特許第6029122号(P6029122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029122
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】トンネル掘削機及びトンネル施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20161114BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20161114BHJP
   E21D 9/12 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   E21D9/087 A
   E21D9/06 301
   E21D9/12 J
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-31053(P2015-31053)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-151170(P2016-151170A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228811
【氏名又は名称】日本シビックコンサルタント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工メカトロシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】大塚 孝義
(72)【発明者】
【氏名】近藤 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】加島 豐
(72)【発明者】
【氏名】保苅 実
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雅彦
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−2184(JP,A)
【文献】 特開2011−226204(JP,A)
【文献】 特開平9−144482(JP,A)
【文献】 特開昭48−2939(JP,A)
【文献】 特開昭49−2312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00−9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機本体の前部に回転可能に支持され、地盤に切羽を掘削するカッタヘッドと、
前記掘削機本体内に設けられ、前記カッタヘッドの掘削に伴って発生した掘削土砂を蓄えるチャンバを前記カッタヘッドとの間において形成する隔壁と、
前記カッタヘッドに形成され、切羽と前記チャンバ内とを連通させるカッタ側開口部と、
上端が下端を回転中心としてトンネル後方に向けて回転することにより、前記カッタ側開口部を開放するカッタ側開閉扉と、
前記隔壁に形成され、前記チャンバ内と連通する隔壁側開口部と、
上端が下端を回転中心としてトンネル後方に向けて回転することにより、前記隔壁側開口部を開放する隔壁側開閉扉とを備え、
開放された前記カッタ側開口部及び前記隔壁側開口部を通じて前方に開いた切羽に対して、先行トンネルを前記掘削機本体内から掘削可能とする際に、全開した前記カッタ側開閉扉は、全開した前記隔壁側開閉扉、及び、開放された前記隔壁側開口部のうち、少なくともいずれか一方に当接する
ことを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項2】
請求項1に記載のトンネル掘削機において、
全開した前記隔壁側開閉扉に連結され、先行トンネルを掘削するための重機が走行可能となる走行用架台を備える
ことを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトンネル掘削機において、
前記チャンバ内に蓄えられた掘削土砂を、前記掘削機本体のトンネル後方に向けて排出するスクリューコンベヤを備え、
前記スクリューコンベヤを、トンネル上下方向及び左右方向に折り曲げ可能とした
ことを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のトンネル掘削機において、
