(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0004】
サーカディアンリズム(Circadian rhythm:「概日リズム」ともいう。)は、約24時間周期で変動する生理現象で、動物、植物、菌類、藻類などのほとんどの生物に存在していることが知られている。厳密な意味では、サーカディアンリズムは内在的に形成されるものであるが、光や温度などの外界からの刺激によって、修正されることが知られている。近年、サーカディアンリズムの変調と、睡眠障害、肥満症、脂質異常症、高血圧など多くの生活習慣病との関連が指摘されており、サーカディアンリズムを適正な状態に補正することは、これらの生活習慣病の予防に役立つと考えられる。
【0005】
サーカディアンリズム中枢である視交叉上核は、環境因子として夜間の光曝露に最も影響を受ける。また松果体ホルモンであるメラトニン(「眠りのホルモン」ともいわれている。)は、夜間の光曝露によってその分泌が抑制される。視交叉上核は、特に短波長の光(青色光)により、より大きな影響を受けることが知られている。
【0006】
具体的には、目から入った強い光刺激による信号は、網膜から脳の視床下部にある視交叉上核に伝達され、ここで上記信号により体内時計がリセットされる。さらに上記信号は視交叉上核から視床下部室傍核、脊髄、上頚、神経節の順に伝達され、最終的に松果体に伝達される。松果体に上記信号が伝達されると、メラトニンの分泌が抑制される。強い光刺激により体内時計が一度リセットされると、リセットから14から16時間後に松果体からメラトニンが分泌される。
【0007】
したがって、強い光刺激は生体のサーカディアンリズムに大きな影響を及ぼすため、生体のサーカディアンリズムを測定する際に、その生体が受けた光量(「光曝露量」という。)を同時に測定することが重要であるといえる。特に、その生体の目が受けた光量を、サーカディアンリズムと同時に測定することが理想的である。
【0008】
そこで、被験体のサーカディアンリズムを測定する際に、測定室に据え置き型の照度センサを設置し、測定室内照度を同時に測定することが行われる場合がある。しかし、この方法では測定室内における照度は測定できるが、あくまでこれは測定室の照度であって、その被験体の個人レベルでの光曝露量を正確に測定することができない。
【0009】
非特許文献1には、体動を測定するための加速度計と照度センサとを備えた腕時計型(リストバンド型)の活動量計が開示され、該活動量計がサーカディアンリズムの研究に有効であることが記載されている。非特許文献1に記載された活動量計では、照度センサが手首に取り付けられるため、確かに被験体の個人レベルでの光曝露量は測定できる。しかし、手首の角度によっては測定装置の受光部に光が当たらない場合があったり、被験体の着衣が照度計の受光部を覆ってしまう場合があったり、就床後の測定では布団が照度計の受光部を覆ってしまう場合があったりする。このため、被験体の光曝露量を正確に測定することができない場合があった。さらに非特許文献1に記載の測定装置では、被験体の手首の光曝露量を測定しているに過ぎず、被験体の目の光曝露量と一致しない場合がある。
【0010】
一方、特許文献1には、眼鏡のフレームに照度センサが付設された顔面センサが開示されている。特許文献1に記載された顔面センサの斜視図を
図10に示す。
図10に記載された顔面センサは、メガネフレームに照度センサ40およびフード50が付設されてなるものである。また非特許文献2には、眼鏡フレームやカチューシャに、可視光センサと青色光センサとが付設された光曝露量測定装置が開示されている。
【0011】
特許文献1および非特許文献2に記載された測定装置では、照度センサの受光部が被験体の目近傍に固定されているため、被験体の目が受ける光曝露量に近い測定(「目レベルでの光曝露量測定」)が可能である。しかし、特許文献1および非特許文献2に記載された測定装置では、被験体が測定装置を装着しているかどうかを把握することができず、例え被験体が測定装置を意図的に装着せずに、室内に測定装置を放置していたとしても、一定の測定データが取得されてしまい、その測定データが被験体の目レベルでの真の光曝露量であるかどうかを確かめることはできない。このため、信頼性の高い光曝露量の測定を実施するためには、被験体を監視しながら、光曝露量の測定を行わなければならないといえる。サーカディアンリズムや光曝露量の測定は、被験体の日常生活において測定することにむしろ意義があるため、監視下でこれらを測定することは必ずしも適切でない場合がある。また、被験体数が多くなればなるほど、監視下での測定は現実的でない。
【0012】
なお、特許文献1に記載されている発明は、人の覚醒を目的とする照明制御システムに関するものであり、基本的に就床後に上記顔面センサを利用することをそもそも想定していない。また、非特許文献2に記載された発明では、就床後は測定装置を体よりはずして、測定装置をベッドサイドに置いて測定することが記載されている(非特許文献2の第14ページを参照のこと。)。
【0013】
ところで、近年、サーカディアンリズムを応用した照明システムが実用化されている(例えば、非特許文献3〜6を参照のこと。)。例えば、非特許文献3には、覚醒感を持続させるために午前中から午後早い時間帯は色温度を上げ、午後から夕方にかけて除々に低照度および低色温度の光に変化させ、夜間は低照度および低色温度の光で、省エネと同時にサーカディアンリズムに配慮するように制御する照明システムが開示されている。
【0014】
