(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029202
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】アルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/30 20060101AFI20161114BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20161114BHJP
C25D 3/20 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
C25D5/30
C25D5/48
C25D3/20
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-181143(P2012-181143)
(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2014-37587(P2014-37587A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】512215369
【氏名又は名称】太田鍍金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】太田 幸一
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−063827(JP,A)
【文献】
特開平04−180594(JP,A)
【文献】
特開昭60−224735(JP,A)
【文献】
特開2002−020889(JP,A)
【文献】
特開2004−190128(JP,A)
【文献】
特開昭48−026635(JP,A)
【文献】
特開昭49−055530(JP,A)
【文献】
特開平06−340993(JP,A)
【文献】
特開平07−188970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00−5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金から成る被めっき材をアルカリ浴に浸漬して、前記被めっき材の表面を被覆する自然酸化皮膜と前記自然酸化皮膜の表面に付着する油脂成分とを溶解除去することにより、前記被めっき材の表面が活性化した第1の中間処理材を製造する第1工程、前記第1の中間処理材を酸性浴に浸漬して、前記第1の中間処理材の表面に前記自然酸化皮膜よりも薄い酸化皮膜を製膜して第2の中間処理材を製造する第2工程、および前記第2の中間処理材を鉄めっき浴に浸漬して、前記第2の中間処理材を陰極とする電気めっきを行うことにより、前記第2の中間処理材の表面に純鉄を直接電析して鉄めっき材を製造する第3工程を必須工程として含み、かつ前記第1工程から第2工程への移行時、および第2工程から第3工程への移行時には水洗工程が介在し、前記第3工程が、鉄めっき浴として、塩化第二鉄250〜450g/Lと塩化カルシウム50〜150g/Lを含み、浴温30〜70℃に管理されためっき浴を用い、浴のpHを1.2〜2.5に管理しながら、電流密度2〜5A/dm2の通電条件で行われることを特徴とする、アルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法。
【請求項2】
前記第1工程が、前記アルカリ浴として、濃度25〜55g/L、浴温30〜50℃の水酸化ナトリウム水溶液を用い、浸漬時間は2〜15分に管理して行われる請求項1のアルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法。
【請求項3】
前記第2工程が、酸性浴として、濃度40〜60%、浴温25〜40℃の希硝酸浴を用い、浸漬時間は3〜15分に管理して行われる請求項1または2のアルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法。
【請求項4】