前記隔壁側開閉扉の後面に、
切羽前方にボーリング孔を削孔する削孔機と、
前記削孔機によって削孔されたボーリング孔に薬液を注入して、切羽前方の地盤を硬化させる薬液注入機とを、着脱可能に設ける
ことを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項5】
掘削機本体の前部に設けられたカッタヘッドの回転によって、地盤に切羽を掘削しながら、その掘削に伴って発生した掘削土砂を、前記カッタヘッドと前記掘削機本体内に設けられた隔壁との間に形成されるチャンバ内に取り込んで、前記掘削機本体の後方に排出することにより、トンネルを掘進するようにしたトンネル施工方法において、
トンネルを掘削する途中で、不良地盤に変化した際に、掘進を一時停止し、
掘削土砂を排出するスクリューコンベヤを折り曲げ、
カッタ側開閉扉をトンネル後方に向けて回動させて、前記カッタヘッドに形成されるカッタ側開口部を開放すると共に、隔壁側開閉扉をトンネル後方に向けて回動させて、前記隔壁に形成される隔壁側開口部を開放し、
全開した前記カッタ側開閉扉を、全開した前記隔壁側開閉扉、及び、開放された前記隔壁側開口部のうち、少なくともいずれか一方に当接させ、
開放された前記カッタ側開口部及び前記隔壁側開口部を通じて前方に開いた切羽に対して、先行トンネルを前記掘削機本体内から掘削する
ことを特徴とするトンネル施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削地盤が破砕帯等の不良地盤に変化しても、その不良地盤に掘削した先行トンネルに沿って、トンネルを継続して施工することができるトンネル掘削機及びトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、掘削地盤を岩盤等の硬質地盤としたトンネル掘削機として、トンネルボーリングマシンが提供されている。しかしながら、掘削地盤の中には、土質が異なる複数種類の地盤が混在しているものもあり、トンネルボーリングマシンによってトンネルを掘削していると、破砕帯等の不良地盤に遭遇する場合がある。
【0003】
このように、トンネルボーリングマシンが不良地盤に遭遇すると、機体が切羽の崩落や周辺地盤の変位によって拘束され、その推進反力に抗する摩擦力が増大してしまう。この結果、トンネルボーリングマシンが掘進不能となるおそれがある。
【0004】
そこで、トンネルボーリングマシンが不良地盤に遭遇した際には、掘進を一時停止させて、薬液を切羽前方に注入して、地盤改良を行った後、人や重機を利用して、トンネルボーリングマシンに先行する先行トンネルを、不良地盤が終わるまで掘削するようにしていた。
【0005】
そして、このような、従来のトンネルボーリングマシンとしては、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−364284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来のトンネルボーリングマシンは、自立した地盤を掘削することによって発生した掘削土砂をチャンバ内に充填させることなく掘進する、所謂、開放型のトンネルボーリングマシンとなっており、カッタ側開口部を開閉するカッタ側開閉扉と、隔壁側開口部を開閉する隔壁側開閉扉とを備えている。そして、不良地盤に遭遇した場合には、カッタ側開閉扉及び隔壁側開閉扉をトンネル後方に向けて回動させて、カッタ側開口部及び隔壁側開口部を開放した後、それらのカッタ側開口部及び隔壁側開口部を通じて、地盤改良を行いながら、先行トンネルを掘削ようにしている。
【0008】
しかしながら、カッタ側開閉扉及び隔壁側開閉扉を回動させると、その回動後のカッタ側開閉扉及び隔壁側開閉扉が機内空間を占有してしまう。これにより、それらの位置関係によっては、先行トンネルの掘削作業に悪影響を与えてしまう。
【0009】
そこで、そのような問題を解決する手段として、カッタ側開閉扉及び隔壁側開閉扉の回動量を大きくすることも考えられるが、特に、カッタ側開閉扉の回動量を大きくすると、回動するカッタ側開閉扉と隔壁との接触を避けるため、当該隔壁の設置位置をトンネル後方に向けて大きく後退させる必要がある。つまり、隔壁の設置位置をトンネル後方にずらした分、掘削土砂を蓄えるためのチャンバの長さが長くなり、結果として、トンネルボーリングマシンの機体長さを長くしてしまう。
