特許第6029068号(P6029068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029068表面流制御システムおよび表面流制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029068
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】表面流制御システムおよび表面流制御方法
(51)【国際特許分類】
   F15D 1/12 20060101AFI20161114BHJP
   B64C 21/10 20060101ALI20161114BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   F15D1/12
   B64C21/10
   H05H1/24
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-94903(P2013-94903)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-214851(P2014-214851A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】郭 東潤
(72)【発明者】
【氏名】上田 良稲
【審査官】 関 義彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−126205(JP,A)
【文献】 特開2000−38200(JP,A)
【文献】 特開2008−290710(JP,A)
【文献】 特開2007−317656(JP,A)
【文献】 特開2012−47067(JP,A)
【文献】 特表平7−508335(JP,A)
【文献】 特開2008−290709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15D 1/12
B64C 21
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体に対して相対的に移動する移動体と、前記移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータと、前記プラズマアクチュエータを制御する制御手段とを備えた表面流制御システムであって、
前記移動体の前方端縁部が、流体の移動方向に対して垂直でない方向に延びるように形成され、
前記プラズマアクチュエータが、前記前方端縁部の近傍に配置され、
前記制御手段が、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させるようにプラズマアクチュエータを制御可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面流制御システム。
【請求項2】
前記プラズマアクチュエータが、前記前方端縁部の近傍から所定の間隔で多段に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の表面流制御システム。
【請求項3】
前記制御手段が、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を減少させるようにプラズマアクチュエータを制御可能に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面流制御システム。
【請求項4】
前記移動体が、航空機の後退翼であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の表面流制御システム。
【請求項5】
前記制御手段が、前記移動体と流体の相対速度に応じて前記プラズマアクチュエータの動作を制御可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の表面流制御システム。
【請求項6】
流体に対して相対的に移動する移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータを制御して、移動体表面の流体の境界層流れを変化させる表面流制御方法であって、
前記プラズマアクチュエータによって、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させる流れを誘起することを特徴とする表面流制御方法。
【請求項7】
前記プラズマアクチュエータによって、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を減少させる流れを誘起することを特徴とする請求項6に記載の表面流制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体に対して相対的に移動する移動体と、前記移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータと、前記プラズマアクチュエータを制御する制御手段とを備えた表面流制御システムおよび表面流制御方法に関し、特に航空機の翼に好適な表面流制御システムおよび表面流制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体に対して相対的に移動する移動体に働く抵抗は、圧力抵抗と摩擦抵抗に分けられ、特に航空機の場合、これらの抵抗を小さくすることで燃費の向上を図ることが可能となる。
摩擦抵抗は境界層内の流れの状態に依存し、層流の場合が乱流の場合より摩擦抵抗が小さく、飛行中の機体周りの流れを層流に維持させることで摩擦抵抗の低減に大きく貢献するため、翼などの機体周りの流れを層流化することが望ましい。
層流から乱流に境界層流れが遷移を起こす空気力学的な現象は、大きく分けて、T−S(Tollmien−Schlichting)不安定とC−F(Cross−Flow;横流れ)不安定の2つが挙げられる。
