特許第6029265号(P6029265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6029265-空気入りラジアルタイヤ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029265
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 3/06 20060101AFI20161114BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20161114BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20161114BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B60C3/06
   B60C5/00 H
   B60C9/08 M
   B60C15/06 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-163620(P2011-163620)
(22)【出願日】2011年7月26日
(65)【公開番号】特開2013-28200(P2013-28200A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年5月12日
【審判番号】不服2016-144(P2016-144/J1)
【審判請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】内山 悠史
(72)【発明者】
【氏名】大野 康明
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 森林 宏和
【審判官】 一ノ瀬 覚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−136919(JP,A)
【文献】 特開昭63−199102(JP,A)
【文献】 特開2006−188222(JP,A)
【文献】 特開2009−274477(JP,A)
【文献】 特開2007−168601(JP,A)
【文献】 特開2001−71715(JP,A)
【文献】 特開平4−66311(JP,A)
【文献】 特開平4−56608(JP,A)
【文献】 特開昭61−188203(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/009068(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C3/06,B60C5/00,B60C9/08-9/09,B60C15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコアと、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分および、該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分を有する一枚以上のカーカスプライと、カーカスプライの本体部分と折り返し部分との間で、それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラとを具える空気入りラジアルタイヤであって、
各ビードフィラの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させ、
タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくし、
該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させてなり、
車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなる、
空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
少なくとも一方のサイドウォール部で、前記半径方向内側円弧部よりタイヤ半径方向内側に、変曲点を介してビードトウまで延びて、タイヤ幅方向内側に凸となる円弧状部分を有するビード内壁部を設け、
前記変曲点を、タイヤ半径方向で、ビードフィラの前記半径方向外端と、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点との間に位置させてなる請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
ビードフィラの前記半径方向外端を、カーカスプライの折り返し端よりタイヤ半径方向内側に配置してなる請求項に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
タイヤ赤道面よりも車両装着姿勢でタイヤ幅方向内側にずらして配置した中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢外側に配置した周溝と、により区画される第1のセンター陸部を、前記中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢内側に配置した周溝と、により区画される第2のセンター陸部よりも広幅としてなる、請求項1〜のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーカスプライの、一対のビード部間にトロイド状に延びる本体部分と、ビード部に埋設配置したビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分との間で、各ビードコアの外周側に、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラを配設してなる空気入りラジアルタイヤに関するものであり、とくには、タイヤの転がり抵抗を有効に低減させることのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費に影響を及ぼす、タイヤの転がり抵抗は一般に、タイヤの負荷転動時のエネルギー損失、多くは、タイヤを構成するゴム部材の、繰り返し変形による発熱に起因して増加するものと考えられており、タイヤの負荷転動に際しては、ゴムボリュームの大きいクラウン域に存在する、トレッドゴムやベルト被覆ゴム等のゴム部材の発熱量がとくに多くなることから、転がり抵抗を低減させるには、クラウン域のゴム部材の、タイヤの繰り返し変形に伴う発熱を小さく抑えることが有効である。
