(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029488
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】運賃収受システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G07B 15/00 20110101AFI20161114BHJP
G06Q 50/30 20120101ALI20161114BHJP
【FI】
G07B15/00 J
G07B15/00 501
G06Q50/30
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-33374(P2013-33374)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-164416(P2014-164416A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】國母 政仁
(72)【発明者】
【氏名】安西 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕一
(72)【発明者】
【氏名】松隈 信彦
【審査官】
永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/098813(WO,A1)
【文献】
特開2000−242816(JP,A)
【文献】
特開2005−099940(JP,A)
【文献】
特開2013−152616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07B 15/00
G06Q 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の扉開閉操作に応答して、GPS受信機から車両の位置情報を取得する位置情報取得部、
前記扉開閉操作に応答して前記位置情報取得部が取得した前記位置情報が示す位置を停留所とし、各停留所間の運賃を示す運賃マスタを作成する運賃算出部、及び
ICカードと通信して読み込み及び書き込みを行うICカードリーダ/ライタ、
を備え、
前記運賃算出部は、
乗客の乗車時に、前記ICカードリーダ/ライタを介して前記乗客が所有するICカードの情報を取得し、当該乗車にかかる扉開閉操作に応答して前記位置情報取得部が取得した前記位置情報を乗車停留所情報として書き込み、
前記乗客の降車時に、前記ICカードリーダ/ライタを介して前記ICカードの情報を取得し、当該降車にかかる扉開閉操作に応答して前記位置情報取得部が取得した前記位置情報を降車停留所情報とし、前記乗車停留所情報と前記降車停留所情報と前記運賃マスタとに基づいて運賃を算出し、前記運賃を前記ICカードにかかるストアードバリューから減算することを特徴とする運賃収受システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記位置情報取得部が取得した前記位置情報が示す位置を停留所とし、前記停留所間の車両の走行距離を算出する距離算出部、を備え、
前記運賃算出部は、前記走行距離に基づいて、前記運賃マスタを作成する
ことを特徴とする運賃収受システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の運賃収受システムにおいて、
前記運賃算出部は、複数の運賃マスタを作成し、前記乗客が所有するICカードの情報に基づいて適用される運賃マスタを判定して、前記運賃を算出することを特徴とする運賃収受システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の運賃収受システムにおいて、
前記運賃算出部は、
複数の運賃ルールと、走行位置と適用される運賃ルールを対応させた地図情報とを有し、
前記停留所の位置情報と、前記地図情報に照らし合わせて判定した運賃ルールとに基づいて、前記各停留所間の運賃マスタを作成することを特徴とする運賃収受システム。
【請求項5】
位置情報取得部が、車両の扉開閉操作に応答して、GPS受信機から車両の位置情報を取得し、
運賃算出部が、
前記扉開閉操作に応答して前記位置情報取得部が取得した前記位置情報が示す位置を停留所とし、各停留所間の運賃を示す運賃マスタを作成し、
乗客の乗車時に、ICカードリーダ/ライタを介して前記乗客が所有するICカードの情報を取得し、当該乗車にかかる扉開閉操作に応答して前記位置情報取得部が取得した前記位置情報を乗車停留所情報として書き込み、
