【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用  土木学会平成24年度全国大会第67回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM),講演番号CS2−024および講演番号CS2−025,公益社団法人土木学会全国大会委員会、平成24年8月1日
    
      
        
          【文献】
          西村昌宏,谷口望,和田一範,既設高架橋の空間創造を目的とした複合構造物の耐震補強と接合部の試設計,土木学会第67回年次学術講演会,日本,公益社団法人土木学会,2012年  9月,1-464
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  鉄筋コンクリート構造高架橋の梁又は桁(以下「対象横架部」という。)に、断面U字状の補強部材を宛がい、当該補強部材の両側部及び前記対象横架部に貫通ボルトを貫通させ、前記補強部材と前記対象横架部との隙間を結合材で充填して構成した横架部構造であって、
  前記補強部材の一側部、底部及び他側部それぞれと、前記対象横架部との間に前記隙間が設けられ、
  前記隙間の一側部側から流下させた前記結合材が、底部側を通って他側部側に回り込み、前記貫通ボルトが貫通している前記対象横架部の貫通孔の他側部側の開口部に達するより先に、当該貫通孔を通って他側部側の開口部から流出するように、前記結合材の材質、前記隙間の間隔及び前記貫通孔の直径が定められた、
  横架部構造。
  前記隙間の一側部側から流下させた前記結合材が、前記貫通孔を通って他側部側の開口部から流出するより先に、底部側を通って他側部側に回り込むように、前記結合材の材質、前記隙間の間隔及び前記貫通孔の直径が定められた、
  請求項1又は2に記載の横架部構造。
【発明を実施するための形態】
【0018】
  〔第1実施形態〕
  本発明を適用した第1実施形態として、鉄道用のRC高架橋の梁や桁と言った横架部を補強しつつ、隣接する既設の一対の柱(径間の両端の柱)を新規の1本の柱に付け替えることで径間を拡張する工事を例に挙げる。尚、RC高架橋は鉄道用に限らず道路用でも同様に適用できる。また、柱の交換に限らず柱の追加についても適用できる。
 
【0019】
  図1は、本実施形態における工事の概略を説明するための図である。
  
図1(1)に示すように、工事対象として想定される鉄道用のRC高架橋2は、複数の柱4を縦梁6や横梁8で連結して基板10を支えている。基板10の上面には、鉄道用の軌道12や防音フェンス14、図示されない信号等の各種設備が適宜設置される。
 
【0020】
  そして、本実施形態では、
図1(2)に示すように、第1区画と第2区画との間の柱4と、第2区画と第3区画との間の柱4との間の縦梁6を補強の対象横架部とし、当該対象横架部を補強部材21で補強しつつ、補強部材21を一体に支持する高架橋柱22を設置する。そして、
図1(3)に示すように、第1区画と第2区画との間の柱4と、第2区画と第3区画との間の柱4とを撤去して、第1〜第3区画をより広いA区画とB区画との2つの区画にリニューアルする。尚、補強部材21を先に対象横架部に取り付けて高架橋柱22を後で設置するか、高架橋柱22を先に設置して補強部材21を後で設置するかは何れでもよい。
 
【0021】
  [補強後の対象横架部の構造の説明]
  
図2は、本実施形態におけるRC高架橋2の横架部構造の構成例を示す部分斜視図であって、基板10の下面を斜め下から見上げた図に相当する。
図3は、同縦断面図である。これらの図に示すように、本実施形態の補強後の横架部構造20は、
  (1)対象横架部である縦梁6を包む補強部材21と、
  (2)同部材の底部に剛結された高架橋柱22と、
  (3)同柱を支持する基礎24(
図1)と、
  (4)縦梁6に貫通される貫通ボルト25と、
  (5)同貫通ボルトと螺合するとともに補強部材21に嵌着する締結具26と、
  (6)縦梁6と補強部材21との側端部の隙間をつめるパッキン材27と、
  (7)縦梁6と補強部材21との隙間や、縦梁6と貫通ボルト25との間に充填されたグラウト層28と、を備える。
  尚、貫通ボルト25の本数や配置位置は図の例に限らず、縦梁6の寸法や補強部材21の長さに応じて適宜設定されるものとする。
 
