特許第6029102号(P6029102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029102
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】三次元培養弾性線維組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20161114BHJP
【FI】
   C12N5/071
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-250258(P2012-250258)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-97007(P2014-97007A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂彦
(72)【発明者】
【氏名】内藤 素子
(72)【発明者】
【氏名】石河 利広
(72)【発明者】
【氏名】綾 梨乃
(72)【発明者】
【氏名】平 嗣良
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−112277(JP,A)
【文献】 特開2009−112285(JP,A)
【文献】 特開2010−045984(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/078961(WO,A1)
【文献】 特開2004−043749(JP,A)
【文献】 Biomaterials,2002年,Vol. 23, No. 14,pp. 2855-61
【文献】 Biotechnology Letters,2002年,Vol. 24, No. 18,pp. 1491-1497
【文献】 熱傷,2002年,Vol. 28, No. 5,pp. 326-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/071
C12N 11/04
C12M 3/00−3/10
A61L 27/24
A61L 27/52
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃以上の温度でゲル状態、0℃以上、15℃以下の温度でゾル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体であるMebiol Gel(商標)をゲル状態に保ち、該ゲル状態の担体上にコラーゲンからなる平均孔径が1〜30μmである多孔性基材を静置する工程1と、
前記多孔性基材に1×10/cm以上の密度で線維芽細胞を播種する工程2と、
前記工程2で得られた線維芽細胞が播種された多孔性基材を血清添加培地中で培養して三次元培養弾性線維組織を得る工程3と、
温度を15℃以下として前記担体をゾル状態にした後、得られた三次元培養弾性線維組織を回収する工程4とを有する
ことを特徴とする三次元培養弾性線維組織の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い歩留まりで三次元培養弾性線維組織を製造することができる三次元培養弾性線維組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞工学技術の進展によって、数々の動物細胞の培養が可能となり、また、それらの細胞を用いてヒトの組織や器官を再構築しようとする、いわゆる再生医療の研究が急速に進んでおり、皮膚や血管等の種々の組織の再生が試みられている。ところで、皮膚や血管の生体組織の柔軟性は弾性線維により保たれており、充分な柔軟性を有する生体組織の再生のためには、弾性線維組織の構築も重要である。
【0003】
in vitroにおいては培養皿上で血清添加培地を用いて高密度に線維芽細胞を培養することにより、線維芽細胞が弾性線維成分を産生することが知られている。しかしながら、このようにして得られた弾性線維組織シートは単層の細胞シートにすぎない。再生医療分野での応用を考えると、皮膚や血管等の組織を構築するためには、単層の細胞シートでは組織としての強度が不足し、また移植のための取り扱いも困難である。仮に移植が可能であったとしても、ほとんど厚さのない弾性線維組織シートを移植しても、柔軟性を付与するという弾性線維組織本来の性能を発揮することはできない。このような方法で作製された細胞シートを用いて厚みのある組織を構築するためには、作製した細胞シートを何枚も剥がして細胞シート同士を接着させるという操作が必要であり、また、作製された組織が厚くなると内部まで栄養供給ができずに作製した再生組織が壊死してしまうという問題点があった。
【0004】
細胞の三次元的な培養方法としてはコラーゲンゲル中で細胞を培養する方法が知られている。しかしながらこれまでのところ、いかに高密度に線維芽細胞をコラーゲンゲル中で培養しても、弾性線維成分が発現されるという報告はなかった。
【0005】
これに対して特許文献1には、特定の平均孔径を有するコラーゲンからなる多孔性基材に高密度に線維芽細胞を播種した後、一定期間血清添加培地中で培養することにより、線維芽細胞からエラスチン、フィブリリン等の弾性線維成分が分泌され、更に培養を続けることにより三次元的な厚みを持った弾性線維組織を形成する方法が記載されている。特許文献1に記載された方法によれば、充分な厚みを有する三次元培養弾性線維組織を得ることができる。
