特許第6029450号(P6029450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6029450-安全な経口解熱用医薬組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029450
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】安全な経口解熱用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20161114BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   A61K31/19
   A61K45/00
   A61K31/137
   A61P29/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-276632(P2012-276632)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-147492(P2013-147492A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-278173(P2011-278173)
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153039
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真有
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大二朗
(72)【発明者】
【氏名】鳥住 保博
【審査官】 前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−138170(JP,A)
【文献】 特開2008−143807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び、交感神経刺激薬を含有する、解熱用医薬組成物。
【請求項2】
交換神経刺激薬が、エピネフリン、l−イソプレナリン、オキシプレナリン、サルブタモール、テルブタリン、クレンブテロール、ツロブテロール、プロカテロール、マプテロール、サルメテロール、フェノテロール、ホルモテロール、トリメトキノール、フェニルプロパノールアミン、メトキシフェナミン、エフェドリン、メチルエフェドリン及びプソイドエフェドリン、又は、それらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の解熱用医薬組成物。
【請求項3】
交換神経刺激薬がメチルエフェドリン塩酸塩である、請求項1に記載の解熱用医薬組成物。
【請求項4】
感冒時の発熱の解熱のために用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の解熱用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び、交感神経刺激薬を含有する経口解熱用医薬組成物に関する。より詳しくは、感冒時における咳や発熱に用いることのできる安全な解熱用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
感冒時の発熱には、非ステロイド性解熱鎮痛消炎薬(以下、NSAIDsと称する場合がある)が投与されることが多いが、NSAIDs共通の副作用として、(1)胃腸障害、(2)腎障害、(3)アスピリン過敏症、(4)血液障害が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この他にも、(5)小児でのアスピリンによるライ症候群、アセトアミノフェンとアルコール併用による肝障害も周知である。
【0003】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(diisopropylamine dichloroacetate、以下、DADAと省略する場合がある)は、慢性肝疾患における肝機能の改善の効能・効果を有し、(a)肝再生促進作用、及び(b)抗脂肪肝作用が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、感冒用途としてDADAが有効であるという報告は見当たらない。
【0004】
交感神経刺激薬(交感神経興奮薬と言われることがある)は、気管支拡張作用や鬱血除去作用を有するため、感冒時における気道閉塞症状や鼻閉症状を緩和して、呼吸を楽にして咳を鎮めたり、痰が出やすくなったりする作用があるため配合される(例えば、非特許文献3参照)。しかし、交感神経刺激薬が、感冒時の発熱に対して有効(解熱作用がある)という報告は見当たらない。
【0005】
これまでに、DADAと交感神経刺激薬を含有する解熱剤組成物や抗感冒剤組成物は知られておらず、当該組み合わせが感冒時の発熱に対しても有効かどうかは示唆もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小児科, Vol.32 No.1 1991 p.11-21
【非特許文献2】2009年版 医療用医薬品集 JAPIC 2008
【非特許文献3】一般用医薬品製造(輸入)承認基準 2000年版 じほう
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、NSAIDsを含有しなくても、感冒時の発熱や咳嗽に有効かつ安全な解熱用医薬組成物を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる実情に鑑み鋭意研究を進めてきた。その結果、驚くべきことに、肝機能改善剤のジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンと、解熱作用を持たない交感神経刺激薬とを併用すると、優れた解熱作用が発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(4)に関するものである。
