(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筐体の代表的な形態として、特許文献1に記載されるような、矩形状の天板と、天板の周縁に繋がり、この天板に対して垂直に立設される壁部とを具える断面]状の立体が挙げられる。一方、ノート型パーソナルコンピュータの上蓋などといった開閉動作を行う筐体では、壁部が天板に対して垂直ではなく、壁部の外表面が天板の内面に向かって傾斜した形状、つまり天板の外表面の延長面と壁部の外表面の延長面とがつくる角が鋭角となるように両者が繋がった形状が利用されている。このような壁部の外表面が傾斜している筐体は、傾斜面(壁部)に指を引っ掛けることで、開動作を行い易い。
【0006】
上述の壁部の外表面が鋭角に傾斜し、かつ上述のような鋭利な角部を有し、更に上記角部近傍の剛性に優れる成形体、及びこの成形体を生産性よく製造可能な製造方法の開発が望まれている。
【0007】
例えば、樹脂では、壁部の外表面が鋭角に傾斜し、かつ鋭利な角部を有する成形体が実現されている。しかし、樹脂は、金属よりも剛性や強度に劣る。
【0008】
一方、金属では、ダイキャスト法やチクソモールド法を利用すれば、複雑な形状の成形体を製造できる。しかし、ダイキャスト法やチクソモールド法では、厚さが薄く、かつ面積が大きなものを製造することに限界がある。また、同じ金属種で比較すると、ダイキャスト材やチクソモールド材は、圧延やプレス加工といった塑性加工が施されたものと比較して剛性や強度に劣り、落下などの衝撃によって角部が潰れるなど変形したり、破損したりする恐れがある。
【0009】
他方、鍛造やプレス加工といった塑性加工を利用した場合、加工硬化による剛性や強度の向上が望める。また、素材に圧延板といった塑性加工材を利用することでも、剛性や強度の向上が望める上に、圧延は、均一的な厚さの薄板や広幅板などを製造できるため、薄板を利用することで、軽量、薄型の成形体を製造できる。更に、広幅板を利用することで、大型の成形体を製造できる。加えて、特許文献1に記載されるように多段階のプレス加工を行うことで、鋭利な角部であって、剛性や耐衝撃性に優れる角部を有する成形体を製造できる。従って、金属板にプレス加工といった塑性加工を施して、壁部の外表面が鋭角に傾斜し、かつ鋭利な角部を有する成形体が製造できれば、生産性にも優れると期待される。
【0010】
しかし、金属板にプレス加工といった塑性加工を施して、壁部の外表面が鋭角に傾斜し、かつ鋭利な角部を有する成形体を製造する具体的な手法が検討されていない。
【0011】
例えば、金属板にプレス加工を施して断面[状の成形体を作製し、この成形体の壁部に切削加工を施すことで、上述の壁部の外表面が鋭角に傾斜し、かつ、角部が鋭利な成形体を製造できる。しかし、切削することで、壁部の厚さが天板部の厚さよりも薄くなる。そのため、角部及びその近傍の剛性の低下を招く。また、壁部は、天板部の補強材(リブ)としても機能するが、上述のように厚さが薄くなることで、補強効果の低下を招く。
【0012】
従って、本発明の目的の一つは、角部が鋭利で、角部近傍の剛性に優れ、生産性にも優れる金属成形体を提供することにある。本発明の他の目的は、角部が鋭利で、角部近傍の剛性に優れる金属成形体を生産性よく製造可能な金属成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、金属板を素材とし、プレス加工といった塑性加工を利用して、壁部の外表面が天板部の外表面に対して鋭角に傾斜し、かつ、鋭利な角部を有する金属成形体を製造することを検討した。具体的には、特許文献1に記載されるように、圧延板に多段にプレス加工を施して、鋭利な角部を有する成形体を作製し、この成形体を素材として、更にプレス加工を施すことを検討した。
【0014】
図3(a)に示すように、天板部121と、天板部121に対して垂直に立設する壁部123とを具え、天板部121と壁部123とを繋ぐ角部125が鋭利である断面]状の成形体120を用意する。また、利用する金型200は、
図3(A)に示すように、成形体120の内側に配置する部材を複数の分割構造とした。具体的には、金型200は、成形体120の内側に配置する部材として、錘台状の天板上パッド201と、天板上パッド201の外周面を構成する傾斜面210に接触する傾斜面220及び壁部123の内面を支持するための傾斜面223とを具える断面三角形状の分割上パッド202とを具える。また、金型200は、成形体120の外側に配置する部材として、成形体120の壁部123を成形体120の内側に向かって押し付けるための傾斜面206を有する上パンチ205を具える。その他、金型200は、成形体120を支持する下パンチ203と、上パンチ205を受けるガイド207とを具える。
【0015】
天板上パッド201は、上方から下方に向かって先細るように傾斜面210が設けられ、分割上パッド202は、下方から上方に向かって先細るように傾斜面220及び傾斜面223が設けられている。天板部121の内面の中央領域に複数の分割上パッド202,202を配置し、これら分割上パッド202,202間に挿入すると共に、分割上パッド202,202における内側の傾斜面220に天板上パッド201の傾斜面210を摺接させながら、天板上パッド201を上方から下方に移動する。この移動によって、分割上パッド202,202は、パッド202,202間が押し広げられ、天板部121の中央から壁部123側に移動し、最終的に、分割上パッド202,202の周縁が成形体120において天板部121の内面と壁部123の内面とを繋ぐ角部に接する。このとき、天板上パッド201の端面(
図3(B)では下面)と、分割上パッド202,202の端面(
図3(B)では下面)とは、面一となり、天板部121の内面全体に接するように配置されて、上記内面を支持することができる。かつ、分割上パッド202,202における外側の傾斜面223は、上パンチ205の傾斜面206が成形体120の壁部123を押し付けるときに、壁部123の内面側から壁部123を支持することができる。
【0016】
一方、天板上パッド201を下方から上方に移動して、天板上パッド201と分割上パッド202,202との係合状態を解除すると、分割上パッド202,202を移動できる。
【0017】
上述の金型200を利用して成形体130を製造した。具体的には、
図3(A)に示すように下パンチ203に成形体120を配置し、この成形体120の内側に分割上パッド202,202を配置し、天板上パッド201を下方に移動して、パッド201,202,202を所定の位置に配置する。そして、ガイド207に向かって、上パンチ205を下方に移動する。この移動に伴って、成形体120の壁部123は、上パンチ205に具える傾斜面206に押し付けられて、成形体120の内側に向かって折り曲げられる。このとき、壁部123は、分割上パッド202,202の外側の傾斜面223によってその内側が支持され、傾斜面206,223の双方に挟まれることで精度よく折り曲げられる。折り曲げ後、
図3(B)に示す状態から、天板上パッド201及び上パンチ205を移動し、更に、分割上パッド202,202を抜き出すことで、
図3(b)に示すように、天板部131に対して鋭角に折り曲げられた壁部133を具え、天板部131と壁部133とを繋ぐ角部135も鋭利な成形体130が得られる。また、この製造方法では、天板部131の厚さと壁部133の厚さとを実質的に等しくすることができる。
【0018】
しかし、成形体120の内側に配置するパッド201,202,202を分割構造とすることで、成形後の成形体130の天板部131の内面において、パッド201,202の境界に対応した箇所に筋状の痕が残ったり、パッド201,202の寸法のばらつきによっては、天板部131の内面に段差が生じる恐れがある、との知見を得た。上記痕や段差などは、研磨などによってある程度除去できるものの、工程数の増加から、生産性の低下を招く。また、寸法精度の低下を招き得る。更に、上記段差などを十分に除去できない場合には、外観の不良を招く。パッド201,202を高精度に加工していても、経時的に摩耗したり、可動部分に異物などを噛み込んだりするなどして、所定の位置にパッド201,202などを配置できなくなると、上述のような寸法のばらつきが生じ得る。
【0019】
