【0016】
本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法を
図1〜11により説明する。
図1は、本発明のキャピラリー等速電気泳動法による水溶性物質の精製法に使用されるキャピラリー電気泳動装置の模式図である。
図2〜11は、当該キャピラリー電気泳動装置のキャピラリー3中の物質の移動と濃度分布を模式的に示す図である。最初に、インレット側泳動液2及びアウトレット側泳動液2’がトリス−塩酸緩衝液とされ、キャピラリー3内がトリス−グリシン緩衝液で満たされる(
図2)。次に、トリスー塩酸緩衝液で希釈された精製対象水溶性物質Lの水溶液がインレット側に配置され、電源1に電圧が印加される。その際、グリシンイオン、精製対象水溶性物質イオン及び塩化物イオンの移動度は上記式(1)を満たしている。すると、グリシンイオン、精製対象水溶性物質イオン、塩化物イオンの順にインレット側からアウトレット側へ移動する(
図3及び
図4)。精製対象水溶性物質イオン濃度が、グリシンイオン濃度及び塩化物イオン濃度に比べて十分に小さいから、大きな電場勾配が精製対象水溶性物質イオンゾーンにかかり、精製対象水溶性物質イオンが加速され、塩化物イオンとの境界で減速し、精製対象水溶性物質イオンが濃縮される。濃縮された精製対象水溶性物質イオンが検出器に到達した時(
図5)、電圧の印加が停止され、陰圧がポンプ等によりキャピラリー3内に付加され、精製対象水溶性物質イオンがインレット側に移動される(
図6)。この時、精製対象水溶性物質イオンの移動に伴い、精製対象水溶性物質イオンゾーンが広がる。次に、トリスー塩酸緩衝液で希釈された精製対象水溶性物質Lの水溶液がインレット側から再度注入され、電圧が印加されて精製対象水溶性物質Lイオンがアウトレット側へ移動される。その際、2つの精製対象水溶性物質Lイオンゾーンが存在する(
図7)が、精製対象水溶性物質Lイオンのアウトレット側への移動に伴い、精製対象水溶性物質Lイオンゾーンは1つに融合され、検出器に到達する(
図8)。その際、電圧の印加が停止され、陰圧がキャピラリー3内に再度付加され、精製対象水溶性物質Lイオンがインレット側に移動される(
図9)。
図2〜9で示される工程が2回以上繰り返され、大量の精製対象水溶性物質Lイオンが濃縮される。濃縮された精製対象水溶性物質Lイオンがインレット側へ移動された後、インレット側泳動液2がトリスーグリシン緩衝液とされ、電圧が印加される(
図10)。すると、精製対象水溶性物質Lイオンと精製対象水溶性物質の水溶液に含まれる不純物が分離される(
図11)。その後、精製された精製対象水溶性物質Lの水溶液がアウトレット側から分取される。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例及び比較例で使用された超純水は、MERCK MILLIPORE製Direct-Q UVにて採水されたもの(抵抗値18.2MΩ)である。
【0019】
キャピラリー等速電気泳動装置
Agilent社製G1602BAがキャピラリー電気泳動装置として使用された。GL Sciences社製溶融シリカキャピラリー(内径100μm、外径350μm、全長100cm、有効長91.5cm)がキャピラリー3用チューブとして使用された。キャピラリー等速電気泳動により分取された溶液は、Invitrogen社製Safe Imager(登録商標)でランプ照射され、ATTO社製AE-6933FXCFゲルイメージングプリントグラフで撮影された。
【0020】
泳動液の調製
(1)濃縮用トリス−グリシン溶液
上記1Mトリス水溶液375μL、SIGMA社製グリシン(純度99%以上)が超純水で希釈されて調製された2Mグリシン水溶液1000μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で10mLに定容され、濃縮用トリス−グリシン溶液(泳動液a、pH8.5)が調製された。
【0021】
(2)分離用トリス−グリシン溶液
上記1Mトリス水溶液560μL、上記2Mグリシン水溶液1500μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で10mLに定容され、分離用トリス−グリシン溶液(泳動液b、pH8.5)が調製された。
【0022】
(3)濃縮用トリス−塩酸溶液
上記1Mトリス水溶液500μL、上記1M塩酸150μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で10mLに定容され、濃縮用トリス−塩酸溶液(泳動液c、pH8.5)が調製された。
【0023】
(4)純度評価用ホウ酸緩衝溶液
