(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
強化層形成手段には、スパッタリング装置が用いられ、導電性材料の膜を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの剥離装置。
剥離手段には、巻取りロールを用いるとともに、粘着テープ、ブロワ又は静電気を発生させる部材のうち少なくとも1つが用いられ、垂直配向性カーボンナノチューブを基板から巻取りロールへ巻き取ることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブの剥離装置。
カーボンナノチューブを有する基板は、同一方向に回転する一対のロールに巻きつけられた無端ベルト状であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの剥離装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例1〜3に係るカーボンナノチューブ剥離装置20について、
図1〜11を用いて説明する。
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係るカーボンナノチューブ剥離装置20について、
図1〜8を用いて説明する。なお、本実施例に係る剥離装置は、帯状の基板1に生成された垂直配向性カーボンナノチューブ2を連続的に得るための連続式製造装置に用いられたものとして説明する。本発明において、「連続式」とは、例えば、コンベヤ式や、ロール・トゥ・ロール方式のように、基板1を介して垂直配向性カーボンナノチューブ2を所定方向に移動させながら各製造工程を順次行う方式を指す。本実施例においては、基板1は水平方向に移動される場合を例にして説明する。なお、本明細書において、「所定方向」とは、基板1の移動方向が予め規定されていることを意味するにすぎず、水平方向に限定されるものではない。カーボンナノチューブ2は、単層のものでも多層のものでもよく、特に限定されないが、本実施例においては、多層のものを用いている。
【0014】
ここで、本発明において、「垂直配向性カーボンナノチューブ」とは、基板1から上向きかつ同一方向に生成した複数のカーボンナノチューブ2が成すブラシ状の構造体を指す。以下、単に「カーボンナノチューブ」というときは、複数のカーボンナノチューブ、すなわちカーボンナノチューブ群又はカーボンナノチューブ層を指す。
【0015】
図1に示すように、本実施例においては、カーボンナノチューブ2を形成する基板1として、ステンレス製の薄板材(ステンレス鋼板)を無端ベルト状にしたものが用いられる。すなわち、このステンレス剛板は、一対の回転ロールに巻き張りされるとともに、一方の回転ロールを駆動装置により回転駆動させることにより、回転ロールの一方側から他方側に向かって移動されて、両回転ロール間を循環する。すなわち、一対の回転ロール及び駆動装置は、基板1を移動させる移動装置である。ここで、以下、基板1の移動される方向の前方に配置される回転ロールを前方回転ロール4、後方に配置される回転ロールを後方回転ロール3という。また、基板1の移動方向に略直交する方向を上下方向という。本実施例のカーボンナノチューブ2の製造装置においては、移動される基板1上に連続的にカーボンナノチューブ2が形成されるとともに、このカーボンナノチューブ2が連続的に剥離されて、残ったステンレス鋼板は、再びカーボンナノチューブ2を生成する基板1として利用される。なお、上記のステンレス鋼板は薄板材の一例であり、例えば箔材の場合は、200〜300μm程度の厚さのものを用い、これをステンレス箔と称してもよい。
【0016】
以下、上述した帯状のステンレス基板1(以下、主として、基板1と称す)の表面に、カーボンナノチューブ2を形成するための製造装置について説明する。
この製造装置には、
図1に示すように、カーボンナノチューブ2を形成するための細長い処理用空間部5が設けられて成る真空チャンバーが具備されており、処理用空間部5は、所定間隔おきに配置された区画壁6により、複数の例えば7つの部屋に区画されている。基板1の移動経路の後方から4つの部屋がカーボンナノチューブ生成装置10であり、残りの3つの部屋がカーボンナノチューブ剥離装置20である。本実施例は、上述のとおり、無端ベルト状のステンレス鋼板を用いるため、各区画壁6には、このステンレス鋼板が通過可能で水平方向のスリット7が、上下に2つ設けられている。