前記乗客の降車時に、前記ICカードリーダ/ライタを介して前記ICカードの情報を取得し、当該降車にかかる扉開閉操作に応答して前記位置情報取得部が取得した前記位置情報を降車停留所情報とし、前記乗車停留所情報と前記降車停留所情報と前記運賃マスタとに基づいて運賃を算出し、前記運賃を前記ICカードにかかるストアードバリューから減算する、
ことを特徴とする運賃収受方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運賃収受システムに関する。特に、非接触ICカードを使用したバスの自動運賃収受システムに関する。
【背景技術】
【0002】
運賃方式には、距離制、ゾーン制、均一制の3種がある。距離制は、乗客が移動した距離に応じて運賃が加算されていく方式で、日本国内においては、郊外の路線バスで多く採用されている。ゾーン制は、路線網を矩形、または同心円状の複数ゾーンで区切り、ゾーンを越える都度、運賃が加算される方式で、日本国内での採用事例は少なく、欧州を中心に採用されている。均一制は、乗車距離や乗車時間に関係なく、一回の乗車につき、固定額の運賃を課す方式で、日本国内外において、都市部の路線バスで多く採用されている。
【0003】
近年、自動運賃収受システムでは、非接触型ICカードを使用した運賃精算(運賃支払い)が主流となっているが、距離制とゾーン制の運賃精算では、通例、乗車時と降車時の両方で非接触型ICカードを自動運賃収受機にかざし、運賃精算は降車時に行われる。均一制では、通例、乗車時に非接触型ICカードを自動運賃収受機にかざした時点で、予め決められた固定額で運賃精算を行っている。
【0004】
特許文献1に、GPS受信機と非接触型ICカードの技術を組み合わせて、予め決められた路線バスの運行ルート上であれば、規定の停留所に限定されない、任意地点で乗降車を行った場合でも、距離制の運賃精算を行えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−187275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
路線バスの運営事業者にとって、乗客の乗車距離に応じて運賃を収受する距離制の方が、収益向上に寄与する度合いが高く、距離制の導入を希望する運営事業者が多い。しかし、距離制は、例えばA停留所を乗車位置、B停留所を降車位置とした場合の運賃が幾らかなど、各停留所を起点、終着点とした運賃を決定し、夫々の運賃データを作成する必要があり、運賃データの管理と維持に、煩雑な作業が伴う。このため、最終的には距離制の導入を断念している運営事業者が多い。
【0007】
また、国外においては、路線バスの運行ルート、停留所を頻繁に変更することが多いほか、バス運転者の判断で、当日に運行ルートや停留所が変更されることが日常的にあり、決まった停留所を起点、終着点として運賃を管理していく従来の技術では、このような運行に対応することができない。
【0008】
特許文献1は、前述の停留所単位で運賃を決めていく運賃データの管理方法をなくし、運行ルートと移動距離によって乗車運賃を算出する技術を提案している。しかし、この技術は、利用者の利便性向上に目的があるため、運営事業者にとっては、煩雑な運賃データの管理は簡単になるが、運賃精算のための経路データベースをさらに管理する必要性が発生し、運営事業者の負担は軽減されない。また、特許文献1では、当日の運行ルート変更を認めている、国外のバス運営事業者の運営には対応できない。
【0009】
以上のように、バス車両の運行ルートの変更にも対応できる距離制運賃を容易に実現できる運賃収受システムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、運賃収受システムは、乗務員操作盤、車両の位置情報を出力するGPS受信機、所定時間間隔で通知を出力するタイマ、乗務員操作盤の操作とタイマからの通知に応答して、GPS受信機から位置情報を取得する位置情報取得部、位置情報の入力に応答して、位置情報が示す位置を停留所と見なして、停留所間の走行距離を求める距離算出部、走行距離の入力に応答して、停留所と見なした各位置を乗車停留所及び降車停留所とした、走行距離の積算に応じた運賃を示す距離制運賃マスタを作成する運賃算出部、及び、乗客の乗車時に非接触ICカードに、位置情報を乗車位置情報として書き込み、降車時に、非接触ICカードから乗車位置情報を読み込み、位置情報を降車位置情報として入力し、乗車位置情報と降車位置情報に対応する、距離制運賃マスタの乗車停留所と降車停留所の間の運賃を非接触ICカードに記憶されているストアードバリューから減算するICカードリーダ/ライタを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運賃収受システムは、バス車両の運行ルートの変更にも対応できる距離制運賃を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】運賃収受システムの処理フローチャートである。