【0010】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、機体長さを抑えつつ、先行トンネルを不良地盤に掘削する際の掘削作業を容易に行うことができるトンネル掘削機及びトンネル施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する第1の発明に係るトンネル掘削機は、
掘削機本体の前部に回転可能に支持され、地盤に切羽を掘削するカッタヘッドと、
前記掘削機本体内に設けられ、前記カッタヘッドの掘削に伴って発生した掘削土砂を蓄えるチャンバを前記カッタヘッドとの間において形成する隔壁と、
前記カッタヘッドに形成され、切羽と前記チャンバ内とを連通させるカッタ側開口部と、
上端が下端を回転中心としてトンネル後方に向けて回転することにより、前記カッタ側開口部を開放するカッタ側開閉扉と、
前記隔壁に形成され、前記チャンバ内と連通する隔壁側開口部と、
上端が下端を回転中心としてトンネル後方に向けて回転することにより、前記隔壁側開口部を開放する隔壁側開閉扉とを備え、
開放された前記カッタ側開口部及び前記隔壁側開口部を通じて前方に開いた切羽に対して、先行トンネルを前記掘削機本体内から掘削可能とする際に、全開した前記カッタ側開閉扉は、全開した前記隔壁側開閉扉、及び、開放された前記隔壁側開口部のうち、少なくともいずれか一方に当接する
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第2の発明に係るトンネル掘削機は、
全開した前記隔壁側開閉扉に連結され、先行トンネルを掘削するための重機が走行可能となる走行用架台を備える
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第3の発明に係るトンネル掘削機は、
前記チャンバ内に蓄えられた掘削土砂を、前記掘削機本体のトンネル後方に向けて排出するスクリューコンベヤを備え、
前記スクリューコンベヤを、トンネル上下方向及び左右方向に折り曲げ可能とした
ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第4の発明に係るトンネル掘削機は、
前記隔壁側開閉扉の後面に、
切羽前方にボーリング孔を削孔する削孔機と、
前記削孔機によって削孔されたボーリング孔に薬液を注入して、切羽前方の地盤を硬化させる薬液注入機とを、着脱可能に設ける
ことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第5の発明に係るトンネル施工方法は、
掘削機本体の前部に設けられたカッタヘッドの回転によって、地盤に切羽を掘削しながら、その掘削に伴って発生した掘削土砂を、前記カッタヘッドと前記掘削機本体内に設けられた隔壁との間に形成されるチャンバ内に取り込んで、前記掘削機本体の後方に排出することにより、トンネルを掘進するようにしたトンネル施工方法において、
トンネルを掘削する途中で、不良地盤に変化した際に、掘進を一時停止し、
掘削土砂を排出するスクリューコンベヤを折り曲げ、
カッタ側開閉扉をトンネル後方に向けて回動させて、前記カッタヘッドに形成されるカッタ側開口部を開放すると共に、隔壁側開閉扉をトンネル後方に向けて回動させて、前記隔壁に形成される隔壁側開口部を開放し、
全開した前記カッタ側開閉扉を、全開した前記隔壁側開閉扉、及び、開放された前記隔壁側開口部のうち、少なくともいずれか一方に当接させ、
開放された前記カッタ側開口部及び前記隔壁側開口部を通じて前方に開いた切羽に対して、先行トンネルを前記掘削機本体内から掘削する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
従って、本発明に係るトンネル掘削機及びトンネル施工方法によれば、隔壁のトンネル前後方向設置位置や、チャンバのトンネル前後方向長さを変更することなく、重機を解体させずに使用することができる。よって、機体長さを抑えつつ、先行トンネルを不良地盤に掘削する際の掘削作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施例に係るトンネル掘削機の縦断面図である。
図2】本発明の第1実施例に係るトンネル掘削機の正面図である。
図3】先行トンネルを掘削するときの様子を示した縦断面図である。
図4図3の正面図である。
図5】本発明の第2実施例に係るトンネル掘削機の縦断面図である。
