(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
先ず、一般的なドリルについて以下に説明する。
図1Aから
図1Cに示すように、ドリルは、通常、超硬合金、高速度鋼等で作製されたドリル本体の長手方向に、螺旋状にマージン部と溝部が形成される。
【0003】
一般的なドリル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とする外形略円柱状に形成されており、その後端側(
図1Aにおいて右側)がシャンク部2とされて、このシャンク部2が工作機械の回転軸に取り付けられることにより、図中に符号Tで示すドリル回転方向に回転させられて穴あけ加工に使用される。
【0004】
また、ドリル本体1の先端部(
図1Aにおいて左側部分)は刃先部3とされ、この刃先部3の外周には、軸線Oを挟んで互いに反対側に一対の切屑排出溝4、4が、ドリル本体1の先端逃げ面3Bから刃先部3の全長に亘って軸線Oに対して対称となるように形成されている。なお、この刃先部3は、切屑排出溝4、4も含めて軸線Oに関して対称となるように形成されている。
【0005】
切屑排出溝4、4は、軸線Oに直交する断面において、
図1Cに示すように、ドリル回転方向T前方側を向く壁面4Aと、この壁面4Aに滑らかに接続され、ドリル回転方向T後方側を向いて、ドリル回転方向T前方側に凸となる断面曲線状をなす壁面4Bとから構成されている。また、これら切屑排出溝4、4は、先端逃げ面3Bから基端側に向けてドリル回転方向Tの後方側に一定のねじれ角でねじれる螺旋状をなしている。
【0006】
一方、先端逃げ面3Bは、軸線Oからドリル本体外周側へ向かって軸線O方向の基端側に向かうように傾斜する2つの平面によって構成されているとともに、これら2つの平面により、切屑排出溝4、4の開口部から軸線O回りにドリル回転方向Tの後方側に向かうにしたがい二段階に後退して、二段の逃げが与えられている。さらに、この先端逃げ面3Bと両切屑排出溝4、4のドリル回転方向T前方側を向く壁面4A、4Aとの交差稜線部、すなわち壁面4A、4Aの先端縁には、先端逃げ面3B上における軸線O周辺の先端中心部Cから外周側に向けて延びる略直線状の先端切刃6、6がそれぞれ形成されている。
【0007】
また、先端逃げ面3Bが、軸線Oからドリル本体外周側へ向かって軸線O方向の基端側へ向かうような傾斜が与えられていることにより、先端切刃6、6は、先端逃げ面3B上の先端中心部Cから外周側に向かうにしたがい略直線状に基端側に向かうように傾斜させられ、これによって両先端切刃6、6には所定の先端角が与えられる。
【0008】
次に、一般的なPCDドリルについて以下に説明する。
従来から、ダイヤモンド粉末を超高圧で焼結した多結晶ダイヤモンド基焼結体(以下、「PCD」という)を、ドリル本体の刃先先端に取り付け、そのPCDの角部の稜線を切れ刃とするPCDドリルが知られている。このPCDドリルは、難削材等の穴あけ加工において、優れた耐摩耗性を示す。
例えば、特許文献1および2に示すように、超硬合金等からなるドリル本体の刃先先端に、ろう付け等によりPCDを取付けたPCDドリルが知られており、PCDドリルは耐摩耗性に優れることから、Al合金、Ti合金、セラミックス、CFRP等の難削材の穴あけ加工に好適であるとされている。
【0009】
従来のPCDドリルにおいては、通常、
図2Aおよび
図2Bに示すように、切れ刃チップ17が、ろう付け等によりドリルの刃先先端に取り付けられる。
図2Aおよび
図2Bは、従来のPCDドリルの切れ刃チップ17が取り付けられた刃先先端の拡大概略を示す。従来のPCDドリル21は、その先端に切れ刃チップが取り付けられている点で、前記従来のドリルと異なっている。
前記切れ刃チップ17は、金属や超硬合金などからなり、適切な形状に成形された後、ドリル本体の先端に形成されたスリットにはめ込まれる(
図2A参照)。その後、切削、研削、研磨等の処理により、従来のPCDドリルの先端は、ドリル先端形状に成形される(
図2B参照)。
【0010】
この場合の、切れ刃チップ17の作製は、
図3Aから
