特許第6029481号(P6029481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029481レーザーダイシングシートおよび半導体チップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029481
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】レーザーダイシングシートおよび半導体チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20161114BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20161114BHJP
   B23K 26/40 20140101ALI20161114BHJP
【FI】
   H01L21/78 M
   H01L21/78 B
   H01L21/78 Q
   B23K26/38 320
   B23K26/40
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-19875(P2013-19875)
(22)【出願日】2013年2月4日
(62)【分割の表示】特願2008-220230(P2008-220230)の分割
【原出願日】2008年8月28日
(65)【公開番号】特開2013-131769(P2013-131769A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2013年2月15日
【審判番号】不服2014-22013(P2014-22013/J1)
【審判請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
【合議体】
【審判長】 西村 泰英
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−5530(JP,A)
【文献】 特開2008−91765(JP,A)
【文献】 特開2008−53341(JP,A)
【文献】 特開2007−59829(JP,A)
【文献】 特開2002−141306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/301
B23K26/38-26/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は複層の基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなり、
該基材の少なくとも1層の300〜400nmにおける全光線透過率が90〜98%であって、
該基材の厚みの二乗と該基材のヤング率との積が0.3〜6.5Nであり、
該基材の厚みが0.05〜0.13mmであるレーザーダイシングシート。
【請求項2】
基材の厚みの二乗と該基材のヤング率との積が2.56〜5.82Nであり、
基材が低密度ポリエチレンフィルムである請求項1に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項3】
基材がエチレン・メタクリル酸共重合体フィルムではない請求項1に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項4】
表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハの裏面に、請求項1〜3のいずれかに記載のレーザーダイシングシートを貼付する工程、
半導体ウエハにレーザー光を照射し、該半導体ウエハを回路毎に個片化して半導体チップを作成する工程を含む半導体チップの製造方法。
【請求項5】
表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハの裏面に、請求項1〜3のいずれかに記載のレーザーダイシングシートを貼付する工程、
半導体ウエハにレーザー光を照射し、該半導体ウエハを回路毎に個片化して半導体チップを作成する工程、
レーザーダイシングシートをエキスパンドしてチップ間隔を拡張する工程を含む半導体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハをレーザー光照射により回路毎に個片化し、半導体チップを作成する際に、半導体ウエハを固定するために好ましく使用されるレーザーダイシングシートに関する。また、本発明は該ダイシングシートを使用した半導体チップの製造方法に関する。特に本発明のレーザーダイシングシートは、表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハを固定、切断し、チップを製造する際に好ましく用いられる。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハは表面に回路が形成された後、ウエハの裏面側に研削加工を施し、ウエハの厚さを調整する裏面研削工程およびウエハを所定のチップサイズに個片化するダイシング工程が行われる。また裏面研削工程に続いて、さらに裏面にエッチング処理などの発熱を伴う加工処理や、裏面への金属膜の蒸着のように高温で行われる処理が施されることがある。
