特許第6029105号(P6029105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029105ヒドロキシル化された軟組織接触面を有する2ステージインプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029105
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】ヒドロキシル化された軟組織接触面を有する2ステージインプラント
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-95677(P2013-95677)
(22)【出願日】2013年4月30日
(62)【分割の表示】特願2007-44391(P2007-44391)の分割
【原出願日】2007年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-173000(P2013-173000A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年5月21日
【審判番号】不服2015-2909(P2015-2909/J1)
【審判請求日】2015年2月16日
(31)【優先権主張番号】06004063.1
(32)【優先日】2006年2月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506415207
【氏名又は名称】ストラウマン ホールディング アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】フランク,シュワルツ
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン,ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ,ウィーランド
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル,ダルド
【合議体】
【審判長】 内藤 真徳
【審判官】 高木 彰
【審判官】 宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−133992(JP,A)
【文献】 特開平9−99053(JP,A)
【文献】 特開2005−131399(JP,A)
【文献】 特表2002−535074(JP,A)
【文献】 特表2006−501867(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/055860(WO,A1)
【文献】 特開平8−257110(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯の装着のための2パートインプラントシステムのアンカー部の製造方法であって、該アンカー部はチタン又はその合金でつくられており、且つ骨接触面及び軟組織接触面を有する基体からなり、
該軟組織接触面は、チタン又はその合金でつくられ及びヒドロキシル基により少なくとも部分的にヒドロキシル化され、且つ親水性であり、前記ヒドロキシル基はアンカー部表面の最外原子層に存在するものであり、
ヒドロキシル化されたそして親水性の面がヒドロキシル基によりヒドロキシル化されることで形成されるまで、前記軟組織接触面を電解エッチング手法又は化学エッチング手法で処理することからなる方法。
【請求項2】
前記軟組織接触面を、電解エッチング手法又は化学エッチング手法で処理する前に、ショットピーニング又はサンドブラストし、及び/又はプラズマ技術を使用することにより粗面化する請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記化学エッチング手法が無機酸又は無機酸のブレンドを用いて行われる請求項又はに記載の方法。
【請求項4】
前記無機酸が、フッ化水素酸、塩酸、硫酸又はそれらの混合物からなる群から選択される請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記無機酸のブレンドが、質量比約1:1:5の塩酸(濃塩酸)、過酸化水素及び水からなる請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記無機酸のブレンドが、塩酸(濃塩酸)/硫酸(濃硫酸)/水の2/1/1混合物である請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドロキシル化されたそして親水性の面を、該面に対して不活性である雰囲気中で、付加的に添加剤を含み得る純水で洗浄し、また、更なる処理を行うことなく、該ヒドロキ
