【文献】
Journal of immunology,2010年 2月,Vol.184, No.4,p.1968-1976
【文献】
Nature biotechnology,2010年 2月,Vol.28, No.2,p.157-159,with Supplementary Information
【文献】
The Journal of biological chemistry,2001年,Vol.276, No.9,p.6591-6604
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
pH6.0およびpH7.4においてヒトFcRn結合活性を有し、EUナンバリング428番目のアミノ酸がLeu、および434番目のアミノ酸がSerであることを含むFcドメイン、及びpH6.0においてはpH7.4における抗原結合活性より低い抗原結合活性を有し、pH6.0における抗原結合活性とpH7.4における抗原結合活性の比が、KD(pH6.0)/KD(pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメインを含む、抗体であって、
前記抗原結合ドメインが、以下から選択されるアミノ酸において少なくとも1つのアミノ酸がヒスチジンであることを含む、抗体。
重鎖:H27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、およびH102(Kabatナンバリング)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。より具体的には、抗原結合分子のヒトFcRnへの結合活性が、pH中性域において増大されることにより、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、pH酸性域におけるヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。
【0018】
さらに本発明は、親IgGの Fcドメインを含むヒトFcRn結合ドメインの親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含むヒトFcRn結合ドメインを用いることで、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。
【0019】
また本発明は、さらに、上記抗原の細胞内への取込を促進させる抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させることにより、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、上記の抗原の細胞内への取込を促進させる抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、上記の抗原の細胞内への取込を促進させる抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する、又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させる方法を提供する。
【0020】
本発明において、抗原結合分子による「抗原の細胞内への取込」とは、抗原がエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれることを意味する。また本発明において「細胞内への取込を促進する」とは、血漿中において抗原と結合した抗原結合分子が細胞内に取り込まれる速度が促進され、および/または、取り込まれた抗原が血漿中にリサイクルされる量が減少することを意味し、抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRnへの結合活性を増大させる、あるいは、当該ヒトFcRnへの結合活性の増大に加えて抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させる前の抗原結合分子と比較して、細胞内への取込速度が促進されていればよく、インタクトなヒトIgGより促進されていることが好ましく、特にインタクトなヒトIgGよりも促進されていることが好ましい。したがって、本発明において、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みが促進されたかどうかは、抗原の細胞内への取り込み速度が増大したかどうかで判断することが可能である。抗原の細胞内への取り込み速度は、例えば、ヒトFcRn発現細胞を含む培養液に抗原結合分子と抗原を添加し、抗原の培養液中濃度の減少を経時的に測定すること、あるいは、ヒトFcRn発現細胞内に取り込まれた抗原の量を経時的に測定すること、により算出することができる。本発明の抗原結合分子の抗原の細胞内への取込速度を促進させる方法を利用することによって、例えば抗原結合分子を投与することによって、血漿中の抗原の消失速度を促進させることができる。したがって、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込が促進されたかどうかは、例えば、血漿中に存在する抗原の消失速度が加速されているかどうか、あるいは、抗原結合分子の投与によって血漿中の総抗原濃度が低減されているかどうか、を測定することによっても確認することができる。
【0021】
本発明において、「血漿中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原濃度と非結合抗原濃度または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」とを合計した濃度を意味する。「血漿中総抗原濃度」または「血漿中遊離抗原濃度」を測定するための様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
【0022】
本発明において、「インタクトなヒトIgG」とは、非修飾ヒトIgGを意味し、IgGの特定のクラスに限定されない。これは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4が、pH酸性域においてヒトFcRnに結合することができる限り、「インタクトなヒトIgG」として用いられうることを意味する。好ましくは、「インタクトなヒトIgG」はヒトIgG1でありうる。
【0023】
本発明はまた、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。より具体的には、抗原結合分子のヒトFcRnへの結合活性がpH中性域において増大されることにより、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子1分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、pH酸性域におけるヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子1分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。
【0024】
さらに本発明は、親IgGの Fcドメインを含むヒトFcRn結合ドメインの親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含むヒトFcRn結合ドメインを用いることで、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子1分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。
【0025】
本発明において、「親IgG」とは、バリアントを作製するために後に改変される非修飾IgGを意味し、親IgGの改変バリアントはpH酸性域においてヒトFcRnに結合することが可能である(ゆえに、親IgGは酸性条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を必ずしも必要とするわけではない)。親IgGは、天然に存在するIgGであってもよく、または天然に存在するIgGのバリアントもしくは操作された型であってもよい。親IgGとは、ポリペプチドそのもの、親IgGを含む組成物、または親IgGをコードするアミノ酸配列を意味し得る。「親IgG」には、以下に概説する組換えによって産生された公知の市販のIgGが含まれることに注意すべきである。「親IgG」の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから得ることができる。好ましくは、生物は、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される。別の態様において、「親IgG」はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから得ることができる。好ましくは、「親IgG」は、ヒトIgG1から得られるが、IgGの特定のクラスに限定されない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4を「親IgG」として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において先に記載した任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスを、好ましくは「親IgG」として用いることができる。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、Curr Opin Biotechnol. 2009 Dec; 20(6): 685-91、Curr Opin Immunol. 2008 Aug; 20(4): 460-70、Protein Eng Des Sel. 2010 Apr; 23(4): 195-202、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338に記載されるがそれらに限定されない。
【0026】
また、本発明は、さらに、抗原結合イベントの数が増えている抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させることにより、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合イベントの数が増えている抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合イベントの数が増えている抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する、又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。
【0027】
本発明における「1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数」とは、抗原結合分子が分解されて消失するまでの間に結合することができる抗原の数のことを意味する。本発明における「1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加する」とは、血漿中で抗原が抗原結合分子に結合し、抗原が結合した抗原結合分子が細胞内に取り込まれエンドソーム内で抗原を解離した後に、抗原結合分子が血漿中に戻ることを1サイクルとした時に、抗原結合分子が分解されて消失するまでの間に回すことができたこのサイクルの数が増加することであり、抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRnへの結合活性を増大させる、あるいは、当該ヒトFcRnへの結合活性の増大に加えて抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させる前の抗原結合分子と比較して、サイクル数が増えていればよい。したがって、サイクル数が増えたかどうかは、前述の「細胞内への取込を促進した」か否か、あるいは、後述の「薬物動態が改善した」か否かによって、判断することが可能である。
【0028】
また本発明は、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での抗原結合分子からの解離を促進させる方法を提供する。より具体的には、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を増大させ、且つ、pH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下さることにより、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での抗原結合分子からの解離を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸を改変するとともに、抗原結合分子中のpH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性をもつヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での抗原結合分子からの解離を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入するとともに、ヒトFcRn結合ドメインの親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列とすることを特徴とする、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での抗原結合分子からの解離を促進させる方法を提供する。
【0029】
本発明において抗原が抗原結合分子から解離する箇所は細胞内であればいかなる箇所でもよいが、好ましくは早期エンドソーム内である。本発明において、「細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での抗原結合分子からの解離」とは、抗原結合分子に結合して細胞内に取り込まれた抗原全てが細胞内で抗原結合分子から解離する必要はなく、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性よりも低くし、かつ、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性を高める前と比較して、細胞内で抗原結合分子から解離する抗原の割合が高くなっていればよい。また、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での抗原結合分子からの解離を促進させる方法は、抗原と結合した抗原結合分子の細胞内への取込を促進させ、細胞内での抗原結合分子からの抗原の解離が促進されやすくなる性質を抗原結合分子に付与する方法ともいえる。
【0030】
また本発明は、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進させる方法を提供する。より具体的には、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を増大させ、且つ、pH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させることにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子中の少なくとも1つのアミノ酸を改変するとともに、ヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入するとともに、ヒトFcRn結合ドメインの親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列とすることを特徴とする、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進させる方法を提供する。
【0031】
本発明において、「抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出」とは、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子全てが抗原と結合していない状態で細胞外に放出される必要はなく、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低くし、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性を高くする前と比較して、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子の割合が高くなっていればよい。細胞外に放出された抗原結合分子は、抗原結合活性を維持していることが好ましい。また、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進させる方法は、抗原と結合した抗原結合分子の細胞内への取り込みを促進させ、抗原結合分子の抗原と結合していない状態での細胞外への放出が促進されやすくなる性質を抗原結合分子に付与する方法ともいえる。
【0032】
また本発明は、抗原結合分子の投与による血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。本発明において、「血漿中抗原消失能を増加させる方法」とは「抗原を血漿中から消失させる抗原結合分子の能力を増加させる方法」と同義である。より具体的には、pH中性域における抗原結合分子のヒトFcRnへの結合活性を増大することにより、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子による血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、pH酸性域におけるヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子による血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。
【0033】
さらに本発明は、親IgGの Fcドメインを含むヒトFcRn結合ドメインの親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含むヒトFcRn結合ドメインを用いることで、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子による血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。
【0034】
また、本発明は、さらに、上記血漿中抗原消失能が増加されている抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させることにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、上記血漿中抗原消失能が増加されている抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、上記血漿中抗原消失能が増加されている抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、抗原結合分子の投与により血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。
【0035】
本発明において、「血漿中抗原消失能」とは、抗原結合分子が生体内に投与された、あるいは、抗原結合分子が生体内で分泌された際に、血漿中に存在する抗原を血漿中から消失させる能力のことをいう。従って、本発明において、「抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加する」とは、抗原結合分子を投与した際に、抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を増大させる、あるいは、当該ヒトFcRnへの結合活性の増大に加えてpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる前と比較して、血漿中から抗原が消失する速さが速くなっていればよい。抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したか否かは、例えば、可溶型抗原と抗原結合分子とを生体内に投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより判断することが可能である。抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を増大させる、あるいは、当該ヒトFcRnへの結合活性の増大に加えてpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させることにより、可溶型抗原および抗原結合分子投与後の血漿中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したと判断することができる。可溶型抗原は、抗原結合分子結合抗原であっても、または抗原結合分子非結合抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「血漿中抗原結合分子結合抗原濃度」および「血漿中抗原結合分子非結合抗原濃度」として決定することができる(後者は「血漿中遊離抗原濃度」と同義である)。「血漿中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原濃度と抗原結合分子非結合抗原濃度(または「血漿中遊離抗原濃度」)とを合計した濃度を意味することから、可溶型抗原濃度は「血漿中総抗原濃度」として決定することができる。「血漿中総抗原濃度」または「血漿中遊離抗原濃度」を測定する様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
【0036】
さらに本発明は、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。より具体的には、pH中性域における抗原結合分子のヒトFcRnへの結合活性を増大することにより、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、pH酸性域におけるヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。
【0037】
さらに本発明は、親IgGの Fcドメインを含むヒトFcRn結合ドメインの親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を含むヒトFcRn結合ドメインを用いることで、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。
【0038】
また、本発明はさらに、上記薬物動態が改善されている抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させることにより、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。さらに本発明は、上記薬物動態が改善されている抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって、pH酸性域においてヒトFcRnへの結合活性を有する抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。さらに本発明は、上記薬物動態が改善されている抗原結合分子中の抗原結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする薬物動態を改善する方法を提供する。
【0039】
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」、および「優れた薬物動態」は、「血漿中(血中)滞留性の向上」、「血漿中(血中)滞留性の改善」、「優れた血漿中(血中)滞留性」、「血漿中(血中)滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
【0040】
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子がヒト、またはマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの非ヒト動物に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから分解されて消失するまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で血漿中に滞留する時間が長くなることも含む。インタクトなヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、インタクトなヒトIgGはヒトFcRnよりマウスFcRnに強く結合することができることから(Int Immunol. 2001 Dec; 13(12): 1551-9)、本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、好ましくはマウスを用いて投与を行うことができる。別の例として、本来のFcRn遺伝子が破壊されており、ヒトFcRn遺伝子に関するトランスジーンを有して発現するマウス(Methods Mol Biol. 2010; 602: 93-104)もまた、以下に記載する本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、投与を行うために用いることができる。具体的には、「薬物動態が改善する」とはまた、抗原に結合していない抗原結合分子(抗原非結合型抗原結合分子)が分解されて消失するまでの時間が長くなることを含む。抗原結合分子が血漿中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなり(新たな抗原に結合できる機会が多くなり)、生体内で抗原が抗原結合分子に結合していない時間を減少させることができ、抗原が抗原結合分子に結合している時間を長くすることができる。抗原結合分子の投与により血漿中からの抗原の消失を加速することができれば、抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度は増加し、また、抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなる。つまり、本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善」とは、抗原非結合型抗原結合分子のいずれかの薬物動態パラメーターの改善(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下のいずれか)、あるいは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間の延長、あるいは、抗原結合分子による血漿中からの抗原の消失が加速されること、を含む。抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したと言える。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin Pharmacol. 2008 Apr;48(4):406-17において測定されている方法を用いることができる。
【0041】
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたことも含む。抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたか否かは、遊離抗原の血漿中濃度を測定し、遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合が上昇してくるまでの時間により判断することが可能である。
【0042】
抗原結合分子に結合していない遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Pharm Res. 2006 Jan;23(1):95-103において測定されている方法を用いることができる。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内におけるマーカーを測定することで評価することが可能である。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内におけるマーカーを測定することで評価することが可能である。
【0043】
遊離抗原の血漿中濃度の測定、血漿中の総抗原量に対する血漿中の遊離抗原量の割合の測定、生体内におけるマーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合分子の性質等により当業者が適時決定することが可能であり、例えば抗原結合分子を投与してから1日経過後、抗原結合分子を投与してから3日経過後、抗原結合分子を投与してから7日経過後、抗原結合分子を投与してから14日経過後、抗原結合分子を投与してから28日経過後などを挙げることができる。本発明において、「血漿中抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度である「血漿中総抗原濃度」、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」のいずれかを意味する。
【0044】
血漿中総抗原濃度は、ヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fcドメインを含む対照抗原結合分子を投与した場合と比較して、または本発明の抗原結合ドメイン分子を投与しない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
【0045】
抗原/抗原結合分子モル比は、以下に示す通りに算出することができる:
A値=各時点での抗原のモル濃度
B値=各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値=各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
【0046】
C値がより小さいことは、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きいことは、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
【0047】
抗原/抗原結合分子モル比は、上記のように算出することができる。
【0048】
抗原/抗原結合分子モル比は、ヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fcドメインを含む対照抗原結合分子を投与した場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
【0049】
本発明において、インタクトなヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4は、好ましくはヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途のための、インタクトなヒトIgGとして用いられる。好ましくは、目的の抗原結合分子と同一の抗原結合ドメインおよびヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fcドメインを含む対照抗原結合分子を適宜用いることができる。より好ましくは、インタクトなヒトIgG1は、ヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途に用いられる。
【0050】
血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、実施例6、8および13に記載の通りに評価することができる。より具体的には、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol Biol. 2010; 602: 93-104)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することができる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することができる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0051】
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の長期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。本発明に記載の抗原結合分子によって血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が達成されるか否かは、先に記載した任意の1つまたは複数の時点でその減少を評価することにより決定されうる。
【0052】
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の短期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
【0053】
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、および筋肉内注射から選択することができる。
【0054】
本発明においては、ヒトにおける薬物動態が改善することが好ましい。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性をもとに、ヒトでの血漿中滞留性を予測することができる。
【0055】
本発明において、pH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。pH酸性域とは、好ましくはpH5.5〜pH6.5内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくは5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、および6.5から選択され、特に好ましくは生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜6.0である。一方、本発明においてpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0〜pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。pH7.4でのヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーが低いためにその結合アフィニティーを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーは、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために使用される。実施例5に記載の25℃という温度は本発明の態様の一例である。
【0056】
従って、本発明において、「抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる」とは、抗原結合分子のpH4.0〜pH6.5での抗原結合活性をpH6.7〜pH10.0での抗原結合活性より弱くすることを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH5.5〜pH6.5での抗原結合活性をpH7.0〜pH8.0での抗原結合活性より弱くすることを意味し、特に好ましくは、生体内において早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性を血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱くする、具体的には、抗原結合分子のpH5.8〜pH6.0での抗原結合活性をpH7.4での抗原結合活性より弱くすることを意味する。
【0057】
さらに本発明において、「抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる」という表現は、「抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性をpH酸性域における抗原結合活性よりも高くする」と表現することもできる。つまり、本発明においては、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比を大きくすればよい。例えば、後述のように、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を大きくするという態様が挙げられる。抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比を大きくするためには、例えば、pH酸性域における抗原結合活性を低くしてもよいし、pH中性域における抗原結合活性を高くしてもよいし、又は、その両方でもよい。
【0058】
なお本発明においては、「pH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる」を「pH酸性域における抗原結合能をpH中性域における抗原結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
【0059】
本発明において、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性とは、pH4.0〜pH6.5でのヒトFcRn結合活性を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5でのヒトFcRn結合活性を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0でのヒトFcRn結合活性を意味する。また、本発明において、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性とは、pH6.7〜pH10.0でのヒトFcRn結合活性を意味する。好ましくは、pH7.0〜pH8.0でのヒトFcRn結合活性を意味し、特に好ましくは、生体内の血漿中のpHに近いpH7.4でのヒトFcRn結合活性を意味する。
【0060】
本発明の抗原結合分子は、ヒトFcRn結合ドメインを有する。ヒトFcRn結合ドメインは、抗原結合分子がpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有していれば特に限定されず、また、直接または間接的にヒトFcRnに対して結合活性を有するドメインであってもよい。そのようなドメインとしては、例えば、直接的にヒトFcRnに対する結合活性を有するIgG型免疫グロブリンのFcドメイン、アルブミン、アルブミンドメイン3、抗ヒトFcRn抗体、抗ヒトFcRnペプチド、抗ヒトFcRn足場(Scaffold)分子等、あるいは間接的にヒトFcRnに対する結合活性を有するIgGやアルブミンに結合する分子等を挙げることができる。本発明においては、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有するドメインが好ましい。当該ドメインは、あらかじめpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有しているドメインであればそのまま用いてもよい。当該ドメインがpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRn結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変してヒトFcRn結合活性を得てもよいが、ヒトFcRn結合ドメイン中のアミノ酸を改変してpH酸性域および/またはpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を得るのが好ましい。また、あらかじめpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、ヒトFcRn結合活性を高めてもよい。ヒトFcRn結合ドメインのアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域および/またはpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことができる。
【0061】
ヒトFcRn結合ドメインは、直接ヒトFcRnと結合する領域であることが好ましい。ヒトFcRn結合領域の好ましい例として、抗体のFcドメインを挙げることができる。しかしながら、アルブミンやIgGなどのヒトFcRnとの結合活性を有するポリペプチドに結合可能な領域は、アルブミンやIgGなどを介して間接的にヒトFcRnと結合することが可能である。そのため、本発明におけるヒトFcRn結合領域は、ヒトFcRnとの結合活性を有するポリペプチドに結合する領域であってもよい。
【0062】
また本発明における抗原結合分子は、対象とする抗原への特異的な結合活性を有する抗原結合ドメインを有していれば特に限定されない。抗原結合ドメインの好ましい例として、抗体の抗原結合領域を有しているドメインを挙げることができる。抗体の抗原結合領域の例として、CDRや可変領域を挙げることができる。抗体の抗原結合領域がCDRである場合、全長抗体に含まれる6つのCDR全てを含んでいてもよいし、1つ若しくは2つ以上のCDRを含んでいてもよい。抗体の結合領域としてCDRを含む場合、含まれるCDRはアミノ酸の欠失、置換、付加及び/又は挿入などが行われていてもよく、又、CDRの一部分であってもよい。
【0063】
また本発明の方法が対象とする抗原結合分子としては、アンタゴニスト活性を有する抗原結合分子(アンタゴニスト抗原結合分子)、アゴニスト活性を有する抗原結合分子(アゴニスト抗原結合分子)、細胞傷害活性を有する分子などを挙げることができるが、好ましい態様として、アンタゴニスト抗原結合分子、特に受容体やサイトカインなどの抗原を認識するアンタゴニスト抗原結合分子を挙げることができる。
【0064】
本発明において対象となる抗原結合分子は特に限定されず、いかなる抗原結合分子でもよい。本発明で用いられる抗原結合分子は好ましくは、抗原結合活性(抗原結合ドメイン)とヒトFcRn結合ドメインを有する。本発明においては、特にヒトFcRnとの結合ドメインを含む抗原結合分子であることが好ましい。抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子の例として、抗体を挙げることができる。本発明の抗体の好ましい例として、IgG抗体を挙げることができる。抗体としてIgG抗体を用いる場合、その種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのアイソタイプ(サブクラス)のIgGを用いることが可能である。また、本発明の抗原結合分子には抗体の定常領域が含まれていてもよく、定常領域部分にアミノ酸変異を導入してもよい。導入するアミノ酸変異は、例えば、Fcγ受容体への結合を増大あるいは低減させたもの(Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Mar 14;103(11):4005-10.)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、IgG2などの適切な定常領域を選択することによって、pH依存的な結合を変化させることも可能である。
