(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態はガスセンサを例にして説明するが、以下に説明する実施形態を用いて説明する技術は、反射層を備えた光学要素と受光素子とを組み合わせて用いる光センサ装置であれば、他の構成にも利用可能である。たとえば、焦電型赤外線センサを受光素子に用いた光センサ装置としての人感センサにおいて、視野を定める光学要素としてミラーを用いる場合に、本実施形態で説明する技術を採用することが可能である。また、発光素子と受光素子との間に形成された光路を遮る通過者あるいは煙が存在することを検知する光センサ装置において、光路を設定するための光学要素としてミラーを用いる場合にも、本実施形態で説明する技術を採用可能である。
【0017】
図1A、
図1B、
図2に示すように、ガスセンサは、発光素子11と受光素子12と光学要素13とを備える。光学要素13に発光素子11および受光素子12を結合するには、光学要素13と発光素子11あるいは受光素子12との間に介在する取付部材が必要であるが、取付部材は本実施形態では詳述しない。
【0018】
発光素子11は、代表例として発光ダイオード、レーザダイオード、OLED(Organic Light Emitting Diode)などが知られている。受光素子12は、代表例としてフォトダイオード、フォトトランジスタ、焦電型赤外線センサ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどが知られている。例示した発光素子11および受光素子12の具体例は一例であって限定する趣旨ではない。
【0019】
光学要素13は、合成樹脂成形品であって筒状に形成され、光学要素13の管壁には、複数個の通気孔131が貫通して形成されている。また、光学要素13は、一対の半割体13A,13Bを結合することにより形成されている。半割体13A,13Bは、光学要素13の両端部の開口面136,137が対向する特定方向に沿った中心線すなわち光学要素13の中心線を含む平面で分割された対になる部材である。半割体13A,13Bは、嵌め合いによる結合、超音波溶着、接着などから選択される技術により結合される。一対の半割体13A,13Bの各々は、
図2に示すように1つの部材で構成されてもよいし、複数の部材で構成されてもよい。本実施形態の光学要素13では、上記特定方向が光学要素13の長手方向となる。
【0020】
光学要素13は、上記特定方向において外側面の中央部が両端部よりも膨らんだ形状に形成されている。光学要素13の上記特定方向に貫通する導光孔132は、口径が上記特定方向の中央部で最大になり両端部では中央部よりも小さくなった形状に形成されている。さらに、導光孔132は、発光素子11が結合される一端部(開口面136)の口径よりも、受光素子12が結合される他端部(開口面137)の口径が大きくなった形状に形成されている。光学要素13の内側面は、光学要素13の外側面と同様に、光学要素13の上記特定方向における中央部が両端部よりも膨らんだ形状であって、滑らかに湾曲した形状に形成されている。
【0021】
光学要素13は、一対の半割体13A,13Bの各々について、基材135と、金属膜からなり基材135の内側面の略全面を覆う反射層133と、反射層133の表面の全面を覆う耐食層134とを備える。反射層133は、発光素子11と受光素子12との間で授受される光の波長に対して高反射率になる材料が選択され、耐食層134は、受光素子12が着目する光の波長に対して透過性を有する材料が選択される。反射層133および耐食層134の材料および膜厚の具体例は後述する。
【0022】
光学要素13は、上述した構成により、通気孔131を通して導光孔132に気体が流入する。気体による光の吸収率は気体の種類に応じた波長依存性を有しているから、発光素子11と受光素子12との間で授受する光の波長を選択することにより、受光素子12での受光強度に基づいて、検知対象である気体の濃度を求めることが可能になる。
【0023】
たとえば、検知対象である気体に吸収される光と当該気体に吸収されない光との互いに異なる波長を有する2種類の光を用いて、2種類の光(波長)に関する受光強度の比を求めると、検知対象である気体の濃度は、当該比をパラメータに含む形式で表される。つまり、気体の濃度と受光強度の比との関係を、関数あるいはデータテーブルの形式で表すことが可能である。
【0024】