【
図3】運賃収受システムの各処理部の構成図である。
【
図4】非接触型ICカードのカード内情報を示す図である。
【
図6】初乗り運賃ありの距離制運賃マスタの概念図である。
【
図7】距離制運賃ルールの一例を示す概念図である。
【
図8】初乗り運賃なしの距離制運賃マスタの概念図である。
【
図9】一般的な街の構造を簡略化して表した模式図である。
【
図10】都市部と中密度地域/郊外で異なる距離制運賃ルールを適用する場合の設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、運賃収受システムの主要な装置を示す概要図である。運賃収受システムは、乗客が所有する、非接触型ICチップを搭載した非接触型ICカード103と、非接触型ICカード103から運賃を収受するための自動運賃収受機101、GPS(全地球測位システム)を使用して、バス車両の位置を地図上で特定する(位置情報を出力する)、バスの運行管理を行う車両追跡システムの一部であるGPS受信機102、及び、扉の開閉制御や乗客案内(乗客向けの音声案内、映像案内)を操作するための乗務員操作盤104を備えたシステムである。
【0014】
本実施形態では、一般に普及している非接触型ICカード103を乗客が所有しているとして説明するが、後述する位置情報やストアードバリューなどを記憶でき、リーダ/ライタにより記憶内容を読み書きできればよい。したがって、非接触型に限らず、接触型のICカードであっても良いし、形状がカードでなくても良い。
【0015】
図2は、運賃収受システムの処理フローチャートである。この処理フローチャートは、特定の装置の処理を示すものではなく、運賃収受システム全体としての処理の流れを説明するためのフローチャートである。運賃収受システムでは、乗客が乗車する際に行う初期処理201、降車する際に行う精算処理203、初期処理201と精算処理203の間に行われる走行中処理202がある。初期処理201、走行中処理202、精算処理203の処理の詳細を、
図3に示す運賃収受システムの各装置・各処理部の動作、
図4に示す非接触型ICカード103内の情報、及び、
図5に示す走行距離の算出方法と併せて説明する。
【0016】
初期処理201は、自動運賃収受機101による接触型ICカード103に対する乗車処理204を含む。乗車処理204は、バスの乗車時に乗客が非接触型ICカード103を自動運賃収受機101にかざすと、ICリーダ/ライタ308が、予め位置情報取得部305から取得したバスの位置情報40a、及び、タイマ310から取得した乗車時刻40bを接触型ICカード103に書き込み、非接触型ICカード103の乗車状態40dを乗車中に書き換える。
【0017】
走行中処理202は、GPS情報取得処理205、距離算出処理206、及び運賃マスタ作成処理207を含む。GPS情報取得処理205は、GPS受信機102から位置情報40aを取得する、自動運賃収受機101の位置情報取得部305による処理である。距離算出処理206は距離算出部306による処理である。運賃マスタ作成処理207は、運賃算出部307による処理である。
【0018】
GPS情報取得処理205は、位置情報取得部305による車両追跡システム303のGPS受信機102からの位置情報40aの取得である。位置情報取得部305が位置情報40aを取得する契機のひとつは、乗務員が乗務員操作盤104により、扉の開閉を制御する扉開閉制御部311の操作である。この契機で位置情報40aを取得することにより、位置情報取得部305は、乗降者が発生する停留所において、停留所の位置情報40aを取得する。また、扉の開閉の操作を契機にすることで、路線バスが当日の運行ルートを変更して、停留所のない場所で乗客が乗降した場合や、臨時バスを運行させた場合であっても、所定の停留所と同様に距離制運賃の算出に必要な位置情報40aを取得できる。また、路線バスは、乗降する乗客が0人の場合、停留所を通過する場合がある。この場合、扉開閉制御部311は操作されないが、代わりに次の停留所を知らせる音声案内を流すか、もしくは、車内のディスプレイに次の停留所を知らせるための映像案内を切り替える。そこで、音声案内の始動または映像案内の切替えのための、乗務員による乗客案内制御部312の操作を契機に、位置情報取得部305がGPS受信機102より位置情報40aを取得する。位置情報取得部305が取得した位置情報40aは、走行距離50b算出のために距離算出部306に、また、乗車位置、降車位置を非接触型ICカード103に書き込むために、ICリーダ/ライタ308に出力される。