しかし、非特許文献3〜6に開示されたような照明システムは、一定のプログラムによって照度や光波長を制御しているものであり、個人レベルでサーカディアンリズムを最適化するような照明システムとはなっていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述のように、目レベルでの光曝露量の測定が可能な従来公知の光曝露量測定装置では、被験体を監視しながら測定を行わない限り、測定装置の装着は被験体の意思に委ねられており、被験体が装置を未装着のまま測定を行ったとしてもこれを確かめることができない。それ故に、被験体の光曝露量の正確な測定が行われていない場合があり、取得されたデータの信頼性が低い場合がある。
【0018】
さらに、従来公知の光曝露量測定装置は、就床後の測定を想定していないか、または想定していたとしても測定装置を非装着の状態で光曝露量の測定が行われていたため、就床後の光曝露量の測定が行われない、または正確に測定が行われていない場合があった。特に就寝前の数時間および就床後にトイレへ行くため等の起床による光曝露が、サーカディアンリズムに重要な影響を及ぼすため、就寝前や就床後にトイレに行くため等の起床による光曝露量の測定を正確に行うことは大きな意味を持っている。
【0019】
また、目レベルでの光曝露量の測定が可能な従来公知の光曝露量測定装置では、被験体の体動までは十分に把握することができない。
【0020】
したがって、本発明は、測定中における光曝露量測定装置の装着の有無を確認できる、光曝露量測定装置を提供することを目的とした。また本発明は、上記光曝露量測定装置を用いた光曝露量の測定方法、当該光曝露量測定装置を備えたサーカディアンリズム測定装置、サーカディアンリズムの測定方法をも提供する。さらに、本発明は、上記サーカディアンリズム測定装置を用いた照明システム、および照明方法をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために。鋭意検討した結果、温度センサや加速度センサを利用することにより、測定装置の装着の有無を判定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
【0022】
本発明にかかる光曝露量測定装置は、上記課題を解決するために、被験体の光曝露量を測定するための照度センサと、被験体が光曝露量測定装置を装着しているかどうかを判定し得る装着判定センサと、該照度センサおよび該装着判定センサが付設され、かつ該照度センサおよび該装着判定センサを被験体の目の高さ領域に固定するとともに、該照度センサが被験体の視野方向からの光を検出可能となるように固定するための固定用部材と、を少なくとも備えることを特徴としている。
【0023】
また本発明にかかる光曝露量測定装置において、上記装着判定センサは、温度センサおよび加速度センサのいずれか1つ以上であってもよい。
【0024】
また本発明にかかる光曝露量測定装置において、上記照度センサは、可視光域センサおよび光波長380nm〜495nmの青色光域センサのいずれか1つ以上からなるものであってもよい。
【0025】
また本発明にかかる光曝露量測定装置においては、被験体の光曝露量と、体温および体動のいずれか1つ以上との経時的測定が可能であってもよい。
【0026】
また本発明にかかる光曝露量測定装置における上記固定用部材は、帯状部材またはリング状部材であってもよい。
【0027】
また本発明にかかる光曝露量測定装置は、測定データを記録するための記録部をさらに備えていてもよい。
【0028】
また本発明は、上記本発明にかかる光曝露量測定装置を用いることを特徴とする、被験体の光曝露量の測定方法をも包含する。
【0029】
また本発明は、上記本発明にかかる光曝露量測定装置と、サーカディアンリズム測定部と、を少なくとも備える、サーカディアンリズム測定装置をも包含する。
【0030】
また本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置における上記サーカディアンリズム測定部は、被験体の末梢体温を測定可能となっていてもよい。
【0031】
また本発明は、上記本発明にかかる記載のサーカディアンリズム測定装置を用いることを特徴とする、被験体のサーカディアンリズムの測定方法をも包含する。
【0032】
また本発明は、上記本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置と、照度および光波長が調整可能な光出力部と、該光出力部の照度および光波長を制御する制御部と、該サーカディアンリズム測定装置によって測定された測定サーカディアンリズムと、所望の目標サーカディアンリズムとを比較し、測定サーカディアンリズムが目標サーカディアンリズムからずれている場合に、測定サーカディアンリズムを目標サーカディアンリズムに一致させるような照度および光波長を決定する決定部と、を少なくとも備え、該制御部は、該決定部によって決定された照度および光波長の情報に基づいて、光出力部の照度および光波長を制御することを特徴とする、照明システムをも包含する。
【0033】
さらに本発明は以下の照明方法をも包含する。
(i)上記本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置によって測定された測定サーカディアンリズムと、所望の目標サーカディアンリズムとを比較し、
(ii)測定サーカディアンリズムが目標サーカディアンリズムからずれている場合に、測定サーカディアンリズムを目標サーカディアンリズムに一致させるような照度および光波長を決定し、
(iii)前記(ii)で決定された照度および光波長の情報に基づいて、照明の照度および光波長を制御することを特徴とする、照明方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明にかかる光曝露量測定装置によれば、装着判定センサによって、光曝露量測定装置の装着の有無を確認しながら、光曝露量を測定することができる。このため、より信頼性の高い、光曝露量のデータ取得が可能となる。