【0065】
本発明が対象とする抗原結合分子が抗体の場合、抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体でもよい。さらに、例えばキメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、二重特異性抗体、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片を含むポリペプチドなどであってもよい。
【0066】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体である。キメラ抗体の具体的な例としては、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変(V)領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常(C)領域からなる抗体を挙げることができる。
【0067】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。
【0068】
二重特異性抗体は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。二重特異性抗体は2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよいし、同一抗原上の異なる2つ以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0069】
さらに、抗体断片を含むポリペプチドとしては、例えば、Fab断片、F(ab')2断片、scFv(Nat Biotechnol. 2005 Sep;23(9):1126-36.)、ドメイン抗体 (dAb)(WO2004/058821、WO2003/002609)、scFv-Fc(WO2005/037989)、dAb-Fc、Fc融合タンパク質等が挙げられる。Fcドメインを含んでいる分子はFcドメインをヒトFcRn結合ドメインとして用いることができる。また、これらの分子にヒトFcRn結合ドメインを融合させてもよい。
【0070】
さらに、本発明に適用可能な抗原結合分子は、抗体様分子であってもよい。抗体様分子(足場分子、ペプチド分子)とは、標的分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、アフィボディ(Affibody)(WO1995/001937)、アビマー(Avimer)(WO2004/044011, WO2005/040229)、アドネクチン(Adnectin)(WO2002/032925)等が挙げられる。これら抗体様分子であっても、標的分子に対してpH依存的に結合し、且つ、あるいは、または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。
【0071】
また抗原結合分子は、リガンドを含む標的に結合する受容体タンパク質にヒトFcRn結合ドメインが融合されたタンパク質であってもよく、例えば、TNFR-Fc融合タンパク、IL1R-Fc融合タンパク、VEGFR-Fc融合タンパク、CTLA4-Fc融合タンパク等(Nat Med. 2003 Jan;9(1):47-52、BioDrugs. 2006;20(3):151-60.)が挙げられる。これら受容体-ヒトFcRn結合ドメイン融合タンパク質であっても、リガンドを含む標的分子に対してpH依存的に結合し、且つ、あるいは、または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。受容体タンパク質は、リガンドを含む標的に対する受容体タンパク質の結合ドメインを含めるように適宜設計および修飾される。TNFR-Fc融合タンパク質、IL1R-Fc融合タンパク質、VEGFR-Fc融合タンパク質、およびCTLA4-Fc融合タンパク質が含まれる本明細書において先に記載した例にあるように、好ましくは、リガンドを含む標的との結合に必要な受容体タンパク質の細胞外ドメインを含む可溶型受容体分子が、本発明において用いられる。それらの設計および修飾された受容体分子は、本発明において人工受容体と呼ばれる。人工受容体分子を構築するよう受容体分子を設計および修飾するのに使用される方法は、当技術分野において公知である。
【0072】
また抗原結合分子は、標的に結合するが中和効果を有する人工リガンドタンパク質とヒトFcRn結合ドメインの融合タンパク質であってもよく、例えば、人工リガンドタンパク質としては、変異IL-6(EMBO J. 1994 Dec 15;13(24):5863-70.)等が挙げられる。これら人工リガンド融合タンパク質であっても標的分子に対してpH依存的に結合し、かつ、あるいは、または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。
【0073】
さらに、本発明の抗体は、修飾された糖鎖を含んでいてもよい。糖鎖が修飾された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
【0074】
抗原やヒトFcRnへの結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、WO2009/125825に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。別の態様では、実施例4または5に記載ように、25℃でリン酸ナトリウム緩衝液を用いて活性を測定することが可能である。又、抗原結合分子の抗原結合活性およびヒトFcRn結合活性の測定は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原の結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。抗原結合分子とヒトFcRnの結合活性の測定は、抗原結合分子あるいはヒトFcRnを固定化したチップへ、それぞれヒトFcRnあるいは抗原結合分子をアナライトとして流すことで評価することが可能である。
【0075】
本発明において、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性よりも弱い限り、pH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対するpH5.8でのKD(Dissociation constant:解離定数)とpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が40以上である。KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0076】
抗原結合活性の値として抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0077】
また本発明におけるpH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるk
d(Dissociation rate constant:解離速度定数)を用いることも可能である。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにk
d(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対するpH酸性域でのk
d(解離速度定数)とpH中性域でのk
d(解離速度定数)の比であるk
d(pH酸性域)/k
d(pH中性域)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。k
d(pH酸性域)/k
d(pH中性域)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0078】
抗原結合活性の値として抗原が可溶型抗原の場合はk
d(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのk
d(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。k
d(解離速度定数)、および、見かけのk
d(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0079】
なお本発明において異なるpHで抗原結合分子の抗原結合活性を測定する際は、pH以外の条件は同一とすることが好ましい。
【0080】
抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる(弱くする)方法(pH依存的な結合能を付与する方法)は特に限定されず、いかなる方法により行われてもよい。具体的には、WO2009/125825に記載の通りであるが、例えば抗原結合分子中のアミノ酸をヒスチジンに置換する、又は抗原結合分子中にヒスチジンを挿入することによりpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる(弱くする)方法を挙げることができる。抗体中のアミノ酸をヒスチジンで置換することによりpH依存性の抗原結合活性を抗体に付与できることは既に知られている(FEBS Letter, 309(1), 85-88, (1992))。ヒスチジン変異(置換)又は挿入が導入される(行われる)位置は特に限定されず、いかなる部位がヒスチジンに置換されてもよく、又はいかなる部位にヒスチジンが挿入されてもよい。ヒスチジン変異(置換)又は挿入される部位の好ましい例として、抗原結合分子の抗原結合活性に影響を与える領域を挙げることができ、変異又は挿入前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より低下する(弱くなる)(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる)部位を挙げることができる。例えば、本発明においては、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどを挙げることができる。ヒスチジン変異又は挿入が導入される(行われる)数は当業者が適宜決定することができ、1箇所のみをヒスチジンで置換してもよいし、又は1箇所のみにヒスチジンを挿入してもよいし、2箇所以上の複数箇所をヒスチジンで置換してもよいし、又は2箇所以上の複数箇所にヒスチジンを挿入してもよい。またヒスチジン変異以外の変異(ヒスチジン以外のアミノ酸への変異(欠失、付加、挿入および/または置換など))を同時に導入してもよい。さらに、ヒスチジン変異とヒスチジン挿入を同時に行ってもよい。ヒスチジンへの置換又はヒスチジンの挿入は、当業者に公知のアラニンスキャニングのアラニンをヒスチジンに置き換えたヒスチジンスキャニングなどの方法によりランダムに行ってもよい。そして、ヒスチジン変異又は挿入がランダムに導入された抗原結合分子ライブラリーの中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなった抗原結合分子を選択することができる。
【0081】
抗原結合分子のアミノ酸をヒスチジンに置換又は抗原結合分子のアミノ酸にヒスチジンを挿入する場合、特に限定されないが、ヒスチジン置換又は挿入後の抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性が、ヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性と同等であることが好ましい。ここで、「ヒスチジン置換又は挿入後の抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性が、ヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性と同等である」とは、ヒスチジン置換又は挿入後の抗原結合分子が、ヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合分子が有する抗原結合活性の10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上を維持していることを言う。ヒスチジン置換又は挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などにより抗原結合活性をヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にしてもよい。本発明においては、そのようなヒスチジン置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことにより結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
【0082】
また抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる(弱くする)他の方法として、抗原結合分子中のアミノ酸を非天然アミノ酸に置換又は抗原結合分子中のアミノ酸に非天然アミノ酸を挿入する方法を挙げることができる。非天然アミノ酸は人為的にpKaをコントロールすることができることが知られている(Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 34、Chem Soc Rev. 2004 Sep 10;33(7):422-30.、Amino Acids. 1999;16(3-4):345-79.)。従って、本発明においては上述のヒスチジンの代わりに非天然アミノ酸を用いることが可能である。非天然アミノ酸が導入される位置は特に限定されず、いかなる部位が非天然アミノ酸に置換されてもよく、またはいかなる部位に非天然アミノ酸が挿入されてもよい。非天然アミノ酸に置換または非天然アミノ酸が挿入される部位の好ましい例として、抗原結合分子の抗原結合活性に影響を与える領域を挙げることができる。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域や相補性決定領域(complementarity determining region ; CDR)などを挙げることができる。また非天然アミノ酸が導入される数は特に限定されず、1箇所のみを非天然アミノ酸で置換してもよく、または1箇所のみに非天然アミノ酸を挿入してもよい。あるいは2箇所以上の複数箇所を非天然アミノ酸で置換してもよく、または複数箇所に非天然アミノ酸を挿入してもよい。また、非天然アミノ酸への置換または挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などを同時に行ってもよい。さらに、上述のヒスチジン置換及び/又は挿入と、非天然アミノ酸の置換及び/又は挿入は、同時に行ってもよい。本発明で用いられる非天然アミノ酸は如何なる非天然アミノ酸でもよく、当業者に公知の非天然アミノ酸等を用いることが可能である。
【0083】
本発明においてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換される箇所の例として、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体のCDR配列やCDRの構造を決定する配列が改変箇所として考えられ、例えばWO2009/125825に記載の箇所を挙げることができる。なお、アミノ酸位置はKabatナンバリング(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)で示している。
【0084】
Kabatナンバリングシステムは一般的に、可変ドメインの残基(およそ、軽鎖の1番目〜107番目の残基および重鎖の1番目〜113番目の残基)について言及する場合に用いられる(例えば、Kabat et al., Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。「EUナンバリングシステム」または「EUインデックス」とは、一般的に、免疫グロブリン重鎖定常領域の残基を参照する場合に用いられる(例えば、Kabat et al.、前記において報告されたEUインデックス)。「KabatのEUインデックス」は、ヒトIgG
1 EU抗体の残基ナンバリングを意味する。本明細書において特に明記していなければ、抗体の可変ドメインにおける残基番号についての言及は、Kabatナンバリングによる残基ナンバリングを意味する。本明細書において特に明記していなければ、抗体の定常ドメインにおける残基番号についての言及は、EUナンバリングシステムによる残基ナンバリングを意味する(例えば、WO2006073941を参照されたい)。
【0085】
重鎖:H27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、およびH102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L54、L56、L90、L92、およびL94
【0086】
これらの改変箇所のうち、H32、H61、L53、L90、およびL94は普遍性の高い改変箇所と考えられる。
【0087】
また特に限定されないが、抗原がIL-6受容体(例えば、ヒトIL-6受容体)の場合の好ましい改変箇所として以下の箇所を挙げることができる。
【0088】
重鎖:H27、H31、H32、H35、H50、H58、H61、H62、H63、H64、H65、H100b、およびH102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L56、L90、L92、およびL94
【0089】
複数の箇所を組み合わせてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換する場合の好ましい組み合わせの具体例としては、例えば、H27、H31、およびH35の組み合わせ、H27、H31、H32、H35、H58、H62、およびH102の組み合わせ、L32およびL53の組み合わせ、L28、L32、およびL53の組み合わせ等を挙げることができる。さらに、重鎖と軽鎖の置換箇所の好ましい組み合わせの例としては、H27、H31、L32、およびL53の組み合わせを挙げることができる。
【0090】
これらの箇所は、1つの箇所のみヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、複数の箇所をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよい。
【0091】
また、抗原結合分子が、抗体定常領域を含む物質である場合、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる(弱くする)他の方法として、当該抗体定常領域中のアミノ酸を改変する方法を挙げることができる。このような抗体定常領域の具体例としては、例えば、WO2009/125825に記載の抗体定常領域(配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、および配列番号:14)に置換する方法を挙げることができる。また、抗体定常領域の改変方法としては、例えば、定常領域のアイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)を複数検討し、pH酸性域における抗原結合活性が低下する(pH酸性域における解離速度が速くなる)アイソタイプを選択する方法が挙げられる。さらに野生型アイソタイプのアミノ酸配列(野生型IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4アミノ酸配列)にアミノ酸置換を導入することで、pH酸性域における抗原結合活性を低下させる(pH酸性域における解離速度が速くする)方法が挙げられる。アイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)によって抗体定常領域のヒンジ領域の配列が大きく異なり、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原結合活性に大きく影響を与えるため、抗原やエピトープの種類によって適切なアイソタイプを選択することでpH酸性域における抗原結合活性が低下する(pH酸性域における解離速度が速くする)アイソタイプを選択することが可能である。また、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原結合活性に大きく影響を与えることから、野生型アイソタイプのアミノ酸配列のアミノ酸置換箇所としては、ヒンジ領域が望ましいと考えられる。
【0092】
上述の方法等により抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる(弱くする)(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値を大きくする)場合、特に限定されないが、KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値がもとの抗体と比較して通常、2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上となっていることが好ましい。
【0093】
pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より低下した(弱い)抗原結合分子(pH依存的結合を示す抗原結合分子)は、上述の方法を用いることでこのような性質を有さない抗原結合分子からアミノ酸置換や挿入によって作製することができるが、それ以外の方法として、このような性質を有する抗原結合分子を直接取得する方法が挙げられる。例えば、動物(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウス、ヒト免疫グロブリントランスジェニックラット、ヒト免疫グロブリントランスジェニックウサギ、ラマ、ラクダ等)へ抗原を免疫して得られた抗体を抗原へのpH依存的結合を指標にスクリーニングを行い、目的の性質を有する抗体を直接取得してもよい。抗体は、当業者公知の方法であるハイブリドーマ技術またはB細胞クローニング技術(Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Jul 23; 93(15): 7843-8;J Immunol Methods. 2006 Oct 20; 316(1-2): 133-43;Journal of the Association for Laboratory Automation;WO2004/106377;WO2008/045140;およびWO2009/113742)によって生成されうるが、これらに限定されない。または、目的の特性を有する抗体を、インビトロで抗原結合ドメインを提示するライブラリーからpH依存的抗原結合を指標として用いてスクリーニングすることによって直接選択してもよい。そのようなライブラリーには、当業者公知のライブラリー(Methods Mol Biol. 2002; 178: 87-100;J Immunol Methods. 2004 Jun; 289(1-2): 65-80;およびExpert Opin Biol Ther. 2007 May; 7(5): 763-79)である、ヒトナイーブライブラリー、非ヒト動物およびヒト由来の免疫ライブラリー、半合成ライブラリーならびに合成ライブラリーが含まれるが、これらに限定されない。しかし、方法はこれらの例に特に限定されない。
【0094】
本発明は、血漿とエンドソームとで異なる、抗原に対する抗原結合分子の結合アフィニティー(血漿では強く結合し、エンドソームでは弱く結合する)を得るために、血漿とエンドソームの環境的な差としてpHの差を利用した。血漿とエンドソームの環境の差は、pHの差に限定されないことから、抗原に対する抗原結合分子の結合に及ぼすpH依存的結合特性は、血漿中とエンドソーム内とで濃度が異なる他の要因を利用することによって置き換えることができる。そのような要因はまた、血漿中で抗原に結合するがエンドソーム内では抗原を解離する抗体を作製するために用いることができる。ゆえに、本発明には、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子であって、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、エンドソームでの抗原結合活性が血漿より低く、血漿中のヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGの結合活性より高い、抗原結合分子が含まれる。
【0095】
本発明の抗原結合分子中のヒトFcRn結合ドメインのpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を高める方法は特に限定されず、いかなる方法により行われてもよい。具体的には、ヒトFcRn結合ドメインとしてIgG型免疫グロブリンのFcドメインを用いる場合、アミノ酸の改変によりpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を高めることが可能である。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFcドメインとしては、例えばヒト親IgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの操作されたバリアント)のFcドメインが挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が得られる若しくはヒトFcRn結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸が改変されていてもよい。抗原結合分子が、ヒトFcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFcドメインを含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnへの結合が親ヒトIgG1より強くなる改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221番目〜225番目、227番目、228番目、230番目、232番目、233番目〜241番目、243番目〜252番目、254番目〜260番目、262番目〜272番目、274番目、276番目、278番目〜289番目、291番目〜312番目、315番目〜320番目、324番目、325番目、327番目〜339番目、341番目、343番目、345番目、360番目、362番目、370番目、375番目〜378番目、380番目、382番目、385番目〜387番目、389番目、396番目、414番目、416番目、423番目、424番目、426番目〜438番目、440番目および442番目の位置のアミノ酸を挙げることができる。より具体的には、例えば表1に記載のようなアミノ酸の改変が挙げられる。これらの改変を使用することで、IgG型免疫グロブリンのFcドメインのpH中性域におけるヒトFcRnへの結合を強くすることができる。
【0096】
また、pH酸性域におけるヒトFcRnへの結合を親ヒトIgGと比較して強くすることができる改変の例を表2に示した。これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnへの結合を強くすることが出来る改変を適宜選択し、本発明に使用することが可能である。また、Fv4-IgG1に対して酸性条件下でヒトFcRnへの結合を強くすることができる改変の組み合わせを表6−1および6−2に示した。特に好ましい親ヒトIgGの Fcドメインの改変アミノ酸として、例えばEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目の位置のアミノ酸を挙げることができる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより、抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を高めることができる。
【0097】
特に好ましい改変としては、例えば、親IgGの FcドメインのEUナンバリング
237番目のGlyをMetに置換するアミノ酸置換、
238番目のProをAlaに置換するアミノ酸置換、
239番目のSerをLysに置換するアミノ酸置換、
248番目のLysをIleに置換するアミノ酸置換、
250番目のThrをAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
252番目のMetをPhe、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
254番目のSerをThrに置換するアミノ酸置換、
255番目のArgをGluに置換するアミノ酸置換、
256番目のThrをAsp、Glu、またはGlnに置換するアミノ酸置換、
257番目のProをAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValに置換するアミノ酸置換、
258番目のGluをHisに置換するアミノ酸置換、
265番目のAspをAlaに置換するアミノ酸置換、
270番目のAspをPheに置換するアミノ酸置換、
286番目のAsnをAlaまたはGluに置換するアミノ酸置換、
289番目のThrをHisに置換するアミノ酸置換、
297番目のAsnをAlaに置換するアミノ酸置換、
298番目のSerをGlyに置換するアミノ酸置換、
303番目のValをAlaに置換するアミノ酸置換、
305番目のValをAlaに置換するアミノ酸置換、
307番目のThrをAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
308番目のValをAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrに置換するアミノ酸置換、
309番目のLeuまたはValをAla、Asp、Glu、Pro、またはArgに置換するアミノ酸置換、
311番目のGlnをAla、His、またはIleに置換するアミノ酸置換、
312番目のAspをAlaまたはHisに置換するアミノ酸置換、
314番目のLeuをLysまたはArgに置換するアミノ酸置換、
315番目のAsnをAlaまたはHisに置換するアミノ酸置換、
317番目のLysをAlaに置換するアミノ酸置換、
325番目のAsnをGlyに置換するアミノ酸置換、
332番目のIleをValに置換するアミノ酸置換、
334番目のLysをLeuに置換するアミノ酸置換、
360番目のLysをHisに置換するアミノ酸置換、
376番目のAspをAlaに置換するアミノ酸置換、
380番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、
382番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、
384番目のAsnまたはSerをAlaに置換するアミノ酸置換、
385番目のGlyをAspまたはHisに置換するアミノ酸置換、
386番目のGlnをProに置換するアミノ酸置換、
387番目のProをGluに置換するアミノ酸置換、
389番目のAsnをAlaまたはSerに置換するアミノ酸置換、
424番目のSerをAlaに置換するアミノ酸置換、
428番目のMetをAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
433番目のHisをLysに置換するアミノ酸置換、
434番目のAsnをAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、および
436番目のTyrまたはPheをHisに置換するアミノ酸置換
を挙げることができる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、1箇所のみのアミノ酸を改変してもよいし、2箇所以上のアミノ酸を改変してもよい。2箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表3に記載のような組合せが挙げられる。また、pH酸性域におけるヒトFcRnへの結合を親ヒトIgGと比較して強くすることができる改変の組合せを表4−1〜4−5に示した。これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnへの結合を強くすることが出来る改変の組合せを適宜選択し、本発明に使用することが可能である。さらに、Fv4-IgG1に対して中性条件下でヒトFcRnへの結合を強くすることができる改変の組み合わせを表6−1および6−2に示した。
【0098】
なお、表中で使用している「^」とは、EUナンバリングにおける当該番号に続く位置にアミノ酸を挿入することを意味する。例えば^281Sと表記した場合、EUナンバリング281番と282番の間にSを挿入することを意味する。
【0103】
表4−2は表4−1の続きの表である。
【表4-2】
【0104】
表4−3は表4−2の続きの表である。
【表4-3】
【0105】
表4−4は表4−3の続きの表である。
【表4-4】
【0106】
表4−5は表4−4の続きの表である。
【表4-5】
【0107】
これらのアミノ酸改変については、公知の技術を用いて適宜実施することが可能であり、例えばDrug Metab Dispos. 2007 Jan;35(1):86-94、Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69、J Biol Chem. 2001 Mar 2;276(9):6591-604、J Biol Chem. 2007;282(3):1709-17、J Immunol. 2002;169(9):5171-80、J Immunol. 2009;182(12):7663-71、Molecular Cell, Vol. 7, 867-877, April, 2001、Nat Biotechnol. 1997 Jul;15(7):637-40、Nat Biotechnol. 2005 Oct;23(10):1283-8、Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Dec 5;103(49):18709-14、EP2154157、US20070141052、WO2000/042072、WO2002/060919、WO2006/020114、WO2006/031370、WO2010/033279、WO2006/053301、WO2009/086320においてインタクトなヒトIgG1のFcドメインの改変が行われている。
【0108】
The Journal of Immunology,2009 182: 7663-7671によれば、pH酸性域(pH6.0)におけるインタクトなヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はKD 1.7μMであり、pH中性域におけるインタクトなヒトIgG1はヒトFcRn結合活性をほとんど検出できていない。よって、本発明の方法に用いられる抗原結合分子の好ましい態様として、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がインタクトヒトIgGと同じかそれより強い抗原結合分子を挙げることができる。より好ましい態様としては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強い抗原結合分子を挙げることができる。さらに好ましい態様としては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 15μMまたはそれより強い抗原結合分子を挙げることができる。なお、ここで示すKD値は、The Journal of Immunology,2009 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)で測定された時の値である。
【0109】
ヒトFcRn結合活性の値としてKD(解離定数)を用いることが可能であるが、インタクトなヒトIgGのヒトFcRn結合活性はpH中性域(pH7.4)ではほとんど認められないため、KDとして算出することは困難である。pH7.4でのヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGよりも高いかどうかを判断する方法として、Biacoreにおける同じ濃度でアナライトを流した時の結合レスポンスの大小で判断する方法があげられる。すなわち、インタクトなヒトIgGを固定化したチップにヒトFcRnをpH7.4で流した時のレスポンスよりも、抗原結合分子を固定化したチップにヒトFcRnをpH7.4で流した時のレスポンスのほうが大きければ、その抗原結合分子のpH7.4でのヒトFcRn結合活性はインタクトなヒトIgGよりも高いと判断できる。
【0110】
pH7.0もまた、pH中性域として用いることができる。中性pHとしてpH7.0を用いることにより、ヒトFcRnとFcRn結合ドメインとの弱い相互作用を促進することができる。測定条件において使用される温度として、結合アフィニティーを、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度を使用する。より好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度を同様に使用する。実施例5に記載の25℃という温度は、本発明の態様に関する一例である。好ましい態様において、ヒトFcRnとFcRn結合ドメインとの相互作用は、実施例5に記載の通りにpH7.0および25℃で測定されうる。ヒトFcRnに対する抗原結合分子の結合アフィニティーは、実施例5に記載の通りにBiacoreによって測定されうる。
【0111】
より好ましい態様において、本発明の抗原結合分子は、pH7.0および25℃で、インタクトなヒトIgGより高いヒトFcRn結合活性を有する。より好ましい態様において、pH7.0および25℃でのヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGより28倍高いか、またはKD 3.2μMより強い。より好ましい態様において、pH7.0および25℃でのヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGより38倍高いか、またはKD 2.3μMより強い。
【0112】
インタクトなヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4は、好ましくはヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途のための、インタクトなヒトIgGとして用いられる。好ましくは、目的の抗原結合分子と同一の抗原結合ドメインおよびヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fcドメインを含む対照抗原結合分子を適宜用いることができる。より好ましくは、インタクトなヒトIgG1は、ヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途に用いられる。
【0113】
より具体的には、本発明に記載の血漿中の抗原消失活性に対して長期効果を有する抗原結合分子は、pH7.0および25℃で、インタクトなヒトIgG1より28倍〜440倍高い範囲のFcRn結合活性を有するか、またはKDが3.0μMから0.2μMの範囲のFcRn結合活性を有する。血漿中での抗原消失活性に対する本発明の抗原結合分子の長期効果を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が本発明に記載の抗原結合分子によって達成されるか否かは、先に記載した1つまたは複数の任意の時点で減少を評価することによって決定されうる。
【0114】
さらにより具体的には、本発明に記載の血漿中の抗原消失活性に対して短期効果を有する抗原結合分子は、pH7.0および25℃で、インタクトなヒトIgGより440倍高いヒトFcRn結合活性を有するか、またはKDが0.2μMより強いFcRn結合活性を有する。血漿中の抗原消失活性に対する本発明の抗原結合分子の短期効果を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
【0115】
本発明の方法は、標的抗原の種類によらない任意の抗原結合分子に適応可能である。
【0116】