そこで、本発明者らは、素材とする成形体120の内側に配置する金型部材を分割構造とせず、一体物として更に検討した結果、素材とする成形体の内面において特に角部近傍を金型部材で支持しない状態で素材の壁部を押し付けても、壁部を精度よく折り曲げられて、表面性状に優れる成形体が得られる、との驚くべき知見を得た。つまり、金属の金型成形は、素材の内側と外側との双方を支持した状態で行う、少なくとも、内側金型部材と素材において成形後の成形体の内面となる部分(以下、素材の内面側部分と呼ぶ)とを接触させた状態で加工を行うという常識に反し、内側金型部材と素材の内面側部分の少なくとも一部とを接触させない状態で成形しても、所望の形状の成形体が得られた、といえる。本発明は、上記知見に基づくものである。
【0020】
本発明の金属成形体は、金属板からなる天板部と、上記天板部に繋がり、上記天板部に対して立設される壁部とを具える。上記天板部の外表面と上記壁部の外表面とを繋ぐ角部の外側曲げ半径をR、上記天板部の厚さをt
tとするとき、外側曲げ半径Rは厚さt
t以下である。上記角部は、上記天板部の外表面の延長面と上記壁部の外表面の延長面とがつくる仮想角が90°未満である部分を有する。そして、上記壁部の厚さが上記天板部の厚さ以上である。
【0021】
本発明の金属成形体は、外側曲げ半径Rが天板部の厚さt
t以下であることから、天板部と壁部とを繋ぐ角部が鋭利で、スタイリッシュ感があり意匠性に優れる。かつ、本発明の金属成形体は、上記仮想角が鋭角である部分を有する、端的に言うと、壁部が天板部の内側に向かって傾いた形状である部分、つまり断面があり溝形状である部分を有するため、本発明の金属成形体を、開動作を行うような部材に利用した場合、この傾斜を利用して、開動作を容易に行える。従って、本発明の金属成形体は、形状に基づく付加価値が高く、工業的意義が高い。また、本発明の金属成形体は、壁部の厚さが天板部の厚さ以上であることから、壁部自体が剛性に優れる上に、天板部と壁部とを繋ぐ鋭利な角部及びその近傍の剛性を高められる。そのため、本発明の金属成形体を筐体やカバーといった外装部材に利用した場合、落下などの衝撃を受けても変形し難く、樹脂の成形体のように割れたりもせず、長期に亘り、シャープな角部を維持でき、優れた美観を有することができる。更に、壁部自体が剛性に優れることで、壁部を天板部の補強材として十分に機能させることができ、本発明の金属成形体は、長期に亘り、所定の形状を維持し易い。
【0022】
本発明の金属成形体は、例えば、以下の本発明の金属成形体の製造方法によって製造することができる。本発明の金属成形体の製造方法は、金属板にプレス加工を施して金属成形体を製造する方法に係るものであり、以下の第一プレス工程、第二プレス工程、第三プレス工程を具える。
第一プレス工程 一様な厚さの金属板にプレス加工を施して、天板部と、この天板部に対して立設される壁部とを具える断面]状の第一成形体を形成する工程。
第二プレス工程 上記天板部の外表面と上記壁部の外表面とを繋ぐ角部の外側曲げ半径が上記天板部の厚さ以下となるように上記第一成形体にプレス加工を施して第二成形体を形成する工程。
第三プレス工程 上記第二成形体の内側に柱状金型を配置した状態で、上記第二成形体に具える壁部の外表面に別の金型を押し付けて、上記別の金型に有する所定の傾斜面に沿って上記壁部を上記第二成形体の内側に向かって傾斜させて、金属成形体を形成する工程。
そして、上記第三プレス工程では、上記第二成形体に具える壁部の内面に上記柱状金型の外周面が接しないように上記柱状金型を配置して、上記壁部の内面を上記柱状金型によって支持しない状態で、上記壁部の外表面を上記第二成形体の内側に向かって押し付ける。
【0023】
本発明の金属成形体の製造方法は、上述の鋭利な角部を有し、かつ壁部の外表面が鋭角に傾斜した金属成形体を多段階のプレス加工によって製造することで、素材の一部を切削して上述の特定の形状にする場合に比較して、上記角部近傍の剛性に優れる金属成形体を製造できる。また、本発明の金属成形体の製造方法は、多段階のプレス加工という同種の加工によって上述の特定の形状の金属成形体を製造できるため、プレス加工と切削加工といった全く異なる加工を組み合わせる場合に比較して、作業性に優れる。これらの点から、本発明の金属成形体の製造方法は、上述の特定の形状の金属成形体を生産性よく製造することができる。
【0024】
本発明の金属成形体の一形態として、上記外側曲げ半径Rが0.3mm以下である形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、角部が非常に鋭利であるため、スタイリッシュ感がより高められ、美観に優れる。
【0026】
本発明の金属成形体の一形態として、金属成形体は、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金から選択される1種の金属から構成された形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、軽金属で構成されることで、軽量である。特に、マグネシウム合金から構成された形態は、剛性、強度、耐衝撃性といった機械的特性に優れる。
【0028】
本発明の金属成形体の一形態として、上記天板部の厚さt
tが3.0mm以下である形態が挙げられる。
【0029】
上記形態は、天板部が薄いことから、壁部も薄くでき、全体が薄いといえる。従って、上記形態は、薄型の外装部材などを構築することができる。
【0030】
本発明の金属成形体の一形態として、上記壁部において上記仮想角に沿った長さが10mm以下である形態が挙げられる。
【0031】
壁部における仮想角に沿った長さが短いほど、この長さに起因する金属成形体の剛性の向上効果を得難くなり、金属成形体の剛性は、壁部の厚さに影響を受け易くなる。上記形態は、壁部における仮想角に沿った長さが短いことから、壁部の厚さが天板部と同等以上であるという本発明の特徴の一つによる剛性の向上効果をより効果的に得られる。
【0032】
本発明の金属成形体の一形態として、上記天板部の室温における引張強さが250MPa以上である形態が挙げられる。
【0033】
上記形態は、天板部が高強度であることで剛性にも優れ、変形などし難い。また、本発明の金属成形体は、その全体が一様な材質から構成される上に、上述のように塑性加工が施されることで、壁部は天板部と同程度以上の強度や剛性を有するといえる。そのため、上記形態は、その全体が剛性に優れ、変形し難い。
【発明の効果】
【0034】
本発明の金属成形体は、角部が鋭利で、角部近傍の剛性に優れる上に、生産性にも優れる。本発明の金属成形体の製造方法は、角部が鋭利で、角部近傍の剛性に優れる金属成形体を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、
図1を適宜参照して本発明の実施の形態を説明する。
[金属成形体]
<形状>
本発明の金属成形体は、一様な材質の金属からなる板材の一部が折り曲げられた箇所を有する成形体である。具体的には、金属成形体1は、
図1(d)に示すように板状の天板部10と、角部15を介して天板部10に繋がり、天板部10に対して立設される壁部20とを具え、断面]状、又は断面L状である。そして、金属成形体1は、壁部20のうち、少なくとも一部は、その外表面の延長面が、天板部10の外表面の延長面に対して鋭角(両延長面がつくる角θが90°未満)に設けられている点を特徴の一つとする。
【0037】
(天板部)
天板部10は、矩形板状が代表的である。矩形板に具える四つの角部は、曲げ半径が小さいほど、シャープな外観を実現でき、金属質感やスタイリッシュ感を与えられる。一方、角部の半径がある程度大きいと、衝撃を受けても変形し難い上に、金属で構成されていながらも、柔らかさや温かみといった感じを与えられる。また、角部の半径がある程度大きいと、角部に過大な力が集中しない。更に、角部の半径がある程度大きいと、手になじみやすいなどの効果がある。天板部10の面積や幅、長さは、適宜選択することができる。例えば、ノート型パーソナルコンピュータの上蓋に利用する場合、外形寸法は、例えば、幅:200mm〜400mm×長さ:150mm〜300mmなどが挙げられ、矩形板に具える四つの角部のコーナ半径は0.5mm〜20mmなどが挙げられる。
【0038】
天板部10の外表面は、その全体が平坦な形態(
図1(d)に示す形態)、中央領域が平坦であり、周縁領域が中心側から周縁に向かって傾斜した形態(傾斜角は鈍角)などとすることができる。特に、中央領域と傾斜部分とが滑らかな曲面によって繋がれていると、金属で構成されていながらも、柔らかさや温かみといった感じを与えられる。
【0039】
