(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前車軸を支持すると共に前車軸支持部分から後方に延びる上下方向揺動可能なフロントアームと、前記フロントアームの上下方向の揺動を弾性的に抑制するサスペンション機構と、を備えている車輌の前輪支持構造において、
前記サスペンション機構は、ハンドルを角変位可能に支持するヘッドパイプと前記フロントアームとの上下方向間に左右方向に沿って配置されたダンパー部材と、前記フロントアームの上下方向の揺動を、前記ダンパー部材の左右方向の伸縮に変換するように、前記フロントアームと前記ダンパー部材とを連結する連結部材と、を備えており、
前記フロントアームの後端部を車体構成部材に支持する平行リンク機構を備え、
前記ダンパー部材は、前記フロントアームの上面と前記ヘッドパイプの下面との間の空間であって、前記平行リンク機構の上方に配置される車輌の前輪支持構造。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至
図6は、本発明を適用した自動二輪車であり、これらの図面に基づいて本発明の一実施の形態を説明する。自動二輪車の左側面図を示す
図2において、車体フレームFは、ハンドル側の操舵軸8を支持するヘッドパイプ(ヘッドボックス)1と、左右一対のメインフレーム部材2と、左右一対のダウンチューブ3と、を備えている。ヘッドパイプ1は、操舵軸8を介して、ハンドルを左右の角変位可能に支持している。メインフレーム部材2は、垂直断面が矩形状の剛性部材であり、アルミ鋳造等によりヘッドパイプ1と一体に成形されている。メインフレーム部材2は、ヘッドパイプ1から後下方に直線状に延びており、後端部には、下方に延びるスイングアームブラケット2aが一体に形成されている。メインフレーム部材2の前端部の下面には、側方から見て逆三角形状のマウント部2bが下方突出状に形成されている。ダウンチューブ3は、マウント部2bの下端部に連結されると共に略下方に延び、下端部において後方に湾曲しており、ダウンチューブ3の後端部がスイングアームブラケット2aの下端部に結合されている。メインフレーム部材2とダウンチューブ3とで囲まれた空間に、走行駆動源となるパワーユニットとして、内燃機関(エンジン)Eが搭載され、車体フレームFに支持されている。前記内燃機関Eの代わりに、電動モータを搭載することもできる。また、ヘッドパイプ1の前方には、エンジン冷却液用のラジエータ9が取り付けられている。
【0021】
前輪5を支持する前輪支持機構は、前車軸6を支持する左右一対のフロントアーム10と、左右一対の上側リンク部材21及び左右一対の下側リンク部材22から構成される平行リンク機構11と、前輪5の上下方向の揺動を抑制する前輪用のサスペンション機構12と、を備えている。前車軸6は、フロントアーム10の前端部に、前後方向に延びるボルト29(
図3)により固定されている。
【0022】
[フロントアーム10の構成]
図2において、フロントアーム10は、前車軸支持部分から概ね後上方に延びている。フロントアーム10の後端部10aは、前輪5の後端縁より後方に位置すると共にフロントアーム10の本体部に対してL字状に下方に折れ曲がっている。該実施の形態では、後端部10aは、フロントアーム10の本体部とは別体に形成され、フロントアーム10の本体部の後端に固着された構造であるが、本発明においては、後端部10aをフロントアーム10の本体部と一体成形することも可能である。いずれの形成方法にしても、該実施の形態では、フロントアーム10は、後端部10aを含めて側面視でL字状に形成され、かつ、剛性メンバーとして形成されている。
【0023】
前車軸6の軸芯C0と、フロントアーム後端部10aと上側リンク部材21の前側支点C1とを結ぶ軸線L0が、水平線に対して、後上がり状に傾斜するように、フロントアーム10が形成されている。すなわち、フロントアーム10の本体部は、後方に進むにつれて上方にくるように傾斜した状態となっており、フロントアーム10の軸線L0と水平線とのなす角度が、45度よりも小さくなるように設定されている。また、フロントアーム10は、リンク部材21,22よりも前後方向に長く形成されている。
【0024】
自動二輪車の平面図を示す