前記第3工程終了後の前記鉄めっき材に表面の変色防止処理が行われる請求項1〜3のいずれかのアルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材またはアルミニウム合金材の表面に純鉄を電気めっきする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材やアルミニウム合金材は、例えば鋼材に比べると軽量であるということからして、各種の自動車部品や住宅関連製品などに使用されている。しかし、この材料は、表面が軟質であり、耐摩耗性や耐衝撃性に劣るという問題がある。そのため、実使用に際しては、通常、成形・加工された製品の表面を高硬度にし、耐摩耗性を高めるための表面処理が施されている。その表面処理としては、塗装・アルマイト処理や真空蒸着なども実施されているが、工業的には、製品の表面に例えば鉄合金やニッケル−クロム合金のような高硬度の材料を膜状に電析させる電気めっきが一般に行われている。
【0003】
しかし、アルミニウム材やアルミニウム合金材の表面は厚み数nm〜数十nm程度の安定な自然酸化皮膜で被覆されており、そしてこの自然酸化皮膜は絶縁皮膜でもあるため、ここに直接上記した高硬度の材料を電気めっきで均一に電析させることはできないし、仮に電析させることができたとしてもそのめっき皮膜の密着性は非常に悪いという問題がある。
【0004】
このようなことを勘案して、従来からアルミニウム材への電気めっきに関しては、例えば次のようなめっき方法が提案されている(特許文献1を参照)。
この方法では、まず、アルミニウム合金製のピストンをアルカリクリーナー(Allied Kelite社製のCHEMIZID740などの市販品が例示されている)に浸漬して表面に付着する油脂成分を除去したのち水洗し、ついで硫酸、硝酸、フッ酸を含む酸エッチャントで表面の酸化アルミニウム(自然酸化皮膜)を溶解除去し、更に水洗するという連続工程から成る前処理を施し、それから電気めっき工程に移送する。その電気めっき工程では、まず前処理が施されたピストンは亜鉛酸塩浴に浸漬され、亜鉛置換反応によってピストン表面に再び酸化アルミニウム皮膜が生成することを防止する処理を施し、次いでそこに無電解ニッケルめっきを行って表面に導電性を付与したのち、そこに電気めっきで高硬度の鉄めっき皮膜が製膜されている。すなわち、この方法の場合、アルミニウム合金材の脱脂工程−水洗工程−酸エッチャントによる自然酸化皮膜の溶解除去工程−水洗工程−亜鉛置換処理工程−水洗工程−無電解めっき工程−水洗工程−電気めっき工程という一連の工程によって構成されている。そしてこの方法では、亜鉛置換処理工程と無電解めっき工程が不可欠の工程として含まれる。
【0005】
更に次のような方法も提案されている(特許文献2を参照)。
この方法では、酸活性化バスと鉄メッキバスの2つのバスが用意され、まず酸活性化バスでは、硫酸溶液内にアルミニウム合金の被めっき材を陰極として配置し、その陰極と陽極間に通電して陰極(被めっき材)で水素を発生させ、その水素で被めっき材表面の自然酸化皮膜を還元除去して被めっき材の表面を活性化させる(陰極酸活性化)。そして表面を活性化させたその被めっき材を鉄メッキバスに移動し、被めっき材は硫化鉄を含む鉄めっき浴に浸漬され、そこで鉄めっきが施される。この方法の場合、被めっき材の自然酸化皮膜は通電時の発生水素で還元除去されることになるので、被めっき材の表出表面に対して特許文献1のような亜鉛置換処理−ニッケルの無電解めっきという工程は必要とされなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−212454号公報
【特許文献2】特開平7−166394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法の場合、いずれも自然酸化皮膜の除去後、表出したアルミニウムの活性表面に亜鉛置換処理を施すことが必要であり、そして最後の鉄めっきを行う前にはニッケルの無電解めっきを行うことが必要である。しかも各処理工程の前後では必ず水洗処理を行うことにより前工程で使用した各種薬剤や前工程での副生物を除去して、それらが後工程へ及ぼす悪影響を遮断しなければならない。
【0008】
