(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029139
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】液晶中の不純物除去方法と装置
(51)【国際特許分類】
C09K 19/00 20060101AFI20161114BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20161114BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20161114BHJP
B01J 39/04 20060101ALI20161114BHJP
B01J 47/08 20060101ALI20161114BHJP
B01D 61/48 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
C09K19/00
G02F1/13 101
B01D61/44 500
B01J39/04
B01J47/08
B01D61/48
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-31209(P2013-31209)
(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公開番号】特開2014-159017(P2014-159017A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】栂 伸司
(72)【発明者】
【氏名】辻 知宏
(72)【発明者】
【氏名】蝶野 成臣
【審査官】
磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−215003(JP,A)
【文献】
特開2010−26032(JP,A)
【文献】
特開平7−128674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 19/00
G02F 1/13
B01D 61/44
B01D 61/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理される液晶とイオン吸着剤を、多数の微細孔が形成されたフィルタの表裏に接触させ、前記イオン吸着剤に電場をかけて、前記フィルタを介して、前記液晶中の不純物イオンの電荷とは反対の極性の領域を前記フィルタに接した前記イオン吸着剤に形成し、前記液晶中の不純物イオンを、前記フィルタを介した浸透圧の差により、前記イオン吸着剤側に引き寄せて前記液晶中から除去することを特徴とする液晶の不純物除去方法。
【請求項2】
前記不純物イオンは、プラスイオンであり、前記イオン吸着剤の前記フィルタに接している側とは反対側にマイナスの電場をかけて、前記フィルタ側の前記イオン吸着剤のプラスイオンを減少させ、前記フィルタを介して前記不純物イオンを前記イオン吸着剤側に引き寄せる請求項1記載の液晶の不純物除去方法。
【請求項3】
処理される液晶を流す液晶供給部とイオン吸着剤を流す吸着剤供給部とを設け、前記液晶供給部と前記吸着剤供給部に各々開口部を形成し、この開口部同士を対面させて配置し前記各開口部を閉鎖するとともに隔離する1枚のフィルタを設け、前記吸着剤供給部の前記フィルタ側とは反対側に電極を備え、前記液晶と前記イオン吸着剤を前記フィルタの表裏に接触させ、前記イオン吸着剤に前記電極により電場をかけて、前記液晶中の不純物イオンを前記イオン吸着剤側に引き寄せて前記液晶中から除去することを特徴とする液晶の不純物除去装置。
【請求項4】
前記イオン吸着剤は、イオン交換樹脂である請求項3記載の液晶の不純物除去装置。
【請求項5】
前記液晶供給部と前記吸着剤供給部には、前記フィルタを挟んで、互いに反対方向に流れて供給される請求項3記載の液晶の不純物除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶ディスプレイ等に用いられる液晶材料中に存在するイオン性不純物を除去する不純物除去方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、液晶を介して互いに対向配置したガラスから成る透明基板を備え、該ガラス表面に沿って多数の画素が配列されて表示部が形成されている。透明基板上には透明電極が形成され、所定の配列に形成された電極に電圧が印加されて、各電極毎に液晶の透光性が制御される。このような液晶表示素子は、その透明基板上に形成された配向膜やシール材の表面等に、種々のイオン性不純物が存在している。そのため、このイオン性不純物が液晶中に溶出して、表示特性及び耐久性、信頼性に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0003】