図1において、フロントアーム10は、前輪の操舵角を考慮慮して、後方に向かうに連れて車幅方向外側に傾斜して形成されている。詳細には、フロントアーム10は、後方に向かうにつれて車幅方向外側に傾斜した傾斜部分と、該傾斜部分の後端に接続されて前後方向に延びる平面と平行に延びる平行部分とを有しており、後部の平行部分は、車輪後端よりも後方まで延びている。
【0025】
図3は、自動二輪車の前面図であり、左右一対のフロントアーム10の後端部10aは、前輪5の後方で、左右方向に延びるクロス部10cによって連結されている。これによって、フロントアーム10の剛性を向上させている。さらに、フロントアーム10の断面形状は、上下方向に長い略矩形形状に形成されており、これにより、高剛性となる形状となっている。また、クロス部10cと左右のフロントアーム10との接続部分には、三角形状の補強板40が一体に設けられており、これにより、左右のフロントアーム10の剛性を、さらに、高く維持している。
【0026】
[リンク機構11の構成]
図2において、フロントアーム10の後端部10aの上下端部には、前側支点ピン21a、22aを介して上側リンク部材21及び下側リンク部材22の前端部がそれぞれピン軸まわりに回動自在に連結されている。上側リンク部材21と下側リンク部材22とは、互いに略平行に後方に延びており、上側リンク部材21の後端部と下側リンク部材22の後端部は、後側支点ピン21b、22bを介して、リンク支持ブラケット25にピン軸まわりに回動自在に連結されている。リンク支持ブラケット25は、ダウンチューブ3の前面にボルト26により着脱自在に固着されている。左右一対の平行リンク機構11は、車幅方向に一定の間隔を保つ平行状態で、略直線状に後方に延びている。
【0027】
上側リンク部材21の前後の支点C1,C2間のピッチと、下側リンク部材22の前後の支点C3,C4間のピッチと、はほぼ同一であり、上側リンク部材21と下側リンク部材22とは、前述のように、略平行に配置されている。ただし、厳密には、下側リンク部材22が略水平に配置されているのに対し、上側リンク部材21は僅かに後方が下がるように配置されている。言い換えると、上側リンク部材21の前側支点C1と下側リンク部材22の前側支点C3との上下方向間のピッチに対し、上側リンク部材21の後側支点C2と下側リンク部材22の後側支点C4との上下方向間のピッチが、若干短くなっている。これにより、上側の前後の支点C1,C2を結ぶ線L1と、下側の前後の支点C3,C4を結ぶ線L2とは、後方の交点C5で交差することになる。したがって、前輪5及び前車軸6は、交点C5を支点として、上下方向に揺動することになる。また、前車軸6の上下方向の位置は、非乗車状態において、平行リンク機構11の下側支点ピン22a、22bと略同一高さに位置している。
【0028】
また、前車軸66の軸芯C0と、上側リンク部材21の前側支点C1と、上側リンク部材21の後側支点C2と、を結ぶ線(L0−L1)は、上状に突出する山形状となっている。フロントアーム10と上下のリンク部材21,22とが互いに角変位可能にリンク接続されることで、フロントアーム10が上下リンク部材21,22と共に上下方向に揺動可能となっている。
【0029】
上下のリンク部材21,22は、前述のように前後方向にほぼ平行に延びており、また、上側リンク部材21は、下側リンク部材22に比べて、圧縮方向の剛性が大きくなるように形成されている。具体的には、上側リンク部材21の軸線L1に垂直な断面形状が、下側リンク部材22の軸線L2に垂直な断面形状に比べて、大きな面積に形成されている。しかも、上側リンク部材21は、下側リンク部材22に比べて、フロントアーム10の軸線L0の延長線に近い領域に配置される。このようにして上側リンク部材21は、フロントアーム10からリンク支持ブラケット25へ路面からの抵抗力(圧縮力)を伝えるのに十分な形状に形成される。
【0030】
自動二輪車の斜視図である
図4において、リンク支持ブラケット25は、上下方向に延びて上下のリンク部材21,22を接続する左右一対のレール部材25aと、車幅方向に延びて両レール部材25aを連結する連結部材25bとを含んでいる。また、リンク支持ブラケット25の上下端部が、車体
フレームFのダウンチューブ3の上下端部にそれぞれ接続されている。
【0031】
上下のリンク部材21,22の構造及びの前後端部の接続構造を、詳しく説明する。
【0032】