【0003】
近年のICカードの普及にともない、その構成部材である半導体チップの薄型化が進められている。このため、従来350μm程度の厚みであったウエハを、50〜100μmあるいはそれ以下まで薄くすることが求められるようになった。
【0004】
脆質部材であるウエハは、薄くなるにつれて、加工や運搬の際、破損する危険性が高くなる。このため、ウエハを極薄まで研削したり、極薄のウエハを運搬する場合は、ウエハをガラス板やアクリル板のような硬質板上に両面粘着シートなどにより固定・保護して作業を進めている。
【0005】
しかしながら、両面粘着シートでウエハと硬質板とを貼り合わせる方法では、一連の工程を終えた後、両者を剥離する際、ウエハが割れてしまうことがあった。2枚の薄層品が貼り合わされてなる積層物を剥離する際には、薄層品の何れか一方、または両者を湾曲させて剥離する必要がある。しかし、硬質板を湾曲することは不可能ないし困難であるため、ウエハ側を湾曲せざるをえない。このため、脆弱なウエハが割れてしまうことがある。
【0006】
また、上記したような裏面研削後に、高温での加工をウエハ裏面に施す際には、両面粘着シート等でウエハを固定することは適切ではない。すなわち、両面粘着シートを介して硬質板上にウエハを保持した状態で高温に曝されると、両面粘着シートが軟化、分解し、ウエハの保持機能が失われる。また両面粘着シートが熱により収縮または膨張し、極薄ウエハが変形してしまうことがある。さらに両面粘着シートに由来する有機物の分解物によりウエハが汚染されることもある。
【0007】
このため、図2図4に示すように、裏面研削時に、ウエハ裏面の全面を平滑に研削せずに、裏面内周部16のみを研削し、裏面外周部に環状凸部17を残存させることが提案されている(特許文献1、2等)。ウエハ表面には、図2に示すように、外周端から数mmの範囲には回路13が形成されていない余剰部分15があり、回路13は余剰部分を除くウエハ内周部14に形成されている。上記の裏面研削方法では、表面の回路形成部分(ウエハ内周部14)に対応する裏面内周部16のみを所定の厚みまで研削し、回路が形成されていない余剰部分15に対応する裏面領域は研削せずに残存させる。この結果、研削後の半導体ウエハの裏面外周部には環状の凸部17が形成される。環状凸部17は比較的剛性が高いため、上記の形態に研削されたウエハは、硬質板を使用せずとも安定して搬送、保管できる。よって、上記の形態に研削されたウエハによれば、硬質板を固定する両面粘着シート等を使用する必要が無いため、高温に曝して裏面加工を施す際にも、ウエハを安定して保持でき、かつ有機物の分解物によりウエハが汚染されることもない。
【0008】
一方、ウエハのダイシングは、通常は回転丸刃(ブレード)を用いて行われているが、近年、レーザー光を用いたダイシング(レーザーダイシング)が提案されている。レーザーダイシングは、ブレードダイシングでは切断困難なウエハも切断可能である場合があり、注目されている。そのようなレーザーダイシングに用いられるレーザーダイシングシートは種々提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2007-59829号公報
【特許文献2】特開2008-34708号公報
【特許文献3】特開2006-245487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体ウエハをレーザー光でダイシングする際には、ウエハの裏面全面をレーザーダイシングシートで固定し、ダイシングシートの外周部をリングフレームにより固定している。その後、ウエハ表面側から回路パターンを認識しつつ、回路間のストリートに沿ってレーザー光を照射してダイシングを行う。この結果、生成したチップは、ダイシングシート上に保持され、その後、所定の手段によりチップのピックアップを行う。
【0010】
