特許第6029131号(P6029131)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029131
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】核酸導入剤、核酸導入方法及び細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161114BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20161114BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20161114BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20161114BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20161114BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20161114BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C08L33/14
   C08K5/17
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-287595(P2011-287595)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-135623(P2013-135623A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】中山 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】岩井 良輔
(72)【発明者】
【氏名】根本 泰
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−159504(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/117828(WO,A1)
【文献】 特開2008−195680(JP,A)
【文献】 特開2009−275001(JP,A)
【文献】 特開2009−275002(JP,A)
【文献】 特表2011−500656(JP,A)
【文献】 特表2006−501156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミドからなる群から選択されるカチオン性ポリマーと、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールとを、カチオン性ポリマーの重量部と2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールの重量部との比を1/1〜1/10として含む組成物を調製することにより、核酸導入剤を製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸導入剤を製造する方法により製造された核酸導入剤と核酸と細胞とを液中で共存させて細胞に該核酸を導入する核酸導入方法
【請求項3】
請求項の核酸導入方法によって核酸が導入された細胞を製造する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に核酸を導入するための核酸導入剤及び核酸導入方法と、この方法により核酸が導入された細胞とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ付随ウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
特許文献1には、ベンゼンなどの芳香環を核として分岐鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポリ[2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート]の温度感応性を利用した、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに対して、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合してなるスター型ポリマーよりなる遺伝子導入剤が記載されている。この遺伝子導入剤は、分岐鎖を構成する2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体が、僅かながらカチオン性を有する。そのため、このカチオン性の2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位は、核酸との結合に寄与し、遺伝子導入剤の核酸担持量が多くなる。また、この遺伝子導入剤は、分岐鎖が感温性を有しており、温度を上昇させることにより、遺伝子導入剤が疎水性に変化する。
【0005】
より多くの核酸を担持することができる遺伝子導入剤として、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに対して、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合してなる遺伝子導入剤が特許文献3に記載されている。
【0006】
この特許文献3に記載される遺伝子導入剤は、分岐鎖を構成する2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体が、僅かながらカチオン性を備えるため、このカチオン性の2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位が、核酸との結合に寄与し、核酸担持量を多くすることができる。また、分岐鎖が感温性を有していることから、温度を調整することにより、遺伝子導入剤を疎水性に変化させることができる。
【0007】