【0035】
また、本発明にかかる光曝露量の測定方法は、上記光曝露量測定装置を利用して実施されるため、装着判定センサによって、光曝露量測定装置の装着の有無を確認しながら、光曝露量を測定することができる。このため、より信頼性の高い、光曝露量のデータ取得が可能となる。
【0036】
また、本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置は、上記光曝露量測定装置を備えている。このため、装着判定センサによって、サーカディアンリズム測定装置(光曝露量測定装置)の装着の有無を確認しながら、光曝露量およびサーカディアンリズムを測定することができる。このため、より信頼性の高い、光曝露量およびサーカディアンリズムのデータ取得が可能となる。
【0037】
また、本発明にかかるサーカディアンリズム測定方法は、上記サーカディアンリズム測定装置を利用して実施されるため、装着判定センサによって、サーカディアンリズム測定装置(光曝露量測定装置)の装着の有無を確認しながら、光曝露量およびサーカディアンリズムを測定することができる。
【0038】
また、本発明にかかる照明システムは、上記サーカディアンリズム測定装置を利用しているため、サーカディアンリズム測定装置(光曝露量測定装置)の装着の有無を確認しながら、光曝露量およびサーカディアンリズムを測定することができる。このため、利用者が装置を装着した場合に、該利用者に適した照度および光波長を決定し、これに応じた照明を提供することができる。例えば、病室において、患者ごとに適した照明を提供することができ、サーカディアンリズムの適正化による治療効果が期待される。また、例えば、職場環境に本発明にかかる照明システムを職場環境に適用することによって、各従業者に適した照明を提供することができ、作業効率の向上などが期待される。
【0039】
また、本発明にかかる照明方法は、上記サーカディアンリズム測定装置を利用しているため、装置の装着の有無を確認しながら、光曝露量およびサーカディアンリズムを測定することができる。このため、利用者が装置を装着した場合に、該利用者に適した照度および光波長を決定し、これに応じた照明を提供することができる。例えば、病室において、患者ごとに適した照明を提供することができ、サーカディアンリズムの適正化による治療効果が期待される。また、例えば、本発明にかかる照明システムを職場環境に適用することによって、各従業者に適した照明を提供することができ、作業効率の向上などが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0042】
なお、本明細書において、範囲を示す「〜」は特記しない限り「以上、以下」を示す。例えば「A〜B」と表記すれば、「A以上B以下」を意味する。
【0043】
本明細書において、「被験体」とは光曝露量やサーカディアンリズムの測定が行われる対象の生体を意味する。被験体は、ヒトに限られず、サーカディアンリズムを有する全ての生体(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、およびサル等の非ヒト哺乳動物)が含まれる意味である。なお、被験体がヒトの場合には、被験体を「被験者」と表現することができる。
【0044】
さらに、本明細書において、「就寝前」とは「就床」の前の時期を言い、「就床後」とは「就床」の後の時期で「起床」までの時期を指し、「睡眠中」が含まれる意味である。
【0045】
〔実施形態1〕光曝露量測定装置および光曝露量の測定方法
本発明にかかる光曝露量測定装置は、被験体の光曝露量を測定するための照度センサと、被験体が光曝露量測定装置を装着しているかどうかを判定し得る装着判定センサと、該照度センサおよび該装着判定センサが付設され、かつ該照度センサおよび該装着判定センサを被験体の目の高さ領域に固定するとともに、該照度センサが被験体の視野方向からの光を検出可能となるように固定するための固定用部材と、を少なくとも備えることを特徴としている。
【0046】
ここで、上記装着判定センサは、温度センサおよび加速度センサのいずれか1つ以上であってもよい。また、上記照度センサは、可視光域センサおよび光波長380nm〜495nmの青色光域センサのいずれか1つ以上からなるものであってもよい。また本発明にかかる光曝露量測定装置は、被験体の光曝露量と、体温および体動のいずれか1つ以上との経時的測定が可能であってもよい。また、上記固定用部材は、帯状部材またはリング状部材であってもよい。また本発明にかかる光曝露量測定装置は、測定データを記録するための記録部をさらに備えていてもよい。
【0047】
次に、
図1を用いて本発明にかかる光曝露量測定装置を、より具体的に説明する。なお、
図1はあくまで本発明の一実施形態にかかる光曝露量測定措置に関するものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
図1に記載された光曝露量測定装置(10)は、サーカディアンリズム測定において好ましく利用され得る光曝露量測定機器の斜視図であり、ヘアバンド(6)に、可視光域センサ(2)および青色光域センサ(3)からなる照度センサ(1)、ロガー型温度センサ(7)およびロガー型3軸加速度センサ(8)が付設されている。
【0049】
ここで、上記照度センサ(1)は、被験体が受けた光の量(すなわち「光曝露量」)を測定するための部材である。
図1に記載された光曝露量測定装置(10)においては、可視光域センサ(2)および青色光域センサ(3)から照度センサ(1)が構成されている。ここで可視光域センサ(2)とは、可視光域の波長の光を検出できるセンサのことを意味する。「可視光」とはいわゆる人の目で見える光のことであり、その光波長の下界はおおよそ360〜400nmで、上界はおおよそ760〜830nmである。つまり、可視光域センサ(2)は、およそ360〜830nmの波長範囲の光線を検出し得るセンサであるといえる。
