特許第6029020号(P6029020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029020
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】磁気メモリ素子および磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8246 20060101AFI20161114BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20161114BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20161114BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20161114BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   H01L27/10 447
   H01L43/08 M
   H01L29/82
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-516265(P2013-516265)
(86)(22)【出願日】2012年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2012061165
(87)【国際公開番号】WO2012160937
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2015年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-113697(P2011-113697)
(32)【優先日】2011年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】深見 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】石綿 延行
(72)【発明者】
【氏名】杉林 直彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 英男
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】山ノ内 路彦
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/095589(WO,A1)
【文献】 特開2009−081315(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/041719(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/093387(WO,A1)
【文献】 特開2010−219104(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/007893(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/068967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 29/82
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される磁化自由層と、
前記磁化自由層と対向して設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される応答層と、
前記応答層に対向して前記磁化自由層とは反対側に設けられ、非磁性体から構成される非磁性層と、
前記非磁性層に対向して前記応答層とは反対側に設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成されるリファレンス層とを具備し、
前記磁化自由層は磁化が互いに反平行方向に固定された第1磁化固定領域と第2磁化固定領域と、磁化方向が可変な磁化自由領域を具備し、
前記応答層は0.9nmから1.3nmの厚さを有し、
前記応答層、前記非磁性層、前記リファレンス層は、前記磁化自由層と電気的に分離され
前記磁化自由領域の中心から前記応答層の中心までの距離が5nm以上15nm以下である、
ことを特徴とする磁気メモリ素子。
【請求項2】
垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される磁化自由層と、
前記磁化自由層と対向して設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される応答層と、
前記応答層に対向して前記磁化自由層とは反対側に設けられ、非磁性体から構成される非磁性層と、
前記非磁性層に対向して前記応答層とは反対側に設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成されるリファレンス層とを具備し、
前記磁化自由層は磁化が互いに反平行方向に固定された第1磁化固定領域と第2磁化固定領域と、磁化方向が可変な磁化自由領域を具備し、
前記応答層は0.9nmから1.3nmの厚さを有し、
前記応答層、前記非磁性層、前記リファレンス層は、前記磁化自由層と電気的に分離され、
前記応答層の幅が前記磁化自由層の幅より大きい、
ことを特徴とする磁気メモリ素子。
【請求項3】
前記第1磁化固定領域、及び/又は前記第2磁化固定領域と磁気的に結合するように設けられ、前記第1磁化固定領域、及び/又は前記第2磁化固定領域の磁化を固定する磁化固定層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気メモリ素子。
【請求項4】
前記応答層は前記磁化自由領域の表裏面のいずれかに設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項5】
前記応答層は、CoFeBを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項6】
前記応答層がCoFeBとFeの積層構成を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項7】
