(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂などの成形においては、融点あるいはガラス遷移温度以上に加熱された高温の樹脂を、金型基材の表面に設けた転写面に接触させて成形し、これを冷却・固化する方法が行なわれている。
【0003】
しかしながら、金型表面での冷却速度が速すぎると、高温の樹脂が金型表面に接触したときに直ちに冷却されて、流動性が低下したり、表面に固化層(スキン層)が形成されたりして、金型形状に沿って緻密に充填されるのが阻害され、転写精度が低下する。特に複雑なパターン成形が必要とされる光学素子、光学用プレートや光学フィルム(シート)等の精密成形においては転写精度の低下は成形品特性の低下に繋がるため非常に大きな問題となる。また、急速な冷却は固化後の樹脂製品の表面や内部にムラを生じ、ウエルドラインの発生、配向性や残留応力の不均一性などの原因にもなり、成形品特性が低下する。
一方で、樹脂等が金型に充満した後は生産性の観点から速やかに冷却されることが必要とされる。
【0004】
このため、金型基材には熱伝導性の良い金属を用い、高温の樹脂が接触した際の初期冷却を遅延化するため、金型基材上に断熱層を備えた金型が使用されている。断熱層としては、樹脂、ガラス、セラミックスなどの低伝熱性材料が用いられている(例えば、特許文献1〜3)。
しかしながら、セラミックスやガラスは脆く、耐久性に問題がある。
また、樹脂は耐久性に問題があり、金型との接合面の摩耗対策強化のため断熱層の表面に強化層を被覆しなければならない問題ある。
また、セラミックスやガラス、樹脂は何れも金属との親和性が低く、金型基材との直接接合では剥離を生じやすいという問題がある。断熱層を金型基材とは別体とする場合においても、断熱層表面に形成された転写層が一般的な金属の場合は転写層である金属層との親和性も低いため、同様の問題が発生する。
また、樹脂を断熱層とする場合は、高温での強度がないため適用できる成形樹脂が限定される問題もある。
【0005】
また、近年の光学フィルムや導光板は、これらが使用されるフラットディスプレイパネル(FDP=面発光装置)が大型化すると共に画像品質が高精度化しているため、大面積化と高品質化が求められている。コストを考慮して大面積化に対応するため、金型素材は安価で強度を得やすい鋼材などの金属素材が適用される。
【0006】
上記の問題点の対策として、転写プレートと金型との間に金属ガラスからなる断熱材層を配設することが行われている(例えば、特許文献4)。そして、特許文献4においては、低熱伝導率の金属ガラスとして、Zr基金属ガラス及びPt基金属ガラスが記載されている。
しかしながら、特許文献4において、金属ガラスからなる断熱材層と転写プレートはメカニカルチャックやエアチャック等により着脱自在に金型に把持されている。このため、成形時のヒートサイクルに起因する転写プレートや金型の伸縮によって断熱材層表面が磨耗するのを防ぐため、転写プレートと対向する、あるいは金型と対向する断熱材層の表面にDLC(ダイアモンドライクカーボン)のような低磨耗性・耐摩耗性材料の被覆層を形成する必要がある。
【0007】
また、特許文献4においては、断熱材層として厚さ0.2〜0.6mmの金属ガラスを用いているが、単ロール法など一般的な液体急冷法では大面積で厚膜の均一なアモルファス相の金属ガラスバルク材を製造することは、Zr基、Pd基またはPt基などの金属ガラスや特殊な組成の金属ガラスを除き困難である。断熱層の厚みを0.6mm以上とするような要求に対しては更に対応できる金属ガラスは限定される。その上、Zr基では特殊な組成を除きTgが350℃程度のため高温な融点を持つ樹脂には適用が困難であるし、Pt基は価格が高すぎて実用的でないという問題がある。
【0008】
また、特許文献4においては、金属ガラスからなる断熱材層が金型面に開口した中空構造を有することもできることが記載されているが、Tgの低い金属ガラスでは、このような中空構造は強度低下を招くことがある。
また、大型の金型になると金型基材と断熱層が別体であれば、剛性のある金属ガラスの断熱層では金型素材の間に隙間ができ易く、均一に伝熱や抜熱できるようにすることが困難になる。
【0009】
特許文献5には、転写面として過冷却液体領域を有する非晶質金属である金属ガラスの膜層を用いることが記載され、また、1〜20W/mKの熱伝導率を有する金属ガラスであれば断熱効果も期待できると記載されている。
しかしながら、特許文献5において金属ガラス層はPVD処理、スパッタ処理、イオンプレーティング処理、蒸着法、あるいはCVD処理で形成され、これらの成膜方法では厚膜を得るには非常に時間がかかり高コストの金型となる。また、成形される光学素子の大きさもφ5mm以下に限定されていることからもわかる通り、大面積の成膜が設備的に困難であり、面発光装置に使用する導光板や、光学フィルムなどのように縦横が何れも10〜2000mmの製品の製造に適用することは困難である。また、特許文献5においては、金属ガラスの膜厚は厚くなると剥離の恐れがあるために10〜500μmと制限されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<金属ガラス溶射被膜>