図4において、平行リンク機構11の下側リンク部材22の車幅方向の間隔は、上側リンク部材22の車幅方向の間隔よりも、狭くなっている。言い換えると、各下側リンク部材22は、対応する各上側リンク部材21よりも車幅方向の内側に位置している。
【0033】
上下のリンク部材21,22とフロントアーム10との接続は、平面視でU字状に形成された上側リンク部材21の前端部が、フロントアーム10の後端部を、車幅方向の両側から覆い、それらを左右方向に貫通する貫通孔に支点ピン21aを挿入することにより、回動自在に接続されている。このように、フロントアーム10を車幅方向の両側から上側リンク部材21で覆うことにより、一対のフロントアーム10の内側に位置する上側リンク部材21の内側部分を、クロスメンバー39により連結することができる。なお、フロントアーム10の後端部を、平面視でU字状として上側リンク部材21の車幅方向両側を覆う構成とすることもできる。
【0034】
同様に、リンク部材21,22とリンク支持ブラケット25との接続は、該実施の形態では、平面視でU字状に形成された上側リンク部材21の後端部が、リンク支持ブラケット25の上端部を、車幅方向の両側から覆い、それらを左右方向に貫通する貫通孔にピン21bを挿入することにより、回動自在に接続されている。勿論、リンク支持ブラケット25の上端部をU字状として、上側リンク部材21に車幅方向両側を覆う構成とすることもできる。
【0035】
図5は、左右の一方の上側リンク部材21の平面図であり、上側リンク部材21は平面視でH状に形成されている。既に説明しているが、上側リンク部材21の二股状の前端部は、フロントアーム10の後端部10aを左右から挟み、上側の前側支点ピン21aにより回動自在に結合されている。同様に、上側リンク部材21の二股状の後端部は、リンク支持ブラケット25を左右から挟み、上側の後側支点ピン22bにより回動自在に結合されている。
【0036】
図6は、左右の一方の下側リンク部材22の平面図であり、下側リンク部材22は平面視でI状に形成されており、下側リンク部材22の前端部は、フロントアーム10の二股状の後端部10aにより左右から挟まれ、下側の前側支点ピン22aにより回動自在に結合されている。同様に、下側リンク部材22の後端部は、二股状のリンク支持ブラケット25により左右から挟まれ、下側の後側支点ピン22bにより回動自在に結合されている。
【0037】
[サスペンション機構12の構成]
図4において、サスペンション機構12は、フレームFに固定されて車幅方向に沿って延びる断面U字状の支持ブラケット31と、該支持ブラケット31の車幅方向の両端部に回動自在支持された左右一対のベルクランク部材(連結部材)32と、支持ブラケット31の上方近傍位置に車幅方向に沿って配置されたダンパー部材33と、各ベルクランク部材32の下端部と各フロントアーム10の後端部10aの上面とを連結する左右一対のタイロッド34と、を備えている。
【0038】
図2において、本実施形態では、フロントアーム10は、前車軸6の軸心C0と前側支点C1とを結ぶ線L0と、上側リンク部材21の前側支点C1とタイロッド34の下端連結軸34bと、を結ぶ線とが、屈曲するように配置されている。前車軸6、前側支点C1及びタイロッド34の下端連結軸34bは、左右方向に延びている。したがって、各軸又は支点の位置を適宜設定することで、レバー比を調整できる。
【0039】
支持ブラケット31は、側面視で、フロントアーム10の後端部10aの略直上に位置しており、支持ブラケット31の後面には取付台35が一体に固着され、この取付台35は、車体フレームFのマウント部2bの前端部に溶接により固着され、あるいは、ボルト等により着脱自在に固着されている。
【0040】
ダンパー部材33は、コイルばねと油圧ダンパー(油圧シリンダー)とを組みあわせてなるコイルオーバーユニットであり、前述の支持ブラケット31と共に、フロントアーム10の後端部10aの略直上に配置されている。具体的には、フロントアーム10の上面と、ヘッドパイプ1の下面との間の空間であって、フロントアーム10の後端部10aの略直上に位置し、かつ、ヘッドパイプ1及び操舵軸8より後方に位置している。
【0041】
図3において、ダンパー部材33は、左右のメインフレーム部材2の車幅方向外縁よりも車幅方向内側に収まる長さに設定されている。また、ダンパー部材33は、エンジンの排気ポートおよび排気管よりも前方かつ上方に配置されている。これにより、排気系で発生した熱によってダンパーが熱せられるのを防ぐことができる。