前記非磁性層は、MgOを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の磁気メモリ素子を有することを特徴とする磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリ素子および磁気メモリに関する。特に本発明は磁壁移動を利用し、垂直磁気異方性を有する材料により構成された磁気メモリ素子および当該磁気メモリ素子を用いた磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気メモリ、又は磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory;MRAM)は高速動作、および無限回の書き換えが可能な不揮発性メモリであり、既に一部で実用化が始まり、またより汎用性を高めるための開発が行われている。MRAMでは記憶素子として磁性体を用い、磁性体の磁化の向きに対応させて情報を記憶する。この磁性体の磁化をスイッチングさせる方法としていくつかの方式が提案されているが、いずれも電流を使う点では共通している。MRAMを実用化する上では、この書き込み電流をどれだけ小さくできるかが非常に重要であり、非特許文献1によれば書き込み電流の0.5mA以下への低減、さらに好ましくは0.2mA以下への低減が求められている(非特許文献1)。これは書き込み電流が0.2mA程度まで低減されると、非特許文献1で提案されている2T−1MTJ(two transistors−one magnetic tunnnel junction)回路構成において最小レイアウトが可能となり、DRAM、SRAMなどの既存の揮発性メモリと同等以上のコストパフォーマンスを実現できるためである。
MRAMへの情報の書き込み方法のうちで最も一般的なのは、磁性記憶素子の周辺に書き込みのための配線を配置し、この配線に電流を流すことで発生する磁場によって磁性記憶素子の磁化の方向をスイッチングさせる方法である。この方法は磁場による磁化反転となるため、原理的には1ナノ秒以下での書き込みが可能であり、高速MRAMを実現する上では好適である。しかしながら熱安定性、外乱磁場耐性が確保された磁性体の磁化をスイッチングするための磁場は一般的には数10Oe(エールステッド、10Oe=795.77A/m)程度となり、このような磁場を発生させるためには数mA程度の電流が必要となる。この場合、チップ面積が大きくならざるを得ず、また書き込みに要する消費電力も増大するため、他のランダムアクセスメモリと比べて競争力で劣ることになる。これに加えて、素子が微細化されると、書き込み電流はさらに増大してしまい、スケーリングの点でも好ましくない。
近年このような問題を解決する手段として、以下の2つの方法が提案されている。1つ目はスピン注入磁化反転である。これは反転可能な磁化を有する第1の磁性層(磁化自由層)と、それに電気的に接続され、磁化が固定された第2の磁性層(リファレンス層)から構成された積層膜において、第2の磁性層(リファレンス層)と第1の磁性層(磁化自由層)の間で電流を流したときのスピン偏極した伝導電子と第1の磁性層(磁化自由層)中の局在電子との間の相互作用を利用して第1の磁性層(磁化自由層)の磁化を反転する方法である。読み出しの際には第1の磁性層(磁化自由層)と第2の磁性層(リファレンス層)の間で発現される磁気抵抗効果を利用する。従ってスピン注入磁化反転方式を用いたMRAMは2端子の素子となる。スピン注入磁化反転はある電流密度以上のときに起こることから、素子のサイズが小さくなれば、書き込みに要する電流は低減される。すなわちスピン注入磁化反転方式はスケーリング性に優れていると言うことができる。しかしながら、一般的に第1の磁性層(磁化自由層)と第2の磁性層(リファレンス層)の間には非磁性層が設けられ、書き込みの際には比較的大きな電流をこの非磁性層に流さなければならず、書き換え耐性や信頼性が課題となる。また、書き込みの電流経路と読み出しの電流経路が同じになることから、読み出しの際の誤書き込みも懸念される。このようにスピン注入磁化反転はスケーリング性には優れるものの、実用化にはいくつかの障壁がある。
一方で2つ目の方法である電流誘起磁壁移動現象を利用した磁化反転方法は、スピン注入磁化反転の抱える上述のような問題を解決することができる。電流誘起磁壁移動現象を利用したMRAMは例えば特許文献1で開示されている(特許文献1)。電流誘起磁壁移動現象を利用したMRAMは、一般的には反転可能な磁化を有する第1の磁性層(磁化自由層)において、その両端部の磁化が互いに反平行となるように固定されている。このような磁化配置のとき、第1の磁性層内には磁壁が導入される。ここで、非特許文献2で報告されているように、磁壁を貫通する方向に電流を流したとき、磁壁は伝導電子の方向に移動することから、第1の磁性層(磁化自由層)内に電流を流すことにより書き込みが可能となる(非特許文献2)。情報を読み出す際には、磁壁が移動する領域に設けられる磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction;MTJ)を用い、磁気抵抗効果により読み出しを行う。従って、電流誘起磁壁移動方式を利用したMRAMは3端子の素子となり、上述の非特許文献1で提案されている2T−1MTJ構成とも整合する。電流誘起磁壁移動も、ある電流密度以上のときに起こることから、スピン注入磁化反転と同様にスケーリング性があると言える。これに加えて、電流誘起磁壁移動を利用したMRAM素子では、書き込み電流が磁気トンネル接合中の非磁性層を流れることはなく、また書き込み電流経路と読み出し電流経路は別となるため、スピン注入磁化反転で挙げられるような上述の問題は解決されることになる。
また非特許文献2では電流誘起磁壁移動に必要な電流密度として1×1018[A/cm]程度を要している。この場合、例えば磁壁移動の起こる層(磁化自由層)の幅を100nm、膜厚を10nmとした場合の書き込み電流は1mAとなる。これは前述の書き込み電流に関する条件を満たすことができない。一方で、非特許文献3で述べられているように、電流誘起磁壁移動が起こる強磁性層(磁化自由層)として垂直磁気異方性を有する材料を用いることによって、書き込み電流を十分小さく低減できることが報告されている(非特許文献3)。このようなことから、電流誘起磁壁移動を利用してMRAMを製造する場合、磁壁移動が起こる層(磁化自由層)としては垂直磁気異方性を有する強磁性体を用いることが好ましいと言える。
磁化自由層に垂直磁気異方性を有する強磁性体を用いたMRAMの構成は、特許文献2、特許文献3に開示されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−191032号公報
【特許文献2】国際公開第2009/001706号
【特許文献3】国際公開第2009/060749号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sakimura et al.,”MRAM Cell Technology for Over 500−MHz SoC”,IEEE Journal of Solid−State Circuits,2007,vol.42,p.830.
【非特許文献2】Yamaguchi et al.,”Real−Space Observation of Current−Driven Domein Wall Motion in Submicron Magnetic Wires”,Physical Review Letters,2004,vol.92,p077205.
