特許第6029222号(P6029222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029222金属粒子、ペースト、成形体、及び、積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6029222
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】金属粒子、ペースト、成形体、及び、積層体
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20161114BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20161114BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20161114BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20161114BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
   B22F1/02 A
   H01B1/00 C
   H01B5/00 C
   H01B1/22 A
   !C22C13/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-65287(P2016-65287)
(22)【出願日】2016年3月29日
【審査請求日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-136988(P2015-136988)
(32)【優先日】2015年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504034585
【氏名又は名称】有限会社 ナプラ
(72)【発明者】
【氏名】関根 重信
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−270796(JP,A)
【文献】 特開2006−196421(JP,A)
【文献】 特開平07−235565(JP,A)
【文献】 特開昭50−001040(JP,A)
【文献】 特許第4401281(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻と、コア部とから成る金属粒子であって、
前記コア部は、金属又は合金を含み、
前記外殻は、金属間化合物から成り、前記コア部を覆っており、
前記コア部は、Sn又はSn合金を含み
前記外殻は、SnとCuとの金属間化合物を含む、
金属粒子。
【請求項2】
金属粒子と、ビヒクルとを含む導電性ペーストであって、
前記金属粒子は、請求項1に記載された金属粒子を含み、前記ビヒクル中に分散されている、
導電性ペースト。
【請求項3】
金属粒子を含む成形体であって、前記金属粒子は、請求項1に記載された金属粒子を含む、成形体。
【請求項4】
第1層と、第2層との積層構造を有する積層体であって、
前記第1層は、請求項1に記載された金属粒子を含み、
前記第2層は、熱伝導層又は導電層を構成する、
積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子、ペースト、成形体、及び、積層体に関するものである。
【0002】
先に、本明細書において使用する用語について、次の通り定義しておく。
(1)「金属」、「金属粒子」または「金属成分」というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、コンポジット構造、又は、それらの組合せを含む。
(2)ナノとは、1μm(1000nm)以下の大きさをいう。
(3)金属マトリクスとは、その他の成分の間隙を充填し、それらを支持する母材となる金属又は合金のことをいう。
【背景技術】
【0003】
長時間にわたって高温動作状態が継続し、しかも、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用される機器、例えば、車載用電力制御素子(パワーデバイス)は、上述した熱履歴にかかわらず、長期にわたって高い接合強度が維持できることが要求される。しかし、従来知られた接合材は、必ずしも、上述した要求を満たし得るものではなかった。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されているSnAgCu系接合材(粉末はんだ材料)では、到底上述した要求を満たすことができない。
【0005】
また、複数の半導体基板を積層して接合する場合や、金属や合金による三次元造形物を成形する場合等に固有の問題として、カーケンダルボイドによる機械的強度の低下の問題がある。カーケンダルボイドは、金属の相互拡散の不均衡により発生した原子空孔(格子)が、消滅することなく集積したことにより発生する。例えば、SnとCuの界面の場合、Cuの拡散に対してSnの拡散が少ないため、金属間化合物とCu界面とに空孔が集積し、カーケンダルボイドを形成する。このカーケンダルボイドが、より大きな空洞又はクラックに発展し、接合部や三次元造形物の信頼性及び品質を低下させ、更には機械的強度が低下し、剥離、破断、破損等を生じてしまうこともある。
【0006】