シル化されたそして親水性の面を、アンカー部表面に対して不活性である雰囲気中で、及び/又は、常に、付加的な添加剤を含み得る純水の存在下において貯蔵する請求項ないしのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロキシル化されたそして親水性の面を、ガス又は液体に非浸透性のカバー中で貯蔵することを特徴とする請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨接触面及び組織接触面を有する基体からなる2ステージインプラント及び該インプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨への挿入のために、例えば人工歯の装着のために使用されるインプラントは、それ自体既知である。様々な種類のインプラントシステム、例えば2パートインプラントシステムが知られている。前記2パートインプラントシステムは、第一に骨内に固定するためのアンカー部と第二に取付け部からなる。ブリッジ及び歯冠等のプロテーゼ要素は、通常、中間の、いわゆる橋脚歯を使用して、取付け部にねじ込まれるか又はセメントで固定される。
【0003】
前記インプラントの重要な性質は、それらの骨統合時間、即ち骨物質が骨接触面に十分な強度で永続的に結合するまでにかかる時間、即ちインプラントが骨物質と統合するまでにかかる時間である。
【0004】
それ故、欧州特許第1150620号明細書に記載されるように、前記インプラントの骨統合を改善するための多くの試みがなされてきた。該文献は、インプラントの骨接触面が粗面化及びヒドロキシル化されていてかつ親水性である場合、骨統合時間は顕著に短縮されることを示した。
【0005】
米国特許出願第2004/0049287号明細書は、金属又はセラミックからつくられた面を有する骨内インプラントを開示している。該面は、滑らかな又は粗面化されたきめを有し、かつ少なくとも1つのホスホン酸基を有する薬学的に許容可能な有機化合物少なくとも1種で処理されている。前記インプラントは、改善された骨結合強度を示した。
【0006】
米国特許第5,397,362号明細書は、セラミック材料の基材、該基材の接着界面上に被覆されたガラス層及び該ガラス層上に形成されたリン酸カルシウムベースの材料の熱噴霧層からなるインプラントプロテーゼを開示している。
【0007】
国際公開第2005/120386号パンフレットは、骨中に歯科インプラントを固定するためのアンカー要素及び歯冠又はこのような上部構造を固定するための橋脚歯からなる歯科インプラントを開示している。アンカー要素及び橋脚歯は酸化ジルコニウムからつくられる。
【0008】
しかしながら、骨稜上の結合組織は、口腔環境及び歯科インプラントの骨内部の効果的な封鎖の達成において、基本的な役割を果たすという見解を裏付ける無視できない証拠がある。実際に、インプラント表面上の細菌の存在は、インプラント周囲の粘膜の炎症をもたらし得、かつ未処理のままにしておくと、該炎症は尖端的に広がり、骨吸収をもたらす。粗い面が、滑らかな面より多くの歯垢を蓄積及び保持するという事実のため、最近では、インプラントの軟組織接触面はよく研磨される(Oral Implantology,Thieme Verlag,1996,438頁参照。)。
【0009】
様々な面粗度で製造された粘膜浸透性インプラントに対する様々な初期炎症応答を研究するために、様々な実験が行われてきた。粗い面が滑らかな面より多量の歯垢を蓄積し得るという事実にも関わらず、炎症応答とインプラントの面粗度間の関係はわかっていない(ウェルナバーグ(Wennerberg)他,J.Clin.Periodontol
2003:30:89−94;キリネン(Quirynen)他,The International Journal of Oral and Maxillofacial Implants,11,No.2,1996)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第1150620号明細書
【特許文献2】米国特許出願第2004/0049287号明細書
【特許文献3】米国特許第5,397,362号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/120386号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Oral Implantology,Thieme Verlag,1996,438頁