天板部10の外表面は、ヘアライン加工やダイヤモンドカット加工、エッチング加工、ブラスト加工(梨地加工)などの種々の機械加工が施された形態とすることができる。金属成形体1が筐体やカバーなどの外装部材に利用される場合、天板部10の外表面は、外装部品の外表面を構成することから、上述の機械加工が施されることで、金属質感を高められ、意匠性に優れる。
【0040】
また、天板部10は、その一部に厚さが異なる箇所(溝、突起、貫通孔など)を有する形態とすることができる。例えば、ロゴなどの刻印によって形成された溝又は突起、窓部を形成する孔などを有する形態が挙げられる。これらの形態も、意匠性に優れる。なお、溝や貫通孔などは、壁部20を形成する前の素材(金属板100)の段階で形成することもできるし、壁部20を形成後に設けることもできる。刻印などは、金属成形体1の製造中に外観を損ねないように、壁部20を形成した後に設けることが好ましい。
【0041】
(壁部)
壁部20は、主として、天板部10に対する補強材として機能すると共に、天板部10の外表面に対して鋭角に傾いて設けられていることで、上述のように開動作時に指を引っ掛ける部分としても機能することができる。
【0042】
壁部20は、天板部10の周縁全周に亘って設けられた形態、天板部10の周縁において任意の一部(例えば、天板部10が矩形状の場合、四辺の任意の一部、一辺の全部又は一部、対向する二辺の全部又は一部、連続する三辺の全部又は一部)に設けられた形態、又は上記周縁の少なくとも一部に設けられた形態が挙げられる。また、壁部20は、天板部10の周縁に対して一つだけ設けられた形態(連続して設けられた形態)、天板部10の周縁に対して離散的に複数存在する形態が挙げられる。壁部20の形成領域が多いほど、天板部10が大面積であっても、剛性を高められ、天板部10の変形を抑制し易い。
【0043】
壁部20において仮想角(後述)に沿った長さは適宜選択することができる。天板部10の面積や形状にもよるが、上記長さが10mm以下であると、天板部10の外表面における平坦な領域に直交する方向の大きさも小さくなり、薄型化を図ることができる。薄型化・軽量化を考慮すると、上記長さは、5mm以下、更に3mm以下とすることもできる。本発明の金属成形体では、壁部20における上記長さが短くても、壁部20の厚さが厚いため、補強材として機能することができる。複数の壁部を具える形態では、少なくとも一部の壁部における上記長さを異ならせた形態とすることを容易にできる。一つの連続する壁部を具える形態でも、所望の設計形状に従って、部分的に上記長さを異ならせることができる。壁部20における上記長さを適宜調整することで、コネクタ端子や、赤外線通信・無線通信などに用いる部品などを付加することができながら、全体に亘って強度と薄さとを兼ね備えた金属成形体1とすることができる。
【0044】
<外側曲げ半径>
金属成形体1は、天板部10の外表面と壁部20の外表面とを繋ぐ角部15の外側曲げ半径をR、天板部10の厚さ(後述)をt
tとするとき、R≦t
tであることを特徴の一つとする。角部15の外側曲げ半径Rが小さいことで、金属成形体1は、スタイリッシュ感を有し、美観に優れる。外側曲げ半径Rは、適宜選択することができ、小さいほどシャープな外観となり、スタイリッシュ感を高められる。例えば、R≦(2/3)×t
t、R≦(1/2)×t
tを満たす形態が挙げられる。又は、R≦0.3mmを満たす形態が挙げられる。但し、外側曲げ半径Rは、小さ過ぎると落下などの衝撃によって潰れる(変形する)恐れがあるため、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上0.3mm以下がより好ましい。外側曲げ半径Rの大きさが所望の値になるように、金型の形状を選択する。
【0045】
<仮想角>
天板部10の外表面の延長面(
図1(d)では一点鎖線で示す)と壁部20の外表面の延長面(
図1(d)では一点鎖線で示す)とをとり、両延長面がつくる仮想角をθとするとき、金属成形体1は、仮想角θが鋭角、つまり、0°<θ<90°である部分を有することを特徴の一つとする。仮想角θの大きさは適宜選択することができる。上述のように指を引っ掛ける部分としての機能では、仮想角θは、10°以上45°以下程度が好適であり、20°以上30°以下がより好ましい。仮想角θの大きさが所望の値となるように、金型の形状を選択する。なお、
図1(d)では、θは、仮想角の対頂角を示す。天板部10に設けられた壁部20の全域に亘って仮想角θが鋭角である形態(つまり、壁部20の任意の位置について仮想角θを取ったとき、仮想角θが鋭角である形態)、天板部10に設けられた壁部20のうち、一部の壁部20についての仮想角θのみが鋭角である形態(つまり、壁部20についての仮想角θが鋭角である部分と、鋭角以外である部分とを有する形態)のいずれでもよい。
【0046】
<厚さ>
天板部10は、その全体(上述の溝、突起、貫通孔を有する場合には、これらを除く箇所の全体)に亘って一様な厚さを有する形態が代表的である。この場合、
図1(d)に示すように、天板部10の外表面と内面とは平行に配置され、両面の間の距離が厚さとなる。そこで、天板部10において上述の溝などを除いた箇所から選択した1点、好ましくは2点以上の地点について、上記距離=厚さを測定し、これらの平均値を天板部10の厚さt
tとする。天板部10の厚さt
tは、薄いほど軽量化、薄型化を図ることができ、3.0mm以下、更に2.5mm以下、2mm以下、1.5mm以下、特に1.0mm以下が挙げられ、0.1mm以上、更に0.3mm以上1.2mm以下が好ましい。
【0047】
壁部20もその全体に亘って一様な厚さを有する形態が代表的である。この場合、
図1(d)に示すように、壁部20の外表面と、壁部20の内面とは平行に配置され、両面の間の距離が厚さとなる。そこで、壁部20の任意の箇所から選択した1点、好ましくは2点以上の地点について、上記距離=厚さを測定し、これらの平均値を壁部20の厚さt
lとする。
【0048】
そして、金属成形体1は、壁部20の厚さt
lが天板部10の厚さt
tと実質的に等しい(t
t=t
l)、又は天板部10の厚さt
t以上である(t
l>t
t)ことを特徴の一つとする。壁部20は、少なくとも天板部10の厚さt
tと等しく、十分な厚さを有するため、上述の仮想角に沿った長さが短くても、天板部10の補強材として十分に機能できる。従って、壁部20によって天板部10の剛性を高められる上に、角部15及びその近傍の剛性も高められることから、金属成形体1は、角部15がシャープな状態を維持し易い。
【0049】
<材質>
金属成形体を構成する金属は、種々の組成を利用できる。特に、板状の素材にプレス加工といった塑性加工を施すことが可能な金属が好ましい。例えば、マグネシウム、マグネシウム合金(Mgが50質量%以上及び添加元素、残部不可避不純物)、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鋼、ステンレス鋼、チタン、チタン合金などであれば、これらの展伸材は、プレス加工といった塑性加工を良好に施すことができて好ましい。なかでも、マグネシウムやその合金、アルミニウムやその合金は、軽量であり、携帯用機器といった軽量が望まれる用途に適する。とりわけ、マグネシウム合金は、アルミニウムやその合金よりも軽量で、かつ強度、剛性、耐衝撃性といった機械的特性にも優れる上に、Mgに添加元素を含有することで耐食性にも優れて好ましい。
【0050】
マグネシウム合金の添加元素は、例えば、Al,Zn,Mn,Si,Be,Ca,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。添加元素の合計含有量は、0.001質量%以上50質量%以下が挙げられる。特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性や機械的特性に優れて好ましい。Alの含有量は、0.1質量%以上12質量%以下が好ましい。Al以外の各元素の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下、更に0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。特に、Si,Sn,Y,Ce,Ca及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有するマグネシウム合金は、耐熱性や難燃性に優れる。マグネシウム合金中の不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
【0051】
