特許第6029087号(P6029087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029087
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】板ガラス物品の分離装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/03 20060101AFI20161114BHJP
   B28D 5/00 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
   C03B33/03
   !B28D5/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-540189(P2012-540189)
(86)(22)【出願日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2012072043
(87)【国際公開番号】WO2013031908
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-191735(P2011-191735)
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆志
(72)【発明者】
【氏名】小山 範男
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−053737(JP,U)
【文献】 特開平08−175837(JP,A)
【文献】 特開昭51−112822(JP,A)
【文献】 特開昭53−055319(JP,A)
【文献】 特開2000−191333(JP,A)
【文献】 特開2000−191332(JP,A)
【文献】 実開平05−051927(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00 − 35/26
C03B 40/00 − 40/04
B28D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板ガラス物品を切断位置まで搬送すると共に、前記切断位置で搬送方向に延びる切断予定線に沿って板ガラス物品を切断し、且つ切断された板ガラス物品を相互に分離させて搬送するように構成した板ガラス物品の分離装置であって、
前記板ガラス物品が前記切断位置にある時の前記切断予定線を境界として並列に配列された一方側および他方側の搬送領域に、切断前の前記板ガラス物品および切断後の前記板ガラス物品を上流側から下流側に向かって搬送する搬送手段をそれぞれ設置し、
前記一方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段と、前記他方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段とが、前記上流側から下流側に向かう方向と直交する方向において接近および離反するように構成したことを特徴とする板ガラス物品の分離装置。
【請求項2】
前記一方側および他方側の搬送領域のうち、少なくとも一の搬送領域に、複数の搬送手段が並列に設置され、且つそれらのうち少なくとも一の搬送手段が、前記接近および離反のために移動可能とされると共に、前記複数の搬送手段のうち、前記移動可能な搬送手段とそれ以外の少なくとも一の搬送手段とが、前記板ガラス物品に対する吸着およびその解除を可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項3】
前記搬送手段の全てと前記板ガラス物品との間に、保護シートを介在させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項4】
前記板ガラス物品に対する吸着の解除時に、前記板ガラス物品に対して気体を噴出するように構成したことを特徴とする請求項2又は3に記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項5】
前記移動可能とされた搬送手段が、前記複数の搬送手段の配列方向最外位置に設置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項6】
前記一方側の搬送領域に、前記移動可能とされた搬送手段を含む前記複数の搬送手段が設置され、前記他方側の搬送領域に設置した全ての搬送手段が移動不能とされていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項7】
並列に配列された複数枚の板ガラス物品をそれぞれの対向端面を近接させた状態で処理位置まで搬送すると共に、前記処理位置で、表面被覆処理、洗浄処理、梱包処理または検査処理である製造関連処理を施し、且つ前記製造関連処理が施された複数枚の板ガラス物品をそれぞれの対向端面を離反させることにより相互に分離させて搬送するように構成した板ガラス物品の分離装置であって、
前記処理位置に前記複数枚の板ガラス物品がある時のそれぞれの対向端面間を境界として並列に配列された複数の搬送領域について、隣り合う板ガラス物品の対向端面間を境界として並列に配列された一方側および他方側の搬送領域に、前記製造関連処理前の前記板ガラス物品および前記製造関連処理後の前記板ガラス物品を上流側から下流側に向かって搬送する搬送手段をそれぞれ設置し、
前記一方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段と、前記他方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段とが、前記上流側から下流側に向かう方向と直交する方向において接近および離反するように構成したことを特徴とする板ガラス物品の分離装置。
【請求項8】
前記複数の搬送領域の全てまたは前記複数の搬送領域から一の搬送領域を除いた残り全ての搬送領域に、複数の搬送手段を並列に設置し、且つそれらのうち少なくとも一の搬送手段が、前記接近および離反のために移動可能とされると共に、前記複数の搬送手段の内、前記移動可能な搬送手段と、該移動可能な搬送手段以外の少なくとも一の搬送手段が、前記板ガラス物品に対する吸着およびその解除を可能とされていることを特徴とする請求項7に記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項9】
少なくとも前記複数の搬送領域から一の搬送領域を除いた残り全ての搬送領域に設置された前記複数の搬送手段と、前記板ガラス物品との間に、保護シートを介在させたことを特徴とする請求項8に記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項10】
前記板ガラス物品に対する吸着の解除時に、前記板ガラス物品に対して気体を噴出するように構成したことを特徴とする請求項8又は9に記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項11】