しかし、上記のようにウエハの裏面内周部のみを研削し、外周部に環状凸部を残存させた場合には、図6に示すように、ウエハのダイシング工程において、生成したチップ12がダイシングシート20上に保持されずに、チップ12が脱落または飛散してしまうことがある。つまり、ウエハの裏面内周部16のみを研削し、外周部に環状凸部17を残存させた場合には、内周部平面と環状凸部との段差が100〜700μm程度になる。このため、環状凸部の近傍では、気泡を有し内周部平面にダイシングシート20が密着しないことがある。この状態でウエハのダイシングを行うと、環状凸部17の近傍で切断されたチップ12がダイシングシート20上に保持されずに、チップ12が脱落または飛散してしまう。この結果、チップの歩留まりが低下し、また飛散したチップによりダイシング装置を破損することがある。
【0011】
したがって、本発明は、ウエハの裏面内周部のみが研削され、外周部に環状凸部を有し、内周部平面と環状凸部との間に段差が形成されたウエハ裏面に対して、追従性が良く密着して貼付でき、レーザーダイシング時にウエハおよびチップを確実に保持できるレーザーダイシングシートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)単層又は複層の基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなり、
該基材の少なくとも1層の300〜400nmにおける全光線透過率が90〜98%であって、
該基材の厚みの二乗と該基材のヤング率との積が0.3〜6.5Nであるレーザーダイシングシート。
(2)基材の厚みが0.05〜0.13mmである(1)に記載のレーザーダイシングシート。
(3)表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハの裏面に、(1)または(2)に記載のレーザーダイシングシートを貼付する工程、
半導体ウエハにレーザー光を照射し、該半導体ウエハを回路毎に個片化して半導体チップを作成する工程を含む半導体チップの製造方法。
(4)表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハの裏面に、(1)または(2)に記載のレーザーダイシングシートを貼付する工程、
半導体ウエハにレーザー光を照射し、該半導体ウエハを回路毎に個片化して半導体チップを作成する工程、
レーザーダイシングシートをエキスパンドしてチップ間隔を拡張する工程を含む半導体チップの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ウエハの裏面内周部のみが研削され、外周部に環状凸部を有し、内周部平面と環状凸部との間に段差が形成されたウエハ裏面に対して、追従性が良く密着して貼付でき、レーザーダイシング時にウエハおよびチップを確実に保持できるレーザーダイシングシートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の好ましい態様について、図面を参照しながら、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るレーザーダイシングシート10は、基材1と、その片面に形成された粘着剤層2とからなる。なお、図1においては、基材1は基材層1a,1bの2層からなる。
【0016】
基材1の少なくとも1層の300〜400nmにおける全光線透過率は40%以上であり、好ましくは40〜100%、さらに好ましくは45〜98%である。
【0017】
さらに、基材1の厚みの二乗とヤング率との積が0.3〜6.5N、好ましくは0.35〜6.3N、さらに好ましくは0.4〜6.0Nである。
【0018】
基材1の少なくとも1層の300〜400nmにおける全光線透過率を上記範囲とすることで、レーザー光、特に短波長レーザー(たとえば波長355nm)の透過性が良好となる。この結果、レーザー光によりシートが受ける損傷も少なく、レーザーダイシング時にシート10が切断されることもない。一方、基材1の300〜400nmにおける全光線透過率は40%未満の場合、レーザー光によりシートが受ける損傷が大きく、レーザーダイシング時にシート10が切断されてしまう。なお、図1においては、2層の基材1を示しているが、基材1は単層(1層)でもよいし、複層(2層以上)であってもよい。単層の場合、基材1の全光線透過率が上記範囲であればよく、複層の場合、基材1の少なくとも1層の全光線透過率が上記範囲であればよい。その1層はレーザー光による損傷が少なくシート10が切断されることはない。
【0019】
また、基材1の厚みの二乗とヤング率との積を上記範囲とすることで、レーザーダイシングシートの形状追従性を高くすることができ、たとえば675μm程度の段差を有する被着体に対してもレーザーダイシングシートを密着して貼付することができる。一方、基材1の厚みの二乗とヤング率との積が6.5よりも大きい場合、レーザーダイシングシートの形状追従性が低く、シートとウエハとの間に空気(気泡)がかみこむため、ウエハを保持することが困難になる。また、基材1の厚みの二乗とヤング率との積が0.3よりも小さい場合、基材1が薄すぎる、または柔らかすぎるために支持性がなくレーザーダイシングシートとしての機能を有しない。つまり、半導体チップの製造が困難である。なお、粘着剤層2は柔軟であるため、その厚み等はシートの追従性に大きな影響を与えない。