【0042】
左右の各ベルクランク部材32は、回動支点C6から上方に突出する上側アーム部32aと、斜め下方に突出する下側アーム部32bと、を有しており、回動支点C6まわりに角変位可能に支持されている。前記上側アーム部32aの上端部には出力軸が設定され、上側アーム部32aは、出力軸まわりに角変位可能にダンパー部材33の両端作動部に接続されている。一方、下側アーム部32bには入力軸が設定され、下側アーム部32bは、前記入力軸をまわりに角変位可能にタイロッド34の上端部に接続されている。
【0043】
本実施形態では、ベルクランク部材32は、その名の通り、上側アーム部32aの出力軸と回動支点C6とを結ぶ線と、下側アーム部32の入力軸と回動支軸とを結ぶ線とが、屈曲するように形成されている。回動支点C6、下側の前記入力軸、及び上側の前記出力軸は、いずれも前後方向に延びるように配置されている。
【0044】
両ベルクランク部材32の支点C6回りの回動により、ダンパー部材33が車幅方向(ダンパー部材長さ方向)に弾性的に伸縮する。ベルクランク部材32の回動支点C6、上下のアーム部32a、32bの出力軸及び入力軸の位置を適宜設定することで、フロントアーム10の変位に対するダンパー部材33の入力端の変位比であるレバー比を調整できる。
【0045】
ベルクランク部材32の入力側の下端部(入力軸)は、ベルクランク部材32の回動支点C6よりも車幅方向の外方であって、かつ、ダンパー部材33の車幅方向の端縁よりも外方に位置している。
【0046】
図4において、ベルクランク部材32の出力側の上側アーム部32aは、二股状の壁部
によって構成され、該二股状の壁部間に、ダンパー部材33の車幅方向の端部を挟んだ状態で、ダンパー部材33に連結されている。
【0047】
リザーブタンク33aは、ダンパー部材33の前側かつ上方に位置し、ダンパー部材33と略平行に配置され、ダンパー部材33の本体部分に取り付けられている。
【0048】
各タイロッド34の上端部は、ボール継手(ピローボール)を介してベルクランク部材32の下端部に回動自在に連結され、タイロッド34の下端部は、ボール継手を介してフロントアーム10の後端部10aの上面に回動自在に連結されている。すなわち、
図2のように、タイロッド34は、フロントアーム10の後端部10aに、車幅方向に延びる連結軸34bの軸芯まわりに角変位可能に接続されている。
【0049】
両タイロッド34は水平面に対して略垂直に配置されている。また、各タイロッド34は、所謂ターンバックルのように、ねじ構造により、個々に長さを調節することが可能である。
【0050】
本実施の形態では、フロントアーム10の後端部10aとタイロッド34の下端との連結軸34bの向き(車幅方向)と、ベルクランク部材32の下側アーム部32bの入力軸の向き(前後方向)が異なり、かつ、それらの移動方向も異なることから、前述のように、タイロッド34の上下端部は、フロントアーム10およびベルクランク部材32の両方に対して、ボール継手を介して接続されており、それにより動力伝達可能となっている。
【0051】
ステアリング機構を説明する。
図4において、前輪5は、いわゆるハブステアリング機構により、前車軸6に対して左右に操舵可能かつ回転可能に支持されている。一般的なハブステアリング機構は周知であるが、簡単に説明しておくと、
図2において、前車軸6には、前車軸6と直角で、ハンドル側操舵軸8の軸芯O1とほぼ平行、あるいは一致する軸芯O2を有する車輪側操舵軸(図示せず)が固着されている。この車輪側操舵軸に、左右に操舵可能にハブ支持筒軸44が支持されており、該ハブ支持筒軸44の外周に、軸受45を介して前輪5のハブ5aが回転自在に支持されている。すなわち、前輪5は、前車軸6に対してハブ支持筒軸44と共に左右に操舵可能であって、ハブ支軸筒軸44に対して回転する構成となっている。
【0052】
図4において、ハブ支持筒軸44の左右端部には操舵用のワイヤ連結部47が設けられており、該ワイヤ連結部47と、ハンドル側操舵軸8と一体的に左右に操舵されるハンドル側ブラケット48との間に、操舵ワイヤ49が装着されている。すなわち、ハンドル50の左右方向の操舵により、操舵ワイヤ49を介してハブ支筒軸44及び前輪5が左右に操舵される。
【0053】
なお、