図3Dにその概略を示すように行われる。例えば、まず、超硬合金等の台座にダイヤモンド粉末成形体を所定の厚さで一体に焼結したPCD(
図3A参照)を作製する。
図3Aは、従来のPCDドリル作製に使用される焼結体を示す。焼結体は、例えば円筒形状のものを用いることができる。この焼結体は平面に形成されたPCD層18とその上下に形成された金属または超硬合金層19、19を有する。
次に、中心部から刃先先端に合うように台形形状で素材を切出す(
図3B参照)。さらに、必要に応じて上下の余分な金属または超硬部を削り落すことで所定の形状の焼結体片20を得る(
図3C参照)。焼結体片20は厚み方向で、三つの層からなる。具体的には、PCD層18と、その両面に形成された金属または超硬合金層19、19とからなる。
そして、この焼結体片20を、
図3Dに示すようにドリルの刃先先端に形成されたスリットへ差し込み、取り付ける。その後、切削、研削、研磨等の処理により、従来のPCDドリルの先端は、ドリル先端形状に成形される(
図2B参照)。
従来のPCDドリルの先端の二組の先端刃先16、16は、焼結体片20を加工することで、切れ刃チップの端面15と壁面4Aとの稜線に形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、前記従来のPCDドリルを、難削材の高能率穴あけ加工に用いた場合には、刃先の欠損等によって工具寿命が短命であるという問題点がある。特に、Al合金、Ti合金、セラミックス、CFRP等の難削材或いはこれらの複合材料等の高能率穴あけ加工においては、この問題点が深刻であり、工具寿命の長寿命化が望まれていた。
これは、ドリル刃先中心では、被削材に対する押し付け力が大きいため、刃先中心には強度・靭性が求められる一方、ドリル刃先外周では、切削速度が速くなるため摩耗が進行しやすく、耐摩耗性が求められるところ、強度・靭性および耐摩耗性を同時に満足する刃先が得られていないということがその要因の一つであるといえる。
また、従来のPCDドリルにおいては、摩耗の進行とともに溶着が激しくなるため、長期の使用に亘って、すぐれた仕上げ面精度を維持することができないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者等は、Al合金、Ti合金、セラミックス、CFRP等の難削材或いはこれらの複合材料の高能率穴あけ加工に用いた場合に、刃先の欠損等の異常損傷を生じることなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するPCDドリルについて鋭意研究を行った結果、以下のことを見出した。
PCDドリルの刃先先端を構成するPCDからからなる切れ刃チップについて、その焼結組織を切れ刃チップの部位に応じた異なる組織とし、例えば、切れ刃チップ中心部については、強度・靭性に優れたCo含有量の相対的に多い微粒組織として形成し、一方、切れ刃チップ外周部については、耐摩耗性の優れたCo含有量が相対的に少ない粗粒組織として形成することにより、強度・靭性にすぐれ、かつ、耐摩耗性に優れるPCDドリルを得られる。
PCDドリルの刃先先端に切れ刃チップを取り付けるにあたり、ドリルの切れ刃稜線と、前記切れ刃稜線と交わる前記切れ刃チップに形成された異なる焼結組織相互の界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角を90度未満とすることによって、より一段と強度・靭性、耐摩耗性に優れたPCDドリルを得られる。
【0014】
この発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、以下の態様を有している。
(1)ドリル本体と、前記ドリル本体の刃先先端に取り付けられた切れ刃チップを備えるPCDドリルであって、前記切れ刃チップは、ダイヤモンド粉末を超高圧で焼結した多結晶ダイヤモンド基焼結体であり、前記切れ刃チップは、前記切れ刃チップ中心部からその外周部にかけて少なくとも複数の異なった焼結組織から構成され、前記異なった焼結組織の界面によって区画される切れ刃チップ中心部は微粒組織、一方、切れ刃チップ外周部は前記微粒組織よりも平均粒径の大きい粗粒組織からなり、