一般に、あるめっき製品の製造に際しては、製造に要する工程数が少ない方が製品の生産効率は高く、全体の製造時間も短縮され、したがって工業生産としては経済的に有利である。
この観点から例えば上記した特許文献1の方法を考えると、前記したように、出発素材であるアルミニウム合金材に最終的に鉄の電気めっきを行う前までに基本的には8工程を経ることが必要である。このうち、亜鉛置換処理と無電解めっきに関係する必要工程は水洗工程を含めて4工程を占めている。仮にこれら4つの工程を省くことができれば、生産ラインの稼働効率は向上し、製造時間も短縮されるのであるが、しかし、この方法の場合、この4工程を省くことはできないという問題がある。
【0009】
一方、特許文献2の方法の場合、出発素材は酸活性化バスでその自然酸化皮膜が水素によって環元除去されることにより表出した表面は活性化され、そしてその後、素材は鉄メッキバスに移動され、そこで鉄めっきが行われるので、亜鉛置換処理と無電解めっきを省くことは可能である。したがって、必要とする工程数は特許文献1の方法に比べると大幅に減少している。
【0010】
しかし、この特許文献2の方法の場合、酸活性化バスで表面が活性化された素材を当該バスから取り出し、そしてそれを鉄メッキバスに移動することが必要である。したがって、その移動過程で素材の活性表面は空気と接触し、活性表面は酸化され、その表面が再び酸化皮膜で被覆されてしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、これら先行技術における上記した問題に鑑みてなされたものであり、亜鉛置換処理と無電解めっきを行うことを不要とし、また自然酸化皮膜を除去したのちの活性表面が再び酸化皮膜で被覆されて失活することを極力防止することができるアルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を解決するために、本発明においては、アルミニウムまたはアルミニウム合金から成る被めっき材をアルカリ浴に浸漬して、前記被めっき材の表面を被覆する自然酸化皮膜と前記自然酸化皮膜の表面に付着する油脂成分とを溶解除去することにより、前記被めっき材の表面が活性化した第1の中間処理材を製造する第1工程、前記第1の中間処理材を酸性浴に浸漬して前記自然酸化皮膜よりも薄い酸化皮膜を製膜して第2の中間処理材を製造する第2工程、および前記第2の中間処理材を鉄めっき浴に浸漬して、前記第2の中間処理材を陰極とする電気めっきを行うことにより、前記第2の中間処理材の表面に純鉄を直接電析して鉄めっき材を製造する第3工程を必須工程として備え、かつ前記第1工程から第2工程への移行時、および第2工程から第3工程への移行時には水洗工程が介在していることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金材への純鉄の電気めっき方法が提供される。
【0013】
その場合、前記第1工程は、アルカリ浴として、濃度25〜55g/L、浴温30〜50℃の水酸化ナトリウム水溶液を用い、浸漬時間は2〜15分に管理して行われることが好ましい。また前記第2工程は、酸性浴として、濃度40〜60%、浴温25〜40℃の希硝酸浴を用い、浸漬時間は3〜15分に管理して行われることが好ましい。更に、前記第3工程は、鉄めっき浴として、塩化第二鉄250〜450g/Lと塩化カルシウム50〜150g/Lを含み、浴温30〜70℃に管理されためっき浴を用い、浴のpHを1.2〜2.5に管理しながら、電流密度2〜5A/dm
2の通電条件で行われることが好ましい。
また、前記第3工程終了後のめっき材の表面には変色防止処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、亜鉛置換処理や無電解めっきを行うことなく、アルミニウム材またはアルミニウム合金材に直接純鉄を電析することができる。したがって、鉄の電気めっきの前処理の工程を従来に比べて少なくとも4工程減ずることができるので、鉄めっき材の製造時間を短縮でき、その生産効率を高めることができる。
