【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Bi−Ge−O主成分の記録膜をスパッタリングで成膜形成する場合には、チャンバ内に、BiターゲットとGeターゲットとを個別に配置する必要がある。そして、このチャンバ内に、O
2ガスを供給するとともに、ArやXe等のスパッタリング用ガスを供給して、BiとGeの粒子が飛散させ、飛散したBi粒子、Ge粒子がチャンバ内のOと反応して酸化し、基板の誘電体膜の上にBi−Ge−O主成分の薄膜が堆積される。しかしながら、所望の成分組成を有するBi−Ge−O主成分の薄膜を堆積さるためには、スパッタリング条件を調節することが重要となるが、記録膜中のBi、Oの比率を制御することは容易ではない。
【0007】
また、Bi金属スパッタリングターゲットとGe金属スパッタリングターゲットとを個別に作製する代わりに、Bi金属とGe金属との合金でスパッタリングターゲットを製造することは可能であり、このBiGe合金スパッタリングターゲットを用いて、DCスパッタリングで成膜することができる。しかし、Bi−Ge−O主成分の薄膜に適用する場合には、O
2を導入した反応性雰囲気でスパッタリングを行うこととなり、BiGe合金スパッタリングターゲットの場合でも、薄膜中のO量の制御が難しいという問題がある。
【0008】
一方、この問題を解消するものとして、Bi酸化物とGe酸化物との焼結体でスパッタリングーゲットを用いることも考えられる。この場合には、薄膜中におけるO量は、スパッタリングターゲットにおけるO量で制御可能であるが、Bi酸化物とGe酸化物との焼結体でスパッタリングーゲットを製造する場合、単純に、Bi酸化物とGe酸化物とを混合して、ホットプレス法で焼結体を製造しようとすると、その焼結体が、割れてしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、Bi−Ge−O主成分の薄膜を一つのスパッタリングターゲットで成膜でき、所望するBi−Ge−O主成分の薄膜を成膜するのに、Bi−Ge−O主成分の組成比率を容易に調整することを可能にし、しかも、そのスパッタリングターゲットの製造時に、割れ難くした薄膜形成用スパッタリングターゲットとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、発明者らは、Bi−Ge−O主成分の薄膜を一つのスパッタリングターゲットで成膜形成でき、しかも、焼結体製造時に割れ難くいスパッタリングターゲットについて研究を行った。
【0011】
本発明者らは、目標とするBi−Ge−O主成分薄膜の成膜におけるO量が安定して調整できるスパッタリングターゲットとして、Bi酸化物とGe酸化物の焼結体を採用することとした。そして、種々の検討の結果、Bi酸化物とGe酸化物とに、さらに、Ge金属を添加して焼結すると、割れ難い焼結体を製造することができるという知見が得られた。ここでは、ターゲット割れを抑制するには、金属Biの形成が、内部応力の緩和に役立つことが分かった。Bi酸化物は、Ge酸化物より還元性が強いことに着目し、焼結時において、Bi酸化物の還元により、金属Biを形成するとともに、この還元によるO元素を拡散させて、Ge金属を酸化させればよいことが判明した。しかも、Bi酸化物とGe酸化物とに、Ge金属を添加するだけであり、それらの量を調整すれば、目標とするBi−Ge−O主成分薄膜の成分組成が容易に得られ、主成分以外の元素を添加することがないので、膜特性にも影響することがない。
【0012】
そこで、一試験例として、Bi酸化物とGe酸化物とにGe金属を添加した場合のBi−Ge−Oスパッタリングターゲットを作製するため、粒径:100μm以下のBi酸化物粉(Bi
2O
3)を78mol%、粒径:100μm以下のGe酸化物粉(GeO
2)を17mol%、粒径:100μm以下のGe金属粉末を5mol%、用意した。これらの原料粉末をボールミル装置にて湿式で混合し、混合粉末を得た。この混合粉末を、650℃の温度、150kgf/cm
2の圧力で加圧焼成(ホットプレス)し、焼結体を得て、スパッタリングターゲットを製造した。この製造されたスパッタリングターゲットは、割れることがなかった。
【0013】
製造された上記のスパッタリングターゲットについて、組成成分の分析を行った。その分析結果が、
図1に示されている。