たとえば、検知対象を二酸化炭素とする。この場合、受光素子12は、たとえば、二酸化炭素に吸収される光の波長4.3μmを中心とする特定波長帯の受光強度と、二酸化炭素に吸収されない光の波長3.9μmを中心とする特定波長帯の受光強度とを、出力値が反映するように構成される。この構成の受光素子12は、それぞれの波長帯を選択して選択した波長帯の光を透過させる狭帯域の2個のバンドパスフィルタと、バンドパスフィルタごとに透過した光を受光する2個の赤外線センサとの組合せで実現可能である。
【0025】
また、発光素子11は、受光素子12が受光する特定波長帯の光を含む所定の波長域の光を放射すればよい。すなわち、上述の例であれば、発光素子11は、3.9〜4.3μmの波長域を包含する赤外領域の光を放射するように構成されていればよい。この種の発光素子11は、たとえば、赤外線発光ダイオードのほか、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により微細に加工された応答性のよいヒータも採用可能である。
【0026】
この構成のガスセンサは、発光素子11が間欠的に発光し、発光素子11から放射された光が光学要素13の内部を導光されて受光素子12に到達する。発光素子11から受光素子12に導光される際に、発光素子11から放射された光のうちの一部の光は反射層133で反射され、受光素子12に入射する。光学要素13の内側面は様々な角度に光を反射するように滑らかに湾曲し、発光素子11から放射された光を導光孔132の内部空間の全体に行き渡らせる。
【0027】
つまり、発光素子11から放射された赤外領域の光は、光学要素13の管壁で吸収されず、しかも、光学要素13の内部空間の全体に広がって、受光素子12に向かって導光される。そのため、発光素子11から放射された光のうち受光素子12に入射する光の割合が高い上に光路長が比較的長くなる。その結果、光学要素13の内部における気体の存在が検出されやすくなる。
【0028】
検知対象である気体が通気孔131を通り光学要素13の内部空間に導入されている場合、発光素子11から放射された特定波長の光は、気体の濃度に応じた吸光度で気体に吸収される。そのため、受光素子12において特定波長帯に対する出力値(第1の出力値)は、検知対象である気体が存在しない場合よりも低下する。一方、検知対象である気体に吸収されない光の特定波長帯に対する出力値(第2の出力値)は、理想的には、検知対象である気体が存在する場合と変わらないから、2つの出力値の比(例えば、第1の出力値/第2の出力値)により、気体の濃度を知ることが可能になる。
【0029】
上述した構成により、光学要素13の内部空間(導光孔132)は、検知対象となる気体が導入される監視空間として機能し、発光素子11からの光が監視空間を通る。発光素子11と受光素子12との間の光路は、光学要素13の内側面の略全面に形成された反射層133によって監視空間に網目のように形成されるから、検知対象である気体が監視空間において局在している場合でも、気体に光を通過させることが可能になる。
【0030】
ところで、上述したガスセンサは、使用環境によっては、検知対象の気体のみならず、硫黄、塩素、窒素などを含む腐食性の気体が光学要素13に入り込む。反射層133は、高反射率が得られるように金属膜で形成されているから、反射層133を形成している金属の種類によっては腐食性の気体により腐食され、ガスセンサの性能が経年的に劣化することになる。
【0031】
反射層133に用いる金属を選定するにあたっては、受光素子12が検出する特定の波長に対する反射率が高いことはもちろんのことであるが、価格も考慮する必要がある。したがって、反射率の特性がよいが高価である金(Au)は、商品原価を考慮すると採用困難である。しかも、Auは下地にニッケル(Ni)を用いることによって接合強度を高める場合が多く、Auにピンホールが形成され、ピンホールに水分が付着し亜硫酸ガスなどが接触すると、AuとNiとにより形成される局部電池により、腐食が加速する可能性がある。
【0032】
一方、銀(Ag)は、反射率がよくAuに比べて安価であるが、硫黄を含む腐食性の気体によって腐食されやすく、アルミニウム(Al)およびクロム(Cr)は、反射率がよくAuに比べて安価であるが、酸化により反射率が低下する。そのため、Ag,Al,Crは、反射層133の材料の候補ではあるが、単独で用いることはできない。
【0033】
さらに、反射層133は、光学要素13を形成している合成樹脂成形品からなる基材135に固着させるから、上述した条件に加えて、基材135との接合が容易であることが要求される。また、金属の種類によっては、反射率に波長依存性があり、検出対象の気体に対応した波長域の反射率が基準(たとえば、反射率90%以上)を満たさない場合もある。