【0022】
  補強部材21は、撤去対象となる柱4の径間に渡る縦梁6を補強する断面U形状の部材であって、補強対象の縦梁6の外側を覆うように宛がわれる。
  補強部材21は、例えば鋼板で作られる鋼製である。具体的には、両側部と底部とを別々に用意しておいて現場で鋼板を溶接して組み立てる。或いは、予め組み立てておいて現場にて対象とする縦梁6の下からはめ込むとしても良い。尚、補強部材21の外周部には適宜強度確保のためのリブを備えることができる。よって、補強部材21の形状は、リブ等を含まずに見た場合、概ね上向きに開口した「U形状」と言い表すことができる。
 
【0023】
  尚、ここで言う「U形状」とは、補強対象の縦梁6の突出面に沿って覆う形状を示す意味であり、アルファベット文字「U」そのものの形状に限定されるものではなく、補強対象の縦梁6の断面形状に応じた自由度を含む意味である。例えば、「U」の左右に相当する部位も直線に限らず弧状であるとしても良い。その場合、断面C字状とも言える。また、「U」の左右に相当する部位と底辺部位との接続部分を直角として、例えば片仮名の「コ」の開口部を上向きにした形状であっても良いのは勿論である。
 
【0024】
  補強部材21の内寸は、補強対象の縦梁6の側面及び底面からグラウトの流動性に応じて決定される側部間隙D1と底部間隙D2を有するように設定される。例えば、「J14ロート試験」による流下時間が6〜10秒の流動性を有するグラウトを用いることとし、側部間隙D1及び底部間隙D2を略20mmとする。
 
【0025】
  高架橋柱22は、例えば、CFT(Concrete Filled Steel Tube:コンクリート充填鋼管)により形成される。本実施形態では補強部材21と高架橋柱22とは剛結される。補強部材21と高架橋柱22との間に適宜、連結部23(支承部)を設けた結合構造としても良い。
 
【0026】
  図4は、貫通ボルト25及び締結具26の構成例を示す図である。
  貫通ボルト25は、例えばPC鋼棒の両端に雄ネジ部25aを形成して作られる。本実施形態の仕様では、例えば直径11mmとされる。補強部材21の側部及び補強対象の縦梁6には、それぞれ横方向の貫通孔21h及び貫通孔6hが設けられており、貫通ボルト25は両貫通孔に挿通される(
図3)。
 
【0027】
  縦梁6の貫通孔6hの直径は、貫通ボルト25との間に、グラウトの流動性に応じて決定されるボルト外周間隙D3を有するように設定される。補強対象の縦梁6が上記の如く寸法で「J14ロート試験」による流下時間が6〜10秒の流動性を有するグラウトを用いる場合には、ボルト外周間隙D3は貫通孔6hの直径と貫通ボルト25の直径との差が側部間隙D1や底部間隙D2の約1.5倍以上となるように設定される。好適な一例としては、貫通孔6hの直径を「貫通ボルト25の直径+30(mm)以上」としたり、「貫通ボルト25の直径+30〜40(mm)」とする例が考えられる。
 
【0028】
  締結具26は、例えば鋼材で作られた1ピース構造で、補強部材21の貫通孔21hと嵌着する嵌合部26aと、当該締結具の締め込み工具に対応する形状(例えば、レンチ用の六角形など)を有した締め込み操作部26bと、貫通ボルト25の雄ネジ部25aと螺合する雌ねじ部26cとを有する(
図4)。
 