【0050】
また上記青色光域センサ(3)とは、青色光域の波長の光を検出できるセンサのことを意味する。「青色光」とは(「ブルーライト」とも呼ばれる。)青色を発する電磁波で、その波長範囲はおよそ380〜495nmである。なお、用いるセンサの受光素子の感度領域が上記「青色光」より広い場合は、上記波長領域に制限するフィルタを備えることが好ましい。センサの感度領域が380nmより短波長側に感度が広い場合は短波長カットフィルタ(「シャープカットフィルタ」とも言う。)を用いることが好ましく、センサの感度領域が495nmより長波長側に感度が広い場合は長波長カットフィルタを用いることが好ましく、センサの感度領域が短波長と長波長の両側に感度が広い場合はバンドパスフィルタを用いることが好ましい。
【0051】
本発明にかかる光曝露量測定装置によって、被験体の光曝露量が測定できればよいため、本発明にかかる光曝露量測定装置の照度センサは、可視光域センサおよび青色光域センサのいずれか1つ以上からなるものであればよい。ただし、サーカディアンリズムは青色光によってより強く影響を受けることが知られているため、本発明にかかる光曝露量測定装置は、青色光を検出できる青色光域センサを備えていることがより好ましいといえる。
【0052】
また、曝露された可視光の総量と、その中での「青色光」比率(即ち波長のバランス)を調べるのは被験体の照明に関する生活環境を調べる上で重要であり、例えば被験体に適した波長の照明を提供するため、本発明にかかる光曝露量測定装置は、
図1に示す光曝露量測定装置(10)のごとく可視光域センサ(7)および青色光域センサ(8)の両方を備えることがさらに好ましい。
【0053】
図1に記載された光曝露量測定装置(10)では、照度センサ(1)にケーブル(5)が接続されている。ケーブル(5)は、可視光域センサ(2)および青色光域センサ(3)に対する電源供給や、測定データを記録する記録部(図示せず。)との接続のために設けられている。本発明にかかる光曝露量測定装置では、照度センサ(1)内に電池等の電源および記録部が設けられていてもよく、この場合、上記ケーブル(5)は省略され得る。
【0054】
図1に記載されている光曝露量測定装置(10)では、照度センサ(1)は面状ファスナを介してヘアバンド(6)に付設されている。なお、本発明のかかる光曝露量測定装置における照度センサの固定用部材に対する付設方法は、これに限定されるものではなく、ボタンやホック等が用いられてもよい。
【0055】
なお本発明にかかる光曝露量測定装置の照度センサのセンシング方式は特に限定されるものではなく、公知の照度センサが適宜利用され得る。また照度センサからの測定データは無線的に接続された記録部で記録されたり、その他の機器に無線的に転送されたりしてもよい。
【0056】
図1に記載された光曝露量測定装置(10)は、ロガー型温度センサ(7)を備える。かかるロガー型温度センサ(7)は、被験体が光曝露量測定装置(10)を装着したかどうかを判定するためのセンサ(「装着判定センサ」という)である。ロガー型温度センサ(7)は被験体からの熱を検知できるようになっていれば、被験体が光曝露量測定装置(10)を装着した場合に、被検体からの熱の影響によりロガー型温度センサ(7)の測定値が高くなる。一方、同装置をはずした場合に、被験体からの熱の影響がなくなるため、ロガー型温度センサ(7)の測定値が低くなる(ただし、被験体の体温付近またはそれ以上の環境温度下で測定を行うような場合を除く。)。これにより、被験体が光曝露量測定装置(10)を装着したかどうかを判定することができる。
【0057】
図1に記載された光曝露量測定装置(10)のヘアバンド(6)の被験体の皮膚と接触する側(内側)に適当な大きさのポケット(図示せず。)が設けられており、そこにロガー型温度センサ(7)が収納されている。これにより、光曝露量測定装置(10)からロガー型温度センサ(7)の着脱を容易に行うことができる。さらに、ポケットにはロガー型温度センサ(7)が被験体の皮膚と接触するように適当な大きさの孔があいている。これにより、より好感度に温度測定を行うことができる。ただし、ロガー型温度センサ(7)は、装着の有無を判定できる程度に被験体からの熱を検出できればよく、必ずしも被験体の皮膚と直接接触している必要はない。このため、上記孔が上記ポケットに存在していなくてもよい。なお本発明にかかる光曝露量測定装置において、温度センサ等の装着判定センサの付設方法は、装置の装着を判定できるようになっていれば
図1に示されるものに限定されるものではない。
【0058】
本発明にかかる光曝露量測定装置における温度センサは、特に限定されるものはなく、公知の温度センサが適宜利用され得る。また
図1ではロガー型温度センサ(7)が一例として適用されているが、ロガー型に限定されるものではない。この場合、温度センサからの測定データは、無線的に接続された記録部で記録されたり、その他の機器に無線的に転送されたりしてもよい。
【0059】
図2に、光曝露量測定装置(10)を用いて、被験体の光曝露量を測定した際に得られたチャートを示す。
図2は、12時から翌々日の12時までの48時間における可視光照度(ルクス)、青色光強度(mw/cm
2)、および温度(℃)の測定データを示す。
図2の1日目の21時(
図2の時点A)に被験体は光曝露量測定装置(10)を装着し、測定を開始した。時点Aでは被験体が光曝露量測定装置(10)を装着したために、温度データが高くなり、被験体が装置を装着している間は高値をキープした。また測定開始とともに可視光照度および青色光強度が高くなった。その後、被験体は22時半頃に消灯した(
図2の時点B)。このため時点Bで、可視光照度および青色光強度がゼロとなった。そして被験体は2時半ごろに、トイレへ行った(
