特許第6028997号(P6028997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6028997キャピラリー等速電気泳動法を用いる複数回大容量注入−濃縮−分離−分取精製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028997
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】キャピラリー等速電気泳動法を用いる複数回大容量注入−濃縮−分離−分取精製法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   G01N27/447 335C
   G01N27/447 325A
   G01N27/447 301B
   G01N27/447 301A
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-193742(P2012-193742)
(22)【出願日】2012年9月4日
(65)【公開番号】特開2014-48252(P2014-48252A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100157118
【弁理士】
【氏名又は名称】南 義明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】辻村 大翔
(72)【発明者】
【氏名】原賀 智子
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−317357(JP,A)
【文献】 特表2007−518977(JP,A)
【文献】 特表2007−504472(JP,A)
【文献】 特開平01−049952(JP,A)
【文献】 特開2004−325191(JP,A)
【文献】 特開2003−009861(JP,A)
【文献】 特開2002−223792(JP,A)
【文献】 特開2013−170141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インレットとアウトレットとを有するキャピラリー電気泳動装置におけるインレット側に精製対象水溶性物質を含むトリス−塩酸緩衝液が注入され、アウトレット側にトリスーグリシン緩衝液が注入されており印加電圧によって上記精製対象水溶性物質がインレット側からアウトレット側に移動させられる工程(a)、
陰圧がキャピラリー内に付加されることで上記精製対象水溶性物質がアウトレット側からインレット側に移動させられる工程(b)、
インレット側に精製対象水溶性物質を含むトリス−塩酸緩衝液が注入され、印加電圧によって上記精製対象水溶性物質がインレット側からアウトレット側に移動させられる工程(c)、
陰圧がキャピラリー内に付加されることで上記精製対象水溶性物質がアウトレット側からインレット側に移動させられる工程(d)、
トリスーグリシン緩衝液がインレット側及びアウトレット側に注入されて、電圧が印加され、上記精製対象水溶性物質と不純物とが分離される工程(e)、
上記精製対象水溶性物質がアウトレット側から分取される工程(f)が実施され、
上記工程(c)、(d)この順序で1回以上繰り返され、下記式(1)が満たされる、キャピラリー等速電気泳動法を用いる複数回大容量注入−濃縮−分離−分取精製法。
|μGly-|<|μL-|<|μCl-| (1)
ただし、|μGly-|はグリシンイオンの移動度、|μL-|は上記精製対象水溶性物質イオンの移動度、|μCl-|は塩化物イオンの移動度を示す。
【請求項2】
上記精製対象水溶性物質が下記式(2)、(3)、(4)で示される化合物又はDNA分子である、請求項1に記載されるキャピラリー等速電気泳動法を用いる複数回大容量注入−濃縮−分離−分取精製法。
【化1】
【化2】
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリー等速電気泳動法を用いる複数回大容量注入−濃縮−分離−分取精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蛍光ラベル化試薬、蛍光プローブ等の高純度が求められる化合物の精製は、クロマトグラフィー、固相抽出等の分離方法により行われる。クロマトグラフィーの理論段数は数千から数万段であり、クロマトグラフィーは大容量試料の高度な分取精製に適している。しかし、クロマトグラフィーは少量の希少試料の精製には適さず、更にクロマトグラフィーによる分離が困難な物質も存在する。例えば、本発明の発明者らが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した下記式(3)で示されるNd検出用蛍光プローブFTC−ABNOTAの純度は58%程度である。
【0003】
【化1】
【0004】