【非特許文献3】Fukami et al.,“Micromagnetic analysis of current driven domain wall motion in nanostrips with perpendicular magnetic anisotropy”,Journal of Applied Physics,2008,vol.103,p.07E718.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されているMRAMにおいては、電流誘起磁壁移動による書き込みを行う磁化自由層に対して、読み出しを行うための非磁性層、リファレンス層が隣接している。書き込み電流低減等の書き込み特性の向上のためには、磁化自由層の材料、構成を適切に設計する必要がある。一方、読み出し信号量増大等の読み出し特性の向上のためには、磁化自由層、非磁性層、リファレンス層の構造、構成を適切に設計する必要がある。すなわち、磁化自由層は書き込み特性、読み出し特性の両方の要請を満たすように設計する必要があるということが言える。これは書き込み特性、読み出し特性の片方の要請を満たすように設計する場合と比べて、設計の自由度が低くなり、特性の向上が困難となる。
一方、特許文献3に開示されているMRAMにおいては、書き込みは磁化自由層内で行われ、磁化自由層の磁化方向をセンシングするための面内磁気異方性を有するソフトな応答層が設けられ、それに隣接して非磁性層、リファレンス層が設けられている。さらに、応答層は磁化自由層からの漏洩磁界をセンシングするために基板平行面内において磁化自由層からずれるようにして設けられている。特許文献3で開示されている構造では、書き込み特性は磁化自由層の設計により向上可能である。一方読み出し特性は応答層、非磁性層、リファレンス層からなるMTJの設計により向上可能である。すなわち、書き込み特性と読み出し特性の独立な設計が可能である。その一方で、この構造を形成するために必要なプロセス数は特許文献2に開示されている構造を形成するために必要なプロセス数と比べて多くなる。また応答層の磁化自由層に対する基板平行面内でのズレ量も適切に調整する必要があり、これはプロセスマージンの低下、微細化の困難化を招く。さらにセル面積も増大し、コストの増大を招く。
すなわち、特許文献2に開示されているMRAM素子は良好な書き込み特性と読み出し特性の両立が難しく、一方特許文献3に開示されているMRAM素子はプロセスマージン、低コスト化の点でデメリットがある。
本発明の目的は、特許文献2に開示されたMRAM素子の有する書き込み特性と読み出し特性の独立な設計が困難であるという問題点を解決し、また特許文献3に開示されたMRAM素子が有するプロセス数の増大、プロセスマージンの低下、セル面積の増大などの問題も解決することのできる磁気メモリ素子を提供することにある。
より端的に言えば、本発明の目的は、書き込み特性と読み出し特性の独立した設計が可能で、かつプロセス数の増大、プロセスマージンの低下、セル面積の増大が生じない磁気メモリ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明の第1の態様は、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される磁化自由層と、前記磁化自由層と対向して設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される応答層と、前記応答層に対向して前記磁化自由層とは反対側に設けられ、非磁性体から構成される非磁性層と、前記非磁性層に対向して前記応答層とは反対側に設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成されるリファレンス層とを具備し、前記磁化自由層は磁化が互いに反平行方向に固定された第1磁化固定領域と第2磁化固定領域と、磁化方向が可変な磁化自由領域を具備し、前記応答層は0.9nmから1.3nmの厚さを有し、前記応答層、前記非磁性層、前記リファレンス層は、前記磁化自由層と電気的に分離され、前記磁化自由領域の中心から前記応答層の中心までの距離が5nm以上15nm以下である、ことを特徴とする磁気メモリ素子である。
本発明の第2の態様は、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される磁化自由層と、前記磁化自由層と対向して設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される応答層と、前記応答層に対向して前記磁化自由層とは反対側に設けられ、非磁性体から構成される非磁性層と、前記非磁性層に対向して前記応答層とは反対側に設けられ、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成されるリファレンス層とを具備し、前記磁化自由層は磁化が互いに反平行方向に固定された第1磁化固定領域と第2磁化固定領域と、磁化方向が可変な磁化自由領域を具備し、前記応答層は0.9nmから1.3nmの厚さを有し、前記応答層、前記非磁性層、前記リファレンス層は、前記磁化自由層と電気的に分離され、前記応答層の幅が前記磁化自由層の幅より大きい、ことを特徴とする磁気メモリ素子である。
本発明の第の態様は、第1又は第2の態様に記載の磁気メモリ素子を有することを特徴とする磁気メモリである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、書き込み特性と読み出し特性の独立した設計が可能で、かつプロセス数の増大、プロセスマージンの低下、セル面積の増大が生じない磁気メモリ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1Aは磁気メモリ素子70の構造を示す斜視図である。
図1B図1Aのx−z断面図であって、矢印は磁化の向きを示している。
図1C図1Aの磁化自由層10のx−y平面図である。
図2Aは磁気メモリ素子70が“0”状態における磁化の状態を示す図である。
図2Bは磁気メモリ素子70が“1”状態における磁化の状態を示す図である。
図3Aは磁気メモリ素子70のメモリ状態の初期化方法の一例を模式的に示す図である。
図3Bは磁気メモリ素子70のメモリ状態の初期化方法の一例を模式的に示す図である。
図3Cは磁気メモリ素子70のメモリ状態の初期化方法の一例を模式的に示す図である。
図4Aは磁気メモリ素子70への情報の書き込み方法を示す図である。
図4Bは磁気メモリ素子70への情報の書き込み方法を示す図である。
図5Aは磁気メモリ素子70からの情報の読み出し方法を模式的に示す図である。
図5Bは磁気メモリ素子70からの情報の読み出し方法を模式的に示す図である。
図6は磁気メモリ素子70からの情報の読み出し方法を模式的に示す図である。
図7は磁気メモリ90の構成の一例を示すブロック図である。
図8Aは磁化自由領域12からの漏洩磁界の計算結果を示す図である。
図8Bは磁化自由領域12からの漏洩磁界の計算結果を示す図である。
図9Aは基板/Ta/CoFeB/MgO/Ta積層膜をドット状に加工したサンプルの磁化曲線を示す図であって、図中の数字0.8〜1.4はCoFeBの膜厚(nm)を意味している。
図9Bは基板/Ta/CoFeB/MgO/Ta積層膜保磁力のCoFeB膜厚依存性の測定結果を示す図であって、CoFeBの代わりにCoFeBとFeの積層膜を用いたものの測定点もプロットされている。
図10Aは特許文献2に公開されている磁気メモリ素子の構造を模式的に示す斜視図であって、図中の符号は本発明に対応させてある。
図10Bは特許文献2に公開されている磁気メモリ素子の構造を模式的に示す断面図であって、図中の符号は本発明に対応させてある。
