特許第6029207号(P6029207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029207
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】予備加熱振動溶着法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/08 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   B29C65/08
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-18242(P2013-18242)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2014-148099(P2014-148099A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(72)【発明者】
【氏名】西崎 昌彦
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−023681(JP,A)
【文献】 特開2013−014113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料からなる2つのワークの接合面を振動に伴う摩擦熱で溶着する溶着工程と、溶着工程に先立って前記2つのワークのうち合成樹脂材料の硬度が低い方のワークの接合面を予備加熱する予加熱工程とを備えたことを特徴とする振動溶着法。
【請求項2】
前記予加熱工程において、硬度が低い方のワークの接合面を合成樹脂材料のガラス転移温度より30℃低い温度から合成樹脂材料の溶融温度までの範囲内で予備加熱する請求項1記載の振動溶着法。
【請求項3】
前記予加熱工程において、硬度が低い方のワークの接合面が合成樹脂材料のガラス転移温度より30℃低い温度に達したのちに、前記溶着工程において、2つのワークの接合面に振動を発生させる請求項2記載の振動溶着法。
【請求項4】
合成樹脂材料からなる2つのワークの接合面を振動に伴う摩擦熱で溶着する溶着工程と、溶着工程に先立って前記2つのワークのうち合成樹脂材料のガラス転移温度が低い方のワークの接合面を予備加熱する予加熱工程とを備えたことを特徴とする振動溶着法。
【請求項5】
不透明な合成樹脂材料からなる灯具ボディの接合面と透明な合成樹脂材料からなる灯具カバーの接合面とを振動に伴う摩擦熱で溶着する溶着工程と、溶着工程に先立ち、灯具カバーよりも硬度が低い合成樹脂材料からなる灯具ボディの接合面を予備加熱する予加熱工程とを備えたことを特徴とする車両用灯具の振動溶着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のワークに振動を与えて溶着する振動溶着法、特に、車両用灯具の製作に好ましく適用できる振動溶着法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性合成樹脂材料からなる2つのワークに振動を与え、振動に伴う摩擦熱で双方の接合面を溶融接着する方法が知られている。この振動溶着法は、例えば、車両用灯具の製作にあたり、灯具ボディに灯具カバーを組み付ける工程に適用されている。
【0003】
具体的には、図5に示すように、不透明な合成樹脂材料からなる灯具ボディ51のフランジ部52に、透明な合成樹脂材料からなる灯具カバー53の脚部54を押し付け、常温下で灯具カバー53に振動を与え、脚部54の端面をフランジ部52に溶着している。
【0004】
なお、特許文献1には、振動溶着法を用いて、一方の合成樹脂ワークの先端を他方の合成樹脂ワークの接合面に喰い込むように溶着接合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3272939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の振動溶着法は、常温下で振動を与えているため、振動開始直後の期間、つまり摩擦熱が合成樹脂材料の軟化温度まで達していない期間は、摩擦に伴ってワークの接合面に応力が発生する。このため、硬度が低い方のワークが塑性変形して毛羽立ち、更にその一部が脱落して粉状のバリを発生する。
【0007】
具体的には、図6に示すように、AAS材料からなる灯具ボディ51の場合、常温(20℃)でフランジ部52に振動を与えると、AAS材料が軟化温度まで達していない期間、つまり振動開始から粉バリが出ない温度に達するまでの期間に、毛羽立つような形状のバリ(毛羽立ちバリ)や粉状のバリ(粉バリ)が発生する。
【0008】
図5に示すように、車両用灯具の灯室57はボディ51とカバー53の溶着によって密閉されるため、灯室57に食み出した毛羽立ちバリ56や灯室57に脱落した粉バリ55は、溶着後に取り出すことができないうえ、灯具カバー53から透視されるため、車両用灯具の外観の見栄えを悪くするという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、粉バリや毛羽立ちバリの発生を抑え、車両用灯具等の合成樹脂製品を見栄えよく製作できる振動溶着法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の振動溶着法は、合成樹脂材料からなる2つのワークの接合面を振動に伴う摩擦熱で溶着する溶着工程と、溶着工程に先立って少なくとも一方のワークの接合面を予備加熱する予加熱工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
予加熱工程においては、擦り合せに伴う接合面の摩耗を抑えるために、2つのワークのうち合成樹脂材料の硬度が低い方のワークを予備加熱するのが好ましい。
【0012】
予備加熱に必要な熱量を抑える観点からは、予加熱工程において、2つのワークのうち合成樹脂材料のガラス転移温度が低い方のワークを予備加熱するのが望ましい。
【0013】
予備加熱温度は、ワークの成形材料や対象部位の形状等を考慮して適宜に選択できる。標準的には、予備加熱工程において、ワークの接合面を合成樹脂材料のガラス転移温度(Tg)より30℃低い温度から合成樹脂材料の溶融温度までの範囲内で予備加熱することができる。