前記移動可能とされた搬送手段が、前記複数の搬送手段の配列方向最外位置に設置されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の板ガラス物品の分離装置。
【請求項12】
前記複数の搬送領域から一の搬送領域を除いた残り全ての搬送領域に、前記移動可能とされた搬送手段を含む前記複数の搬送手段が設置され、前記一の搬送領域に設置した全ての搬送手段が移動不能とされていることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の板ガラス物品の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラス物品の分離装置に係り、詳しくは、切断した後の板ガラス物品、又は、当初から複数枚が並列に近接して配列された板ガラス物品を相互に分離しつつ、搬送を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイや、建築物の窓ガラス等に用いられる板ガラスは、その製造工程において大面積の板ガラスから小面積の板ガラスを切り出したり、板ガラスの辺に沿う縁部をトリミングしたり等、板ガラスの切断が行われることがある。
【0003】
板ガラスを切断する方法としては、下記に記載の特許文献1〜3に開示された技術のように、板ガラスにスクライブ線を形成した後、折割部材を用いて板ガラスを押圧することで、スクライブ線の周辺部に曲げモーメントを与え、板ガラスをスクライブ線に沿って切断する方法が一般に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、上述のような切断方法を用いた場合、折割部材が板ガラスを押圧し、切断した後、板ガラスの切断面同士が接触してしまい、各々の切断面に擦り傷や割れ等が発生することで、板ガラスの品質を低下させてしまうという問題がある。このような問題を防止するため、切断直後の板ガラスを相互に分離させ、切断面同士の接触を防ぐ必要があった。
【0005】
上記の問題に対して、下記の特許文献4には、切断後における各板ガラスの切断面同士の接触を防止する技術として、板ガラスに形成されたスクライブ線を境界とした両側領域に、板ガラスを吸着保持可能なテーブルを設け、上記テーブルに板ガラスを吸着保持させた後、一方のテーブルを回動させることで、スクライブ線の周辺部に曲げモーメントを与え、板ガラスを切断すると共に、切断面を相互に分離させ、切断面同士の接触を防止可能な技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献5には、切断後における各板ガラスの切断面同士の接触を防止する技術として、スクライブ線が形成された板ガラスの一方側を上下から挟持部材により挟持した後、その挟持部材を回動させることで、スクライブ線の周辺部に曲げモーメントを与え、板ガラスを切断すると共に、切断面を相互に分離させ、切断面同士の接触を防止可能な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−051394号公報
【特許文献2】特開昭61−168547号公報
【特許文献3】特開2006−315901号公報
【特許文献4】特許第3031384号
【特許文献5】特公平7−51453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献4及び5に開示された技術では、板ガラスの切断面を相互に分離させることが可能であるものの、装置に供給された板ガラスの切断を行う度に、その切断装置を使用して切断後の板ガラスを別の場所に移載させる必要がある。
【0009】
そのため、切断位置への板ガラスの搬入と、切断後の板ガラスの搬出とを、連続的な処理あるいは一連の処理として行うことができず、大量の板ガラスを連続して切断するような場合には、作業効率が悪化しやすいという問題があった。
【0010】
なお、このような問題は、折割部材を用いた板ガラスの切断の際にのみ生じているものではなく、例えば、板ガラスに対するレーザーの照射と、これに追随する冷媒の噴射により、板ガラスに形成された初期クラックの周辺に熱応力を発生させ、初期クラックを進展させることで、板ガラスを切断するレーザー割断や、レーザーの照射部で溶融した溶融ガラスを除去することで、板ガラスを切断するレーザー溶断の際にも、同様に生じているものである。
【0011】
さらには、このような板ガラスの分離の問題は、板ガラスの切断後に限られず、切断を行うことなく既に複数とされている板ガラスを並列に近接配列させて製造関連処理を行う必要がある場合に、それら複数の板ガラスを処理位置に搬入させ且つ処理位置から搬出させるに際して、板ガラスの品質低下を抑制した上で作業効率を向上させるには、どのようにするのが最適であるかという問題がある。
【0012】
加えて、板ガラスのみならず、板ガラスをその構成要素とするガラス積層体、板ガラスと樹脂シートとを積層したガラス樹脂積層体、液晶パネル等(以下、板ガラスと、これらとを総称して板ガラス物品という)に関して、これらを切断、或いは、近接配列させて製造関連処理を行う場合にも、同様の問題が発生している。
【0013】
上記事情に鑑み、本発明の課題は、板ガラス物品の切断分離工程、又は並列に近接して配列された複数の板ガラス物品を相互に離反させる分離工程において、板ガラス物品の品質低下を抑制でき、且つ作業効率を向上させることが可能な板ガラス物品の分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
板ガラス物品の切断時に際する課題を解決するため、本発明は、板ガラス物品を切断位置まで搬送すると共に、前記切断位置で搬送方向に延びる切断予定線に沿って板ガラス物品を切断し、且つ切断された板ガラス物品を相互に分離させて搬送するように構成した板ガラス物品の分離装置であって、前記板ガラス物品が前記切断位置にある時の前記切断予定線を境界として並列に配列された一方側および他方側の搬送領域に、切断前の前記板ガラス物品および切断後の前記板ガラス物品を上流側から下流側に向かって搬送する搬送手段をそれぞれ設置し、前記一方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段と、前記他方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段とが、前記上流側から下流側に向かう方向と直交する方向において接近および離反するように構成したことに特徴づけられる。ここで、上記の「接近および離反」とは、対応する2つの搬送手段が双方共に移動して両者が接近および離反する場合のみならず、一方の搬送手段が移動せずに他方の搬送手段のみが移動して両者が接近および離反する場合をも含むと共に、一方の搬送手段が他方の搬送手段に対して平行に相対移動する場合のみならず、両者間の隙間が上流側から下流側に移行するに連れて漸次拡開するように相対移動する場合をも含む(以下、同様)。さらに、「板ガラス物品」とは、板ガラスのみでなく、ガラス積層体、ガラス樹脂積層体、液晶パネル等の板ガラスをその構成要素としたものを含む(以下、同様)。
【0015】