(1) ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び、交感神経刺激薬を含有する、解熱用医薬組成物。
(2)交換神経刺激薬が、エピネフリン、l−イソプレナリン、オキシプレナリン、サルブタモール、テルブタリン、クレンブテロール、ツロブテロール、プロカテロール、マプテロール、サルメテロール、フェノテロール、ホルモテロール、トリメトキノール、フェニルプロパノールアミン、メトキシフェナミン、エフェドリン、メチルエフェドリン及びプソイドエフェドリン、又は、それらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、(1)に記載の解熱用医薬組成物。
(3)交換神経刺激薬がメチルエフェドリン塩酸塩である、(1)に記載の解熱用医薬組成物。
(4)感冒時の発熱の解熱のために用いられることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1に記載の解熱用医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンと交感神経刺激薬を含有する組成物は、優れた解熱作用を発現することから、普通感冒における鎮咳去痰及び鼻閉改善目的のみならず解熱目的にも有用であり、かつ安全性が高い。また、当該組成物に解熱鎮痛消炎薬(NSAIDs)を配合する場合には、その減量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】擬似感染モデル動物における、直腸温の時間変動を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における交感神経刺激薬としては、交感神経刺激(興奮)作用を有する薬物であれば特に限定されないが、例えば、エピネフリン、l−イソプレナリン、オキシプレナリン、サルブタモール、テルブタリン、クレンブテロール、ツロブテロール、プロカテロール、マプテロール、サルメテロール、フェノテロール、ホルモテロール、トリメトキノール、フェニルプロパノールアミン、メトキシフェナミン、エフェドリン、メチルエフェドリン及びプソイドエフェドリン、又は、それらの塩が挙げられる。交感神経刺激薬として、好ましくは、エフェドリン塩酸塩、プソイドエフェドリン塩酸塩、プソイドエフェドリン硫酸塩、及びメチルエフェドリン塩酸塩であり、より好ましくはメチルエフェドリン塩酸塩である。なお、エフェドリン塩酸塩、プソイドエフェドリン塩酸塩、プソイドエフェドリン硫酸塩、及びメチルエフェドリン塩酸塩等のエフェドリン類としては、例えば、麻黄のようにエフェドリン類が含まれる生薬であってもよい。ここで、エピネフリン(アドレナリン)、l−イソプレナリン塩酸塩、サルブタモール硫酸塩、テルブタリン硫酸塩、ツロブテロール塩酸塩、プロカテロール塩酸塩水和物、ホルモテロールフマル酸塩水和物、トリメトキノール塩酸塩水和物、エフェドリン塩酸塩、及びdl−メチルエフェドリン塩酸塩は第16改正日本薬局方に収載されている。その他の交感神経刺激薬も市販されており、容易に入手できる。
【0013】
本発明におけるジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンは、日本薬局方外医薬品規格2002に収載されている。
【0014】
本発明の組成物におけるDADAの含有量は、好ましくは、1〜400mg、より好ましくは10〜200mgを1日1〜3回に分けて服用できるように設定すればよい。また、交感神経刺激薬の含有量は、好ましくは、0.01〜300mg、より好ましくは0.1〜200mgを1日1〜3回に分けて服用できるように設定すればよい。
例えば、本発明の組成物が1日1回100mL服用する液剤であれば、その液剤におけるDADAの含有量は、好ましくは1〜400mg/100mL、より好ましくは10〜200mg/100mLである。また、交感神経刺激薬の含有量は、好ましくは0.01〜300mg/100mL、より好ましくは0.1〜200mg/100mLである。
【0015】
本発明の組成物は、さらに、解熱鎮痛薬、中枢神経興奮薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、去痰薬、鎮咳薬、抗アセチルコリン薬、ビタミン剤、生薬及び生薬抽出物を本発明の効果を妨げない範囲内で添加することができる。ここで、解熱鎮痛薬としてはアスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェン、ロキソプロフェン等;中枢神経興奮薬としては無水カフェイン;抗ヒスタミン薬としてはクロルフェニラミン、メキタジン、クレマスチン、カルビノキサミン、ケトチフェン、アゼラスチン、フェキソフェナジン、エピナスチン等;抗炎症薬としてはトラネキサム酸、グリチルリチン酸等;去痰薬としてはグアイフェネシン、ブロムヘキシン、アンブロキソール等;鎮咳薬としてはコデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩、ノスカピン、ノスカピン塩酸塩、クロペラスチン塩酸塩、クロペラスチンフェンジゾ酸塩、ペントキシベリンクエン酸塩(カルベタペンタンクエン酸塩)、チペピジンクエン酸塩、チペピジンヒベンズ酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩;抗アセチルコリン薬としてはベラドンナアルカロイド、ヨウ化イソプロパミド;ビタミン剤としてはビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンP等;生薬及び生薬抽出物としてはケイヒ、オウヒ、カンゾウ等;を添加する薬物の好ましいものとして挙げることができる。
【0016】