【0029】
  締め込み方向に沿った嵌合部26aの長さは、例えば貫通孔21hでの補強部材21の肉厚の2/3以上であり、補強部材21の肉厚と側部間隙D1との合計未満の長さとすると好適である。
  また、嵌合部26aと補強部材21の貫通孔21hとの隙間は、充填されるグラウトが漏れ出ることなく、且つ貫通ボルト25に締結具26をねじ込み可能で、且つ貫通孔21hの径方向にガタツキが生じない程度に設定するものとする。尚、締結具6は、嵌合部26aと締め込み操作部26bとが一体の1ピース構造が好適である。
 
【0030】
  パッキン材27(
図2)は、例えばウレタン樹脂などの弾性体であって、補強対象の縦梁6の側面と補強部材21の内側面との隙間、及び補強対象の縦梁6の下面と補強部材21の底面との隙間に詰め込まれ、グラウトがそれらの隙間から漏れないようにする。尚、パッキン材27に代えて木枠などを補強部材21の外側から仮止めする構成としてもよい。
 
【0031】
  補強対象の縦梁6と補強部材21との隙間に充填されたグラウトが硬化し、グラウト層28が形成されると、縦梁6と補強部材21と貫通ボルト25とは剛結される。すなわち、
図3に添えられた拡大図に示すように、縦梁6からグラウト層28を介して貫通ボルト25へ力F1が伝達されるようになり、貫通ボルト25から締結具26の嵌合部26aを介して補強部材21へ力F2が伝達されるようになる。すなわち、力の伝達ロスの無い優れた補強が実現される。
 
【0032】
  [設計支援装置及び設計法の説明]
  次に、貫通ボルト25の本数、径、配置の設計法について説明する。
  本実施形態では、設計支援装置1100を用いて貫通ボルト25の本数、径、配置の設計をする。
図5は、設計支援装置1100のハードウェアの構成例を示す図である。本実施形態の設計支援装置1100は、いわゆるコンピュータであって、本体装置1101と、キーボード1106と、タッチパネル1108とを備える。本体装置1101には制御基板1150が内蔵されている。そして、制御基板1150は、CPU1151、ICメモリ1152やハードディスクなどの記憶媒体、キーボード1106やタッチパネル1108などとのデータの入出力を制御するインタフェースIC1153、などを備える。
 
【0033】
  図6は、設計支援装置1100の機能構成例を示すブロック図である。
  設計支援装置1100は、操作入力部100と、処理部200と、画像表示部360と、記憶部500とを備える。
 
【0034】
  操作入力部100は、オペレータによって為された各種の操作入力に応じて操作入力信号を処理部200に出力する。
図5のキーボード1106、タッチパネル1108がこれに該当する。
 
【0035】
  処理部200は、例えばCPUやGPU等のマイクロプロセッサや、ASIC(特定用途向け集積回路)、ICメモリなどの電子部品によって実現され、操作入力部100や記憶部500を含む各機能部との間でデータの入出力制御を行う。そして、所定のプログラムやデータ、操作入力部100からの操作入力信号、各種データに基づいて各種の演算処理を実行して設計支援装置1100の動作を制御する。
図5の制御基板1150がこれに該当する。そして、本実施形態における処理部200は、想定断面力設定部202と、仮設定部204と、耐力算定部206と、評価部208と、画像生成部260と、を備える。
 
【0036】
  想定断面力設定部202は、対象横架部(本実施形態では縦梁6)と高架橋柱22との接合部、すなわち補強部材21及び貫通ボルト25に働く想定断面力の設定に係る制御をする。想定断面力としては、補強後のRC高架橋2に想定される限界荷重条件から求められる設計曲げモーメント、設計せん断力、設計軸力、が少なくとも含まれる。具体的には、画像表示部360にそれらの想定断面力を入力させる入力画面を表示させて、オペレータが操作入力部100から入力したそれらの値を記憶部500に一時記憶させる。
 