このような構成によれば、板ガラス物品の分離装置に搬入された板ガラス物品は、切断位置で切断されると共に、その切断後における各板ガラス物品は、一方側の搬送領域に存する少なくとも一の搬送手段と、他方側の搬送領域に存する少なくとも一の搬送手段とが離反することによって、相互に分離される。従って、板ガラス物品が切断された直後に、上記の搬送手段を離反させれば、切断後の各板ガラス物品は、切断面同士の接触を生じることなく、搬送手段によって切断位置から分離された状態を維持して下流側に搬送される。一方、一旦離反した上記の搬送手段が、接近して当初の位置に復帰した場合には、後続の新たな板ガラス物品は、板ガラス物品の分離装置に搬入された後、上述の場合と同様にして、切断され且つ分離されて切断位置から下流側に搬送される。以上の動作が、繰り返し実行されることによって、板ガラス物品の分離装置ひいては切断位置への板ガラス物品の搬入と、板ガラス物品の分離装置ひいては切断位置からの各板ガラス物品の搬出とが、連続した一連の処理として行われ得ることになる。その結果、切断された板ガラス物品の切断面同士の接触に起因する板ガラス物品の品質低下を防止しつつ、切断工程における作業効率の向上を図ることが可能となる。なお、切断位置で板ガラス物品が切断される際には、搬送手段による板ガラス物品の搬送動作は停止されることが好ましい。
【0016】
上記の構成において、前記一方側および他方側の搬送領域のうち、少なくとも一の搬送領域に、複数の搬送手段が並列に設置され、且つそれらのうち少なくとも一の搬送手段が、前記接近および離反のために移動可能とされると共に、前記複数の搬送手段のうち、前記移動可能な搬送手段とそれ以外の少なくとも一の搬送手段とが、前記板ガラス物品に対する吸着およびその解除を可能とされていることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、板ガラス物品の分離装置に搬入された板ガラス物品は、切断位置で好ましくは停止して切断されると共に、その切断後における板ガラス物品は、以下に示すような処理を受ける。すなわち、切断予定線を境界とする両側搬送領域の少なくとも一方側において、移動可能な搬送手段以外の搬送手段つまり移動不能な搬送手段(以下、固定側搬送手段という)が、切断後の板ガラス物品に対する吸着を解除した状態の下で、移動可能な搬送手段(以下、可動側搬送手段という)が、その板ガラス物品を吸着して搬送しつつ、切断後の各板ガラス物品を相互に分離させる方向に移動(離反動)する。この場合にも、板ガラス物品の切断直後に、可動側搬送手段を離反動させれば、切断後の各板ガラス物品が、切断面同士の接触を生じることなく分離される。そして、切断された板ガラス物品の相互分離が完了した後は、固定側搬送手段が、切断後の板ガラス物品を吸着して搬送すると共に、可動側搬送手段は、切断後の板ガラス物品に対する吸着を解除した状態で、当初の位置に復帰移動(接近動)する。つまり、可動側搬送手段は、板ガラス物品に対する吸着を解除されているため、固定側搬送手段による板ガラス物品の搬送を邪魔することなく、当初の位置に復帰移動できることになる。従って、可動側搬送手段が、当初の位置に復帰移動している間に、固定側搬送手段が、後続の新たな板ガラス物品を搬入することができる。これにより、切断後の各板ガラス物品の分離およびそれらの切断位置から下流側への搬出と、後続の新たな板ガラス物品の切断位置への搬入とを、連続的に行うことができるため、切断工程における作業効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0018】
上記の構成において、前記搬送手段の全てと前記板ガラス物品との間に、保護シートを介在させることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、可動側搬送手段が切断された板ガラス物品を吸着搬送しつつ、切断された板ガラス物品を相互に分離させる方向に移動(離反動)する際、及び可動側搬送手段が切断された板ガラス物品に対する吸着を解除した状態で、切断された板ガラス物品を分離する前の当初の位置に復帰移動(接近動)する際に、板ガラス物品と搬送手段との摺動に起因して、板ガラス物品下面に擦り傷等が発生する恐れを低減することが可能となる。
【0020】
上記の構成において、前記板ガラス物品に対する吸着の解除時に、前記板ガラス物品に対して気体を噴出するように構成することが好ましい。
【0021】
このようにすれば、板ガラス物品に対する吸着を解除した状態の搬送手段から板ガラス物品に対して気体を噴出することによって、板ガラス物品は気体を噴出している搬送手段上で浮遊状態となり、搬送手段と板ガラス物品とが摺動する恐れを可及的に低減することが可能となるため、板ガラス物品下面における擦り傷等の発生をより効果的に抑制することができる。
【0022】
上記の構成において、前記移動可能とされた搬送手段が、前記複数の搬送手段の配列方向最外位置に設置されていることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、可動側搬送手段が、複数の固定側搬送手段の相互間に設置される場合に比べて、可動側搬送手段の可動範囲(移動距離)を大きくとることができるため、切断された板ガラス物品をより長距離に亘って分離させることが可能となる。また、板ガラス物品を相互に分離させる際に、可動側搬送手段の移動方向の前方に、固定側搬送手段が存在しないことによって、搬送手段と板ガラス物品との間に介在する保護シートが撓みにくくなる。これにより、撓んだ保護シートが切断された板ガラス物品の端面や縁部に突き刺さることによって板ガラス物品と保護シートとの剥離が困難になる、板ガラス物品の搬送・停止位置の制御が難しくなる等の問題を防止することが可能となる。
【0024】
上記の構成において、前記一方側の搬送領域に、前記可動側搬送手段を含む前記複数の搬送手段が設置され、前記他方側の搬送領域に設置した全ての搬送手段が移動不能とされていてもよい。
【0025】
このようにすれば、可動側搬送手段が設けられていない側の搬送領域の装置構造を簡易なものとすることができるため、装置の製造コストを低減することが可能となる。
【0026】
また、並列に配列された複数枚の板ガラス物品に製造関連処理を施した場合における課題を解決するために、本発明は、並列に配列された複数枚の板ガラス物品をそれぞれの対向端面を近接させた状態で処理位置まで搬送すると共に、前記処理位置で、表面被覆処理、洗浄処理、梱包処理または検査処理である製造関連処理を施し、且つ前記製造関連処理が施された複数枚の板ガラス物品をそれぞれの対向端面を離反させることにより相互に分離させて搬送するように構成した板ガラス物品の分離装置であって、前記処理位置に前記複数枚の板ガラス物品がある時のそれぞれの対向端面間を境界として並列に配列された複数の搬送領域について、隣り合う板ガラス物品の対向端面間を境界として並列に配列された一方側および他方側の搬送領域に、前記製造関連処理前の前記板ガラス物品および前記製造関連処理後の前記板ガラス物品を上流側から下流側に向かって搬送する搬送手段をそれぞれ設置し、前記一方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段と、前記他方側の搬送領域に存する少なくとも一の前記搬送手段とが、前記上流側から下流側に向かう方向と直交する方向において接近および離反するように構成したことに特徴づけられる。ここで、上記の「近接」とは、隣り合う板ガラス物品の対向端面相互間の隙間が3000mm以下(好ましくは300mm以下)であることを意味し、その隙間は零もしくは略零であってもよい。
