特許第6029369号(P6029369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029369
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】スイングのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   A63B69/36 541W
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-167108(P2012-167108)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-23769(P2014-23769A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】高尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】先納 義和
(72)【発明者】
【氏名】松永 英夫
(72)【発明者】
【氏名】岩出 浩正
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−011926(JP,A)
【文献】 特開2009−297240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/36
A63B 53/00
A63B 60/46
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーション方法であって、
前記スイングを三次元計測して、前記ゴルファの身体挙動及び前記ゴルフクラブの挙動を取得する測定ステップと、
前記測定ステップにより得られたゴルファ身体挙動データ及びゴルフクラブ挙動データを用いて前記ゴルファの関節トルクを含むパラメータを算出するパラメータ算出ステップと、
前記ゴルファの筋力レベルを含む身体パラメータを用いて前記ゴルファの筋骨格モデルを設定するステップと、
前記ゴルファの筋骨格モデルに、前記パラメータ算出ステップで算出されたパラメータを入力して、前記ゴルフクラブのゴルフクラブモデルをスイングさせて、前記ゴルファがスイングにあたって実際に発揮できる筋力及び関節トルクをシミュレーション結果に反映させるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップによるシミュレーション結果に基づいて、スイングの特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
を含むことを特徴とする、スイングのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記測定ステップにおいて、
前記ゴルファの身体挙動を、前記ゴルファの肩、肘、手首、及び手の三次元位置時系列データとして取得し、前記ゴルフクラブの挙動を前記ゴルフクラブのグリップ部の三次元位置時系列データとして取得することを特徴とする、請求項1に記載のスイングのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記パラメータ算出ステップにおいて、
関節トルクを含む前記パラメータを、前記ゴルファの、肩、肘、及び手首を含む関節の角度の時系列データに基づいて算出することを特徴とする、請求項2に記載のスイングのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記身体パラメータは、さらに、身長、体重、関節間の長さ、慣性モーメント定数、身体各部の周囲長、関節位置座標、及び関節の自由度から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のスイングのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイングのシミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルファクラブを用いたスイングにおいて、ヘッドスピードやブロー角は各ゴルファのスイングの特徴を顕著に反映する。ヘッドスピード及びブロー角などのスイングの特徴量は、主に、ゴルファなどのスイングの動作主体となる対象からの入力に起因する。ゴルファが理想的なスイングの特徴量を実現することができるゴルフクラブを開発することが、非常に重要であると考えられている。
【0003】
したがって、ゴルフクラブの設計開発において、スイングをシミュレーションし、その特徴量を解析することは非常に有益である。また、そのような解析により得られる情報は、ゴルファが理想的なスイングを実現することができる最適なゴルフクラブを選択する際にも、非常に重要な指標となりうる。
【0004】
ゴルファによるスイング時におけるゴルフクラブの挙動を解析する方法としては、従来、スイングを測定して、ゴルファの関節角度を導出し、関節に作用するトルクを導出するとともに、ゴルファの腕モデル及びゴルフクラブモデルを設定して、シミュレーションを実施する方法が提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。このような方法によれば、シミュレーションの計算を安定させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−11926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のゴルフクラブの挙動の解析方法では、スイング腕モデルを計測で得られた関節の角度やトルクに追従させて、シミュレーション時にゴルフクラブをスイングさせていた。しかし、スイングするゴルフクラブを変えた場合、ゴルファが実際に行うことができる関節の角度やトルクは、ゴルファの筋力等に依存してそれぞれ異なる。一方、特許文献1に記載のゴルフクラブの挙動の解析方法では、シミュレーション時に、ゴルフクラブの重量等を変化させても、測定した関節の角度やトルクに対してスイング腕モデルを強制的に追従させるので、実際のスイングとはかけ離れたシミュレーション結果となるおそれがあった。