【0003】
ここで、クラウン域での発熱は、所定の荷重を負荷されて接地したタイヤが、クラウン域の円環形状を維持しつつ鉛直方向上方に変形するときの偏心剛性を低下させることにより効果的に抑制することができる。
これはすなわち、タイヤの接地時の変形は、主として、クラウン域が円環形状を保ったまま、タイヤの回転軸線に対し、鉛直上方に変形する一次変形モードのいわゆる偏心変形と、クラウン域のゴム部材がタイヤの回転軸線に対し、鉛直方向に圧潰変形される二次変形モードとの二つの変形モードに大別することができるが、後者の二次変形モードは、クラウン域が繰り返し圧潰変形されることに起因する、クラウン域に配設したゴム部材の発熱量の増大を招くので、上記の偏心剛性を低下させて、二次変形モードの割合を減少させ、タイヤへの負荷荷重の多くの部分を、一次変形モードである偏心変形で受け持たせることによれば、クラウン域での発熱量を小さく抑えて転がり抵抗を有効に低減させることができる。
【0004】
ところで、特許文献1には、トレッド部での変形を抑制して、タイヤの転がり抵抗を低減させることを目的として、「トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、ビード部内のビードコア間にトロイド状に延在する本体部および、ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向けて折り返した折返し部を持つ少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカスと、このカーカスのクラウン域の外周側に配置されて、タイヤ赤道面に対して傾斜する向きに延在するコードを有する一層以上の傾斜ベルト層により形成したベルトと、このベルトの半径方向外方に配設したトレッドゴムとを具える空気入りタイヤにおいて、適用リムに組み付けた内圧無負荷状態の、タイヤの子午線断面内での、最狭幅の傾斜ベルト層の幅方向端縁とタイヤ最大幅位置との間に位置する、カーカスの曲率半径が最小となる部分および、カーカスの本体部からタイヤ外側面までのゴム厚みが最小となる部分を設けてなる」ものが提案されている。
【0005】
そして、この提案技術によれば、「適用リムに組み付けた内圧無負荷状態のタイヤの子午線断面内で、最狭幅の傾斜ベルト層の幅方向端縁とタイヤ最大幅位置との間に、カーカスの曲率半径が最小となる部分および、カーカスプライの本体部からタイヤ外側面までのゴム厚みが最小となる部分のそれぞれを設けることで、ベルトやカーカスプライの折返し部等の補強部材が配設されず、カーカスプライとゴムのみからなる領域の、カーカスの曲率半径が最小となるトレッド部分に荷重負荷時の屈曲を集中させることで、変形によって多くのエネルギーロスを生じる部分の変形を抑制する一方、変形によるエネルギーロスの少ない部分を優先的に変形させて、歪エネルギー損失を有効に低減させることができる。」としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−260408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、特許文献1に記載されたタイヤでは、上述したような、偏心剛性を低下させるためのタイヤの輪郭形状等には十分に着目されておらず、また、「最狭幅の傾斜ベルト層の幅方向端縁とタイヤ最大幅位置との間に、カーカスの曲率半径が最小となる部分・・・を設ける」ことから、タイヤの負荷転動時に、カーカスの曲率半径の小さい、タイヤ最大幅位置よりタイヤ半径方向外側のサイドウォール部分が大きく屈曲変形することになり、これがため、転がり抵抗に大きな影響を及ぼすクラウン域での発熱量を、偏心剛性の低下に基いて十分小さく抑えることができなかった。
【0008】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、タイヤサイドウォール部の輪郭形状の適正化を図って、偏心剛性を有効に低下させ、それにより、転がり抵抗の低減を実現することができる空気入りラジアルタイヤを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコアと、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分および、該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分を有する一枚以上のカーカスプライと、カーカスプライの本体部分と折り返し部分との間で、それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラとを具える空気入りラジアルタイヤであって、
各ビードフィラの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させ、
タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくし、