特許文献4には、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートのポリマーを核酸複合体へ導入し、該ポリマーの側鎖が加水分解して陽電荷側鎖が陰電荷側鎖へ変換されることにより核酸複合体のデコンデンスを誘発することが記載されている。
【0008】
核酸複合体のデコンデンスは複合体内の核酸の状態の確認などを目的として強制的にある程度デコンデンスができる方法が確立されている。ヘパリンやデキストラン硫酸のような陰電荷ポリマーを混合し、複合体中に入り組んだイオン結合をイオン交換性に解離させるものであるが、物理化学実験のような試験管中で実施が可能な方法であり、細胞内で実施できるものではない。なぜなら細胞膜は陰電荷を帯びており、デキストラン硫酸のようなポリマーが細胞内へ侵入することは困難であるし、生体内で使用することを想定すると抗血栓性=出血性の効果が使用を制限することとなる。ちなみに細胞内で核酸複合体をデコンデンスさせているのは細胞内に存在する天然のシアル酸、ヘパリン硫酸などの陰イオン性化合物であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−195681号公報
【特許文献2】特開2010−136631号公報
【特許文献3】特開2011−72257号公報
【特許文献4】特開2010−115153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来は核酸複合体中の核酸の状態を確認する目的で試験管中(ゲル中)で複合体のデコンデンスを行なう際にヘパリンを混合して行なっていたが、ヘパリンは高価であり、かつ、デコンデンスの効率は高くはなく、再現性も低かった(ヘパリン自体がロットごとに構造が微妙に異なる物質である)。本発明は、安価な低分子量化合物で効率良く、速やかな核酸デコンデンスが可能な核酸導入剤及び核酸導入方法と、この方法により核酸が導入された細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の核酸導入剤を製造する方法は、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミドからなる群から選択されるカチオン性ポリマーと、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールとを、カチオン性ポリマーの重量部と2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールの重量部との比を1/1〜1/10として含む組成物を調製するものである。
【0013】
本発明の核酸導入方法は、かかる本発明の核酸導入剤を製造する方法により製造された核酸導入剤と、核酸と、細胞とを液中で共存させて細胞に核酸を導入するものである。
本発明の核酸が導入された細胞を製造する方法は、かかる本発明の核酸導入方法によるものである。
【発明の効果】
【0014】
カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸と細胞とを溶液中に共存させて核酸を細胞に導入するに際し、この溶液中にさらに2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールを共存させると、核酸導入効率が向上することが認められた。この理由としては、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸との複合体に対し2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールが作用して核酸が複合体からデコデンスするか又はデコデンスし易くなるためであるか、もしくは、細胞に取り込まれた核酸が転写因子に認識され易い形態になるためであることなどが推察される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電気泳動ゲル写真である。
図2】実施例の結果を示すグラフである。
図3】実施例の結果を示すグラフである。
図4】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の核酸導入剤は、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールとを含むものである。
【0018】
このカチオン性ポリマーとしては2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート,2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、4−ビニルアニリン、修飾キトサン、修飾ゼラチン、ポリリジン、ポリアリルアミンなどが挙げられる。
【0019】
カチオン性脂質としては炭素数10以上例えば炭素数10〜30のパラフィン又はオレフィンへ1級、2級、3級、又は4級アミンを導入した化合物などが挙げられる。
【0020】
カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールとの比率はカチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質1重量部に対し2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール1〜20重量部特に3〜10重量部であることが好ましい。
【0021】
本発明の核酸導入方法は、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と、核酸と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールと、細胞とを溶液中で共存させて核酸を細胞に導入するものである。共存させるための添加手順は、特に限定されるものではなく、例えば、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質の溶液に対し核酸を添加し、次いで細胞を添加してもよく、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質の溶液に対し、核酸、細胞、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールの順で添加してもよく、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸と2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールとを混合して溶液としておき、この溶液を細胞培養液に添加してもよい。