関東化学(株)製四ホウ酸ナトリウム十水和物(純度99%以上)が超純水に溶解されて調製された0.1M四ホウ酸緩衝溶液400μLのpHが、上記1M水酸化ナトリウム水溶液で9.6に調製され、超純水で10mLに定容された。
【0024】
分取用溶液の調製
MERCK社製ホウ酸(純度99.9999%)が超純水で調製された0.1Mホウ酸緩衝溶液(pH9.89)400μLが超純水で1000μLに定容され、分取用溶液(pH9.8)が調製された。
【0025】
水溶性物質の純度の測定方法
水溶性物質の純度は、キャピラリー用チューブとしてGL Sciences社製溶融シリカキャピラリー(内径50μm、外径350μm、全長60cm、有効長47.5cm)、レーザー励起蛍光検出器としてPicometrics社製ZETALIF、レーザー装置としてSpectra-Physics社製ArレーザーシステムModel263D(波長488nm)、高圧電源として松定プレシジョン(株)製HCZE-30P、記録計として(株)日立製作所製D-2500 Chromato-Integratorを組み合わせた装置により、キャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法(CE−LIF)により測定された。
最初に、キャピラリーが和光純薬工業(株)製水酸化ナトリウム(純度97%)が超純水に溶解されて調製された1M水酸化ナトリウム水溶液で10分間、超純水で10分間、下記純度評価用ホウ酸緩衝溶液で15分間順次洗浄された。その後、5nLの試料が落差法により(高低差5cm)36秒間で注入され、20kVの電圧が印加されてキャピラリー電気泳動が25℃で行われた。
【0026】
FITC−I試料溶液の調製
SIGMA-ALDRICH社製トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(純度99.8%)が超純水に溶解されて調製された1Mトリス水溶液10μL、和光純薬工業(株)製塩酸が超純水で希釈されて調製された1M塩酸2.6μL、上記式(2)で示される(株)同人化学研究所製Fluorescein-4-isothiocyanate(FITC−I)が超純水で希釈されて調製された10
-3MのFITC−I10μLがポリテトラフルオロエチレン製バイアルに加えられ、超純水で200μLに定容され、FITC−I試料溶液が調製された。
図12に示すチャートが、上記FITC−I試料溶液のCE−LIFの定量分析により得られた。上記市販のFITC−Iの純度は81.6%であった。
【0027】
比較例1
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるFITC−Iの精製
上記FITC−I試料溶液がHPLCにより精製された.HPLCにより精製されたFITC−IのCE−LIFによる定量分析
HPLCにより精製されたFITC−I溶液は上記CE−LIFにより定量分析され、
図13に示されるチャートが得られた。HPLCにより精製されたFITC−Iの純度は81.6%程度であった。
【0028】
実施例1
キャピラリー等速電気泳動によるFITC−Iの精製
キャピラリー3が、上記1M水酸化ナトリウム水溶液で10分間、次いで超純水で10分間、その後泳動液aで15分間洗浄された。キャピラリー3内が泳動液aで満たされ、FITC−I試料溶液1μLが、圧力50mbar、注入時間72秒でキャピラリー3のインレット側から注入され、泳動液cがインレット側、泳動液aがアウトレット側に配置され、電気泳動が20kVの電圧が印加されて25℃で行われた。試料ピークが検出され、濃縮された試料が検出器に到達した後、電圧の印加が停止され、−50mbarの陰圧が510秒印加され、濃縮された試料プラグがキャピラリー3のインレット側先端から1cmの箇所まで移動させられた。その後、試料注入、電圧印加、陰圧印加が同様に繰り返された。次いで、試料注入と電圧印加されて試料が濃縮され、電圧の印加が停止され、アウトレット側の泳動液aが泳動液bに代えられ、陰圧が印加されて濃縮試料プラグがキャピラリー3のインレット側先端へ移動させられた。その後、インレット側の泳動液aが泳動液bに代えられ、電圧が印加されて試料が濃縮され、FITC−Iのピークが検出器で確認された後、濃縮されたFITC−Iがアウトレット側に配置され、分取用溶液20μLが入った分取用ポリテトラフルオロエチレン製バイアルに20秒ごとに10回以上分取された。
【0029】
目的分画の確認
分取用バイアルがゲルイメージングプリントグラフ装置上に置かれ、波長470nmの光が照射され、FITC−I溶液が分取されているバイアルが探索された。蛍光を発するバイアルが確認され、分取用バイアル由来の汚染防止のため、分取用バイアル中のFITC−I溶液が500μLポリテトラフルオロエチレン製バイアルに移された。