【0034】
光学要素13の基材135は、成形が容易、かつ反射層133を固着させるための下地処理が容易であって、耐熱性が高く、低価格という条件を満たす材料が選択される。この種の材料として、たとえば、ナイロン系の合成樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどが選択可能である。
【0035】
基材135に反射層133を密着させるには、下地処理として基材135の表面にSiO
2からなる下地層を形成しておくことが考えられる。しかしながら、基材135に対して反射層133と耐食層134とのほかに、反射層133とは異なる材料の下地層も併せて形成することは、工数の増加につながるという問題がある。そのため、本実施形態では、窒素雰囲気でプラズマ処理を行っている。基材135の表面にプラズマ処理を施すことにより、基材135の表面が清浄化され、反射層133の密着性が高くなる。
【0036】
反射層133の表面は、上述したように、耐食層134で覆われる。耐食層134は、想定される腐食性の気体に腐食されず、かつ受光素子12が検出する波長域の光を透過させる材料が選択される。この種の材料としては、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、ケイ酸ガラス、ダイヤモンドなどが選択可能である。
【0037】
光学要素13の基材135がナイロン、反射層133がAl、耐食層134がAl
2O
3で形成される場合に関し、反射層133の膜厚と反射率との関係を評価した結果を
図3に示し、耐食層134の膜厚と反射率との関係を評価した結果を
図4に示す。
【0038】
図3に示すように、反射層133の反射率は、反射層133の膜厚および反射層133で反射する光の波長により変化する。特性A1は反射層133の膜厚が40nmの場合、特性A2は60nmの場合、特性A3は80nmの場合、特性A4は100nmの場合をそれぞれ示している。なお、耐食層134の膜厚は200nmとした。
【0039】
検知対象である気体が二酸化炭素であって、着目する波長が3.9μmと4.3μmとであれば、
図3から明らかなように、反射層133の膜厚が60〜100nmの範囲では反射率にほとんど差が生じない。また、反射層133の膜厚が40nmであっても反射率は90%以上であるから、実用上は問題がない。反射層133は、着目する波長について、膜厚が60nmでは反射率がほぼ飽和していると考えられ、膜厚を増加させても反射率に影響がない。また、膜厚が40nmの場合、波長が2.5μm以下では反射率が90%未満になっている。
【0040】
以上のことから、反射層133の膜厚は、実用上は、40nm以上であればよく、汎用性を考慮すると膜厚は60nm以上が望ましいと言える。なお、膜厚が100nmを超えても反射率が大きく増減することはないことが予想されるから、成膜が比較的容易である範囲であれば膜厚の上限はとくに規定しない。
【0041】
図4は耐食層134の膜厚と反射率との関係を示す。本実施形態では、反射層133は耐食層134で覆われているから、耐食層134の膜厚が変化すれば反射率が変化することが予想される。
図4において、実線B1は成膜直後の反射率を示し、一点鎖線B2は亜硫酸による耐久性試験を行った後の反射率を示す。耐食層134の膜厚は、50nm、100nm、200nm、300nmの4種類とした。反射層133は膜厚を150nmとした。
図4に示した関係を表1に示す。なお、試験条件は、試料を、亜硫酸濃度10ppm、温度40℃、湿度95%の環境中に240時間放置し、反射率の測定波長4000nmとした。
【0043】
図4および表1によれば、耐食層134が50nmである場合、耐久性試験の後に明らかに反射率が低下しているが、耐食層134が100nm以上である場合、耐久性試験の前後で反射率に有意の変化が生じていない。また、耐食層134の膜厚が50nmであっても耐久性試験の後の反射率は90%以上であり、良好とは言えないまでも使用可能な範囲と言える。また、耐食層134の膜厚が100〜300nmの範囲では、初期と試験後との両方で実質的に95%以上の高い反射率が得られている。なお、耐食層134の膜厚が100nmと200nmとでは反射率にほとんど差が見られず、膜厚が300nmに達すると、100nmあるいは200nmの場合よりは反射率が低下している。ただし、膜厚が300nmであっても、ほぼ95%以上の反射率が得られているので、300nm以下は望ましい条件と言える。
【0044】
また、
図4の例とは異なる条件で成形したガスセンサにおける耐食層134の膜厚と反射率との関係を