図1の写真は、製造されたスパッタリングターゲットについて、EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブ)にて得られた元素分布像であり、図中の3枚の写真から、Bi、Ge、Oの各元素の組成分布の様子をそれぞれ観察することができる。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、
図1の写真では、白黒像に変換して示しているため、その写真中において、白いほど、当該元素の濃度が高いことを表している。具体的には、Bi元素に関する分布像では、Bi元素が白い領域で表示されており、連続して広く分布し、Ge元素に関する分布像では、Ge元素が大小の島状に存在し、Oに関する分布像では、O元素が連続して広く分布していることが観察される。特に、O元素が検出されない黒い領域は、Bi元素の画像における白い領域に対応し、さらに、Ge元素の島状領域は、O元素の画像における白い領域に対応している。これらのことから、このスパッタリングターゲットは、Bi及びGeを含む酸化物素地中に、金属Biが分散した組織となっていると推定できる。
【0014】
一方、
図2のグラフは、上述したように製造されたスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)による分析結果を示している。
図2の最上段のグラフは、全体のピークを示しているが、その下の上段のグラフには、Bi
12Ge
20O
20に係るピークが、その中段のグラフは、Bi
4(GeO
4)
3に係るピークが、そして、その下段のグラフには、Biに係るピークが示されている。
図1に示された分布画像と
図2のグラフに現れたピークとを併せて考慮すると、Ge元素は、Ge金属単体で存在するのではなく、Ge酸化物として検出されており、Bi元素は、Bi酸化物と、Bi金属の両方で検出されている。
【0015】
以上から、製造されたスパッタリングターゲットでは、原料である一部のBi酸化物が還元作用によって、O元素を失い、金属Biとなり、一方、添加された金属Geは、Bi酸化物からのO元素によって酸化され、Geを含む酸化物が生成されたものと推定でき、金属Biが、Bi酸化物とGe酸化物との結合力を強くするものと考えられる。この金属Biの存在によって、Bi−Ge−O三元系元素でなる焼成体の割れを低減することができた。そして、この製造したスパッタリングターゲットを用いて直流(DC)スパッタリングを行ったところ、所望の特性を有するBi−Ge−O三元系薄膜を成膜することができ、異常放電も発生しなかった。
【0016】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明のスパッタリングターゲットは、
Bi:67.5〜87.8wt%及びGe:1.6〜17.6wt%を含有し、残部がO及び不可避不純物からなる組成を有した焼成体であって、
前記焼成体は、Bi及びG
eの酸化物素地中に、金属Bi
相が分散した組織を有
し、
前記金属Bi相は、3.0〜6.5%の面積率を有し、かつ、粒径:3.5μm以下であることを特徴とする。
(2)本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、
前記(1)のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
粒径:100μm以下の
、40〜90mol%のBi酸化物粉末及び
5〜55mol%のGe酸化物粉末と、5〜15mol%のGe金属粉末とを配合し混合して得られた混合粉末を加圧焼成して、Bi及びG
eの酸化物素地中に、金属Bi
相が分散した組織を形成することを特徴とする。
(3)前記
(2)のスパッタリングターゲットの製造方法では、前記Ge金属粉末の最大粒径が、100μm以下であることを特徴とする。
(4)前記
(2)又は(3)のスパッタリングターゲットの製造方法では、前記混合粉末を、圧力150〜200kgf/cm
2、650〜730℃にて、真空又は不活性ガス中で加圧焼成することを特徴とする。
【0017】
ここで、この薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造するときには、スパッタリングターゲットの成分組成が、成膜される薄膜の成分組成となることを考慮すれば、Bi、Ge、Oの各元素量は、成膜しようとしているBi−Ge−O三元系薄膜の成分組成によって決まり、所望の特性が得られるように調整される。本発明のスパッタリングターゲットでは、Bi−Ge−O薄膜におけるOについて、酸化物(Bi酸化物、Ge酸化物)から供給した。