本発明の方法が対象とする抗体等の抗原結合分子が認識する抗原は特に限定されず、いかなる抗原を認識する抗体が対象となってもよい。本発明の方法により薬物動態を改善する抗体の例としては、例えば、受容体タンパク質(膜結合型受容体、可溶型受容体)や細胞表面マーカーなどの膜抗原を認識する抗体、サイトカインなどの可溶型抗原を認識する抗体などを挙げることができる。本発明の方法により薬物動態を改善する抗体が認識する抗原の具体的な例としては、例えば、17-IA、4-1 BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン(Addressins)、アディポネクチン、ADPリボシルシクラーゼ-1、aFGF、AGE、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アレルゲン、α1-アンチキモトリプシン、α1-アンチトリプシン、α-シヌクレイン、α-V/β-1アンタゴニスト、アミニン(aminin)、アミリン、アミロイドβ、アミロイド免疫グロブリン重鎖可変領域、アミロイド免疫グロブリン軽鎖可変領域、アンドロゲン、ANG、アンジオテンシノーゲン、アンジオポエチンリガンド-2、抗Id、アンチトロンビンIII、炭疽、APAF-1、APE、APJ、アポA1、アポ血清アミロイドA、アポ-SAA、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン(Artemin)、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチドA、心房性ナトリウム利尿ペプチドB、心房性ナトリウム利尿ペプチドC、av/b3インテグリン、Axl、B7-1、B7-2、B7-H、BACE、BACE-1、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)防御抗原、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、β-2-ミクログロブリン、βラクタマーゼ、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、Bリンパ球刺激因子(BIyS)、BMP、BMP-2 (BMP-2a)、BMP-3 (オステオゲニン(Osteogenin))、BMP-4 (BMP-2b)、BMP-5、BMP-6 (Vgr-1)、BMP-7 (OP-1)、BMP-8 (BMP-8a)、BMPR、BMPR-IA (ALK-3)、BMPR-IB (ALK-6)、BMPR-II (BRK-3)、BMP、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子(Bone-derived neurotrophic factor)、ウシ成長ホルモン、BPDE、BPDE-DNA、BRK-2、BTC、Bリンパ球細胞接着分子、C10、C1阻害因子、C1q、C3、C3a、C4、C5、C5a(補体5a)、CA125、CAD-8、カドヘリン-3、カルシトニン、cAMP、炭酸脱水酵素-IX、癌胎児抗原(CEA)、癌関連抗原(carcinoma-associated antigen)、カルジオトロフィン-1、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1/I-309、CCL11/エオタキシン、CCL12/MCP-5、CCL13/MCP-4、CCL14/HCC-1、CCL15/HCC-2、CCL16/HCC-4、CCL17/TARC、CCL18/PARC、CCL19/ELC、CCL2/MCP-1、CCL20/MIP-3-α、CCL21/SLC、CCL22/MDC、CCL23/MPIF-1、CCL24/エオタキシン-2、CCL25/TECK、CCL26/エオタキシン-3、CCL27/CTACK、CCL28/MEC、CCL3/M1P-1-α、CCL3Ll/LD-78-β、CCL4/MIP-l-β、CCL5/RANTES、CCL6/C10、CCL7/MCP-3、CCL8/MCP-2、CCL9/10/MTP-1-γ、CCR、CCR1、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD10、CD105、CD11a、CD11b、CD11c、CD123、CD13、CD137、CD138、CD14、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD15、CD152、CD16、CD164、CD18、CD19、CD2、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD26、CD27L、CD28、CD29、CD3、CD30、CD30L、CD32、CD33 (p67タンパク質)、CD34、CD37、CD38、CD3E、CD4、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD49b、CD5、CD51、CD52、CD54、CD55、CD56、CD6、CD61、CD64、CD66e、CD7、CD70、CD74、CD8、CD80 (B7-1)、CD89、CD95、CD105、CD158a、CEA、CEACAM5、CFTR、cGMP、CGRP受容体、CINC、CKb8-1、クローディン18、CLC、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)毒素、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)毒素、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)毒素、c-Met、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、補体因子3 (C3)、補体因子D、コルチコステロイド結合グロブリン、コロニー刺激因子-1受容体、COX、C-Ret、CRG-2、CRTH2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1/フラクタルカイン、CX3CR1、CXCL、CXCL1/Gro-α、CXCL10、CXCL11/I-TAC、CXCL12/SDF-l-α/β、CXCL13/BCA-1、CXCL14/BRAK、CXCL15/ラングカイン(Lungkine)、CXCL16、CXCL16、CXCL2/Gro-β CXCL3/Gro-γ、CXCL3、CXCL4/PF4、CXCL5/ENA-78、CXCL6/GCP-2、CXCL7/NAP-2、CXCL8/IL-8、CXCL9/Mig、CXCLlO/IP-10、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、シスタチンC、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、崩壊促進因子、デルタ様タンパク質(Delta-like protein)リガンド4、des(1-3)-IGF-1 (脳IGF-1)、Dhh、DHICAオキシダーゼ、Dickkopf-1、ジゴキシン、ジペプチジルペプチダーゼIV、DK1、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR (ErbB-1)、EGF様ドメイン含有タンパク質7(EGF like domain containing protein 7)、エラスターゼ、エラスチン、EMA、EMMPRIN、ENA、ENA-78、エンドシアリン(Endosialin)、エンドセリン受容体、エンドトキシン、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン、エオタキシン-2、エオタキシニ(eotaxini)、EpCAM、エフリンB2/EphB4、Epha2チロシンキナーゼ受容体、上皮増殖因子受容体 (EGFR)、ErbB2受容体、ErbB3チロシンキナーゼ受容体、ERCC、エリスロポエチン(EPO)、エリスロポエチン受容体、E-セレクチン、ET-1、エクソダス(Exodus)-2、RSVのFタンパク質、F10、F11、F12、F13、F5、F9、第Ia因子、第IX因子、第Xa因子、第VII因子、第VIII因子、第VIIIc因子、Fas、FcαR、FcイプシロンRI、FcγIIb、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIb、FcRn、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF-2受容体、FGF-3、FGF-8、酸性FGF(FGF-acidic)、塩基性FGF(FGF-basic)、FGFR、FGFR-3、フィブリン、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子-10、フィブロネクチン、FL、FLIP、Flt-3、FLT3リガンド、葉酸受容体、卵胞刺激ホルモン(FSH)、フラクタルカイン(CX3C)、遊離型重鎖、遊離型軽鎖、FZD1、FZD10、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、G250、Gas 6、GCP-2、GCSF、G-CSF、G-CSF受容体、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-15 (MIC-1)、GDF-3 (Vgr-2)、GDF-5 (BMP-14/CDMP-1)、GDF-6 (BMP-13/CDMP-2)、GDF-7 (BMP-12/CDMP-3)、GDF-8 (ミオスタチン)、GDF-9、GDNF、ゲルゾリン、GFAP、GF-CSF、GFR-α1、GFR-α2、GFR-α3、GF-β1、gH外被糖タンパク質、GITR、グルカゴン、グルカゴン受容体、グルカゴン様ペプチド1受容体、Glut 4、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII、糖タンパク質ホルモン受容体、糖タンパク質llb/llla (GP llb/llla)、グリピカン-3、GM-CSF、GM-CSF受容体、gp130、gp140、gp72、顆粒球-CSF (G-CSF)、GRO/MGSA、成長ホルモン放出因子、GRO-β、GRO-γ、ピロリ菌(H. pylori)、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCC 1、HCMV gB外被糖タンパク質、HCMV UL、造血増殖因子(Hemopoietic growth factor) (HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、ヘパリン補因子II、肝細胞増殖因子(hepatic growth factor)、バチルス・アントラシス防御抗原、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、E型肝炎、ヘプシジン、Her1、Her2/neu (ErbB-2)、Her3 (ErbB-3)、Her4 (ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HGF、HGFA、高分子量メラノーマ関連抗原(High molecular weight melanoma-associated antigen) (HMW-MAA)、GP120等のHIV外被タンパク質、HIV MIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HMGB-1、HRG、Hrk、HSP47、Hsp90、HSV gD糖タンパク質、ヒト心筋ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(hGH)、ヒト血清アルブミン、ヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、ハンチンチン、HVEM、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IgA、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1、IGF-1 R、IGF-2、IGFBP、IGFR、IL、IL-1、IL-10、IL-10受容体、IL-11、IL-11受容体、IL-12、IL-12受容体、IL-13、IL-13受容体、IL-15、IL-15受容体、IL-16、IL-16受容体、IL-17、IL-17受容体、IL-18 (IGIF)、IL-18受容体、IL-1α、IL-1β、IL-1受容体、IL-2、IL-2受容体、IL-20、IL-20受容体、IL-21、IL-21受容体、IL-23、IL-23受容体、IL-2受容体、IL-3、IL-3受容体、IL-31、IL-31受容体、IL-3受容体、IL-4、IL-4受容体、IL-5、IL-5受容体、IL-6、IL-6受容体、IL-7、IL-7受容体、IL-8、IL-8受容体、IL-9、IL-9受容体、免疫グロブリン免疫複合体、免疫グロブリン、INF-α、INF-α受容体、INF-β、INF-β受容体、INF-γ、INF-γ受容体、I型IFN、I型IFN受容体、インフルエンザ、インヒビン、インヒビンα、インヒビンβ、iNOS、インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インスリン様増殖因子2、インスリン様増殖因子結合タンパク質、インテグリン、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα4/β1、インテグリンα-V/β-3、インテグリンα-V/β-6、インテグリンα4/β7、インテグリンα5/β1、インテグリンα5/β3、インテグリンα5/β6、インテグリンα-δ (αV)、インテグリンα-θ、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インテグリンβ3(GPIIb-IIIa)、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、カリスタチン、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ケラチノサイト増殖因子-2 (KGF-2)、KGF、キラー免疫グロブリン様受容体、kitリガンド (KL)、Kitチロシンキナーゼ、ラミニン5、LAMP、LAPP (アミリン、膵島アミロイドポリペプチド)、LAP (TGF-1)、潜伏期関連ペプチド、潜在型TGF-1、潜在型TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LDL、LDL受容体、LECT2、レフティー、レプチン、黄体形成ホルモン(leutinizing hormone)(LH)、Lewis-Y抗原、Lewis-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、LFA-3受容体、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺サーファクタント、黄体形成ホルモン、リンホタクチン、リンホトキシンβ受容体、リゾスフィンゴ脂質受容体、Mac-1、マクロファージ-CSF (M-CSF)、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、マスピン、MCAM、MCK-2、MCP、MCP-1、MCP-2、MCP-3、MCP-4、MCP-I (MCAF)、M-CSF、MDC、MDC (67 a.a.)、MDC (69 a.a.)、メグシン(megsin)、Mer、METチロシンキナーゼ受容体ファミリー、メタロプロテアーゼ、膜糖タンパク質OX2、メソテリン、MGDF受容体、MGMT、MHC (HLA-DR)、微生物タンパク質(microbial protein)、MIF、MIG、MIP、MIP-1 α、MIP-1 β、MIP-3 α、MIP-3 β、MIP-4、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、単球誘引タンパク質(monocyte attractant protein)、単球コロニー阻害因子(monocyte colony inhibitory factor)、マウスゴナドトロピン関連(gonadotropin-associated)ペプチド、MPIF、Mpo、MSK、MSP、MUC-16、MUC18、ムチン(Mud)、ミュラー管抑制因子、Mug、MuSK、ミエリン関連糖タンパク質、骨髄前駆細胞阻害因子-1 (MPIF-I)、NAIP、ナノボディ(Nanobody)、NAP、NAP-2、NCA 90、NCAD、N-カドヘリン、NCAM、ネプリライシン、神経細胞接着分子、ニューロセルピン(neroserpin)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-6、ニューロピリン1、ニュールツリン、NGF-β、NGFR、NKG20、N-メチオニルヒト成長ホルモン、nNOS、NO、Nogo-A、Nogo受容体、C型肝炎ウイルス由来の非構造
タンパク質3型 (NS3)、NOS、Npn、NRG-3、NT、NT-3、NT-4、NTN、OB、OGG1、オンコスタチンM、OP-2、OPG、OPN、OSM、OSM受容体、骨誘導因子(osteoinductive factor)、オステオポンチン、OX40L、OX40R、酸化型LDL、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PCSK9、PDGF、PDGF受容体、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、PDGF-D、PDK-1、PECAM、PEDF、PEM、PF-4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIGF、PIN、PLA2、胎盤増殖因子、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、胎盤ラクトゲン、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1、血小板増殖因子(platelet-growth factor)、plgR、PLP、異なるサイズのポリグリコール鎖(poly glycol chain)(例えば、PEG-20、PEG-30、PEG40)、PP14、プレカリクレイン、プリオンタンパク質、プロカルシトニン、プログラム細胞死タンパク質1、プロインスリン、プロラクチン、プロタンパク質転換酵素PC9、プロリラキシン(prorelaxin)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、プロテインA、プロテインC、プロテインD、プロテインS、プロテインZ、PS、PSA、PSCA、PsmAr、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1、R51、RAGE、RANK、RANKL、RANTES、リラキシン、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV) F、Ret、レチキュロン(reticulon)4、リウマチ因子、RLI P76、RPA2、RPK-1、RSK、RSV Fgp、S100、RON-8、SCF/KL、SCGF、スクレロスチン(Sclerostin)、SDF-1、SDF1 α、SDF1 β、セリン(SERINE)、血清アミロイドP、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、志賀様毒素II、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、スフィンゴシン一リン酸受容体1、ブドウ球菌のリポテイコ酸、Stat、STEAP、STEAP-II、幹細胞因子(SCF)、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、シンデカン-1、TACE、TACI、TAG-72 (腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TB、TCA-3、T細胞受容体α/β、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、テネイシン、TERT、精巣PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-α、TGF-β、TGF-β汎特異的(TGF-β Pan Specific)、TGF-β RII、TGF-β RIIb、TGF-β RIII、TGF-β Rl (ALK-5)、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、TGF-β5、TGF-I、トロンビン、トロンボポエチン(TPO)、胸腺間質性リンホプロテイン(Thymic stromal lymphoprotein)受容体、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン、チロキシン結合グロブリン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、組織因子プロテアーゼインヒビター、組織因子タンパク質、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF受容体I、TNF受容体II、TNF-α、TNF-β、TNF-β2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A (TRAIL R1 Apo-2/DR4)、TNFRSF10B (TRAIL R2 DR5/KILLER/TRICK-2A/TRICK-B)、TNFRSF10C (TRAIL R3 DcR1/LIT/TRID)、TNFRSF10D (TRAIL R4 DcR2/TRUNDD)、TNFRSF11A (RANK ODF R/TRANCE R)、TNFRSF11B (OPG OCIF/TR1)、TNFRSF12 (TWEAK R FN14)、TNFRSF12A、TNFRSF13B (TACI)、TNFRSF13C (BAFF R)、TNFRSF14 (HVEM ATAR/HveA/LIGHT R/TR2)、TNFRSF16 (NGFR p75NTR)、TNFRSF17 (BCMA)、TNFRSF18 (GITR AITR)、TNFRSF19 (TROY TAJ/TRADE)、TNFRSF19L (RELT)、TNFRSF1A (TNF Rl CD120a/p55-60)、TNFRSF1B (TNF RII CD120b/p75-80)、TNFRSF21 (DR6)、TNFRSF22 (DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRSF25 (DR3 Apo-3/LARD/TR-3/TRAMP/WSL-1)、TNFRSF26 (TNFRH3)、TNFRSF3 (LTbR TNF RIII/TNFC R)、TNFRSF4 (OX40 ACT35/TXGP1 R)、TNFRSF5 (CD40 p50)、TNFRSF6 (Fas Apo-1/APT1/CD95)、TNFRSF6B (DcR3 M68/TR6)、TNFRSF7 (CD27)、TNFRSF8 (CD30)、TNFRSF9 (4-1 BB CD137/ILA)、TNFRST23 (DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFSF10 (TRAIL Apo-2リガンド/TL2)、TNFSF11 (TRANCE/RANKリガンドODF/OPGリガンド)、TNFSF12 (TWEAK Apo-3リガンド/DR3リガンド)、TNFSF13 (APRIL TALL2)、TNFSF13B (BAFF BLYS/TALL1/THANK/TNFSF20)、TNFSF14 (LIGHT HVEMリガンド/LTg)、TNFSF15 (TL1A/VEGI)、TNFSF18 (GITRリガンド AITRリガンド/TL6)、TNFSF1A (TNF-a コネクチン(Conectin)/DIF/TNFSF2)、TNFSF1B (TNF-b LTa/TNFSF1)、TNFSF3 (LTb TNFC/p33)、TNFSF4 (OX40リガンドgp34/TXGP1)、TNFSF5 (CD40リガンドCD154/gp39/HIGM1/IMD3/TRAP)、TNFSF6 (Fasリガンド Apo-1リガンド/APT1リガンド)、TNFSF7 (CD27リガンドCD70)、TNFSF8 (CD30リガンドCD153)、TNFSF9 (4-1 BBリガンド CD137リガンド)、TNF-α、TNF-β、TNIL-I、毒性代謝産物(toxic metabolite)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TGF-αおよびTGF-β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF)、膜貫通型糖タンパク質NMB、トランスサイレチン、TRF、Trk、TROP-2、トロホブラスト糖タンパク質、TSG、TSLP、腫瘍壊死因子(TNF)、腫瘍関連抗原CA 125、Lewis Y関連糖を示す腫瘍関連抗原、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VAP-1、血管内皮増殖因子(VEGF)、バスピン(vaspin)、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-カドヘリン、VE-カドヘリン-2、VEFGR-1 (flt-1)、VEFGR-2、VEGF受容体 (VEGFR)、VEGFR-3 (flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、ビタミンB12受容体、ビトロネクチン受容体、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィルブランド因子(vWF)、WIF-1、WNT1、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、XCL1、XCL2/SCM-l-β、XCLl/リンホタクチン、XCR1、XEDAR、XIAP、およびXPDなどを挙げることができる。
【0117】
本明細書に記載の抗原結合分子は、上記の抗原の血漿中総抗原濃度を減少させることができる。本発明に記載の抗原結合分子はまた、ウイルス、細菌および真菌の構造成分に結合することによって、血漿中のウイルス、細菌、および真菌を消失させることができる。特に、RSVのFタンパク質、ブドウ球菌のリポテイコ酸、クロストリジウム・ディフィシレ毒素、志賀菌様毒素II、バチルス・アントラシス防御抗原、およびC型肝炎ウイルスE2糖タンパク質を、ウイルス、細菌、および真菌の構造成分として用いることができる。
【0118】
本発明の方法は特定の理論により限定されるものではないが、例えば、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合能をpH中性域における抗原結合能よりも低く(弱く)し、かつ/あるいは、pH中性域におけるヒトFcRn結合能を増大させる(高くする)ことと、抗原結合分子の細胞への取込が促進され1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数が増加すること、および、血漿中抗原濃度の消失促進との関連は以下のように説明することが可能である。
【0119】
例えば、抗原結合分子が膜抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与した抗体は抗原に結合して、その後、抗体は抗原に結合したまま抗原と一緒にインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれる。その後、抗体は抗原に結合したままライソソームへ移行し抗体は抗原と一緒にライソソームにより分解される。インターナライゼーションを介した血漿中からの消失は抗原依存的な消失と呼ばれており、多くの抗体分子で報告されている(Drug Discov Today. 2006 Jan;11(1-2):81-8)。1分子のIgG抗体が2価で抗原に結合した場合、1分子の抗体が2分子の抗原に結合した状態でインターナライズされ、そのままライソソームで分解される。従って、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することは出来ない。例えば、中和活性を有する1分子のIgG抗体の場合、3分子以上の抗原を中和することはできない。
【0120】
IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージ受容体として知られているヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているヒトFcRnに結合する。ヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進み、そこで分解されるが、ヒトFcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてヒトFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
【0121】
また抗原結合分子が可溶型抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与した抗体は抗原に結合し、その後、抗体は抗原に結合したまま細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた抗体の多くはFcRnにより細胞外に放出されるが、抗原に結合したまま細胞外に放出される為、再度、抗原に結合することはできない。従って、膜抗原に結合する抗体と同様、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することはできない。
【0122】
抗原に対して血漿中の中性条件下においては強く結合し、エンドソーム内の酸性条件下において抗原から解離するpH依存的抗原結合抗体(中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する抗体)はエンドソーム内で抗原から解離することが可能である。pH依存的抗原結合抗体は、抗原を解離した後に抗体がFcRnによって血漿中にリサイクルされると再び抗原に結合することが可能であるため、1つの抗体で複数の抗原に繰り返し結合することが可能となる。また、抗原結合分子に結合した抗原がエンドソーム内で解離することで血漿中にリサイクルされないため、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進し、抗原結合分子の投与により抗原の消失を促進し、血漿中の抗原濃度を低下させることが可能となる。
【0123】
抗原に対する結合にpH依存性(中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する)を有する抗体において、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を付与することで、さらに抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進し、抗原結合分子の投与により抗原の消失を促進し、血漿中の抗原濃度を低下させることができる。通常、抗体および抗体−抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内の酸性条件下でFcRnに結合することで細胞表面に輸送され、細胞表面の中性条件下でFcRnから解離することで血漿中にリサイクルされる。そのため、抗原に対する結合に十分なpH依存性(中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する)を有する抗体が血漿中で抗原に結合し、エンドソーム内において結合している抗原を解離した場合、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込み速度と等しくなると考えられる。pH依存性が不十分な場合は、エンドソーム内において解離しない抗原が血漿中にリサイクルされてしまうが、pH依存性が十分な場合は、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込みが律速となる。FcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRnの一部は細胞表面にも存在していると考えられる。
【0124】
本発明者らは、通常、抗原結合分子の一つであるIgG型免疫グロブリンはpH中性域におけるFcRnへの結合能をほとんど有さないが、pH中性域においてFcRnへの結合能を有するIgG型免疫グロブリンは、細胞表面に存在するFcRnに結合することが可能であり、細胞表面に存在するFcRnに結合することでFcRn依存的に細胞に取り込まれると考えた。FcRnを介した細胞への取り込み速度は、非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込み速度よりも早い。そのため、pH中性域においてFcRnへの結合能を付与することで、抗原の消失速度をさらに速めることが可能である。すなわち、pH中性域においてFcRnに対する結合能を有する抗原結合分子は、通常の(インタクトなヒト)IgG型免疫グロブリンよりも速やかに抗原を細胞内に送り込み、エンドソーム内で抗原を解離し、再び細胞表面ないしは血漿中にリサイクルされ、そこで再び抗原に結合し、またFcRnを介して細胞内に取り込まれる。pH中性域においてFcRnに対する結合能を高くすることで、このサイクルの回転速度を速くすることが可能となり、それにより、血漿中から抗原を消失させる速度が速くなる。更に抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させることによって、更にその効率を高めることが可能である。また1分子の抗原結合分子によるこの回転数が多くなることによって、1分子の抗原結合分子によって結合できる抗原の数も多くなると考えられる。本発明の抗原結合分子は、抗原結合ドメインとFcRn結合ドメインからなり、FcRn結合ドメインは抗原に対する結合に影響を与えることはないため、また、上述のメカニズムから考えても、抗原の種類に依存することがなく、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させ、且つ、あるいは、または、血漿中でのpHにおけるFcRnへの結合活性を増大させることにより、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原の消失速度を速くすることが可能であると考えられる。
【0125】
<抗原結合分子として作用する物質>
さらに、本発明はpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、且つ、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子を提供する。具体的な例としては、それぞれ生体内の早期エンドソーム内のpHおよび生体内の血漿中のpHと考えられる、pH5.8〜6.0およびpH7.4でのヒトFcRn結合活性を有し、且つ、pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子を挙げることができる。pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子は、pH7.4での抗原結合活性がpH5.8での抗原結合活性よりも高い抗原結合分子ということもできる。
【0126】
本発明のpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子は、pH酸性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるインタクトなヒトIgGのヒトFcRn結合活性よりも高い活性を有する抗原結合分子であることが好ましく、その結合活性の比は限定されず、僅かでもpH7.4におけるヒトFcRn結合活性が高ければよい。
【0127】
The Journal of Immunology,2009 182: 7663-7671によれば、pH酸性域(pH6.0)におけるインタクトなヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はKD 1.7μMであり、pH中性域におけるインタクトなヒトIgG1はヒトFcRn結合活性をほとんど検出できていない。よって、本発明のpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子の好ましい態様としては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がインタクトヒトIgGと同等かそれより強い抗原結合分子を挙げることができ、より好ましい態様としては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強い抗原結合分子を挙げることができる。さらに好ましい態様としては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 15μMまたはそれより強い抗原結合分子を挙げることができる。なお、ここで示すKD値は、The Journal of Immunology,2009 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)で測定された時の値である。
【0128】
本発明は、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子であって、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、かつヒトFcRn結合活性およびpH中性域より低いpH酸性域における抗原結合活性が、KD 3.2μMより強い抗原結合分子を提供する。本発明はまた、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGの結合活性より28倍高い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を提供する。本発明の抗原結合分子は、pH7.0および25℃で、インタクトなヒトIgGより高いヒトFcRn結合活性を有する。より好ましい態様において、pH7.0および25℃でのヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGより28倍高いか、またはKD 3.2μMより強い。
【0129】
本発明は、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が2.3μMより強い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を提供する。本発明はまた、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGの結合活性より38倍高い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を提供する。
【0130】
本発明において、pH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。pH酸性域とは、好ましくはpH5.5〜pH6.5内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくは5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、および6.5から選択され、特に好ましくは生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0である。一方、本発明において、pH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは好ましくはpH7.0〜pH8.0内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーがpH7.4で低いためにそのアフィニティーを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度を使用する。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために使用される。実施例5に記載の25℃という温度は本発明の態様の一例である。
【0131】
より好ましい態様において、pH7.0および25℃でのヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGより38倍高いか、またはKD 2.3μMより強い。インタクトなヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4は、ヒトFcRn結合活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途のための、インタクトなヒトIgGとして用いられる。より好ましくは、インタクトなヒトIgG1は、ヒトFcRn結合活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途に用いられる。
【0132】
本発明は、非ヒト動物に抗原結合分子を投与した後の血漿中総抗原濃度が非ヒト動物に対照抗原結合分子を投与した後の血漿中総抗原濃度より低い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を提供する。
【0133】
本発明はまた、非ヒト動物に抗原結合分子を投与した後の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子を投与していない非ヒト動物から得られた血漿中の総抗原濃度より低い、抗原結合分子を提供する。
【0134】
血漿中総抗原濃度は、ヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fc結合ドメインを含む対照抗原結合分子の投与と比較して、または本発明の抗原結合分子を投与していない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、および1000倍またはそれ以上低減しうる。
【0135】
別の態様において、本発明は、
C=A/B
の通りに算出される抗原結合分子の抗原/抗原結合分子モル比(C)が、
C'=A'/B'
の通りに算出される、同一の抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fcドメインとを含む抗原結合分子の抗原/抗原結合分子モル比(C')より低い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を提供し、
式中
Aは、非ヒト動物に抗原結合分子を投与した後の血漿中総抗原濃度であり、
Bは、非ヒト動物に抗原結合分子を投与した後の血漿中抗原結合分子濃度であり、
A'は、非ヒト動物に対照抗原結合分子を投与した後の血漿中総抗原濃度であり、
B'は、非ヒト動物に対照抗原結合分子を投与した後の血漿中抗原結合分子濃度である。
【0136】
抗原/抗原結合分子モル比は、ヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fcドメインを含む抗原結合分子の投与と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、および1000倍またはそれ以上低減しうる。
【0137】
血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、実施例6、8および13に記載の通りに評価することができる。より具体的には、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104.)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することができる。抗原抗体分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することができる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原との混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するために抗原溶液を充填した注入ポンプをマウスに埋め込んだ後、抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0138】
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、および筋肉内注射から選択することができる。
【0139】
より具体的には、本発明に記載の血漿中の抗原消失活性に対して長期効果を有する抗原結合分子は、pH7.0および25℃で、インタクトなヒトIgG1より28倍〜440倍高い範囲のFcRn結合活性を有するか、またはKDが3.0μMから0.2μMの範囲のFcRn結合活性を有する。血漿中での抗原消失活性に対する本発明の抗原結合分子の長期効果を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が本発明に記載の抗原結合分子によって達成されるか否かは、先に記載した1つまたは複数の任意の時点で減少を評価することによって決定されうる。
【0140】
さらにより具体的には、本発明に記載の血漿中の抗原消失活性に対して短期効果を有する抗原結合分子は、pH7.0および25℃で、インタクトなヒトIgGより440倍高いヒトFcRn結合活性を有するか、またはKDが0.2μMより強いFcRn結合活性を有する。血漿中の抗原消失活性に対する本発明の抗原結合分子の短期効果を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
【0141】
また、本発明のpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子は、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での結合より低い限り、その結合活性の比は限定されず、僅かでもpH酸性域における抗原結合活性が低ければよい。好ましい態様として、pH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性の2倍以上である抗原結合分子を挙げることができ、さらに好ましい態様としてはpH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性の10倍以上である抗原結合分子を挙げることができ、より好ましい態様としてはpH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性の40倍以上である抗原結合分子を挙げることができる。