【0019】
距離算出部306による距離算出処理206を説明する。距離算出部306は、位置情報取得部305から位置情報40aを入力する都度、停留所間の走行距離50bを算出し、算出した走行距離50bを運賃算出部307に出力する。走行距離50bは、バスの実走行距離50a(
図5の実線)に対して、2地点間の近似直線(
図5の破線)の距離として計算される。実走行距離50aと走行距離50bの差を少なくするために、自動運賃収受機101はタイマ310を備える。タイマ310は、位置情報取得部305が位置情報40aを取得した時点でゼロクリアされ、直後からカウントアップを開始する周期タイマである。すなわち、カウント値がある閾値に達する(所定時間が経過する)と、位置情報40aを取得するように、位置情報取得部305に通知する。乗務員操作盤104の操作により、カウント値が閾値に達する前に位置情報取得部305が位置情報40aを取得した場合、また、カウント値が閾値に達して通知すると、タイマ310はゼロクリアされる。乗務員操作盤104の操作により、タイマ310をゼロクリアするのは、乗務員操作盤104の操作とタイマ310からの通知がほぼ同時であると、距離算出部306が算出する走行距離50bが極めて短くなるからである。走行距離50bが極めて短い場合、後述の運賃マスタ600の作成を避け、運賃マスタ600の容量を抑制するためである。タイマ310からの通知は、都市部の路線バスよりも、停留所間隔の長い郊外を走る都市間バスで重要な役割を担う。
【0020】
運賃算出部307による運賃マスタ作成処理207を説明する。運賃算出部307は、距離算出部306から走行距離50bを入力すると、
図6に示す運賃マスタ600を動的に作成する。動的とは、距離算出部306から走行距離を入力する都度、運賃マスタ600に新しい行および列を追加していくことを意味する。
【0021】
精算処理203は、カード情報取得処理208、運賃算出処理209、運賃収受処理210、及び降車処理211を含み、乗客が降車するときに乗客それぞれで異なる走行距離50bに応じた運賃計算を行い、適切な運賃精算を行う処理である。
【0022】
カード情報取得処理208は、乗客が降車するときに、非接触型ICカード103を自動運賃収受機101にかざすのに応じた、ICリーダ/ライタ308による、非接触型ICカード103内の位置情報40aの乗車位置の読み取りである。
【0023】
運賃算出処理209は、運賃算出部307による、ICリーダ/ライタ308が非接触型ICカード103から読み取った乗車位置と運賃マスタ600に基づいた、降車する乗客の支払運賃の算出である。
【0024】
運賃収受処理210は、運賃算出部307が算出した支払運賃をICリーダ/ライタ308が乗客の非接触型ICカード103のストアードバリュー(非接触型ICカードにプリチャージされた電子マネー残高)から減算する。
【0025】
降車処理211は、ICリーダ/ライタ308が非接触型ICカード103に降車時の時刻40bと降車の位置情報40a、及び、乗車状態40dを降車済と書き込む。降車処理211の最後に、運賃の精算と併せて処理結果表示部309が、乗客が確認できるように自動運賃収受機101に設けた表示装置に、精算運賃、非接触型ICカード103の運賃精算後のストアードバリューなどを表示する。
【0026】
図5は、実際のバスの実走行距離50aを実線で、GPS連携自動運賃収受システムが計算する走行距離50bを破線で示した図である。
図5では、停留所Aから停留所Hを記しているが、停留所Aから停留所Hの各停留所は必ずしも実際の停留所位置とは一致しない。位置情報取得部305は、乗務員操作盤104の操作を契機として、実際の停留所位置を記録するが、タイマ310からの通知を契機に取得した位置情報40aは、運賃収受システムが走行距離50bを算出するための仮の停留所の位置情報と見なして処理する。したがって、走行距離50bを算出するための停留所数は、実際の停留所数より多くなることがある。タイマ310による通知の利用は、実走行距離50aと走行距離50bとの差を少なくすることが目的であると述べたが、タイマ310が通知するためのカウント値の閾値は、この目的を果たすために適切に設定する必要がある。例えば、停留所間隔が長く、蛇行や曲がり角の多い路線では、閾値を小さく設定することが望ましい。
【0027】