該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させてなり、車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなるものである。
【0010】
なおここで、「適応リム」とは、タイヤサイズに応じて下記の規格に規定されたリムをいい、「規定内圧」とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「最大負荷能力」とは、下記の規格でタイヤに負荷されることが許容される最大の質量をいう。
そして、その規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格をいい、たとえば、アメリカ合衆国では、“THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.のYEAR BOOK”であり、欧州では、“The European Tyre and Rim Technical OrganizationのSTANDARDS MANUAL”であり、日本では日本自動車タイヤ協会の“JATMA YEAR BOOK”である。
【0013】
そしてまた好ましくは、少なくとも一方のサイドウォール部で、前記半径方向内側円弧部よりタイヤ半径方向内側に、変曲点を介してビードトウまで延びて、タイヤ幅方向内側に凸となる円弧状部分を有するビード内壁部を設け、前記変曲点を、タイヤ半径方向で、ビードフィラの前記半径方向外端と、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点との間に位置させる。
ここにおいて、ビードフィラの前記半径方向外端は、カーカスプライの折り返し端よりタイヤ半径方向内側に配置することが好ましい。
また、タイヤ赤道面よりも車両装着姿勢でタイヤ幅方向内側にずらして配置した中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢外側に配置した周溝と、により区画される第1のセンター陸部を、前記中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢内側に配置した周溝と、により区画される第2のセンター陸部よりも広幅としてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の空気入りラジアルタイヤによれば、少なくとも一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくすることにより、タイヤに所定の荷重が作用した際に、サイドウォール部が、前記内面中間点に対し、半径方向外側の部分に比して、内面の曲率半径が小さい半径方向内側の部分で大きく屈曲変形することになり、しかも、高剛性のゴム材料からなる各ビードフィラの半径方向外端を、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させたことで、サイドウォール部の、クラウン域のゴム部材から大きく離隔する半径方向内側の部分での、車両の上下方向の屈曲変形がより大きなものとなって、クラウン域のゴム部材の変形を伴うことなく偏心剛性を有効に低下させることができるので、タイヤの負荷転動に際する、クラウン域のゴム部材に生じる発熱を十分小さく抑えて、転がり抵抗を効果的に低減させることができる。
またこのタイヤは、ビードフィラの配設高さを低くしたことによって、ビードフィラの重量を軽減することができるので、このことによっても、車両の燃費の向上に寄与することができる。
【0015】
ところで、上記のタイヤを、ネガティブ方向のキャンバー角を付与した姿勢で車両に取り付けて使用に供する場合は、とくに、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部に大きな荷重が作用することから、その一方のサイドウォール部で、半径方向内側円弧部の曲率半径を、半径方向外側円弧部の曲率半径よりも小さくし、また、前記キャンバー角の付与によるタイヤの傾斜姿勢に合わせて、一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置する他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させたときは、一方のサイドウォール部で、半径方向内側円弧部の、小さい曲率半径の故に屈曲変形し易いタイヤ半径方向内側の部分を、タイヤ半径方向に小さな領域とすることにより、上述したような、偏心剛性の低下に基く、転がり抵抗の低減効果をより有効に発揮させることができる。
【0016】
しかもここでは、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置する他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させることにより、車両内側のサイドウォール部では、内面の曲率半径が大きいタイヤ半径方向外側の部分の、タイヤ半径方向の領域が、車両外側のサイドウォール部に比して大きくなることの故に、車両内側の、ねじり方向の剛性が高くなるので、車両内側のサイドウォール部が、ハンドル操作による力をタイヤ踏面に伝達しやすくなることにより、微小舵角でのコーナーリングパワーが発生し易くなって、車両の、安定した走行を実現することができる。
またこの場合は、車両外側のサイドウォール部の内面中間点は、車両内側のサイドウォール部のそれよりもタイヤ半径方向外側に位置することになるので、ネガティブ方向のキャンバー角を付与したタイヤ装着姿勢であっても、十分大きな接地面積を確保して、直進走行性能を効果的に高めることができる。
【0017】