【0142】
具体的には、例えば、WO2009/125825に記載のような態様が挙げられる。より具体的には、本発明のpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい態様として、抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が40以上である。KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0143】
さらに本発明のpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい他の態様として、抗原に対するpH5.8でのk
dとpH7.4でのk
dの比であるk
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはk
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値が5以上であり、さらに好ましくはk
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはk
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値が30以上である。K
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0144】
抗原の結合活性とヒトFcRnの結合活性を測定する際のpH以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されないが、例えば、実施例に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。又、抗原結合分子の抗原結合活性の測定は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えば、実施例に記載のようにBiacore T100(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。
【0145】
本発明の抗原結合分子は、抗原の細胞内への取込を促進し、エンドソーム内において抗原から容易に解離し、その後にヒトFcRnと結合して細胞外に放出され、血漿中の抗原と再度結合しやすいと考えられる。従って、例えば抗原結合分子が中和抗原結合分子である場合には、本発明の抗原結合分子は、その投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させることが可能である。結果として、pH酸性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子において、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低く、且つ、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子は優れた薬物動態を有するとともに、1つの抗原結合分子がより多くの抗原に結合することが可能な抗原結合分子となる。
【0146】
pH酸性域 およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子の好ましい態様として、直接または間接的にヒトFcRnに対して結合能を有するヒトFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子を挙げることができる。当該ドメインは、あらかじめpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合能を有しているドメインであればそのまま用いてもよいし、pH酸性域においてのみヒトFcRn結合活性があり、pH中性域においてヒトFcRn結合活性がない若しくは弱い場合でも、ドメイン中のアミノ酸を改変してpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を得てもよい。また、あらかじめpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合能を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、ヒトFcRn結合活性を高めてもよい。例えば、少なくとも1つのアミノ酸が改変されたIgGの Fcドメインのアミノ酸配列を有する抗原結合分子を挙げることができる。アミノ酸の改変は特に限定されず、改変前と比較してpH中性域におけるヒトFcRn結合活性が高くなる限り、いかなる部位を改変してもよい。
【0147】
pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有するための具体的なアミノ酸改変としては、例えば上述の親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング221番目〜225番目、227番目、228番目、230番目、232番目、233番目〜241番目、243番目〜252番目、254番目〜260番目、262番目〜272番目、274番目、276番目、278番目〜289番目、291番目〜312番目、315番目〜320番目、324番目、325番目、327番目〜339番目、341番目、343番目、345番目、360番目、362番目、370番目、375番目〜378番目、380番目、382番目、385番目〜387番目、389番目、396番目、414番目、416番目、423番目、424番目、426番目〜438番目、440番目および442番目の位置のアミノ酸を挙げることができる。より具体的には、表1、表2、表6−1、6−2、および表9に示した個所(EUナンバリング)のアミノ酸の改変を挙げることができる。好ましくは、EUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸が改変されたアミノ酸配列を含む抗原結合分子が挙げられる。
【0148】
好ましい態様としては、EUナンバリング
237番目のGlyをMetに置換するアミノ酸置換、
238番目のProをAlaに置換するアミノ酸置換、
239番目のSerをLysに置換するアミノ酸置換、
248番目のLysをIleに置換するアミノ酸置換、
250番目のThrをAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
252番目のMetをPhe、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
254番目のSerをThrに置換するアミノ酸置換、
255番目のArgをGluに置換するアミノ酸置換、
256番目のThrをAsp、Glu、またはGlnに置換するアミノ酸置換、
257番目のProをAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValに置換するアミノ酸置換、
258番目のGluをHisに置換するアミノ酸置換、
265番目のAspをAlaに置換するアミノ酸置換、
270番目のAspをPheに置換するアミノ酸置換、
286番目のAsnをAlaまたはGluに置換するアミノ酸置換、
289番目のThrをHisに置換するアミノ酸置換、
297番目のAsnをAlaに置換するアミノ酸置換、
298番目のSerをGlyに置換するアミノ酸置換、
303番目のValをAlaに置換するアミノ酸置換、
305番目のValをAlaに置換するアミノ酸置換、
307番目のThrをAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
308番目のValをAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrに置換するアミノ酸置換、
309番目のLeuまたはValをAla、Asp、Glu、Pro、またはArgに置換するアミノ酸置換、
311番目のGlnをAla、His、またはIleに置換するアミノ酸置換、
312番目のAspをAlaまたはHisに置換するアミノ酸置換、
314番目のLeuをLysまたはArgに置換するアミノ酸置換、
315番目のAsnをAlaまたはHisに置換するアミノ酸置換、
317番目のLysをAlaに置換するアミノ酸置換、
325番目のAsnをGlyに置換するアミノ酸置換、
332番目のIleをValに置換するアミノ酸置換、
334番目のLysをLeuに置換するアミノ酸置換、
360番目のLysをHisに置換するアミノ酸置換、
376番目のAspをAlaに置換するアミノ酸置換、
380番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、
382番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、
384番目のAsnまたはSerをAlaに置換するアミノ酸置換、
385番目のGlyをAspまたはHisに置換するアミノ酸置換、
386番目のGlnをProに置換するアミノ酸置換、
387番目のProをGluに置換するアミノ酸置換、
389番目のAsnをAlaまたはSerに置換するアミノ酸置換、
424番目のSerをAlaに置換するアミノ酸置換、
428番目のMetをAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、
433番目のHisをLysに置換するアミノ酸置換、
434番目のAsnをAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrに置換するアミノ酸置換、および
436番目のTyrまたはPheをHisに置換するアミノ酸置換
を挙げることができる。
【0149】
これらの改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、1箇所のみのアミノ酸を改変してもよいし、2箇所以上のアミノ酸を改変してもよい。2箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表3、表4−1〜4−5、表6−1、6−2、および表9に記載のような組合せが挙げられる。
【0150】
また、あらかじめpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合能を有しているドメインとしては、例えば、親IgGの FcドメインにおけるEUナンバリング
237番目のアミノ酸がMet、
238番目のアミノ酸におけるAla、
239番目のアミノ酸におけるLys、
248番目のアミノ酸におけるIle、
250番目のアミノ酸におけるAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252番目のアミノ酸におけるPhe、Trp、またはTyr、
254番目のアミノ酸におけるThr、
255番目のアミノ酸におけるGlu、
256番目のアミノ酸におけるAsp、Glu、またはGln、
257番目のアミノ酸におけるAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258番目のアミノ酸におけるHis、
265番目のアミノ酸におけるAla、
270番目のアミノ酸におけるPhe、
286番目のアミノ酸におけるAlaまたはGlu、
289番目のアミノ酸におけるHis、
297番目のアミノ酸におけるAla、
298番目のアミノ酸におけるGly、
303番目のアミノ酸におけるAla、
305番目のアミノ酸におけるAla、
307番目のアミノ酸におけるAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308番目のアミノ酸におけるAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309番目のアミノ酸におけるAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311番目のアミノ酸におけるAla、His、またはIle、
312番目のアミノ酸におけるAlaまたはHis、
314番目のアミノ酸におけるLysまたはArg、
315番目のアミノ酸におけるAlaまたはHis、
317番目のアミノ酸におけるAla、
325番目のアミノ酸におけるGly、
332番目のアミノ酸におけるVal、
334番目のアミノ酸におけるLeu、
360番目のアミノ酸におけるHis、
376番目のアミノ酸におけるAla、
380番目のアミノ酸におけるAla、
382番目のアミノ酸におけるAla、
384番目のアミノ酸におけるAla、
385番目のアミノ酸におけるAspまたはHis、
386番目のアミノ酸におけるPro、
387番目のアミノ酸におけるGlu、
389番目のアミノ酸におけるAlaまたはSer、
424番目のアミノ酸におけるAla、
428番目のアミノ酸におけるAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433番目のアミノ酸におけるLys、
434番目のアミノ酸におけるAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、および
436番目のアミノ酸におけるHis
から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むヒトFcRn結合ドメインを挙げることができる。
【0151】
これらのアミノ酸は1箇所のみが該当していてもよいし、2箇所以上のアミノ酸が該当していてもよい。2箇所以上のアミノ酸の組合せとしては、例えば表3、表4−1〜4−5、表6−1、6−2、および表9に記載と同様のアミノ酸の組合せが挙げられる。
【0152】
また、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい態様として、抗原結合分子中のアミノ酸の少なくとも1つがヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されている又は少なくとも1つのヒスチジン又は非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子を挙げることができる。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異が導入される位置は特に限定されず、置換前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はk
d(pH酸性域)/k
d(pH中性域)の値が大きくなる)限り、いかなる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどを挙げることができる。ヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、1つのアミノ酸を挿入してもよいし、2つ以上の複数のアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、2つ以上のアミノ酸を挿入してもよい。又、ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などを同時に行ってもよい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンスキャニングのアラニンをヒスチジンに置き換えたヒスチジンスキャニングなどの方法によりランダムに行ってもよい。そしてヒスチジン又は非天然アミノ酸変異がランダムに導入された抗原結合分子の中から、変異前と比較してKD(pH5.8)/KD(pH7.4)又はk
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値が大きくなった抗原結合分子を選択することができる。
【0153】
このようにヒスチジン又は非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、ヒスチジン又は非天然アミノ酸への変異後のpH7.4での抗原結合活性がヒスチジン又は非天然アミノ酸への変異前のpH7.4での抗原結合活性と同等である抗原結合分子を挙げることができる。本発明において、「ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後の抗原結合分子が、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有する」とは、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合に、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを言う。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後のpH7.4での抗原結合活性がヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又は挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などにより抗原結合活性をヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にしてもよい。本発明においては、そのようなヒスチジン置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことにより結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
【0154】
さらに、抗原結合分子が抗体定常領域を含む物質である場合、pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい他の態様として、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域が改変された方法を挙げることができる。改変後の抗体定常領域の具体例としては、例えばWO2009/125825の実施例に記載の抗体定常領域(配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、および配列番号:14)に記載の定常領域を挙げることができる。
【0155】
上述の方法等により抗原結合物質のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする(KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を大きくする)場合、特に限定されないが、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値がもとの抗体と比較して通常、2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上となっていることが好ましい。
【0156】
さらに、本発明は以下の少なくとも1つの箇所のアミノ酸がヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換された抗原結合分子を提供する。なお、アミノ酸位置はKabatナンバリング(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)で示している。
【0157】
重鎖:H27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、およびH102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L54、L56、L90、L92、およびL94
【0158】
これらの改変箇所のうち、H32、H61、L53、L90、およびL94は普遍性の高い改変箇所と考えられる。
【0159】
複数の箇所を組み合わせてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換する場合の好ましい組み合わせの具体例としては、例えば、H27、H31、およびH35の組み合わせ、H27、H31、H32、H35、H58、H62、およびH102の組み合わせ、L32およびL53の組み合わせ、L28、L32、およびL53の組み合わせ等を挙げることができる。さらに、重鎖と軽鎖の置換箇所の好ましい組み合わせの例としては、H27、H31、L32、およびL53の組み合わせを挙げることができる。
【0160】
本発明の抗原結合分子は、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低く、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有している限り、他にどのような性質を有していてもよく、例えばアゴニスト抗原結合分子やアンタゴニスト抗原結合分子などであってもよい。本発明の好ましい抗原結合分子の例として、アンタゴニスト抗原結合分子を挙げることができる。アンタゴニスト抗原結合分子は通常、リガンド(アゴニスト)と受容体の結合を阻害し、受容体を介した細胞内へのシグナル伝達を阻害する抗原結合分子である。
【0161】
また、本発明の抗原結合分子が認識する抗原はいかなる抗原でもよい。本発明の抗原結合分子が認識する抗原の具体的な例としては上述の受容体タンパク質(膜結合型受容体、可溶型受容体)、細胞表面マーカーなどの膜抗原やサイトカインなどの可溶型抗原、例えば、上述に記載のような抗原を挙げることができる。
【0162】
本発明における抗原結合分子の好ましい態様として、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインを有するIgG型免疫グロブリン(IgG抗体)を挙げることができる。抗原結合分子としてIgG抗体を用いる場合、その種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などを用いることが可能である。
【0163】
本発明の抗原結合分子の由来は特に限定されず、いかなる由来の抗原結合分子でもよく、例えば、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体などを用いることができる。さらに、例えば、上述のキメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、上述の二重特異性抗体、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片を含むポリペプチド、糖鎖が修飾された抗体などであってもよい。
【0164】
二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一抗体分子内に有する抗体を意味する。二重特異性抗体または多重特異性抗体は、2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であっても、または同一抗原上の2つ以上の異なるエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0165】
さらに、抗体断片が含まれるポリペプチドとしては、例えば、Fab断片、F(ab')2断片、scFv(Nat Biotechnol. 2005 Sep; 23(9): 1126-36)、ドメイン抗体(dAb)(WO2004/058821、WO2003/002609)、scFv-Fc(WO2005/037989)、dAb-Fc、およびFc融合タンパク質等が挙げられる。Fcドメインを含んでいる分子はFcドメインをヒトFcRn結合ドメインとして用いることができる。または、これらの分子にFcRn結合ドメインを融合させてもよい。
【0166】
さらに、本発明に適用可能な抗原結合分子は、抗体様分子であってもよい。抗体様分子(足場分子、ペプチド分子)とは、標的分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、アフィボディ(Affibody)(WO1995/001937)、アビマー(Avimer)(WO2004/044011, WO2005/040229)、アドネクチン(Adnectin)(WO2002/032925)等が挙げられる。これら抗体様分子であっても、標的分子に対してpH依存的に結合し、且つ、あるいは、または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。
【0167】
また抗原結合分子は、リガンドを含む標的に結合する受容体タンパク質にヒトFcRn結合ドメインが融合されたタンパク質であってもよく、例えば、TNFR-Fc融合タンパク、IL1R-Fc融合タンパク、VEGFR-Fc融合タンパク、CTLA4-Fc融合タンパク等(Nat Med. 2003 Jan;9(1):47-52、BioDrugs. 2006;20(3):151-60.)が挙げられる。これら受容体-ヒトFcRn結合ドメイン融合タンパク質であっても、リガンドを含む標的分子に対してpH依存的に結合し、且つ、あるいは、または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。受容体タンパク質は、リガンドを含む標的に対する受容体タンパク質の結合ドメインを含めるように適宜設計および修飾される。TNFR-Fc融合タンパク質、IL1R-Fc融合タンパク質、VEGFR-Fc融合タンパク質、およびCTLA4-Fc融合タンパク質が含まれる本明細書において先に記載した例にあるように、好ましくは、リガンドを含む標的との結合に必要な受容体タンパク質の細胞外ドメインを含む可溶型受容体分子が、本発明において用いられる。それらの設計および修飾された受容体分子は、本発明において人工受容体と呼ばれる。人工受容体分子を構築するよう受容体分子を設計および修飾するのに使用される方法は、当技術分野において公知である。
【0168】
また抗原結合分子は、標的に結合するが中和効果を有する人工リガンドタンパク質とヒトFcRn結合ドメインの融合タンパク質であってもよく、例えば、人工リガンドタンパク質としては、変異IL-6(EMBO J. 1994 Dec 15;13(24):5863-70.)等が挙げられる。これら人工リガンド融合タンパク質であっても標的分子に対してpH依存的に結合し、かつ、あるいは、または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込を促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。
【0169】
さらに、本発明の抗体は、修飾された糖鎖を含んでいてもよい。糖鎖が修飾された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
【0170】
抗原やヒトFcRnへの結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、WO2009/125825に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。又、抗原結合分子の抗原結合活性およびヒトFcRn結合活性の測定は当業者公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原の結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。抗原結合分子とヒトFcRnの結合活性の測定は、抗原結合分子あるいはヒトFcRnを固定化したチップへ、それぞれヒトFcRnあるいは抗原結合分子をアナライトとして流すことで評価することが可能である。
【0171】
キメラ抗体の作製は公知であり、例えば、ヒト−マウスキメラ抗体の場合、抗体V領域をコードするDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによりキメラ抗体を得ることができる。
【0172】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。ヒト化抗体は公知の方法により、例えば、マウス抗体のCDRを決定し、該CDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とが連結された抗体をコードするDNAを取得し、ヒト化抗体を通常の発現ベクターを用いた系により産生することができる。このようなDNAは、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成することができる(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸を改変してもよい(Sato et al., Cancer Res. (1993) 53: 10.01-6)。改変できるFR中のアミノ酸残基には、抗原に直接、非共有結合により結合する部分(Amit et al., Science (1986) 233: 747-53)、CDR構造に影響または作用する部分(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196: 901-17)及びVH-VL相互作用に関連する部分(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0173】
本発明における抗原結合分子がキメラ抗体またはヒト化抗体である場合には、これらの抗体のC領域は、好ましくはヒト抗体由来のものが使用される。例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4などを、L鎖ではCκ、Cλなどを使用することができる。また、Fcγ受容体への結合を増大あるいは低減させるために、抗体の安定性または抗体の産生を改善するために、ヒト抗体C領域を必要に応じアミノ酸変異を導入してもよい。本発明におけるキメラ抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびC領域とからなる。ヒト抗体由来の定常領域は、ヒトFcRn結合領域を含んでいることが好ましく、そのような抗体の例として、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を挙げることができる。本発明におけるヒト化抗体に用いられる定常領域は、どのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgG1由来の定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体に利用されるヒト抗体由来のFRも特に限定されず、どのアイソタイプに属する抗体のものであってもよい。
【0174】
本発明におけるキメラ抗体及びヒト化抗体の可変領域及び定常領域は、元の抗体の結合特異性を示す限り、欠失、置換、挿入及び/または付加等により改変されていてもよい。
【0175】
ヒト由来の配列を利用したキメラ抗体及びヒト化抗体は、ヒト体内における免疫原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用と考えられる。
【0176】
本発明の抗原結合分子はいかなる方法により得られてもよく、例えば、本来はpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn活性を有していない抗原結合分子や、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性より高い抗原結合分子又は抗原結合活性が同程度である抗原結合分子を、上述のアミノ酸改変等により、人為的に所望の活性を有する抗原結合分子に改変してもよいし、又、以下に示す抗体ライブラリーやハイブリドーマから得られる複数の抗体の中から所望の活性を有する抗体をスクリーニングすることで選択してもよい。
【0177】
抗原結合分子中のアミノ酸を改変する場合、改変前の抗原結合分子のアミノ酸配列は既知の配列を用いることも可能であり、又、当業者に公知の方法で新しく取得した抗原結合分子のアミノ酸配列を用いることも可能である。例えば、抗体であれば、抗体ライブラリーから取得することも可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。
【0178】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知になっており、又、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手することが可能である。例えば、ファージライブラリーについては、Clackson et al., Nature 1991, 352: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. 1994, 13: 324.0-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14: 309-14、及び特表平20−504970号公報等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリーとする方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388を参考にすることができる。
【0179】
ハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術を使用し、所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングし、得られたハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結することにより得ることができる。
【0180】
より具体的には、特に以下の例示に限定されないが、例えば、上記のH鎖及びL鎖をコードする抗原結合分子遺伝子を得るための感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方を含むことができる。例えば、目的タンパク質の全長タンパク質、又は部分ペプチドなどを用いることができる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質が抗原となり得ることが知られており、本発明の抗原結合分子の抗原は特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777など)などに準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、例えば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 1981, 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。また、必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶性抗原とすることもできる。膜抗原(例えば、受容体など)のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、膜抗原の細胞外領域部分を断片として用いたり、膜貫通分子を細胞表面上に発現する細胞を免疫原として使用することも可能である。
【0181】
抗原結合分子産生細胞は、上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより得ることができる。または、抗原結合分子を産生し得るリンパ球をインビトロで免疫化して抗原結合分子産生細胞とすることもできる。免疫化する動物としては、各種哺乳動物を使用できるが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示することができる。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. 1997, 15: 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球をインビトロで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0182】
動物の免疫化は、例えば、感作抗原をリン酸緩衝食塩水(Phosphate-Buffered Saline)(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生の確認は、動物の血清中の目的とする抗体力価を慣用の方法により測定することにより行われ得る。
【0183】
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫化した動物またはリンパ球より得られた抗原結合分子産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。必要に応じハイブリドーマ細胞を培養・増殖し、免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)等の公知の分析法により該ハイブリドーマより産生される抗原結合分子の結合特異性を測定する。その後、必要に応じ、目的とする特異性、アフィニティーまたは活性が測定された抗原結合分子を産生するハイブリドーマを限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
【0184】
続いて、選択された抗原結合分子をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗原結合分子産生細胞(感作リンパ球等)から、抗原結合分子に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングすることができる。また、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2等)に分けられる。本発明において抗原結合分子の製造に使用するH鎖及びL鎖は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、特に限定されないが、IgGは特に好ましい。
【0185】
ここで、H鎖及びL鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変することも可能である。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体について、ヒトに対する異種免疫原性を低下させること等を目的として、人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等を適宜作製することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体のH鎖、L鎖の可変領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP239400; WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(K. Sato et al., Cancer Res. 1993, 53: 10.01-10.06)。
【0186】
上述のヒト化以外に、例えば、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するために改変を行うことも考えられる。本発明における改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1910.0) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)のアミノ酸配列相同性及び/または類似性を、元となった抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の相同性及び/または類似性は、配列相同性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となった抗体残基と相同(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基づき同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて
(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;
(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;
(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;
(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;
(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに
(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニン
のグループに分類される。
【0187】
通常、H鎖及びL鎖の可変領域中に存在する全部で6つの相補性決定領域(超可変部;CDR)が相互作用し、抗体の抗原結合部位を形成している。このうち1つの可変領域であっても全結合部位を含むものよりは低いアフィニティーとなるものの、抗原を認識し、結合する能力があることが知られている。従って、本発明のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子は、該遺伝子によりコードされるポリペプチドが所望の抗原との結合性を維持していればよく、H鎖及びL鎖の各々の抗原結合部位を含む断片部分をコードしていればよい。
【0188】
重鎖可変領域は、上述のように、通常3つのCDR領域と4つのFR領域によって構成されている。本発明の好ましい態様において「改変」に供するアミノ酸残基としては、例えば、CDR領域あるいはFR領域に位置するアミノ酸残基の中から適宜選択することができる。一般的にCDR領域のアミノ酸残基の改変は、抗原に対する結合能を低下させる場合がある。従って、本発明において「改変」に供するアミノ酸残基としては、特に限定されるものではないが、FR領域に位置するアミノ酸残基の中から適宜選択することが好ましい。CDRであっても改変によって結合能が低下しないことが確認された場合は、その箇所を選択することが可能である。また、ヒトもしくはマウス等の生物において、抗体の可変領域のFRとして利用可能な配列を、当業者であれば、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。
【0189】
さらに、本発明は本発明の抗原結合分子をコードする遺伝子を提供する。本発明の抗原結合分子をコードする遺伝子はいかなる遺伝子でもよく、DNA、RNA、その他核酸類似体などでもよい。
【0190】
さらに本発明は、上記遺伝子を有する宿主細胞を提供する。該宿主細胞は、特に制限されず、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを挙げることができる。宿主細胞は、例えば、本発明の抗体の製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系には、インビトロおよび生体内の産生系がある。インビトロの産生系としては、真核細胞を使用する産生系及び原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0191】