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、得られる培養弾性線維組織の歩留まりは高いとは言えなかった。貴重な細胞を用い、長時間をかけて組織を再生する以上、できる限り歩留まりを向上させるべきことは言うまでもない。今後、再生医療を実用の軌道に乗せるためには、歩留まりの向上は必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−112277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い歩留まりで三次元培養弾性線維組織を製造することができる三次元培養弾性線維組織の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、25℃以上の温度でゲル状態、0℃以上、15℃以下の温度でゾル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体をゲル状態に保ち、該ゲル状態の担体上にコラーゲンからなる平均孔径が1〜30μmである多孔性基材を静置する工程1と、前記多孔性基材に1×10/cm以上の密度で線維芽細胞を播種する工程2と、前記工程2で得られた線維芽細胞が播種された多孔性基材を血清添加培地中で培養して三次元培養弾性線維組織を得る工程3と、温度を25℃以下として前記担体をゾル状態にした後、得られた三次元培養弾性線維組織を回収する工程4とを有する三次元培養弾性線維組織の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、特許文献1に記載された方法で三次元培養弾性線維組織を製造した場合に、歩留まりが低下する原因を検討した。その結果、培養自体の成功率は高く三次元培養弾性線維組織が得られるものの、得られた三次元培養弾性線維組織を回収する際に多くの不良品が発生してしまうことが判った。即ち、培養により得られた三次元培養弾性線維組織は、培養皿に強く固着しており、これを回収しようとすると、三次元培養弾性線維組織が変形してしまったり、破れてしまったりする。これは、培養中に線維芽細胞がコラーゲンスポンジ中に留まらず、培養皿にまで増殖する結果、三次元培養弾性線維組織と培養皿とが一体化してしまうためと考えられた。
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体上に多孔性基材を置いて培養を行うことにより、得られた三次元培養弾性線維組織の培養皿への固着を防止し、三次元培養弾性線維組織を傷つけることなく容易に回収でき、飛躍的に歩留まりを向上できることを見出し、本発明を完成した。
以下、図1に示した本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法を説明する模式図を参照しながら本発明を詳しく説明する。
【0011】
本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法では、まず、熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体(以下、単に「担体」ともいう。)をゲル状態に保ち、該ゲル状態の担体上に多孔性基材を静置する工程1を行う。
図1(a)では、培養皿1上に置いたゲル状態の担体2の上に、多孔性基材3を静置している。ゲル状態の担体2が乾燥してしまわないように、緩衝液又は培養液5を培養皿1に加える。なお、図1(a−1)は断面図、図1(a−2)は正面図を示す。
【0012】
上記多孔性基材は、コラーゲンからなる。コラーゲンは線維芽細胞の接着性に優れることから、大量の線維芽細胞を接着して高密度に培養することができる。また、コラーゲンからなる多孔性基材は、培養とともに徐々に分解され、その一部が線維芽細胞から分泌された弾性線維成分と置き換わることにより、弾性線維組織が形成される。
また、上記多孔性基材としては線維芽細胞が接着する材料であればよく、コラーゲン以外にも、例えば、ゼラチン等のタンパク質、ヒアルロン酸等の多糖類等の天然高分子や、脂肪族ポリエルテル等の生体内で分解吸収され得る合成高分子等も用いることができる。
【0013】
上記多孔性基材は、平均孔径の下限が1μm、上限が30μmである。上記多孔性基材の平均孔径が1μm未満であると、播種した線維芽細胞が多孔性基材中に侵入することができず、三次元的な厚みを持った弾性線維組織が得られない。ヒト線維芽細胞の長径はおおよそ50〜70μmであるので、上記多孔性基材の平均孔径が30μmを超えると、播種した線維芽細胞の大部分が多孔性基材中に落ち込んでしまい、線維芽細胞の密度が不充分となって弾性線維成分が分泌されない。上記多孔性基材の平均孔径の好ましい下限は5μm、好ましい上限は25μmである。
【0014】
上記多孔性基材の厚さとしては特に限定されないが、好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は3mmである。0.1mm未満であると、充分な厚さをもった弾性線維組織が形成されなかったり、移植時の取扱い性に劣ったりすることがあり、3mmを超えると、播種した線維芽細胞への栄養供給に劣ることがある。
【0015】
上記多孔性基材は、濃度0.5units/mLのコラゲナーゼ水溶液中に37℃、100分間浸漬した後の重量残存率の好ましい下限が40%、好ましい上限が60%である。上記重量残存率が40%未満であると、線維芽細胞播種後に細胞の分泌する酵素により早期に多孔性基材が分解してしまい、三次元構造を形成する前に細胞の足場が存在しなくなってしまうこととなり組織の構築が不可能となることがある。上記重量残存率が60%を超えると、線維芽細胞が培養基材の孔に侵入することができず、培養皿上で培養するのと同様に単層の細胞シートとなってしまうことがある。このような多孔性基材の分解性は、架橋処理を行う際の温度や時間を工夫することにより制御することが可能になる。