【0037】
  仮設定部204は、貫通ボルト25の仮の配置構成の設定に係る制御をする。本実施形態では、記憶部500に予め記憶されている配置構成データ510(貫通ボルト25を挿通させる位置座標を格納する。
図7参照。)を参照して設定する。なお、画像表示部360に配置構成のデータを入力させる入力画面を表示させ、オペレータが操作入力した値を記憶部500に一時記憶させる構成も可能である。
 
【0038】
  耐力算定部206は、補強部材21の横架方向(本実施形態では縦梁6の長手方向)の一端部を回転中心とした高架橋柱22の曲げモーメントに対する接合部の第1の耐力と、接合部における軸力及びせん断力に対する第2の耐力とを、仮設定部204により設定された仮の配置構成に基づいて算定する。
 
【0039】
  評価部208は、想定断面力と、第1及び第2の耐力と、所与の安全係数とに基づいて、仮の配置構成を評価する。本実施形態では、後述する所定の算出式に従って評価値を算出し、仮の配置構成の識別情報とともに対応づけて記憶部500の評価値データ530に格納する。
 
【0040】
  画像生成部260は、例えば、GPU、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などのプロセッサ、ビデオ信号IC、フレームバッファ等の描画フレーム用ICメモリ等によって実現される表示画面の画像信号を生成し、画像表示部360へ出力する。
 
【0041】
  画像表示部360は、画像生成部260から入力される画像信号に基づいて入力画面などの各種画像を表示する。例えば、フラットパネルディスプレイ、ブラウン管(CRT)、プロジェクター、ヘッドマウントディスプレイといった画像表示装置によって実現できる。本実施形態では、
図5のタッチパネル1108がこれに該当する。
 
【0042】
  記憶部500は、処理部200に設計支援装置1100を統合的に制御させるための諸機能を実現するためのシステムプログラムや、設計支援に必要なプログラム、各種データ等を記憶する。また、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や操作入力部100から入力される入力データ等を一時的に記憶する。こうした機能は、例えばRAMやROMなどのICメモリ、ハードディスク等の磁気ディスク、CD−ROMやDVDなどの光学ディスクなどによって実現される。
図5の制御基板1150が搭載するICメモリ1152やハードディスクなどの情報記憶媒体がこれに該当する。
 
【0043】
  本実施形態の記憶部500は、システムプログラム501と、設計支援プログラム502とを記憶している。
  システムプログラム501は、設計支援装置1100のコンピュータとしての入出力の基本機能を実現するためのプログラムである。
  設計支援プログラム502は、処理部200が読み出して実行することによって想定断面力設定部202と、仮設定部204と、耐力算定部206と、評価部208と、画像生成部260としての機能を実現させるためのアプリケーションソフトウェアであるが、システムプログラム501の一部として組み込まれた構成であっても良い。
 
【0044】
  また、記憶部500は、配置構成データ510と、ボルト諸元データ520とを予め記憶し、設計支援の実行に伴って評価値データ530を記憶する。勿論、記憶部500には、設計支援の演算処理に必要なその他のデータも適宜記憶することができる。
 
【0045】
  配置構成データ510は、例えば
図7に示すように、配置構成ID512と対応づけて貫通ボルトの合計の本数514と、配置される貫通ボルト25それぞれの配置位置座標値を格納した配置位置座標リスト516とを対応づけて格納する。
  補強対象の縦梁6の内部には何本もの鉄筋が配筋されており、鉄筋を切って貫通孔6hを設けることは強度低下を招くためにできない。よって、貫通ボルト25を配置可能な位置は、補強対象の縦梁6の配筋から必然的に求められる。配置構成は、必然的に求められる配置可能な位置の組み合わせとなる。
 
【0046】
  ボルト諸元データ520は、例えば
図8に示すように、規格ID522と対応づけて、直径524と、断面積526と、設計せん断降伏強度528とを格納する。
  貫通ボルト25は、工費削減と入手のし易さから、既存の規格品のボルトを用いるのが好ましいと言える。よって、ボルト諸元データ520に格納される直径524、断面積526、設計せん断降伏強度528は、既存の規格値となる。勿論、規格外の専用設計も許容されるならば、それらの数値も当該データに含めておくとよい。
 