宿主細胞として使用できる真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108: 94.0)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。本発明の抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0192】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞およびウキクサ(Lemna minor)がタンパク質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明の抗原結合分子を産生させることができる。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いたタンパク質発現系が公知であり、本発明の抗原結合分子産生の宿主として利用できる。
【0193】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、上述の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌を用いた産生系が知られており、本発明の抗原結合分子産生に利用できる。
【0194】
<スクリーニング方法>
本発明は、pH酸性域およびpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。さらに、本発明は、pH酸性域およびpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を有し、かつ、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性よりも低い抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は抗原の細胞内への取り込みを促進することが可能な抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は1つの抗原分子に結合できる抗原の数が増大された抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は抗原の消失を促進することが可能な抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は、薬物動態が改善された抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は細胞外で抗原結合分子に結合した抗原の細胞内での解離を促進する抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた後、抗原と結合していない状態での細胞外への放出が促進される抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。これら方法は、特に血漿中滞留性に優れ、かつ、血漿中抗原消失能に優れた抗原結合分子のスクリーニングに有用である。
【0195】
具体的には、本発明は以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する:
(a)pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する前よりも高いpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子を選択する工程、
(b)抗原結合分子の抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、pH中性域における抗原結合活性がpH酸性域における抗原結合活性より高い抗原結合分子を選択する工程。
【0196】
なお、(a)と(b)の工程はどちらを先に行ってもよく、それぞれの工程が2回以上繰り返されてもよい。(a)と(b)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0197】
本発明のスクリーニング方法において、pH中性域における抗原結合分子の抗原結合活性はpH6.7〜pH10.0の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、例えばWO2009/125825に記載の態様が挙げられる。好ましい抗原結合活性として、pH7.0〜pH8.0の間の抗原結合活性を挙げることができ、より好ましい抗原結合活性としてpH7.4における抗原結合活性を挙げることができる。又、pH酸性域における抗原結合分子の抗原結合活性はpH4.0〜pH6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましい抗原結合活性としてpH5.5〜pH6.5の間の抗原結合活性を挙げることができ、より好ましい抗原結合活性としてpH5.8またはpH5.5における抗原結合活性を挙げることができる。
【0198】
pH中性域における抗原結合分子のヒトFcRn結合活性はpH6.7〜pH10.0の間のヒトFcRn結合活性であれば特に限定されないが、好ましいヒトFcRn結合活性として、pH7.0〜pH8.0の間のヒトFcRn結合活性を挙げることができ、より好ましいヒトFcRn結合活性としてpH7.4におけるヒトFcRn結合活性を挙げることができる。
【0199】
pH酸性域における抗原結合分子のヒトFcRn結合活性はpH4.0〜pH6.5の間のヒトFcRn結合活性であれば特に限定されないが、好ましいヒトFcRn結合活性として、pH5.5〜pH6.5の間のヒトFcRn結合活性を挙げることができ、より好ましいヒトFcRn結合活性としてpH5.8〜pH6.0におけるヒトFcRn結合活性を挙げることができる。
【0200】
本発明において、pH酸性域とは通常pH4.0〜pH6.5を意味する。pH酸性域とは、好ましくはpH5.5〜pH6.5内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくは5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、または6.5から選択され、特に好ましくは生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜6.0である。一方、本発明において、pH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0〜pH8.0内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーがpH7.4で低いために結合アフィニティーを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを、10℃〜50℃までの任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために使用される。実施例5に記載の25℃という温度は本発明の態様の一例である。
【0201】
抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるk
d(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのk
d(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0202】
The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671によれば、インタクトなヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はpH酸性域(pH6.0)でKD 1.7μMであるが、pH中性域では活性をほとんど検出できていない。よって、好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がインタクトヒトIgGと同等かそれより強い抗原結合分子を含む、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する本発明の抗原結合分子をスクリーニングすることができる。より好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子をスクリーニングすることができる。さらにより好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 15μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子をスクリーニングすることができる。上記のKD値は、The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。
【0203】
本発明は、以下の工程を含む、抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する:
(a)抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって得られた、pH中性域においてKD 3.2μMより強いヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子を選択する工程、
(b)(a)において調製されたヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインを連結した抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、ならびに
(c)(b)において調製された遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0204】
1つの態様において、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、ヒトFcRn結合活性およびpH中性域より低いpH酸性域における抗原結合活性が、KD 3.2μMより強い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を、本明細書において先に記載したように当業者によって使用される方法に従ってスクリーニングすることができる。より好ましい態様において、pH7.0および25℃でのヒトFcRn結合活性は、KD 3.2μMより強い。
【0205】
本発明は、pH中性域においてヒトFnRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.3μMより強い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。本発明はまた、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGより38倍高い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。
【0206】
本発明において、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子は、pH6.7〜pH10.0においてヒトFcRn結合活性を有している限り特に限定されないが、好ましくは、pH6.7〜pH10.0におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGより高い抗原結合分子が好ましい。
【0207】
本発明において、pH酸性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子は、pH4.0〜pH6.5においてヒトFcRn結合活性を有している限り特に限定されないが、好ましくは、pH5.5〜pH6.5におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGと同等以上の抗原結合分子が好ましい。
【0208】
また、本発明において、pH中性域での抗原結合活性がpH酸性域での抗原結合活性より高い抗原結合分子を選択する工程は、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性より低い抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0209】
pH中性域での抗原結合活性がpH酸性域での抗原結合活性より高い限り、pH中性域での抗原結合活性とpH酸性域での抗原結合活性の比は特に限定されないが、好ましくはpH6.7〜pH10.0における抗原結合活性がpH4.0〜pH6.5での抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0210】
本発明のスクリーニング方法では、ファージライブラリーなどのライブラリーを用いてもよい。
【0211】
本発明の方法において抗原と抗原結合分子の結合はいかなる状態で行われてもよく、特に限定されない。例えば、固定化された抗原結合分子に抗原を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよいし、固定化された抗原に抗原結合分子を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよい。又、溶液中で抗原結合分子と抗原を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよい。
【0212】
本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされる抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在している抗原結合ドメインライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又は抗原結合ドメインライブラリー、これらの抗体や抗原結合ドメインライブラリーにランダムなアミノ酸改変を導入した抗体又は抗原結合ドメインライブラリー、ヒスチジンや非天然アミノ酸変異を導入した抗体又は抗原結合ドメインライブラリー(ヒスチジン又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリーや特定箇所にヒスチジン又は非天然アミノ酸変異を導入した抗原結合ドメインライブラリー等)などを用いることが可能である。
【0213】
本発明のスクリーニング方法により、複数回抗原に結合し血漿中滞留性が優れた抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、血漿中滞留性に優れた抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0214】
又、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原に2回以上結合することが可能である抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原に2回以上結合することができる抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0215】
さらに、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原結合分子の抗原結合部位の数より多い数の抗原に結合することが可能である抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原に結合することが可能である抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。例えば、抗体が中和抗体の場合には、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原を中和することが可能である抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0216】
さらに、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離することが可能である抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離する抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0217】
さらに本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0218】
さらに、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原を血漿中から速く消失させることができる抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、血漿中抗原消失能が増加した(高い)抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0219】
又、これらの抗原結合分子は、患者への投与量や投与頻度を減らすことが可能であり、結果として総投与量を減らすことが可能となる為、医薬品として特に優れていると考えられる。従って、本発明のスクリーニング方法は、医薬組成物として用いる為の抗原結合分子のスクリーニング方法として利用することが可能である。
【0220】
<抗原結合分子製造方法>
本発明は、エンドソーム内でのpHおよび血漿中でのpHにおけるヒトFcRn結合活性を有し、且つ、抗原結合分子のエンドソーム内でのpHにおける抗原結合活性が血漿中でのpHにおける抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の製造方法を提供する。又、本発明は抗原結合分子の投与による血漿中の抗原濃度の減少に優れた促進作用を有するとともに薬物動態に優れた抗原結合分子の製造方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合分子の製造方法を提供する。
【0221】
具体的には、本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法を提供する:
(a)pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する前よりも高いpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子を選択する工程、
(b)抗原結合分子の抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、pH中性域における抗原結合活性がpH酸性域における抗原結合活性より高い抗原結合分子を選択する工程、
(c)(a)および(b)で調製されたヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを連結した抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、ならびに
(d)(c)で調製された遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0222】
なお、(a)と(b)の工程はどちらを先に行ってもよく、それぞれの工程が2回以上繰り返されてもよい。(a)と(b)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0223】
リンカーは、(a)および(b)において調製されたヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを機能的に連結するが、いかなる形態にも限定されない。ヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインは、共有結合力または非共有結合力によって連結されうる。特に、リンカーは、ペプチドリンカーもしくは化学リンカー、またはビオチンとストレプトアビジンの組み合わせのような結合対でありうる。ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを含むポリペプチドの修飾は当技術分野において公知である。別の態様において、本発明のヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを、ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインの融合タンパク質を形成することによって連結することができる。ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインの融合タンパク質を構築するために、ヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインをコードする遺伝子を、インフレームで融合ポリペプチドを形成するように機能的に連結させることができる。いくつかのアミノ酸からなるペプチドを含むリンカーを、ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインのあいだに適宜挿入することができる。配列が(GGGGS)
nからなるリンカーのような様々なフレキシブルリンカーが当技術分野において公知である。
【0224】
本発明の製造方法で用いられる抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリー、これらの抗体やライブラリーにランダムにアミノ酸を改変した抗体又はライブラリー、ヒスチジンや非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリー(ヒスチジン又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリーや特定箇所にヒスチジン又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリー等)などを用いることが可能である。
【0225】
上述の製造方法において、pH中性域における抗原結合分子のヒトFcRn結合活性はpH6.7〜pH10.0の間のヒトFcRn結合活性であれば特に限定されないが、好ましいヒトFcRn結合活性として、pH7.0〜pH8.0の間のヒトFcRn結合活性を挙げることができ、さらに好ましいヒトFcRn結合活性としてpH7.4におけるヒトFcRn結合活性を挙げることができる。
【0226】
pH酸性域における抗原結合分子のヒトFcRn結合活性はpH4.0〜pH6.5の間のヒトFcRn結合活性であれば特に限定されないが、好ましいヒトFcRn結合活性として、pH5.5〜pH6.5の間のヒトFcRn結合活性を挙げることができ、より好ましいヒトFcRn結合活性としてpH6.0におけるヒトFcRn結合活性を挙げることができる。
【0227】
本発明において、pH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。pH酸性域とは、好ましくはpH5.5〜pH6.5内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくは5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、および6.5から選択され、特に好ましくは生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜6.0である。一方、本発明において、pH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0〜pH8.0内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。pH7.4でのヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーが低いためにその結合アフィニティーを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために使用される。実施例5に記載の25℃という温度は本発明の態様の一例である。
【0228】
本発明は、以下の工程を含む、抗原結合分子の製造方法を提供する:
(a)抗原結合分子のヒトFcRn結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによって得られた、pH中性域においてKD 3.2μMより強いヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子を選択する工程、
(b)(a)において調製されたヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを連結した抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、および
(c)(b)において調製された遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0229】
好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がインタクトヒトIgGと同等かそれより強い抗原結合分子を含む、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する本発明の抗原結合分子を製造することができる。より好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子も同様に製造することができる。さらにより好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 15μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子を好ましくは製造することができる。上記のKD値は、The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。1つの態様において、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、ヒトFcRn結合活性およびpH中性域より低いpH酸性域における抗原結合活性が、KD 3.2μMより強い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子を、本明細書において先に記載したように当業者によって使用される方法に従って製造することができる。より好ましい態様において、このように製造された抗原結合分子のpH7.0および25℃でのヒトFcRn結合活性は、KD 3.2μMより強い。
【0230】
本発明は、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.3μMより強い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子の製造方法を提供する。本発明はまた、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGより38倍高い、抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインとを含む抗原結合分子の製造方法も提供する。
【0231】
また、上述の製造方法において、pH中性域における抗原結合分子の抗原結合活性はpH6.7〜pH10.0の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、例えばWO2009/125825に記載の態様が挙げられる。好ましい抗原結合活性として、pH7.0〜pH8.0の間の抗原結合活性を挙げることができ、さらに好ましい抗原結合活性としてpH7.4における抗原結合活性を挙げることができる。又、pH酸性域における抗原結合分子の抗原結合活性はpH4.0〜pH6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましい抗原結合活性としてpH5.5〜pH6.5の間の抗原結合活性を挙げることができ、さらに好ましい抗原結合活性としてpH5.8またはpH5.5における抗原結合活性を挙げることができる。
【0232】
抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。
【0233】
本発明の製造方法において、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子は、pH6.7〜pH10.0においてヒトFcRn結合活性を有している限り特に限定されないが、好ましくは、pH6.7〜pH10.0におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGより高い抗原結合分子が好ましく、より好ましくはKD 40μMよりも強く、さらに好ましくはKD 15μMよりも強いヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子が好ましい。
【0234】
本発明の製造方法において、pH酸性域においてヒトFcRn結合活性を有する抗原結合分子は、pH4.0〜pH6.5においてヒトFcRn結合活性を有している限り特に限定されないが、好ましくは、pH5.5〜pH6.5におけるヒトFcRn結合活性がKD20μMよりも強いことが好ましく、より好ましくはインタクトなヒトIgG1と同等以上(KD 1.7μMよりも強い)であることが好ましく、さらに好ましくはKD0.5μMよりも強いヒトFcRn結合活性を有することが望ましい。
【0235】
なお、ここで示すKD値は、The Journal of Immunology,2009 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)で測定された時の値である。
【0236】
また、本発明の製造方法において、pH6.7〜pH10.0での抗原結合活性がpH4.0〜pH6.5での抗原結合活性より高い抗原結合分子を選択する工程は、pH4.0〜pH6.5での抗原結合活性がpH6.7〜pH10.0での抗原結合活性より低い抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0237】
pH中性域での抗原結合活性がpH酸性域での抗原結合活性より高い限り、pH中性域での抗原結合活性とpH酸性域での抗原結合活性の比は特に限定されないが、好ましくはpH6.7〜pH10.0における抗原結合活性がpH4.0〜pH6.5での抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0238】
上述の製造方法において抗原と抗原結合分子の結合、ヒトFcRnと抗原結合分子の結合はいかなる状態で行われてもよく、特に限定されない。例えば、固定化された抗原結合分子に抗原やヒトFcRnを接触させることにより抗原結合分子と結合させてもよいし、固定化された抗原やヒトFcRnに抗原結合分子を接触させることにより抗原結合分子を結合させてもよい。又、溶液中で抗原結合分子と抗原やヒトFcRnを接触させることにより抗原結合分子と結合させてもよい。
【0239】
上述の製造方法により製造される抗原結合分子はいかなる抗原結合分子でもよいが、例えば、抗原結合分子が抗原結合ドメインとヒトFcRn結合ドメインを有し、ヒトFcRn結合ドメインの少なくとも1つのアミノ酸が改変され、抗原結合分子中のアミノ酸がヒスチジンで置換された又は少なくとも1つのヒスチジンが挿入された抗原結合分子を好ましい例として挙げることができる。
【0240】
ヒトFcRn結合ドメインの改変は、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を高めるためのアミノ酸改変であれば特に限定されない。例えば、上述のIgGの FcドメインにおけるEUナンバリング221番目〜225番目、227番目、228番目、230番目、232番目、233番目〜241番目、243番目〜252番目、254番目〜260番目、262番目〜272番目、274番目、276番目、278番目〜289番目、291番目〜312番目、315番目〜320番目、324番目、325番目、327番目〜339番目、341番目、343番目、345番目、360番目、362番目、370番目、375番目〜378番目、380番目、382番目、385番目〜387番目、389番目、396番目、414番目、416番目、423番目、424番目、426番目〜438番目、440番目および442番目の位置のアミノ酸を挙げることができる。より具体的には、表1、表2、表6−1、6−2に示した個所(EUナンバリング)のアミノ酸の改変を挙げることができる。好ましくはEUナンバリング237番目、238番目、239番目、248番目、250番目、252番目、254番目、255番目、256番目、257番目、258番目、265番目、270番目、286番目、289番目、297番目、298番目、303番目、305番目、307番目、308番目、309番目、311番目、312番目、314番目、315番目、317番目、325番目、332番目、334番目、360番目、376番目、380番目、382番目、384番目、385番目、386番目、387番目、389番目、424番目、428番目、433番目、434番目および436番目から選択される少なくとも1つのアミノ酸を改変することでpH中性域においてヒトFcRn結合活性を高めることができる。これらの改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、1箇所のみのアミノ酸を改変してもよいし、2箇所以上のアミノ酸を改変してもよい。2箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表3、表4−1〜4−5、表6−1、6−2に記載のような組合せが挙げられる。
【0241】
またpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性より弱まる限り、ヒスチジン変異が導入される箇所は特に限定されず、いかなる箇所に導入されてもよい。又、ヒスチジン変異は1箇所に導入されてもよいし、2箇所以上の複数の箇所に導入されてもよい。
【0242】
従って、本発明の製造方法においては、上記のアミノ酸改変工程およびヒスチジンの置換又は挿入工程をさらに含んでもよい。なお、本発明の製造方法においてはヒスチジンの代わりに非天然アミノ酸を用いてもよい。従って、上述のヒスチジンを非天然アミノ酸と置き換えて本発明を理解することも可能である。
【0243】
又、上述の製造方法により製造される抗原結合分子の他の態様として、例えば、改変された抗体定常領域を含む抗原結合分子を挙げることができる、従って、本発明の製造方法においては、抗体定常領域中のアミノ酸を改変する工程をさらに含んでもよい。
【0244】
本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、その投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させる抗原結合分子である。従って、本発明の製造方法は、その投与により血漿中の抗原濃度の減少を促進させる抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0245】
又、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、薬物動態が改善された抗原結合分子である。従って、本発明の製造方法は、薬物動態が改善された抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0246】
又、製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加した抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0247】
さらに、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させることが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離することが可能である抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0248】
さらに、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させることが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0249】
又、これらの抗原結合分子は、通常の抗原結合分子と比較して、その投与により血漿中の抗原濃度を低下させる作用が高いことから、医薬品として特に優れていると考えられる。従って、本発明の製造方法は、医薬組成物として用いる為の抗原結合分子の製造方法として利用することが可能である。
【0250】
本発明の製造方法において得られた遺伝子は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明の抗原結合分子を生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内で抗原結合分子を発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBankアクセッション番号AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0251】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。抗原結合分子を発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0252】
宿主細胞の培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8とするのが好ましい。培養は、通常30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0253】
宿主細胞において発現した抗原結合分子を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的の抗原結合分子に対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0254】
一方、生体内でポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリヌクレオチドを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0255】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0256】
例えば、本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗原結合分子を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される抗原結合分子を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0257】
また、本発明の抗原結合分子を産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の抗原結合分子を得ることができる。
【0258】
さらに、植物を本発明の抗原結合分子産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望の抗原結合分子を得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。また、同様のバクテリアをウキクサ(Lemna minor)に感染させ、クローン化した後にウキクサの細胞より所望の抗原結合分子を得ることができる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. 2006 Dec;24(12):1591-1597)。
【0259】
このようにして得られた抗原結合分子は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗原結合分子として精製することができる。抗原結合分子の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて抗原結合分子を分離、精製することができる。
【0260】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられる。
【0261】
必要に応じ、抗原結合分子の精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0262】
<医薬組成物>
また本発明は、本発明の抗原結合分子、本発明のスクリーニング方法により単離された抗原結合分子、または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物に関する。本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子はその投与により通常の抗原結合分子と比較して血漿中の抗原濃度を低下させる作用が高いことから医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物は薬学的に許容される担体を含むことができる。
【0263】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
【0264】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容される液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬学的に許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0265】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(商標)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0266】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0267】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0268】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗原結合分子含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0269】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0270】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0271】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0272】
〔実施例1〕抗体の抗原消失加速効果の向上検討
抗IL-6受容体抗体
中性条件下におけるFcRn結合活性を有する抗ヒトIL-6受容体抗体の調製
WO2009/125825に記載されているH54(配列番号:1)とL28(配列番号:2)とを含むH54/L28-IgG1は、ヒト化抗IL-6受容体抗体である。pH中性条件下(pH7.4)においてFcRn結合を増加させるためにH54(配列番号:1)に変異を導入した。具体的には、IgGの重鎖定常領域に対して、EUナンバリングにおける252番目をMetからTrpに、434番目をAsnからTrpに置換することによりH54-IgG1-F14(配列番号:3)を調製した。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0273】