図2の時点C)。このため時点Cでは、可視光照度および青色光強度が一時的に高くなった。その後、被験体は7時半ごろに起床し、光曝露量測定装置(10)をはずした(
図2時点D)。このため、時点Dでは可視光照度および青色光強度が高くなるとともに、温度データは低値を示すようになった。よって、光曝露量測定装置(10)によって、被験体の装着の有無を温度データによって確認しながら、被験体の光曝露量を測定できるということが確認された。
【0060】
図1に記載された光曝露量測定装置(10)は、ロガー型3軸加速度センサ(8)を備える。かかるロガー型3軸加速度センサ(8)は、被験体が光曝露量測定装置(10)を装着したかどうかを判定するためのセンサ(「装着判定センサ」という)として機能するとともに、被験体の体動(被験体の動き)を測定するためのセンサとしても機能する。
【0061】
図1に示されるロガー型3軸加速度センサ(8)は、X方向、Y方向、Z方向の3方向の加速度を測定することができるようになっており、これが被験体の頭部に固定されることにより、頭の動き(つまり「体動」)を捕捉することができるようになっている。そしてロガー型3軸加速度センサー(8)によって、頭の動きを検出することによって、光曝露量測定装置(10)が被験体に装着されていると判定することができる。さらに頭の位置から、被験体が立っているのか、寝ているのか等の体動を捕捉することができる。なお、装置の装着の有無を判定するのみであれば、3軸加速度センサである必要はなく、1軸加速度センサであってもよい。
【0062】
図1では被験体の側頭葉付近に、ヒトが立った状態で鉛直上下方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、前後方向をZ軸方向となるように、ロガー型3軸加速度センサ(8)が固定されている。なお、ロガー型3軸加速度センサ(8)が不安定であると測定データにぶれが生じるために、ロガー型3軸加速度センサ(8)はヘアバンド(6)内に安定的に固定される必要がある。
【0063】
図1に記載された光曝露量測定装置(10)のヘアバンド(6)の被験体の皮膚と接触する側(内側)に適当な大きさのポケット(図示せず。)が設けられており、そこにロガー型3軸加速度センサ(8)が収納されている。これにより、光曝露量測定装置(10)からロガー型加速度センサ(8)の脱着を容易に行うことができる。なお本発明にかかる光曝露量測定装置において、加速度センサ等の装着判定センサの付設方法は、装置の装着を判定できるようになっていれば
図1に示されるものに限定されるものではない。
【0064】
本発明にかかる光曝露量測定装置における加速度センサは、特に限定されるものはなく、公知の加速度センサが適宜利用され得る。また
図1ではロガー型3軸加速度センサ(8)が一例として適用されているが、ロガー型に限定されるものではない。この場合、加速度センサからの測定データは、無線的に接続された記録部で記録されたり、その他の機器に無線的に転送されたりしてもよい。
【0065】
図3に光曝露量測定装置(10)のロガー型3軸加速度センサ(8)を用いて、被験体の体動を測定した際に得られたチャートを示す。
図3の時点AではX軸がプラス値を示し、Y軸およびZ軸がほぼゼロの状態となっている。これは被験体が立った状態であることを示している。次に
図3の時点Bでは、X軸がほぼゼロに減少したため、頭の位置が低くなったことを示している。そしてZ軸がマイナス値に減少したため、頭の位置が後ろ方向へ移動したことを示している。この時Y軸はゼロのままである。したがってこれらのデータから、
図3の時点Bでは、被験体は仰向けに寝ていると判断される。上記と同様にして被験体の体動をチャートから判断することができる。
【0066】
なお、本発明にかかる光曝露量測定装置において、照度センサ、温度センサ、および加速度センサによる測定は、経時的測定が可能であることが好ましい。光曝露量、装着の有無、体動のデータを、同じ時間で並べて比較することができるために、各種データの解析をより詳細に行うことができる。
【0067】
なお、本発明にかかる光曝露量測定装置における装着判定センサは、上記温度センサや加速度センサに限定されず、赤外線センサや、近接センサ等も適宜適用可能である。
【0068】
次に、
図1に記載された光曝露量測定装置(10)のヘアバンド(6)を説明する。ヘアバンド(6)には、上記照度センサ(1)、ロガー型温度センサ(7)、およびロガー型3軸加速度センサ(8)が付設されている。そして、ヘアバンド(6)は、照度センサ(1)、ロガー型温度センサ(7)およびロガー型3軸加速度センサ(8)を被験体の目の高さ領域に固定するとともに、該照度センサ(1)が被験体の視野方向からの光を検出可能となるように固定するための固定用部材である。
【0069】
ここで「被験体の目の高さ領域」とは、被験体の頭部であって、目の高さ付近の領域を意味する。より具体的には、被験体の頭部であって、被験体が立った状態での眼球の中心の高さから鉛直方向に上下15cm以内(より好ましくは上下10cm以内、さらに好ましくは5cm以内)の領域を意味する。サーカディアンリズムは網膜が受ける光刺激によって影響を受けるため、目の高さ領域の光曝露量を測定することが好ましいといえる。
【0070】
また、上記固定用部材によって該照度センサ(1)が被験体の視野方向からの光を検出可能となるように固定されている。サーカディアンリズムは網膜が受ける光刺激によって影響を受けるため、被験体の視野方向からの光(被験体の視野の範囲内からの光)を検出することが重要である。
【0071】