【非特許文献2】ウェルナバーグ(Wennerberg)他,J.Clin.Periodontol 2003:30:89−94;キリネン(Quirynen)他,The International Journal of Oral and Maxillofacial Implants,11,No.2,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、改善された軟組織統合を有するインプラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
該課題は、請求項1に記載のインプラントによって解決される。更に好ましい態様は、従属する請求項2ないし18の対象である。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]アンカー部はチタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル及びそれらの合金からなる群から選択される金属でつくられており、且つ骨接触面及び軟組織接触面を有する基体からなる、人工歯の装着のための2パートインプラントシステムのアンカー部であって、
該軟組織接触面はアンカー部表面の最外原子層に存在するヒドロキシル基により少なくとも部分的にヒドロキシル化され、且つ親水性であることを特徴とする2パートインプラントシステムのアンカー部、
[2]前記軟組織接触面が完全にヒドロキシル化されていることを特徴とする[1]に記載のアンカー部、
[3]前記軟組織接触面が粗面化されていることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアンカー部、
[4]前記軟組織接触面が滑らかであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアンカー部、
[5]前記軟組織接触面の面粗度が骨接触面に向かって連続的に又は段階的に増加することを特徴とする[1]又は[2]に記載のアンカー部、
[6]前記軟組織接触面が骨接触面と肉眼的に同様のきめを有することを特徴とする[1]ないし[5]のいずれか1つに記載のアンカー部、
[7]前記アンカー部の軟組織接触面がヒドロキシル化セラミックコーティングを有することを特徴とする[1]ないし[6]のいずれか1つに記載のアンカー部、
[8]前記ヒドロキシル化されていてかつ親水性の面は電解エッチング手法又は化学エッチング手法により得られることを特徴とする[1]ないし[7]のいずれか1つに記載のアンカー部、
[9][1]ないし[8]のいずれか1つに記載のアンカー部の製造方法であって、ヒドロキシル化されていてかつ親水性の面がアンカー部表面の最外原子層に存在するヒドロキシル基により製造されるまで、前記軟組織接触面を電解エッチング手法又は化学エッチング手法で処理することからなる方法、
[10]前記軟組織接触面を、電解エッチング手法又は化学エッチング手法で処理する前に、プラズマ技術を使用してショットブラスト、サンドブラスト及び/又は粗面化する[9]に記載の方法、
[11]前記化学エッチング手法が無機酸又は無機酸のブレンドを用いて行われる[9]又は[10]に記載の方法、
[12]前記無機酸が、フッ化水素酸、塩酸、硫酸又はそれらの混合物からなる群から選択される[11]に記載の方法、
[13]前記無機酸のブレンドが、質量比約1:1:5の塩酸(濃塩酸)、過酸化水素及び水からなる[11]に記載の方法、
[14]前記無機酸のブレンドが、塩酸(濃塩酸)/硫酸(濃硫酸)/水の2/1/1混合物である[11]に記載の方法、
[15]前記面を、該面に対して不活性である雰囲気中で、付加的に添加剤を含み得る純水で洗浄し、また、更なる処理を行うことなく、該面を、アンカー部表面に対して不活性である雰囲気中で、及び/又は、常に、付加的な添加剤を含み得る純水の存在下において、好ましくはガス又は液体に非浸透性のカバー中で貯蔵する[9]ないし[14]のいずれか1つに記載の方法、
[16][1]ないし[8]に記載のアンカー部を含む気密性及び液密性カバー
に関する。
【0015】
また、本発明は、
[1’]骨接触面及び軟組織接触面を有する基体からなる人工歯の装着のための2ステージインプラント(1)であって、該軟組織接触面が少なくとも部分的にヒドロキシル化又はシラン化されていることを特徴とする2ステージインプラント(1)、
[2’]前記軟組織接触面が完全にヒドロキシル化されていることを特徴とする[1’]に記載のインプラント(1)、