H54(配列番号:1)とL28(配列番号:2)とを含むH54/L28-IgG1およびH54-IgG1-F14(配列番号:3)とL28(配列番号:2)とを含むH54/L28-IgG1-F14を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0274】
ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276を用いた定常状態注入モデルによる抗体のインビボ試験
先に記載したように調製したH54/L28-IgG1およびH54/L28-IgG1-F14を用いて、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276を用いた定常状態注入モデルによりインビボ試験を行った。ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス(B6.mFcRn-/- hFCRN Tg276 B6.Cg-Fcgrt Tg(FCGRT)276Dcr (Jackson #4919))、Jackson Laboratories; Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104)の背部皮下に、可溶型ヒトIL-6受容体を充填した注入ポンプ(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL 2004;alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が一定に維持されるモデル動物を作製した。モデル動物に抗ヒトIL-6受容体抗体を投与し、投与後の可溶型ヒトIL-6受容体の体内動態を評価した。可溶型ヒトIL-6受容体に対する中和抗体の産生を抑制するために、注入ポンプを埋め込む前と、抗体を尾静脈に投与した14日後に、モノクローナル抗マウスCD4抗体(R&D)を20 mg/kgで投与した。次に、92.8μg/mlの可溶型ヒトIL-6受容体を充填した注入ポンプをマウスの背部皮下に埋め込んだ。注入ポンプ埋め込み3日後に、抗ヒトIL-6受容体抗体(H54/L28-IgG1およびH54/L28-IgG1-F14)を尾静脈に1 mg/kgで単回投与した。抗ヒトIL-6受容体抗体を投与した15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0275】
電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度測定
マウス血漿中のhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6受容体)濃度は電気化学発光にて測定した。2,000、1,000、500、250、125、62.5、および31.25 pg/mlの濃度に調整したhsIL-6R検量線試料ならびに50倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したモノクローナル抗ヒトIL-6R抗体(R&D)、ビオチン化抗ヒトIL-6R抗体(R&D)、およびWT-IgG1溶液と混合し、37℃で一晩反応させた。抗ヒトIL-6受容体抗体として、H(WT)(配列番号:4)とL(WT)(配列番号:5)とを含むWT-IgG1の終濃度は、試料に含まれる抗ヒトIL-6受容体抗体濃度より過剰の333μg/mlであり、試料中のほぼ全てのhsIL-6R分子がWT-IgG1と結合した状態にすることを目的とした。その後、試料をMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注し、室温で1時間反応させて洗浄を行った。Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、直ちにSector PR 400 Reader(Meso Scale Discovery)で測定を行った。hsIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した、H54/L28-IgG1およびH54/L28-IgG1-F14を静脈内投与した後の血漿中hsIL-6R濃度推移を
図1に示す。
【0276】
図1に示すように、抗体を投与していないベースラインhsIL-6R濃度と比較して、H54/L28-IgG1の投与により血漿中hsIL-6R濃度の有意な上昇が生じた。一方、H54/L28-IgG1-F14を投与すると、H54/L28-IgG1と比較して血漿中hsIL-6R濃度の上昇において減少が生じた。この上昇における減少は、H54/L28-IgG1と比較してH54/L28-IgG1-F14においてpH中性域でのヒトFcRn結合が増加したことに由来する。このことは、pH中性域におけるFcRnに対する抗体の結合アフィニティーを増大させると、抗原のクリアランスを増大させることができるが、抗原クリアランスの増大の程度は、H54/L28-IgG1と比較してH54/L28-IgG1-F14では小さかったことを示している。
【0277】
〔実施例2〕pH依存的抗原結合抗体の抗原消失加速効果の向上検討(抗体の調製)
pH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体について
WO 2009/125825に記載されているH54(配列番号:1)とL28(配列番号:2)とを含むH54/L28-IgG1はヒト化抗IL-6受容体抗体であり、VH3-IgG1(配列番号:6)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1は、H54/L28-IgG1に対して可溶型ヒトIL-6受容体へpH依存的に結合する特性(pH7.4において結合し、pH5.8において解離する)を付与したヒト化抗IL-6受容体抗体である。WO 2009/125825に記載されているマウスのインビボ試験において、H54/L28-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6受容体の混合物を投与した群と比較して、Fv4-IgG1と抗原である可溶型ヒトIL-6受容体の混合物を投与した群において、可溶型ヒトIL-6受容体の消失を大幅に加速できることが示された。
【0278】
通常の可溶型ヒトIL-6受容体に結合する抗体に結合した可溶型ヒトIL-6受容体は、抗体とともにFcRnによって血漿中にリサイクルされるのに対して、pH依存的に可溶型ヒトIL-6受容体に結合する抗体は、エンドソーム内の酸性条件下において抗体に結合した可溶型ヒトIL-6受容体を解離する。解離した可溶型ヒトIL-6受容体はライソソームによって分解されるため、可溶型ヒトIL-6受容体の消失を大幅に加速することが可能となり、さらにpH依存的に可溶型ヒトIL-6受容体に結合する抗体はFcRnによって血漿中にリサイクルされ、リサイクルされた抗体は再び可溶型ヒトIL-6受容体に結合することができ、これが繰り返されることによってひとつの抗体分子が複数回繰り返し可溶型ヒトIL-6受容体に結合することが可能となる(
図2)。
【0279】
pH依存的に抗原に結合する抗体は、可溶型の抗原の消失を加速させ、ひとつの抗体分子が複数回繰り返し可溶型の抗原に結合する効果を有することから、極めて有用である。この抗原消失加速効果をさらに向上させる方法として、FcRnへの中性条件下(pH7.4)における結合を増強する方法を検証した。
【0280】
中性条件下におけるFcRnへの結合を有するpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体の調製
VH3-IgG1(配列番号:6)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1に対して、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増加させる変異を導入した。具体的にはIgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングにおける252番目をMetからTyrに、254番目をSerからThrに、256番目をThrからGluに置換したVH3-IgG1-v1(配列番号:8)、および、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングにおける434番目をAsnからTrpに置換したVH3-IgG1-v2(配列番号:9)を調製した。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0281】
H54(配列番号:1)とL28(配列番号:2)とを含むH54/L28-IgG1、VH3-IgG1(配列番号:6)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1、VH3-IgG1-v1(配列番号:8)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1-v1、および、VH3-IgG1-v2(配列番号:9)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1-v2を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0282】
〔実施例3〕pH依存的抗原結合抗体の抗原消失加速効果の向上検討(インビボ試験)
ヒトFcRnトランスジェニックマウスおよび正常マウスを用いたインビボ試験
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. 2010;602:93-104.)および正常マウス(C57BL/6Jマウス、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6受容体:参考例3にて調製)を単独投与もしくはhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6受容体抗体を同時投与した後のhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6受容体抗体の体内動態を評価した。hsIL-6R溶液(5μg/mL)もしくはhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6受容体抗体の混合溶液(それぞれ5μg/mL、0.1 mg/mL)を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、hsIL-6Rに対して抗ヒトIL-6受容体抗体は十分量過剰に存在することから、hsIL-6Rはほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。抗ヒトIL-6受容体抗体としては、ヒトFcRnトランスジェニックマウスには上述のH54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、および、Fv4-IgG1-v2、正常マウスには上述のH54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、Fv4-IgG1-v1、および、Fv4-IgG1-v2を使用した。
【0283】
血漿中抗ヒトIL-6受容体抗体濃度のELISA法による測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6受容体抗体濃度はELISA法にて測定した。まず抗ヒトIgG(γ鎖特異的)F(ab')2抗体断片(Sigma) をNunc-ImmunoPlate, MaxiSorp (Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置し抗ヒトIgG固相化プレートを調製した。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの検量線試料と100倍以上希釈したマウス血漿測定試料を調製し、これら検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLのhsIL-6Rを200μL加え、室温で1時間静置した。その後抗ヒトIgG固相化プレートに分注しさらに室温で1時間静置した。その後ビオチン化抗ヒトIL-6 R抗体(R&D)を室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80 (Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate (BioFX Laboratories)を基質として用い発色反応を行い、1N硫酸(Showa Chemical)で反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中抗体濃度推移を
図3に、正常マウスにおける血漿中抗体濃度推移を
図5に示した。
【0284】
電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度測定
マウスの血漿中hsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定した。2000、1000、500、250、125、62.5、および31.25 pg/mLの濃度に調整したhsIL-6R検量線試料ならびに50倍以上希釈したマウス血漿測定試料を調製した。試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したモノクローナル抗ヒトIL-6R抗体(R&D)、ビオチン化抗ヒトIL-6 R抗体(R&D)、およびWT-IgG1溶液と混合し、37℃で一晩反応させた。その際の抗ヒトIL-6受容体抗体として、H(WT)(配列番号:4)とL(WT)(配列番号:5)とを含むWT-IgG1の終濃度は試料に含まれる抗ヒトIL-6受容体抗体濃度より過剰の333μg/mLであり、試料中のほぼ全てのhsIL-6RをWT-IgG1と結合した状態にすることを目的とした。その後、MA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注した。さらに室温で1時間反応させ洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定を行った。hsIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中hsIL-6R濃度推移を
図4に、正常マウスにおける血漿中hsIL-6R濃度推移を
図6に示した。
【0285】
電気化学発光法による血漿中遊離hsIL-6R濃度測定
可溶型ヒトIL-6受容体が血漿中においてどの程度中和されているかを評価するために、マウス血漿中の抗ヒトIL-6受容体抗体によって結合(中和)されていない可溶型ヒトIL-6受容体濃度(遊離hsIL-6R濃度)を電気化学発光法で測定した。10000、5000、2500、1250、625、312.5、または156.25 pg/mLに調整したhsIL-6R検量線試料及びマウスの血漿試料12μLを、0.22μmのフィルターカップ(Millipore)において乾燥させた適量のrProtein A Sepharose Fast Flow (GE Healthcare)樹脂に添加することで血漿中に存在する全てのIgG型抗体(マウスIgG、抗ヒトIL-6受容体抗体および抗ヒトIL-6受容体抗体-可溶型ヒトIL-6受容体複合体)をプロテインAに吸着させた。その後、高速遠心機でスピンダウンし、パス溶液を回収した。パス溶液にはプロテインAに結合した抗ヒトIL-6受容体抗体-可溶型ヒトIL-6受容体複合体は含まれないため、パス溶液中のhsIL-6R濃度を測定することによって、血漿中の遊離hsIL-6R濃度を測定可能である。次にパス溶液を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したモノクローナル抗ヒトIL-6R抗体(R&D)およびビオチン化抗ヒトIL-6 R抗体(R&D)と混合し室温で1時間反応させた。その後、MA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注した。さらに室温で1時間反応させ洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定を行った。hsIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の正常マウスにおける血漿中遊離hsIL-6R濃度推移を
図7に示した。
【0286】
pH依存的ヒトIL-6受容体結合の効果
H54/L28-IgG1とpH依存的ヒトIL-6受容体結合を有するFv4-IgG1のインビボ試験の結果を比較した。
図3および
図5に示したとおり、両者の抗体血漿中滞留性はほぼ同等であったが、
図4および
図6に示すとおり、pH依存的ヒトIL-6受容体結合を有するFv4-IgG1と同時に投与したhsIL-6Rのほうが、H54/L28-IgG1と同時に投与したhsIL-6Rと比較して、hsIL-6Rの消失が早くなっていることが確認された。この傾向はヒトFcRnトランスジェニックマウスと正常マウスの両方で確認され、pH依存的ヒトIL-6受容体結合能を付与することによって4日後の血漿中hsIL-6R濃度はそれぞれ約17倍および約34倍低減できることが見出された。
【0287】
中性条件下(pH7.4)におけるFcRnへの結合の効果
インタクトなヒトIgG1は中性条件下(pH7.4)においてヒトFcRnにほとんど結合しない(アフィニティーが極めて弱い)ことが報告されている。インタクトなヒトIgG1に対してEUナンバリングにおける434番目をAsnからTrpに置換することによって、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が増加することが報告されている(J Immunol. 2009;182(12):7663-71.)。Fv4-IgG1、および、Fv4-IgG1に対してこのアミノ酸置換を導入したFv4-IgG1-v2のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるインビボ試験の結果を比較した。
図3に示したとおり、両者の抗体血漿中滞留性はほぼ同等であったが、
図4に示すとおり、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が増加したFv4-IgG1-v2と同時に投与したhsIL-6Rのほうが、Fv4-IgG1と同時に投与したhsIL-6Rと比較して、hsIL-6Rの消失が早くなっていることが確認された。中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を付与することによって4日後の血漿中hsIL-6R濃度は約4倍低減できることが見出された。
【0288】
ヒトFcRnとマウスFcRnのホモロジーからEUナンバリングにおける434番目のAsnからTrpへの置換は、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnへの結合も増加させると考えられる。また、EUナンバリングにおける252番目をMetからTyrに、254番目をSerからThrに、256番目をThrからGluに置換することによって、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加することが報告されている(J Immunol. 2002;169(9):5171-80.)。Fv4-IgG1、および、Fv4-IgG1に対してこれらのアミノ酸置換をそれぞれ導入したFv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2の正常マウスにおけるインビボ試験の結果を比較した。
図5に示したとおり、Fv4-IgG1と比較して、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnへの結合も増加させたFv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2の血漿中滞留性は若干低下した(1日後の血漿中抗体濃度がそれぞれ約1.5倍および約1.9倍低下)。
【0289】
図6に示すとおり、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加したFv4-IgG1-v1あるいはFv4-IgG1-v2と同時に投与したhsIL-6Rのほうが、Fv4-IgG1と同時に投与したhsIL-6Rと比較して、hsIL-6Rの消失が著しく早くなっていることが確認された。中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合を付与することによって、Fv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2は1日後の血漿中hsIL-6R濃度はそれぞれ約32倍および約80倍低減できることが見出された。中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合を付与することによって、上述のように抗体の血漿中濃度も若干低下したが、それを大幅に上回る血漿中hsIL-6R濃度低減効果を示すことが見出された。さらにhsIL-6R単独の投与群と比較しても、Fv4-IgG1-v1あるいはFv4-IgG1-v2と同時に投与したhsIL-6RのほうがhsIL-6Rの消失が早くなっていることが見出された。
図6に示すとおり、hsIL-6R 単独と比較して、Fv4-IgG1-v1またはFv4-IgG1-v2と同時にhsIL-6Rを投与することにより1日後の血漿中hsIL-6R濃度はそれぞれ約4倍および約11倍低減できることが見出された。これはすなわち、pH依存的に可溶型IL-6受容体に結合し、さらに中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合を付与した抗体の投与によって、可溶型IL-6受容体の消失を抗体により加速できたことを意味する。すなわち、このような抗体を生体内に投与することによって、生体内で血漿中の抗原濃度を低減することが可能となる。
【0290】
図7に示すとおり、H54/L28-IgG1は投与7日後まで遊離hsIL-6R濃度が検出されたが、Fv4-IgG1は投与後1日以降は遊離hsIL-6Rが検出されず、Fv4-IgG1-v1またはFv4-IgG1-v2は投与後7時間以降は遊離hsIL-6Rが検出されなかった。すなわち、hsIL-6Rに対してpH依存的結合を有するFv4-IgG1は、H54/L28-IgG1と比較して低い遊離hsIL-6R濃度を示したことから、hsIL-6Rに対してpH依存的結合を付与することでより 高いhsIL-6Rの中和効果を発揮し、さらにFv4-IgG1に対してpH7.4においてFcRnへの結合を増加させたFv4-IgG1-v1およびFv4-IgG1-v2は、さらに低い遊離hsIL-6R濃度を示したことから、pH7.4においてFcRnへの結合を増加させることでさらに 高いhsIL-6Rの中和効果を発揮することが可能であることが確認された。
【0291】
H54/L28-IgG1のような通常の中和抗体は、抗体を投与すると結合する抗原のクリアランスを低下させ、抗原はより血漿中に長く滞留する。抗体投与によってその作用を中和したい抗原の血漿中滞留性が長くなることは好ましくない。抗原に対する結合にpH依存性(中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する)を付与することで、抗原の血漿中滞留性を短くすることが出来る。今回、さらに中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を付与することで、抗原の血漿中滞留性をさらに短くすることができた。さらに、pH依存的に抗原に結合し中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を付与した抗体を投与することによって、抗原単独のクリアランスよりもクリアランスを増大させることが可能であることが示された。これまでに抗体投与により抗原単独のクリアランスよりもクリアランスを増大させる方法は知られておらず、本検討で見出された方法は、抗体投与によって血漿中から抗原を消失させる方法として極めて有用である。また、本検討により初めて中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増加させることの利点が見出された。また、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増加させる異なるアミノ酸置換を有するFv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2の両方において同様の効果が認められたことから、アミノ酸置換の種類によらず、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を増加させるアミノ酸置換であれば、抗原の消失を加速する効果があると考えられる。すなわち、J Biol Chem. 2007;282(3):1709-17に報告されているEUナンバリング257番目のProをIleに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング311番目のGlnをIleに置換するアミノ酸置換、J Immunol. 2009;182(12):7663-71.に報告されているEUナンバリング434番目のAsnをAla、TyrもしくはTrpに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング252番目のMetをTyrに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング307番目のThrをGlnに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング308番目のValをProに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング250番目のThrをGlnに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング428番目のMetをLeuに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング380番目のGluをAlaに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング378番目のAlaをValに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング436番目のTyrをIleに置換するアミノ酸置換、J Biol Chem. 2006 Aug 18;281(33):23514-24に報告されているEUナンバリング252番目のMetをTyrに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング254番目のSerをThrに置換するアミノ酸置換、EUナンバリング256番目のThrをGluに置換するアミノ酸置換、Nat Biotechnol. 2005 Oct;23(10):1283-8.に報告されている433番目のHisをLysに置換するアミノ酸置換、434番目のAsnをPheに置換するアミノ酸置換、436番目のTyrをHisに置換するアミノ酸置換等、および、これらのアミノ酸置換の組み合わせを用いることによって、投与より血漿中から抗原を消失させる抗体分子を作製可能であると考えられる。
【0292】
〔実施例4〕ヒトFcRnへの結合活性の評価
Biacoreを用いた抗体とFcRnの相互作用を評価する測定系として、J Immunol. 2009;182(12):7663-71.に記されたセンサーチップへ抗体を固定化しヒトFcRnをアナライトとする系が報告されている。この目的のために、ヒトFcRnを参考例4に記載のように調製した。本系を用いて、Fv4-IgG1、Fv4-IgG1-v1およびFv4-IgG1-v2のpH6.0およびpH7.4におけるヒトFcRnへの結合活性(解離定数KD)の評価を行った。被験物質である抗体は、Series SセンサーチップCM5に直接固定化して試験に供した。センサーチップへの抗体の固定化は、ランニングバッファーとして50 mmol/Lリン酸ナトリウム/150 mmol/L NaCl, 0.05% (v/v%) Surfactant P20 pH6.0を用い、アミンカップリングキットを使用してメーカーのマニュアルに従って固定化量500RUを目指して実施した。
【0293】
ランニングバッファーとして、50 mmol/Lリン酸ナトリウム/150 mmol/L NaCl, 0.05% Surfactant P20 pH6.0、あるいは50 mmol/Lリン酸ナトリウム/150 mmol/L NaCl, 0.05% Surfactant P20 pH7.4を使用し、作成したセンサーチップを使用して測定を実施した。測定は全て25℃で行った。ヒトFcRn希釈液とランニングバッファー(対照溶液として)とを流速5 μL/minで10分間インジェクトし、センサーチップ上の抗体にヒトFcRnを相互作用させた。その後流速5 μL/minで1分間ランニングバッファーを流しFcRnを解離を観察した後、20 mmol/L Tris-HCl/150 mmol/L NaCl, pH8.1を流速30 μL/minで15秒間インジェクトを2回繰り返してセンサーチップを再生した。
【0294】
測定結果の解析はBiacore T100 Evaluation Software(Ver. 2.0.1)で行った。少なくとも6つの異なる濃度のFcRnの測定結果より定常状態アフィニティー法(steady-state affinity method)により解析して解離定数(KD)を算出した。Fv4-IgG1、Fv4-IgG1-v1およびFv4-IgG1-v2のpH6.0およびpH7.4におけるヒトFcRnへの結合活性(解離定数KD)の結果を以下の表5に示した。
【0295】
【表5】
【0296】
Fv4-IgG1のpH7.4におけるヒトFcRnへの結合は非常に弱く、KD値を算出することはできなかった(NA)。それに対して、Fv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2はpH7.4におけるヒトFcRnへの結合が認められ、KD値はそれぞれ36.55μMと11.03μMと算出された。また、pH6.0におけるヒトFcRnへのKD値はそれぞれ1.99μMと0.32μMと0.11μMと算出された。
図3に示したように、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて、Fv4-IgG1と比較して、Fv4-IgG1-v2にすることによってhsIL-6Rの消失が加速されたことから、ヒトIgG1を改変して最低でもpH7.4におけるヒトFcRnへの結合を11.03μMよりも強くすることで、抗原の消失を加速できると考えられる。また、J Immunol. 2002;169(9):5171-80.に示されているようにヒトIgG1はマウスFcRnに対してヒトFcRnよりも10倍程度強く結合することから、Fv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2においてもpH7.4におけるマウスFcRnへの結合はヒトFcRに対する結合よりも10倍程度強いと予想される。
図6に示した正常マウスにおけるFv4-IgG1-v1とFv4-IgG1-v2のhsIL-6Rの消失加速は、
図4に示したヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるFv4-IgG1-v2のhsIL-6Rの消失加速よりも大きいことから、pH7.4におけるFcRnへの結合の強さに応じて、hsIL-6Rの消失加速が大きくなると考えられる。
【0297】
〔実施例5〕中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強したpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体の調製
ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける、pH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体の抗原消失効果を更に増大させるため、Fv4-IgG1に対して、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強するための様々な改変を導入した。具体的には、表6−1および6−2に記載のアミノ酸改変をFv4-IgG1の重鎖定常領域に導入することで、各種変異体を作製した(変異箇所のアミノ酸番号はEUナンバリングによる)。なお、アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0298】
【表6-1】
【0299】
表6−2は表6−1の続きの表である。
【表6-2】
【0300】
調製した重鎖とL(WT)(配列番号:5)とを含むバリアントを、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0301】
ヒトFcRnに対する結合評価
Biacore T100 (GE Healthcare) を用いて、ヒトFcRnと抗体との速度論的解析を行った。この目的のために、ヒトFcRnを参考例4に記載のように調製した。センサーチップCM4 (GE Healthcare) 上にアミンカップリング法でプロテインL (ACTIGEN) を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液とランニングバッファー(対照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mmol/Lリン酸ナトリウム、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.0を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーを使用した。チップの再生には10 mmol/Lグリシン-HCl, pH1.5を用いた。測定は全て25℃で実施した。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 k
d (1/s) を算出し、その値をもとに各抗体のヒトFcRnに対する KD (M) を算出した。各パラメーターの算出にはBiacore T100 Evaluation Software (GE Healthcare)を用いた。
【0302】
Biacoreによる中性条件下(pH7.0)でのヒトFcRnへの結合評価の結果を、表6−1および6−2に記載した。ここで、インタクトなIgG1は結合が非常に弱く、KDは算出不可能であったため、表6−1にNDと表記した。
【0303】
〔実施例6〕中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強したpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体のインビボ試験
実施例4で調製した中性条件下でのヒトFcRnへの結合能を付与した重鎖を用いて、中性条件下でのヒトFcRnへの結合能を有するpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体を作製し、生体内での抗原消失効果の検証を行った。具体的には、
VH3-IgG1とVL3-CKとを含むFv4-IgG1、
VH3-IgG1-v2とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-v2、
VH3-IgG1-F14とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F14、
VH3-IgG1-F20とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F20、
VH3-IgG1-F21とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F21、
VH3-IgG1-F25とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F25、
VH3-IgG1-F29とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F29、
VH3-IgG1-F35とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F35、
VH3-IgG1-F48とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F48、
VH3-IgG1-F93とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F93、
VH3-IgG1-F94とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F94
を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0304】
調製したpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体について、ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. 2010;602:93-104.)を用いたインビボ試験を、実施例3の方法と同様に実施した。
【0305】
得られた静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度推移を
図8に示した。試験の結果、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強させたpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体はいずれも、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合能をほとんど持たないFv4-IgG1と比較して、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が低く推移することが示された。中でも、特に顕著な効果を示したものとして例を挙げると、Fv4-IgG1-F14と同時に投与された可溶型ヒトIL-6受容体の1日後の血漿中濃度は、Fv4-IgG1と同時に投与されたそれと比較して、約54倍低下することが示された。また、Fv4-IgG1-F21と同時に投与された可溶型ヒトIL-6受容体の7時間後の血漿中濃度は、Fv4-IgG1と同時に投与されたそれと比較して、約24倍低下することが示された。更には、Fv4-IgG1-F25と同時に投与された可溶型ヒトIL-6受容体の7時間後の血漿中濃度は、検出限界(1.56 ng/mL)以下であり、Fv4-IgG1と同時に投与されたそれと比較して、200倍以上もの顕著な抗原濃度の低下が可能であると考えられた。これらのことから、抗原消失効果を増強させることを目的として、pH依存的抗原結合抗体に対して中性条件下でのヒトFcRnへの結合を増強させることは非常に有効であることが示された。また、抗原消失効果を増強させるために導入される、中性条件下でのヒトFcRnへの結合を増強させるアミノ酸改変の種類は表6−1、表6−2に記載の改変を含めて特に限定されず、どのような改変を導入しても、生体内において抗原消失効果を増強することが可能であると考えられる。
【0306】
更に、Fv4-IgG1-F14、Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F25、Fv4-IgG1-F48の4種のpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体と同時に投与した可溶型ヒトIL-6受容体は、可溶型ヒトIL-6受容体の単独投与群と比較しても、より低い血漿中濃度推移を示した。このようなpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体を、血漿中の可溶型ヒトIL-6受容体濃度が一定濃度を維持している状態(定常状態)にある生体内に投与することで、血漿中の可溶型ヒトIL-6受容体濃度を定常状態における血漿中濃度よりも、より低く維持することが可能である。すなわち、このような抗体を生体内に投与することによって、生体内で血漿中の抗原濃度を低減することが可能となる。
【0307】
〔実施例7〕低用量(0.01 mg/kg)におけるFv4-IgG1-F14の有効性の検証
実施例6で調製したFv4-IgG1-F14を用いて、低用量(0.01 mg/kg)におけるインビボ試験を実施例6の方法と同様に行い、実施例6で得られたFv4-IgG1およびFv4-IgG1-F14の1 mg/kg投与時の結果と比較した(結果を
図9に示した)。
【0308】
その結果、Fv4-IgG1-F14の0.01 mg/kg投与群の血漿中抗体濃度は、1 mg/kg投与群に比較して100倍程度低いにも関わらず(
図10)、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度推移はほぼ同等であることが示された。また、Fv4-IgG1-F14の0.01 mg/kg投与群の7時間後の血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度は、Fv4-IgG1の1 mg/kg投与群のそれと比較して、約3倍低下させることが示された。更に、Fv4-IgG1-F14は、いずれの用量での投与群においても、可溶型ヒトIL-6受容体単独投与群と比較して、より低い血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度推移を示した。
【0309】
このことから、Fv4-IgG1に対して中性条件下でのヒトFcRnへの結合を増強させたFv4-IgG1-F14は、Fv4-IgG1の100分の1の投与量であっても、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度を効果的に低下させることが示された。つまり、pH依存的抗原結合抗体に対し、中性条件下でのFcRnへの結合能を増強させることで、より低い投与量であっても効果的に抗原を消失させることが可能になると考えられる。
【0310】
〔実施例8〕正常マウスを用いた定常状態モデルによるインビボ試験
中性条件下におけるマウスFcRnへの結合評価
実施例5で調製した、
VH3-IgG1(配列番号:6)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-IgG1、
VH3-IgG1-v2(配列番号:9)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-IgG1-v2、VH3-IgG1-F20(配列番号:10)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-IgG1-F20、について、以下の方法により中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnへの結合評価を実施した。
【0311】