液晶表示素子は、各画素に数十msec毎に電圧を掛けて電荷を供給することにより駆動するので、電荷が供給されてから数十msec後の次の書き込み時間までの間は、与えられた電荷を保持しなければならない。しかし、イオン性不純物が存在すると、液晶の比抵抗が低下してリーク電流が流れ易くなり、液晶の電圧保持特性が低下する。電荷を完全に保持できず電荷が逃げると、電極間の電位が下がり、透過光強度が変化してコントラストが低下してしまう。このため、各画素に薄膜トランジスタをつけた液晶ディスプレイは、特に高い電圧保持特性が求められている。
【0004】
液晶材料の電圧保持率には液晶材料中に含まれる不純物の影響が大きく、特にイオン電流の発生により液晶表示素子の電圧降下をきたすイオン性不純物の影響が大きく、これを防止するために、液晶材料を高純度に精製する必要がある。
【0005】
従来、液晶材料から不純物を除く方法としては、ゼオライトやイオン交換樹脂、活性アルミナ等のイオン吸着剤例に液晶を直接接触させて不純物を除去していた。例えば、特許文献1〜4に開示されているように、液晶表示パネルに液晶を注入する際に、不純物を吸着する吸着体に液晶材料を接触させて液晶を封入する方法が行われていた。
【0006】
さらに、液晶を一対の電極間に配置して、電場を印加してイオン性不純物を除去する方向も提案されている。例えば、特許文献5,6に開示されている方法は、液晶材料に電圧を印加し、液晶材料中に存在するイオン源となりうる不純物を電界の力で正負のイオンに解離させ、生成したイオンと電圧印加前から存在していたイオンの両方を電界の力で捕集し、高純度化する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−175073号公報
【特許文献2】特開平7−181508号公報
【特許文献3】特開2001−183683号公報
【特許文献4】特開2003−24704号公報
【特許文献5】特開2003−64363号公報
【特許文献6】特開2003−64364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記背景技術に開示された方法は、いずれも液晶をイオン吸着剤に直接接触させてイオン性不純物を除去するものであり、イオン吸着剤自身の不純物や補足したイオン性不純物が液晶中に混入する恐れがあり、十分な除去効果が得られないものであった。さらに、液晶パネルへの封入時に接触させる場合や、封入口に吸着剤を設けたものは、液晶材料の連続的な処理を行うものではなく、処理効率の悪いものであった。一方、液晶の前処理として、不純物を吸着させる方法は、頻繁に吸着剤を交換しなければならず、作業が面倒なものであった。
【0009】
また、液晶中に電界をかける方法は、十分な電界を液晶全体にかけることが難しく、効率的な処理が困難で、大量の液晶の処理には不向きな方法であった。
【0010】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、液晶中の不純物を連続的に効率よく除去することができる液晶の不純物除去方法と不純物除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、処理される液晶とイオン吸着剤を、多数の微細孔が形成されたフィルタの表裏に接触させ、前記イオン吸着剤に電場をかけて、前記フィルタを介して、前記液晶中の不純物イオンの電荷とは反対の極性の領域を前記フィルタに接した前記イオン吸着剤に形成し、前記液晶中の不純物イオンを、前記フィルタを介した浸透圧の差により、前記イオン吸着剤側に引き寄せて前記液晶中から除去する液晶の不純物除去方法である。
【0012】
前記不純物イオンは、プラスイオンであり、前記イオン吸着剤の前記フィルタに接している側とは反対側にマイナスの電場をかけて、前記フィルタ側の前記イオン吸着剤のプラスイオンを減少させ、前記フィルタを介して前記不純物イオンを前記イオン吸着剤側に引き寄せるものである。
【0013】
またこの発明は、処理される液晶を流す液晶供給部とイオン吸着剤を流す吸着剤供給部とを設け、前記液晶供給部と前記吸着剤供給部に各々開口部を形成し、この開口部同士を対面させて配置し前記各開口部を閉鎖するとともに隔離する1枚のフィルタを設け、前記吸着剤供給部の前記フィルタ側とは反対側に電極を備え、前記液晶と前記イオン吸着剤を前記フィルタの表裏に接触させ、前記イオン吸着剤に前記電極により電場をかけて、前記液晶中の不純物イオンを前記イオン吸着剤側に引き寄せて前記液晶中から除去する液晶の不純物除去装置である。前記イオン吸着剤は、例えばイオン交換樹脂である。
【0014】