[3’]前記軟組織接触面が粗面化されていることを特徴とする[1’]又は[2’]に記載のインプラント(1)、
[4’]前記軟組織接触面が滑らかであることを特徴とする[1’]又は[2’]に記載のインプラント(1)、
[5’]前記軟組織接触面の面粗度が骨接触面に向かって連続的に又は段階的に増加することを特徴とする[1’]又は[2’]に記載のインプラント(1)、
[6’]前記軟組織接触面が親水性であることを特徴とする[1’]ないし[5’]のいずれか1つに記載のインプラント(1)、
[7’]前記軟組織接触面が骨接触面と肉眼的に同様のきめを有することを特徴とする[1’]ないし[6’]のいずれか1つに記載のインプラント(1)、
[8’]前記インプラントがチタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム及びタンタル又はそれらの合金からつくられることを特徴とする[1’]ないし[7’]のいずれか1つに記載のインプラント(1)、
[9’]前記インプラントの軟組織接触面がヒドロキシル化セラミックコーティングを有することを特徴とする[1’]ないし[8’]のいずれか1つに記載のインプラント(1)、
[10’]前記インプラントがセラミックからつくられることを特徴とする[1’]ないし[6’]のいずれか1つに記載のインプラント(1)、
[11’][1’]ないし[10’]のいずれか1つに記載のインプラント(1)の製造方法であって、ヒドロキシル化面が製造されるまで、前記軟組織接触面を電解エッチング手法又は化学エッチング手法で処理することからなる方法、
[12’]前記軟組織接触面を、電解エッチング手法又は化学エッチング手法で処理する前に、プラズマ技術を使用してショットブラスト、サンドブラスト及び/又は粗面化する[11’]に記載の方法、
[13’]前記化学エッチング手法が無機酸又は無機酸のブレンドを用いて行われる[11’]又は[12’]に記載の方法、
[14’]前記無機酸が、フッ化水素酸、塩酸、硫酸又はそれらの混合物からなる群から選択される[13’]に記載の方法、
[15’]前記無機酸のブレンドが、質量比約1:1:5の塩酸(濃塩酸)、過酸化水素及び水からなる[14’]に記載の方法、
[16’]前記無機酸のブレンドが、塩酸(濃塩酸)/硫酸(濃硫酸)/水の2/1/1混合物である[14’]に記載の方法、
[17’]前記面を、該面に対して不活性である雰囲気中で、付加的に添加剤を含み得る純水で洗浄し、また、更なる処理を行うことなく、該面を、インプラント面に対して不活性である雰囲気中で、及び/又は、常に、付加的な添加剤を含み得る純水の存在下において、好ましくはガス又は液体に非浸透性のカバー中で貯蔵する[11’]ないし[16’]のいずれか1つに記載の方法、
[18’][1’]ないし[10’]に記載のインプラントを含む気密性及び液密性カバー
に関する。
【0016】
驚くべきことに、骨接触面及び軟組織接触面を有する基体からなるインプラントであって、該軟組織接触面が少なくとも部分的にヒドロキシル化又はシラン化されているインプラントが発見された。前記軟組織接触面は、軟組織付着の形成を促進する潜在能力を有する。粗面化され、かつ場合によってはヒドロキシル化もされた骨接触面及び滑らかなヒドロキシル化されていない組織接触面を有する慣用のインプラントと比べて、本発明に従ったインプラントは、該インプラントの軟組織接触面と隣接する新たな結合組織の形成をもたらし、かつ該インプラントの軟組織接触面と密接に接触する傾向にある。ゆるい結合組織は、組織化され、その外側帯由来の新たに形成されたコラーゲン繊維に置き換えられる。これらの繊維は、歯の補強力に最も関与する自然発生繊維と同様に、軟組織接触面に対して垂直方向に組織化される傾向にある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、2パートインプラントシステムのアンカー部であるインプラント1の各部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に関して‘‘インプラント’’は、骨と統合する部分である、2パートインプラントシステムのアンカー部を意味する。前記アンカー部は、粘膜レベルにおいて骨の頂上部から約1.5ないし3mmまで沈める。前記アンカー部は、骨と接触する部分を意味する骨接触面を有する。軟組織と接触するアンカー部の先端は、軟組織接触面として定義される。インプラント後、傷の端は軟組織接触面に直接適合し、それによりインプラントに初期の軟組織閉鎖がもたらされ得る。
【0019】
