特許第6029174号(P6029174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029174舶用機器の防振構造及びそれを備える船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029174
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】舶用機器の防振構造及びそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
   B63J 99/00 20090101AFI20161114BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B63J99/00 B
   F16F15/08 E
   F16F15/08 P
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-37797(P2013-37797)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-162445(P2014-162445A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 展久
(72)【発明者】
【氏名】上原 洋志
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−063265(JP,U)
【文献】 特開2009−084885(JP,A)
【文献】 特開2012−017836(JP,A)
【文献】 特開平09−280316(JP,A)
【文献】 実開平07−001348(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63J 99/00
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舶用機器の船体への取付部に設けられて舶用機器を防振する構造であって、
前記舶用機器と船体の取付面との間に設けられる隙間に、前記舶用機器と船体の取付面とのそれぞれに対して所定の面積で接触するように、液状の合成ゴムを流し込んだ後に硬化することにより成形される防振材を備え、
前記防振材は、締結具である据付ボルトを設置した状態で、船体の据付台側に設置される型枠内に、液状の合成ゴムを流し込み、硬化させることによって成形され、
前記型枠は、囲い形状で、下面側が据付台側に載置される成形型枠であり、前記型枠の形状により、前記防振材の平面の形状及び厚み寸法を決定し、
前記舶用機器は、前記防振材を介して船体の取付面に締結固定される構成とした
ことを特徴とする舶用機器の防振構造。
【請求項2】
前記舶用機器と船体の取付面に対する防振材の接触面積は、前記防振材の固有振動数が前記舶用機器により生じる音響域振動と共振しない値となるように設定されることを特徴とする請求項1記載の舶用機器の防振構造。
【請求項3】
前記合成ゴムの流し込み側の取付面における液状の合成ゴムが流し込まれる部位の表面には、硬化後の防振材を剥離するための表面処理が施され、前記型枠の内側面には、型枠を取り外す際に剥離し易くするための表面処理が施されることを特徴とする請求項1又は2記載の舶用機器の防振構造。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の舶用機器の防振構造を備える船舶であって、
前記舶用機器は、前記船体のフレームから離間した位置に取り付けられる
ことを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶における舶用機器の防振技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船体と船体上に設置される原動機との間に設けられて、原動機から船体への振動の伝達を抑制する防振装置が開示される。この防振装置は、コイルばねによって鉛直方向の振動を吸収するとともに、メッシュばねによって水平方向の振動を吸収する防振構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−196441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような防振装置では、その構造が複雑であることから、振動発生装置(原動機)に対する細かな調整及び設置後の修正が困難である。さらに、振動発生装置が異なれば防振装置の構造も変更する必要があり、汎用性に乏しい。また、防振装置の全高が高くなり、クリープによる高さ変動が大きくなってしまう。以上のことから、本発明は、振動発生装置となる舶用機器の起振力に応じて細かな調整が可能であるとともに、防振材の全高を小さくしてクリープ性を向上できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1においては、舶用機器の船体への取付部に設けられて舶用機器を防振する構造であって、前記舶用機器と船体の取付面との間に設けられる隙間に、前記舶用機器と船体の取付面とのそれぞれに対して所定の面積で接触するように、液状の合成ゴムを流し込んだ後に硬化することにより成形される防振材を備え、前記防振材は、締結具である据付ボルトを設置した状態で、船体の据付台側に設置される型枠内に、液状の合成ゴムを流し込み、硬化させることによって成形され、前記型枠は、囲い形状で、下面側が据付台側に載置される成形型枠であり、前記型枠の形状により、前記防振材の平面の形状及び厚み寸法を決定し、前記舶用機器は、前記防振材を介して船体の取付面に締結固定される構成としたものである。