金属ガラスは、加熱すると結晶化前に明瞭なガラス遷移と広い過冷却液体領域を示すことが一つの大きな特徴である。
すなわち、DSC(示差走査熱量計)を用いて金属ガラスの熱的挙動を調べると、温度上昇にともない、ガラス転移温度(Tg)を開始点としてブロードな広い吸熱温度領域が現れ、結晶化開始温度(Tx)でシャープな発熱ピークに転ずる。そしてさらに加熱すると、融点(Tm)で吸熱ピークが現れる。金属ガラスの種類によって、各温度は異なる。TgとTxの間の温度領域ΔTx=Tx−Tgが過冷却液体領域であり、ΔTxが10〜130Kと非常に大きいことが金属ガラスの一つの特徴である。ΔTxが大きい程、結晶化に対する過冷却液体状態の安定性が高いことを意味する。通常のアモルファス合金ではこのような熱的挙動は認められず、ΔTxはほぼ0である。
【0021】
過冷却液体状態が安定化するための組成に関しては、(1)3成分以上の多元系であること、(2)主要3成分の原子径が互いに12%以上異なっていること、及び(3)主要3成分の混合熱が互いに負の値を有していること、が経験則として知られている(ガラス合金の発展経緯と合金系:機能材料、vol.22,No.6,p.5−9(2002))。
【0022】
本発明において、金属ガラスとしては特に制限されず、任意の金属ガラスを適宜選択して用いることができる。例えば、金属ガラスが複数の元素(3元素以上)から構成され、その主成分として少なくともFe、Co、Ni、Ti、Mg、Cu、Pdのいずれかひとつの原子を30〜80原子%の範囲で含有するものが挙げられる。さらに、7族元素(Cr,Mo,W)を3〜40原子%、14族元素(C,Si,Ge,Sn)を1〜20原子%の範囲で各グループから少なくとも1種類以上の金属を組み合わせてもよい。また、目的に応じて、Ca,B,Al,N,P,Hf,Nb,Taなどの元素が合計で25原子%以下の範囲で添加される。これらの条件により、高いガラス形成能を有することになる。
一例としては、Cu
55Zr
40Al
5(以下、下付数字は原子%を示す)、Ni
56Cr
24P
16B
4、Ni
65Cr
15P
16B
4、Fe
43Cr
16Mo
16C
15B
10、Fe
75Mo
4P
12C
4B
4Si
1、Fe
52Co
20B
20Si
4Nb
4等が挙げられる。
【0023】
また、耐食性等に優れる金属ガラスとしては、Cu基では、Cu
100-a-b(Zr
+Hf)
aTi
b又はCu
100-a-b-c-d(Zr+Hf)
aTi
bM
cT
d[ただし式中、Mは、Fe、Cr、Mn、Ni、Co、Nb、Mo、W、Sn、Al、Ta、希土類元素よりなる群から選択される1種又は2種以上の元素、Tは、Ag、Pd、Pt、Auよりなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、5<a≦55原子%、0≦b≦45原子%、30<a+b≦60原子%、0.5≦c≦5原子%、0≦d≦10原子%である]で示される組成を有するもの等が挙げられる(特開2002−256401号公報参照)。また、Ni基としては、Ni
80−xCr
xP
16B
4[ただし、3≦x≦30原子%]で示される組成を有するもの等が挙げられる(Material Transactions,Vol.48,No.12(2007)pp.3176〜3180参照)。また、Fe基としては、Fe
100-a-b-cCr
aTM
b(C
1-XB
XP
y)
c[ただし、式中、TM=V,Nb,Mo,Ta,W,Co,Ni,Cuの少なくとも一種以上、a,b,c,x,yは、それぞれ5原子%≦a≦30原子%,5原子%≦b≦20原子%,10原子%≦c≦35原子%,25原子%≦a+b≦50原子%,35原子%≦a+b+c≦60原子%,0.11≦x≦0.85,0≦y≦0.57]で示される組成を有するもの等が挙げられる(特開2001−303218号公報参照)。
【0024】
なお、本発明で用いる金属ガラスはこれらに限定されるものではないが、光学素子、光学用プレートやシートの製造用としては、成形する樹脂の成形温度よりガラス遷移点が30℃以上高温の金属ガラスであることが好ましい。また、強度、耐食性、コストを考慮して、金属ガラスの主成分(すなわち、金属ガラスの構成元素のうちで原子%が最大である元素)がCu、Ni、あるいはFeであるものが好ましく、さらにはNiまたはFeが主成分である金属ガラスが望ましい。
【0025】
ΔTxで示される過冷却液体温度領域では、粘性流動状態(過冷却液体状態)となって変形抵抗が著しく減少する。
本発明においては、ΔTxが30℃以上であるものが溶射適性や非晶質形成能などの点から好適である。
【0026】