図2では、操舵ワイヤ49の車輪側の端部の連結構造は、省略してある。
【0054】
作動を説明する。
図2において、凹凸状の路面を走行する場合、前輪5、前車軸6及びフロントアーム10は、平行リンク機構11の前端部の上下揺動と共に、上下方向に揺動する。具体的には、上側リンク部材21の前後の支点C1,C2を結ぶ直線L1と、下側リンク部材22の前後の支点C3,C4を結ぶ直線L2との交点C5が揺動中心となり、前輪5及びフロントアーム10の前端部は上下方向に揺動する。
【0055】
図3において、前輪5の上下方向の揺動は、左右のフロントアーム10の後端部10aから、左右のタイロッド34を介して左右のベルクランク部材32に伝達され、ベルクランク部材32が支点C6回りに矢印A1方向に回動することにより、ダンパー部材33を車幅方向に圧縮し、前輪5の上下方向の揺動を抑制する。
【0056】
図2において、ブレーキング時においては、路面から前輪5に対して後方に向けて抵抗力(反力)が作用する。このブレーキング時の路面抵抗力のほとんどは、フロントアーム10に対し、フロントアーム10の長さ方向(略前後方向)の圧縮荷重として作用し、フロントアーム10から、平行リンク機構11を介して車体フレームFに伝達され、そして、車体フレームFは略前後方向の荷重として路面抵抗力を受け止める。したがって、フロントフォーク方式のように、ブレーキング時における大きなフロントダイブ現象は生じない。
【0057】
ブレーキング時において、フロントアーム10等にかかる力関係を詳しく説明する。
図2において、実際には、路面抵抗力は、前車軸6の軸芯C0と前述の後方の仮想交点C5とを結ぶ線と平行に、後方に向けてかかる分力と、フロントアーム10を車体フレームFに対して上方に押し上げ、あるいは下方に押し下げる分力とに分けることができる。この上方向又は下方向の分力は、仮想交点C5が路面より上方に設定されている場合には、フロントアーム10を下方に下げる力となる。すなわち、フロントアーム10をヘッドパイプ1から離れる方向に動かす分力となる。前記路面からの抵抗力の大部分は、前車軸6の軸芯C0と仮想交点C5とを結ぶ線と平行にかかる分力となるので、この分力は、フロントアーム10によって、その軸線L0に沿った圧縮力として受け止められ、最終的に、車体フレームFに対する後方への力として受け止められる。これにより、フロンダイブが抑制される。
【0058】
また、ブレーキング時には、前記路面抵抗力とは別に、車体フレームFに慣性力が働き、この慣性力は、車体フレームFを前車輪6側に近付ける力として働くが、前述のように、仮想交点C5が路面よりも上方に設定されているので、前車輪6を下方に下げようとする路面抵抗力の分力によって、減衰(相殺)され、これによって、慣性力に起因する車体フレームFのフロントダイブ現象も抑制される。
【0059】
各種調整について説明する。左右のタイロッド34の長さを同時に調節することにより、自動二輪車の車高を調節することができ、また、左右のタイロッド34を個々に長さ調節することにより、前輪5の左右の傾きを修正することができる。
【0060】
また、フロントダイブの影響が少ないので、フロントダイブ防止のために、必要以上にサスペンション機構12のばね力及びダンパー力を硬くする必要がなく、乗り心地に適合するように、サスペンション機構の特性を設定できる。
【0061】
また、ベルクランク部材32の各連結位置を変更することにより、ベルクランク部材におけるレバー非も、適宜変更可能である。
【0062】
[実施形態による効果]
(1)
図2において、ダンパー部材33を車幅方向に沿って配置しているので、車輌の前後方向の寸法をコンパクトにできる。さらに、ダンパー部材33の配置位置を、側面視で、ヘッドパイプ1とフロントアーム10との上下方向間の空間内としているので、ダンパー部材33とフロントアーム10との距離を短く保つことができ、前輪の上下方向の移動に対するダンパー部材33の応答性を向上させることができる。
【0063】
(2)ダンパー部材33を、ヘッドパイプ1とフロントアーム10との上下方向間の空間内に配置しているので、走行中に飛ばされる小石などがダンパー部材33に当たり難くなる。また、車輌の重心が必要以上に低くならず、大きなバンク角を確保できる。
【0064】