Mg-Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%以上1.5質量%以下。例えば、AZ31合金、AZ61合金、AZ80合金、AZ91合金など)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%以上0.5質量%以下。例えば、AM60、AM100など)、AS系合金(Mg-Al-Si系合金、Si:0.2質量%以上6.0質量%以下。例えば、AS41など)、AX系合金(Mg-Al-Ca系合金、Ca:0.2質量%以上6.0質量%以下)、AJ系合金(Mg-Al-Sr系合金、Sr:0.2質量%以上7.0質量%以下)などが挙げられる。その他、Mg-Al-RE系合金(RE(希土類元素):0.001質量%以上(好ましくは0.1質量%以上)5質量%以下)などが挙げられる。
【0052】
Mg-Al系合金のうち、Alを7.2質量%超含有する合金、特にAlを8.3質量%以上9.5質量%以下、Znを0.5質量%以上1.5質量%以下含有するMg-Al系合金、代表的にはAZ91合金やAZ91合金相当のAl及びZnを含むマグネシウム合金は、耐食性及び機械的特性に更に優れる。
【0053】
<機械的特性>
金属成形体1は、強度が高いほど、一般に剛性に優れて好ましい。特に、天板部10は、金属成形体1に占める割合が高いことから、高強度、高剛性であることが好ましい。例えば、室温における引張強さが250MPa以上を満たすものが挙げられる。このような強度を満たす金属種は、例えば、マグネシウム合金では、AZ91合金といったAlを7.2質量%超含有するもの、アルミニウム合金では、JIS規格に規定される2000系合金、5000系合金、6000系合金、7000系合金、その他、各種のステンレス鋼やチタン合金などが挙げられる。材質によっては、室温における引張強さが280MPa以上、300MPa以上を満たす形態とすることもできる。
【0054】
なお、金属成形体1は、その全体が一様な材質から構成され、かつ壁部20は後述するようにプレス加工が施されることで、壁部20は加工硬化によって天板部10と同程度以上の強度や剛性を有すると考えられる。
【0055】
<その他>
金属成形体1の外表面及び内面の少なくとも一部に塗装層を具えると、装飾性を高められる。特に、透明な塗装層とすると、金属質感を高められる。その他、材質によっては、陽極酸化処理や化成処理、めっきなどの防食処理を具えると、耐食性の向上を図ることができる。
【0056】
[製造方法]
金属成形体1は、所望の組成からなる金属板100を用意し、この金属板100に対して、多段階のプレス加工を施す本発明の金属成形体の製造方法を利用することで製造できる。
【0057】
<金属板の準備工程>
素材とする金属板100は、所望の組成からなる圧延板が好適である。圧延板は、公知の製造方法によって製造したものや市販品を利用することができる。金属板100は所定の大きさに切断したものを利用することができる。また、金属板100は、一様な厚さt
100のものとする。金属板100において少なくとも、成形後に壁部20となる箇所及びその近傍が一様な厚さであればよく、後述するプレス加工に影響を与えない範囲において、金属板100の一部に上述のように溝や貫通孔などを具えるものを利用することができる。この場合、溝や貫通孔などの形成部分を除く箇所の厚さが一様であればよい。その他、長尺な板材を巻き取ったコイル材を素材に利用することもできる。この場合、コイル材を繰り出して、プレス加工装置に連続的に供給し、適宜切断、打抜きなどの工程へ供するとよい。
【0058】
特に、マグネシウム合金からなる圧延板を利用する場合には、双ロール鋳造法といった連続鋳造法によって製造された鋳造板に、好ましくは溶体化処理(例えば、加熱温度:350℃以上420℃以下、加熱時間:1時間以上40時間以下)を施した後、1パス以上の温間圧延(素材温度:150℃以上400℃以下(好ましくは280℃以下)、1パスあたりの圧下率:5%以上40%以下)を施して得られたものであると、プレス加工といった塑性加工性に優れて好ましい。圧延後、歪みを除去するために熱処理(例えば、加熱温度:250℃以上350℃以下)を施したり、平坦性を高めるために矯正加工(温間又は冷間)を施したり、表面性状を高めるために研磨(好ましくは湿式)を施したりすることができる。上記熱処理によって再結晶組織とすることで、塑性加工性を高めたり、上記矯正加工によって予め素材に歪みなどのエネルギーを蓄積してプレス加工時に動的再結晶化を発現させたりすることで塑性加工性を高めたり、平坦性を高めたりすることで金型への配置精度を向上したり、上記研磨によってプレス加工時の割れや疵の発生を抑制したりすることができる。
【0059】
<成形工程>
用意した金属板100に多段階のプレス加工を施す。いずれの段階も、温間加工とすると、材質によらず塑性加工性を高められ、高品位な成形体を形成できる。温間加工では、加熱によって金属を柔らかくする、換言すれば加熱温度における引張強さを200MPa以下、更に100MPa以下、特に70MPa以下とすると共に、伸びを10%以上、更に30%以上、特に50%以上とすることができ、成形限界を飛躍的に改善できる。従って、温間加工とすることで、本発明の金属成形体の製造方法のように、素材(又は成形体)を完全に拘束しない成形法を適用し易くなる。更に、温間加工では、加熱によって弾性限界を低くする、換言すれば加熱温度における0.2%耐力を180MPa以下、更に90MPa以下、特に90MPa以下とすることができ、成形加工後の変形の戻り、いわゆるスプリングバックを抑制できる。従って、温間加工とすることで、安定した成形が可能な上に、素材の強度を低下させて加工を行うことで、角部や稜線部の変形が容易になり、シャープな形状の成形体を得易く、好ましい。温間加工を行う場合の具体的な加熱温度(素材温度)は、素材の融点、特に液相線温度を絶対温度で表した温度の30%以上75%以下、好ましくは上記温度の40%以上70%以下が挙げられる。特に、軽金属であるアルミニウム合金やマグネシウム合金の場合には、上述の温度範囲のうち、高い方が好ましい結果を得ている。具体的には、150℃以上350℃以下、特に200℃以上300℃以下程度が好ましい。室温での塑性加工性に劣るマグネシウムやその合金からなる素材を利用する場合には、全段階のプレス加工を温間加工とすることが好ましい。材質によっては、複数のプレス加工のうち、少なくとも一つの段階を冷間加工とすることができる。全段階のプレス加工条件を、素材とする金属板100の厚さt
100を実質的に変化させないように調整することで、最終的に得られる金属成形体1は、その全体に亘って厚さが均一的であり、厚さt
100に等しい。以下、段階ごとに説明する。
【0060】
(第一プレス工程)
この工程は、最終的に製造しようとする金属成形体1の大まかな外形(代表的には断面]状)を形成するための工程である。この工程では、例えば、
図1(A),
図1(B)に示す第一金型50を利用して、
図1(b)に示す天板部111と、天板部111に立設する壁部113と、壁部113に繋がるフランジ部117とを有する第一成形体110を形成するために、プレス加工として、絞り加工や曲げ加工を行う。以下、工程の説明においては、絞り加工を代表として記述するが、曲げ加工も同様である。天板部111の形状は平坦なものに限定されず、曲面で構成される面や、曲面部分や傾斜した部分(断面が直線で構成される部分)を有するものでもよい。また、任意の凹凸、貫通孔や切欠(切れ込み)などを具えることもできる。ここでは、
図1に示すような平坦なものを代表して説明し、上述した形状については詳細な説明を省略する。
【0061】
第一金型50は、柱状の上パンチ51と、上パンチ51に対向配置されて金属板100の大部分を支持する柱状の下パッド53と、金属板100の周縁部を支持するしわ押さえ55と、しわ押さえ55と共に金属板100の周縁部を支持し、かつ、上パンチ51との間で金属板100の周縁部近傍を挟み込み、壁部113を形成するダイ57とを具える。
【0062】
第一金型50を用いて第一成形体110を成形するには、例えば、以下のように行う。
図1(A)に示すように、下パッド53の端面と、ダイ57の端面とを面一に配置し、これらの端面の上に金属板100を配置する。金属板100の周縁部分をしわ押さえ55の端面とダイ57の端面とで挟持した状態で、上パンチ51を金属板100に押し付けて、金属板100の一部を絞る。金属板100において上パンチ51の外周面と、ダイ57の内周面とで挟まれる領域は、上パンチ51の端面と下パッド53の端面に挟持される領域(天板部111を構成する領域)に対して立設するように変形し、壁部113を形成する。壁部113が所定の長さになったら、上パンチ51の押し付けをやめて、上方に移動することで、フランジ部117を有する第一成形体110が得られる(