キャピラリー電気泳動法は、nLレベルの試料の高度な分離方法であり、その理論段数は数万から百万段に及ぶ。この高い分離能の分取への利用は非常に有効であるが、nLレベルの微小量の試料が数十μLのバイアルに分取されると、当該試料は数千〜数万倍に希釈されるから、キャピラリー電気泳動法は一般的な分取精製法としては成立し難い。
微小量の試料をキャピラリーカラム内で電気泳動的に濃縮する方法の一つが等速電気泳動法(ITP)である。ITPは先行イオンと終末イオンの間の移動度を有する物質を濃縮する方法であるが、ITPのみによる精製対象物質と不純物との分離は不可能である。
【0005】
一時的なITP濃縮後のゾーン電気泳動による分離方法がキャピラリー一時的等速電気泳動法(ctITP)であり、濃縮と分離を一段階で行える。ctITPは分離過程を含み、分離効率を上げるために大容量の試料の注入は一般に行えない。更に、ctITPの試料注入は一度のみであるため、大量の試料注入はできない。リポタンパク質を含有する試料が2種類のリーディングバッファからなるリーディングバッファサブシステムと2種類のターミネーティングバッファからなるターミネーティングバッファサブシステムに挟まれるctITPによるリポタンパク質の亜分画分離方法が検討された(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ところで、原子力発電所、放射性同位元素を扱う研究施設等の放射性物質を扱う施設から排出される廃液及び廃棄物はウラン化合物を含有し得る。当該廃液及び廃棄物がウラン化合物を含有する場合、当該廃液及び廃棄物が処分される前に、当該廃液及び廃棄物中のウラン濃度が測定されなければならない。従来、当該廃液及び廃棄物中のウランが、イオン交換樹脂、溶媒抽出等の煩雑な分離方法で分離され、当該廃液及び廃棄物中のウラン濃度が質量分析法により定量されていた。質量分析によるウランの検出限界値はppq〜ppt(10-12〜10-10M)レベルであった。しかし、質量分析法で使用される機器は非常に高価であり、分析設備は廃液及び廃棄物に含まれる様々な放射性核種により広範に放射能汚染されやすい。
【0007】
そこで、本発明の発明者らは、下記式(4)で示される5-(2-(3-(3-carboxy-4-(3-hydroxy-6-oxo-6H-xanthen-9-yl)phenyl)thioureido)acetamido)1,10-phenanthroline-2,9-dicarboxylic acid(FTC−PDA)を合成し、次いで高速液体クロマトグラフィーで精製して、ウラニルイオン測定用蛍光プローブとして使用してキャピラリー等速電気泳動法によりウラニルイオンの定性及び定量分析する方法を検討した(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−31092号公報
【特許文献2】特願2012−34711号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、分析対象物質検出に要求される検出限界値はますます小さくなってきており、高速液体クロマトグラフィーにより精製されたFTC−ABNOTA、FTC−PDA、蛍光ラベル化DNAのそれぞれより更に高い純度のFTC−ABNOTA、FTC−PDA、蛍光ラベル化DNAが希求されているが、そのような非常に高純度のFTC−ABNOTA、FTC−PDA、蛍光ラベル化DNAを提供できる精製方法は見出されていなかった。
本発明が解決使用する課題は、超高純度のFTC−ABNOTA、FTC−PDA、蛍光ラベル化DNA等の水溶性物質の精製法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、高速液体クロマトグラフィーで精製されたFTC−ABNOTAより更に高い純度のFTC−ABNOTAが、FTC−ABNOTAを含むトリス−塩酸緩衝液がインレット側に配置され、トリスーグリシン緩衝液がアウトレット側に配置されて、FTC−ABNOTAがインレット側からアウトレット側に移動させられる工程(a)、及びFTC−ABNOTAがアウトレット側からインレット側に移動させられる工程(b)が交互に2回以上繰り返され、更に、トリスーグリシン緩衝液がインレット側及びアウトレット側に配置されて、FTC−ABNOTAがインレット側からアウトレット側に移動させられる工程(c)が実施されるキャピラリー等速電気泳動法により得られることを見出した。
更に、本発明の発明者らは、FTC−ABNOTA以外の水溶性物質、例えば、FTC−PDA、下記式(2)で示される蛍光ラベル化試薬FITC−I、蛍光ラベル化DNA等も、上記キャピラリー等速電気泳動法により非常に高い純度に精製されることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
【化3】
【0013】