図5に示す。実線B11は成膜直後の反射率を示し、一点鎖線B12は亜硫酸による耐久性試験を行った後の反射率を示す。
図5の特性を有するガスセンサは、
図4の特性を有するガスセンサに比べて、表面粗さが小さい。なお、表面粗さが小さい、すなわち表面が滑らかなほうが反射率は向上する。
【0045】
以上のことから、耐食層134の膜厚は50nm以上であれば耐久性を満足させているが、耐食性試験の後の反射率を考慮すると、膜厚の下限値は100nmとすることが望ましい。耐食性試験の前の反射率と耐食性試験の後の反射率との差を考慮すると、さらに望ましい膜厚の下限値は125nmである。また、膜厚の上限値は300nmであることが望ましい。耐食性試験の後の反射率を考慮すると、より望ましい膜厚の上限値は225nm、さらに望ましい膜厚の上限値は200nmである。
【0046】
図5において、膜厚の下限値が100nmである場合、耐食性試験の前の反射率が98.5%、耐食性試験の後の反射率が96.5%であるから、耐食性試験の前の反射率と耐食性試験の後の反射率との差は2%である。一方、膜厚が125nm以上225nm以下である場合、耐食性試験の前の反射率と耐食性試験の後の反射率との差を2%未満にすることができる。膜厚が125nm以上225nm以下の範囲の中で反射率の差が最も大きい150nmである場合、耐食性試験の前の反射率が98.3%、耐食性試験の後の反射率が96.6%であるから、耐食性試験の前の反射率と耐食性試験の後の反射率との差は1.7%である。
【0047】
耐久性試験の後の反射率をある程度大きくし、かつ、耐久性試験の前の反射率と耐久性試験の後の反射率との差ができるだけ小さくするためには、耐食層134の膜厚は125nm以上225nm以下であることが望ましい。具体的には、膜厚が125nm以上225nm以下の範囲では、耐食性試験の後の反射率を96%以上にし、かつ、耐食性試験の前の反射率と耐食性試験の後の反射率との差を2%未満にすることができる。
【0048】
すなわち、受光素子12への入射光が赤外領域(3.9〜4.3μmの波長帯を含む領域)であって、反射層133がAlかつ耐食層134がAl
2O
3で形成されている場合の条件は以下のようになる。すなわち、反射層133の膜厚の下限値は40nm、望ましくは60nmである。また、耐食層134の膜厚の下限値は50nm、望ましくは100nmであり、さらに望ましい膜厚の下限値は125nmである。耐食層134の膜厚の上限値は300nm、望ましくは225nm、さらに望ましくは200nmになる。耐久性試験の前後での反射率の劣化の低減を考慮すれば、耐食層134の膜厚は125nm以上225nm以下であることが望ましい。
【0049】
なお、従来のように耐食層が合成樹脂で形成されていると、耐食層が赤外領域の光を吸収する可能性があり、赤外領域の光を利用する用途には適用が難しい。これに対して、気相メッキによるAl
2O
3の耐食層134は、上述した例のように、赤外領域の光に対して反射層133の反射率を損なわないから赤外領域の光を利用する用途でも適用可能である。また、液相メッキを行う場合、前処理、反射層の形成、耐食層の形成の工程ごとに異なる槽が必要になるが、本実施形態は、耐食層134が気相メッキで形成されるから、同一チャンバ内ですべての工程を行うことが可能になる。また、液相メッキは、それぞれの処理工程の間に洗浄や乾燥の工程を必要とするが、気相メッキは、これらの工程が不要であるから、工程の簡略化につながる。
【0050】
以下に、反射層133および耐食層134を形成する方法を説明する。反射層133および耐食層134の成膜は気相中で行われる。具体的には、反射層133および耐食層134が上述した材料である場合、蒸着またはスパッタリングによる成膜が行われる。反射層133および耐食層134として他の材料を採用する場合は、CVD(Chemical Vapor Deposition)による成膜を行うことも可能である。以下では、蒸着、スパッタリング、CVDを区別しない場合、気相メッキという。すなわち、気相メッキは、蒸着、スパッタリングおよびCVDを含む総称である。
【0051】
以下では、反射層133の材料にAlを選択し、耐食層134の材料にAl
2O
3を選択した場合について、反射層133と耐食層134とを形成する方法を説明する。反射層133および耐食層134の成膜は、光学要素13を形成する2個の半割体13A,13Bを結合する前に行われる。つまり、半割体13A,13Bのそれぞれの基材135に反射層133および耐食層134を成膜し、その後、半割体13A,13Bが結合される。