【0020】
ここで、基材1の厚みはmm単位で表され、基材1のヤング率はMPa(=N/mm)単位で表される。したがって、基材1の厚みの二乗とヤング率との積は、N(ニュートン)単位となる。
【0021】
基材1の厚みは、何ら制限されないが、好ましくは0.03〜0.2mm、さらに好ましくは0.04〜0.15mm、特に好ましくは0.05〜0.13mmの範囲にある。また、基材1のヤング率は、好ましくは80〜1200MPa、さらに好ましくは100〜1000MPaの範囲にある。本発明のダイシングシート10における基材1は、その厚みおよびヤング率を考慮し、基材1の厚みの二乗とヤング率との積が上記範囲となるように適宜に選択される。たとえば、結晶性を有するポリエチレンやポリプロピレンの場合、造核剤を添加することにより結晶化度を高める方法や、高密度化する方法、あるいは脂環族系の材料を添加することによりヤング率を増大することができる。また、その他の材質では、架橋密度を調整することによりヤング率を制御することができる。
【0022】
したがって、比較的ヤング率の高い材質を使用する場合には基材の厚みを薄くし、またヤング率の低い材質を使用する場合には基材の厚みを厚くすることで、上記本発明で使用する基材が得られる。
【0023】
また、粘着剤層2の厚みは、好ましくは0.001〜0.3mm、さらに好ましくは0.003〜0.15mm、特に好ましくは0.005〜0.05mmの範囲にある。粘着剤層2の厚みが薄すぎる場合には、充分な粘着力が得られない場合がある。一方、粘着剤層2の厚みが厚すぎる場合には、ウエハ11のダイシング時にウエハが振動しチッピングが発生したり、糊残りの原因になるおそれがある。
【0024】
また、レーザーダイシングシート10の厚みが極端に薄すぎる場合には、レーザー光によりシートが損傷を受けると、シート10が切断され、チップ12の保持機能が著しく損なわれるおそれがある。また、シート10が切断されない場合であっても、シート10表面には溝が切り込まれる。溝の深さがシート10の厚みに対して深すぎると、シート10の強度が低下し、シート10のエキスパンド性が損なわれる。レーザーダイシング工程終了後にチップ間隔を拡張するためにレーザーダイシングシート10のエキスパンドを行うことがある。しかし、レーザーダイシングシートへの切り込みによりシート10表面に深い溝が形成された場合には、溝を起点としてレーザーダイシングシート10が破断し、エキスパンド不能になる。
【0025】
このため、エキスパンド工程を含むチップの製造方法に本発明のレーザーダイシングシート10を適用する場合には、基材1の厚みと、粘着剤層2の厚みとの総和は、好ましくは0.031〜0.5mm、さらに好ましくは0.043〜0.3mm、特に好ましくは0.055〜0.18mmである。
【0026】
本発明のダイシングシート10に用いられる基材1の材質は、上記物性を満足する限り特に限定はされないが例えば低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、およびその水添加物または変性物等からなるフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。上記の基材は1種単独でもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた複合フィルムであってもよい。
【0027】
また、後述するように、粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成し、粘着剤を硬化するために照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、紫外線に対して透明である基材が好ましい。なお、エネルギー線として電子線を用いる場合には透明である必要はないので、上記のフィルムの他、これらを着色した透明フィルム、不透明フィルム等を用いることができる。
【0028】
また、基材1の上面、すなわち粘着剤層2が設けられる側の基材表面には粘着剤との密着性を向上するために、コロナ処理を施したり、プライマー層を設けてもよい。また粘着剤層2とは反対面に各種の塗膜を塗工してもよい。本発明に係るダイシングシート10は、上記のような基材上に粘着剤層を設けることで製造される。
【0029】
なお、粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成し、粘着剤を硬化するために照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、基材1に用いるフィルムの構造中にベンゼン環等の芳香環を含まないことが好ましい。芳香環は紫外線を吸収するため、基材1がレーザー光により切断されやすくなる。