図11Aは特許文献3に公開されている磁気メモリ素子の構造を模式的に示す斜視図であって、図中の符号は本発明に対応させてある。
図11Bは特許文献3に公開されている磁気メモリ素子の構造を模式的に示す断面図であって、図中の符号は本発明に対応させてある。
図11Cは特許文献3に公開されている磁気メモリ素子の構造を模式的に示す断面図であって、図中の符号は本発明に対応させてある。
図12Aは磁気メモリ素子70の第1の変形例の構造を模式的に示す斜視図である。
図12Bは磁気メモリ素子70の第1の変形例の構造を模式的に示す断面図である。
図13Aは磁気メモリ素子70の第2の変形例の構造を模式的に示す斜視図である。
図13Bは磁気メモリ素子70の第2の変形例の構造を模式的に示す断面図である。
図14Aは磁気メモリ素子70の第2の変形例の構造を模式的に示す斜視図である。
図14Bは磁気メモリ素子70の第2の変形例の構造を模式的に示す平面図である。
図15Aは磁気メモリ素子70の第3の変形例の構造を模式的に示す斜視図である。
図15Bは磁気メモリ素子70の第3の変形例の構造を模式的に示す断面図である。
図16A図15Aおよび図15Bに示された構造を有する磁気メモリ素子70における、書き込み電流の経路を示す図である。
図16B図15Aおよび図15Bに示された構造を有する磁気メモリ素子70における、読み出し電流の経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
(構造)
図1A〜Cは本発明に係る磁気メモリ素子70の主要な部分の代表的な構造を模式的に示している。図1Aはその斜視図を、図1Bはx−z断面図を、図1Cは磁化自由層10のx−y平面図を示している。なお、図に示されているx−y−z座標系において、z軸は基板垂直方向を示し、x−y軸は基板平面に平行であるものとする。
本発明に係る磁気メモリ素子70は少なくとも磁化自由層10、磁化自由層10と隣接して(対向して)設けられる応答層20、応答層20に隣接して(対向して)磁化自由層10とは反対側に設けられる非磁性層30、非磁性層30に隣接して(対向して)応答層20とは反対側に設けられるリファレンス層40を具備する。また必須ではないが、応答層20と磁化自由層10の間に、応答層10に隣接して(対向して)設けられる導電層50、磁化自由層10に隣接して(対向して)設けられる磁化固定層60を具備することが好ましい。磁化自由層10、応答層20、リファレンス層40、磁化固定層60は強磁性体から構成される。図1B図1Cにおいては、磁化の向きの例が矢印で示されている。
図1Cは磁化自由層10の構造を模式的に示した平面図である。磁化自由層10は垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される。また、磁化自由層10は第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11b、及び磁化自由領域12の3つの領域から構成される。
第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bは実質的に一方向に固定された磁化を有する。また第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bの磁化は互いに反平行な向きに固定されている。図1Cでは第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bはそれぞれ+z方向、−z方向に固定されているものとして描かれている。磁化自由領域12の磁化は反転可能である。この場合+z、−zのいずれかの方向を向くことができる。
磁化自由層10内の3つの領域が上述のような磁化構造であるとき、磁化自由領域12の磁化方向に応じて、第1磁化固定領域11aと磁化自由領域12の境界、および第2磁化固定領域11bと磁化自由領域12の境界のいずれか一方に磁壁が形成される。図1Cの場合、磁化自由領域12の磁化が+z方向のとき、第2磁化固定領域11bと磁化自由領域12の境界に磁壁が形成され、磁化自由領域12の磁化が−z方向のとき、第1磁化固定領域11aと磁化自由領域12の境界に磁壁が形成される。
また、図1A図1Cに示される実施の形態においては、第1磁化固定領域11aは磁化自由領域12の一方の端部に隣接し、第2磁化固定領域11bは磁化自由領域12の別の端部に隣接する。具体的には、図1Cの例では、第1磁化固定領域11aは磁化自由領域12の−x方向側の端部に隣接し、第2磁化固定領域11bは磁化自由領域12の+x方向側の端部に隣接している。しかし一般的には、第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bは磁化自由領域12に接続されればよく、それらの間での位置関係には任意性がある。例えば、第1磁化固定領域11aが磁化自由領域12の一方の端部に接続され、また第2磁化固定領域11bも磁化自由領域12の前記一方の端部に接続されてもよい。この場合には磁化自由層10は三叉路を有する構造となる。
また図1A図1Cに示される実施の形態においては、応答層20、非磁性層30、リファレンス層40はこの順に積層して設けられる。応答層20、リファレンス層40は強磁性体から構成される。また非磁性層30は非磁性体から構成され、好適には絶縁体から構成される。このとき、応答層20、非磁性層30、リファレンス層40の3つの層の積層体によって磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction;MTJ)が構成される。
応答層20は垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される。またその磁化は反転可能であり、+z方向、または−z方向のいずれかの方向を向く。また応答層20は前記磁化自由領域12と強磁性的に結合しており、磁化自由領域12の磁化方向に応じて、応答層20の磁化方向が決定される。応答層20は磁化自由領域12の上部または下部に設けられ、x−y面内において、オーバーラップするように形成される。
リファレンス層40は垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成され、かつ実質的に一方向に固定された磁化を有する。図1Bの例ではリファレンス層40の磁化は+z方向に固定されている。また図示されていないが、リファレンス層40は以下のような積層構造を有していてもよい。例えばリファレンス層40は強磁性体、非磁性体、強磁性体の3層がこの順に積層された構造を有していてもよい。ここで2つの強磁性体に挟まれた非磁性体は上下の強磁性体を反平行方向に磁気結合させる(積層フェリ結合させる)機能を有していることが好ましい。このような機能を有する非磁性体としてはRuが知られている。リファレンス層40を積層フェリ結合を有する積層構造にすることによって、外部への漏洩磁界を低減し、磁化自由層10などのその他の層への磁気的な影響を低減することができる。これに加えて、リファレンス層には反強磁性体が隣接していてもよい。これは、反強磁性体を隣接させ、磁場中で熱処理を行うことによって界面の磁化方向を一方向に固定することができるためである。代表的な反強磁性体としてはPt−Mn、Ir−Mnなどが例示される。