本発明に関して‘‘ヒドロキシル化された’’は、インプラント表面の最外原子層にヒドロキシル基が存在することを意味する。インプラントがチタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム又はそれらの合金並びに化学的に同様に反応する合金からなる場合、チタン金属の表面は空気及び水中で自然に酸化し、その後、該表面上で水との反応が起こり、ヒドロキシル基が形成されることが推測される。このヒドロキシル基を含む面は、‘‘ヒドロキシル化された’’面として文献中で言及されている(エイチ.ピー.ボーム(H.P.Boehm),Acidic and Basic Properties
of Hydroxylated Metal Oxide Surface,Discussions Faraday Society,52巻,1971,264−275頁参照。)。同様のことがセラミック表面(セラミックインプラント又はセラミックコーティングを有する金属インプラント)にも適用される。ヒドロキシル基が、例えば化学変性のために、共有結合でブロックされるところの金属面は、本発明の観点では‘‘ヒドロキシル化された’’面ではない。
【0020】
本発明に関して‘‘シラン化された’’は、インプラント表面がシラノールによって又は少なくとも1つの遊離ヒドロキシル基を有する有機シラン化合物によって被覆されることを意味する。該有機シラン化合物の例は、XnSiR4-n(式中、Xは、Cl、Br、I、F又はORからなる群から選択され、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基の群から選択される。)である。セラミック製のインプラントは、好ましくは、有機シラン化合物によって被覆される。金属製のインプラントも有機シラン化合物で被覆され得、セラミック製のインプラントはまた、シラノールによっても被覆され得る。
【0021】
本発明の好ましい態様において、軟組織接触面は完全にヒドロキシル化されている。このようなインプラントは生体内で良好な結果を示し、かつ前記インプラントは経済的に興味深く、かつ制御された方法によって製造され得る。その上、本発明に従ったインプラントを用いると、治癒過程が改善され、すなわち良好な骨統合並びに優れた軟組織統合が得られることが示された。それ故、該インプラントは、インプラント周囲炎症の危険性が減少し、結果として、インプラントの取り替えをより少なくすることができる。それらは無機質(軟組織接触面に有機化合物が存在しないことを意味する)なので、面電荷が良好に利用される。それ故、該面は親水性であるため、改善された軟組織統合が得られる。それ故、それらは、自己免疫反応及び他の望ましくない副作用の危険性がない。
【0022】
本発明の更なる態様において、軟組織接触面は、粗面化及びヒドロキシル化されている。本発明に関して‘‘粗面化された面’’は、例えば、軟組織接触面をサンドブラストすることによって得られる肉眼的に粗いきめを有する面を意味する。軟組織接触面が粗面化及びヒドロキシル化されている場合、血液凝固を安定化させ、それが治癒進行を早めることが発見された。
【0023】
本発明の更なる態様において、軟組織接触面は、滑らかであるがヒドロキシル化されている。本発明に関して‘‘滑らかな面’’は、例えば、軟組織接触面を機械加工又は更に研磨することによって、好ましくは電解研磨することによって得られる肉眼的に滑らかなきめを有する面を意味する。滑らかな面を用いると、歯垢の蓄積は、防止されるか又は少なくとも最少化され、そしてこのような軟組織接触面は非常に好ましい顕著な湿潤性を有する。
【0024】
本発明の更なる態様において、インプラントの骨接触面及び軟組織接触面は、双方とも粗面化及びヒドロキシル化されていてかつ親水性であるか、さもなくば、双方とも滑らかで、ヒドロキシル化されていてかつ親水性である。該インプラントは、インプラント全体を同じ方法で処理され得るため、特に製造が容易である。これは、非常に大きな利点であり、ヒドロキシル化され、親水性であり、かつ粗面化された又は滑らかな軟組織が改善された軟組織統合を示すという驚くべき発見に基づく。
【0025】
本発明の更なる好ましい態様において、軟組織接触面は親水性である。本発明に関して‘‘軟組織接触面’’は、体液に自由に接近でき、かつ異物、例えば疎水性作用を有する物質で覆われない場合、‘‘親水性’’として言及される。通常、様々な揮発性炭化水素が非精製空気中に存在する。これらは、ヒドロキシル化されていてかつ親水性の面によって薄層に容易に吸着されるため、該面はもはや親水性ではなくなる。同様に、面上に存在