Biacore T100 (GE Healthcare) を用いて、マウスFcRnと抗体との速度論的解析を行った。センサーチップCM4 (GE Healthcare) 上にアミンカップリング法でプロテインL (ACTIGEN) を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液とランニングバッファー(対照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にマウスFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mmol/Lリン酸ナトリウム、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーを使用した。チップの再生には10 mmol/Lグリシン-HCl, pH1.5を用いた。測定は全て25 ℃で実施した。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 k
d (1/s) を算出し、その値をもとに各抗体のマウスFcRnに対する KD (M) を算出した。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software (GE Healthcare)を用いた。
【0312】
結果を表7(pH7.4におけるマウスFcRnアフィニティー)に示した。ここで、定常領域が、インタクトなIgG1であるVH3/L(WT)-IgG1(表7におけるIgG1)は、マウスFcRnに対する結合が非常に弱く、KDは算出不可能であったため、表7にはNDと表記した。測定の結果、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強したこれらの改変体は、マウスFcRnに対しても同様に、中性条件下における結合が増強していることが示された。
【0313】
【表7】
【0314】
血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度を定常状態とした正常マウスにおけるインビボ試験
実施例1および実施例5で調製した、H54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、Fv4-IgG1-v2およびFv4-IgG1-F20を用いて、下記の方法でインビボ試験を行った。
【0315】
正常マウスを用いたインビボ注入試験
正常マウス(C57BL/6Jマウス、Charles River Japan)の背部皮下に可溶型ヒトIL-6受容体を充填した注入ポンプ(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL2004、alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が定常状態に維持される動物モデルを作製した。その動物モデルに対して、抗ヒトIL-6受容体抗体を投与し、投与後の可溶型ヒトIL-6受容体の体内動態を評価した。可溶型ヒトIL-6受容体に対する中和抗体の産生を抑制するために、モノクローナル抗マウスCD4抗体(R&D)を尾静脈に20 mg/kgで単回投与した。その後、92.8μg/mLの可溶型ヒトIL-6受容体を充填した注入ポンプをマウス背部皮下に埋め込んだ。注入ポンプ埋め込み3日後に、抗ヒトIL-6受容体抗体を尾静脈に1 mg/kgで単回投与した。抗ヒトIL-6受容体抗体を投与した15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、アッセイを実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0316】
血漿中抗ヒトIL-6受容体抗体濃度のELISA法による測定
実施例3と同様の方法で実施した。
【0317】
電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度測定
実施例1と同様の方法で実施した。
【0318】
図11に示した通り、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が約40 ng/mLにおいて定常状態を維持している正常マウス(hsIL-6R群)に対して、可溶型ヒトIL-6受容体の中和抗体であるH54/L28-IgG1を投与すると、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が650 ng/mL(投与前の15倍)まで上昇した。一方で、H54/L28-IgG1にpH依存的抗原結合能を付与したFv4-IgG1の投与群においては、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が70 ng/mL程度を維持していた。このことから、通常の中和抗体であるH54/L28-IgG1の投与によって引き起こされる血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度の上昇は、pH依存的結合能を付与することにより、10分の1程度にまで抑制できることが示された。
【0319】
更に、pH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体に対して、中性条件下でのFcRnへの結合を増強させる改変を導入したFv-IgG1-v2およびFv-IgG1-F20の投与により、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度を定常状態の10分の1以下にまで低下した状態を維持することが可能であることが示された。ここで、Fv-IgG1-v2は、投与から14日後における血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が約2 ng/mLであり、投与前の20分の1にまで低下させることが可能であった。また、Fv-IgG1-F20は、投与から7時間後、1日後、2日後、4日後の血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度は、検出限界(1.56 ng/mL)以下であり、投与前の25分の1以下にまで低下させていることが示された。
【0320】
以上のことから、血漿中の抗原濃度が定常状態を維持している動物モデルに対して、pH依存的抗原結合能と中性条件下でのFcRnへの結合能を併せ持つ抗体を投与することにより、血漿中の抗原の消失速度を増加させ、血漿中抗原濃度を顕著に低下させることが可能であることが示された。
【0321】
通常の抗体は、H54/L28-IgG1のように、標的抗原に対して結合することで、その作用を中和することしか出来ず、更に悪いことに血漿中の抗原濃度の上昇が起こってしまう。一方、pH依存的抗原結合能と中性条件下でのFcRnへの結合能を併せ持つ抗体は、標的抗原を中和するだけでなく、血漿中の標的抗原の濃度を低下させることが可能であることが見出された。抗原を血漿中から除去することによって、中和以上の高い効果を有することが期待できる。また、中和だけでは不十分な標的抗原に対しても、効果を示すことが可能となると考えられる。
【0322】
〔実施例9〕抗原消失を増強するのに必要なpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーの閾値の同定、および抗原消失とpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーとの関係
インビボ試験のための抗体調製
pH中性域におけるFcRnに対する結合が増加したVH3-IgG1(配列番号:6)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1のFcバリアントを作製した。具体的には、VH3-M73(配列番号:15)およびVH3-IgG1-v1(配列番号:8)を調製した。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0323】
H54(配列番号:1)とL28(配列番号:2)とを含むH54/L28-IgG1、VH3-IgG1(配列番号:6)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1、VH3-M73(配列番号:15)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-M73、 VH3-IgG1-v1(配列番号:8)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1-v1、およびVH3-IgG1-v2(配列番号:9)とVL3-CK(配列番号:7)とを含むFv4-IgG1-v2を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0324】
pH中性条件下におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーの評価
VH3-IgG1(配列番号:6)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-IgG1、VH3-M73(配列番号:15)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-M73、VH3-IgG1-v1(配列番号:8)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-IgG1-v1、およびVH3-IgG1-v2(配列番号:9)とL(WT)(配列番号:5)とを含むVH3/L(WT)-IgG1-v2は、その全てを実施例2に記載の通りに調製し、中性pH(pH7.0)におけるヒトFcRn結合に関して評価した。
【0325】
ヒトFcRnに対するVH3/L(WT)-IgG1-v1およびVH3/L(WT)-IgG1-v2の結合活性を、実施例5に記載の方法を用いて測定した。ヒトFcRnに対するVH3/L(WT)-IgG1およびVH3/L(WT)-M72の結合活性が低いために、実施例5に記載の方法ではヒトFcRnに対する結合活性を測定することができず、ゆえに、これらの抗体を以下に記載する方法によって評価した。抗体とヒトFcRnとの結合の動態をBiacore T100(GE Healthcare)を用いて解析した。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で適当量のプロテインL(ACTIGEN)を固定化し、チップに目的の抗体を捕捉させた。次に、希釈したFcRn溶液とランニングバッファー(対照溶液として)とをインジェクトして、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーとして、50 mmol/lリン酸ナトリウム、150 mmol/l NaCl、0.05% (w/v) Tween 20、pH7.0を用いた。FcRnを各バッファーを用いて希釈した。チップを10 mmol/lグリシン-HCl(pH1.5)を用いて再生した。測定は25℃で行った。
【0326】
各抗体のKD(M)を、センサーグラムの結合および解離相を同時に適合させて、実行中の組における全ての曲線を一括で適合させるBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いてセンサーグラムデータから導いた。センサーグラムを、Biacore T100 Evaluation Softwareによって提供された1:1結合モデルである「ラングミュア結合」モデルに適合させた。結合相互作用のいくつかについては、平衡に基づくアプローチを用い、アナライト濃度の対数に対して平衡結合レスポンスであるR
eqをプロットし、非線形回帰分析によりKDを導いた。
【0327】
中性条件下(pH7.0)におけるヒトFcRn結合についてのBiacoreによる結果を表8に示す。
【0328】
【表8】
【0329】
ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276を用いた同時注射モデルにおける抗体の抗原消失効果のインビボ試験
同時注射モデルを用いた抗体のインビボ試験を実施例3に記載した通りに行った。本試験において用いた抗ヒトIL-6受容体抗体は、先に記載したH54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、Fv4-M73、Fv4-IgG1-v1、およびFv4-IgG1-v2である。この試験において用いたマウスはヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス、Jackson Laboratories; Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104)である。
【0330】
図12に示すように、H54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、Fv4-M73、Fv4-IgG1-v1、およびFv4-IgG1-v2の薬物動態は同等であり、これらの抗体は試験のあいだ類似の血漿中濃度を維持した。
【0331】
血漿中hsIL-6濃度推移を
図13に示した。Fv4-IgG1と共に投与したhsIL-6Rと比較して、Fv4-IgG1-v2と共に投与したhsIL-6Rは、クリアランスの増大を示したが、Fv4-M73およびFv4-IgG1-v1と共に投与したhsIL-6Rはクリアランスの低下を示した。M73、v1およびv2の全てのFcバリアントが、ヒトFcRnに対してpH中性条件下(pH7.0)において結合アフィニティーが増大しているが、hsIL-6Rクリアランスの増大を示したのはFv4-IgG1-v2のみであり、Fv4-M73およびFv4-IgG1-v1は増大を示さなかった。このことは、抗原のクリアランスを増大させるためには、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーがKD 3.2μMであるかまたはインタクトなヒトIgG1(ヒトFcRnに対する結合アフィニティーはKD 88μM)より28倍高いIgG1-v1と比べて、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーが、それより少なくとも高い必要があることを示している。
【0332】
図14は、pH7.0におけるヒトFcRnに対するFcバリアントの結合アフィニティーと、hsIL-6RおよびFcバリアントを同時注射した1日後の血漿中hsIL-6R濃度との関係を示す。本実施例および実施例6に記載のFcバリアント(Fv4-IgG1、Fv4-M73、Fv4-IgG1-v1、Fv4-IgG1-v2、Fv4-IgG1-F14、Fv4-IgG1-F20、Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F25、Fv4-IgG1-F29、Fv4-IgG1-F35、Fv4-IgG1-F48、Fv4-IgG1-F93、およびFv4-IgG1-F94)をプロットしている。pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーを増大させると、抗原のクリアランスを反映する血漿中hsIL-6R濃度は、最初に増加した後、急激に低下した。このことは、インタクトなヒトIgG1と比較して抗原クリアランスを増大させるためには、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーが、好ましくはKD 2.3μM(
図14の曲線に当てはめて得た値)より強い必要があることを示している。ヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーがKD 88μM〜KD 2.3μMである場合、むしろ抗原クリアランスは低下すると考えられる(より高いhsIL-6R濃度)。言い換えれば、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーは、抗原の消失を増強するためには、好ましくはインタクトなヒトIgG1より38倍高い必要があり、そうでなければ抗原クリアランスは低下すると考えられる。
【0333】
図15は、pH7.0におけるヒトFcRnに対するFcバリアントの結合アフィニティーと、hsIL-6RおよびFcバリアントを同時注射した1日後の血漿中抗体濃度との関係を示す。本実施例および実施例6に記載のFcバリアント(Fv4-IgG1、Fv4-M73、Fv4-IgG1-v1、Fv4-IgG1-v2、Fv4-IgG1-F14、Fv4-IgG1-F20、Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F25、Fv4-IgG1-F29、Fv4-IgG1-F35、Fv4-IgG1-F48、Fv4-IgG1-F93、およびFv4-IgG1-F94)をプロットしている。pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーを増大させると、抗体の薬物動態(クリアランス)を反映する血漿中抗体濃度は最初維持されるが、その後急激に低下する。このことは、インタクトなヒトIgG1(ヒトFcRnに対する結合アフィニティーはKD 88μM)と類似した抗体の薬物動態を維持するためには、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体のアフィニティーが、KD 0.2μM(
図15の曲線に当てはめて得た値)より弱い必要があることを示している。ヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーがKD 0.2μMより強い場合、抗体のクリアランスは増大した(すなわち、血漿からのより急速な抗体の消失)。言い換えれば、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーは、インタクトなヒトIgG1と類似した抗体薬物動態を示すためには、インタクトなヒトIgG1と比べて440倍以内の高さとする必要があり、そうでなければ血漿からの抗体の急速な消失が生じると考えられる。
【0334】
図14および15の双方を考慮すると、インタクトなヒトIgG1と類似した抗体薬物動態を維持しながらIgG1と比較して抗原クリアランスを増大させる(すなわち、血漿中抗原濃度を減少させる)ためには、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーが、2.3μMから0.2μMである必要があるか、または言い換えればpH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーが、インタクトなヒトIgG1より38倍から440倍高い範囲である必要がある。長期間の抗体消失活性を有するIgG1と類似した薬物動態であるそのような抗体は、長期間作用性により、慢性疾患などのより長い投与間隔を必要とする抗体治療にとって有益となると考えられる。
【0335】
一方、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーをKD 0.2μMより強く増大させることにより、または言い換えればインタクトなヒトIgG1と比較してpH7.0でのヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーを440倍より高く増大させることにより、抗体はインタクトなヒトIgG1より速やかに血漿から消失するものの、抗原クリアランスを短期間でのかなりの程度のものに増強すると考えられる。抗原濃度の急速で大きな減少を誘導できるそのような抗体は、その即効性により、疾患関連抗原を血漿中から除去する必要がある急性疾患などの抗体治療にとって有益となると考えられる。
【0336】
抗体1分子につき血漿から消失される抗原の量は、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した抗体Fcバリアントを投与することにより抗原消失効率を評価する場合に重要な要因となる。抗体1分子あたりの抗原消失効率を評価するために、本実施例および実施例6に記載のインビボ試験の各時点で以下の計算を行った。
A値:各時点での抗原のモル濃度
B値:各時点での抗体のモル濃度
C値:抗体モル濃度あたりの抗原モル濃度(抗原/抗体モル比)
C=A/B
【0337】
各抗体についてのC値(抗原/抗体モル比)の推移を
図16に記載した。C値がより小さいことは、抗体1分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示すが、C値がより大きいことは、抗体1分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。IgG1と比較してC値がより小さければ、Fcバリアントによってより高い抗原消失効率が得られたことを示すが、IgG1と比較してC値がより大きければ、Fcバリアントが抗原消失効率に関して負の効果を有することを示す。Fv4-M73およびFv4-IgG1-v1を除く全てのFcバリアントが、Fv4-IgG1と比較して抗原消失効率の増大を示した。Fv4-M73およびFv4-IgG1-v1は、抗原消失効率に対して負の影響を示し、これは
図14と一致した。
【0338】
図17は、pH7.0におけるヒトFcRnに対するFcバリアントの結合アフィニティーと、hsIL-6RおよびFcバリアントを同時注射した1日後のC値(抗原/抗体モル比)との関係を示す。本実施例および実施例6に記載のFcバリアント(Fv4-IgG1、Fv4-M73、Fv4-IgG1-v1、Fv4-IgG1-v2、Fv4-IgG1-F14、Fv4-IgG1-F20、Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F25、Fv4-IgG1-F29、Fv4-IgG1-F35、Fv4-IgG1-F48、Fv4-IgG1-F93、およびFv4-IgG1-F94)をプロットしている。これは、インタクトなヒトIgG1と比較してより高い抗原消失効率を達成するためには、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体のアフィニティーがKD 3.0μM(
図17の曲線に当てはめて得た値)より強い必要があることを示している。言い換えれば、pH7.0におけるヒトFcRnに対する抗体の結合アフィニティーは、インタクトなヒトIgG1と比較してより高い抗原消失効率を達成するためには、インタクトなヒトIgG1より少なくとも29倍高い必要がある。
【0339】
結論としては、FcRnに対してpH7.0でKD 3.0μMから0.2μMの結合アフィニティーを有する抗体バリアントの群、または言い換えればFcRnに対してpH7.0でインタクトなヒトIgG1より29倍から440倍高い範囲の結合アフィニティーを有する抗体バリアントの群は、IgG1と類似した抗体薬物動態を有するが、増大した血漿中抗体消失能を有する。よって、そのような抗体は、IgG1と比較して増大した抗原消失効率を示す。IgG1と類似した薬物動態により、血漿から抗原を長期間消失させることが可能であり(長期間作用性の抗原消失)、ゆえに長い投与間隔が可能となり、このことは慢性疾患に関する抗体治療物質にとって好ましいと考えられる。FcRnに対してpH7.0でKD 0.2μMより強い結合アフィニティーを有する抗体バリアントの群、または言い換えればFcRnに対してpH7.0でインタクトなヒトIgG1より440倍高い結合アフィニティーを有する抗体バリアントの群は、急速な抗体クリアランス(短期間の抗体消失)を有する。それにもかかわらず、そのような抗体は抗原のさらにより急速なクリアランスを可能にすることから(即効性の抗原消失)、よって、そのような抗体はまた、IgG1と比較して増大した抗原消失効率を示す。実施例8に示すように、正常マウスにおけるFv4-IgG1-F20は、血漿からの抗原の大規模な消失を非常に短期間で誘導するが、抗原消失効果は持続しない。そのようなプロファイルは、疾患関連抗原を非常に短期間で迅速かつ大規模に血漿から枯渇させる必要がある急性疾患の場合に好ましいと考えられる。
【0340】
〔実施例10〕ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276を用いた定常状態注入モデルによるFv4-IgG1-F14のインビボ試験
ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276を用いた定常状態注入モデルによるFv4-IgG1-F14のインビボ試験を実施例1に記載した通りに行った。試験群は対照群(抗体なし)、1 mg/kgの用量でのFv4-IgG1、ならびに1 mg/kg、0.2 mg/kg、および0.01 mg/kgの用量でのFv4-IgG1-F14からなる。
【0341】
図18は、抗体投与後の血漿中hsIL-6R濃度の時間プロファイルを示す。抗体を投与していないベースラインのhsIL-6Rレベルと比較して、1 mg/kg Fv4-IgG1の投与により、血漿中hsIL-6R濃度が数倍増加した。他方、1 mg/kgのFv4-IgG1-F14の投与により、Fv4-IgG1群およびベースライン群と比較した場合に血漿中濃度の有意な減少が生じた。2日目に、血漿中hsIL-6R濃度は検出されず(血漿中hsIL-6R濃度の定量限界はこの測定系において1.56 ng/mLである)、これは14日目まで持続した。
【0342】
実施例1に示すように、H54/L28-IgG1-F14は、H54/L28-IgG1と比較して血漿中hsIL-6R濃度の減少を示したが、減少の程度は小さかった。減少の程度は、hsIL-6Rに対するpH依存的結合特性をFv4可変領域に有する場合ではかなり大きかった。このことは、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを増大させることは血漿中抗原濃度を減少させるために有効であるが、pH依存的抗原結合とpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーの増大とを組み合わせると、抗原消失が有意に増大することを示している。
【0343】
より低用量のFv4-IgG1-F14を用いた試験は、1 mg/kgの1/100である0.01 mg/kgでさえも、血漿中抗原濃度をベースラインよりも減少させて、分子が血漿から抗原を枯渇させる効率が有意であることを示している。
【0344】
〔実施例11〕同時注射モデルにおけるヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276および系統32の比較
これまでのインビボ試験は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276(Jackson Laboratories)を用いて行っていた。ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276と異なるトランスジェニック系統である系統32との差を比較するために、本発明者らは、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統32 +/+マウス(B6.mFcRn-/- hFCRN Tg32; B6.Cg-Fcgrt Tg(FCGRT)32Dcr) (Jackson #4915))、Jackson Laboratories; Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104)を用いてH54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、およびFv4-IgG1-v2の同時注射試験を行った。試験方法は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32をヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276の代わりに用いたこと以外は、実施例3の試験方法と同じであった。
【0345】
図19は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276および系統32の双方における血漿中hsIL-6R濃度推移を示す。H54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、およびFv4-IgG1-v2は、類似の血漿中hsIL-6R濃度-時間プロファイルを示した。いずれのマウスにおいても、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを増大させると、血漿からの抗原消失が同程度に増強された(Fv4-IgG1とFv4-IgG1-v2とを比較)。
【0346】
図20は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統276および系統32の双方における血漿中抗体濃度推移を示す。H54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、およびFv4-IgG1-v2は、類似の血漿中抗体濃度-時間プロファイルを示した。
【0347】
結論としては、系統276と系統32のあいだに有意差は観察されず、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを増大させるFcバリアントは、血漿中抗原濃度の消失の増強に関して、ヒトFcRnを発現する2つの異なるトランスジェニックマウス系統において有効であった。
【0348】
〔実施例12〕中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した様々な抗体Fcバリアントの作製
Fcバリアントの作製
抗原消失プロファイルをさらに改善するために、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを増大させる様々な変異をFv4-IgG1に導入した。具体的には、表9-1から9-14に示されるアミノ酸変異をFv4-IgG1の重鎖定常領域に導入してFcバリアントを作製した(変異部位のアミノ酸番号は、EUナンバリングに従って記載する)。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0349】
調製された重鎖とL(WT)(配列番号:5)とを各々含むさらなるバリアント(IgG1-F100からIgG1-F599)を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0350】
ヒトFcRn結合の評価
抗体とヒトFcRnとの結合の動態を、IgG1-v1、IgG1-v2、およびIgG1-F2については実施例5に記載した通りに、またはIgG1およびM73については実施例9に記載した通りに解析した。中性条件下(pH7.0)におけるヒトFcRn結合についてのBiacoreによる結果を表9-1から9-14に示す。
【0351】
【表9-1】
【0352】
表9-2は表9-1の続きの表である。
【表9-2】
【0353】
表9-3は表9-2の続きの表である。
【表9-3】
【0354】
表9-4は表9-3の続きの表である。
【表9-4】
【0355】
表9-5は表9-4の続きの表である。
【表9-5】
【0356】
表9-6は表9-5の続きの表である。
【表9-6】
【0357】
表9-7は表9-6の続きの表である。
【表9-7】
【0358】
表9-8は表9-7の続きの表である。
【表9-8】
【0359】
表9-9は表9-8の続きの表である。
【表9-9】
【0360】
表9-10は表9-9の続きの表である。
【表9-10】
【0361】
表9-11は表9-10の続きの表である。
【表9-11】
【0362】
表9-12は表9-11の続きの表である。
【表9-12】
【0363】
表9-13は表9-12の続きの表である。
【表9-13】
【0364】
表9-14は表9-13の続きの表である。
【表9-14】
【0365】
〔実施例13〕ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた定常状態注入モデルによる様々なFcバリアント抗体のインビボ試験
実施例12において作製したFcバリアントを、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた定常状態注入モデルにおいて血漿中抗原消失能に関して試験した。定常状態注入モデルインビボ試験は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を系統276の代わりに用い、モノクローナル抗マウスCD4抗体を2回(注入ポンプを埋め込む前と、抗体を注射した14日後)または3回(注入ポンプを埋め込む前と、抗体を注射した10日後および20日後)注射したこと以外は、実施例1に記載した通りに行った。
【0366】
表9-1から9-14に記載のFcバリアントから選択した、以下に記載の抗体Fcバリアントを、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した:
VH3-IgG1とVL3-CKとを含むFv4-IgG1;
VH3-IgG1-F11とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F11;
VH3-IgG1-F14とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F14;
VH3-IgG1-F39とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F39;
VH3-IgG1-F48とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F48;
VH3-IgG1-F140とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F140;
VH3-IgG1-F157とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F157;
VH3-IgG1-F194とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F194;
VH3-IgG1-F196とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F196;
VH3-IgG1-F198とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F198;
VH3-IgG1-F262とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F262;
VH3-IgG1-F264とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F264;
VH3-IgG1-F393とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F393;
VH3-IgG1-F434とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F424;および
VH3-IgG1-F447とVL3-CKとを含むFv4-IgG1-F447。
【0367】
これらの抗体を、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32に1 mg/kgの用量で投与した。
【0368】
図21は、マウスにおける血漿中hsIL-6R濃度推移を示す。Fv4-IgG1と比較して、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大したFcバリアントは全て、血漿中hsIL-6R濃度の減少を示し、ゆえに血漿からの抗原の消失を増大させた。抗原濃度減少の程度および持続はFcバリアント間で異なったものの、全てのバリアントが一致してIgG1と比較して血漿中hsIL-6R濃度を減少させた。これは、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大することにより、血漿からの抗原の消失が一般に増大することを示している。
図22は、マウスにおける血漿中抗体濃度推移を示す。抗体の薬物動態はFcバリアント間で異なった。
【0369】
実施例9に記載したように、抗体1分子につき血漿から消失される抗原の量は、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した抗体Fcバリアントを投与することにより抗原消失効率を評価する場合に重要な要因となる。ゆえに、各抗体についてのC値(抗原/抗体モル比)の推移を
図23に記載した。
図24は、pH7.0におけるヒトFcRnに対するFcバリアントの結合アフィニティーと、抗体投与1日後のC値(抗原/抗体モル比)との関係を示す。これは、この試験において試験した全ての抗体FcバリアントがFv4-IgG1と比較して小さいC値を有することを示している。本試験において試験した全てのFcバリアントが、ヒトFcRnに対してpH7.0でKD 3.0μMより強い結合アフィニティーを有することから、それらはインタクトなヒトIgG1と比較して高い抗原消失効率を達成した。これは実施例9で得られた結果と一致した(
図17)。
【0370】
図25は、本試験において試験したFcバリアントにおいて、F11、F39、F48、およびF264のFcバリアントを有する抗体が、IgG1と類似した薬物動態を示したことを示す。この試験はヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いて行われていることから、これらのFcバリアントはヒトにおいてもIgG1と類似した長い半減期を有すると予想される。
図26は、インタクトなヒトIgG1と類似した薬物動態を有する抗体(F11、F39、F48、およびF264)を注射したマウスにおける血漿中hsIL-6R濃度推移を示す。これらのバリアントは、IgG1と比較して血漿中hsIL-6R濃度を約10倍低減させた。その上、これらの抗体は、ベースラインhsIL-6R濃度(抗体なしの濃度)より下までhsIL-6R濃度を減少させた。したがって、これらの抗体は、血漿からの抗原の長期消失を可能にし、ゆえに、慢性疾患のための抗体治療にとって好ましい長い投与間隔を可能にすると考えられる。
【0371】
図27および28はそれぞれ、IgG1、ならびにFcバリアントF157、F196、およびF262についての血漿中抗体濃度および血漿中hsIL-6R濃度推移を示す。驚くべきことに、F157およびF262の抗体薬物動態は、インタクトなIgG1と比較して有意に速い血漿からのクリアランスを示したが、F157およびF262は血漿からの非常に大規模かつ持続的なhsIL-6R消失を示した。具体的には、F157での血漿中hsIL-6R濃度は、1日目から28日目(14日目を除く)まで検出限界(1.56 ng/ml)より下であり、F262での血漿中hsIL-6R濃度は14日目から28日目まで検出限界(1.56 ng/ml)より下であった。一方、F157と比較して抗体のクリアランスがより遅いF196に関しては、抗原濃度は14日目で増加し始め、28日目にベースラインに戻った。本試験において試験したFcバリアントの中で、F157およびF262は、血漿中hsIL-6R濃度を28日目の時点で1.56 mg/mlより下に減少させることができた唯一のFcバリアントであった。
【0372】
抗体はインタクトなヒトIgG1と比較して非常に急速に血漿から消失したことから、F157およびF262においてそのような持続的な長期効果が得られたことは、抗体の薬物動態からは予想外のことである。特に、F157での血漿中抗体濃度は、21日目では検出されなかった。それにもかかわらず、血漿中hsIL-6R濃度は、21日目および28日目の時点で検出限界の1.56 ng/mlより低いレベルまで減少し続けた。この予想外の効果は、抗体がFcRn結合型として血管内皮細胞表面に存在するためであると考えられる。これらの抗体は血漿中で低濃度を示したが、これらの抗体はなおもFcRn結合型(血漿中抗体濃度として測定することができない)として血管コンパートメントに存在している。これらのFcRn結合抗体はなおも血漿中の抗原に結合し、抗原/抗体複合体がFcRnによって取り込まれた後、抗原はエンドソーム内で遊離してライソソームによって分解されるが、抗体はFcRn結合型として細胞表面に戻されてリサイクルされる。このように、これらのFcRn結合抗体は抗原の消失に寄与する。このことにより、抗体濃度が血漿中で低くなった後でさえもこれらの抗体が抗原消失能を維持している理由が説明される。
【0373】
〔実施例14〕従来の抗体および抗原消失抗体の比較インシリコ試験
実施例13は、pH依存的に抗原に結合し、かつpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した抗体が、血漿から抗原を消失させることができることを示す。したがって、そのような抗原消失抗体は、単に結合および中和するだけでは疾患を処置するのに十分ではなく、血漿から抗原を枯渇させることが必要である、抗原を標的とする抗体にとって有用である。
【0374】
抗原消失抗体はまた、単に結合および中和するだけで十分である、抗原を標的とする抗体にとっても有用である。抗原に対する抗体結合および中和は、血漿中の抗原と少なくとも同モル量の抗体を必要とする(抗体が抗原に対して無限のアフィニティーを有すれば、抗原は抗原と同モル量の抗体によって中和されうる)。従来の抗体(pH依存的な抗原結合を有さない、Fcが操作されていない抗体)とは対照的に、抗原消失抗体は血漿中抗原濃度を減少させることができる。このことは、抗原を中和するのに必要な抗体濃度を減少させることができることを意味する。抗原消失抗体が従来の抗体と比較して血漿中抗原濃度を10倍低減する場合、抗原を中和するのに必要な抗体濃度もまた10倍低減させることができる。よって、治療設定において、抗原消失抗体は、従来の抗体と比較して、抗体用量を減少させる、または投与間隔を長くすることができる。
【0375】
F11、F39、F48、およびF264などのFcバリアントは、IgG1と比較して血漿中抗原濃度を約10倍低減させることができる。従来の抗体と比較してそのような抗原消失抗体の効果を評価するために、本発明者らは従来の抗体と抗原消失抗体の双方の治療設定において、抗原中和を維持するのに必要な抗体用量のインシリコ評価を行った。本発明者らは、3ヶ月毎の投与間隔により中和を維持するのに必要な用量(すなわち、Q3Mに必要な用量)を決定した。
【0376】
薬物動態モデルの構築
本発明者らは、PK解析ソフトウェアSAAM II(The SAAM Institute, Inc.)を用いて薬物動態(PK)モデルを構築した。PKモデルは、Pharmacokinet Pharmacodyn. 2001 Dec; 28(6): 507-32およびBr J Clin Pharmacol. 2007 May; 63(5): 548-61に記載されているように構築する。PKモデルの概念を
図29に示す。各区画の量を以下の微分方程式によって記載した。
【数1】
Xsc:皮下組織における抗体量
Xmab:血清中の遊離抗体量
Xcom:抗体と抗原の免疫複合体(=複合体)の量
Xag:血清中の遊離抗原量
ka:吸収速度定数
【0377】
このモデルにおいて、生物学的利用率(F)を全ての抗体について1であると仮定し、抗原(R)の生合成速度を以下の等式によって定める。
【数2】
Cpre:定常状態での血清中抗原濃度
【0378】
このインシリコ試験において用いた薬物動態パラメーターおよび抗原結合動態パラメーターを表10に記載する。
【0379】
【表10】
【0380】
抗原消失抗体およびアフィニティーマチュレーションの効果を算出するためのシミュレーション
抗体投与前の定常状態濃度(Cpre)を2,400 ng/mLに設定した。構築されたPKモデルによって、本発明者らは1回の皮下投与から84日後に遊離抗原濃度を35 ng/mL未満に維持するための抗体の最少用量を推定した。抗原の分子量を190 kDaに設定し、治療抗体の分子量を全て150 kDaに設定する。
