(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アイドリングストップ制御されるエンジン(E)に接続された入力軸(12)と、前記入力軸(12)と共に回転する入力ディスク(21)と、前記入力軸(12)に相対回転自在に支持された出力ディスク(22)と、トラニオン(23)に傾転自在に支持されて前記入力ディスク(21)および前記出力ディスク(22)間にトラクションオイルを介して挟圧されるパワーローラ(25)と、トラクションオイルの油圧で前記入力ディスク(21)を前記出力ディスク(22)に向けて付勢して前記パワーローラ(25)のスリップを抑制する挟圧力を発生する油圧ローダ(27)と、前記油圧ローダ(27)が発生する挟圧力を制御する挟圧力制御手段(C)とを備えるトロイダル変速機構の制御装置であって、
前記挟圧力制御手段(C)は、トラクションオイルを供給するオイルポンプ(51)と、ソレノイドバルブ(52)と、前記オイルポンプ(51)および前記ソレノイドバルブ(52)を接続する第1油路(59)と、前記ソレノイドバルブ(52)および前記油圧ローダ(27)を接続する第2油路(60)とを備え、前記ソレノイドバルブ(52)は、前記エンジン(E)がアイドリングストップされたときに、前記第2油路を前記第1油路(59)から遮断してドレンポート(P3)に接続し、前記エンジン(E)が再始動されたときに、前記第2油路(60)を前記ドレンポート(P3)から遮断して前記第1油路(59)に接続することを特徴とするトロイダル変速機構の制御装置。
前記ソレノイドバルブ(52)のドレンポート(P3)は、前記第2油路(60)よりも下方であって、ミッションケース(48)の底部に貯留したトラクションオイルの油面(L1)よりも上方に位置することを特徴とする、請求項1に記載のトロイダル変速機構の制御装置。
前記油圧ローダ(27)は挟圧力を発生する弾発部材(50)を備え、前記弾発部材(50)が発生する挟圧力は、前記エンジン(E)をクランキングするトルクで前記パワーローラ(25)がスリップするのを阻止可能な大きさであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のトロイダル変速機構の制御装置。
前記挟圧力制御手段(C)は、前記エンジン(E)がアイドリングストップされたときに油温が所定値未満の場合には、前記第2油路(60)を前記ドレンポート(P3)から遮断して前記第1油路(59)に接続することを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のトロイダル変速機構の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、ベルト式無段変速機構の場合には、アイドリングストップ時にプーリの油室にオイルを保持しておくことが望ましい。しかしながら、トロイダル変速機構の場合には、特殊なトラクションオイルを、入・出力ディスクおよびパワーローラの接触部を潤滑する潤滑油と、パワーローラのスリップを抑制する挟圧力を発生する油圧ローダの作動油とに共用しており、このトラクションオイルは常用温度域(例えば30゜C以下)でベルト式無段変速機構のオイルよりも粘度が高くなる特性を有している。従って、アイドリングストップ時に粘度の高いトラクションオイルが油圧ローダの油室から抜け難くなり、エンジンを再始動すべくスタータモータでクランキングしたときに、油室内のトラクションオイルに作用する遠心油圧が増加することで、スタータモータの負荷が増大する可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、トロイダル変速機構を備える車両がアイドリングストップから復帰すべくエンジンを再始動するとき、エンジンのクランキングトルクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、アイドリングストップ制御されるエンジンに接続された入力軸と、前記入力軸と共に回転する入力ディスクと、前記入力軸に相対回転自在に支持された出力ディスクと、トラニオンに傾転自在に支持されて前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間にトラクションオイルを介して挟圧されるパワーローラと、トラクションオイルの油圧で前記入力ディスクを前記出