【0027】
このような構成によれば、板ガラス物品の分離装置により処理位置に複数枚の板ガラス物品が近接して配列された状態で搬入され、製造関連処理が施されると共に、その処理後における各板ガラス物品(以下、処理済板ガラス物品という)は、隣り合う処理済板ガラス物品の対向端面間を境界とする二つの搬送領域において、一方側の搬送領域に存する少なくとも一の搬送手段と、他方側の搬送領域に存する少なくとも一の搬送手段とが離反することによって、相互に分離される。従って、板ガラス物品に製造関連処理が施された直後に、上記の搬送手段を離反させれば、各処理済板ガラス物品は、対向端面同士が近接することなく、搬送手段によって処理位置から相互に分離された状態を維持して下流側に搬送される。一方、一旦離反した上記の搬送手段が、接近して当初の位置に復帰した場合には、後続の新たな複数枚の板ガラス物品は、板ガラス物品の分離装置により処理位置に搬入された後、上述の場合と同様にして、処理され且つ相互に分離されて処理位置から下流側に搬送される。以上の動作が、繰り返し実行されることによって、板ガラス物品の分離装置ひいては処理位置への板ガラス物品の搬入と、板ガラス物品の分離装置ひいては処理位置からの各処理済板ガラス物品の搬出とが、連続した一連の処理として行われ得ることになる。その結果、製造関連処理が施された複数枚の処理済板ガラス物品の対向端面同士の近接に起因する板ガラス物品の品質低下を防止しつつ、処理工程における作業効率の向上を図ることが可能となる。なお、処理位置で板ガラス物品に製造関連処理が施される際には、搬送手段による板ガラス物品の搬送動作は停止されることが好ましい。
【0028】
上記の構成において、前記複数の搬送領域の全てまたは前記複数の搬送領域から一の搬送領域を除いた残り全ての搬送領域に、複数の搬送手段を並列に設置し、且つそれらのうち少なくとも一の搬送手段が、前記接近および離反のために移動可能とされると共に、前記複数の搬送手段の内、前記移動可能な搬送手段と、該移動可能な搬送手段以外の少なくとも一の搬送手段が、前記板ガラス物品に対する吸着およびその解除を可能とされていることが好ましい。
【0029】
このようにすれば、板ガラス物品の分離装置の処理位置に搬入された板ガラス物品は、処理位置で好ましくは停止して処理が施されると共に、その処理後における板ガラス物品は、以下に示すような処置を受ける。すなわち、隣り合う処理済板ガラス物品の対向端面間を境界とする二つの搬送領域の少なくとも一方側において、移動可能な搬送手段以外の搬送手段つまり移動不能な搬送手段(以下、固定側搬送手段という)が、処理済板ガラス物品に対する吸着を解除した状態の下で、移動可能な搬送手段(以下、可動側搬送手段という)が、その板ガラス物品を吸着して搬送しつつ、各処理済板ガラス物品を相互に分離させる方向に移動(離反動)する。この場合にも、板ガラス物品に製造関連処理を施した直後に、可動側搬送手段を離反動させれば、各処理済板ガラス物品の対向端面同士が近接することなく相互に分離される。そして、処理済板ガラス物品の相互分離が完了した後は、固定側搬送手段が、処理済板ガラス物品を吸着して搬送すると共に、可動側搬送手段は、処理済板ガラス物品に対する吸着を解除した状態で、当初の位置に復帰移動(接近動)する。従って、可動側搬送手段が、当初の位置に復帰移動している間に、固定側搬送手段が、後続の新たな複数枚の板ガラス物品を搬入することができる。これにより、処理済板ガラス物品の相互分離およびそれらの処理位置から下流側への搬出と、後続の新たな複数枚の板ガラス物品の処理位置への搬入とを、同一の複数の搬送手段により同時に行うことができるため、製造関連処理工程における作業効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0030】
上記の構成において、少なくとも前記複数の搬送領域から一の搬送領域を除いた残り全ての搬送領域に設置された前記複数の搬送手段と、前記板ガラス物品との間に、保護シートを介在させることが好ましい。
【0031】
このようにすれば、上記の板ガラス物品の切断に係る板ガラス物品の分離装置の対応する構成について既に述べた事項と同様の作用効果を享受することができる。
【0032】
上記の構成において、前記板ガラス物品に対する吸着の解除時に、前記板ガラス物品に対して気体を噴出するように構成することが好ましい。
【0033】
このようにすれば、上記の板ガラス物品の切断に係る板ガラス物品の分離装置の対応する構成について既に述べた事項と同様の作用効果を享受することができる。
【0034】
上記の構成において、前記移動可能とされた搬送手段が、前記複数の搬送手段の配列方向最外位置に設置されていることが好ましい。
【0035】
このようにすれば、上記の板ガラス物品の切断に係る板ガラス物品の分離装置の対応する構成について既に述べた事項と同様の作用効果を享受することができる。
【0036】
上記の構成において、前記複数の搬送領域から一の搬送領域を除いた残り全ての搬送領域に、前記移動可能とされた搬送手段を含む前記複数の搬送手段が設置され、前記一の搬送領域に設置した全ての搬送手段が移動不能とされていてもよい。
【0037】
このようにすれば、上記の板ガラス物品の切断に係る板ガラス物品の分離装置の対応する構成について既に述べた事項と同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明によれば、板ガラス物品の切断分離工程、又は並列に近接して配列された複数の板ガラス物品を相互に離反させる分離工程において、板ガラス物品の品質低下を抑制でき、且つ作業効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置を示す平面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置を示す側面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置の構成要素である折割部材及び切断部材を示す拡大縦断正面図であって、図1のE−E断面図である。
図4a】本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置の構成要素である折割部材および切断部材を示す拡大縦断正面図である。
図4b】本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置の構成要素である折割部材および切断部材を示す拡大縦断正面図である。