【0014】
また、バリの防止に加え、サイクル時間の短縮化、加熱設備の省エネ化、製品の熱損防止を図る観点からは、ワークの接合面を(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の範囲内で予備加熱するのが好ましい。
【0015】
上記と同じ観点から、より好ましくは、予加熱工程において、ワークの接合面が合成樹脂材料のガラス転移温度より30℃低い温度に達したのちに、前記溶着工程において、2つのワークの接合面に振動を発生させるとよい。
【0016】
本発明の振動溶着法は車両用灯具の製作に好ましく適用できる。本発明の車両用灯具は、不透明な合成樹脂材料からなる灯具ボディと、透明な合成樹脂材料からなる灯具カバーとを備え、少なくとも灯具ボディの接合面が予備加熱された状態で、灯具カバーの接合面が振動溶着によって灯具ボディの接合面に溶着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の振動溶着法は、予備加熱により接合面を軟化させた状態でワークに振動を付与するので、擦り合せに伴う粉バリや毛羽立ちバリの発生を抑えることができる。また、本発明の車両用灯具によれば、灯室から毛羽立ちバリや粉バリをなくし、外観の見栄えを向上できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の振動溶着法を示す車両用灯具の部分断面図である。
図2図1と異なる実施形態を示す車両用灯具の部分断面図である。
図3】本発明の振動溶着法を説明するボディ温度と振動時間の特性図である。
図4】予備加熱工程の変更例を示す車両用灯具の部分断面図である。
図5】従来の振動溶着法を示す車両用灯具の部分断面図である。
図6】従来の振動溶着法を説明するボディ温度と振動時間の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す車両用灯具11は、灯具ボディ12と灯具カバー13とを備え、双方間に灯室14を形成している。灯具ボディ12はAAS、ABS等の不透明な熱可塑性合成樹脂材料で成形され、灯具カバー13がアクリル、ポリカーボネート等の透明な熱可塑性合成樹脂材料で成形されている。
【0020】
灯具ボディ12にはフランジ部15が形成され、灯具カバー13に脚部16が形成されている。脚部16の端面はフランジ部15に接合され、双方の接合面が振動溶着部17にて溶着されている。振動溶着部17には、フランジ部15の溶融樹脂によって丸く小さいバリ(丸バリ)18が一体形成されている。
【0021】
この実施形態の振動溶着法は、図1(A)に示す予加熱工程と、図1(B)に示す溶着工程とを備えている。予加熱工程では、不透明な合成樹脂材料からなる灯具ボディ12のフランジ部15がヒーター21によって予備加熱される。
【0022】
通常、車両用灯具11の灯具カバー13は、車体の外部に露出する状態で装備されるため、硬度が高く、ガラス転移温度も高い合成樹脂材料で成形されている。これと比較し、灯具ボディ12の成形材料は硬度が低く、ガラス転移温度も低いため、フランジ部15を予備加熱することで、粉バリの発生を効果的に抑制できる。
【0023】
なお、ヒーター21としては、例えば、抵抗加熱式ヒーターや赤外線照射ヒーターを使用できるが、これに限定されない。また、図4(a)に示すように、ヒーター21でフランジ部15と脚部16の両方を同時に加熱することもできる。
【0024】
溶着工程では、図1(B)に示すように、フランジ部15に脚部16を押し付け、灯具カバー13に振動を与え、フランジ部15の表面部と脚部16の端面部の樹脂を共に溶融させ、溶融樹脂によって脚部16の端面をフランジ部15に溶着する。
【0025】
この実施形態の振動溶着法よれば、溶着工程に先立って予加熱工程を実施するため、振動開始後、速やかにフランジ部15の合成樹脂材料が軟化温度に達する。そして、接合面を軟化させた状態で灯具カバー13に振動を付与するので、毛羽立ちが丸く凝縮した形状(丸バリ)となり、結果、毛羽立ちバリや粉バリの発生を防止できる。
【0026】
このため、灯室14内にバリが飛散したり食み出したりしなくなり、また、丸バリ18は振動溶着部17に見栄えよく残る。したがって、簡単かつ短時間の予備加熱によって車両用灯具11の外観を見栄えよくすることができる。
【0027】
図2に示す車両用灯具11では、灯具カバー13が脚部を備えない平坦形状に成形され、灯具ボディ12のフランジ部15にシール凸条19が突設されている。振動溶着にあたっては、ヒーター21でシール凸条19が予備加熱される。あるいは、図4(b)に示すように、シール凸条19と灯具カバー13の接合面の両方が同時に予備加熱される。
【0028】
図3は、灯具ボディ12の成形材料として溶融温度が約180〜250℃のAAS樹脂を使用した場合の予備加熱期間を示す。ここで、灯具ボディ12の予備加熱は常温(20℃)で始まり、フランジ部15の温度がAAS樹脂のガラス転移温度(Tg=80〜125℃)より約20℃低い温度(Tp=60〜105℃)に達した時点で終了する。
【0029】
この実施形態では、予備加熱期間の終了後に段取りを予加熱工程から溶着工程に変更する期間が設定され、この期間が終了した時点で灯具カバー13の振動が開始される。フランジ部15の温度は、段取り変更期間中の冷却により僅かに低下するが、振動開始によって短時間のうちにガラス転移温度Tgを越えて溶融温度に到達する。したがって、加工時間をさほど延長することなく、見栄えの良い車両用灯具11を製作することができる。
【0030】
なお、本発明の振動溶着法は、灯具ボディ12と灯具カバー13との溶着に限定されず、車両用灯具のリフレクタやエクステンションとボディとの溶着に適用したり、車両用灯具以外の合成樹脂製ワークの溶着に適用したりすることもできる。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成を適宜に変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
11 車両用灯具
12 灯具ボディ
13 灯具カバー
14 灯室
15 フランジ部
16 脚部
17 振動溶着部
21 ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6