【0007】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、ゴルフクラブを用いたスイングをシミュレーションするに当たって、実際のスイングに近いシミュレーション結果を得ることができるスイングのシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るスイングのシミュレーション方法は、ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーション方法であって、
前記スイングを三次元計測して、前記ゴルファの身体挙動及び前記ゴルフクラブの挙動を取得する測定ステップと、
前記測定ステップにより得られたゴルファ身体挙動データ及びゴルフクラブ挙動データを用いて前記ゴルファの関節トルクを含むパラメータを算出するパラメータ算出ステップと
前記ゴルファの筋力レベルを含む身体パラメータを用いて前記ゴルファの筋骨格モデルを設定するステップと、
前記ゴルファの筋骨格モデルに、前記パラメータ算出ステップで算出されたパラメータを入力して、前記ゴルフクラブのゴルフクラブモデルをスイングさせて、前記ゴルファがスイングにあたって実際に発揮できる筋力及び関節トルクをシミュレーション結果に反映させるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップによるシミュレーション結果に基づいて、スイングの特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明によるスイングのシミュレーションシステムによれば、実際のスイングに近いシミュレーション結果を得ることができる。
【0010】
また、本発明に係るスイングのシミュレーション方法において、前記測定ステップにおいて、
前記ゴルファの身体挙動を、前記ゴルファの肩、肘、手首、及び手の三次元位置時系列データとして取得し、前記ゴルフクラブの挙動を前記ゴルフクラブのグリップ部の三次元位置時系列データとして取得することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、シミュレーション精度を一層向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係るスイングのシミュレーション方法において、前記パラメータ算出ステップにおいて、
関節トルクを含む前記パラメータを、前記ゴルファの、肩、肘、及び手首を含む関節の角度の時系列データに基づいて算出することが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明に係るスイングのシミュレーション方法において、前記身体パラメータは、さらに、身長、体重、関節間の長さ、慣性モーメント定数、身体各部の周囲長、関節位置座標、及び関節の自由度から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
れらの構成によれば、シミュレーション精度を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実際のスイングに近いシミュレーション結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法におけるゴルファの身体挙動の取得方法の一例を説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態に係るシミュレーション方法に使用するゴルフクラブの一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法におけるゴルファの身体挙動及びゴルフクラブの挙動の取得方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、ゴルフクラブをゴルファにスイングさせ、そのスイングを三次元測定し、ゴルファ2の身体挙動及びゴルフクラブの挙動を取得する測定ステップを実施する(ステップS01)。
【0018】
ステップS01では、ゴルファの身体挙動として、ゴルファの腕の挙動を取得し、ゴルフクラブの挙動として、ゴルフクラブのグリップ部の挙動を取得する。図2(a)、(b)に示すように、ステップS01では、先ず、ゴルファ(被験者)2に光を反射する複数個のマーカー3(図では白丸で表示される)が固着される。マーカー3は、ゴルファ2の肩、肘、手首、及び手に固着される。グリップ部の挙動データにより、手首の関節角度(橈屈、尺屈など)やトルクを算出する。本実施形態のゴルファ2は右打ちである。また、本実施形態では、ゴルファ2の利き腕と反対側の腕(左腕)の運動軌跡が取得される。このため、測定精度を高めるために、より多くのマーカー3がゴルファ2の左腕に固着される。なお、左腕を対象としたのは、第一にゴルフスイング軌道は利き腕と反対側の腕の寄与が大きく、第二に右腕の除去は後述のスイング腕モデルが複雑な閉ループになるのを防ぐのに役立つためである。ただし、右腕又は両腕の軌跡を求めても良いのは言うまでもない。
【0019】
さらに、図3に示されるように、ゴルフクラブ4にも、複数個のマーカー3が固着される。ゴルフクラブ4に固着されたマーカー3により、ゴルフクラブのグリップ部の挙動が取得される。なお、マーカー3は、グリップ部4cの上部と、グリップ部4cの直下であるシャフト部4a上と、シャフト部4aから離間した位置に取付部材jなどを介して固着される。
【0020】