力ディスクに向けて付勢して前記パワーローラのスリップを抑制する挟圧力を発生する油圧ローダと、前記油圧ローダが発生する挟圧力を制御する挟圧力制御手段とを備えるトロイダル変速機構の制御装置であって、前記挟圧力制御手段は、トラクションオイルを供給するオイルポンプと、ソレノイドバルブと、前記オイルポンプおよび前記ソレノイドバルブを接続する第1油路と、前記ソレノイドバルブおよび前記油圧ローダを接続する第2油路とを備え、前記ソレノイドバルブは、前記エンジンがアイドリングストップされたときに、前記第2油路を前記第1油路から遮断してドレンポートに接続し、前記エンジンが再始動されたときに、前記第2油路を前記ドレンポートから遮断して前記第1油路に接続することを特徴とするトロイダル変速機構の制御装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ソレノイドバルブのドレンポートは、前記第2油路よりも下方であって、ミッションケースの底部に貯留したトラクションオイルの油面よりも上方に位置することを特徴とするトロイダル変速機構の制御装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記油圧ローダは挟圧力を発生する弾発部材を備え、前記弾発部材が発生する挟圧力は、前記エンジンをクランキングするトルクで前記パワーローラがスリップするのを阻止可能な大きさであることを特徴とするトロイダル変速機構の制御装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記挟圧力制御手段は、前記エンジンがアイドリングストップされたときに油温が所定値未満の場合には、前記第2油路を前記ドレンポートから遮断して前記第1油路に接続することを特徴とするトロイダル変速機構の制御装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の皿ばね50は本発明の弾発部材に対応し、実施の形態のリニアソレノイドバルブ52は本発明のソレノイドバルブに対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、トロイダル変速機構は、アイドリングストップ制御されるエンジンに接続された入力軸と、入力軸と共に回転する入力ディスクと、入力軸に相対回転自在に支持された出力ディスクと、トラニオンに傾転自在に支持されて入力ディスクおよび出力ディスク間にトラクションオイルを介して挟圧されるパワーローラと、トラクションオイルの油圧で入力ディスクを出力ディスクに向けて付勢してパワーローラのスリップを抑制する挟圧力を発生する油圧ローダと、油圧ローダが発生する挟圧力を制御する挟圧力制御手段とを備える。
【0012】
挟圧力制御手段は、トラクションオイルを供給するオイルポンプと、ソレノイドバルブと、オイルポンプおよびソレノイドバルブを接続する第1油路と、ソレノイドバルブおよび油圧ローダを接続する第2油路とを備え、ソレノイドバルブは、エンジンがアイドリングストップされたときに、第2油路を第1油路から遮断してドレンポートに接続するので、粘度の高いトラクションオイルを油圧ローダから速やかに排出し、アイドリングストップから復帰すべくエンジンをクランキングして再始動するときに、油圧ローダの内部に残ったトラクションオイルに遠心油圧が作用するのを防止することで、エンジンのクランキングトルクを低減することができる。そしてエンジンが再始動されたときに、第2油路をドレンポートから遮断して第1油路に接続するので、油圧ローダに再びトラクションオイルを供給して挟圧力を発生させ、パワーローラのスリップを抑制することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、ソレノイドバルブのドレンポートは第2油路よりも下方に位置するので、油圧ローダのトラクションオイルは第2油路に滞留することなく重力でドレンポートから速やかに排出され、またソレノイドバルブのドレンポートはミッションケースの底部に貯留したトラクションオイルの油面よりも上方に位置するので、貯留したトラクションオイルがドレンポート側に逆流して油圧ローダからのトラクションオイルの排出を阻害することがない。
【0014】