また、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしたときは、車両の内側に位置するサイドウォール部で、半径方向内側円弧部の曲率半径を、半径方向外側円弧部の曲率半径よりも小さくして、上述したところと同様に、車両の走行性能を有効に向上させることができる。
【0018】
ここにおいて、少なくとも一方のサイドウォール部で、前記半径方向内側円弧部よりタイヤ半径方向内側に、変曲点を介してビードトウまで延びて、タイヤ幅方向内側に凸となる円弧状部分を有するビード内壁部を設け、前記変曲点を、タイヤ半径方向で、ビードフィラの前記半径方向外端と、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点との間に位置させるときは、リムフランジからの離反点位置での、サイドウォール部の厚みを薄くすることができるので、サイドウォール部の、タイヤ幅方向外側への倒れ込みを十分に防止できる程度のビードフィラ厚みを確保してなお、タイヤの負荷転動時に、サイドウォール部が、前記離反点を起点として撓み変形した際の、サイドウォール部内面の、離反点近傍領域での表面ひずみの増大を有効に抑制して応力の集中を防止することができる。
ところで、前述したように、ネガティブ方向のキャンバー角を付与した場合のように、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部に作用する荷重が大きくなることに伴って、そのサイドウォール部の内面側の前記表面ひずみもまた増大する場合は、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部で、変曲点を、ビードフィラの前記半径方向外端と、リムフランジからの離反点との間に位置させることがとくに効果的である。
【0019】
またここで、ビードフィラの前記半径方向外端を、カーカスプライの折り返し端よりタイヤ半径方向内側に配置するときは、ビードフィラの存在により、ブラダーがタイヤ内面を押す力が弱まることにより、サイドウォールを薄く成型することが困難になることを防止できる。そのため、サイドウォール部の倒れ込みによる耐久性の低下を防止するに必要なゲージ厚みを有するタイヤを確実に成型することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一の実施形態を示す、タイヤ幅方向の略線断面図である。
図2図1に示すタイヤに適用することができるトレッドパターンの部分展開平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について説明する。
図1に例示する空気入りタイヤは、一対のビード部1に配設したそれぞれのビードコア2と、一対のビード部1からサイドウォール部3を経てトレッド部4に到る、トロイド状の本体部分5aおよび、ビードコア2の周りに折り返してなる折り返し部分5bからなる一枚以上、ここでは一枚のラジアル構造のカーカスプライ5と、カーカスプライ5の本体部分5aと折り返し部分5bとの間で、各ビードコア2の外周側に隣接させて配設されて、タイヤ半径方向外側に向けて厚みを漸減させた、図示の断面で略三角形状のビードフィラ6とを具える。
【0022】
ここで、カーカスプライ本体部分5aのクラウン域の外周側には、二層のベルト層7,8および、トレッド踏面を形成するトレッドゴム9のそれぞれを順次に配設する。
なお、一層または、三層以上配設することもできるベルト層は、たとえば、タイヤ周方向に対し所要の角度で傾斜して延びるスチールコードもしくは有機繊維コード等を、ゴム被覆して形成することができ、図では二層のベルト層7,8は、コードを、タイヤ赤道面Cに対して相互に逆方向に延在させることで、ベルト層コードを層間で互いに交差する向きに延在させている。
【0023】
ここにおいて、この発明では、タイヤサイドウォール部の偏心剛性を低下させて、転がり抵抗を有効に低減させるため、各ビードフィラ6の半径方向外端6aを、図に仮想線で示すように、適用リムRに組み付けた姿勢の下で、ビード部外表面の、リムフランジからの離反点eよりタイヤ半径方向内側に位置させる。
またここでは、各サイドウォール部3の内面を、図示の幅方向断面で、タイヤ赤道面Cからタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点mを境界として、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部10および半径方向外側円弧部11で形成し、それらの円弧部10,11の相互を内面中間点mで連続させ、そして、少なくとも一方のサイドウォール部3で、半径方向内側円弧部10の曲率半径R1を、半径方向外側円弧部11の曲率半径R2よりも小さくする。
【0024】
このことによれば、タイヤの負荷転動時に、サイドウォール部3が、内面の曲率半径が小さい、内面中間点mよりも半径方向内側部分で大きく屈曲変形することになるので、高剛性のビードフィラ6の配設高さが低いこととも相俟って、偏心剛性を低下させることができる他、サイドウォール部3の、ゴムボリュームの大きい半径方向外側部分の変形量を少なくして、その半径方向外側部分の発熱を抑えることができ、これらの結果として、タイヤの転がり抵抗を有効に低減することができる。
【0025】
なお、タイヤを車両に取り付けるに当たって、タイヤに、ネガティブ方向のキャンバー角を付与する場合は、図ではタイヤの左半部と右半部のそれぞれのサイドウォール部3のうち、車両への装着姿勢で、車両の内側に位置することになる、図の左側のサイドウォール部3で、内面の曲率半径を、半径方向外側円弧部11よりも半径方向内側円弧部10で小さくするとともに、該サイドウォール部3の内面中間点mを、車両の外側に位置することになる、図の右側のサイドウォール部3の内面中間点mに比してタイヤ半径方向内側に位置させる。これにより、転がり抵抗の低減効果をさらに高めることができ、また、直進走行時の操縦安定性能をも向上させることができる。