前記切れ刃チップ中心部の多結晶ダイヤモンド基焼結組織のCo含有量は18面積%以上、ダイヤモンド粒子の平均粒径は5μm未満であり、前記切れ刃チップ外周部の多結晶ダイヤモンド基焼結組織のCo含有量は15面積%以下、ダイヤモンド粒子の平均粒径は5μm以上であり、前記PCDドリルの切れ刃稜線と、前記切れ刃稜線と交わる前記焼結組織の界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角が90度未満であることを特徴とするPCDドリル。
(2)前記切れ刃チップ内部の前記結晶組織の界面は、PCDドリルの軸方向に対して平行である前記
(1)記載のPCDドリル。
【発明の効果】
【0015】
本発明のPCDドリルは、PCDドリルの刃先先端を構成する切れ刃チップについて、その焼結組織を切れ刃チップの部位に応じた異なる組織としている。切れ刃チップ中心部については、強度・靭性に優れたCo含有量の相対的に多い微粒組織として形成し、一方、切れ刃チップ外周部については、耐摩耗性の優れたCo含有量が相対的に少ない粗粒組織として形成している。これらにより、強度・靭性にすぐれ、かつ、耐摩耗性に優れるPCDドリルを得ることができる。
さらに、PCDドリルの刃先先端に切れ刃チップを取り付けるにあたり、ドリルの切れ刃稜線と、前記切れ刃チップに形成された異なる焼結組織相互の界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角を90度未満とすることによって、より一段と強度・靭性、耐摩耗性に優れたPCDドリルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来のPCDドリルにおいては、Co含有量が少なく粗粒組織を示す高耐摩耗性PCDを用いた場合には、刃先先端のドリル中心部に大きな押し付け力が作用するため、欠損等の異常損傷を発生し、工具寿命は短命であった。
一方、Co含有量が多く微粒組織を示す高強度・高靭性PCDを用いた場合には、欠損等の発生は減少するものの耐摩耗性が十分でないため、やはり工具寿命は短命であった。
【0018】
そこで、この発明では、難削材の高能率穴あけ切削加工に応えるべく、以下に説明するPCDドリルの切れ刃チップの改良を行った。その結果、高強度・高靭性と耐摩耗性を兼ね備えるとともに、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するPCDドリルを得た。
【0019】
以下、図面に沿って本発明の実施形態を説明する。なお、一般的なドリルおよび従来のPCDドリルと同様の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
図4Aは、本発明の態様の実施形態であるPCDドリル31の刃先先端の拡大正面図を示す。
図4Bは本実施形態のPCDドリル31の刃先部の拡大側面図を示す。このPCDドリル31の先端には切れ刃チップ37が取り付けられている。
本発明の態様であるPCDドリル31は、はめ込まれる切れ刃チップが複数の異なった多結晶ダイヤモンド焼結組織から構成される点で、従来のPCDドリルと異なっている。切れ刃チップ37の先端面35は、切れ刃チップ中心部35Bおよび切れ刃チップ外周部35Aからなる。前記異なった焼結組織の界面によって区画される切れ刃チップ中心部35Bは微粒組織、一方、切れ刃チップ外周部35Aは前記微粒組織よりも平均粒径の大きい粗粒組織からなっている。そして、前記PCDドリルの切れ刃稜線36と、前記切れ刃稜線と交わる前記焼結組織の界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角θが90度未満である。
【0020】
図5Aから
図5Eに本発明の切れ刃チップの作製手順の概要を示す。まず、特性の異なる複数種類のダイヤモンド粉末成形体を積層し、これを所定の厚さに一体に焼結した複層PCD(
図5A参照)を作製する。
図5Aは、本発明のPCDドリル作製に使用される複層PCD基焼結体を示す。この複層PCD基焼結体は、例えば
図5Aに示したように円筒形状を持つ。この複層PCD基焼結体は、平面に形成された高靱性のPCD層38と、その上下に形成された高耐摩耗性PCD層39、39を有する。