図1(b))。第一成形体110は、天板部111と壁部113とを繋ぐ角部115の外側曲げ半径R
110が、素材に用いた金属板100の厚さt
100以上である(R
110≧t
100)。
【0063】
得られた第一成形体110からフランジ部117、壁部113の一部を切断して、壁部113の長さを調整する。天板部111を精度よく拘束すると共に、壁部113を金型や切削加工機、レーザー加工機などで加工を行うことで、壁部20の仮想角に沿った長さ、壁部20における天板部10に対して垂直方向の長さ(立設高さ)、形状などを精度よく調整できる。
【0064】
なお、第一成形体は、特許文献1に記載される金型を用いて、プレス加工として曲げ加工を行うことでも、形成することができる。この場合、所望の長さの壁部を成形可能なように金属板の大きさを調製しておくことで、フランジ部117の切断が不要である。
【0065】
(第二プレス工程)
この工程は、第一成形体110において、天板部111の外表面と壁部113の外表面とを繋ぐ角部115の外側曲げ半径R
110を小さくするための工程である。この工程では、例えば、
図1(C)に示す第二金型70を利用して、天板部121と、天板部121に立設する壁部123と、天板部121と壁部123とを繋ぐ角部125とを具え、角部125の外側曲げ半径R
120が天板部121の厚さt
120以下である第二成形体120(
図1(c))を形成するために、プレス加工として、壁部123に対する圧縮加工を行う。第二成形体120の天板部121は、第一成形体110の天板部111によって実質的に構成され、壁部123は、第一成形体110の壁部113によって実質的に構成され、角部125の外側曲げ半径R
120が第一成形体110の角部115の外側曲げ半径R
110よりも小さい。多くの場合、天板部121の厚さt
120は、金属板100の厚さt
100に等しく、R
120≦R
110≦t
100=t
120である。なお、天板部111の一部を圧縮して天板部121の厚さを薄くする、又は厚くする工程を加えたり、刻印のような凹凸を形成する工程を同時に行ったりすることができる。
【0066】
第二金型70は、素材となる第一成形体110の天板部111(第二プレス工程後では天板部121)を挟持する柱状の天板上パッド71及び下パンチ73と、素材となる第一成形体110の壁部113(第二プレス工程後では壁部123)を押し付ける段差部76が設けられた上パンチ75と、上パンチ75と共に壁部113(123)を支持し、かつ、天板上パッド71との間で壁部113を挟み、第一成形体110に具える天板部111と壁部113とを繋ぐ角部115の外側曲げ半径R
110を小さくして、シャープな角部125を形成するガイド77とを具える。
【0067】
第二金型70を用いて第二成形体120を成形するには、例えば、以下のように行う。下パンチ73の端面と、ガイド77の端面とを面一に配置し、下パンチ73の上に第一成形体110を配置する。天板上パッド71を下パンチ73側に向かって移動して、第一成形体110の天板部111の内面に天板上パッド71を押し付けると共に、上パンチ75をガイド77側に向かって移動して、第一成形体110の壁部113の端面に上パンチ75の段差部76を押し付ける。この押し付けによって、下パンチ73の端面とガイド77の内周面とがつくる角部に壁部113を構成する金属が充填されて、シャープな角部125を成形することができる。
【0068】
なお、第二成形体は、特許文献1に記載されるように、段差部が設けられた天板上パンチと、有底筒状の成形穴が設けられたダイ(端的にいうと、下パンチ73と、上パンチ75とガイド77とが一体になったようなダイ)とを具える金型を用いても、形成することもできる。この成形穴の底面(第一成形体の天板部を支持する面)と内周面(壁部の外周面に接する面)とがつくる角部が第二成形体120の角部125を形成することから、上記角部の曲げ半径は、R
120≦t
120を成形可能な値を適宜選択する。
【0069】
上記では、シャープな角部を具える外形を有する形状を成形する場合について説明した。素材の天板部(第一成形体の天板部)が凹凸を具える場合、これら凹凸を構成する周壁部分についても、上述した圧縮加工と同様な加工を行うことでシャープな外観を有する凹凸を成形できる。この場合、金型において上記凹凸に圧縮加工を施す場所に、パンチ、ダイ、ガイド、パッドを適切に動作するように配置するとよい。また、第二プレス工程において、段差部76の大きさを調整することで、壁部123の厚さを天板部121の厚さよりも厚くすることができる。この場合、次の第三プレス工程後に得られる金属成形体1の壁部20の厚さも、天板部10の厚さよりも厚くすることができる。
【0070】
(第三プレス工程)
この工程は、第二成形体120の壁部123を内側に向かって折り曲げ、天板部10に対して壁部20が傾斜して設けられた金属成形体1を形成する工程であり、プレス加工として曲げ加工を行う。この工程では、例えば、
図1(D)に示す第三金型90を利用する。
【0071】
第三金型90は、素材となる第二成形体120の内側に挿入配置されて、天板部121(第三プレス工程後では天板部10)の内面の一部に接する柱状の天板上パッド91と、天板上パッド91と共に天板部121を挟持する柱状の下パンチ93と、素材となる第二成形体120の壁部123(第三プレス工程後では壁部20)の外周面に接して、壁部123を第二成形体120の内側に向かって押し付けるための傾斜面96が設けられた上パンチ95と、上パンチ95を受けるガイド97とを具える。
【0072】
天板上パッド91は、一般的には柱状体である。ここでは、天板上パッド91の端面の形状は、第二成形体120の天板部121の外形に相似形状であり(ここでは矩形状)、かつ上記端面の大きさは、天板部121の内面よりも小さい。そのため、天板上パッド91を第二成形体120の内側に配置すると、天板上パッド91の外周面と、壁部123の内周面とは接触せず、両面の間には隙間が設けられる。つまり、第二成形体120の角部125及び角部125に繋がる壁部123は、天板上パッド91によって支持されない。
【0073】
なお、下パンチ93は、第二プレス工程で用いた下パンチ73と同一形状が好ましく、兼用部品としてもよい。下パンチ73,93は、その端面の形状及び面積が第一成形体110の天板部111の投影形状及び投影面積(=第二成形体120の天板部120の投影形状及び投影面積=金属成形体1の天板部10の投影形状及び投影面積)に等しいものを用意する。
【0074】
第三金型90を用いて金属成形体1を成形するには、例えば、以下のように行う。下パンチ93,ガイド97の端面を面一に配置し、下パンチ93の上に第二成形体120を配置する。天板上パッド91の端面が第二成形体120の天板部121の内面の一部に接するように、天板上パッド91を第二成形体120の内側に配置する。このとき、天板上パッド91の外周面と第二成形体120の壁部123の内面とは平行状態にあり、天板上パッド91の端面は天板部121の内面に接して支持するものの、天板上パッド91の外周面は壁部123に接しておらず、壁部123を支持しない。
【0075】
次に、上パンチ95をガイド97側に向かって移動する。この移動によって、第二成形体120の壁部123の外周面に上パンチ95の傾斜面96が押し付けられ、傾斜面96の傾斜に沿って、壁部123が天板部121の内側に向かって折り曲げられる。つまり、壁部123は、傾斜面96の角度に応じて折り曲げられる。壁部123を所望の角度に折り曲げられるように、傾斜面96の角度、及び天板上パッド91の外寸(天板上パッド91の外周面と壁部123の内周面との間の間隔)を調整するとよい。傾斜面96は、その断面形状が直線形状、曲線形状など任意の形状とすることができる。
図1では傾斜面96が断面直線状の場合、
図2では傾斜面96が断面曲線状の場合を示す。特に、壁部20の外表面を断面曲線形状とすると共に、内側に向かって凹む形状とする場合、
図2に示すように、天板上パッド91と上パンチ95とで壁部123の上端側領域を挟持すると共に、天板上パッド91にこの上端側領域を当接することで、曲がりを拘束する。このように壁部123の一部を金型で支持することで、加工時に壁部20が曲がり過ぎず、所望の形状を安定して得られる。なお、壁部20の外表面が上述のように凹んだ形状である場合、凹部をつくる曲面の下端と上端とに接する平面をとり、この平面を壁部の外表面の延長面とし、この平面と天板部の外表面の延長面とで仮想角をとる。