例えば、特許文献2は、半導体装置の電極と実装基板の電極を、CuSnと、Cuボールを有する接続部とにより接続し、Cuボール同士もまた、CuSnで連結する技術を開示している。しかしながら、カーケンダルボイドについての言及がなく、その発生を抑制する手段を開示するものではない。特許文献3は、半導体チップ又は基板の接合面に、Cu金属粒子とSn粒子を含む接合剤を塗
布し、Snの融点より高い温度で加熱し、接合剤のCuとSnとを遷移的液相焼結させた後、更に、加熱する工法を開示している。しかし、カーケンダルボイド抑制手段を開示するものではない。
【0007】
特許文献4は、金属粒子としてCu粒子と、はんだ粒子としてSn粒子3を含むはんだ材料を圧延して形成したはんだ箔を開示している。はんだ箔では、Cuは粒子の状態であり、SnはこのCu粒子の間を埋める状態にあるから、Cu粒子の間をSnによって完全に埋めることができなければ、カーケンダルボイドを発生することが懸念される。
【0008】
特許文献5は、異方性を有する導電性接着シートを、厚さ方向の中央に配置したコアフィルムと、コアフィルムの両面に配置された接着剤層と、球状の導電性微粒子とで構成する。コアフィルムに、厚さ方向に貫通する貫通孔を規則的に形成し、全ての貫通孔内に、各1個の導電性微粒子を配置する。しかし、導電性接着シートを用いているので、高い耐熱性を確保することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−268569号公報
【特許文献2】特開2002−261105号公報
【特許文献3】特開2014−199852号公報
【特許文献4】特開2002−301588号公報
【特許文献5】特開2003−286456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、カーケンダルボイドの生じにくい高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部、又は、三次元造形物を形成し得る金属粒子、導電性接ペースト、及び成形体を提供することである。
【0011】
本発明のもう一つの課題は、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部、又は、三次元造形物を形成し得る金属粒子、導電性ペースト、及び成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明に係る金属粒子は、外殻とコア部とから成り、前記コア部は、金属又は合金を含み、前記外殻は、金属間化合物から成り、前記コア部を覆っている
【0013】
上述したように、本発明に係る金属粒子は、金属間化合物から成る外殻を有する。前記金属粒子を含む接合材を用いて接合部を形成した場合、被接合導体部との拡散反応は外殻を通じての拡散となる。そのため、拡散を起こす金属同士が直接接触して拡散反応が起こる従来の接合材よりも、反応速度が抑制される。その結果、前述したカーケンダルボイドの発生原因である金属の相互拡散の不均衡が解消され、断線等を生じにくい高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部又は、三次元造形物を形成し得る。
【0014】
更に、反応速度が抑制された状態での拡散反応により、被接合導体部との接合面に、ラメラ間隔が1μm以下のラメラ構造が形成される。前記ラメラ構造は、金属間化合物による層と、金属マトリクスによる層とから構成されている。前記ラメラ構造はナノサイズであるため、仮にカーケンダルボイドが発生したとしても、狭い範囲に抑えられ、クラックなどの重篤な欠陥に発展することはない。
【0015】
前記ラメラ構造は、金属間化合物層と、金属マトリクス層とから構成されているから、前記接合部は、金属間化合物による高温耐熱性と、金属マトリクスによる柔軟性とを兼ね備えている。このため、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度が維持されることになる。
【0016】
前記外殻の形成は、前記金属粒子の製造と同一工程内で行われてもよいし、コーティングなどの手法によって、後から形成されてもよい。金属粒子の製造と同一工程内で形成される場合、前記外殻は、前記コア部を構成する少なくとも一つの金属元素を含む金属間化合物から構成され、前記コア部の表層に集積して形成される。後から形成される場合、前記外殻を構成する金属間化合物は、自由に選択することができる。前記外殻の厚さは、ナノサイズである。
【0017】
前記コア部は、金属元素又は合金を含むほか、金属間化合物を含んでいてもよい。
【0018】
本発明に係る金属粒子は、Cu、Al、Ni、Sn、Ag、Au、Pt、Pd、Si、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、Cr、Coから選択された金属元素から構成されており、粒径はおよそ1μmから20μmである。
【0019】
本発明に係る金属粒子、特にコア部は、複数の金属成分を含むことができる。この場合、複数の金属成分として、低融点成分と高融点成分とを組合せ、初期融解時には、主として、低融点成分のもつ融点で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分の持つ融点によって支配されるような温度まで、高温化することができる。したがって、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合部、導体部を形成し得る。金属粒子のこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子(パワーデバイス)のための電気配線及び導電性接合材として有用である。