【0017】
本実施例のカーボンナノチューブ製造装置には、
図1に示すように、基板1の移動経路に沿って、前処理が施されたステンレス鋼板が巻き張りされた後方回転ロール3が配置された前処理室11と、基板1に予め形成された金属粒子等の触媒を微粒化する触媒微粒化室12と、微粒化された触媒が付された基板1を導き、その表面にカーボンナノチューブ2を層状に形成する反応室13とが具備される。さらに、
図1に示すように、カーボンナノチューブ2が生成された基板1を導き、カーボンナノチューブ2に、冷却などの処理を行う後処理室14が具備されていてもよい。
【0018】
まず、カーボンナノチューブ生成装置10には、公知の方法及び装置を用いればよく、特に限定されない。本実施例においては、炭化水素を高温で分解してステンレスの基板1に付着させた触媒粒子によってカーボンナノチューブ2を生成する化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition method 以下、「CVD法」と略称する。)によって生成される。なお、本発明において、基板1の「表面」とはカーボンナノチューブ2を生成させる面とし、基板1の「裏面」とはその表面の背面とする。
【0019】
移動装置により移動される基板1は、前処理室11において、前処理が施されるとともに、その表面に鉄粒子などの触媒が塗布される。
触媒粒子としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、コバルト(Co)などの公知のものから適宜選択されればよい。本実施例では、鉄が用いられ、触媒微粒化手段すなわち触媒微粒化室12にて微粒化が行われる。具体的には、
図1に示すように、触媒微粒化室12内の基板の下方に配置されて基板1を加熱するための複数の棒状発熱体12e及びその発熱用電源(図示せず)から成る加熱手段と、触媒微粒化室12内の基板1の上方に配置されて基板の表面に触媒微粒化ガス12aを供給するための箱状の触媒微粒化ガス供給ノズル12bと、この触媒微粒化ガス供給ノズル12bに触媒微粒化ガス供給管12cを介して触媒微粒化ガス12aを供給する触媒微粒化ガス供給源12d(ガスボンベなど)とから構成されている。触媒微粒化ガス12aとしては、例えば、水素ガス、又は水素ガスに不活性ガスである窒素ガスが加えられたものが用いられる。なお、前処理室11にて、基板1の表面に、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)などの保護膜(金属酸化膜)が形成される。
【0020】
また、反応室13には、
図1に示すように、基板1の表面に垂直配向性の多数のカーボンナノチューブ2を、層状に生成するためのアセチレンガス(C
2H
2)などの原料ガス13aを供給するための箱状の原料ガス供給ノズル13bと、この原料ガス供給ノズル13bに原料ガス供給管13cを介して原料ガス13aを供給する原料ガス供給源13d(ガスボンベなど)と、この原料ガス供給ノズル13bの上方に配置されて、原料ガス供給ノズル13bの内の原料ガスを加熱するための複数の棒状発熱体13e及びその発熱用電源(図示せず)から成るガス用加熱手段と基板1の移動経路の下方に配置されて基板1を加熱するための複数の棒状発熱体13e及びその発熱用電源から成る基板用加熱手段とから構成されている。原料ガスとしては、例えば、アセチレンガス(C
2H
2)、メタンガス(CH
4)、若しくはこれらのガスに不活性ガスである窒素ガス(N)が混合されたもの、又はヘリウムガス(He)若しくは窒素ガス(N)などの不活性ガス(キャリアガス)にメタノール(CH
4O)やエタノール(CH
3CH
2OH)などのアルコール類が希釈された混合ガスが用いられる。
【0021】
後処理室14には、反応室13にて加熱された基板1及びカーボンナノチューブ2を冷却する構成(図示せず)を具備しても構わない。
次に、本発明の要旨であるカーボンナノチューブ剥離装置20には、
図1に示すように、後処理が施されたカーボンナノチューブ2を有する基板1を導き、カーボンナノチューブ2の基端側を酸化する酸化室21と、酸化されたカーボンナノチューブ2を有する基板1を導き、カーボンナノチューブ2の遊端側に強化層を形成する強化層形成室22と、強化層を有するカーボンナノチューブ2の基板1を導き、カーボンナノチューブ2を基板1から剥離する剥離室23とが具備される。