また製造された鉄めっき材は、表面の鉄に例えば鉄合金やニッケル−クロム合金のような硬質で耐摩耗性に優れた材料を電気めっきすることができるので、軽量で耐摩耗性に優れた各種製品の出発素材として使用することができる。またこの鉄めっき膜に他の材料を例えば溶接することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】被めっき材と電析した鉄の境界部を示す断面TEM像写真である。
【
図2】
図1における印字1−1の箇所のEDX分析の結果を示すグラフである。
【
図3】
図1における印字1−2の箇所のEDX分析の結果を示すグラフである。
【
図4】
図1における印字1−3の箇所のEDX分析の結果を示すグラフである。
【
図5】
図1における印字1−4の箇所のEDX分析の結果を示すグラフである。
【
図6】鉄めっき膜が製膜されなかった表面の断面TEM像写真である。
【
図7】
図6における印字1−5の箇所のEDX分析の結果を示すグラフである。
【
図8】
図6における印字1−6の箇所のEDX分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における第1工程は、例えばプレス加工された被めっき材(アルミニウム材またはアルミニウム合金材)の表面に付着するグリースや潤滑油などの油脂成分を除去し、同時に表面の自然酸化皮膜をアルカリ浴でエッチング除去する工程である。具体的には、被めっき材をアルカリ浴に浸漬してこの第1工程は実施され、そして第1の中間処理材が製造される。
【0017】
その場合、アルカリ浴としては、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。具体的には、例えばイオン交換樹脂で処理した純水に、水酸化ナトリウムを濃度が25〜55g/Lとなるように溶解せしめ、浴温が30〜50℃に管理された水溶液が用いられる。濃度が25g/Lより低濃度の浴を用いると、油脂成分の脱脂状態は不充分になると同時に、自然酸化皮膜の溶解除去も進まず、最終工程の電気めっきで被めっき材の全面には一様に鉄めっき膜が製膜されなかったり、また製膜された箇所でも鉄めっき膜の密着性が悪くなるという問題が生ずる。また濃度が55g/Lより高濃度の浴を用いると、油脂成分の脱脂状態は充分になるとはいえ、自然酸化皮膜だけではなく被めっき材そのものの溶解も短時間で激しく進んでしまい、そのため被めっき材の表面が荒れ始めるとともに被めっき材の寸法形状が目的値から外れてしまうことがある。
【0018】
浴温が30℃より低温の浴を用いると、自然酸化皮膜の溶解除去に要する時間が長くなるので工業的には不利であり、また50℃より高温の浴を用いると、浴の蒸発が起こり始めて浴の水酸化ナトリウムの濃度が変化してしまうので、その不断の管理と調整という新たな作業工程が必要になるという問題が生じてくる。
【0019】
被めっき材の浴への浸漬時間が短すぎると、脱脂状態も不充分であると同時に自然酸化皮膜の溶解除去も不充分となるため、最終工程で純鉄が一様に製膜されなかったり、得られた鉄めっき材における鉄めっき膜の密着性が悪くなり、また浸漬時間が長すぎると、自然酸化皮膜の溶解が過度に進んで、被めっき材表面の荒れ、寸法形状の目的値からの外れなどの問題が発生するので、浸漬時間は3〜15分に管理することが好ましい。
【0020】
このようにして製造された第1の中間処理材は、出発素材である被めっき材表面を被覆する酸化皮膜が全面的に溶解除去されて、そこにはアルミニウムの活性表面が表出しているか、または酸化皮膜の当初の厚みに比べると極薄の酸化皮膜が残留している表面状態になっているものと考えられる。
この第1工程で製造された第1の中間処理材は、その表面を水洗したのち、第2工程に移送される。
【0021】
第2工程では、第1の中間処理材を酸性浴に浸漬して、第1の中間処理材の活性表面に、出発素材(被めっき材)の当初の自然酸化皮膜に比べると数%程度の厚みに相当する極薄の酸化皮膜が再生された第2の中間処理材が製造される。ここで再生される酸化皮膜は、以後の工程において被めっき材の表面で酸化反応が進行することを抑制するためのパッシベーション膜として機能するものと考えられる。
【0022】
具体的には、酸性浴としては、濃度が40〜60%で、浴温が25〜40℃に管理された低温の希硝酸液を用いることが好ましい。