また、樹脂成形時の耐熱性の点から、金属ガラス溶射被膜のガラス遷移温度は成形される樹脂の成形温度(通常は樹脂の融点又はガラス遷移温度以上の温度で成形される)よりも30℃以上高いことが好適である。成形される樹脂の種類にもよるが、通常、光学素子、光学用プレートやシートなどにポリカーボネートなどが使用されることを考慮すると、金属ガラス溶射被膜のガラス遷移温度が350℃以上、より望ましくは400℃以上であることが好適である。金属ガラスの主成分がCu、Ni又はFeであるものは、殆どガラス遷移温度が400℃以上であり望ましい。前記、上限は特に制限されないが、通常は700℃以下である。
【0027】
また、本発明において、金属ガラス溶射被膜の熱伝導率は1〜20W/(m・K)である。
一般に、結晶金属の熱伝導率は50W/(m・K)以上、セラミックスのそれは1〜20W/(m・K)程度、樹脂は0.1〜1.0W/(m・K)程度である。本発明の金属ガラス溶射被膜の熱伝導率は、樹脂には及ばないもののセラミックスとほぼ同等であり、結晶金属の数分の一以下である。
また、後述のように、溶射被膜は溶射粒子の積層構造であるため密着積層していたとしても微視的には残存界面や微細な気孔が存在し、同じ組成のアモルファス相の金属ガラスであっても、通常はバルク材や蒸着膜などに比べて熱伝導率が低い。
また、本発明において金属ガラス溶射被膜の線膨張係数は7×10
−6〜15×10
−6/℃であり、一般的な樹脂成形用金型の基材の線膨張係数との差異が小さいので、加熱・冷却の繰返しによる剥離や割れなどをほとんど生じない。
【0028】
溶射は、何らかの熱エネルギー源によって、被膜となる材料を溶融あるいは半溶融状態にすると同時に、運動エネルギーを付与して高速で飛行する溶融または軟化させた粒子を作り出し、これを次々と基材表面に衝突、積層させて被膜を形成する表面被覆プロセスである。一般的に、溶射被膜は粒子が積層体されたもののためバルク体に比べ粒子間の結合が弱く、気孔のような欠陥を含みやすい。また、粒子を溶融させる程の高温とするため表面が酸化しやすく、このような酸化膜は積層した粒子間結合の伝熱性を低下させる。したがって、金属ガラスの溶射被膜は、金属ガラスの非晶質構造に伴う材料効果に加え、溶射被膜の積層プロセス効果により熱伝導率がさらに低下するため、より有効な断熱層として利用できる。
【0029】
なお、金属ガラスの溶射被膜がこれらの欠陥をほとんど含まないような製造方法も開示されている(特開2006−214000号公報参照)。この方法ではアモルファス相の金属ガラス粉末を溶融せずに過冷却液体状態で溶射するので、気孔、酸化物、結晶相などをほとんど含まない、緻密で均一なアモルファス相の金属ガラス溶射被膜を得ることができる。また、溶融状態で溶射した場合に比べて溶射被膜中の残存応力を少なくできるので、厚膜化したとしても基材からの剥離が非常に生じにくい。なお、このような溶射被膜でも微視的に見れば溶射の積層プロセスに起因して積層粒子間の残存界面や極微細な気孔など本質的な不均一性が存在し得るので、同じ組成のバルク材などに比べれば断熱性に優れている。
【0030】
樹脂精密成形金型では、転写層を加工して転写パターンを作成する。成形製品の欠陥を防止するため転写層に欠陥が無いことが必要であるが、上記の通り、溶射膜にはある程度の欠陥(気孔や酸化物介在物など)は避けられない。そのため、本発明の金属ガラス溶射被膜断熱材を断熱層として用いた樹脂成形用金型においては、後述のように、断熱層に接して、別途転写層を設けることが望ましい。
【0031】
次に、金属ガラス溶射被膜の形成について説明する。
金属ガラスを基材表面に被覆する方法としては、スパッタリング、イオンプレーティング、CVDなどの物理的蒸着法が一般的に行われている。
しかしながら、これらの方法では金属ガラス薄膜は形成できるが、密着性の高い厚膜を得ることは困難であり、高耐久性・高断熱性の要求に十分応えることができない。また、大面積化も困難である。
これに対して、溶射は、簡便性、大面積化、厚膜化、基材との密着性などの点で有利な方法である。
【0032】
金属ガラス溶射被膜を金型基材表面に形成するにあたっては、所望の断熱性を得るのに十分な厚みを形成することが必要である。
この金属ガラス溶射被膜の厚みは、目的とする断熱性に応じて適宜決定すればよいが、通常は0.1mm以上であり、0.6mm以上とすることが望ましい。金属ガラス溶射被膜の厚みの上限は特に制限されるものではないが、厚くなりすぎると不経済であり、通常は2mm以下である。
【0033】
金属ガラス溶射被膜は大面積化が容易であるので、例えば金型基材上に断熱材が形成される面積(金型基材と接する金属ガラス溶射被膜の面積)が100mm
2以上であるような大型の金型に好適に利用できる。例えば、樹脂が転写層と接する面積の最短径が100mm以上、さらには500mm以上、面積で100mm
2以上、さらには1,000mm
2以上、特に10,000mm
2以上であるような大型樹脂成形品用の金型に望ましく適用できる。