本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法は、 インレットとアウトレットとを有するキャピラリー電気泳動装置におけるインレット側に精製対象水溶性物質を含むトリス−塩酸緩衝液が注入され、アウトレット側にトリスーグリシン緩衝液が注入されており印加電圧によって上記精製対象水溶性物質がインレット側からアウトレット側に移動させられる工程(a)、 陰圧がキャピラリー内に付加されることで上記精製対象水溶性物質がアウトレット側からインレット側に移動させられる工程(b)、インレット側に精製対象水溶性物質を含むトリス−塩酸緩衝液が注入され、印加電圧によって上記精製対象水溶性物質がインレット側からアウトレット側に移動させられる工程(c)、陰圧がキャピラリー内に付加されることで上記精製対象水溶性物質がアウトレット側からインレット側に移動させられる工程(d)、トリスーグリシン緩衝液がインレット側及びアウトレット側に注入されて、電圧が印加され、上記精製対象水溶性物質と不純物とが分離される工程(e)、上記精製対象水溶性物質がアウトレット側から分取される工程(f)が実施され、 上記工程(c)、(d)この順序で1回以上繰り返され、下記式(1)が満たされる。
|μGly-|<|μL-|<|μCl-| (1)
ただし、|μGly-|はグリシンイオンの移動度、|μL-|は上記精製対象水溶性物質イオンの移動度、|μCl-|は塩化物イオンの移動度を示す。水溶液のpHは8.0〜9.0であってよい。
好ましい上記精製対象水溶性物質は上記式(2)、(3)、(4)で示される化合物又はDNA分子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法は、精製対象水溶性物質と不純物を分離し、非常に高純度の水溶性物質を多量に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】キャピラリー電気泳動装置を示す図
図2】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図3】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図4】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図5】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図6】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図7】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図8】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図9】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図10】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図11】キャピラリー中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図
図12】市販のFITC−Iのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図13】液体高速クロマトグラフィーにより精製されたFITC−Iのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図14】キャピラリー等速電気泳動により精製されたFITC−Iのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図15】FTC−ABNOTAの合成反応を示す図
図16】液体高速クロマトグラフィーにより精製されたFTC−ABNOTAのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図17】キャピラリー等速電気泳動により精製されたFTC−ABNOTAのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図18】FTC−PDAの合成反応を示す図
図19】液体高速クロマトグラフィーにより精製されたFTC−PDAのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図20】キャピラリー等速電気泳動により精製されたFTC−PDAのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図21】DNA分子F29−merのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