【0022】
カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸とが溶液中で共存すると、溶液中における2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールや細胞の共存する場合でもしない場合でもカチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸とは複合体(核酸複合体)を形成する。2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールが予め存在するか、又は後から添加されて共存することにより、この核酸複合体の核酸が解離し易い形態となるか、又は細胞内に取り込まれた後、転写因子に認識され易い形態になるものと推察される。
【0023】
なお、細胞はヒトなどの哺乳類細胞である。
【0024】
本発明では、カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸とのカチオン/アニオン比(C/A比)は、1/0.7〜1/1.2、特に1/0.8〜1/1.1程度が好ましい。カチオン性ポリマー及び/又はカチオン性脂質と核酸とのC/A比を上記範囲内とすることにより、DMAEM単位の加水分解を抑制した上で、十分な遺伝子導入活性を得ることが可能である。
【0025】
なお、本発明において、C/A比とは、ポリマー材料のカチオン(DMAME単位)のモル数と、核酸のアニオン(リン酸残基)のモル数との比を意味する。
【0026】
[核酸]
核酸としては、各種siRNA、アンチセンス、デコイや単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子)、p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子、IL−2遺伝子、IL−4遺伝子、HLA−B7/IL−2遺伝子、HLA−B7/B2M遺伝子、IL−7遺伝子、GM−CSF遺伝子、IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100、MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が利用できる。また、VEGF遺伝子、HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス、c−mybアンチセンス、cdc2キナーゼアンチセンス、PCNAアンチセンス、E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が利用できる。
【0027】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
i)感温性カチオン性ホモポリマーの光重合による合成
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート7.0gを50mL容の透明軟質ガラス製のバイアル瓶へ加えてマグネットスタラーで混合し、高純度窒素ガスで10分間パージした後に、丸型ブラック蛍光灯で紫外線を21時間照射した。約5時間で増粘し、15時間で固化した。光照射物をクロロホルムへ溶解して回収し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/n−ヘキサン系で6回再沈殿を繰り返して精製し、n−ヘキサンを蒸散させた後に少量のベンゼンへ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて感温性カチオン性ホモポリマーを得た。
【0030】
ポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより120,000(Mw/Mn=2.4)と測定された。続いて、H−NMR(in CD3OD)の測定結果は、δ0.8−1.2ppm(br,3H,−CH−CH−),δ1.6−2.0ppm(br,2H,−CH−CH−),δ2.2−2.4ppm(br,6H,N−CH),δ2.5−2.7ppm(br,2H,CH−N),δ4.0−4.2ppm(br,2H,O−CH)となった。
【0031】
ii)核酸複合体の形成とTrisによる解離
ホタルルシフェラーゼをコードするDNA(プロメガ社、pGL3コントロール)を生理食塩水へ溶解し、終濃度を0.033μg/μLに調整した。i)で合成したカチオン性ポリマー51.2μgを60μLの生理食塩水へ溶解した。2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(Tris999(和光純薬)。以下、Trisということがある。)を0μg、16μg、32μg、64μg、96μg、128μg又は160μgを60μLの生理食塩水へ溶解して6種類の濃度溶液を調製した。調製したカチオン性ポリマー溶液30μL及びTris溶液30μLを混合し攪拌し、ポリマー・Tris溶液を調製した。
【0032】
ここへDNA溶液を90μLずつ加えて混合した(すべての溶液でC/A比は16でポリマー:Trisの混合比が重量比で1:0、1:1、1:2、1:4、1:6、1:8、1:10となる)。動的光散乱測定装置(シスメックス社、ゼーターサイザーNANO)を使用して核酸複合体の粒子径を測定すると、ポリマー:Trisの混合比が1:0〜1:2の溶液では185nm〜200nm程度で形成されるのに対して、混合比1:4では、核酸複合体、核酸単体、ポリマー単体のピークが混在して確認され(不安定で正確な測定は不能)、1:6では完全に核酸複合体のピークが消失した。
【0033】
