特許第6029422号(P6029422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029422
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】窒素富化ガス供給システム、航空機
(51)【国際特許分類】
   B64D 37/32 20060101AFI20161114BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20161114BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B64D37/32
   B01D53/22
   B01D69/08
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-247270(P2012-247270)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-94664(P2014-94664A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】508208007
【氏名又は名称】三菱航空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】福田 弘毅
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0173017(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/112046(WO,A1)
【文献】 米国特許第04556180(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 37/32
B01D 53/22
B01D 69/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上昇過程、巡航過程及び下降過程を飛行する間に原料ガスが供給されることで、窒素が富化された窒素富化ガスを生成し、燃料タンクへ供給する窒素富化ガス供給システムであって、
前記原料ガスの酸素と窒素を分離する空気分離モジュールと、
前記空気分離モジュールに供給される前記原料ガスの温度を調節する温調機構と、を備え、
前記温調機構は、
前記上昇過程から前記巡航過程に亘る飛行期間の少なくとも一部の期間において、
前記原料ガスの温度を、前記下降過程における前記原料ガスの温度よりも低く設定する、
ことを特徴とする窒素富化ガス供給システム。
【請求項2】
前記上昇過程から前記巡航過程に亘る飛行期間の少なくとも一部の期間において、
前記空気分離モジュールに供給される原料ガスの量を、前記下降過程における流量よりも低く設定される、
請求項1に記載の窒素富化ガス供給システム。
【請求項3】
前記空気分離モジュールは、中空糸高分子膜を備えている、
請求項1又は2に記載の窒素富化ガス供給システム。
【請求項4】
前記温調機構は、
前記原料ガスが流れる主配管と、前記主配管に対するバイパス配管と、を備え、
前記バイパス配管において、前記原料ガスの温度調整を行なう、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒素富化ガス供給システム。
【請求項5】
前記温調機構は、
前記空気分離モジュールに供給される前記原料ガスの温度に応じて、
前記主配管と前記バイパス配管に分配される前記原料ガスの量を調整する、
請求項4に記載の窒素富化ガス供給システム。
【請求項6】
前記温調機構は、
前記航空機の高度に応じて、前記原料ガスの温度を調整する、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒素富化ガス供給システム。
【請求項7】
窒素富化ガス供給システムは、飛行中の前記航空機の高度を検出する高度計をさらに備えており、
前記温調機構は、
前記高度計からの高度情報に基づいて決定される前記上昇過程、前記巡航過程及び前記下降過程に応じて、前記空気分離モジュールに供給される前記原料ガスの温度を調節する、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒素富化ガス供給システム。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の窒素富化ガス供給システムを備えた航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素が空気よりも富化されたガスを航空機の燃料タンクに供給するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
飛行中の航空機においては、燃料タンク内に気化した燃料が充満しており、燃料タンクへの落雷、配線に短絡が生じるなどしたときに燃料タンクが爆発するのを防止する必要がある。そこで、燃料タンクに、空気よりも窒素濃度が高く酸素濃度の低い窒素富化ガス(Nitrogen Enriched Air,以下、NEA)を供給する防爆システムが提案されている。