特に、C−F不安定による遷移は、後退角の大きい物体形状(例えば、航空機の後退翼)において遷移を起こす支配的な要因である。
境界層外縁流れの方向に対して横流れ速度成分が大きいと、C−F不安定性は顕著に発達し、これに起因して境界層は層流から乱流へ遷移する。
【0003】
超音速航空機のように後退角の大きい主翼形態を持つ場合、層流から乱流へ遷移は横流れ(Cross−Flow)不安定に起因する。
これは翼スパン方向に圧力勾配があることから境界層内の横流れ成分が卓越することにより発生する遷移メカニズムである。
そのため、従来の技術では翼スパン方向に圧力分布が発生しないような機体形状にすることにより、C−F不安定を抑制した層流翼化が主流であるが、このような方法では、ある飛行状態での層流翼化のため翼形状に拘束されるため、離着陸から巡航飛行時の低速から高速飛行領域の広い飛行領域において必ずしも最適な空力性能を持つことができないという問題があった。
【0004】
一方、流体に対して相対的に移動する移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータによって、流体の流れを制御するものが公知である(特許文献1、2、3等参照。)。
これらの公知のものは、いずれも移動体の表面に対して鉛直方向の気流を発生させることにより移動体表面の流体の境界層の剥離を制御したり下流側の流れを制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−317656号公報
【特許文献2】特開2008−290710号公報
【特許文献3】特開2012−047067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1乃至3等で公知のものは、移動体の表面に対してその垂線方向の気流を発生させることで境界層の剥離を制御したり下流側の流れを制御するものであって、境界層の層流から乱流へ遷移を制御することは不可能であり、境界層の層流化は依然として機体形状と流体との相対速度に依存するという問題があった。
また、C−F不安定を抑制することで境界層遷移を制御するために、ジェット流を境界層に噴き込んだり、境界層内の流れを吸い込んだりする方法が考えられるが、複雑な機構を有し、また、多くのエネルギーの供給が必要になるという、構造的、効率的な問題があった。
【0007】
そこで、本発明者は、プラズマアクチュエータによって、移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させることでC−F不安定性を変化させて、移動体の形状に関係なく、また低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を制御可能であるという、従来にない全く新規な発想に至った。
すなわち、本発明は、移動体の形状に関係なく、低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を制御可能であり、かつ、電気的な手段のみの簡単な構造で効率のよい表面流制御システムおよび表面流制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、流体に対して相対的に移動する移動体と、前記移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータと、前記プラズマアクチュエータを制御する制御手段とを備えた表面流制御システムであって、前記移動体の前方端縁部が、流体の移動方向に対して垂直でない方向に延びるように形成され、前記プラズマアクチュエータが、前記前方端縁部の近傍に配置され、前記制御手段が、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させるようにプラズマアクチュエータを制御可能に構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0009】
本請求項2に係る発明は、請求項1に係る表面流制御システムの構成に加え、前記プラズマアクチュエータが、前記前方端縁部の近傍から所定の間隔で多段に配置されていることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る表面流制御システムの構成に加え、前記制御手段が、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を減少させるようにプラズマアクチュエータを制御可能に構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る表面流制御システムの構成に加え、前記移動体が、航空機の後退翼であることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る表面流制御システムの構成に加え、前記制御手段が、前記移動体と流体の相対速度に応じて前記プラズマアクチュエータの動作を制御可能に構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0010】