【0047】
  図9は、設計支援装置1100の設計支援に係る処理の流れを説明するためのフローチャートである。ここで説明する処理は、処理部200が設計支援プログラム502を実行することにより実現される。
 
【0048】
  まず、処理部200は、想定断面力を含む設計条件を設定する条件設定処理を実行する(ステップS2)。具体的には、設計条件として(1)補強対象の縦梁6の断面諸元と、(2)柱と梁の接合部に働く想定断面力として設計曲げモーメントMd・設計せん断力Vd・設計軸力Nd、(3)安全係数γb、を入力するための入力画面を表示する。そして、入力されたそれらのデータを、記憶部500に記憶させる。
 
【0049】
  次に、処理部200は、貫通ボルト25の配置構成それぞれについてループAの処理を実行する(ステップS10〜S40)。本実施形態では、配置構成データ510の配置構成ID512が示す配置構成毎に実行される。
 
【0050】
  ループAにおいて、処理部200は処理対象配置構成に応じて補強部材21の寸法を算出し(ステップS12)、補強部材21の回転中心位置と、各貫通ボルトの回転中心距離Li(i=貫通ボルトの識別番号)とを算出する(ステップS14)。
  補強部材21の側面寸法(補強部材21の側面の高さと、補強対象の縦梁6の長手方向の長さ)は、処理対象の配置構成における最も外側の貫通ボルト25の配置位置から更に高さ方向あるいは梁長手方向外側に所定の長さを確保することとして決定する。
  回転中心距離Liは、例えば
図10に示すように、高架橋柱22に対して補強対象の縦梁6の長手方向に荷重Wが作用し、補強部材21の底面の一端を回転中心30として補強部材21が回転すると想定して算出する。尚、
図10では貫通ボルト25の数が5本の例を示しているが、実際には、ループ処理対象となる配置構成に従う。
 
【0051】
  次に、選択可能な貫通ボルト25の規格毎にループBを実行する(ステップS20)。
  ループBでは、まず各貫通ボルト25について、曲げモーメントに抗する抵抗力すなわち曲げ耐力を次式(1)で算出する(ステップS22)。
      曲げ耐力Pi=Pmax×(Li/Lmax)      ・・・式(1)
          (但し、i=規格の識別番号、Pmax=fs×Ai)
  そして、全ての貫通ボルト25の抵抗力に基づいて補強部材21が取り付けられる接合部全体の曲げ耐力を次式(2)で算出する(ステップS24)。
      全体曲げ耐力Mud=ΣPi・Li/γb        ・・・式(2)
 
【0052】
  次に、各貫通ボルト25について、作用する軸力と、当該軸力に基づくせん断力に対する抵抗力、すなわちせん断耐力を次式(3)で算出する(ステップS26)。
    せん断耐力Qi=fs×Ai      ・・・式(3)
 
【0053】
  そして、全ての貫通ボルト25のせん断耐力に基づいて補強部材21が取り付けられる接合部全体のせん断耐力を次式(4)で算出する(ステップS28)。
    全体せん断耐力Vud=ΣQi/γb     ・・・式(4)
 
【0054】
  次に、接合部全体の耐力に基づいて次式(5)で評価値kiを算出し、当該算出した評価値kiに、ループAの処理対象となっている配置構成ID512と、ループBの処理対象となっている規格ID522とを対応づけて評価指標データ530に追加格納し(ステップS30)、ループBを終了する(ステップS32)。
    評価値ki=γb{(Md/Mud)+(SQRT[Nd
2+Vd
2]/Vud)}  ・・・式(5)
 
【0055】
  そして、選択可能なボルトの諸元全てについてループBを実行したならば、現在処理対象としている貫通ボルト25の配置構成についてのループAの処理を終了する(ステップS40)。
 