磁化固定層60は少なくとも1つ設けられる。図1A図1Cに示される実施の形態においては、磁化固定層60は2つ設けられており、それぞれ第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bに隣接して設けられている。磁化固定層60は第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bの磁化の方向を上述のように互いに反平行となる向きに向けた上でその向きに固定する役割を有する。その意味で、磁化固定層60は磁化自由層10と磁気的に結合していればよく、必ずしも隣接して設けられる必要はない。また磁化自由層10の第1磁化固定領域11aと第2磁化固定領域11bの磁化が互いに反平行で固定されさえすれば、磁化固定層60は必ずしも設けられる必要はない。
導電層50は磁化自由層10と応答層20の間に設けられている。導電層50は導電性の材料から構成され、磁化自由層10と応答層20を電気的に接続する。
また図1A図1Cには示されていないが、第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bはそれぞれ異なる外部の配線に接続され、またリファレンス層40は別の外部の配線へと接続される。すなわち、当該磁気メモリ素子70は3端子の素子となる。なお、第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bと外部の配線の経路、及びリファレンス層40と外部の配線の経路には別の層が挿入されても構わない。例えば、これらの層と外部の配線との間に導電性のコンタクト層が設けられることが好ましい。また例えば第1磁化固定領域11aと第2磁化固定領域11bは磁化固定層60を介して外部の配線に接続されても構わない。
(メモリ状態)
次に本発明に係る磁気メモリ素子70のメモリ状態について説明する。
図2Aおよび図2Bはそれぞれ、本発明に係る磁気メモリ素子70の“0”、“1”それぞれのメモリ状態における磁化の状態の例を模式的に示している。図2Aは“0”状態における磁化の状態を、図2Bは“1”状態における磁化の状態を示している。なおここでは第1磁化固定領域11aの磁化は+z方向に固定され、第2磁化固定領域11bの磁化は−z方向に固定されているものとしている。
いま、図2Aに示されるような“0”状態においては、磁化自由領域12、及び応答層20の磁化は+z方向成分を有している。このとき第2磁化固定領域11bとの境界に磁壁DWが形成される。一方、図2Bに示されるような“1”状態においては、磁化自由領域12、及び応答層20の磁化は−z方向成分を有している。このとき第1磁化固定領域11aとの境界に磁壁DWが形成される。
図2Aおよび図2Bではリファレンス層40の磁化は+z方向に固定されているものとして描かれている。このとき図2Aに示される“0”状態、及び図2Bに示される“1”状態において、応答層20、非磁性層30、及びリファレンス層40から形成されるMTJの磁化配置は、それぞれ平行、反平行となる。従って、当該MTJに電流を通じたときにはそれぞれ相対的に低抵抗、高抵抗が実現される。
なお、図2A図2Bで定義された磁化状態とメモリ状態(“0”、“1”)の間の対応には任意性があり、この限りではないことは明らかである。
(動作方法)
1.初期化方法
次に本発明に係る磁気メモリ素子70のメモリ状態の初期化方法について説明する。なお、ここで言う初期化とは、第1磁化固定領域11aと第2磁化固定領域11bの磁化を互いに反平行方向になるように向け、磁化自由層10に単一の磁壁を導入するプロセスのことを意味する。
図3A図3Cは本発明に係る磁気メモリ素子70のメモリ状態の初期化方法の一例を模式的に示している。なお、図3A図3Cでは簡単のために磁化自由層10と磁化固定層60以外の層は省略されている。図3A図3Cにおいては、第1磁化固定領域11a側は第2磁化固定領域11b側に比べてハードであるものとしている。
図3A図3Cに示された初期化方法の例においては、以下の手順で外部磁界を印加することによりメモリ状態の初期化を行う。はじめに+z方向に十分大きな外部磁界を印加する。このとき、図3Aに示されるように、全領域の磁化は+z方向を向く。次に比較的小さな外部磁界を−z方向に印加する。このとき図3Bに示されるように磁化自由領域12の磁化がはじめに反転し、−z方向を向く。続いて−z方向の外部磁界をやや強くする。このとき図3Cに示されるように第2磁化固定領域11b側の磁化が反転し、−z方向を向く。図3Cに示された状態は第1磁化固定領域11aと磁化自由領域12の境界に磁壁DWがトラップされた状態であり、これは図2Bの“1”状態に一致する。このように外部磁界を印加することによって当該磁気メモリ素子70のメモリ状態を初期化することが可能となる。
2.書き込み方法
次に本発明に係る磁気メモリ素子70への情報の書き込み方法について説明する。
図4Aおよび図4Bは本発明に係る磁気メモリ素子70への情報の書き込み方法を模式的に示している。なお、図4Aおよび図4Bでは簡単のために磁化自由層10、導電層50、応答層20以外の層は省略されている。いま、図2Aで定義された“0”状態において図4Aに示すように、矢印Iwriteで示された方向に電流を導入する。このとき伝導電子は磁化自由層10において第2磁化固定領域11bから磁化自由領域12を経由して第1磁化固定領域11aへと流れる。このとき第2磁化固定領域11bと磁化自由領域12の境界に形成された磁壁DWにはスピントランスファートルク(Spin Transfer Torque;STT)が働き、x軸の負方向に移動する。すなわち電流誘起磁壁移動が起こる。ここで、第1磁化固定領域11aの磁化は固定されているため、磁壁DWは第1磁化固定領域11aと磁化自由領域12の境界で停止する。またこのとき磁化自由領域12の磁化の反転に伴い、応答層20の磁化も−x方向に反転する。この状態は図2Bで定義された“1”状態に相当する。このようにして“1”書き込みを行うことができる。
また図2Bで定義された“1”状態において図4Bに示すように、矢印Iwriteで示された方向に電流を導入する。このとき伝導電子は磁化自由層10において第1磁化固定領域11aから磁化自由領域12を経由して第1磁化固定領域11aへと流れる。このとき第2磁化固定領域11bと磁化自由領域12の境界に形成された磁壁DWにはスピントランスファートルク(Spin Transfer Torque;STT)が働き、x軸の正方向に移動する。すなわち電流誘起磁壁移動が起こる。ここで、第2磁化固定領域11bの磁化は固定されているため、磁壁DWは第2磁化固定領域11bと磁化自由領域12の境界で停止する。またこのとき磁化自由領域12の磁化の反転に伴い、応答層20の磁化も+x方向に反転する。この状態は図2Aで定義された“0”状態に相当する。このようにして“0”書き込みを行うことができる。
なお、“0”状態における“0”書き込み、及び“1”状態における“1”書き込みを行った場合には状態の変化は起こらない。すなわちオーバーライトが可能である。
3.読み出し方法
次に本発明に係る磁気メモリ素子70からの情報の読み出し方法について説明する