本請求項6に係る発明は、流体に対して相対的に移動する移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータを制御して、移動体表面の流体の境界層流れを変化させる表面流制御方法であって、前記プラズマアクチュエータによって、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させる流れを誘起することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項7に係る発明は、請求項6に係る表面流制御方法の構成に加え、前記プラズマアクチュエータによって、前記移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を減少させる流れを誘起することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1に係る表面流制御システムによれば、移動体の前方端縁部が流体の移動方向に対して垂直でない方向に延びている、すなわち、移動体の境界層流れの層流から乱流への遷移がC−F不安定が支配的な要因となるものであり、プラズマアクチュエータが前方端縁部の近傍に配置され、移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させることによって、移動体の形状に関係なく、低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を制御可能であり、かつ、電気的な手段のみの簡単な構造で効率よく制御することが可能となる。
【0012】
プラズマアクチュエータは境界層内の表面近くに体積力を発生させ、表面に沿った流れを誘起(コアンダー効果)し、遷移を誘発する横流れ速度方向の逆方向にプラズマアクチュエータによる流れを誘起することにより横流れ速度成分の発達を抑制し、横流れ不安定性に起因する遷移を抑制することができ、横流れ速度方向に流れを誘起することで、逆に遷移を促進することも可能である。
また、横流れ不安定性による遷移は翼の前方端縁部付近で卓越する場合が多く、境界層が非常に薄い前方端縁部付近での他のデバイスを適用した場合、圧力抵抗の増加がデバイスによる凸凹が境界層遷移を促進する恐れがあるが、プラズマアクチュエータを前方端縁部の近傍に配置することで、圧力抵抗に変化を与えることなく、横流れ速度成分のみを制御することが可能となる。
さらに、主流方向速度に比べ横流れ方向成分が遅いことから、プラズマアクチュエータによる制御で、十分な効果を得ることができる。
【0013】
本請求項2に記載の構成によれば、プラズマアクチュエータが前方端縁部の近傍から所定の間隔で多段に配置されていることにより、流れ方向のより広い範囲で横流れ速度成分の制御が可能となり、さらに確実に制御することが可能となる。
本請求項3に記載の構成によれば、制御手段が移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を減少させるようにプラズマアクチュエータを制御可能に構成されていることにより、確実に横流れ不安定性に起因する境界層の層流から乱流への遷移を抑制することができ、摩擦抵抗を低減することができる。
本請求項4に記載の構成によれば、移動体が航空機の後退翼であることにより、超音速航空機等において、ある飛行状態での層流翼化のため翼形状に拘束されることなく、離着陸から巡航飛行時の低速飛行領域、さらに高速飛行領域の広い飛行領域において最適な空力性能を得ることができる。
本請求項5に記載の構成によれば、制御手段が移動体と流体の相対速度に応じて前記プラズマアクチュエータの動作を制御可能に構成されていることにより、低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を最適に制御可能となる。
【0014】
本請求項6に係る表面流制御方法によれば、流体に対して相対的に移動する移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータを制御して、移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させることによって、移動体の形状に関係なく、低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を制御可能であり、かつ、電気的な手段のみの簡単な構造で効率よく制御することが可能となる。
本請求項7に記載の構成によれば、プラズマアクチュエータによって移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を減少させる流れを誘起することにより、確実に横流れ不安定性に起因する境界層の層流から乱流への遷移を抑制することができ、摩擦抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】翼外縁と中心から100mmの位置の流れの説明図。
図2図1の数値解析による横流れ成分のグラフ。
図3図2の状態の境界層流の遷移解析のグラフ。
図4図3の状態のPsiのグラフ。
図5】横流れ0とした時の境界層流の遷移解析のグラフ。
図6図5の状態のPsiのグラフ。
図7】本発明の一実施形態に係る表面流制御システムのモデル説明図。
図8図7のプラズマアクチュエータの断面説明図。
図9】翼の表面流速のグラフ。
図10】境界層のプロファイルのグラフ。
図11】他の条件での翼の表面流速のグラフ。
図12】さらに他の条件での翼の表面流速のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の表面流制御システムは、流体に対して相対的に移動する移動体と、移動体の表面に設けられたプラズマアクチュエータと、プラズマアクチュエータを制御する制御手段とを備えた表面流制御システムであって、移動体の前方端縁部が、流体の移動方向に対して垂直でない方向に延びるように形成され、プラズマアクチュエータが、前方端縁部の近傍に配置され、制御手段が、移動体表面の流体の境界層流れの横流れ速度成分を変化させるようにプラズマアクチュエータを制御可能に構成されるものであり、移動体の形状に関係なく、低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を制御可能であり、かつ、電気的な手段のみの簡単な構造で効率のよいものであれば、その具体的な実施態様はいかなるものであっても良い。
【0017】
本発明に係る表面流制御システムおよび表面流制御方法について、さらに詳しく説明する。
例えば、図1に示すように、中心からの幅250mm、前方端縁部の後退角60°、迎角(AOA)3°の翼について、流速(U)19m/sの時、中心から100mmの位置では、おおよそ点線で示すような表面流れを形成する。