空気中における酸素濃度が約21%であるのに対して、NEAにおける酸素濃度は例えば12%以下に設定される。NEAの生成には、酸素分子と窒素分子とで透過係数の異なる高分子から構成される選択透過膜を利用した空気分離モジュール(ASM:Air Separation Module)が用いられている。そして、ASMに供給される空気の供給源として、飛行用エンジンからのブリードエアー(以下、抽気)が利用されている。
【0003】
航空機の燃料タンクへNEAを供給するプロセスについて、特許文献1が提案を行なっている。
特許文献1は、NEAにおける不活性ガスの濃度、および、燃料タンクに供給されるNEAの供給量を制御対象としている。また、特許文献1は、航空機が離陸してから着陸するまでの飛行過程に応じて、これらの二つの制御対象を調整する。特許文献1は、飛行過程を、離陸して上昇過程を経て巡航過程に至り、着陸のための下降過程に入るまで(以下、第1期)と、下降過程(以下、第2期)と、に区分している。
NEAの供給量について、特許文献1は、第1期を相対的に少なくし、第2期を相対的に多くする。高度が低くなる第2期においては、気圧の上昇を補うために、燃料タンクに供給するNEAの供給量を多くすることが、特許文献1に記載されている。
【0004】
ところで、航空機の燃料タンクへのNEAを供給するプロセスにおいて使用するASMの酸素分離能は、ASMに供給される抽気の温度と圧力に依存する。例えば、ASMに供給する抽気の温度が高い場合(約180°F)、酸素分離能が高くなるため、より多くの抽気を供給しても所望する高濃度のNEAを生成することができる。一方、供給する抽気の温度がそれより低い場合、酸素分離能は低下するので、同じ窒素濃度のNEAを得るには、NEAの生成量が少なくなる。したがって、通常、より多くのNEAが生成できるように抽気の温度を調節してASMに供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許 6,547,188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
継続的にASMを使用していると酸素分離能が低下するために、定期的にASMを交換する必要がある。しかし、ASMを構成する選択透過膜は高価であるとともに、交換作業は煩雑である。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、ASMの交換頻度を少なくすることができるNEA供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこでなされた本発明の窒素富化ガス(NEA)供給システムは、上昇過程、巡航過程及び下降過程を飛行する間に原料ガスが供給されることで、窒素が富化されたNEAを生成し、燃料タンクへ供給するNEA供給システムであって、原料ガスの酸素と窒素を分離する空気分離モジュールと、空気分離モジュールに供給される原料ガスの温度を調節する温調機構と、を備える。この温調機構は、上昇過程から巡航過程に亘る飛行期間の少なくとも一部の期間において、原料ガスの温度を、下降過程における原料ガスの温度よりも低く調整することを特徴とする。
前述したように、原料ガス(抽気)の温度によってASMにおける酸素分離能が変化し、高い分離能を得るためには、相対的に高い温度の抽気をASMに供給する必要がある。ここで、第2期(下降過程)においては、燃料タンクに供給するNEAの供給量を多くする必要があるのに対して、それまでの第1期(上昇過程〜巡航過程)はNEAの供給量が少なくてもよい。そこで本発明者等は、第1期においては、ASMに高い酸素分離能を求める必要がないこと、換言すればASMに供給する抽気の温度を下げてもよいことを着想し、本発明をなしたのである。
【0008】
本発明において、上昇過程から巡航過程に亘る飛行期間の少なくとも一部の期間において、空気分離モジュールに供給される原料ガスの量を、下降過程における流量よりも低く設定することができる。そうすると、ASMを通過する原料ガスの量が減ることになるので、空気分離モジュールを構成する選択透過膜の寿命を延ばすのに有効である。
【0009】
本発明における、空気分離モジュールは、中空糸高分子膜を備えていることが好ましい。
これにより、上昇過程から巡航過程に亘る飛行期間の全期間又は一部の期間における空気分離モジュールによる酸素分離能は、下降過程における空気分離モジュールによる酸素分離能よりも低くすることができる。
【0010】
本発明における温調機構は、原料ガスが流れる主配管と、主配管に対するバイパス配管と、を備え、バイパス配管において、原料ガスの温度調整を行なうことができる。この場合、空気分離モジュールに供給される原料ガスの温度に応じて、主配管とバイパス配管に分配される原料ガスの量を調整することが好ましい。
また、本発明における温調機構は、航空機の高度に応じて、原料ガスの温度を調整することができる。
【0011】