前記液晶供給部と前記吸着剤供給部には、前記フィルタを挟んで、互いに反対方向に流れて供給されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の液晶の不純物除去方法と不純物除去装置によれば、処理される液晶を不純物が付着する吸着剤等に直接に接触させることなく、連続的に不純物を除去することができ、効率の良い処理を行うことができる。これにより、大量の液晶を高効率で高純度に処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の一実施形態の液晶不純物除去の原理を示す模式図である。
【
図2】この実施形態の液晶不純物除去装置を示す概略図である。
【
図3】この発明の実施例において、液晶の不純物除去効果を確認する装置の概略図である。
【
図4(a)】この発明の実施例による液晶の不純物除去処理を行う前の液晶において、電圧をかける前の状態を示す写真である。
【
図4(b)】この発明の実施例による液晶の不純物除去処理を行う前の液晶に3.5Vの電圧をかけた状態を示す写真である。
【
図4(c)】この発明の実施例による液晶の不純物除去処理を行う前の液晶に5Vの電圧をかけた状態を示す写真である。
【
図5(a)】この発明の実施例による液晶の不純物除去処理を行った液晶において、電圧をかける前の状態を示す写真である。
【
図5(b)】この発明の実施例による液晶の不純物除去処理を行った液晶に3.5Vの電圧をかけた状態を示す写真である。
【
図5(c)】この発明の実施例による液晶の不純物除去処理を行った液晶に5Vの電圧をかけた状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1、
図2はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の液晶不純物除去装置10は、蒸留水中にイオンが分散したイオン吸着剤12を備えている。イオン吸着剤12は、プラスイオン12aを供給するプラスイオン吸着分子12bを有したもので、スルホン酸型等のイオン交換樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム等の高分子電解質の水溶液や懸濁液、ポリスチレン等のコロイド溶液等である。
【0018】
イオン吸着剤12には、電圧が印加され電場を形成する板状の電極14が直接に接触している。電極14は、プラス又はマイナスの電圧を印加する電圧制御部15に接続され、所定の電圧を印加可能に設けられている。
【0019】
イオン吸着剤12の、電極14側とは反対側には、イオン吸着剤12中のプラスイオン12aであるH
+イオンやNa
+イオンが通過可能な多数の微細孔16aが形成されたフィルタ16が設けられ、イオン吸着剤12と接している。フィルタ16は、ポリカーボネート等の樹脂フィルムであり、微細孔16aの直径は、通過させるイオンにより決定されるが、30〜70nm、好ましくは50nm程度、45〜55nmが良い。フィルタ16の厚さは、5〜10μm程度である。フィルタ16は、薄く剛性がないので、多数のスリット等が形成された図示しない薄い樹脂板製のフィルタ押さえ等により挟持されているのが好ましい。
【0020】
イオン吸着剤12は、
図2に示すように、吸着剤供給部22内を通過可能に設けられ、後述する液晶供給部24の側面に形成された開口部22aにフィルタ16が位置している。フィルタ16のイオン吸着剤12側とは反対側の面には、液晶20が接触する。液晶20は、
図2に示すように、液晶供給部24内を通過可能に設けられ、液晶供給部24の側面に形成された開口部24aにフィルタ16が位置している。吸着剤供給部22と液晶供給部24は、開口部22a,24aを互いに対向させて配置され、開口部22a,24aは共通のフィルタ16により仕切られて、吸着剤供給部22と液晶供給部24の空間は互いに隔離されている。
【0021】
次に、この発明の実施形態の液晶20の不純物除去方法について説明する。イオン吸着剤12は、
図1(a)に示すように、例えばイオン化したポリスチレン等のコロイドやイオン交換樹脂のプラスイオン吸着分子12bであり、プラスイオン吸着分子12bから電離したプラスイオン12aが多数存在している。この状態で、電圧制御部15により電極14にマイナスの電圧、例えば60Vを印加すると、
図1(b)に示すように、電極14によるマイナス電場により、イオン吸着剤12中のプラスイオン12aが電極14側に寄せられるとともに、プラスイオン吸着分子12bの負に帯電した高分子鎖がフィルタ16側に寄せられる。この状態でフィルタ16に接した液晶20では、液晶20中のプラスの電荷を有する不純物イオン20aがフィルタ16側に寄せられ、イオン吸着剤12側のプラスイオンが少ないことから浸透圧の作用により、不純物イオン20aがフィルタ16の微細孔16aを通過してイオン吸着剤12側に浸透する。