【0381】
このインシリコ試験の抗体としては、様々な結合アフィニティーを有する(KD 1 nMの親抗体からのアフィニティーマチュレーションの程度が異なる)従来の抗体および抗原消失抗体を用いた。抗原消失抗体の効果は、抗原抗体複合体のクリアランスが従来の抗体より速やかであることとして反映される。抗原抗体複合体のクリアランスパラメーター(CLcom)を表11に記載する。
【0382】
【表11】
【0383】
KD 1 nMの親抗体からのアフィニティーマチュレーションの効果もまた考慮する(アフィニティーは100倍の範囲で異なる)。このインシリコ試験では、1 nM、300 pM、100 pM、30 pM、および10 pMのKDを用いる。アフィニティーマチュレーションの効果はkoffの低下として反映される。koff値は、100倍の範囲で変化する(koff=53.05、17.68、5.30、1.77、0.53 [1/日])。
【0384】
1回の皮下投与から84日後に遊離抗原濃度を35 ng/mL未満に維持するための身体あたりの抗体の用量を、1 nM、300 pM、100 pM、30 pM、および10 pMの結合アフィニティー(KD)を有する従来の抗体および抗原消失抗体について得た。結果を表12に記載した。
【0385】
【表12】
【0386】
1 nMの結合アフィニティーを有する従来の親抗体は、Q3M投与を達成するためには2,868 mgを必要とする。抗原に対する結合アフィニティーを向上させることによって抗体の用量を減少させることができるが、用量の減少は限界に達する。この限界は、抗原に対する抗体結合および中和には血漿中の抗原と少なくとも同モル量の抗体が必要であるという事実に基づく。10 pMの結合アフィニティーであっても、従来の抗体はQ3M投与を達成するのに475 mgを必要とし、これは製剤化抗体の濃度および皮下注射可能な容量に限界があるために1回では皮下注射できない用量である。
【0387】
一方、抗原結合におけるpH依存性を操作する(またはpH依存的結合を有する抗体を直接作製する)およびpH中性域におけるFcRnに対する結合アフィニティーが増大するようにFc領域を操作することにより、従来の抗体を抗原消失抗体へと操作して、抗体の用量を有意に減少させることができる。1 nMの結合アフィニティーを有する抗原消失抗体は、Q3M投与を達成するのに180 mgしか必要としない。この用量レベルは、無限のアフィニティーを有する場合であっても従来の抗体では達成することができない。抗原消失抗体の結合アフィニティーを10 pMに向上させることにより、用量を33 mgに減少させることができ、これは容易に皮下注射できる用量である。
【0388】
このように、このインシリコ試験は、抗原消失抗体が従来の抗体に対して有意な長所を有することを示した。抗体の用量を、従来の抗体では無限のアフィニティーを有する場合であっても達成することができないレベルまで減少させることができる。投与間隔に関しては、抗原消失抗体を従来の抗体と同じ用量で注射する場合、抗原消失抗体はより持続的な効果を有し、ゆえに有意により長い投与間隔を可能にする。抗原消失抗体による用量の減少および投与間隔の延長はいずれも、従来の抗体と比較して有意な長所を提供すると考えられる。
【0389】
実施例1に記載したように、抗原消失抗体は抗原に対するpH依存的結合を必ずしも必要とするわけではないことに注意すべきである。抗原に対するpH依存的結合は、抗体の抗原消失活性を有意に増強することができる。加えて、pH依存的結合特性は、血漿中とエンドソーム内とで濃度の異なる他の要因を利用することによって置き換えることができる。そのような要因はまた、血漿中で抗原に結合するがエンドソーム内では抗原を解離する抗体を作製するために用いることができる。
【0390】
〔実施例15〕pH依存的抗ヒトIL-6抗体のヒトIL-6消失加速効果の向上検討
pH依存的ヒトIL-6結合抗体の作製
WO2009/125825に記載されているCLB8H-IgG1(配列番号:16)とCLB8L-CK(配列番号:17)とを含むCLB8-IgG1は、キメラ抗IL-6抗体である。H16-IgG1(配列番号:18)とL13-CK(配列番号:19)とを含むH16/L13-IgG1は、pH依存的に(pH7.4で結合し、pH5.8で解離する)ヒトIL-6に結合する特性をCLB8-IgG1に付与することにより生じるキメラ抗IL-6抗体である。
【0391】
ヒトIL-6に対するキメラ抗IL-6抗体のpH依存的結合活性の評価
CLB8-IgG1およびH16/L13-IgG1を、Biacore T100(GE Healthcare)を用いてpH5.5およびpH7.4におけるヒトIL-6結合活性(解離定数(KD))に関して評価した。測定は、ランニングバッファーとして0.05% Surfactant P20(pH7.4およびpH6.0)を含有する10 mmol/l ACES/150 mmol/l NaClを用いて行った。アミノカップリング法で固定化したセンサーチップ上の組換え型プロテインA/G(Thermo Scientific)に対して抗体を結合させた後、アナライトとして適切な濃度のヒトIL-6(TORAY)をインジェクトした。測定は37℃で行った。測定結果をBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて解析し、結合速度定数ka(1/Ms)および解離速度定数k
d(1/s)を測定結果から算出した。次に、kaおよびk
dからKD(M)を算出した(表13)。さらに、pH依存的結合を評価して、各抗体についてpH7.4とpH6.0のKD比を算出した。
【0392】
【表13】
【0393】
中性条件下におけるFcRn結合活性を有するpH依存的抗ヒトIL-6抗体の調製
中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増加させるために、H16-IgG1(配列番号:18)とL13-CK(配列番号:19)とを含むH16/L13-IgG1に変異を導入した。具体的には、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングにおける434番目をAsnからTrpに置換することによりH16-IgG1-v2(配列番号:20)を調製し、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングにおける252番目をMetからTyrに、434番目をAsnからTrpに置換することによりH16-F14(配列番号:21)を構築した。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0394】
CLB8H-IgG1(配列番号:16)とCLB8L-CK(配列番号:17)とを含むCLB8-IgG1、H16-IgG1(配列番号:18)とL13-CK(配列番号:19)とを含むH16/L13-IgG1、H16-IgG1-v2(配列番号:20)とL13-CK(配列番号:19)とを含むH16/L13-IgG1-v2、およびH16-F14(配列番号:21)とL13-CK(配列番号:19)とを含むH16/L13-F14を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0395】
pH中性域におけるFcバリアントのマウスFcRn結合活性の評価
VH3-IgG1とL(WT)とを含むVH3/L(WT)-IgG1、VH3-IgG1-v2とL(WT)とを含むVH3/L(WT)-IgG1-v2、およびVH3-IgG1-F14とL(WT)とを含むVH3/L(WT)-IgG1-F14は、その全てを実施例5に記載の通りに調製し、実施例8に記載の方法によって中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合に関して評価した。
【0396】
結果を表14に示す。IgG1は、非常に弱い結合活性を示したが、IgG1-v2およびIgG1-F14は、pH7.4においてマウスFcRnに対してより強い結合アフィニティーを示した。
【0397】
【表14】
【0398】
正常マウスを用いたインビボ試験
hIL-6単独またはhIL-6および抗ヒトIL-6抗体を正常マウス(C57BL/6Jマウス; Charles River Japan)に投与することによって、ヒトIL-6(hIL-6;TORAY)および抗ヒトIL-6抗体の体内動態を評価した。hIL-6溶液(5μg/ml)またはhIL-6と抗ヒトIL-6抗体とを含有する混合溶液(CLB8-IgG1群:5μg/mlのhIL-6および0.025 mg/mlのCLB8-IgG1;H16/L13-IgG1群、H16/L13-IgG1-v2群、およびH16/L13-IgG1-F14群:5μg/mlのhIL-6および各々0.14 mg/mLのH16/L13-IgG1、H16/L13-IgG1-v2、およびH16/L13-IgG1-F14)を尾静脈に10 ml/kgの用量で1回投与した。抗体の用量は、投与溶液中の抗体にヒトIL-6の99.8%超が結合するように設定した。hIL-6単独を投与した5分後、30分後、2時間後、4時間後、7時間後、1日後に、ならびにhIL-6と抗ヒトIL-6抗体溶液の混合物を投与した5分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後、14日後、21日後、および30日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0399】
血漿中ヒトIL-6濃度のELISA法による測定
マウス血漿中のヒトIL-6濃度は、ヒトIL-6 Quantikine HS ELISA Kit(R&D)を用いて測定した。20、10、5、2.5、1.25、0.625、および0.3125 ng/mlの血漿中濃度を有する検量線試料および100倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料中の全てのヒトIL-6をCLB8-IgG1に結合させるために、5μg/mlのCLB8-IgG1 150μlを検量線試料および血漿試料150μlに添加した後、試料を室温で1時間静置した。その後、ELISAキット(R&D)に付属のプレートに試料を分注し、室温で1時間静置した。その後ELISAキット(R&D)に付属のIL-6コンジュゲートを添加して室温で1時間反応させ、ELISAキット(R&D)に提供された基質溶液を添加して室温で1時間反応させた。その後、ELISAキット(R&D)に付属のAnplifier溶液を基質として用いて室温で半時間反応させて発色反応を行った。ELISAキットに付属の停止溶液(R&D)によって反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーにて490 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の正常マウスにおける血漿中hIL-6濃度推移を
図30に示す。
【0400】
血漿中抗ヒトIL-6抗体濃度のELISA法による測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6抗体濃度はELISA法にて測定した。抗ヒトIgG(γ鎖特異的)F(ab')2抗体断片(Sigma)をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp(Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置して抗ヒトIgG固定化プレートを調製した。1.6、0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、および0.025μg/mlの血漿中濃度を有する検量線試料ならびに100倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料中の全ての抗ヒトIL-6抗体をヒトIL-6に結合させるために、1μg/mlのヒトIL-6 200μlを検量線試料および血漿試料100μlに加えた後、試料を室温で1時間静置した。その後、試料を抗ヒトIgG固定化プレートに分注し、室温で1時間静置した。その後、ヤギ抗ヒトIgG(γ鎖特異的)ビオチン(BIOT)コンジュゲート(Southern Biotech Association)を添加して室温で1時間反応させた。その後、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を添加して室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応を行った。1N硫酸(Showa Chemical)によって反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の正常マウスにおける血漿中抗体濃度推移を
図31に示す。
【0401】
ヒトIL-6に対するpH依存的結合の効果
ヒトIL-6にpH依存的に結合するCLB8-IgG1およびH16/L13-IgG1を生体内で試験し、それらの結果を比較した。
図31に示すように、抗体の薬物動態は直線的なクリアランスを示した。一方、
図30に示すように、ヒトIL-6にpH依存的に結合するH16/L13-IgG1と同時に投与したhIL-6は、CLB8-IgG1と同時に投与したhIL-6と比較してhIL-6の消失を加速させることが見出された。このように、pH依存的ヒトIL-6結合能を付与することにより、投与4日後で血漿中hIL-6濃度を、約76倍低下させることができることが示された。
【0402】
中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合の効果
H16/L13-IgG1の他に、上記のアミノ酸置換をH16/L13-IgG1に導入することにより生じるH16/L13-IgG1-v2およびH16/L13-F14について、正常マウスを用いて生体内で試験した。試験結果をH16/L13-IgG1の結果と比較した。
図31に示すように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加したH16/L13-IgG1-v2での血漿中抗体濃度は、投与1日後でH16/L13-IgG1より2.9倍低かった。または、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合がさらに増加したH16/L13-F14での血漿中抗体濃度は、投与後7時間でH16/L13-IgG1より21倍低かった。
【0403】
図30に示すように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加したH16/L13-IgG1-v2またはH16/L13-F14と同時に投与したhIL-6は、H16/L13-IgG1と同時に投与したhIL-6と比較して、顕著により速やかに消失することが示された。H16/L13-IgG1-v2は、1日目でH16/L13-IgG1と比較して血漿中hIL-6濃度を約10倍低減させた。H16/L13-F14は、7時間でH16/L13-IgG1と比較して血漿中hIL-6濃度を約38倍低減させた。このように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能を付与することにより、血漿中ヒトIL-6濃度を減少させることができることが判明した。先に記載したように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能を付与することにより、血漿中抗体濃度は減少した;しかしながら、抗体濃度の低下を大きく上回る、血漿中hIL-6濃度を低下させる効果が得られた。具体的には、このことは、pH依存的にヒトIL-6に結合する抗体を投与することによってヒトIL-6の消失を加速することができること、およびこれは中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能によってもたらされることを意味する。
【0404】
上記の知見は、ヒト可溶型IL-6受容体の濃度のみならず、ヒトIL-6の濃度などの抗原の血漿中抗原濃度もまた、pH依存的抗原結合能および中性条件下におけるFcRn結合能の双方を有する抗体を投与することによって有意に減少させることができることを示す。
【0405】
〔実施例16〕ヒトIgAにpH依存的に結合する受容体-Fc融合タンパク質のヒトIgA消失加速効果の向上検討
pH依存的にヒトIgAに結合する受容体-Fc融合タンパク質の作製
A0H-IgG1(配列番号:22)の二量体を含むA0-IgG1は、ヒトCD89-Fc融合タンパク質である。J. Mol. Biol. (2003) 324: 645-657に記載されるように、ヒトFcα受容体Iとしても知られるヒトCD89は、ヒトIgAにpH依存的に結合する(すなわち、pH中性域においてヒトIgAに強く結合し、pH酸性域においてはヒトIgAに弱く結合する)。
【0406】
ヒトIgAに対するCD89-Fc融合タンパク質のpH依存的結合活性の評価
A0-IgG1を、Biacore T100(GE Healthcare)を用いてpH6.0およびpH7.4でヒトIgA結合活性(解離定数(KD))に関して評価した。ランニングバッファーとして0.05% Surfactant P20(pH7.4およびpH6.0)を含有する10 mmol/l ACES/150 mmol/l NaClを用いて測定を行った。アミノカップリング法で固定化したセンサーチップ上の組換え型プロテインA/G(Thermo Scientific)に対してCD89-Fc融合タンパク質を結合させた後、アナライトとして適切な濃度のhIgA(ヒトIgA:参考例5に記載した通りに調製した)をインジェクトした。測定を37℃で行った。測定結果をBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて解析し、得られたセンサーグラムを
図32に示した。CD89-Fc融合タンパク質はpH依存的ヒトIgA結合活性を有し、pH中性域においてはヒトIgAに強く結合するが、pH酸性域においてはヒトIgAに弱く結合することが明らかに示された。
【0407】
中性条件下におけるFcRn結合活性を有するpH依存的受容体-Fc融合タンパク質の調製
中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増加させるために、A0H-IgG1(配列番号:22)の二量体を含むA0-IgG1に変異を導入した。具体的には、IgG1の重鎖定常領域に対して、A0-IgG1の426番目をAsnからTrpに置換することによりA0-IgG1-v2を調製した。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0408】
A0H-IgG1(配列番号:22)の二量体を含むA0-IgG1およびA0H-IgG1-v2(配列番号:23)の二量体を含むA0-IgG1-v2を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0409】
正常マウスを用いたインビボ試験
hIgA単独またはhIgAおよびCD89-Fc融合タンパク質(A0H-IgG1またはA0H-IgG1-v2)を正常マウス(C57BL/6Jマウス; Charles River Japan)に投与した後、ヒトIgA(hIgA)およびCD89-Fc融合タンパク質の体内動態を評価した。hIgA溶液(80μg/ml)またはhIgAとCD89-Fc融合タンパク質とを含有する混合溶液(それぞれ、80μg/mlおよび1.5 mg/ml、hIgAのほとんどはCD89-Fc融合タンパク質に結合した)を尾静脈に10 ml/kgの用量で1回投与した。投与15分後、7時間後、1日後、2日後、4日後、および7日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0410】
血漿中ヒトIgA濃度のELISA法による測定
組換え型ヒトIgAはhsIL-6Rに対する可変領域を有することから、hsIL-6Rを用いてマウス血漿中のヒトIgA濃度をELISA法にて測定した。ヤギ抗ヒトIgA抗体(Bethyl Laboratories)をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp(Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置して抗ヒトIgA固定化プレートを調製した。0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、または0.00625 μg/mlの血漿中濃度を有する検量線試料および100倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料中の全てのヒトIgAをhsIL-6Rに結合させるために、10μg/mlのヒトIL-6R 200μlを検量線試料および血漿試料100μlに加えた後、試料を室温で1時間静置した。その後、試料を抗ヒトIgA固定化プレートに分注し、室温で1時間静置した。その後、ビオチン化抗ヒトIL-6R抗体(R&D)を添加して室温で1時間反応させた。その後、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を添加して室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応を行った。1N硫酸(Showa Chemical)によって反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の正常マウスにおける血漿中hIgA濃度推移を
図33に示す。
【0411】
血漿中CD89-Fc融合タンパク質濃度のELISA法による測定
マウス血漿中のCD89-Fc融合タンパク質濃度はELISAにて測定した。抗ヒトIgG(γ鎖特異的)F(ab')2抗体断片(Sigma)をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp(Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置して抗ヒトIgG固定化プレートを調製した。25.6、12.8、6.4、3.2、1.6、0.8、および0.4μg/mlの血漿中濃度を有する検量線試料および100倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料中の全てのCD89-Fc融合タンパク質をヒトIgAに結合させるために、5μg/mlのヒトIgA 200μlを検量線試料および血漿試料100μlに添加した後、試料を室温で1時間静置した。その後、試料を抗ヒトIgG固定化プレートに分注し室温で1時間静置した。次に、ヤギ抗ヒトIgG(Fc特異的)-アルカリホスファターゼコンジュゲート(SIGMA)を添加して室温で1時間反応させた。その後、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories)を基質として用いて発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の正常マウスにおける血漿中CD89-Fc融合タンパク質濃度推移を
図34に示す。
【0412】
中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合の効果
A0-IgG1の他に、上記のアミノ酸置換をA0-IgG1に導入することにより生じるA0-IgG1-v2について、正常マウスを用いて生体内で試験した。試験結果をA0-IgG1の結果と比較した。
図34に示すように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加した血漿中A0-IgG1-v2濃度は、投与2日後でA0-IgG1より1.8倍低かった。
【0413】
図33に示すように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加したA0-IgG1-v2と同時に投与したhIgAは、A0-IgG1と同時に投与したhIgAと比較して顕著により速やかに消失することが示された。A0-IgG1-v2は、2日目でA0-IgGと比較して血漿中hIgA濃度を約5.7倍低減させた。先に記載したように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能を付与することによって、血漿中抗体濃度は減少した;しかしながら、抗体濃度の低下を大きく上回る、血漿中hIgA濃度の減少の効果が得られた。具体的には、このことは、pH依存的にヒトIgAに結合する受容体-Fc融合タンパク質を投与することによってヒトIgAの消失を加速することができること、およびこれは中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能によってもたらされることを意味している。
【0414】
上記の知見は、ヒトIgAの濃度などの血漿中抗原濃度もまた、pH依存的抗原結合能および中性条件下におけるFcRn結合能の双方を有する受容体-Fc融合タンパク質を投与することによって有意に減少させることができることを示している。ゆえに、受容体-Fc融合タンパク質もまた、血漿において血漿中抗原(またはリガンド)濃度を減少させる能力を有するように操作することができる。
【0415】
〔実施例17〕pH依存的抗ヒトプレキシンA1抗体のプレキシンA1消失加速効果の向上検討(抗体の調製)
pH依存的ヒトプレキシンA1結合抗体について
PX268H-IgG1(配列番号:24)とPX268L-CK(配列番号:25)とを含むPX268-IgG1は、キメラ抗プレキシンA1抗体である。PX141H-IgG1(配列番号:26)とPX141L-CK(配列番号:27)とを含むPX141-IgG1は、可溶型ヒトプレキシンA1にpH依存的に結合する(すなわち、pH中性域においては可溶型ヒトプレキシンA1に強く結合するが、pH酸性域においては可溶型ヒトプレキシンA1に弱く結合する)キメラ抗プレキシンA1抗体である。
【0416】
ヒトプレキシンA1に対する抗ヒトプレキシンA1抗体のpH依存的結合活性の評価
PX268-IgG1およびPX141-IgG1を、Biacore T100(GE Healthcare)によってpH6.0およびpH7.4でヒトプレキシンA1結合活性(解離定数(KD))に関して評価した。ランニングバッファーとして0.05% Surfactant P20(pH7.4およびpH6.0)を含有する10 mmol/l ACES/150 mmol/l NaClを用いて測定を行った。アミノカップリング法で固定化したセンサーチップ上の組換え型プロテインA/G(Thermo Scientific)に対して抗体を結合させた後、アナライトとして適切な濃度のhsプレキシンA1(可溶型ヒトプレキシンA1:参考例5に記載の通りに調製した)をインジェクトした。測定を37℃で行った。測定結果をBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて解析し、結合速度定数ka(1/Ms)および解離速度定数k
d(1/s)を測定結果から算出した。次に、kaおよびk
dからKD(M)を算出した(表15)。さらに、pH依存的結合を評価して、各抗体についてpH7.4とpH6.0のKD比を算出した。
【0417】
【表15】
【0418】
中性条件下におけるFcRn結合活性を有するpH依存的抗ヒトプレキシンA1抗体の調製
中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増大させるためにPX141H-IgG1(配列番号:26)とPX141L-CK(配列番号:27)とを含むPX141-IgG1に変異を導入した。具体的には、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングにおける434番目をAsnからTrpに置換することによりPX141H-IgG1-v2(配列番号:28)を調製した。アミノ酸置換の導入は参考例1に記載の当業者公知の方法に従って実施した。
【0419】
PX268H-IgG1(配列番号:24)とPX268L-CK(配列番号:25)とを含むPX268-IgG1、PX141H-IgG1(配列番号:26)とPX141L-CK(配列番号:27)とを含むPX141-IgG1、およびPX141H-IgG1-v2(配列番号:28)とPX141L-CK(配列番号:27)とを含むPX141-IgG1-v2を、参考例2に記載の当業者公知の方法によって発現および精製した。
【0420】
正常マウスを用いたインビボ試験
hsプレキシンA1単独またはhsプレキシンA1および抗ヒトプレキシンA1抗体を正常マウス(C57BL/6Jマウス; Charles River Japan)に投与した後、可溶型ヒトプレキシンA1(hsプレキシンA1)および抗ヒトプレキシンA1抗体の体内動態を評価した。hsプレキシンA1溶液(100μg/ml)またはhsプレキシンA1と抗ヒトプレキシンA1抗体とを含有する混合溶液(PX268-IgG1群:100μg/mlのhsプレキシンA1および1.2 mg/mlのPX268-IgG1;PX141-IgG1群およびPX141-IgG1-v2群;それぞれ、100μg/mlのhsプレキシンA1および各々1.0 mg/mlのPX141-IgG1およびPX141-IgG1-v2)を尾静脈に10 ml/kgの用量で1回投与した。
【0421】
抗体の用量は、投与溶液中の抗体に可溶型ヒトプレキシンA1の99.9%超が結合するように設定した。hsプレキシンA1および抗ヒトプレキシンA1抗体溶液の混合物を投与した15分後、7時間後、1日後、2日後、4日後、7日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0422】
hsプレキシンA1単独投与後の血漿中ヒトプレキシンA1濃度のELISA法による測定
組換え型ヒトプレキシンA1はC末端にFLAGタグ配列を有することから、ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma)を用いてマウス血漿中のヒトプレキシンA1濃度をELISA法にて測定した。プレキシンA1をウサギに免疫することによって調製したウサギ抗ヒトプレキシンA1ポリクローナル抗体をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp(Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置して抗ヒトプレキシンA1固定化プレートを調製した。25.6、12.8、6.4、3.2、1.6、および0.8μg/mlの血漿中濃度を有する検量線試料ならびに100倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。その後、試料を抗ヒトプレキシンA1固定化プレートに分注し、室温で1時間静置した。その後ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma)を添加して、室温で1時間反応させた。その後Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を添加して室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応を行った。1N硫酸(Showa Chemical)によって反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の血漿中hsプレキシンA1濃度推移を
図35に示す。
【0423】
PX268-IgG1群における血漿中ヒトプレキシンA1濃度のELISA法による測定
組換え型ヒトプレキシンA1はC末端にFLAGタグ配列を有することから、ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma)を用いてマウス血漿中のヒトプレキシンA1濃度をELISA法にて測定した。プレキシンA1をウサギに免疫することによって調製されたウサギ抗ヒトプレキシンA1ポリクローナル抗体をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp(Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置して抗ヒトプレキシンA1固定化プレートを調製した。25.6、12.8、6.4、3.2、1.6、および0.8 μg/mlの血漿中濃度を有する検量線試料ならびに50倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料中の全てのヒトプレキシンA1をPX268-IgG1に結合させるために、40μg/mlのPX268-IgG1 150μlを検量線試料および血漿試料150μlに加えた後、試料を37℃で一晩静置した。その後、試料を抗ヒトプレキシンA1固定化プレートに分注し、室温で(または4℃で)1時間静置した。その後、ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma)を添加して室温(または4℃)で1時間反応させた。その後、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を添加して室温(または4℃)で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応を行った。1N硫酸(Showa Chemical)によって反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の血漿中hsプレキシンA1濃度推移を
図35に示す。
【0424】
PX141-IgG1およびPX141-IgG1-v2群における血漿中ヒトプレキシンA1濃度のELISA法による測定
組換え型ヒトプレキシンA1はC末端にFLAGタグ配列を有することから、ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma)を用いてマウス血漿中のヒトプレキシンA1濃度をELISA法にて測定した。PX268-IgG1をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp(Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置して抗ヒトプレキシンA1固定化プレートを調製した。25.6、12.8、6.4、3.2、1.6、および0.8 μg/mlの血漿中濃度を有する検量線試料ならびに50倍以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料中の全てのヒトプレキシンA1をPX141-IgG1またはPX141-IgG1-v2に結合させるために、40μg/mlのPX141-IgG1またはPX141-IgG1-v2 150μlを検量線試料および血漿試料150μlに加えた後、試料を37℃で一晩静置した。その後、試料を抗ヒトプレキシンA1固定化プレートに分注し、室温(または4℃)で1時間静置した。その後、ビオチン化抗FLAG M2抗体(Sigma)を添加して室温(または4℃)で1時間反応させた。その後、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を添加して室温(または4℃)で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応を行った。1N硫酸(Showa Chemical)によって反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与7時間後の血漿中hsプレキシンA1濃度を
図35に示す。
【0425】
可溶型ヒトプレキシンA1に対するpH依存的結合の効果
ヒトIL-6にpH依存的に結合するPX268-IgG1およびPX141-IgG1を生体内で試験し、それらの結果を比較した。一方、
図35に示すように、可溶型ヒトプレキシンA1にpH依存的に結合するPX141-IgG1と同時に投与したhsプレキシンA1は、PX268-IgG1と同時に投与したhsプレキシンA1と比較して、血漿中総hsプレキシンA1濃度を減少させることが見出された。
【0426】
中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合の効果
PX141-IgG1の他に、上記のアミノ酸置換をPX141-IgG1に導入することにより生じるPX141-IgG1-v2について、正常マウスを用いて生体内で試験した。試験結果をPX141-IgG1と比較した。
【0427】
図35に示すように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRnに対する結合が増加したPX141-IgG1-v2と同時に投与したhsプレキシンA1は、血漿中総hsプレキシンA1濃度を検出不可能なレベル(検出限界は0.8μg/ml)まで減少させることが示された。このように、中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能を付与することによって、可溶型ヒトプレキシンA1濃度を減少させることができることが判明した。具体的には、このことは、ヒトプレキシンA1にpH依存的に結合する抗体を投与することによって可溶型ヒトプレキシンA1の消失を加速させることができること、およびこれは中性条件下(pH7.4)におけるマウスFcRn結合能によってもたらされることを意味している。
【0428】
上記の知見は、ヒト可溶型IL-6受容体の濃度のみならず、ヒトIL-6、ヒトIgA、およびヒト可溶型プレキシンA1の濃度などの抗原の血漿中抗原濃度もまた、pH依存的抗原結合能および中性条件下におけるFcRn結合能の双方を有する抗体を投与することによって有意に減少させることができることを示している。
【0429】
〔参考例1〕IgG抗体のアミノ酸置換した発現ベクターの構築
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)またはIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて、添付説明書記載の方法で変異体を作製し、得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。
【0430】
〔参考例2〕IgG抗体の発現と精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行った。製造元の提供するプロトコールに記載のようにFreestyleHEK293 (Invitrogen) により、またはHEK293H 株 (Invitrogen)により抗体を発現させた。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 10
5個 /mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO
2インキュベーター(37℃、5 % CO
2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(登録商標)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A Sepharose(商標) Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からProtein Science 1995 ; 4 : 2411-2423に記された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した。
【0431】
〔参考例3〕可溶型ヒトIL-6受容体(hsIL-6R)の調製
抗原として組み換えヒトIL-6受容体を以下のように調製した。J. Immunol. 152, 4958-4968 (1994)で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6受容体(以下、hsIL-6R)を恒常的に発現する細胞株を当業者公知の方法で樹立し、培養し、hsIL-6Rを発現させた。得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーの2工程によりhsIL-6Rを精製した。最終工程においてメインピークとして溶出した画分を最終精製品として用いた。
【0432】
〔参考例4〕ヒトFcRnの調製
FcRnは、FcRnとβ2-ミクログロブリンとの複合体である。公表されているヒトFcRn遺伝子配列に基づいてオリゴDNAプライマーを調製した(J Exp Med. 1994 Dec 1; 180(6): 2377-81)。遺伝子全体をコードするDNA断片は、調製したプライマーおよび鋳型としてヒトcDNA(Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)を用いてPCRによって調製した。得られたDNA断片を鋳型として用い、シグナル領域(Met1〜Leu290)を含有する細胞外ドメインをコードするDNA断片をPCRによって増幅し、哺乳動物細胞発現ベクターに挿入した。同様に、公表されているヒトβ2-ミクログロブリン遺伝子配列(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (26): 16899-16903 (2002))に基づいてオリゴDNAプライマーを調製した。遺伝子全体をコードするDNA断片は、調製したプライマーおよび鋳型としてヒトcDNA(Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)を用いてPCRによって調製した。得られたDNA断片を鋳型として用い、シグナル領域(Met1〜Met119)を含有するタンパク質全体をコードするDNA断片をPCRによって増幅し、哺乳動物細胞発現ベクターに挿入した。
【0433】
可溶型ヒトFcRnを以下の手順により発現させた。ヒトFcRn(配列番号:30)およびβ2-ミクログロブリン(配列番号:31)を発現させるために構築したプラスミドを、PEI(Polyscience)を用いたリポフェクション法によって、ヒト胎児腎癌由来細胞株HEK293H(Invitrogen)の細胞に導入した。得られた培養上清を回収して、IgG Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて精製した後にHiTrap Q HP(GE Healthcare)(J Immunol. 2002 Nov 1; 169(9): 5171-80)を用いることによってFcRnをさらに精製した。
【0434】
〔参考例5〕ヒトIgA(hIgA)の調製
H(WT)-IgA1(配列番号:29)とL(WT)(配列番号:5)とを含むhIgAを発現させて、当業者公知の方法によってrProtein L-agarose(ACITgen)の後にゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製した。
【0435】
〔参考例6〕可溶型ヒトプレキシンA1(hsプレキシンA1)の調製
抗原として組換え型可溶型ヒトプレキシンA1(以下、hsプレキシンA1)を以下のように調製した。NCBI参照配列(NP_115618)を参照してhsプレキシンA1を構築した。特に、hsプレキシンA1は、上記のNCBI参照由来の27番目から1243番目のアミノ酸配列からなり、そのC末端にFLAGタグ(DYKDDDDK)が接続された。hsプレキシンA1を、FreeStyle293(Invitrogen)を用いて一過性に発現させ、培養上清から、抗FLAGカラムクロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーの2工程により精製した。最終工程においてメインピークとして溶出した分画を最終精製品として用いた。