【0076】
特に、金属板100として、剛性に優れる材質のもの(例えば、室温における引張強さが250MPa以上を満たすもの)を用いることで、上述のように角部125及びその近傍や壁部123の内面全域を金型によって支持しなくても、座屈などすることなく、精度よく曲げ加工を行うことができる。又は、第二成形体120の壁部123の長さ(天板部121からの立設高さに等しい)が5mm以下程度と短いものを用いると、座屈などすることなく、精度よく曲げ加工を行うことができる。更に、この曲げ加工を温間加工とすると、上述のように、素材の加熱によって素材を柔らかくして加工を行うことで、成形加工後の変形の戻りを抑制でき、角部の成形を容易にできる。また、温間加工とする場合に素材を予め成形温度近傍に予熱しておくことで、加熱して高温になっている金型に素材を投入した際に素材の熱歪み変形を抑制できる。そのため、金型の所望の位置に素材を精度よく、簡単に配置できて好ましい。
【0077】
<その他の工程>
プレス加工により導入された歪みや残留応力の除去、耐食性の向上、機械的特性の向上などを目的として、プレス加工後に熱処理を施すことができる。熱処理条件は、材質にもよるが、加熱温度:100℃以上450℃以下程度、加熱時間:5分以上40時間以下程度が挙げられる。その他、上述のように防食、保護、装飾などを目的として、塗装層や防食層などを形成することができる。
【0078】
<効果>
上述の製造方法は、鋭利な角部(ここでは外側曲げ半径R=R
120≦t
120=t
100=t
t)を有し、壁部20が天板部10に対して鋭角に曲げられ、かつ壁部20の厚さt
lが天板部10の厚さt
tと同等以上である(ここではt
l=t
t=t
120=t
100)という特定の形状を有する金属成形体1を1種類の加工(全てプレス加工)によって形成できる。従って、この製造方法は、金属成形体1を生産性よく製造できる。
【0079】
[試験例]
上述の製造方法を用いて、以下のように種々の金属からなるプレス成形体を作製し、形状や物性を調べた。
【0080】
<試料No.1>
試料No.1は、素材の金属板100として、ASTM規格のAZ91D合金相当の組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn、1%未満のMn,Fe,Si,Ni,Cu,Caなどの添加元素及び不可避不純物を含む、全て質量%)を有するマグネシウム合金からなるものを利用した。ここでは、双ロール連続鋳造法により得られた鋳造板(厚さ4mm)に温間圧延を施し(板温度:200℃以上480℃以下、ロール温度:100℃以上350℃以下、1パスあたりの圧下率を5%以上40%以下、目標厚さ:0.6mm)、得られた圧延板に更に矯正加工及び湿式研磨を施して、面粗さRmax:6.1μmの金属板(厚さ:0.6mm)を用意した。面粗さRmaxは、JIS B 0601(1982)に規定される最大高さとする(他の試料も同様)。なお、成形温度(ここでは250℃)における金属板100の引張強さは59.5MPa、0.2%耐力は16.9MPaであり、(0.2%耐力)/(引張強さ)=0.28である。
【0081】
用意した金属板100を所定の形状・大きさに打抜き、以下の多段階の温間プレス加工を施す。試料No.1では、各工程における予熱温度及び成形温度は250℃とする。まず、
図1(A)に示す第一金型50を用いて温間プレス加工(ここでは絞り加工、素材温度:250℃)を行い、フランジ部117を具える第一成形体110を製造する。第一成形体110からフランジ部117を切断除去すると共に、第二金型70での成形に最適な形状や所望の壁部113の長さなどとなるように第一成形体110を調整する。
【0082】
次に、
図1(C)に示す第二金型70を用いて温間プレス加工(ここでは圧縮加工、素材温度:250℃)を行い、外側曲げ半径R
120が天板部121の厚さt
120(ここでは金属板100の厚さt
100=0.6mmに等しい)以下であるシャープな角部を有する第二成形体120を製造する。
図1(C)に示す上パンチ75において段差部76の段差(素材の厚さ方向の大きさ)を0.6mmとした。ここでは、天板部121は、外寸200mm×320mmの長方形状であり、長方形の各角部のコーナ半径は5.0mmである。また、壁部123の長さ(天板部121の外表面から垂直方向の大きさ)は3mm、外側曲げ半径R
120は、0.3mm(=(1/2)×t
120=(1/2)×t
100)とした。
【0083】
次に、
図1(D)に示す第三金型90を用いて温間プレス加工(ここでは曲げ加工、素材温度:250℃)を行い、天板部10と壁部20との仮想角θが40°である金属成形体1を得た。第一金型50、第二金型70、及び第三金型90において素材が接触する部分には全て、DLCコーティングを施した(面粗さRmax:2.6μm仕上げ)。更に、第一金型50、第二金型70、及び第三金型90の表面に潤滑剤を塗布した。潤滑剤は、引火温度が加工温度(ここでは250℃)以上であるものを用いた。上述のようにして多段階のプレス加工を行った結果、ねじれなどの歪みがなく(形状判定:歪み○)、コーナでの割れがなく(形状判定:コーナ○)、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。また、金属成形体1は天板部10の周縁の実質的に全域に亘って壁部20を具え、天板部10と壁部20との仮想角θの実質的に全域が同様の鋭角(ここでは40°)である。
【0084】
得られた試料No.1の金属成形体1は、外側曲げ半径R(稜線Rコーナ)が天板部10の厚さt
t(ここでは金属板100の厚さt
100=0.6mmに等しい)以下であり、ここでは、R=0.3mmである。つまり、金属成形体1の外側曲げ半径Rは、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
tは、0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。かつ、壁部20の厚さt
lは、0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している上に、天板部10の厚さt
tに等しい。壁部20において仮想角に沿った長さは3mmであり、壁部123の長さに等しい。天板部10から試験片を切り出して、室温における引張強さを求めたところ、335MPa(≧250MPa)であった。金属成形体1の面粗さRmaxを調べたところ、6.1μmであり、素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0085】
<試料No.2>
試料No.2では、試料No.1に対して、組成の異なる金属板100を利用した。具体的には、ASTM規格のAZ31B合金相当の組成(Mg-3.0%Al-1.0%Zn、1%未満のMn,Fe,Si,Ni,Cu,Caなどの添加元素及び不可避不純物を含む、全て質量%)を有するマグネシウム合金からなる金属板100を用意した。試料No.2の金属板100は、以下のように作製した。厚さ200mmのインゴットを鋳造し、適宜切削して厚さ150mmの素材とし、この素材に200℃以上の温度で熱間圧延加工を施して、得られた熱間圧延板(厚さ4mm)に、試料No.1と同様の条件で温間圧延を施した。そして、得られた圧延板(厚さ0.6mm)に、試料No.1と同様に矯正加工及び湿式研磨を施して、面粗さRmax:5.8μm、厚さ:0.6mmの金属板100を用意した。なお、成形温度(ここでは250℃)における金属板100の引張強さは51.2MPa、0.2%耐力は15.4MPaであり、(0.2%耐力)/(引張強さ)=0.30である。
【0086】
用意した金属板100に、試料No.1と同様の手順・条件で多段階の温間プレス加工を施し、金属成形体1を作製した。ここでは、第二成形体120は、外寸200mm×320mmの長方形状、天板部のコーナ半径:5.0mm、壁部123の長さ:3mm、外側曲げ半径R
120:0.3mm(=(1/2)×t
120=(1/2)×t
100)であり、シャープな角部を有する。多段階のプレス加工の結果、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。
【0087】