【0056】
  配置構成データ510の配置構成ID512に対応する全ての配置構成についてステップS12〜S14及びループBを実行したならば、処理部200は次に、評価値データ530に格納されている各評価値を降順にソートして、評価値kiと、貫通ボルト25の配置構成ID512と、貫通ボルト25の規格ID522とを対応づけて画面表示する(ステップS42)。最良の配置構成が最上位に提示出力されることとなる。設計者は、この画面表示の結果を参照して、強度要件とコストとを両立する選択肢を適宜選択することができる。
 
【0057】
  [施工順の説明]
  次に、施工順について説明する。尚、各工程に係る足場等の設置については説明を省略する。
図11は本実施形態における施工順を説明するためのフローチャートである。
  まず、補強対象の縦梁6(本実施形態における鉄筋コンクリート構造高架橋の対象横架部)に貫通孔6hを設ける(ステップT2:開孔ステップ)。次いで、補強対象の縦梁6に補強部材21を宛がう(ステップT4:仮配置ステップ)。この時、補強部材21に予め設けられている貫通孔21hと梁の貫通孔6hとが略同軸上に開口するように位置合わせする。
 
【0058】
  次に、補強部材21の両側部及び補強対象の縦梁6の貫通孔6hに貫通ボルト25を貫通させ、挿通された貫通ボルト25の両端に締結具26を螺合して締付け固定する(ステップT6:ボルト設置ステップ)。この時、締結具26の嵌合部26aが補強部材21の貫通孔21hに嵌着するようにする。
 
【0059】
  次に、補強部材21の側面開口部にパッキン材27を挿入し、補強部材21の一側部、底部及び他側部それぞれと、補強対象の縦梁6との間の隙間に結合材(本実施形態ではグラウト)を一側部側から片押し方式(本実施形態では上部からの流し込みによる自然落下による)で充填させる(ステップT8:充填ステップ)。尚、流し入れる位置は、補強部材21の長手方向(縦梁6の方向)の中央一箇所としてもよいし、長手方向に等間隔に配置された複数位置から流し入れるとしてもよい。
  次に、グラウトを硬化させる(ステップT10:硬化ステップ)。グラウトが硬化すると、グラウト層28により補強対象の縦梁6と補強部材21とが剛結され工事完了となる。
 
【0060】
  図12〜
図13は、充填ステップにおけるグラウトの流入状況の例を時系列に示す図である。
図12(1)に示すように、グラウト9(図柱の網掛け部分)は、補強部材21の左上部より流し入れられるものとする。グラウト9の流動特性並びに各間隙(側部間隙D1、底部間隙D2及びボルト外周間隙D3)の設定により、グラウト9は補強部材21の左方内面に沿って左方(一側面側)の側部間隙D1を流下し、底部間隙D2の左端位置G1から徐々にグラウトが充填され始める。
 
【0061】
  グラウト9は、底部間隙D2を右方向に向かって徐々に流れ込みつつも、その流動性の低さゆえに左方の側部間隙D1に沿っても溜まり始める。そして、
図12(2)に示すように、左方の側部間隙D1のグラウト9の上部が、やがて下段の貫通孔6の左開口位置G2に達すると、グラウト9はボルト外周間隙D3にも流れ込むようになる。底部間隙D2に流れ込んだグラウト9はやがて右端位置G3に達し、そこから右方(他側面側)の側部間隙D1内を上へと徐々に満ちてゆく。そして、やがては下段の貫通孔6hの右開口位置G4に達する。
 
【0062】
  しかし、本実施形態ではボルト外周間隙D3は底部間隙D2よりも大きく設定されているので、
図13(3)に示すように、底部間隙D2を経由したグラウト9が右方開口位置G4に到達するよりも、ボルト外周外周間隙D3を満たしたグラウト9が右開口位置G4に達する方が早くなる。別の見方をすれば、下段の貫通孔6h内の空気を押し出したグラウト9が、右端位置G3から右開口位置G4へ上昇してくるグラウト9に合流する格好となる。従って、
図13(4)に示すように、下段の貫通孔6h内にはグラウト9が「片押し」により充満することとなる。
 