【0018】
ところで、本発明のスパッタリングターゲットの製造において、ターゲット割れを起こさないようにするためには、焼結体の素地中における内部応力を緩和させることが重要となる。この内部応力を緩和すると考えられる金属Bi
相が存在しない場合には、スパッタリングターゲットは、Bi酸化物とGe酸化物とで構成されたものとなり、ターゲット割れが発生しやすくなる。しかも、その比抵抗が上昇することとなり、直流(DC)スパッタリングを行えなくなる。
【0019】
ここで、金属Bi
相の生成には、金属Geの添加が重要であることは上述したが、この金属Geの添加量に応じて、金属Bi
相の形成量が調整されることになり、この金属Biの形成が不足すると、ターゲット割れが発生する。これに対して、金属Bi
相の形成量を多くすれば、このターゲット割れを起こさないようにすることができるが、その金属Biを多く形成しようとする分だけ、金属Geの添加も増やすことになる。しかし、金属Geの添加量を増やすと、スパッタリングターゲットは、割れ難くなるが、焼結体中のGe酸化物も増えることになり、Ge酸化物粒の肥大化を招来する。このGe酸化物の肥大化は、スパッタリング時の異常放電発生の原因となり、成膜に影響を与える。そこで、本発明のスパッタリングターゲットでは、このターゲット割れを抑制するため、Bi及びGeを含む酸化物素地の組織中には、金属Bi
相が分散したものであって、その金属Bi
相は、3.0〜6.5%の面積率を有し、かつ、粒径:3.5μm以下とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法では、Bi及びGeを含む酸化物素地の組織中に、3.0〜6.5%の面積率を有し、かつ、粒径:3.5μm以下の金属Bi
相が分散分布するように、粒径が100μm以下のBi酸化物粉末及びGe酸化物粉末と、粒径が100μm以下のGe金属粉末とを用意し、Bi酸化物粉末、Ge酸化物粉末及びGe金属粉末とを所定比率で配合し、混合して得られた混合粉末を加圧焼成して、Bi及びGeを含む酸化物素地中に、金属Bi
相を分散分布させることとした。なお、このGe金属粉末の添加量は、以上を勘案すると、5〜15mol%とすることが好ましい。
【0021】
ここで、Ge金属粉末の添加量が、5mol%未満であると、金属Geの添加量が少なくなり、Bi酸化物(Bi
2O
3)の還元効果が十分に得られず、結果として、金属Biの析出量が少なくなり、ターゲット割れに至る。一方、Ge金属粉末の添加量が、15mol%を超えると、金属Geの添加量が多く、スパッタリング時の膜組成の制御が難しくなる。Ge金属粉末の添加量が、5〜15mol%の範囲であっても、Bi酸化物とGe酸化物の配合組成や、焼成条件によっては、微量の金属Geが残ることもあり得るが、ターゲット材の組織中には、金属Bi
相が形成されているので、ターゲット割れは発生しない。
また、スパッタリング時の異常放電発生を抑制するには、焼結体中の酸化物を微細粒とするのがよく、Bi酸化物粉末、Ge酸化物粉末及びGe金属粉末の粒径は、100μm以下とすることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法では、焼結において、Bi酸化物からのO元素がGe金属に拡散して、Ge酸化物が形成され、O元素を失ったBi酸化物が金属Biに変化するように、所定比率で配合されたBi酸化物粉末、Ge酸化物粉末及びGe金属粉末からなる混合粉末を、圧力150〜200kgf/cm
2、650〜730℃にて、真空又は不活性ガス中で加圧焼成(ホットプレス)することとした。ここで、150kgf/cm
2未満の加圧であると、密度が高いターゲット材を得ることが難しく、多孔質のターゲット材が形成されてしまうため、スパッタリング時に、パーティクルの発生や異常放電の発生に繋がる。一方、200kgf/cm
2を超える加圧であると、加圧過多となって、脆くなり、ターゲット材の割れに繋がる。また、なお、圧力が150〜150kgf/cm
2であっても、730℃を超えた温度、例えば、750℃で加圧処理した場合には、金属Biが溶出してしまうこともあり得る。