樹脂が転写層と接する面積や厚みが大きくなると要求される断熱性も大きくなる。よって、このような場合には断熱層である金属ガラス溶射被膜の厚さも大きくすることが要求されることが多い。例えば、樹脂が転写層と接する面積の最短径が100mm以上、さらには500mm以上であるような大きな金型の場合、金属ガラス溶射被膜の厚さは、好ましくは1mm以上である。
【0034】
金属ガラス溶射被膜は均一の膜厚に形成してもよいし、必要に応じて傾斜溶射被膜として形成することもできる。例えば、複数の異なる金属ガラス溶射被膜を積層した溶射被膜を形成することができる。また、金型基材表面に近いほど粒子径の粗い溶射原料を使用するなどして金型基材に接する金属ガラス溶射被膜が金型表面側の金属ガラス溶射被膜より多孔質となるようにした溶射被膜を形成することもできる。
【0035】
溶射方法としては、例えば、大気圧プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)、コールドスプレーなどがあり、特に制限されるものではない。
【0036】
厚膜の溶射被膜を得るに好適な溶射方法の一つとして金属ガラス粒子を用いた高速フレーム溶射が挙げられ、例えば0.6mm以上の厚膜とした場合でも高品位で残留応力の少ない溶射被膜を得ることができる。また、金属ガラス粒子を高速フレーム溶射と同等あるいはそれ以上の溶射粒子速度を付与可能な溶射法も好適に用いられる。近年では、大気プラズマ装置により、高速フレーム溶射と同等の速度・温度域で溶射可能な装置も開発されている。溶射粒子速度としては、300m/sec以上が好適である。
【0037】
標準的なプラズマ溶射は、粒子速度が150〜300m/sec、フレーム温度は10,000〜15,000Kの範囲であり、プラズマジェット(フレーム)は熱源から40mm程度の距離でも約5,000Kである。フレーム溶射は、粒子速度が100〜200m/sec、フレーム温度は2,300〜2,900Kの範囲である。アーク溶射の粒子速度も、180〜220m/secであり、フレーム溶射と同等である。コールドスプレーは573〜773K程度に加熱したガスで粒子を加速し、粒子の衝突速度を500m/sec以上とする。
一方、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)は、フレーム温度はフレーム溶射と同等であり、粒子速度は300m/sec以上で、標準的なプラズマ溶射の2倍以上にもできる。
このため、一般的な溶射材料金属を溶射した場合の気孔率は、フレーム溶射で12%程度、アーク溶射で8%程度、プラズマ溶射で7%程度であるのに対し、高速フレーム溶射では4%程度となり、密着性も高速フレーム溶射は優れる。
【0038】
密着性も高く厚膜で高品位の溶射被膜を作製するには、アモルファス相の金属ガラス粉末を溶射材料として用い、溶射材料に与える熱量は金属ガラス粉体の少なくとも一部が過冷却液体状態となる最低限の熱量とすることで、通常の溶射の場合に比して溶射材料に対する入熱量を少なくすることが好適である。また、粒子速度に関しては、気孔率が高くなってしまう粒子速度300m/sec以下の溶射方法では、溶射被膜を緻密にするために溶射距離を短くする必要があり、基材が溶射フレーム熱源の影響を受け易い。そのため、溶射距離を十分とることができて気孔率が低い高速フレーム溶射法、あるいは高速フレーム溶射法と同等以上の粒子速度を与える溶射法が好適である。
この場合、金属ガラス粒子の粒子径は、積層を緻密にするため、1〜70μmが望ましい。より好ましくは20〜60μmである。粒子径が小さすぎると溶射時にバレル内に溶融粒子が付着しやすくなったり、所望の膜厚とするのに溶射回数が増えたり、など生産性が低下する。また、バレル内に付着凝固した粒子がバレルから剥がれて溶射されると、溶射被膜の均一性が低下する。
【0039】
このようなアモルファス相の金属ガラス粉末を溶射材料としてその少なくとも一部を溶融させずに過冷却液体状態で溶射する方法により、金型表面に厚膜(例えば0.6mm以上の厚み)を形成した場合でも、残留応力の少ない、非常に緻密で且つアモルファス相の金属ガラス溶射被膜を形成することができる。このような方法で得られた溶射被膜は、酸化物や結晶質相をほとんど含まず、また、溶融状態から急冷して得られた金属ガラスに比べて溶射被膜中の残存応力も非常に小さい。
なお、気孔率は、金属ガラス層の任意の断面を画像解析し、気孔の最大面積率を気孔率として測定することができる。
【0040】
一方、本発明では、多孔質で且つ/又はある程度酸化物を含む金属ガラス溶射被膜を断熱材とすることもできる。これは、溶射被膜の強度や耐蝕性の点で問題ない限り、断熱性を高くするという点では望ましい。このような溶射被膜を得るには、上記のような特別な管理をしない通常のフレーム溶射やプラズマ溶射などを行うことが好ましい。