【0030】
粘着剤層2は、従来より公知の種々の粘着剤により形成され得る。このような粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、たとえばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が用いられる。また、エネルギー線硬化型や加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤も用いることができる。エネルギー線硬化(紫外線硬化、電子線硬化)型粘着剤としては、特に紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。なお、粘着剤層2には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよい。
【0031】
剥離シートは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。
【0032】
基材表面に粘着剤層2を設ける方法は、剥離シート上に所定の膜厚になるように塗布し形成した粘着剤層を基材表面に転写しても構わないし、基材表面に直接塗布して粘着剤層を形成しても構わない。
【0033】
次に、本発明のレーザーダイシングシート10を使用した半導体チップの製造方法について説明する。
【0034】
本発明においては、まず、表面に回路13が形成され、裏面外周部に環状凸部17を有する半導体ウエハ11を準備する。図2に半導体ウエハの回路面側の平面図を示し、図3に裏面側からの斜視図、図4図3の断面図を示す。
【0035】
半導体ウエハ11はシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路13の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。半導体ウエハの回路形成工程において、所定の回路13が形成される。回路13は、ウエハ11の内周部14表面に格子状に形成され、外周端から数mmの範囲には回路が存在しない余剰部分15が残存する。ウエハ11の研削前の厚みは特に限定はされないが、通常は500〜1000μm程度である。
【0036】
裏面研削時には、表面の回路13を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハ11の回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路13が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。裏面研削時には、まず裏面全面を所定の厚みまで研削した後に、表面の回路形成部分(内周部14)に対応する裏面内周部16のみを研削し、回路13が形成されていない余剰部分15に対応する裏面領域は研削せずに残存させる。この結果、研削後の半導体ウエハ11は、裏面内周部16のみがさらに薄く研削され、外周部分には環状の凸部17が残存する。このような裏面研削方法は、たとえば前記した特許文献1および2に記載された公知の手法により行うことができる。裏面研削工程の後、研削によって研削面に生成した破砕層を除去する処理が行われてもよい。研削後のウエハ11の厚みは特に限定されないが、通常、環状の凸部17が300〜725μm程度、裏面内周部16が25〜200μm程度である。
【0037】
裏面研削工程に続いて、必要に応じ裏面にエッチング処理などの発熱を伴う加工処理や、裏面への金属膜の蒸着、有機膜の焼き付けのように高温で行われる処理を施してもよい。なお、高温での処理を行う場合には、表面保護シートを剥離した後に、裏面への処理を行う。
【0038】
裏面内周部16のみが所定の厚みにまで研削され、外周部分には環状凸部17を有するウエハ11によれば、環状凸部17の剛性が高いため、硬質板を使用せずとも安定して搬送、保管できる。したがって、上記の形態に研削されたウエハ11によれば、両面粘着シート等を使用する必要が無いため、高温に曝して裏面加工を施す際にも、ウエハ11を安定して保持でき、かつウエハ11が有機物の分解物により汚染されることもない。
【0039】
裏面研削工程後、図5に示すように、ウエハ11の研削面側に本発明のレーザーダイシングシート10を貼付し、ウエハ11のダイシングを行う。なお、表面に貼付されている表面保護シートは、レーザーダイシングシート10の貼付前に剥離してもよく、レーザーダイシングシート10の貼付後に剥離してもよい。
【0040】