【0022】
具体的には、プラスイオン吸着分子12bとしての強酸性陽イオン交換樹脂(H型)は、末端のスルホン酸基(−SO
3H)が水中で、−SO
3−とH
+に解離し、負に帯電したイオン交換樹脂分子を中心に電気二重層を構成する。この状態で、電極14に負電圧を印加し、イオン交換樹脂に負電場を加えると、電気二重層中のH
+が電極14側に寄せられ、負に帯電したイオン交換樹脂分子がフィルタ16側に押し出される。これにより、液晶20中に分散しているプラスの不純物イオン20aがフィルタ16側に寄せられ、浸透圧の差により不純物イオン20aが微細孔16aを通過して吸着剤12側に移行し、液晶20中の不純物イオン20aが回収される。
【0023】
液晶20中の不純物イオンを連続的に回収して、液晶20を連続的に高純度化するには、
図2に示すように、イオン吸着剤12を吸着剤供給部22中に流し、液晶20を液晶供給部24中に流す。イオン吸着剤12と液晶20が接したフィルタ16の面積は、液晶20の純度が所定の値になる程度に面積や接触距離を設定する。
【0024】
従って、液晶20は、フィルタ16に接しながら不純物イオン20aが除去されて、高純度化するので、イオン吸着剤12は、
図2に示すように、液晶20の流れ方向とは逆方向に流すことにより、より効果的な処理が可能となる。
【0025】
以上述べたように、この実施形態の液晶の不純物除去方法と不純物除去装置によれば、不純物イオン20aが通過可能なフィルタ16を介して、液晶20からイオン吸着剤12側へ連続的に不純物イオンを分離して取り出すことができる。一旦イオン吸着剤12側に移行した不純物イオン20aは、液晶20側には移行することがない。従って、極めて効率よく液晶20中の不純物イオン20aを除去することができ、連続的に液晶20を処理することができる。しかも、従来のように処理を止めて吸着剤の交換を行うことがなく、この点からも効率的に処理することができる。
【0026】
なお、この発明の液晶中の不純物除去方法と装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、イオン性の不純物であれば、プラス極性のもの以外にマイナス極性のイオン性不純物の除去にも、電圧制御部15により印加する電圧をプラス側にすることにより、吸引除去することができる。また、使用するイオン吸着剤は、イオン交換樹脂以外に、ポリスチレンやシリカのコロイド粒子が液体中に分散したものでも良い。
【実施例】
【0027】
次に、この発明の液晶の不純物除去方法の一実施例として、イオン吸着剤に強酸性陽イオン交換樹脂(H型)を用い、液晶中に不純物イオンとしてH
+イオンを分散させた例を
図4、
図5に示す。
【0028】
この実験では、一対のガラス基板30間に封入された液晶20について、注入された不純物イオンの除去効果を確認した。効果の確認は、互いに偏光面が直交する配置の2枚の偏光板26,28を介して、カメラ32により、液晶20に電圧を掛けた際の透光性、遮光性を見た。
【0029】
その結果、
図4に示すように、不純物イオンを含んだ液晶では、
図4(a)(b)に示すように、電場を掛ける前(a)と同様に、3.5V印加した状態(b)ではまだ透光性を示し、液晶20の動作としての遮光性がなかった。さらに、液晶20に5Vの電圧を掛けると、
図4(c)に示すように遮光性が表れた。
【0030】
これに対して、この発明の上記実施形態の方法により、不純物イオンをフィルタ16を介して、イオン吸着剤12により除去した液晶では、
図5(a)に示す電圧を掛けない状態から、
図5(b)に示すように、電圧を3.5V印加した状態で遮光性を示し、5V印加した状態でも同様の遮光性を示した。
【0031】
これにより、この発明の方法を用いて高純度に処理した液晶は、低電圧での駆動が可能であり、電圧保持効果の高い液晶であることが確認できた。
【0032】
以上の実験で、この発明による不純物除去方法を用いることにより、効果的に液晶中の不純物イオンを除去することができ、連続的な液晶処理により、効率的に高純度の液晶を製造することができることが確認された。
【0033】
次に、液晶中に含まれる不純物イオンをイオンクロマトグラフィで測定した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
表1の通り、この発明の処理を施すことにより、液晶中の上記不4種類の純物イオンが各々減少したことが確認された。
【符号の説明】
【0035】
10 液晶不純物除去装置
12 イオン吸着剤
12a プラスイオン
12b プラスイオン吸着分子
14 電極
15 電圧制御部
16 フィルタ
16a 微細孔
20 液晶
20a 不純物イオン
22 吸着剤供給部
22a,24a 開口部
24 液晶供給部