アガロースゲルを使用したゲル・レターデーション実験でも、ポリマー:Trisの混合比が1:0〜1:2の溶液では核酸複合体が構造維持されていることを示す結果が得られ(核酸複合体のバンドがスポット位置から泳動せず、かつ、DNA単体のバンドも検出されていない)、混合比1:4ではDNAが核酸複合体から解離して泳動している様子が示された(図1)。
【0034】
以上の検討から、ポリマー(上記カチオン性ホモポリマー):Trisの混合比が1:4を超えてTris過剰となった際に核酸複合体は解離してDNAをデコンデンス(リリース)することが分かった。一方で、ポリマー:Trisの混合比が1:2以下の場合は通常の核酸複合体の構造を維持していることが示された。
【0035】
また、核酸複合体中のDNAやRNAを分析する際に、従来は複合体のデコンデンス処理(核酸複合体を解離させてDNAやRNAを単体で遊離させること)にヘパリンやデキストラン硫酸などアニオン性ポリマーと複合体をインキュベートする方法が公知であり当業者に広く利用されているが、本発明においては低分子量のカチオン性化合物である2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールを加えるだけで複合体のデコンデンスが可能となることが分かった。
【0036】
iii)核酸導入実験1
Trisを核酸複合体へ加えることによる核酸導入効果を確認するために次の実験を行った。
【0037】
ホタルルシフェラーゼをコードするDNA(プロメガ社、pGL3コントロール)を生理食塩水へ溶解し、終濃度を0.033μg/μLに調整した。i)で合成したカチオン性ポリマー51.2μg又は25.6μgを60μLの生理食塩水へ溶解した。Tris999(和光純薬)を0μg、51.2μg又は25.6μgを60μLの生理食塩水へ溶解した。調製したカチオン性ポリマー溶液30μL及びTris999溶液30μLを混合し攪拌し、ポリマー・Tris溶液を調製した。ここへDNA溶液を90μLずつ加えて混合した(C/A比は16又は8でポリマー:Trisの混合比は1:0又は1:1となる)。なお、後述の通り、このTris溶液を添加しない比較例も、これらと並行して行った。
【0038】
24Well培養皿へ細胞密度5×10個/mLへ調整したCOS−1細胞の完全培地浮遊液(DMEM+10%FCS溶液)を1mLずつ播種し、24時間培養した。
【0039】
24時間後、培地交換を行い、各Wellへ調製した核酸複合体溶液を25μLずつ添加して緩やかに混和し、さらに48時間培養を続けた。
【0040】
培養48時間後に培地を除去し、PBSで2回洗浄後に各Wellに細胞溶解剤200μLを加え、4℃で30分間放置し、超遠心処理で不溶物を沈殿させて上澄を遺伝子導入活性評価用の試料とした。遺伝子導入活性の評価はルシフェラーゼアッセイで行った。ホタルルシフェラーゼ活性はプロメガ社のルシフェラーゼアッセイキットを使用し、規格化はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
【0041】
その結果は、図2に示す通り、Trisを混合することにより、遺伝子導入活性(発現効率)が5倍〜10倍と飛躍的に向上することが確認された。
【0042】
なお、図2中の■Tris+はこの実験結果を示すものであり、□Tris−は、Tirs溶液を添加しないこと以外は同一条件にて行った対照実験(比較例)である。後述の図3も同様である。
【0043】
iv)核酸導入実験2
Trisを混合するタイミングを次のように上記核酸導入実験1と変えた他は同様の実験を行った。
【0044】
ホタルルシフェラーゼをコードするDNA(プロメガ社、pGL3コントロール)を生理食塩水へ溶解し、終濃度を0.033μg/μLに調整した。i)で合成したカチオン性ポリマー25.6μg又は12.8μgを60μLの生理食塩水へ溶解した。
カチオン性ポリマー溶液60μLへDNA溶液90μLを混合して核酸複合体を形成させた(C/A比は16又は8となる)。
【0045】
上記核酸導入実験1と同じTris溶液を25.6μg又は12.8μgを60μLの生理食塩水へ溶解した。なお、Tris溶液を添加しない比較例もこれらと並行して行った。
【0046】
24Well培養皿へ細胞密度1.5×10個/mLへ調整したHela細胞の完全培地浮遊液(DMEM+10%FCS溶液)を1mLずつ播種し、24時間培養した。
【0047】
24時間後、培地交換を行い、各Wellへ調製した核酸複合体溶液を25μLずつ添加して緩やかに混和し、3時間培養し、3時間後にTris溶液を各Wellへ60μLずつ混合(Trisとカチオン性ポリマーの重量比は1:0又は1:1となる)してさらに45時間培養を続けた。
【0048】
45時間後は上記核酸導入実験1と同じ手法で細胞破砕液を調製し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図3に示す。
【0049】
図3の通り、この核酸導入実験2によっても、Hela細胞に取り込まれた核酸複合体へTirsを加えることで細胞内でもTrisの作用が発現されて導入活性と同様に飛躍的に向上することが確認された。
【0050】
[実施例2]
i)6分岐型イニファターの合成
1,2,3,4,5,6−ヘキサキスブロモメチルベンゼン5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム30.0gをエタノール300mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過回収し、3リットルのメタノールへ投入して10分間攪拌して濾過した。この操作を計4回繰り返した。沈殿物をクロロホルム200mLへ溶解し、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で12時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,3,4,5,6,−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。
1H-NMR(in chloroform-d1):δ1.26-1.31ppm(m,36H,-CH2-CH3),δ3.71-3.73ppm(q,12H,-N-CH2-),・δ3.99-4.01ppm(q,12H,-N-CH2-),δ4.57ppm(s,12H,Ar-CH2).