(3)ダンパー部材33は、前輪5の後端及びヘッドパイプ1よりも後方に配置されており、これにより、ダンパー部材33とフロントアーム10との距離をさらに短く保ち、ダンパー部材33の応答性をさらに向上させることができる。
【0065】
(4)フロントアーム10の後端部10aを車体フレームFに支持する平行リンク機構11を備え、ベルクランク部材32は、フロントアーム10の後端部10aに連結されているので、ブレーキング時において、リンク部材21,22にかかる荷重が軽減され、リンク部材を細くでき、軽量化を達成できる。
【0066】
(5)フロントアーム10及びベルクランク部材32は、それぞれ左右一対配置され、左右のベルクランク部材32は、ダンパー部材33の左右の端部にそれぞれ連結されているので、左右一対のフロントアーム10の左右を略均等に支持できると共に、フロントアーム10の剛性が向上し、ねじれを防止できる。
【0067】
(6)ベルクランク部材32の入力端部は、ダンパー部材33の車幅方向両端よりも車幅方向外方に位置しているので、フロントアーム10からダンパー部材33までの距離を短くできる一方、ベルクランク部材32は、他の部材に干渉することなく、作動することができ、フロントアーム10の揺動ストロークを確保し易くなる。
【0068】
(7)ベルクランク部材32とフロントアーム10の後端部10aとは、略垂直なタイロッド34により連結されているので、フロントアーム10の揺動時、フロントアーム10と、ダンパー部材33及びバルクランク部材32とが干渉することを、防ぐことができる。
【0069】
(8)
図2において、ダンパー部材33は、エンジンEの前面の排気ポートよりも上方に位置しており、これにより、排気パイプとダンパー部材33との干渉を防ぐことができる。
【0070】
(9)
図3において、ベルクランク部材32の入力側の端部(下端部)が、ベルクランク部材32の回動支点C6及び出力側の端部(上端部)よりも車幅方向の外方に位置し、さらに、ダンパー部材33の車幅方向の端縁よりも外方に位置しているので、車輌のバンク旋回時において、ベルクランク部材32の入力側の端部が他の部材に干渉するのを、簡単に防ぐことができる。
【0071】
具体的には、前輪5がフロントアーム10の揺動支点(C5)に対して上方に移動する時(車体が沈み込む時)に、ベルクランク部材32の下端部は、車幅方向の外方に膨らむように矢印A1方向に回動するので、車体が沈み込んだ状態で車体をバンク旋回する場合でも、ベルクランク部材32が車体上方に位置していることにより、ベルクランプ部材32の入力側の端部(下端部)が、路面に接触することを防ぐことができる。
【0072】
(10)
図4において、ベルクランク部材32の上端部は、上方に突出する二股状の壁部32aによって構成され、該二股状の壁部32a間に、ダンパー部材33の車幅方向の端部を挟んだ状態で連結されているので、ダンパー部材33の伸縮時に、ベルクランク部材32とダンパー部材33との干渉を防ぐことができる。
【0073】
(11)ダンパー部材33のリザーブタンク33aが、ダンパー部材33と平行でダンパー部材33の前側上方に配置されているので、省スペース化を達成できる。
【0074】
(12)ダンパー部材33が車体フレームFに固定支持されており、ハンドル操作時に、操舵軸8とともに角変位することがないので、ダンパー部材33が操舵軸8とともに角変位する構造に比べ、操舵操作に必要な運転者の力を低減することができる。
【0075】
(13)フロントアーム10のうち、サスペンション機構12に連結される連結部、すなわちタイロッド34の下端部が、ヘッドパイプ1よりも後方に配置されているので、フロントアーム10とサスペンション機構12との距離を短くできる。特に、フロントアーム10の後端部10aにタイロッド34が連結されることで、ダンパー部材33とフロントアーム10との距離をさらに短くすることができる。
【0076】
(14)タイロッド34は、フロントアーム10の非揺動時に、略鉛直に延びているので、フロントアーム10の揺動時にタイロッド34が車幅方向に変位する量を減らすことができる。たとえばフロントアーム10の非揺動時にタイロッド34が上方に向かうにつれて車幅方向内側に傾斜配置されることで、フロントアーム10が最も変位した状態で、タイロッド34が車幅方向外側に向かう量を抑えることができる。
【0077】
(15)左右一対の上側リンク部材21は、車幅方向に延びるクロスメンバー39によって接続されているので、剛性を向上でき、左右同じ動きをさせることができる。