この複層PCD基焼結体を厚さ斜め方向にほぼ平行にスライスして、例えば0.5mm〜2.0mm厚程度のチップ素材を作製し(
図5Bおよび
図5C参照)する。そして、このチップ素材から所定の形状、例えば台形形状、の焼結体片40を切り出す(
図5D参照)ことによって、複数の特性を相兼ね備えた複層PCDからなる切れ刃チップを作製する。
つまり、種類の異なるPCDの焼結組織が相隣接することで形成される界面を境として、切れ刃チップの中心部35Bと外周部35Aでは、それぞれ異なった焼結組織・特性を備える複層PCDからなる切れ刃チップ37を作製する。
この切れ刃チップ37は、
図5Eに示すように、ドリル先端部に形成されたスリットに取り付けられる。その後、切削、研削、研磨等の処理により、本発明のPCDドリル31の先端は、ドリル先端形状に成形される(
図4Aおよび
図4B参照)。
この切れ刃チップを、
図4Aに示すように、ドリルの切れ刃稜線と、前記切れ刃稜線と交わる前記焼結組織の界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角θが90度未満となるようにドリルの刃先先端に取り付けることによって、本発明のPCDドリル31を作製する。
また、本願発明の態様であるPCDドリルでは、切れ刃チップ内部に形成されている前記結晶組織の界面は、PCDドリル31の軸方向に対して平行となるようにドリルの刃先先端に取り付けられている。
【0021】
複層PCDとしては、例えば、
図5Aに示すように、2種類のダイヤモンド粉末成形体を用い、内側のダイヤモンド粉末成形体としては、Co含有量が多く(例えば、焼結体中で18面積%以上を占める)、焼結後の組織が微粒組織となるダイヤモンド粉末成形体を用い、一方、内側のダイヤモンド粉末成形体を挟み込んでいる外側のダイヤモンド粉末成形体としては、Co含有量が少なく(例えば、焼結体中で15面積%以下である)、焼結後の組織が粗粒組織となるダイヤモンド粉末成形体を用いる。
このような積層構造の複層PCDから切れ刃チップを用いてPCDドリル31を作製した場合には、穴あけ加工時に大きな押し付け力が作用する切れ刃チップの中心部35Bにおいては高強度・高靭性が発揮され、一方、切削速度が大きく摩耗が進行し易い切れ刃チップの外周部35Aでは、すぐれた耐摩耗性が発揮されることによって、Al合金、Ti合金、セラミックス、CFRP等の難削材或いはこれらの複合材料の高能率穴あけ加工に用いた場合でも、刃先の欠損等の異常損傷を生じることなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
【0022】
切れ刃チップの中心部における焼結組織を微粒組織、また、Co含有量を18面積%以上としたのは、Co含有量を18面積%以上とすることでダイヤモンド粒子より靭性の高いCoが焼結組織中に連続的にネットワーク状に存在することが可能になり、焼結体全体の靭性を改善する効果を得ることができるという理由による。さらに微粒にすることでCoのネットワークが複雑になり、靭性が改善する。粗粒であると刃先に衝撃が加わった時にダイヤモンド粒子自体が破損して切削加工に問題が生じる程度のチッピング(刃こぼれ)が発生するが、微粒になると仮にダイヤモンド粒子が脱落しても刃先を鋭利に保つことが可能になる。
一方、切れ刃チップの外周部における焼結組織を粗粒組織、また、Co含有量を15面積%以下としたのは、以下の理由による。まず、粗粒にすることでダイヤモンド粒子自身のもつ高い耐摩耗性を発揮することが可能になる。また、Co含有量を15面積%以下とすることでダイヤモンド粒子同士のネッキングが発達し、ダイヤモンド粒子の脱落を防止することが可能になる。その結果、シャープな刃先を長期に保つことが可能なるので、CFRPの切削においてデラミネーションを防止でき、Al合金、Ti合金、セラミックス等の難削材の切削において切削抵抗を下げることが可能になる。
なお、本発明の「微粒」とは、ダイヤモンド粒子の平均粒径が5μm未満のものをいい、一方、「粗粒」とは、ダイヤモンド粒子の平均粒径が5μm以上であることをいう。
【0023】
