(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029239
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物、およびその製造方法,熱交換器
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20161114BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20161114BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20161114BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
C22C21/00 L
C22C1/02 503J
C22C21/00 J
B22D21/04 A
B22D27/04 E
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-103662(P2013-103662)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-224287(P2014-224287A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
(72)【発明者】
【氏名】磯部 智洋
(72)【発明者】
【氏名】堀川 宏
(72)【発明者】
【氏名】木滝 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦史
(72)【発明者】
【氏名】榊原 裕司
(72)【発明者】
【氏名】沖ノ谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】細野 剛史
【審査官】
本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭48−042764(JP,B1)
【文献】
特開平10−280077(JP,A)
【文献】
特開2003−055727(JP,A)
【文献】
特開平11−343532(JP,A)
【文献】
特開平3−39438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/00
C22F 1/04−1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn:1.8〜3.0質量%,Cu:0.15〜0.50質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなる成分組成と、凝固時に晶出した晶出粒子の平均粒径が11μm以上である金属組織を有することを特徴とする鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項2】
Mnの含有量が−2.8×含有Cu質量%+2.9質量%から−2.6×含有Cu質量%+3.4質量%の範囲内である請求項1に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項3】
さらにFe:0.4質量%以下、Si:0.3質量%以下を含み、不可避的不純物としてのMgが0.1質量%以下である成分組成を有する請求項1又は2に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項4】
さらにTi:0.05〜0.3質量%、B:0.0005〜0.02質量%、Zr:0.0005〜0.02質量%の内のいずれか1種以上を含む成分組成を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項5】
成分組成が620℃以上の融点をもつように調整されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項6】
熱交換器用部材に用いられる請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を鋳造する際、凝固時の冷却速度を10℃/秒以下にして鋳造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋳造性および耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物が用いられていることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に熱交換器用部材等に用いられる耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,熱交換器用部材等には、耐食性と加工性に優れた3000系アルミニウム合金が用いられている。強度をより高くする目的で合金元素含有量を多くしようとすると耐食性や加工性等に悪影響が出るため、Mn含有量は1.5wt%程度以下に抑えられている。