この場合、金属ガラス粒子の粒子径は、25〜150μm、好ましくは50〜100μmである。粒子が大きいと、標準的なプラズマ溶射のようなより高温の条件で溶射した場合には粒子表面の一部は溶融し酸化するが、内部は非晶質の金属ガラスに保たれる。
また、粒子が大きくなるため、積層した粒子間に空孔ができやすくなり、例えば真密度の70〜95%の溶射被膜が得られる。また、溶融により粒子表面が酸化するため積層した粒子間に酸化膜ができる。これらの効果により熱伝導率が低下する。
【0041】
金属ガラス粒子の形状は特に限定されるものではなく、板状、チップ状、粒状、粉体状などが挙げられるが、好ましくは溶射時に衝突する際に基材損傷を避け、負荷を軽減できる形状であり、均一に熱量を与えられる粒状あるいは粉体状である。金属ガラス粒子の調製方法としては、アトマイズ法、ケミカルアロイング法、メカニカルアロイング法などがあるが、生産性と球状化を考慮すればアトマイズ法によって調製されたものが特に好ましい。
【0042】
溶射熱源を燃焼エネルギーとする場合、溶射燃料としては、灯油、アセチレン、水素、プロパン、プロピレン等を用いることができる。溶射熱源を電気エネルギーとする場合、プラズマガスとしては、アルゴン、水素、ヘリウム等を用いることができる。
また、溶射では通常搬送ガスとしてN
2ガスが使用されるが、窒化物の形成により被膜組成や緻密性などに影響を及ぼすことがある。これは、空気(ドライエアー)、酸素、不活性ガス(Ar、He等)などを搬送ガスとして用いることにより改善される。空気や酸素では酸化の効果があるが、緻密で結晶率の低い溶射被膜を必要とする場合は搬送ガスとして不活性ガスを用いることが好ましい。
【0043】
金属ガラスの溶射被膜は、様々な形状の金型表面に形成することができ、金型としては凹凸形状を有するものや、円筒状、パイプ状、ロール状、多孔質状であってもよい。
また、金属ガラス溶射被膜はマスキング等によりパターン化して形成することもできる。
【0044】
また、一般的な溶射材料である結晶質合金では、溶融体から固体へ冷却された場合に、数%の凝固収縮を生じる。
これに対して、金属ガラスが溶融体から固体へ冷却された場合、冷却速度を適切に制御すれば結晶化による凝固収縮することなく過冷却液体状態となることができ、その体積は過冷却液体領域の熱膨張係数に従って連続的且つ僅かに収縮する。そして、金属ガラスが融点以下で溶融することなく過冷却液体状態から冷却された場合には、溶融体から冷却された場合に比べてさらに収縮量が少なくなる。
よって、金属ガラスを溶融させずに過冷却液体状態で溶射すれば、金型基材と溶射被膜との接合面に発生する残留応力が非常に小さくなるので、金型の変形や破壊、溶射被膜の剥離や割れの抑制に効果的である。
【0045】
<樹脂成形用金型>
本発明の樹脂成形用金型は、断熱層として上記のような金属ガラス溶射被膜が金型基材表面に直接接合して形成されたことを特徴とする。さらに金属ガラス溶射被膜表面には、樹脂に付与すべき転写パターンを有する転写層を必要に応じて備えることができる。
金型基材としては、金属製とセラミックス製があるが、本発明は大型の樹脂成形用金型を対象とするため、金型の強度・靱性及びコストから金属製が望ましい。金属製金型素材は熱伝導率がセラミックスに比較して優れるため、生産性の意味でも望ましい。
【0046】
溶射被膜は蒸着膜などに比べると表面の均一性などに劣る場合があるため、本発明においては、転写パターンの微細加工性や転写精度を保証するために、金属ガラス溶射被膜の表面に別途転写層を形成することが好ましい。通常転写層は熱伝導率が比較的高いので、転写層表面に成形材料である樹脂が接触した際には、樹脂からの熱が速やかに断熱層にまで伝導される。断熱層は、金属製金型素材より熱伝導率が低いため、伝導された熱は金属製金型素材に直ぐに奪われることがなく、樹脂の温度低下が阻止される。
【0047】
転写層の樹脂と接触する表面(溶射被膜に接合していない方の表面)には転写パターンが機械加工などにより形成される。
転写層の厚さは、転写パターンが形成可能な範囲で適宜決定すればよいが、厚すぎると経済性に劣り、薄すぎると耐久性に問題を生じるおそれがあるので、転写層の肉薄部で10〜100μm、通常は10〜30μm程度である。
なお、転写層は特に限定されず、通常樹脂成形用金型の転写層として用いられているものであれば何れも適用可能である。
【0048】
本発明において、金型基材の材質は金属製が望ましく、例えば、銅、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄、ニッケル、モリブデン、ならびにこれら金属の少なくとも一種を主成分とする合金から選択される金属材料が挙げられる。一般的で安価な工具鋼、特に高速度工具鋼SKHや高合金工具鋼SKDなどの鉄合金は、より好ましく使用できる。
また、金属ガラス溶射被膜を形成する金型基材表面には、密着性を高めるために、ブラスト処理などを行ってもよい。
【0049】