【0020】
更に、本発明に係る金属粒子は、三次元造形物を製造するのに用いることができ、この場合も、カーケンダルボイドの発生を抑制することができる。
【0021】
本発明は、更に、導電性ペーストを開示する。この導電性ペーストは、複数の金属成分を含む。典型的には、上述した本発明に係る金属粒子を含む粉体を、有機ビヒクルに分散させ、導電性ペーストを調製する。また、典型的な有機ビヒクルの他、水性ビヒクルや、揮発性有機ビヒクル等を用いる場合もある。
【0022】
本発明に係る導電性ペーストは、本発明に係る金属粒子を含んでいるから、前記金属粒子の持つ特性や優位性を内包している。
【0023】
本発明は、更に、成形体を開示する。前記成形体は、典型的には、上述した本発明に係る金属粒子を含む粉体を、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって得ることができる。この成形体は、シート状又は線状等、任意の形態をとることができる。
【0024】
本発明に係る金属粒子を含む粉体に対し、冷間圧接法を用いた金属間接合処理を施して、本発明に係る成形体を得た場合、成形体の内部では、本発明の金属粒子及び他の粒子は、外形形状は変化するものの、その内部構造は、ほぼ、原形を保っている。
【0025】
本発明に係る成形体は、本発明に係る金属粒子を含んでいるから、前記金属粒子の持つ特性や優位性を内包している。
【0026】
本発明は、更に、積層体を開示する。この積層体は、第1層と第2層の積層構造を有する。前記第1層は、本発明に係る金属粒子を含んでいる。前記第2層は、熱伝導層又は導電層を構成する。本発明に係る積層体は、本発明に係る成形体を、任意数用いることによって形成することができる。
【0027】
本発明に係る積層体は、第1層を有しており、前記第1層は、本発明に係る金属粒子を含んでいるから、前記金属粒子の持つ特性や優位性を内包している。したがって、この積層体を用いることにより、カーケンダルボイドの発生を抑制し、耐熱性を高めた高信頼性及び高品質の電気配線及び導電性接合部を形成することが可能になる。
【0028】
また、本発明に係る積層体は、第1層と積層される第2層を有しており、前記第2層は、熱伝導層又は導電層を構成するから、カーケンダルボイドの発生が抑制されている第1層から、熱伝導層又は導電層となる第2層に、熱又は電気信号を高効率で伝送することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明によれば、カーケンダルボイドの生じにくい高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部、又は、三次元造形物を形成し得る金属粒子、ペースト、成形体、及び積層体を提供することができる。
【0030】
また、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部、又は、三次元造形物を形成し得る金属粒子、ペースト、成形体、及び積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る金属粒子の電子顕微鏡写真を示す図である。
図2】本発明に係る金属粒子を、奥行方向に間隔をおいて切断していったときの各断面の電子顕微鏡写真を示す図である。
図3】本発明に係る金属粒子から形成された接合部の一例を示す図である。
図4図3のA部のSEM像を示す図である。
図5図4のSEM像を拡大して示す図である。
図6】本発明に係る成形体を示す図である。
図7】冷間圧接法を用いた金属間接合を示す図である。
図8】本発明に係る積層体を示す図である。
図9】本発明に係る積層体の別の例を示す図である。
図10】本発明に係る積層体の更に別の例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1には、球形状の本発明に係る金属粒子1の電子顕微鏡写真が図示されている。本発明に係る金属粒子は、特許第4401281号に開示された技術を適用して製造することができる。実際の使用にあたっては、この金属粒子1の集合体である粉体が用いられる。
【0033】
金属粒子1は、外殻とコア部とから成り、前記コア部は、金属、合金、又は金属間化合物を含んでいる。前記外殻は、金属間化合物から成り、前記コア部を覆っている。その詳細について、図2に図示した電子顕微鏡写真を参照し、説明する。図2は、8質量%のCuと、92質量%のSnの組成(以下、8Cu・92Snと称する)で成る金属粒子1を、奥行方向に間隔をおいて切断していったときの各断面(A)〜(F)を撮影したものである。直径で切断した状態が図2(F)に示されている。
【0034】
図2(F)を参照すると、金属粒子1は、外殻101とコア部102から成る。外殻101は、CuとSnの金属間化合物CuSnからなる。また、外殻101の厚さは、ナノサイズである。コア部102は、Sn、Cu、CuとSnの合金又はCuとSnの金属間化合物CuSnを含む。金属間化合物CuSnは、典型的には、CuSn、CuSnである。
【0035】