得られた試料No.2の金属成形体1は、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm=壁部123の長さ、天板部10の室温における引張強さ:270MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:5.8μmであった。面粗さも素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0088】
<試料No.3,4>
試料No.3,4では、試料No.1に対して、厚さが異なる金属板100を利用した。試料No.3,4に用いた金属板100は、試料No.1と同様の組成(ASTM規格のAZ91D合金相当)のマグネシウム合金を用いて、試料No.1と同様にして作製した。但し、温間圧延条件を調整して、試料No.3では、金属板100の厚さt
100:1.0mmとし、試料No.4では、金属板100の厚さt
100:3.0mmとした。試料No.3の金属板100の面粗さRmax:5.2μm、試料No.4の金属板100の面粗さRmax:6.1μmである。試料No.3,4のいずれも、成形温度(ここでは250℃)における金属板100の引張強さは、59.5MPa、0.2%耐力は16.9MPaであり、(0.2%耐力)/(引張強さ)=0.28である。
【0089】
用意した金属板100にそれぞれ、試料No.1と同様の手順・条件(コーティングの材質のみ以下に変更)で多段階の温間プレス加工を施し、金属成形体1を作製した。コーティグの材質は、試料No.3:CrN(面粗さRmax:2.6μm仕上げ)、試料No.4:VC(面粗さRmax:2.6μm仕上げ)とした。
【0090】
試料No.3の第二成形体120は、外寸200mm×320mmの長方形状、天板部121の厚さt
120:1.0mm(=金属板100の厚さt
100)、天板部のコーナ半径:5.0mm、壁部123の長さ:3mm、外側曲げ半径R
120:0.3mm(<(1/2)×t
120=0.5mm)であり、シャープな角部を有する。
【0091】
試料No.4の第二成形体120は、外寸200mm×320mmの長方形状、天板部121の厚さt
120:3.0mm(=金属板100の厚さt
100)、天板部のコーナ半径:5.0mm、壁部123の長さ:10mm、外側曲げ半径R
120:0.3mm(<(1/2)×t
120=1.5mm)であり、シャープな角部を有する。
【0092】
多段階のプレス加工の結果、試料No.3,4のいずれも、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。
【0093】
得られた試料No.3,4の金属成形体1はいずれも、外側曲げ半径R=0.3mmであり、天板部10の厚さt
t(ここでは、試料No.3:厚さt
t=金属板100の厚さt
100=1.0mm、試料No.4:厚さt
t=金属板100の厚さt
100=3.0mm)以下である。また、試料No.3,4の金属成形体1の外側曲げ半径Rはいずれも、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。更に、試料No.3の天板部10の厚さt
t:1.0mm=壁部20の厚さt
l:1.0mmであり、試料No.4の天板部10の厚さt
t:3.0mm=壁部20の厚さt
t=3.0mmであり、いずれも素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。試料No.3の壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm=壁部123の長さ、試料No.3の天板部10と壁部20との仮想角θ:40°である。試料No.4の壁部20において仮想角に沿った長さ:10mm=壁部123の長さ、試料No.4の天板部10と壁部20との仮想角θ:30°である。試料No.3,4のいずれも、天板部10の室温における引張強さ:335MPa(≧250MPa)であった。また、試料No.3の金属成形体1の面粗さRmaxは5.2μm、試料No.4の金属成形体1の面粗さRmaxは6.1μmであり、いずれも素材の金属板100の面粗さを実質的に維持していた。
【0094】
<試料No.5〜8>
試料No.5〜8では、試料No.1に対して、成形条件を異ならせて金属成形体1を製造した。試料No.5〜8に用いた金属板100は、試料No.1と同様の組成(ASTM規格のAZ91D合金相当)のマグネシウム合金を用いて、試料No.1と同様にして作製した(面粗さRmax:6.1μm、厚さt
100:0.6mm)。
【0095】
試料No.5では、第一金型50及び第三金型90は試料No.1と同様のもの、第二金型70は、
図1(C)に示す上パンチ75において段差部76の段差(素材の厚さ方向の大きさ)を0.66mmとしたものを用いた。この第二金型70を用いて、外寸200mm×320mmの長方形状、天板部121の厚さt
120:0.6mm(=金属板100の厚さt
100)、壁部123の厚さ:0.66mm、天板部のコーナ半径:5.0mm、壁部123の長さ:3mm、外側曲げ半径R
120:0.2mm(<(1/2)×t
120=0.3mm、かつ<(1/2)×t
100=0.3mm)、シャープな角部を有する第二成形体120を作製した。その他の条件は、試料No.1と同様とした。多段階のプレス加工の結果、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。
【0096】
得られた試料No.5の金属成形体1は、外側曲げ半径R=0.2mm(≦天板部10の厚さt
t)以下であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.2mmを実質的に維持している。天板部10の厚さt
tは、0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。かつ、壁部20の厚さt
lは、0.66mmであり、素材に用いた金属板100の厚さよりも厚くなっている上に、天板部10の厚さt
tより厚い。壁部20の厚さが天板部10の厚さよりも厚い試料No.5の金属成形体1は、上述した試料No.1の金属成形体1よりも、ねじれ難くすることができることを確認した。天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:335MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:6.1μmであった。面粗さも素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0097】
試料No.6〜8では、試料No.1に対して温間プレス加工の予熱温度及び成形温度(250℃)を異ならせた。具体的には、試料No.6では200℃、試料No.7では180℃、試料No.8では150℃とした。その他の条件は、試料No.1と同様とした。なお、各試料について金属板100の成形温度(ここでは200℃,180℃,150℃)における金属板100の引張強さ及び0.2%耐力を調べたところ、以下の通りであった。
200℃ 引張強さ:111MPa、0.2%耐力:51MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.46
180℃ 引張強さ:155MPa、0.2%耐力:74MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.48
150℃ 引張強さ:201MPa、0.2%耐力:109MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.54
【0098】
上述の条件で多段階のプレス加工を行った結果、試料No.6では、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。得られた試料No.6の金属成形体1は、天板部10の外寸:200mm×320mm、天板部10のコーナ半径:5.0mm、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:335MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:6.1μmであった。面粗さも素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0099】