金属ガラス溶射被膜層の熱伝導率が1〜20W/(m・K)と一般の結晶金属に比べて低いので、金型表面に高温の樹脂が接触した際の急激な冷却が抑制され、樹脂の流動性が低下したり、表面に固化層(スキン層)が形成されたりしにくくなるため、金型表面全体に樹脂が行き渡るための時間が確保される。その結果、冷却固化後の樹脂成形品の転写精度や均質性が改善される。
なお、本発明において金属ガラス溶射被膜は、断熱性などの観点から、膜厚が100μm以上、さらには600μm以上であることが好適である。
【0050】
本発明にかかる金型の一例を
図1に示す。
図1の金型10は、射出成形装置の金型であり、第1金型12aと、第1金型12aに対向する第2金型12bとを有し、第1金型12aと第2金型12bとでキャビティ14が形成されている。第1金型12a、第2金型12bはそれぞれ金属材料(例えばSKD5など)からなる基材24a及び24bを有する。第2金型基材24bのキャビティ14側の表面には、断熱層として金属ガラス溶射被膜16bが直接接合して形成されており、金属ガラス溶射被膜16bの表面には転写層17bが接合して形成されている。この転写層17b表面(金属ガラス溶射被膜と接合していない方の表面)には、樹脂への転写パターン18(図示せず、
図2参照)が設けられている。
第1金型には湯口20が設けられ、第1金型及び第2金型の少なくとも一方は進退可能である。湯口20を通してキャビティ14に充填された溶融あるいは軟化した樹脂が固化した後に、進退可能な金型が後退することで樹脂成形品を取り出せるようになっている。
【0051】
なお、このような構成は射出成型用金型に限らずそれ以外の金型にも適用できる。所謂、Tダイ法といわれるシート成形装置の金型(ロール)を例に挙げれば、例えば3ロール式のTダイ法によるシート成形装置においては、Tダイを備える押出し機と、Tダイから押出された溶融あるいは軟化した樹脂をシート状に連続的に成形するための第1、第2、第3の3つの円筒状の金属製ロール金型とを備えている。第1〜第3ロールはこの順序で回転軸が平行且つ同一平面上に配置され、且つ、目的とする樹脂シート厚さに応じた間隔を有するように配置される。
【0052】
3つのロールの基材の表面にはそれぞれ金属ガラス溶射被膜が断熱層として直接接合して形成され、金属ガラス溶射被膜の表面には転写層がそれぞれ接合して形成される。第1ロール及び第3ロールの最表面の転写層の表面には鏡面が、第2ロールの最表面の転写層の表面には微細な凹凸パターンが、それぞれ転写パターンとして設けられる。
【0053】
そして、押出し機を用いてペレット状樹脂を溶融あるいは軟化させながら一定速度でTダイから押出し、押出された樹脂を鏡面ロールである第1ロールと転写面を持つロールスタンパである第2ロールとの間、次いで第2ロールに保持したままで第2ロールと鏡面ロールである第3ロールとの間を通してシートの厚み調整とパターン転写を行うことにより、片面に鏡面、他方の面に微細な凹凸パターンがそれぞれ転写された樹脂シートを得ることができる。
【0054】
図1のような射出成形金型によれば、金属ガラス溶射被膜からなる断熱層を有しているので、キャビティ内に充填された樹脂が金型に接触した際の急激な冷却が抑制され、転写パターン上の隅々にまで樹脂が均一に流れ込む時間が確保される。その結果、転写精度や均質性の高い樹脂製品が得られる。
同様に、前記のようなシート成形装置金型によれば、ロールが金属ガラス溶射被膜からなる断熱層を有しているので、Tダイから押出された樹脂がロールに接触した際の急激な冷却が抑制され、転写パターン上の隅々にまで樹脂が均一に流れ込む時間が確保される。その結果、転写精度や均質性の高い樹脂製品が得られる。
【0055】
図1の第2金型12bの断面は、
図2に示すように、第2金型の基材24bの表面に金属ガラス溶射被膜16bが直接接合し、金属ガラス溶射被膜16bの表面にはさらに転写層17bが接合した構造となっている。そして、転写層17bのキャビティに対向する表面には、切削等により凹凸からなる転写パターンが形成されている。
また、前記シート成型装置金型の第2ロールにおいても、同様に第2ロールの基材の表面に金属ガラス溶射被膜が直接接合し、金属ガラス溶射被膜の表面にはさらに転写層が接合した構造とし、転写層の金属ガラス溶射被膜に接合していない側の表面には、切削等により凹凸からなる転写パターンが形成される。また、第1ロール及び第3ロールについても、転写層表面に研磨等により鏡面からなる転写パターンが形成されていること以外は第2ロールと同様の構造を有することができる。
【0056】
なお、
図1においては、第2金型基材24b表面に金属ガラス溶射被膜16b及び転写層17bを有しているが、必要に応じて、第1金型基材24a表面にも金属ガラス溶射被膜及び転写層を有していてもよい。また、第1金型基材24aや第2金型基材24bの一部の表面だけに金属ガラス溶射被膜及び転写層を有していてもよい。また、転写パターン18も転写層表面の一部にだけ設けられていてもよい。前記シート成型装置金型においても同様である。