図22】キャピラリー等速電気泳動により精製されたDNA分子F29−merのキャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法によるチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法を図1〜11により説明する。図1は、本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法に使用されるキャピラリー電気泳動装置の模式図である。図2〜11は、当該キャピラリー電気泳動装置のキャピラリー3中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図である。最初に、インレット側泳動液2及びアウトレット側泳動液2’がトリス−塩酸緩衝液とされ、キャピラリー3内がトリス−グリシン緩衝液で満たされる(図2)。次に、トリスー塩酸緩衝液で希釈された精製対象水溶性物質Lの水溶液がインレット側に配置され、電源1に電圧が印加される。その際、グリシンイオン、精製対象水溶性物質イオン及び塩化物イオンの移動度は上記式(1)を満たしている。すると、グリシンイオン、精製対象水溶性物質イオン、塩化物イオンの順にインレット側からアウトレット側へ移動する(図3及び図4)。精製対象水溶性物質イオン濃度が、グリシンイオン濃度及び塩化物イオン濃度に比べて十分に小さいから、大きな電場勾配が精製対象水溶性物質イオンゾーンにかかり、精製対象水溶性物質イオンが加速され、塩化物イオンとの境界で減速し、精製対象水溶性物質イオンが濃縮される。濃縮された精製対象水溶性物質イオンが検出器に到達した時(図5)、電圧の印加が停止され、陰圧がポンプ等によりキャピラリー3内に付加され、精製対象水溶性物質イオンがインレット側に移動される(図6)。この時、精製対象水溶性物質イオンの移動に伴い、精製対象水溶性物質イオンゾーンが広がる。次に、トリスー塩酸緩衝液で希釈された精製対象水溶性物質Lの水溶液がインレット側から再度注入され、電圧が印加されて精製対象水溶性物質Lイオンがアウトレット側へ移動される。その際、2つの精製対象水溶性物質Lイオンゾーンが存在する(図7)が、精製対象水溶性物質Lイオンのアウトレット側への移動に伴い、精製対象水溶性物質Lイオンゾーンは1つに融合され、検出器に到達する(図8)。その際、電圧の印加が停止され、陰圧がキャピラリー3内に再度付加され、精製対象水溶性物質Lイオンがインレット側に移動される(図9)。図2〜9で示される工程が2回以上繰り返され、大量の精製対象水溶性物質Lイオンが濃縮される。濃縮された精製対象水溶性物質Lイオンがインレット側へ移動された後、インレット側泳動液2がトリスーグリシン緩衝液とされ、電圧が印加される(図10)。すると、精製対象水溶性物質Lイオンと精製対象水溶性物質の水溶液に含まれる不純物が分離される(図11)。その後、精製された精製対象水溶性物質Lの水溶液がアウトレット側から分取される。
【0017】
本発明のキャピラリー等速電気泳動法により精製される水溶性物質は、上記式(1)を満たすものであり、特定の化合物に限定されない。上記水溶性物質の具体例は、蛍光プローブ、DNA分子、タンパク質などがあげられる.
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例及び比較例で使用された超純水は、MERCK MILLIPORE製Direct-Q UVにて採水されたもの(抵抗値18.2MΩ)である。
【0019】
キャピラリー等速電気泳動装置
Agilent社製G1602BAがキャピラリー電気泳動装置として使用された。GL Sciences社製溶融シリカキャピラリー(内径100μm、外径350μm、全長100cm、有効長91.5cm)がキャピラリー3用チューブとして使用された。キャピラリー等速電気泳動により分取された溶液は、Invitrogen社製Safe Imager(登録商標)でランプ照射され、ATTO社製AE-6933FXCFゲルイメージングプリントグラフで撮影された。
【0020】
泳動液の調製
(1)濃縮用トリス−グリシン溶液
上記1Mトリス水溶液375μL、SIGMA社製グリシン(純度99%以上)が超純水で希釈されて調製された2Mグリシン水溶液1000μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で10mLに定容され、濃縮用トリス−グリシン溶液(泳動液a、pH8.5)が調製された。
【0021】
(2)分離用トリス−グリシン溶液
上記1Mトリス水溶液560μL、上記2Mグリシン水溶液1500μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で10mLに定容され、分離用トリス−グリシン溶液(泳動液b、pH8.5)が調製された。
【0022】
(3)濃縮用トリス−塩酸溶液
上記1Mトリス水溶液500μL、上記1M塩酸150μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で10mLに定容され、濃縮用トリス−塩酸溶液(泳動液c、pH8.5)が調製された。