なおこの場合、車両の外側に位置する右側のサイドウォール部3では、内面の曲率半径を、半径方向外側円弧部11よりも半径方向内側円弧部10で大きくすることもできる。
またここで、カーカスプライ5のペリフェリ長さは、図示のタイヤ姿勢で、タイヤ赤道面Cに対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くすることが好ましい。
【0026】
ところで、ビードフィラ6は、サイドウォール部3の、タイヤ幅方向外側への倒れ込みを防止するべく機能するが、このビードフィラ6の配設に起因して、サイドウォール部3の、リムフランジからの離反点eの位置での、サイドウォール部の総厚みtが厚くなると、サイドウォール部3が、リムフランジからの離反点eを起点として撓み変形する際に、その離反点位置での、内面側の表面ひずみの増大を招いて、タイヤの耐久性能が低下するおそれがある。
【0027】
このような表面ひずみの発生を抑制するとともに、サイドウォール部3の倒れ込みを十分に防止できるビードフィラ厚みを確保するため、半径方向内側円弧部10よりタイヤ半径方向内側に、図示の断面で、変曲点Pを介してその半径方向内側円弧部10に連続してビード部1まで延びて、タイヤ幅方向内側に凸となる円弧状部分を有するビード内壁部12を設けるときは、前記変曲点Pを、タイヤ半径方向で、ビードフィラ6の半径方向外端6aと、リムフランジからの離反点eとの間に位置させることが好ましい。
なお、この場合において、ビードフィラ6の半径方向外端6aは、カーカスプライ5の折り返し端5cのタイヤ半径方向内側に配設することが好ましい。
【0028】
ここで、離反点eの位置で、サイドウォール部内面に発生する上記の表面ひずみは、ネガティブ方向のキャンバー角を付与して、車両の装着したタイヤの、車両の内側に位置する左側のサイドウォール部3でとくに大きくなることから、車両の内側のサイドウォール部3での表面ひずみの発生を有効に防止するべく、このサイドウォール部3で、変曲点Pを、ビードフィラ6の半径方向外端6aと、離反点eとの間に位置させることができる。
【0029】
ところで、サイドウォール部3の輪郭形状を、上述したように、車両の内外のそれぞれで相違させたときは、トレッドパターンもまた、たとえば、図2に示すような、タイヤ赤道面Cに対し車両の内側の領域と、外側の領域とで異なる非対称パターンとすることができる。
【0030】
図2に例示するパターンは、トレッドゴム9によって形成されるトレッド踏面20に、タイヤ周方向に延びる三本の周溝21,22,23を設けて、それぞれのショルダー陸部24,25および、それぞれのセンター陸部26,27を区画形成してなるものであるが、図示のこのパターンでは、センター周溝22を、タイヤ赤道面Cよりも車両の内側にずらして配置して、車両外側のセンター陸部27を、車両内側のセンター陸部26に比して広幅とする。
【0031】
またここでは、センター周溝22と、車両の外側に位置するショルダー周溝23とで画成される広幅のセンター陸部27に、該センター陸部27の、トレッド幅方向の中間域で、次第に溝幅を減じてトレッド周方向に向けて延びる縦溝28と、縦溝28の、溝幅の狭い端部を、センター周溝22に連通させる湾曲サイプ39と、湾曲サイプ39の、周溝22との連通箇所からほぼ直線状に傾斜して延びて、トレッド周方向に隣接する他の縦溝28の、溝幅の広い端部に開口する傾斜溝29とのそれぞれを設けるとともに、それらの縦溝28および傾斜溝29のいずれにも開口せずに、トレッド周方向に対して傾斜して延びる傾斜サイプ30の複数本を、トレッド周方向に所要の間隔をおいて形成する。
この一方で、センター周溝22と、車両の内側に位置するショルダー周溝21とで画成される狭幅のセンター陸部26には、前記傾斜溝29の延長線上で該傾斜溝29に平行して延びて、それぞれの周溝21,22に開口する傾斜横溝31を設けるとともに、該傾斜横溝31の、トレッド周方向の相互間にも傾斜横溝31を設ける。
【0032】
なお図に示すところでは、広幅のセンター陸部27の、縦溝28の、センター周溝22側に隣接する陸部部分および、湾曲サイプ39と傾斜溝29との間に存在する陸部部分、ならびに、狭幅のセンター陸部26の、トレッド周方向に一本おきの傾斜溝31を挟んだ両側で、ショルダー周溝21に隣接する陸部部分のそれぞれに、それらの溝に向けて陸部高さを漸減させた面取り傾斜面32,33,34を設けている。
【0033】
そしてまた、図2に示すパターンでは、車両の外側のショルダー陸部25に、トレッドショルダー側でトレッド周方向に向けて延びる、図の上側を向く矢印状の溝の延在途中に、トレッド幅方向に向けて延びる溝を開口させてなるほぼ「T」字状のラグ溝35と、トレッド幅方向に向けて延びる他のラグ溝36とを、トレッド周方向に交互に設けるとともに、他のラグ溝36のトレッド幅方向内側に、ショルダー周溝23に開口するサイプ37を設け、この一方で、車両の内側のショルダー陸部24に、トレッド幅方向に向けて延びて、トレッドショルダー側で折れ曲がるラグ溝38を設ける。
【符号の説明】
【0034】
1 ビード部
2 ビードコア
3 サイドウォール部
4 トレッド部
5 カーカスプライ
5a 本体部分
5b 折り返し部分
5c 折り返し端
6 ビードフィラ
6a 半径方向外端
7,8 ベルト層
9 トレッドゴム
10 半径方向内側円弧部
11 半径方向外側円弧部
12 ビード内壁部
20 トレッド踏面
21,22,23 周溝
24,25 ショルダー陸部
26,27 センター陸部
28 縦溝
29 傾斜溝
30,37,39 サイプ
31 傾斜横溝
32,33,34 面取り傾斜面
35,36,38 ラグ溝
m 内面中間点
P 変曲点
e ビード部外表面の、リムフランジからの離反点
C タイヤ赤道面
t サイドウォール部の総厚み
R 適用リム
図1
図2