【0052】
反射層133の材料がAlであり、耐食層134の材料がAl
2O
3である場合、反射層133および耐食層134は以下の2種類の方法のいずれかにより成膜する。
【0053】
第1の方法は、半割体13A,13Bの基材135において導光孔132となる部位に、気相メッキによりAlからなる反射層133を成膜する過程と、その後に、反射層133の表面に、気相メッキによりAl
2O
3からなる耐食層134を成膜する過程とを含む。なお、成膜方法が蒸着である場合、反射層133の成膜と耐食層134の成膜とに際して蒸着材料を替える必要があり、成膜方法がスパッタリングである場合、反射層133の成膜と耐食層134の成膜とに際してターゲットを替える必要がある。
【0054】
第2の方法は、半割体13A,13Bの基材135において導光孔132となる部位に、真空雰囲気で気相メッキにより反射層133を成膜する過程と、その後に、酸素が導入された酸化雰囲気で気相メッキにより耐食層134を成膜する過程とを含む。すなわち、この方法は、真空雰囲気での反射層133の成膜後に、蒸着材料あるいはターゲットが変更されることなく酸素を導入した酸化雰囲気で耐食層134が成膜される。したがって、耐食層134は、蒸着材料あるいはターゲットの酸化物になる。本例において、反射層133の材料はAlであるから、蒸着材料あるいはターゲットを変更することなくAl
2O
3からなる耐食層134が成膜される。
【0055】
第2の方法を採用すると、反射層133および耐食層134の成膜に際して蒸着材料あるいはターゲットの変更を伴わず、成膜時の雰囲気を変更するだけで、異なる性質を有する反射層133と耐食層134とを成膜することが可能になる。
【0056】
以上のことから、第2の方法は、第1の方法のように蒸着材料あるいはターゲットを替える作業を伴う場合に比べると、光学要素13を作製する際の作業時間が短縮されるという利点がある。また、第1の方法では、蒸着材料あるいはターゲットを替えるたびに、チャンバ内が真空雰囲気になるように減圧することが必要になるのに対して、第2の方法では、反射層133と耐食層134とを成膜するためにチャンバ内を1回だけ減圧すればよい。つまり、第2の方法は、減圧するために必要なエネルギーが第1の方法よりも少なくなる点でも有利である。
【0057】
第2の方法を実施する際の条件を例示する。反射層133を成膜するにあたり、まず、半割体13A,13Bを投入したチャンバ内を1.0×10
−3Paまで減圧することにより真空雰囲気とした。この真空雰囲気において、半割体13A,13Bのうち導光孔132となる部位(内側面)にAlを蒸着により成膜した。このときの成膜速度は、3.0nm/sとし、150nmの膜厚である反射層133を形成した。その後、チャンバに酸素を導入することにより、チャンバ内の圧力を3.0×10
−2Pa程度に調整し、チャンバ内を酸化雰囲気とし、この酸化雰囲気において、Alの蒸着を再度行った。このときの成膜速度は、0.5nm/sとし、最終的に200nmの膜厚である耐食層134を形成した。
【0058】
反射層133および耐食層134について、上述した成膜の条件は一例であり、反射層133および耐食層134の膜厚および材料に応じて、真空雰囲気および酸化雰囲気におけるチャンバ内の圧力、成膜速度などは適宜に設定される。
【0059】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)は、受光素子12と、光学要素13とを備える。受光素子12は、受光状態に応じた出力が得られる。光学要素13は、金属膜からなる反射層133を備え、受光素子12への入射光の少なくとも一部が反射層133で反射された光になるように配置される。光学要素13は、反射層133の腐食を抑制する耐食層134をさらに備える。反射層133は、気相メッキにより形成された耐食層134により表面が覆われている。
【0060】
本実施形態のように、光センサ装置(ガスセンサ)は、発光素子11をさらに備えることが好ましい。発光素子11は、発光波長が所定の波長域である。この場合、受光素子12は、波長域のうち検知対象となる気体の種類により定まる特定の波長に対する受光強度が出力値に反映されるように構成される。光学要素13は、検知対象となる気体が導入される監視空間(導光孔132)に発光素子11と受光素子12との間の光路が形成されるように配置される。