【0022】
図1に示すように、酸化手段すなわち酸化室21は、基板1上に生成されたカーボンナノチューブ2の基端側を酸化させるために、酸化剤を含む酸化ガス21aを噴射する供給手段を備える。具体的には、酸化室21は、カーボンナノチューブ2の上方に位置し酸化ガス21aを供給する酸化ガス供給ノズル21bと、酸化ガス供給ノズル21bに酸化ガス供給管21cを介して酸化ガス21aを供給する酸化ガス供給源21d(ガスボンベなど)と、基板1の裏面側に位置して基板1の裏面を加熱する加熱装置21eと、から構成されている。また、
図2に示すように、チャンバーの底面に設けられた下方へ延びる第1排気部21fと、スリット7から区画壁6の内部に設けられて上方へ延びる第2排気部21gと、をそれぞれ備える。酸化剤としては、炭素と酸化反応し得るものであればよく、特に限定されないが、水(H
2O)、酸素(O
2)、オゾン(O
3)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)、亜酸化窒素(N
2O)などを用いる。また、酸化剤ガスは不活性ガスと混合して供給されても構わない。不活性ガスは公知のものであればよく、窒素(N)、ヘリウム(He)等が挙げられる。本実施例においては、水(H
2O)とヘリウム(He)との混合ガスを用いている。
【0023】
酸化ガス供給ノズル21bは、酸化ガスの放出が可能な孔を多数有している。例えば多孔質材料(多孔質セラミックス、多孔質金属)等を用いる。垂直配向性CNTの間隔は一般的に50〜200nmであるので、この間隔に効率的に酸化ガスを供給するためにこの間隔と同程度またはそれ以上の狭い間隔の孔の密度を有する材料を供給部に使うのが望ましい。
【0024】
さらに、この酸化ガス供給ノズル21bの鉛直方向に対する角度と移動速度及び酸化ガス供給ノズル21bの酸化ガスの噴射速度を調整する事で、酸化ガスをカーボンナノチューブ2の基端部に届きやすくなる。具体的には、
図3(a)に示すように、酸化ガス供給ノズル21bが、鉛直方向に対して所定角度で傾斜され、噴射速度の移動方向成分と基板の移動速度とが一致するように調整する。すなわち、酸化ガス供給ノズル21bの鉛直方向に対する傾きの角度θは、移動速度をa、酸化剤の噴射速度をbとすれば下記式(1)により、算出される。
【0025】
【数1】
すなわち、移動速度が1m/分、酸化ガス供給ノズル21bから放出される噴射速度を1.4m/分に調整すると、式(1)により、適切な傾斜角度は、45°と求められる。具体的には、
図3(b)に示すように、矢印Xで示す方向に、傾きθで噴射速度bの酸化ガス21aのH
2O分子Mが噴射された場合、基板1の移動方向成分bsinθが、矢印Yで示す方向の基板1の移動速度aと一致するため、相対的に鉛直方向に噴射されたこととなる。したがって、カーボンナノチューブ2の基端部に酸化ガスが届きやすくなる。なお、ここでは例として酸化ガス供給ノズル21aの角度を45度傾けたものを例示したが、酸化ガス供給ノズル21bの傾きと移動速度に応じてガス流速を調整する事で様々な角度に設定することが可能である。
【0026】
加熱装置21cは、
図2に示すように、誘導加熱装置であり、具体的には、銅製のコイルとそれに接続された交流電源から成り、基板1の裏面側に配置する。コイルは内部に水を循環させ水冷可能な構成(図示せず)を具備しても構わない。交流電源の好適な電力は1〜10
3W、周波数は100kHz〜400kHzである。誘導加熱装置を用いることにより、カーボンナノチューブ2の電気抵抗値よりもステンレスの基板1の電気抵抗値の方が十分に高いため、優先的にステンレスの基板1が加熱されるため、カーボンナノチューブ2の基端部を優先的に加熱することが可能となる。したがって、カーボンナノチューブ2の基端部をより良好に酸化することができる。
【0027】
強化層形成手段すなわち強化層形成室22は、
図1に示すように、酸化されたカーボンナノチューブ2の遊端部に、導電性材料から成る強化層8を形成する成膜装置22aを具備する。具体的には、成膜装置22aとしては、上面から導電性材料を供給するスパッタリング装置が用いられている。また、