濃度が40%より低濃度の浴を用いると、上記した酸化皮膜が再生しなかったり、またはパッシベーション膜として有効な膜厚になるまでの時間が長くなりすぎ、また濃度が60%より高濃度の浴を用いると、短時間で膜厚の厚い酸化皮膜が再生し、しかもそれが不動態膜になってしまい最終工程の電気めっきで純鉄を一様に電析することができなくなったり、製膜された鉄めっき膜の密着性が悪くなる。
【0023】
浴温が25℃より低温度の浴を用いると、酸化皮膜をパッシベーション膜として有効な厚みにまで製膜するための時間が長くなり、また浴温が40℃より高温度の浴を用いると、膜厚の厚い不動態膜が製膜されやすくなると同時に、浴の蒸発も起こるので浴濃度の管理、調整という新たな作業も必要になってくる。
【0024】
浸漬時間が短すぎると酸化皮膜の再生は不充分となるため、次工程への移送過程で第2の中間処理材の表面には厚い酸化皮膜が成長して最終工程の電気めっきが困難となり、また浸漬時間が長すぎると酸化皮膜の不動態膜化が起こりやすくなるので、浸漬時間は、3〜15分の範囲内で管理することが好ましい。
【0025】
このようにして製造された第2の中間処理材の場合、表面に製膜されている酸化皮膜の膜厚は、出発素材(被めっき材)の自然酸化皮膜の膜厚に比べると、5〜50%程度の極薄の厚みになっているものと考えられる。
この第2工程で製造された第2の中間処理材は、その表面を水洗したのち、第3工程に移送される。
【0026】
第3工程では、第2の中間処理材を鉄めっき浴に浸漬し、当該第2の中間処理材を陰極とし、例えば高純度の鉄板などを陽極とする電気めっきを行って、第2の中間処理材の表面に純鉄を電析して目的とする鉄めっき材が製造される。
【0027】
その場合、鉄めっき浴の鉄源としては従来から知られている鉄源を使用することができるが、本発明では3価の鉄の化合物である塩化第二鉄が使用される。具体的には塩化第二鉄の濃度を250〜450g/Lとし、ここに塩化カルシウムを濃度50〜150g/Lで含む鉄めっき浴が使用される。塩化第二鉄の濃度が250g/Lより低濃度の浴を用いると、純鉄を所望の厚みまで電析するための時間が長くなり、また450g/Lよりも高濃度の浴を用いると、粗悪なめっき面になりやすい。また塩化カルシウムの濃度が50g/Lより低濃度の浴を用いると、めっきのつきまわりが悪くなり、逆に150g/Lより高濃度の浴を用いると、ヤケが起こり始め、いずれの場合も、一様で密着性が良好な鉄めっき膜の製膜は困難になる。
【0028】
電気めっき時に浴温は30〜70℃に管理され、pHは1.2〜2.5に管理されることが好ましい。浴温が30℃より低くなると、製膜された鉄めっき膜の密着性は悪くなり、また浴温が70℃より高くなると、鉄めっき膜の密着性は悪くなると同時に、浴の蒸発も起こり始めて浴組成の調整作業が必要になってくる。また、電気めっきを進めると浴のpHは酸性側に移行していくが、pHが上記範囲から外れると、いずれの場合も純鉄の電析を阻害することになるのでpHの調整管理を行うことが必要となる。めっき浴のpH調整管理に関しては、水酸化ナトリウムを用いて行えばよい。
【0029】
電気めっきは、電流密度2〜5A/dm
2の通電条件で行うことが好ましい。電流密度を2A/dm
2より小さくすると、所望する膜厚の鉄めっき膜を製膜するために要する時間が長くなると同時に、鉄めっき膜は一様に製膜されず、まだら模様になりやすく、逆に電流密度を5A/dm
2より大きくすると、製膜された鉄めっき膜の密着性は悪くなり、めっき面から剥落しやすくなる。電流密度は、上記した範囲内において小さい値を選択すると、比較的緻密で一様な鉄めっき膜を製膜することができて好適である。
【0030】
また、極間電圧は、めっき槽の大きさ、めっき浴の量、めっき対象物の大きさや形状などによって変化するが、通常1〜12Vの範囲で実施される。極間電圧が低すぎると、液抵抗の関係で通電量が減少して実質的に電気めっきは進行せず、極間電圧が高すぎると、製膜された鉄めっき膜の密着性が悪くなるとともに、鉄めっき膜が全体的に粗密化する。
なお、鉄めっき膜の膜厚はこの電気めっきの稼働時間を適宜に管理することにより所望する厚みに制御することができる。
【0031】
このようにして、第3工程で第2の中間処理材の表面に直接純鉄が電析され、密着性が良好な鉄めっき膜が製膜される。