また、転写パターンは凹凸パターンのみでなく、目的とする樹脂成形品に応じた転写パターンを形成すればよい。また、転写パターンはその一部あるいは全部が鏡面であってもよい。
【0057】
本発明の金型においては、目的とする断熱効果に応じて、金属ガラス溶射被膜を気孔率や組成などが異なる複数の金属ガラス溶射被膜の積層構造としてもよい。例えば、
図3に示すように、金型基材50の表面に気孔率の高い酸化物を含む第1の金属ガラス溶射被膜52を形成して断熱層とし、この第1の金属ガラス溶射被膜52の表面に第1の金属ガラス溶射被膜よりも気孔率の低い緻密で酸化物を殆ど含まない第2の金属ガラス溶射被膜54を形成することができる。そして、第2金属ガラス溶射被膜54の表面には転写パターン56を有する転写層を形成することができる。
【0058】
転写層表面に転写パターンを形成する方法としては特に制限されず、例えば、切削や研磨、転写などの機械加工、エッチング処理などが挙げられる。
また、樹脂表面をマット仕上げとしたい場合などでは、転写層表面にブラスト処理した表面を転写パターンとして用いることも可能である。
【0059】
本発明の金型は、各種樹脂成形用の金型として使用することができ、射出成形の他に、例えば、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、カレンダー成形などが挙げられるがこれに限定されるものではない。また、金型の形状としては、射出成形法の金型、押出成形法のダイ、溶融押出成形法の転写用ロールなどに適用することができる。
【0060】
また、本発明の金型は、各種樹脂製品の製造に使用可能であり、例えば、PCや携帯電話、PDA等にて使用される液晶表示装置用において使用される透明樹脂製の導光板、光学素子(回折光学素子、光学レンズ、ミラーなど)、DVDやCDなどの光学式ディスク、光学フィルム(プリズムシート、フレネルレンズシートなど)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、光学用プレートやフィルムなどにおいては、樹脂製品に透明性が要求される場合があるが、本発明の金型は透明樹脂製品の製造にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明で作製した金属ガラス溶射被膜の溶射条件、並びに、特性評価に用いた測定方法は次の通りである。
【0062】
溶射条件1
プラズマ溶射装置:Sulzer Metco社製 TriplexPro−200
(高速モード)
電流:450A
電力:57kW
使用プラズマガス:Ar95(NLM)、He25(NLM)
溶射距離(溶射ガン先端から基材表面までの距離):150mm
溶射ガン移動速度:600mm/sec
【0063】
溶射条件2
HVOF装置:日本ユテク社製 JP−5000
粉末搬送ガス:N
2
燃料:灯油、5.1GPH
酸素:1800SCFH
溶射距離(溶射ガン先端から基材表面までの距離):380mm
溶射ガン移動速度:667mm/sec
【0064】
測定方法
(1)DSC測定
金属ガラス粉末のガラス遷移温度Tg、結晶化開始温度Txは、示差走査熱量計((株)リガク製 DSC8270型)を用い、アルゴンガス雰囲気中で、昇温速度20.0℃/分により求めた。
【0065】
(2)X線回折
金属ガラス粉末及び溶射被膜がアモルファスであるか否かは、X線回折装置((株)リガク製 SmartLab)により確認した。X線回折パターンにおいて、結晶ピークがなく、ハローパターンのみが認められた場合をアモルファス単一相とした。
【0066】
(3)熱伝導率の測定
金属ガラス溶射被膜の熱伝導率は、熱定数測定装置(NETZSCH製 熱定数測定装置 LFA457)を用いて、レーザーフラッシュ法 JIS R1611−2010「ファインセラミックスのフラッシュ法による熱拡散率、比熱容量、熱伝導率試験方法」に準拠して、熱拡散率と比熱容量を測定し、別途求めた溶射被膜の密度との積により、溶射被膜の熱伝導率を算定した。なお、溶射被膜の密度は、室温での単位体積あたりの質量である。
【0067】
(4)線膨張係数の測定
金属ガラス溶射被膜の線膨張係数は、熱機械分析装置((株)リガク製 TMA8130型)を用いて、圧縮荷重法(圧縮荷重10g、昇温速度10℃/sec)にて組成に応じて室温からガラス遷移温度(Tg)+100℃迄、アルゴンガス雰囲気中で測定した。
【0068】
各種組成の金属ガラス粉末をガスアトマイズ法で作製した。粉末は、53μm、25μm及び10μmで篩分級し、溶射に用いた。粉末は、X線回折によりアモルファス単一相の粉末であることを確認した。
評価用溶射被膜は、表1に記載の粉末組成・粒度・溶射条件で作製した。
また、金属ガラスの粉末をDSC測定した結果及び評価用溶射被膜の気孔率を測定した結果を表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