さらに、本発明の態様のPCDドリルでは、切れ刃チップを刃先先端に取り付ける際に、ドリルの切れ刃稜線と、この切れ刃稜線と交わる、種類の異なるPCDの焼結組織が相隣接することで形成された界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角θが90度未満としている。これは、複層PCDをスライス加工する際に、
図5Cに示されるように、複層PCDの水平面に対して、所定の傾斜角度をもって斜めにスライスし、平行四辺形形状の切れ刃チップを得るようにすればよい。斜めにスライスした際の傾斜角度が、本発明の態様のPCDドリルでいう前記交差角θに相当する。
本発明で、複層PCDの水平面に対して、斜めにスライスして平行四辺形形状の切れ刃チップを作製する(即ち、本発明でいう前記交差角θを90度未満とする)のは、交差角θが90度であると摩耗が進行した場合に異なる組織の境界で段差が発生し、境界からの異常損傷の原因となるためである。一方、交差角θを鋭角とするのは、摩耗が進行しても境界の位置が変化するだけで段差は発生しないため、異常損傷が発生しないという理由による。
なお、前記交差角θは、好ましくは10〜60度であり、さらに好ましくは、10〜30度である。これは、10度未満になると摩耗進行によって複層PCD構造を維持することができず、60度を超えると境界で段差が発生する可能性が高くなるという理由による。
【0024】
複層PCDからなる切れ刃チップ37をドリル刃先先端に取り付けるには、例えば、Ti入り活性金属ろう材(60Ag−24Cu−14In−2Ti)を用いてろう付けすればよいが、これに限らず、従来知られている接合手段を用いることもできる。
【0025】
ドリル刃先先端に取り付けた複層PCDからなる切れ刃チップ37を、所定のドリル形状に加工するためには、例えば、ダイヤモンド砥石を用いて加工することができるが、複層PCDは加工性が非常に悪いため、加工効率改善を図る上では、放電機構のついた研削装置を使用することも可能である。
【0026】
高靱性のPCD層38に含まれるダイヤモンド粒子は微粒組織を有し、その平均粒径は例えば5μm未満である。より好適な高靱性のPCD層38に含まれるダイヤモンド粒子の平均粒径の範囲は、0.5μmから5μm未満である。さらにより好適な範囲は1μmから3μmである。
また、高靱性のPCD層38に含まれるCo含有量は高く、研磨面でのCo含有量は、例えば18面積%以上である。より好適な高靱性のPCD層38に含まれるCo含有量の範囲は、18面積%から30面積%である。さらにより好適な範囲は、18面積%から25面積%である。
【0027】
高耐摩耗性のPCD層39に含まれるダイヤモンド粒子は、前記高靱性のPCD層38よりも粗い粗粒組織を有する。その平均粒径は例えば5μm以上である。より好適な高耐摩耗性のPCD層39に含まれるダイヤモンド粒子の平均粒径の範囲は、5μmから30μmである。さらにより好適な範囲は10μmから20μmである。
また、高耐摩耗性のPCD層39に含まれるCo含有量は低く、研磨面でのCo含有量は、例えば15面積%以下である。より好適な高耐摩耗性のPCD層39に含まれるCo含有量の範囲は、5面積%から15面積%である。さらにより好適な範囲は、8面積%から12面積%である。
【0028】
複層PCD基焼結体に含まれる高靱性のPCD層38および高耐摩耗性PCD層39の平均粒径およびCo含有量は以下の方法で測定することができる。
まず、ワイヤ放電加工機により複層PCD基焼結体または切れ刃チップを切断する。次に、得られた切断面をダイヤモンド砥石で研磨加工し仕上げ前研磨面を得る。次に、得られた仕上げ前研磨面を#5000の砥石を用いて仕上げ加工し、仕上げ後研磨面を得る。測定には少なくとも、縦0.5mm、横0.7mmの仕上げ後研磨面が必要とされる。
【0029】
次に、この仕上げ後研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像で観察して組織図を得る。分析は、試料の表面の反射電子像を得るために必要とされる一般的な条件で行うことができる。例えば、電子ビームの出力は15kV、1×10
−8A、観察領域の面積は0.35mm