そして、3000系アルミニウム合金を熱交換器用部材等に用いる事例として、例えば特許文献1に、(重量%で)0.5<Mn≦1.7、0.06<Cu≦1.5、Si≦1.3、Mg≦0.25、Ti<0.2、Zn≦2.0、Fe≦0.5、0.05<Zr≦0.25および0.05<Cr≦0.25からなる元素群の少なくとも一種の元素、他の元素それぞれ<0.05および合計<0.20を含んだアルミニウム合金が、特許文献2に、(重量%で)Cu:0.06〜1.25、Mn:0.4〜1.7、Mg:最大0.6、Si:最大1.25、Zn:最大0.4、Zr:最大0.25、Fe:最大0.8、Ti:最大0.3、Cr:最大0.25、を含んだアルミニウム合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−500453号公報
【特許文献2】特表2008−517152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したように、3000系展伸材料では耐食性や加工性を確保するためにMn含有量は1.5%程度以下に抑えられている。このため、鋳造性が十分ではない。熱交換器用部材として提案されている特許文献1,2に記載のアルミニウム合金も同様である。
また、従来では耐食性に優れたアルミニウム合金、特にアルミニウム合金製の熱交換器用部材を製造する場合、圧延工程,押出工程等の展伸工程,切削工程を経て製品を製造することが多かった。しかしながら、この工程では工数が増えるため生産性があまりよくなく、生産コストも高価であった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、工法を鋳造、特にダイカスト鋳造とすることにより、従来の押出や切削加工よりも生産性(鋳造性)や生産コストを抑えることができ、しかも必要とされている耐食性が阻害されることのないアルミニウム合金鋳物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐食性に優れたアルミニウム合金鋳物は、その目的を達成するため、Mn:1.8〜3.0質量%,Cu:0.15〜0.50質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなる成分組成と、凝固時に晶出した晶出粒子の平均粒径が11μm以上である金属組織を有することを特徴とする。
そして、Mnの含有量は、−2.8×Cuの含有量+2.9質量%から−2.6×Cuの含有量+3.4質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0007】
また、Fe:0.4質量%以下、Si:0.3質量%以下を含み、不可避的不純物としてのMgを0.1質量%以下にすることが好ましい。さらにTi:0.05〜0.3質量%、B:0.0005〜0.02質量%、Zr:0.0005〜0.02質量%の内のいずれか1種以上を含むようにしてもよい。いずれにしても、融点が620℃以上となるように成分組成を調整することが好ましい。
このように成分組成され、特定の金属組織を有するアルミニウム合金鋳物は鋳造性および耐食性に優れ、熱交換器用部材に好適に用いられる。
なお、晶出粒子の平均粒径が11μm以上である金属組織は、上記のように特定された成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を鋳造する際、凝固時の冷却速度が10℃/秒以下になるように鋳造することにより得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、3000系アルミニウム合金の主元素であるMnを基本元素とし、Mn含有量を増やしたAl‐Mn合金にCu,Si,Fe等を適量添加し凝固時に晶出する晶出粒子の平均粒径の大きさを比較的大きくなるように調整することにより、熱交換器用部材等に用いられるに十分な耐食性を有し、しかも鋳造性が良好で鋳造時に割れることが抑制されたアルミニウム合金鋳物を得ることができている。
従来の押出や切削加工よる生産性の良くない方法ではなく、生産性に優れた鋳造法により熱交換器用部材が得られるので、当該部材を低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Mn含有量とCu含有量の好ましい関係を示す図
【
図2】鋳造時の凝固速度の違いによる晶出物平均粒径の違いを説明する断面組織写真
【
図3】鋳造時の凝固速度の違いによる粒界腐食状況の違いを説明する断面観察写真
【
図4】冷却速度と耐粒界腐食性の関係を概念的に説明する図
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前記したように、熱交換器用部材等に用いられる3000系アルミニウム合金は、耐食性と加工性を兼ね備えさせるために、Mn含有量を1.5wt%程度以下に抑えている。3000系アルミニウム合金は優れた加工性を有しているので、圧延工程,押出工程等の展伸工程,切削工程を経て製品化されているが、工程数が増えるため生産性が悪く、生産コストも高価になっている。
このような背景のもとに、本発明者らは、熱交換器用部材等に用いられるに十分な耐食性を備えたアルミニウム合金製品を、簡便な方法で製造する方法について鋭意検討を重ねた。
【0011】
簡便な方法として考えられる方法は鋳造法である。3000系アルミニウム合金に鋳造性を付与するにはMn含有量を増やすことが有効であるが、Mn含有量を増やすと耐食性が低下する。