図6】本発明の第2実施例に係るトンネル掘削機の正面図である。
図7図5のA−A矢視断面図である。
図8図5のB矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るトンネル掘削機及びトンネル施工方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
図1及び図2に示すように、トンネル掘削機1は、例えば、土砂地盤や硬質地盤GaにトンネルTを掘削するための密閉型トンネルボーリングマシンであって、円筒状をなす掘削機本体(スキンプレート)11と、円盤状をなすカッタヘッド12とを備えている。
【0020】
掘削機本体11の前端部内には、隔壁となるバルクヘッド20が設けられており、このバルクヘッド20には、リング状をなす回転体22が回転可能に支持されている。そして、回転体22の前部には、複数の連結アーム23が、当該回転体22の周方向に沿って支持されており、これらの連結アーム23の前端には、カッタヘッド12が連結されている。一方、回転体22の後部には、リング状をなすリングギヤ24が、当該回転体22と同軸状に設けられている。
【0021】
また、バルクヘッド20には、複数のカッタ旋回用モータ25が、掘削機本体11の周方向に沿って設けられている。そして、各カッタ旋回用モータ25の出力軸には、駆動ギヤ26がそれぞれ装着されており、これらの駆動ギヤ26は、リングギヤ24と噛み合っている。
【0022】
これに対して、掘削機本体11の前部には、カッタヘッド12が設けられており、このカッタヘッド12の前面部には、多数のディスクカッタ31及びカッタビット32が着脱可能に装着されている。そして、カッタヘッド12におけるディスクカッタ31及びカッタビット32の周囲には、複数の掘削土砂取込口33が、カッタヘッド12の径方向に沿って形成されている。
【0023】
従って、カッタ旋回用モータ25を駆動させることにより、駆動ギヤ26の回転を、リングギヤ24から回転体22に伝達させることができるので、カッタヘッド12を回転させることができる。これにより、カッタヘッド12の回転軸周りに旋回したディスクカッタ31及びカッタビット32によって、地盤に切羽を掘削することができる。
【0024】
更に、カッタヘッド12とバルクヘッド20との間には、チャンバ27が区画形成されている。このチャンバ27は、掘削土砂を一時的に蓄えるための空間(室)となっており、当該チャンバ27内には、ディスクカッタ31及びカッタビット32の地盤掘削に伴って発生した掘削土砂が、カッタヘッド12の掘削土砂取込口33を介して、取り込まれるようになっている。なお、バルクヘッド20の後面には、土圧計55が設けられている。この土圧計55は、チャンバ27内における掘削土砂の圧力(土水圧)を計測可能となっている。
【0025】
そして、掘削機本体11内には、スクリューコンベヤ41が、前端から後端に向かうに従って上方に向けて傾斜するように設けられている。このとき、スクリューコンベヤ41の前端開口部は、バルクヘッド20の下部を貫通して、チャンバ27内に挿入されている。ここで、スクリューコンベヤ41は、折り曲げ式のスクリューコンベヤであって、前端側の折曲機構41a,41bを基点として、その後端側をトンネル上下方向及びトンネル左右方向(トンネル幅方向)に折り曲げ可能(揺動可能)となっている。従って、スクリューコンベヤ41を回転駆動させることにより、チャンバ27内に蓄えられた掘削土砂を、掘削機本体11の後方に向けて排出することができる。
【0026】
また、掘削機本体11の後端部内には、エレクタ装置42が、トンネル前後方向、トンネル径方向、及び、トンネル周方向に移動可能に支持されている。このエレクタ装置42は、覆工部材としてのセグメントSを、トンネルTの内壁面(坑壁)に沿って組み立てるものであって、そのセグメントSは、掘削されたトンネルTの内壁面形状に沿うような環片となっている。従って、エレクタ装置42を駆動させることにより、複数のセグメントSをトンネル周方向に沿ってリング状に組み立てることができる。
【0027】
更に、掘削機本体11の内周面には、複数のシールドジャッキ(推進ジャッキ)43が、その内周面の周方向に沿って支持されている。各シールドジャッキ43のロッド先端には、スプレッダ43aが装着されており、このスプレッダ43aは、トンネル前後方向において、既設のセグメントSの前端面と対向している。
【0028】