図5Aおよび図5B図1A図1Cに示された構成を有する磁気メモリ素子70からの情報の読み出し方法を模式的に示している。本発明においては主にトンネル磁気抵抗効果(Tunneling Magnetoresistive effect;TMR effect)を利用して情報の読み出しを行う。そのために応答層20、非磁性層30、リファレンス層40から構成される磁気トンネル接合(MTJ)を貫通する方向に電流Ireadを導入する。なおこのIreadの方向には任意性がある。
いま、図5Aに示されるように図2Aで定義された“0”状態においてIreadを導入したとき、当該MTJにおいて磁化は平行状態となっているので、相対的に低抵抗が実現される。また図5Bに示されるように図2Bで定義された“1”状態においてIreadを導入したとき、当該MTJにおいて磁化は反平行状態となっているので、相対的に高抵抗が実現される。このようにして、当該磁気メモリ素子70に格納された情報は抵抗値の差として検出することができる。
(回路構成)
次に、本発明に係る磁気メモリ素子70を有する磁気メモリセル80に書き込み電流及び読み出し電流を導入するための回路構成について説明する。
図6は、磁気メモリセル80の1ビット分の回路の構成例を示している。図6に示される例では、磁気メモリ素子70は3端子の素子であり、ワード線WL、グラウンド線GL、及びビット線対BLa、BLbに接続されている。例えば、リファレンス層40につながる端子は、読み出しのためのグラウンド線GLに接続されている。第1磁化固定領域11aにつながる端子は、トランジスタTRaのソース/ドレインの一方に接続され、ソース/ドレインの他方は、ビット線BLaに接続されている。第2磁化固定領域11bにつながる端子は、トランジスタTRbのソース/ドレインの一方に接続され、ソース/ドレインの他方は、ビット線BLbに接続されている。トランジスタTRa、TRbのゲートは、共通のワード線WLに接続されている。
データ書き込み時、ワード線WLはHighレベルに設定され、トランジスタTRa、TRbがONされる。また、ビット線対BLa、BLbのいずれか一方がHighレベルに設定され、他方がLowレベル(グラウンドレベル)に設定される。その結果、トランジスタTRa、TRb、磁化自由層10を経由して、ビット線BLaとビット線BLbとの間で書き込み電流が流れる。
データ読み出し時、ワード線WLはHighレベルに設定され、トランジスタTRa、TRbがONされる。また、ビット線BLaはオープン状態に設定され、ビット線BLbはHighレベルに設定される。その結果、読み出し電流が、ビット線BLbからトランジスタTRb及び磁気メモリ素子70のMTJを貫通してグラウンド線GLへ流れる。これによって磁気抵抗効果を利用した読み出しが可能となる。
図7は、本発明の実施例に係る磁気メモリ90の構成の一例を示すブロック図である。磁気メモリ90は、メモリセルアレイ110、Xドライバ120、Yドライバ130、コントローラ140を備えている。メモリセルアレイ110は、アレイ状に配置された複数の磁気メモリセル80を有している。磁気メモリセル80の各々は、上述の磁気メモリ素子70を有している。既出の図6で示されたように、各磁気メモリセル80は、ワード線WL、グラウンド線GL、及びビット線対BLa、BLbに接続されている。Xドライバ120は、複数のワード線WLに接続されており、それら複数のワード線WLのうちアクセス対象の磁気メモリセル80につながる選択ワード線を駆動する。Yドライバ130は、複数のビット線対BLa、BLbに接続されており、各ビット線をデータ書き込みあるいはデータ読み出しに応じた状態に設定する。コントローラ140は、データ書き込みあるいはデータ読み出しに応じて、Xドライバ120とYドライバ130のそれぞれを制御する。
(原理)
次に、本発明で用いる原理について説明する。
本発明に係る磁気メモリ素子70においては、メモリ情報は磁化自由領域12、及び応答層20の磁化の方向として格納され、磁化自由層10内での電流誘起磁壁移動によってメモリ状態の書き換えが行われる。そしてメモリ状態が書き換えられたとき、応答層20の磁化方向が変化し、それによって応答層20、非磁性層30、リファレンス層40からなるMTJの抵抗状態が変化する。ここでは応答層20の磁化が磁化自由領域12の磁化方向の変化に応答して変化する仕組みについて説明する。
磁化自由領域12は+z方向、または−z方向のいずれかの方向に磁化している。従って応答層20が磁化自由領域の上方(+z方向)に設けられているとき、応答層20の位置においては、磁化自由領域12が+z方向に磁化しているときには+z方向の漏洩磁界が形成され、一方−z方向に磁化しているときには−z方向の漏洩磁界が形成される。応答層20はこの漏洩磁界によって磁化反転を起こし、磁化自由領域12の磁化に応答する。
図8Aおよび図8Bは磁化自由領域12からの漏洩磁界の計算結果である。ここでは磁化自由領域12のサイズは図8Aに示すように90nm×90nm×5nmを想定しており、この磁化自由領域12の中心からz nm上方における漏洩磁界のy座標依存性が示されている。図8Bからわかるように磁化自由領域12からの距離(z)が小さいほど漏洩磁界は大きく、z=10nmでは約500[Oe](約4×10A/m)程度の漏洩磁界が発生することがわかる。すなわち、z=10nmの場合、応答層20の保磁力が500[Oe](4×10A/m)以下になるように設計することで本発明を実施可能である。またz=5nmでは周辺部において約1000[Oe](約8×10A/m)程度の漏洩磁界が発生することがわかる。従って、z=5nmの場合、応答層20の保磁力が1000[Oe](8×10A/m)以下になるように設計することで本発明を実施可能である。
(材料)
1.応答層、非磁性層の材料
前述のような原理から、応答層20は保磁力が1000[Oe](8×10A/m)以下となるような垂直磁気異方性材料を用いる必要がある。加えて、応答層20、非磁性層30、リファレンス層40からなるMTJのMR比を高めることで大きな読み出し信号が得られる。ところで、最近MgOに隣接するCoFeBは、CoFeBの膜厚がある範囲内にあるとき、垂直磁化が発現されることが報告されている(Ikeda et al.,“A perpendicular−anisotropy CoFeB−MgO magnetic tunnel junction”,Nature Materials,2010,vol.9,p721.参照)。加えて上記文献においては、このCoFeB/MgO膜を用いてMTJを作製したとき、100%以上のMR比が得られることが報告されている。
図9Aは基板/Ta/CoFeB/MgO/Taなる積層膜をドット状に加工したサンプルの磁化曲線であって、図9Bは当該積層膜の保磁力のCoFeB膜厚依存性の測定結果を示している。0.9nmから1.3nmの膜厚範囲において垂直磁気異方性が実現され、いずれの場合も保磁力は1000[Oe](8×10A/m)以下となっていることがわかる。また図9Bでは、CoFeBの代わりにCoFeBとFeの積層膜を用いたものの測定点もプロットされている。CoFeB/Feとした場合、さらに小さな保磁力が実現されている。
このようなことから、応答層20、非磁性層30の材料としては特にCoFeB、MgOが好ましいと言うことができる。