また、本発明では、上記機能をもつNEA供給システムを備えることを特徴とした航空機をも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ASM(空気分離モジュール)に供給する抽気の温度を、下降過程よりも上昇過程および巡航過程の方を低くして、ASMを構成する選択透過膜の劣化を軽減できるので、ASMの交換頻度を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態における航空機の概略構成を示す図である。
図2】本実施の形態における飛行時間とASMへ供給する抽気の温度との関係、および、飛行時間と飛行高度の関係をまとめて示すグラフであり、横軸が飛行経過時間を、また、左側の縦軸がASMへ供給する抽気の温度を、さらに、右側の縦軸が飛行高度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が提供する長寿命化された空気分離モジュールを用いた窒素富化ガス(以下、NEA)供給システムを、航空機100に適用した例について、図1および図2に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
航空機100は、左右一対の主翼102が取り付けられた航空機胴体101に設けられる第一燃料タンク15と、各々の主翼102に設けられる第二燃料タンク17と、を備えている。各々の第一燃料タンク15と第二燃料タンク17の間には、通気用配管19およびスピルバック用配管23が貫通して設けられている。
通気用配管19は、第一燃料タンク15の内圧を調整するために設けられており、通気用配管19を介して、機外の空気の出入が行われる。例えば、航空機100の高度の上昇に伴い、外気圧が低下した場合、それに追従して第一燃料タンク15内の内部空間の空気が通気用配管19を介して機外に排出されることで、第一燃料タンク15の内圧を低下させる。航空機100が下降する際には、この逆となる。
スピルバック用配管23は、第一燃料タンク15内と第二燃料タンク17内との燃料の量を調整するために設けられている。
【0016】
本実施形態によるNEA供給システム10は、図1に示すように、航空機100に設けられる第一燃料タンク15の内部へNEAを供給することにより、燃料の爆発を防止している。
NEA供給システム10は、エンジン1からの抽気(原料ガス)を第一燃料タンク15内に導くためのガス配管(主配管)4を備え、このガス配管4上に、開閉弁3、温調機構5、フィルタ7、空気分離モジュール(Air Separation Module,以下、ASM)9およびフローコントロールバルブ(FCV)11が順に配設されている。エンジン1からの抽気は、ガス配管4を介して、開閉弁3から上記の配設順に各機器を通過した後に、NEAとなって第一燃料タンク15に供給される。
なお、NEAが供給される対象としての第一燃料タンク15は一例であり、第二燃料タンク17がNEAの供給対象となることもある。
【0017】
航空機100の推進力を生成するエンジン1内で圧縮された空気の一部は、抽気として取り出され、ガス配管4を通り、開閉弁3に導かれる。
【0018】
続いて、抽気は、ガス配管4を通り、温調機構5において温度が調節される。温調機構5は、ASM9の酸素分離能が、供給される抽気の温度に関係することから、ASM9に導く抽気の温度を制御するものである。一例として、ASM9の分離能が高くなる温度(以下、最適温度)は、180°F〜200°F(約82℃〜約93℃)付近であるのに対して、エンジン1の抽気温度は、300°F〜500°F(約149℃〜約260℃)である。したがって、温調機構5において、エンジン1からの抽気を最適温度に冷却する。また、温調機構5は、最適温度よりも低い抑制温度に抽気を冷却することもできる。本実施形態は後述するように、航空機100の飛行過程に応じて、最適温度又は抑制温度に抽気を選択的に冷却することができる。
【0019】
温調機構5は、温度センサ8と、ガス配管4から分岐し、再度ガス配管4に合流するバイパス配管4aと、バイパス配管4aの周囲に設置されるラジエータ6と、ガス配管4とバイパス配管4aの分岐点に設置される流量調整弁2と、を備えている。温調機構5は、後述する制御部30によってその動作が制御される。
温調機構5は、航空機100の高度に応じて作動し、上昇過程及び巡航過程においては抽気を抑制温度に冷却、調整し、下降過程においては抽気を最適温度に冷却、調整する。
温度センサ8は、フィルタ7よりも下流側において、ガス配管4の内部を通過してASM9に供給される抽気の温度を検出する。検出された温度情報は、制御部30に伝達される。なお、制御部30については後述する。
バイパス配管4aは、ガス配管4を流れる抽気が分岐点から流入し、ラジエータ6を通過後に、ガス配管4に合流する。この合流する箇所を、以下、合流点Jとよぶ。
ラジエータ6は、バイパス配管4aを通過する高温の抽気から放熱して冷却させるための熱交換器である。したがって、バイパス配管4aを通過した抽気は、バイパス配管4aに流入することなくガス配管4をそのまま流れる抽気より温度が低くなる。ラジエータ6の冷却媒体として、航空機100の周囲から取り込まれる大気、あるいは、航空機100が備える空調装置で生成された冷風を用いることができる。