従って、シールドジャッキ43をトンネル後方に向けて伸長して、スプレッダ43aを既設のセグメントSの前端面に押圧させることにより、掘削機本体11に掘削反力(推進反力)を与えることができる。これにより、掘削機本体11を、シールドジャッキ43がセグメントSを押圧したときに発生する掘削反力によって、前進させることができる。
【0029】
そして、掘削機本体11の後端部における内周面には、テールパッキン(止水用シール)44が、トンネル前後方向において、複数段設けられている。このテールパッキン44は、掘削機本体11の内周面における周方向全域に亘って設けられており、既設のセグメントSの外周面に密着している。従って、掘削機本体11の内周面と既設のセグメントSの外周面との間の隙間を、テールパッキン44によって密閉することができるため、その隙間から掘削機本体11内への土や水等の浸入を防止することができる。
【0030】
ここで、図1乃至図4に示すように、バルクヘッド20の中央部には、隔壁側開口部21が形成されており、この隔壁側開口部21は、隔壁側開閉扉28によって開閉可能となっている。そして、隔壁側開閉扉28の下端は、ヒンジ29を介して、バルクヘッド20の後面における隔壁側開口部21の下部に回転可能に支持されている。
【0031】
即ち、隔壁側開閉扉28は、上端が下端を回転中心としてトンネル前後方向に回転可能となっており、トンネル後方に向けて回動することにより、隔壁側開口部21を開放する一方、トンネル前方に向けて回動することにより、隔壁側開口部21を閉鎖する。このとき、隔壁側開閉扉28は、全開状態になると、略水平に配置される。
【0032】
更に、隔壁側開口部21の開口縁全周、または、隔壁側開閉扉28の外縁全周には、シール部材が装着されている。これにより、隔壁側開閉扉28が全閉して隔壁側開口部が閉鎖された際に、チャンバ27内からそれらの間を通して流れる掘削土砂の漏洩防止を図ることができる。なお、隔壁側開閉扉28に、チャンバ27からの土水圧に耐えられる構造を採用しても良く、例えば、前記土水圧に抗する油圧ジャッキの押圧力を利用して、隔壁側開閉扉28を全閉させるようにしても構わない。
【0033】
これに対して、カッタヘッド12の中央部には、カッタ側開口部34が形成されており、このカッタ側開口部34は、カッタ側開閉扉35によって開閉可能となっている。そして、カッタ側開閉扉35の下端は、ヒンジ36を介して、カッタヘッド12の後面におけるカッタ側開口部34の下部に回転可能に支持されている。
【0034】
即ち、カッタ側開閉扉35は、上端が下端を回転中心としてトンネル前後方向に回転可能となっており、トンネル後方に向けて回動することにより、カッタ側開口部34を開放する一方、トンネル前方に向けて回動することにより、カッタ側開口部34を閉鎖する。
【0035】
このとき、カッタ側開閉扉35は、当該カッタ側開閉扉35がトンネル後方に向けて回動した際に、隔壁側開口部21を通過可能となる、大きさ及び形状をなしている。これにより、カッタ側開閉扉35は、トンネル後方に向けて回動すると、全開で、且つ、略水平となる隔壁側開閉扉28上、及び、開放された隔壁側開口部21の下縁21a上に載置されることになり、このように載置されると、略水平に配置され、全開状態となる。つまり、ヒンジ29の高さ位置は、隔壁側開閉扉28の厚さ、カッタ側開閉扉35の厚さ、及び、ヒンジ36の高さ位置に応じて、トンネル後方に向けて回動したカッタ側開閉扉35が略水平に配置されるように調整されている。
【0036】
また、図1及び図2に示すように、隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35が全閉状態となった掘削機本体11内には、削孔機51及び複数の薬液注入機52が、設置可能となっている。隔壁側開閉扉28には、トンネル前後方向に貫通する貫通孔が複数形成されており、これらの貫通孔には、削孔用バルブ51bまたは注入用バルブ52bが装着されている。そして、削孔機51及び薬液注入機52は、各貫通孔及びバルブ51b,52bと面するように、隔壁側開閉扉28の後面に着脱可能に取り付けられる。
【0037】
具体的に、削孔機51は、伸縮可能となる削孔ロッド51aを有している。これにより、削孔機51においては、削孔ロッド51aを伸長させて、削孔用バルブ51b及び貫通孔を介して、切羽前方に打ち込むことによって、当該切羽にボーリング孔を削孔可能となっている。