また請求項3の構成によれば、油圧ローダは挟圧力を発生する弾発部材を備え、弾発部材が発生する挟圧力は、エンジンをクランキングするトルクでパワーローラがスリップするのを阻止可能な大きさであるので、アイドリングストップ時に油圧ローダのトラクションオイルが排出されて油圧による挟圧力を発生できなくなっても、エンジンの再始動時にパワーローラがスリップするのを防止し、エンジンが再始動して油圧が立ち上がったときに速やかにパワーローラによる動力伝達を可能にすることができる。
【0015】
また請求項4の構成によれば、油温が低くてトラクションオイルの粘性が高いときに、エンジンのアイドリングストップ時に油圧ローダのトラクションオイルを排出してしまうと、エンジンの再始動後に油圧ローダにトラクションオイルを供給するのに時間が掛かってパワーローラのスリップを抑制できなくなる虞があるが、挟圧力制御手段は、エンジンがアイドリングストップされたときに油温が所定値未満の場合には、第2油路をドレンポートから遮断して第1油路に接続するので、油圧ローダのトラクションオイルが排出されないようにしてパワーローラのスリップを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1〜
図4に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1に示すように、トロイダル変速機構11を備える無段変速機Tは、相互に平行に配置された入力軸12、出力軸13、副軸14およびアイドル軸15を備える。入力軸12にはエンジンEのクランクシャフト16がダンパ17を介して接続され、出力軸13にはファイナルドライブギヤ18およびファイナルドリブンギヤ19を介してディファレンシャルギヤDが接続される。
【0019】
入力軸12上に配置されるトロイダル変速機構11は、実質的に同一構造の第1無段変速機構20Fおよび第2無段変速機構20Rからなり、第1無段変速機構20Fは、入力軸12に固定された概略コーン状の入力ディスク21と、入力軸12に相対回転自在かつ軸方向摺動自在に支持された概略コーン状の出力ディスク22と、入力軸12を挟むように配置された一対のトラニオン23,23と、トラニオン23,23に一端を回転自在に支持された一対のクランク状のピボットシャフト24,24と、ピボットシャフト24,24の他端に回転自在に支持されて入力ディスク21および出力ディスク22に当接可能な一対のパワーローラ25,25とを備える。
【0020】
入力ディスク21および出力ディスク22がパワーローラ25,25に当接する面はトロイダル曲面から構成されており、一対のトラニオン23,23が自己の軸線であるトラニオン軸に沿って相互に逆方向に移動すると、一対のパワーローラ25,25がトラニオン軸まわりに傾転し、入力ディスク21および出力ディスク22に対するパワーローラ25,25の当接点が変化する。
【0021】
第2無段変速機構20Rは、ドライブギヤ26を挟んで前記第1無段変速機構20Fと実質的に面対称に配置されており、第1、第2無段変速機構20F,20Rの出力ディスク22,22およびドライブギヤ26は一体に形成される。但し、第1無段変速機構20Fの入力ディスク21が入力軸12に固着されるのに対し、第2無段変速機構20Rの入力ディスク21は入力軸12に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能にスプライン結合され、油圧ローダ27により軸方向に付勢される。
【0022】
図2に詳細に示すように、油圧ローダ27は、入力軸12に固定されたシリンダ28と、外周および内周をそれぞれシリンダ28および入力軸12に摺動自在に支持された第1ピストン29と、入力ディスク21から軸方向に突出して第1ピストン29に当接する環状のシリンダ部21aと、外周をシリンダ部21aに摺動自在に支持されて内周を入力軸12に係止された第2ピストン30と、シリンダ28および第1ピストン29間に区画された第1油室31と、入力ディスク21および第2ピストン30間に区画された第2油室32とを備える。第1油室31には、第1ピストン29を入力ディスク21側に付勢する皿ばね50が配置される。
【0023】
従って、