【0063】
  ここで、下段の貫通孔6h内の空気を押し出したグラウト9が右開口位置G4へ達するタイミングで、底部間隙D2を経由するグラウト9が側部間隙D1の右端位置G3に達していることも重要である。達していない状態、例えば底部間隙D2の左右の真ん中辺りまでしか達していなければ、下段の貫通孔6hから溢れ出たグラウト9が右方の側部間隙D1を流下し、右端位置G3から底部間隙D2へ流入することになる。こうなると、左端位置G1から来たグラウト9と底部間隙D2の中で合流することになり、底部間隙D2から気泡が十分抜けきれない現象が起こり得、強度不足が生じ得るという問題がある。
 
【0064】
  さて、下部の貫通孔6hを通ったグラウト9が右開口位置G4に達する頃には、左方の側部間隙D1ではグラウト9が上段の貫通孔6hの左開口部位置G5に達し、上段の貫通孔6hにもグラウト9が流れ込み始める。上段の貫通孔6hへ流れ込んだグラウト9が、同貫通孔の右開口部G6に達するタイミングは、右方開口位置G4から右方側部間隙D1を上昇するグラウト9よりも早くなるように設定されている。よって、上段の貫通孔6hについてもグラウト9が「片押し」により充満することとなる。
 
【0065】
  グラウト9の注入は、右方の側部間隙D1の上端まで充満するまで続けられる。グラウト9が硬化すれば、最終的には
図3で示した状態となり、グラウト層28が形成されて縦梁6と補強部材21とは極めて強く剛結される。
 
【0066】
  [載荷実験の説明]
  
図14は、本実施形態における補強後の横架部の載荷実験の結果を示す図である。
  載荷実験では、
図14(1)に示すように、実物大の仮梁6’を作製してこれを補強対象の横架部と見立て、上述したのと同様にして補強部材21ほか一式を取り付けた。但し、実験室の空間制限から高架橋柱22は実際よりも短い。そして、補強された仮梁6’を天地逆さまにして試験装置に固定し、高架橋柱22に梁の長手方向と直交する方向にアクチュエータで交番荷重(荷重方向が反転するようにして繰返し作用される荷重)を加えて補強部材21の変位を計測した。段階的に荷重を増しながら繰返し計測した結果からは、
図14(2)のグラフが得られた。載荷実験の結果、本実施形態による補強部材21と補強対象の横架部との接合部分では良好に力が伝達されており、それにより柱・梁接合部が十分な耐力を有していることが分った。
 
【0067】
  また、
図15は荷重方向を仮想梁6’の長手方向とした場合の第2の載荷実験の結果を示す図である。
図15(1)に示すように、先の載荷実験と同様に実験体を準備し、高架橋柱22に梁の長手方向にアクチュエータで交番荷重を加えて補強部材21の変位を計測した。但し、当該実験では最終的に破壊に至るまで荷重を高めていった。計測した結果からは、
図15(2)のグラフが得られた。設計上は、190(kN)が想定降伏荷重であるが、想定降伏荷重以上の領域でも残留歪みを残しつつも破壊には至らず、308(kN)で貫通ボルト25が破断するに至った。第2の載荷実験の結果からも、荷重の方向は異なれども、同様に補強部材21と補強対象の横架部との間では良好に力が伝達されており、柱・梁接合部が十分な耐力を有していることが分った。
 
【0068】
  このように、本実施形態によれば、底部間隙D2を通って他側部側に回り込むグラウト(結合材)が、貫通ボルト25を挿通する対象横架部(縦梁6)の貫通孔6hの他側部側の開口部に達するより先に、当該貫通孔6hを通ったグラウトが他側部側の開口部に達するように設定されているので、対象横架部(縦梁6)の貫通孔6内に気泡すなわち未充填部分が残り難く、高い充填度を実現できる。また、方押し方式の自然流下でグラウトを充填さえすれば良いので、充填圧を高める装置なども不要であり、工数もコストも少なくできる。
 