【0051】
ii)6分岐型スター型N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドの重合(25kDa)
暗室で6DCを20mLのクロロホルムへ溶解し、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドを混合して全量をクロロホルムで50mLとした。終濃度はそれぞれ1.0Mと5mM(as DC functional Group)とした。反応容器へ移し、高純度窒素ガスを10分間パージ(流量:2リットル/分)した。密栓して激しく攪拌しながら光照射した。光照射は市販の丸管形部ラックライト蛍光灯(東芝製)を使用して行なった。300分照射後に溶液をエバポレーターで濃縮後、n−ヘキサン/エーテル=50/50(V/V)で再沈殿した。精製は再沈殿を6回繰り返し、室温で1時間真空乾燥後、水へ溶解して48時間凍結乾燥した。GPC:Mn=25,000(Mw/Mn=1.40)
【0052】
iii)核酸導入実験3
上記ii)で合成した6分岐型スター型カチオン性ポリマー(Mn=25kDa)を核酸導入に使用した。核酸導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数はカチオン性ポリマーのモノマー単位の分子量から計算して求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列MAPによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
【0053】
6分岐型スター型カチオン性ポリマー(Mn=25kDa)は0.8μg〜12.8μgを60μLの生理食塩水へ溶解し、DNA(上記と同じもの)は3μgを90μLのTris生理食塩水溶液として調製した。
【0054】
Trisの量は6分岐型スター型カチオン性ポリマー(Mn=25kDa)との重量比で1:1又は6:1(Tris:ポリマー)となるように調整した。定法に従って核酸複合体を調製した。核酸複合体溶液の濃度は各Wellに25μLを添加することで0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように調整した。C/A比はポリマーの濃度によって0.5、1、2、4、8となるように調整してある。
【0055】
24Well培養皿へ細胞密度1.5×10個/mLへ調整したラット皮下脂肪由来接着性細胞の完全培地浮遊液(DMEM+10%FCS溶液)を1mLずつ播種し、24時間培養した。24時間後に上記の核酸複合体組成物を加え、48時間の追加培養を行った。48時間後、iii)と同様の手法でルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図4に示す。
【0056】
なお、Trisを添加しないこと以外は同一条件で行ったブランク実験(比較例)の結果を図4にBlとして示した。
【0057】
図4の通り、初代細胞(ラット皮下脂肪由来の接着性細胞)でも核酸複合体へTrisを混合することで導入活性の飛躍的な向上が確認された。Tris:ポリマーの混合比に関しては、1:1でも6:1でも効果が確認できた。C/A比はBlの最適条件がCA=4であるものの、それよりも高めのCA=8で高い活性が確認された。核酸複合体の安定のために多くのポリマーが必要となった、つまり、Trisが複合体の解離に機能している可能性が伺える。また、物理化学的な評価では、Trisとポリマーの混合比が1:1では核酸複合体への影響は確認されなかったが、遺伝子導入活性の実験ではこの混合比でも十分な効果が確認されている。Trisが核酸複合体へ何らかの作用をしていることが示唆された。
【0058】
iv)核酸導入実験4
核酸導入剤として6分岐型スター型カチオン性ポリマー(Mn=25kDa)の代わりに市販の遺伝子導入剤Lipofectamine2000、Superfect、Dharmafect、又はGene Juiceを使用する以外はiii)の実験と同様の手法で遺伝子導入活性に対するTrisの影響を評価した。
【0059】
その結果、すべての遺伝子導入剤でTrisを混合することで遺伝子導入活性は数倍〜10倍に向上することが確認された。
【0060】
この実験で使用した遺伝子導入剤はカチオン性高分子以外にカチオン性脂質もあり、核酸複合体の構造や表面電位、親水疎水性のバランスなどが相違するが、いずれのタイプの導入剤でも本発明のTrisによる導入活性の向上が達成できることが分かった。
図1
図2
図3
図4