なお、本明細書において重量残存率とは、コラゲナーゼ水溶液に浸漬後に残存した多孔性基材をフィルターを用いて濾取し、これを充分に乾燥させた後に測定した重量を、コラゲナーゼ水溶液浸漬前に予め測定しておいた多孔性基材の重量に対する割合として算出したものである。
【0016】
上記多孔性基材を製造する方法としては特に限定されず、例えば、コラーゲン水溶液に脂溶性有機溶媒を添加し、ホモジナイズして発泡させた後、真空凍結乾燥して得る方法等により得たコラーゲンスポンジを用いてもよく、また、このようにして得られたコラーゲンスポンジを更にプレスして孔径を調整したものを用いてもよい。
【0017】
上記多孔性基材は、周縁部に枠体を付着させていてもよい。枠体を有することにより、後述する工程2において線維芽細胞を播種する際の取り扱い性が向上する。
上記枠体としては、ポリエチレン等の無毒の素材からなるものであれば特に限定されない。
図1(a)では、多孔性基材3の周縁部に枠体4を設置している。
【0018】
上記担体は、25℃以上の温度でゲル状態、0℃以上、15℃以下の温度でゾル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体である。このように熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体は、線維芽細胞を播種、培養する37℃付近の温度領域ではゲル状態を保って、細胞を播種した多孔性基材の足場材としての役割を果たす。また、ゲル状態の担体の表面では、ほとんど線維芽細胞は接着できないことから、線維芽細胞が担体上にまで増殖することを防止することができる。一方、三次元培養弾性線維組織を得てこれを回収する際には、ゾル状体となる0℃以上、15℃以下の温度に調整することにより、三次元培養弾性線維組織を傷つけることなく容易に回収できる。
【0019】
このような熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体としては、例えば、国際公開第2004/078961号パンフレットに記載されている、ハイドロゲル形成性の高分子を少なくとも含むゲル形成性の担体等が挙げられる。
また、メビオール社の商品名「Mebiol Gel」等の市販品を利用することもできる。
【0020】
本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法では、次いで、上記多孔性基材に1×10/cm以上の密度で線維芽細胞を播種する工程2を行う(図1(b))。
播種密度の下限は1×10/cmである。1×10/cm未満であると、線維芽細胞の密度が不充分となって弾性線維成分が分泌されない。好ましい下限は1×10/cmである。播種密度の上限については特に限定されないが、1×10/cmを超えて播種しても、上記多孔性基材に接着できない細胞が増えるばかりで、実質的な効果は少ない。
図1(b)においては、多孔性基材3の周縁部に枠体4が設置されていることから、該枠体4の内側に細胞懸濁液を滴下することにより、容易かつ均一に多孔性基材に線維芽細胞を播種することができる。
【0021】
本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法では、次いで、工程2で得られた線維芽細胞が播種された多孔性基材を血清添加培地中で培養して三次元培養弾性線維組織を得る工程3を行う(図1(c))。
上記血清添加培地としては特に限定されず、例えば、MEM、DMEM等の一般的な培養液に、1〜10重量%程度のウシ胎児血清を添加したもの等が挙げられる。
培養期間については、多孔性基材の孔径、細胞の播種密度、血清添加培地の種類等により異なり特に限定されないが、1〜4週間程度の期間培養することにより弾性線維組織が形成される。
なお、大量の細胞を培養することから、血清添加培地は充分な量を用いることが好ましい。図1(c)においては、線維芽細胞が播種された多孔性基材3の全体を覆うほどの充分な量の血清添加培地6を用いている。
【0022】
本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法では、次いで、温度を25℃以下として上記担体をゾル状態にした後、得られた三次元培養弾性線維組織を回収する工程4を行う(図1(d))。
温度を25℃以下にして担体をゾル状態にすることにより、三次元培養弾性線維組織はゾル状態の担体に浮かんだような状態となる。従って、ピンセット等を用いて容易に三次元培養弾性線維組織を回収することができる。
【0023】
本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法によれば、回収の際に三次元培養弾性線維組織が変形してしまったり、破れてしまったりすることがなく、高い歩留まりでエラスチン、フィブリリン等の弾性線維成分を含有する三次元培養弾性線維組織を得ることができる。
得られた三次元培養弾性線維組織は、皮膚や血管等の種々の組織の再生に利用することができる。例えば、得られた三次元培養弾性線維組織を環状に成形すれば、培養血管として利用できる。更に、例えば、真皮細胞層、弾性繊維組織層、表皮細胞層を有する皮膚組織のように複数の細胞層からなる組織の再生のためには、本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法を応用して、各々の細胞層を構成する細胞を播種した多孔性基材を重ね、上記担体上で培養することも可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い歩留まりで三次元培養弾性線維組織を製造することができる三次元培養弾性線維組織の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の三次元培養弾性線維組織の製造方法を説明する模式図である。