そこで、3000系アルミニウム合金の主元素であるMnを基本元素とし、耐食性や鋳造性を良好に維持するために研究を重ねた結果、Mn含有量を増やしたAl‐Mn合金にCu,Si,Fe等を適量添加し凝固時に晶出する晶出粒子の平均粒径の大きさを調整すると、熱交換器用部材等に用いられるに十分な耐食性を有し、しかも鋳造性も良好であることがわかった。また鋳造時の耐割れ性についても良好であることを確認し、本発明に到達した。
以下にその詳細を説明する。
【0012】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、Mn:1.8〜3.0質量%,Cu:0.15〜0.50質量%を含み、或いは必要に応じてFe:0.4質量%以下、Si:0.3質量%以下を、さらに必要に応じてTi:0.05〜0.3質量%、B:0.0005〜0.02質量%、Zr:0.0005〜0.02質量%の内のいずれか1種以上を含む、不可避的不純物としてのMgを0.1質量%以下にし、残部がAlと不可避的不純物からなる成分組成と、凝固時に晶出した晶出粒子の平均粒径が11μm以上である金属組織を有することを特徴としたものである。
まず、本発明合金鋳物を構成する各元素の作用、含有量を説明する。(以下、%は質量%を意味するものである。)
【0013】
Mn:1.8〜3.0質量%
Mnは機械的強度を向上させる他に、鋳造性を向上させる作用を呈する。この作用は2.0〜2.5%で顕著となるためこの範囲内とすることが特に好ましい。1.8質量%より少ないと、Mnの共晶点以下となるため、全体の潜熱が減少して鋳造性が悪化してしまう。逆に3.0質量%を超える程に多いと、粗大な初晶Al‐Mn系化合物として晶出し、機械的強度が低下する。
【0014】
Cu:0.15〜0.50質量%
Cuは機械的強度を向上させる。0.15質量%より少ないと添加効果が見られず、目標とする機械的強度が得られない。逆に0.5質量%より多いと耐割れ性や耐食性が低下してしまう。
なお、Mn、Cuの含有量は、
図1の斜線で示す通り、Mnの含有量が−2.8×Cuの含有量+2.9質量%から−2.6×Cuの含有量+3.4質量%の範囲内に含まれることが好ましい。この範囲内にすることで、Mn系およびCu系の晶出物がバランスよく晶出するため,より良好な耐食性が得られることになる。
【0015】
Fe:0.4質量%以下
Feを適量添加(0.4%以下)した場合、耐食性が良好となるとともに、粗大なFe系晶出物が晶出しないため,機械的強度や伸びが向上する。しかしながら、0.4質量%より多いと伸びを低下させるとともに、耐食性が低下してしまう。したがって、Feの添加量は0.4質量%以下とする。
【0016】
Si:0.3質量%以下
Siは融点に影響する。0.3質量%より多いと、融点が620℃を下回ってしまう。Siを適量添加(0.3%以下)した場合、融点が620℃以上となり、ろう付け性が向上する。
Mg:0.1%質量%以下
Mgはろう付け性や耐割れ性に影響する。不可避的不純物としてのMgが0.1質量%を超える程に多いと、ろう付け性が悪化する。またMg系晶出物が晶出するため、耐割れ性が悪化する。
【0017】
Ti:0.05〜0.3質量%,B:0.0005〜0.02質量%,Zr:0.0005〜0.02質量%
これらの元素は、結晶粒を微細化させ機械的特性を向上させる作用がある。また耐割れ性を改善する作用がある。しかし添加量が多すぎると粗大な化合物を形成し、伸びが低下するため、上記範囲内とする。
不可避的不純物
例えばP,Ca,Sr,Sb,Na,Zn,Pb,Bi,Sn等のように,アルミニウム合金に通常含有される元素も、合計で0.3%以下であれば耐食性や鋳造性に悪影響を及ぼすことはない。
【0018】
凝固時に晶出する晶出粒子の平均粒径が11μm以上
上記のような組成のアルミニウム合金では、凝固時に晶出粒子が晶出する。そして腐食は晶出物を伝播して進行する性質がある。本発明においては、凝固時に晶出する晶出粒子の平均粒径は11μm以上とした。11μmに満たないと、晶出粒子と晶出粒子の間隔が小さくなり,腐食が晶出物を伝播しやすくなるためである。より好ましい平均粒径は15μm以上である。この晶出粒子の好ましい平均粒径は、後述する実施例により、実験的に確認したものである。
【0019】
続いて、本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法について説明する。
本発明方法では、上記の添加元素と不可避不純物からなる成分組成に調整したアルミニウム合金溶湯を鋳造することにより製造される。鋳造法に制限はないが、密度の高い鋳物を寸法精度よく鋳造できる点を考慮すると、ダイカスト法を用いることが好ましい。
なお、アルミニウム合金鋳物成形時の冷却速度は10℃/秒以下にして行うことが好ましい。冷却速度が10℃/秒を超えると、凝固時に晶出する晶出粒子の組織が微細となり、腐食の進展が促進されるためである。冷却速度が遅い方が凝固時に晶出する晶出粒子の平均粒径が大きくなるため、冷却速度1℃/秒以下がより好ましい。
凝固時の冷却速度をこのように調整することによって、凝固時に晶出する晶出粒子の平均粒径が11μm以上なる要件を満たしやすくなる。この好ましい冷却速度も、後述する実施例により、実験的に確認したものである。