一方、上述の条件で多段階のプレス加工を行った結果、試料No.7では、反りやねじれなどの歪みがあったものの(形状判定:歪み×)、コーナでの割れがなく、コーナ形状が良好な金属成形体1が得られた。反りやねじれは、成形の形状を最適化することで制御可能であり、実際に調整を行った結果、実用に供するレベルの金属成形体が得られることが確認できた。なお、得られた試料No.7の金属成形体1は、天板部10の外寸:200mm×320mm、天板部10のコーナ半径:5.0mm、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:335MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:6.1μmであった。
【0100】
他方、上述の条件で多段階のプレス加工を行った結果、試料No.8では、反りやねじれなどの歪みがある上に、コーナに割れもある金属成形体1を得た(形状判定:コーナ形状×、歪み×)。但し、金属成形体1においてコーナ以外の稜線部分には、割れがない部分も得られており、試料No.8の種々の評価は、この割れがない部分を用いて行った。その結果、試料No.8の金属成形体1は、天板部10の外寸:200mm×320mm、天板部10のコーナ半径:5.0mm、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:335MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:6.1μmであった。
【0101】
<試料No.9〜12>
試料No.9〜12では、試料No.1に対して、組成の異なる金属板100を利用した。
【0102】
試料No.9では、ASTM規格のAZ91D合金相当の組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn、1%未満のMn,Fe,Si,Ni,Cuなどの添加元素及び不可避不純物を含む、全て質量%)にCaを1.0質量%添加したマグネシウム合金からなる金属板100(厚さ:0.6mm)を用意した。試料No.10では、ASTM規格のAZ91D合金相当の組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn、1%未満のMn,Fe,Si,Ni,Cuなどの添加元素及び不可避不純物を含む、全て質量%)にCaを2.0質量%添加したマグネシウム合金からなる金属板100(厚さ:0.6mm)を用意した。試料No.9,10の金属板100はいずれも、試料No.1と同様にして作製した。なお、試料No.9,10について、成形温度(ここでは250℃)における金属板100の引張強さ及び0.2%耐力を調べたところ、以下の通りであった。
試料No.9 引張強さ:61.0MPa、0.2%耐力:18.0MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.30
試料No.10 引張強さ:61.5MPa、0.2%耐力:18.2MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.30
【0103】
用意した試料No.9,10の金属板100にそれぞれ、試料No.1と同様の手順・条件で多段階の温間プレス加工を施し、金属成形体1を作製した。試料No.9,10のいずれも、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。得られた試料No.9,10の金属成形体1はいずれも、天板部10の外寸:200mm×320mm、天板部10のコーナ半径:5.0mm、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:332MPa(試料No.9)、330MPa(試料No.10)、面粗さRmax:6.1μmであった。面粗さも素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0104】
試料No.11,12では、金属板100として、市販のアルミニウム合金板(JIS合金番号A5052合金相当の組成を有するもの、厚さ:0.6mm、面粗さRmax:4.1μm)を用意した。用意したアルミニウム合金板の成形温度(ここでは250℃、又は室温(25℃))における引張強さ及び0.2%耐力を調べたところ、以下の通りであった。
250℃ 引張強さ:48.4MPa、0.2%耐力:14.4MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.30
室温 引張強さ:251MPa、0.2%耐力:215MPa、0.2%耐力/引張強さ:0.86
【0105】
試料No.11では、用意した金属板100に試料No.1と同様の手順・条件で多段階の温間プレス加工を施し、金属成形体1を作製した。その結果、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。得られた試料No.11の金属成形体1は、天板部10の外寸:200mm×320mm、天板部10のコーナ半径:5.0mm、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:251MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:4.1μmであった。面粗さも素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0106】
一方、試料No.12では、試料No.1に対して、成形温度を異ならせた。具体的には室温(25℃)とし、多段階の冷間プレス加工とした。その他の条件は、試料No.1と同様とした。
【0107】
上述の条件で多段階のプレス加工を行った結果、試料No.12では、ねじれなどの歪みがなく、コーナでの割れがなく、良好な表面性状・外観を有する金属成形体1が得られた。但し、コーナに関しては、コーナ先端部分(アール部分)から壁部側に少し離れた部分では、意図する形状から少しずれた形状であることが確認された(形状判定:コーナ△)。より詳細には、上パンチ95において加工面となる傾斜面96から離れるような形状でずれていることが確認された。しかし、目標とする形状や規格、金属成形体の生産性などを考慮すれば、十分に実用に供するレベルであると考えられる。なお、試料No.12の金属成形体1は、天板部10の外寸:200mm×320mm、天板部10のコーナ半径:5.0mm、外側曲げ半径R=0.3mm(≦天板部10の厚さt
t=金属板100の厚さt
100=0.6mm)であり、第二成形体120の外側曲げ半径R
120=0.3mmを実質的に維持している。また、天板部10の厚さt
t:0.6mm=壁部20の厚さt
l:0.6mmであり、素材に用いた金属板100の厚さを実質的に維持している。更に、天板部10と壁部20との仮想角θ:40°、壁部20において仮想角に沿った長さ:3mm、天板部10の室温における引張強さ:251MPa(≧250MPa)、面粗さRmax:4.1μmであった。面粗さも素材の金属板100の値を実質的に維持していた。
【0108】
試料No.1〜12の組成、製造条件、金属板の物性・金属成形体の物性などを表1〜表3にまとめて示す。
【0112】
表1〜3に示すように、試料No.1〜12(好ましくは試料No.1〜6,No.9〜12)の金属成形体1はいずれも、上述のように角部15の外側曲げ半径Rが天板部10の厚さt
t以下であることから、スタイリッシュ感があり、美観に優れる。この角部15は、上述のようにプレス加工といった塑性加工によって成形されることで、加工硬化によって、剛性に優れる上に、塑性加工によって成形されることで、延性を有し、外力に対して割れ難い特徴を有する。また、金属成形体1は、壁部20が天板部10の内側に向かって傾斜した形状であることから、上蓋などの外装部材に利用する場合に、壁部20の外表面を指の引っ掛かりなどに利用して、開動作を容易に行うことができると期待される。更に、金属成形体1は、壁部20の厚さt
lが一様で、かつ天板部10の厚さt
tと同等又はそれ以上の厚さであることから、壁部20を天板部10の補強材として十分に機能させられる上に、壁部20自体が剛性に優れることで、角部15の剛性を更に高められ、角部15が鋭利な状態を維持し易い。従って、金属成形体1は、長期に亘り、スタイリッシュ感を有することができる。その他、この例に示す金属成形体1は、厚さが0.6mm程度と薄いことで、薄型、軽量の筐体やカバーなどの部材を構築することができる。
【0113】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。