【0006】
請求項2においては、前記舶用機器と船体の取付面に対する防振材の接触面積は、前記防振材の固有振動数が前記舶用機器により生じる音響域振動と共振しない値となるように設定されるものである。
【0007】
請求項3においては、前記合成ゴムの流し込み側の取付面における液状の合成ゴムが流し込まれる部位の表面には、硬化後の防振材を剥離するための表面処理が施され、前記型枠の内側面には、型枠を取り外す際に剥離し易くするための表面処理が施されるものである。
【0008】
請求項4においては、請求項1から3の何れか一項に記載の舶用機器の防振構造を備える船舶であって、前記舶用機器は、前記船体のフレームから離間した位置に取り付けられるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動発生装置となる舶用機器の起振力に応じて細かな調整が可能になり、防振材の全高を小さくしてクリープ性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】舶用機器の船体への取付部を示す図であり、共通台床に支持される主機関と発電機を船体に設置した実施形態を示す。
図2】取付部の拡大断面図である。
図3】取付部に防振材を設置する様子を示す斜視図である。
図4】防振材の斜視図である。
図5】主機関の配管を示す図である。
図6】主機関(又は主発電機関)と船舶の船体フレームとの位置関係を示す図である。
図7】舶用機器の別形態を示す図であり、主発電機関と主発電機(又は主機関と減速逆転機)が胴体直結される機種に防振材を設置した実施形態を示す。
図8】舶用機器の別形態を示す図であり、機関(主機関又は主発電機関)の排気管固定部に防振材を設置した実施形態を示す。
図9】舶用機器の別形態を示す図であり、機関室の換気ファンの支持部に防振材を設置した実施形態を示す。
図10】舶用機器の別形態を示す図であり、ポンプの配管固定部に防振材を設置した実施形態を示す。
図11】取付部の別形態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
舶用機器は、船舶に備えられる機器であり、機器特有の起振力によって振動発生源となる装置のことを指す。つまり、舶用機器は、船舶内において船体への振動の伝達を抑制する防振構造を備えることが求められる機器である。本実施形態の舶用機器は、減速逆転機を介してプロペラを駆動する主機関、主発電機を駆動する主発電機関、又は、電動機駆動用の補機関などの原動機、原動機(主機関、主発電機関又は補機関)の排気管、機関室の換気ファン、ポンプ類に接続される配管、若しくは、空調機器である。
【0012】
図1に示すように、舶用機器1は、船体2に対して防振材3を介して設置される。防振材3は、合成ゴムを材料として構成される。合成ゴムの種類としては、舶用機器に用いることが可能なものであれば良い。図1及び図2に示すように、ここでの舶用機器1は、共通台床10上に設置された主機関11及び発電機12である。舶用機器1側の取付面である共通台床10の下面と船体2側の取付面である据付台20の上面との間に設けられる隙間に、防振材3が挟み込まれることで、舶用機器1と船体2との間に防振構造が備えられる。そして、防振材3を配置した状態で、据付ボルト4及びナット5・5を用いて、共通台床10を据付台20に締結固定し、舶用機器1を船体2に直締めする。このように、舶用機器1は、船体2に直接的に取り付けられている。
【0013】
図3に示すように、防振材3は、舶用機器1及び船体2に据付ボルト4(締結具)を設置した状態で、舶用機器1と船体2との間に隙間を設け、船体2側(据付台20)に設けられる型枠6内に液状の合成ゴムを流し込み、硬化させることによって成形される。型枠6は、任意に設計される囲い形状を有し、下面側、つまり据付台20側に設置される成形型枠であり、防振材3の三次元形状(平面形状及び厚み)を決定するものである。型枠6は、防振材3を成形した後に取り外される。据付台20において、液状の合成ゴムが流し込まれる部位の表面には、硬化後の防振材3を剥離するための表面処理が施されている。また、型枠6の内側面にも同様に、型枠6を取り外す際に剥離し易くするための表面処理が施されている。
【0014】
図4に示すように、防振材3における共通台床10及び据付台20との接触面積によって、防振材3の固有振動数が決定される。この固有振動数は、舶用機器1の起振力に応じた値に設定されている。より具体的には、舶用機器1により生じる音響域振動と共振しない値に設定され、音響域の振動を減衰させることで防音性を確保するように設定される。また、再施工の際に防振材3を取り外し易くする目的で、据付ボルト4から防振材3の一辺に向けて切欠きを設けた形状としても良い。
【0015】
以上のように、防振材3を成形する際に、表面の形状を変更して接触面の面積を細かく調整することが可能であり、固有振動数を連続した任意の値に設定することができる。これにより、舶用機器1により発生する振動を防止するために最適な防振材3を提供することが可能である。特に、騒音に繋がる音響域の振動を低減することで、居室空間の騒音を効果的に低減することができる。
【0016】