【0020】
上記のように製造されたアルミニウム合金鋳物は、耐食性が良好なため、耐食性が必要とされる部材、例えば熱交換器に用いるジョイント部材などに利用することができる。
【実施例】
【0021】
実施例1;
耐割れ性、鋳造性、耐食性に優れた組成範囲を決定するため、表1に示す各組成のアルミニウム合金を溶製し、いずれも鋳造温度は760℃で各鋳型に鋳造した。各鋳片について、耐割れ性、鋳造性、耐食性を調査した。その結果を表2に示す。
なお、各種アルミニウム合金の溶製は、99.9質量%Alのインゴットを溶融した溶湯に、Al‐25質量%Si合金,Al‐5質量%Fe合金,Al‐30質量%Cu合金,Al‐10質量%Ti合金,Al‐10質量%Mn合金,Al‐4質量%B合金,Al‐5質量%Zr合金の各種母合金を添加して作製した。
【0022】
そして、耐割れ性評価については、250℃に予熱した鋳鉄製のIビーム型を使用した。Iビーム試験片中央の評価部の耐割れ発生の有無で評価した。
また鋳造性は,溶湯の流動性を評価した。流動性は,常温のシェル砂製の鋳型を使用した。
なお、Iビーム試験とは、軽金属vol.33, No.12, p705-711 (1983) に記載されているような公知の鋳造割れ評価試験方法である。本実験では溶湯温度760℃として鋳型長さ20〜190mmでIビーム型試験を行った。評価部は、試験片中央の断熱材貼り付け位置(府断熱材の大きさは鋳型長さにより異なり,4〜38mmの範囲である)である。
さらに耐食性はCASS試験により評価した。CASSはJIS Z2371に準じて実施した。評価面は機械加工により切削した面とした。CASS試験後試料の断面観察を行い,粒界腐食(線状の腐食)の発生有無を評価した。
試験片サイズは,70×70×15mmtの試験片である。
【0023】
それぞれの評価基準は、次の通りである。
耐割れ性については、評価部に割れが全くないものを○、評価部に一部割れがあるものを△、評価部が完全に破断したものを×とした。
また鋳造性については、流動長が95cm以上であったものを○、流動長が95cm未満であったものを×とした。
さらに耐食性については、線状腐食がなかったものを○、線状腐食長さが1〜49μmであったものを△、線状腐食長さが50μm以上であったものを×とした。
【0024】
【0025】
【0026】
表2に示すよう,本発明例の各合金は、比較例の各合金に比べて割れ性,鋳造性および耐食性に優れていることがわかる。
比較例の合金No.17,18,19および20の耐割れ性が本発明例の合金よりも劣るのは、CuまたはMg含有量が多いこと、さらにTi添加量が少ないためである。同様に、比較例の合金No.17,18および19の鋳造性が本発明例の合金よりも劣るのは、Mn添加量が少ないためである。同様に、比較例の合金No.15,16,17および20の耐食性が、本発明例の合金よりも劣るのは、FeまたはCu添加量が多いためである。なお発明例の合金No.7のみ耐食性が△であるが、これは他の発明例の合金よりもFe添加量が多いためである。
【0027】
なお
図1に耐食性に対するCuとMnの組成割合を示した。Cu量0.15〜0.50質量%,Mn量1.8〜3.0質量%が組成範囲であるが、好ましくは図中斜線で示した範囲がより望ましい。この範囲であれば,より耐食性が向上するためである。合金No.6,9,10,11,12,13,14は
図1の斜線の範囲内であり、Mn系およびCu系の晶出物がバランスよく晶出するため、より良好な耐食性が得られた。
【0028】
実施例2;
次に、上記実験に用いた組成である合金No.1において、金型温度を変えて冷却速度を変化させた。テストピースは重力鋳造により作製した,70×70×15mmtの板状試験片である。結果を
図2に示す。
図2は,試料断面をバフ研磨し,光学顕微鏡で撮影したミクロ組織写真である。なお、
図2中のa),b),c),d)のスケールは全て同じである。
【0029】
a)の組織は冷却速度が15℃/秒であり、晶出物の平均粒径は10.2μmである。晶出物の平均粒径が11μmより小さいため、腐食が晶出物を伝播しやすくなり、好ましくない。b)の組織は冷却速度が8℃/秒であり,晶出物の平均粒径は11.8μmである。同様に、c)の組織は冷却速度が5℃/秒であり、晶出物の平均粒径は12.7μm、d)の組織は冷却速度が0.7℃/秒であり、晶出物の平均結晶粒径は18.7μmである。
【0030】
図3は、上記のように冷却速度を変化させて鋳造した鋳片のCASS試験後の腐食状態を示した図である。
図2と同様,試料の断面をバフ研磨し、光学顕微鏡で撮影した。なお、
図3中のa),b),c),d)のスケールは全て同じである。
a)は図中○で示したように、粒界腐食が発生している。これは前述したとおり、組織中の晶出物の平均粒径が11μmより小さいため、晶出物を伝って腐食が伝播したものである。b)、c)およびはd)は、晶出物の平均粒径が11μm以上であるため、粒界腐食を抑えることができた。b)、c)は若干の粒界腐食が観察されたが、d)は、晶出物の平均粒径が18.7μmと大きいため,粒界腐食は発生していない。
図4は上記のように冷却速度を変化させた時の冷却速度と耐粒界腐食性の関係を概念的に示した図である。
冷却速度を遅くすることで、粒界腐食が発生し難い組織を形成させることができる。