2、検出器には電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)を用いる条件で行うことができる。次に、得られた組織図を画像処理して二値化処理し、白黒の組織図を得る。
SEMで得られる反射電子像は、原子量によってコントラストがつくため、PCDのように原子量の小さいダイヤモンドと、原子量の大きいCoの識別には二次電子像よりも適している。
【0030】
複層PCD基焼結体に含まれる高靱性のPCD層38および高耐摩耗性PCD層39に含まれるダイヤモンド粒子の平均粒径は、この白黒の組織図に長さ100μmの直線を引き、この直線内にいくつのダイヤモンド粒子が含まれているかを数えることで求める。100μmをダイヤモンド粒子の個数で除算することで、ダイヤモンド粒子の平均粒径が得られる。
【0031】
複層PCD基焼結体に含まれる高靱性のPCD層38および高耐摩耗性PCD層39に含まれるCo含有量は、白黒の組織図中の200μm×300μmの領域内のCoに相当する部分(白色部)の面積を求め、観察領域の面積に対する、Coに相当する部分の面積の割合を求めることで、得られる。
【0032】
切れ刃稜線部36と、異なる焼結組織の界面とがなす交差角θの測定は、PCDドリルの先端部を、PCDドリル先端部側から、PCDドリルの軸方向で、光学顕微鏡を用いて観察することで行うことができる。この光学顕微鏡には、一般的な光学顕微鏡を用いれば良い。測定条件は、ドリル先端部の正面全域が視野に入る条件であれば良い。倍率は例えば、200倍である。異なる焼結組織の界面は、ダイヤモンド粒子径の違いとCo含有量の違いから光沢等の違いで容易に識別でき、略直線を引くことが可能であるので、光学顕微鏡による観察で特定することができる。特定された焼結組織の界面と、その界面に交わる切れ刃稜線36とがなす交差角のうち、切れ刃チップ中心部側の交差角を測定することで、交差角θの値を得ることができる。
【0033】
つぎに、本発明の態様のPCDドリルを実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0034】
まず、以下の(a)〜(g)の工程に従って、本発明PCDドリル1〜10を作製した。
(a)表1に示す平均粒径及び配合割合のダイヤモンド粉末とCo粉末を原料粉末として、溶媒としてアセトンを使用し、超硬合金製のポットに装入し、同じく超硬合金製のボールにて、湿式法で24時間混合する。
(b)前記で得られた混合粉末を真空中で乾燥し、その後、成形型中で200MPaで加圧し、円板状の成形体Aを作製する。
(c)表1に示す平均粒径のダイヤモンド粉末とCo粉末からなる原料粉末を、前記(a)〜(b)と同様にして、成形体AとCo含有量の異なる成形体Bを作製する。
(d)成形体Aの上下に成形体Bを配置し、成形体Aを成形体Bでサンドイッチ状態にして挟み込み、Taカプセルに封入し、圧力5.5GPa、温度1600℃、保持時間10分の条件で超高圧高温処理して、円板状の複層PCD1〜10を作製する。(
図5A参照)
表2に、前記で得られた複層PCDにおける成形体A部分の厚さおよび成形体B部分の厚さを示す。
(e)前記円板状の複層PCDについて、その厚さ方向に対して傾斜するようにワイヤ放電加工機でスライスすることにより、平行四辺形の短冊状焼結体片(切れ刃チップ)を作製する。(
図5B、および
図5C参照)
(f)得られた前記平行四辺形の短冊状焼結体片(切れ刃チップ)を、超硬合金製ドリル本体あるいは高速度鋼製ドリル本体の先端に予め形成しておいたスリットに差し込み、Ti入り活性金属ろう材(60Ag−24Cu−14In−2Ti)でろう付けする(
図5Dおよび
図5E参照)。
なお、スリット形状によっては、スリットへの差し込み時に焼結体片にクラックが入ることがあるが、その場合には、Cu薄板をろう付け部に配して内部応力の発生を緩和することにより、焼結体片のクラックの発生を防止すれば良い。
(g)ドリル刃先先端をダイヤモンド砥石で所定ドリル形状に加工することにより、切れ刃チップ中心部からその外周部にかけて異なった焼結組織を備え、かつ、切れ刃稜線部に対して焼結組織の界面がなす角度が90度未満である切れ刃チップが刃先先端に取り付けられた本発明PCDドリル1〜10を作製した。