図4に示すように、チャンバーの底面から下方へ延びる第1排気部22bと、スリット7から区画壁6の内部に設けられて上方へ延びる第2排気部22cと、をそれぞれ備える。導電性材料としては、金(Au)、アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、チタン(Ti)、シリカ(SiO
2)などが例示される。本実施例においては、金(Au)を用いた。
【0028】
剥離手段すなわち剥離室23は、
図5、
図6に示すように、遊端部に強化層8が形成されるとともに基端部が酸化されたカーボンナノチューブ2を巻き取る、巻取りロール23aを具備する。具体的には、巻取りロール23aによる巻取りにより、カーボンナノチューブ2を基板1から剥離する。本実施例においては、巻取りロール23a側に粘着テープ23bを付け、徐々に巻取りロール23aを回転させるとともに、上方へ移動させて巻き取る。さらに、より確実に剥離するために、
図6に示すように、酸化されて接着が弱まった基板1とカーボンナノチューブ2の基端部との間に、ブロワ23dを用いて送風して、基板1から引き離しても構わない。本実施例においては、剥離室23は、巻取りロール23aに、カーボンナノチューブ2を巻き取る際、強化層8とカーボンナノチューブ2の基端側とが接着してしまわないように、間紙(保護用シート)23cが巻きつけられたロール23eをさらに具備する。
【0029】
この構成により、酸化手段21によって、主として基板1を加熱しながら、カーボンナノチューブ2の基端部を酸化させて基板1との接着強度を弱めて、強化層形成手段22によってカーボンナノチューブ2の遊端部に強化層8を形成し、剥離手段によって剥離することで、遊端部が強化層8により固定され、カーボンナノチューブ2を基板からより良好に剥離することができる。
【0030】
以下、本実施例に係るカーボンナノチューブ2の剥離方法について詳細に説明する。
カーボンナノチューブ生成装置10により、基板1に生成されたカーボンナノチューブ2は、移動装置によって基板1を介して移動され、酸化手段から酸化剤と不活性ガスとを混合した酸化ガス21aが供給されることにより、カーボンナノチューブ2の基端側が酸化される。本実施例の酸化剤として用いられるH
2Oは、例えばO
2、O
3に比べ酸化力が弱いため、カーボンナノチューブ2の基端部のみを部分的に酸化することが可能になる。不活性ガスにH
2Oを導入するとき、不活性ガスをチラーで低温(約10℃)に保ったH
2Oに通す。このことにより100万分の1単位の濃度での導入が可能となる。このとき、コイルが、基板1の裏面側に位置することにより、ステンレス基板1のみが加熱されるので、カーボンナノチューブ2の側壁や遊端部の酸化を抑制し、ステンレス基板1に接するカーボンナノチューブ2の基端部のみの酸化を進めることが可能となる。
【0031】
さらに、酸化室21において、各排気部21f,21gにて真空引きし、100Pa〜大気圧(101325Pa)程度の気圧を保ち、酸化剤の外部への放出及び外気の侵入を抑制している。その結果、酸化の処理をより良好に行うことができる。
【0032】
そして、移動装置によって基板1を移動させて強化層形成室22へ送り入れ、カーボンナノチューブ2を基板1から剥離する前に、スパッタリング装置22aにより、カーボンナノチューブ2の遊端側に金属膜を成膜し、カーボンナノチューブ2の遊端側を一体化させて強化する。本実施例のように、スパッタリングによる成膜においては、飛び出した金属原子がカーボンナノチューブ2間の隙間に入り込む。したがって、金属原子がカーボンナノチューブ2の遊端部のナノ構造に入り込んで膜を形成するため、カーボンナノチューブ2の遊端部をより一体化することができる。強化層形成室22においても、各排気部22b,22cにて真空引きし、0.1Pa〜10Pa程度に気圧を保っている。さらに、各排気部22b,22cにて吸引することにより、導電性材料の外部への放出及び外気の侵入を抑制する。
【0033】
強化層8が形成された基板1を移動装置によって移動させ、剥離室23へ送り入れ、剥離手段により、カーボンナノチューブ2を基板1から剥離する。
カーボンナノチューブ2が剥離された後、基板1上に触媒が残るため、特に、本実施例のように、基板1が循環するコンベヤ式の製造装置の場合には、基板1上に残された触媒を再利用して、カーボンナノチューブ2を生成することが可能となる。
【0034】
本実施例においては、外気の侵入を抑制するため、酸化室21及び強化層形成室22以外の処理用空間部5の気圧は0.1〜1Pa程度に保たれる。