【0038】
一方、前方注入機52は、伸縮可能となる注入ロッド52aを有している。これにより、前方注入機52においては、注入ロッド52aを伸長させて、注入用バルブ52b及び貫通孔を介して、ボーリング孔内に挿入することによって、切羽前方の地盤に薬液(硬化剤)を注入可能となっている。このように、薬液を切羽前方の地盤に注入することにより、地盤の改良を行うことができる。つまり、地盤を硬化させることにより、地下水を止めることができる。
【0039】
更に、チャンバ27の内壁面を構成する、バルクヘッド20及び隔壁側開閉扉28の前面や、カッタヘッド12及びカッタ側開閉扉35の後面には、撹拌翼56が着脱可能に設けられている。この撹拌翼56は、チャンバ27内に充填された掘削土砂を撹拌するものであって、このように、掘削土砂を撹拌することにより、チャンバ27内における土水圧の均一化や、スクリューコンベヤ41による土砂排出性の向上を図ることができる。
【0040】
これに対して、図3及び図4に示すように、隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35が全開状態となった掘削機本体11内には、走行用架台53が設置可能となっている。この走行用架台53は、全開状態の隔壁側開口扉28及びカッタ側開閉扉35の設置高さまで延びおり、前端が、全開状態の隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35に連結される一方、後端が、既設のセグメントS上に固定されている。
【0041】
そして、走行用架台53上には、重機となるバックホー54が、走行可能となっており、このバックホー54は、重なり合った隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35上を走行することにより、開放された隔壁側開口部21及びカッタ側開口部34を通過することができる。つまり、トンネル掘削機1においては、掘削機本体11内と切羽との間において、バックホー54を解体することなく、掘削機本体11内に搬入することができると共に、切羽側に搬出することができる。なお、重なり合った隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35と、これらに架け渡された走行用架台53の前端との間に、段差が生じる場合には、それらの間に足場板53を水平に配置させても構わない。
【0042】
従って、トンネル掘削機1によってトンネルTを硬質地盤Gaに施工する場合には、図1及び図2に示すように、カッタヘッド12を回転させながら、複数のシールドジャッキ43を伸長して、スプレッダ43aを既設のセグメントSに押し付けることにより、その既設のセグメントSから掘削反力を得て、掘削機本体11を前進させる。これにより、回転するカッタヘッド12に装着された多数のディスクカッタ31及びカッタビット32によって、硬質地盤Gaに切羽が掘削される。
【0043】
このとき、地盤掘削によって発生した掘削土砂は、カッタヘッド12の掘削土砂取込口33を介して、チャンバ27内に充填されることになるが、必要に応じて、チャンバ27内に注入された添加材と共に撹拌翼56によって撹拌される。また、土圧計55は、チャンバ27内の内圧(土水圧)を常時計測しており、そのチャンバ27は、充填された掘削土砂によって、所定の内圧に維持される。そして、チャンバ27内に充填された掘削土砂は、スクリューコンベヤ41の回転駆動によって、トンネル後方に向けて排出される。
【0044】
これと同時に、短縮したシールドジャッキ43のトンネル後方においては、エレクタ装置42の駆動によって、複数のセグメントSが、トンネルTの内壁面に沿って、リング状に順次組み立てられる。
【0045】
つまり、掘削土砂をチャンバ27内に充填させて、そのチャンバ27の内圧を切羽からの土圧に対抗させながら排土することにより、切羽の安定化を図りながら、トンネルTを掘削可能となっている。これと同時に、シールドジャッキ43の伸長によって、既設のセグメントSから掘削反力を取って掘進しながら、短縮したシールドジャッキ43のトンネル後方において、新設のセグメントSを組立可能となっている。
【0046】
ここで、トンネル掘削機1による掘削地盤が、岩盤等の硬質地盤Gaから、破砕帯等の不良地盤Gb(図3参照)に変化した場合には、トンネル掘削機1が切羽の崩落や周辺地盤の変位によって拘束され、その掘削反力に抗する摩擦力が増大することになり、当該トンネル掘削機1が掘進不能となるおそれがある。