なお、抽気を冷却するために、本実施形態ではバイパス配管4aの周囲にラジエータ6を設置した例を示しているが、これは一例にすぎず、ガス配管4にラジエータ以外の冷却手段を設けてもよい。
流量調整弁2は、分岐点において、ガス配管4及びバイパス配管4aの各々に流入する抽気量を調整する。例えば、分岐点までガス配管4を流れる抽気の量を「10」とすると、流量調整弁2により、ガス配管4にそのまま流入する抽気量を「3」、バイパス配管4aに流入する抽気量を「7」というように、各々に流入する抽気量を調整、分配する。分配量の調整は、制御部30からの指示によって行われる。この点については、後述する。
このようにガス配管4にそのまま流入する抽気量とバイパス配管4aに流入する抽気量との分配率を変化させることにより、合流点J以降において、エンジン1から得た高い温度の抽気とにバイパス配管4aで冷却された抽気を混合することにより、ASM9に供給される温度を調節する。
【0020】
続いて、温度が調節された抽気は、フィルタ7を通過した後に、ASM9に誘導される。
フィルタ7は、ASM9を汚染する物質を除去する。フィルタ7により汚染物質を除去しないと、ASM9を構成する選択透過膜に目詰まりが生じ、適正に酸素が透過分離できなくなり、所望するNEAを得ることができなくなる。
【0021】
ASM9は、中空糸高分子膜(選択透過)を主たる構成要素として備える。窒素ガスに比べ酸素ガスが、その中空糸壁を数倍透過しやすい特性を利用して、NEAを得る。つまり、抽気がASM9を通過すると2種類のガスに分離される。一つは、中空糸壁を透過して生成される酸素濃度が高い酸素富化ガス、もう一つは中空糸を通過して生成されるNEAである。なお、中空糸高分子膜を主たる構成要素とするASM9は一例であり、酸素吸着高分子膜を用いたASMのように、上述した機能を奏するモジュールを本発明は広く適用できる。
得られたNEAは、FCV11の開閉動作によって、ガス配管4を通り、第一燃料タンク15に供給される。FCV11の開閉動作は、制御部30によって制御される。ここでいう開閉動作とは、開度を調節することも含んでおり、開度を大きくすればより多くの抽気がASM9に供給され、かつ第一燃料タンク15により多くのNEAを供給することができる。
【0022】
制御部30が、FCV11の開閉動作を制御するために、NEA供給システム10は、高度計14を備える。
高度計14は、飛行中の航空機100の高度を検出する。
制御部30は、以上の説明した航空機100に関する情報に基づいて、FCV11の開閉動作を制御する。
なお、第一燃料タンク15内には、第一燃料タンク15内に残存する燃料の量を飛行中に検出できる燃料検出器が設けられている。
【0023】
また、制御部30は、流量調整弁2における抽気の分配量を制御する。この制御をするために、制御部30は、温度センサ8から温度に関する情報を、また、高度計14から高度に関する情報を取得する。
制御部30は、高度計14から取得した高度情報に基づいて、上昇過程、巡航過程及び下降過程を判断し、各過程に応じてASM9に供給する抽気の温度を設定する。例えば、上昇過程及び巡航過程における温度は160°F(抑制温度)、下降過程における温度は185°F(最適温度)に設定される。なお、継続的に取得した高度情報を時間で微分することにより、上昇過程、巡航過程及び下降過程の区別をすることができる。
制御部30は、設定された温度に対応する分配量になるように、流量調整弁2を制御する。例えば、抽気の温度を160°Fに調整するには、ガス配管4にそのまま流入する抽気量を「3」、バイパス配管4aに流入する抽気量を「7」というように分配する。また、抽気の温度を185°Fに調整するには、ガス配管4にそのまま流入する抽気量を「4」、バイパス配管4aに流入する抽気量を「6」というように分配する。
【0024】
制御部30は、上記のように設定された温度の制御を実現するために、以下の処理を行う。
制御部30は、温度センサ8で検知したASM9に供給される直前の抽気の温度を、取得する。制御部30は、取得した温度情報に基づいて、流量調整弁2における分配量を調整する。例えば、温度センサ8で検出した温度が設定された温度(抑制温度、又は、最適温度)よりも高い場合は、バイパス配管4aに流入させる抽気量を増加させるように制御する。
【0025】
次に、図2を参照して、各飛行過程における、ASM9に供給する空気の温度の制御方法を説明する。なお、図2に示した実線αは本実施の形態における、ASM9に供給する抽気の温度を示し、破線βは、比較例における抽気の温度を示している。
また、図2に示した点線γは航空機の各過程における飛行高度を示している。上昇過程Rは航空機が離陸してから巡航過程Cに入るまでの飛行過程を示し、巡航過程Cは航空機が定常的な飛行状態で継続して飛行する過程を示し、下降過程Dは航空機が巡航過程Cから着陸するまでの飛行過程をそれぞれ示している。
【0026】
実線αに示すように、下降過程D(185°F)と比較して、上昇過程Rおよび巡航過程C(160°F)におけるASM9に供給する抽気の温度を低く制御することが本実施形態の特徴部分である。