【0030】
CE−LIFによる定量分析
500μLポリテトラフルオロエチレン製バイアルに保存されている、キャピラリー等速電気泳動により精製されたFITC−I溶液は上記CE−LIFにより定量分析され、
図14に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたFITC−Iの純度は99.1%以上であった。
【0031】
Nd検出用試薬FTC−ABNOTAの合成(
図15)
下記式(5)で示されるMACROCYCLICS社製ABNOTAが超純水で希釈されて調製された10
-3MのABNOTA水溶液50mL、0.1Mマレイン酸水溶液10mL、上記式(2)で示される(株)同人化学研究所製FITC−I(純度95%)が超純水で希釈されて調製された10
-3MのFITC−I7.5mL、超純水32.5mLが、この順番で、アルミホイルで覆われて遮光されたポリテトラフルオロエチレン製100mL広口試薬瓶に加えられ、攪拌され、40℃の恒温槽に6時間放置され、
図15で示される反応が行われた。15mLの1−ブタノールが合成された溶液に加えられ、攪拌され、冷暗所で静置され、2相が形成され、1−ブタノールに富む上層が除かれた(工程I)。工程Iが更に2回繰り返され、1−ブタノール層は分液漏斗により3回目の操作で完全に除去された。
【0032】
【化4】
【0033】
比較例2
HPLCによるFTC−ABNOTAの精製
抽出されたFTC−ABNOTA溶液は、高速液体クロマトグラフィー装置(SHIMADZU社製製 LC―10AD)とカラム(ChromaNik Technologies lnc. 社Sunrise C18(4.6 ´ 150 mm)により、反応生成物から分離された。(溶離液:0.01M BES{N,N-Bis(2-hydraxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid}緩衝溶液(pH7.0)70体積%/ アセトニトリル30%)で2回分取された。
36%高純度塩酸(和光純薬工業株式会社製)が、2回目に分取された溶液に加えられ、溶液のpHが2.5程度になると沈殿が発生した。当該沈殿が冷暗所で20〜30分間静置され、その後、メンブランフィルターで吸引濾過され、結晶物が得られた。当該結晶物は暗所に置かれたデシケーター中で常温で2日間乾燥された。
【0034】
HPLCにより精製されたFTC−ABNOTAのCE−LIFによる定量分析
HPLCにより精製されたFTC−ABNOTA試料溶液は上記CE−LIFにより定量分析され、
図16に示されるチャートが得られた。HPLCにより精製されたFTC−ABNOTAの純度は57.6%程度であった。
【0035】
実施例2
FITC−I試料溶液に代えて上記FTC−ABNOTA試料溶液が使用される以外、実施例1と同じ操作が行われた。その結果、
図17に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたFTC−ABNOTAの純度は95.2%であった。
【0036】
FTC−PDAの合成(
図18)
硝酸(和光純薬工業(株)製特級原液)5mL及び硫酸(和光純薬工業(株)製特級原液)10mLが混合された混酸が、
図18の式(A)で示される2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン(和光純薬工業(株)製)0.5gに加えられ、115℃で1時間加熱された。100gの氷が得られた溶液に加えられ、冷却された溶液のpHが水酸化ナトリウムで8.0に調整された。生成した沈殿が濾過され、110℃で乾燥され、
図18の式(B)で示される5−ニトロ−2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリンが得られた。
【0037】
次に、1gの5−ニトロ−2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリンと1gの二酸化セレンの混合物が5mLの96%ジオキサン水溶液に溶解され、3時間加熱還流され、セライトパッド(登録商標)(Celite Corporation製)で濾過された。
図18の式(C)で示されるジアルデヒド化合物が黄赤色の沈殿として得られた。当該ジアルデヒド化合物が、10mLの硝酸(和光純薬工業(株)製特級原液)で3時間加熱還流され、得られた溶液が氷で冷却され、沈殿物が得られた。当該沈殿物がテトラヒドロフラン水溶液で再結晶させられ、
図18の式(1)で示される化合物が得られた。
【0038】
110mgの