【0047】
そこで、本発明に係るトンネル掘削機1においては、不良地盤Gbの掘削に対応するため、当該不良地盤Gbに遭遇すると、掘進を一時停止する。そして、薬液を切羽前方に注入して、地盤改良を行いながら、重機を利用して、トンネル掘削機1に先行する先行トンネルTa(図3参照)を、不良地盤Gbを通り過ぎるまで掘削する。
【0048】
具体的に、先ず、トンネル掘削機1が硬質地盤Ga中を掘削しており、例えば、そのカッタヘッド12が不良地盤Gbに到達すると、トンネル掘削機1の掘進を停止させる。即ち、カッタ旋回用モータ25、スクリューコンベヤ41、エレクタ装置42、及び、シールドジャッキ43等の駆動を停止させる。
【0049】
次いで、図1に示すように、削孔機51及び薬液注入機52を、バルクヘッド20における隔壁側開閉扉28の後面に装着して、ボーリング孔の削孔と薬液の注入とを順次行う。これにより、切羽前方の不良地盤Gbが改良され硬化する。その後、削孔機51及び薬液注入機52を取り外す。
【0050】
そして、図3に示すように、スクリューコンベヤ41を下方や左右方向に向けて折り曲げる。このとき、エレクタ装置42は、予め、スクリューコンベヤ41の折り曲げ動作に干渉しない位置に退避させている。なお、スクリューコンベヤ41の折り曲げ動作については、地盤改良前に行うようにしても構わない。
【0051】
次いで、バルクヘッド20の隔壁側開閉扉28を全開にして略水平に配置させた後、カッタヘッド12のカッタ側開閉扉35を全開にして略水平に配置させる。即ち、全開で、且つ、略水平となった隔壁側開閉扉28の上に、カッタ側開閉扉35を載置することにより、当該カッタ側開閉扉35は、全開で、且つ、略水平となる。
【0052】
このとき、隔壁側開閉扉28を全開にして略水平に配置させても、スクリューコンベヤ41を予め下方や左右方向に向けて折り曲げているので、回動する隔壁側開閉扉28とスクリューコンベヤ41との接触を防止することができる。
【0053】
このように、隔壁側開閉扉28とカッタ側開閉扉35とが上下方向に重なり合って全開状態になると、隔壁側開口部21とカッタ側開口部34とは、トンネル前後方向において対向しているため、掘削機本体11内と切羽側とが直線的に連通する。
【0054】
そして、図3及び図4に示すように、走行用架台53を設置した後、トンネル後方から搬入したバックホー54を、その走行用架台53を利用して、重なり合った隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35上まで走行させる。このとき、足場板53aを設置しても構わない。
【0055】
次いで、バックホー54によって、カッタ側開口部35を介して、先行トンネルTaの掘削を開始する。その後、バックホー54を先行トンネルTa内へと走行させて、先行トンネルTaの掘削を更に続ける。このとき、必要に応じて、先行トンネルTaの切羽前方に対して、ボーリング孔の削孔と薬液の注入とを順次行い、地盤を改良する。
【0056】
そして、バックホー54によって掘削する先行トンネルTaが、硬質地盤Gaに到達すると、バックボー54を、重なり合った隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35上を走行させながら、カッタ側開口部35及び隔壁側開口部28を通過させて、掘削機本体11内に搬入する。その後、バックホー54を、走行用架台53を利用して、トンネル後方へ退避させる。
【0057】
次いで、掘削済みの先行トンネルTaに沿って、トンネル掘削機1を掘進させることにより、トンネルTを不良地盤Gbに継続して掘削する。
【0058】
なお、上述した第1実施例に係るトンネル掘削機1においては、カッタ側開閉扉35を全開にして略水平に配置させる際に、当該カッタ側開閉扉35を、隔壁側開口部21の下縁21a及び隔壁側開閉扉28上に載置するようにしているが、全開した隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35が、重機の走行用通路として、使用できれば良く、カッタ側開閉扉35を、隔壁側開口部21の下縁21a及び隔壁側開閉扉28のうち、少なくともいずれか一方に載置すれば良い。
【0059】