【0035】
表3に、本発明PCDドリル1〜10について測定した、切れ刃チップ中心部と外周部の焼結組織を示す。また、切れ刃稜線部と、この切れ刃稜線部と交わる焼結組織の界面とがなす交差角のうち、前記切れ刃チップ中心部側の交差角をそれぞれ示す。
焼結組織としてのダイヤモンド粒径、Co含有量の測定は、以下のようにして行った。ワイヤ放電加工機により切断した面をダイヤモンド砥石で研磨加工し研磨面を得た。仕上げには#5000の砥石を用いた。研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像で観察して組織図を得た。さらに画像処理ソフトを使用して二値化処理し、白黒の組織図を得た。反射電子像は、原子量によってコントラストがつくため、PCDのように原子量の小さいダイヤモンドと大きいCoの識別には二次電子像より適している。ダイヤモンド粒径は組織図に直線を引き、長さ100μmの直線にいくつの粒子が含まれるか数えることで求めた。Co含有量は、組織図中のCo部(白色部)の面積を測定することで求めた。
また、切れ刃稜線部に対して焼結組織の界面がなす交差角の測定は、以下のように行った。傾斜切断したPCD素材断面を光学顕微鏡観察し、得られた図で角度の測定を行った。
【0036】
比較のため、表4に示すように円板状成形体A、円板状成形体Bの配合割合、組合せ等を変更し、また、切れ刃稜線部と焼結組織の界面とがなす交差角を変更し、前記(a)〜(g)の工程に従って、表5に示す比較例PCDドリル1〜10を作製した。
【0037】
本発明PCDドリル1〜10と同様にして、切れ刃チップ中心部と外周部の焼結組織、切れ刃稜線部と焼結組織の界面とがなす交差角を測定した。
表5にそれぞれの測定結果を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
ついで、前記本発明PCDドリル1〜10、比較例PCDドリル1〜10について、以下の切削条件1、2で、高能率穴あけ切削加工試験を実施した。
[切削条件1]
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:15mmの、Al−30%SiC複合材の板材、
ドリル径: 6.4 mm、
回転速度: 4976 min
−1、
切削速度: 100 m/min.、
送り: 0.06 mm/rev、
切削油剤: 水溶性切削油、
の条件でのAl−30%SiC複合板材の湿式穴あけ切削加工試験、
[切削条件2]
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:8mmの、アルミナ半焼体板材、
ドリル径: 5 mm、
回転速度: 1592 min
−1、
切削速度: 25 m/min.、
送り: 0.05 mm/rev、
切削油剤: 水溶性切削油、
の条件でのアルミナ半焼体板材の湿式穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも穴あけ加工数(穴)を求めた。
表6に、試験結果を示す。
【0044】
【表6】
【0045】
表3、5、6に示される結果から、本発明のPCDドリルは、PCDドリルの刃先先端を構成する切れ刃チップについて、その焼結組織を切れ刃チップの部位に応じた異なる組織とし、切れ刃チップ中心部については、強度・靭性に優れたCo含有量の相対的に多い微粒組織として形成し、一方、切れ刃チップ外周部については、耐摩耗性の優れたCo含有量が相対的に少ない粗粒組織として形成することにより、強度・靭性にすぐれ、かつ、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
加えて、PCDドリルの刃先先端に切れ刃チップを取り付けるにあたり、ドリルの切れ刃稜線に対して、前記切れ刃チップに形成された異なる焼結組織相互の界面がなす傾斜角を90度未満とすることによって、より一段と強度・靭性、耐摩耗性が向上する。
これに対して、本発明で規定する範囲から外れた比較例PCDドリルでは、刃先先端の切れ刃チップの欠損発生、耐摩耗性不足等により、短時間で使用寿命に至ることは明らかである。