【0023】
(4)純度評価用ホウ酸緩衝溶液
関東化学(株)製四ホウ酸ナトリウム十水和物(純度99%以上)が超純水に溶解されて調製された0.1M四ホウ酸緩衝溶液400μLのpHが、上記1M水酸化ナトリウム水溶液で9.6に調製され、超純水で10mLに定容された。
【0024】
分取用溶液の調製
MERCK社製ホウ酸(純度99.9999%)が超純水で調製された0.1Mホウ酸緩衝溶液(pH9.89)400μLが超純水で1000μLに定容され、分取用溶液(pH9.8)が調製された。
【0025】
水溶性物質の純度の測定方法
水溶性物質の純度は、キャピラリー用チューブとしてGL Sciences社製溶融シリカキャピラリー(内径50μm、外径350μm、全長60cm、有効長47.5cm)、レーザー励起蛍光検出器としてPicometrics社製ZETALIF、レーザー装置としてSpectra-Physics社製ArレーザーシステムModel263D(波長488nm)、高圧電源として松定プレシジョン(株)製HCZE-30P、記録計として(株)日立製作所製D-2500 Chromato-Integratorを組み合わせた装置により、キャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法(CE−LIF)により測定された。
最初に、キャピラリーが和光純薬工業(株)製水酸化ナトリウム(純度97%)が超純水に溶解されて調製された1M水酸化ナトリウム水溶液で10分間、超純水で10分間、下記純度評価用ホウ酸緩衝溶液で15分間順次洗浄された。その後、5nLの試料が落差法により(高低差5cm)36秒間で注入され、20kVの電圧が印加されてキャピラリー電気泳動が25℃で行われた。
【0026】
FITC−I試料溶液の調製
SIGMA-ALDRICH社製トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(純度99.8%)が超純水に溶解されて調製された1Mトリス水溶液10μL、和光純薬工業(株)製塩酸が超純水で希釈されて調製された1M塩酸2.6μL、上記式(2)で示される(株)同人化学研究所製Fluorescein-4-isothiocyanate(FITC−I)が超純水で希釈されて調製された10-3MのFITC−I10μLがポリテトラフルオロエチレン製バイアルに加えられ、超純水で200μLに定容され、FITC−I試料溶液が調製された。
図12に示すチャートが、上記FITC−I試料溶液のCE−LIFの定量分析により得られた。上記市販のFITC−Iの純度は81.6%であった。
【0027】
比較例1
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるFITC−Iの精製
上記FITC−I試料溶液がHPLCにより精製された.HPLCにより精製されたFITC−IのCE−LIFによる定量分析
HPLCにより精製されたFITC−I溶液は上記CE−LIFにより定量分析され、図13に示されるチャートが得られた。HPLCにより精製されたFITC−Iの純度は81.6%程度であった。
【0028】
実施例1
キャピラリー等速電気泳動によるFITC−Iの精製
キャピラリー3が、上記1M水酸化ナトリウム水溶液で10分間、次いで超純水で10分間、その後泳動液aで15分間洗浄された。キャピラリー3内が泳動液aで満たされ、FITC−I試料溶液1μLが、圧力50mbar、注入時間72秒でキャピラリー3のインレット側から注入され、泳動液cがインレット側、泳動液aがアウトレット側に配置され、電気泳動が20kVの電圧が印加されて25℃で行われた。試料ピークが検出され、濃縮された試料が検出器に到達した後、電圧の印加が停止され、−50mbarの陰圧が510秒印加され、濃縮された試料プラグがキャピラリー3のインレット側先端から1cmの箇所まで移動させられた。その後、試料注入、電圧印加、陰圧印加が同様に繰り返された。次いで、試料注入と電圧印加されて試料が濃縮され、電圧の印加が停止され、アウトレット側の泳動液aが泳動液bに代えられ、陰圧が印加されて濃縮試料プラグがキャピラリー3のインレット側先端へ移動させられた。その後、インレット側の泳動液aが泳動液bに代えられ、電圧が印加されて試料が濃縮され、FITC−Iのピークが検出器で確認された後、濃縮されたFITC−Iがアウトレット側に配置され、分取用溶液20μLが入った分取用ポリテトラフルオロエチレン製バイアルに20秒ごとに10回以上分取された。
【0029】
目的分画の確認
分取用バイアルがゲルイメージングプリントグラフ装置上に置かれ、波長470nmの光が照射され、FITC−I溶液が分取されているバイアルが探索された。蛍光を発するバイアルが確認され、分取用バイアル由来の汚染防止のため、分取用バイアル中のFITC−I溶液が500μLポリテトラフルオロエチレン製バイアルに移された。
【0030】
CE−LIFによる定量分析