図5図1及び図2に示した板ガラス物品の分離装置の作用を示す側面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る板ガラス物品の分離装置を示す正面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る板ガラス物品の分離装置を示す概略平面図である。
図8図7に示した板ガラス物品の分離装置の作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態を添付の図面に基づいて説明する。まず、図1〜5に基づいて本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置について説明する。なお、この第1実施形態では、切断予定線に沿って形成されたスクライブ線の周辺に折割部材によって曲げモーメントを与え、板ガラス物品としての板ガラスを切断する場合を例に挙げて説明する。
【0041】
本実施形態では板ガラスを搬送する搬送手段としてコンベヤを用いている(詳細は後述する)。図1及び図2に示すように、板ガラス物品の分離装置1の上流側には、板ガラス物品の分離装置1に板ガラス物品としての板ガラスGを搬入する搬入側コンベヤSが、下流側には、板ガラス物品の分離装置1で切断及び分離された両板ガラスG1、G2を搬出する搬出側コンベヤRが設けられている。そして、板ガラス物品の分離装置1のコンベヤ、搬入側コンベヤS、および搬出側コンベヤRは、図示しないモーター等の動力源によるプーリー20の回転に伴って、各々に備えられたコンベヤベルトVが駆動される機構となっている。
【0042】
詳述すると、図1に示すように板ガラス物品の分離装置1は、C方向に板ガラスG、及び切断された両板ガラスG1、G2を搬送する可動側コンベヤ10、固定側コンベヤ11a(切断予定線を境界とする両側搬送領域の内、可動側コンベヤ10を含む搬送領域の固定側コンベヤ)、固定側コンベヤ11b(切断予定線を境界とする両側搬送領域の内、可動側コンベヤ10を含まない搬送領域の固定側コンベヤ)が互いに並行に配列されることで構成されている。可動側コンベヤ10は、図示しないボールネジ機構等によって動力が伝達され、板ガラスの搬送方向Cと直交する幅方向に、基準位置P1と退避位置P2との間を正逆移動可能とされている。これに対して、両固定側コンベヤ11a、11bは、基準位置に固定設置されている。また、可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bの板ガラスG、及び切断された両板ガラスG1、G2を載置する載置面(コンベヤベルトVの表面)には、板ガラスを吸着又は浮上させるための多数の通気孔Hが設けられており、図示しない気体供給・排出源によって通気孔Hを介して気体の吸引、噴出が可能となっている。
【0043】
なお、板ガラス物品の分離装置1は、1台の可動側コンベヤ10と、1台の固定側コンベヤ11aと、2台の固定側コンベヤ11bとで構成されているが、本発明に係る板ガラス物品の分離装置1の構成はこれに限定されるものではなく、適宜可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bの台数を増減してもよい。また、可動側コンベヤ10は、必ずしも固定側コンベヤ11aの外方側に設置されなくともよく、2台又はそれ以上の台数の固定側コンベヤ11a間に設けられてもよい。さらに、可動側コンベヤ10における気体の吸引、噴出は、両固定側コンベヤ11a、11bとは別に制御されるものであってもよい。
【0044】
板ガラス物品の分離装置1の幅方向中央部で隣り合っている両固定側コンベヤ11a、11b間には、板ガラスGを裏面側(下面側)から押圧して切断するための折割部材30と、折割部材30から進出して保護シート50(保護シートの詳細に関しては後述する)を切断する切断刃を有する切断部材40とが設けられている。なお、折割部材30における先端部(上端部)の素材としては、PVC樹脂等を用いることができる。また、折割部材30の設置位置は、図1に示す位置に限定されるものではなく、切断後の両板ガラスG1、G2が折割部材30を基準にして、幅方向で非対称となるように設置してもよい。換言すれば、切断後の2枚の板ガラスG1、G2の大きさに差異が出来るように折割部材30を設置してもよい。
【0045】
図1及び図2に示すように、搬入側コンベヤSから板ガラス物品の分離装置1へと搬入される板ガラスG及び板ガラス物品の分離装置1から搬出側コンベヤRへと搬出される切断された両板ガラスG1、G2と、コンベヤベルトVとの間には板ガラスを保護する保護シート50が介在している。ここで、保護シート50としては、紙(ダンボール紙)、布、木、セロハン、ガラス、合成樹脂(ポリエチレン・ナイロン・発泡ウレタン・ゴム等)等のフィルム状もしくはシート状のもの、或いはフィルム状もしくはシート状に加工したものを用いることができる。また、上記に列挙したものでなくとも、これらに準じるものであれば、保護シート50として使用可能である。なお、保護シート50は通気性を有していることが好ましい。
【0046】
図3に示すように、折割部材30は、大別すると、先端部31と基部32とからなり、先端部31は、互いの対向端面間に隙間Zを有する一対の分割体31aで構成されている。この一対の分割体31aにおける先端面はそれぞれ、幅方向外方側に移行するに連れて下降傾斜する傾斜状平面とされている。また、基部32は、一対の分割体31aの下方にそれぞれボルト35を用いて固定された一対の支持板材32aで構成されている。そして、この折割部材30は、一対の支持板材32aの下部と連結された図外のボールネジ機構や流体圧シリンダ等の昇降駆動手段によって上下動する構成とされている。
【0047】
折割部材30の基部32の内部には、保護シート50を切断するための切断部材40が介装されている。この切断部材40は、最上部に位置する切断刃40aと、この切断刃40aを下方より保持する保持体40bとを有し、保持体40bの上部に切断刃40aがボルト36を用いて固定されている。また、この切断部材40は、図外のボールネジ機構や流体圧シリンダ等の昇降駆動手段によって上下動する構成とされている。そして、この切断部材40が上動した場合には、折割部材30の両分割体31aの隙間Zを通じて、その切断刃40aが両分割体31aの先端から突出する構成とされている。
【0048】
なお、折割部材30および切断部材40は、図3に示す構成に限定されるわけではなく、例えば図4a,図4bに示すような構成としてもよい。すなわち、これらの図に示す折割部材30は、先端部31を構成する一対の分割体30bの両対向端面が接合および離反可能とされている。この一対の分割体30bの先端面は、凸曲面(図例では断面略半円形)とされている。そして、この一対の分割体30bは、各分割体30bにそれぞれ内蔵された圧縮バネ39のバネ力によって接合すると共に、そのバネ力に抗して離反するように構成されている。また、基部32を構成する一対の支持板材30aは、連結部Wを介して連結一体化されている。一方、切断部材40は、上下方向に所定長さを有する長孔38を有し、この長孔38に、上記支持板材30aの連結部Wが遊挿されている。従って、切断部材40が下動端に位置している時には、図4aに示すように、折割部材30の両分割体30bは圧縮バネ39のバネ力によって接合し、切断部材40が上動した場合には、図4bに示すように、両分割体30bを切断部材40が圧縮バネ39のバネ力に抗して押し分け、切断部材40の先端に備えられた切断刃が両分割体30bの先端から突出する構成とされている。