図2において、第1油室31に供給された油圧が第1ピストン29をシリンダ28に対して右方向に駆動して第2無段変速機構20Rの入力ディスク21のシリンダ部21aを右向きに付勢し、かつ第2油室32に供給された油圧が第2ピストン30に対して第2無段変速機構20Rの入力ディスク21の背面全体を右向きに付勢する。その結果、第2無段変速機構20Rの入力ディスク21および出力ディスク22間にパワーローラ25,25が挟圧されるとともに、第1無段変速機構20Fの入力ディスク21および出力ディスク22間にパワーローラ25,25が挟圧され、入力ディスク21,21および出力ディスク22,22とパワーローラ25…との間のスリップを抑制する挟圧力を発生させることができる。
【0024】
図1に戻り、第1無段変速機構20Fの一対のトラニオン23,23を図示せぬ油圧アクチュエータで相互に逆方向に駆動するとパワーローラ25,25が
図1の矢印a方向に傾転し、入力ディスク21との当接点が入力軸12に対して半径方向外側に移動するとともに、出力ディスク22との当接点が入力軸12に対して半径方向内側に移動するため、入力ディスク21の回転が増速して出力ディスク22に伝達され、変速比が連続的に減少する。一方、パワーローラ25,25が
図1の矢印b方向に傾転すると、入力ディスク21との当接点が入力軸12に対して半径方向内側に移動するとともに、出力ディスク22との当接点が入力軸12に対して半径方向外側に移動するため、入力ディスク21の回転が減速して出力ディスク22に伝達され、変速比が連続的に増加する。
【0025】
第2無段変速機構20Rの作用は上述した第1無段変速機構20Fの作用と同一であり、第1、第2無段変速機構20F,20Rは同期して変速作用を行う。従って、エンジンEのクランクシャフト16から入力軸12に入力された駆動力は、トロイダル変速機構11の変速比のレンジ内の任意の変速比で無段階に変速され、ドライブギヤ26から出力される。
【0026】
副軸14には前記ドライブギヤ26に噛合するドリブンギヤ33が固設される、また副軸14に相対回転自在に嵌合する第1スリーブ34に固設された第1ギヤ35が出力軸13に固設した第2ギヤ36に噛合する。第1ギヤ35は高速用クラッチ37を介してドリブンギヤ33に結合可能である。
【0027】
また副軸14に第2スリーブ38が相対回転自在に嵌合しており、この第2スリーブ38は低速用クラッチ39を介して副軸14に結合可能である。入力軸12に固設した第3ギヤ40がアイドル軸15に固設した第4ギヤ41に噛合し、第4ギヤ41は第2スリーブ38の相対回転自在に支持した第5ギヤ42に噛合する。副軸14上に配置された遊星歯車機構43は、第2スリーブ38に固設されたサンギヤ44と、第1スリーブ34に固設されたリングギヤ45と、第5ギヤ42に固設されたキャリヤ46と、キャリヤ46に回転自在に支持されてサンギヤ44およびリングギヤ45に噛合する複数のピニオン47…とを備える。
【0028】
図2には、油圧ローダ27が発生する挟圧力を制御する挟圧力制御手段Cの構成が示される。オイルポンプ51が吐出するトラクションオイルはリニアソレノイドバルブ52において調圧された後に油圧ローダ27に供給され、パワーローラ25…のスリップ抑制制御に供される。即ち、油圧ローダ27の挟圧力を制御する電子制御ユニットUは、現在エンジンEからトロイダル変速機構11に入力されている入力トルクに基づいて、入力ディスク21,21および出力ディスク22,22とパワーローラ25…との間にスリップを抑制するための挟圧力を設定し、その挟圧力を発生し得る油圧をリニアソレノイドバルブ52から油圧ローダ27に供給する。
【0029】
リニアソレノイドバルブ52は、スリーブ53と、スリーブ53に摺動自在に嵌合するスプール54と、スリーブ53に結合されたハウジング55と、ハウジング55の内部に収納されたソレノイド56と、ソレノイド56の内部に軸方向摺動自在に配置されてスプール54にロッド57を介して接続されたアーマチュア58とを備える。スリーブ53には入力ポートP1と、出力ポートP2と、ドレンポートP3とが形成されており、スプール54には入力ポートP1、出力ポートP2およびドレンポートP3を選択的に連通させるグルーブGが形成される。入力ポートP1は第1油路59を介してオイルポンプ51に接続され、出力ポートP2は第2油路60を介して油圧ローダ27の第1、第2油室31,32に接続され、ドレンポートP3は無段変速機Tの内部空間に開放される。
【0030】
ソレノイド56を励磁するとスプール54が図中右側に移動してグルーブGが入力ポートP1および出力ポートP2を相互に連通させ、出力ポートP2からドレンポートP3を遮断する。またソレノイド56を消磁するとスプール54が図中左側に移動してグルーブGが出力ポートP2およびドレンポートP3を相互に連通させ、出力ポートP2から入力ポートP1を遮断する。