図1に記載されたヘアバンド(6)は、照度センサ(1)、ロガー型温度センサ(7)、およびロガー型3軸加速度センサ(8)が着脱可能となっている。またヘアバンド(6)は、綿や化学繊維等のヘアバンドに通常用いられる布や、不織布等からなっている。このため、ヘアバンド(6)から、上記センサを外した後、洗濯、消毒、および殺菌を容易に行うことができ、衛生的である。また、ヘアバンド(6)は、再使用可能なタイプであっても、ディスポーザブルタイプであってもよい。ヘアバンド(6)がディスポーザブルタイプである場合には、ヘアバンド(6)は紙製で有り得、再生紙を利用したものであることがより好ましい。
【0072】
図1に記載されたヘアバンド(6)は、端部を有さないリング状部材であっても、端部を有する帯状部材であってもよい。ヘアバンド(6)がリング状部材である場合は、伸縮可能となっていることが好ましい。これにより、被験体における光曝露量測定装置(10)の装着が容易となる。また伸縮可能な範囲で、ヘアバンド(6)のサイズ調整が可能となる。一方、ヘアバンド(6)が帯状部材である場合、被験体が光曝露量測定装置(10)を装着する際に、ヘアバンド(6)の端部同士を結び付けてリング状にすればよい。端部の結び付け次第で、ヘアバンド(6)のサイズや、装着時の締め付け強さを適宜調整することができる。なお、ヘアバンド(6)の端部同士を、面状ファスナ、ホック、またはボタン等により接続してもよい。
【0073】
本発明の光曝露量測定装置において固定用部材は、上記ヘアバンド(6)に限定されるものではなく、非特許文献2に開示されているごとく、眼鏡フレームやカチューシャを光曝露量測定装置の固定用部材として用いてもよい。
図4に、本願発明にかかる光曝露量測定装置の別の実施形態として、眼鏡フレームを固定用部材として用いた例を示す。
図4に示される光曝露量測定装置(11)では、眼鏡フレーム(6’)が固定用部材として用いられ、眼鏡フレーム(6’)のつる部分に上記照度センサ(1)およびロガー型温度センサ(7)が付設されている。なお、
図4に記載された光曝露量測定装置(11)には、上記センサの他にロガー型3軸加速度センサ(8)がさらに付設されていてもよい。ただし、眼鏡フレームやカチューシャを固定用部材として用いた場合には、睡眠中に光曝露量測定装置の装着が困難な場合がある。一方、就寝前や就床後にトイレへ行くため等の起床による光曝露量は、サーカディアンリズムに与える重要なファクターであるため、継続して測定を実施することが好ましいといえる。これに対して、
図1に記載されたヘアバンド(6)であれば、就寝前や就床後の光曝露量測定装置の装着は十分に可能である。このため、ヘアバンド(6)を固定用部材として用いることはより好ましい態様であるといえる。
【0074】
本発明は、上記説示した光曝露量測定装置を用いた、被験体の光曝露量の測定方法をも包含する。光曝露量測定装置を被験体の頭部に装着し測定を開始すれば、被験体における装置の装着を確認しつつ、光曝露量を測定することができる。また光曝露量測定装置に加速度センサが付設されている場合には、光曝露量に加え、被験体の体動(立っているのか、寝ているのか、うつ伏せで寝ているのか、仰向けで寝ているのか等)をも把握することが可能となる。なお、本発明にかかる光曝露量測定装置は、サーカディアンリズムの測定の際に特に好ましく用いられるが、その他の用途に用いられることは差し支えない。
【0075】
〔実施形態2〕サーカディアンリズム測定装置およびサーカディアンリズムの測定方法
本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置は、上記説示した本発明にかかる光曝露量測定装置と、サーカディアンリズム測定部と、を少なくとも備えている。光曝露量測定装置については、〔実施形態1〕に記載した通りである。
【0076】
以下に、本発明のサーカディアンリズム測定装置におけるサーカディアンリズム測定部を説明する。
図5に、本発明のサーカディアンリズム測定装置の一実施形態にかかるサーカディアンリズム測定部(20)を示す。サーカディアンリズム測定部(20)は、リストバンド(26)とロガー型温度センサ(27)とからなり、リストバンド(20)の内周部にロガー型温度センサ(27)が付設されている。被験体の手首に、リストバンド(26)を巻くと、ロガー型温度センサ(27)と手首とが接触し、被験体の手首体温(末梢体温)を測定することができる。つまり、本発明にかかるサーカディアンリズム測定部は、リストバンド(26)等の温度センサ固定部材と、ロガー型温度センサ(27)等の温度センサ部とを少なくとも備える。
【0077】
図5に示すサーカディアンリズム測定部(20)のリストバンド(26)は、帯状部材であり、面状ファスナで帯状部材の端部同士が結合し、手首に巻くことができるようになっている。本発明はこれに限定されるものではなく、帯状部材の端部同士を結び付けてもよいし、ボタンやホックで帯状部材の端部同士が結合してもよい。また、リストバンド(26)は端部を有しないリング状部材となっていてもよい。リング状部材の場合は、ロガー型温度センサが被験体の手首にしっかり接触するように、リストバンド(26)は伸縮できるようになっていることが好ましい。なお、リストバンド(26)は布製、樹脂製、紙製等いかなる素材からなるものであってもよいが、手首は日常生活において水と接する機会が多いため、防水素材からなるものであることがより好ましい。また、リストバンド(26)は、再使用可能なタイプであっても、ディスポーザブルタイプであってもよい。リストバンド(26)がディスポーザブルタイプである場合には、リストバンド(26)は紙製で有り得、再生紙を利用したものであることがより好ましい。
【0078】
なお、