【0049】
次に、図5に基づいて本発明の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1の作用効果を説明する。なお、図5において可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bに添付された矢印は、気体の吸引又は噴出を示すものであり、下向きの矢印Xは気体の吸引を表し、上向きの矢印Yは気体の噴出を示すものである。
【0050】
図1及び図2に示す搬入側コンベヤSから保護シート50上に載置された板ガラスGが板ガラス物品の分離装置1に搬入されると、図5(a)に示すように、可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bは通気孔Hを介して、板ガラスGを吸着した状態で、図1及び図2に示すCの方向(図5において紙面手前から奥の方向)に搬送する。搬送される板ガラスGは、搬送方向に対して所定の切断位置で停止する。
【0051】
その後、可動側コンベヤ10と両固定側コンベヤ11a、11bに吸着された板ガラスGは、図5(b)に示すように折割部材30が上昇し、上昇した折割部材30に押圧されることで、図示省略のスクライブ線の周辺に曲げモーメントが与えられ、引張応力が作用することにより、板ガラスG1とG2とに切断される。ここで、板ガラスの切断面の上方には、切粉として排出されるガラス片を吸引する集塵装置が設けられることが好ましい。なお、この時点では、図3に示した切断部材40の切断刃40aは、折割部材30の両分割体31aの先端面よりも下方に後退している。
【0052】
板ガラスGが切断された直後においては、図5(c)に示すように切断された両板ガラスG1、G2の対向する両端部は、図3に示した折割部材30の先端部31(両分割体31aの先端面)によって支持され、持ち上げられた状態となり、切断された両板ガラスG1、G2の対向端面間に隙間が発生する。この隙間に切断刃40aが進出することで保護シート50が切断される。
【0053】
保護シート50の切断が行われた後、図5(d)に示すように切断された板ガラスG2を搬送する領域(図5において折割部材30を基準として左側の領域で以下、左側搬送領域という)では、2台の固定側コンベヤ11bが、板ガラスGの切断前と同様に板ガラスG2を吸着した状態で、図1及び図2に示すC方向に搬送する。
【0054】
一方、切断された板ガラスG1を搬送する領域(図5において折割部材30を基準として右側の領域で以下、右側搬送領域という)においては、可動側コンベヤ10は板ガラスG1を吸着した状態で、図1及び図2に示すCの方向に搬送すると共に、図5(d)に示すように基準位置P1から退避位置P2に向かって矢印a方向に移動を開始することで切断された両板ガラスG1、G2の分離を開始する。
【0055】
また、右側搬送領域の固定側コンベヤ11aは、可動側コンベヤ10が板ガラスG1を吸着すると、板ガラスG1に対する吸着を解除して、通気孔Hより板ガラスG1に向かって気体を噴出することで、板ガラスG1を固定側コンベヤ11a上で浮上させる。
【0056】
これにより、両板ガラスG1、G2の切断面同士の接触を効果的に防止でき、板ガラスの品質低下を抑制することが可能となると共に、切断された両板ガラスG1、G2の搬送も同時に行えるため、作業効率を向上させることができる。
【0057】
ここで、可動側コンベヤ10は固定側コンベヤ11aの最外方側に位置するように設けられている関係上、可動側コンベヤ10が隣接する固定側コンベヤ11a間に設置される場合に比べて、可動側コンベヤ10の可動範囲(基準位置P1と退避位置P2との距離)を大きくとることができるため、切断された両板ガラスG1、G2を、より長距離に亘って分離させることが可能となる。さらに、板ガラスを相互に分離させる際に、可動側コンベヤ10の移動方向の前方に固定側コンベヤ11aが存在しないことにより、板ガラスと可動側コンベヤ10及び固定側コンベヤ11aとの間に介在させた保護シート50が撓みにくくなるため、撓んだ保護シートが切断された板ガラスの端面や縁部に突き刺さることによって、板ガラスと保護シートとの剥離が困難になる、板ガラスの搬送・停止位置の制御が難しくなる等の問題を防止することが可能となる。
【0058】
図5(d)に示したように、可動側コンベヤ10が矢印a方向に板ガラスG1を吸着しつつ移動し、図5(e)に示すように退避位置P2に到着すると、この時点で板ガラスG1と板ガラスG2との分離が完了する。そして、退避位置P2に到着した可動側コンベヤ10は、板ガラスG1の吸着を解除して、通気孔Hより気体を板ガラスG1に向かって噴出させることで、板ガラスG1を可動側コンベヤ10上で浮上させると共に、板ガラスG1下で図5(f)に示す矢印b方向に退避位置P2から基準位置P1に向かって移動を開始する。
【0059】
一方、固定側コンベヤ11aは、可動側コンベヤ10が退避位置P2に到着して板ガラスG1の吸着を解除すると、板ガラスG1に対する気体の噴出を停止して、板ガラスG1を吸着しつつ、図1及び図2に示すC方向に搬送を行う。(両板ガラスG1、G2の分離距離を一定に保ったまま搬送する。)
【0060】
図5(f)に示した状態になると、左側搬送領域、及び右側搬送領域の両固定側コンベヤ11a、11bは、切断された両板ガラスG1、G2を各々搬出側コンベヤRへと搬出しつつ、搬入側コンベヤSから切断が予定される新たな板ガラスGを吸着して搬入し、切断位置に向かって図1及び図2に示したCの方向に搬送する。
【0061】
図5(g)に示すように可動側コンベヤ10が板ガラスG1に向かって気体を噴出しつつ基準位置P1に復帰すると、可動側コンベヤ10は、気体の噴出を停止し、左側搬送領域及び右側搬送領域の両固定側コンベヤ11a、11bと共に、切断が予定される新たな板ガラスGを吸着しつつ、切断位置まで搬送する。
【0062】
そして、図5(h)に示すように、可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bに搬送される新たな板ガラスGが、所定の切断位置で停止すると、新たな板ガラスGを切断する準備が整う。
【0063】
上述したように、図5(a)〜(h)に示した作用を板ガラス物品の分離装置1が繰り返し行うことで、切断された両板ガラスG1、G2の搬出側コンベヤRへの搬出と、搬入側コンベヤSからの新たな板ガラスGの搬入とを同時に、且つ連続して行うことができるため、作業効率を向上させることが可能となる。また、切断された両板ガラスG1、G2の切断面同士の接触を防止できるため、板ガラスの品質低下を効果的に抑制できる。
【0064】
なお、本実施形態では、搬入側コンベヤSから板ガラス物品の分離装置1に搬入される、新たな板ガラスGの切断位置までの搬送は、可動側コンベヤ10と両固定側コンベヤ11a、11bとの双方で行われているが、両固定側コンベヤ11a、11bのみで行うように構成してもよい。この場合、可動側コンベヤ10は退避位置P2から基準位置P1への復帰の際、搬入側コンベヤSから板ガラス物品の分離装置1に搬入される新たな板ガラスGの切断が行われる前でさえあれば、基準位置P1に復帰するタイミングを問われない。