【0069】
  また、補強対象部の対象横架部(本実施形態では縦梁6)から貫通ボルト25への力の伝達は、貫通孔6hに充填された結合材を介して行われ、更に貫通ボルト25から補強部材21への力の伝達は、締結具26を介して行われる。従って、対象横架部と貫通ボルト25と補強部材21とをより強固に剛結できる。
 
【0070】
  〔第2実施形態〕
  次に、本発明を適用した第2実施形態について説明する。本実施形態は基本的には第1実施形態と同様に実現されるが、貫通ボルト25と補強部材21との力の伝達に係る構成が異なる。尚、以降では、第1実施形態との差異について主に述べることとし、第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付与して説明を省略するものとする。
 
【0071】
  図16は、本実施形態における補強後の対象横架部の縦断面図である。本実施形態の補強後の対象横架部は、補強部材21と、高架橋柱22と、基礎24と、貫通ボルト25と、締結具26Bと、グラウト層28と、を備えた構造となる。
 
【0072】
  図17は、本実施形態における締結具26Bの構成例を示す図である。締結具26Bは当該締結具の締め込み工具に対応する形状(例えば、レンチ用の六角形など)を有した締め込み操作部26bと、貫通ボルト25の雄ネジ部25aと螺合する雌ねじ部26cと、補強部材21の貫通孔21hの直径より大きい座金部26dとを有する。尚、本実施形態では、締結具26Bは、締め込み操作部26bと座金部26dとが一体の1ピース構造とするが、両者を別々の部品とする2ピース構造でもよい。
 
【0073】
  本実施形態における側部間隙D1、底部間隙D2、及びボルト外周間隙D3へのグラウト(結合材)の充填過程は、第1実施形態と同様である(
図12,
図13参照)。本実施形態では、
図16に示すように、貫通ボルト25に締結具26Bを螺合させると、補強部材21の貫通孔21hの内側部分(勿論、そこには貫通ボルト25が通っている)が側部間隙D1に連なる空間となり、グラウトの充填過程で当該空間にもグラウトが充満される。すなわち、
図16の拡大図に示すように、縦梁6からグラウト層28を介して貫通ボルト25へ力F1が伝達されるようになり、貫通ボルト25から貫通孔21h内のグラウト層28の部分を介して補強部材21へ力F2が伝達されるようになる。
 
【0074】
  〔変形例〕
  以上、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明の形態がこれらに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない限りに於いて適宜構成用の追加・省略・変更を施すことができる。
 
【0075】
  例えば、上記実施形態では、上下2段に貫通ボルト25を挿通させ、それぞれに対応する縦梁6の貫通孔6hの径は同じとしたが、
図12〜
図13で示したようなグラウトの充填が実現できるならば、互いに異なる径であっても良い。同様のことは、左右の側部間隙D1の値についても言える。また、側部間隙D1も上から下まで同じ幅としたが、例えば、下が広くて上に向かう程狭くなると言った具合に上下で間隙の大きさが異なるとしてもよい。
 
【0076】
  また、上述した各実施形態では、補強対象とする横架部を縦梁6として例示したが、横梁8とすることもできる。また梁に限らず、桁に適用することもできる。また、既設柱2本に対して高架橋柱1本を置き代えるのはなく、既設柱1本に対して高架橋柱1本を置き代えるとしてもよい。
 
【0077】
  また、上記実施形態では高架橋柱22を設けた構造としたが、柱が不要な場合、すなわち梁や桁の補強のみが目的の場合には、高架橋柱22を省略することが可能である。
 
【0078】
  また、グラウト材は、コストや補強強度等に応じて、セメント(モルタル)系、ガラス系、合成樹脂等の中から選択することができる。