この構成によれば、酸化室21において、基板1を加熱しながら、カーボンナノチューブ2の基端部を酸化させて基板1との接着強度を弱めて、スパッタリング装置22aによってカーボンナノチューブ2の遊端部に強化層8を形成し、剥離手段によって剥離することで、遊端部が強化層8により固定され、カーボンナノチューブ2を基板1からより良好に剥離することができる。
<実験例1>
垂直配向性カーボンナノチューブ2が生成されたステンレス製の基板1を誘導加熱により約700℃、H
2O245ppmを含むHe雰囲気で、大気圧の下、10分加熱した。用いたカーボンナノチューブ2は単体の直径が約10nm、カーボンナノチューブ2の長軸方向の長さが約200μm、本数密度が1010本/cm
2であった。カーボンナノチューブ2の基端部の酸化手段による酸化を行う前後のカーボンナノチューブ2について求めたG/D比はいずれも約1であり、酸化によるカーボンナノチューブ2の結晶性の大きな悪化は無かったことがわかる。ここで、G/D比とは、ラマン分光法によるD−bandのピーク強度に対するG−bandのピーク強度の比のことをいい、具体的には、結晶性の優劣の程度を示すものである。
【0035】
次に、Auをカーボンナノチューブ2の遊端部にスパッタして強化層8を形成した。電子顕微鏡により撮影した画像を観察すると、カーボンナノチューブ2の遊端側が、Auの膜によって一体化された箇所が散在していることが確認された。その後、アクリル板をカーボンナノチューブ2の遊端部に近づけると、静電気によりステンレス基板から垂直配向性を保ったまま一体的にカーボンナノチューブ2が剥離された。
<実験例2>
寸法50mm×50mmのステンレス製の基板1上に生成したカーボンナノチューブ2を誘導加熱により約700℃、H
2O245ppmを含むHe雰囲気下で1分及び3分加熱した。16mm幅のメンディングテープで180度剥離試験(JIS K 6854−2)を行った。加熱時間と剥離強度の関係は
図7のようになり、加熱時間が増すとともに0.7mN/mmから0.4mN/mmまで低下した。
<実験例3>
寸法10mm×10mmの基板1上の全面に生成したカーボンナノチューブ2の長さ約45μmの垂直配向性カーボンナノチューブ2を誘電加熱により約700℃、H
2O245ppmを含むHe雰囲気下で10分加熱した。その後、垂直配向性カーボンナノチューブ2の遊端側にスパッタリングによりAuを50nm成膜しカーボンナノチューブ2を強化した後、ブロワ23dを用いてカーボンナノチューブ2の基端部に空気を送ることにより、寸法10mm×10mmを保持したままで垂直配向性カーボンナノチューブ2を剥離した。その後、垂直配向性カーボンナノチューブ2の長軸方向に12.7×10
4〜24.5×10
4Pa(1.3〜2.5kgf/cm
2)の圧力を加えて、長軸方向の長さ(配向カーボンナノチューブ膜厚)の変化を調べたところ、
図8に示すように、垂直配向性カーボンナノチューブ2の長軸方向の長さは圧力の増加に対する変化は見られず、カーボンナノチューブ2は圧縮により垂直配向性を崩さないことが分かった。
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係るカーボンナノチューブ剥離装置20について、
図9を用いて説明する。なお、実施例1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図9に、本発明の実施例2に係るカーボンナノチューブ2の製造装置の概略構成を示す。本実施例の製造装置には、
図9に示すように、カーボンナノチューブ2を形成するための細長い処理用空間部5が設けられて成る真空チャンバーが具備されている。この真空チャンバー内に設けられた処理用空間部5は、所定間隔おきに配置された区画壁6により、7つの部屋に区画されている。基板1の移動経路の後方から4つの部屋がカーボンナノチューブ生成装置10であり、残りの3つの部屋がカーボンナノチューブ剥離装置20である。本実施例では、所定幅で長い帯状のステンレス鋼板を用いるため、各区画壁6には、このステンレス鋼板が通過可能で水平方向に長軸を有するスリット7が1つ設けられている。すなわち、
図9に示すように、予めステンレス鋼板が巻きつけられた後方回転ロール3と、この後方回転ロール3の回転により、後方回転ロール3から巻き出されたステンレス鋼板は、前方回転ロール4側へと移動されて、前方回転ロール4に巻き取られる。本実施例は、カーボンナノチューブ剥離装置20を、いわゆるロール・トゥ・ロール方式の製造装置に採用した場合を示す。