例えば、図5乃至図8は、第2実施例に係るトンネル掘削機を示しており、このトンネル掘削機においては、カッタ側開閉扉35を、隔壁側開口部21の下縁21aのみに載置することにより、全開で、且つ、略水平としている。このとき、カッタ側開閉扉35における下縁21a上に重なる部分となる上端の幅は、隔壁側開口部21の開口幅(下縁21aの長さ)よりも小さくなるように形成されている。但し、図5乃至図8においては、図1乃至図4で示した第1実施例に係るトンネル掘削機1と比較して、同じ部材、同じ構成、及び、同じ機能を有する部材については、同一の符号を付しており、その説明を省略している。
【0060】
更に、上述した実施形態1,2に係るトンネル掘削機においては、隔壁側開口部21及び隔壁側開閉扉28を、先行トンネルTaを掘削する際の重機の走行用通路として使用しているが、他の目的で使用することも可能である。
【0061】
例えば、隔壁側開閉扉28を全開にして、隔壁側開口部21を開放させることにより、ホッパー付きベルトコンベヤを、その開放された隔壁側開口部21を介して、チャンバ27内に挿入する。これにより、トンネル掘削機を、地盤が自立した岩盤等の硬質地盤にトンネルを掘削するための開放型トンネルボーリングマシンに変更することができる。このとき、ホッパー付きベルトコンベヤを、全開で、且つ、略平行となる隔壁側開閉扉28上に設置することにより、当該ホッパー付きベルトコンベヤを、容易に、且つ、高精度に取り付けることができる。
【0062】
また、カッタヘッド12に装着されたディスクカッタ31及びカッタビット32の交換を行う際には、隔壁側開閉扉28を全開にして、隔壁側開口部21を開放させることにより、その交換作業をチャンバ27内において行うことができる。これにより、作業者が切羽側に出る必要がなくなるため、カッタ交換作業を安全に行うことができる。
【0063】
従って、開放された隔壁側開口部21及びカッタ側開口部34を通じて前方に開いた切羽に対して、先行トンネルTaを掘削機本体11内から掘削可能とする際に、カッタ側開閉扉35を、全開した隔壁側開閉扉28、及び、開放された隔壁側開口部21の下縁21aのうち、少なくともいずれか一方に当接させて、全開とすることにより、バルクヘッド20のトンネル前後方向設置位置や、チャンバ27のトンネル前後方向長さを変更することなく、バックホー54等の重機を解体させずに使用することができる。よって、掘削本体11の長さを抑えつつ、先行トンネルTaを不良地盤Gbに掘削する際の掘削作業を容易に行うことができる。
【0064】
また、先行トンネルTaの掘削時において、走行用架台53を設置可能としたことにより、バックホー54を、全開した隔壁側開閉扉28及びカッタ側開閉扉35を介して、切羽まで容易に走行させることができる。更に、スクリューコンベヤ41を上下方向及び左右方向に折り曲げ可能としたことにより、回動する隔壁側開閉扉28とスクリューコンベヤ41との接触を防止することができる。また更に、隔壁側開閉扉28の後面に、削孔機51及び薬液注入機52を着脱可能とすることにより、当該削孔機51及び薬液注入機52を切羽前方の地盤改良を行うときにのみ設置することができるので、それらの破損や故障を最小限に抑えることができる。
【0065】
なお、隔壁側開閉扉28については、掘削機本体11における隔壁側開閉扉28の占有状態に応じて、複数の開閉扉片からなる分割構造としても良く、例えば、上下方向で2分割した分割構造や、左右方向で2分割した分割構造としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るトンネル掘削機は、硬質地盤に対応したトンネル施工仕様と不良地盤に対応したトンネル施工仕様との間における仕様切り替え作業を、短時間で行うことができるため、トンネル施工費用の削減対策に、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 トンネル掘削機
11 掘削機本体
12 カッタヘッド
20 バルクヘッド
21 隔壁側開口部
21a 下縁
27 チャンバ
28 隔壁側開閉扉
34 カッタ側開口部
35 カッタ側開閉扉
41 スクリューコンベヤ
43 シールドジャッキ
51 削孔機
52 薬液注入機
53 走行用架台
54 バックホー
Ga 硬質地盤
Gb 不良地盤
S セグメント
T トンネル
Ta 先行トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8