【0078】
(16)クロスメンバー39が配置される部分で、上側リンク部材21およびサスペンション機構12が接続されることで、剛性低下を防ぐことができる。
【0079】
(17)左右一対の上側リンク部材21は、車幅方向に延びるクロスメンバー39によって接続され、かつ、フロントアーム10の後端部がクロス部10cで接続されているので、左右のタイロッド34の変位を均等に保つことができ、フロントアーム10の揺動時に、ダンパー部材33が傾くのを防止できる。
【0080】
(18)リザーブタンク33aがダンパー部材33の前方に配置されるので、ダンパー部材33を車体フレームFに近づけることができ、マス集中化を図ることができる。
【0081】
(19)
図2において、ブレーキング時、前輪5のタイヤは、路面から車体後方に向かう抵抗力(反力)を受けるが、前述のように、この抵抗力は、フロントアーム10を軸線方向に圧縮する分力と、フロントアーム10を下方に動かすほぼ垂直な分力とに分かれる。該実施の形態では、フロントアーム10がほぼ前後方向に延びているので、路面からの前記抵抗力のほとんどは、フロントアーム10の軸線L0の方向に後方に働く分力となり、最終的に、ブレーキング時には、車体フレームFには、前方から後方に向かう力が働くことになる。したがって、ブレーキング時に、路面からの抵抗力のほとんどが上下方向に作用するフロントフォーク式の従来構造に比べて、フロントアーム10を最終的に支持する車体フレームFの剛性を低くすることができ、軽量化を図ることができる。
【0082】
(20)フロントサスペンション機構12によりフロントアーム10の回動が抑制される構造であるので、リンク部材の回動が抑制される構造に比べて、リンク部材21,22にかかる曲げ方向の力を低減することができ、リンク部材21,22の剛性を低くすることができ、軽量化を図ることができる。
【0083】
(21)フロントアーム10とリンク部材21、22との連結位置が、前輪の後端よりも後方に配置されているので、フロントアーム10の回動抑制のためのフロントサスペンション機構12の位置をできるだけ後方にずらすことができ、重心の集中化を図ることができる。また、フロントアーム10とリンク部材21、22との連結位置が、前輪5の後端よりも後方に配置されていることにより、前輪操舵のために、リンク部材21,22を湾曲形状に形成する必要がなく、複数本必要なリンク部材21,22の構造を直線形状に単純化することができる。
【0084】
(22)路面からの抵抗力のほとんどがフロントアーム10の軸線L0の方向であるので、車体前部が下方に沈み込むフロントダイブを防止するためにフロントサスペンション機構12のばね力、ダンパー力を大きくする必要がない。すなわちフロントダイブの影響が小さく、乗り心地を向上するために特化してばね力、ダンパー力を設定することができる。
【0085】
(23)フロントサスペンション機構12は、フロントアーム10の後端部を弾性的に支持しているので、リンク部材21,22にかかる荷重が軽減され、リンク部材21,22の剛性を抑えて、車輌を軽量化になる。すなわち、フロントアーム10の後端部を弾性的に支持することで、フロントサスペンション機構12の本体を車体中心に近づけたり、あるいは、フロントサスペンション機構12の本体からフロントアーム10にわたって配置される緩衝機構を小型化したりすることができ、構造を単純化することができる。
【0086】
(24)前車軸6の軸芯C0と、フロントアーム10と上側リンク部材21との回動連結点C2とを結ぶ軸線L0が、水平線に対して上方突出状に傾斜しているので、衝突時のエネルギーを、フロントサスペンション機構12で吸収できる。たとえば、前輪に障害物が前方から衝突すると、フロントアーム10が傾斜することで、衝突力がフロントアーム10の軸線L0方向と、軸方向に直交する方向に分かれる。この場合、軸方向に直交する力がフロントサスペンション機構12によって衝撃吸収されることで、衝突時の衝撃を抑えることができる。また軸線L0方向の力は、圧縮荷重として車体に伝わることで曲げ荷重が生じる場合に比べて衝撃に対する抵抗を高めることができる。
【0087】
(25)左右一対の下側リンク部材22が、左右一対の上側リンク部材21よりも、車幅方向の内側に配置されているので、下側リンク部材22の左右の張り出しを小さくし、バンク角度を大きく採ることができる。