するヒドロキシル基が、例えば、空気中に存在する二酸化炭素と又は清浄工程を通じて導入されるメタノール又はアセトン等の有機溶媒と結合又は化学反応する場合、該ヒドロキシル化されていてかつ親水性の面は疎水性になり得る。前記軟組織接触面の親水性は、未処理の軟組織接触面と比べて、高い湿潤性をもたらし得、それが軟組織の形成を促進する。更に、面上の電荷が良好に利用され、それが、同様に、軟組織付着の形成を早め得る。
【0026】
本発明に従ったインプラントは、好ましくは、主にチタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム又はタンタル、好ましくはチタン又はジルコニウムからなる群から選択される金属からなる。さもなくば、インプラントは、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム又はタンタルからなる群から選択される金属の合金、好ましくはチタン/ジルコニウムの二成分合金からなる。このようなインプラント、それらの性質及びそれらを製造するために使用される金属材料は、それ自体既知であり、例えば、1998年,Chapman&Hall,ロンドンによって出版されたジェイ.ブラック(J.Black),ジー.へースチングス(G.Hastings)のHandbook of Biomaterials Properties,135−200頁に記載されている。審美点の観点から、とりわけ前方可視領域において、軟組織接触面は、好ましくはセラミックコーティングで被覆される。これは、例えば、米国特許第4,746,532号明細書に記載されるように金属コア材料の表面上にセラミック材料を熱噴霧することによって得ることができる。また、欧州特許第1566152号明細書は、ジルコニアを用いた歯科インプラントのコーティングを記載している。また、インプラント、特に軟組織接触面は、セラミックリング要素を含み得る。このようなセラミックコーティング及びリング要素は、典型的にはジルコニア、アルミナ、シリカ又は可能な付加的な成分とのそれらの混合物からなり、好ましくは、ジルコニアからなる。さもなくば、本発明に従ったインプラントはセラミックからつくられ得る。
【0027】
最も好ましい態様において、本発明に従ったインプラントは、酸化ジルコニウムベースの材料を含むセラミックからつくられる。酸化ジルコニウム(ジルコニア)の立体構造は、室温において金属酸化物によって安定化され得る。好ましい金属酸化物は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、ランタニド類の酸化物、好ましくは酸化イットリウムである。前記金属酸化物の含量に依存して、立体ジルコニアの高温相は、室温で十分に又は部分的に安定化され得る(立体安定化酸化ジルコニウム)。好ましくは、ジルコニアは、酸化イットリウムによって安定化される。
【0028】
本発明はまた、上記インプラントの製造方法に関する。
【0029】
ヒドロキシル化された面を得るために、インプラントの軟組織接触面は、好ましくは無機酸、無機塩基、無機塩基の混合物又は無機酸の混合物でエッチングされる。特に好ましいのは、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸又は該酸の混合物である。好ましくは、インプラントは、質量比が約2:1:1の塩酸(濃塩酸)、硫酸(濃硫酸)及び水の混合物でエッチングされる。さもなくば、該面は、質量比が約1:1:5の塩酸(濃塩酸)、過酸化水素(濃過酸化水素)及び水の混合物で活性化される。その後、軟組織接触面は、不活性雰囲気中で純水により洗浄される。
【0030】
粗面化された軟組織接触面は、前記面をサンドブラストし、該面が既にヒドロキシル化されていてかつ親水性であるならば、得られた状態で該面を維持することによって、そうでないのならば、別の加工工程において、サンドブラストされた面をヒドロキシル化されていてかつ親水性の状態に転換することによって得られ得る。
【0031】
特に、粗面化された軟組織接触面は、前記面をショットピーニング又はサンドブラストし、及び/又は該面をプラズマ技術を使用することにより粗面化し、その後、ヒドロキシ
ル化されていてかつ親水性の面が形成されるまで、該機械により粗面化された面を電解加工又は化学加工により処理することによって製造され得る。
【0032】
好ましい手法は、
−インプラントの軟組織接触面をショットピーニングし、その後、それを室温において希釈フッ化水素酸でエッチングすること;又は、
−インプラントの軟組織接触面を、例えば0.1−0.25mm又は0.25−0.5mmの平均サイズを有する酸化アルミニウム粒子でサンドブラストし、その後、それを高温において塩酸/硫酸混合物で処理し、それを蒸留されかつ炭素(CO2及び他の炭素)を含まない純水で洗浄すること;又は、
