。
加熱温度を上昇させるほど、六方晶窒化タングステンの収率が向上した。
加熱温度1700℃では、ほぼ単相の六方晶窒化タングステンが合成された。
【0089】
図6は、実施例1−5〜1−8試料及び比較例1−2〜1−4試料のXRDプロファイルである。Mo製カプセルを用いて合成した試料の加熱温度依存性を示すものである。
太い実線は六方晶WNのピーク位置を示し、細い実線はPhaseIIのピーク位置を示し、点線はPhaseIのピーク位置を示している。
図6に示すように、加熱温度が1400℃以上で六方晶窒化タングステンの合成が確認された。
加熱温度を上昇させるほど、六方晶窒化タングステンの収率が向上した。
加熱温度1700℃では、ほぼ単相の六方晶窒化タングステンが合成された。
一方、加熱温度1300℃では、PhaseIの六方晶窒化タングステンしか合成されなかった。また、加熱温度1200℃以下では、アモルファスであった。
【0090】
図7は、比較例1−5〜1−7試料のXRDプロファイルである。Pt製カプセルを用いて合成した試料の加熱温度依存性を示すものである。
図7に示すように、全ての温度領域において六方晶窒化タングステンが合成されず、別の相(PhaseV)が合成されていた。
これは、Ptカプセルは密閉性が高く、また、塩素との反応性が低いので、高温高圧での反応において副生成物として排出される塩素ガス(Cl)をカプセル内部に残留させ、その塩素ガス(Cl)が合成を阻害したと考えた。
上述の結果から、塩化タングステン(WCl)粉末とアジ化ナトリウム(NaN)粉末を原料粉末として調製した場合、塩素ガスと反応して塩素濃度を低下させるカプセル材質としたり、カプセルに高温で破損することで速やかに塩素ガスを排出させる機能を持たせたりすることにより、六方晶窒化タングステンが合成されると考えられる。
【0091】
図8は、実施例1−1、実施例1−9試料及び実施例1−10試料のXRDプロファイルである。原料粉末の組成依存性を示すものである。
太い実線は六方晶WNのピーク位置を示し、細い実線はPhaseIVのピーク位置を示し、点線はPhaseIのピーク位置を示している。
図8に示すように、WCl:NaNの仕込み組成3:2(mol)、3:1(mol)のときに、六方晶窒化タングステンの合成が確認された。WCl:NaN=3:2(mol)では、六方晶窒化タングステンが主合成相であった。また、3:1(mol)ときは、PhaseIが明瞭に見られ、六方晶WNの小さなピークも見られた。
逆に、WCl:NaNの仕込み組成1:6(mol)のとき、すなわち、NaNが過剰な仕込み組成では、h−Wの六方晶窒化タングステンは得られたが、δ−WN又の六方晶窒化タングステンは得られなかった。
【0092】
次に、実施例1−4試料について、電子顕微鏡観察を行った。測定に使用した装置は、JEOL JSM−5410である。
図9は、実施例1−4試料の電子顕微鏡観察結果の一例を示す写真である。
図9に示すように、粒子径が1μm以上50μm以下の六方晶の結晶が合成されていることを確認した。
【0093】
次に、実施例1−4試料について、微小X線回折測定を行った。
図10は、実施例1−4試料の微小X線回折測定結果を示すプロファイルであって、(a)は実測値であり、(b)は六方晶WNの理論値である。
図10に示すように、実施値と理論値のピーク位置は完全に一致した。これにより、実施例1−4試料の結晶が六方晶WNであると確認した。
【0094】
次に、実施例1−4試料について、燃焼法による組成分析を行った。
サンプル重量1.584mgの実施例1−4試料の結晶を用い、燃焼法による組成分析を行った結果、窒素含有量0.1051mg、W/N=0.93(at.ratio)となり、実施例1−4試料の結晶の組成はWNであることを確認した。
以上の条件及び結果を表1にまとめた。
【0095】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の六方晶窒化タングステンの合成方法は、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成できる方法であり、また、本発明の六方晶窒化タングステンは、大径であるので、研削・切削工具(例えば、ドリル、エンドミル、ホブ、フライス、旋盤、ピニオンカッタなど)等に使用する超硬質材料として利用でき、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料として用いることができ、加工工具産業、加工産業、加工用装置産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0097】
1…高圧セル、11…パイロフィライト容器(筒)、12A、12B…スチールリング、13、14…充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO)、15…カーボンヒーター、16…カプセル、17…粉末原料、21…加熱加圧装置、25A、B…アンビル、26A、B…導電体、27A、B…シリンダー、28…パイロフィライト(充填用)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10