航空機100が離陸してから上昇過程Rにおいて、飛行高度の上昇に伴う大気圧の低下に応じて、第一燃料タンク15の内部空間を占有している空気が、通気用配管19を介し、機外に放出される。よって、上昇過程Rでは、飛行による燃料の消費に見合う量だけのNEAを供給すればよい。燃料は、飛行と共に、徐々に減少し、その間NEAガスは供給されている。つまり、第一燃料タンク15内は、燃料爆発を防止できる酸素濃度は維持されている。よって、NEAの供給量を少なくしても、第一燃料タンク15内の燃料爆発を防止することができる。なお、NEAの供給量は、FCV11の開度によって決定することができる。
したがって、最適温度よりも低温の抑制温度の抽気、例えば、160〜170°Fの抽気によってNEAを生成しようとすると酸素分離能が下がるため、ASM9に供給する抽気の量を下げる必要があるが、そのように少ない量のNEAを第一燃料タンク15内に供給することによっても第一燃料タンク15内の内部空間中の酸素濃度を低く維持することができる。
このように最適温度よりも低い抑制温度の抽気をASM9に供給することで、ASM9を構成する選択透過膜が熱により劣化が進行するのを軽減できる。また、ASM9を通過する抽気の量を少なくすることによっても、選択透過膜が熱により劣化が進行するのを軽減できる。
なお、抑制温度(160〜170°F)に抽気の温度を調整するには、上述した温調機構5が用いられる。
【0027】
続いて、巡航過程Cにおいて、航空機100は急激な高度変化は伴わないため、上昇過程Rと同様に、NEAの供給は主に、飛行による燃料の消費に見合う量で足りる。つまり、上昇過程Rと同様に、NEAの供給量が少なくても、第一燃料タンク15内の燃料爆発を防止することができる。よって、巡航過程Cにおいても、最適温度よりも低い抑制温度の抽気によって得られたNEAを第一燃料タンク15内に供給することで、第一燃料タンク15内の内部空間中の酸素濃度を低く維持できるのに加えて、ASM9を構成する選択透過膜の熱劣化を軽減することができる。
【0028】
一方、下降過程Dにおいて、航空機100の下降に伴って飛行高度が低くなると、気圧の上昇に追従して第一燃料タンク15内に通気口25から外気が流入する。その結果、第一燃料タンク15内で、NEAと外気が混合し、第一燃料タンク15内の内部空間の酸素濃度は上昇し、燃料爆発の危険性が高まる。したがって、最適温度でより多くのNEAを生成させ、第一燃料タンク15内へ供給し、酸素濃度を減少させる必要がある。
窒素濃度の高いNEAは、ASM9に供給する抽気の温度を、最適温度に調節することで得ることができる。よって、下降過程Dでは、上昇過程R、および、巡航過程Cにおける抑制温度よりも高い最適温度のNEAを供給する。なお、最適温度(185°F)に抽気の温度を調整するには、上述した温調機構5が用いられる。
【0029】
以上説明したように、上昇過程Rおよび巡航過程Cは抑制温度の抽気を供給する本実施形態は、破線βのように全飛行過程において最適温度の抽気をASM9に供給するのに比べて、ASM9を構成する選択透過膜の寿命が延びるので、ASM9の交換頻度を減らすことができる。
【0030】
以上、本発明の好ましい形態を説明したが、上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、以下説明するように、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本実施形態(図2の実線α)は、抑制温度および最適温度をともに一定の値としているが、必ずしもその必要はなく、例えば、段階的、又は、連続的に温度が昇降したり、局部的に温度が昇降することを本発明は許容する。この場合、例えば、抑制温度から局部的に温度が上昇する場合に、最適温度を超えてもよい。ただし、あくまで局部的、つまり限られた時間帯のみに限られる。このような場合を考慮すると、本発明における抽気の温度の高低は、平均値を用いて判断されるべきである。この平均値は、所定の時間間隔tで実測値された温度をT1、T2、T3、…Tnとすると、T1〜Tnの合計をnで除した値である。
また、本実施形態は、上昇過程R、および、巡航過程Cを通じて抑制温度にしているが、必ずしもその必要はなく、例えば、いずれか一方の過程のみを抑制温度にしてもよい。
また、NEA生成に使用する原料ガスは、エンジンからの抽気に限らず、ガスを排出する他の機器、例えば補助動力装置やコンプレッサからも得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
2 流量調整弁
3 開閉弁
4 ガス配管
4a バイパス配管
5 温調機構
6 ラジエータ
7 フィルタ
8 温度センサ
9 空気分離モジュール(ASM)
10 NEA供給システム
11 フローコントロールバルブ(FCV)
14 高度計
15 第一燃料タンク
17 第二燃料タンク
19 通気用配管
23 スピルバック用配管
25 通気口
30 制御部
100 航空機
101 胴体
102 主翼
J 合流点
図1
図2