[実施例3]
最後に、本発明の実施例3に係るカーボンナノチューブ剥離装置20について、
図10、
図11を用いて説明する。なお、実施例1及び2と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図10、
図11に、本発明の実施例2に係るカーボンナノチューブ2の製造装置の概略構成を示す。この製造装置は、実施例1及び2とは異なり、カーボンナノチューブ生成装置10と、カーボンナノチューブ剥離装置20とが別体に構成されたものである。
図10に示すように、カーボンナノチューブ生成装置10は、5つの細長い処理用空間部5が設けられて成る真空チャンバーが具備されており、この真空チャンバー内に設けられた処理用空間部5は、所定間隔おきに配置された4つの区画壁6により区画され、その両端の処理用空間部5に、後方回転ロール3が配置される前処理室11と、触媒微粒化室12と、生成室13と、後処理室14と、前方回転ロール4が配置される巻取り室15と、が設けられる。
【0036】
また、カーボンナノチューブ剥離装置20は、
図11に示すように、4つの細長い処理用空間部5が設けられて成る真空チャンバーが具備されており、この真空チャンバー内に設けられた処理用空間部5は、所定間隔おきに配置された3つの区画壁6により区画され、その両端の処理用空間部5に、基板の移動方向に沿って、後方回転ロール3が配置される巻出し室24と、酸化室21と、強化層形成室22と、前方回転ロール4、巻取りロール23a及び間紙23cのロール23eが配置される剥離室23と、が設けられる。この構成によれば、カーボンナノチューブ2の生成と剥離とを別々に行うことができるため、カーボンナノチューブ2の生成に必要な時間と、カーボンナノチューブ2の基端部の酸化処理に必要な時間とについて、基板1の移動装置の移動速度を予め調整する必要がなく、カーボンナノチューブ2の剥離の調整をより良好に行うことができる。
[その他の実施態様]
上述の強化層形成の方法としては、スパッタリング装置の代わりに、真空蒸着などの物理気相蒸着法(PVD法:Physical Vapor Deposition method)を用いてもよい。
【0037】
また、酸化室21の誘導加熱装置21eのコイルの配置として、基板1及びカーボンナノチューブ2の全体に螺旋状に巻きつけるように配置することもできる。さらには、加熱装置21eは、誘導加熱装置に限定されるものではなく、電熱線ヒータ、プラズマ加熱装置、レーザー加熱装置であってもよい。特に、加熱装置21eにレーザー加熱装置を用いた場合には、
図12に示すように、基板1にレーザー光Lを照射して帯状の領域Dのみを部分的に加熱することができるため、この領域Dにおけるカーボンナノチューブのみを基板1から巻取りロール23aにより剥離することが可能となる。なお、
図12には、レーザー加熱装置を実施例1に係る製造装置に適用した場合を示し、レーザー光Lの照射の様子を示すために、加熱装置21eの上方に位置するカーボンナノチューブ2の一部を省略して示している。
【0038】
酸化室21において、基板1とカーボンナノチューブ2との剥離に要する力によっては、H
2Oよりも酸化力の強い、例えばO
2,O
3等の酸化剤を用いてもよい。
また、剥離の方法の他の実施態様として、例えば、静電気を用いて、アクリル棒や+1V程度に電位を持たせた金属柱をカーボンナノチューブ2に近づけて基板1から剥離し、金属柱を移動速度と同一の速度で回転させることにより巻き取ることができる。ここで、静電気とは電荷の空間的移動がわずかであって、それによる磁界の効果が電界の効果に比べて無視できるような電気をいう。
【0039】
さらに、剥離手段すなわち剥離室23には、カーボンナノチューブ2にブロワ23dを用いて剥離させて、間紙(保護用シート)23cと巻取りロール23a側で挟み込むことで巻き取ることもできる。また、剥離手段である粘着テープ23bを用いて剥離する方法に代わって、カーボンナノチューブ2に適切な圧力を加える事でカーボンナノチューブ2を巻取りロール23aに転写するようにしてもよい。このとき、カーボンナノチューブ2が垂直配向性を保持できるような加圧力の大きさは4.9×10
4〜24.5×10
4Pa(0.5〜2.5kgf/cm
2)程度であることが好ましい。