【0065】
次に、図6に基づいて本発明の第2実施形態に係る板ガラス物品の分離装置について説明する。なお、この第2実施形態では、切断予定線に沿ったレーザーの照射と、このレーザーに追随させた冷媒の噴射とにより、板ガラスに熱応力を発生させ、当該板ガラスの搬送方向における端部に形成された初期クラックを進展させることで、板ガラスを切断する場合を例に挙げて説明する。
【0066】
本発明の第2実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1の構成は、上述の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1の構成と略同じであるため、当該板ガラス物品の分離装置1と差異のある構成についてのみ説明する。また、第1実施形態と同様に、本実施形態でも板ガラスを搬送する搬送手段としてコンベヤが用いられており、板ガラス物品の分離装置1の上流側には、板ガラス物品の分離装置1に板ガラスを搬入する搬入側コンベヤSが設置されると共に、板ガラス物品の分離装置1の下流側には、板ガラス物品の分離装置1で切断され、相互に分離された板ガラスを搬出する搬出側コンベヤRがそれぞれ設置されている(第2実施形態に係る図面において、搬入側コンベヤS及び搬出側コンベヤRは図示しない)。また、この第2実施形態について説明するための図面において、既に説明した第1実施形態と同一の構成要素については、同一符号を付すことにより重複する説明を省略する。
【0067】
図6に示すように、第2実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1が、第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1と相違している点は、折割部材30に代わって、レーザーBを板ガラスGに向かって照射するレーザー照射器60と、レーザーBの照射部に向かって水を噴射する水噴射ノズル70とが備えられている点である。
【0068】
レーザー照射器60は、定点に固定されて設置されると共に、板ガラスGの搬送方向(図6において、紙面手前から奥の方向)に延びる切断予定線に沿ってレーザーBを照射することで、板ガラスGに加熱部を生成するように構成されている。水噴射ノズル70は、レーザー照射器60と同様に定点に固定されて設置されると共に、レーザーBに追随して水Mを板ガラスGに噴射することで、板ガラスGに加熱部と隣接した冷却部を生成する。
【0069】
以上の構成から、板ガラス物品の分離装置1は、搬入側コンベヤSから搬入された板ガラスGの搬送方向における端部に形成された図示省略の初期クラックの周辺に、加熱部と冷却部との温度差に起因して発生した熱応力を作用させ、当該初期クラックを進展させることにより、板ガラスGを切断予定線に沿って切断する。そして、切断された両板ガラスG1、G2を相互に分離した後、搬出側コンベヤRへと搬出するように構成されている。
【0070】
この板ガラス物品の分離装置1によっても、上述の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
次に、図7及び図8に基づいて本発明の第3実施形態に係る板ガラス物品の分離装置について説明する。なお、ここでは4枚の板ガラスに表面被覆処理を施した後、板ガラスを相互に分離する場合を例に挙げて説明するが、本発明に係る板ガラス物品の分離装置は、例えば、板ガラス物品の洗浄処理、梱包処理、検査処理等、他の製造関連処理にも用いることが可能である。また、相互に分離可能な板ガラス物品の枚数もこの限りではない。
【0072】
図7に示すように、本発明の第3実施形態に係る板ガラス物品の分離装置2の構成は、上述の第1実施形態に係る板ガラス物品の分離装置1の構成と略同じであるため、当該板ガラス物品の分離装置1と差異のある構成についてのみ説明する。また、第1実施形態と同様に、本実施形態でも板ガラスを搬送する搬送手段としてコンベヤが用いられており、板ガラス物品の分離装置2の上流側には板ガラス物品の分離装置2に板ガラスを搬入する搬入側コンベヤSが、板ガラス物品の分離装置2の下流側には板ガラス物品の分離装置2から製造関連処理を受け、相互に分離された板ガラスを搬出する搬出側コンベヤRがそれぞれ設置されている(第3実施形態に係る図面において、搬入側コンベヤS及び搬出側コンベヤRは図示しない)。
【0073】
図7に示すように、第1の搬送領域L3、第3の搬送領域L5、および第4の搬送領域L6には、可動側コンベヤ10と固定側コンベヤ11aとがそれぞれ1台ずつ設置されているのに対して、第2の搬送領域L4には、固定側コンベヤ11bのみが2台設置されている。従って、第2の搬送領域L4では、搬送される板ガラスが幅方向に移動することはない。そして、第3の搬送領域L5と第4の搬送領域L6とを比較した場合、第3の搬送領域L5に含まれる可動側コンベヤ10よりも、移動方向前方に位置する第4の搬送領域L6に含まれる可動側コンベヤ10の方が前記基準位置と前記退避位置との距離が長くなるように構成されている。すなわち、図7に示すP1からP2までの距離よりも、P3からP4までの距離の方が長く設定されている。なお、P1からP2までの距離と、P5からP6までの距離とは同一である。
【0074】
次に、図8に基づいて、本発明の第3実施形態に係る板ガラス物品の分離装置2の作用効果について説明する。なお、図8において、可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bに添付された矢印は、気体の吸引又は噴出を示すものであり、下向きの矢印Xは気体の吸引を表し、上向きの矢印Yは気体の噴出を示すものである。また、この第3実施形態について説明するための各図面において、既に説明した第1実施形態と同一の構成要素については、同一符号を付すことにより重複する説明を省略する。
【0075】
搬入側コンベヤSから、保護シート50上に並列に載置された4枚の板ガラスG3〜G6(図8においては、対向端面間が始めから分離されているように描いてあるが、板ガラスG3〜G6は近接配列されている)が、板ガラス物品の分離装置2に搬入されると、図8(a)に示すように、可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bは通気孔Hを介して、板ガラスG3〜G6を吸着しつつ、図7のC方向(図8における紙面手前から奥の方向)に搬送する。搬送される板ガラスG3〜G6は、搬送方向に対して所定の処理位置で停止する。上記処理位置で停止した板ガラスG3〜G6には、図示しない処理装置によって表面被覆処理が施され、各板ガラスの表面には被覆材Fが形成される。
【0076】