【0061】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)のように、光学要素13は、筒状であり、管壁を貫通する通気孔131が形成され、かつ反射層133が内側面に形成されていることが好ましい。この場合、発光素子11は、光学要素13のうち光学要素13の両端部の開口面136,137が対向する特定方向における一端部に結合される。受光素子12は、光学要素13の特定方向における他端部に結合される。発光素子11と受光素子12との間で光学要素13が導光を行う。
【0062】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)のように、耐食層134は、膜厚が100nm以上であることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)のように、耐食層134は、膜厚が125nm以上225nm以下であることがより好ましい。
【0064】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)のように、受光素子12への入射光は赤外領域の光であって、反射層133はAlで形成され、耐食層134はAl
2O
3で形成されることが好ましい。
【0065】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)に用いる光学要素13の製造方法は、光学要素13の基材135において目的となる表面に、気相中でAlを成膜することにより反射層133を形成した後、反射層133の表面に気相中でAl
2O
3からなる耐食層134を形成するステップを有する。
【0066】
本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)に用いる光学要素13の製造方法のように、反射層133の成膜と耐食層134の成膜とを同一空間で行い、反射層133の成膜を真空雰囲気で行い、耐食層134の成膜を酸素が導入された酸化雰囲気で行うことが好ましい。
【0067】
なお、本実施形態に係る光センサ装置(ガスセンサ)は、
図6に示すように、通気孔131を覆うように光学要素13の外側面に設けられた複数(図示例では4枚)のフィルタ14をさらに備えていてもよい。
【0068】
各フィルタ14は、複数(図示例では3つ)の通気孔131に気体を透過させ、複数の通気孔131への固体および液体の透過を防止する。各フィルタ14は、たとえばポリテトラフルオロエチレンなどで形成されている。一例として、各フィルタ14は、ポリテトラフルオロエチレンを用いたゴアテックス(登録商標)で形成されている。各フィルタ14の膜厚は、好ましくは1mm程度である。
【0069】
各フィルタ14は、たとえば、複数の通気孔131を覆うように光学要素13の外側面に接着されている。一例として、各フィルタ14は、接着剤によって光学要素13の外側面に接着されている。各フィルタ14はシート状に形成されているので、光学要素13の外側面が曲面であっても、各フィルタ14は、光学要素13の外側面の形状に変形した状態で上記外側面に接着されている。
【0070】
これにより、
図6に示す光センサ装置は、固体および液体が通気孔131を介して外部から導光孔132へ侵入するのを防止することができる。
【0071】
なお、光センサ装置は、複数のフィルタ14を備えるのではなく、1枚のフィルタのみを備えてもよい。また、各フィルタ14は、複数の通気孔131を覆うことに限定されず、少なくとも1つの通気孔131を覆うように光学要素13の外側面に設けられていればよい。
【0072】
図6に示す光センサ装置のように、フィルタ14は、光学要素13の外側面のうち、一対の半割体13A,13Bの結合部分の少なくとも一部を含む領域に設けられていることが好ましい。この場合、光学要素13は、一対の半割体13A,13Bを備える。一対の半割体13A,13Bは、各々が反射層133および耐食層134を含む。一対の半割体13A,13Bの各々には、通気孔131を形成するための凹部138,139が形成されている。一対の半割体13A,13Bは、互いの凹部138,139が対向して通気孔131が形成されるように結合される。フィルタ14は、光学要素13の外側面のうち、一対の半割体13A,13Bの結合部分の少なくとも一部を含む領域に設けられている。
【0073】
図6に示す光センサ装置では、各フィルタ14が半割体13Aと半割体13Bとの結合部分に接着などで設けられるので、半割体13Aと半割体13Bとの間の結合強度を高めることができる。
【0074】
本発明を好ましい実施形態によって記述したが、本発明の本来の精神および範囲、すなわち請求の範囲を逸脱することなく、当業者によって様々な修正および変形が可能である。