−インプラントの軟組織接触面を粗粒子、例えば上記で定義した粒子の混合物でサンドブラストし、その後、それを塩酸/硝酸混合物で処理し、それを蒸留されかつ炭素(CO2及び他の炭素)を含まない純水で洗浄すること;又は、
−インプラントの軟組織接触面を質量比が約1:1:5の塩酸(濃塩酸)、過酸化水素(濃過酸化水素)及び水の混合物で処理し、それを蒸留されかつ炭素(CO2及び他の炭素)を含まない純水で洗浄すること;又は、
−軟組織接触面をプラズマ技術を使用することによって粗面化し、その後、それを質量比が約1:1:5の塩酸(濃塩酸)、過酸化水素(濃過酸化水素)及び水の混合物中でヒドロキシル化し、それを蒸留されかつ炭素(CO2及び他の炭素)を含まない純水で洗浄すること;又は、
−所望による軟組織接触面の機械による粗面化後、該面を電解加工によって処理し、その後、それを蒸留されかつ炭素(CO2及び他の炭素)を含まない純水で洗浄すること、
−インプラントの軟組織接触面をプラズマ洗浄又はUV−処理によって処理すること、である。
【0033】
これらの方法は、当業者に既知であり、例えば米国特許第5,071,351号明細書に記載されている。このような処理後、インプラントのヒドロキシル化された軟組織接触面は、有機堆積物を含まず、湿潤性が増加する。結果として、インプラントは周囲の骨及び組織構造により密接にかかわる。
【0034】
いずれにしても、本発明によると、インプラントは、更なる後処理に付されない、即ち、アルコール、アセトン又はあらゆる他の有機溶媒で処理されない。特に、前記純水は、二酸化炭素も炭化水素蒸気も含まず、特にアセトン及びメタノール又はエタノール等のアルコールは含まない。しかしながら、それは、下記する特定の添加剤を含み得る。洗浄で使用される‘‘純水’’は、好ましくは数回蒸留されるか、又は逆浸透によって製造される。該水は、好ましくは不活性雰囲気中で、即ち、例えば窒素又は希ガス雰囲気中で減圧下において製造される。
【0035】
これらの手順を行った後、得られたインプラントは純水中に入れたまま、密閉容器又はカバー中で貯蔵される。水に加えて、カバー内部は、不活性ガス、例えば、窒素、酸素又はアルゴン等の希ガスを含み得る。得られたインプラントは、好ましくは、所望により選択された添加剤を含む純水中で、及びガス及び液体に、特に酸化炭素に実質的に非浸透性のカバー(ここで、カバー内部はインプラント表面の活性を損ない得るいかなる化合物も含まない)中で貯蔵される。
【0036】
さもなくば、インプラントは、不活性ガス雰囲気中に置かれ得る。
【0037】
本発明に従ったインプラント、又は少なくともそのヒドロキシル化されていて親水性の面は、好ましくは気密性及び液密性カバー(ここで、カバー内部はインプラント表面の生物活性を損ない得るいかなる化合物も含まない)に密封される。この方法よって、歯科イ
ンプラントを適用する前に、空気成分により該面がその活性を完全に又は部分的に失うことが避けられる。好ましい態様において、カバー内部は還元雰囲気である。この気密性及び液密性カバーは、好ましくはヒートシールされた、ガラス、金属、合成ポリマー又は他の気密性及び液密性材料又はこれらの材料の組み合わせからつくられるアンプルである。金属は、好ましくは薄いシート形態をとり、ポリマー状材料及び金属シート並びにガラスを、本質的に既知の方法で、一緒に組み合わせて適当なパッケージを形成することもできる。
【0038】
純水中に配合され得る適当な添加剤の例は、体液中に既に存在するカチオン及びアニオンである。陽電荷を安定化するために、本発明に従ったインプラントは、pH3ないし7、好ましくはpH4ないし6のpH範囲で好ましくは貯蔵される。さもなくば、陰電荷を安定化するために、インプラントは、pH7ないし10のpH範囲で貯蔵することもできる。好ましいカチオンは、Na+、K+、Mg2+及びCa2+である。好ましいアニオンはCl-である。前記カチオン又はアニオンの総量は、好ましくは約50mMないし250mM、特に好ましくは約100mMないし200mMの範囲であり、好ましくは約150mMである。カバーが2価のカチオン、特にMg2+、Ca2+、Sr2+及び/又はMn2+をそれら自体で又は上記の1価のカチオンとの組み合わせで含む場合、2価のカチオンの総量は、好ましくは1mMないし20mMの範囲である。
【0039】
本発明を、図面及び実施態様に基づき以下に説明するが、該態様は、いかなる方法においても本発明を制限しない。図面は以下のことを示す。