また、図9Aおよび図9Bからわかるように、磁化自由領域12からの漏洩磁界が500[Oe](4×10A/m)以上であれば、応答層20に対して広い設計マージンが確保できる。ここで図8からわかるように、磁化自由領域12と応答層20の膜厚方向の中心の距離が15nm以下であれば、漏洩磁界は500[Oe](4×10A/m)以上となっている。このことから、磁化自由領域12と応答層20の膜厚方向の中心の距離は15nm以下であることが好ましいと言える。
2.その他の層の材料
応答層20、非磁性層30に用いることの好ましい材料に関しては上述の通りであるが、一般的に磁化自由層10、応答層20、非磁性層30、リファレンス層40、及び磁化固定層60に用いることのできる材料については以下のような材料が挙げられる。
磁化自由層10は前述の通り垂直磁気異方性を有する強磁性体により構成されることが好ましい。具体的にはFe−Pt合金、Fe−Pd合金、Co−Pt合金、Co−Pd合金、Tb−Fe−Co合金、Gd−Fe−Co合金、Tb−Fe合金、Tb−Co合金、Gd−Fe合金、Gd−Co合金、Co−Cr−Pt合金、Co−Re−Pt合金、Co−Ru−Pt合金、Co−W合金などの合金系材料のほか、Co/Pt積層膜、Co/Pd積層膜、Co/Ni積層膜、Co/Cu積層膜、Co/Ag積層膜、Co/Au積層膜、Fe/Pt積層膜、Fe/Pd積層膜、Fe/Au積層膜などの交互積層膜が例示される。特にこの中で発明者らはCo/Ni積層膜を用いて制御性の高い電流誘起磁壁移動が実現できることを実験的に確認しており(Applied Physics’ Express,vol.1,p.101303(2008))、この点でCo/Ni積層膜が磁化自由層10の好適な材料として挙げられる。
リファレンス層40は例えば垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される。このときリファレンス層40に用いることのできる材料は磁化自由層10に用いることのできる材料として例示したものと重複するので省略する。ただし、リファレンス層40は磁化が安定して固定されていることが求められるので、なるべくハードな磁性体であることが好ましい。この点でFe−Pt合金、Fe−Pd合金、Co−Pt合金、Co/Pt積層膜、Co/Pd積層膜などが好適である。またその磁化方向は一方向に固定されている必要があり、さらに外部への漏洩磁界が小さいことが好ましい。このために前述のように、積層フェリ結合を有する積層構造とすることが好ましい。すなわち、リファレンス層40は、例えば強磁性体/Ru/強磁性体というような積層構成を有することが好適である。またリファレンス層40は面内磁気異方性を有する強磁性体から構成されてもよい。この場合にはあらゆる磁性体を用いることができる。代表的にはCo−Feなどが挙げられる。なお、リファレンス層40に面内磁気異方性を有する材料を用いた場合の実施の形態の例は、後に第4の変形例として説明される。
また磁化固定層60には、垂直磁気異方性を有する強磁性体から構成される。この場合に用いることのできる材料は磁化自由層10に用いることのできる材料として例示したものと重複するので省略する。
導電層50は導電性の材料であればどのような材料を用いても構わない。ただし、応答層20にCoFeBを用い、非磁性層30にMgOを用いる場合、導電層50はCoFeBに垂直磁気異方性を発現させるために、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wを含有することが好ましい。
また本発明に係る磁気メモリ素子70においては、前述のように書き込みに電流誘起磁壁移動を用いる。このときの電流は磁化自由層10に導入するが、磁化自由層10に対して導電層50が隣接する場合、導電層50にも書き込み電流は流れる。この電流が大きければ、トータルの書き込み電流も増加してしまい好ましくない。この点で導電層50の抵抗は比較的高いことが好ましい。上記のTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wは上述のCo/Ni系の材料に比べて比較的抵抗が高く、この点でも好ましい。また上記のような材料は窒化、または酸化することによって、導電層50の抵抗をさらに増大させることもできる。代表的にはTa−N、Ti−N、Zr−Nなどが例示される。
非磁性層30は一般的には絶縁性材料により構成されることが好ましい。具体的にはMg−Oの他、Al−O、Al−N、Ti−Oなどを用いることができる。
応答層20には上述のCoFeB以外の保磁力の小さな垂直磁気異方性を有する強磁性体を用いてもよい。この場合に用いることのできる材料は磁化自由層10に用いることのできる材料として例示したものと重複するので省略する。
(効果)
次に本発明で得られる効果について説明する。
前述のように、垂直磁気異方性を有する強磁性体における電流誘起磁壁移動を書き込み方法に用いた磁気メモリ素子は特許文献2、特許文献3などに公開されている。図10Aおよび図10Bは特許文献2に公開されている磁気メモリ素子の構造を、図11A図11Cは特許文献3に公開されている磁気メモリ素子の構造を、それぞれ模式的に示している。図10A図11Aは斜視図を示しており、図10B図11B図11Cは断面図を示している。なお、図中の符号は本発明に対応させてある。また以下の説明においては、各レイヤーの名称は本発明と対応するように記述される。
図10Aおよび図10Bに示されるように、特許文献2に示される磁気メモリ素子70においては、電流誘起磁壁移動による書き込みを行う磁化自由層10に対して、読み出しを行うための非磁性層30、リファレンス層40が隣接している。図10Aおよび図10Bに示される構造では、書き込みは磁化自由層10内で行われる。従って書き込み電流低減等の書き込み特性の調整のためには、磁化自由層10の材料、構成を適切に設計する必要がある。一方、読み出し信号量増大等の読み出し特性の調整のためには、磁化自由層10、非磁性層30、リファレンス層40の構造、構成を適切に設計する必要がある。すなわち、磁化自由層10は書き込み特性、読み出し特性の両方の要請を満たすように設計する必要があるということが言える。これは書き込み特性、読み出し特性の片方の要請を満たすように設計する場合と比べて、設計の自由度が低くなり、特性の向上が困難となる。
一方、図11A図11Cに示されるように、特許文献3に示される磁気メモリ素子70においては、書き込みは磁化自由層10内で行われ、磁化自由層10の磁化方向をセンシングするための面内磁気異方性を有するソフトな応答層20が設けられ、それに隣接して非磁性層30、リファレンス層40が設けられている。また、応答層20は磁化自由層10からの漏洩磁界をセンシングするためにx−y面内において磁化自由層10からずれるようにして設けられている。図11A図11Cに示される構造では、図10Aおよび図10Bと同様に書き込み特性は磁化自由層10の設計により調整可能である。一方読み出し特性は応答層20、非磁性層30、リファレンス層40からなるMTJの設計により調整可能である。すなわち、書き込み特性と読み出し特性の独立な設計が可能である。その一方で、図11A図11Cに示された構造を形成するために必要なプロセス数は図10Aおよび図10Bに示された構造を形成するために必要なプロセス数と比べて多くなる。また応答層20の磁化自由層10に対するx−y面内でのズレ量も適切に調整する必要があり、これはプロセスマージンの低下、微細化の困難化を招く。さらにセル面積も増大し、コストの増大を招く。