レーザーダイシングシート10のウエハ裏面への貼付は、マウンターと呼ばれる装置により行われるのが一般的だが特に限定はされない。レーザーダイシングシート10の粘着剤層2は、柔軟であり形状追従性に優れる。また、レーザーダイシングシート10の周辺部はリングフレーム5により固定される。
【0041】
次いで、ウエハ11にレーザー光を照射し、ウエハ11をダイシングする。レーザー光源3は、波長及び位相が揃った光を発生させる装置であり、YAG(基本波長=1064nm)、もしくはルビー(基本波長=694nm)などの固体レーザー、又はアルゴンイオンレーザー(基本波長=1930nm)などの気体レーザーおよびこれらの高調波などが知られているが、本発明においては、ウエハをフルカットするために、エネルギー密度が高い短波長のレーザー光が特に好ましく使用される。このような短波長レーザーとしては、Nd−YAGレーザーの第3高調波(波長=355nm)が特に好ましく用いられる。レーザー光の強度、照度は、切断するウエハの厚みに依存するが、ウエハをフルカットできる程度であればよい。
【0042】
レーザー光は、ウエハ11の回路間のストリートに照射され、ウエハを回路毎にチップ化する。ひとつのストリートをレーザー光が走査する回数は1回であっても複数回であってもよい。好ましくは、レーザー光の照射位置と、回路間のストリートの位置をモニターし、レーザー光の位置合わせを行いながら、ウエハ11にレーザー光の照射を行う。
【0043】
本発明のレーザーダイシングシート10の基材1は、上記したように特定の物性を満たすため、レーザー光により切断されることはなく、被着体表面への形状追従性に優れる。したがって、ウエハの裏面内周部16のみが研削され、外周部に環状凸部17を有し、内周部平面と環状凸部との間に段差が形成されたウエハ裏面に対して、追従性が良く密着して貼付でき、ダイシング時にウエハおよびチップ12を確実に保持できる。また、レーザーダイシング時にはウエハ内周部の垂れ下がりを防止し、ウエハ表面を平坦に保持するために、ダイシングシート10の貼付後に、環状凸部17の内径よりもやや小さな外径の円盤状のプレート4を、環状凸部17により囲繞された領域に嵌合してもよい。
【0044】
本発明のレーザーダイシングシート10によれば、ダイシング時にウエハおよびチップを確実に保持できるため、チップの歩留まりが向上し、またチップの飛散によるダイシング装置の破損を防止できる。
【0045】
ダイシング終了後、レーザーダイシングシート10からチップ12をピックアップする。なお、レーザーダイシングシート10の粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成した場合には、ピックアップに先立ち、粘着剤層2に紫外線を照射して粘着力を低下した後にチップ12のピックアップを行う。
【0046】
ピックアップに先立ち、レーザーダイシングシート10のエキスパンドを行うと、チップ間隔が拡張し、チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。しかしながら、レーザー光照射によりレーザーダイシングシート10表面に深い溝が切り込まれると、レーザーダイシングシート10の強度が低下し、レーザーダイシングシート10のエキスパンド性が損なわれる。このため、レーザーダイシングシート10をエキスパンドする工程を含むチップの製造方法に本発明のレーザーダイシングシート10を適用する場合には、基材1の厚みと、粘着剤層2の厚みとの総和は、上記の範囲にあることが望ましい。
【0047】
なお、エキスパンドを行わずにチップのピックアップを行う場合には、基材1の厚みと、粘着剤層2の厚みとの総和が、上記範囲である必要は必ずしもない。
【0048】
また、ダイシング終了後に、レーザーダイシングシート10上に整列しているチップ群を、ピックアップ用の他の粘着シートに転写した後に、エキスパンドおよびチップのピックアップを行ってもよい。
【0049】
ピックアップされたチップ12はその後、常法によりダイボンド、樹脂封止がされ半導体装置が製造される。
【0050】
以上、本発明のレーザーダイシングシート10の使用例について、特に環状凸部が形成された半導体ウエハのレーザーダイシングを例にとり説明したが、本発明のレーザーダイシングシート10は、通常の平板状の半導体ウエハ、ガラス基板、セラミック基板、FPC等の有機材料基板、又は精密部品等の金属材料など種々の物品のダイシング(個片化)に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例では、下記の基材を用いた。
【0052】
【表1】
【0053】
また、実施例および比較例において、レーザーダイシングシートの粘着剤層には、下記を用いた。
【0054】
[粘着剤層]