図18の式(1)で示される化合物が5mLのエタノールに溶解され、15mgのパラジウム触媒(Aldrich社製パラジウム炭素、パラジウムの担持率10%)が更に添加され、水素ガス圧60psiで水素化還元が実施され、
図18の式(2)で示される化合物が溶解する溶液が得られた。当該溶液が空気に触れると、当該溶液の色が黄色から鮮紅色に変色した。10mLの3M塩酸が変色した溶液に添加され、パラジウム触媒が濾過により除去された。次いで、0℃で減圧が実施され、エタノールが蒸発させられた。20mLのジクロロメタンで希釈された0.42mLのクロロアセチルクロリド溶液が、攪拌されている溶液に添加され、溶液は室温で一晩攪拌され続けた。得られた2相の混合物が減圧蒸留され、固体が得られた。当該固体が10mLの冷水で洗浄され、減圧下で乾燥され、
図18の式(3)で示される化合物が得られた。
【0039】
図18の式(3)で示される化合物100mgは20mLの25%アンモニア水とシールドチューブの密閉された系内で25℃で16時間反応させられ、
図18の式(4)で示される化合物が得られた。
60mgの
図18の式(4)で示される化合物が2mLの10
-2Mマレイン酸緩衝水溶液に懸濁させられ、2mLのテトラヒドロフランが懸濁液に添加されて溶解された。更に、68mgの
図18の式(5)で示されるフルオレセイン−4−イソチアネート(Aldrich社製)が混合され、暗所にて40℃で12時間加熱され、FTC−PDA溶液(A)が調製された。
【0040】
比較例3
HPLCによるFTC−PDAの精製
上記FTC−PDA溶液(A)が、高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光(株)製HPLC−2000)とカラム(サーモサイエンティフィック(株)製Hypersil BDS C18)により、反応生成物から分離された。アセトニトリル(A液)と0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(B液)が移動相として使用され、A液とB液の体積比(A/B)が、開始時5/95、開始時〜6分後まで5/95、6分〜15分後まで40/60、15分〜20分後まで90/10と変化するグラジエント法が採用され、移動相の流量は1.20mL/min、カラム温度は30℃とされた。ピークが開始から18.4分後に現れ、その時点で集められた溶液の溶媒が減圧下で蒸発させられ、FTC−PDA52mgが精製された。
【0041】
HPLCにより精製されたFTC−PDAのCE−LIFによる定量分析
HPLCにより精製されたFTC−PDAがホウ酸緩衝溶液に溶解され、FTC−PDA試料溶液(B)が調製された。FTC−PDA試料溶液(B)は上記CE−LIFにより定量分析され、
図19に示されるチャートが得られた。HPLCにより精製されたFTC−PDAの純度は89.3%であった。
【0042】
実施例3
FITC−I試料溶液に代えて上記FTC−PDA溶液(A)が使用される以外、実施例1と同じ操作が行われた。その結果、
図20に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたFTC−PDAの純度は97.9%であった。
【0043】
比較例4
アプタマー試料の調整
Integrated DNA Technologies社の合成品であり、タンパク質であるトロンビンの検出に有効であるF29−mer(5’ -FAM-AGT CCG TGG TAG GGC AGG TTG GGG TGA CT-3’)31.6μgが165μLの超純水に溶解させられ、2.0×10
-5 Mの溶液が調整された。当該F29−merが上記CE−LIFにて定量分析された。その結果、
図21に示されるチャートが得られた。当該F29−merの純度は86.1%であった。
【0044】
実施例4
FITC−I試料溶液に代えて上記F29−mer溶液が使用され、試料が注入された後(
図3)、濃縮限界の向上を図るため、上記濃縮用トリスー塩酸溶液とは異なる濃いトリスー塩酸溶液(1Mトリス水溶液415μL及び1M塩酸110μLがポリプロピレン製容器に入れられ、超純水で1mLに定容されて調製された)が注入され(圧力50mbar、注入時間30秒で約420nLに相当)、その後、トリス‐塩酸溶液がインレット側泳動液2に設置される以外、実施例1と同じ操作が行なわれた。なお、当該濃いトリス‐塩酸溶液の注入は、各試料注入後と試料プラグが陰圧にてインレット側へと戻された後(
図9の後)に行なわれたに上記の改善を加え行なった。その結果、
図22に示されるチャートが得られた。キャピラリー等速電気泳動により精製されたF29−merの純度は99.4%であった。