板ガラスG3〜G6に表面被覆処理が施された直後、処理を受けた板ガラスG3、G5、G6を図7のC方向に搬送する各搬送領域L3、L5、L6においては、図8(b)に示すように、固定側コンベヤ11aは板ガラスG3、G5、G6への吸着を解除して、通気孔Hより板ガラスに向かって気体の噴出を開始し、固定側コンベヤ11a上で各板ガラスG3、G5、G6を浮上させる。また、可動側コンベヤ10は、処理前と同様に各板ガラスを吸着しつつ、図7に示すC方向(図8における紙面手前から奥の方向)に搬送すると共に、図8(c)に示す矢印a方向に各々基準位置P1、P3、P5から退避位置P2、P4、P6に向かって移動することで各板ガラスの相互分離を開始する。
【0077】
一方、処理を受けた板ガラスG4を図7に示すC方向に搬送する搬送領域L4において、固定側コンベヤ11bは板ガラスG4の処理前と同様に板ガラスG4を吸着しつつ、搬送する。これにより、処理を受けた板ガラスの対向する端面同士は、処理直後に相互に分離されることで、各板ガラスの表面を覆う被覆材Fが、板ガラス毎に途切れることなく連なった状態で被覆されてしまう等の問題に起因する板ガラスの品質低下を抑制することが可能となる。さらに、相互分離と同時に板ガラスG3〜G6の搬送も行えるため、作業効率を向上させることができる。
【0078】
ここで、本実施形態では、板ガラスG4を搬送する第2搬送領域L4には可動側コンベヤ10が設けられていない構成となっているが、このような構成に限定されるわけではなく、板ガラスG4を搬送する領域にも可動側コンベヤ10を設け、板ガラスG4とG5との対向する端面が相互に分離するように構成してもよい。
【0079】
図8(d)に示すように、板ガラスG3、G5、G6を搬送する各搬送領域L3、L5、L6において、可動側コンベヤ10が各々退避位置P2、P4、P6に到着すると、この時点で各板ガラスの相互分離が完了する。ここで各搬送領域に設けられた可動側コンベヤ10は、各板ガラスの対向端面の接触を可及的に防止するため、同時に基準位置P1、P3、P5から移動を開始し、同時に退避位置P2、P4、P6に到着することが好ましい。
【0080】
各々退避位置に到着した可動側コンベヤ10は、板ガラスの吸着を解除して、通気孔Hより板ガラスに向かって気体の噴出を開始し、可動側コンベヤ10上の板ガラスを浮上させると共に、各板ガラス下で図8(e)に示す矢印b方向に各々退避位置P2、P4、P6から基準位置P1、P3、P5に向かって移動を開始する。一方、固定側コンベヤ11aは気体の噴出を解除して、各板ガラスを吸着しつつ、図7に示すC方向に搬送を開始する。
【0081】
図8(e)に示した状態になると、各搬送領域L3〜L6の両固定側コンベヤ11a、11bは、相互に分離された各板ガラスG3〜G6を各々搬出側コンベヤRへと搬出しつつ、搬入側コンベヤSから製造関連処理が予定される新たな板ガラスG3〜G6を吸着して搬入し、処理位置に向かって図7に示したCの方向に搬送する。
【0082】
図8(f)に示すように各搬送領域L3、L5、L6に含まれる可動側コンベヤ10が板ガラスG3、G5、G6に向かって気体を噴出しつつ、各々基準位置P1、P3、P5に復帰すると、可動側コンベヤ10は、気体の噴出を停止し、各搬送領域L3〜L6に含まれる両固定側コンベヤ11a、11bと共に、製造関連処理が予定される新たな板ガラスG3〜G6を吸着しつつ、処理位置まで搬送する。
【0083】
そして、図8(g)に示すように、可動側コンベヤ10及び両固定側コンベヤ11a、11bに搬送される新たな板ガラスG3〜G6が、所定の処理位置で停止すると、新たな板ガラスG3〜G6に製造関連処理を施す準備が整う。
【0084】
上述したように、図8(a)〜(g)に示した作用を板ガラス物品の分離装置2が繰り返し行うことで、板ガラスG3〜G6の分離及び搬送を同時に、且つ連続して行うことができるため、作業効率を向上させることが可能となる。
【0085】
なお、本実施形態では、搬入側コンベヤSから板ガラス物品の分離装置2に搬入される、新たな板ガラスG3〜G6の処理位置までの搬送は、可動側コンベヤ10と両固定側コンベヤ11a、11bとの双方で行われているが、両固定側コンベヤ11a、11bのみで行うようにしてもよい。この場合、可動側コンベヤ10は、各々退避位置P2、P4、P6から基準位置P1、P3、P5への復帰の際、搬入側コンベヤSから板ガラス物品の分離装置2に搬入される新たな板ガラスG3〜G6に製造関連処理が施される前でさえあれば、基準位置P1、P3、P5に復帰するタイミングを問われない。
【0086】
ここで、本発明に係る板ガラス物品の分離装置の構成は、上記の各実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の第1実施形態〜第3実施形態では、板ガラスを搬送する搬送手段としてコンベヤベルトを用いているが、この限りではなく、他の搬送手段を用いてもよい。さらに、第1実施形態においては、折割によって板ガラスを切断し、第2実施形態においては、レーザー割断によって板ガラスを切断する構成となっているが、レーザー溶断によって板ガラスを切断する構成としてもよい。なお、この場合、板ガラスに向かってレーザーを照射するレーザーの照射器と、レーザーの照射部に向かってアシストガスを噴射するアシストガスの噴射器とを設けることが好ましいが、アシストガスの噴射は必ずしも実施する必要はない。
【0087】
加えて、切断の対象、或いは、製造関連処理の対象となる板ガラス物品は、板ガラスのみでなく、板ガラスを構成要素とするガラス積層体、ガラス樹脂積層体、液晶パネル、有機ELパネル、太陽電池パネル等としてもよい。また、ガラス積層体を切断する場合には、レーザー割断法、又はレーザー溶断法を用いて切断を実施することが好ましく、ガラス樹脂積層体を切断する場合には、レーザー溶断法を用いて切断を実施することが好ましい。なお、液晶パネルの切断に関しては、大面積の板ガラスを基に複数枚の液晶パネルを製作した後、隣り合う液晶パネルの境界に沿って切断を実施するような場合に本発明を適用することができる。
【0088】
以上のように、本発明によれば板ガラス物品の切断分離工程、又は並列に近接して配列された複数の板ガラス物品を相互に離反させる分離工程において、板ガラス物品の品質低下を抑制でき、且つ作業効率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0089】
1 板ガラス物品の分離装置(切断)
2 板ガラス物品の分離装置(製造関連処理)
10 可動側コンベヤ
11a 固定側コンベヤ
11b 固定側コンベヤ
30 折割部材
30a 支持板材
30b 分割体
31 先端部
31a 分割体
32 基部
32a 支持板材
40 切断部材
40a 切断刃
40b 保持体
50 保護シート
60 レーザー照射器
70 水噴射ノズル
B レーザー
M 水
G 板ガラス
G1 割断された板ガラス
G2 割断された板ガラス
G3 処理を受けた板ガラス
G4 処理を受けた板ガラス
G5 処理を受けた板ガラス
G6 処理を受けた板ガラス
H 通気孔
P1 基準位置
P2 退避位置
P3 基準位置
P4 退避位置
P5 基準位置
P6 退避位置
X 気体の吸引
Y 気体の噴出
a 可動側コンベヤ退避方向
b 可動側コンベヤ復帰方向
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8