本発明の組成物には、本発明の効果が阻害されない限り、ミネラル類、アミノ酸類、グルコン酸等の有機酸類またはそれらの塩、賦形剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、防腐剤、着色剤、安定剤、pH調整剤、溶解補助剤、清涼剤、香料、色素・着色剤などを配合することができる。
【0017】
本発明の組成物は、当該分野で公知の方法で製造することができる。例えば、本発明の組成物が錠剤である場合には、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて製造することができる。また、液剤である場合には、日局製剤総則「液剤」の項に準じて製造することができる。なお、本発明における、DADA、交感神経刺激薬、及び上記添加成分を含有する組成物が錠剤などの固形製剤の場合、該固形製剤は常法に従って製造できるが、上記添加成分が、DADA及び/又は交感神経刺激薬との配合禁忌等の課題で、保存安定性等に課題が発生する場合には、適宜、顆粒分け、多層化等により互いに接触しないように製剤化すればよい。ここで、顆粒分け、多層化等の製剤化は公知の方法を用いればよい。
また、上記製剤が吸水等により保存安定性や品質に課題が発生する場合には、乾燥剤入り包装、及び/又は、製剤や顆粒の防湿コーティング等により、適宜、対応すればよい。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を以下に記載するが、これらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)錠剤
表1に記載の成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0020】
(表1)
3錠中(mg) 錠剤1 錠剤2 錠剤3
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン 60 60 60
dl−メチルエフェドリン塩酸塩 60 − −
プソイドエフェドリン塩酸塩 − 180 −
メトキシフェナミン塩酸塩 − − 150
乳糖 90 90 90
ステアリン酸マグネシウム 2 2 2
ヒドロキシプロピルセルロース 適量 適量 適量
【0021】
(実施例2)液剤
表2に記載の成分及び分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0022】
(表2)
50mL中(mg) 液剤1 液剤2 液剤3
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン 60 60 60
dl−メチルエフェドリン塩酸塩 60 − −
プソイドエフェドリン塩酸塩 − 180 −
メトキシフェナミン塩酸塩 − − 150
白糖 4000 4000 4000
安息香酸ナトリウム 5 5 5
pH調整剤 適量 適量 適量
精製水 残部 残部 残部
【0023】
(試験例)擬似感染モデル試験
(1)被検物質
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA)は第一三共(株)製のものを、また、メチルエフェドリン塩酸塩(ME)はアルプス薬品工業(株)製のものを使用した。
DADA60mgを0.5%CMC(カルボキシメチルセルロース ナトリウム溶液)10mLに溶解して、DADA単剤の被験物質として使用した。DADAとMEとの合剤については、DADA60mgとME10mgを0.5%CMC10mLに溶解して、合剤の被験物質として使用した。
【0024】
(2)動物
7週齢のSlc:SD雄性ラットを日本チャールズリバー(株)から購入し、1週間予備飼育した後、一般状態に異常の認めない良好なものを実験に使用した。
馴化終了後、至近の体重をもとに1群3匹の3群に分けた。第1群は陽性対照群(擬似ウイルス接種かつ媒体投与;図1における「対照」)、第2群はDADA投与群(擬似ウイルス接種かつDADA投与;図1における「DADA単剤」)、第3群はDADAとMEの併用群(擬似ウイルス接種かつDADA+ME投与;図1における「DADA+ME」)とした。
【0025】
(3)試験方法
擬似ウイルスとしてpoly I:C(シグマ社製)を用いて、これを生理食塩水で5mg/mLの濃度に希釈してウイルス接種投与溶液を調製した。これを、各投与ラットの最新の体重を用い、1mL/kgとなるように腹腔内投与し、擬似ウイルス感染状態を誘発した。
【0026】
(4)被検物質の投与
擬似ウイルス接種4日前から11日間、ラット体重10g当り、上記の被験物質0.05mL(対照群は溶媒である0.5%CMCのみを投与)を1日1回(合計11回)、胃ゾンデ(フチガミ器械社製)と注射器(テルモ社製)を用いて強制経口投与した。
【0027】
(5)深部体温(直腸温)の測定
群分け終了翌日、すなわち擬似ウイルス接種3日前より、1日1回直腸温の測定を行った。擬似ウイルス摂取日は、直腸温を測定した後、poly I:Cを投与し、投与後2時間おきに直腸温を測定した。投与後の直腸温変化[Δ(デルタ,℃)]は次式により求めて評価した。
【0028】
【数1】
【0029】
(6)試験結果
得られた結果を図1に示した。図1の横軸は擬似感染からの経過時間で、縦軸は直腸温の変化Δ(デルタ,℃)である。
媒体のみの投与群(対照)では、poly I:Cの投与により、時間とともに深部体温(直腸温度として)が上昇することが確認できた。DADA単剤(30mg/Kg/day)の投与でも解熱作用の傾向が認められたが、解熱作用を有しない交感神経刺激薬のメチルエフェドリン塩酸塩(ME、5mg/Kg/day)を併用した場合、顕著な解熱効果が発現することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の組成物は、優れた解熱作用を発現することから、鎮咳及び去痰作用、鼻閉の症状改善、及び解熱に有用な、安全性の高い普通感冒薬として利用できる。
図1