500μLポリテトラフルオロエチレン製バイアルに保存されている、キャピラリー等速電気泳動により精製されたFITC−I溶液は上記CE−LIFにより定量分析され、図14に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたFITC−Iの純度は99.1%以上であった。
【0031】
Nd検出用試薬FTC−ABNOTAの合成(図15
下記式(5)で示されるMACROCYCLICS社製ABNOTAが超純水で希釈されて調製された10-3MのABNOTA水溶液50mL、0.1Mマレイン酸水溶液10mL、上記式(2)で示される(株)同人化学研究所製FITC−I(純度95%)が超純水で希釈されて調製された10-3MのFITC−I7.5mL、超純水32.5mLが、この順番で、アルミホイルで覆われて遮光されたポリテトラフルオロエチレン製100mL広口試薬瓶に加えられ、攪拌され、40℃の恒温槽に6時間放置され、図15で示される反応が行われた。15mLの1−ブタノールが合成された溶液に加えられ、攪拌され、冷暗所で静置され、2相が形成され、1−ブタノールに富む上層が除かれた(工程I)。工程Iが更に2回繰り返され、1−ブタノール層は分液漏斗により3回目の操作で完全に除去された。
【0032】
【化4】
【0033】
比較例2
HPLCによるFTC−ABNOTAの精製
抽出されたFTC−ABNOTA溶液は、高速液体クロマトグラフィー装置(SHIMADZU社製製 LC―10AD)とカラム(ChromaNik Technologies lnc. 社Sunrise C18(4.6 ´ 150 mm)により、反応生成物から分離された。(溶離液:0.01M BES{N,N-Bis(2-hydraxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid}緩衝溶液(pH7.0)70体積%/ アセトニトリル30%)で2回分取された。
36%高純度塩酸(和光純薬工業株式会社製)が、2回目に分取された溶液に加えられ、溶液のpHが2.5程度になると沈殿が発生した。当該沈殿が冷暗所で20〜30分間静置され、その後、メンブランフィルターで吸引濾過され、結晶物が得られた。当該結晶物は暗所に置かれたデシケーター中で常温で2日間乾燥された。
【0034】
HPLCにより精製されたFTC−ABNOTAのCE−LIFによる定量分析
HPLCにより精製されたFTC−ABNOTA試料溶液は上記CE−LIFにより定量分析され、図16に示されるチャートが得られた。HPLCにより精製されたFTC−ABNOTAの純度は57.6%程度であった。
【0035】
実施例2
FITC−I試料溶液に代えて上記FTC−ABNOTA試料溶液が使用される以外、実施例1と同じ操作が行われた。その結果、図17に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたFTC−ABNOTAの純度は95.2%であった。
【0036】
FTC−PDAの合成(図18
硝酸(和光純薬工業(株)製特級原液)5mL及び硫酸(和光純薬工業(株)製特級原液)10mLが混合された混酸が、図18の式(A)で示される2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン(和光純薬工業(株)製)0.5gに加えられ、115℃で1時間加熱された。100gの氷が得られた溶液に加えられ、冷却された溶液のpHが水酸化ナトリウムで8.0に調整された。生成した沈殿が濾過され、110℃で乾燥され、図18の式(B)で示される5−ニトロ−2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリンが得られた。
【0037】
次に、1gの5−ニトロ−2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリンと1gの二酸化セレンの混合物が5mLの96%ジオキサン水溶液に溶解され、3時間加熱還流され、セライトパッド(登録商標)(Celite Corporation製)で濾過された。図18の式(C)で示されるジアルデヒド化合物が黄赤色の沈殿として得られた。当該ジアルデヒド化合物が、10mLの硝酸(和光純薬工業(株)製特級原液)で3時間加熱還流され、得られた溶液が氷で冷却され、沈殿物が得られた。当該沈殿物がテトラヒドロフラン水溶液で再結晶させられ、図18の式(1)で示される化合物が得られた。
【0038】
110mgの図18の式(1)で示される化合物が5mLのエタノールに溶解され、15mgのパラジウム触媒(Aldrich社製パラジウム炭素、パラジウムの担持率10%)が更に添加され、水素ガス圧60psiで水素化還元が実施され、図18の式(2)で示される化合物が溶解する溶液が得られた。当該溶液が空気に触れると、当該溶液の色が黄色から鮮紅色に変色した。10mLの3M塩酸が変色した溶液に添加され、パラジウム触媒が濾過により除去された。次いで、0℃で減圧が実施され、エタノールが蒸発させられた。20mLのジクロロメタンで希釈された0.42mLのクロロアセチルクロリド溶液が、攪拌されている溶液に添加され、溶液は室温で一晩攪拌され続けた。得られた2相の混合物が減圧蒸留され、固体が得られた。当該固体が10mLの冷水で洗浄され、減圧下で乾燥され、図18の式(3)で示される化合物が得られた。