熱伝導率の評価用金属ガラス溶射被膜の製造
製造例1を例に、熱伝導率の評価用金属ガラス溶射被膜の製造方法を説明する。
アモルファス単一相からなるNi
65Cr
15P
16B
4金属ガラスのガスアトマイズ粉末(10〜25μm)をSUS304基材(50×50×5mm、ブラスト処理仕上げ)に溶射して、基材表面にピンホールのないNi
65Cr
15P
16B
4金属ガラス溶射被膜層(約500μm)が形成された金属ガラス複合材料を得た。
【0072】
X線回折のハローパターンから、得られた複合材料のNi
65Cr
15P
16B
4金属ガラス溶射被膜層がアモルファス単一相であることを確認した。また、溶射被膜層の気孔率は約1.0%であった。
複合材料からNi
65Cr
15P
16B
4金属ガラス溶射被膜を剥離し、熱伝導率の評価用に10mmφに切り出した溶射被膜試験片を作製し、その熱伝導率を測定した。その結果を下記表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
同様に複合材料から金属ガラス溶射被膜を剥離し、評価用試験片を作製して、製造例2〜7の熱伝導率の評価を実施した。結果を下記表4に示す。また、比較のために、Ni、Fe、Cuの熱伝導率(文献値、日本金属学会編 改訂2版 金属データブック p.13)も併記した。
【0075】
表3〜4からわかるように、Ni
65Cr
15P
16B
4金属ガラス溶射被膜の熱伝導率は、非晶質であるガラス遷移温度Tg以下の300℃でも結晶金属(Ni)の約15%以下とかなり低く、断熱効果のある金属材料として有用であることがわかる。また、結晶化開始温度Tx以上である500℃でも、Ni
65Cr
15P
16B
4金属ガラス溶射被膜の熱伝導率は結晶金属(Ni)の約19%であり、非晶質状態に比較して断熱効果は低下するが、結晶金属(Ni)よりは断熱効果があることが理解される。
【0076】
その他の製造例2〜7の金属ガラス溶射被膜についても、X線回折よりアモルファス単一相であること、気孔率も2%以下であることを確認した。更に、熱伝導率の測定結果より、製造例2〜7の金属ガラス溶射被膜は何れも結晶金属(Ni、Fe、Cu)に比べ断熱効果が高く、且つ、いずれも測定した室温からTgより低い温度域で、1〜20W/(m・K)の熱伝導率特性を示した。
一方で、Tgを超える温度域として、製造例1、2にて、500℃、製造例5、6にて700℃でも、1〜20W/(m・K)の熱伝導率特性を示すものの、被膜は結晶化して脆く、耐久性に問題があった。従って、樹脂成形時の耐熱性の点から、金属ガラス溶射被膜のガラス遷移温度は成形時の樹脂温度よりも30℃以上高いことが好適である。
【0077】
【表4】
【0078】
下記表5は、25〜53μm粉末を使用して溶射条件2で250〜300μm厚さで作成したNi
65Cr
15P
16B
4金属ガラス溶射被膜、Fe
76Si
5.7B
9.5P
5C
3.8金属ガラスの溶射被膜について、同じ組成のバルク材と電気抵抗率を比較したものである。なお、金属ガラス溶射被膜は何れもアモルファス単一相であり、断面観察から気孔率は2%以下で、酸化物層も認められなかった。また、バルク材は何れも溶融体からの液体急冷法で作製したアモルファス単一相の金属ガラスであった。
金属ガラスにおいても、少なくともTg以下の温度ではWiedemann−Franz則が成り立つので、電気抵抗率が高い程熱伝導率は低くなる。よって、表5から、溶射被膜の熱伝導率がバルク材に比べて低いことが理解される。
【0079】
【表5】
【0080】
SUS304基材(15×6×5mm、ブラスト処理仕上げ)を用いて膜厚を1mmとした以外は前記製造例1〜7と同様にSUS304基材表面に金属ガラス溶射被膜を形成した。下記表6に示すように、何れの場合にもアモルファス単一相からなる金属ガラス溶射被膜が得られた。また、溶射被膜は非常に緻密であり(気孔率2%以下)、基材からの溶射被膜の剥離や、溶射被膜からの層剥離、溶射被膜の割れなどもなかった。
【0081】
【表6】
【0082】
基材から金属ガラス溶射被膜を剥離し、線膨張係数の評価用に長さ12×幅5.5×厚み1mmに切り出した溶射被膜試験片を作製し、その線膨張係数を測定した。代表例として、製造例2(Ni
65Cr
15P
16B
4)、製造例4(Fe
76Si
5.7B
9.5P
5C
3.8)及び製造例5(Fe
43Cr
16Mo
16C
15B
10)の線膨張係数を下記表7〜9にそれぞれ示す。
【0083】
【表7】
【0084】
【表8】
【0085】
【表9】
【0086】
表7〜9からもわかるように、金属ガラス溶射被膜の線膨張係数は何れも7×10
−6〜15×10
−6/℃であり、樹脂成形用金型に用いられる金属製金型基材の線膨張係数(通常5×10
−6〜20×10
−6/℃)との差が小さい。よって、本発明の断熱材は、樹脂成形時の加熱・冷却の繰返しによる金型基材からの剥離や割れ等の欠陥発生を生じにくいことが理解される。