図5に示すサーカディアンリズム測定部(20)は、リストバンドタイプであるが、本発明はこれに限られず、末梢体温を測定し得る箇所に温度センサを固定できるようになっていればよい。例えば、粘着テープで温度センサを被験体に固定しても差し支えない。また、末梢体温の測定部位は、手首に限られず、足首や胴回りであっても測定可能である。足首や胴回りにて末梢体温を測定する際には、リストバンド(2)の径を、足首や胴回りのサイズにあわせて変更し、温度センサ固定部材とすればよい。足首用や胴回り用のセンサ固定用部材であっても、全段落のリストバンド(26)の説明を援用できる。
【0079】
図6に、体温リズムおよび睡眠傾向リズムのチャート図(参考文献1「平成16年度ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査検討業務報告書、平成17年3月、ヒートアイランド現象による環境影響調査検討委員会、社団法人 環境情報科学センター」)を示す。図中のCBT(Core Body Temperature:深部体温)直腸温であり、図中のDPG(Distal-proximal skin-temperature gradient)は遠位部皮膚温(distal:手背部および足背部皮膚温の平均値)と近位部皮膚温(proximal:鎖骨下部皮膚温)との差であり、図中のSP(Sleep propensity)は睡眠傾向を示す。参考文献1には「CBTの低まりがSPの高まりと一致し、DPGの高まりとSPの高まりが一致していることが見て取れる。これは、深部体温が低いほど、また末梢体温が高いほどその直後の眠りやすさが強いことを意味する。」と記載されている。つまり、サーカディアンリズムは、深部体温、DPG、末梢体温をもって捕捉することができるということが知られていることになる。また、サーカディアンリズムは、メラトニンの分泌量から捕捉することができるということも従来からよく知られている。
【0080】
したがって、本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置のサーカディアンリズム測定部は、末梢体温を測定するもののみならず、深部体温、DPG、メラトニンの分泌量を測定し得るものであってもよい。ただし、血漿中のメラトニン量を経時的に測定する場合、被験体から採血する必要があり、簡便な方法とは言えない。またこの場合、サーカディアンリズム測定装置の構成が複雑になる。また、被験体の深部体温(つまり直腸温)を測定することは、被験体に苦痛を強いることになるため、長時間の測定が困難である。DPGを測定する場合は、遠位部皮膚温と近位部皮膚温とを測定し、その差を求めなければならず、処理がやや複雑となる。よって、末梢体温を測定することが、サーカディアンリズムを測定する最も簡便な方法であるといえる。
【0081】
なお、本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置においては、照度センサ、温度センサ、加速度センサ、サーカディアンリズム測定部による各種測定は、経時的測定が可能であることが好ましい。光曝露量、装着の有無、体動のデータ、およびサーカディアンリズムを、同じ時間で並べて比較することができるために、各種データの比較や解析をより詳細に行うことができる。
【0082】
本発明は上記説示したサーカディアンリズム測定装置を用いた、被験体のサーカディアンリズムの測定方法をも包含する。サーカディアンリズム測定装置を被験体に装着して測定を開始すれば、被験体における装置の装着を確認しつつ、光曝露量およびサーカディアンリズムを測定することができる。またサーカディアンリズム測定装置の光曝露量測定装置に加速度センサが付設されている場合には、光曝露量に加え、被験体の体動(立っているのか、寝ているのか、うつ伏せで寝ているのか、仰向けで寝ているのか等)をも把握することが可能となる。
【0083】
サーカディアンリズム測定装置のサーカディアンリズム測定部の被験体における装着の有無の確認は、サーカディアンリズムの測定データを確認することによって把握することができる。すなわち、サーカディアンリズム測定部を被験体が装着していれば、サーカディアンリズム(概日リズム)が検出され、サーカディアンリズム測定部を被験体が装着していなければ、サーカディアンリズム(概日リズム)が検出されないことになる。
【0084】
〔実施形態3〕照明システムおよび照明方法
本発明は、上記説示した本発明のサーカディアンリズム測定装置の利用例として、サーカディアンリズム測定装置を用いた照明システムおよび照明方法を提供する。すなわち本発明にかかる照明システムは、本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置と、照度および光波長が調整可能な光出力部と、該光出力部の照度および光波長を制御する制御部と、該サーカディアンリズム測定装置によって測定された測定サーカディアンリズムと、所望の目標サーカディアンリズムとを比較し、測定サーカディアンリズムが目標サーカディアンリズムからずれている場合に、測定サーカディアンリズムを目標サーカディアンリズムに一致させるような照度および光波長を決定する決定部と、を少なくとも備え、該制御部は、該決定部によって決定された照度および光波長の情報に基づいて、光出力部の照度および光波長を制御することを特徴としている。
【0085】
また本発明にかかる照明方法は、(i)本発明にかかるサーカディアンリズム測定装置によって測定された測定サーカディアンリズムと、所望の目標サーカディアンリズムとを比較し、(ii)測定サーカディアンリズムが目標サーカディアンリズムからずれている場合に、測定サーカディアンリズムを目標サーカディアンリズムに一致させるような照度および光波長を決定し、(iii)前記(ii)で決定された照度および光波長の情報に基づいて、照明の照度および光波長を制御することを特徴としている。
【0086】
図7は本発明にかかる照明システムのブロック線図である。これを用いて本発明にかかる照明システムおよび照明方法をより具体的に説明する。
図7中の光曝露量測定部(10)(11)は〔実施形態1〕で説示した光曝露量測定装置に相当する。