図6は、運賃算出部307が動的に作成する運賃マスタ600を示す。停留所Aをバスの運行開始地点とすると、バスが停留所Aを出発した時点では、運賃算出部307は運賃マスタ600に、乗車停留所が停留所Aの行、降車停留所が停留所Aの列を設け、そのセル(停留所Aの行、停留所Aの列の成分)の値はNull(空白)の状態である。バスが停留所Bに到着すると、運賃算出部307は運賃マスタ600に乗車停留所が停留所Bの行、降車停留所が停留所Bの列を追加し、データ領域が2行2列の表にする。運賃算出部307は、停留所Aで乗車し、停留所Bで降車する場合の運賃(100円)を運賃マスタ600に格納する。続いて、バスが停留所Cに到着すると、運賃算出部307は運賃マスタ600のデータ領域を3行3列の表に拡張し、停留所Aで乗車した乗客に対して適用する停留所Bから停留所Cまでの運賃(20円)と、停留所Bで乗車し、停留所Cで降車する場合の運賃(100円)を格納する。このように運賃マスタ600は、新しく仮の停留所を含む停留所の情報を得る度に、運賃マスタ600のデータ領域を拡張し、当該停留所で降車した場合の運賃を追加格納する。
【0028】
なお、
図6において、乗車した停留所から最初の区間の運賃を100円で統一しているのは、初乗り運賃を考慮しているためである。初乗り運賃が適用される区間以降は、後述する
図7の距離制運賃ルール700に従い、区間(停留所間)の走行距離50bに応じた運賃を追加格納していく。
図6に太線枠で示す例は、停留所Cから乗車し、停留所Hで降車する場合の各区間の運賃を示しており、運賃算出部307は、乗車停留所Cの行の100円、20円、50円、30円、20円を加算した220円を支払運賃として算出する。
【0029】
運賃算出部307による運賃マスタ600の作成を降車時の精算処理203ではなく、走行中処理202で実行する目的は処理の高速化である。降車前に降車直前の停留所までの運賃マスタ600を完成させておくことで、運賃算出処理209は、降車停留所を含めるための運賃マスタ600のデータ領域の拡張と運賃の追加格納と、各区間の運賃の加算に簡便化することができ、降車時の精算処理203を短時間で実行できる。
【0030】
運賃マスタ600の作成を走行中処理202で実行すると、運賃マスタ600を最新のデータ領域に拡張する前に乗客が非接触型ICカード103を自動運賃収受機101にかざし、ひとつ前の停留所情報に基く不正な運賃精算になる可能性があるが、運賃算出部307が最新のデータ領域に拡張し、拡張したデータ領域へ運賃を追加格納するまでは、自動運賃収受機101のICリーダ/ライタ308を不活性化しておくことで、これを防ぐことができる。
【0031】
図7は、運賃マスタ600の作成で使用する距離制運賃ルール700の一例であり、その概念図である。走行距離50bが長くなるに応じて、段階的に運賃を高くすることで距離制の運賃としている。
図7では、10円単位の運賃としているが、1円単位とするなど、距離制運賃ルール700は、運営事業者の運営方針に従い、自由に定義可能である。距離制運賃ルール700は、日々の運行開始前、もしくは距離制運賃ルール700が定義変更されたときに、USBメモリなどの携帯型の記録メディア経由で、もしくは、自動運賃収受機101との間で通信可能な他のシステムからデータ受信することで更新される。距離制運賃ルール700は、乗車距離(たとえば300m〜350m)と運賃の対応表で運賃算出部307が参照できるように、自動運賃収受機101内の記憶装置に格納する。又は、乗車距離の段階を示す単位距離(
図7に示す例では50m)と初乗り後の乗車距離の初期値(
図7に示す例では250m)、運賃の段階を示す単位運賃(
図7に示す例では10円)、および初乗り後の運賃の初期値(
図7に示す例では20円)を自動運賃収受機101内の記憶装置に格納しておき、運賃算出部307が計算により運賃を求めても良い。たとえば、ある停留所間の距離が370mのとき、[((乗車距離)−(乗車距離の初期値))/(単位距離)]×(単位運賃)+(運賃の初期値)=[(370−250)/50]×10+20=40円と求める。ただし、[ ]は、[ ]内の数値の小数点以下を切り捨てた整数を示す。
【0032】
図8は、乗車して最初の区間に初乗り運賃を適用しない場合の運賃マスタ800の例である。運賃マスタ800では、最初の区間に対しても、距離制運賃ルール700に基づいた運賃を適用する距離制の運賃方式を採用する場合、乗客が乗車した距離に関係なく、乗車した直後の区間は初乗り運賃を収受することが多いが、複数の交通機関が運営されている都市部においては、鉄道とバスの運営や、多くのバス路線を運営する運営事業者がある。このような場合、乗客が鉄道とバスを乗り継いだ場合に、乗り継ぎ先では、初乗り運賃を適用しない乗り継ぎ割引きサービスを実施している運営事業者もある。運賃算出部307が、初乗り運賃がある運賃マスタ600と初乗り運賃がない運賃マスタ800を作成し、両方のマスタを格納しておくことで、本実施形態の運賃収受システムにおいても、乗り継ぎ割引きサービスを実施することが可能である。例えば、乗車時に非接触型ICカード103の時刻50bの降車時刻を読み込み、前の交通機関の降車から30分以内であれば、乗り継ぎ割引きサービスを適用するか否かの判定(