図1は、2パートインプラントシステムのアンカー部であるインプラント1の各部分を示す。該インプラント1は、好ましくは組織適合性金属又は該金属の合金、特にチタン又はチタン合金からつくられる。さもなくば、インプラントは、セラミック、好ましくはジルコニアからつくられる。更に、インプラントの一部を金属からつくり、かつ他の部分をセラミックからつくること、例えば、インプラントの内部をチタンからつくり、かつ外部をセラミックからつくることもできる。インプラント1は、ねじ部10及び丸みを帯びた下端15を有する。その上端において、インプラント1は、わずかに広がった円錐形部分を有する。前記インプラント1は、骨接触面Bと軟組織接触面Sに細分される。これらの面の境界領域において、骨接触面Bから軟組織接触面Sへの移行領域があり、該移行領域は、上記領域の両方に割り当てられる。インプラントした状態において、該領域が骨に位置するか又は軟組織に位置するかの問題は、多くの要因、例えばインプラントがねじ込まれる深さ、組織反応等に依存する。移行領域は、いかなる場合においても最適な骨統合を確実にするために、骨接触面と同様の方法で処理されるべきである。チタン製のインプラント1の場合、骨接触面は好ましくは粗面化されていて、更により好ましくはヒドロキシル化されていてかつ親水性である。軟組織接触面Sは、少なくとも部分的に、好ましくは完全にヒドロキシル化される。好ましい態様において、それはまた、粗面化され、及び/又は親水性である。本発明に従ったインプラントの軟組織接触面は、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム又はそれらの合金並びに化学的に同様に反応する合金からつくられ得るが、インプラントは、ヒドロキシル化されたセラミックコーティングを有することもできる。
【0040】
以下の実施例で本発明を説明する。
実施例1:粗面化及びヒドロキシル化された軟組織接触面を有するインプラント
直径4mm、長さ10mmのねじ形態の通常形状の歯科インプラントを製造した。粗形状は、本質的に既知の方法で円筒型のブランクを旋削し、フライス加工することにより材料を除去することによって得た。その後、骨接触面並びに軟組織接触面を、欧州特許第0388575号明細書に記載されるように、0.25ないし0.5mmの平均サイズを有する粒子でサンドブラストした。その後、粗面化された面を、80℃以上の温度において約5分間、2:1:1のHCl:H2SO4:H2O比を有する水性の塩酸(濃塩酸)/硫
酸(濃硫酸)混合物で処理した。この方法で形成したインプラントを純水で洗浄し、その後、Na+イオン150mM及びそれに対応する量のCl-アニオンを含む純水で充填されたガラスアンプル中に直接ヒートシールした。
【0041】
軟組織統合を試験するために、上記インプラントを4匹の雌のフォックスハウンドに取り付けた。各動物について、上顎に左右対称に6個のインプラントを、下顎に左右対称に10個のインプラントを取り付けた。粗面化及びヒドロキシル化された軟組織接触面を有するインプラントは、意外にも、ヒドロキシル化されていない面を有する同様のインプラントよりも、非常に良好な軟組織統合を示した。2、3日後、軟組織付着が既に見られ、軟組織統合は、2週間以内に明白となった。
【0042】
実施例2:滑らかで、ヒドロキシル化された軟組織接触面を有するインプラント
直径4mm、長さ10mmのねじ形態の通常形状の歯科インプラントを製造した。粗形状は、本質的に既知の方法で円筒型のブランクを旋削し、フライス加工することにより材料を除去することによって得た。その後、骨接触面を、0.25ないし0.5mmの平均サイズを有する粒子でサンドブラストし、一方、軟組織接触面を電解研磨した。その後、サンドブラストした骨接触面並びに電解研磨した軟組織接触面を、80℃以上の温度において約5分間、2:1:1のHCl:H2SO4:H2O比を有する水性の塩酸(濃塩酸)/硫酸(濃硫酸)混合物で処理した。この方法で形成したインプラントを純水で洗浄し、その後、Na+イオン150mM及びそれに対応する量のCl-アニオンを含む純水で充填されたガラスアンプル中に直接ヒートシールした。
【0043】
軟組織統合を試験するために、上記インプラントを4匹の雌のフォックスハウンドに取り付けた。各動物について、上顎に左右対称に6個のインプラントを、下顎に左右対称に10個のインプラントを取り付けた。滑らかで、ヒドロキシル化された軟組織接触面を有するインプラントは、意外にも、ヒドロキシル化されていない面を有する同様のインプラントよりも、非常に良好な軟組織統合を示した。2、3日後、軟組織付着が既に見られ、軟組織統合は、2週間以内に明白となった。
【符号の説明】
【0044】
1:インプラント 10:ねじ部 15:丸みを帯びた下端 B:骨接触面
S:軟組織接触面
図1