【0031】
図3に示すように、無段変速機Tのミッションケース48の内部には、入力軸12、出力軸13、副軸14、アイドル軸15およびディファレンシャルギヤDから延びる車軸49,49が支持される。入力軸12に対してアイドル軸15は上方に配置され、アイドル軸15の後方に副軸14が配置され、副軸14の後方に出力軸13が配置され、出力軸13の下方にディファレンシャルギヤDおよび車軸49,49が配置される。符号L1は車両が平坦地に停車したときのトラクションオイルの油面を示しており、符号L2は入力軸12に設けられた油圧ローダ27の中心の高さを示している。前記リニアソレノイドバルブ52のドレンポートP3は、トラクションオイルの油面L1よりも高く、かつ油圧ローダ27の中心の高さL2よりも低い位置に配置される。特に、ドレンポートP3は第2油路60の何れの部分よりも低い位置に配置される。
【0032】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0033】
先ず、無段変速機Tの変速作用を説明すると、高速用クラッチ37を係合して低速用クラッチ39を係合解除した状態では、入力軸12の回転はトロイダル変速機構11→ドライブギヤ26→ドリブンギヤ33→高速用クラッチ37→第1スリーブ34→第1ギヤ35→第2ギヤ36→出力軸13→ファイナルドライブギヤ18→ファイナルドリブンギヤ19の経路でディファレンシャルギヤDに伝達され、車両を前進走行させる。トロイダル変速機構の変速比を無段階に変更することで、エンジンEおよびディファレンシャルギヤD間のトータルの変速比を無段階に変更することができる。
【0034】
このとき、遊星歯車機構43は、入力軸12に第3ギヤ40、第4ギヤ41および第5ギヤ42を介して接続されたキャリヤ46が回転するが、低速用クラッチ39が係合解除していてサンギヤ44が自由回転可能であるため、リングギヤ45も自由回転可能となり、遊星歯車機構43を介してのトルク伝達は行われない。
【0035】
一方、高速用クラッチ37を係合解除して低速用クラッチ39を係合した状態では、入力軸12の回転はトロイダル変速機構11→ドライブギヤ26→ドリブンギヤ33→副軸14→低速用クラッチ39→第2スリーブ38の経路で遊星歯車機構43のサンギヤ44に伝達されるとともに、入力軸12の回転は第3ギヤ40→第4ギヤ41→第5ギヤ42の経路で遊星歯車機構43のキャリヤ46に伝達されるため、遊星歯車機構43のリングギヤ45を介してディファレンシャルギヤDにエンジンEの駆動力が出力される。
【0036】
このとき、入力軸12の回転を変速してサンギヤ44に伝達するトロイダル変速機構11の変速比を所定値に制御すると、リングギヤ45の回転数がゼロになってディファレンシャルギヤDに駆動力が伝達されなくなり、ニュートラル状態が実現される。このニュートラル状態からトロイダル変速機構11の変速比を一方向に変化させるとリングギヤ45が一方向に回転して車両を低速で前進走行させることができ、トロイダル変速機構11の変速比を他方向に変化させるとリングギヤ45が他方向に回転して車両を低速で後進走行させることができる。
【0037】
次に、
図2に基づいて油圧ローダ27に供給する油圧の制御について説明する。
【0038】
オイルポンプ51が吐出したトラクションオイルは所定のライン圧に調圧され、第1油路59を介してリニアソレノイドバルブ52の入力ポートP1に供給される。ソレノイド56でスプール54を図中右方向に駆動すると、グルーブGによって出力ポートP2が入力ポートP1に連通してドレンポートP3から遮断されるため、入力ポートP1の油圧は出力ポートP2から第2油路60を経て油圧ローダ27の第1、第2油室31,32に伝達される。このとき、ソレノイド56に供給する電流値に応じて入力ポートP1および出力ポートP2連通度合いを制御することで、第1、第2油室31,32に伝達される油圧の大きさを制御して所望の挟圧力を発生させることができる。
【0039】
さて、エンジンEがアイドリングストップにより停止すると、ソレノイド56でリニアソレノイドバルブ52のスプール54を図中左方向に駆動する。その結果、グルーブGによって出力ポートP2が入力ポートP1から遮断されてドレンポートP3に連通し、油圧ローダ27の第1、第2油室31,32内のトラクションオイルは第2油路60から出力ポートP2およびドレンポートP3を経てミッションケース48の底部に重力で排出される。