図4の乗割判定40e)を「適用」として非接触型ICカード103内に書き込む。降車時に乗割判定40eが適用となっている場合は、運賃算出部307は、運賃マスタ600ではなく、運賃マスタ800に従って、運賃を算出し、精算する。
【0033】
以上の説明を要約すると、運賃収受システムは、乗務員操作盤104の操作とタイマ310からの通知に応答して、GPS受信機102から位置情報を取得し、出力する位置情報取得部305、位置情報取得部305からの位置情報の入力に応答して、位置情報が示す位置を停留所と見なして、前回入力した位置情報と今回入力した位置情報とから、前回停留所と見なした位置から今回停留所と見なした位置までの走行距離を求める距離算出部306、距離算出部306からの走行距離の入力に応答して、停留所と見なした各位置を乗車停留所及び降車停留所とした、走行距離に応じた運賃を示す距離制運賃マスタ600を作成する運賃算出部307、及び、乗客の乗車時に乗客が所有する非接触ICカード103に、位置情報取得部305が出力する位置情報を乗車位置情報として書き込み、乗客の降車時に、非接触ICカードから乗車位置情報を読み込み、位置情報取得部305からの位置情報を降車位置情報として入力し、乗車位置情報と降車位置情報に対応する、距離制運賃マスタ600の乗車停留所と降車停留所の間の運賃を非接触ICカードに記憶されているストアードバリューから減算するICカードリーダ/ライタを備える。
【0034】
図9は、一般的な街の構造を簡略化して表した模式
図900である。街は、人口が密集している都市部、人口が中密度で住宅地などになっている中密度地域、それから郊外に分けられる。
図9の模式
図900は、都市部の停留所Aでバスに乗車し、中密度地域にある停留所Bを経て、郊外の停留所Cで降車する例を示している。
【0035】
図10は、都市部用距離制運賃ルール1000と、中密度地域/郊外用距離制運賃ルール1001に分けてルール作りする場合の例である。中密度地域/郊外用距離制運賃ルール1001より、都市部用距離制運賃ルール1000の方が運賃を安く設定しており、都市部における公共交通利用を促進することを狙いとした運賃設定である。これは、都市部への自家用車、商用車の流入を防ぎ、都市部で発生し易い交通渋滞を緩和する施策を取りたい場合に有効な設定例である。前述の説明では、運賃算出部307は、距離算出部306から走行距離50bを入力するが、走行距離50bと併せて、GPS受信機102から位置情報取得部305、距離算出部306を経由して、位置情報40aを入力する。入力した位置情報40aが示す位置が都市部にあるか、中密度地域や郊外にあるかを判定し、都市部にある場合は、都市部用距離制運賃ルール1000に従って、運賃マスタ600を作成する。一方、位置情報40aが示す位置が中密度地域や郊外にある場合は、中密度地域/郊外用距離制運賃ルール1001に従って、運賃マスタ600を作成する。また、位置情報40aが都市部、中密度地域、郊外のいずれにあるかを判定するために自動運賃収受機101は、走行する街近辺の地図情報をインストールしておく必要がある。地図情報は、一般的な情報に加え、運営事業者が定める都市部、中密度地域、郊外の定義が反映されたものであればよい。
【0036】
すなわち、運賃収受システムはさらに、車両の走行位置に対応する地図情報を記憶する地図情報装置(図示略)を備える。運賃算出部307は、地図情報装置が記憶する地図情報と位置情報取得部305からの位置情報に基づいて車両の走行位置を特定し、特定した走行位置に応じて複数の距離制運賃マスタ600を作成する。ICカードリーダ/ライタ308は、乗客の乗車位置情報と降車位置情報に対応する走行位置に応じて運賃を複数の距離制運賃マスタから選択的に参照する。
【0037】
本実施形態によれば、バス運営事業者が煩雑な距離制運賃データの管理をせずに、距離制運賃の導入が可能となり、収益の向上に寄与できる。また、距離制の運賃方式を導入したバス運営事業者であっても、当日の状況次第で、自由に運行ルートや停留所を変更することが可能となるほか、規定路線とは異なる路線を走行する臨時バスを運行させることもできるようになり、利用者の利便性も向上する。
【符号の説明】
【0038】
101:自動運賃収受機、102:GPS受信機、103:非接触型ICカード、104:乗務員操作盤、201:初期処理、202:走行中処理、203:精算処理、303:車両追跡システム、305:位置情報取得部、306:距離算出部、307:運賃算出部、308:ICリーダ/ライタ、309:処理結果表示部、310:タイマ、311:扉開閉制御部、312:乗客案内制御部。