第3工程で製造されためっき材に対しては、純鉄の酸化に伴う変色を防止するために、更に、例えば低濃度のクロム酸やアルカリ液を用いた変色防止処理を施すことが好ましい。
【実施例】
【0032】
1.鉄めっき
出発素材として、純アルミニウム(JISA1100P)の試片(縦87mm、幅70mm、厚み2mm)を用意した。
アルカリ浴として、カセイソーダ(特級試薬)とイオン交換樹脂で処理した純水を用いて、濃度30g/Lのカセイソーダ水溶液1Lを調製した。
酸性浴として、硝酸(特級試薬)とイオン交換樹脂で処理した純水を用いて濃度50%の希硝酸液を1L調製した。
鉄めっき浴として、塩化第二鉄・六水塩(特級試薬)と塩化カルシウム・二水塩をイオン交換樹脂で処理した純水に溶解して、塩化第二鉄としての濃度300g/L、塩化カルシウムとしての濃度100g/Lのめっき浴を10L調製した。めっき浴のpHは2.0であった。
【0033】
まず、カセイソーダ水溶液を攪拌しながら浴温30℃に維持し、ここに試片を5分間浸漬した。数秒後に試片の全面は、細かい泡で覆われ、自然酸化皮膜の溶解が進んでいることが確認された(第1工程)。
【0034】
ついで、得られた試片(第1の中間処理材)をカセイソーダ水溶液から取り出し、ただちに純水で洗浄したのち、これを、温度30℃に維持されている希硝酸液に5分間浸漬した(第2工程)。
【0035】
得られた試片(第2の中間処理材)を水洗した後、鉄めっき浴に浸漬して電源のマイナス極に接続し、また陽極として純鉄板を配置してこれを電源のプラス極に接続してめっき装置を組み立てた。鉄めっき浴の温度を30℃に維持し、両極間に1.5vの電圧を印加して3.5Aの電流を5分間通電した(第3工程)。
このとき、電流密度は3A/dm
2となっている。また、pH計で浴のpHを測定し、カセイソーダをpH調整剤として浴のpHを2.0±0.1に保持し続けた。
【0036】
電気めっきの終了後、試片を取り出し、純水で洗浄した。試片の表面は黒色をしていて、鉄めっき膜が製膜されていた。
鉄めっき膜の厚みを無作為に10点測定したところ、0.5〜1.4μmであり、平均値は1.0μmであった。
また、テープ試験法で鉄めっき膜の密着性を調べた。密着性は良好であった。
【0037】
2.鉄めっき膜の解析
製膜された鉄めっき膜と第2の中間処理材との境界部の断面TEM(透過電子顕微鏡)像を撮影し、同時にEDX(エネルギー分散型X線)分析を行った。
まず、ある境界部の断面TEM像(倍率は300000倍)を
図1に示す。また、
図1で1−1、1−2、1−3、および1−4と印字されている箇所のEDX分析の結果を、それぞれ、
図2、
図3、
図4、および
図5に示した。
なお、比較のために、鉄めっき膜が製膜されていなかった表面箇所の断面TEM像(倍率300000倍)を
図6に、
図6で1−5、1−6と印字されている箇所のEDX分析の結果を、それぞれ
図7、
図8に示した。
【0038】
まず、
図6〜
図8からも明らかなように、鉄めっき膜が製膜されていない箇所はわずかに鉄の存在も認められるが、基本的にはアルミニウムの薄い酸化皮膜で構成されていることがわかる。なお、
図7、
図8におけるC、Cu、Gaなどのピークは、FIB(集束イオンビーム)装置でTEM用試料を調製する過程で用いた材料による影響であって、膜組成とは無関係な情報である。
【0039】
したがって、
図1〜
図5の情報が第3工程によって得られた情報であるとしてよい。これらの情報を解析すると、
図1における印字1−1の箇所は、
図2から明らかなように純鉄である。また
図1における印字1−3の箇所は、
図4から明らかなように純アルミニウムである。
【0040】
純鉄と純アルミニウムとの境界部において、印字1−2の箇所および印字1−4の箇所は、いずれも、アルミニウム単独の酸化皮膜(Al
2O
3膜)であるとはいえず、鉄とアルミニウムと酸素が混在した状態の物質になっているものと考えられる。
【0041】
このように、本発明で製造された鉄めっき材の断面構造は、上記した鉄とアルミニウムと酸素が混在するある種の金属間化合物の酸化物の薄膜を介して被めっき材(アルミニウム材またはアルミニウム合金材)に純鉄が電析した構造になっている。