設置時に防振材3を成形することで、防振材3の厚みも任意に調整することができる。このため、舶用機器1の重量配分等を考慮して、防振材3の配置に応じて部分的に厚みを増す又は減らす、若しくは、型枠6を分割する等して部分的に硬さを変更することで、最適な取付構造を実現することができる。さらに、施工後に防振材3を追加する又は取り外すことで、微調整も簡単に行うことができ、舶用機器1とのマッチングを容易に改善することができる。また、防振材3を施工する側の面に、剥離処理を施しておくことで、防振材3の再施工が簡単になり、再調整も容易となるとともに、防振材3を交換する際の労力も少なくすることができる。
【0017】
また、防振材3を合成ゴムにより構成することで、耐候性及び耐油性を確保できる。そして、舶用機器1と船体2との間に防振材3を配置する簡単な構成で防振性を確保できるため、防振構造に必要な部品点数を削減できる。さらに、防振能力の高い合成ゴムにより防振材3を成形することで、防振材3の厚みを小さくすることができるため、厚みに比例するクリープ量を小さくすることができる。なお、防振材3を設置する際に舶用機器1と船体2との間の隙間が大きくなっている場合は、金属製のスペーサを防振材3と舶用機器1との間に配置することで、防振材3の厚みを小さく保つことが可能である。
【0018】
図5に示すように、防振材3のクリープ量を少なくでき、かつ、防振材3による防振効果を十分に見込めることから、主機関11の配管に固定配管11aを採用することができる。これにより、フレキシブル配管を用いた場合と比べてコストを低減できる。
【0019】
図6に示すように、船舶の機関室内における舶用機器1は、船体2のフレーム21・22・23から離した位置に設けられる据付ボルトを介して取り付けられる。フレーム21・22・23は、船体2の幅方向に渡されるメインフレームであり、船体2の全体に亘って設けられる骨格構造である。据付台20はフレーム21・22・23間に亘って設けられる。フレーム21・22・23から離した位置に舶用機器1を配置することで、フレーム21・22・23への直接的な振動の伝達を避けるとともに、フレーム21・22・23での減衰効果によって居室空間に振動が伝わり難くしている。このように、舶用機器1をフレーム21・22・23から離して配置することで防振効果を高めることができる。
【0020】
図7は、主発電機関と主発電機を胴体直結した舶用機器1を、船体2に対して防振材3を介して設置した実施形態を示す。この実施形態では、主発電機関と主発電機が胴体直結されることにより、これらの高さ方向の位置関係が変わらない。この場合も、共通台床10を含む上述の実施形態と同様の効果を奏する。なお、主機関11と減速逆転機を胴体直結した舶用機器1においても、同様に共通台床10を含む上述の実施形態と同様の効果を奏する。
【0021】
図8は、主機関11(又は主発電機関)の排気管40を船体2に対して防振材3を介して設置した実施形態を示す。ここにおける舶用機器は、主機関11(又は主発電機関)に固定される排気管40であり、主機関11(又は主発電機関)が振動することによって振動する。そして、排気管40の船体2への取付部に防振材3を配置することで、排気管40の振動が船体2に伝達することを抑制できる。さらに、このときの防振材3の固有振動数(排気管40との接触面積)は、排気管40の固有振動数と共振しない値に設定される。これにより、排気管40の振動に起因する音響域振動を抑えて防音性を向上できる。なお、主発電機関及び補機関等の他の原動機の排気管についても同様の構成を適用可能である。
【0022】
図9は、機関室の換気ファン50を船体2に対して防振材3を介して設置した実施形態を示す。ここでの舶用機器は、機関室内の空気を排気するための換気ファン50である。このときの防振材3の形状は、換気ファン50を支持するフランジの形状に応じて、円環状に成形されるとともに、防振材3の固有振動数(換気ファン50を支持するフランジとの接触面積)は、換気ファン50の固有振動数と共振しない値に設定される。これにより、換気ファン50の振動に起因する音響域振動を抑えて防音性を向上できる。
【0023】
図10は、冷却水又は潤滑油等を循環するためのポンプ60の配管61を船体2(例えば機関室の天井面)の取付部に、防振材3を介して設置した実施形態を示す。ここでの舶用機器は、ポンプ60の配管61である。配管61は、ポンプ60の側方から上方に向けて延出され、さらにタンク62の上方側から下方に向けて延出され、タンク62の上面に接続される。このときの防振材3の固有振動数(配管61との接触面積)は、配管61の固有振動数と共振しない値に設定される。これにより、配管61の振動に起因する音響域振動を抑えて防音性を向上できる。
【0024】
以上説明したような舶用機器に加えて、電動機駆動用の補機関、空調機器の吹き出し口等の振動発生装置に防振材3を設置することも可能であり、その他機器特有の起振力によって振動発生源となり得る舶用機器全般に対して防振材3を備えた防振構造を適用することができる。また、図11に示すように、舶用機器1と船体2の間に防振材3を配置することに加えて、船体2側の取付部、つまり据付ボルト4へのナット5締結部分に防振材3を配置しても良い。この場合は、舶用機器1から船体2への振動をこれらの間に配置された防振材3で防振するとともに、据付ボルト4を介して船体2側に伝達される振動を船体2とナット5の間に配置された防振材3で防振することができ、船体2側への振動の伝達防止効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0025】
1:舶用機器、2:船体、3:防振材、4:据付ボルト、10:共通台床、20:据付台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11