【0088】
(26)フロントアーム10の後端部10aに、フロントサスペンション機構12のタイロッド34を連結しているので、前輪5の上下方向の揺動を、平行リンク機構11を介さずに、フロントサスペンション機構12で吸収することができる。これにより、平行リンク機構11には上下方向に大きな荷重がかからず、リンク部材21,22を軽量化することができる。
[他の実施の形態]
【0089】
(1)リンク機構11を有さずに、フロントアーム10が、直接、車体フレームFに支持されている自動二輪車にも適用可能である。
【0090】
(2)前記実施の形態では、平行リンク機構11は、車体フレームFのダウンチューブ3に設けられた支持ブラケット25に取り付けられているが、メインフレームFに支持されるエンジンEの前端部に、直接、平行リンク機構11の後端部を支持する構造とすることもできる。
【0091】
(3)操舵ワイヤを利用した操舵装置を備えた車輌には限定されず、たとえば、ハンドル側操舵軸と車輪側操舵軸との間を、上下方向に折り畳み可能なリンク機構により連結する 構造や、他の構造とすることも可能である。具体的には、操舵軸から角変位可能に接続される複数のリンク部材で構成されたリンク機構を介して、旋回に必要な力をハンドルからハブ支持筒軸に伝達する構成でもよい。
【0092】
(4)
図7はフロントアーム10の変形例であり、フロントアーム10は、側面視で、後方に向かって上下方向の幅が広くなるように形成されており、幅広の後端部10aに、上下のリンク部材21,22の前端部を回動自在に連結している。また、別の変形例として、フロントアーム10の後端部10aを、側面視で、上下方向に突出するT字状に形成してもよい。
【0093】
(5)フロントアーム10は、前記変形例の他に、たとえば、側面視で、フロントアーム10の後端部10aが、上方に延びるようにL字状に形成することもできる。
【0094】
(6)前記実施の形態では、平行リンク機構11は、車体フレームFのダウンチューブ3に取り付けられているが、車体フレームFに支持されるエンジンの前端部に、直接、平行リンク機構11の後端部を支持する構造とすることもできる。
【0095】
(7)フロントアーム10の前車軸6の軸芯C0と、フロントアーム10とリンク機構11との回動連結点(C1)とを結ぶ線は、水平線に対して後下がりに形成されてもよい。また前車軸、前側回動連結点及び後側回動連結点を結ぶ線が下方に凸となる山形状に形成されてもよい。
【0096】
(8)エンジン等のパワーユニットのケースに、各リンク部材を支持するリンク支持ブラケットが固定されてもよい。これによってパワーユニットケースのうち、リンク接続部分の剛性を過剰とする必要がなく、設計の自由度を高めることができる。
【0097】
(9)前記実施の形態では、左右一対のフロントアーム及びリンク部材を備えているが、左右のうちいずれか一方のみに、フロントアーム及びリンク部材を備える構造とすることもできる。
【0098】
(10)ハンドル側操舵軸8の軸芯O1と車輪側操舵軸の軸芯O2は、必ずしも一致していなくともよい。ハンドル側操舵軸8の軸芯O1と車輪側操舵軸の軸芯O2とを、たとえば前後方向にずらすことにより、フロントまわりをすっきりと簡素化でき、また、ヘッドパイプ1を軽量化できる。
【0099】
(11)本発明は、自動二輪車には限定されず、ハンドル支持部分とフロントアームとの間にダンパー部材が配置されればよく、自動二輪車以外の車輌にも適用可能である。たとえば前後にそれぞれ車輪を備える車輌、たとえば3輪以上の車輪を備える鞍乗り型車輌にも適用可能である。特に、車体を傾斜させて旋回する車輌に好適に用いることができる。
【0100】
(12)前輪が巻き上げた泥水等がサスペンション機構に向かうのを防ぐために前輪とサスペンション機構との間に泥除け部材を介在させてもよい。
【0101】
(13)連結部材は、フロントアームの上下方向揺動を、ダンパー入力端部への左右方向の移動に変換する構造であればよく、他の構造が採用されてもよい。たとえばダンパー入力部の両端ではなく、一端部のみとして力が入力されてもよい。
【0102】
(14)支点配置を適宜設定して、フロントアームが非揺動状態から上方に変位した場合に、ダンパー部材に引張り力が加わり、下方に変位した場合にはダンパー部材に圧縮力が加わるように設定してもよい。