図2】実施例1において回収された三次元培養弾性線維組織切片のヘマトキシリン染色像(1)、エラスチン染色像(2)及びフィブリリン−1染色像(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
(1)多孔性基材の調製
0.3%水溶液(pH3)のTypeIコラーゲンを、15%エタノールで3倍希釈し、0.1%コラーゲン、10%エタノール水溶液とした。更にこの溶液を直径9cmのシャーレに15g流し込み、−135℃で凍結し、真空度:0.1、乾燥温度:40℃、乾燥時間:24時間の条件で凍結乾燥を行い、コラーゲンスポンジを得た。その後、真空下で105℃、24時間熱架橋を行うことにより、多孔性基材を得た。
得られた多孔性基材の平均孔径は15μm、厚さは1mmであった。
【0028】
得られた多孔性基材の酵素分解試験を以下の手順により行った。
トリスバッファー(pH7.4)にコラゲナーゼを0.5units/mLとなるように加えた溶液に、作製した多孔性基材を37℃にて浸漬させた。一定時間後に多孔性基材を取り出して蒸留水で洗浄して乾燥させた。乾燥させた多孔性基材の重量を測定し、試験前の重量と比較することにより重量残存率を計算した。
その結果、得られた多孔性基材は本試験条件においては直線的に重量減少が観察され、100分後の重量残存率は約50%であった。
【0029】
得られた多孔性基材を直径6mmの円盤状に切り出した。この円盤状の多孔性基材の周縁部に、ポリエチレンからなる外径8mm、厚さ0.5mm、高さ3mmの枠体を取り付けた。
【0030】
(2)担体の準備
担体として、メビオール社の商品名「Mebiol Gel(商標)」を用いた。「Mebiol Gel(商標)」は、直径35mmの培養皿上に、25℃以上の温度でゲル状態、0℃以上、15℃以下の温度でゾル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル転移を示す担体が凍結乾燥状態で配置されたものである。
「Mebiol Gel(商標)」の凍結乾燥された担体に緩衝液を50mL加え、4℃で48時間静置して完全に凍結乾燥物を溶解した。次いで、37℃のインキュベータ中に1時間静置することにより、ゲル状態とした。このゲル状態の担体上に、多孔性基材を静置した。
【0031】
(3)細胞の播種と培養
得られた多孔性基材上に1×10/cmの播種密度となるようにヒト包皮由来線維芽細胞を播種した。播種の際には、多孔性基材上の枠体の内側に細胞懸濁液を滴下した。播種後、37℃、5%CO下で1晩培養して、線維芽細胞を多孔性基材に接着させた。
その後、培養液を10%ウシ血清添加DMEM/F12培地8mLとして、37℃、5%CO下で3週間培養を続けた。
【0032】
(4)三次元培養弾性線維組織の回収
3週間培養後、培養皿を15℃のインキュベータに移し、1時間静置することにより担体をゾル状態とした。その後、ピンセットを用いて多孔性基材の枠体を摘み上げるようにして得られた三次元培養弾性線維組織を回収した。
【0033】
(比較例1)
(1)細胞の播種と培養
実施例1で製造した枠体を有する多孔性基材を、直径35mmの培養皿上に静置した。
多孔性基材上の枠体の内側に細胞懸濁液を滴下する方法により、多孔性基材上に1×10/cmの播種密度となるようにヒト包皮由来線維芽細胞を播種した。播種後、37℃、5%CO下で1晩培養して、線維芽細胞を多孔性基材に接着させた。
その後、培養液を10%ウシ血清添加DMEM/F12培地8mLとして、37℃、5%CO下で3週間培養を続けた。
【0034】
(2)三次元培養弾性線維組織の回収
3週間培養後、ピンセットを用いて多孔性基材の枠体を摘み上げるようにして得られた三次元培養弾性線維組織を回収した。
【0035】
(評価)
実施例1及び比較例1の操作を各々100サンプルについて行った。
得られた三次元培養弾性線維組織を目視にて観察し、大きく変形したものや、破れてしまったりした不良品を除いた歩留まりを測定した。その結果、実施例1の方法では歩留まり95%であったのに対して、比較例1の方法では歩留まり40%であった。
【0036】
実施例1において回収された三次元培養弾性線維組織をホルマリン固定し、パラフィンブロックを作製した。得られたパラフィン切片について、ヘマトキシリン染色を行った。また、弾性線維組織の構成成分であるエラスチン、フィブリリン−1について、抗体を用いた免疫染色を行った。各々の染色像を図2に示した。
図2(1)のヘマトキシリン染色像では、細胞の核が青紫色に染色されている。
図2(2)のエラスチン染色像では、エラスチンが緑色に、細胞の核が赤色に染色されている。図2(2)より、細胞が基材の底までよく浸透、増殖するとともに、エラスチンも基材の底まで繊維状に沈着していることが確認できる。
図2(3)のフィブリリン−1染色像では、フィブリリン−1が緑色に、細胞の核が赤色に染色されている。図2(3)より、フィブリリン−1も基材の底まで繊維状に沈着していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、高い歩留まりで三次元培養弾性線維組織を製造することができる三次元培養弾性線維組織の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 培養皿
2 担体(ゲル状)
3 多孔性基材
4 枠体
5 緩衝液又は培養液
6 血清添加培地
7 担体(ゾル状)

図1
図2