もっとも、金属粒子1は、これを用いて得ようとするものに応じて選定される。例えば、電気配線、半導体チップ間を接合する接合部を形成する場合には、例えば、Cu、Al、Ni、Sn、Ag、Au、Pt、Pd、Si、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、Cr、Coの群から選択された金属元素の少なくとも一種を含むことができる。三次元造形物を得る場合にも、上述した金属元素群の少なくとも一種を含むことができる。
【0036】
上述したように、本発明に係る金属粒子1は、複数の金属成分を含むことができる。この場合、複数の金属成分として、低融点成分と高融点成分とを組合せ、初期融解時には、主として、低融点成分のもつ融点で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分の持つ融点によって支配されるような温度まで、高温化することができる。例えば、実施の形態として例示したように、金属粒子1を8Cu・92Snによって構成した場合、初期融解時には、主として、Snのもつ融点(231.9℃)で溶解させ、凝固後の再融解温度を、Snよりも高融点であるCuSnのもつ融点(CuSn:676℃、CuSn:435℃)によって支配されるような温度まで、高温化することができる。したがって、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合部、導体部を形成し得る。金属粒子1のこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子(パワーデバイス)のための電気配線及び導電性接合材として有用である。
【0037】
図3を参照すると、接合部300は、例えば、対向配置された基板200、500に形成された金属/合金体201,501を接合する。基板200,500は、例えば、パワーデバイスなどの電子・電気機器を構成する基板であり、金属/合金体201,501は、電極、バンプ、端子またはリード導体などとして、基板200,500に一体的に設けられている。パワーデバイスなどの電子・電気機器では、金属/合金体201,501は、一般にはCuまたはその合金として構成される。もっとも、基板200,500に相当する部分が、金属/合金体で構成されたものを排除するものではない。
【0038】
図4及び図5では、金属/合金体201,501は、Cu層である。接合部300は、8Cu・92Snを含む接合材を用いることによって得ることができる。接合部300は、Sn、Cu、SnとCuとの合金又はSnとCuとの金属間化合物を含み、金属/合金体201,501の表層に、拡散接合によって接合されている。
【0039】
金属粒子1を含む接合材を用いて接合部300を形成した場合、前記金属粒子1と金属/合金体201,501との拡散接合は、外殻101を通じての拡散にならざるを得ない。そのため、拡散を起こす金属同士が直接接触して拡散反応が起こる従来の接合材よりも、反応速度が抑制される。その結果、Cuの拡散に対してSnの拡散が少ないという相互拡散の不均衡が解消され、カーケンダルボイドの発生を防止する。したがって、断線等を生じにくい高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部又は、三次元造形物を形成し得る。
【0040】
更に、反応速度が抑制された状態での拡散反応により、金属/合金体201,501との接合面に、ラメラ間隔がナノサイズであるラメラ構造が形成される。このラメラ構造について、図4及び図5を参照に説明する。
【0041】
図4及び図5において、接合部300は、金属/合金体201,501の表面に、第1層301、第2層302及び第3層303が、この順序で積層された構造を持つ。第1層301及び第2層302は、金属間化合物による層と金属マトリクスによる層とから成るラメラ構造をとる。図5を見ると、第1層301及び第2層302において、山状に見える部分が金属間化合物であり、谷状に見える部分が金属マトリクスである。
【0042】
上記構造において、第1層301は、Cu層である金属/合金体201,501に隣接しているため、CuリッチなCuSnを主とする金属間化合物と、金属マトリクスとのラメラ構造になる。また、Cu層である金属/合金体201,501から遠い第2層は、CuSnを主とする金属間化合物と、金属マトリクスとのラメラ構造になる。
【0043】
つまり、接合部300は、金属間化合物による高温耐熱性と、金属マトリクスによる柔軟性とを兼ね備えている。このため、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度が維持されることになる。
【0044】
しかも、前記ラメラ構造は、ラメラ間隔がナノサイズであるため、仮にカーケンダルボイドが発生したとしても狭い範囲に抑えられる。したがって、接合部や三次元造形物の信頼性及び品質を低下させ、更には機械的強度を低下させ、剥離、破断、破損等を生じさせるような、クラックなどの重篤な欠陥に発展することはない。
【0045】
ちなみに、260℃の高温保持試験(HTS)では、試験開始時から約100時間までは、せん断強度が約35MPaから約40MPaまで上昇し、500時間までの時間領域では、ほぼ40MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0046】
また、(-40〜200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、約200サイクルを超えたあたりから、全サイクル(1000サイクル)に渡って、せん断強度が約30MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0047】