次に、図4に示されるように、マーカー3の装着後、ゴルファ2にゴルフクラブ4をスイングさせる。スイングは、構えた静止状態であるアドレス(同図a)、該アドレスからゴルフクラブ4を最上部まで持ち上げるトップ(同図b)、該トップから下にゴルフクラブを振り下ろしてインパクト、フォロースル及びフィニッシュ(同図cないしe)までの一連の動作を含む。
【0021】
また、スイングの一連の動作は、光学式のモーションキャプチャシステムで三次元撮影される。三次元撮影では、例えば、赤外線ストロボを具えかつ同期する複数台のCCDカメラで異なる方向からゴルファ2のスイングが撮影される。本実施形態では、サンプリング周波数を250Hz、解像度は1280×1024ピクセルとした。
【0022】
撮影されたスイングの画像データは、コンピュータに取り込まれ、逐次、各マーカー3の位置、即ち各マーカー3の3次元位置時系列データが取得される。そして、このマーカー3の3次元位置データから、ゴルファ2の左腕のスイングの三次元の運動軌跡及びゴルフクラブ4の挙動が求められる。即ち、左腕の肩関節を支点とした上腕部、上腕部と肘関節でつながる前腕部及び前腕部と手首関節でつながる手首部の3部分の運動軌跡、及びゴルフクラブ4のグリップ部の運動軌跡が前記マーカー3の3次元位置データから導出される。
【0023】
次に、上記ステップで取得された運動軌跡から、上記ゴルファ2の関節トルクを含むパラメータを算出するパラメータ算出ステップを実施する(ステップS02)。パラメータは、ゴルファ2の肩、肘、及び手首を含む関節の角度の時系列データに基づいて算出することが好ましい。
【0024】
本実施形態において、ゴルファ2の上記各関節の位置は、モーションキャプチャーソフトウェアを利用して推測することができる。該ソフトウェアは、肩、肘及び手首の各関節間に一定のベクトル長さの状態を持った固定された模擬フレームを利用して、各関節での位置及び上記各角度を計算することができる。そして、計算した関節角度で運動する前記ゴルファ2の腕の肩、肘及び手首の各関節に作用するトルクを算出する。なお、本明細書において、「トルク」という語は「モーメント」と同義で用いる。
【0025】
ここで、本ステップにおいて、トルクを算出するにあたり、逆動力学計算に基づいて、ゴルファ2の腕の肩、肘及び手首の各関節に作用するトルクが計算される。逆動力学計算は、身体の運動方程式に対して、運動データ(ここでは各関節の角度の時系列データ)を入力することにより、駆動力となる力を計算する手法である。より具体的には、ゴルファ2の左腕の前記各関節の角度(角速度又は角加速度)を与えることにより、各関節に作用するトルク(関節反力)を時系列的に計算することができる。このような逆動力学計算は、コンピュータで汎用ソフトウェア(例えば、TNO社製の汎用機構解析ソフトウェア「MYDYMO」)を実行することによって容易に行うことができる。
【0026】
次に、ゴルファ2の筋骨格モデルに、ステップS03で算出されたパラメータを入力して、ゴルフクラブのゴルフクラブモデルをスイングさせるシミュレーションステップを実施する(ステップS03)。本ステップにおけるシミュレーションに基づいて、ゴルファ2の筋張力や関節トルクを解析し、さらにゴルフクラブモデルの挙動を解析することができる。
【0027】
ゴルファ2の筋骨格モデルは、例えば、特開2010−29340号公報に記載の筋骨格モデルであり、かかる筋骨格モデルによれば、ゴルファ2の運動データから計算した関節トルクを筋張力に写像することができる。
【0028】
ここで、本ステップの実施に先立って、身体パラメータとして、身長、体重、関節間の長さ、慣性モーメント定数、身体各部の筋力レベル、身体各部の周囲長、関節位置座標、関節の自由度等を用いて、ゴルファ2に適した筋骨格モデルを設定しておく。このようにして設定した適切な筋骨格モデルをスイングのシミュレーションに用いることで、シミュレーションに用いるゴルフクラブモデルを変更させた場合にも、ゴルファ2がスイングにあたって実際に発揮できる筋力や関節トルクをシミュレーション結果に反映させることが可能となり、シミュレーション結果を実際のシミュレーションに近づけることが可能になる。
【0029】
また、本ステップにおいて使用するゴルフクラブモデルは、例えば、ヘッド部4b以外を弾性体として設定したゴルフクラブモデルである。ゴルフクラブモデルの入力パラメータ(例えば、曲げ剛性や捻り剛性を含むシャフト特性、ならびに、重心位置、質量、及び容積を含むヘッド特性)を変更してシミュレーションを実施することにより、様々なゴルフクラブ4を用いた場合のゴルファ2のスイングにおけるゴルフクラブ4のしなりやねじれに関する情報を得る事ができる。
【0030】
そして、ステップS03におけるシミュレーション結果に基づいて、例えばヘッドスピードやブロー角といったスイングの特徴量を算出する特徴量算出ステップを実施する(ステップS04)。ここで、ステップS03においてヘッド部4b以外を弾性体として設定したゴルフクラブモデルことにより、シャフトのしなりやねじれの影響が反映されたヘッドスピードや、ブロー角といった特徴量を検出することが可能となる。これらの特徴量は、ゴルファ2が適したゴルフクラブを選択する上で、そして、ゴルフクラブを開発する上で非常に有効である。
【0031】
このように、本実施形態によるスイングのシミュレーション方法によれば、シミュレーションにおいてゴルフクラブの重量を変化させた場合において、ゴルファの筋力等の個人差を反映することが可能となり、シミュレーション精度を向上させることができる。
【0032】
上述のような本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。従って、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
2 :ゴルファ
3 :マーカー
4 :ゴルフクラブ
4a :シャフト部
4b :ヘッド部
4c :グリップ部
j :取付部材
図1
図2
図3
図4