この位置の流れ場について数値解析(CFD)により解析すると、図2のような横流れ速度成分が存在することが解った。
ここで、Cは翼の長さ、Xは前方端縁部からの距離、Z(mm)は翼の表面からの高さ、V(m/s)は横流れ(翼端方法(図1の下方向)がプラス、中心方向(図1の上方)がマイナス)の速度成分である。
【0018】
この条件で、境界層流の遷移解析(e法)を行った結果、図3に示すように、翼の前方端縁部付近でN値が急激に増加しており、これにより、前方端縁部付近で層流から乱流への遷移が発生する可能性が高いことがわかる。
図3に示すN値の主たる要因は図4に示すPsiの特性から判断することができる。図4のPsiが0でないことから、図3のN値が横流れ成分により発達したN値であることを示している。
これらの解析結果から後退角60度の翼の場合、境界層遷移はC−F不安定性に起因する遷移であると判断される。
上記の条件で横流れ成分を強制的に0にした場合、図5に示すように、N値分布が急激に減少する。そして、図6に示すように、Psi値は0あり、図5のN値はT−S不安定に起因する遷移であると判断される。
以上の解析結果を総合すると、境界層遷移は横流れ成分よるC−F不安定による遷移であり、横流れがない場合では境界層遷移の発生可能性が大幅に低減される事がわかる。
【実施例1】
【0019】
本発明の1実施形態である表面流制御システムは、図7に示すように、上述した翼(中心からの幅250mm、前方端縁部の後退角60°)の前方端縁部の近傍表面に、中心から100mmの位置を中心として長さ100mmのプラズマアクチュエータを設け、制御手段(図示せず)にプラズマアクチュエータの出力を制御して境界層流れの横流れ速度成分を変化させるものである。
プラズマアクチュエータ110は、図8に示すように、誘電体層112の両面に2つの電極111が位置をずらして設けられた誘電体バリア放電プラズマアクチュエータからり、翼100の表面に沿って埋め込まれるように設置されている。
また、プラズマアクチュエータ110の2つの電極111に印加される電圧は、制御手段(図示せず)によって制御される。
【0020】
上記の表面流制御システムを備えた翼100に対し、迎角(AOA)4°、流速(U)10m/sの条件で風洞実験を行った。
なお、境界層流れの層流から乱流への遷移位置は、直径1mmのプレストン管によって測定される翼の表面の流速(Up)により判定可能である。
すなわち、層流の場合は、表面付近では流速は小さく、表面から離れるに連れて急激に流速が大きくなるが、乱流の場合は、表面付近での流速はやや大きく、表面から離れるに連れて徐々に流速が大きくなることがわかっている。
従って、プレストン管によって測定される流速(Up)が低いレベルから高いレベルに変化する位置が、境界層流れの層流から乱流への遷移位置と判断できる。
【0021】
風洞実験の結果、図9に示すように、境界層流れの層流から乱流への遷移位置は、プラズマアクチュエータを用いない場合、前方端縁部から250mmの位置であったのに対し、プラズマアクチュエータに13kVの電圧を印加した場合、前方端縁部から450mmの位置まで後退した。
図7のX=400mm(X/C=0.39)の位置での境界層のプロファイルでも、図10に示すように、プラズマアクチュエータを用いない場合には、乱流のプロファイルを示し、プラズマアクチュエータに13kVの電圧を印加した場合には、層流のプロファイルを示しており、境界層流れの層流から乱流への遷移位置が後退しているのが確認できる。
【0022】
迎角(AOA)4°、流速(U)15m/sおよび迎角(AOA)4°、流速(U)19m/sの条件で風洞実験を行った結果について、図11および図12に示す。
これらの条件においても、境界層流れの層流から乱流への遷移位置は、プラズマアクチュエータを用いることで後退していることがわかる。
すなわち、プラズマアクチュエータを用いて、横流れ速度成分を低減することで容易に境界層流れの層流から乱流への遷移位置を後退させることが可能である。
なお、逆に、横流れ速度成分を増加させるようにプラズマアクチュエータを動作させれば、境界層流れの層流から乱流への遷移位置を前進させることも可能である。
【0023】
また、上記実施形態においては、プラズマアクチュエータを前方端縁部に平行に1列のみ設けたが、横流れ速度成分を変化させることが可能であれば、どのような角度で取り付けてもよく、また、所定の間隔で多段に設けてもよく、各段それぞれ異なる電圧を印加可能としてもよい。
このことで、翼長方向に広い範囲で横流れ速度成分を細かく制御することが可能となり、異なる条件下でも境界層流れの層流から乱流への遷移位置を最適に制御することが可能となる。例えば、超音速航空機等において、離着陸から巡航飛行時の低速飛行領域、さらに高速飛行領域の広い飛行領域において最適となるように、境界層流れの層流から乱流への遷移位置を変位させることが可能となり、最適な空力性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上のように、本発明によれば移動体の形状に関係なく、低速から高速までの幅広い領域において境界層の層流化を制御可能であり、かつ、電気的な手段のみの簡単な構造で効率よく表面流を制御することができる。
本発明の表面流制御システムは、航空機、特に後退翼を有する超音速航空機に適用するのが好適であるが、船舶、あるいは、陸上の移動体に適用されてもよく、移動体自体は構造物等に固定され、流体のみが移動するような用途で用いられてもよい。
また、移動体はプロペラや風車等のように、回転することで流体に対して相対的に移動するものであってもよい。
【符号の説明】
【0025】
100 ・・・翼
110 ・・・プラズマアクチュエータ
111 ・・・電極
112 ・・・誘電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12