即ち、図10Aおよび図10Bに示される特許文献2に公開されている磁気メモリ素子は良好な書き込み特性と読み出し特性の両立が難しく、一方図11A図11Cに示される特許文献3に公開されている磁気メモリ素子はプロセスマージン、低コスト化の点でデメリットがある。本発明に係る磁気メモリ素子70はこれらの問題を解決する。
具体的には、本発明に係る磁気メモリ素子70は、書き込み特性は磁化自由層10によって決まり、読み出し特性は応答層20、非磁性層30、リファレンス層40によって決まる。従って書き込み特性と読み出し特性の独立な設計が可能となり、特許文献2に係る磁気メモリ素子の課題が解決される。また、本発明に係る磁気メモリ素子70は、構造は図10Aおよび図10Bに示されている特許文献2に係る磁気メモリ素子と同様である。従って特許文献3に係る磁気メモリ素子のもつデメリットとも無縁である。
即ち、本発明は、良好な書き込み特性と読み出し特性の両立が可能であり、プロセスマージンの大きい磁気メモリ素子を低コストで提供することができる。
[変形例]
以上で説明された磁気メモリ素子70は以下に説明される変形例を用いても実施することができる。
(第1の変形例)
図12Aおよび図12Bは本発明に係る磁気メモリ素子70の第1の変形例の構造を模式的に示している。第1の変形例は磁化固定層60の位置に関する。本発明に係る磁気メモリ素子70は磁化自由層10を具備し、磁化自由層10内の第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bは互いに反平行方向に固定される。また、図1A図1Cではこの第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bの磁化の反平行方向への固定のために磁化固定層60が設けられる例が示されている。図1A図1Cではこの磁化固定層60は磁化自由層10に対して基板側(−z方向)に配置されているが、この磁化固定層60の位置には任意性がある。
図12Aおよび図12Bでは磁化固定層60が磁化自由層10に対して上方に設けられる例が示されている。図12Aおよび図12Bに示されるように磁化固定層60が磁化自由層10の上方に設けられる場合、磁化自由層10と磁化固定層60は連続的に堆積させることができ、その磁気結合が容易となる。
プロセス数の観点では、図12Aおよび図12Bに示される構造は図1A図1Cに示される構造と比べて増加し、図11A図11Cに示される特許文献3の磁気メモリ素子と同程度になる。しかし図12Aおよび図12Bに示される構造は、図11A図11Cに示された構造と比べて、応答層20をx−y面内でずらす必要はなく、プロセスマージンは広くなり、また素子面積も増大しない。
また図12Aおよび図12Bに示された例以外でも、第1磁化固定領域11a、第2磁化固定領域11bの磁化を反平行方向に向けた上で固定することができれば、磁化固定層60はどこに設けられてもよく、またいくつ設けられてもよい。
(第2の変形例)
図13A図13B図14A、および図14Bは本発明に係る磁気メモリ素子70の第2の変形例の構造を模式的に示している。第2の変形例は応答層20、非磁性層30、リファレンス層40の位置、形状に関する。本発明に係る磁気メモリ素子70は応答層20、及びそれに隣接して非磁性層30、リファレンス層40を具備するが、これらの設けられる位置、及び形状についてはある条件を満たした範囲内で任意性がある。
図13Aおよび図13Bでは応答層20、非磁性層30、リファレンス層40が磁化自由層10に対して基板側(−z方向)に設けられる例が示されている。磁化自由層10の下面に導電層50が接続され、それに隣接して応答層20、非磁性層30、リファレンス層40がこの順に設けられている。
前述のように応答層20は磁化自由層10内の磁化自由領域12からの漏洩磁界に対して磁化方向が可変である。すなわち、磁化自由領域12からの漏洩磁界によって磁化方向が応答できる位置であればどのような位置に設けられてもよく、磁化自由層10の上側であってもよいし、下側であってもよい。
また図14Aおよび図14Bでは応答層20が磁化自由層10のy方向の幅よりも大きく形成されている。図8の漏洩磁界の分布のグラフからわかるように、磁化自由領域12からの漏洩磁界は、エッジ部分において増加する。図14Aおよび図14Bに示されたように、応答層20を大きめに形成した場合、このエッジ部分の大きな漏洩磁界を検出することが可能であり、検出感度の点で有利となる。
また図示されていないが、応答層20はx−y面内で磁化自由領域12からずれるようにして形成されても構わない。またその形状も長方形状でも構わないし、円形でも構わない。
(第3の変形例)
図15Aおよび図15Bは本発明に係る磁気メモリ素子70の第3の変形例の構造を模式的に示している。第3の変形例は磁気メモリ素子70の端子数に関する。図1A図1Cを用いて説明されたように、本発明に係る磁気メモリ素子70は典型的には3端子の素子となるが、3以外の端子であっても本発明に係る磁気メモリ素子70を実施することは可能である。
図15Aおよび図15Bでは4端子の素子として本発明を実施する場合の磁気メモリ素子の構造が示されている。図1A図1Cに示される例においては、磁化自由層10と応答層20、非磁性層30、リファレンス層40は導電層50を介して電気的に接続されていたが、図15Aおよび図15Bに示される例では、これらは電気的に分離されている。
図16Aおよび図16B図15Aおよび図15Bに示された構造を有する磁気メモリ素子70における、書き込み電流の経路(図16A)、及び読み出し電流の経路(図16B)を示している。書き込みの際は、磁化自由層10内に電流を導入する。一方読み出しの際は、応答層20、非磁性層30、リファレンス層40を貫通するように電流を導入し、その電流経路は導電層50から磁化自由層10を経由せずに外部の回路へと接続される。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の利用例として、携帯電話、モバイルパソコンやPDA(Personal Digital Assistant)に使用される不揮発性の半導体メモリ装置や、自動車などに使用される不揮発性メモリ内蔵のマイコンが挙げられる。またレーストラックメモリのような大規模のストレージデバイスなどへの利用も可能である。加えて、ロジック回路に不揮発性の抵抗変化素子を適用することで実現が可能である不揮発ロジック回路にも本発明を用いることができる。
なお、本出願は、2011年5月20日に出願された、日本国特許出願第2011−113697号からの優先権を基礎として、その利益を主張するものであり、その開示はここに全体として参考文献として取り込む。
【符号の説明】
【0011】
10 磁化自由層
11a 第1磁化固定領域
11b 第2磁化固定領域
12 磁化自由領域
20 応答層
30 非磁性層
40 リファレンス層
50 導電層
60 磁化固定層
70 磁気メモリ素子
80 磁気メモリセル
90 磁気メモリ
110 メモリセルアレイ
120 Xドライバ
130 Yドライバ
140 コントローラ
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B