【0039】
図18の式(3)で示される化合物100mgは20mLの25%アンモニア水とシールドチューブの密閉された系内で25℃で16時間反応させられ、図18の式(4)で示される化合物が得られた。
60mgの図18の式(4)で示される化合物が2mLの10-2Mマレイン酸緩衝水溶液に懸濁させられ、2mLのテトラヒドロフランが懸濁液に添加されて溶解された。更に、68mgの図18の式(5)で示されるフルオレセイン−4−イソチアネート(Aldrich社製)が混合され、暗所にて40℃で12時間加熱され、FTC−PDA溶液(A)が調製された。
【0040】
比較例3
HPLCによるFTC−PDAの精製
上記FTC−PDA溶液(A)が、高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光(株)製HPLC−2000)とカラム(サーモサイエンティフィック(株)製Hypersil BDS C18)により、反応生成物から分離された。アセトニトリル(A液)と0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(B液)が移動相として使用され、A液とB液の体積比(A/B)が、開始時5/95、開始時〜6分後まで5/95、6分〜15分後まで40/60、15分〜20分後まで90/10と変化するグラジエント法が採用され、移動相の流量は1.20mL/min、カラム温度は30℃とされた。ピークが開始から18.4分後に現れ、その時点で集められた溶液の溶媒が減圧下で蒸発させられ、FTC−PDA52mgが精製された。
【0041】
HPLCにより精製されたFTC−PDAのCE−LIFによる定量分析
HPLCにより精製されたFTC−PDAがホウ酸緩衝溶液に溶解され、FTC−PDA試料溶液(B)が調製された。FTC−PDA試料溶液(B)は上記CE−LIFにより定量分析され、図19に示されるチャートが得られた。HPLCにより精製されたFTC−PDAの純度は89.3%であった。
【0042】
実施例3
FITC−I試料溶液に代えて上記FTC−PDA溶液(A)が使用される以外、実施例1と同じ操作が行われた。その結果、図20に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたFTC−PDAの純度は97.9%であった。
【0043】
比較例4
アプタマー試料の調整
Integrated DNA Technologies社の合成品であり、タンパク質であるトロンビンの検出に有効であるF29−mer(5’ -FAM-AGT CCG TGG TAG GGC AGG TTG GGG TGA CT-3’)31.6μgが165μLの超純水に溶解させられ、2.0×10-5 Mの溶液が調整された。当該F29−merが上記CE−LIFにて定量分析された。その結果、図21に示されるチャートが得られた。当該F29−merの純度は86.1%であった。
【0044】
実施例4
FITC−I試料溶液に代えて上記F29−mer溶液が使用され、試料が注入された後(図3)、濃縮限界の向上を図るため、上記濃縮用トリスー塩酸溶液とは異なる濃いトリスー塩酸溶液(1Mトリス水溶液415μL及び1M塩酸110μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で1mLに定容されて調製された)が注入され(圧力50mbar、注入時間30秒で約420nLに相当)、その後、トリス‐塩酸溶液がインレット側泳動液2に設置される以外、実施例1と同じ操作が行なわれた。なお、当該濃いトリス‐塩酸溶液の注入は、各試料注入後と試料プラグが陰圧にてインレット側へと戻された後(図9の後)に行なわれたに上記の改善を加え行なった。その結果、図22に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたF29−merの純度は99.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法は、精製対象水溶性物質と不純物を分離し、非常に高純度の水溶性物質を多量に提供できる。本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法は、微量の検出対象物質と結合するプローブの高純度精製に特に適している。
【符号の説明】
【0046】
1・・・電源、2、2’・・・泳動液、3・・・キャピラリー
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