上述した効果を得るためには、本発明に係る金属粒子1は、コア部の表面積の少なくとも50%以上が、外殻に覆われている必要がある。好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上が外殻に覆われているとき、良好な結果を得ることができる。
【0048】
次に、本発明に係る導電性ペーストは、複数の金属成分を含む。典型的には、上述した本発明に係る金属粒子1を含む粉体を、ビヒクルに分散させ、導電性ペーストを調製する。ビヒクルは、典型的には有機ビヒクルであり、有機溶剤とともに用いられる。また、典型的な有機ビヒクルの他、水性ビヒクルや、揮発性有機ビヒクル等を用いる場合もある。
【0049】
本発明に係る導電性ペーストは、本発明に係る金属粒子1を含んでいるから、前記金属粒子1の持つ特性や優位性を内包している。
【0050】
次に、図6図7には、本発明に係る成形体6が図示されている。図6に図示された成形体6はシート状である。成形体6は、チップ状であってもよいし、長尺状であってもよい。或いは、断面円形状の線材であってもよいし、断面楕円形状の線材であってもよい。要するに、成形体6の形状は任意に選定できる。
【0051】
本発明に係る成形体6は、典型的には、上述した本発明に係る金属粒子1を含む粉体を、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって処理することによって得ることができる。冷間圧接法を用いた金属間接合それ自体は、種々知られている。本発明においては、それらの公知技術を適用することができる。図7は、適用可能な典型例を示している。図7において、対向する向きに回転R1,R2する圧接ローラ31,32の間に、本発明に係る金属粒子を含む粉体4を供給し、圧接ローラ31,32から粉体4に対して圧力を加えて、粉体4を構成する金属粒子に金属間接合を生じさせる。実際の処理に当たっては、圧接ローラ31,32から粉体4に100℃前後の熱を加えることが望ましい。これにより、図6図7に示した成形体6が得られる。
【0052】
本発明に係る金属粒子1を含む粉体に対し、冷間圧接法を用いた金属間接合処理を施して、本発明に係る成形体6を得た場合、成形体6の内部では、本発明の金属粒子及び他の粒子は、外形形状は変化するものの、粒子の構造は、ほぼ原形を保っている。したがって、本発明に係る成形体6は、本発明に係る金属粒子1の持つ特性や優位性を内包している。
【0053】
図8図10には、本発明に係る積層体が図示されている。まず、図8を参照すると、図示の積層体7は、第1層701と第2層702の積層構造を有する。第1層701は、本発明に係る成形体6、典型的には、図6に図示したシート状のものである。
【0054】
第2層702は、熱伝導層又は導電層を構成する。具体例としては、Cuを主成分とするものや、Cuとカーボンナノチューブ(CNT)とを主成分とするものなどを例示することができる。
【0055】
本発明に係る積層体7は、例えば、図9に示すように、本発明に係る成形体6でなる第1層701を、第2層702の両面に設けてもよいし、或いは、図10に示すように、図8及び図9に示したものを、任意数nだけ、積層して用いることによって形成することができる。
【0056】
本発明に係る積層体7は、第1層701と積層される第2層702を有しており、第1層701は、本発明に係る金属粒子1を含んでいるから、前記金属粒子1の持つ特性や優位性を内包している。つまり、この積層体7を用いることにより、カーケンダルボイドの発生を抑制し、機械的強度が大で、しかも、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の導体部及び接合部を形成することが可能になる。
【0057】
また、本発明に係る積層体7は、第1層701と積層される第2層702を有しており、第2層702は、熱伝導層又は導電層を構成するから、カーケンダルボイドの発生が抑制されている第1層701から、熱伝導層又は導電層となる第2層702に、熱又は電気信号を高効率で伝送することができる。特に、発熱の大きなパワーデバイスの導電性接合材又は電気配線材として有用である。
【0058】
以上、好ましい実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。
【符号の説明】
【0059】
1 金属粒子
101 外殻
102 コア部
200,500 基板
201,501 金属/合金体
300 接合部
4 金属粉末
6 成形体
31,32 圧接ローラ
7 積層体
701 第1層
702 第2層
【要約】      (修正有)
【課題】カーケンダルボイドが生じ難く、しかも耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部、又は、三次元造形物を形成し得る金属粒子、導電性ペースト、成形体、及び積層体の提供。
【解決手段】外殻101とコア部102から成る金属粒子1であって、外殻101は、金属間化合物から成り、コア部102を覆っている金属粒子1。金属粒子1がビヒクル中に分散されいる導電性ペースト。金属粒子1を含む成形体。金属粒子を含む第一層と、熱伝導層又は導電層を構成する第2層と、の積層構造を有する積層体。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10