【0040】
従って、アイドリングストップから復帰すべく図示せぬスタータモータでエンジンEをクランキングして再始動する際に、油圧ローダ27の第1、第2油室31,32内に残留するトラクションオイルに作用する遠心油圧でクランキングトルクが増加したり変動したりするのを防止し、スタータモータの負荷を低減してエンジンEの確実な再始動を可能にすることができる。
【0041】
エンジンEが再始動されると、ソレノイド56でリニアソレノイドバルブ52のスプール54を図中右方向に駆動することで、第1油路59の油圧が第2油路60を経て再び油圧ローダ27の第1、第2油室31,32に伝達され、挟圧力の制御が可能になる。
【0042】
ところで、エンジンEのアイドリングストップ中に第1、第2油室31,32内のトラクションオイルが排出されるため、エンジンEを再始動すべくクランキングしたときにパワーローラ25,25がスリップしてしまい、第1、第2油室31,32への油圧供給が再開されてもパワーローラ25,25のスリップ状態が継続する虞がある。しかしながら、第1油室31に配置した皿ばね50の弾発力で第1ピストン29を押圧して入力ディスク21を付勢することで、エンジンEを再始動して第1、第2油室31,32の油圧が充分に高まるまでの間、パワーローラ25,25のスリップを防止することができる。
【0043】
図3に示すように、リニアソレノイドバルブ52は油圧ローダ27の中心の高さL2よりも低い位置に配置されており、かつ第2油路60の何れの部分よりも低い位置に配置されているので、第1、第2油室31,32のトラクションオイルは第2油路60に滞留することなく重力でドレンポートP3から速やかに排出される。またリニアソレノイドバルブ52はトラクションオイルの油面L1よりも高い位置に配置されているので、ミッションケース48の底部に貯留したトラクションオイルがドレンポートP3側に逆流して油圧ローダ27からのトラクションオイルの排出を阻害することがない。
【0044】
ところで、油温が低いためにもともと粘度が高いトラクションオイルの粘性が更に高くなった状態では、アイドリングストップ時に第1、第2油室31,32のトラクションオイルを排出してしまうと、エンジンEの再始動時に第1、第2油室31,32の油圧が立ち上がるのに時間がかかり、皿ばね50の弾発力だけではパワーローラ25,25のスリップを抑制することができない可能性がある。よって、油温が所定値(例えば−30゜C)未満になる極低温時には、アイドリングストップ時であっても第1、第2油室31,32のトラクションオイルを排出せずに保持することで、パワーローラ25,25のスリップを防止することができる。
【0045】
次に、上記作用を
図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0046】
先ずステップS1で車速やブレーキペダルの操作状態に基づいてアイドリングストップの可否を判定し、アイドリングストップが許可されると、ステップS2で無段変速機Tの油温を検出し、ステップS3で油温が閾値以上であれば、ステップS4でリニアソレノイドバルブ52を制御して油圧ローダ27の第1、第2油室31,32からトラクションオイルを排出する。続いてステップS5でアイドリングストップを開始し、ステップS6でアイドリングストップから復帰してエンジンEが再始動されると、ステップS7でリニアソレノイドバルブ52を制御して油圧ローダ27の第1、第2油室31,32にトラクションオイルを供給する。前記ステップS3で油温が閾値未満であれば、前記ステップS4で第1、第2油室31,32からのトラクションオイルの排出を実行しないまま、前記ステップS5でアイドリングストップに移行する。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0048】
例えば、実施の形態のトロイダル変速機構11はダブルキャビティ型のものであるが、シングルキャビティ型のものであっても良い。
【0049】
また実施の形態の油圧ローダ27は第1ピストン29および第2ピストン30を備えているが、単一のピストンを備えるものであっても良い。
【0050】
また本発明の弾発部材は実施の形態の皿ばね50に限定されるものではない。