図7中のサーカディアンリズム測定装置(30)は、〔実施形態2〕で説示したサーカディアンリズム測定装置に相当し、光曝露量測定部(10)(11)およびサーカディアンリズム測定部(20)とからなる。よって、サーカディアンリズム測定装置(30)の説明は〔実施形態1〕および〔実施形態2〕の説明を援用することができる。
【0087】
照明システムの利用者(34)は、サーカディアンリズム測定装置(30)を装着する。サーカディアンリズム測定装置(30)は、利用者(34)の光曝露量およびサーカディアンリズムを測定し、測定されたサーカディアンリズム(「測定サーカディアンリズム」という。)および光曝露量のデータは決定部(31)へ送られる。決定部(31)において、測定サーカディアンリズムは、所望のサーカディアンリズム(「目標サーカディアンリズム」という。)と比較される。そして、測定サーカディアンリズムが、目標サーカディアンリズムからずれている場合に、決定部(31)は、測定サーカディアンリズムを目標サーカディアンリズムに一致させるような照度および光波長を決定する。決定部(31)で決定された照度および光波長の情報は制御部(32)へ送られ、該制御部(32)は決定部(31)によって決定された照度および光波長の情報に基づいて、光出力部(33)の照度および光波長を制御する。そして、光出力部(33)は、制御部(32)によって制御された光を、利用者(34)へ照射する。利用者(34)に照射された光は、サーカディアンリズム測定装置(30)の光曝露量測定部(10)(11)によって測定される。そして、サーカディアンリズム測定部(20)によって利用者(34)のサーカディアンリズムが継続的に測定されており、測定サーカディアンリズムが目標サーカディアンリズムに一致するまで、上記の一連の制御は繰り返される。さらに、照射する時間の制御を実施することもできる。
【0088】
また、光出力部(33)は波長が異なる複数の発光素子から構成され得る。例えば、LED照明であれば、白色光LEDと青色LEDとから、または、青色、緑色、および赤色のLEDから、光出力部(33)は構成され得る。蛍光灯であれば、白色蛍光灯と青色蛍光灯から光出力部(33)は構成され得る。この他、白熱電球やハロゲンランプを組み合わせて、光出力部(33)を構成することもできる。このように青色発光素子とその他の色の発光素子を組み合わせて光出力部(33)を構成すれば良い。それぞれの発光素子は制御部(32)によって独立して照度を制御することが可能であり、制御部(32)は所望の波長バランスになるように上記発光素子を発光させ得る。
【0089】
なお、サーカディアンリズム測定装置(30)と決定部(31)、決定部(31)と制御部(32)、制御部(32)と光出力部(33)は、それぞれ有線的に接続されて情報交換がなされている態様であっても、無線的に接続されて情報交換がなされている態様であってもいてもよい。ただし、サーカディアンリズム測定装置(30)と決定部(31)とが無線的に接続されていることで、利用者の行動が制限されることがないためにより好ましい態様であるといえる。
【0090】
ここで、「目標サーカディアンリズム」は、利用者の状態や目的に応じて適宜設定されるサーカディアンリズムであり、特に限定されるものではない。例えば、昼夜が全く逆転してしまった被験体がいると仮定した場合の、測定サーカディアンリズム(
図8中の破線)と目標サーカディアンリズム(
図8中の実線)とを
図8に示す。正常なヒトの場合、昼に高値を示し、夜に低値を示すサーカディアンリズムを刻むとすると、被験体は昼に低値を示し、夜に高値を示すサーカディアンリズムを刻んでいる。つまり、被験体は、正常なヒトのリズムと全く逆のリズムを刻んでいることが
図8には示されている。つまり、
図8に示されるケースでは、被験体の測定サーカディアンリズムは、目標サーカディアンリズムに対して約12時間のずれが生じているということになる。本発明にかかる照明システムでは、このずれを矯正することを目的とする。
【0091】
サーカディアンリズムの位相を変更する方法についてはすでに知られており、この知見に従って、測定サーカディアンリズム(
図8中の破線)と目標サーカディアンリズム(
図8中の実線)とを一致させるようにすればよい。
図9に位相反応曲線を示す(参考文献2:J Physiol (2003), 549.3, pp. 945−952)。位相反応曲線とは、サーカディアンリズムの位相を変化させる刺激を与えた時刻を横軸に、刺激によって生じた位相の変化を縦軸にプロットした曲線である。位相を変化させる刺激には、光やメラトニンなどがある。深部体温が最も低い時が位相反応曲線の指標(基準)になることが知られており(参考文献3:生物時計はなぜリズムを刻むのか、日経BP社発行、本間徳子訳)、
図9の位相反応曲線から、深部体温が最も低くなる時刻(
図9では午前4時)よりも前に光を浴びた場合にはサーカディアンリズムが遅れる(後退する)ことが示されており、深部体温が最も低くなる時刻(
図9では午前4時)よりも後に光を浴びた場合にはサーカディアンリズムが進む(前進する)ことが示されている(参考文献4:タンパク核酸酵素Vol47,No14(2002))。この知見を利用することにより、測定サーカディアンリズム(
図8中の破線)と目標サーカディアンリズム(
図8中の実線)とを一致させるような光波長や照度を判断し、光を制御すればよい。
【0092】
上記のように、本発明にかかる照明システムおよび照明方法によれば、サーカディアンリズムおよび光曝露量を利用者毎に測定することができるとともに、特に重要な就寝前や就床後の光曝露量を計測することができるため、利用者毎に最適な照明を提供することが可能となる。このため、利用者の生活習慣の改善や、疾病の予防や治療において、本発明は奏功することが期待される。