ブチルアクリレート80重量部、メチルメタクリレート10重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート10重量部からなる共重合体(重量平均分子量650,000)のトルエン30重量%溶液に対し、多価イソシアナート化合物(コロネートL(日本ポリウレタン社製))2.5重量部を混合して得られる粘着剤組成物を、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製SP−PET3811)上に乾燥膜圧が10μmとなるように塗布乾燥し(100℃、1分間)し、転写により粘着剤を表1に示す基材の所定面上に積層し、ダイシングシートを得た。
【0055】
得られたダイシングシートに下記の形状を有するシリコンウエハを、環状凸部側が粘着剤層面に対向するように貼付した。
【0056】
レーザーダイシング条件、レーザーダイシングシートの全光線透過率、基材のヤング率の評価方法を以下に示す。
【0057】
また、得られたレーザーダイシングシートを用いてのダイシングシート追従性、切り込み深さ、エキスパンド適正を下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0058】
[レーザーダイシング条件]
・装置 :Nd−YAGレーザー
・波長 :355nm(第3高調波)
・出力 :5.5W
・繰り返し周波数 :10kHz
・照射回数 :2回/1ライン
・カット速度 :200mm/sec
・レーザー光焦点 :ウエハ研削面
・ウエハ材質 :シリコン
・ウエハ内周部厚 :50μm(環状凸部厚:725μm)
・ウエハサイズ :200mm(環状凸部の内径:198mm)
・カットチップサイズ :5mm×5mm
【0059】
[全光線透過率]
シート基材側から、島津製作所製UV−3101PCを用いて全光線透過率測定(UV−VIS、測定波長:300〜400nm)を行った。得られる値の中で最低値を表に記載した。
【0060】
[ヤング率]
基材のヤング率は、JIS K7161に準拠し、万能引張試験機(オリエンテック社製テンシロンRTA−T−2M)を用いて引張速度200mm/分で測定した(サンプルサイズ:100mm×15mm)。
【0061】
[基材厚み]
基材の厚みは、定圧厚さ計(TECLOCK社製PG−02)を用いて測定した。
【0062】
[ダイシングシート追従性]
ウエハの環状凸部と内周部との段差に観察される気泡の長さを、デジタル顕微鏡を用いて測長した。ウエハ直径方向の長さの平均値(平均幅)が1.3mm以上の気泡が観察された場合を「不良」とした。
【0063】
[切り込み深さ評価]
レーザーダイシングが終了した後にカットラインを断面観察し、粘着剤層を含むシート表面からの切込深さを計測した(観察部位はウエハが貼られていない、レーザーが直射される部分)。切断されてしまったものは「切断」と表記した。
【0064】
[エキスパンド適性]
レーザーダイシングが終了した後に、エキスパンド装置でウエハが貼付されたダイシングシートをエキスパンド(10mm引き落とし)した。エキスパンドが不可能であった場合を「不良」とした。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1〜6のダイシングシートは良好な追従性を示し、レーザーダイシング工程でも問題なく使用可能であり、エキスパンド性も良好であった。
【0067】
基材の厚みの二乗とヤング率との積が6.5を超える場合(比較例2〜5,8〜10)には、追従性が十分ではなく、レーザーダイシング時にウエハおよびチップをレーザーダイシングシートに確実に保持することが困難であった。また、基材の厚みの二乗とヤング率との積が0.3〜6.5の範囲であるが、全光線透過率が40%未満の場合(比較例1〜3,6,7)には、シートが切断され、チップの保持機能が著しく損なわれた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】本発明のダイシングシートの断面図を示す。
図2】半導体ウエハの回路形成面の平面図を示す。
図3】裏面外周部に環状凸部が形成された半導体ウエハの斜視図を示す。
図4図3の断面図を示す。
図5】本発明に係るチップ製造方法の一工程の概略を示す。
図6】従来のダイシングシートを用いたチップ製造方法の一工程の概略を示す。
【符号の説明】
【0069】
1…基材
2…粘着剤層
3…レーザー光源
4…円盤状プレート
5…リングフレーム
10…ダイシングシート
11…半導体ウエハ
12…半導体チップ
13…回路
14…回路表面内周部
15…余剰部分
16…裏面内周部
17…環状凸部
20…従来のダイシングシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6